説明

振動波モータ、レンズ鏡筒及びカメラ

【課題】良好な駆動性能を得ることのできる振動波モータを提供する。
【解決手段】本発明の振動波モータは、駆動信号により励振される電気機械変換素子13と、電気機械変換素子に接合される接合面15が設けられたベース部18、ベース部から電気機械変換素子側に連続するとともに径方向に延びる溝部17が周方向に一定の間隔で形成され、励振により振動波を生じる駆動面16aが設けられた櫛歯部19、を有する弾性体14を備える振動波モータ10において、弾性体14の前記駆動面16aと交差する側面16a,16b,16c,17aには、潤滑膜30が形成された第1の領域60が形成され、側面での、一組の溝部17と突起部19aとで形成される単位領域における第1の領域60の形状が、全ての単位領域において同じ形状であること、を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動波モータ、レンズ鏡筒及びカメラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
振動波モータは、特許文献1等で公知の様に、圧電体の伸縮を利用して弾性体の駆動面に進行性振動波(以下、進行波と略する)を発生させるものである。この進行波によって、駆動面には楕円運動が生じ、楕円運動の波頭に加圧接触した移動子は駆動される。この様な振動波モータは、低回転でも高トルクを有するという特徴がある。このため、駆動装置に搭載した場合に、駆動装置のギアを省略することができ、ギア騒音をなくすことで静寂化を達成したり、位置決め精度が向上したりできるといった利点がある。
【0003】
一方、近年、振動波モータは、その径が従来の1/3〜1/5倍程度と縮小されて、小型化、軽量化される傾向がある。この様な小型化された振動波モータは、機器に組み込む際に使い勝手が良く、アプリケーションへの適用化が進み、出荷台数を大幅に伸ばしている。
【0004】
特許文献2では、小型化された振動波モータが開示されているが、振動波モータを小型化すると、径が小さくなることから発生トルクが低下するという問題がある(トルク=接線力×径)。振動モータの出力が小さくなると(力=トルク×回転数)、モータとしての魅力が低下する。この対策として、発生トルクが小さくなった分だけ回転数を大きくしている。
しかし、回転数を従来よりも高くすると、摺動の耐久性が従来よりも厳しく要求される。その対策として、摺動材料を振動子の駆動面に配置することが、特許文献3に開示されている。
一方、特許文献4には、固定潤滑剤を摺動材料に用いた例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平1−17354号公報
【特許文献2】特開2006−333629号公報
【特許文献3】特開平8−266075号公報
【特許文献4】特開2008−92748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、固定潤滑剤を摺動材料に用いた場合、共振特性が不良となって十分な駆動性能を得ることができない場合がある。
本発明では、このような問題点を解決し、小型化しても耐久性能が得られ、良好な駆動性能を得ることのできる振動波モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のような解決手段により前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために、本発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、これに限定されるものではない。
【0008】
請求項1に記載の発明は、駆動信号により励振される電気機械変換素子(13,213)と、該電気機械変換素子(13,213)に接合される接合面(15,215)が設けられたベース部(18,218)、前記ベース部(18,218)から電気機械変換素子(13,213)側に連続するとともに径方向に延びる溝部(17,217)が周方向に一定の間隔で形成され、前記励振により振動波を生じる駆動面(16a,216a)が設けられた櫛歯部(19,219)、を有する弾性体(14,214)と、前記弾性体(14,214)の前記駆動面(16a,216a)に加圧接触され、前記振動波によって駆動される相対運動部材(20,220)と、を備える振動波モータ(10,210)において、前記弾性体(14,214)の前記駆動面(16a,216a)と交差する側面(16a,16b,16c,17a,216a,216b,216c)には、潤滑膜(30,230)が形成された第1の領域(60)が形成され、該側面(16a,16b,16c,17a,216a,216b,216c)での、一組の前記溝部(17,217)と突起部(19a,219a)とで形成される単位領域における前記第1の領域(60)の形状が、全ての単位領域において同じ形状であること、を特徴とする振動波モータ(10,210)である。
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の振動波モータ(10,210)において、前記弾性体(14,214)の前記側面(16b,216b)における、前記第1の領域(60)と前記潤滑膜が形成されていない第2の領域(61)との境界の、前記接合面(15,215)からの距離が一定であること、を特徴とする振動波モータ(10,210)である。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の振動波モータ(10,210)において、前記弾性体(14,214)の前記側面(16b,216b)における、前記第1の領域(60)と前記第2の領域(61)との境界の、前記駆動面(16a,216a)からの距離が一定であること、を特徴とする振動波モータ(10,210)である。
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項に記載の振動波モータ(10,210)において、前記潤滑膜(30,230)は、前記櫛歯部(19,219)の表面全体に形成されていること、を特徴とする振動波モータ(10,210)である。
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項に記載の振動波モータ(10)において、前記弾性体(14)は、前記ベース部(18)から径方向に延びる固定用フランジ部(22)を有し、該固定用フランジ部(22)は、前記第2の領域(61)であること、を特徴とする振動波モータ(10)である。
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか1項に記載の振動波モータ(10,210)において、前記潤滑膜(30,230)は、ポリアミドイミドを主成分とし、ヤング率が4Gpa以上で、膜厚が50μm以下であること、を特徴とする振動波モータ(10,210)である。
請求項7に記載の発明は、請求項1から5のいずれか1項に記載の振動波モータ(10,210)を備えるレンズ鏡筒(110,200)である。
請求項8に記載の発明は、請求項1から5のいずれか1項に記載の振動波モータ(10,210)を備えるカメラ(120)である。
なお、符号を付して説明した構成は、適宜改良してもよく、また、少なくとも一部を他の構成物に代替してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好な駆動性能を得ることのできる振動波モータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第一実施形態の振動波モータを説明する図である。
【図2】第一実施形態の振動波モータの駆動装置を説明するブロック図である。
【図3】第一実施形態の振動波モータをレンズ鏡筒に搭載した実施形態を示す。
【図4】弾性体を移動子側から見た図である。
【図5】弾性体の断面図であり、図5(a)は図4のa−a断面図、図5(b)は図4のb−b断面図である。
【図6】本実施形態に対する比較形態である。
【図7】弾性体の駆動面に固定潤滑膜を形成した場合の共振特性曲線を示す図であり、(a)は本実施形態の場合の共振特性曲線であり、(b)は比較形態の共振特性曲線である。
【図8】振動子の等価回路モデルである。
【図9】フランジ部に潤滑塗装膜が形成されている比較携帯を示す図である。
【図10】比較形態を示す図である。
【図11】第一実施形態の変形形態である。
【図12】本発明の第二実施形態のレンズ鏡筒を説明する図である。
【図13】弾性体に施した潤滑塗装膜を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第一実施形態)
以下、本発明にかかる振動波モータ10の第一実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、振動波モータ10を説明する図である。
本実施形態では振動子11側を固定とし、移動子20を駆動する様になっている。
振動子11は、後で説明する様に電気エネルギーを機械エネルギーに変換する圧電素子や電歪素子等を例とした電気−機械変換素子(以下、圧電体と称する)13と、圧電体13を接合した弾性体14とから構成され、振動子11には進行性振動波が発生される。
【0012】
弾性体14は、共振先鋭度が大きな金属材料から成り、形状は円環形状である。
弾性体14は、圧電体13に接合される接合面15が設けられたベース部18、そのベース部18から移動子20側に連続するとともに径方向に延びる溝17が周方向に一定の間隔で形成された櫛歯部19、を有する。
この櫛歯部19の先端面が駆動面16aとなり移動子20に加圧接触される。ベース部18から内径側にフランジ部22が延伸され、フランジ部22の最内径部にて固定部材23により固定されている。
【0013】
弾性体14には、摺動部材として潤滑塗装膜30が施されており、櫛歯部19全体を覆っている。一方、潤滑塗装膜30は、圧電体13の接合面15やフランジ部22は覆っていない。この理由についての詳細は後に説明する。
【0014】
圧電体13は、一般的には通称PZTと呼ばれるチタン酸ジルコン酸鉛といった材料から構成されているが、近年では環境問題から鉛フリーの材料であるニオブ酸カリウムナトリウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸ナトリウム、チタン酸バリウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ビスマスカリウム等から構成されることもある。圧電体13表面には電極(図示せず)が配置され、それは円周方向に沿って2つの相(A相、B相)に分かれている。各相においては、1/2波長毎に交互に分極され、A相とB相との間には1/4波長分間隔が空く様に電極が配置されている。
【0015】
移動子20は、アルミニウムといった軽金属からなり、駆動面16aと接触する摺動面25の表面には耐摩耗性向上のための表面処理が成されている。
【0016】
出力軸40は、ゴム部材41と出力軸40のDカットにはまるように挿入されたストッパー部材42を介して移動子20に結合され、出力軸40とストッパー部材42はEクリップ43等により固定されていて、移動子20と一体に回転する様にされている。ストッパー部材42と移動子20との間のゴム部材41は、粘着性で移動子20とストッパー部材42と結合する機能があり、かつ移動子20からの振動を出力軸40へ伝えないための振動吸収との機能があるブチルゴム等が好適である。
【0017】
加圧部材50は、出力軸40のギア部51とベアリング52の間に設けられている。この構造により、移動子20が振動子11の駆動面16aに加圧接触される。
【0018】
図2は、第一実施形態の振動波モータ10の駆動装置100を説明するブロック図である。まず、振動波モータ10の駆動/制御部について説明する。
発振部101は、制御部102の指令により所望の周波数の駆動信号を発生する。
移相部103は、発振部101で発生した駆動信号を位相の異なる2つの駆動信号に分ける。
【0019】
増幅部104は、移相部103によって分けられた2つの駆動信号をそれぞれ所望の電圧に昇圧する。
増幅部104からの駆動信号は、振動波モータ10に伝達され、この駆動信号の印加により振動子に進行波が発生し、移動子20が駆動される。
【0020】
回転検出部105は、光学式エンコーダや磁気エンコーダ等により構成され、移動子20の駆動によって駆動された駆動物の位置や速度を検出し、検出値を電気信号として制御部102に伝達する。
【0021】
制御部102は、レンズ鏡筒内またはカメラ本体のCPUからの駆動指令を基に振動波モータ10の駆動を制御する。制御部102は、回転検出部105からの検出信号を受け、その値を基に、位置情報と速度情報を得て、目標位置に位置決めされるように発振部101の周波数を制御する。
【0022】
次に、第一実施形態の振動波モータ10の動作を説明する。
制御部102からの駆動指令により、発振部101から駆動信号が発生される。その駆動信号は移相部103により90度位相の異なる2つの駆動信号に分割され、増幅部104により所望の電圧に増幅される。駆動信号は、振動波モータ10の圧電体13に印加され、圧電体13は励振され、その励振によって弾性体14には4次の曲げ振動が発生する。
【0023】
圧電体13はA相とB相とに分けられており、駆動信号はそれぞれA相とB相に印加される。A相から発生する4次曲げ振動とB相から発生する4次曲げ振動とは位置的な位相が1/4波長ずれるようになっており、また、A相駆動信号とB相駆動信号とは90度位相がずれているため、2つの曲げ振動は合成され、4波の進行波となる。
【0024】
進行波の波頭には楕円運動が生じている。従って、駆動面16aに加圧接触された移動子20は、この楕円運動によって摩擦により駆動される。移動子20の駆動により駆動された移動子20には、光学式エンコーダが配置されており、そこから、電気パルスが発生し、制御部102に伝達される。制御部102は、この信号を基に、現在の位置と現在の速度を得ることが可能となる。
【0025】
図3は、第一実施形態の振動波モータ10をレンズ鏡筒110に搭載した実施形態を示す。レンズ鏡筒110は、カメラ120に着脱可能な交換レンズであるが、これに限定されず、カメラから非着脱可能なレンズ鏡筒であってもよい。
【0026】
振動波モータ10はギアユニットモジュール113に取り付けられ、ギアユニットモジュール113はレンズ鏡筒110の固定筒114に取り付けられている。振動波モータ10の出力ギアであるギア部51は、ギアユニットモジュール113の減速ギア115を介して、カム環116に回転運動が伝達され、カム環116は回転駆動する。
【0027】
カム環116には、周方向に対して斜めにキー溝117が切られたおり、該キー溝117に固定ピン118が挿入されたAF環119は、カム環116が回転駆動することにより、光軸方向に直進方向に駆動され、所望の位置に停止できる様にされている。
レンズ鏡筒110の外側固定筒114aと内側固定筒114bの間に回路121が設けられ、振動波モータ10の駆動、制御、回転数の検出、振動センサーの検出等を行う。
【0028】
図4は、弾性体14を移動子20側から見た図である。図5は弾性体14の断面図であり、図5(a)は図4のa−a断面図、図5(b)は図4のb−b断面図である。潤滑塗装膜30は、弾性体14の駆動面16a及び外周面16bおよび内周面16cの全体を覆っている。さらに、溝17の内面17aも覆っている。すなわち、潤滑塗装膜30は、櫛歯部19の全体を覆っている。さらに、ベース部18の外周面の全体、及び内周面の一部も覆っている。ただし、フランジ部22は、潤滑塗装膜30で覆われていない。
【0029】
これに対して、図6は本実施形態に対する比較形態である。
図6(a)で示す比較形態Aの潤滑塗装膜30’は、櫛歯部19の駆動面16aおよび外周面16b全体を覆っているが、内周面16cは、櫛歯部19の突起部19aの上面しか覆っていない。このため、外周面16bや櫛歯部19の底部は、潤滑塗装膜30’が塗布されている塗布領域60と塗布されていない非塗布領域61とが不均一に混在している可能性がある。
【0030】
図6(b)で示す比較形態Bの潤滑塗装膜30’’は、弾性体14の駆動面16aおよび内周面16c全体を覆っているが、外周面16bは、突起部19aの上面しか覆っていない。このため、突起部19aの外周面16bや櫛歯部19の底部は、潤滑塗装膜30’’が塗布されている塗布領域60と塗布されていない非塗布領域61とが不均一に混在している可能性がある。
【0031】
図7は、弾性体14の駆動面16aに固定潤滑膜を形成した場合の共振特性曲線を示す図である。図7(a)は本実施形態の場合の共振特性曲線であり、図7(b)は、上述の比較形態A及び比較形態Bの場合の共振特性曲線である。
【0032】
図7(a)で示す本実施形態の場合、共振特性曲線において共振点と反共振点とが1個ずつとなっている。
これに対して図7(b)で示す比較形態A及び比較形態Bの場合、共振特性曲線に乱れが生じている。この不良の共振特性曲線では、曲線のピークが複数存在して乱れており、図7(a)の場合と比べて共振抵抗値も大きめである。
【0033】
小型化された振動波モータ(超音波モータ)の場合、回転数を大きくしなくてはならず、従来の大型円環型の超音波モータ(例えば径30mm以上)よりも共振特性を向上させる必要がある。しかし、図7(b)の様な共振特性曲線が発生した場合、良好な駆動性能を得ることができない。
しかし、本実施形態によると、図7(a)のように共振特性曲線に乱れがなく、良好な駆動性能を得ることができる。
【0034】
図7(b)の様に共振特性曲線に乱れが生じる理由を図8にて説明する。
図8は、振動子11の等価回路モデルである。ここで、Cdは圧電体13の静電容量を示し、Rは振動子11の振動エネルギーの損失を示し、Cは振動子11のスプリング要素を示し、Lは振動子11の質量要素を示していて、これらを電気的な要素として等価している。
本実施形態の振動波モータ10は、4波の曲げ振動を用いているが、各波の曲げ振動が並列に等価回路を構成しているモデルとなる。
【0035】
通常の場合、図8の(1)〜(4)のCd、R、C、Lはほぼ同じ値を示し、その場合、振動子11全体として図7(a)の様に共振点と反共振点とが1個ずつといった共振特性曲線となる。しかし図8の(1)〜(4)のCd、R、C、Lがそれぞれ異なった値を持った場合、(1)〜(4)のそれぞれが異なった共振点、半共振点を持ち、その結果、全体として図7(b)の様な、曲線のピークがいくつもあり、乱れていて、共振抵抗値も大きい共振特性曲線となる。
【0036】
特に、本実施形態の様に進行波型の振動波モータ10では、櫛歯部19を設けることで、曲げ振動振幅を増幅しているため、櫛歯部19の質量や振動エネルギーの損失が一様でないと、各波の等価回路のR、C、Lの値が異なってしまうと推定される。
【0037】
図5に示す本実施形態の場合は、突起部19a全体が一様に潤滑塗装膜30に覆われているため、各波の等価回路のR、C、Lの値が一定となっていると考えられる。
【0038】
一方、図6(a),(b)の場合には、突起部19aの外周面16bや櫛歯部19の底部は、潤滑塗装膜30が塗布されている塗布領域60と塗布されていない非塗布領域61とが不均一に混在し、塗り斑が生じている。潤滑塗装膜30は金属に比べ損失要素が大きく、そのため、塗り斑があると損失要素(すなわりR)にムラが発生することとなる。また、潤滑塗装膜30は薄膜といえども質量があり、そのため、塗り斑があると質量要素(すなわちL)にムラが発生することとなり、その結果、図6(a)、(b)には、各波の等価回路のR、C、Lの値がそれぞれ異なってしまったものと考えられる。
【0039】
なお、比較形態Cとして、図9に、フランジ部22に潤滑塗装膜30’’’が形成されている形態を示す。比較形態Cにおいては、本実施形態と同様に、潤滑塗装膜30’’’は、櫛歯部19の全体を覆っている。従って、図7(a)の共振特性曲線を得ることができると考えられる。しかし、この状態で固定部材23に取り付けられると、駆動面16aが変形し、駆動面16aの平面度が確保できず、移動子20との間で良好な摺動が出来ない可能性がある。これは、フランジ部22に施された潤滑塗装膜30’’’の厚さムラが影響するからであると考えられる。ゆえに、フランジ部22には潤滑塗装膜30’’’は存在しないことが好ましい。
【0040】
また、図10は比較形態Dを示す図である。図10(a)は図4のa−a断面図、図10(b)は振動子11を外周面16b側から見た図である。比較形態Dでは、図10(b)に示すように、振動子11の外周面16bでの、一組の溝17と突起部19aとで形成される単位領域(図中Xで示す幅の領域)における塗布領域60の形状が、全ての単位領域において同じ形状になっていない。すなわち、単位領域(図中Xで示す幅の領域)における、図中斜線で示す塗布領域60の形状が、その単位領域と隣接する単位領域(図中Yで示す幅の領域)における、図中斜線で示す塗布領域60の形状と異なっている。
【0041】
この場合も、共振特性曲線において図7(b)の様なピークがいくつも発生する。塗装のムラが発生しているのはベース部18であるため、櫛歯部19にムラがある場合ほど影響しないが、やはり各波の等価回路のR、C、Lの値が異なってくると考えられる。したがって、この比較形態Dのような、振動子11の外周面16bでの、一組の溝17と突起部19aとで形成される単位領域(図中Xで示す幅の領域)における塗布領域60の形状が、全ての単位領域において同じ形状になっていない形態も好ましくない。
【0042】
図11は本実施形態の変形形態である。図示するように、振動子11の外周面16bでの、一組の溝部と突起部19aとで形成される単位領域(図中Xで示す幅の領域)における塗布領域60の形状が、全ての単位領域において同じ形状となっている。すなわち、単位領域(図中Xで示す幅の領域)における、図中斜線で示す塗布領域60の形状が、その単位領域と隣接する単位領域(図中Yで示す幅の領域)における、図中斜線で示す塗布領域60の形状と等しい。
この場合、上述の変形形態と異なり、各波の等価回路のR、C、Lの値が一定となり、図7(a)で示す共振特性曲線となる。
【0043】
以上より、本実施形態及び変形形態では、各波の等価回路のR、C、Lの値が一定となる。これによって振動子11の共振特性が図7(a)の様な共振点と反共振点とが1個ずつの曲線となり、共振抵抗値が小さくなる。したがって、駆動効率を向上でき、回転数を大きくした小型超音波モータを達成することができる。
【0044】
潤滑塗装膜30は、主成分をポリアミドイミドとし、添加剤をPTFEとした。また、潤滑塗装膜30は、ヤング率が4Gpa以上で、かつ膜厚が50μm以下(例えば40μm)となることが好ましい。主成分をポリアミドイミドで、添加剤にPTFEとすると、回転を大きくした場合の耐久性能が確保できる。
【0045】
ヤング率を4Gpa以上と硬めの樹脂材料にすることで、樹脂材料を塗布することでの振動子11の損失の増加を抑えることができ、塗装工程の厚さムラによる各波の等価回路のR値がほぼ同じになる。
【0046】
膜厚を50μm以下とすることで、樹脂材料を塗布することでの振動子11の損失の増加を抑えることができ、さらに、塗装工程の厚さムラによる各波の等価回路のR値、L値がほぼ同じになる。
【0047】
第一実施形態では、回転数が大きくする必要がある小型超音波モータとして説明しているが、回転数を大きくなり、そのため耐久性が必要となる小型という範疇は、弾性体14の外径φ20以下と考えており、従ってφ20以下の進行波型超音波モータにおいて本実施形態の大きな効果が表れる。
【0048】
(第二実施形態)
図12は、本発明の第二実施形態のレンズ鏡筒200を説明する図であり、リング状の振動波モータ210をレンズ鏡筒200に組み込んだ状態の図である。
振動子211は、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する圧電素子や電歪素子等を例とした圧電体213と、圧電体213を接合した弾性体214とから構成されている。振動子211には進行波が発生するようにされているが、本実施形態では一例として9波の進行波として説明する。
【0049】
弾性体214は、共振先鋭度が大きな金属材料から成り、形状は、円環形状である。
弾性体214は、圧電体213に接合される接合面215が設けられたベース部218、そのベース部218から移動子220側に連続するとともに径方向に延びる溝217が周方向に一定の間隔で形成された櫛歯部219、を有する。
この櫛歯部219の先端面が駆動面216aとなり移動子220に加圧接触される。
このように溝217を切る理由は、進行波の中立面をできる限り圧電体213側に近づけ、これにより駆動面216aの進行波の振幅を増幅させるためである。
【0050】
圧電体213は、円周方向に沿って2つの相(A相、B相)に分かれており、各相においては、1/2波長毎に分極が交互となった要素が並べられていて、A相とB相との間には1/4波長分間隔が空くようにしてある。
【0051】
圧電体213における弾性体214と反対側(以下、この方向を便宜上、下側という、また、弾性体214側を上側という)には、不織布(図示せず)、加圧板252、加圧部材250が配置されている。
不織布は、フェルトを例としたものであり、圧電体213の下側に配置されていて、振動子211の振動を加圧板252や加圧部材250に伝えないようにするものである。
【0052】
加圧板252は、加圧部材250の加圧を受けるようにされている。
加圧部材250は、加圧板252の下側に配置されていて、加圧力を発生させるものである。本実施形態では、加圧部材50を皿バネとしたが、皿バネでなくともコイルバネやウェーブバネでも良い。加圧部材250は、押さえ環251を介して固定部材223に固定されることで、保持される。
【0053】
移動子220は、アルミニウムといった軽金属からなり、摺動面225の表面には耐摩耗性向上のための摺動材料が設けられている。
移動子220の上側には、移動子220の縦方向の振動を吸収するために、ゴム等の振動吸収部材241が配置され、その被写体側には出力伝達部242が配置されている。
【0054】
出力伝達部242は、固定部材223に設けられたベアリング253により、加圧方向と径方向とが規制され、これにより移動子220の加圧方向と径方向とが規制される。
出力伝達部242は、突起部243を有し、そこからカム環315に接続されたフォーク316が嵌合しており、出力伝達部242の回転とともに、カム環315が回転される。
【0055】
カム環315には、キー溝317が斜めに切られており、AF環319に設けられた固定ピン318が、キー溝317に嵌合して、カム環315が回転駆動することにより、光軸方向に直進方向にAF環319が駆動され、所望の位置に停止できる様になっている。
固定部材223には、押さえ環251がネジにより取り付けられ、これを取り付けることで、出力伝達部242から移動子220、振動子211、バネ250までが一つのモータユニットとして構成される。
【0056】
図13は、弾性体214に施した潤滑塗装膜230を説明する図である。
潤滑塗装膜230は、弾性体214の駆動面216a、外周面216bおよび内周面216c全体を覆う。また、弾性体214の櫛歯部119を周方向に切断した断面で見た場合は、第一実施形態の図5(b)と同様に、潤滑塗装膜30は櫛歯部219の全体(上面、側面、底面)を覆っている。
【0057】
第二実施形態は大型円環型であるが、共振特性の考え方は第一実施形態で説明した内容と同様である。潤滑塗装膜230において塗布領域と非塗布領域との境界が一様な境界となるように塗ることにより、振動子211の共振特性を図7(a)の様な共振点と反共振点とが1個ずつとなるようにすることができ、また、共振抵抗値が小さくなり、駆動効率を向上できる。
【0058】
本実施形態においても、潤滑塗装膜230は、主成分をポリアミドイミドとし、添加剤をPTFEとした。また、潤滑塗装膜230は、ヤング率を4Gpa以上とし、かつ膜厚は50μm以下(例えば40μm)とした。主成分をポリアミドイミドで、添加剤にPTFEとすることで、耐久性能を確保できる。ヤング率を4Gpa以上と硬めの樹脂材料にすることで、樹脂材料を塗布することでの振動子211の損失の増加を抑えることができ、塗装工程の厚さムラによる各波の等価回路のR値がほぼ同じになる。
【0059】
また、膜厚さを50μm以下とすることで、樹脂材料を塗布することでの振動子211の損失の増加を抑えることができ、さらに、塗装工程の厚さムラによる各波の等価回路のR値、L値がほぼ同じになる様にできる。
【0060】
本実施形態では、進行性振動波を用いた振動波モータ210で、波数4、9の場合を開示したが、他の波数、5、6、7、8、10以上でも、同様な構成で、同様な効果が得られる。
また、第一実施形態と同様に潤滑塗装膜30は、突起部219a全体を覆い、塗布領域と非塗布領域との境界が一様な境界であれば良く、ベース部218の全体が覆われている必要はない。
【符号の説明】
【0061】
10,210:振動波モータ、13,213:圧電体、15,215:接合面、16a,216a:駆動面、16b,216b:外周面、16c,216c:内周面、17,217:溝部、17a:内面、18,218:ベース部、19,219:櫛歯部、19a,219a:突起部、20,220:移動子、30,230:潤滑塗装膜、60:塗布領域、61:非塗布領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動信号により励振される電気機械変換素子と、
該電気機械変換素子に接合される接合面が設けられたベース部、前記ベース部から電気機械変換素子側に連続するとともに径方向に延びる溝部が周方向に一定の間隔で形成され、前記励振により振動波を生じる駆動面が設けられた櫛歯部、を有する弾性体と、
前記弾性体の前記駆動面に加圧接触され、前記振動波によって駆動される相対運動部材と、
を備える振動波モータにおいて、
前記弾性体の前記駆動面と交差する側面には、潤滑膜が形成された第1の領域が形成され、該側面での、一組の前記溝部と突起部とで形成される単位領域における前記第1の領域の形状が、全ての単位領域において同じ形状であること、
を特徴とする振動波モータ。
【請求項2】
請求項1記載の振動波モータにおいて、
前記弾性体の前記側面における、前記第1の領域と前記潤滑膜が形成されていない第2の領域との境界の、前記接合面からの距離が一定であること、
を特徴とする振動波モータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の振動波モータにおいて、
前記弾性体の前記側面における、前記第1の領域と前記第2の領域との境界の、前記駆動面からの距離が一定であること、
を特徴とする振動波モータ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の振動波モータにおいて、
前記潤滑膜は、前記櫛歯部の表面全体に形成されていること、
を特徴とする振動波モータ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の振動波モータにおいて、
前記弾性体は、前記ベース部から径方向に延びる固定用フランジ部を有し、
該固定用フランジ部は、前記第2の領域であること、
を特徴とする振動波モータ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の振動波モータにおいて、前記潤滑膜は、ポリアミドイミドを主成分とし、ヤング率が4Gpa以上で、膜厚が50μm以下であること、
を特徴とする振動波モータ。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載の振動波モータを備えるレンズ鏡筒。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか1項に記載の振動波モータを備えるカメラ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2011−166899(P2011−166899A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25158(P2010−25158)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】