説明

両面ポリッシュ加工機とその定寸制御方法

【課題】 本発明は、研磨布のゆっくりとした厚さ変化の影響を実質的に受けることなく定寸精度を長時間にわたり維持できる両面ポリッシュ加工機及び両面ポリッシュ加工機の定寸制御方法を提供することを課題とするものである。
【解決手段】 本発明の両面ポリッシュ加工機においては、初回のワークの研磨については、研磨時間に基づいて研磨を終了させ、2回目以降のワークの研磨については、上記距離センサー22による距離の計測値に基づいて研磨を終了させるとともに、初回を含む各回の研磨の終了後に、ワークの仕上がり厚さの実測値とワークの仕上がり厚さの目標値に基づいて上記距離センサー22の計測値を補正する。補正は研磨の各回毎に行われるので、長時間にわたり定寸精度を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両面ポリッシュ加工機及びその定寸制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
両面ポリッシュ加工機は、研磨布が貼り付けられた上定盤と下定盤との間隙に、キャリアのワーク保持孔内に納められたワークを置き、上記間隙にスラリーを供給するとともに、キャリアに遊星運動を、上定盤によってワークに所定の研磨圧を加えながら上定盤と下定盤とに回転運動を与えることによって、ワークをポリッシュつまり研磨するものである。
【0003】
上記ワークの研磨量は研磨時間によって監視されるのが普通であるが、場合により研磨量自体を検知することが必要になる。このためにポリッシュ加工機に定寸装置を備えつけることが試みられている。
【0004】
従来、この種の自動定寸装置として、特許文献1に見られるようなマグネスケールを用いた装置がある。この自動定寸装置は、マグネスケールのプローブを上向きにし、上定盤と連結して一体回転するチップの下面にプローブの上端を接触させた構成になっている。上定盤がワークの研磨量に応じて下降すると、チップも上定盤と共に下降し、プローブをマグネスケールに押し込んでいく。そこで、マグネスケールがこのプローブの変位を検出し、その変位量から、上定盤と下定盤との距離を測定して、ワークの厚さを決定するようになっている。
【0005】
また、他の自動定寸装置として、特許文献2のように、渦電流センサーを用いた装置がある。この自動定寸装置は、渦電流センサーを上定盤に取り付け、渦電流センサーから下定盤に磁場を放射することで、下定盤までの距離を検出し、その検出値をアナログ電圧信号として順次出力する。そして、演算部において、このアナログ電圧信号を所定サンプル数のディジタル電圧信号に変換し、これら複数のディジタル電圧信号のうち最大度数のディジタル電圧信号の電圧値から上定盤と下定盤との距離を演算して、ワークの厚さを決定する構成となっている。
【0006】
更に、特許文献3に示される定寸装置では、キャリアに基準アルミニウム板を設け、基準アルミニウム板の上面までの距離L1及びワークであるアルミニウムディスクの上面までの距離L2をそれぞれ検出し、渦電流センサーからの検出値に基づいて、距離L1と距離L2との差を算出し、ワークであるアルミニウムディスクの厚さを決定する。
【0007】
【特許文献1】特公昭64−4126号公報
【特許文献2】特公昭63−9943号公報
【特許文献3】特開平10−202514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のマグネスケールを用いたラップ盤(研磨布を用いないで、上下定盤が直接ワークに接触する)の自動定寸装置では、上定盤の下降変位量をワークの研磨量として推定する構成であるので、上下定盤が磨耗すると、測定値に誤差が生じる。つまり、上下定盤が磨耗すると、上定盤の下降変位量は、ワークの研磨量と上下定盤の磨耗量との和となり、ワーク厚さを正確に測定することができない。
【0009】
また、プローブを上定盤と一体回転するチップに接触させた構成であるので、チップの回転でプローブの接触端が磨耗し、測定誤差を発生するおそれがある。このため、マグネスケールを用いた場合の定寸精度は±4〜5μm程度であり、±3μm以下の精度を出すのは難しかった。また、何よりもプローブを接触させる構造のため、研磨布を用いる両面ポリッシュ加工機では、このような定寸装置を利用することができない。
【0010】
これに対して、渦電流センサーを用いた特許文献2の自動定寸装置では、渦電流センサーから下定盤に磁場を放射することで、下定盤と上定盤との距離を検出する構成であるので、下定盤の摩耗分も含めて測定が可能であり、マグネスケールを用いた定寸より測定誤差が減少するため、±3μm以下の精度でワークを測定することができる。
【0011】
しかしながら、この自動定寸装置では、下定盤の表面に砥石層や研磨布が存在するグラインディング装置やポリッシング装置等の研磨装置では、砥石層や研磨布の摩耗や変形により測定値に誤差が生じるため、渦電流センサーによる正確な測定ができなかった。
【0012】
さらに、特許文献3に示されるものでは、アルミニウムのような渦電流が生じることのできる導電性ワークに対しては利用可能であるが、半導体ウエハーのような通常では導電性のないワークに対しては適用できないという問題があった。
【0013】
両面ポリッシュ加工機は、上述のように上下定盤の表面に研磨布が貼り付けられ、これらに挟まれた形でワークが研磨される。この研磨布は、不織布あるいは硬質発泡ウレタン等でできており、ワークである半導体ウェハと同等かあるいはそれ以上の厚さを有するものが一般的に使用される。研磨布は、研磨加工が開始されると水性のスラリーに常にさらされるとともに研磨圧を繰り返し受けるため、連続運転される中、時間の経過とともに摩耗、圧縮、膨潤等様々な要因により厚さが徐々に変形する。
【0014】
このような研磨布の厚さが経時的に変化すること、及び、研磨布が比較的厚くその変化の総量が無視できない量になるため、上記のような定寸装置が仮に使用できたとしても、定寸装置の計測値がドリフトするため精度を長時間にわたって維持することができないという問題がある。
【0015】
本発明は、上に述べた研磨布の厚さ変化の影響を実質的に受けることなく定寸精度を長時間にわたり維持できる両面ポリッシュ加工機及び両面ポリッシュ加工機の定寸制御方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題は以下の手段によって解決される。すなわち、第1番目の発明は、機台に回転可能に支持され、上面に研磨布が貼り付けられた下定盤、上記機台に回転可能に支持され、外歯を備えたサンギア、上記機台に回転可能に支持され、内歯を備えたインターナルギア、上記サンギアの外歯と上記インターナルギアの内歯とに噛合するための外歯、及び、ワークを納めるためのワーク保持孔を備えるとともに、上記下定盤上に載置されるキャリア、下面に研磨布が貼り付けられており、上記キャリアの上記ワーク保持孔に納められたワークに対して、研磨圧を加えると共に、回転可能な上定盤、上記下定盤、上記サンギア、上記インターナルギア、及び、上記上定盤を同一軸線上で回転駆動するため、単一あるいはそれぞれのための複数の駆動源を備えた駆動装置、上記ワークと上記下定盤との研磨部、及び、上記ワークと上記上定盤との研磨部にスラリーを供給するためのスラリー供給装置、及び、上記上定盤に形成された空所内に設けられており、上記キャリアの上表面までの距離を検出するための距離センサーを備えた両面ポリッシュ加工機のための定寸制御方法であって、初回のワークの研磨については、研磨時間に基づいて研磨を終了させ、2回目以降のワークの研磨については、上記距離センサーによる距離の計測値に基づいて研磨を終了させるとともに、初回を含む各回の研磨の終了後に、ワークの仕上がり厚さの実測値とワークの仕上がり厚さの目標値に基づいて上記距離センサーの計測値を補正すること
を特徴とする両面ポリッシュ加工機のための定寸制御方法である。
【0017】
第2番目の発明は、第1番目の発明の両面ポリッシュ加工機のための定寸制御方法において、上記距離センサーは渦電流センサーであり、上記キャリアは少なくとも上表面が導電性材料でできていることを特徴とする両面ポリッシュ加工機のための定寸制御方法である。
【0018】
第3番目の発明は、機台に回転可能に支持され、上面に研磨布が貼り付けられた下定盤、上記機台に回転可能に支持され、外歯を備えたサンギア、上記機台に回転可能に支持され、内歯を備えたインターナルギア、上記サンギアの外歯と上記インターナルギアの内歯とに噛合するための外歯、及び、ワークを納めるためのワーク保持孔を備えるとともに、上記下定盤上に載置されるキャリア、下面に研磨布が貼り付けられており、上記キャリアの上記ワーク保持孔に納められたワークに対して、研磨圧を加えると共に、回転可能な上定盤、上記下定盤、上記サンギア、上記インターナルギア、及び、上記上定盤を同一軸線上で回転駆動するため、単一あるいはそれぞれのための複数の駆動源を備えた駆動装置、上記ワークと上記下定盤との研磨部、及び、上記ワークと上記上定盤との研磨部にスラリーを供給するためのスラリー供給装置、上記上定盤に形成された空所内に設けられており、上記キャリアの上表面までの距離を検出するための距離センサー、及び、制御装置を備えた両面ポリッシュ加工機であって、上記制御装置は、初回のワークの研磨については、研磨時間に基づいて研磨を終了させ、2回目以降のワークの研磨については、上記距離センサーによる距離の計測値に基づいて研磨を終了させるとともに、初回を含む各回の研磨の終了後に、上記ワークの仕上がり厚さの実測値と上記ワークの仕上がり厚さの目標値との差に基づいて、上記距離センサーの計測値を補正する制御装置であることを特徴とする両面ポリッシュ加工機である。
【0019】
第4番目の発明は、第3番目の発明の両面ポリッシュ加工機において、上記制御装置は、入力されたワークの仕上がり厚さの目標値を記憶するためのワーク目標値記憶装置、及び、上記距離センサーの計測値を補正するためのセンサー計測値補正装置を備えており、初回のワークの研磨については、研磨時間に基づいて研磨を終了させ、2回目以降のワークの研磨については、上記距離センサーによる距離の計測値に基づいて研磨を終了させるとともに、初回を含む各回の研磨の終了後に、上記ワークの仕上がり厚さの実測値と上記ワーク目標値記憶装置に記憶されているワークの仕上がり厚さの目標値との差に基づいて、上記センサー計測値補正装置によって上記距離センサーの計測値を補正する制御装置であることを特徴とする両面ポリッシュ加工機である。
【0020】
第5番目の発明は、第4番目の発明の両面ポリッシュ加工機において、上記制御装置は、さらに、初回の研磨時間をセットするためのタイマー、上記距離センサーによる距離の計測値を記憶するためのセンサー計測値記憶装置、及び、入力されたワークの仕上がり厚さの実測値を記憶するためのワーク実測値記憶装置を備えており、初回のワークの研磨については、上記タイマーにセットされた研磨時間に基づいて研磨を終了させ、2回目以降のワークの研磨については、上記距離センサーによる距離の計測値に基づいて研磨を終了させるとともに、初回を含む各回の研磨の終了後に、上記ワーク実測値記憶装置に記憶されているワークの仕上がり厚さの実測値と上記ワーク目標値記憶装置に記憶されているワークの仕上がり厚さの目標値との差に基づいて、上記センサー計測値補正装置によって上記距離センサーの計測値を補正する制御装置であること
を特徴とする両面ポリッシュ加工機である。
【0021】
第6番目の発明は、第3番目から第5番目までのいずれかの発明の両面ポリッシュ加工機において、上記距離センサーは渦電流センサーであり、上記キャリアは少なくとも上表面が導電性材料でできていることを特徴とする両面ポリッシュ加工機である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の両面ポリッシュ加工機及びその定寸制御方法によれば、摩耗、圧縮、膨潤等の様々の要因による研磨布の厚さ変化等による計測値のドリフトの補正が毎回行われるので、長時間にわたって精度の高い定寸性能を維持することができる。さらに、上定盤からキャリアの表面までの距離を測定しているので、半導体ウエハーのような通常では導電性のないワークに対してもその電気的性質に依存することなく使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1は、本発明が適用された両面ポリッシュ加工機1の一例であって、その要部を示す縦断面図である。図2は、図1のA−Aから見たときの平面図である。
【0024】
上定盤11、下定盤12、サンギア13及びインターナルギア14は、機台10上に同一の軸線の周りに回転可能に支持されている。これらの上定盤11、下定盤12、サンギア13及びインターナルギア14には、それぞれ、第1駆動ギア11d、第2駆動ギア12d、第3駆動ギア13d、及び、第4駆動ギア14dが回転動力を伝達する上では一体に結合されており、これらのギアには、それぞれ、第1モータM1、第2モータM2、第3モータM3及び第4モータM4からの回転動力が伝達される。この駆動装置102について、ここでは4つのモータの場合が示されているが、これを一つのモータとし、これから歯車装置を介して動力を分岐させて各ギアを駆動するようにすることもできる。
【0025】
上定盤11の下側の平坦な面と下定盤12の上側の平坦な面には、不織布、硬質発泡ウレタン等できた研磨布17が貼り付けられ、上定盤11と下定盤12とがその平坦な面が向かい合うように配置される。この向かい合う面の間隙には、キャリア15が配置され、このキャリア15は上記サンギア13の有する外歯及び、上記インターナルギア14の内歯と噛合する外歯を備えており、ワーク16の厚さよりも薄く作られている。
【0026】
上記上定盤11と、上記第1駆動ギア11dとは、適宜の位置で上方に向かって係合及び離脱できるように構成されている。上定盤11側だけを吊り部材21とビーム101に設けられた適宜のリフト手段により上方に持ち上げることができ、上定盤11を持ち上げた際に空いた空間からキャリア15が入れられる。このとき、上記サンギア13の外歯と上記インターナルギア14の内歯とに、キャリア15の外歯を噛合させる。キャリア15には多数のワーク保持孔が設けられており、これらの保持孔内には、半導体ウェハなどの平板状のワーク16が嵌装される。上定盤11と下定盤12の間隙には、不図示のスラリー供給装置からスラリーが供給される。
【0027】
上定盤11の一部には下に向かって開口する空所が設けられ、この中に距離センサー22が挿入されている。距離センサー22は下方を向けられており、距離センサー22の検出基準位置からキャリア15の表面151までの距離を検出する。距離センサー22の取り付け位置が知られているので、上定盤11に対するキャリア15の表面までの距離を検出できる。
【0028】
なお、距離センサー22は、キャリア15の表面位置までの距離を計測できれば任意の形式のもの、例えば、キャリア表面を導電性として渦電流センサー、を使用することができる。
【0029】
制御装置30は、主制御装置31、及び、主制御装置31によって制御される駆動制御装置32、タイマー33、ワーク実測値記憶装置34、センサー計測値記憶装置35、センサー計測値補正装置36、及びワーク目標値記憶装置37を備えている。
【0030】
上記駆動制御装置32は、上記主制御装置31の指令を受けて駆動装置102を制御する。上記タイマー33は、研磨時間を外部からセットすることができ、始動の指令を受けてからセットされた研磨時間が経過すると時間終了信号を出力する。上記ワーク実測値記憶装置34には、研磨が一回(一回目の意味ではない)終了する毎に、取り出されたワークの厚さが計測、入力され、ワーク実測値として記憶される。
【0031】
上記センサー計測値記憶装置35には、距離センサー22によって計測されたキャリアまでの距離の計測値がセンサー計測値として記憶される。ワーク目標値記憶装置37にはワークの仕上がり厚さの目標値がワーク目標値として記憶される。
【0032】
主制御装置31は、初回のワーク16の研磨については、タイマー33にセットされた研磨時間に基づいて研磨を終了させ、2回目以降のワークの研磨については、距離センサー22による距離の計測値に基づいて研磨を終了させるように制御するが、このとき上記センサー計測値補正装置36は、初回を含む各回の研磨の終了後に、ワーク実測値記憶装置34に記憶されているワークの仕上がり厚さの実測値とワーク目標値記憶装置37に記憶されているワークの仕上がり厚さの目標値との差に基づいて、センサー計測値補正装置36によって距離センサーのセンサー計測値を補正する。全体の制御と動作については後述する。
【0033】
研磨に際しては、キャリア15を研磨布17が貼付された下定盤12上に置くとともに、キャリア15の外歯をサンギア13、インターナルギア14に噛合させ、キャリア15のワーク保持孔にワーク16をセットし、上定盤11を降下させる。スラリー供給装置から上定盤11と下定盤12との間隙にスラリーを供給するとともに、上定盤11、下定盤12、サンギア13、インターナルギア14を回転駆動する。キャリア15は、サンギア13とインターナルギア14によって回転されるので、ワーク16は遊星運動しながら上定盤11、下定盤12の研磨布17、上定盤11からの研磨圧及びスラリーの作用によって研磨される。
【0034】
まず、最初に、キャリア15の表面位置を距離センサー22によって測定することによって行われる定寸動作について説明する。ただし、ここで説明するのは、各回毎の研磨における定寸動作である。つまり、両面ポリッシュ加工機1には多数のワーク16がセットされて一度に何枚もが研磨され、研磨が終了すると、次の新しいワーク16がセット、研磨され、これが繰り返される。上記各回毎の研磨とその定寸動作とは、一回のワークのセットで行われる研磨及びその回における定寸動作のことである。
【0035】
図3は、このような各回の定寸動作を説明するための図1の要部拡大図であって、(1)が各回の研磨開始当初、(2)がその研磨終了時の要部断面である。ここで、研磨開始当初において、ワーク16の厚さtがt0、距離センサー22の基準位置からワーク16の表面位置までの距離aがa0であるとする。また、キャリア15の厚さをdとし、キャリア15は常に下方の研磨布17に密着しているものとする。
【0036】
研磨が開始し、進行すると、ワーク16が研磨されて、その厚さtが減少するため、計測センサーによる距離aの計測値は、当初のa0から次第に減少する。上方の研磨布17の厚さbがこの間変化しないものとすれば、距離の計測値aの減少量はワーク16の厚さtの減少量に一致することになる。予めワーク16の厚さtが既知t0であるとすれば、距離センサー22によって距離aを監視することにより、ワーク16の厚さtの現在値がわかることになる。
【0037】
したがって、逆に、希望するワーク16の厚さt1になるときの距離の計測値を目標値a1として定め、距離の計測値aが目標値a1になったときに加工を停止すれば、厚さt0から希望する厚さt0に研磨されたワーク16を得ることができる。以上が各回における定寸動作である。
【0038】
上記説明では、一回の研磨の内には、研磨布17の厚さbが変化しないとする前提をおいている。しかしながら、この前提は長時間にわたって維持されるものではない。それは先に述べた理由による。すなわち、両面ポリッシュ加工機1では、連続運転するため何回も研磨が繰り返される。この間、研磨布17は水性のスラリーに常にさらされるとともに研磨圧を繰り返し受けるため、連続運転される中、時間の経過とともに摩耗、圧縮、膨潤等様々な要因により厚さがゆっくりと徐々に変化する。
【0039】
つまり、距離の計測値a、研磨布17の厚さb、上定盤11の下表面と距離センサー22の基準位置221との垂直距離c、及び、キャリア15の厚さdとワークの厚さtの関係(図3参照)は、
t=a−b+d−c
で表されるが、d、b、cを定数と仮定して計測値aからワークの厚さtを求めた場合には、長い時間の間に研磨布17の厚さbがゆっくりとではあるが変化するため、求めたtの誤差が徐々に拡大し精度が低下することになる。
【0040】
本発明では、以下に述べるような補正処理を行うことにより、長時間にわたりワークの研磨厚さを一定に維持するようにしている。図4は、上記補正処理を含んで本実施例の両面ポリッシュ加工機1の動作を説明するための流れ図である。以下、図4に基づき、上記補正処理動作を含んで両面ポリッシュ加工機1の動作を説明する。
【0041】
この図における流れは2つの部分からなり、S00からS08までが初回目の研磨であって、ここでは、タイマーによって研磨終了の制御が行われる。また、これと一部重複するが、S07からS16のループは2回目以降の研磨であり、ここでは距離センサーによる研磨終了の制御が行われる。
【0042】
両面ポリッシュ加工機1による作業を開始(S00)する。既にこのとき、上定盤11は吊り部材21とビーム101に設けられた適宜のリフト手段により上方に持ち上げられており、キャリア15が両面ポリッシュ加工機1にセットされているものとする。S01において、作業者は複数のキャリア15の複数の保持孔内にそれぞれワーク16をセットする。
【0043】
S02において、作業者は、ワーク16の仕上がり厚さの目標値を入力し、ワーク目標値記憶装置37に記憶させる。また、予め予想した研磨レートと事前測定したワーク16の厚さt0に基づいて算出した加工終了時間をタイマー33にセットする。なお、ワーク16の厚さの事前測定、上記加工終了時間の算出、及び、タイマーセットを行うのは初回のみである。
【0044】
続いて、制御装置30は、S03において上定盤11を降下させ、駆動装置102とスラリー供給装置(不図示)を駆動し、タイマー33の計時をスタートさせる。上定盤11、下定盤12、サンギア13、インターナルギア14の駆動とスラリー供給によりワーク16の研磨が開始、進行する(S04)。この間、タイマー33の計時値が監視され、最初にセットした加工時間に至ったかどうかのチェックが繰り返される。
【0045】
タイマー33の計時値が加工時間になる(時間終了する)と、S06に進む。ここで距離センサー22からキャリア15の上表面までの距離aが計測され、ついで距離の計測値a1がセンサー計測値記憶装置35に記憶される(S07)。上記タイマー33の時間終了は、ワーク16が希望の厚さに研磨される時間が経過したことを意味するので、制御装置30は上定盤11を上昇させ、駆動装置102とスラリー供給装置を停止させる。
【0046】
以上で、初回目の研磨が終了する。続いて、S09において(2回目以降の研磨の途中)、作業者は研磨が終了した初回目のワーク16を取り外し、新しいワーク16をキャリア15の保持孔内にセットする。取り外されたワーク16は機外の測定装置により厚さが測定される(S10)。
【0047】
なお、この厚さ測定は複数の内の1個あるいは数個のワークさらには全数に対してでもよいが、複数の時は平均値を計測値とする。この厚さ計測値を制御装置30に設けられた入力装置から作業者が入力するとワーク実測値記憶装置34に記憶される(S11)。
【0048】
センサー計測値補正装置36は、上記ワーク実測値記憶装置34に記憶されている加工が終了したワークの厚さ(厚さ実測値)と、センサー計測値記憶装置35に記憶されている距離センサーによる距離のセンサー計測値と、ワーク目標値記憶装置37に記憶されているワークの仕上がり厚さの目標値とから加工終了距離a1を補正する(S12)。
【0049】
このS12の補正は以下のように行われる。すなわち、目標値に対してワークの厚さの実測値が大きすぎた(厚すぎた)ときには、研磨量が不足していたことになり、大きすぎる加工終了距離a1の値をこの不足分だけ小さくする。反対に、目標値に対してワークの厚さの実測値が小さすぎた(薄くなりすぎた)ときには、研磨量が超過していたことになり、小さすぎる加工終了距離a1の値をこの超過分だけ大きくする。以下に説明するようにこの動作は繰り返されるので、加工終了距離a1の補正は一回の研磨毎に行われることになる。
【0050】
補正処理が済むと、制御装置30は、S13において、上定盤を降下させ、駆動制御装置32を介して駆動装置102を駆動させ、更にスラリー供給装置を駆動してこの回の研磨加工(S14)を開始する。研磨の間、距離センサー22によって、これとキャリア15の上表面までの距離の計測が行われ(S15)、この計測値aが加工終了距離a1になったか否かがチェックされる(S16)。計測値aが加工終了距離a1になったとき、S07に還り、以下S07からS16までの動作が繰り返される。
【0051】
上の例では、制御装置30が、駆動制御装置32、タイマー33、ワーク実測値記憶装置34、センサー計測値記憶装置35、センサー計測値補正装置36、及びワーク目標値記憶装置37を備えるものとして説明したが、ワーク実測値、センサー計測値に基づいて人によって計算あるいは推定した補正値をセンサー計測値補正装置36に入力するような構成とすることも可能である。この場合、ワーク実測値記憶装置34、センサー計測値記憶装置35を備える必要はない。
【0052】
以上に説明したように、本発明及び実施例の両面ポリッシュ加工機では、上記加工終了距離a1の補正機能があるため、研磨の回数が重なったときに研磨布17に摩耗、圧縮、膨潤等様々な要因による厚さの変化が生じたとしても、この変化は、各回毎に行われる加工終了距離a1が補正されるので、仕上がり厚さを目標値から一定の誤差の範囲内に維持することができる。
【0053】
また、2回目以降の研磨は、距離センサー22が研磨の進行度合いを常に監視していることから、初回目のように研磨前に予め厚さを測定する必要はなく、さらに、そのときの研磨レートを予め予想する必要もないので、初回目を除いてその後は経験の少ない作業者によってもこの両面ポリッシュ加工機を運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、本発明が適用された両面ポリッシュ加工機1の要部を示す縦断面図である。
【図2】図2は、図1のA−Aから見たときの平面図である。
【図3】図3は、定寸動作を説明するための比較図であって、(1)が研磨開始当初、(2)が研磨終了時の要部断面である。
【図4】図4は、補正処理を含んで本実施例の両面ポリッシュ加工機の動作を説明するための流れ図である。
【符号の説明】
【0055】
1 両面ポリッシュ加工機
10 機台
101 ビーム
102 駆動装置
11 上定盤
11d 第1駆動ギア
12 下定盤
12d 第2駆動ギア
13 サンギア
13d 第3駆動ギア
14 インターナルギア
14d 第4駆動ギア
15 キャリア
151 キャリアの表面、表面位置
16 ワーク
17 研磨布
21 吊り部材
22 距離センサー
221 基準位置
30 制御装置
31 主制御装置
32 駆動制御装置
33 タイマー
34 ワーク実測値記憶装置
35 センサー計測値記憶装置
36 センサー計測値補正装置
37 ワーク目標値記憶装置
M1 第1モータ
M2 第2モータ
M3 第3モータ
M4 第4モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機台に回転可能に支持され、上面に研磨布が貼り付けられた下定盤、
上記機台に回転可能に支持され、外歯を備えたサンギア、
上記機台に回転可能に支持され、内歯を備えたインターナルギア、
上記サンギアの外歯と上記インターナルギアの内歯とに噛合するための外歯、及び、ワークを納めるためのワーク保持孔を備えるとともに、上記下定盤上に載置されるキャリア、
下面に研磨布が貼り付けられており、上記キャリアの上記ワーク保持孔に納められたワークに対して、研磨圧を加えると共に、回転可能な上定盤、
上記下定盤、上記サンギア、上記インターナルギア、及び、上記上定盤を同一軸線上で回転駆動するため、単一あるいはそれぞれのための複数の駆動源を備えた駆動装置、
上記ワークと上記下定盤との研磨部、及び、上記ワークと上記上定盤との研磨部にスラリーを供給するためのスラリー供給装置、及び、
上記上定盤に形成された空所内に設けられており、上記キャリアの上表面までの距離を検出するための距離センサー
を備えた両面ポリッシュ加工機のための定寸制御方法であって、
初回のワークの研磨については、研磨時間に基づいて研磨を終了させ、2回目以降のワークの研磨については、上記距離センサーによる距離の計測値に基づいて研磨を終了させるとともに、初回を含む各回の研磨の終了後に、ワークの仕上がり厚さの実測値とワークの仕上がり厚さの目標値に基づいて上記距離センサーの計測値を補正すること
を特徴とする両面ポリッシュ加工機のための定寸制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載された両面ポリッシュ加工機のための定寸制御方法において、
上記距離センサーは渦電流センサーであり、上記キャリアは少なくとも上表面が導電性材料でできていること
を特徴とする両面ポリッシュ加工機のための定寸制御方法。
【請求項3】
機台に回転可能に支持され、上面に研磨布が貼り付けられた下定盤、
上記機台に回転可能に支持され、外歯を備えたサンギア、
上記機台に回転可能に支持され、内歯を備えたインターナルギア、
上記サンギアの外歯と上記インターナルギアの内歯とに噛合するための外歯、及び、ワークを納めるためのワーク保持孔を備えるとともに、上記下定盤上に載置されるキャリア、
下面に研磨布が貼り付けられており、上記キャリアの上記ワーク保持孔に納められたワークに対して、研磨圧を加えると共に、回転可能な上定盤、
上記下定盤、上記サンギア、上記インターナルギア、及び、上記上定盤を同一軸線上で回転駆動するため、単一あるいはそれぞれのための複数の駆動源を備えた駆動装置、
上記ワークと上記下定盤との研磨部、及び、上記ワークと上記上定盤との研磨部にスラリーを供給するためのスラリー供給装置、
上記上定盤に形成された空所内に設けられており、上記キャリアの上表面までの距離を検出するための距離センサー、及び、
制御装置
を備えた両面ポリッシュ加工機であって、
上記制御装置は、
初回のワークの研磨については、研磨時間に基づいて研磨を終了させ、2回目以降のワークの研磨については、上記距離センサーによる距離の計測値に基づいて研磨を終了させるとともに、初回を含む各回の研磨の終了後に、上記ワークの仕上がり厚さの実測値と上記ワークの仕上がり厚さの目標値との差に基づいて、上記距離センサーの計測値を補正する制御装置であること
を特徴とする両面ポリッシュ加工機。
【請求項4】
請求項3に記載された両面ポリッシュ加工機において、
上記制御装置は、
入力されたワークの仕上がり厚さの目標値を記憶するためのワーク目標値記憶装置、及び、
上記距離センサーの計測値を補正するためのセンサー計測値補正装置
を備えており、
初回のワークの研磨については、研磨時間に基づいて研磨を終了させ、2回目以降のワークの研磨については、上記距離センサーによる距離の計測値に基づいて研磨を終了させるとともに、初回を含む各回の研磨の終了後に、上記ワークの仕上がり厚さの実測値と上記ワーク目標値記憶装置に記憶されているワークの仕上がり厚さの目標値との差に基づいて、上記センサー計測値補正装置によって上記距離センサーの計測値を補正する制御装置であること
を特徴とする両面ポリッシュ加工機。
【請求項5】
請求項4に記載された両面ポリッシュ加工機において、
上記制御装置は、さらに、
初回の研磨時間をセットするためのタイマー、
上記距離センサーによる距離の計測値を記憶するためのセンサー計測値記憶装置、及び、
入力されたワークの仕上がり厚さの実測値を記憶するためのワーク実測値記憶装置、
を備えており、
初回のワークの研磨については、上記タイマーにセットされた研磨時間に基づいて研磨を終了させ、2回目以降のワークの研磨については、上記距離センサーによる距離の計測値に基づいて研磨を終了させるとともに、初回を含む各回の研磨の終了後に、上記ワーク実測値記憶装置に記憶されているワークの仕上がり厚さの実測値と上記ワーク目標値記憶装置に記憶されているワークの仕上がり厚さの目標値との差に基づいて、上記センサー計測値補正装置によって上記距離センサーの計測値を補正する制御装置であること
を特徴とする両面ポリッシュ加工機。
【請求項6】
請求項3から請求項5までのいずれかに記載された両面ポリッシュ加工機において、
上記距離センサーは渦電流センサーであり、上記キャリアは少なくとも上表面が導電性材料でできていること
を特徴とする両面ポリッシュ加工機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−231471(P2006−231471A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−50404(P2005−50404)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000107745)スピードファム株式会社 (62)
【Fターム(参考)】