光変調器
【課題】RF駆動電圧とともにDCバイアス電圧が小さい光変調器を提供する。
【解決手段】基板と、基板に形成された光導波路と、高周波電気信号が伝搬する高周波電気信号用の中心電極及び接地電極を有する進行波電極と、バイアス電圧を印加するバイアス電極とを有し、光導波路には高周波電気信号用相互作用部とバイアス用相互作用部とを具備し、高周波電気信号用相互作用部とDCバイアス用相互作用部の両方において光導波路に沿って基板の一部を掘り下げて形成された凹部によりリッジ部をなす光変調器において、高周波電気信号用相互作用部におけるリッジ部の高さとDCバイアス用相互作用部におけるリッジ部の高さとが異ならしめて形成され、DCバイアス用相互作用部におけるリッジ部の高さが、高周波電気信号用相互作用部におけるリッジ部の高さよりも低く成る。
【解決手段】基板と、基板に形成された光導波路と、高周波電気信号が伝搬する高周波電気信号用の中心電極及び接地電極を有する進行波電極と、バイアス電圧を印加するバイアス電極とを有し、光導波路には高周波電気信号用相互作用部とバイアス用相互作用部とを具備し、高周波電気信号用相互作用部とDCバイアス用相互作用部の両方において光導波路に沿って基板の一部を掘り下げて形成された凹部によりリッジ部をなす光変調器において、高周波電気信号用相互作用部におけるリッジ部の高さとDCバイアス用相互作用部におけるリッジ部の高さとが異ならしめて形成され、DCバイアス用相互作用部におけるリッジ部の高さが、高周波電気信号用相互作用部におけるリッジ部の高さよりも低く成る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学効果を利用して、光導波路に入射した光を高周波電気信号で変調して光信号パルスとして出射し、RF駆動電圧とともにDCバイアス電圧が小さい光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速、大容量の光通信システムが実用化されている。このような高速、大容量の光通信システムに組込むための高速、小型、低価格、かつ高安定な光変調器の開発が求められている。
【0003】
このような要望に応える光変調器として、リチウムナイオベート(LiNbO3)のように電界を印加することにより屈折率が変化する、いわゆる電気光学効果を有する基板(以下、LN基板と略す)に光導波路と進行波電極を形成した進行波電極型リチウムナイオベート光変調器(以下、LN光変調器と略す)がある。このLN光変調器は、その優れたチャーピング特性から2.5Gbit/s、10Gbit/sの大容量光通信システムに適用されている。最近はさらに40Gbit/sの超大容量光通信システムにも適用が検討されている。
【0004】
以下、従来、実用化され、又は提唱されてきたリチウムナイオベートの電気光学効果を利用したLN光変調器について説明する。
【0005】
(第1の従来技術)
特許文献1に開示された、z−カットLN基板を用いて構成した、いわゆるリッジ型LN光変調器を第1の従来技術の光変調器として図6にその概略斜視図を示す。ここで、図7は図6の概略上面図であり、図8は図6と図7のA−A´線における概略断面図である。
【0006】
z−カットLN基板1上に光導波路3が形成されている。この光導波路3は、金属Tiを1050℃で約10時間熱拡散して形成した光導波路であり、マッハツェンダ干渉系(あるいは、マッハツェンダ光導波路)を構成している。したがって、光導波路3の電気信号と光が相互作用する部位(相互作用部と言う)には2本の相互作用光導波路3a、3b、つまりマッハツェンダ光導波路の2本のアームが形成されている。
【0007】
この光導波路3の上面にSiO2バッファ層2が形成され、このSiO2バッファ層2の上面に進行波電極4が形成されている。進行波電極4としては、1つの中心導体4aと2つの接地導体4b、4cを有するコプレーナウェーブガイド(CPW)を用いている。なお、通常、進行波電極4は貴金属材料であるAuにより形成されている。5はz−カットLN基板1を用いて製作したLN光変調器に特有の焦電効果に起因する温度ドリフトを抑圧するための導電層であり、通常はSi導電層を用いるが、ここでは図の簡単化のために省略する。中心導体4aの幅は各種の値をとるが、多くの場合7μm程度であり、中心導体4aと接地導体4b、4cの間のギャップも各種の値をとるが、15μm程度であることが多い。なお、説明を簡単にするために、図6では図示した温度ドリフト抑圧のためのSi導電層5を図7や図8においては省略している。また、以下においてもSi導電層5は省略して議論する。6は高周波電気信号(あるいは、マイクロ波)の給電線であり、高周波コネクタやマイクロ波線路である。7は高周波電気信号の出力線路であり、通常電気的終端が使われるが、高周波コネクタやマイクロ波線路でも良い。
【0008】
また、図7のIとして示された領域では中心導体4aと接地導体4b、4cとを伝搬する高周波電気信号と2本の相互作用光導波路3a、3bを伝搬する光とが相互作用するので高周波電気信号用相互作用部(あるいは簡単に相互作用部)と呼ばれる。
【0009】
この第1の従来技術では、z−カットLN基板1をエッチングなどで掘り込むことにより、凹部9a、9b、及び9c(あるいは、リッジ部8a、8bとも言える)を形成している。ここで、12はリッジ部(ここでは8a)の側壁である。
【0010】
このリッジ構造を採ることにより、高周波電気信号(あるいは、マイクロ波)の実効屈折率(あるいは、マイクロ波実効屈折率)、特性インピーダンス、変調帯域、駆動電圧などにおいて優れた特性を実現することができる。なお、図8では凹部9a、9b、及び9cの深さ(あるいはリッジ部8a、8bの高さ)を強調して描いているが、実際には数μm程度の深さであり、中心導体4aや接地導体4b、4cの厚みである数十μmに比較すると、その値は小さい。
【0011】
次に、この第1の従来技術であるLN光変調器の動作について説明する。このLN光変調器を動作させるには、中心導体4aと接地導体4b、4c間にDCバイアス電圧と高周波電気信号とを印加する必要がある。
【0012】
図9に示す電圧−光出力特性はLN光変調器の電圧−光出力特性であり、Vbはその際のDCバイアス電圧である。この図9に示すように、通常、DCバイアス電圧Vbは光出力特性の山と底の中点に設定される。この第1の従来技術では、高周波電気信号と光とが相互作用する相互作用部IにDCバイアス電圧も印加するので、高周波電気信号の出力部に設ける不図示の電気的終端にコンデンサーを具備させることによりバイアスTの機能を持たせる必要があり、構造が複雑となってしまう。
【0013】
(第2の従来技術)
図10は第2の従来技術の上面図であって、第1の従来技術において必要であったバイアスTを無くすために、不図示の電気的終端を抵抗のみとし、DCバイアスを新たに設けたDCバイアス部IIに印加する構造とした、いわゆるバイアス分離構造の光変調器である。この構造では、高周波電気信号が相互作用光導波路3a、3bと相互作用する高周波電気信号用相互作用部Iと、DCバイアス電圧が相互作用光導波路3a、3bに印加されるDCバイアス用相互作用部IIを具備しており、バイアス分離型構造と呼ばれる。その一例が特許文献2に開示されている。
【0014】
図10のB−B´線とC−C´線における断面図を、各々図11(a)と(b)に示す。ここで、4a´は中心導体、4b´と4c´は接地導体である。9a´、9b´、及び9c´はDCバイアス用相互作用部の凹部であり、リッジ部8a´、8b´を形成している。11aと11bはDCバイアス電極である。
【0015】
ここで、図10と図11に示した第2の従来技術の問題点について考察する。これまで、高周波電気信号用相互作用部Iのリッジ部8a、8bとDCバイアス用相互作用部IIのリッジ部8a´、8b´はドライエッチングにより同時に形成されて来た。そのため、高周波電気信号用相互作用部Iのリッジ部8a、8bの高さHiとDCバイアス用相互作用部IIのリッジ部8a´、8b´の高さHB´は同じ高さ、
Hi = HB´ (1)
である。つまり、一般的には、高周波電気信号用相互作用部のリッジ部の高さHiとDCバイアス用相互作用部のリッジ部の高さHB´とを同じ高さに設定することが、高周波電気信号の電圧(つまり、RF駆動電圧、あるいはRFVπ)とDCバイアス電圧(あるいはDCVπ)の面から最も好適であると考えられていた。
【0016】
ところが、本出願人は詳細なシミュレーションの結果、一般に高周波電気信号用相互作用部Iに要求される最適リッジ部の高さHi,optとDCバイアス用相互作用部IIに要求される最適リッジ部の高さHB,optとは異なっていることを見出した。従って、高周波電気信号用相互作用部Iのリッジ部8a、8bの高さHiとDCバイアス用相互作用部IIのリッジ部8a´、8b´の高さHBとを同じ高さに設定する第2の従来技術では、RFVπとDCVπとを同時に低減することはできないことがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平4−288518号公報
【特許文献2】特開2008−122786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
以上のように、従来技術では高周波電気信号用相互作用部のリッジ部の高さとDCバイアス用相互作用部のリッジ部の高さとを同じに設定していたので、高周波電気信号の電圧とDCバイアス電圧とを同時に充分に低減することはできなかった。
【0019】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、高周波電気信号の電圧とDCバイアス電圧とを同時に充分に低減した光変調器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の光変調器は、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光を導波するための少なくとも2本の光導波路と、前記基板の一方の面側に形成され、前記光を変調する高周波電気信号が伝搬する高周波電気信号用の中心電極及び接地電極を有する進行波電極と、前記光にバイアス電圧を印加するバイアス電極とを有し、前記光導波路には前記進行波電極に前記高周波電気信号が印加されることにより前記光の位相を変調するための高周波電気信号用相互作用部と、前記バイアス電極にバイアス電圧を印加することにより前記光の位相を調整するためのバイアス用相互作用部とを具備し、前記高周波電気信号用相互作用部と前記DCバイアス用相互作用部の両方において前記光導波路に沿って前記基板の一部を掘り下げて形成された凹部によりリッジ部をなす光変調器において、前記高周波電気信号用相互作用部における前記リッジ部の高さと前記DCバイアス用相互作用部における前記リッジ部の高さとが異ならしめて形成され、前記DCバイアス用相互作用部における前記リッジ部の高さが、前記高周波電気信号用相互作用部における前記リッジ部の高さよりも低く成ることを特徴としている。
【0021】
上記課題を解決するために、本発明の請求項2に記載の光変調器は、請求項1に記載の光変調器において、前記DCバイアス用相互作用部における前記2本の光導波路の間隔が、前記高周波電気信号用相互作用部における前記2本の光導波路の間隔よりも狭く形成されていることを特徴としている。
【0022】
上記課題を解決するために、本発明の請求項3に記載の光変調器は、請求項1または2に記載の光変調器において、前記高周波電気信号用相互作用部の前記リッジの高さが、前記高周波電気信号の電圧値が略最小となるような所定高さで形成され、前記DCバイアス用相互作用部の前記リッジの高さが、前記バイアス電圧値が略最小となるような所定高さで形成されていることを特徴としている。
【0023】
上記課題を解決するために、本発明の請求項4に記載の光変調器は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光変調器において、前記基板がz−カットLN基板であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る光変調器では、高周波電気信号用相互作用部のリッジ部の高さとDCバイアス用相互作用部のリッジ部の高さとを異ならしめることにより、高周波電気信号の電圧(RFVπ)を充分低くした場合においても、同時にDCバイアス電圧(DCVπ)を充分に低減することが可能となるという優れた利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す上面図
【図2】(a)図1のB−B´線における断面図、(b)図1のD−D´線における断面図
【図3】本発明の原理を説明する図
【図4】本発明の第2の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す上面図
【図5】(a)図4のB−B´における断面図、(b)図4のE−E´における断面図
【図6】第1の従来技術の光変調器についての概略構成を示す斜視図
【図7】第1の従来技術の光変調器についての概略構成を示す上面図
【図8】図7のA−A´線における断面図
【図9】光変調器の動作原理を説明する図
【図10】第2の従来技術の光変調器についての概略構成を示す上面図
【図11】(a)図10のB−B´線における断面図、(b)図10のC−C´線における断面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について説明するが、図6から図11に示した従来技術と同一の符号は同一機能部に対応しているため、ここでは同一の符号を持つ機能部の説明を省略する。
【0027】
(第1の実施形態)
図1は本発明における第1の実施形態の上面図である。図1のB−B´線とD−D´線における断面図を各々図2(a)と(b)に示す。第2の従来技術と同様に、高周波電気信号用相互作用部IとDCバイアス用相互作用部IIIとを備えるバイアス分離型の光変調器である。
【0028】
高周波電気信号用相互作用部Iに対応する図2(a)からわかるように、第1の従来技術や第2の従来技術と同様に、中心導体4a´と接地導体4b´、4c´とからなる進行波電極を伝搬する高周波電気信号の実効屈折率が高周波電気信号用相互作用光導波路3bを伝搬する光の等価屈折率に近くなるように、リッジ部8a、8bの高さHiは従来技術と同じく高く設定されている。
【0029】
一方、図2(b)からわかるように、DCバイアス用相互作用部IIIにおけるリッジ部8a´、8b´の高さHBは高周波電気信号用相互作用部Iのリッジ部8a、8bの高さHiよりも低く設定されている。つまり、
Hi > HB (2)
としている。
【0030】
次に、本発明の原理について説明する。図3には、図2におけるリッジ部8a´、8b´の高さHBを変数とした際のDCVπを左縦軸に、またリッジ部8a、8bの高さHiを変数とした際のRFVπを右縦軸にとったグラフを示す。図に示すように、DCVπが最小となるリッジ部8a´、8b´の高さHB,optとRFVπが最小となるリッジ部8a、8bの高さHi,optとは値が異なり、(2)式が成り立っていることがわかる。
【0031】
(第2の実施形態)
図4は本発明における第2の実施形態の概略上面図である。第1の実施形態とは、DCバイアス用相互作用部の構成が異なっている。図4のB−B´線とE−E´線における断面図を各々図5(a)と(b)に示す。
【0032】
図5に示すように、本実施形態ではE−E´線における断面においてDCバイアス用相互作用部IVにおける光導波路間3a、3bのギャップが、高周波電気信号相互作用部Iにおける光導波路間3a、3bのギャップよりも狭くなっている。このように光導波路間3a、3bのギャップを狭く構成すると、DCVπが最小となるリッジ部8a´、8b´の高さHB,optの値はより小さくなる。光導波路間3a、3bのギャップが狭くなるとDCVπが低くなるとともに、HB,optの値が小さいので製作にかかる時間も短くなり、さらにリッジ部8a´や8b´の側壁12に起因する光の挿入損失を低減できるという利点が生じる。
【0033】
(各実施形態)
以上の説明では、分岐光導波路の例としてマッハツェンダ光導波路を用いたが、方向性結合器などその他の分岐合波型の光導波路にも本発明を適用可能であることは言うまでもない。また光導波路の形成法としてはTi熱拡散法の他に、プロトン交換法など光導波路の各種形成法を適用できるし、バッファ層としてAl2O3等のSiO2以外の各種材料も適用できる。
【0034】
また、本発明はDCバイアス用相互作用部の電極構造に依存せず、CPW構造や非対称コプレーナストリップ(ACPS)構造、あるいは対称コプレーナストリップ(CPS)構造など、各種の電極構造について成り立つことはいうまでもない。
【0035】
また、図1〜5においては、高周波電気信号用相互作用部におけるリッジ部のギャップとDCバイアス用相互作用部におけるリッジ部のギャップとを等しく図示しているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0036】
1:z−カットLN基板(LN基板)
2:SiO2バッファ層(バッファ層)
3:マッハツェンダ光導波路(光導波路)
3a、3b:マッハツェンダ光導波路を構成する相互作用光導波路
4:進行波電極
4a、4a´:中心導体
4b、4b´、4c、4c´:接地導体
6:高周波電気信号給電線
7:高周波電気信号出力線
8a、8a´、8b、8b´:リッジ部
9a、9a´、9b、9b´、9c、9c´:凹部
11a、11b:DCバイアス電極
12:リッジ部の側壁
I:高周波電気信号用相互作用部
II、III、IV:DCバイアス用相互作用部
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学効果を利用して、光導波路に入射した光を高周波電気信号で変調して光信号パルスとして出射し、RF駆動電圧とともにDCバイアス電圧が小さい光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速、大容量の光通信システムが実用化されている。このような高速、大容量の光通信システムに組込むための高速、小型、低価格、かつ高安定な光変調器の開発が求められている。
【0003】
このような要望に応える光変調器として、リチウムナイオベート(LiNbO3)のように電界を印加することにより屈折率が変化する、いわゆる電気光学効果を有する基板(以下、LN基板と略す)に光導波路と進行波電極を形成した進行波電極型リチウムナイオベート光変調器(以下、LN光変調器と略す)がある。このLN光変調器は、その優れたチャーピング特性から2.5Gbit/s、10Gbit/sの大容量光通信システムに適用されている。最近はさらに40Gbit/sの超大容量光通信システムにも適用が検討されている。
【0004】
以下、従来、実用化され、又は提唱されてきたリチウムナイオベートの電気光学効果を利用したLN光変調器について説明する。
【0005】
(第1の従来技術)
特許文献1に開示された、z−カットLN基板を用いて構成した、いわゆるリッジ型LN光変調器を第1の従来技術の光変調器として図6にその概略斜視図を示す。ここで、図7は図6の概略上面図であり、図8は図6と図7のA−A´線における概略断面図である。
【0006】
z−カットLN基板1上に光導波路3が形成されている。この光導波路3は、金属Tiを1050℃で約10時間熱拡散して形成した光導波路であり、マッハツェンダ干渉系(あるいは、マッハツェンダ光導波路)を構成している。したがって、光導波路3の電気信号と光が相互作用する部位(相互作用部と言う)には2本の相互作用光導波路3a、3b、つまりマッハツェンダ光導波路の2本のアームが形成されている。
【0007】
この光導波路3の上面にSiO2バッファ層2が形成され、このSiO2バッファ層2の上面に進行波電極4が形成されている。進行波電極4としては、1つの中心導体4aと2つの接地導体4b、4cを有するコプレーナウェーブガイド(CPW)を用いている。なお、通常、進行波電極4は貴金属材料であるAuにより形成されている。5はz−カットLN基板1を用いて製作したLN光変調器に特有の焦電効果に起因する温度ドリフトを抑圧するための導電層であり、通常はSi導電層を用いるが、ここでは図の簡単化のために省略する。中心導体4aの幅は各種の値をとるが、多くの場合7μm程度であり、中心導体4aと接地導体4b、4cの間のギャップも各種の値をとるが、15μm程度であることが多い。なお、説明を簡単にするために、図6では図示した温度ドリフト抑圧のためのSi導電層5を図7や図8においては省略している。また、以下においてもSi導電層5は省略して議論する。6は高周波電気信号(あるいは、マイクロ波)の給電線であり、高周波コネクタやマイクロ波線路である。7は高周波電気信号の出力線路であり、通常電気的終端が使われるが、高周波コネクタやマイクロ波線路でも良い。
【0008】
また、図7のIとして示された領域では中心導体4aと接地導体4b、4cとを伝搬する高周波電気信号と2本の相互作用光導波路3a、3bを伝搬する光とが相互作用するので高周波電気信号用相互作用部(あるいは簡単に相互作用部)と呼ばれる。
【0009】
この第1の従来技術では、z−カットLN基板1をエッチングなどで掘り込むことにより、凹部9a、9b、及び9c(あるいは、リッジ部8a、8bとも言える)を形成している。ここで、12はリッジ部(ここでは8a)の側壁である。
【0010】
このリッジ構造を採ることにより、高周波電気信号(あるいは、マイクロ波)の実効屈折率(あるいは、マイクロ波実効屈折率)、特性インピーダンス、変調帯域、駆動電圧などにおいて優れた特性を実現することができる。なお、図8では凹部9a、9b、及び9cの深さ(あるいはリッジ部8a、8bの高さ)を強調して描いているが、実際には数μm程度の深さであり、中心導体4aや接地導体4b、4cの厚みである数十μmに比較すると、その値は小さい。
【0011】
次に、この第1の従来技術であるLN光変調器の動作について説明する。このLN光変調器を動作させるには、中心導体4aと接地導体4b、4c間にDCバイアス電圧と高周波電気信号とを印加する必要がある。
【0012】
図9に示す電圧−光出力特性はLN光変調器の電圧−光出力特性であり、Vbはその際のDCバイアス電圧である。この図9に示すように、通常、DCバイアス電圧Vbは光出力特性の山と底の中点に設定される。この第1の従来技術では、高周波電気信号と光とが相互作用する相互作用部IにDCバイアス電圧も印加するので、高周波電気信号の出力部に設ける不図示の電気的終端にコンデンサーを具備させることによりバイアスTの機能を持たせる必要があり、構造が複雑となってしまう。
【0013】
(第2の従来技術)
図10は第2の従来技術の上面図であって、第1の従来技術において必要であったバイアスTを無くすために、不図示の電気的終端を抵抗のみとし、DCバイアスを新たに設けたDCバイアス部IIに印加する構造とした、いわゆるバイアス分離構造の光変調器である。この構造では、高周波電気信号が相互作用光導波路3a、3bと相互作用する高周波電気信号用相互作用部Iと、DCバイアス電圧が相互作用光導波路3a、3bに印加されるDCバイアス用相互作用部IIを具備しており、バイアス分離型構造と呼ばれる。その一例が特許文献2に開示されている。
【0014】
図10のB−B´線とC−C´線における断面図を、各々図11(a)と(b)に示す。ここで、4a´は中心導体、4b´と4c´は接地導体である。9a´、9b´、及び9c´はDCバイアス用相互作用部の凹部であり、リッジ部8a´、8b´を形成している。11aと11bはDCバイアス電極である。
【0015】
ここで、図10と図11に示した第2の従来技術の問題点について考察する。これまで、高周波電気信号用相互作用部Iのリッジ部8a、8bとDCバイアス用相互作用部IIのリッジ部8a´、8b´はドライエッチングにより同時に形成されて来た。そのため、高周波電気信号用相互作用部Iのリッジ部8a、8bの高さHiとDCバイアス用相互作用部IIのリッジ部8a´、8b´の高さHB´は同じ高さ、
Hi = HB´ (1)
である。つまり、一般的には、高周波電気信号用相互作用部のリッジ部の高さHiとDCバイアス用相互作用部のリッジ部の高さHB´とを同じ高さに設定することが、高周波電気信号の電圧(つまり、RF駆動電圧、あるいはRFVπ)とDCバイアス電圧(あるいはDCVπ)の面から最も好適であると考えられていた。
【0016】
ところが、本出願人は詳細なシミュレーションの結果、一般に高周波電気信号用相互作用部Iに要求される最適リッジ部の高さHi,optとDCバイアス用相互作用部IIに要求される最適リッジ部の高さHB,optとは異なっていることを見出した。従って、高周波電気信号用相互作用部Iのリッジ部8a、8bの高さHiとDCバイアス用相互作用部IIのリッジ部8a´、8b´の高さHBとを同じ高さに設定する第2の従来技術では、RFVπとDCVπとを同時に低減することはできないことがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平4−288518号公報
【特許文献2】特開2008−122786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
以上のように、従来技術では高周波電気信号用相互作用部のリッジ部の高さとDCバイアス用相互作用部のリッジ部の高さとを同じに設定していたので、高周波電気信号の電圧とDCバイアス電圧とを同時に充分に低減することはできなかった。
【0019】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、高周波電気信号の電圧とDCバイアス電圧とを同時に充分に低減した光変調器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の光変調器は、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光を導波するための少なくとも2本の光導波路と、前記基板の一方の面側に形成され、前記光を変調する高周波電気信号が伝搬する高周波電気信号用の中心電極及び接地電極を有する進行波電極と、前記光にバイアス電圧を印加するバイアス電極とを有し、前記光導波路には前記進行波電極に前記高周波電気信号が印加されることにより前記光の位相を変調するための高周波電気信号用相互作用部と、前記バイアス電極にバイアス電圧を印加することにより前記光の位相を調整するためのバイアス用相互作用部とを具備し、前記高周波電気信号用相互作用部と前記DCバイアス用相互作用部の両方において前記光導波路に沿って前記基板の一部を掘り下げて形成された凹部によりリッジ部をなす光変調器において、前記高周波電気信号用相互作用部における前記リッジ部の高さと前記DCバイアス用相互作用部における前記リッジ部の高さとが異ならしめて形成され、前記DCバイアス用相互作用部における前記リッジ部の高さが、前記高周波電気信号用相互作用部における前記リッジ部の高さよりも低く成ることを特徴としている。
【0021】
上記課題を解決するために、本発明の請求項2に記載の光変調器は、請求項1に記載の光変調器において、前記DCバイアス用相互作用部における前記2本の光導波路の間隔が、前記高周波電気信号用相互作用部における前記2本の光導波路の間隔よりも狭く形成されていることを特徴としている。
【0022】
上記課題を解決するために、本発明の請求項3に記載の光変調器は、請求項1または2に記載の光変調器において、前記高周波電気信号用相互作用部の前記リッジの高さが、前記高周波電気信号の電圧値が略最小となるような所定高さで形成され、前記DCバイアス用相互作用部の前記リッジの高さが、前記バイアス電圧値が略最小となるような所定高さで形成されていることを特徴としている。
【0023】
上記課題を解決するために、本発明の請求項4に記載の光変調器は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光変調器において、前記基板がz−カットLN基板であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る光変調器では、高周波電気信号用相互作用部のリッジ部の高さとDCバイアス用相互作用部のリッジ部の高さとを異ならしめることにより、高周波電気信号の電圧(RFVπ)を充分低くした場合においても、同時にDCバイアス電圧(DCVπ)を充分に低減することが可能となるという優れた利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す上面図
【図2】(a)図1のB−B´線における断面図、(b)図1のD−D´線における断面図
【図3】本発明の原理を説明する図
【図4】本発明の第2の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す上面図
【図5】(a)図4のB−B´における断面図、(b)図4のE−E´における断面図
【図6】第1の従来技術の光変調器についての概略構成を示す斜視図
【図7】第1の従来技術の光変調器についての概略構成を示す上面図
【図8】図7のA−A´線における断面図
【図9】光変調器の動作原理を説明する図
【図10】第2の従来技術の光変調器についての概略構成を示す上面図
【図11】(a)図10のB−B´線における断面図、(b)図10のC−C´線における断面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について説明するが、図6から図11に示した従来技術と同一の符号は同一機能部に対応しているため、ここでは同一の符号を持つ機能部の説明を省略する。
【0027】
(第1の実施形態)
図1は本発明における第1の実施形態の上面図である。図1のB−B´線とD−D´線における断面図を各々図2(a)と(b)に示す。第2の従来技術と同様に、高周波電気信号用相互作用部IとDCバイアス用相互作用部IIIとを備えるバイアス分離型の光変調器である。
【0028】
高周波電気信号用相互作用部Iに対応する図2(a)からわかるように、第1の従来技術や第2の従来技術と同様に、中心導体4a´と接地導体4b´、4c´とからなる進行波電極を伝搬する高周波電気信号の実効屈折率が高周波電気信号用相互作用光導波路3bを伝搬する光の等価屈折率に近くなるように、リッジ部8a、8bの高さHiは従来技術と同じく高く設定されている。
【0029】
一方、図2(b)からわかるように、DCバイアス用相互作用部IIIにおけるリッジ部8a´、8b´の高さHBは高周波電気信号用相互作用部Iのリッジ部8a、8bの高さHiよりも低く設定されている。つまり、
Hi > HB (2)
としている。
【0030】
次に、本発明の原理について説明する。図3には、図2におけるリッジ部8a´、8b´の高さHBを変数とした際のDCVπを左縦軸に、またリッジ部8a、8bの高さHiを変数とした際のRFVπを右縦軸にとったグラフを示す。図に示すように、DCVπが最小となるリッジ部8a´、8b´の高さHB,optとRFVπが最小となるリッジ部8a、8bの高さHi,optとは値が異なり、(2)式が成り立っていることがわかる。
【0031】
(第2の実施形態)
図4は本発明における第2の実施形態の概略上面図である。第1の実施形態とは、DCバイアス用相互作用部の構成が異なっている。図4のB−B´線とE−E´線における断面図を各々図5(a)と(b)に示す。
【0032】
図5に示すように、本実施形態ではE−E´線における断面においてDCバイアス用相互作用部IVにおける光導波路間3a、3bのギャップが、高周波電気信号相互作用部Iにおける光導波路間3a、3bのギャップよりも狭くなっている。このように光導波路間3a、3bのギャップを狭く構成すると、DCVπが最小となるリッジ部8a´、8b´の高さHB,optの値はより小さくなる。光導波路間3a、3bのギャップが狭くなるとDCVπが低くなるとともに、HB,optの値が小さいので製作にかかる時間も短くなり、さらにリッジ部8a´や8b´の側壁12に起因する光の挿入損失を低減できるという利点が生じる。
【0033】
(各実施形態)
以上の説明では、分岐光導波路の例としてマッハツェンダ光導波路を用いたが、方向性結合器などその他の分岐合波型の光導波路にも本発明を適用可能であることは言うまでもない。また光導波路の形成法としてはTi熱拡散法の他に、プロトン交換法など光導波路の各種形成法を適用できるし、バッファ層としてAl2O3等のSiO2以外の各種材料も適用できる。
【0034】
また、本発明はDCバイアス用相互作用部の電極構造に依存せず、CPW構造や非対称コプレーナストリップ(ACPS)構造、あるいは対称コプレーナストリップ(CPS)構造など、各種の電極構造について成り立つことはいうまでもない。
【0035】
また、図1〜5においては、高周波電気信号用相互作用部におけるリッジ部のギャップとDCバイアス用相互作用部におけるリッジ部のギャップとを等しく図示しているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0036】
1:z−カットLN基板(LN基板)
2:SiO2バッファ層(バッファ層)
3:マッハツェンダ光導波路(光導波路)
3a、3b:マッハツェンダ光導波路を構成する相互作用光導波路
4:進行波電極
4a、4a´:中心導体
4b、4b´、4c、4c´:接地導体
6:高周波電気信号給電線
7:高周波電気信号出力線
8a、8a´、8b、8b´:リッジ部
9a、9a´、9b、9b´、9c、9c´:凹部
11a、11b:DCバイアス電極
12:リッジ部の側壁
I:高周波電気信号用相互作用部
II、III、IV:DCバイアス用相互作用部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光を導波するための少なくとも2本の光導波路と、前記基板の一方の面側に形成され、前記光を変調する高周波電気信号が伝搬する高周波電気信号用の中心電極及び接地電極を有する進行波電極と、前記光にバイアス電圧を印加するバイアス電極とを有し、
前記光導波路には前記進行波電極に前記高周波電気信号が印加されることにより前記光の位相を変調するための高周波電気信号用相互作用部と、前記バイアス電極にバイアス電圧を印加することにより前記光の位相を調整するためのバイアス用相互作用部とを具備し、
前記高周波電気信号用相互作用部と前記DCバイアス用相互作用部の両方において前記光導波路に沿って前記基板の一部を掘り下げて形成された凹部によりリッジ部をなす光変調器において、
前記高周波電気信号用相互作用部における前記リッジ部の高さと前記DCバイアス用相互作用部における前記リッジ部の高さとが異ならしめて形成され、
前記DCバイアス用相互作用部における前記リッジ部の高さが、前記高周波電気信号用相互作用部における前記リッジ部の高さよりも低く成ることを特徴とする光変調器。
【請求項2】
前記DCバイアス用相互作用部における前記2本の光導波路の間隔が、前記高周波電気信号用相互作用部における前記2本の光導波路の間隔よりも狭く形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光変調器。
【請求項3】
前記高周波電気信号用相互作用部の前記リッジの高さが、前記高周波電気信号の電圧値が略最小となるような所定高さで形成され、
前記DCバイアス用相互作用部の前記リッジの高さが、前記バイアス電圧値が略最小となるような所定高さで形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光変調器。
【請求項4】
前記基板がz−カットLN基板であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光変調器。
【請求項1】
電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光を導波するための少なくとも2本の光導波路と、前記基板の一方の面側に形成され、前記光を変調する高周波電気信号が伝搬する高周波電気信号用の中心電極及び接地電極を有する進行波電極と、前記光にバイアス電圧を印加するバイアス電極とを有し、
前記光導波路には前記進行波電極に前記高周波電気信号が印加されることにより前記光の位相を変調するための高周波電気信号用相互作用部と、前記バイアス電極にバイアス電圧を印加することにより前記光の位相を調整するためのバイアス用相互作用部とを具備し、
前記高周波電気信号用相互作用部と前記DCバイアス用相互作用部の両方において前記光導波路に沿って前記基板の一部を掘り下げて形成された凹部によりリッジ部をなす光変調器において、
前記高周波電気信号用相互作用部における前記リッジ部の高さと前記DCバイアス用相互作用部における前記リッジ部の高さとが異ならしめて形成され、
前記DCバイアス用相互作用部における前記リッジ部の高さが、前記高周波電気信号用相互作用部における前記リッジ部の高さよりも低く成ることを特徴とする光変調器。
【請求項2】
前記DCバイアス用相互作用部における前記2本の光導波路の間隔が、前記高周波電気信号用相互作用部における前記2本の光導波路の間隔よりも狭く形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光変調器。
【請求項3】
前記高周波電気信号用相互作用部の前記リッジの高さが、前記高周波電気信号の電圧値が略最小となるような所定高さで形成され、
前記DCバイアス用相互作用部の前記リッジの高さが、前記バイアス電圧値が略最小となるような所定高さで形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光変調器。
【請求項4】
前記基板がz−カットLN基板であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光変調器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−155046(P2012−155046A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12555(P2011−12555)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】
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