説明

全方向車輪の回転抑制装置及び移動体

【課題】駆動部による力の有無に関わらず、移動体の移動速度を抑制したり、停止状態を維持し易い全方向車輪の回転抑制装置を提供する。
【解決手段】ホイール17の外周囲に、ホイール17の回転方向と異なる方向に回転自在な横転駒19を多数配置し、ホイール17が回転することで横転駒19の側周面が順次接地して回転する全方向車輪13の回転を制御するための回転抑制装置15であり、多数の横転駒19のうちの接地した横転駒19に接触可能なパッド29と、パッド29を横転駒19に離接させる作動機構31とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールの外周囲にホイールの回転方向と異なる方向に回転自在な横転駒が多数配置された全方向車輪の回転を抑制するための全方向車輪の回転抑制装置と、全方向車輪と回転抑制装置とを備えた移動体とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ホイールの外周囲にホイールの回転方向と異なる方向に回転自在な横転駒が多数配置され、ホイールが回転することで横転駒の側周面が順次接地して回転する全方向車輪を備えた移動体が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、4個の全方向車輪を備えた移動体が提案されている。特許文献1の移動体では、4個の全方向車輪のホイールが電動モータによりそれぞれ独立に回転駆動可能に構成されている。各全方向車輪の回転軸は路面に対して平行に配設されていると共に、一対の前輪と一対の後輪とが相互に対称に傾斜して配置されている。各ホイールを独立に前転又は後転駆動すると、接地する横転駒が回転自在であるため、接地した回転駒の回転軸に対して直交方向の力が、各車輪の推進力として得られる。
【0004】
そのため、各ホイールの回転方向及び回転速度を調整することで、各ホイールにより得られる推進力を合成して、移動体を移動させることが可能である。
【0005】
移動体の移動を抑制するには、各ホイールの駆動力を低下、停止、逆転させることで、負の推進力を各ホイールに与え、合成された負の推進力により移動体の移動を抑制することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−47312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の全方向車輪では、移動体の移動速度を抑制する場合や停止状態を維持する場合にも、各電動モータによりホイールに回転力や回転抑制力を与えなければならなかった。そのため、電動モータの力が低下したり解放されると、ホイールや横転駒が回転し移動速度を抑制したり停止状態を維持することが容易でない場合があった。
【0008】
また、各ホイールの回転軸の相互の傾斜が少ない場合や、各ホイールの回転軸が同一又は平行に配設されたような場合には、電動モータにより回転抑制力を負荷していても、ホイールの回転軸に沿う方向の力に対しては、各ホイールの回転駒が自由回転し易く、移動体の移動速度を抑制したり確実な停止状態を維持することが容易でなかった。
【0009】
そこで、本発明では、駆動部による力の有無に関わらず、移動体の移動速度を抑制したり、停止状態を維持し易い全方向車輪の回転抑制装置を提供することを第1の目的とし、そのような回転抑制装置を備えた移動体を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記第1の目的を達成する本発明の全方向車輪の回転抑制装置は、ホイールと、ホイールの外周囲に多数配置されてホイールの回転方向と異なる方向に回転自在な横転駒とを備え、ホイールが回転することで横転駒の側周面が順次接地して回転する全方向車輪の回転抑制装置であり、横転駒に接触させることで摩擦抵抗が得られるパッドと、パッドを多数の横転駒のうちの接地した横転駒に離接させる作動機構とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の全方向車輪の回転抑制装置によれば、横転駒に接触させることで摩擦抵抗が得られるパッドと、このパッドを多数の横転駒のうちの接地した横転駒に離接させる作動機構とを備えているので、作動機構によりパッドを接地した横転駒に接触させれば、接地した横転駒のホイールの回転方向とは異なる方向への回転を抑制することができる。
【0012】
そのため、ホイールの回転を停止した状態で、パッドを横転駒に十分に接触させれば、横転駒の回転を阻止でき、ホイールの回転と回転駒の回転とが停止した状態で維持されて、全方向車輪の何れの方向への移動も阻止することが可能である。一方、ホイールが回転している状態で、パッドを横転駒に接触させれば、ホイールの回転を抑制しつつ、回転駒の回転を抑制できる。従って、全方向車輪を備えた移動体にこのような回転制御構造を装着すれば、移動体の全方向への移動を抑制したり阻止したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係る移動体を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る全方向車輪の接地部分を示す部分断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る全方向車輪及びその回転抑制装置を示す部分側面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る全方向車輪及びその回転抑制装置の正面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る全方向車輪の回転抑制装置の斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る移動体の停止状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図1〜6を参照して本発明の実施の形態について説明する。
この実施の形態に係る移動体10は、例えば、電動車椅子、電動車両等、全方向車輪の回転により移動可能な各種の移動体であり、図1では移動体の図示を簡略化して記載している。
【0015】
移動体10は、移動体本体11の下部に4個の全方向車輪13が装着され、各全方向車輪13を独立に駆動可能な回転駆動部25と、全方向車輪13の回転を抑制するための回転抑制装置15とが、全方向車輪13毎に設けられている。この実施の形態では、全ての全方向車輪13の回転軸L1が同軸又は平行に配置されている。
【0016】
各全方向車輪13は、図1及び図2に示すように、それぞれ回転軸L1周りに回転可能なホイール17と、ホイール17の外周囲に多数配置されてホイール17の回転方向D1と異なる方向に回転自在な横転駒19とを備えている。
【0017】
各横転駒19は、回転軸L1と直交すると共に回転方向D1に沿う方向にホイール17から多数突出して設けられた横転シャフト21に、横転軸L2を中心として回転自在に装着されている。各横転駒19の側周面はそれぞれホイール17の回転軸L1を中心とした弧の回転体形状とするのが好適である。各全方向車輪13は、回転軸L1周りに回転することで、横転駒19の側周面が順次接地して回転するように構成されている。
【0018】
回転駆動部25は、図3に示すように、移動体本体11に固定されたモータブラケット23と、モータブラケット23に固定して支持され、各全方向車輪13のホイール17を回転駆動する駆動用電動モータ27とを備えている。
【0019】
この回転駆動部25では、図示しない制御部からの制御信号に基づいて、各駆動用電動モータ27の回転速度が独立に制御可能であり、各ホイール17の回転方向及び回転速度を独立に調整できるようになっている。回転速度を低下させたり、回転を停止させたりする場合には、各ホイール17の回転を強制的に低下又は停止させることが可能である。
【0020】
回転抑制装置15は、図3乃至図5に示すように、接地した横転駒19に接触可能に互いに対向する位置に配置された一対のパッド29と、一対のパッド29を横転駒19に離接させる作動機構31とを備えている。
【0021】
作動機構31は、全方向車輪13毎に設けられており、移動体本体11に固定されたブレーキブラケット33と、ブレーキブラケット33に枢支されたブレーキリンク39と、一対のブレーキリンク39に螺合された正転及び逆転可能なネジシャフト35と、ブレーキブラケット33に固定されてネジシャフト35の一端側に連結された進退駆動部としての作動用電動モータ37と、一端側でブレーキリンク39と揺動可能に連結され、他端側で各パッド29を支持した一対のアーム部41とを備えている。
【0022】
一対のアーム部41は、各全方向車輪13より外側位置に設けられた支点部43において互いに揺動可能に連結されており、一端側のブレーキリンク39との連結部位が互いに近接する方向に移動することで、一対のパッド29を互いに近接方向に作動可能となっている。
【0023】
この一対のアーム部41には、回転軸L1を中心にした円形開口部45が設けられている。一方、駆動用電動モータ27のホイール17の近接位置には、外周に回転軸L1に沿って略円柱形状に突出した支持部47が設けられており、アーム部41の円形開口部45が支持部47に遊嵌されて移動可能に支持されている。
【0024】
パッド29は、各アーム部41に支持された状態で、接地している横転駒19の横転軸L2の高さに配置されている。このパッド29は、横転駒に接触させることで摩擦抵抗が得られるもので、各種の移動体においてブレーキパッドとして公知の材料により構成可能であり、例えば弾性材料等からなるものであってもよい。
【0025】
この実施の形態では、各パッド29は、少なくとも横転駒19の横転軸L2に沿う方向の全長より長く形成されており、ホイール17の周方向に隣接する少なくとも2つの横転駒19に接触可能となっている。このような長さであれば、隣接する2つの横転駒19の最大径部分にパッド29を接触させることが可能であるため、接地した横転駒19に確実にパッドを接触させ易い。
【0026】
このような作動機構31では、作動用電動モータ37が作動してネジシャフト35が回転すると、回転方向に応じ、一対のアーム部41のブレーキリンク39との連結部分を互いに近接又は離間するように移動させることができる。
【0027】
この連結部分を移動させると、一対のアーム部41が支点部43を中心に回動して、端部に設けられた一対のパッド29が互いに近接又は離間するように進退動作し、これにより各パッド29が全方向車輪13の接地部分に配置されている横転駒19に当接又は離間することが可能となっている。
【0028】
以上のような構成を有する全方向車輪13の回転抑制装置15を備えた移動体10では、走行時には、各駆動用電動モータ27によりそれぞれの全方向車輪13の回転が調整されることで走行する。このとき、全ての全方向車輪13の回転軸L1が同軸又は平行となっているため、各駆動用電動モータ27の回転の無駄が少なく、また、直進の際には安定して直進方向に走行し易い。
【0029】
走行中の移動体を減速或いは停止させる場合には、各駆動用電動モータの回転速度を低下させたり停止させたりすることで、モータブレーキにより減速或いは停止することができる。このとき、モータブレーキと共に回転抑制装置15を作動させてもよく、モータブレーキに代えて回転抑制装置15を作動させてもよい。
【0030】
回転抑制装置15を作動させる場合、作動用電動モータを回転させることで、一対のアーム部41を支点部43で回動させ、一対のパッド29により接地している横転駒19を両側から挟込むように接触させればよい。
【0031】
そして、移動体10を停止状態で維持する場合、回転抑制装置15を作動用電動モータを回転させることで、同様にして一対のパッドで接地している横転駒19を両側から挟み込んで接触させる。このとき、一対のパッド29を十分な力で接触させることが望ましい。
【0032】
このようにして停止状態を維持すると、例えば、図6に示すように、全方向車輪13の各回転軸L1に直交しない方向に傾斜した路面、即ち、横転駒19が回転可能な方向に傾斜した路面上に停止していても、接地している横転駒19の回転が回転抑制装置15により確実に阻止されるため、傾斜している路面で移動することなく停止状態を維持することが可能である。
【0033】
以上のような全方向車輪13の回転抑制装置によれば、横転駒19に接触させることで摩擦抵抗が得られるパッド29と、このパッド29を接地した横転駒19に離接させる作動機構31とを備えているので、作動機構31によりパッド29を接地した横転駒19に接触させれば、接地した横転駒19のホイール17の回転方向とは異なる方向への回転と、ホイール17の回転とを抑制することができる。
【0034】
そのため、ホイール17の回転を停止した状態で、パッド29を横転駒19に十分に接触させれば、横転駒19の回転を阻止でき、ホイール17の回転と回転駒の回転とが停止した状態で維持されて、全方向車輪13の何れの方向への移動も阻止することが可能である。一方、ホイール17が回転している状態で、パッド29を横転駒19に接触させれば、ホイール17の回転を抑制しつつ、回転駒の回転を抑制できる。従って、このような回転抑制装置を全方向車輪13を備えた移動体10に装着すれば、移動体10の全方向への移動を抑制したり阻止することができる。
【0035】
この回転抑制装置15では、複数のパッド29がホイール17の両側面側の互いに対向する位置に配置されて、横転駒19を両側から挟み込むように作動可能であるので、ホイール17に対して、両側から反対方向に力を作用させることができる。そのため、各パッド29を十分な力で安定して横転駒19に接触させることができ、十分な回転抑制力を得やすい。
【0036】
この回転抑制装置15では、パッド29がホイール17の周方向に隣接する少なくとも2つの横転駒19に接触可能な長さに形成されているので、全方向車輪13の回転停止位置において、互いに周方向に隣接する2つの横転駒19が接地した状態となっても、両方の横転駒19の回転を確実に防止することができ、全方向車輪13の何れの方向への移動も確実に阻止することができる。
【0037】
この回転抑制装置15では、作動機構31がパッド29を支持するアーム部41と、アーム部41を進退駆動する進退駆動部としての作動用電動モータ37とを備え、アーム部41がホイール17の近接位置に設けられた支持部47に支持されているので、パッド29を回転駒に接触させた際、アーム部41に反力が作用したり、ホイール17の回転方向への曲げ方向の力が作用しても、支持部47により支持されているため、アーム部41の曲げや変形などが生じ難い。
【0038】
この回転抑制装置15では、支持部47がホイール17を回転駆動可能な回転駆動部25に形成されているので、ホイール17の回転軸近傍でアーム部41を支持することが可能であり、支持強度を確保し易いと共に、支持部47を別部材として装着する必要がないため、回転抑制装置の構成を簡略化し易い。
【0039】
そして、このような回転抑制装置15を備えた移動体によれば、移動体本体11に全方向車輪13が装着されると共に、上述のような全方向車輪13の回転抑制装置が設けられているので、回転抑制装置のパッド29を横転駒19に十分な力で接触させておけば、全方向車輪13の何れの方向への移動も阻止することが可能である。そのため、全方向車輪13を駆動しない状態で、傾斜面上などに移動体10を停止させていても、移動体10が移動することなく停止させておくことが可能である。
【0040】
上記実施の形態は、本発明の範囲内において適宜変更可能である。
例えば、上記では全ての全方向車輪13の回転軸L1が同軸又は平行に配設された例について説明したが、本発明の回転抑制装置15は、一部又は全ての回転軸L1が適宜傾斜方向に配設されていても、何ら異なることなく、同様に使用可能である。
【0041】
上記では、全方向車輪13の両側に一対のパッド29を配置した例について説明したが、各全方向車輪13に対し、全方向車輪13の一方側だけにパッドを配置して回転抑制装置15を構成することも可能である。
【符号の説明】
【0042】
10 移動体
11 移動体本体
13 全方向車輪
15 回転抑制装置
17 ホイール
19 横転駒
25 回転駆動部
29 パッド
31 作動機構
41 アーム部
43 支点部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイールと、該ホイールの外周囲に多数配置されて上記ホイールの回転方向と異なる方向に回転自在な横転駒とを備え、上記ホイールが回転することで上記横転駒の側周面が順次接地して回転する全方向車輪の回転抑制装置であり、
上記横転駒に接触させることで摩擦抵抗が得られるパッドと、該パッドを上記多数の横転駒のうちの接地した横転駒に離接させる作動機構とを備えたことを特徴とする、全方向車輪の回転抑制装置。
【請求項2】
前記パッドを複数有し、該複数のパッドは、前記ホイールの両側面側の互いに対向する位置に配置されて、前記横転駒を両側から挟み込むように作動可能であることを特徴とする、請求項1に記載の全方向車輪の回転抑制装置。
【請求項3】
前記パッドは、前記ホイールの周方向に隣接する少なくとも2つの前記横転駒に接触可能な長さに形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の全方向車輪の回転抑制装置。
【請求項4】
前記作動機構は、前記パッドを支持するアーム部と、該アーム部を進退駆動する進退駆動部とを備え、前記アーム部は、前記ホイール部の近接位置に設けられた支持部に支持されていることを特徴とする、請求項1乃至3の何れか一つに記載の全方向車輪の回転抑制装置。
【請求項5】
前記支持部は、前記ホイール部を回転駆動可能な回転駆動部に形成されていることを特徴とする、請求項4に記載の全方向車輪の回転制御構造。
【請求項6】
移動体本体と、該移動体本体に装着された全方向車輪とを備え、前記全方向車輪は、ホイールと、該ホイールの外周囲に多数配置されて上記ホイールの回転方向と異なる方向に回転自在な横転駒とを備え、上記ホイールが回転することで上記横転駒の側周面が順次接地して回転するように構成された移動体において、
請求項1乃至5の何れか一つに記載の全方向車輪の回転制御構造が設けられていることを特徴とする、移動体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−264845(P2010−264845A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117064(P2009−117064)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】