説明

状態判別装置

【課題】インバータのPWM変調で外乱を受けることなく、インバータ、モータの絶縁劣化が検出できる状態判別装置の提供。
【解決手段】 状態判別装置は、直流高電圧電源136と、直流高電圧電源136から得る電力を交流変換するインバータ装置140と、インバータ装置140からの交流電力が供給される誘導性負荷192とを備える装置の、絶縁状態を判別するものであって、直流高電圧電源136の正極端子または負極端子とインバータ装置筐体の電位を基準電位とするグランド端子との間に設けられた容量結合回路1,R1,2と、容量結合回路1,R1,2を流れる電流に基づく交流電圧から所定の基準電圧を差し引いた差電圧を増幅して出力する非線形増幅装置7と、非線形増幅装置7の出力電圧が所定閾値以下か否かを判定する第1の判定手段172とを備え、第1の判定手段172の判定結果に基づいて、絶縁状態を判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、状態判別装置に係り、特に、電気車の駆動装置における高電圧インバータおよびモータの絶縁劣化に好適な状態判別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車及び電気式ハイブリッド自動車の高電圧からの乗車人員の保護に関する技術基準として、活電部と電気的シャシとの間の絶縁抵抗値は作動電圧1V当たり100Ω以上とする技術基準が報告されている。例えば、ハイブリッド自動車でバッテリ電圧が400Vの場合、バッテリ電圧が印加されるインバータ装置やこのインバータ装置で駆動されるモータは、筐体との間の絶縁抵抗が40kΩ以上あれば正常の条件を満たす。ここで、絶縁不良が予想される箇所としては、(1)モータと筐体ハウジング(筐体は車両のボディアースと同電位)との間、又は(2)インバータとその装置筐体との間が考えられる。
【0003】
電気車の地絡を検出する装置については、例えば、特許文献1に記載されているようなものが知られている。特許文献1に記載の装置では、周期波形からなる地絡検出信号を検出抵抗とカップリングコンデンサを介して高電圧部に供給し、検出抵抗とカップリングコンデンサの接続点の電圧から絶縁抵抗劣化を検出するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−209331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インバータ装置がPWM変調で駆動されると、これに伴う漏洩電流が周期波形からなる地絡検出信号に重畳して流れる。そのため、検出結果にノイズとして影響を及ぼし、検出感度が低下するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、直流高電圧電源と、直流高電圧電源から得る電力を交流変換するインバータ装置と、インバータ装置からの交流電力が供給される誘導性負荷とを備える装置の、絶縁状態を判別する状態判別装置であって、直流高電圧電源の正極端子または負極端子とインバータ装置筐体の電位を基準電位とするグランド端子との間に設けられた容量結合回路と、容量結合回路を流れる電流に基づく交流電圧から所定の基準電圧を差し引いた差電圧を増幅して出力する非線形増幅装置と、非線形増幅装置の出力電圧が所定閾値以下か否かを判定する第1の判定手段とを備え、第1の判定手段の判定結果に基づいて、絶縁状態を判別することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ノイズに対するS/N比に優れた絶縁劣化検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施の形態を説明する図である。
【図2】第1の実施の形態の第1の変形例を示す図である。
【図3】キャパシタ8の電圧変化と、キャパシタ2の電圧とを示す図である。
【図4】非線形増幅装置7の特性を示す図である。
【図5】第1の実施の形態の第2の変形例を示す図である。
【図6】第2の実施の形態を説明する図である。
【図7】絶縁劣化診断時のモータ制御を説明する図である。
【図8】絶縁劣化診断の動作を説明するフローチャートである。
【図9】ハイブリッド自動車の制御ブロックを示す図である。
【図10】車両駆動用電気システムの回路構成を示す図である。
【図11】倍電圧整流回路の動作を説明する図である。
【図12】図8に示す処理の変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明の実施の形態を説明する。最初に、本発明の実施形態の要部を説明する前に、電気車の駆動装置について、図面を参照しながら説明する。本発明の実施形態に係る状態判別装置の適用例としては、自動車に搭載される車載電機システムの車載用電力変換装置、特に、車両駆動用モータを制御するインバータ装置が代表的なものである。これらは、周囲の温度や、搭載される場所の振動など、大変厳しい動作環境で使用される。
【0010】
車両駆動用インバータ装置は、車両駆動用モータの駆動を制御する制御装置として車両駆動用モータシステムに備えられ、車載電源を構成する車載バッテリ或いは車載発電装置から供給された直流電力を所定の交流電力に変換し、得られた交流電力を車両駆動用モータに供給して車両駆動用モータの駆動を制御する。また、車両駆動用モータは、発電機としての機能も有している。そのため、車両駆動用インバータ装置は、運転モードに応じて車両駆動用モータの発生する交流電力を直流電力に変換する機能も有している。変換された直流電力は車載バッテリに供給される。
【0011】
本発明の実施形態に係る状態判別装置は、ハイブリッド用の自動車や純粋な電気自動車に適用可能であるが、代表例として、ハイブリッド自動車に適用した場合について説明する。図9と図10を用いて、電気車の駆動装置における、制御構成と電力変換装置の回路構成の一例を説明する。
【0012】
図9はハイブリッド自動車の制御ブロックを示す図であり、電気車駆動用電機システムとして、上下アームの直列回路及び制御部を含むインバータ装置140,142,43と、インバータ装置140,142,43の直流側に接続されたコンデンサモジュール500を備えた電力変換装置200と、バッテリ136と、モータジェネレータ192,194とを備えている。
【0013】
図9において、ハイブリッド電気自動車(以下、「HEV」と記述する)110は電動車両の一種であり、2つの車両駆動用システムを備えている。その1つは、内燃機関であるエンジン120を動力源としたエンジンシステムである。エンジンシステムは、主としてHEVの駆動源として用いられる。もう1つは、モータジェネレータ192,194を動力源とした車載電機システムである。車載電機システムは、主としてHEVの駆動源及びHEVの電力発生源として用いられる。モータジェネレータ192,194は例えば同期機あるいは誘導機であり、運転方法によりモータとしても発電機としても動作するので、ここではモータジェネレータと記すこととする。
【0014】
車体のフロント部には前輪車軸114が回転可能に軸支されている。前輪車軸114の両端には1対の前輪112が設けられている。車体のリア部には後輪車軸(図示省略)が回転可能に軸支されている。後輪車軸の両端には1対の後輪が設けられている。本実施形態のHEVでは、動力によって駆動される主輪を前輪112とし、連れ回される従輪を後輪とする、いわゆる前輪駆動方式を採用しているが、この逆、すなわち後輪駆動方式を採用しても構わない。
【0015】
前輪車軸114の中央部には前輪側デファレンシャルギア(以下、「前輪側DEF」と記述する)116が設けられている。前輪車軸114は前輪側DEF116の出力側に機械的に接続されている。前輪側DEF116の入力側には変速機118の出力軸が機械的に接続されている。前輪側DEF116は、変速機118によって変速されて伝達された回転駆動力を左右の前輪車軸114に分配する差動式動力分配機構である。変速機118の入力側にはモータジェネレータ192の出力側が機械的に接続されている。モータジェネレータ192の入力側には、動力分配機構122を介してエンジン120の出力側及びモータジェネレータ194の出力側が機械的に接続されている。尚、モータジェネレータ192,194及び動力分配機構122は、変速機118の筐体の内部に収納されている。
【0016】
動力分配機構122は歯車123〜130から構成された差動機構である。歯車125〜128は傘歯車である。歯車123,124,129,130は平歯車である。モータジェネレータ192の動力は、変速機118に直接に伝達される。モータジェネレータ192の軸は歯車129と同軸になっている。この構成により、モータジェネレータ192に対して駆動電力の供給が無い場合には、歯車129に伝達された動力がそのまま変速機118の入力側に伝達される。
【0017】
エンジン120の作動によって歯車123が駆動されると、エンジン120の動力は歯車123から歯車124に、次に、歯車124から歯車126及び歯車128に、次に、歯車126及び歯車128から歯車130にそれぞれ伝達され、最終的には歯車129に伝達される。モータジェネレータ194の作動によって歯車125が駆動されると、モータジェネレータ194の回転は歯車125から歯車126及び歯車128に、次に、歯車126及び歯車128から歯車130のそれぞれに伝達され、最終的には歯車129に伝達される。なお、動力分配機構122としては上述した差動機構に代えて、遊星歯車機構などの他の機構を用いても構わない。
【0018】
モータジェネレータ192,194は、回転子に永久磁石を備えた同期機であり、固定子の電機子巻線に供給される交流電力がインバータ装置140,142によって制御されることによりモータジェネレータ192,194の駆動が制御される。インバータ装置140,142にはバッテリ136が電気的に接続されており、バッテリ136とインバータ装置140,142との相互において電力の授受が可能である。
【0019】
図9に示すHEVにおいては、モータジェネレータ192及びインバータ装置140からなる第1電動発電ユニットと、モータジェネレータ194及びインバータ装置142からなる第2電動発電ユニットとの2つを備え、運転状態に応じてそれらを使い分けている。すなわち、エンジン120からの動力によって車両を駆動している場合において、車両の駆動トルクをアシストする場合には第2電動発電ユニットを発電ユニットとしてエンジン120の動力によって作動させて発電させ、その発電によって得られた電力によって第1電動発電ユニットを電動ユニットとして作動させる。また、同様の場合において、車両の車速をアシストする場合には、第1電動発電ユニットを発電ユニットとしてエンジン120の動力によって作動させて発電させ、その発電によって得られた電力によって第2電動発電ユニットを電動ユニットとして作動させる。
【0020】
また、バッテリ136の電力によって第1電動発電ユニットを電動ユニットとして作動させることにより、モータジェネレータ192の動力のみによって車両の駆動ができる。さらに、第1電動発電ユニット又は第2電動発電ユニットを発電ユニットとして、エンジン120の動力或いは車輪からの動力によって作動させて発電させることにより、バッテリ136の充電ができる。
【0021】
バッテリ136は、さらに補機用のモータ195を駆動するための電源としても使用される。補機用モータ195は、例えばエアコンディショナーのコンプレッサを駆動するモータ、あるいは制御用の油圧ポンプを駆動するモータである。インバータ装置43は、バッテリ136から供給された直流電力を交流の電力に変換し、その交流電力をモータ195に供給する。インバータ装置43はインバータ装置140や142と同様の機能を持ち、モータ195に供給する交流の位相や周波数、電力を制御する。例えば、回転子の回転に対し進み位相の交流電力をモータ195に供給することにより、モータ195はトルクを発生する。一方、遅れ位相の交流電力を発生することで、モータ195は発電機として作用し、モータ195は回生制動状態の運転となる。このようなインバータ装置43の制御機能は、インバータ装置140や142の制御機能と同様である。モータ195の容量がモータジェネレータ192や194の容量より小さいので、インバータ装置43の最大変換電力がインバータ装置140や142より小さいが、インバータ装置43の回路構成は基本的にインバータ装置140や142の回路構成と同じである。
【0022】
インバータ装置140,142,43やコンデンサモジュール500は、電気的に密接な関係にある。さらに発熱に対する対策が必要な点が共通している。また装置の体積をできるだけ小さく作ることが望まれている。
【0023】
図9において、変速機118や動力分配機構122或はエンジン120等の機構系部品は車両と機械的に接触しており、車体金属フレーム(ボディ)を仮想接地電位にアースされている。一方、高圧のバッテリ136から電力が供給されるモータジェネレータ用インバータ装置140、142と、これらのインバータ装置140、142から電力が供給されるモータジェネレータ192、194、および補機用インバータ装置43とそのモータ195は、筐体またはハウジングがボディアースされているが、筐体内部の活電部は筐体に対して絶縁されている。この絶縁が劣化すると、装置筐体とボディ間に電位差が生じ、メンテナンス等で人体が装置筐体とボディに触れると感電する恐れがある。本発明は高電圧電気部品の絶縁劣化を診断して、感電等が起きないように保護又は表示による注意喚起を行うことが目的である。
【0024】
図10は、車両駆動用電気システムの回路構成を説明する図であり、インバータ装置の基本的な構成を示す。なお、インバータ装置140,142,143は同様の構成を有しており、ここでは、代表例としてインバータ装置140の説明を行う。上述したように、電力変換装置200は、インバータ装置140とコンデンサモジュール500とを備えている。インバータ装置140は、インバータ回路144と制御部170とを有している。また、インバータ回路144は、上アームとして動作するIGBT328(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)及びダイオード156と、下アームとして動作するIGBT330及びダイオード166と、からなる上下アーム直列回路150を複数有している。図10に示す例では上下アーム直列回路150を3つ有しており、それぞれの上下アーム直列回路150の中間電極169は、交流端子159を通してモータジェネレータ192への交流電力線(交流バスバー)186に接続されている。また、制御部170は、インバータ回路144を駆動制御するドライバ回路174と、ドライバ回路174へ信号線176を介して制御信号を供給する制御回路172と、を有している。
【0025】
上アームと下アームのIGBT328,330は、スイッチング用パワー半導体素子であり、制御部170から出力された駆動信号を受けて動作し、バッテリ136から供給された直流電力を三相交流電力に変換する。この変換された電力は、モータジェネレータ192の電機子巻線に供給される。上述のとおり、インバータ装置140は、モータジェネレータ192が発生する三相交流電力を直流電力に変換することもできる。
【0026】
インバータ回路144は3相ブリッジ回路により構成されており、3相分の上下アーム直列回路150,150,150がそれぞれ、直流正極端子314と直流負極端子316の間に電気的に並列に接続されている。直流正極端子314および直流負極端子316は、バッテリ136の正極側と負極側に電気的に接続されている。ここで、上下アーム直列回路150はアームと呼称されており、上アーム側のスイッチング用パワー半導体素子328及びダイオード156と、下アーム側のスイッチング用パワー半導体素子330及びダイオード166を備えている。
【0027】
IGBT328や330は、コレクタ電極153,163、信号用エミッタ電極端子155,165およびゲート電極端子154,164を備えている。IGBT328,330のコレクタ電極153,163とエミッタ電極との間にはダイオード156,166が図示するように電気的に接続されている。ダイオード156,166は、カソード電極及びアノード電極の2つの電極を備えており、IGBT328,330のエミッタ電極からコレクタ電極に向かう方向が順方向となるように、カソード電極がIGBT328,330のコレクタ電極に、アノード電極がIGBT328,330のエミッタ電極にそれぞれ電気的に接続されている。スイッチング用パワー半導体素子としてはMOSFET(金属酸化物半導体型電界効果トランジスタ)を用いてもよく、この場合はダイオード156やダイオード166は不要となる。
【0028】
上下アーム直列回路150は、モータジェネレータ192の電機子巻線の各相巻線に対応して3相分設けられている。3つの上下アーム直列回路150,150,150はそれぞれ、IGBT328のエミッタ電極とIGBT330のコレクタ電極163を接続する中間電極169、交流端子159を介してモータジェネレータ192へのU相、V相、W相を形成している。上下アーム直列回路150同士は電気的に並列接続されている。上アームのIGBT328のコレクタ電極153は、正極端子(Positive端子、P端子)157および直流バスバーを介して、コンデンサモジュール500の正極側コンデンサ電極に電気的に接続されている。一方、下アームのIGBT330のエミッタ電極は、負極端子(Negative端子、N端子)158および直流バスバーを介してコンデンサモジュール500の負極側コンデンサ電極に電気的に接続されている。各アームの中点部分、すなわち上アームのIGBT328のエミッタ電極と下アームのIGBT330のコレクタ電極との接続部分にあたる中間電極169は、モータジェネレータ192の電機子巻線の対応する相巻線に、交流コネクタ188を介して電気的に接続されている。
【0029】
コンデンサモジュール500は、IGBT328,330のスイッチング動作によって生じる直流電圧の変動を抑制する平滑回路を構成している。コンデンサモジュール500の正極側コンデンサ電極にはバッテリ136の正極側が、コンデンサモジュール500の負極側コンデンサ電極にはバッテリ136の負極側が、それぞれ直流コネクタ138を介して電気的に接続されている。これにより、コンデンサモジュール500は、上アームIGBT328のコレクタ電極153とバッテリ136の正極側との間と、下アームIGBT330のエミッタ電極とバッテリ136の負極側との間とでそれぞれ接続され、バッテリ136と上下アーム直列回路150とに対して電気的に並列接続されている。
【0030】
IGBT328,330を作動させるための制御部170は、制御回路172とドライバ回路174とを備えている。制御回路172は、他の制御装置やセンサなどからの入力情報に基づいて、IGBT328,330のスイッチングタイミングを制御するためのタイミング信号を生成する。ドライバ回路174は、制御回路172から出力されたタイミング信号に基づいて、IGBT328,330をスイッチング動作させるためのドライブ信号を生成する。
【0031】
制御回路172は、IGBT328,330のスイッチングタイミングを演算処理するためのマイクロコンピュータ(以下、「マイコン」と記述する)を備えている。マイコンには入力情報として、モータジェネレータ192に対して要求される目標トルク値、上下アーム直列回路150からモータジェネレータ192の電機子巻線に供給される電流値、及びモータジェネレータ192の回転子の磁極位置が入力される。目標トルク値は、不図示の上位の制御装置から出力された指令信号に基づくものである。電流値は、電流センサ180から出力された検出信号に基づいて検出されたものである。磁極位置は、モータジェネレータ192に設けられた回転磁極センサ(不図示)から出力された検出信号に基づいて検出されたものである。本実施形態では、3相の電流値を検出する場合を例に挙げて説明するが、2相分の電流値を検出するようにしても構わない。
【0032】
制御回路172内のマイコンは、目標トルク値に基づいてモータジェネレータ192のd,q軸の電流指令値を演算し、この演算されたd,q軸の電流指令値と、検出されたd,q軸の電流値との差分に基づいてd,q軸の電圧指令値を演算し、この演算されたd,q軸の電圧指令値を、検出された磁極位置に基づいてU相、V相、W相の電圧指令値に変換する。そして、マイコンは、U相、V相、W相の電圧指令値に基づく基本波(正弦波)と搬送波(三角波)との比較に基づいてパルス状の変調波を生成し、この生成された変調波を、PWM(パルス幅変調)信号としてドライバ回路174に出力する。
【0033】
ドライバ回路174は、下アームを駆動する場合、PWM信号を増幅し、これをドライブ信号として、対応する下アームのIGBT330のゲート電極に出力する。上アームを駆動する場合には、ドライバブ回路174は、PWM信号の基準電位のレベルを上アームの基準電位のレベルにシフトしてからPWM信号を増幅し、これをドライブ信号として、対応する上アームのIGBT328のゲート電極に出力する。これにより、各IGBT328,330は、入力されたドライブ信号に基づいてスイッチング動作する。
【0034】
また、制御部170は、異常検知(過電流、過電圧、過温度など)を行い、上下アーム直列回路150を保護している。このため、制御部170にはセンシング情報が入力されている。例えば、各アームの信号用エミッタ電極端子155,165からは、各IGBT328,330のエミッタ電極に流れる電流の情報が、対応する駆動部(IC)に入力されている。これにより、各駆動部(IC)は過電流検知を行い、過電流が検知された場合には対応するIGBT328,330のスイッチング動作を停止させ、対応するIGBT328,330を過電流から保護する。上下アーム直列回路150に設けられた温度センサ(不図示)からは、上下アーム直列回路150の温度の情報がマイコンに入力されている。また、マイコンには上下アーム直列回路150の直流正極側の電圧の情報が入力されている。マイコンは、それらの情報に基づいて過温度検知及び過電圧検知を行い、過温度或いは過電圧が検知された場合には全てのIGBT328,330のスイッチング動作を停止させ、上下アーム直列回路150や、上下アーム直列回路150を含む半導体モジュールを、過温度或いは過電圧から保護する。
【0035】
上述したように、図10に示す上下アーム直列回路150は、上アームのIGBT328及び上アームのダイオード156と、下アームのIGBT330及び下アームのダイオード166との直列回路であり、IGBT328,330はスイッチング用半導体素子である。インバータ回路144の上下アームのIGBT328,330の導通および遮断動作が一定の順で切り替わり、この切り替わり時のモータジェネレータ192の固定子巻線の電流は、ダイオード156,166によって作られる回路を流れる。
【0036】
図10で、制御回路172とドライブ回路174の間のインターフェース176はフォトカプラ等の光結合か又は磁気的な結合手段によって絶縁する。言い換えれば、制御回路172はその他の高電圧回路とは電気的に絶縁されている為、基準電位を選ぶことができる。一般的に制御回路172は、車に搭載される他の電子部品と同様に低電圧バッテリ(不図示)から電力の供給を受けており、基準電位は低電圧バッテリの負極、即ちボディを基準電位としている。
【0037】
−第1の実施の形態−
図10では電力変換装置200の基本的な構成について説明したが、上記の説明の下に、本発明の第1の実施例形態を説明する。図1は第1の実施の形態を説明する図であり、図10に示した構成と同一の部分には同一の符号を付し、以下では異なる部分を中心に説明する。ただし、U,V,W各相のIGBT328,330に関しては、U相は符号Q1,Q2で表し、V相は符号Q3,Q4で表し、W相は符号Q5,Q6で表すようにした。また、以下では、モータジェネレータ192,194のことを、モータ192,194と呼ぶことにする。なお、ここでは、インバータ装置140を例に説明するが、インバータ装置142,43も同様である。
【0038】
図1に示す電力変換装置200では、リレー10、リレードライバ回路11、絶縁診断装置12および非線形増回路7が、さらに設けられている。13はインバータ外部の制御装置であり、電流指令値等を出力する。
【0039】
リレー10はバッテリ136の正極とコンデンサモジュール500との間に設けられ、そのオンオフ動作はリレードライバ回路11によって制御される。リレードライバ回路11は、直流側の絶縁診断装置12と制御回路172とからの信号に応じて、リレー10をオンオフする。リレー10とコンデンサモジュール500との間には上述の絶縁診断装置12が設けられており、この絶縁診断装置12により直流高電圧と接地間の絶縁劣化を検出する。なお、直流側の絶縁診断装置12の詳しい回路構成は記載していないが、例えば、特開2008−64522号公報に記載されているような構成を適用することができる。
【0040】
コンデンサモジュール500の両端子間には、Yコンデンサと呼ばれるキャパシタ8,9が直列に接続されている。キャパシタ8,9の接続箇所(中点G)は、インバータ装置140の筐体に接続する。キャパシタ8,9は、インバータ装置140がPWM駆動した際に、電圧の過渡的変化が原因で生じる各部浮遊容量の充放電電流がインバータの筐体外部に流れ出さないように、充放電電流の伝導経路として機能する。キャパシタ8,9の容量は数nF〜数μFの値であり、浮遊容量の充放電電流の程度に応じて選定される。
【0041】
なお、後述する図3の動作説明においては、Yコンデンサ(キャパシタ8,9)を用いる構成を例に説明しているが、インバータ直列回路150の正極あるいは負極端子、又はこれらの端子からバスバーを介して繋がる回路と、上記筐体の間には浮遊容量が存在しており、本発明の動作でYコンデンサの代わりに浮遊容量を同じ作用に用いても良く、Yコンデンサの必要性を限定するものではない。
【0042】
コンデンサモジュール500の正極と接地電位GNDの間には、キャパシタ1と抵抗R1、及びキャパシタ2を直列に接続したコンデンサカップリングの経路を設ける。また、抵抗R1とキャパシタ2との直列部に対して、抵抗R2を並列に備える。非線形増幅装置7は、キャパシタ2の電圧を増幅する手段として設けられている。
【0043】
図1は、非線形増幅装置7として倍電圧整流回路を用いる例であり、コッククロフト倍電圧回路を用いている。キャパシタ2の電圧が正の場合に、キャパシタ3、ダイオードD2、キャパシタ4からなる直列回路がキャパシタ2に並列で接続される。
キャパシタ4に対しても同様に、ダイオードD1、キャパシタ5、ダイオードD4、キャパシタ6からなる直列回路がキャパシタ4に並列で接続される。また、キャパシタ2の電圧が負の場合には、キャパシタ3、ダイオードD1からなる直列回路がキャパシタ2に並列で接続されると共に、キャパシタ4、ダイオードD3、キャパシタ5、及びキャパシタ3からなる直列回路がキャパシタ2に並列で接続される。
【0044】
後述するように、これらキャパシタとダイオードとからなる回路が次の段の回路へ電圧を受け渡してゆく。最終的な出力はダイオードD4のカソードと接地電位(GND)間に接続された抵抗RSの電圧になるこの電圧を検出電圧Vsと呼ぶことにする。
【0045】
モータ192で絶縁劣化が発生した場合、モータ192には、図示しない抵抗がモータ巻線と接地電位との間に等価的に発生することになる。この等価的な抵抗を、以下では絶縁抵抗と呼ぶことにする。インバータ装置140の上アーム、例えば、U相のIGBTQ1がオン状態になると、IGBTQ1からモータ巻線を経て絶縁抵抗(不図示)を通って接地GNDへ流れ、接地GNDからYコンデンサの中点Gに到り、キャパシタ8を通って元のQ1に戻る経路で、リーク電流(或は地絡電流)が流れる。
【0046】
絶縁が正常な場合には、モータ巻線と接地電位との間には浮遊容量が存在する為、数μs以下の短い時間だけその浮遊容量の充放電電流が流れる。しかし、絶縁が劣化した場合には、絶縁抵抗があたかも直流負荷として存在することを意味しており、上記リーク電流(或は地絡電流)は上アームのIGBTQ1がオンしている期間中、絶縁抵抗を通って流れ続ける。一方、Yコンデンサを構成するキャパシタ8には、キャパシタ1と抵抗R1及びキャパシタ2を直列に接続した回路とが、並列に接続している為、リーク電流によってキャパシタ8の電圧が変化すると、同時にキャパシタ1とキャパシタ2の電圧も変化することになる。
【0047】
図3に、Yコンデンサのキャパシタ8の電圧変化と、キャパシタ2の電圧とを示す。この図は、インバータ装置140をPWM制御して、モータ192を駆動させた場合の動作波形である。図3の例は、モータ192の一部が絶縁劣化した状態を模擬しており、絶縁抵抗(不図示)が40kΩであるとした場合のシミュレーション結果である。図3の結果から、キャパシタ2の電圧は、キャパシタ8の電圧に比例していることが分かる。キャパシタ8の電圧が変化する周期は、インバータ装置140の上アーム側IGBTQ1がオン、オフする周期、すなわち、PWMキャリア周波数で変化する。キャパシタ2の電圧は正の最大値が約2.3V、負の最小値が約−1.7Vであり、最大値と最小値の振幅差ΔVは4Vである。
【0048】
図4は、絶縁抵抗に対する非線形増幅装置7の出力を表す。これは、図3に示したキャパシタ2の電圧を非線形増幅装置7に入力した結果であり、横軸の絶縁抵抗を変えた場合の特性を表している。絶縁抵抗が1MΩから100kΩまでは、検出電圧Vsは絶縁抵抗の低下に対して徐々に増加し、その値も低い。一方、絶縁抵抗が約100kΩよりも低下すると、検出電圧Vsが急激に上昇する。
【0049】
このような検出電圧Vsの差は、非線形増幅装置7で多段になった直列回路がダイオード(例えばD1,D2ほか)を備え、各ダイオードはアノードとカソード間電圧VAKがビルトイン電圧(順方向電圧降下)Vbi以下では電流を流さず、VAKがビルトイン電圧Vbiを超えると指数関数的に電流を流す特性を持つことに起因する。ビルトイン電圧Vbiは、一般的なPN接合ダイオードの場合は約0.7Vで、ショットキーダイオードの場合は約0.5Vである。
【0050】
ここで、非線形増幅装置7として設けられた倍電圧整流回路の動作の概略を、図11を参照して簡単に説明する。図11は、図1の非線形増幅装置7の部分を示したものであり、以下では、説明が簡単になるように、抵抗RSが無い場合について考える。また、キャパシタ2の電圧が−V0〜V0の間で変化するとして考える。
【0051】
図11のA点の電位が−V0のときには破線L10のように電流が流れてキャパシタ3が充電される。B点の電位が−VbiとなるとダイオードD1に電流が流れなくなり、キャパシタ3の充電が停止し、キャパシタ3の電圧はV0−Vbiになる。
【0052】
次に、A点の電位がV0になると、B点の電位は2V0−Vbiとなる。キャパシタ4が充電されていなければ、C点の電位はGND電位と等しくなるので、破線L12のように電流が流れてキャパシタ4が充電される。C点の電位が(B点の電位−Vbi)となると、ダイオードD2に電流が流れなくなる。
【0053】
次に、A点の電位が−V0になるとB点の電位も−V0だけ低下し、点Cに対してB点の電位はV0−Vbiだけ低くなる。キャパシタ5が充電されていなければ、D点の電位はB点の電位と等しいので、破線L13のように電流が流れてキャパシタ5が充電される。そして、D点の電位が(C点の電位−Vbi)となると、ダイオードD3に電流が流れなくなる。
【0054】
次に、A点の電位がV0になるとD点の電位もV0だけ上昇し、D点の電位はC点に対してV0−Vbiだけ高くなる。キャパシタ6が充電されていなければ、E点の電位はC点の電位と等しいので、破線L14のように電流が流れてキャパシタ6が充電される。そして、E点の電位が(D点の電位−Vbi)となると、ダイオードD4に電流が流れなくなる。このような一連の動作を何回か繰り返すと、各ダイオードD1〜D4に電流が流れなくなり、キャパシタ3および5の電圧はV0−Vbi、キャパシタ4および6の電圧は2V0−2Vbiとなる。
【0055】
このように、キャパシタとダイオードをからなる回路が次の段の回路へ電圧を受け渡して行き、最終的に、接地電位(GND)に対するE点の電位は、4(V0−Vbi)となる。実際には、ダイオードD4のカソードと接地電位(GVD)間に抵抗RSが設けられていて、抵抗RSに電流が流れるので、抵抗RSの電圧は4(V0−Vbi)よりも小さな値となる。
【0056】
キャパシタ2の電圧V0がダイオードのビルトイン電圧Vbiよりも十分大きい場合には、E点の電位は、電圧V0をほぼ4倍に増幅した値となる。しかし、キャパシタ2の電圧V0がダイオードのビルトイン電圧Vbiと同程度まで小さい場合には、E点の電圧は非常に小さな値となる。
【0057】
本実施の形態では、キャパシタ2の電圧は、絶縁抵抗が1MΩ程度ではビルトイン電圧に比べて同等または低く、絶縁抵抗が約100kΩ程度までは、キャパシタ2の電圧からダイオードのビルトイン電圧を差し引いた結果が小さいため、出力に相当する抵抗RSの電圧も高くない。一方、絶縁抵抗が図3に示したように約40kΩ程度になると、キャパシタ2の電圧振幅は正負共にダイオードのビルトイン電圧Vbiの2倍以上になるため、ビルトイン電圧を差し引いた結果が相対的に増加する。本実施の形態では、このような増幅特性を有する回路という意味で、図1や図11に示す回路を非線形増幅装置と名付けている。
【0058】
図4で一番左側のプロット点は、図3に示した絶縁抵抗40kΩの場合である。図3で、キャパシタ2の電圧は正の最大値が約2.3V、負の最小値が約−1.7Vであったが、非線形増幅装置7を通した結果は図4の上記プロット点の値で約4.3Vになる。絶縁劣化に関する判定値(閾値)を図4に点線で記載した絶縁抵抗60kΩ、検出電圧=3.5Vと定めると、絶縁抵抗が1MΩから100kΩまでの結果は、検出電圧がしきい値3.5Vの半分以下と小さく、これらの結果は少々ノイズの影響を受けても3.5Vを超えることは無い。すなわち、本発明が目的とするS/N比の高い絶縁劣化判定が達成できる。また、非線形僧服装置7はキャパシタとダイオードで構成されているので、低コストで対応することができる。
【0059】
ここで、モータ192の一部が絶縁劣化した状態として、3相の各巻線のうちU相の巻線で絶縁被覆が破れ、固定子からモータハウジングを経て接地電位に地絡した場合について考えてみる。この時の絶縁抵抗が、図3の条件と同じ40kΩであると仮定する。インバータ装置140の上下アームは、PWM制御によってオンとオフが繰り返される。IGBTQ1がオン状態になると、U相の巻線を経て絶縁抵抗(不図示)を通って接地GNDへ流れ、接地GNDからYコンデンサの中点Gに到り、キャパシタ8を通って元のQ1に戻る経路でリーク電流がIGBTQ1のオン期間中流れ続ける。そして、キャパシタ8の電圧に比例してキャパシタ2の電圧が変化することは、図3で説明した通りである。
【0060】
他相の上下アームもPWM制御でオン、オフしており、その影響として、図3に示したキャパシタ2の電圧波形に他の2相分が重畳する。他の2相分は、絶縁劣化したU相に比べて振幅が等しいか或いは小さく、また、位相は三相交流の原理からU相に比べて遅れになる。この結果、三相分の影響を考慮したキャパシタ2の電圧は、図3の結果に比べて波形が歪むと共に、波高値は図3よりも大きくなる。
【0061】
三相分を考慮した非線形増幅装置7の出力は、図4の場合に比べて全体的に縦軸方向に値が増す結果になる。しかし、絶縁抵抗が約100kΩまではゲインが低い特徴は同じであり、三相中の一相で絶縁劣化が生じた場合の検出特性は図4の結果とほぼ同じ傾向となる。
【0062】
図2は第1の実施の形態の変形例を示す図である。図2に示す変形例では、倍電圧整流回路のダイオードD1に直列にダイオードD5を同極性で設けるとともに、非線形増幅装置7に警告装置30を設けた。その他の構成は図1と同じである。
【0063】
図2において、ダイオードD1に直列にダイオードD5を設けたことで、キャパシタ2の電圧から差し引かれるビルトイン電圧値が2倍になる。ダイオードD1〜D5にショットキーダイオードを用いた場合には、ダイオードD5の追加で増えたビルトイン電圧は0.5Vとなる。図4に示した破線は、この変形例の場合のシミュレーション結果を示しており、実線を約0.5V縦軸方向に下げると破線にほぼ重なることが分かる。
【0064】
前述した抵抗値60kΩを示す点線の部分においては、直線の傾きが大きいため、直線と絶縁劣化に関する判定値(3.5V)のラインとが交差する横軸方向の位置はそれほど変化せず、ほぼ60kΩとなる。すなわち、検出電圧が閾値3.5Vを上回る際の絶縁抵抗は、0.5V縦軸方向に下がった影響を大きく受けず、ほぼ判定値付近となっている。一方、絶縁抵抗が1MΩから100kΩまでにおいては、全体的に約0.5V下がっており、閾値の3.5Vに対してノイズマージンが拡大している。その結果、ノイズの影響を受けにくくなり、より確実にリーク検出を行うことができる。
【0065】
倍電圧整流回路でダイオードによる電圧降下を変える方法としては、上述したようにダイオードの直列個数を変える他に、ショットキーダイオードを順方向電圧降下のより大きなPN接合ダイオードに変更する方法がある。図1に示す非線形増幅装置7のダイオードにPN接合型を用いると、図4の破線の場合と同様に、出力が縦軸方向に下がる。
【0066】
また、警告装置30は、具体的にはLEDやこれと同等な発光デバイスである。警告装置30は、絶縁劣化によって、非線形増幅装置7の出力が図4のように閾値(3.5V)を超えると、LEDが点灯するように構成されている。絶縁抵抗が判定値以下の状態においては、モータ192やインバータ140の筐体に触れると感電する恐れはあっても、ハイブリッド自動車を保守ディーラに運ぶことには支障が無い。そこで、ハイブリッド自動車のオーナーは警告装置30の点灯でモータの絶縁劣化が起きたことを認知して、自動車を保守ディーラに届けることができる。なお、警告装置30としては、LED等を点灯させる代わりに警告音を発するものでも良く、また、音声にてハイブリッド自動車のオーナーに状態を知らせるものでも良い。
【0067】
図5には非線形増幅装置7に関する他の例を示す図である。図5に示す構成では、ダイオードD6,D7とキャパシタ20と備えた直列回路を、キャパシタ2に並列に接続している。キャパシタ20には抵抗RSを並列に設け、抵抗RSの電圧を増幅器21で増幅し、増幅器21の出力で警告装置30のLEDを点灯させる。ここで、抵抗R3は増幅器21のゲインを調整する役割を持つ。なお、増幅器21の出力は表示手段を点灯する以外にも、図1に示したように制御回路172のA/Dコンバータで電圧を読み取り、リレーカット等の処理を行ってもよい。図5に示す構成においても、ダイオードD6,D7のビルトイン電圧Vbiが閾値となり、キャパシタ2の電圧からビルトイン電圧Vbiを差し引いた結果を増幅器21で増幅するようにしており、その結果、図1に示す倍電圧整流回路を用いた場合と同様の効果を得ることができる。
【0068】
−第2の実施の形態−
第2の実施形態では、インバータ装置140,142、および、これらが駆動する二台のモータ192,194に関する絶縁劣化診断について説明する。図6に示す構成では、インバータ装置およびモータから成る電動ユニットを二組備えている点が、図1に示した構成と異なる。インバータ装置140,142は同一の装置筐体に実装され、コンデンサモジュール500と、キャパシタ8,9を備えたYコンデンサは、インバータ装置140,142の両方に共通な部品となっている。また、制御回路172,リレー10、リレードライバ回路11、絶縁診断装置12およびインバータ外部の制御装置13は図示を省略した。
【0069】
制御回路172においては、インバータ装置140を制御する回路とインバータ装置142を制御する回路とが、ボディアースを電位の基準とする一つの回路基板上に設けられている。2つのインバータ装置140,142に対して、キャパシタ1,2および非線形増幅装置7は一組設けられていて、その一組の構成で、インバータ装置140およびモータ192から成る電動ユニットと、インバータ装置142およびモータ194から成る電動ユニットの劣化を識別する。
【0070】
劣化識別は以下のようにして行う。上述した第1の実施の形態の場合と同様に、モータ192のU相の巻線で絶縁抵抗が下がった場合を例に説明する。図4の説明で詳しく述べた通り、モータ192を駆動するインバータ装置140は、U,V,W各相がPWM制御される。この場合の非線形増幅装置7の出力は、図4に示す結果が全体的に縦軸方向に増加するような傾向になる。絶縁抵抗が約100kΩまでは検出電圧Vsが低く、それ以下では検出電圧Vsが急激に高くなる。
【0071】
もう一方のインバータ装置142も三相の上下アームがPWM制御されるが、モータ194は絶縁抵抗が1MΩから100kΩまでの間にあり、高抵抗を維持しているものとする。そのため、インバータ装置142が動作すると、キャパシタ2にインバータ装置140の場合よりも低い振幅の交流電圧が重畳する。インバータ装置140とインバータ装置142とは非同期なので、インバータ装置142が駆動したことによる低い振幅の交流電圧は同相又は逆相で重なり、位相も同じでない。
【0072】
ここで、インバータ装置140が動作した場合の結果と、インバータ装置142が動作した場合の結果とをそれぞれ線形重畳して考えてみる。インバータ装置142が動作した場合の検出電圧Vsは、図4で絶縁抵抗が1MΩから100kΩまでの値であり、判定値近傍の検出電圧Vsを示すインバータ装置140の場合に比べて小さい。仮に、インバータ装置142の検出電圧Vsが絶縁抵抗=約300kΩに相当する1.5Vで、インバータ装置140の検出電圧Vsが4.8Vであったとする。なお、前述したように、三相分の影響で検出電圧Vsは図4に示した値より高くなるので、ここでは、インバータ装置140の検出電圧Vsを4.8Vとしている。この場合、逆相になったと仮定して4.8Vから1.5Vを差し引いても結果は3.3Vであり、絶縁抵抗が1MΩから100kΩまでの検出電圧Vs(最大で1.8V)よりも高い。
【0073】
二台のインバータ装置140,142が同時に動作した場合の判定値は、同相又は逆相の可能性を考慮して選ぶ必要があるが、基本的には一台の場合と同様に高出力になった検出電圧Vsを検出するように閾値を決めれば良い。
【0074】
このように、二台のインバータ装置140,142が同時に動作しても、いずれか一方の絶縁劣化を判断することは可能である。次に、二台のうちいずれのインバータ装置およびモータで絶縁が劣化したかを識別する方法について説明する。
【0075】
通常、モータ制御手段ではトルク指令値が入力され、モータ電流指令にモータの実電流が追従するようにモータの三相電圧指令が演算される。一般的に、誘導機や同期機など交流モータの制御にはベクトル制御が適用されており、図7(a)に示すようなd-q軸座標系での電流制御系が構成される。ここで、d-q軸座標系のd軸は磁極位置(磁束)の方向、q軸は電気的にd軸に直行する方向を示している。トルク指令値がゼロの時は、q軸の電流指令値もゼロになるが、図7(b)に示すようにd軸方向のみに電流を流すような指令値を設定しても、モータは回転することはない。その場合、インバータ装置140,142のスイッチングデバイス(IGBT)Q1〜Q6は、d軸の電流指令値に従う形でPWM制御される。
【0076】
本発明では、モータを始動する前にその絶縁不良性を診断する為に、図7(b)のd軸のみの電流指令値に従う制御を行うことを推奨する。そうすることで、車両を停止させた状態で診断を行うことができる。この場合も前述のように、インバータの上アーム(例えばIGBTQ1)がオン状態になると、IGBTQ1からモータ巻線を経て絶縁抵抗(不図示)を通って接地GNDへ流れ、接地GNDからYコンデンサの中点Gに到り、キャパシタ8を通って元のIGBTQ1に戻る経路でリーク電流が流れる。そして、絶縁が正常な場合には、数μs以下の短い時間だけ浮遊容量の充放電電流が流れる。
【0077】
一方、絶縁が劣化した場合には、絶縁抵抗があたかも直流負荷として存在する為、リーク電流は上アーム(例えばIGBTQ1)がオンする期間中、絶縁抵抗を通って流れ続ける。リーク電流によってキャパシタ8の電圧が変化すると、同時にキャパシタ1とキャパシタ2の電圧も変化する。そして、キャパシタ2の交流電圧を非線形増幅装置7で検出して、非線形増幅装置7の出力(検出電圧)が閾値を超えていれば絶縁劣化が発生したと判定する。
【0078】
次に、インバータ装置が2台ある場合の診断方法を図8のフローチャートで説明する。図8に示す処理のプログラムは制御回路172で実行され、自動車のキースイッチがオンされると、図8に示す処理がスタートする。
【0079】
ステップS100では、図1に示す直流側の絶縁診断装置12から、バッテリ136関係の絶縁が劣化していないという情報が入力されたか否かを判定する。劣化しているという情報が絶縁診断装置12から入力されない場合には、ステップS110へ進みリレー10をオンし、劣化しているという情報が入力された場合には処理を終了する。ステップS120では、図7(b)に示すd軸のみの電流指令値をインバータ装置140,142の両方に与えて、各インバータ装置のIGBTQ1〜Q6をオンオフ駆動する。その結果、インバータ装置140,142及びモータ192,194の絶縁抵抗の状態に応じて、それぞれ異なるリーク電流が流れる。
【0080】
ステップS130では、このリーク電流の影響で生じるキャパシタ2の交流電圧を非線形増幅装置7で検出して、検出電圧Vsが閾値以下か否かを判定する。ステップS130で検出電圧が閾値以下と判定されると、すなわち、いずれのインバータ装置140,142も絶縁状態が正常であると判定されるとステップS140へ進み、図7(a)に示したq軸およびd軸の電流指令値に基づいて、インバータ装置140,142はモータモータ192、194の制御を開始する。
【0081】
一方、ステップS130において非線形増幅装置7の検出電圧Vsが閾値以上と判定された場合は、ステップS150へ進む。検出電圧Vsが閾値以上であるということは、インバータ装置140およびモータ192、或はインバータ装置142およびモータ194のいずれか一方の組みが絶縁劣化していることを意味する。ステップS150では、一方のインバータ装置142の動作を停止し、他方のインバータ装置140をd軸のみの電流指令値で駆動する。
【0082】
ステップS160では、キャパシタ2の交流電圧を非線形増幅装置7で検出し、検出電圧Vsが閾値以下か否かを判定する。ステップS160で検出電圧Vsが閾値以下と判定されると、ステップS170へ進み、動作を停止させたインバータ装置142またはモータ192が絶縁劣化していると判断する。一方、ステップS160で検出電圧Vsが閾値を超えていると判定されると、ステップS180へ進み、単独で動作させたインバー装置タ140またはモータ190が絶縁劣化したと判断する。このように、インバータ装置とモータとから成る電動ユニットが二組ある場合、どちらの電動ユニットに絶縁劣化が生じたと判別できる。
【0083】
ステップS170またはステップS180の処理が済んだならば、ステップS190へ進んで、直流側の絶縁診断装置12により直流高電圧と接地間の絶縁劣化を診断する。すなわち、インバータ装置自体の絶縁劣化はりーク経路が高電圧正極または高電圧負極と接地との間であることから、モータに電流が流れない状態にしてインバータ装置の絶縁劣化を直流側の絶縁診断装置12で診断し、その診断結果を併用することにより、モータおよびインバータ装置のどちらが絶縁劣化しているかを検出することができる。ステップS170からステップ190に進んだ場合にはインバータ装置142の絶縁劣化診断を行い、ステップS180からステップS190へ進んだ場合にはインバータ装置140の絶縁劣化診断を行う。
【0084】
ステップS190の診断の結果、インバータ装置140,142およびモータ192,194のいずれが絶縁劣化しているかを判断することができる。なお、この診断結果については、制御装置172に設けられている記憶部に記憶しても良いし、外部の制御装置13へ出力してそこの記憶部に記憶しても良い。また、絶縁劣化が生じていると判断された場合には、その結果を車両側の表示装置に表示したり、上述したようにリレーカット等の処理が行われる。
【0085】
なお、図8に示す動作の説明では、インバータ装置140およびモータ192の電動ユニットと、インバータ装置142およびモータ194の電動ユニットの両方とも絶縁不良を起こしている場合を想定していない。そこで、そのような状況も想定した場合には、図8のステップS150以後の処理を、図12に示すような処理とすれば良い。
【0086】
ステップS160で検出電圧が閾値以下ではないと判定されると、ステップS200に進む。この場合、少なくともインバータ装置140およびモータ192の電動ユニットに絶縁不良が生じている。そこで、インバータ装置142およびモータ194の電動ユニットにも絶縁不良が生じているか否かを調べるために、ステップS200において、インバータ装置140の動作を停止し、インバータ装置142をd軸のみの電流指令値で駆動した後、ステップS210において、検出電圧Vsが閾値以下か否かを判定する。
【0087】
ステップS210で閾値以下と判定された場合には、ステップS220へ進んで、動作を停止させたインバータ装置140およびモータ192の電動ユニットに絶縁劣化が生じていると判断する。一方、ステップS210で検出電圧Vsが閾値を超えていると判定された場合には、ステップS230へ進み、インバータ装置140およびモータ192の電動ユニットと、インバータ装置142およびモータ194の電動ユニットの両方に絶縁不良が生じていると判断する。ステップS220およびステップS230の処理が終了したら、いずれの場合にもステップS190に進んで、上述した方法により、絶縁不良がモータ側かインバータ側かの判定を行う。
【0088】
なお、インバータ装置とモータとから成る電動ユニットが3以上ある場合も、図8,12に示した処理と同様の処理を行うことで、絶縁不良箇所の判定を行うことができる。
【0089】
上述した実施の形態では、電気車の駆動装置を例に説明したが、これら以外の電力変換装置、例えば電車や船舶、航空機などの電力変換装置、さらに工場の設備を駆動する電動機の制御装置として用いられる産業用電力変換装置、或いは家庭の太陽光発電システムや家庭の電化製品を駆動する電動機の制御装置に用いられたりする家庭用電力変換装置に対しても適用可能である。
【0090】
また、電気車の駆動装置の場合には、図1,10に示したようにU,V,W相のそれぞれに対応する3つの上下アーム直列回路150と3つのコイル(U相コイル,V相コイル、W相コイル)を備えているが、三相以外の一相や複数相の構成にも本発明は適用することができる。例えば、直流電源装置と、1つの上下アーム直列回路150と、1つの誘導性抵抗とで構成される装置にも適用できる。
【0091】
なお、上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0092】
1〜6,8,9:キャパシタ、7:非線形増幅装置、12:絶縁診断装置、21:増幅器、30:警告装置、43,140,142:インバータ装置、136:バッテリ、172:制御回路、192,194:モータジェネレータ、D1〜D7:ダイオード、R1,R2,RS:抵抗


【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流高電圧電源と、前記直流高電圧電源から得る電力を交流変換するインバータ装置と、前記インバータ装置からの交流電力が供給される誘導性負荷とを備える装置の、絶縁状態を判別する状態判別装置であって、
前記直流高電圧電源の正極端子または負極端子と前記インバータ装置筐体の電位を基準電位とするグランド端子との間に設けられた容量結合回路と、
前記容量結合回路を流れる電流に基づく交流電圧から所定の基準電圧を差し引いた差電圧を増幅して出力する非線形増幅装置と、
前記非線形増幅装置の出力電圧が所定閾値以下か否かを判定する第1の判定手段とを備え、
前記第1の判定手段の判定結果に基づいて、絶縁状態を判別することを特徴とする状態判別装置。
【請求項2】
請求項1に記載の状態判別装置において、
前記容量結合回路は、直列接続された第一の容量素子と第二の容量素子とを有し、
前記非線形増幅装置は、前記第二の容量素子の電圧から前記所定基準電圧を差し引いた差電圧を増幅することを特徴とする状態判別装置。
【請求項3】
請求項2に記載の状態判別装置において、
前記非線形増幅装置は、
前記第二の容量素子の電圧を増幅して整流する倍電圧整流回路であることを特徴とする状態判別装置。
【請求項4】
請求項3記載の電気車用駆動手段の状態判別装置において、
前記倍電圧整流回路は、容量素子と整流素子とを直列に接続した直列接続体を少なくとも二組備え、前記整流素子の順方向電圧降下を前記所定基準電圧としたことを特徴とする状態判別装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の状態判別装置において、
前記誘導性負荷としてモータを備える電気車用駆動装置の絶縁状態を判別することを特徴とする状態判別装置。
【請求項6】
請求項5に記載の状態判別装置において、
電気車の始動前であって前記第1の判定手段の判定前においては、前記モータを回転させない無効電力を該モータに通電させ、前記第1の判定手段により所定閾値以下と判定されると、前記モータを回転させる有効電力を該モータに通電させるように、前記インバータ装置の動作を切り替える切替手段を備えたことを特徴とする状態判別装置。
【請求項7】
請求項5に記載の状態判別装置において、
前記電気車用駆動装置は、前記インバータ装置と該インバータ装置から交流電力が供給される前記誘導性負荷としてのモータとを有する電動ユニットを複数備えるとともに、前記複数のインバータ装置が同一の筐体に収納されており、
前記複数の電動ユニット毎に、該電動ユニットのモータに該モータを回転させない無効電力を通電させ、かつ、残りの電動ユニットを停止状態としたときの前記第1の判定手段の判定結果をそれぞれ取得し、取得された複数の判定結果に基づいて、いずれの電動ユニットに絶縁不良が生じているかを判定する第2の判定手段を備えたことを特徴とする状態判別装置。
【請求項8】
請求項7に記載の状態判別装置において、
前記インバータ装置が接続された前記直流高電圧電源の正極端子または負極端子と接地との間の絶縁不良を診断する絶縁診断装置と、
前記絶縁診断装置の診断結果に基づいて、絶縁不良が生じていると識別された電動ユニットの、インバータ装置およびモータのいずれに絶縁不良が生じているかを判定する第3の判定手段とを備えたこと特徴とする状態判別装置。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の状態判別装置において、
前記第1の判定手段の判定結果に基づいて、絶縁状態を報知する報知装置を備えたことを特徴とする状態判別装置。
【請求項10】
請求項8に記載の状態判別装置において、
前記第1,第2および第3の判定手段の判定結果に基づいて、絶縁状態を報知する報知装置を備えたことを特徴とする状態判別装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−197093(P2010−197093A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39532(P2009−39532)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】