光制御素子
【課題】
低駆動電圧で安定動作することが可能な光制御素子を提供することであり、特に、2つの共振型電極を用いて、両電極間のクロストーク(結合)が発生しても安定動作が可能な光制御素子を提供すること。
【解決手段】
電気光学効果を有する基板1と、該基板に形成された複数の光導波路2と、該基板に設けられ、該光導波路を伝搬する光の位相を制御するための制御電極3とを有する光制御素子において、該制御電極は、同じ共振周波数を有する少なくとも共振型電極31,32と、該共振型電極の各々に制御信号を給電する給電電極41,42とを備え、各共振型電極の形状及び形成位置、並びに各共振型電極への給電電極による給電位置は、互いに奇モード結合が可能なように設定され、各共振型電極には、該給電電極により同相の制御信号が給電されていることを特徴とする。
低駆動電圧で安定動作することが可能な光制御素子を提供することであり、特に、2つの共振型電極を用いて、両電極間のクロストーク(結合)が発生しても安定動作が可能な光制御素子を提供すること。
【解決手段】
電気光学効果を有する基板1と、該基板に形成された複数の光導波路2と、該基板に設けられ、該光導波路を伝搬する光の位相を制御するための制御電極3とを有する光制御素子において、該制御電極は、同じ共振周波数を有する少なくとも共振型電極31,32と、該共振型電極の各々に制御信号を給電する給電電極41,42とを備え、各共振型電極の形状及び形成位置、並びに各共振型電極への給電電極による給電位置は、互いに奇モード結合が可能なように設定され、各共振型電極には、該給電電極により同相の制御信号が給電されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光制御素子に関し、特に、光導波路を伝搬する光波を変調する共振型電極を備えた光制御素子に関する。
【背景技術】
【0002】
無線に用いられる数GHz以上の高周波信号を光伝送するための光変調器や、長距離伝送において、データ変調とともに用いられる光クロック生成用のパルサー変調器などの光通信システムの送信装置に、共振型光変調器のような光制御素子が利用されている。共振型光変調器には、ニオブ酸リチウムなどの電気光学効果を有する基板材料が利用され、共振型電極を有する制御電極を用いて、基板に形成された光導波路の屈折率を変化させて、その光導波路を伝搬する光の強度や位相を変調するよう構成されている。
【0003】
共振型電極では、給電点から特定の周波数の電気信号を入力すると、その電極に電気信号の定在波が生じる。このように、共振型光変調器は、電気信号の共振現象を利用しているので、特定の周波数を入力したときに、特に効率良く動作し、一般に進行波型光変調器よりも電極単位長さ当りの変調効率が良い。
【0004】
このような特性があるため、従来の共振型光変調器の電極の長さが、電気信号の1波長分よりも短くなるように設計された例が多い。しかしながら、光導波路を伝搬する光の速度と作用部の電極を伝搬する制御信号の速度がほぼ一致した条件では、電極を長くすることが可能であり、制御信号の減衰にも影響を受けるが、電極の長さに応じた駆動電圧の改善が得られる。
【0005】
非特許文献1には、速度整合と共振型電極の併用が効率改善に有効であること開示され、また、非特許文献2には、ニオブ酸リチウムを基板に用いた共振電極型光変調器が記載されており、電気信号の屈折率(nm)をほぼ2.2(ニオブ酸リチウムの光に対する屈折率は約2.2)とすることで、良好な特性が得られた事例が紹介されている。
【0006】
一方、光と電気信号の速度が一致しない条件では、電極の長さを十分長くすることができず、単位長さあたりの変調効率が高くても、結果として全体の変調効率を良くすることができない。そのため、変調器の効率を表すパラメータである半波長電圧Vπが概ね10V以上となり、非常に高い電圧を印加しなければ、十分な動作が得られない。
【0007】
また、光導波路の一部を2つの経路に分岐させ、マッハツェンダー(MZ)干渉計構造とし、2つの分岐光を干渉させれば、光の強度変調器として動作する。長距離伝送において、データ変調とともに用いられる光クロック生成用のパルサー変調器などにおいては、2つの分岐光での光の位相変化量が、同じ大きさで逆符号の位相変化で動作させることによって得られる、波長チャープがゼロとなる状態が望ましく、MZ干渉計のそれぞれの分岐導波路に同じ大きさで逆符号の信号を印加する構成が取られている。しかも、このような各分岐導波路に対応する2つの電極に互いに逆符号の信号を印加する場合(「二電極型」という。)には、駆動電圧を下げる効果もある。
【0008】
これらのことから、光と制御信号の速度の整合がとれた長い共振型電極を用いて、二電極型のMZ変調器を構成すれば、劇的な低駆動電圧化が実現できることが期待される。しかしながら、共振型電極は共振周波数の信号に対しては、効率が高く電界が非常に強いため、周辺の導電性物質との結合(信号のクロストーク)が顕著である。両制御電極の信号がクロストークした状況では、制御信号の位相が乱れ、所望の光変調が得られない。
【0009】
特に、同じ周波数に対して共振条件満たす要素(部品)に対しては、信号が結合しやすい。二電極型のMZ光変調器については、各分岐導波路に対応する制御電極には、基本構造が同じ電極を採用する。このため、共振型電極を構成する場合には、各制御電極(共振型電極)は共に同じ周波数の共振周波数となり、結合(信号のクロストーク)が顕著となる。しかも、速度整合した長い電極を用いる場合は、電極が長いため、両電極間の結合の影響がさらに顕著になる。
【0010】
ニオブ酸リチウムなどの電気光学効果を有する基板に、コプレーナ型の電極を形成して作製した光変調器の場合の、複数電極間の制御信号のクロストーク防止策については、特許文献1のように溝を形成する例がある。一般に、制御電界の強度は、制御電極からの距離が大きくなるにつれて小さくなる。これは、基板や電極の構造にも依存する現象であるが、図1に示すように、導波路間隔が約150μmの場合には、他方の光導波路に及ぼす電界の強さは約1%程度であり、約300μmの場合には約0.2%、約400μmの場合には約0.1%程度であることも、開示されている。
【0011】
このように、MZ干渉計の2つの分岐光導波路の間隔を大きくとることは、デバイスのサイズやコストの面で不利である。また、特許文献1に示される溝を形成する手法は、一定の改善は見込めるものの、防止の追加構造の加工など、デバイスの製造コストの面で不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−53444号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Mark Yu and Anand Gopinath, "Velocity Matched Resonant Slow-Wave Structure for Optical Modulator", Proceedings of Integrated Photonics Research (IPR), ITuH7-1, pp.365-369, Palm Springs, California, March 22, 1993
【非特許文献2】Roger Krahenbuhl and M. M. Howerton, "Investigations on Short-Path-Length High-Speed Optical Modulators in LiNbO3 With Resonant-Type Electrodes", JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY, VOL.19, No. 9, pp.1287-1297, SEPTEMBER 2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、低駆動電圧で安定動作することが可能な光制御素子を提供することであり、特に、2つの共振型電極を用いて、両電極間のクロストーク(結合)が発生しても安定動作が可能な光制御素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された複数の光導波路と、該基板に設けられ、該光導波路を伝搬する光の位相を制御するための制御電極とを有する光制御素子において、該制御電極は、同じ共振周波数を有する少なくとも2つの共振型電極と、該共振型電極の各々に制御信号を給電する給電電極とを備え、各共振型電極の形状及び形成位置、並びに各共振型電極への給電電極による給電位置は、互いに奇モード結合が可能なように設定され、各共振型電極には、該給電電極により同相の制御信号が給電されていることを特徴とする。
【0016】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の光制御素子において、該光導波路は、単一又は複数のマッハツェンダー干渉計を構成し、前記2つの共振型電極は、該マッハツェンダー干渉計を構成する2つの分岐導波路に対応して配置されていることを特徴とする。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の光制御素子において、前記2つの共振型電極の形状及び形成位置、並びに各共振型電極への給電電極による給電位置は、互いに点対称となるように設定されていることを特徴とする。
【0018】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の光制御素子において、該共振型電極は、1本の信号電極とそれを取り囲む接地電極から構成され、該信号電極の2つの端部は、該接地電極に対して、共に開放されているか、又は共に短絡されているか、あるいは一方が短絡され他方が開放されているかのいずれかであること特徴とする。
【0019】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の光制御素子において、該共振型電極は、1本の信号電極を有し、該信号電極の長さは、所定周波数を有する制御信号が該信号電極上に形成する波長より、長いことを特徴とする。
【0020】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の光制御素子において、該共振型電極は、1本の信号電極を有し、該信号電極への給電位置は、共振型電極のインピーダンスが50Ωとなる位置であることを特徴とする。
【0021】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の光制御素子において、該信号電極への給電位置は、該信号電極の中心に最も近い位置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に係る発明により、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された複数の光導波路と、該基板に設けられ、該光導波路を伝搬する光の位相を制御するための制御電極とを有する光制御素子において、該制御電極は、同じ共振周波数を有する少なくとも2つの共振型電極と、該共振型電極の各々に制御信号を給電する給電電極とを備え、各共振型電極の形状及び形成位置、並びに各共振型電極への給電電極による給電位置は、互いに奇モード結合が可能なように設定され、各共振型電極には、該給電電極により同相の制御信号が給電されているため、仮に共振型電極間にクロストーク(結合)が発生しても、他方の電極に結合した分と同じ分の電界エネルギーを同相で受け取るため、結合が無いときと同じように働き、安定した光変調動作が可能である。しかも、これは両電極間の結合の大小を問わず同じとなる。よって、低駆動電圧で安定動作することが可能な光制御素子を提供することが可能となる。
【0023】
請求項2に係る発明により、光導波路は、単一又は複数のマッハツェンダー干渉計を構成し、2つの共振型電極は、該マッハツェンダー干渉計を構成する2つの分岐導波路に対応して配置されているため、共振型電極を利用した二電極型の光変調器など、より低駆動電圧の光制御素子を提供することが可能となる。
【0024】
請求項3に係る発明により、2つの共振型電極の形状及び形成位置、並びに各共振型電極への給電電極による給電位置は、互いに点対称となるように設定されているため、共振型電極間のクロストーク(結合)が発生しても、常に同相状態で電界エネルギー授受するため、結合が無いときと同じように安定動作することが可能となる。
【0025】
請求項4に係る発明により、共振型電極は、1本の信号電極とそれを取り囲む接地電極から構成され、該信号電極の2つの端部は、該接地電極に対して、共に開放されているか、又は共に短絡されているか、あるいは一方が短絡され他方が開放されているかのいずれかであるため、同じ長さの信号電極を利用しても多様な波長の共振型電極を形成することが可能となる。しかも、信号電極の2つの端部を共に開放、又は共に短絡する場合には、各共振型電極の信号電極は、端部が揃って平行に配置される。このため、2つの共振型電極を並べて配置した際の全体の長さを最小限にすることができる。しかも、マッハツェンダー干渉計に利用する場合には、各分岐導波路に信号電極が電界を印加する作用部分の位置が、マッハツェンダー干渉計の光波の伝搬方向である光軸に対して線対称となるため、波長チャープをゼロとする光制御素子を実現することが可能となる。
【0026】
請求項5に係る発明により、共振型電極は、1本の信号電極を有し、信号電極の長さは、所定周波数を有する制御信号が該信号電極上に形成する波長より、長いため、より低電圧駆動が可能な光制御素子を提供することが可能となる。
【0027】
請求項6に係る発明により、共振型電極は、1本の信号電極を有し、該信号電極への給電位置は、共振型電極のインピーダンスが50Ωとなる位置であるため、信号電極への制御信号の入力に際して、インピーダンス不整合などによる反射も抑制し、低駆動電圧の光制御素子を提供することができる。
【0028】
請求項7に係る発明により、請求項6に記載の光制御素子において、該信号電極への給電位置は、該信号電極の中心に最も近い位置であるため、電極の製造誤差に基づく特性のばらつきを抑制し、さらには、各共振型電極が光導波路に及ぼす電界強度分布をほぼ同じとすることができるため、波長チャープを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】特許文献1に開示された、電界の強さと距離(光導波路の間隔)との関係を示すグラフである。
【図2】本発明の光制御素子に係る第1の実施例(信号電極の両端を接地電極から開放したもの)を説明する図である。
【図3】図2の光制御素子の電極の概観を示す図である。
【図4】図3の光制御素子の断面構造を示す図である。
【図5】本発明の光制御素子に係る第2の実施例(信号電極の両端を接地電極に短絡したもの)を説明する図である。
【図6】図2の光制御素子における信号電極の長さが半波長λ/2(λ:信号波長)の場合、給電位置とインピーダンスとの関係及び、特定タイミングにおける電界ベクトルの様子を説明する図である。
【図7】図6と同様の場合で、上側の共振型電極のみに制御信号を入力した際に、少し離れた下側の共振型電極にクロストーク現象が発生する様子を説明する図である。
【図8】図7と同様の場合で、上側の共振型電極と下側の共振型電極とが近接した場合に、クロストーク現象が発生する様子を説明する図である。
【図9】図6と同様の場合で、各共振型電極に制御信号を入力した際に、少し離れた他方の共振型電極にクロストーク現象が発生する様子を説明する図である。
【図10】図9と同様の場合で、上側の共振型電極と下側の共振型電極とが近接した場合に、クロストーク現象が発生する様子を説明する図である。
【図11】共振型電極の信号電極(信号電極の両端を接地電極から開放したもの)の長さが3λ/2(λ:信号波長)の場合、給電位置とインピーダンスとの関係及び、特定タイミングにおける電界ベクトルの様子を説明する図である。
【図12】図5の光制御素子における信号電極の長さがλ(λ:信号波長)の場合、給電位置とインピーダンスとの関係及び、特定タイミングにおける電界ベクトルの様子を説明する図である。
【図13】共振型電極の信号電極(接地電極に対し、信号電極の左端を短絡し、右端を開放したもの)の長さが3λ/4(λ:信号波長)の場合、給電位置とインピーダンスとの関係及び、特定タイミングにおける電界ベクトルの様子を説明する図である。
【図14】共振型電極の信号電極(接地電極に対し、信号電極の左端を開放し、右端を短絡したもの)の長さが3λ/4(λ:信号波長)の場合、給電位置とインピーダンスとの関係及び、特定タイミングにおける電界ベクトルの様子を説明する図である。
【図15】図13と図14の共振型電極を組み合わせた一例を説明する図である。
【図16】MZ干渉計の一部に共振型電極を偏在させた構成を説明する図である。
【図17】共振型電極の一部のみを光導波路に作用する作用部とする構成を説明する図である。
【図18】本発明の光制御素子に制御信号を入力する駆動回路を配置した様子を説明する図である。
【図19】本発明の光制御素子に制御信号を入力する駆動回路を配置した様子を説明する他の図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の光制御素子について、詳細に説明する。
本発明の光制御素子は、図2又は図5などに示すように、電気光学効果を有する基板1と、該基板に形成された複数の光導波路2と、該基板に設けられ、該光導波路を伝搬する光の位相を制御するための制御電極3とを有する光制御素子において、該制御電極は、同じ共振周波数を有する少なくとも共振型電極31,32と、該共振型電極の各々に制御信号を給電する給電電極41,42とを備え、各共振型電極の形状及び形成位置、並びに各共振型電極への給電電極による給電位置は、互いに奇モード結合が可能なように設定され、各共振型電極には、該給電電極により同相の制御信号が給電されていることを特徴とする。
【0031】
電気光学効果を有する基板1としては、例えば、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)、及び石英系の材料及びこれらの組み合わせが利用可能である。特に、電気光学効果の高いニオブ酸リチウム(LN)やタンタル酸リチウム(LT)結晶が好適に利用される。
【0032】
光導波路は、基板にリッジを形成する方法や基板の一部の屈折率を調整する方法、又は両者を組み合わせた方法で形成することが可能である。リッジ型導波路では、光導波路となる基板部分を残すように、その他の部分を機械的に切削したり、化学的にエッチングを施すことで除去する。また、光導波路の両側に溝を形成することも可能である。屈折率を調整する方法では、Tiなどを熱拡散法したり、プロトン交換法などを利用することで、光導波路に対応する基板表面の一部の屈折率を、基板自体の屈折率より高くなるよう構成する。
【0033】
信号電極や接地電極などの制御電極は、Ti・Auの電極パターンの形成及び金メッキ方法などにより形成することが可能である。また、各電極は、必要に応じて、基板との間にSiO2膜などのバッファ層を介して配置されている。バッファ層には、光導波路を伝搬する光波が、制御電極により吸収又は散乱されることを防止する効果を有している。また、バッファ層の構成としては、必要に応じ、薄板の焦電効果を緩和するため、Si膜などを組み込むことも可能である。
【0034】
本発明の光制御素子においては、制御電極に少なくとも2つの共振型電極を形成し、双方の共振型電極がクロストークしても、制御信号(変調信号)の変調効率に影響がない構成を採用している。このためには、以下の2つの要件が必要となる。
(1)双方の共振型電極は基本的に同じ形状であり、互いに奇(対称)モード結合する条件にあること。
(2)双方の共振型電極には、同相の信号が給電されること。
【0035】
共振型電極は、主として、1本の信号電極とそれを取り囲む接地電極から構成される。そして2つの共振型電極の組み合わせとしては、後述するように、信号電極の両端が共に接地電極から開放されている「両端開放−両端開放」か、又は信号電極の両端が共に接地電極に短絡されている「両端短絡−両端短絡」の組み合わせが好ましい形態の一つであるが、本発明の光制御素子はこれに限らず、「両端開放−両端短絡」、「両端開放−一方短絡他方開放」、又は「両端短絡−一方短絡他方開放」など種々の組み合わせが可能であることはいうまでもない。
【0036】
2つの共振型電極は基本的に同じ形状の電極であるため、共振周波数は同じであり、結合しやすい条件となっている。通常、この電極を、MZ干渉計の中心軸(光伝搬方向)に対して対称となるように配置すると、共振型電極を構成する1本の信号電極上の位置により、信号電極に供給された制御信号による電界と、他方の共振型電極が形成する電界とのクロストークにより発生する電界との状態(電界ベクトルの方向)が異なるため、制御信号は複雑に干渉して、共振型電極(特に、1本の信号電極)上の制御信号の正常な伝搬が妨げられる。
【0037】
一方、双方の共振型電極を、結合しても奇モード結合となる条件に配置し、それぞれに同相等しい大の信号を給電した場合には、他方に結合した分と同じ分の電界エネルギーを同相で受け取るため、結合が無いときと同じように働く。これは両電極間の結合の強弱を問わず、同じである。
【0038】
双方の共振型電極が結合しても奇モード結合となる条件になるよう配置するには、図2に示すように構成にする。つまり、各共振型電極は、同じ形状であり、MZ干渉計の作用部(各共振型電極が形成する電界が光導波路に作用する部分)から等距離の平面上に位置する任意の点を回転中心として、180°回転対称(点対称。図2の定点Oを参照)となる位置に配置してある。各共振型電極の1本の信号電極(31,32)の給電点(給電位置)には、同相で同じ大きさの制御信号が、給電電極41,42を用いて給電されている。
【0039】
図6は、図2の光制御素子における共振型電極(信号電極)の長さLが半波長λ/2(λ:信号波長)の場合、給電位置とインピーダンスとの関係及び、特定タイミングにおける電界ベクトル(矢印)の様子を説明する図である。図6の給電位置とインピーダンスとの関係を示すグラフからも明らかなように、信号電極(共振型電極)31,32の両端が接地電極33から開放されている場合で、当該信号電極の長さが、信号波長の半波長分である場合には、インピーダンスが50Ωとなる給電位置が2つ存在する。
【0040】
しかも、同相の制御信号を入力しても、この給電位置が異なる場合には、図6の上側の共振型電極と下側の共振型電極に示した電界ベクトルのように、特定タイミングにおける電界ベクトルは互いに逆向きとなる。
【0041】
図7及び図8は、上側の共振型電極のみに制御信号を給電した場合の電界ベクトルの形成状況を説明する図であり、下側の共振型電極に形成される電界ベクトルは、上側の共振型電極からのクロストーク(結合)によるものである。このように、クロストークでは、位相がπずれた信号(電界ベクトル)が励起される。励起される電界ベクトルの大きさも、2つの共振型電極の間隔が狭い場合(図8)の方がより大きくなる。
【0042】
ここで、図6のように制御信号を供給し、各共振型電極に発生する電界ベクトルと、図7又は8のように、一方の共振型電極が他方の共振型電極に励起する電界ベクトル(クロストーク)とを重ね合わせて見ると、図9又は図10に示すように、双方の共振型電極間にクロストーク(結合)が起こっても奇(対称)モードとなるため、それぞれの電極上の制御信号(給電による電界ベクトル)が乱されることはなく、所望の光変調を行うことができる。当然、クロストークの影響は、図10のように共振型電極間の間隔が狭い場合には顕著となるが、信号電極に給電されて発生する電界とクロストークにより励起される電界が同じ方向であるため、クロストークによる変調の乱れは発生しない。
【0043】
図11に示すように、信号電極(共振型電極)31,32の電極長が、制御信号の波長より長い共振型電極においては、特定のインピーダンス値を有し、かつ、同様の共振動作をする励振点(給電位置)が複数ある。したがって、給電位置については、同じ条件の共振を励振する点であれば、どの励振点を用いても良い。ただし、2つの共振型電極における個々の給電位置は互いに近い位置にある方が、光導波路の伝搬方向における各共振型電極が形成する電界の強度分布がほぼ同じとなるため、例えばMZ干渉計の場合には、波長チャープをゼロにすることが可能となり、より好ましい。
【0044】
図3に、本発明の光制御素子に用いられる実際の電極の構成を簡単に示す。二電極構造であるたため、基板としては、Zカット型のLN基板が最も適している。光導波路はMZ干渉計型の形状とする。従来技術では、制御信号の干渉の影響を小さくするため、信号電極間(ホット電極間)が400μm以上の間隔となるよう、分岐光導波路の間隔も大きくとる必要があったが、本発明の光制御素子ではその必要はない。むしろ、導波路間隔を狭くすることにより光制御素子自体を小型化できるため、従来の共振型変調ではクロストーク(結合)が顕著となる100μm以下でもよい。
【0045】
共振型電極の形状は、好ましくはコプレーナ(CPW)構造(信号電極を接地電極が挟む構成)とし、光導波路を伝搬する光信号の速度と電極を伝搬する制御信号の速度が、ほぼ等しくなるよう構成する。両者の伝搬速度がほぼ等しい場合(速度整合条件がほぼ満たされる場合)には、信号電極(共振型電極)の長さを制御信号の共振周波数の波長より長くすることができ、駆動電圧の低減に有利である。
【0046】
なお、共振型電極は、上述したCPW構造に限らず、CPS(信号電極の片側に接地電極を設ける構成)、G−CPW(基板の表面にCPWを形成すると共に、基板の裏面に接地電電極を設ける構成)など種々の構成が採用可能である。給電電極についも、共振型電極と同様に種々の構成が採用可能であるが、給電電極と共振型電極との電気的な接続を容易にするため、同じ種類の構成を採用することが好ましい。また、給電電極には、必要に応じて、給電電極の途中にコンデンサーや抵抗等を設け、フィルター回路などを併設することも可能である。
【0047】
本発明の光制御素子では、図4(図3の断面図)に示すように、さらなる駆動電圧の低減を目的として、制御信号が光導波路部に効果的に印加されるリッジ型光導波路としている。当然、光導波路は、リッジ形状に基板を形成するだけでなく、必要に応じて該リッジ部分にTiの熱拡散などを施し、屈折率を調整することを併用することも可能である。また、非コプレーナ(CPW)構造の電極であっても、非リッジ型導波路であっても、速度整合がほぼ満たされる構成であれば、どのような、電極タイプや光導波路であっても良い。
【0048】
図2又は3では、信号電極(共振型電極)31,32は、両端が接地電極から開放されているタイプを用いた。給電位置は、信号電極(共振型電極)の中心でなく、非対称な位置に設けられている。ここでは、信号電極(共振型電極)上でインピーダンスが50Ω(通常は50Ωが一般的であるが、必ずしもこのインピーダンス値に限定されない。)となる位置のうち、電極の中心に最も近い位置を給電点とし、駆動回路とはインピーダンス整合回路を用いずに直接制御信号を給電している。これは、電極の端の方に給電した場合に比べ、製造プロセスの再現性の問題で、電極の端の形状などがばらついた際の特性の変化が少ないからである。
【0049】
次に、図5は、本発明の光制御素子の第2の実施例を示している。図2の実施例との違いは、図2に示した実施例では、信号電極(共振型電極)の両端を接地電極から開放しているが、図5では、当該両端は接地電極に短絡されている。
【0050】
図5の実施例においても、図2と同様に、双方の共振型電極は、互いに同じ形状であり、MZ干渉計の中心を回転中心として、180°回転対称(点対称)となる位置に配置し、同相で同じ大きさの制御信号が給電されている。この条件では、それぞれの信号電極(共振型電極)31,32の位置での電界は、同じ大きさ逆符号の電界となっている。このため、図5のような電極配置条件や制御信号の給電の条件を満足すれば、仮に、双方の共振型電極間に結合が起こっても奇(対称)モードとなるため、それぞれの信号電極(共振型電極)上の制御信号が乱されることはない。
【0051】
図12は、図5の光制御素子における信号電極の長さLがλ(λ:信号波長)の場合、給電位置とインピーダンスとの関係及び、特定タイミングにおける電界ベクトルの様子を説明する図である。図12の給電位置とインピーダンスとの関係を示すグラフからも明らかなように、信号電極(共振型電極)31,32の両端が接地電極33に短絡されている場合で、当該信号電極の長さLが、信号波長の1波長分である場合には、インピーダンスが50Ωとなる給電位置が4つ存在する。
【0052】
しかも、同相の制御信号を入力しても、この給電位置が図12に示すような関係(点対称)となる場合には、図12の上側の共振型電極と下側の共振型電極に示した電界ベクトルのように、特定タイミングにおける電界ベクトルは互いに逆向きとなる。なお、給電位置として、互いに信号電極(共振型電極)の端部に近い給電位置を選択することも可能であるが、製造プロセスの再現性の問題で、電極の端の形状などがばらついた際の特性の変化が大きくなり、また、光の伝搬方向に対する2つの共振型電極が形成する各電界強度分布が異なり易く、波長チャープをゼロにする観点からも好ましくない。
【0053】
さらに、共振型電極を構成する信号電極には、接地電極に対して、一端を開放し、他端を短絡するものがある。図13及び図14は、に示すように、共振型電極の信号電極の長さLが3λ/4(λ:信号波長)の場合、給電位置とインピーダンスとの関係及び、特定タイミングにおける電界ベクトルの様子を説明する図であり、特に、図13は、接地電極に対し、信号電極の左端を短絡し、右端を開放したものを示し、図14は、接地電極に対し、信号電極の左端を開放し、右端を短絡したものを示している。
【0054】
図13及び図14のように、このような形状の共振型電極であっても、インピーダンスが50Ωとなる給電位置が3つ存在する。しかも、この給電位置によって、共振型電極に発生する特定タイミングにおける電界ベクトルは、異なる向きのものを選択することが可能である。
【0055】
しかしながら、図13に例示した各共振型電極の一つと、図14に例示した各共振型電極の一つとを点対称に組み合わせても、互いに奇モード結合する関係に配置にするためには、図15に示すように、両者をずらして配置することが必要であり、光制御素子自体が大きくなると共に、光波の伝搬方向に対して異なる位置で光変調が行われるため、波長チャープをゼロにすることが難しい。
【0056】
なお、共振型電極の配置を点対称に拘らない場合には、例えば、図13の符号1と5のケースを組み合わせることで、奇モード結合を行うことは可能である。
【0057】
以上では、直線状の信号電極(共振型電極)を中心に説明したが、これに制限されることはなく、分岐導波路が湾曲、屈曲している場合には、導波路に応じて、共振電極を湾曲、屈曲させれば良い。また、分岐光導波路にかかる作用効率が同じであり、互いに奇モード結合される位置に配置される要件を満たせば、それぞれの信号電極(共振電極)は、直線型に限らず、リング型であっても差し支えない。
【0058】
また、MZ干渉計を構成する光導波路に対する共振型電極の位置は、上述したように、MZ干渉計の中心に一致するように、2つの共振型電極を配置するもの限定されず、例えば、図16に示すように、MZ干渉計の分岐導波路の一部に共振型電極31,32が偏在するように構成したり、また、図17に示すように、共振型電極の一部のみを分岐導波路と重なるように配置し、共振型電極が光導波路に作用する作用部(範囲S)と非作用部とから構成されるよう配置することも可能である。なお、図17のような場合には、非作用部の共振型電極の形状や配置は、上述した共振型電極全体が作用部となるものと比較し、設計の自由度が増加する。
【0059】
本発明の光制御素子を駆動するには、各共振型電極に同位相で同じ周波数の制御信号を印加する。図18に示すように、2系統の駆動回路を利用し、各共振型電極31,32の給電電極41,42に、制御信号(矢印)を入力する。駆動回路の例としては、信号源からの所定周波数の信号をドライバ1(ドライバ2)に入れ、所定の信号電圧に増幅した後、ノイズを除去する帯域フィルタ1(帯域フィルタ2)を介して、光制御素子の給電電極41,42に入力する。また、図19に示すように、一つの駆動回路を用いて、2つに制御信号を分け、各共振型電極31,32に供給することも可能である。ただし、この場合には、給電する制御信号の位相を調整するため、位相調整器を少なくとも一方の給電線路に介在させることが望ましい。当然、給電線の長さを予め同相となるよう調整することも可能であり、その場合には、位相調整器を省略することも可能となる。
【0060】
本発明の光制御素子は、光導波路にMZ干渉計を採用する場合には、各分岐光導波路における光の位相変化量は、同じ大きさの逆符号となり、MZ干渉計の光出力部では波長チャープのないON・OFFパルス光信号が生成される。この波長チャープのないON・OFFパルス光信号は、光クロックとしてもっとも望ましい特性である。
【0061】
さらに、本発明の光制御素子では、従来は同時併用が不可能であった、共振型長尺電極の採用と二電極配置構造との併用が可能になったばかりでなく、クロストーク(結合)を利用し、変調効率の劇的改善と電極間のギャップの縮小による小型化などの効果も併せて得られる。
【0062】
本発明の光制御素子をパルサーに適用した場合には、以下のような効果も期待できる。
・高速、超低電圧、小型パルサー実現
・消費電力の画期的削減
・低コストな駆動系の使用による、ユーザーのコスト削減
・デバイスのサイズダウン、集積度の改善
・サイズダウンによるデバイス取れ数増加によるコストダウン
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上説明したように、本発明によれば、低駆動電圧で安定動作することが可能な光制御素子を提供することであり、特に、2つの共振型電極を用いて、両電極間のクロストーク(結合)が発生しても安定動作が可能な光制御素子を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0064】
1 電気光学効果を有する基板
2 光導波路
21,22 分岐導波路
3 制御電極
31,32 信号電極(共振型電極)
33 接地電極
41,42 給電電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、光制御素子に関し、特に、光導波路を伝搬する光波を変調する共振型電極を備えた光制御素子に関する。
【背景技術】
【0002】
無線に用いられる数GHz以上の高周波信号を光伝送するための光変調器や、長距離伝送において、データ変調とともに用いられる光クロック生成用のパルサー変調器などの光通信システムの送信装置に、共振型光変調器のような光制御素子が利用されている。共振型光変調器には、ニオブ酸リチウムなどの電気光学効果を有する基板材料が利用され、共振型電極を有する制御電極を用いて、基板に形成された光導波路の屈折率を変化させて、その光導波路を伝搬する光の強度や位相を変調するよう構成されている。
【0003】
共振型電極では、給電点から特定の周波数の電気信号を入力すると、その電極に電気信号の定在波が生じる。このように、共振型光変調器は、電気信号の共振現象を利用しているので、特定の周波数を入力したときに、特に効率良く動作し、一般に進行波型光変調器よりも電極単位長さ当りの変調効率が良い。
【0004】
このような特性があるため、従来の共振型光変調器の電極の長さが、電気信号の1波長分よりも短くなるように設計された例が多い。しかしながら、光導波路を伝搬する光の速度と作用部の電極を伝搬する制御信号の速度がほぼ一致した条件では、電極を長くすることが可能であり、制御信号の減衰にも影響を受けるが、電極の長さに応じた駆動電圧の改善が得られる。
【0005】
非特許文献1には、速度整合と共振型電極の併用が効率改善に有効であること開示され、また、非特許文献2には、ニオブ酸リチウムを基板に用いた共振電極型光変調器が記載されており、電気信号の屈折率(nm)をほぼ2.2(ニオブ酸リチウムの光に対する屈折率は約2.2)とすることで、良好な特性が得られた事例が紹介されている。
【0006】
一方、光と電気信号の速度が一致しない条件では、電極の長さを十分長くすることができず、単位長さあたりの変調効率が高くても、結果として全体の変調効率を良くすることができない。そのため、変調器の効率を表すパラメータである半波長電圧Vπが概ね10V以上となり、非常に高い電圧を印加しなければ、十分な動作が得られない。
【0007】
また、光導波路の一部を2つの経路に分岐させ、マッハツェンダー(MZ)干渉計構造とし、2つの分岐光を干渉させれば、光の強度変調器として動作する。長距離伝送において、データ変調とともに用いられる光クロック生成用のパルサー変調器などにおいては、2つの分岐光での光の位相変化量が、同じ大きさで逆符号の位相変化で動作させることによって得られる、波長チャープがゼロとなる状態が望ましく、MZ干渉計のそれぞれの分岐導波路に同じ大きさで逆符号の信号を印加する構成が取られている。しかも、このような各分岐導波路に対応する2つの電極に互いに逆符号の信号を印加する場合(「二電極型」という。)には、駆動電圧を下げる効果もある。
【0008】
これらのことから、光と制御信号の速度の整合がとれた長い共振型電極を用いて、二電極型のMZ変調器を構成すれば、劇的な低駆動電圧化が実現できることが期待される。しかしながら、共振型電極は共振周波数の信号に対しては、効率が高く電界が非常に強いため、周辺の導電性物質との結合(信号のクロストーク)が顕著である。両制御電極の信号がクロストークした状況では、制御信号の位相が乱れ、所望の光変調が得られない。
【0009】
特に、同じ周波数に対して共振条件満たす要素(部品)に対しては、信号が結合しやすい。二電極型のMZ光変調器については、各分岐導波路に対応する制御電極には、基本構造が同じ電極を採用する。このため、共振型電極を構成する場合には、各制御電極(共振型電極)は共に同じ周波数の共振周波数となり、結合(信号のクロストーク)が顕著となる。しかも、速度整合した長い電極を用いる場合は、電極が長いため、両電極間の結合の影響がさらに顕著になる。
【0010】
ニオブ酸リチウムなどの電気光学効果を有する基板に、コプレーナ型の電極を形成して作製した光変調器の場合の、複数電極間の制御信号のクロストーク防止策については、特許文献1のように溝を形成する例がある。一般に、制御電界の強度は、制御電極からの距離が大きくなるにつれて小さくなる。これは、基板や電極の構造にも依存する現象であるが、図1に示すように、導波路間隔が約150μmの場合には、他方の光導波路に及ぼす電界の強さは約1%程度であり、約300μmの場合には約0.2%、約400μmの場合には約0.1%程度であることも、開示されている。
【0011】
このように、MZ干渉計の2つの分岐光導波路の間隔を大きくとることは、デバイスのサイズやコストの面で不利である。また、特許文献1に示される溝を形成する手法は、一定の改善は見込めるものの、防止の追加構造の加工など、デバイスの製造コストの面で不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−53444号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Mark Yu and Anand Gopinath, "Velocity Matched Resonant Slow-Wave Structure for Optical Modulator", Proceedings of Integrated Photonics Research (IPR), ITuH7-1, pp.365-369, Palm Springs, California, March 22, 1993
【非特許文献2】Roger Krahenbuhl and M. M. Howerton, "Investigations on Short-Path-Length High-Speed Optical Modulators in LiNbO3 With Resonant-Type Electrodes", JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY, VOL.19, No. 9, pp.1287-1297, SEPTEMBER 2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、低駆動電圧で安定動作することが可能な光制御素子を提供することであり、特に、2つの共振型電極を用いて、両電極間のクロストーク(結合)が発生しても安定動作が可能な光制御素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された複数の光導波路と、該基板に設けられ、該光導波路を伝搬する光の位相を制御するための制御電極とを有する光制御素子において、該制御電極は、同じ共振周波数を有する少なくとも2つの共振型電極と、該共振型電極の各々に制御信号を給電する給電電極とを備え、各共振型電極の形状及び形成位置、並びに各共振型電極への給電電極による給電位置は、互いに奇モード結合が可能なように設定され、各共振型電極には、該給電電極により同相の制御信号が給電されていることを特徴とする。
【0016】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の光制御素子において、該光導波路は、単一又は複数のマッハツェンダー干渉計を構成し、前記2つの共振型電極は、該マッハツェンダー干渉計を構成する2つの分岐導波路に対応して配置されていることを特徴とする。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の光制御素子において、前記2つの共振型電極の形状及び形成位置、並びに各共振型電極への給電電極による給電位置は、互いに点対称となるように設定されていることを特徴とする。
【0018】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の光制御素子において、該共振型電極は、1本の信号電極とそれを取り囲む接地電極から構成され、該信号電極の2つの端部は、該接地電極に対して、共に開放されているか、又は共に短絡されているか、あるいは一方が短絡され他方が開放されているかのいずれかであること特徴とする。
【0019】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の光制御素子において、該共振型電極は、1本の信号電極を有し、該信号電極の長さは、所定周波数を有する制御信号が該信号電極上に形成する波長より、長いことを特徴とする。
【0020】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の光制御素子において、該共振型電極は、1本の信号電極を有し、該信号電極への給電位置は、共振型電極のインピーダンスが50Ωとなる位置であることを特徴とする。
【0021】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の光制御素子において、該信号電極への給電位置は、該信号電極の中心に最も近い位置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に係る発明により、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された複数の光導波路と、該基板に設けられ、該光導波路を伝搬する光の位相を制御するための制御電極とを有する光制御素子において、該制御電極は、同じ共振周波数を有する少なくとも2つの共振型電極と、該共振型電極の各々に制御信号を給電する給電電極とを備え、各共振型電極の形状及び形成位置、並びに各共振型電極への給電電極による給電位置は、互いに奇モード結合が可能なように設定され、各共振型電極には、該給電電極により同相の制御信号が給電されているため、仮に共振型電極間にクロストーク(結合)が発生しても、他方の電極に結合した分と同じ分の電界エネルギーを同相で受け取るため、結合が無いときと同じように働き、安定した光変調動作が可能である。しかも、これは両電極間の結合の大小を問わず同じとなる。よって、低駆動電圧で安定動作することが可能な光制御素子を提供することが可能となる。
【0023】
請求項2に係る発明により、光導波路は、単一又は複数のマッハツェンダー干渉計を構成し、2つの共振型電極は、該マッハツェンダー干渉計を構成する2つの分岐導波路に対応して配置されているため、共振型電極を利用した二電極型の光変調器など、より低駆動電圧の光制御素子を提供することが可能となる。
【0024】
請求項3に係る発明により、2つの共振型電極の形状及び形成位置、並びに各共振型電極への給電電極による給電位置は、互いに点対称となるように設定されているため、共振型電極間のクロストーク(結合)が発生しても、常に同相状態で電界エネルギー授受するため、結合が無いときと同じように安定動作することが可能となる。
【0025】
請求項4に係る発明により、共振型電極は、1本の信号電極とそれを取り囲む接地電極から構成され、該信号電極の2つの端部は、該接地電極に対して、共に開放されているか、又は共に短絡されているか、あるいは一方が短絡され他方が開放されているかのいずれかであるため、同じ長さの信号電極を利用しても多様な波長の共振型電極を形成することが可能となる。しかも、信号電極の2つの端部を共に開放、又は共に短絡する場合には、各共振型電極の信号電極は、端部が揃って平行に配置される。このため、2つの共振型電極を並べて配置した際の全体の長さを最小限にすることができる。しかも、マッハツェンダー干渉計に利用する場合には、各分岐導波路に信号電極が電界を印加する作用部分の位置が、マッハツェンダー干渉計の光波の伝搬方向である光軸に対して線対称となるため、波長チャープをゼロとする光制御素子を実現することが可能となる。
【0026】
請求項5に係る発明により、共振型電極は、1本の信号電極を有し、信号電極の長さは、所定周波数を有する制御信号が該信号電極上に形成する波長より、長いため、より低電圧駆動が可能な光制御素子を提供することが可能となる。
【0027】
請求項6に係る発明により、共振型電極は、1本の信号電極を有し、該信号電極への給電位置は、共振型電極のインピーダンスが50Ωとなる位置であるため、信号電極への制御信号の入力に際して、インピーダンス不整合などによる反射も抑制し、低駆動電圧の光制御素子を提供することができる。
【0028】
請求項7に係る発明により、請求項6に記載の光制御素子において、該信号電極への給電位置は、該信号電極の中心に最も近い位置であるため、電極の製造誤差に基づく特性のばらつきを抑制し、さらには、各共振型電極が光導波路に及ぼす電界強度分布をほぼ同じとすることができるため、波長チャープを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】特許文献1に開示された、電界の強さと距離(光導波路の間隔)との関係を示すグラフである。
【図2】本発明の光制御素子に係る第1の実施例(信号電極の両端を接地電極から開放したもの)を説明する図である。
【図3】図2の光制御素子の電極の概観を示す図である。
【図4】図3の光制御素子の断面構造を示す図である。
【図5】本発明の光制御素子に係る第2の実施例(信号電極の両端を接地電極に短絡したもの)を説明する図である。
【図6】図2の光制御素子における信号電極の長さが半波長λ/2(λ:信号波長)の場合、給電位置とインピーダンスとの関係及び、特定タイミングにおける電界ベクトルの様子を説明する図である。
【図7】図6と同様の場合で、上側の共振型電極のみに制御信号を入力した際に、少し離れた下側の共振型電極にクロストーク現象が発生する様子を説明する図である。
【図8】図7と同様の場合で、上側の共振型電極と下側の共振型電極とが近接した場合に、クロストーク現象が発生する様子を説明する図である。
【図9】図6と同様の場合で、各共振型電極に制御信号を入力した際に、少し離れた他方の共振型電極にクロストーク現象が発生する様子を説明する図である。
【図10】図9と同様の場合で、上側の共振型電極と下側の共振型電極とが近接した場合に、クロストーク現象が発生する様子を説明する図である。
【図11】共振型電極の信号電極(信号電極の両端を接地電極から開放したもの)の長さが3λ/2(λ:信号波長)の場合、給電位置とインピーダンスとの関係及び、特定タイミングにおける電界ベクトルの様子を説明する図である。
【図12】図5の光制御素子における信号電極の長さがλ(λ:信号波長)の場合、給電位置とインピーダンスとの関係及び、特定タイミングにおける電界ベクトルの様子を説明する図である。
【図13】共振型電極の信号電極(接地電極に対し、信号電極の左端を短絡し、右端を開放したもの)の長さが3λ/4(λ:信号波長)の場合、給電位置とインピーダンスとの関係及び、特定タイミングにおける電界ベクトルの様子を説明する図である。
【図14】共振型電極の信号電極(接地電極に対し、信号電極の左端を開放し、右端を短絡したもの)の長さが3λ/4(λ:信号波長)の場合、給電位置とインピーダンスとの関係及び、特定タイミングにおける電界ベクトルの様子を説明する図である。
【図15】図13と図14の共振型電極を組み合わせた一例を説明する図である。
【図16】MZ干渉計の一部に共振型電極を偏在させた構成を説明する図である。
【図17】共振型電極の一部のみを光導波路に作用する作用部とする構成を説明する図である。
【図18】本発明の光制御素子に制御信号を入力する駆動回路を配置した様子を説明する図である。
【図19】本発明の光制御素子に制御信号を入力する駆動回路を配置した様子を説明する他の図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の光制御素子について、詳細に説明する。
本発明の光制御素子は、図2又は図5などに示すように、電気光学効果を有する基板1と、該基板に形成された複数の光導波路2と、該基板に設けられ、該光導波路を伝搬する光の位相を制御するための制御電極3とを有する光制御素子において、該制御電極は、同じ共振周波数を有する少なくとも共振型電極31,32と、該共振型電極の各々に制御信号を給電する給電電極41,42とを備え、各共振型電極の形状及び形成位置、並びに各共振型電極への給電電極による給電位置は、互いに奇モード結合が可能なように設定され、各共振型電極には、該給電電極により同相の制御信号が給電されていることを特徴とする。
【0031】
電気光学効果を有する基板1としては、例えば、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)、及び石英系の材料及びこれらの組み合わせが利用可能である。特に、電気光学効果の高いニオブ酸リチウム(LN)やタンタル酸リチウム(LT)結晶が好適に利用される。
【0032】
光導波路は、基板にリッジを形成する方法や基板の一部の屈折率を調整する方法、又は両者を組み合わせた方法で形成することが可能である。リッジ型導波路では、光導波路となる基板部分を残すように、その他の部分を機械的に切削したり、化学的にエッチングを施すことで除去する。また、光導波路の両側に溝を形成することも可能である。屈折率を調整する方法では、Tiなどを熱拡散法したり、プロトン交換法などを利用することで、光導波路に対応する基板表面の一部の屈折率を、基板自体の屈折率より高くなるよう構成する。
【0033】
信号電極や接地電極などの制御電極は、Ti・Auの電極パターンの形成及び金メッキ方法などにより形成することが可能である。また、各電極は、必要に応じて、基板との間にSiO2膜などのバッファ層を介して配置されている。バッファ層には、光導波路を伝搬する光波が、制御電極により吸収又は散乱されることを防止する効果を有している。また、バッファ層の構成としては、必要に応じ、薄板の焦電効果を緩和するため、Si膜などを組み込むことも可能である。
【0034】
本発明の光制御素子においては、制御電極に少なくとも2つの共振型電極を形成し、双方の共振型電極がクロストークしても、制御信号(変調信号)の変調効率に影響がない構成を採用している。このためには、以下の2つの要件が必要となる。
(1)双方の共振型電極は基本的に同じ形状であり、互いに奇(対称)モード結合する条件にあること。
(2)双方の共振型電極には、同相の信号が給電されること。
【0035】
共振型電極は、主として、1本の信号電極とそれを取り囲む接地電極から構成される。そして2つの共振型電極の組み合わせとしては、後述するように、信号電極の両端が共に接地電極から開放されている「両端開放−両端開放」か、又は信号電極の両端が共に接地電極に短絡されている「両端短絡−両端短絡」の組み合わせが好ましい形態の一つであるが、本発明の光制御素子はこれに限らず、「両端開放−両端短絡」、「両端開放−一方短絡他方開放」、又は「両端短絡−一方短絡他方開放」など種々の組み合わせが可能であることはいうまでもない。
【0036】
2つの共振型電極は基本的に同じ形状の電極であるため、共振周波数は同じであり、結合しやすい条件となっている。通常、この電極を、MZ干渉計の中心軸(光伝搬方向)に対して対称となるように配置すると、共振型電極を構成する1本の信号電極上の位置により、信号電極に供給された制御信号による電界と、他方の共振型電極が形成する電界とのクロストークにより発生する電界との状態(電界ベクトルの方向)が異なるため、制御信号は複雑に干渉して、共振型電極(特に、1本の信号電極)上の制御信号の正常な伝搬が妨げられる。
【0037】
一方、双方の共振型電極を、結合しても奇モード結合となる条件に配置し、それぞれに同相等しい大の信号を給電した場合には、他方に結合した分と同じ分の電界エネルギーを同相で受け取るため、結合が無いときと同じように働く。これは両電極間の結合の強弱を問わず、同じである。
【0038】
双方の共振型電極が結合しても奇モード結合となる条件になるよう配置するには、図2に示すように構成にする。つまり、各共振型電極は、同じ形状であり、MZ干渉計の作用部(各共振型電極が形成する電界が光導波路に作用する部分)から等距離の平面上に位置する任意の点を回転中心として、180°回転対称(点対称。図2の定点Oを参照)となる位置に配置してある。各共振型電極の1本の信号電極(31,32)の給電点(給電位置)には、同相で同じ大きさの制御信号が、給電電極41,42を用いて給電されている。
【0039】
図6は、図2の光制御素子における共振型電極(信号電極)の長さLが半波長λ/2(λ:信号波長)の場合、給電位置とインピーダンスとの関係及び、特定タイミングにおける電界ベクトル(矢印)の様子を説明する図である。図6の給電位置とインピーダンスとの関係を示すグラフからも明らかなように、信号電極(共振型電極)31,32の両端が接地電極33から開放されている場合で、当該信号電極の長さが、信号波長の半波長分である場合には、インピーダンスが50Ωとなる給電位置が2つ存在する。
【0040】
しかも、同相の制御信号を入力しても、この給電位置が異なる場合には、図6の上側の共振型電極と下側の共振型電極に示した電界ベクトルのように、特定タイミングにおける電界ベクトルは互いに逆向きとなる。
【0041】
図7及び図8は、上側の共振型電極のみに制御信号を給電した場合の電界ベクトルの形成状況を説明する図であり、下側の共振型電極に形成される電界ベクトルは、上側の共振型電極からのクロストーク(結合)によるものである。このように、クロストークでは、位相がπずれた信号(電界ベクトル)が励起される。励起される電界ベクトルの大きさも、2つの共振型電極の間隔が狭い場合(図8)の方がより大きくなる。
【0042】
ここで、図6のように制御信号を供給し、各共振型電極に発生する電界ベクトルと、図7又は8のように、一方の共振型電極が他方の共振型電極に励起する電界ベクトル(クロストーク)とを重ね合わせて見ると、図9又は図10に示すように、双方の共振型電極間にクロストーク(結合)が起こっても奇(対称)モードとなるため、それぞれの電極上の制御信号(給電による電界ベクトル)が乱されることはなく、所望の光変調を行うことができる。当然、クロストークの影響は、図10のように共振型電極間の間隔が狭い場合には顕著となるが、信号電極に給電されて発生する電界とクロストークにより励起される電界が同じ方向であるため、クロストークによる変調の乱れは発生しない。
【0043】
図11に示すように、信号電極(共振型電極)31,32の電極長が、制御信号の波長より長い共振型電極においては、特定のインピーダンス値を有し、かつ、同様の共振動作をする励振点(給電位置)が複数ある。したがって、給電位置については、同じ条件の共振を励振する点であれば、どの励振点を用いても良い。ただし、2つの共振型電極における個々の給電位置は互いに近い位置にある方が、光導波路の伝搬方向における各共振型電極が形成する電界の強度分布がほぼ同じとなるため、例えばMZ干渉計の場合には、波長チャープをゼロにすることが可能となり、より好ましい。
【0044】
図3に、本発明の光制御素子に用いられる実際の電極の構成を簡単に示す。二電極構造であるたため、基板としては、Zカット型のLN基板が最も適している。光導波路はMZ干渉計型の形状とする。従来技術では、制御信号の干渉の影響を小さくするため、信号電極間(ホット電極間)が400μm以上の間隔となるよう、分岐光導波路の間隔も大きくとる必要があったが、本発明の光制御素子ではその必要はない。むしろ、導波路間隔を狭くすることにより光制御素子自体を小型化できるため、従来の共振型変調ではクロストーク(結合)が顕著となる100μm以下でもよい。
【0045】
共振型電極の形状は、好ましくはコプレーナ(CPW)構造(信号電極を接地電極が挟む構成)とし、光導波路を伝搬する光信号の速度と電極を伝搬する制御信号の速度が、ほぼ等しくなるよう構成する。両者の伝搬速度がほぼ等しい場合(速度整合条件がほぼ満たされる場合)には、信号電極(共振型電極)の長さを制御信号の共振周波数の波長より長くすることができ、駆動電圧の低減に有利である。
【0046】
なお、共振型電極は、上述したCPW構造に限らず、CPS(信号電極の片側に接地電極を設ける構成)、G−CPW(基板の表面にCPWを形成すると共に、基板の裏面に接地電電極を設ける構成)など種々の構成が採用可能である。給電電極についも、共振型電極と同様に種々の構成が採用可能であるが、給電電極と共振型電極との電気的な接続を容易にするため、同じ種類の構成を採用することが好ましい。また、給電電極には、必要に応じて、給電電極の途中にコンデンサーや抵抗等を設け、フィルター回路などを併設することも可能である。
【0047】
本発明の光制御素子では、図4(図3の断面図)に示すように、さらなる駆動電圧の低減を目的として、制御信号が光導波路部に効果的に印加されるリッジ型光導波路としている。当然、光導波路は、リッジ形状に基板を形成するだけでなく、必要に応じて該リッジ部分にTiの熱拡散などを施し、屈折率を調整することを併用することも可能である。また、非コプレーナ(CPW)構造の電極であっても、非リッジ型導波路であっても、速度整合がほぼ満たされる構成であれば、どのような、電極タイプや光導波路であっても良い。
【0048】
図2又は3では、信号電極(共振型電極)31,32は、両端が接地電極から開放されているタイプを用いた。給電位置は、信号電極(共振型電極)の中心でなく、非対称な位置に設けられている。ここでは、信号電極(共振型電極)上でインピーダンスが50Ω(通常は50Ωが一般的であるが、必ずしもこのインピーダンス値に限定されない。)となる位置のうち、電極の中心に最も近い位置を給電点とし、駆動回路とはインピーダンス整合回路を用いずに直接制御信号を給電している。これは、電極の端の方に給電した場合に比べ、製造プロセスの再現性の問題で、電極の端の形状などがばらついた際の特性の変化が少ないからである。
【0049】
次に、図5は、本発明の光制御素子の第2の実施例を示している。図2の実施例との違いは、図2に示した実施例では、信号電極(共振型電極)の両端を接地電極から開放しているが、図5では、当該両端は接地電極に短絡されている。
【0050】
図5の実施例においても、図2と同様に、双方の共振型電極は、互いに同じ形状であり、MZ干渉計の中心を回転中心として、180°回転対称(点対称)となる位置に配置し、同相で同じ大きさの制御信号が給電されている。この条件では、それぞれの信号電極(共振型電極)31,32の位置での電界は、同じ大きさ逆符号の電界となっている。このため、図5のような電極配置条件や制御信号の給電の条件を満足すれば、仮に、双方の共振型電極間に結合が起こっても奇(対称)モードとなるため、それぞれの信号電極(共振型電極)上の制御信号が乱されることはない。
【0051】
図12は、図5の光制御素子における信号電極の長さLがλ(λ:信号波長)の場合、給電位置とインピーダンスとの関係及び、特定タイミングにおける電界ベクトルの様子を説明する図である。図12の給電位置とインピーダンスとの関係を示すグラフからも明らかなように、信号電極(共振型電極)31,32の両端が接地電極33に短絡されている場合で、当該信号電極の長さLが、信号波長の1波長分である場合には、インピーダンスが50Ωとなる給電位置が4つ存在する。
【0052】
しかも、同相の制御信号を入力しても、この給電位置が図12に示すような関係(点対称)となる場合には、図12の上側の共振型電極と下側の共振型電極に示した電界ベクトルのように、特定タイミングにおける電界ベクトルは互いに逆向きとなる。なお、給電位置として、互いに信号電極(共振型電極)の端部に近い給電位置を選択することも可能であるが、製造プロセスの再現性の問題で、電極の端の形状などがばらついた際の特性の変化が大きくなり、また、光の伝搬方向に対する2つの共振型電極が形成する各電界強度分布が異なり易く、波長チャープをゼロにする観点からも好ましくない。
【0053】
さらに、共振型電極を構成する信号電極には、接地電極に対して、一端を開放し、他端を短絡するものがある。図13及び図14は、に示すように、共振型電極の信号電極の長さLが3λ/4(λ:信号波長)の場合、給電位置とインピーダンスとの関係及び、特定タイミングにおける電界ベクトルの様子を説明する図であり、特に、図13は、接地電極に対し、信号電極の左端を短絡し、右端を開放したものを示し、図14は、接地電極に対し、信号電極の左端を開放し、右端を短絡したものを示している。
【0054】
図13及び図14のように、このような形状の共振型電極であっても、インピーダンスが50Ωとなる給電位置が3つ存在する。しかも、この給電位置によって、共振型電極に発生する特定タイミングにおける電界ベクトルは、異なる向きのものを選択することが可能である。
【0055】
しかしながら、図13に例示した各共振型電極の一つと、図14に例示した各共振型電極の一つとを点対称に組み合わせても、互いに奇モード結合する関係に配置にするためには、図15に示すように、両者をずらして配置することが必要であり、光制御素子自体が大きくなると共に、光波の伝搬方向に対して異なる位置で光変調が行われるため、波長チャープをゼロにすることが難しい。
【0056】
なお、共振型電極の配置を点対称に拘らない場合には、例えば、図13の符号1と5のケースを組み合わせることで、奇モード結合を行うことは可能である。
【0057】
以上では、直線状の信号電極(共振型電極)を中心に説明したが、これに制限されることはなく、分岐導波路が湾曲、屈曲している場合には、導波路に応じて、共振電極を湾曲、屈曲させれば良い。また、分岐光導波路にかかる作用効率が同じであり、互いに奇モード結合される位置に配置される要件を満たせば、それぞれの信号電極(共振電極)は、直線型に限らず、リング型であっても差し支えない。
【0058】
また、MZ干渉計を構成する光導波路に対する共振型電極の位置は、上述したように、MZ干渉計の中心に一致するように、2つの共振型電極を配置するもの限定されず、例えば、図16に示すように、MZ干渉計の分岐導波路の一部に共振型電極31,32が偏在するように構成したり、また、図17に示すように、共振型電極の一部のみを分岐導波路と重なるように配置し、共振型電極が光導波路に作用する作用部(範囲S)と非作用部とから構成されるよう配置することも可能である。なお、図17のような場合には、非作用部の共振型電極の形状や配置は、上述した共振型電極全体が作用部となるものと比較し、設計の自由度が増加する。
【0059】
本発明の光制御素子を駆動するには、各共振型電極に同位相で同じ周波数の制御信号を印加する。図18に示すように、2系統の駆動回路を利用し、各共振型電極31,32の給電電極41,42に、制御信号(矢印)を入力する。駆動回路の例としては、信号源からの所定周波数の信号をドライバ1(ドライバ2)に入れ、所定の信号電圧に増幅した後、ノイズを除去する帯域フィルタ1(帯域フィルタ2)を介して、光制御素子の給電電極41,42に入力する。また、図19に示すように、一つの駆動回路を用いて、2つに制御信号を分け、各共振型電極31,32に供給することも可能である。ただし、この場合には、給電する制御信号の位相を調整するため、位相調整器を少なくとも一方の給電線路に介在させることが望ましい。当然、給電線の長さを予め同相となるよう調整することも可能であり、その場合には、位相調整器を省略することも可能となる。
【0060】
本発明の光制御素子は、光導波路にMZ干渉計を採用する場合には、各分岐光導波路における光の位相変化量は、同じ大きさの逆符号となり、MZ干渉計の光出力部では波長チャープのないON・OFFパルス光信号が生成される。この波長チャープのないON・OFFパルス光信号は、光クロックとしてもっとも望ましい特性である。
【0061】
さらに、本発明の光制御素子では、従来は同時併用が不可能であった、共振型長尺電極の採用と二電極配置構造との併用が可能になったばかりでなく、クロストーク(結合)を利用し、変調効率の劇的改善と電極間のギャップの縮小による小型化などの効果も併せて得られる。
【0062】
本発明の光制御素子をパルサーに適用した場合には、以下のような効果も期待できる。
・高速、超低電圧、小型パルサー実現
・消費電力の画期的削減
・低コストな駆動系の使用による、ユーザーのコスト削減
・デバイスのサイズダウン、集積度の改善
・サイズダウンによるデバイス取れ数増加によるコストダウン
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上説明したように、本発明によれば、低駆動電圧で安定動作することが可能な光制御素子を提供することであり、特に、2つの共振型電極を用いて、両電極間のクロストーク(結合)が発生しても安定動作が可能な光制御素子を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0064】
1 電気光学効果を有する基板
2 光導波路
21,22 分岐導波路
3 制御電極
31,32 信号電極(共振型電極)
33 接地電極
41,42 給電電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された複数の光導波路と、該基板に設けられ、該光導波路を伝搬する光の位相を制御するための制御電極とを有する光制御素子において、
該制御電極は、同じ共振周波数を有する少なくとも2つの共振型電極と、該共振型電極の各々に制御信号を給電する給電電極とを備え、
各共振型電極の形状及び形成位置、並びに各共振型電極への給電電極による給電位置は、互いに奇モード結合が可能なように設定され、
各共振型電極には、該給電電極により同相の制御信号が給電されていることを特徴とする光制御素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光制御素子において、該光導波路は、単一又は複数のマッハツェンダー干渉計を構成し、前記2つの共振型電極は、該マッハツェンダー干渉計を構成する2つの分岐導波路に対応して配置されていることを特徴とする光制御素子。
【請求項3】
請求項2に記載の光制御素子において、前記2つの共振型電極の形状及び形成位置、並びに各共振型電極への給電電極による給電位置は、互いに点対称となるように設定されていることを特徴とする光制御素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光制御素子において、該共振型電極は、1本の信号電極とそれを取り囲む接地電極から構成され、該信号電極の2つの端部は、該接地電極に対して、共に開放されているか、又は共に短絡されているか、あるいは一方が短絡され他方が開放されているかのいずれかであること特徴とする光制御素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の光制御素子において、該共振型電極は、1本の信号電極を有し、該信号電極の長さは、所定周波数を有する制御信号が該信号電極上に形成する波長より、長いことを特徴とする光制御素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光制御素子において、該共振型電極は、1本の信号電極を有し、該信号電極への給電位置は、共振型電極のインピーダンスが50Ωとなる位置であることを特徴とする光制御素子。
【請求項7】
請求項6に記載の光制御素子において、該信号電極への給電位置は、該信号電極の中心に最も近い位置であることを特徴とする光制御素子。
【請求項1】
電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された複数の光導波路と、該基板に設けられ、該光導波路を伝搬する光の位相を制御するための制御電極とを有する光制御素子において、
該制御電極は、同じ共振周波数を有する少なくとも2つの共振型電極と、該共振型電極の各々に制御信号を給電する給電電極とを備え、
各共振型電極の形状及び形成位置、並びに各共振型電極への給電電極による給電位置は、互いに奇モード結合が可能なように設定され、
各共振型電極には、該給電電極により同相の制御信号が給電されていることを特徴とする光制御素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光制御素子において、該光導波路は、単一又は複数のマッハツェンダー干渉計を構成し、前記2つの共振型電極は、該マッハツェンダー干渉計を構成する2つの分岐導波路に対応して配置されていることを特徴とする光制御素子。
【請求項3】
請求項2に記載の光制御素子において、前記2つの共振型電極の形状及び形成位置、並びに各共振型電極への給電電極による給電位置は、互いに点対称となるように設定されていることを特徴とする光制御素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光制御素子において、該共振型電極は、1本の信号電極とそれを取り囲む接地電極から構成され、該信号電極の2つの端部は、該接地電極に対して、共に開放されているか、又は共に短絡されているか、あるいは一方が短絡され他方が開放されているかのいずれかであること特徴とする光制御素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の光制御素子において、該共振型電極は、1本の信号電極を有し、該信号電極の長さは、所定周波数を有する制御信号が該信号電極上に形成する波長より、長いことを特徴とする光制御素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光制御素子において、該共振型電極は、1本の信号電極を有し、該信号電極への給電位置は、共振型電極のインピーダンスが50Ωとなる位置であることを特徴とする光制御素子。
【請求項7】
請求項6に記載の光制御素子において、該信号電極への給電位置は、該信号電極の中心に最も近い位置であることを特徴とする光制御素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2011−252941(P2011−252941A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124589(P2010−124589)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】
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