説明

下肢装具

【課題】歩行動作中の足の状態に応じて中立揺動角を変更することのできる下肢装具を提供する。
【解決手段】下肢装具10は、下腿部材12と、足部材14と、コイルバネ22と、コイルバネの中立揺動角を変更できる調整部20を備える。調整部20は、足部材14が接地している場合の中立揺動角を、足部材14が接地していない場合の中立揺動角よりも底屈側に変更する。こ下肢装具10は、中立揺動角を底屈側に変更することによって、立脚の下腿が足を中心として前方へ揺動する際(即ち足が背屈する際)、下腿の揺動を抑える向き(足を底屈させる方向)に加わるバネ復元力を変更する前に比べて増大させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、足首の動きを補助する下肢装具に関する。
【背景技術】
【0002】
足を自在に動かすことができないユーザのための補助デバイスとして、下肢装具(AFO:Ankle Foot Orthosisとも呼ばれる)が知られている。下肢装具は、ユーザの下腿に固定される下腿部材と足に固定される足部材を備えている。本明細書で用いる「下腿」とは、膝と足首の間の部分を意味する。また、「足」とは、足首関節よりも先の部分を意味する。下肢装具の中には、足部材が、下腿部材に揺動可能に連結されており、下腿部材と足部材の間にバネ及び/又はダンパが連結されているものがある。ダンパやバネは、歩行の際に足首に加わる負荷を軽減する。下肢装具の一例が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4156909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された下肢装具は、個々のユーザに適合させるため、バネが自然長となるときの下腿部材に対する足部材の揺動角を変更することができる。具体的には、バネの端部に連結されているロッドの長さがその端部のスクリュー式アジャスタで変更可能に構成されている。
【0005】
以下では、バネが自然長となるときの下腿部材と足部材がなす角度を「中立揺動角」と呼ぶ場合がある。また、以下、本明細書では「揺動角」を、次のように定義する。「揺動角」は、下腿部材と足部材との揺動軸に直交し、下腿に平行に伸びる下腿部材基準線と、上記の揺動軸に直交し、足底に平行に伸びる足部材基準線とのなす角度を表す。即ち、足部材の揺動角はユーザの足の揺動角に等価である。平たくいえば、「揺動角」は、下腿(すね)から足の甲に向けて測った角度に相当する。揺動角の大きさは、下腿部材基準線から足部材基準線に向かう角度で表す。即ち、下腿部材基準線と足部材基準線が直交する場合を90度と定め、足が下腿に近づく側に揺動する場合には90度から減少し、つま先が下がる側に揺動する場合には90度から増加すると表現する。なお、つま先が下腿に近づく方向に足が揺動することは「背屈」と呼ばれており、つま先が下がるように足が揺動することは「底屈」と呼ばれている。
【0006】
また、本明細書では、直感的に理解し易いように、下腿部材に対する足部材の傾き(即ち揺動角)を「足部材の位置」と称する場合がある。さらに、下腿部材と足部材がなす角度が中立揺動角であるときの足部材の位置を「中立位置」と呼ぶ場合がある。
【0007】
バネを備える下肢装具の場合、足部材が中立位置にあるときは、足部材にはバネの復元力が付与されない。一方、足部材が中立位置以外にあるときは、足部材には中立位置に復帰する方向にバネの復元力が付与される。即ち、特許文献1の下肢装具を装着したユーザが足首の力を緩めると、足部材はバネの復元力によって中立位置に復帰し、中立位置で保持される。上述の通り、特許文献1の下肢装具を用いると、各ユーザは自分の好み或いは足首の構造に応じて、中立揺動角を手動で調整することができる。
【0008】
しかしながら、発明者の検討によると、歩行動作中の足の状態が変ると好ましい中立揺動角も変ることが判明した。歩行動作中の足の状態に応じて中立揺動角を変更することのできる下肢装具が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者が健常者の歩行動作を子細に分析したところ、遊脚時と立脚時とでは、足首関節に求められる機能が異なっていることが判明した。即ち、遊脚時において足首関節は、揺動している足のつま先が地面に接触しないように足を背屈させる機能を果たす。一方、立脚時において足首関節は、歩行者の体重を支持するとともに、体の前方への移動が速くなりすぎないよう、即ち、足が背屈する速度が速くなりすぎないように抑制する機能を果たす。足首関節が不自由な者の場合、足首関節は上記の機能を十分に果たし得ない。そのため、下肢装具は、遊脚時には、つま先を上方に向けるべく足の背屈を補助し、立脚時には、体の前方移動に伴う足の背屈が速くなりすぎないよう、底屈方向に向けて足を付勢する(足の背屈方向の揺動に対して抵抗を付加する)ことができるものであることが好ましい。
【0010】
本明細書が開示する技術は、下腿部材と、足部材と、弾性体と、調整部を備える下肢装具として具現化される。下腿部材は、ユーザの下腿に装着される。足部材は、ユーザの足に装着される。足部材は、下腿部材に揺動可能に連結されている。弾性体は、一端が前記下腿部材に連結されているとともに他端が前記足部材に連結されており、下腿部材に対する足部材の揺動角に応じた弾性力を足部材に付与する。調整部は、弾性体が自然長となるときの揺動角である中立揺動角を変更することができる。また、調整部は、足部材が接地している場合の中立揺動角を、足部材が接地していない場合の中立揺動角よりも底屈側に変更する。ここで、中立揺動角を底屈側に変更するとは、中立揺動角における足部材の位置を底屈側に変更するということである。従って上記した調整部の機能をより詳しく表現すると、次の通りである。調整部は、接地が検知されたときの中立揺動角における足部材の位置が、接地が検知されていないときの中立揺動角における足部材の位置よりも底屈側に位置するように中立揺動角を変更する。
【0011】
上記の下肢装具によれば、中立揺動角を底屈側に変更することによって、立脚の下腿が足首を中心として前方へ揺動する際(即ち足が背屈する際)、下腿の揺動を抑える向き(底屈方向)に加わるバネ復元力を、中立揺動角を変更する前に比べて増大させることができる。即ち、上記した調整部は、体の前方移動に伴う足の背屈が速くなりすぎないよう、足の背屈方向の揺動に対して抵抗する力を増大させる。調整部は、反対に、遊脚時には、立脚時に比べて足部材が背屈側に位置するように中立揺動角を調整する。遊脚時においては、立脚時における中立位置に比べて、つま先が下がらないように保持する力が増大する。上述した中立揺動角の調整を歩行動作中に行うことによって、ユーザは歩行動作をスムースに行い得る。
【0012】
ところで、歩行時の足の挙動は次の通りである。接地の際、足は踵から接地し、次いで足底全面が接地する。離地の際、足は踵から離地し、次いでつま先が離地する。遊脚と立脚を正確に区別するには、足部材は、足部材のつま先部分の接地を検知する第1センサと、足部材の踵部分の接地を検知する第2センサを備えるのがよい。この場合、調整部は、第1センサと第2センサの少なくとも一方が接地を検知している場合の中立揺動角を、第1センサと第2センサのいずれもが接地を検知していない場合の中立揺動角よりも底屈側に変更するのがよい。
【0013】
この構成によると、つま先は浮いているが踵は接地している状態、足底全面が接地している状態、踵は浮いているがつま先は接地している状態、及び、足底全面が接地していない状態、の各状態を正確に検知することができる。即ち、遊脚と立脚を正確に区別することができる。そのため、立脚時と遊脚時のそれぞれの場合において、確実に中立揺動角をそれぞれの角度に設定することができる。さらには、調整部は、接地状態に応じて中立位置を変更することができる。
【0014】
足部材が接地していないときの中立揺動角は90度以下であり、足部材が接地しているときの中立揺動角は90度より大きいことが好ましい。健常者の足の挙動を分析すると、遊脚時の足の揺動角は概ね90度か、それより小さい。遊脚時の中立揺動角を90度以下に設定することによって、遊脚時に足の揺動角が90度よりも大きくなったときに(即ちつま先が揺動角90度のときよりも下がったときに)つま先を上向かせる方向の力を加えることができる。他方、遊脚が着地して足底が接地するときの足の揺動角は概ね90度以上である。立脚時の中立揺動角を90度より大きい値に設定することによって、足が着地した後の早い時期から、足の背屈方向の揺動に対して抵抗する力を加えることができる。
【0015】
本明細書は、上記した調整部に好適な機構も提供する。調整部は、下腿部材と足部材の一方の部材にスライド可能に支持されているラックギアと、ラックギアと噛み合いながら回転することによってラックギアをスライドさせる駆動ギアと、駆動ギアを回転させるアクチュエータを備えるものであってもよい。その場合、ラックギアは、前記下腿部材と前記足部材との揺動軸を中心とする円弧に沿って湾曲しているものであってもよい。また、弾性体の一端と他端のうち上記の一方の部材と連結される側の端部は、ラックギアに連結されているようにしてもよい。この構成によると、駆動ギアにピニオンを使用し、アクチュエータとピニオンの減速比を大きくすれば、アクチュエータの必要トルクを小さくすることができ、調整部を小型軽量化することができる。また、駆動ギアにウォームギアを使用すれば、ラックギアを介して高トルクの逆入力がウォームギアに加わる場合でも、アクチュエータの逆回転が起こりにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施例の下肢装具を模式的に示す図。
【図2】中立揺動角を変更する機構を説明する図。
【図3】歩行動作中の下肢装具の動作を示す図(遊脚時)。
【図4】歩行動作中の下肢装具の動作を示す図(踵接地時)。
【図5】歩行動作中の下肢装具の動作を示す図(足底接地時)。
【図6】歩行動作中の下肢装具の動作を示す図(つま先接地時)。
【図7】歩行動作中の下肢装具の動作を示す図(離地時)。
【図8】第2実施例の下肢装具を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に説明する実施例の技術的特徴を列挙する。
(形態1) 弾性体にはコイルバネが用いられる。
(形態2) 駆動ギアにはピニオン又はウォームギアが用いられる。
(形態3) 足部材は、足部材のつま先部分の接地を検知する第1センサと、足部材の踵部分の接地を検知する第2センサを備える。
調整部は、第1センサと第2センサのいずれもが接地を検知していない場合(即ち、足が接地していない場合)には中立揺動角を第1角度に設定する。調整部は、(1)第2センサのみが接地を検知している場合には、中立揺動角を第2角度に設定し、(2)第1センサと第2センサの双方が接地を検知している場合には、中立揺動角を第3角度に設定し、(3)第1センサのみが接地を検知している場合には、中立揺動角を第4角度に設定する。第2〜第4角度はいずれも、第1角度よりも底屈側である。即ち、第2〜第4角度における足部材の中立位置はいずれも、第1角度における足部材の中立位置よりも底屈側に位置する。第1角度<第2角度<第3角度<第4角度である。即ち、第2角度における足部材は、第2角度における足部材よりも底屈側に位置するとともに、第3角度及び第4角度における足部材よりも背屈側に位置する。第3角度における足部材は、第1角度及び第2角度における足部材よりも底屈側に位置するとともに、第4角度における足部材よりも背屈側に位置する。第4角度における足部材は、第1角度、第2角度、第3角度のいずれの角度における足部材よりも底屈側に位置する。
【実施例】
【0018】
(第1実施例)
図面を参照して第1実施例の下肢装具10を説明する。図1に、第1実施例の下肢装具10を模式的に示す。下肢装具10は、主な部品として、下腿部材12、足部材14、ジョイント16、調整部20、第1センサ44、第2センサ46、及び、コントローラ50を備える。
【0019】
下腿部材12は、ユーザの下腿Rに装着される。足部材14は、ユーザの足Fに装着される。足部材14は、円盤状のジョイント16によって下腿部材12に揺動可能に連結されている。ユーザが下肢装具10を装着すると、ジョイント16はユーザの足首関節のピッチ軸と略同軸に位置する。なお、「ピッチ軸」とは、ユーザの体側方向に伸びる軸線を意味する。図中の符号Cは、ジョイント16の揺動軸を表す。ユーザが足を底屈方向(図1の矢印A方向)或いは背屈方向(図1の矢印B方向)に揺動することにより、足部材14も同期して揺動する。
【0020】
足部材14は、足Fのつま先を載置するつま先部40と、足Fのつま先以外の部分を載置する基部42を備える。つま先部40は、ジョイント48によって基部42に揺動可能に連結されている。なお、つま先部40は、基部42と面一となる状態から上方にのみ揺動可能であって(図7参照)、面一となる状態から下方には揺動不可能に構成されている。なお、本実施例では図示を省略しているが、足部材14には足Fを固定するためのベルト部材が備えられていてもよい。
【0021】
第1センサ44と第2センサ46はともに接地を検知するセンサである。第1センサ44はつま先部40の先端(足先部分)の底面に備えられ、第2センサは基部42の後端(踵部分)の底面に備えられている。第1センサ44が接地を検知しているときはつま先部40が接地していることを意味し、第2センサ46が接地を検知しているときは基部42が接地していることを意味する。また、第1センサ44と第2センサ46がいずれも接地を検知しているときは、足部材14の足底全面が接地していることを意味する。反対に、第1センサ44と第2センサ46がいずれも接地を検知していないときは、足部材14の足底全面が接地していないこと(遊脚状態)を意味する。
【0022】
調整部20は、コイルバネ22、ラックギア24、ピニオンギア26、スパーギア28、モータ30、ケース32を備える。コイルバネ22以外の各部材24〜30は、いずれも、ジョイント16の後端部に取付けられたケース32に備えられている。従って、ケース32及びケース32に備えられた各部材24〜30は、足部材14とともに揺動軸Cを中心に揺動する。
【0023】
ラックギア24は、揺動軸Cを中心とする円弧に沿って湾曲している。ラックギア24の湾曲面の外側にはギア歯が形成されている。ラックギア24は、上記の揺動軸Cを中心とする円弧に沿ってスライド可能にケース32に備えられている。ピニオンギア26は、ラックギア24のギア歯と噛み合って回転するギアである。スパーギア28は、モータ30に取り付けられたギアであって、ピニオンギア26と噛み合って回転する。モータ30が駆動するとスパーギア28が回転し、スパーギア28の回転に伴ってピニオンギア26が回転し、ラックギア24がピニオンギア26の回転方向に従ってスライドする。即ち、モータ30を正逆方向に駆動させることにより、ピニオンギア26と噛み合うラックギア24の位置が変更される。なお、以下では、ピニオンギア26と噛み合うラックギア24の位置のことを「噛み合い位置」と呼ぶ場合がある。なお、本実施例ではピニオンギア26の歯数はスパーギア28の歯数より多く、スパーギア28とピニオンギア26の減速比は1より大きい。これにより、小型のモータ30でラック24を駆動することができる。ピニオンギア26が、駆動ギアの一実施形態に相当する。
【0024】
コイルバネ22は、一端が止め具34によって下腿部材12に固定され、他端が足部材14に固定されている。より詳しくは、コイルバネ22の他端は、ラックギア24の端部に固定されている。足部材14の揺動に伴ってラックギア24が揺動すると、コイルバネ22の長さが変化し、その結果コイルバネ22には自然長に復元しようとする復元力が発生する。この復元力(弾性力)が足部材14を底屈方向或いは背屈方向に付勢する力となる。コイルバネ22が自然長のときの足部材14の揺動角を「中立揺動角」と称する。また、中立揺動角のときの足部材14の姿勢(下腿部材12に対するピッチ軸周りの傾き)を「中立位置」と称する。即ち、コイルバネ22が自然長のときの足部材14の位置が中立位置に相当する。「中立位置」と「中立揺動角」は等価であるが、足部材14の姿勢を表現するのに「中立位置」という表現が直感的に馴染みやすいので、本明細書では、場合に応じて「中立位置」という表現を用いる。足部材14の位置が中立位置から背屈すると、コイルバネ22の復元力によって足部材14に底屈方向のモーメントが作用する。足部材14の位置が中立位置から底屈すると、コイルバネ22の復元力によって足部材14に背屈方向のモーメントが作用する。このモーメントがユーザの歩行動作を補助する。
【0025】
本実施例では、モータ30を駆動させてラックギア24の噛み合い位置を変更することにより、足部材14の中立位置を変更することができる。別言すると、噛み合い位置(図1のP1、図2のP2)を変更することにより、コイルバネ22が自然長となるときの下腿部材12に対する足部材14の揺動角(中立揺動角)を変更することができる。
【0026】
本実施例における「揺動角」は、図1のθで示される角度である。図1に示すように、揺動角θは、揺動軸Cに直交し、ユーザの下腿Rに平行に伸びる下腿部材基準線L1と、揺動軸Cに直交し、足底に平行に伸びる足部材基準線L2とのなす角度を表す。揺動角θの大きさは、下腿部材基準線L1から足部材基準線L2に向かって増大するように表される。即ち、下腿部材基準線L1と足部材基準線L2が直交する場合(図1参照)を90度と定め、足部材14が底屈する場合(図2参照)には90度から増加するものとする。
【0027】
図1では、ラックギア24の噛み合い位置がP1の位置にある。この場合、足部材14の中立揺動角は90度である。図1における中立揺動角を符号θ1(第1角度θ1)で表し、このときの足部材14の位置(中立位置)を符号14aで表す。以下では、このときの足部材14の中立位置(14a)を「90度位置」と呼ぶ場合がある。後述するように、本実施例では、この第1角度θ1(中立位置14a)が、遊脚時の中立揺動角(足部材14の中立位置)に相当する。
【0028】
図2では、ラックギア24の噛み合い位置がP2の位置にある。図2から理解されるように、コイルバネ22の長さは図1の場合と等しいが、足部材14の位置は図1の場合よりも底屈している。即ち、調整部20によって、中立揺動角(足部材の中立位置)が変更されている。図2の場合の中立揺動角は90度より大きい。このときの中立揺動角を第2角度θ2で表し、このときの足部材14の中立位置を符号14bで表す。このときの足部材の中立位置14bは、上記の90度位置(中立位置14a)よりも底屈側の位置となる。後述するように、本実施例では、この第2角度θ2(中立位置14b)が、踵接地時の中立揺動角(足部材14の中立位置)に相当する。
【0029】
下腿部材12には、上述したコントローラ50が搭載されている。コントローラ50には、第1センサ44、第2センサ46、モータ30のそれぞれの制御線(図示省略)が接続されている。コントローラ50は、内蔵するCPU、メモリ等(図示省略)によって、接続されている各装置の動作を制御する。また、コントローラ50には、モータ30に電力を供給するためのバッテリー(図示省略)も備えられている。
【0030】
本実施例の下肢装具10を装着したユーザが歩行動作を行う場合における下肢装具10の各部の動作(コントローラ50が実行する処理)を図3〜図7を参照して説明する。図3〜図7は、歩行動作中の片足の着地から離地までの1サイクル分の動作を示す。なお、図3〜図7では、下肢装具10の主要部分のみを図示しており、いくつかの部品の図示を省略している。歩行中の足の着地から離地までの動作は、遊脚段階(図3)、遊脚の踵が接地してから足底全面が接地するまでの段階(図4参照)、足底全面が接地しつつ体を前方に移動させる段階(図5参照)、踵を離地させ、つま先のみが接地している段階(図6参照)の4段階に分けられる。なお、図7に、つま先を離地させて再び遊脚となる段階(遊脚段階に同じ)を示す。また、以下の処理はコントローラ50が行うが、実際の物理的な動作は調整部20によって実現されるので、「コントローラ50が行う処理」を「調整部20が行う処理」と表現する。
【0031】
(1.遊脚段階)
図3に示すように、調整部20(コントローラ50)は、遊脚期間中、即ち、第1センサ44と第2センサ46のいずれもが接地を検知していない場合、中立揺動角を第1角度θ1に設定する。前述したように、このとき、足の中立位置14aは90度位置となる(図1参照)。後述するように、このときの足の中立位置14aが、最も背屈側の足の中立位置となる。調整部20は、中立位置を他のどの場合よりも背屈側に位置するように調整することによって、遊脚時につま先を下がり難くする。下肢装具10は、遊脚時においては、つま先が地面と接触することを避けるように機能する。ユーザは、下肢装具10を用いない場合に比べて、それほど足首に力を入れずともつま先の高さを保持することができる。
【0032】
(2.踵の着地〜足底全面の接地)
健常者の場合、踵の接地後、徐々に足が底屈していき、足底全面が接地する。しかし、足首関節が不自由な者の場合、足の底屈揺動が上手く行えない場合がある。そこで、図4に示すように、調整部20は、踵に備えられた第2センサ46が接地を検知したとき、中立揺動角を第1角度θ1から第2角度θ2に変更する。第2角度θ2は、第1角度θ1よりも大きい。即ち、調整部20は、踵接地が検知されたときに、中立揺動角を底屈側に変更する。別言すれば、調整部20は、踵接地が検知されたときの中立揺動角における足部材14の位置が、接地が検知されていないときの中立揺動角における足部材14の位置よりも底屈側に位置するように中立揺動角を変更する。
【0033】
上述の変更に伴ってユーザの足が徐々に底屈する。即ち、下肢装具10は、踵接地時にユーザの足の底屈揺動を誘導する。そのような処理によってユーザは踵接地から足底全面接地までスムースに足を動かすことができる。前述したように、この中立揺動角の変更は、ラックギア24の噛み合い位置がP1からP2へ移動するようにモータ30を駆動することによって実現される(図1、図2参照)。ユーザの足底全面が着地すると、第1センサ44が接地を検知する。
【0034】
(3.体の前方移動)
健常者の場合、足底の接地後、体を前方移動させることに伴って、足が徐々に背屈揺動する。このとき、健常者は、体がふらつかないように、或いは、体の前方への移動速度が過大とならないように、足首に入れる力を調整する。しかし、足首関節が不自由な者の場合、そのような調整が適切に行われないときがある。そこで、図5に示すように、足底の全面が接地してから体を前方移動させる段階では、下肢装具10は、体の前方移動に伴う足の背屈揺動が速くなりすぎないよう足の揺動を抑える。図5に示すように、第1センサ44と第2センサ46の双方が接地を検知したとき、調整部20は、モータ30を駆動して、中立揺動角を第2角度θ2から第3角度θ3へ変更する。別言すれば、調整部20は、足部材14の中立位置を中立位置14bから中立位置14cへ移動させる。第3角度θ3(中立位置14c)は、第2角度θ2(中立位置14b)よりも底屈側に位置する。なお、調整部20は、ラックギア24の噛み合い位置を変更することによって中立揺動角を変更するが、実際の足部材14は位置14bから14cへ移動するわけではない。図5に二点鎖線で示す中立位置14cは、仮想的な足部材の位置を示していることに留意されたい。
【0035】
中立揺動角(中立位置)が一層底屈側に移動するので、図5の状態において下肢装具10が足部材14を底屈揺動させる向きに付勢するモーメントが増大する。即ち、下肢装具10は下腿を後方へ揺動する方向に大きな抵抗力をユーザの足に付与する。この抵抗力(モーメント)によって下腿の前方への揺動速度が抑制される。その結果、体のふらつきが抑えられる。ユーザが体を前方(図5中矢印D参照)へ移動させ、その後踵が離地すると、第2センサ46が非検知状態となる。
【0036】
(4.踵の離地)
健常者の場合、体を前方移動させた後、踵を浮かせ、つま先で地面を蹴って離地する。つま先で地面を蹴る際、足がさらに底屈する。しかし、足首関節が不自由な者の場合、足を十分に底屈させることが困難な場合がある。そのため、図6に示すように、下肢装具10は、踵の離地に伴って、足を最大限に底屈させられるよう、底屈方向に向けての付勢力が増すよう中立揺動角を変更する。図6に示すように、立脚の終盤で踵が離地すると、第2センサ46が非検知状態となり、つま先部40の第1センサ44のみが接地を検知した状態となる。調整部20は、踵の第2センサ46が接地を検知せず、つま先の第1センサ44が接地を検知した場合、モータ30を駆動して、中立揺動角を先の第3角度θ3から第4角度θ4に変更する。第4角度θ4は、第3角度θ3よりもさらに底屈側に位置する。別言すれば、調整部20は、中立揺動角が第4角度θ4のときの足部材14の位置(14d)が、第3角度θ3のときの足部材14の位置よりも底屈側に位置するように中立揺動角θ4を第4角度に変更する。さらに別言すれば、調整部20は、中立揺動角を第3角度θ3から第4角度θ4に変更し、足部材14の中立位置を底屈側にシフトさせる。
【0037】
中立揺動角を第3角度θ3から第4角度θ4に変更することによって、足部材14の中立位置は、さらに底屈側の位置14d(この位置を「最大底屈位置」と呼んでもよい)となる。その結果、足をさらに底屈させる方向に足が付勢される。このときの付勢力は、ユーザがつま先を蹴る動作を補助する。図6の符号θaは、つま先接地時の揺動角の一例を示している。このとき、下肢装具10がユーザに加える補助力は、K(θ4−θa)で与えられる(Kはばね定数)。第4角度θ4は第3角度θ3よりも大きい。この式からも、中立揺動角を変更することによって下肢装具10がユーザを補助する力を増大させることが理解される。ユーザがその後つま先を離地させると、第1センサ44も非検知状態となる。
【0038】
(5.つま先の離地〜遊脚状態)
再び遊脚となると(即ち、第1センサ44と第2センサ46のいずれもが接地を検知しない状態となると)、調整部20は、モータ30を駆動して、中立揺動角を第4角度θ4から第1角度θ1に変更する(図7)。図7の符号θbは、遊脚時の揺動角の一例を示している。このとき、下肢装具10がユーザに加える補助力は、K(θb−θ1)で与えられる(Kはばね定数)。第1角度θ1は第4角度θ4よりも小さい。この式からも、遊脚時に中立揺動角を第1角度θ1に変更することによって、下肢装具10は、つま先が下がらないように効果的に補助することが理解される。ユーザがその後つま先を離地させると、第1センサ44も非検知状態となる。
【0039】
本実施例の下肢装具10は、立脚時(図4〜図6参照)には、遊脚時(図3、図7参照)に比べて足部材14が底屈側に位置するように中立揺動角を調整する。中立位置を底屈側にシフトさせることによって、シフトさせる前に比べて接地時に底屈方向に加わるバネ復元力を増大させることができる。即ち、体の前方移動に伴う足の背屈が速くなりすぎないよう、足の背屈方向の揺動に抗する力が増大する。また、反対に、遊脚時には、立脚時に比べて足部材14が背屈側に位置するように中立揺動角を調整する。遊脚時においては、立脚時における中立位置に比べて、つま先が下がらないように保持する力が増大する。
【0040】
本実施例の下肢装具10は、第1センサ44、第2センサ46の検知状態から、歩行動作中の足部材14が踵接地状態、足底接地状態、踵離地状態、遊脚状態のいずれの状態にあるのかを正確に把握し、足部材14の状態に応じて中立揺動角を変更する。歩行動作中の足部材14の状態に応じて、足部材14の中立位置を適宜に変更することによって、効果的にユーザの歩行動作を補助することができる。
【0041】
本実施例では、ピニオンギア26の歯数はスパーギア28の歯数より多く、スパーギア28とピニオンギア26の減速比が1より大きい。これにより、モータ30の必要トルクを小さくすることができる。調整部20全体を小型軽量化することができる。
【0042】
(第2実施例)
図面を参照して第2実施例を説明する。図8に示すように、第2実施例の下肢装具110では、調整部20において、ウォームギア126を使用する点で、ピニオンギア26とスパーギア28を使用する第1実施例と相違する。その他の点は第1実施例と同様である。図8に示すように、本実施例における調整部120は、第1実施例と同様のコイルバネ122、ラックギア124、ケース132を備える。本実施例では、モータ130に取り付けられたウォームギア126を回転させると、ウォームギア126に備えられた螺旋状のネジ山とラックギア124のギア歯の噛み合い位置が変化する。なお、本実施例のウォームギア126も、駆動ギアの実施形態の一例である。
【0043】
第2実施例では、ラックギア124をスライドさせるための機構としてウォームギア126が使用される。そのため、ラックギア124を介して高トルクの逆入力がウォームギア126に行われた場合でも、モータ130の逆回転が起こりにくくなる。
【0044】
上記の各実施例の変形例を以下に列挙する。
(1)踵接地状態、足底接地状態、踵離地状態、遊脚状態の各状態において設定される中立揺動角は、上記の各実施例で説明したものには限られない。遊脚状態の中立揺動角(第1角度)、踵接地状態の中立揺動角(第2角度)、足底接地状態の中立揺動角(第3角度)、及び、踵離地状態の中立揺動角(第4角度)、の順に中立揺動角が大きくなるように設定されていれば、具体的な数値はユーザ毎に任意に決定することができる。従って、例えば、遊脚状態の中立揺動角(第1角度)は、上述した90度に限られない。好適には、第1角度は、90度よりも小さい角度がよい。また、第2〜第4角度も上記実施例の角度に限られない。好適には、第2〜第4角度はいずれも90度よりも大きく、第2角度<第3角度<第4角度であるのがよい。
(2)上記の各実施例では、歩行動作中の足部材14の状態を踵接地状態、足底接地状態、踵離地状態、遊脚状態の4つに分けて、足部材14がいずれの状態にあるのかに応じて、予め決められた中立位置に足部材14を位置させるように中立揺動角を設定している。しかし、歩行動作中の足部材14の状態をさらに細かく分けて判断し、足部材14の状態に応じて中立揺動角の変更を連続的に行うこととしてもよい。
(3)上記の各実施例では、足部材14に復元力を付与するための弾性体としてコイルバネ22、122を使用している。しかしながら、弾性体にはコイルバネ22、122に代えて、ダンパを使用してもよい。また、コイルバネとダンパを組み合わせて使用してもよい。
【0045】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0046】
10:下肢装具、12:下腿部材、14:足部材、16:ジョイント、20:調整部、22:コイルバネ、24:ラックギア、26:ピニオンギア、28:スパーギア、30:モータ、32:ケース、34:止め具、40:つま先部、42:基部、44:第1センサ、46:第2センサ、48:ジョイント、50:コントローラ、C:揺動軸、F:足、R:下腿、P1:噛み合い位置



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの下腿に装着される下腿部材と、
前記下腿部材に揺動可能に連結されておりユーザの足に装着される足部材と、
一端が前記下腿部材に連結されているとともに他端が前記足部材に連結されており、前記下腿部材に対する前記足部材の揺動角に応じた弾性力を前記足部材に付与する弾性体と、
前記弾性体が自然長となるときの前記揺動角である中立揺動角を変更することができる調整部と、を備え、
前記調整部は、足部材が接地している場合の中立揺動角を、足部材が接地していない場合の中立揺動角よりも底屈側に変更することを特徴とする下肢装具。
【請求項2】
前記足部材は、前記足部材のつま先部分の接地を検知する第1センサと、前記足部材の踵部分の接地を検知する第2センサを備え、
前記調整部は、前記第1センサと前記第2センサの少なくとも一方が接地を検知している場合の中立揺動角を、前記第1センサと前記第2センサのいずれもが接地を検知していない場合の中立揺動角よりも底屈側に変更することを特徴とする請求項1に記載の下肢装具。
【請求項3】
揺動角を、下腿部材と足部材との揺動軸に直交し下腿に平行に伸びる下腿部材基準線から前記揺動軸に直交し足底に平行に伸びる足部材基準線に向かう角度で表したときに、足部材が接地していないときの中立揺動角は90度以下であり、足部材が接地しているときの中立揺動角は90度より大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載の下肢装具。
【請求項4】
前記調整部は、
前記下腿部材と前記足部材の一方の部材にスライド可能に支持されているラックギアと、
前記ラックギアと噛み合いながら回転することによって前記ラックギアをスライドさせる駆動ギアと、
前記駆動ギアを回転させるアクチュエータを備えており、
前記ラックギアは、前記下腿部材と前記足部材との揺動軸を中心とする円弧に沿って湾曲しており、
前記弾性体の前記一端と前記他端のうち前記一方の部材と連結される側の端部は、前記ラックギアに連結されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の下肢装具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−193899(P2011−193899A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60645(P2010−60645)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】