説明

永久磁石電動機

【課題】効率低下を抑制しながら、回転子に連通孔を設けることができる永久磁石電動機を提供する。
【解決手段】永久磁石電動機の回転子10には、永久磁石12a〜12dが挿入される磁石挿入孔11a〜11d、連通孔18、回転軸20が挿入される回転軸挿入孔19が設けられている。固定子30には、スロット33を形成するティース32が設けられている。連通孔18は、磁石挿入孔11a〜11dを形成する壁のうち、永久磁石12a〜12dより回転軸挿入孔19側に配置されている内壁に沿った線に平行であり、内壁に沿った線から回転軸挿入口19側にティース32のティース幅だけ離れた第1の境界線と内壁に沿った線により形成される第1の領域と、内壁に沿った線と各主磁極部のd軸と交差する点から隣接する主磁極部の方向に延び、回転子10の飽和磁束密度と、永久磁石12a〜12dの磁束密度との比を傾きとする第2の境界線と内壁に沿った線により形成される第2の領域に設けられていない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石を用いた永久磁石電動機、特に、回転子に設けられている磁石挿入孔に永久磁石が挿入されている永久磁石電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
空調装置(エアコン)や冷蔵庫等の圧縮機(コンプレッサ)を駆動する電動機、車両を駆動する電動機や車両に搭載されている車載機器を駆動する電動機として、磁石挿入孔に永久磁石が挿入された回転子を有する永久磁石電動機が用いられている。このような永久磁石電動機は、通常、“永久磁石埋込型電動機(IPMモータ)”と呼ばれている。
圧縮機を駆動する電動機(圧縮機駆動用電動機)として用いられる永久磁石電動機は、例えば、図21に示す構成を有している。図21は、永久磁石電動機の、軸方向に直角な断面図である。永久磁石電動機は、回転子910と固定子930を備えている。
回転子910は、電磁鋼板を積層して形成される回転子鉄心(回転子コア)911により構成されている。回転子910(厳密には、回転子鉄心911)には、回転軸920を挿入する回転軸挿入孔919が設けられている。また、回転子910には、主磁極部と補助磁極部が周方向に交互に設けられている。主磁極部には、永久磁石912a〜912dを挿入する磁石挿入孔911a〜911dが設けられている。なお、隣接する主磁極部の磁石挿入孔911a〜911dには、異なる極性の永久磁石が挿入される。
固定子930は、電磁鋼板を積層して形成される固定子鉄心(固定子コア)931により構成されている。固定子930(厳密には、固定子鉄心931)には、回転子910の外周面と対向する個所にティース932が形成されている。ティース932によってスロット933が形成され、スロット933内には固定子コイル(図示省略)が収納される。固定子930は、リング(ケース)940内に収容される。
エアコン(空調装置)は、永久磁石電動機により駆動され、冷却媒体を圧縮する圧縮機、冷却媒体の熱を放熱する室外熱交換器、室内の空気から熱を吸収する室内熱交換器等により構成されており、冷却媒体が循環するように構成されている。ここで、冷却媒体が永久磁石電動機(圧縮機駆動用電動機)内を通過できるようにするために、永久磁石電動機には、冷却媒体を流す冷却媒体通路が、軸方向に連通して設けられている。例えば、図21に示すように、固定子930(固定子鉄心931)の外周面に、軸方向に沿って切欠部934aが形成されている。そして、切欠部934aとリング(ケース)940によって、軸方向に連通する連通孔934が構成される。この連通孔934が冷却媒体通路として用いられる。なお、永久磁石電動機の回転子と固定子の間の間隙(ギャップ)も冷却媒体通路として用いられる。
なお、永久磁石電動機の回転子910(回転子鉄心911)に、軸方向に連通する連通孔を設け、連通孔を冷却媒体通路として用いたものも知られている。(特許文献1参照)
【特許文献1】特開平2001−161040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
圧縮機、例えば、ロータリーコンプレッサは、密閉容器内に、圧縮機の機械部分を潤滑する潤滑油が噴霧状の状態で冷却媒体と混在している。ここで、永久磁石電動機に設けられている冷却媒体通路の総断面積が小さい場合には、冷却媒体の速度が速くなる。冷却媒体の速度が遅い場合には、噴霧状の潤滑油は自重で落下するが、冷却媒体の速度が速い場合には、噴霧状の潤滑油は冷却媒体とともに圧縮機の吐出管から排出される。噴霧状の潤滑油が圧縮機の吐出管から吐出されると、熱交換器での熱交換効率が低下する。したがって、圧縮機駆動用電動機として用いられている永久磁石電動機に設けられている冷却媒体通路(連通孔)の総断面積が大きい方が好ましい。
一方、固定子に設けられる冷却媒体通路(連通孔)の総断面積が大きくなると、固定子の磁束通路が狭くなり、固定子の磁束密度が高くなる。固定子の磁束密度が高くなると、固定子の鉄損が増大し、永久磁石電動機の効率が低下する。
このため、固定子に設けられる冷却媒体通路(連通孔)の総断面積の増大を抑えながら、永久磁石電動機に設けられる冷却媒体通路(連通孔)の総断面積を増大させる技術の開発が要望されている。
ここで、固定子に設ける連通孔の総断面積を抑えながら、永久磁石電動機に設ける連通孔の総断面積を大きくする方法として、特許文献1に記載されている、回転子に連通孔を設ける技術を用いることが考えられる。
しかしながら、本発明者による検討の結果、回転子に連通孔を設ける場合、連通孔の配設位置によって永久磁石電動機の効率が大きく変化することを見出した。
本発明は、永久磁石電動機の効率低下を抑制しながら、回転子に連通孔を設けることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するための本発明の第1発明は、請求項1に記載されたとおりの永久磁石電動機である。
本発明の永久磁石電動機は、空調装置(エアコン)や冷蔵庫等の圧縮機(コンプレッサ)を駆動する電動機(圧縮機駆動電動機)、車両を駆動する電動機や車両に搭載されている車載機器を駆動する電動機等種々の用途に用いることができる。
本発明の永久磁石電動機は、固定子と回転子を備えている。固定子は、典型的には、電磁鋼板を積層して形成される固定子鉄心により構成される。固定子には、回転子の外周面と対向する箇所にティースが設けられている。ティースは、典型的には、ティース基部と、ティース基部の周方向両側に設けられているティース端部により構成され、ティース基部とティース端部の先端側の端面によってティース先端面が形成される。ティースによってスロットが形成されており、スロットには、固定子巻線が収納されている。
回転子は、典型的には、積層鋼板を積層して形成される回転子鉄心により構成される。回転子には、回転軸挿入孔が設けられている。また、回転子には、軸方向に直角な断面で見て、主磁極部と補助磁極部が周方向に交互に配置されている。主磁極部には磁石挿入孔が設けられており、磁石挿入孔には、隣接する主磁極部で極性が異なるように永久磁石が挿入されている。これにより、永久磁石の磁束によるマグネットトルクと、補助磁極部の突極性によるリラクタンストルクの両方を利用することができる。
磁石挿入孔は、軸方向に直角な断面で見て、回転軸挿入孔側に配置されている内壁と、内壁に対して回転軸挿入孔と反対側に配置されている外壁と、回転子の外周面に対向する位置に配置されている端壁により構成されている。典型的には、内壁と外壁は平行(略平行を含む)に形成され、端壁は、回転子の外周面と平行(略平行を含む)に形成される。磁石挿入孔の形状によっては、内側側壁や外側側壁が設けられる。
さらに、回転子には、軸方向に連通する連通孔が設けられている。回転子の連通孔は、典型的には、回転子を構成する回転子鉄心に形成された孔によって構成される。本発明では、連通孔を、磁石挿入孔の内壁に沿った線に平行であり、内壁に沿った線から回転軸挿入口側にティース幅だけ離れた第1の境界線と内壁に沿った線により形成される第1の領域と、内壁に沿った線と主磁極部のd軸と交差する点から隣接する主磁極部の方向に延び、回転子の飽和磁束密度と、磁石挿入孔に挿入された永久磁石から回転子に流れる磁束の磁束密度との比を傾きとする第2の境界線と内壁に沿った線により形成される第2の領域に設けないように設定している。「連通孔を第1の領域と第2の領域に設けない」構成は、第1の領域及び第2の領域のいずれにも連通孔が設けられていない構成を意味する。第1の境界線と内壁に沿った線により形成される第1の領域は、第1の境界線上の領域を含まないように設定するのが好ましい。また、第2の境界線と内壁に沿った線により形成される第2の領域は、第2の境界線上の領域を含まないように設定する方が好ましい。
第1の境界線と内壁に沿った線により第1の領域を形成する構成、第2の境界線と内壁に沿った線により第2の領域を形成する構成には、第1の境界線と内壁に沿った線とさらに他の線(例えば、内側側線)により第1の領域を形成する態様、第2の境界線と内壁に沿った線とさらに他の線(例えば、内側側壁)により第2の領域を形成する態様を包含する。
なお、一般的に、永久磁石電動機を設計する場合には、磁石挿入孔に挿入された永久磁石から回転子(回転子鉄心)に流れる磁束の磁束密度(設計磁束密度)は、永久磁石の磁束密度(設定磁束密度)より小さくなるように設計される。
ここで、回転子の軸方向に直角な断面において、回転子の中心と主磁極部の周方向中央部とを結ぶ線を「d軸」という。
磁石挿入孔の内壁に沿った線は、主磁極部に一つの磁石挿入孔が設けられている場合には、一つの磁石挿入孔の内壁に沿った線を意味し、主磁極部に周方向に沿って複数の磁石挿入孔が設けられている場合には、各磁石挿入孔の内壁に沿って線を結んだ線を意味し、主磁極部に、回転軸挿入孔から回転子の外周面の方向に複数の磁石挿入孔が設けられている場合には、回転軸挿入孔側に設けられている磁石挿入孔の内壁に沿った線を意味する。第2の境界線の傾きは、回転子の飽和磁束密度と磁石挿入孔に挿入される永久磁石から回転子に流れる磁束の磁束密度の比によって決定されるため、回転子を構成する材料や永久磁石を構成する材料によって異なる。
連通孔を、第1の境界線と内壁に沿った線により形成される第1の領域に設けないことにより、q軸磁束を流す磁束通路を確保することができる。これにより、リラクタンストルクの低下を抑制しながら(永久磁石電動機の効率低下を抑制しながら)連通孔を回転子に設けることができる。また、連通孔を、第2の境界線と内壁に沿った線により形成される第2の領域に設けないことにより、d軸磁束を流す磁束通路を確保することができる。これにより、マグネットトルクの低下を抑制しながら(永久磁石電動機の効率低下を抑制しながら)連通孔を回転子に設けることができる。本発明では、q軸磁束を流す磁束通路の確保による効率低下抑制効果と、d軸磁束を流す磁束通路の確保による効率低下抑制効果を得ることができる。
一般的に、電磁鋼板を積層して形成される回転子鉄心により回転子を構成する場合には、回転子鉄心を一体的に固定するためのカシメピンを挿入するカシメピン挿入孔が設けられる。カシメピン挿入孔の配設位置は、磁石挿入孔の形状等によって選択される。本発明の「回転子の連通孔」は、カシメピンを挿入するためのカシメピン挿入孔を包含しない。本発明の「回転子の連通孔」は、典型的には、熱交換器に供給する冷却媒体を流す冷却媒体通路、回転子を冷却する冷却媒体(例えば、冷却風)を流す冷却用通路、回転子の重量を低減するための孔として使用される。カシメピン挿入孔が第1の領域や第2の領域に設けられる場合には、例えば、磁性体で構成されたカシメピンを用いることにより、本発明の効果が低減するのを防止することができる。
なお、本発明の永久磁石電動機を、固定子に設けた連通孔と回転子に設けた連通孔によって冷却媒体通路を構成する圧縮機駆動用電動機として用いる場合には、固定子に設ける連通孔の総断面積を低減する構成と、効率低下を抑制しながら回転子に連通孔を設ける構成を組み合わせることができる。これにより、冷却媒体通路の総断面積を確保しながら、永久磁石電動機全体の効率を向上させることができる。
【0005】
本発明の第2発明は、請求項2に記載されたとおりの永久磁石電動機である。
本発明では、回転子の連通孔を、磁石挿入孔の内壁に沿った線に平行であり、内壁に沿った線から回転軸挿入口側にティース幅だけ離れた第1の境界線と内壁に沿った線により形成される第1の領域、あるいは、内壁に沿った線と主磁極部のd軸と交差する点から隣接する主磁極部の方向に延び、回転子の飽和磁束密度と、磁石挿入孔に挿入された永久磁石から回転子に流れる磁束の磁束密度との比を傾きとする第2の境界線と内壁に沿った線により形成される第2の領域の一方に設けられていない。
本発明の連通孔は、第1発明の連通孔と同様の構成の連通孔を用いることができる。
前述したように、連通孔が、第1の境界線と内壁に沿った線により形成される第1の領域に設けられていないことにより、q軸磁束を流す磁束通路を確保することができ、永久磁石電動機の効率低下を抑制することができる。また、連通孔が、第2の境界線と内壁に沿った線により形成される第2の領域に設けられていないことにより、d軸磁束を流す磁束通路を確保することができ、永久磁石電動機の効率低下を抑制することができる。
本発明では、q軸磁束を流す磁束通路の確保による効率低下抑制効果あるいはd軸磁束を流す磁束通路の確保による効率低下抑制効果を得ることができる。
【0006】
本発明の第3発明は、請求項3に記載されたとおりの永久磁石電動機である。
本発明では、回転子の外周面は、主磁極部のd軸と交差し、外周方向に突状に形成されている第1の曲線面と、補助磁極部のq軸と交差し、外周方向に突状に形成されている第2の曲線面が交互に接続されて形成されている。そして、第2の曲線面の曲率が第1の曲線面の曲率より大きく設定されている。
ここで、回転子の軸方向に直角な断面において、回転子の中心と補助磁極部の周方向中央部とを結ぶ線を「q軸」という。
第1及び第2の曲線面の形状は、外周方向に突状に形成されている曲線形状であればよい。第1及び第2の曲線面の周方向の長さ(回転子の中心に対する角度)は適宜設定される。
本発明では、回転子の特定箇所に磁束が集中するのを防止することができるとともに、磁束量の変化を小さくして起電力波形に含まれる高調波成分を低減することができ、効率を十分に向上させることができる。
【0007】
本発明の第4発明は、請求項4に記載されたとおりの永久磁石電動機である。
本発明では、磁石挿入孔は、回転子の外周面に対向して配置されている端壁を有している。そして、回転子の外周面の、端壁と対向する個所に切欠部が形成されている。あるいは、回転子の外周面と磁石挿入孔の端壁との間に孔が設けられている。孔は空隙であってもよいし、非磁性体が充填されていてもよい。
本発明では、磁石挿入孔に挿入されている永久磁石が短絡されるのを防止することができる。
【0008】
本発明の第5発明は、請求項5に記載されたとおりの永久磁石電動機である。
本発明では、主磁極部には、磁石挿入孔が、回転軸挿入孔から回転子の外周面の方向に複数層設けられている。そして、複数層の磁石挿入孔のうち、回転軸挿入孔側に設けられている磁石挿入孔の内壁に基づいて、第1及び第2の境界線が設定されている。
本発明では、主磁極部に磁石挿入孔が複数層設けられている回転子を有する永久磁石電動機に対しても、効率低下を抑制しながら回転子に連通孔を設けることができる。
【0009】
本発明の第6発明は、請求項6に記載されたとおりの永久磁石電動機である。
本発明では、回転子は電磁鋼板により構成され、永久磁石としてネオジウム磁石が用いられている。そして、第2の境界線の傾きが0.5(略0.5を含む)に設定されている。
永久磁石としてネオジウム磁石を用いることにより、高効率の永久磁石電動機を得ることができる。一般的に、電磁鋼板の飽和磁束密度は約1.8テスラであり、また、ネオジウム磁石から回転子に流れる磁束の磁束密度(設計磁束密度)が約0.9テスラに設計される。この場合、第2の境界線の傾きとして約0.5が設定される。
本発明では、電磁鋼板を積層して回転子(回転子コア)を構成し、ネオジウム磁石を永久磁石として用いた永久磁石電動機に対しても、効率低下を抑制しながら回転子に連通孔を設けることができる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1〜5に記載の永久磁石電動機を用いれば、効率低下を抑制しながら、回転子に連通孔を設けることができる永久磁石電動機を得ることができる。
なお、本発明の永久磁石電動機を、固定子及び回転子に連通孔を設け永久磁石電動機として構成する場合には、固定子に設ける連通孔の総断面積を低減する構成と、効率低下を抑制しながら回転子に連通孔を設ける構成を組み合わせることができる。この場合には、連通孔の総断面積を確保しながら、永久磁石電動機全体の効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、以下の各実施の形態では、圧縮機駆動用電動機として用いられる永久磁石電動機について説明する。また、磁極数が4(極対数が2)である回転子と、スロットに固定子巻線が分布巻方式で収納されている永久磁石電動機について説明する。
【0012】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態を図1及び図2に示す。なお、図1は第1の実施の形態の軸方向に直角な断面図であり、図2は図1の実施の形態の詳細な説明図である。
本実施の形態では、回転子(ロータ)10と固定子(ステータ)30を有している。
本実施の形態では、回転子10は、電磁鋼板を積層して形成される回転子鉄心(回転子コア)11により構成されている。
回転子10(厳密には、回転子鉄心11)には、回転中心部に回転軸挿入孔19が設けられている。回転軸挿入孔19には、典型的には、回転軸挿入孔19の内径より大きい外径を有する(「締め代」を有する)回転軸20が、焼き嵌め方法や圧入方法によって挿入される。「焼ばめ方法」は、回転子10を加熱することによって回転軸挿入孔19の内径を大きくした後、回転軸20を回転軸挿入孔19に挿入する方法である。「圧入方法」は、強力な力で回転軸20を押すことによって、回転軸20を回転軸挿入孔19に挿入する方法である。
また、回転子10には、軸方向に直角な断面で見て、磁石挿入孔11a、11b、11c、11dが設けられている主磁極部a、b、c、dと、補助磁極部ab、bc、cd、daが周方向に交互に配置されている。磁石挿入孔11a〜11dには、永久磁石12a〜12dが挿入される。永久磁石12a〜12dは、典型的には、隙間嵌め方法を用いて磁石挿入孔に挿入される。すなわち、永久磁石12a〜12dが磁石挿入孔11a〜11dに挿入された時に、永久磁石12a〜12dと磁石挿入孔11a〜11dを形成する壁との間に隙間が形成されるように、磁石挿入孔11a〜11dの内周形状(壁間の距離)あるいは永久磁石12a〜12dの外周形状(軸方向に直角な断面の長さあるいは幅)が設定される。また、磁石挿入孔11a〜11dに挿入される永久磁石12a〜12dの極性は、隣接する主磁極部a〜dが異なる極性となるように選択される。
本実施の形態では、永久磁石12a〜12dは、永久磁石12a〜12dの中心が磁石挿入孔11a〜11dの中心(d軸)と略一致するように磁石挿入孔12a〜12dに挿入される。
永久磁石としては、フェライト磁石や希土類磁石を用いることができる。フェライト磁石は、温度が高くなると磁束密度が低下する特性を有している。これに対し、希土類磁石は、温度が高くなっても磁束密度の低下が少ない特性を有している。ここで、圧縮機の内部は温度が高くなるため、永久磁石電動機を圧縮機駆動用電動機として用いる場合には、希土類磁石を永久磁石として用いるのが好ましい。特に、希土類系のネオジウム磁石を用いるのが好ましい。ネオジウム磁石は、例えば、Nd(ネオジウム)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、B(ボロン)を組成成分として構成される。
これにより、本実施の形態の永久磁石電動機は、主磁極部a〜dの磁石挿入孔11a〜11dに挿入されている永久磁石12a〜12dの磁束によるマグネットトルクと、補助磁極部ab〜daの突極性によるリラクタンストルクの両方を利用することができる。
なお、一般的には、電磁鋼板にはカシメピン挿入孔が形成される。そして、電磁鋼板を積層して積層体を形成した後、カシメピン挿入孔にカシメピンを挿入することによって積層体を一体的に固定する。本実施の形態では、カシメピンを磁性体で形成している。これにより、カシメピン挿入孔が、後述する第1の領域あるいは第2の領域に設けられた場合でも、カシメピン挿入孔による磁束通路の減少を防止することができる。本発明の連通孔には、このカシメピン挿入孔は含まれない。
【0013】
本実施の形態では、主磁極部a〜dには、軸方向に直角な断面形状が直線状である磁石挿入孔11a〜11dが1層設けられ、磁石挿入孔11a〜11dには、軸方向に直角な断面形状が長方形形状を有する(平板形状)永久磁石が挿入されている。
磁石挿入孔11a〜11dが設けられている主磁極部a〜d、補助磁極部ab〜daは、同様の構成であるため、主磁極部a、主磁極部aの周方向両側に設けられている補助磁極部da、abの構成について説明する。なお、各主磁極部a〜dの構成要素の符号として、各主磁極部a〜dの構成要素であることを示す「a」〜「d」を付した符号を用いている。
主磁極部aに設けられている磁石挿入孔11aは、外壁11a1、内壁11a2、端壁11a3、11a4、内側側壁11a5、11a6により形成されている。
内壁11a2は、回転軸挿入孔19(回転子10の回転中心O)側に配置されている。外壁11a1は、内壁11a2に対して、回転軸挿入孔19と反対側に配置されている。本実施の形態では、内壁11a2と外壁11a1は、主磁極部aのd軸に直交し、平行に形成されている。なお、内壁11a2と外壁11a1は、d軸に厳密に直交していなくてもよく(略直角であればよい)、また、厳密に平行でなくてもよい(略平行でもよい)。
端壁11a3、11a4は、回転子10の外周面に対向する位置に配置されている。本実施の形態では、端壁11a3、11a4は、回転子10の外周面に平行に形成されている。勿論、端壁11a3、11a4は、回転子10の外周面に厳密に平行でなくてもよい(略平行であってもよい)。
なお、以下に説明する各実施の形態では、特に断りがない限り、磁石挿入孔の外壁と内壁は平行(略平行を含む)に形成され、端壁は回転子の外周面に平行(略平行を含む)に形成されている。
内側側壁11a5、11a6は、隣接する主磁極部に対向する位置に設けられ、補助磁極部に磁束通路を形成する。
また、磁石挿入孔11aには、内側に突出し、永久磁石を位置決めするための位置決め用突起11a7、11a8が形成されている。これにより、永久磁石12aが磁石挿入孔11aに挿入されると、永久磁石12aは位置決め用突起11a7、11a8によって移動が規制される。また、本実施の形態では、永久磁石12a〜12dが磁石挿入孔11a〜11dに挿入された時、永久磁石12a〜12dの端部と回転子10の外周面との間に空隙部が形成される。この空隙部によって、永久磁石12a〜12dの端部での磁束短絡量を低減することができる。これにより、有効磁束量を増加させることができ、効率が向上する。なお、空隙には、非磁性体を充填することもできる。
また、回転子10の外周面には、磁石挿入孔11aの端壁11a3、11a4と対向する箇所に、切欠部10a1、10a2が設けられている。すなわち、回転子10の回転中心Oを中心とする曲率半径Rの円形の面から、端壁11a3、11a4に対向する箇所に、深さD及び周方向の長さTを有する(あるいは、回転中心Oに対する角度)切欠部10a1、10a2を設けている。
これにより、回転子10の外周面は、主磁極部a〜dのd軸と交差する外周面10A〜10D、補助磁極部ab〜daのq軸と交差する外周面10AB〜10DAを有している。なお、「d軸」は、回転子の軸方向に直角な断面において、回転子中心Oと主磁極部a〜dの周方向中央部とを結ぶ線である。また、「q軸」は、回転子の軸方向に直角な断面において、回転子中心Oと補助磁極部ab〜daの周方向中央部とを結ぶ線である。また、外周面10A〜10D、10AB〜10DAは、回転子中心Oから曲率半径Rの円弧形状を有している。
【0014】
固定子30は、電磁鋼板を積層して形成される固定子鉄心(固定子コア)31により構成されている。また、固定子30(固定子鉄心31)は、リング(ケース)40内に収容される。
固定子(厳密には、固定子鉄心31)には、回転子10の外周面と対向する箇所にティース32が設けられている。ティース32は、ティース基部32aと、ティース基部32aの周方向(回転子10の回転方向)の両側に設けられているティース端部32b、32cにより構成されている。そして、ティース基部32a、ティース端部32b、32cの先端面によってティース先端面32dが形成されている。回転子10は、回転子10の外周面10A〜10Dと、ティース32のティース先端面32dとの間の間隔(ギャップ)がgとなるように配設されている。
また、ティース32によってスロット33が形成されている。そして、スロット33には、固定子コイル(図示省略)が分布巻方式で収納されている。
なお、一般的には、電磁鋼板にはカシメピン挿入孔が形成される。そして、電磁鋼板を積層して積層体を構成した後、カシメピン挿入孔にカシメピンを挿入することによって積層体を固定する。本実施の形態では、カシメピンを磁性体で形成している。これにより、積層鋼板に形成されるカシメピン挿入孔による磁束通路の減少を防止することができる。
【0015】
永久磁石電動機には、圧縮機の吸入管に流入した冷却媒体を圧縮機の吐出管から吐出するための冷却媒体通路が設けられている。
本実施の形態では、図1に示すように、永久磁石電動機の固定子30(固定子鉄心31)の外周面に、軸方向に沿って切欠部34aが形成されている。そして、固定子30の外周面に形成されている切欠部34aと、固定子30を収容しているリング(ケース)40によって、軸方向に連通する冷却媒体通路34が設けられる。固定子30に設けられる冷却媒体通路34の配設位置や断面積は適宜設定される。
なお、固定子30を構成する固定子鉄心31に孔を形成し、冷却媒体通路として用いることもできる。
また、永久磁石電動機の回転子10には、軸方向に沿って連通孔18が形成されている。この連通孔18は、冷却媒体通路として用いられる。
【0016】
リラクタンストルクを発生させるq軸磁束は、主磁極部を挟んで隣接して配置されている補助磁極部の間の磁束通路を流れる。主磁極部を挟んで隣接して配置されている補助磁極部間をq軸磁束が流れる磁束通路は略同じであるため、以下では、主磁極部aを挟んで隣接して配置されている補助磁極部daと補助磁極部abの間の磁束通路について説明する。
図3には、主磁極部aを挟んで隣接して配置されている補助磁極部daと補助磁極部abの間を、ティース32Bから、補助磁極部abの外周面10AB、補助磁極部ab、磁石挿入孔11aより回転軸挿入孔19側(回転中心O側)の箇所、補助磁極da、補助磁極部daの外周面10DAを介してティース32Aの方向に流れるq軸磁束が矢印で示されている。なお、q軸磁束は、逆方向にも流れる。
ここで、分布巻方式を用いて固定子コイルをスロット33に収容する場合には、ティース32のティース幅T(ティース基部32aの最も狭い幅)が、補助磁極部10abの外周面10AB、補助磁極部10daの外周面10DAの周方向の長さより短くなる。このため、q軸磁束の量は、ティース32のティース幅Tによって制限される。したがって、q軸磁束を流すための磁束通路としては、ティース32のティース幅Tを有する磁束通路が確保されていればよい。
補助磁極部daと補助磁極部abの間に形成され、ティース32のティース幅Tを有する磁束通路は、図3に右下がり斜線で示す第1の領域Maである。この第1の領域Maは、簡略的には、磁石挿入孔11aの、回転軸挿入孔19側(回転中心O側)に配置されている内壁11a2に沿った線saと、線saに平行であり、線saから回転軸挿入孔19側に距離W(=ティース幅T)だけ離れた第1の境界線maとによって決定される。
同様に、補助磁極部abと補助磁極部bcの間に形成され、ティース幅Tを有する磁束通路は、磁石挿入孔11bの、回転軸挿入孔19側に配置されている内壁11b2に沿った線sbと、線sbに平行であり、線sbから回転軸挿入孔19側に距離W(=ティース幅T)だけ離れた第1の境界線mbとによって決定される第1の領域Mbである。また、補助磁極部bcと補助磁極部cdの間に形成され、ティース幅Tを有する磁束通路は、磁石挿入孔11cの、回転軸挿入孔19側に配置されている内壁11c2に沿った線scと、線scに平行であり、線scから回転軸挿入孔19側に距離W(=ティース幅T)だけ離れた第1の境界線mcとによって決定される第1の領域Mcである。また、補助磁極部cdと補助磁極部daの間に形成され、ティース幅Tを有する磁束通路は、磁石挿入孔11dの、回転軸挿入孔19側に配置されている内壁11d2に沿った線sdと、線sdに平行であり、線sdから回転軸挿入孔19側に距離W(=ティース幅T)だけ離れた第1の境界線mdによって決定される第1の領域Mdである。
したがって、回転子10に連通孔18を設ける場合、主磁極部a〜dに設けられている磁石挿入孔11a〜11dの内壁11a2〜11d2を基準として決定される第1の境界線ma〜mdと、内壁11a2〜11d2に沿った線sa〜sdにより形成される第1の領域Ma〜Mdに連通孔18を設けないことにより、例えば、第1の境界線ma〜mdより回転軸挿入孔19側の領域に連通孔18を設けることにより、q軸磁束の量の減少を抑制することができ、リラクタンストルクの低下を抑制することができる。すなわち、永久磁石電動機の効率低下を抑制することができる。
なお、第1の領域Ma〜Mdは、第1の境界線ma〜md上の領域を含まないように設定するのが好ましい。
【0017】
マグネットトルクを発生させるd軸磁束は、補助磁極部を挟んで隣接して配置されている主磁極部の間の磁束通路を流れる。補助磁極部を挟んで隣接して配置されている主磁極部間をd軸磁束が流れる磁束通路は略同じであるため、以下では、補助磁極部bcを挟んで隣接して配置されている主磁極部bと主磁極部cの間の磁束通路及び補助磁極部cdを挟んで隣接して配置されている主磁極部cと主磁極部dの間の磁束通路について説明する。
図4には、補助磁極部bcを挟んで隣接して配置されている主磁極部bと主磁極部cの間を、ティース32E、32F、32Gから、主磁極部cの外周面10C、主磁極部c、主磁極部cに設けられている磁石挿入孔11cに挿入されている永久磁石12c、主磁極部cに隣接する補助磁極部bc、補助磁極部bcに隣接する主磁極部bに設けられている磁石挿入孔11bに挿入されている永久磁石12b、主磁極部b、主磁極部bの外周面10Bを介してティース32C、32Dの方向に流れるd軸磁束と、補助磁極部cdを挟んで隣接して配置されている主磁極部cと主磁極部dの間を、ティース32E、32F、32Gから、主磁極部cの外周面10C、主磁極部c、主磁極部cに設けられている磁石挿入孔11cに挿入されている永久磁石12c、主磁極部cに隣接する補助磁極部cd、補助磁極部cdに隣接する主磁極部dに設けられている磁石挿入孔11dに挿入されている永久磁石12d、主磁極部d、主磁極部dの外周面10Dを介してティース32H、32Iの方向に流れるd軸磁束が矢印で示されている。d軸磁束は、主磁極部に設けられている磁石挿入孔に挿入されている永久磁石と、当該主磁極部に対して周方向両側に隣接して配置されている主磁極部に設けられている磁石挿入孔の間を流れる(図4では、永久磁石12cから流れる磁束は、永久磁石12b、12dの方向に2分される。)。なお、d軸磁束は、逆方向にも流れる。
ここで、一般的に、電磁鋼板固有の磁束密度の最大値は、永久磁石の磁束密度の最大値より小さい。このため、隣接する主磁極部に設けられている永久磁石の間を流れる磁束の量の最大値は、永久磁石から回転子に流れる磁束の量の最大値によって制限される。また、電磁鋼板を積層して形成された回転子(回転子鉄心)を流れる磁束の量の最大値は電磁鋼板の飽和磁束密度に基づいて定まる。なお、永久磁石から回転子(回転子鉄心)に流れる磁束の量の最大値は永久磁石の磁束密度(設定磁束密度)に基づいて設計される。
このため、d軸磁束を流すための磁束通路としては、回転子10(回転子鉄心11)の飽和磁束密度と永久磁石12cから回転子10(回転子鉄心11)に流れる磁束の磁束密度によって定まる磁束通路が確保されていればよい。
主磁極部cと主磁極部b及びdの間に形成され、回転子10(回転子鉄心11)の飽和磁束密度と永久磁石12cから回転子10(回転子鉄心11)に流れる磁束密度によって定まる磁束通路は、図4に右斜線で示す第2の領域Nc1、Nc2である。この第2の領域Nc1、Nc2は、簡略的に、主磁極部cに設けられている磁石挿入孔11cの内壁11c2に沿った線scと、線scと主磁極部cのd軸が交差する点Pcから周方向に隣接する主磁極部b、dの方向に延び、回転子10(回転子コア)の飽和磁束密度に対応する長さLと永久磁石12cから回転子10(回転子鉄心11)に流れる磁束の磁束密度に対応する長さHとの比(H/L)の傾きを有する第2の境界線nc1、nc2とによって決定される。なお、点Pcは、主磁極部cに設けられている永久磁石の、回転軸挿入孔19側の側面の中心点を用いるのが好ましいが、通常、永久磁石の中心が主磁極部の中心(d軸)に略一致するように永久磁石12cが主磁極部cに配置されるため、本実施の形態では、線scとd軸が交差する点を点Pcとして用いている。
同様に、主磁極部aと主磁極部b及びdの間に形成される磁束通路は、主磁極部aに設けられている磁石挿入孔11aの内壁11a2に沿った線saと、線saと主磁極部aのd軸が交差する点から周方向に隣接する主磁極部b、dの方向に延び、回転子10の飽和磁束密度と永久磁石12aから回転子10に流れる磁束の磁束密度との比(H/L)に等しい傾きを有する第2の境界線na1、na2とによって決定される第2の領域Na1、Na2である。また、主磁極部bと主磁極部a及びcの間に形成される磁束通路は、主磁極部bに設けられている磁石挿入孔11bの内壁11b2に沿った線sbと、線sbと主磁極部bのd軸が交差する点から周方向に隣接する主磁極部a、cの方向に延び、回転子10の飽和磁束密度と永久磁石12bから回転子10に流れる磁束の磁束密度との比(H/L)に等しい傾きを有する第2の境界線nb1、nb2とによって決定される第2の領域Nb1、Nb2である。また、主磁極部dと主磁極部c及びaの間に形成される磁束通路は、主磁極部dに設けられている磁石挿入孔11dの内壁11dに沿った線sdと、線sdと主磁極部dのd軸が交差する点から周方向に隣接する主磁極部c、aの方向に延び、回転子10の飽和磁束密度と永久磁石12dから回転子10に流れる磁束の磁束密度との比(H/L)に等しい傾きを有する第2の境界線nd1、nd2とによって決定される第2の領域Nd1、Nd2である。
したがって、回転子10に連通孔18を設ける場合、主磁極部a〜dに設けられている磁石挿入孔11a〜11dの内壁11a2〜11d2を基準として決定される第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2と内壁11a2〜11d2に沿った線sa〜sdにより形成される第2の領域Na1、Na2〜Nd1、Nd2に連通孔18を設けないことにより、言い換えれば、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2より回転軸挿入孔19側の領域に連通孔18を設けることにより、d軸磁束の量の減少を抑制することができ、マグネットトルクの低下を抑制することができる。すなわち、永久磁石電動機の効率低下を抑制することができる。
なお、第2の領域Na1、Na2〜Nd1、Nd2は、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2上の領域を含まないように設定するのが好ましい。
【0018】
永久磁石電動機の永久磁石としてはフェライト磁石や希土類磁石等の種々の磁石を用いることができるが、永久磁石電動機を圧縮機駆動用電動機として用いる場合には、温度が高くなっても磁束密度の低下が低い希土類磁石が用いられる。また、希土類磁石の中でも、永久磁石電動機の効率向上の観点からネオジウム磁石が用いられる。一般的には、ネオジウム磁石の磁束密度(設定磁束密度)は、約1.1テスラ〜1.4テスラの範囲に設定される。
ここで、永久磁石電動機を製造する際、永久磁石から回転子(回転子鉄心)に流れる磁束の磁束密度が、設定磁束密度より低い磁束密度となるように設計される。例えば、永久磁石から回転子10(回転子鉄心11)に約0.9テスラの磁束密度(設計磁束密度)の磁束が流れるように設計される。
また、回転子を構成する電磁鋼板の飽和磁束密度は、一般的に、約1.8テスラである。
この場合、前述した、回転子10の飽和磁束密度に対応する長さLと永久磁石から回転子(回転子鉄心)に流れる磁束の磁束密度に対応する長さHとの比(H/L)は、(H/L=0.9/1.8=1/2)となる。すなわち、主磁極部a〜dに設けられている磁石挿入孔11a〜11dの内壁11a2〜11d2に沿った線sa〜sdと、線sa〜sdと主磁極部a〜dのd軸が交差する点から周方向両側に隣接する主磁極部の方向に延び、傾きが略0.5である第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2とによって決定される第2の領域Na1、Na2〜Nd1、Nd2が形成される。
【0019】
連通孔18を、図5に示す回転子10の領域X、すなわち、第1の境界線ma〜mdと、磁石挿入孔11a〜11dの内壁11a2〜11d2に沿った線sa〜sdとにより形成される第1の領域Ma〜Md(図3参照)と、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2と磁石挿入孔11a〜11dの内壁11a2〜11d2に沿った線sa〜sdとにより形成される第2の領域Na1、Na2〜Nd1、Nd2(図4参照)に設けない場合、例えば、第1の境界線ma〜mdより回転軸挿入孔19側の領域であって、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2より回転軸挿入孔19側の領域Yに設けた場合の永久磁石電動機の効率について検討した結果を図6に示す。図6において、横軸は連通孔の総断面積を示し、縦軸は永久磁石電動機の効率を示している。なお、図6は、同じ大きさの固定子及び回転子を用い、連通孔の配置位置、数、断面積を変えた場合の「連通孔の総面積−効率」グラフを示している。
図6に示されているように、領域Xに連通孔18を設けないで領域Yに連通孔18を設けた場合には、連通孔18の総断面積が増大しても永久磁石電動機の効率は殆ど低下していない。一方、領域Xに連通孔18を設けた場合には、連通孔18の総断面積の増加とともに永久磁石電動機の効率が低下している。
したがって、図5に示す、各主磁極部a〜dの磁石収容孔11a〜11dの内壁11a2〜11d2に基づいて決定される第1の領域Ma〜Md(図3参照)と第2の領域Na1、Na2〜Nd1、Nd2(図4参照)を含む領域Xを確保した状態で、領域Xを除いた領域、例えば、第1の境界線ma〜mdより回転軸挿入孔19側の領域であって、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2より回転軸挿入孔19側の領域Yに連通孔18を設けることにより、永久磁石電動機の効率を低下させることなく、回転子10に連通孔18を設けることができる。
【0020】
前述したように、噴霧状の潤滑油の吐出による熱交換器での熱交換効率の低下を防止するためには、冷却媒体通路として用いられる連通孔の総断面積を大きくする必要がある。冷却媒体通路として用いる連通孔は、永久磁石電動機の固定子及び回転子のいずれに設けられていてもよい。
本実施の形態では、固定子30に連通孔34を設けるとともに、回転子10に連通孔18を設けている。
これにより、噴霧状の潤滑油の吐出による熱交換器での熱交換効率の低下を防止するために必要な連通孔の総断面積を確保する際に、固定子30に設けられる連通孔34の総断面積を低減することができる。
また、本実施の形態では、ティース幅、回転子の飽和磁束密度、永久磁石の磁束密度(設計磁束密度)によって決定される領域Xを除く領域Y、すなわち、磁石挿入孔11a〜11dの内壁11a2〜11d2より回転軸挿入孔19側に設定された第1の境界線ma〜md及び第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2より回転軸挿入孔19側の領域Yに連通孔18を設けている。これにより、永久磁石電動機の効率を低下させることなく、回転子10に連通孔18を設けることができる。
このように、本実施の形態では、固定子に設ける連通孔34の総断面積を低減して永久磁石電動機の効率を向上させる構成と、第1の境界線ma〜mdと第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2とによって決定される領域Xに連通孔18を設けない構成(領域Yに連通孔18を設ける構成)、すなわち、永久磁石電動機の効率を低下させることなく回転子10に連通孔18を設けることができる構成を組み合わせて用いることができる。これにより、永久磁石電動機の効率を向上させることができる。
【0021】
また、回転軸20を回転軸挿入孔19に挿入する時には、回転子10の外径を大きくする応力が永久磁石12a〜12dに加わる。特に、焼きばめ方法を用いて回転軸20を回転軸挿入孔19に挿入する時には、回転子10(回転子鉄心11)の熱膨張率と永久磁石12a〜12dの熱膨張率と違いによる応力も永久磁石12a〜12dに加わる。このため、回転軸20を回転軸挿入孔19に挿入する時に、永久磁石12a〜12dが割れたり、欠けたりする虞がある。
本実施の形態では、磁石挿入孔11a〜11dと回転軸挿入孔19の間に連通孔18が設けられている。これにより、回転子10の外径を大きくする応力が連通孔18で吸収される。また、焼きばめ方法を用いて回転軸20を回転軸挿入孔19に挿入する時には、連通孔18によって、永久磁石12a〜12dへの熱の伝達が抑制される。これにより、永久磁石12a〜12dの応力による割れや欠けを防止することができる。
【0022】
以上の説明では、簡略的に、磁石挿入孔11a〜11dに対応する第1の領域Ma〜Mdを、第1の境界線ma〜mdと内壁11a2〜11d2に沿った線sa〜sdにより形成し、磁石挿入孔11a〜11dに対応する第2の領域Na1、Na2〜Nd1、Nd2を、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2と内壁11a2〜11d2に沿った線sa〜sdにより形成したが、第1の領域Ma〜Md及び第2の領域Na1、Na2〜Nd1、Nd2をより正確に形成することもできる。例えば、図3に示すように、磁石挿入孔11aに対応する第1の領域Maを、第1の境界線maと、内壁11a2に沿った線saと、内側側壁11a5、11a6に沿った線sa2、sa3によって形成し、また、図4に示すように、磁石挿入孔11cに対応する第2の領域Nc1、Nc2を、第2の境界線nc1、nc2と、内壁11c2に沿った線scと、内側側壁11c5、11c6に沿った線sc2、sc3により形成することもできる(図3、図4に右下がり斜線で示す領域)。この場合には、より効果的に効率低下を抑制することができる第1の領域及び第2の領域を設定することができる。この場合、磁石挿入孔11b〜11dに対応する第1の領域Mb〜Md、第2の領域Nb1、Nb2〜Nd1、Nd2も同様に設定する。
また、第1の領域Ma〜Mdと第2の領域Na1、Na2〜Nd1、Nd2に連通孔18を設けない態様としては、第1の境界線ma〜mdより回転軸挿入孔19側の領域であって、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2より回転軸挿入孔19側の領域Yに連通孔を設ける態様や、磁石挿入孔11a〜11dの外壁11a1〜11d1より回転子10の外周面側の領域に連通孔を設ける態様が含まれる。なお、マグネットトルクを発生させる磁束を流す通路の面積を確保する観点からは、第1の境界線ma〜mdより回転軸挿入孔19側の領域であって、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2より回転軸挿入孔19側の領域Yに連通孔を設ける態様を用いるのが好ましい。
このような構成は、以下の各実施の形態でも用いることができる。
【0023】
第1の実施の形態では、断面形状が直線形状を有する1層の磁石挿入孔に、断面形状が長方形形状を有する永久磁石を挿入したが、磁石挿入孔や永久磁石の形状や数等は適宜変更可能である。以下に、他の実施の形態を説明する。
なお、以下の説明では、固定子は、図1及び図2に示した固定子と同様の固定子を用いているため、説明を省略する。また、磁石挿入孔に永久磁石を位置決めするための位置決め突部を省略して説明しているが、位置決め突部を設けることもできる。
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態を、図7〜9に示す。第2の実施の形態は、軸方向に直角な断面形状が台形形状を有する1層の磁石挿入孔に、軸方向に直角な断面形状が長方形形状方を有する永久磁石を複数挿入したものである。
本実施の形態では、回転子110には、各主磁極部a〜dには、軸方向に直角な断面形状が、外周方向に凹状(中心方向に突状)に形成されている台形形状を有している磁石挿入孔111a〜111dが1層設けられている。
磁石挿入孔111aは、外壁111a1、内壁111a2、外側側壁111a3、111a4、内側側壁111a5、111a6、端壁111a7、111a8により構成されている。また、磁石挿入孔111aには、断面形状が長方形形状を有する永久磁石112a1、112a2、112a3が挿入されている。他の磁石挿入孔111b〜111dは、磁石挿入孔111aと同様の構成である。
また、第1の実施の形態と同様に、回転子110の外周面には、磁石挿入孔111a〜111dの端壁に対向する箇所に、切欠部110a1、110a2〜110d1、110d2が形成されている。これにより、回転子110(回転子鉄心111)の外周面は、主磁極部a〜dに対応する外周面110A〜110D、補助磁極部ab〜daに対応する外周面110AB〜110DAにより構成されている。
【0024】
本実施の形態では、図8に示すように、磁石挿入孔111aの内壁111a2と、内壁111a2に沿った線saと平行であり、線saから回転軸挿入孔119側(回転中心O)に距離W(=ティース幅T)だけ離れた第1の境界線maとによって、磁石挿入孔111aに対応する第1の領域Maが形成されている。なお、図8に図示を省略しているが、磁石挿入孔111b〜111dの内壁111b2〜111d2と、第1の境界線maと同様の第1の境界線mb〜md(図9参照)とによって、磁石挿入孔111b〜111dに対応する第1の領域Mb〜Mdが形成されている。
また、図8に示すように、磁石挿入孔111cの内壁111c2と、内壁111c2に沿った線scと主磁極部cのd軸が交差する点Pcから、隣接する主磁極部b、dの方向に延び、回転子110(回転子鉄心111)の飽和磁束密度と永久磁石112c1から回転子110(回転子鉄心111)に流れる磁束の磁束密度の比を傾きとする第2の境界線nc1、nc2とによって、磁石挿入孔111cに対応する第2の領域Nc1、Nc2が形成されている。なお、図8に図示を省略しているが、磁石挿入孔111a、111b、111dの内壁111a2、111b2、111d2と、第2の境界線nc1、nc2と同様の第2の境界線na1、na2、nb1、nb2、nd1、nd2(図9参照)とによって、磁石挿入孔111a、111b、111dに対応する第2の領域Na1、Na2、Nb1、Nb2、Nd1、Nd2が形成されている。
そして、領域X(例えば、第1の境界線ma〜md(図9参照)と磁石挿入孔111a〜111dの内壁111a2〜111d2に沿った線sa〜sdにより形成される第1の領域Ma〜Md(図示省略)と、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2(図9参照)と磁石挿入孔111a〜111dの内壁111a2〜111d2に沿った線sa〜sdにより形成される第2の領域Na1、Na2〜Nd1、Nd2)に連通孔を設けないで、領域Y(第1の境界線ma〜mdより回転軸挿入孔119側の領域であって、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2より回転軸挿入孔119側の領域)に連通孔を設けている(図9参照)。
本実施の形態も、第1の実施の形態と同様の効果を有している。
【0025】
以上の説明では、簡略的に、第1の領域Ma〜Mdを、第1の境界線ma〜mdと内壁111a2〜111d2に沿った線sa〜sdにより形成し、第2の領域Na1、Na2〜Nd1、Nd2を、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2と内壁111a2〜111d2に沿った線sa〜sdにより形成したが、第1の領域Ma〜Md及び第2の領域Na1、Na2〜Nd1、Nd2をより正確に形成することもできる。例えば、図8に示すように、第1の領域Maを、第1の境界線maと、内壁111a2に沿った線saと、内側側壁111a5、111a6に沿った線sa2、sa3によって形成し、第2の領域Nc1、Nc2を、第2の境界線nc1、nc2と、内壁111c2に沿った線scと、内側側壁111c5、11c6に沿った線sc2、sc3により形成することもできる(図8に斜線で示す領域)。この場合、第1の領域Mb〜Md、第2の領域Na1、Na2、Nb1、Nb2、Nd1、Nd2も同様に設定する。
これにより、より効果的に効率低下を抑制することができる第1の領域及び第2の領域を形成することができる。
【0026】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態を図10〜12に示す。第3の実施の形態は、軸方向に直角な断面形状が、外周方向に凹状(中心方向に突状)に形成されているV字形状を有する1層の磁石挿入孔に、軸方向に直角な断面形状が長方形形状方を有する永久磁石を複数挿入したものである。
本実施の形態では、回転子210には、各主磁極部a〜dには、軸方向に直角な断面形状が、外周方向に凹状に形成されているV字形状を有している磁石挿入孔211a〜211dが1層設けられている。
磁石挿入孔211aは、外壁211a1、211a2、内壁211a3、211a4、端壁211a5、211a6により構成されている。また、磁石挿入孔211aには、断面形状が長方形形状を有する永久磁石212a1、212a2が挿入されている。他の磁石挿入孔211b〜211dは、磁石挿入孔211aと同様の構成である。
また、第1の実施の形態と同様に、回転子210(回転子鉄心211)の外周面には、磁石挿入孔211a〜211dの端壁に対向する箇所に、切欠部210a1、210a2〜210d1、210d2が形成されている。これにより、回転子210の外周面は、主磁極部a〜dに対応する外周面210A〜210D、補助磁極部ab〜daに対応する外周面210AB〜210DAにより構成されている。
【0027】
本実施の形態では、図11に示すように、磁石挿入孔211aの内壁211a3に沿った線sa1と、線sa1に平行であり、線sa1から回転軸挿入孔219側(回転中心O)に距離W(=ティース幅T)だけ離れた第1の境界線ma1とによって、また、磁石挿入孔211aの内壁211a4に沿った線sa2と、線sa2に平行であり、線sa2から回転軸挿入孔219側(回転中心O)に距離W(=ティース幅T)だけ離れた第1の境界線ma2とによって、磁石挿入孔211aに対応する第1の領域Ma1、Ma2が形成されている。なお、図11に図示を省略しているが、磁石挿入孔211b〜211dの内壁211b3、211b4〜211d3、211d4と、第1の境界線ma1、ma2と同様の第1の境界線mb1、mb2〜md1、md2(図12参照)とによって、磁石挿入孔211b〜211dに対応する第1の領域Mb1、Mb2〜Md1、Md2が形成されている。
また、図11に示すように、磁石挿入孔211cの内壁211c3に沿った線sc1及び磁石挿入孔211cの内壁211c4に沿った線sc2(磁石挿入孔の内壁に沿った線)と、線sc1及び線sc2と主磁極部cのd軸が交差する点Pcから、隣接する主磁極部b、dの方向に延び、回転子210(回転子鉄心211)の飽和磁束密度と永久磁石212c1、212c2から回転子210(回転子鉄心211)に流れる磁束の磁束密度の比を傾きとする第2の境界線nc1、nc2とによって、磁石挿入孔211cに対応する第2の領域Nc1、Nc2が形成されている。なお、図11に図示を省略しているが、磁石挿入孔211a、211b、211dの内壁211a3、211a4、211b3、211b4、211d3、211d4と、第2の境界線nc1、nc2と同様の第2の境界線na1、na2、nb1、nb2、nd1、nd2(図12参照)とによって、磁石挿入孔211a、211b、211dに対応する第2の領域Na1、Na2、Nb1、Nb2、Nd1、Nd2が形成されている。
そして、領域X(例えば、第1の境界線ma1、ma2〜md1、md2と磁石挿入孔211aの内壁211a3、211a4〜211d3、211d4に沿った線sa1、sa2〜sd1、sd2により形成される第1の領域Ma1、Ma2〜Md1、Md2と、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2と磁石挿入孔211a〜211dの内壁211a3、211a4〜211d3、211d4に沿った線sa1、sa2〜sd1、sd2により形成される第2の領域Na1、Na2〜Nd1、Nd2)に設けないで、領域Y(第1の境界線ma1、ma2〜md1、md2より回転軸挿入孔219側の領域であって、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2より回転軸挿入孔219側の領域)に連通孔を設けている(図12参照)。
本実施の形態も、第1の実施の形態と同様の効果を有している。
【0028】
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態を、図13〜15に示す。第4の実施の形態は、軸方向に直角な断面形状が、外周方向に凹状(中心方向に突状)に形成されている曲線形状を有する1層の磁石挿入孔に、軸方向に直角な断面形状が曲線形状を有する永久磁石を挿入したものである。
本実施の形態では、回転子310には、各主磁極部a〜dに、軸方向に直角な断面形状が、外周方向に凹状に形成されている曲線形状を有している磁石挿入孔311a〜311dが1層設けられている。
磁石挿入孔311aは、外壁311a1、内壁311a2、端壁311a3、311a4により構成されている。また、磁石挿入孔311aには、断面形状が曲線形状を有する永久磁石312aが挿入されている。
また、第1の実施の形態と同様に、回転子310(回転子鉄心311)の外周面には、磁石挿入孔311a〜311dの端壁に対向する箇所に、切欠部310a1、310a2〜310d1、310d2が形成されている。これにより、回転子310の外周面は、主磁極部a〜dに対応する外周面310A〜310D、補助磁極部ab〜daに対応する外周面310AB〜310DAにより構成されている。
【0029】
本実施の形態では、磁石挿入孔311aの内壁311a2に沿った線saと平行であり、線saから回転軸挿入孔319側(回転中心O)に距離W(=ティース幅T)だけ離れた線を第1の境界線maとしている(図14参照)。
また、磁石挿入孔311cの内壁311c2に沿った線scと主磁極部cのd軸が交差する点Pcから、隣接する主磁極部の方向に延び、回転子310(回転子鉄心)の飽和磁束密度と永久磁石312cから回転子310(回転子鉄心311)に流れる磁束の磁束密度の比を傾きとする線を第2の境界線nc1、nc2としている(図14参照)。本実施の形態では、接線の方向(1次微分値のベクトル方向)が、内壁311c2に沿った線scの接線の方向(1次微分値のベクトル方向)に対して、回転子310の飽和磁束密度に対応する長さLと永久磁石312cの磁束密度に対応する長さHとの比に対応する傾きを有するように第2の境界線nc1、nc2を決定する。
本実施の形態では、図14に示すように、磁石挿入孔311aの内壁311a2に沿った線saと、線saに平行であり、線saから回転軸挿入孔319側(回転中心O)に距離W(=ティース幅T)だけ離れた第1の境界線maとによって、磁石挿入孔311aに対応する第1の領域Maが形成されている。なお、図14に図示を省略しているが、磁石挿入孔311b〜311dの内壁311b2〜311d2と、第1の境界線maと同様の第1の境界線mb〜md(図15参照)とによって、磁石挿入孔311b〜311dに対応する第1の領域Mb〜Mdが形成されている。
また、図14に示すように、磁石挿入孔311cの内壁311c2に沿った線scと主磁極部cのd軸が交差する点Pcから、隣接する主磁極部b、dの方向に延び、回転子310(回転子鉄心311)の飽和磁束密度と永久磁石312cから回転子310(回転子鉄心311)に流れる磁束の磁束密度の比を傾きとする第2の境界線nc1、nc2とによって、磁石挿入孔311cに対応する第2の領域Nc1、Nc2が形成されている。本実施の形態では、接線の方向(1次微分値のベクトル方向)が、内壁311c2に沿った線scの接線の方向(1次微分値のベクトル方向)に対して、回転子310の飽和磁束密度に対応する長さLと永久磁石312cの磁束密度に対応する長さHとの比に対応する傾きを有するように第2の境界線nc1、nc2を決定する。なお、図14に図示を省略しているが、磁石挿入孔311a、311b、311dの内壁311a2、311b2、311d2と、第2の境界線nc1、nc2と同様の第2の境界線na1、na2、nb1、nb2、nd1、nd2(図15参照)とによって、磁石挿入孔311a、311b、311dに対応する第2の領域Na1、Na2、Nb1、Nb2、Nd1、Nd2が形成されている。
そして、領域X(例えば、第1の境界線ma〜mdと磁石挿入孔311a〜311dの内壁311a2〜311d2に沿った線sa〜sdにより形成される第1の領域Ma〜Mdと、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2と磁石挿入孔311a〜311dの内壁311a2〜311d2に沿った線sa〜sdにより形成される第2の領域Na1、Na2〜Nd1、Nd2)に連通孔18を設けないで、領域Y(第1の境界線ma〜mdより回転軸挿入孔319側の領域であって、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2より回転軸挿入孔319側の領域)に連通孔を設けている(図15参照)。
本実施の形態も、第1の実施の形態と同様の効果を有している。
【0030】
以上の実施の形態では、主磁極部に対応する外周面と補助磁極部に対応する外周面の曲率半径を同じ値に設定した場合について説明した。ここで、主磁極部に対応する外周面と補助磁極部対応する外周面の曲率半径が同じ値に設定されていると、主磁極部と補助磁極部の境界部がティースを通過する時に、ティースを通る磁束が急激に変化し、音や振動等が発生する虞がある。
この場合、主磁極部に対応する外周面の曲率半径と補助磁極部に対応する外周面の曲率半径を異ならせることにより、主磁極部と補助磁極部の境界部がティースを通過する時に、ティースを通る磁束が急激に変化するのを防止することができる。
(第5の実施の形態)
第5の実施の形態を、図16に示す。第5の実施の形態は、軸方向に直角な断面形状が直線形状を有する1層の磁石挿入孔に、軸方向に直角な断面形状が長方形形状を有する永久磁石を挿入したものである。
本実施の形態では、回転子410(回転子鉄心411)には、各主磁極部a〜dに、軸方向に直角な断面形状が直線形状を有している磁石挿入孔411a〜411dが1層設けられている。
磁石挿入孔411aは、外壁411a1、内壁411a2、端壁411a3、411a4、内側側壁411a5、411a6により構成されている。また、磁石挿入孔411aには、断面形状が長方形形状を有する永久磁石412aが挿入されている。
本実施の形態では、回転子410の外周面は、主磁極部a〜dのd軸と交差し、回転子410の中心Oを中心とする第1の曲率半径Rdを有する曲線形状(円弧形状)の外周面410A〜410Dと、補助磁極部ab〜daのq軸と交差し、点Qを中心とする第2の曲率半径Rqを有する曲線形状(円弧形状)の外周面410AB〜410DAにより構成されている。なお、外周面410CDの曲率中心Qは、回転子の中心0に対して、外周面410CDと反対側に設けられ、第2の曲率半径Rqは、第1の曲率半径Rdより大きく設定されている(Rq>Rd)。
【0031】
本実施の形態では、図16に示すように、磁石挿入孔411aの内壁411a2に沿った線saと、線saに平行であり、線saから回転軸挿入孔419側(回転中心O)に距離W(=ティース幅T)だけ離れた第1の境界線maとによって、磁石挿入孔411aに対応する第1の領域Maが形成されている。なお、図16に図示を省略しているが、磁石挿入孔411b〜411dの内壁411b2〜411d2、第1の境界線maと同様の第1の境界線mb〜mdとによって、磁石挿入孔411b〜411dに対応する第1の領域Mb〜Mdが形成されている。
また、図16に示すように、磁石挿入孔411cの内壁411c2に沿った線scと、線scと主磁極部cのd軸が交差する点Pcから、隣接する主磁極部b、dの方向に延び、回転子410(回転子鉄心411)の飽和磁束密度と永久磁石412cから回転子410(回転子鉄心411)に流れる磁束の磁束密度の比を傾きとする第2の境界線nc1、nc2とによって、磁石挿入孔411cに対応する第2の領域Nc1、Nc2が形成されている。なお、図16に図示を省略しているが、磁石挿入孔411a、411b、411dの内壁411a2、411b2、411d2と、第2の境界線nc1、nc2と同様の第2の境界線na1、na2、nb1、nb2、nd1、nd2とによって、磁石挿入孔411a、411b、411dに対応する第2の領域Na1、Na2、Nb1、Nb2、Nd1、Nd2が形成されている。
そして、領域X(例えば、第1の境界線ma〜mdと磁石挿入孔411a〜411dの内壁411a2〜411d2に沿った線sa〜sdにより形成される第1の領域Ma〜Mdと、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2と磁石挿入孔411a〜411dの内壁411a2〜411d2に沿った線sa〜sdにより形成される第2の領域Na1、Na2〜Nd1、Nd2)に設けないで、領域Y(第1の境界線ma〜mdより回転軸挿入孔419側の領域であって、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2より回転軸挿入孔419側の領域)に連通孔を設けている。
本実施の形態は、第1の実施の形態と同様の効果を有している。また、主磁極部と補助磁極部の境界部がティースを通過する時に、ティースを通る磁束が急激に変化するのを防止することができる。
【0032】
(第6の実施の形態)
第6の実施の形態を、図17に示す。第6の実施の形態は、軸方向に直角な断面形状が直線形状を有する1層の磁石挿入孔に、軸方向に直角な断面形状が長方形形状を有する永久磁石を挿入したものである。
本実施の形態では、回転子510(回転子鉄心511)には、各主磁極部a〜dに、軸方向に直角な断面形状が直線形状を有している磁石挿入孔511a〜511dが1層設けられている。
磁石挿入孔511aは、外壁511a1、内壁511a2、端壁511a3、511a4、内側側壁511a5、511a6により構成されている。また、磁石挿入孔511aには、断面形状が長方形形状を有する永久磁石512aが挿入されている。
本実施の形態では、回転子510(回転子鉄心511)の外周面は、主磁極部a〜dのd軸と交差し、回転子510の中心Oを中心とする第1の曲率半径Rdを有する曲線形状(円弧形状)の外周面510A〜510Dと、補助磁極部ab〜daのq軸と交差し、点Qを中心とする第2の曲率半径Rqを有する曲線形状(円弧形状)の外周面510AB〜510DAにより構成されている。なお、第2の曲率半径Rqは、第1の曲率半径Rdより大きく設定されている(Rq>Rd)。
また、回転子510(回転子鉄心511)の外周面(補助磁極部ab〜daに対応する外周面)510AB〜510DAには、磁石挿入孔511a〜511dの端壁と対向する箇所に切欠部510a1、510a2〜510d1、510d2が形成されている。なお、切欠部を形成する方法に代えて、回転子510の外周面と、磁石挿入孔の端壁との間に非磁性体が充填された孔(空隙を含む)を形成することもできる。
【0033】
本実施の形態では、図17に示すように、磁石挿入孔511aの内壁511a2に沿った線saと、線saに平行であり、線saから回転軸挿入孔519側(回転中心O)に距離W(=ティース幅T)だけ離れた第1の境界線maとによって、磁石挿入孔511aに対応する第1の領域Maが形成されている。なお、図17に図示を省略しているが、磁石挿入孔511b〜511dの内壁511b2〜511d2、第1の境界線maと同様の第1の境界線mb〜mdとによって、磁石挿入孔511b〜511dに対応する第1の領域Mb〜Mdが形成されている。
また、図17に示すように、磁石挿入孔511cの内壁511c2に沿った線scと、線scと主磁極部cのd軸が交差する点Pcから、隣接する主磁極部b、dの方向に延び、回転子510(回転子鉄心511)の飽和磁束密度と永久磁石512cから回転子510(回転子鉄心511)に流れる磁束の磁束密度の比を傾きとする第2の境界線nc1、nc2とによって、磁石挿入孔511cに対応する第2の領域Nc1、Nc2が形成されている。なお、図17に図示を省略しているが、磁石挿入孔511a、511b、511dの内壁511a2、511b2、511d2と、第2の境界線nc1、nc2と同様の第2の境界線na1、na2、nb1、nb2、nd1、nd2とによって、磁石挿入孔511a、511b、511dに対応する第2の領域Na1、Na2、Nb1、Nb2、Nd1、Nd2が形成されている。
そして、領域X(例えば、第1の境界線ma〜mdと磁石挿入孔511a〜511dの内壁511a2〜511d2に沿った線sa〜sdにより形成される第1の領域Ma〜Mdと、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2と磁石挿入孔511a〜511dの内壁511a2〜511d2に沿った線sa〜sdにより形成される第2の領域Na1、Na2〜Nd1、Nd2)に設けないで、領域Y(第1の境界線ma〜mdより回転軸挿入孔519側の領域であって、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2より回転軸挿入孔519側の領域)に連通孔を設けている。
本実施の形態は、第6の実施の形態と同様の効果を有している。また、永久磁石の端部が短絡されるのを防止することができる。
【0034】
(第7の実施の形態)
第7の実施の形態を、図18に示す。第7の実施の形態は、軸方向に直角な断面形状が直線形状を有する1層の磁石挿入孔に、軸方向に直角な断面形状が長方形形状を有する永久磁石を挿入し、回転子の外周面を同じ曲率半径の曲線で構成している(円筒形状に構成している)。
本実施の形態では、回転子610(回転子鉄心611)には、各主磁極部a〜dに、軸方向に直角な断面形状が直線形状を有している磁石挿入孔611a〜611dが1層設けられている。また、磁石挿入孔611aには、断面形状が長方形形状を有する永久磁石612aが挿入されている。
本実施の形態では、回転子610(回転子鉄心611)の外周面は、回転子610の回転中心Oを中心とする曲率半径Rを有する円形形状に形成されている。
また、本実施の形態では、磁石挿入孔611a〜611dの内壁611a2〜611d2に沿った線sa〜sdと、線sa〜sdと平行であり、線sa〜sdから回転軸挿入孔619側(回転中心O)に距離W(=ティース幅T)だけ離れた第1の境界線ma〜mdとによって、磁石挿入孔611a〜611dに対応する第1の領域Ma〜Md(図示省略)が形成されている。
本実施の形態では、図18に示すように、磁石挿入孔611aの内壁611a2に沿った線saと、線saに平行であり、線saから回転軸挿入孔619側(回転中心O)に距離W(=ティース幅T)だけ離れた第1の境界線maとによって、磁石挿入孔611aに対応する第1の領域Maが形成されている。なお、図18に図示を省略しているが、磁石挿入孔611b〜611dの内壁611b2〜611d2、第1の境界線maと同様の第1の境界線mb〜mdとによって、磁石挿入孔611b〜611dに対応する第1の領域Mb〜Mdが形成されている。
また、図18に示すように、磁石挿入孔611cの内壁611c2に沿った線scと、線scと主磁極部cのd軸が交差する点Pcから、隣接する主磁極部b、dの方向に延び、回転子610(回転子鉄心611)の飽和磁束密度と永久磁石612cから回転子610(回転子鉄心611)に流れる磁束の磁束密度の比を傾きとする第2の境界線nc1、nc2とによって、磁石挿入孔611cに対応する第2の領域Nc1、Nc2が形成されている。なお、図18に図示を省略しているが、磁石挿入孔611a、611b、611dの内壁611a2、611b2、611d2と、第2の境界線nc1、nc2と同様の第2の境界線na1、na2、nb1、nb2、nd1、nd2とによって、磁石挿入孔611a、611b、611dに対応する第2の領域Na1、Na2、Nb1、Nb2、Nd1、Nd2が形成されている。
そして、領域X(例えば、第1の境界線ma〜mdと磁石挿入孔611a〜611dの内壁611a2〜611d2に沿った線sa〜sdにより形成される第1の領域Ma〜Mdと、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2と磁石挿入孔611a〜611dの内壁611a2〜611d2に沿った線sa〜sdにより形成される第2の領域Na1、Na2〜Nd1、Nd2)に設けないで、領域Y(第1の境界線ma〜mdより回転軸挿入孔619側の領域であって、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2より回転軸挿入孔619側の領域)に連通孔を設けている。
本実施の形態は、第1の実施の形態と同様の効果を有している。
【0035】
(第8の実施の形態)
第8の実施の形態を図19に示す。第8の実施の形態は、軸方向に直角な断面形状が、外周方向に凹状(中心方向に突状)に形成されているV字形状である2層の磁石挿入孔に、軸方向に直角な断面形状が長方形形状方を有する永久磁石を複数挿入したものである。
本実施の形態では、回転子710(回転子鉄心711)には、各主磁極部a〜dに、軸方向に直角な断面形状が、外周方向の凹状(中心方向に突状)に形成されているV字形状である磁石挿入孔711a1、711a2〜711d1、711d2が2層設けられている。すなわち、主磁極部aには、回転軸挿入孔719から回転子710の外周方向に、2層の磁石挿入孔711a1と711a2が設けられている。
磁石挿入孔711a2は、外壁711a21、711a22、内壁711a23、711a24、端壁711a25、711a26により構成されている。また、磁石挿入孔711a2には、断面形状が長方形形状を有する永久磁石712a21、712a22が挿入されている。磁石挿入孔711a1は、磁石挿入孔711a2と同様の構成である。
本実施の形態では、第7の実施の形態と同様に、回転子710の外周面は、回転子710の中心Oを中心とする曲率半径Rの円形形状に形成されている。
【0036】
本実施の形態では、図19に示すように、磁石挿入孔711a2の内壁711a23、711a24に沿った線sa1、sa2と、線sa1、sa2に平行であり、線sa1、sa2から回転軸挿入孔719側(回転中心O)に距離W(=ティース幅T)だけ離れた第1の境界線ma1、ma2とによって、磁石挿入孔711aに対応する第1の領域Ma1、Ma2が形成されている。なお、図19に図示を省略しているが、磁石挿入孔711b2〜711d2の内壁711b23、711b24〜711d23、711d24、第1の境界線ma1、ma2と同様の第1の境界線mb1、mb2〜md1、md2とによって、磁石挿入孔711b2〜711d2に対応する第1の領域Mb1、Mb2〜Md1、Md2が形成されている。
また、図19に示すように、磁石挿入孔711c2の内壁711c23、711c24に沿った線sc1、sc2と、線sc1、sc2と主磁極部cのd軸が交差する点Pcから、隣接する主磁極部b、dの方向に延び、回転子710(回転子鉄心711)の飽和磁束密度と永久磁石712c21、712c22から回転子710(回転子鉄心711)に流れる磁束の磁束密度の比を傾きとする第2の境界線nc1、nc2とによって、磁石挿入孔711c2に対応する第2の領域Nc1、Nc2が形成されている。なお、図19に図示を省略しているが、磁石挿入孔711a2、711b2、711d2の内壁711a23、711a24、711b23、711b24、711d23、711d24と、第2の境界線nc1、nc2と同様の第2の境界線na1、na2、nb1、nb2、nd1、nd2とによって、磁石挿入孔711a、711b、711dに対応する第2の領域Na1、Na2、Nb1、Nb2、Nd1、Nd2が形成されている。
そして、領域X(例えば、第1の境界線ma1、ma2〜md1、md2と磁石挿入孔711a2〜711d2の内壁711a23、711a24〜711d23、711d24に沿った線sa1、sa2〜sd1、sd2により形成される第1の領域Ma1、Ma2〜Md1、Md2と、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2と磁石挿入孔711a2〜711d2の内壁711a23、711a24〜711d23、711d24に沿った線sa1、sa2〜sd1、sd2により形成される第2の領域Na1、Na2〜Nd1、Nd2)に設けないで、領域Y(第1の境界線ma1、ma2〜md1、md2より回転軸挿入孔719側の領域であって、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2より回転軸挿入孔719側の領域)に連通孔を設けている。
本実施の形態も、第1の実施の形態と同様の効果を有している。
【0037】
(第9の実施の形態)
第9の実施の形態を図20に示す。第9の実施の形態は、主磁極部のd軸を挟んで2つの磁石挿入孔が設けられている。
本実施の形態では、回転子810(回転子鉄心811)には、各主磁極部a〜dに、軸方向に直角な断面形状が、外周方向に凹状(中心方向に突状)に形成されているV字形状となるように、2個の磁石挿入孔811a1、811a2〜811d1、811d2が設けられている。すなわち、主磁極部aには、d軸を挟んで両側に、磁石挿入孔811a1と811a2が、V字形状となるように設けられている。
磁石挿入孔811a1は、外壁811a11、内壁811a12、端壁811a13、中央壁811a14により構成されている。磁石挿入孔811a2は、外壁811a21、内壁811a22、端壁811a23、中央壁811a24により構成されている。また、磁石挿入孔811a1、811a2には、断面形状が長方形形状を有する永久磁石812a1、812a2が挿入されている。また、磁石挿入孔811a1と811a2の間(中央壁811a14と811a24との間)にはブリッジ811a3が設けられている。このブリッジ811a3によって、永久磁石812a1、812a2を磁石挿入孔811a1、811a2内に保持する保持力が増大し、回転子810の回転に伴う遠心力に対する強度を高めることができる。
本実施の形態では、第7の実施の形態と同様に、回転子810の外周面は、回転子810の中心Oを中心とする曲率半径Rの円形形状に形成されている。
【0038】
本実施の形態では、図20に示すように、磁石挿入孔811a1、811a2の内壁811a12、811a22に沿った線sa1、sa2と、線sa1、sa2に平行であり、線sa1、sa2から回転軸挿入孔819側(回転中心O)に距離W(=ティース幅T)だけ離れた第1の境界線ma1、ma2とによって第1の領域Maが形成されている。なお、図20に図示を省略しているが、磁石挿入孔811b1、811b2〜811d1、811d2の内壁811b12、811b22〜811d12、811d22、第1の境界線ma1、ma2と同様の第1の境界線mb1、mb2〜md1、md2とによって、第1の領域Mb〜Mdが形成されている。
また、図20に示すように、磁石挿入孔811c1、811c2の内壁811c12、811c22に沿った線sc1、sc2と、線sc1、sc2と主磁極部cのd軸が交差する点Pcから、隣接する主磁極部b、dの方向に延び、回転子810(回転子鉄心811)の飽和磁束密度と永久磁石812c1、812c2から回転子810(回転子鉄心811)に流れる磁束の磁束密度の比を傾きとする第2の境界線nc1、nc2とによって、第2の領域Nc1、Nc2が形成されている。なお、図20に図示を省略しているが、磁石挿入孔811a1、811a2、811b1、811b2、811d1、811d2の内壁811a12、811a22、811b12、811b22、811d12、811d22と、第2の境界線nc1、nc2と同様の第2の境界線na1、na2、nb1、nb2、nd1、nd2とによって、第2の領域Na1、Na2、Nb1、Nb2、Nd1、Nd2が形成されている。
そして、領域X(例えば、第1の境界線ma1、ma2〜md1、md2と磁石挿入孔811a1、811a2〜811d1、811d2の内壁811a12、811a22〜811d12、811d22に沿った線sa1、sa2〜sd1、sd2により形成される第1の領域Ma〜Mdと、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2と磁石挿入孔811a1、811a2〜811d1、811d2の内壁811a12、811a22〜811d12、811d22に沿った線sa1、sa2〜sd1、sd2により形成される第2の領域Na1、Na2〜Nd1、Nd2)に設けないで、領域Y(第1の境界線ma1、ma2〜md1、md2より回転軸挿入孔819側の領域であって、第2の境界線na1、na2〜nd1、nd2より回転軸挿入孔819側の領域)に連通孔を設けている。
【0039】
本発明は、実施の形態で説明した構成に限定されず、種々の変更、追加、削除が可能である。
例えば、磁石挿入孔の形状、数、配置位置は、適宜変更可能である。また、複数層に形成することもできる。
磁石挿入孔に挿入する永久磁石の形状、数は、適宜変更可能である。
また、回転子の外周面の形状は適宜変更することができる。
また、回転子の外周面の形状は実施の形態で説明した形状に限定されない。例えば、主磁極部のd軸に交差し、回転子の中心を中心とする円弧形状の第1の曲線面と、補助磁極部のq軸と交差し、回転子の中心を中心とし、第1の曲線面と異なる曲率半径を有する円弧形状の第2の曲線面で構成することもできる。この場合、第2の曲線面は、第1の曲線面を延ばした仮想円形面を切り欠いた切欠部として形成される。
また、第1の境界線と内壁に沿った線により形成される第1の領域と、第2の境界線と内壁に沿った線により形成される第2の領域に連通孔を設けない態様(第1の境界線及び第2の境界線より回転軸挿入孔側に連通孔を設ける態様)を用いたが、第1の境界線と内壁に沿った線により形成される第1の領域に連通孔を設けない態様(第1の境界線より回転軸挿入孔側に連通孔を設ける態様)あるいは第2の境界線と内壁に沿った線により形成される第2の領域に連通孔を設けない態様(第2の境界線より回転軸挿入孔側に連通孔を設ける態様)のいずれか一方を用いることもできる。このような構成を用いても、第1の領域と第2の領域の少なくとも一方を考慮しないで回転子に連通孔を設ける場合(領域Xに連通孔を設ける場合)に比べて、永久磁石電動機の効率低下を抑制することができる。
また、第1の領域を第1の境界線と内壁に沿った線により形成し、第2の領域を第2の境界線と内壁に沿った線により形成したが、第1の領域、第2の領域を形成する方法は、これに限定されず、磁石挿入孔の断面形状に応じて適宜選択することができる。例えば、磁石挿入孔が内側側壁を有している場合には、第1の境界線と内壁に沿った線と内側側壁に沿った線により第1の領域を形成し、第2の境界線と内壁に沿った線と内側側壁に沿った線により第2の領域を形成することができる(図3、図4、図8の右斜線で示されている領域)。この場合には、実施の形態で説明した、第1の境界線と内壁に沿った線により第1の領域を形成する方法や、第2の境界線と内壁に沿った線と内側側壁により第2の領域を形成する方法を用いる場合に比べて、より正確に第1の領域と第2の領域を形成することができ、より効率低下を抑制することができる。なお、第1の境界線と内壁に沿った線と内側側壁に沿った線により第1の領域を形成する態様、第2の境界線と内壁に沿った線と内側側壁に沿った線により第2の領域を形成する態様は、第1の境界線と内壁に沿った線により第1の領域を形成する構成、第2の境界線と内壁に沿った線により第2の領域を形成する構成に含まれる。
また、第1の領域と第2の領域に連通孔を設けない態様としては、第1の境界線より回転軸挿入孔側の領域であって、第2の境界線より回転軸挿入孔側の領域に連通孔を設ける態様、第1の境界線より回転軸挿入孔側の領域あるいは第2の境界線より回転軸挿入孔側の領域に連通孔を設ける態様、磁石挿入孔の外壁より回転子の外周面側の領域に連通孔を設ける態様を用いることができる。
永久磁石としては、種々の永久磁石を用いることができる。その場合、第2の境界線は、使用する永久磁石から回転子(回転子鉄心)に流れる磁束の磁束密度(設計磁束密度)に応じて変更される。
本発明は、各実施の形態で説明した個々の構成を単独で用いることもできるし、複数の構成を組み合わせて用いることもできる。例えば、実施の形態で説明した磁石挿入孔の形状、数、配置態様と回転子の外周面の構成態様を適宜組み合わせることができる。
実施の形態では、固定子と回転子に、冷却媒体通路として使用可能な連通孔を設ける場合について説明したが、回転子のみに連通路を設ける場合にも適用することができる。
冷却媒体通路として用いる連通孔を設ける場合について説明したが、本発明は、他の用途に用いる連通孔を設ける場合にも適用することができる。例えば、回転子を冷却する冷却媒体(例えば、冷却風)を流すための連通孔を設ける場合、回転子の重さを軽減するための連通孔を設ける場合等に好適に適用することができる。なお、一般的に、回転子を、電磁鋼板を積層した積層鉄心により構成する場合には、積層体を一体的に固定するためのカシメピンを挿入するカシメピン挿入孔が形成される。カシメピン挿入孔の配設位置は、磁石挿入孔の形状等によって選択される。本発明の「回転子の連通孔」には、カシメピンを挿入するためのカシメピン挿入孔は包含されない。カシメピン挿入孔が第1の領域や第2の領域に設けられる場合には、例えば、磁性体で構成されたカシメピンを用いることにより、本発明の効率低下を抑制する効果が低減するのを防止することができる。
また、永久磁石電動機を空調装置や冷蔵庫等の圧縮機を駆動する圧縮機駆動用電動機として用いる場合について説明したが、本発明の永久磁石電動機は、これ以外の種々の機器を駆動する電動機として用いることができる。例えば、自動車等の車両に搭載される電動機として用いることができる。自動車等の車両に搭載される電動機としては、例えば、車両を駆動する電動機、車両に搭載されている車載機器(例えば、パワーウィンドー、ワイパー、電動シート等)を駆動する電動機等が対応する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】第1の実施の形態の軸方向に直角な断面図である。
【図2】第1の実施の形態の詳細説明図である。
【図3】第1の境界線を説明する図である。
【図4】第2の境界線を説明する図である。
【図5】第1の実施の形態における連通孔の配置領域を説明する図である。
【図6】領域XとYに連通孔を設けた場合の[連通孔の総面積−効率]特性を示す図である。
【図7】第2の実施の形態の回転子を示す図である。
【図8】第2の実施の形態の第1の境界線と第2の境界線を説明する図である。
【図9】第2の実施の形態における連通孔の配置領域を説明する図である。
【図10】第3の実施の形態の回転子を示す図である。
【図11】第3の実施の形態の第1の境界線と第2の境界線を説明する図である。
【図12】第3の実施の形態における連通孔の配置領域を説明する図である。
【図13】第4の実施の形態の回転子を示す図である。
【図14】第4の実施の形態の第1の境界線と第2の境界線を説明する図である。
【図15】第4の実施の形態における連通孔の配置領域を説明する図である。
【図16】第5の実施の形態における連通孔の配置領域を説明する図である。
【図17】第6の実施の形態における連通孔の配置領域を説明する図である。
【図18】第7の実施の形態における連通孔の配置領域を説明する図である。
【図19】第8の実施の形態における連通孔の配置領域を説明する図である。
【図20】第9の実施の形態における連通孔の配置領域を説明する図である。
【図21】従来例の軸方向に直角な断面図である。
【符号の説明】
【0041】
a、b、c、d 主磁極部
ab、bc、cd、da 補助磁極部
ma、mb、mc、md、ma1、ma2 第1の境界線
na1、na2、nb1、nb2、nc1、nc2、nd1、nd2 第2の境界線
Ma、Ma1、Ma2 第1の領域
Nc1、Nc2 第2の領域
10、110、210、310、410、510、610、710、810、910 回転子
10a1、10a2、10b1、10b2、10c1、10c2、10d1、10d2、110a1、110a2、110b1、110b2、110c1、110c2、110d1、110d2、210a1、210a2、210b1、210b2、210c1、210c2、210d1、210d2、310a1、310a2、310b1、310b2、310c1、310c2、310d1、310d2、510a1、510a2、510b1、510b2、510c1、510c2、510d1、510d2 切欠部
11a、11b、11c、11d、111a、111b、111c、111d、211a、211b、211c、211d、311a、311b、311c、311d、411a、411b、411c、411d、511a、511b、511c、511d、611a、611b、611c、611d、711a1、711a2、711b1、711b2、711c1、711c2、711d1、711d2、811a1、811a2、811b1、811b2、811c1、811c2、811d1、811d2、911a、911b、911c、911d 磁石挿入孔
11a1、111a1、211a1、211a2、311a1、411a1、411b1、411c1、411d1、511a1、611a2、711a21、711a22、811a11、812a21 外壁
11a2、111a2、211a3、211a4、311a2、411a2、511a2、611a2、711a23、711a24、811a12、811a22 内壁
11a3、11a4、111a7、111a8、211a5、211a6、311a3、311a4、411a3、411a4、511a3、511a4、611a3、611a4、711a25、711a26、811a3、811a23 端壁
11a5、11a6、111a5、111a6、411a5、411a6、511a5、511a6、611a5、611a6 内側側壁
11a7、11a8 位置決め突部
12a、12b、12c、12d、112a1、112b1、112c1、112d1、212a1、212a2、212b1、212b2、212c1、212c2、212d1、212d2、312a、312b、312c、312d、412a、412b、412c、412d、512a、512b、512c、512d、612a、712a21、712a22、812a1、812a2、912a、912b、912c、912d 永久磁石
18 連通孔
19、119、219、319、419、519、619、719、819、919 回転軸挿入孔
20、120、220、320、420、520、620、720、820、920 回転軸
30、930 固定子
31、931 固定子鉄心(固定子コア)
32、932 ティース
32a ティース基部
32b、32c ティース端部
32d ティース先端面
33、933 スロット
34a、934a 切欠部
34、934 連通部
40、940 リング(ケース)
111a3、111a4 外側側壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子と、回転子を備え、固定子には、回転子の外周面と対向する箇所にティースが設けられており、回転子には、回転軸が挿入される回転軸挿入孔が設けられ、また、軸方向に直角な断面で見て、主磁極部と補助磁極部が周方向に交互に配置されており、主磁極部には、永久磁石が挿入される磁石挿入孔が設けられている永久磁石電動機であって、
前記回転子には軸方向に連通する連通孔が設けられており、
前記連通孔は、前記磁石挿入孔を形成する壁のうち、永久磁石より回転軸挿入孔側に配置される内壁に沿った線に平行であり、内壁に沿った線から回転軸挿入口側にティース幅だけ離れた第1の境界線と内壁に沿った線により形成される第1の領域と、内壁に沿った線と主磁極部のd軸と交差する点から隣接する主磁極部の方向に延び、回転子の飽和磁束密度と、磁石挿入孔に挿入された永久磁石から回転子に流れる磁束の磁束密度との比を傾きとする第2の境界線と内壁に沿った線により形成される第2の領域に設けられていない、
ことを特徴とする永久磁石電動機。
【請求項2】
固定子と、回転子を備え、固定子には、回転子の外周面と対向する箇所にティースが設けられており、回転子には、回転軸が挿入される回転軸挿入孔が設けられ、また、軸方向に直角な断面で見て、主磁極部と補助磁極部が周方向に交互に配置されており、主磁極部には、永久磁石が挿入される磁石挿入孔が設けられている永久磁石電動機であって、
前記回転子には軸方向に連通する連通孔が設けられており、
前記連通孔は、前記磁石挿入孔を形成する壁のうち、永久磁石より回転軸挿入孔側に配置される内壁に沿った線に平行であり、内壁に沿った線から回転軸挿入口側にティース幅だけ離れた第1の境界線と内壁に沿った線により形成される第1の領域、あるいは、内壁に沿った線と主磁極部のd軸と交差する点から隣接する主磁極部の方向に延び、回転子の飽和磁束密度と、磁石挿入孔に挿入された永久磁石から回転子に流れる磁束の磁束密度との比を傾きとする第2の境界線と内壁に沿った線により形成される第2の領域に設けられていない、
ことを特徴とする永久磁石電動機。
【請求項3】
請求項1または2に記載の永久磁石電動機であって、回転子の外周面は、主磁極部のd軸と交差し、外周方向に突状に形成されている第1の曲線面と、補助磁極部のq軸と交差し、外周方向に突状に形成されている第2の曲線面が交互に接続されて形成され、第2の曲線面の曲率が第1の曲線面の曲率より大きく設定されていることを特徴とする永久磁石電動機。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の永久磁石電動機であって、磁石挿入孔は、回転子の外周面に対向して配置されている端壁を有しており、回転子の外周面には、磁石挿入孔の端壁に対向する個所に切欠部が形成され、あるいは、回転子の外周面と磁石挿入孔の端壁との間に孔が設けられていることを特徴とする永久磁石電動機。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の永久磁石電動機であって、主磁極部には、磁石挿入孔が、回転軸挿入孔から回転子の外周面の方向に複数層設けられており、第1の境界線及び第2の境界線は、回転軸挿入孔側に設けられている磁石挿入孔の内壁に基づいて設定されていることを特徴とする永久磁石電動機。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の永久磁石電動機であって、回転子は電磁鋼板により構成され、永久磁石としてネオジウム磁石が用いられており、第2の境界線の傾きが0.5に設定されていることを特徴とする永久磁石電動機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2007−252018(P2007−252018A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−67755(P2006−67755)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000100872)アイチエレック株式会社 (58)
【Fターム(参考)】