説明

水平配置型ダンパのアイ部材

【課題】シャフトとブシュの摺動隙間を覆うダストブーツを雪や氷から保護する
【解決手段】水平方向に配置されるダンパ1の端部に固定されるアイ部材10を、球形部15Aを有するシャフト15が垂直方向に貫通する。アイ部材10はシャフト15の球形部15Aに摺接する球面軸受けを備えたブシュ13と、球形部15Aと球面軸受けとの摺接部を外部から遮断する、ブシュ13の上下に配置された一対のダストブーツ19、20と、を備える。さらに、ゴム製の雪よけ部材21が上方のダストブーツ19を覆う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道車両の車体間などに水平方向に介装されるリニアダンパの端部に固定するアイ部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、鉄道車両の車体間に介装されるリニア型の水平ダンパを開示している。
この水平ダンパは、2台の車体間を連結する連結器の両脇に各々配置され、一端を前方の車体に、もう一端を後方の車体に連結することで、車体間の相対的な動揺を減衰する役割を持つ。
【0003】
ダンパはシリンダと、シリンダから摺動自由に突出するピストンロッドとを備え、シリンダの基端とピストンロッドの突出端の一方が前方の車体に、もう一方が後方の車体にそれぞれ係止される。
【0004】
シリンダの基端とピストンロッドの突出端にはそれぞれアイ部材が固定されている。そしてアイ部材を貫通するシャフトが、ブラケットを介して車体に固定される。シャフトはアイ部材により、垂直軸回りに回転可能、かつ垂直軸を含む任意の垂直面に沿って一体範囲で揺動可能に支持される。
【0005】
このために、例えばシャフトのアイ部材との係合部は球面に形成され、アイ部材の内周には球面の係合部の外周を包み込むように形成された球面軸受けを有する樹脂製ブシュが配置される。ブシュの球面軸受けとアイ部材の球形部との摺動部にはグリースが封入される。
【0006】
この摺動部に水が入り込まないよう、ブシュの上方と下方においてシャフトの外周にダストブーツがそれぞれ装着される。ダストブーツはブシュの上下においてシャフトを囲むようにアイ部材に形成された上向きと下向きの凹部にそれぞれ収装される。
【特許文献1】特開2005−081890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アイ部材は車体の外側に配置されるため、風雪に直接さらされる。また、車体のメンテナンスにより車体から着氷や着雪を除去する際に、氷片や雪片がアイ部材の上に落下することがある。その結果、特にアイ部材の上向きの凹部に配置されたダストブーツは、着氷や着雪により損傷しやすく、また、車体のメンテナンスの際に落下する氷雪によっても傷つきやすい。損傷したダストブーツは、シャフトとブシュの摺動隙間への水の侵入をもたらし、結果として摺動隙間のグリースを漏出させたり、摺動部の損耗を招くなどの不具合の要因となる。
【0008】
この発明の目的は、したがって、シャフトとブシュの摺動隙間を覆うダストブーツを雪や氷から保護することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の目的を達成するために、この発明は、水平方向に配置されるダンパの端部に固定され、球形部を有するシャフトを垂直方向に貫通させたアイ部材において、球形部に摺接する球面軸受けを備えたブシュと、球形部と球面軸受けとの摺接部を外部から遮断する、ブシュの上下に配置された一対のダストブーツと、上方のダストブーツを覆う雪よけ部材とを備えている。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、雪よけ部材が上方のダストブーツを覆うことで、雪や氷によるダストブーツの損傷を防止することができる
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1を参照すると、ダブルチューブ型のリニアダンパ1は、鉄道車両の車体間の相対的な動揺を減衰すべく、車体間の連結器の両側にそれぞれ水平に介装される車体間ダンパである。
【0012】
リニアダンパ1は、アウタチューブ2と、アウタチューブ2の内側に同軸的に構成されたインナチューブ3と、インナチューブ3の内側で軸方向に摺動するピストン4と、ピストン4に結合してアウタチューブ2から外側へ軸方向に突出するピストンロッド5とを備える。
【0013】
インナチューブ3の内側はピストン4によりふたつの油室6と7が画成される。ピストンロッド5側の油室6はチェック弁8を介して、インナチューブ3とアウタチューブ2の間に形成された油溜室9に連通する。ピストンロッド2と反対側の油室7は圧側減衰弁25を介して油溜室9に連通する。ピストン4にも伸側減衰弁と圧側減衰弁が設けられる。
【0014】
以上の構成により、リニアダンパ1は、ピストンロッド5の伸張と収縮に対して同等の減衰力を発生させる。
【0015】
アウタチューブ2の基端にはアイ部材10が固定される。ピストンロッド5の突出端にもアイ部材11が固定される。
【0016】
アイ部材11にはピストンロッド5を覆う円筒形状のスリーブ26が固定される。スリーブ26はアウタチューブ2の外径より若干大きな内径を備え、図に示すようにアウタチューブ2の外周の外側においてアウタチューブ2の一部とオーバラップする。
アイ部材10と11の構成は同一である。以下にアイ部材10を例にとってこの発明を説明する。
【0017】
図2の(A)と(B)を参照すると、アイ部材10には垂直方向に金属製のシャフト15が貫通する。
【0018】
シャフト15の中間位置には球形部15Aが形成される。シャフト15の上端と下端には水平方向にボルト孔15Bが形成される。これらのボルト孔15Bに挿通したボルトにより、シャフト15は車体に設けたブラケットに固定される。
【0019】
アイ部材10は、貫通孔を有する金属製の本体10Aと、本体10Aの貫通孔の内側に金属製のホルダ12を介して保持された樹脂製のブシュ13とを備える。ブシュ13は内周にシャフト15の球形部15Aを摺動可能に支持する球面軸受けを備える。球形部15Aと球面軸受けとの摺動により、シャフト15はアイ部材10に対して、垂直軸を中心とする回転変位と、垂直軸を含む任意の垂直面上での一定範囲での揺動変位とを許容される。
【0020】
ホルダ12には、球形部15Aとブッシュ13との摺接部の上下においてシャフト15を囲む環状の凹部16と17が形成される。ブシュ13はシャフト15の球形部15Aの外周に嵌合した状態で、ホルダ12の内周に下方から圧入される。さらに凹部17にストッパ18を圧入することで、ブシュ13の抜け落ちを阻止している。ブシュ13の球面軸受けとシャフト15の球形部15Aとの摺接部には潤滑のためにグリースを介在させる。
【0021】
凹部16の内側にはゴム製のダストブーツ19が配置される。ダストブーツ19はシャフト15の外周に装着され、外周を凹部16の垂直の壁面に当接することで、ブシュ13とシャフト15の球形部15Aの摺接部の上方を外部から遮断し、摺接部へのダストの侵入を阻止する。凹部17のストッパ18の内側にも同様のダストブーツ20が配置される。
【0022】
上方のダストブーツ19を収装した凹部16は雪よけ部材21に覆われる。雪よけ部材21はゴム板で構成され、シャフト15の外周に装着される。雪よけ部材21はシャフト15に形成した段差15Cにより内周を支持される。雪よけ部材21の外周は凹部16の外側に達し、ホルダ12の上端面にオーバラップする。雪よけ部材21とホルダ12の上端面とのオーバラップ量は、シャフト15のアイ部材10に対する揺動変位の範囲で、雪よけ部材21が凹部16を閉鎖状態に保てるように設定する。なお、雪よけ部材21は上方のダストブーツ19の上方にのみ設けられる。下方のダストブーツ20に関しては雪よけ部材を設けない。
【0023】
アイ部材10はさらに、雪よけ部材21のカバー22を備える。
【0024】
カバー22は金属材料で構成されたキャップ状の部材であり、中央にシャフト15の貫通孔22Aを有する。カバー22は雪よけ部材21を覆うように、外周部をアイ部材15の本体10Aの上面に複数のボルト23で固定される。シャフト15と貫通孔22Aとの間には、シャフト15のアイ部材10に対する揺動変位の範囲で、シャフト15とカバー22が干渉しないように隙間が設けられる。一方、雪よけ部材21の外周とカバー22との間にも、シャフト15のアイ部材10に対する揺動変位の範囲で、水平方向に変位する雪よけ部材21がカバー22に接触して損傷しないように隙間が設けられる。ただし、カバー22に雪よけ部材21のホルダ12の上端面からの浮き上がりを阻止する押え部材とのしての機能を持たせるために、カバー22の内周部と雪よけ部材21の外周部との間に十分なオーバラップが確保されるように、カバー22と雪よけ部材21及び関連部材のサイズを設定する。
【0025】
リニアダンパ1は車体間ダンパとして、鉄道車両の車体間に水平方向に介装される。したがって、アイ部材15はダストブーツ19を上に向けた状態で、車体の外に常に露出している。ダストブーツ19はブシュ13と球形部15Aの摺接部へのダストや水の侵入を防止する役割をもつ。しかしながら、ダストブーツ19が常に上向きに露出していると、ダストブーツ19は降雪や着氷により損傷を受けやすい。また、車体のメンテナンス作業において、上方の車体から掻き落とされた氷雪がダストブーツ19の上に落下して、ダストブーツ19を損傷する可能性もある。ダストブーツ19が損傷すると、ブシュ13と球形部15Aの摺接部にダストや水が侵入し、グリースの漏出や摺動面の摩耗といった不具合をもたらす要因となる。
【0026】
このアイ部材10においては、ダストブーツ19を収装した凹部16を雪よけ部材21が覆うことで、凹部16への雪や氷の侵入を防止している。また、カバー22が雪よけ部材21の外周部を覆うことで、塊状の雪や氷が雪よけ部材21に達するのを阻止している。カバー22は走行中の車体の揺れや振動で雪よけ部材21が浮き上がるのを押える役割も果たす。したがって、鉄道車両の走行中と停車中を問わず、ダストブーツ19を収装した凹部16への雪や氷の侵入が阻止され、ダストブーツ19の防塵や防水に関する良好な性能を長期に渡って維持できる。また、上側のダストブーツ19の紫外線による劣化も防止できる。
【0027】
以上、この発明を鉄道車両の車体間ダンパに適用した実施例を説明したが、この発明によるアイ部材は車体間ダンパに限らず、鉄道車両の台車と車体の間に介装されるヨーダンパにも適用可能である。さらに、この発明によるアイ部材は、鉄道車両に限定されず、外部に露出した状態で配置される水平ダンパ全般に適用可能である。
以上の実施例では、雪よけ部材21を金属製のカバー22で覆う構成としているが、カバー22は必ずしも必須の要件ではなく、水平ダンパの使用条件によっては省略可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上のように、この発明によるアイ部材は、アイ部材に設けるダストブーツの上方の空間を外部から遮断する雪よけ部材を設けたので、雪や氷によるダストブーツの損傷を防止することができる。したがって、鉄道車両の車体間あるいは車体と台車の間に介装される水平ダンパのアイ部材にこの発明を適用することで、アイ部材のダストブーツの雪や氷による損傷や紫外線による劣化を確実に防止することができ、特に好ましい効果が得られる。さらに、水平配置される一般の産業用のダンパに関してもこの発明を適用することで好ましい効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】車体間ダンパの縦断面図である。
【図2】この発明によるアイ部材の平面図と垂直断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 リニアダンパ
2 アウタチューブ
3 インナチューブ
4 ピストン
5 ピストンロッド
6 油室
7 油室
8 チェック弁
9 油溜室
10 アイ部材
11 アイ部材
10A 本体
12 ホルダ
13 ブシュ
15 シャフト
15A 球形部
15B ボルト孔
15C 段差
16 凹部
17 凹部
18 ストッパ
19 ダストブーツ
20 ダストブーツ
21 雪よけ部材
22 カバー
22A 貫通孔
23 ボルト
26 スリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に配置されるダンパの端部に固定され、球形部を有するシャフトを垂直方向に貫通させた、水平配置型ダンパのアイ部材において:
球形部に摺接する球面軸受けを備えたブシュと;
球形部と球面軸受けとの摺接部を外部から遮断する、ブシュの上下に配置された一対のダストブーツと;
上方のダストブーツを覆う雪よけ部材と;
を備えたことを特徴とする水平配置型ダンパのアイ部材。
【請求項2】
シャフトの外周とブシュの端面に臨む環状の凹部をさらに備え、ダストブーツは凹部に収装され、雪よけ部材は凹部を覆うようにシャフトの外周に装着されることを特徴とする請求項1に記載の水平配置型ダンパのアイ部材。
【請求項3】
雪よけ部材は内周をシャフトに形成された段差に支持され、外周を凹部の外縁に上方から当接するゴム板で構成されることを特徴とする請求項2に記載の水平配置型ダンパのアイ部材。
【請求項4】
雪よけ部材を防護するカバーをさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の水平配置型ダンパのアイ部材。
【請求項5】
カバーは外周を凹部の外側においてアイ部材に固定され、雪よけ部材の外周部を覆うとともに、中央にシャフトの貫通孔を備えることを特徴とする請求項4に記載のの水平配置型ダンパのアイ部材。
【請求項6】
貫通孔とシャフトの外周との間にはシャフトのアイ部材に対する揺動を許容する隙間が設けられ、カバーと雪よけ部材の外周との間に雪よけ部材の水平方向の変位を許容する隙間が設けられることを特徴とする請求項5に記載のの水平配置型ダンパのアイ部材。
【請求項7】
カバーは金属材料で構成されることを特徴とする請求項4に記載の水平配置型ダンパのアイ部材。
【請求項8】
雪よけ部材は上方のダストブーツの上方のみに設けられることを特徴とする請求項4に記載の水平配置型ダンパのアイ部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−227050(P2009−227050A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73752(P2008−73752)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】