説明

炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体、その製造方法およびその焼結体を用いた部材

【課題】炭化珪素焼結体本来の優れた特性を保持しながら炭化珪素単相の焼結体よりも良好な加工性を示し、優れたセラミックス構造材料となりうる炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体、および炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体の新たな製造方法を提供する。
【解決手段】上記焼結体は、炭化珪素55〜92質量%、六方晶窒化硼素5〜35質量%ならびに焼結助剤等を3〜25質量%の割合で含有し、酸素不純物含有量が0.2質量%以下であり、曲げ強度が400MPa以上である。上記製造方法は、炭化珪素粉末および六方晶窒化硼素粉末を含む混合粉末を焼成する前に真空または不活性雰囲気中1450〜1650℃の温度で熱処理する工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素をマトリックス(母材)とし窒化硼素を分散させた、炭化珪素/窒化硼素複合材料、その製造方法およびその焼結体を用いた部材に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス材料は機械的特性や耐食性に優れることから、半導体や薄型ディスプレー製造装置向けの構造用部材などとして利用されている。しかし、セラミックスは焼結時の収縮が大きいため、所望の形状・寸法を高精度で得るには研削加工が必要とされる。その際セラミックスが難加工性材料であることから、複雑形状の形成は容易でなく、コストアップの要因となる。
【0003】
ところで、半導体ならびにプラズマおよび液晶などの薄型ディスプレーの製造装置部品などに利用される構造用セラミックス(以下「セラミックス構造材料」ともいう。)は、耐食性や電気的特性などの種々の機能を有することが求められるが、その前提として、構造材として最低限の強度・剛性を有していることが必要である。さらに、複雑形状加工や微細加工がなされる際に加工時の欠けや割れが発生しないように、良好な被削性および高強度の両立が必要となる。
【0004】
例えば、代表的なセラミックス構造材料の一つである炭化珪素(SiC)焼結体は軽量、高剛性、高耐熱性、高熱伝導性であり半導電性を示す。これらの特長から半導体製造装置部品(例えば特許文献1における露光装置部材、特許文献2におけるリフトピンなど)や高温構造材料、一般産業機械部品として使用されている。しかしながら、高硬度でかつ低靭性であるために欠け(チッピング)を生じやすく、ダイヤモンド工具を用いた場合でも高精度加工の難易度が高く、加工部品のコスト増加の要因となっている。
【0005】
このような課題を解決するため、炭化珪素に快削性素材の六方晶窒化硼素(本発明において、特に断りがない場合には「窒化硼素」とは六方晶のものを意味する。)を複合化して得られる「炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体」が研究開発されている。これは炭化珪素原料粉末に窒化硼素原料粉末と焼結助剤とを添加・混合し、高温・不活性雰囲気下で焼成を行ったものである。
【0006】
ここで、炭化珪素、窒化硼素のいずれも共有結合性結晶で難焼結性であるため、焼成条件はもちろんのこと原料粉末の粒径、表面不純物などの制御如何が、焼結体の緻密度、強度、熱伝導などの特性を左右する。
【0007】
例えば、添加する窒化硼素粉末には市販のものを使用できるが、一般的な粒径(数μm〜数十μm)の市販窒化硼素原料では焼結性が悪く、加圧焼結の導入が必須になるとともに粗大窒化硼素粒子が破壊源となって強度低下が不可避となる。
【0008】
これに対して、ホウ酸と尿素との化学反応を利用して微細な窒化硼素粒子を炭化珪素粉末の表面に析出させ、脱酸素処理と組み合わせて特性改善を試みた例(例えば特許文献3)もある。
【特許文献1】特開2001−247368号公報
【特許文献2】特開2004−259974号公報
【特許文献3】特開2000−264741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3に開示される方法は、プロセスが複雑化してコストアップをもたらし、工業化に適さないという問題がある。しかも、そのようにプロセスが複雑でありながら、後述するように酸素不純物の含有量が高く、このため、強度、被削性および熱伝導性のバランスを高度なレベルで実現することができているとはいえない。
【0010】
本発明の課題は、炭化珪素焼結体本来の軽量・高強度・高熱伝導性・半導電性を保持しながら、炭化珪素単相の焼結体よりも良好な加工性を示すセラミックス構造材料となりうる炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体、およびその焼結体をセラミックス構造材料として用いた部材、さらには優れた特性を有するセラミックス構造材料となりうる炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体の新たな製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明者が従来技術に係る焼結体、特に特許文献3に開示される焼結体を詳細に調査した結果、焼結体に含まれる酸素不純物が焼結体の特性を低下させていることを見出した。
【0012】
ここで、「酸素不純物」とは、炭化珪素結晶粒子および窒化硼素結晶粒子の表層における酸化物であり、主として原料粉末の表層酸化物に由来する。このほか、焼結体の製造過程(例えば後述するようにカーボン粉末添加後のボールミル時)において酸化したものに由来するものも含む。
【0013】
上記のような粗大な窒化硼素粒子による破壊源寸法の増大は、市販の微粒窒化硼素原料を用いることで抑制することが可能であるが、微粒であるがゆえに比表面積が大きく、このため窒化硼素が二酸化硼素などに酸化されやすい。したがって、このような原料から得られる焼結体は酸素不純物を多く含み、焼結体結晶粒界の脆弱化や偏析粒界成分の破壊源化をもたらして強度低下を起こす傾向がある。加えて、酸素不純物が粒界成分や結晶粒内への残留不純物成分となってフォノン散乱因子となり、熱伝導率の低下をももたらすこともある。
【0014】
特許文献3に記載される方法では、上記の化学反応によって炭化珪素粉末表面に皮膜状に形成された乱層構造窒化硼素(t-BN)を経由して六方晶窒化硼素を析出するため、表面積が特に大きくなる。このため、酸素不純物も多くなる傾向がある。加えて、結晶構造が不規則に乱れているために結晶粒内部にも酸素成分を含有することとなる。こうした状態のままではフォノン散乱の要因となり熱伝導が低下してしまうため、特許文献3に係る製造方法では、危険性のある水素中熱処理で結晶化を行い、さらに別途脱酸素熱処理を行うこととしている。しかしながら、後述するように、このような処理を行っても酸素不純物含有量(測定方法については後述する。)は0.4質量%程度も残留することが明らかになった。
【0015】
この酸素不純物含有量に着目して本発明者が鋭意研究した結果、所定の含有率で炭化珪素、窒化硼素ならびに焼結助剤由来の金属およびその化合物からなる群から選ばれる一種または二種以上を含む焼結体について、酸素不純物含有量を0.2質量%以下にすることで、被削性を維持しつつ、強度低下や熱伝導率の低下を安定的に回避することができることが明らかになった。
【0016】
また、焼結前の混合粉末を熱処理することで、酸素不純物を効率的かつ安定的に除去することが可能であるとの知見を得た。
かかる知見に基づき完成された本発明は次のとおりである。
【0017】
(1)炭化珪素粉末と六方晶窒化硼素粉末と焼結助剤成分粉末との混合物が焼結された焼結体であって、炭化珪素を55〜92質量%、窒化硼素を5〜35質量%ならびに焼結助剤由来の金属およびその化合物からなる群から選ばれる一種または二種以上を3〜25質量%の割合で含有し、酸素不純物含有量が0.2質量%以下であり、曲げ強度が400MPa以上であることを特徴とする炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体。
【0018】
(2)前記焼結体の微細組織における平均結晶粒径が5μm以下であって、気孔率が0.5%未満である、上記(1)記載の炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体。
【0019】
(3)炭化珪素粉末、六方晶窒化硼素粉末および焼結助剤成分粉末をそれぞれ55〜92質量%、5〜35質量%、および3〜25質量%の割合で含む焼成用混合粉末材料を、高温下で焼成する焼成工程を有する、炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体の製造方法であって、前記焼成工程の前に、炭化珪素粉末および六方晶窒化硼素粉末を含む粉末を真空または不活性雰囲気中で熱処理して、当該粉末に含まれる酸素不純物を除去する熱処理工程を備え、前記焼成工程により得られた焼結体の曲げ強度が400MPa以上であること
を特徴とする、炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体の製造方法。
【0020】
(4)前記熱処理工程における熱処理温度が1450〜1650℃の範囲である、上記(3)記載の炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体の製造方法。
【0021】
(5)前記熱処理工程に供される粉末が焼結助剤成分粉末を含まず、該熱処理工程によって得られた粉末に対して当該焼結助剤成分粉末を混合し、得られた混合粉末を前記焼成工程に供する、上記(3)および(4)記載の炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体の製造方法。
【0022】
(6)前記焼成工程に供される粉末が、炭化珪素成分と窒化硼素成分との合計量に対して0.1〜3質量%の含有量でカーボン粉末を含有する、上記(3)から(5)のいずれかに記載の炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体の製造方法。
【0023】
(7)前記六方晶窒化硼素粉末の平均粒径が1μm未満である、上記(3)から(8)のいずれかに記載の炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体の製造方法。
【0024】
(8)表層の少なくとも一部に皮膜が形成されている、上記(1)または(2)記載の炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体。
【0025】
(9)前記皮膜が、ダイヤモンド状カーボンからなる、皮膜である上記(8)記載の炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体。
(10)前記皮膜が、炭化珪素からなる皮膜である、上記(8)記載の炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体。
【0026】
(11)前記皮膜が、長周期型周期表上3A〜4Bまでの金属および半金属のうち少なくとも一つを含む金属、ならびにその炭化物、窒化物、硼化物、酸化物、炭窒化物、および酸窒化物からなる群から選ばれた一種または二種以上からなる、皮膜である上記(8)記載の炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体。
【0027】
(12)前記皮膜が、フッ素樹脂からなる皮膜である、上記(8)記載の炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体。
【0028】
(13)上記(1),(2)および(8)から(12)のいずれかに記載の焼結体からなる部品を備えるプラズマガン用絶縁スリーブ。
【0029】
(14)上記(1),(2)および(8)から(12)のいずれかに記載の焼結体からなる部品を備える真空吸着チャック。
【0030】
(15)上記(1),(2)および(8)から(12)のいずれかに記載の焼結体からなる部品を備える半導体製造装置用の支持部材。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る焼結体は、硼素の酸化物などの不純物に起因する強度低下が発生しにくい。このため、炭化珪素焼結体本来の軽量・高強度・高熱伝導性・半導電性を保持しながら、炭化珪素単相の焼結体よりも低硬度で研削抵抗が少ないため、良好な加工性を示す。したがって、本発明に係る焼結体は優れたセラミックス構造材料である。
【0032】
また、本発明に係る製造方法によれば、炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体の酸素不純物含有量を効率的かつ安定的に低下させることが可能である。したがって、この方法を採用することで、優れた特性を有するセラミックス構造材料が効率的かつ安定的に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明に係る炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体、その好ましい製造方法、およびその焼結体を用いた高機能部材の最良の形態について説明する。
【0034】
1.炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体
(1)基本成分の組成
本発明に係る炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体は、炭化珪素粉末と六方晶窒化硼素粉末と焼結助剤成分粉末との混合物が焼結された焼結体であって、炭化珪素を55〜92質量%、窒化硼素を5〜35質量%ならびに焼結助剤由来の金属およびその化合物からなる群から選ばれる一種または二種以上(以下「焼結助剤等」という。)を3〜25質量%の割合で含有する。
【0035】
窒化硼素の含有量が5質量%未満の場合には、焼結体の硬度が過剰に高くなり研削抵抗荷重が著しく増大する傾向を示すようになる。また、窒化硼素の含有量が35質量%を超える場合には、曲げ強度の低下が顕著となって、所望の強度を得ることが困難となりやすい。窒化硼素の好ましい含有量は5〜25質量%であって、10〜20質量%であれば特に好ましい。
【0036】
焼結助剤等に関し、焼結助剤は炭化珪素や窒化硼素の焼結に従来から使用されているものから選択することができる。好ましい焼結助剤は、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化イットリウム(イットリア)、酸化カルシウム(カルシア)、およびランタノイド金属の酸化物、スピネルなどの複合酸化物、ならびに窒化アルミニウムなどの窒化物からなる群から選ばれる一種または二種以上であり、より好ましくはアルミナおよびイットリアの混合物である。焼結助剤等はこれらの焼結助剤由来の金属およびその化合物からなる群から選ばれる一種または二種以上である。
【0037】
この焼結助剤等の含有量が3質量%未満の場合には、焼結が不十分となって、焼結体の強度が低下するとともに気孔起因の熱伝導低下が発生しやすくなる。逆に25質量%を超える場合には、強度の低い粒界ガラス層が増加して同じく焼結体の強度低下を招くとともに硬脆性の粒界相によって研削抵抗荷重の増大をもたらす傾向を示す。さらには熱伝導の低下を引き起こすこともある。
【0038】
焼結助剤等の好ましい含有量は製造方法に依存し、常圧焼成法であれば10〜25質量%であって、10〜20質量%であれば特に好ましい。一方、ホットプレス法であれば5〜15質量%が好ましく、5〜10質量%であれば特に好ましい。
【0039】
(2)酸素不純物含有量
本発明に係る焼結体の酸素不純物含有量は焼結体の0.2質量%以下である。酸素不純物含有量をこの範囲とすることで、上記の組成を有する焼結体がその本来の機械特性および熱的特性を有することが実現される。具体的には、このように酸素不純物含有量濃度が低いことから、本発明に係る結晶粒内および結晶粒界の双方について、酸素不純物の濃度が低くなる、という微細構造上の優位性がもたらされていると期待される。これらのうち、結晶粒内の酸素不純物濃度がより低いということは、焼結体の高熱伝導化が促進されていることを示している。そして、熱伝導率が高くなると、部材としての放熱性が向上するだけでなく、切削加工中の蓄熱が緩和されるため被削性(切削加工性、快削性)の向上もが実現される。また、結晶粒界の酸素不純物成分が少ないということにより、高強度化と被削性の向上とがもたらされる。したがって、本発明に係る炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体は、従来技術に係るものよりも、強度、熱伝導率、被削性のいずれもが改善されている。
【0040】
これに対し、酸素不純物含有量が0.2質量%を超える場合には、強度の低下や熱伝導率の低下が見られるようになり、所望の特性を安定的に得ることが困難となる。
ここで、酸素不純物含有量の測定方法は、焼結体中の全含有酸素量から、焼結助剤由来の酸化物(アルミナ、イットリア等)中の酸素量を減じることにより算出できる。なお、熱処理工程における処理炉の雰囲気などの条件によって添加したカーボン成分が残留した場合(詳細は後述する。)には、その還元作用によって焼成工程で添加した焼結助剤酸化物の価数が若干変化し、計算上酸素不純物量が負の値をとる場合もある。したがって、本発明に係る焼結体における酸素不純物含有量の下限は設定されない。
【0041】
(3)曲げ強度
本発明に係る焼結体は曲げ強度として400MPa以上を有する。上記の組成を有し、この機械特性を有する焼結体は、高強度と良好な被削性とが両立される。この被削性に関し、直径2.0mmのコアドリルを使用した超音波加工時の研削抵抗荷重が20kgf未満、より好ましくは15kgf未満であることが好ましい。このような優れた被削性を有する場合には、半導体や薄型ディスプレーの製造装置向けの構造用部材などとして利用するにあたって、微細加工や複雑形状加工時の欠けや割れが防止され、好ましい。
【0042】
(4)平均結晶粒径、気孔率
上記のような機械特性の発現ならびに微細加工後の加工形状保持および表面平滑性保持の観点から、主成分である炭化珪素および窒化硼素の平均結晶粒径をいずれも5μm以下とすることが好ましい。
【0043】
ここで、この平均結晶粒径は次のようにして計測することができる。まず、焼結体の任意の複数の部分を破断し、それらの破断面について走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、電子顕微鏡像を撮影する。得られたSEM写真について、任意方向に直線を引き、単位長さあたりの粒界との交点をカウントする。粒子数100〜200個についてこの計測を行い、それらの平均値を算出し、2次元像から3次元への換算のための統計処理として、その平均値を1.5倍する(インタセプト法)。
【0044】
また、平均結晶粒径の場合と同様の観点から、焼結体気孔率を0.5%未満とすることが好ましく、0.1%未満であれば特に好ましい。
【0045】
(5)その他の特性
機械特性以外の特性としては、室温(25℃)での熱伝導率が30W/m・K以上であることが好ましく、より好ましくは40W/m・K以上、さらに好ましくは45W/m・K以上、特に好ましくは60W/m・K以上である。半導体ならびにプラズマおよび液晶などの薄型ディスプレーの製造に係る部材への適用を念頭に置くと、エッチング工程や露光工程、成膜工程など熱が発生する工程が多く、その装置部材には放熱性や熱衝撃耐性が求められることも多いためである。
【0046】
(6)皮膜形成
炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体の表層の少なくとも一部に皮膜が形成されている場合には、上記の特性以外に、その皮膜に由来する追加的な特性を有することとなり、さらに好適である。
【0047】
その追加的な特性について具体例を示せば、皮膜を形成することによって、半導体製造装置用部品などに用いる場合には、半導体製品への窒化硼素成分混入が防止される。また、プラズマ照射で炭化珪素成分と窒化硼素成分が選択的に腐食、凹凸を生じて発塵や析出副生成物の蓄積が起こることも防止される。さらに、半導体製造装置用部品用途に限らず、表層の電気特性制御(例えば静電気除去などの目的での電気抵抗値制御)、表面平滑性の向上、色調制御などが、皮膜形成によって付加的に実現される。
【0048】
その皮膜はその目的に応じて適宜設定され、ダイヤモンド状カーボン、フッ素変性エチレン樹脂(変性PTFE)などのフッ素樹脂、ならびに長周期型周期表上3A〜4Bまでの金属および半金属のうち少なくとも一つを含む金属、ならびにその炭化物、窒化物、硼化物、酸化物、炭窒化物、および酸窒化物からなる群から選ばれた一種または二種以上が例示される。
【0049】
これら例示される皮膜の特性を列記すれば次のようになる。
ダイヤモンド状カーボンによる被覆は、耐摩耗性に優れ、使用時の硼素成分飛散を防止し、外観を黒色にしうる。
【0050】
炭化珪素による被覆は、硼素成分の飛散を防止し、導電性を付与し、外観を黒色にしうる。
【0051】
フッ素樹脂による被覆は、硼素成分の飛散を防止するとともに、導電性を付与しうる。
【0052】
長周期型周期表上3A〜4Bまでの金属および半金属のうち少なくとも一つを含む金属、ならびにその炭化物、窒化物、硼化物、酸化物、炭窒化物、および酸窒化物からなる群から選ばれた一種または二種以上による被覆は、硼素成分の飛散を防止し、導電性を付与しうる。
【0053】
2.炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体の製造方法
本発明に係る焼結体は、上記の組成、酸素不純物含有量、および曲げ強度、さらに好ましくは所定の平均結晶粒径および気孔率を有していれば、いかなる製造方法により製造してもよい。次の製造方法は、本発明に係る焼結体を含む、優れた特性を有するセラミックス構造材料となりうる炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体を、効率的かつ安定的に製造する方法である。
【0054】
(1)粉末混合工程
まず、炭化珪素55〜92質量%および窒化硼素5〜35質量%からなる主原料粉末ならびに焼結助剤成分粉末3〜25質量%、または主原料粉末のみを混合する。混合手段は特に制限されず、たとえば湿式ボールミル等により混合すればよい。後述するように、焼結助剤成分粉末の混合は、次の熱処理工程の終了後に行うのが好ましい。
【0055】
窒化硼素は六方晶系のもの(h-BN)を用いる。窒化硼素粉末は市販粉末を用いてもよく、これによって、安価なプロセスでも当該複合材料を作製することが実現される。この窒化硼素粉末の平均粒径は、高強度を得る観点から、1μm未満のものが好適である。
【0056】
炭化珪素原料粉末としては多型のα型と立方晶のβ型とがあるがいずれを用いても構わない。炭化珪素粉末についても窒化硼素粉末と同様に平均粒径1μm未満のものを使用することによって、より高品質の高強度炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体を得ることが実現される。主原料である窒化硼素粉末および炭化珪素粉末の双方の平均粒径が1μm未満の場合が特に好ましい。
【0057】
セラミックスの研削加工は微細な破壊の集積であり、この破壊は粒界破壊と粒内破壊が混合したものであることから、加工後の表面状態はある程度粒径や粒形状を反映したものとなる。このため、上記のような微細粉末を原料に用いることによって、微細加工時の狙い形状形成、表面平滑度を得やすくなる。さらに、粗大な粒として配合成分を混合した場合には、粗大な粒子が絡み合った微細組織の焼結体となり、硬い炭化珪素の粗大粒が研削ツールにダメージを与え、結果として加工性を悪化させる。よって微細原料を使用して焼結体組織の微細化することは加工性の観点から有利である。
【0058】
(2)熱処理工程
次に、混合した主原料を含む粉末に対して熱処理を行い、酸素不純物を除去する。なお、酸素不純物とは、前述のように主として窒化硼素粉末および炭化珪素粉末の表層酸化物をいい、酸素不純物の除去とは、主としてこの表層酸化物から酸素を除去することを意味する。除去後の酸素不純物濃度は上記のように0.2質量%以下とすることが好ましい。
【0059】
この熱処理の具体的条件(温度、時間、雰囲気など)は酸素不純物除去の目的が達成される限り特に制限されない。熱処理温度は主原料の組成比率、焼結助剤の組成種類および比率、ならびに雰囲気などの温度以外の処理条件により変動するが、典型的には、真空または不活性雰囲気中で1450〜1650℃である。熱処理温度が過剰に低い温度の場合には脱酸素反応が進みにくくなる傾向を示す可能性があり、過剰に高い温度の場合には炭化珪素や窒化硼素の粒成長を招いてしまうことが懸念される。脱酸素の効率化および結晶粒成長の抑制を両立させる観点から、好ましい熱処理温度は1500〜1650℃であり、1550〜1600℃とすれば特に好ましい。主原料のうち窒化硼素含有量が多い場合(具体的には25質量%以上)には酸素不純物が多くなる傾向があるため、熱処理温度は1500℃以上とすることが好ましく、1550℃以上とすれば特に好ましい。また、焼成方法が後述する常圧焼成法の場合には焼結助剤の含有量が増加する傾向があるため、この場合も熱処理温度は1500℃以上とすることが好ましく、1550℃以上とすれば特に好ましい。
【0060】
熱処理の時間は当業者であれば適宜設定可能であり、処理する粉末の量や組成、炉の雰囲気などにも左右されるが、通常2〜15時間、好ましくは4〜12時間とする。この処理時間よりも著しく短い場合には脱酸素反応が進まなくなるおそれがあり、逆にこの処理時間よりも著しく長い場合には原料粉末の凝集を引き起こしたり生産性の低下を招いたりする可能性を生ずる。
【0061】
この熱処理において、あらかじめカーボン粉末を主原料を含む粉末に添加し、湿式ボールミルなどで混合しておくと、加熱した際にその還元作用により酸素不純物の除去が促進され、好適である。このカーボン粉末を添加する場合の添加量は、酸素不純物除去の促進効果をもたらし、かつカーボン成分の残留を回避するために、炭化珪素成分に対して0.1〜3質量%の添加量とすることが好ましく、0.3〜1.8質量%の範囲が特に好ましい。
【0062】
このような熱処理工程を備えることで、主原料を含む粉末から酸素が容易に除去される。このため、前掲の特許文献3に開示されるような、化学反応を用いて生成させた乱層構造窒化硼素(t−BN)を経由して六方晶窒化硼素(h−BN)とする場合に比べて、酸素の影響が排除された炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体を得ることが、より簡便にかつ確実に実現される。なお、後述する実施例(比較例9)に示すように、特許文献3に開示される製造方法で製造された焼結体は酸素不純物含有量が0.37質量%であった。本発明に係る製造方法によれば、焼結体の酸素不純物含有量濃度を0.2質量%以下にすることも容易に実現可能である。
【0063】
また、本発明に係る製造方法では、前述のように、結晶化した市販の窒化硼素粒子を原料として用いることが可能である。このことも製造容易性を高めることとなる。
【0064】
ここで、この熱処理は、焼結助剤を添加する前の主成分原料粉末を対象とすることが好ましい。これは、焼結助剤の金属酸化物が熱処理により還元されて変質したり、軟化や液相生成により凝集するおそれがあるためである。
【0065】
なお、この熱処理に供される主原料を含む粉末は、酸素不純物が除去されやすい状態、具体的には粉末同士が互いに過度に近接しない状態で熱処理されることが好ましい。次工程の焼成工程のように、成形体にしたり、モールド内に圧縮充填したりした状態で加熱すると、均一な酸素不純物の除去が行われないおそれがある。ただし、製品の運搬や脱脂炉への積載作業の効率化のために、後工程で粉砕・助剤混合が可能な程度に軽度な圧縮を加えることは妨げられない。
【0066】
(3)焼成工程
ア)焼結助剤
このような熱処理により得られた原料粉末に、焼結助剤がまだ添加されていない場合には焼結助剤成分粉末を混合し、さらに加圧成形して得られた成形体を不活性雰囲気中で焼成したり、原料粉末をダイスに充填してホットプレス焼成を行ったりすることで焼結体を得る。
【0067】
ここで、焼結助剤の組成については炭化珪素や窒化硼素の焼結に従来から使用されているものから選択することができる。好ましい焼結助剤は、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化イットリウム(イットリア)、酸化カルシウム(カルシア)、およびランタノイド金属の酸化物、スピネルなどの複合酸化物、ならびに窒化アルミニウムなどの窒化物からなる群から選ばれる一種または二種以上であり、より好ましくはアルミナおよびイットリアの混合物である。
【0068】
焼結助剤成分の配合量は3〜25質量%とする。焼結助剤の含有量が3質量%未満の場合焼結が不十分となって、焼結体の強度が低下するとともに気孔起因の熱伝導低下が発生しやすくなる。逆に25質量%を超える場合には、強度の低い粒界ガラス層が増加して同じく焼結体の強度低下を招くとともに硬脆性の粒界相によって研削抵抗荷重の増大をもたらす傾向を示す。さらには熱伝導の低下を引き起こすこともある。
【0069】
焼結助剤の好ましい含有量は製造方法に依存し、常圧焼成法であれば10〜25質量%であって、10〜20質量%であれば特に好ましい。一方、ホットプレス法であれば5〜15質量%が好ましく、5〜10質量%であれば特に好ましい。
【0070】
イ)常圧焼成法
以下、焼成方法を具体的に説明するが、これらは例示であって、本発明を制限するものではない。
【0071】
まず、焼成方法の一例として常圧焼成法を以下に示す。
湿式混合時の液体媒質は有機溶媒、例えばアルコールが好ましい。製品のサイズ、形状などを考慮し、必要に応じて少量のバインダー(通常は有機樹脂)を加えることができる。スラリーの乾燥は加熱装置上での蒸発乾固、エバポレーターでの真空吸引乾燥、スプレードライヤーでの造粒乾燥などの方法によって行えばよい。乾燥後の粉末を例えばCIP(冷間静水圧加圧)により加圧成形する。ここで、バインダーを含有させている場合は脱脂処理が必要であるが、これは600℃程度の加熱にて行えばよい。このとき、窒化硼素成分の酸化防止の観点から不活性雰囲気が好ましく、バインダー選定に際しては、これら脱脂雰囲気(活性または不活性)への適性も考慮しておくことが好ましい。ただし、窒化硼素成分の酸化が起こらない程度の温度で揮散するバインダーを選択した場合には、雰囲気の活性如何は問わない。
【0072】
得られた成形体を不活性雰囲気下で焼成する。焼成温度は一般に1700℃〜2200℃の範囲、好ましくは1800℃〜1950℃の範囲である。焼成温度が低すぎると緻密化せず、高すぎると焼結助剤成分の偏析・揮発、または炭化珪素成分や窒化硼素成分の粒成長を招いて強度低下を引き起こす。このような常圧プロセスであれば大型品の作製や複雑形状のニアネット・シェイプ作製が可能になり、低コスト化が図られる。
【0073】
さらに、得られた焼結体をHIP(熱間静水圧加圧)処理することで一層の高緻密化が達成される。この処理条件も当業者であれば適宜設定可能ではあるが、1600℃〜2200℃の範囲、好ましくは1650℃〜2000℃で、不活性雰囲気中100MPa以上、好ましくは150MPa以上とすることができる。
【0074】
ウ)ホットプレス法
上記の常圧焼成法以外の焼成方法の一つであるホットプレス法について以下に説明する。
【0075】
混合から乾燥までは常圧焼成プロセスと同様に行うが、一般には成形工程が不要となるため有機バインダーの添加は行わない。得られた原料粉末を黒鉛性モールドに充填し、不活性雰囲気中10〜50MPa、好ましくは25〜50MPaの一軸加圧を加えながら不活性雰囲気中で焼成すればよい。温度範囲は前記常圧焼成プロセスと同様である。一般にホットプレスは常圧焼成に比べて焼結が進行しやすいので助剤量の低減や焼成温度の低下が可能な場合もある。もちろん得られた焼結体をさらにHIP処理しても構わない。
【0076】
エ)その他の焼成法
以上焼成プロセスの例示を行ったが、この他、焼成を加圧雰囲気中で行い、揮発を抑止しながら焼成を行う「ガス圧焼結法」や脱脂した成形体を一軸加圧しながら焼成する”hot-forging”など種々の方法を適用して構わない。
【0077】
(4)皮膜形成工程
以上の工程により得られた焼結体に対して、その表層の少なくとも一部に皮膜を形成してもよい。その皮膜の種類は特に限定されず、具体例は前述のとおりである。また、各皮膜の形成方法は公知技術に基づいて、適宜、所望の膜質、膜厚のものを形成すればよい。
【0078】
3.炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体を用いた高機能部材
本発明に係る炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体は、例えば半導体ウエハや液晶基板などの搬送、保持を行う真空吸着チャック(図1および2参照)やウエハを支持するリフトピン、ステージなどの部材、またプラズマディスプレー製造工程中のMgO成膜で用いられるプラズマガン用絶縁スリーブ(図3および4参照)に適用することが好ましい。
【0079】
特にプラズマディスプレー製造工程中のMgO成膜で用いられるプラズマガンなどには、耐プラズマ性や耐熱性、高強度などの観点でセラミックス製の絶縁スリーブが用いられているが、本発明に係る材料は高熱伝導かつ高強度であるため、優れた熱衝撃耐性を示し、本用途に好適である。
【0080】
また半導体製造工程で用いられる露光装置においては、駆動機構が多く含まれていることからウエハ吸着チャックやステージなどの支持部材の軽比重(軽量)化が求められおり、この用途においても本発明の材料は好適に用いられる。
【0081】
しかも、上記のような高機能部材は、特に高い加工精度を要求されるところ、本発明に係る焼結体は前述のとおり優れた切削加工性を有するため、こうした厳しい加工精度の要求に応えることができる。このため、本発明に係る焼結体を用いた高機能部材は、生産性および使用時性能のいずれの観点においても優れている。
【0082】
ここで、以下に各用途の製造方法例について簡単に示す。
(1)プラズマガン用絶縁スリーブ
万能研削盤で内径、外径寸法加工を行い、平面研削盤で長さ方向の加工を行う。
【0083】
(2)真空吸着チャック
万能研削盤で外径を仕上げて、ロータリー平面研削盤で厚み加工を行い、研磨加工を施す。次に、マシニングセンターないしは超音波加工機で横穴を開ける。続いて、感光性樹脂でピン形状・配置に対応したマスキングを行って露光・現像を行い、サンドブラスト加工することでピンやリングを形成する。最後に研磨加工を行う。
【0084】
(3)支持部材平面研削盤で外辺寸法加工を行い、マシニングセンターで穴あけや座グリ加工を行う。
【実施例】
【0085】
以下に、本発明例およびそれに対する比較例を示す。本発明例および比較例中の焼結体の組成に関する「%」は、特に指定しない限り「質量%」を意味する。なお、本発明はこれら本発明例に限定されるものではない。
【0086】
(本発明例1〜7)
平均粒径0.05μm、純度92%の六方晶窒化硼素(h-BN)粉末と平均粒径0.4μmのα-炭化珪素粉末とを表1の割合になるように混合し、さらに平均粒径0.03μmのカーボン粉末を表1に示す割合で加え、エチルアルコール中でこの混合粉末を48時間ボールミル混合して、減圧エバポレーターで乾燥後、乳鉢にて粉砕した。得られた粉末を黒鉛製の容器に充填し、表1に示す条件で熱処理した。なお、真空中での熱処理の場合の真空度は10Pa以下であった。
【0087】
処理済の粉末に表1に示す割合で焼結助剤を添加し、エチルアルコール中で72時間ボールミル混合し、減圧エバポレーターで乾燥後、乳鉢にて粉砕した。なお、ボールミル混合は全てポリエチレン製ポット、メディアとしてジルコニアボールを用いた。
【0088】
この原料粉末を黒鉛製のダイスに充填し、窒素雰囲気中で30MPaの一軸加圧を加えながら表1に示す条件で焼結を行って、65mm×65mm、厚み10mmのセラミックス焼結体を得た。
【0089】
こうして得られた焼結体のうち、本発明例4に係る焼結体の破断面を電子顕微鏡で観察して前述の方法により平均結晶粒径を測定したところ、2.0μmであった。
この焼結体より試験片を切り出し、破壊強度を3点曲げ試験で測定した。また、加工性を評価するため超音波加工機(柴山機械社製3軸CNC超音波ロータリー加工機、超音波スピンドル回転数0〜5000rpm)にて直径2mmコアドリルを用い、送り速度1.0mm/min、回転数2000rpmの条件で穴あけ加工を行い、砥石軸ロードセル値を記録して研削抵抗荷重とした。
【0090】
その他、共振法でヤング率を測定し(測定装置:テクノプラス社製 JE-RT 弾性率測定装置)、ビッカース硬度計(ミツトヨ社製ビッカース硬さ試験機 HV-115)で硬度を測定し、レーザーフラッシュ法にて熱伝導率を測定した(測定装置:アルバック理工社製 TC7000)。さらに体積抵抗率も合わせて測定した(測定方法:JIS C2141 電気絶縁用セラミック材料試験方法 準拠)。色調評価は目視にて行った。
【0091】
また、一部の焼結体については、全含有酸素量を酸素分析装置(堀場製作所社製 EMGA―2800)で定量し、アルミニウム含有量とイットリウム含有量をICP発光分析装置(セイコー社製 SPS3000)で定量した上でそれぞれアルミナ(Al)、イットリア(Y)に換算し、全酸素量からアルミナ、イットリアに含まれる酸素量を減ずることによって酸素不純物量を算出した。これらの結果を表2に示す。
【0092】
いずれの本発明例においても、曲げ強度は490MPa以上、本発明例1から4では概ね600MPa以上であり、研削抵抗荷重は15kgf以下、本発明例2から6では6kgf以下であった。また、熱伝導率はいずれも概ね70W/m・K以上であった。
【0093】
なお、カーボン粉末の添加量が最も少ない本発明例4においても、酸素不純物含有量は0.01質量%であり、カーボン粉末を添加して熱処理を行うことで、酸素不純物含有量を特に低く抑えることが可能であることが確認された。
【0094】
(本発明例8)
カーボン粉末を加えず、その他の成分組成および製造条件は本発明例4と同様にして焼結体を作製し、評価した。
【0095】
(本発明例9)
炭化珪素粉末にβ型、平均粒径0.3μmのものを用いて、熱処理条件以外の成分組成および製造条件は本発明例8と同様にして焼結体を作製し、評価した。
【0096】
本発明例9では熱処理においてカーボン粉末を添加しなかったため、本発明例1〜7に比べると酸素不純物含有量は多いものの、それでも0.1質量%程度であり、十分に低い水準に抑えることが可能であることが確認された。そして、この酸素不純物含有量が低いことから、曲げ強度、研削抵抗荷重、および熱伝導率のいずれも優れた特性が得られた。
【0097】
(本発明例10)
本発明例4と同様の成分組成および製造条件で焼結体を作製し、表層を研削除去し、洗浄・乾燥後に化学気相蒸着法(CVD法)にてSiC皮膜を形成した。膜厚は、製品の一部をマスキングして表面粗さ計(東京精密社製 SURFCOM E-RM-S02A)で測定した。さらに、皮膜を形成した製品表面を研磨加工して仕上げを行い、表面電気抵抗を測定した(製造方法:JIS C2141 電気絶縁用セラミック材料試験方法 準拠)。
【0098】
(本発明例11)
本発明例4と同様の成分組成および製造条件で焼結体を作製し、表層を研削除去して、洗浄・乾燥後にプラズマCVD法にてDLC(ダイヤモンドライクカーボン)皮膜を形成した。膜厚は、製品の一部をマスキングして表面粗さ計で測定した。さらに、表面電気抵抗を測定した。
【0099】
(本発明例12)
本発明例4と同様の成分組成および製造条件で焼結体を作製し、表層を研削除去し、洗浄・乾燥後にスパッタ法にてTi-Al-N皮膜を形成した。膜厚は、製品の一部をマスキングして表面粗さ計で測定した。さらに、表面電気抵抗を測定した。
【0100】
(本発明例13〜14)
平均粒径0.05μm、純度92%の六方晶窒化硼素(h-BN)粉末と平均粒径0.4μmのα-炭化珪素粉末を表1の割合になるように混合し、エチルアルコール中でこの混合粉末を48時間ボールミル混合して、減圧エバポレーターで乾燥後、乳鉢にて粉砕した。得られた粉末を黒鉛製の容器に充填し、真空中表1に示すヒートパターンで熱処理した。処理済の粉末に表1に示す割合で焼結助剤を添加し、エチルアルコール中で72時間ボールミル混合して、減圧エバポレーターで乾燥後、乳鉢にて粉砕した。
【0101】
得られた粉末を70mm×30mmの金型に充填し、150MPaの圧力でCIP(冷間静水圧加圧)成形を行った。次に、この成形体を黒鉛製の容器に載置し、窒素雰囲気中表1に示す条件で常圧焼成法により焼結を行った。得られた焼結体から試験片を切り出し、曲げ強度、研削抵抗荷重、ビッカース硬度を測定した。各測定は本発明例1〜7と同様な条件で行った。
【0102】
(本発明例15、16、20)
本発明例13〜14と同様な方法で焼結体を作製し、得られた焼結体を表1に示した条件でHIP(熱間静水圧プレス)処理した。得られた焼結体は本発明例12および13と同様な条件で評価した。
【0103】
なお、本発明例4の場合と同様に平均結晶粒径を測定したところ、それぞれ、2.3μm(本発明例15)、3.2μm(本発明例16)であった。
また、こうして得られた焼結体の中で最も熱処理温度が低い本発明例20について酸素不純物含有量を測定したところ、0.18質量%であった。この結果より、常圧焼成法であることから焼結助剤の量が多い場合であっても、熱処理によって酸素不純物含有量を0.2質量%以下にすることができることが確認された。
【0104】
(本発明例17〜19)
平均粒径0.05μm、純度92%の六方晶窒化硼素(h-BN)粉末と平均粒径0.4μmのα-炭化珪素粉末を表1の割合になるよう混合し、さらに平均粒径0.03μmのカーボン粉末を表1に示す割合で加え、エチルアルコール中でこの混合粉末を48時間ボールミル混合して、減圧エバポレーターで乾燥後、乳鉢にて粉砕した。得られた粉末を黒鉛製の容器に充填し、真空中表1に示す条件で熱処理した。処理済の粉末に表1に示す割合で焼結助剤を添加し、エチルアルコール中で72時間ボールミル混合して、減圧エバポレーターで乾燥後、乳鉢にて粉砕した。
以降の条件は本発明例15〜16と同様の条件で試料を作製し、評価を行った。
また、こうして得られた焼結体の中で最も窒化硼素配合量が多く、酸素不純物含有量も最も多いと予想される本発明例19について酸素不純物含有量を測定したところ、0.18質量%であった。
【0105】
(比較例1,2)
比較のために、酸素不純物除去のための熱処理を行わなかった点を除いて本発明例1〜7と同様にして焼結体を作製し、評価を実施した。
【0106】
(比較例3)
比較のために、酸素不純物除去のための熱処理を行わなかった点を除いて本発明例9と同様にして焼結体を作製し、評価を実施した。
【0107】
(比較例4)
比較のために、炭化珪素、窒化硼素の配合割合が本発明の範囲外である点を除いて本発明例1〜7と同様にして焼結体を作製し、評価を実施した。
【0108】
(比較例5)
比較のために、平均粒径3.5μm、純度99%の六方晶窒化硼素(h-BN)粉末を用い、その他条件は本発明例1〜7と同様にして焼結体を作製し、評価を実施した。
【0109】
(比較例6)
比較のために、平均粒径2μmのα-炭化珪素粉末を用い、その他条件は本発明例1〜7と同様にして焼結体を作製し、評価を実施した。
【0110】
(比較例7)
比較のために、炭化珪素、窒化硼素の配合割合が本発明の範囲外である点を除いて本発明例1〜7と同様にして焼結体を作製し、評価を実施した。
【0111】
(比較例8)
比較のために、焼結助剤添加量が本発明の範囲外である点を除いて本発明例1〜7と同様にして焼結体を作製し、評価を実施した。
【0112】
(比較例9)
比較のために、前掲の特許文献3に開示される製造方法により焼結体を製造したものについて評価を行った。
【0113】
平均粒径0.3μmのβ型炭化珪素と硼酸(HBO)粉末および硼酸の2倍のモル量に相当する尿素粉末を、窒化硼素換算で表1の割合になるように配合し、エチルアルコール中で24時間湿式ボールミル混合した後乾燥した。乾燥した混合粉末を水素雰囲気中700℃で3時間、続いて1100℃で8時間還元処理をした。さらに窒素雰囲気中1500℃で6時間加熱処理した後真空中で3時間加熱処理した。このようにして得られたh―BN前駆体と炭化珪素の混合粉末に表1に示す割合で焼結助剤を添加し、あとは本発明例1〜7と同様にして焼結体を作製し、評価を実施した。
【0114】
この場合には、酸素不純物含有量は0.37質量%であり、本発明例に係る焼結体に比べると多くの酸素不純物が混在していることが確認された。
【0115】
(比較例10)
比較のために、市販の99.7%アルミナ焼結体について本発明例と同様な評価を行った。
【0116】
(比較例11)
比較のために、市販の炭化珪素焼結体について本発明例と同様な評価を行った。
【0117】
(比較例12)
比較のために、市販の窒化珪素焼結体について本発明例と同様な評価を行った。
【0118】
【表1】

【0119】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】露光装置の構造を概念的に示す図である。
【図2】図1に示される露光装置に組み込まれるウエハ吸着チャックの構造を概念的に示す上面図および断面図である。
【図3】MgO成膜用プラズマガンの構造を概念的に示す断面図である。
【図4】MgO成膜用プラズマガンに組み込まれる絶縁スリーブの構造を概念的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0121】
11 光源
12 レンズ
13 Siウエハ
14 ウエハ吸着チャック
15 ステージ
21 チャック基材
22 気密保持リング
23 突起部
24 排気用貫通穴
25 ニップル
31 カソードマウント
32 Moチューブ
33 LaB
34 第1中間電極
35 第2中間電極
36 帰還電極
37 絶縁スリーブ
41 絶縁スリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素粉末と六方晶窒化硼素粉末と焼結助剤成分粉末との混合物が焼結された焼結体であって、
炭化珪素を55〜92質量%、窒化硼素を5〜35質量%ならびに焼結助剤由来の金属およびその化合物からなる群から選ばれる一種または二種以上を3〜25質量%の割合で含有し、
酸素不純物含有量が0.2質量%以下であり、
曲げ強度が400MPa以上であること
を特徴とする炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体。
【請求項2】
前記焼結体の微細組織における平均結晶粒径が5μm以下であって、気孔率が0.5%未満である、請求項1記載の炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体。
【請求項3】
炭化珪素粉末、六方晶窒化硼素粉末および焼結助剤成分粉末をそれぞれ55〜92質量%、5〜35質量%、および3〜25質量%の割合で含む焼成用混合粉末材料を、高温下で焼成する焼成工程を有する、炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体の製造方法であって、
前記焼成工程の前に、炭化珪素粉末および六方晶窒化硼素粉末を含む粉末を真空または不活性雰囲気中で熱処理して、当該粉末に含まれる酸素不純物を除去する熱処理工程を備え、
前記焼成工程により得られた焼結体の曲げ強度が400MPa以上であること
を特徴とする、炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理工程における熱処理温度が1450〜1650℃の範囲である、請求項3記載の炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体の製造方法
【請求項5】
前記熱処理工程に供される粉末が焼結助剤成分粉末を含まず、該熱処理工程によって得られた粉末に対して当該焼結助剤成分粉末を混合し、得られた混合粉末を前記焼成工程に供する、請求項3または4記載の炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記焼成工程に供される粉末が、炭化珪素成分と窒化硼素成分との合計量に対して0.1〜3質量%の含有量でカーボン粉末を含有する、請求項3から5のいずれかに記載の炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記六方晶窒化硼素粉末の平均粒径が1μm未満である、請求項3から6のいずれかに記載の炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体の製造方法。
【請求項8】
表層の少なくとも一部に皮膜が形成されている、請求項1または2記載の炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体。
【請求項9】
前記皮膜が、ダイヤモンド状カーボンからなる皮膜である、請求項8記載の炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体。
【請求項10】
前記皮膜が、炭化珪素からなる皮膜である、請求項8記載の炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体。
【請求項11】
前記皮膜が、長周期型周期表上3A〜4Bまでの金属および半金属のうち少なくとも一つを含む金属、ならびにその炭化物、窒化物、硼化物、酸化物、炭窒化物、および酸窒化物からなる群から選ばれた一種または二種以上からなる皮膜である、請求項8記載の炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体。
【請求項12】
前記皮膜が、フッ素樹脂からなる皮膜である、請求項8記載の炭化珪素/窒化硼素複合材料焼結体。
【請求項13】
請求項1,2および8から12のいずれかに記載の焼結体からなる部品を備えるプラズマガン用絶縁スリーブ。
【請求項14】
請求項1,2および8から12のいずれかに記載の焼結体からなる部品を備える真空吸着チャック。
【請求項15】
請求項1,2および8から12のいずれかに記載の焼結体からなる部品を備える半導体製造装置用の支持部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−179507(P2009−179507A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−19256(P2008−19256)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(591034280)株式会社フェローテックセラミックス (9)
【Fターム(参考)】