窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた基板および部材
【課題】平均熱膨張係数(23〜150℃)が2〜6ppm/Kの範囲に任意に調節可能で、ヤング率が高くかつ機械的強度が大きく、焼結性に優れる窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた基板を提供する。
【解決手段】ヒーター基板300は、板状の基板310と、ヒートパターン320とを備える。基板310は、窒化珪素結晶相と、メリライト結晶相(Me2Si3O3N4、Meはメリライトを形成する金属元素)と、粒界相とを有する窒化珪素・メリライト複合焼結体を材料として作成されている。窒化珪素・メリライト複合焼結体の切断面におけるメリライト結晶相の占める割合は20面積%以上である。
【解決手段】ヒーター基板300は、板状の基板310と、ヒートパターン320とを備える。基板310は、窒化珪素結晶相と、メリライト結晶相(Me2Si3O3N4、Meはメリライトを形成する金属元素)と、粒界相とを有する窒化珪素・メリライト複合焼結体を材料として作成されている。窒化珪素・メリライト複合焼結体の切断面におけるメリライト結晶相の占める割合は20面積%以上である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた基板、および窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた部材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップを製造する過程で、シリコンウエハ等の半導体ウエハに形成された集積回路が正常に動作するか否かを検査するためにプローブカードと称する半導体検査用装置が使用されている。一般に、プローブカードはアルミナ等からなるセラミック基板の下面に、例えば針状のプローブ端子を備えた構造を有しており、このプローブ端子を半導体ウエハの端子パッドに接触させて電流を流し、集積回路の導通や各回路間の絶縁等の検査が行われる。
【0003】
今日、半導体ウエハに形成された集積回路の検査は、常温での動作状態のみならず、100℃以上(例えば、150℃)の高温での動作状態も検査する場合がある。この場合、プローブカードは、半導体ウエハとともに速やかに昇温し、半導体ウエハと同程度に熱膨張するものでなければならない。熱膨張に差があると半導体ウエハ上の端子パッドとプローブカードのプローブの間で接触不良が生じるおそれがあるからである。このため、半導体ウエハと同程度の熱膨張性を示すプローブカード、また、そのようなプローブカードを可能とするセラミック材料が求められている。具体的には室温(23℃)から150℃における平均熱膨張係数が2〜6ppm/K、好ましくは3〜5ppm/Kの範囲で必要とされる装置の要求特性にあわせて任意に調節可能で、かつ機械的強度の大きいセラミック材料が求められている。
【0004】
なお、上記のような集積回路の高温での検査に対応するため、窒化アルミニウム、窒化珪素等の非酸化物セラミックからなるセラミック基板を用いたプローブカードが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、このプローブカードは、熱伝導性に優れるものの、平均熱膨張係数(23〜150℃)は、例えば窒化アルミニウムは4ppm/K程度であり、半導体ウエハの熱膨張に近いものの任意の値に制御するのは困難であることから、近年のプローブカード等の高い要求にこたえることはできなかった。また、窒化珪素は2ppm/K程度以下と小さい。一方、セラミック基板材料として広く用いられている酸化物セラミックのアルミナは、平均熱膨張係数(23〜150℃)が6ppm/K程度以上と大きく、使用できなかった。
【0005】
このように半導体ウエハの検査に用いられるプローブカード等の用途に、室温(23℃)から150℃における平均熱膨張係数が2〜6ppm/Kの範囲で任意に調整可能で、かつ機械的強度の大きいセラミック材料が求められている。
【0006】
同様に、電子部品やスティフナーが配置される回路基板や、ヒーター等の基板の用途にも、平均熱膨張係数を所定の範囲で調整可能で、かつ、機械的強度の大きいセラミック材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−257853号公報
【特許文献2】特開平10−139550号公報
【特許文献3】特開2002−128567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さらに、窒化珪素を用いたセラミック材料として特許文献2および3が知られている。特許文献2に記載されたセラミック材料は、熱膨張係数が3.5〜4.1ppm/Kであり、上記熱膨張係数の条件に近いものであるが、近年の大型化されたセラミック基板(直径が30cm以上、更に大きくは45cm以上)に求められている高いヤング率を達成することはできなかった。また、特許文献3に記載されたセラミック材料は、上記熱膨張係数の条件、上記高ヤング率をともに達成することができなかった。さらに、特許文献2および3に記載されたセラミック材料では、直径が30cm以上、更に大きくは45cm以上で、厚みが1cm以下の厚みの薄いセラミック基板の焼成時に発生する反りの発生を抑制することは難しかった。
【0009】
本発明者らは、上記各種の条件を満たすセラミック材料を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の組成で窒化珪素とメリライトを複合化させることにより、室温から150℃における平均熱膨張係数を前記範囲に調節できるうえに、機械的強度、ヤング率が共に高く、さらに焼結性(製作安定性)にも優れる焼結体が得られることを見出した。
【0010】
さらに、特定の組成で窒化珪素とメリライトを複合化させることにより、熱膨張の制御に優れ、かつ、反りの小さい(または平坦性に優れる)厚みの薄い大型(例えば、直径が30cm以上、更に大きくは45cm以上で、厚みが1cm以下)のセラミック材料を得られることを見出した。
【0011】
本発明はかかる知見に基づいてなされたものであり、電子部品やヒーター等が配置される基板等の用途に有用な、23℃から150℃における平均熱膨張係数を2〜6ppm/K程度、好ましくは3〜5ppm/Kの範囲で任意に調節可能で、しかも機械的強度、ヤング率が共に高く、焼結性に優れる窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた基板や部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0013】
[適用例1] 窒化珪素結晶相と、メリライト結晶相(Me2Si3O3N4、Meはメリライトを形成する金属元素)と、粒界相とを有する窒化珪素・メリライト複合焼結体を材料とした基板であって、
前記窒化珪素・メリライト複合焼結体の切断面における前記メリライト結晶相の占める割合が、20面積%以上であることを特徴とする基板。
【0014】
ここで、基板とは、電子部品やスティフナーやヒーター等の部品等を実装するための基板、すなわち、実装前の基板のことを言う。
【0015】
適用例1に係る基板に用いられる窒化珪素・メリライト複合焼結体によれば、23℃から150℃における平均熱膨張係数が小さい(2ppm/K程度以下)窒化珪素結晶相と、23℃から150℃における平均熱膨張係数が大きい(5.5ppmppm/K程度以上)メリライト結晶相が複合化されるので、任意の平均熱膨張係数に調節することができる。さらに、ガラス相と比較してヤング率が高いメリライト結晶相について、複合焼結体の切断面における前記メリライト結晶相の占める割合が20面積%以上となる構成としていることから、窒化珪素・メリライト複合焼結体のヤング率を充分に高いものとすることができる。なお、前記ガラス相は、粒界相が結晶化せずにガラス化した部分である。このように、主に窒化珪素結晶相とメリライト結晶相での熱膨張調整を行うため、窒化珪素結晶相とメリライト結晶相に対してヤング率の低い酸化物ガラス相によって熱膨張制御を行う焼結体と比べ、ヤング率が高い複合焼結体を得ることができる。この結果、適用例1に係る基板によれば、部材を熱膨張係数の制御に優れ、かつ、反りが小さい(または平坦性に優れる)ものとすることができる。
【0016】
[適用例2] 前記窒化珪素・メリライト複合焼結体の吸水率が1.5%以下であり、かつ、メリライト結晶相の占める割合と、前記切断面における前記窒化珪素結晶相の占める割合との和が、80面積%以上である適用例1に記載の基板。
【0017】
適用例2に係る基板に用いられる窒化珪素・メリライト複合焼結体によれば、複合焼結体の吸水率が1.5%以下の緻密な焼結体であり、複合焼結体の切断面における前記メリライト結晶相の占める割合が20面積%以上であり、かつ、複合焼結体の切断面におけるメリライト結晶相と窒化珪素結晶相との合計の占める割合が、80面積%以上となることから、結晶化している部分の割合を十分に大きくすることができる。したがって、気孔によるヤング率の低下が小さく、かつ結晶化している部分はヤング率の向上に貢献することができることから、窒化珪素・メリライト複合焼結体のヤング率をより一層高いものとすることができる。
【0018】
なお、適用例1および2における窒化珪素結晶相やメリライト結晶相の割合は、電子線マイクロアナライザ(EPMA:Electron−probe Microanalyzer)分析や、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)、X線回折(XRD:X−ray diffraction)、エネルギー分散型X線分析装置(EDS:Energy Dispersive X‐ray Spectrometer)等を駆使することにより求めることができる。また、同時にプラズマエッチング(例えば、CF4エッチング等)やケミカルエッチング(例えば、フッ酸エッチング等)等により結晶以外の部分をエッチングすることで、より明確な分析が可能となる。
【0019】
[適用例3] Siを、Si3N4換算で41〜83モル%、Meを、酸化物換算で13〜50モル%、含有する適用例1または2に記載の基板。
【0020】
適用例3に係る基板は、窒化珪素・メリライト複合焼結体においてSiおよびMeが適切な量に調節されるので、熱膨張係数の調節がより的確になされる。
【0021】
[適用例4] Siを、Si3N4換算で41〜79モル%、Meを、酸化物換算で13〜46モル%、添加物として、周期表IIa族元素を、酸化物換算で5〜20モル%、含有する適用例1ないし3のいずれかに記載の基板。
【0022】
適用例4に係る基板は、窒化珪素・メリライト複合焼結体において焼結性を高めるうえで好ましい組成を例示したものである。さらに、この構成によれば、添加物としての周期表IIa族元素を適切な量だけ含むことにより、ガス圧、HIP、ホットプレス等の加圧条件下で焼結させる以外に常圧での焼成が可能となる。すなわち、焼結体サイズや焼結体形状の制約低減、大量生産による製造コストの低減等の工業的メリットを得ることができる。
【0023】
[適用例5] 添加物として、Mg、Ca、およびSrの少なくとも1種が添加される適用例4に記載の基板。
【0024】
適用例5に係る基板は、窒化珪素・メリライト複合焼結体への好ましい添加物を例示したものであり、焼結性をより高めることができる。したがって、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体によれば、200GPa以上のヤング率と、2〜6ppm/Kの範囲で任意に調節可能な平均熱膨張係数(23〜150℃)を有する焼結体をより安定して得ることができる。
【0025】
[適用例6] Siを、Si3N4換算で45〜83モル%、Meを、酸化物換算で15〜49モル%、添加物として、La、Ce、およびPrの少なくとも1種を、酸化物換算で0.3〜12モル%、含有する適用例1ないし3のいずれかに記載の基板。
【0026】
適用例6に係る基板は、窒化珪素・メリライト複合焼結体において焼結性を高めるうえで好ましい組成を例示したものである。さらに、この構成によれば、添加物としてLa、Ce、およびPrの少なくとも1種を適切な量だけ含むことにより、ガス圧、HIP、ホットプレス等の加圧条件下で焼結させる以外に常圧での焼成が可能となる。すなわち、焼結体サイズや焼結体形状の制約低減、大量生産による製造コストの低減等の工業的メリットを得ることができる。また、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体によれば、200GPa以上のヤング率と、2〜6ppm/Kの範囲で任意に調節可能な平均熱膨張係数(23〜150℃)を有する焼結体を安定して得ることができる。
【0027】
[適用例7] 添加物として、Al、Si、周期表IVa族元素、周期表Va族元素、および周期表VIa族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素がさらに添加される適用例4ないし6のいずれかに記載の基板。
【0028】
適用例7に係る基板は、窒化珪素・メリライト複合焼結体への添加物としてさらにAl、Si、周期表IVa族元素、周期表Va族元素および周期表VIa族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素が添加されるので、より安定した焼結性が得られる。また、W、Mo等の遷移金属を用いた場合には、黒色化が図られ、色むらの低減等が可能となる。添加物として、周期表VIIa族元素および周期表VIII族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を添加してもよい。
【0029】
[適用例8] Alを、酸化物換算で0.5〜10モル%含有する適用例8に記載の基板。
【0030】
適用例8に係る基板は、窒化珪素・メリライト複合焼結体へ付加的に添加する添加物の好ましい種類および添加量を例示したものであり、焼結性をよりいっそう安定化することができる。例えばAl2O3では、添加量が0.5モル%以下においてその効果は顕著ではないが、0.5〜10モル%の添加で、その他の特性を低下させることなく、焼結温度を低下させることができ、焼結性をよりいっそう安定化することができる。
【0031】
[適用例9] Meが、周期表IIIa族元素である適用例1ないし8のいずれかに記載の基板。
【0032】
適用例9に係る基板は、窒化珪素・メリライト複合焼結体において窒化珪素とメリライトを形成する金属元素Meの好ましい例を示したものである。
【0033】
[適用例10] 内部または表面に発熱体を備える適用例1ないし9のいずれかに記載の基板。
【0034】
適用例10によれば、熱膨張係数の制御に優れ、かつ、反りが小さい(または平坦性に優れる)ヒーター基板を得ることができる。
【0035】
[適用例11] 電子部品が配置される適用例1ないし9のいずれかに記載の基板。
【0036】
適用例11によれば、熱膨張係数の制御に優れ、かつ、反りが小さい(または平坦性に優れる)回路基板を得ることができる。
【0037】
[適用例12] 電子部品が実装される回路基板に取り付けられるとともに、窒化珪素結晶相とメリライト結晶相(Me2Si3O3N4、Meはメリライトを形成する金属元素)と粒界相とを有する窒化珪素・メリライト複合焼結体を材料とした部材であって、
前記窒化珪素・メリライト複合焼結体の切断面における前記メリライト結晶相の占める割合が、20面積%以上であることを特徴とする部材。
【0038】
適用例12によれば、熱膨張係数の制御に優れ、かつ、反りが小さい(または平坦性に優れる)回路基板用の部材を得ることができる。
【0039】
[適用例13] 回路基板に取り付けられるスティフナーである適用例12に記載の部材。
【0040】
適用例13に係る部材によるスティフナーは、熱膨張係数の制御に優れ、かつ、反りが小さい。
【0041】
[適用例14] 回路基板に取り付けられ、電子部品を内部に収納するためのキャップである適用例12に記載の部材。
【0042】
適用例14に係る部材によるキャップは、熱膨張係数の制御に優れ、かつ、反りが小さい。
【0043】
[適用例15] 適用例1ないし10のいずれかに記載の基板に用いられる窒化珪素・メリライト複合焼結体において、同じ組成を用いる場合であっても、微構造を調整することにより材料強度、ヤング率が向上することを特徴とする。
【0044】
微構造に影響を与える要因は、原料粒径、添加物量、原料酸素量及び焼成温度等である。図13は、同一組成の材料で形成された前記窒化珪素・メリライト複合焼結体の微構造の例を示すSEMによる3000倍の撮像写真であり、それらの各焼結体について測定した曲げ強度(JIS R 1601、23℃)を付してある。図13から明らかなように、組織は(a)、(b)、(c)、(d)の順に微細になっており、そして、その順で、すなわち焼結体の組織が微細になるほど曲げ強度が増大していることがわかる。
【0045】
[適用例16] 適用例1ないし10のいずれかに記載の基板に用いられる窒化珪素・メリライト複合焼結体において、余剰酸素量がSiO2換算で2〜16モル%であることを特徴とする。
【0046】
ここで、余剰酸素量とは、焼結体中の全酸素量からSi以外の成分に帰属する酸素量を差し引いた残りの酸素量である。そのほとんどは窒化珪素に含まれる酸素、添加物の成分に含まれる酸素、場合によっては製造過程で吸着酸素等として混入するものや酸素源としてSiO2を添加したものである。本発明では余剰酸素量をSiO2の形で換算して把握する。余剰酸素量がSiO2換算で2モル%未満であると焼結性が低下し、16モル%より多いとメリライトや窒化珪素が凝集し、その凝集物が破壊起点となって強度が低下する。より好ましい余剰酸素量は2〜14モル%である。
【0047】
添加物の含有量や余剰酸素量によっては窒化珪素及びメリライト以外の結晶相が生じる。具体的には、例えばSrO量が過多であるとSrSiO3、Sr2SiO4等が生成し、余剰酸素量が過多であると、Y20Si12O48N4等が生成する。その他にも焼成条件や製作工程の影響により、Y2SiO5、Y2Si2O7、Y4Si2O7N2(J相)、YSiO2N(K相)、Y10Si7O23N4(H相)等が生成する。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、半導体ウエハの検査に用いられるプローブカード等の用途に有用な、23℃から150℃における平均熱膨張係数が2〜6ppm/Kの範囲で任意に調節可能で、しかも機械的強度、ヤング率が共に高く、焼結性に優れ、さらに反りの小さい(または平坦性に優れる)窒化珪素・メリライト複合焼結体により部材が形成される基板および部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1A】本発明の一実施形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体のSEMによる撮像写真である。
【図1B】図1Aに示す撮像写真の模写図である。
【図2】前記実施形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いたプローブカードの一例を模式的に示す断面図である。
【図3】前記実施形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いたプローブカードの他の例を模式的に示す断面図である。
【図4】前記実施形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いたプローブカードのさらに他の例を模式的に示す断面図である。
【図5】前記実施形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた回路基板の一例を模式的に示す断面図である。
【図6】前記実施形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた回路基板の他の例を模式的に示す断面図である。
【図7】前記実施形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いたヒーター基板を示す斜視図である。
【図8】前記実施形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた回路基板のさらに他の例を模式的に示す断面図である。
【図9】前記実施形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた回路基板のさらに他の例を模式的に示す断面図である。
【図10】メリライトとβ型窒化珪素のX線回折チャートの一例を示すグラフである。
【図11】実施例65〜67を1700〜1800℃で焼成した際のメリライト結晶相のメリライト主ピーク強度比率と焼成温度との相関を示すグラフである。
【図12】実施例58〜60を1700〜1800℃で焼成した際のメリライト結晶相のメリライト主ピーク強度比率と焼成温度との相関を示すグラフである。
【図13】本発明の他の実施形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体の他の例のSEMによる撮像写真である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明に係る実施の形態について説明する。
【0051】
本発明に係る実施の形態(以下、「本実施形態」と呼ぶ)としての基板に用いられる窒化珪素・メリライト複合焼結体について、まず説明する。窒化珪素・メリライト複合焼結体は、窒化珪素結晶相と、メリライト結晶相(Me2Si3O3N4、Meはメリライトを形成する金属元素)と、粒界相とを有する。ここで「メリライト結晶相」とは、Y2Si3O3N4などで示される結晶構造と同様な結晶構造を有する結晶相のことである。このため厳密な意味では、Y:Si:O:Nの比率は2:3:3:4から若干ずれる可能性もあるし、その他添加物が結晶構造中に取り込まれている可能性もある。
【0052】
本実施形態における窒化珪素・メリライト複合焼結体は、前記複合焼結体の切断面における前記メリライト結晶相の占める割合が、20面積%以上であるものである。ここで、窒化珪素・メリライト複合焼結体の切断面における窒化珪素結晶相とメリライト結晶相の両結晶相の合計に対するメリライト結晶相は25〜98面積%であり、より好ましくは35〜98面積%、さらにより好ましくは45〜98面積%、さらにより好ましくは50〜98面積%である。また、本実施形態における窒化珪素・メリライト複合焼結体は、吸水率が1.5%以下であり、かつ、前記メリライト結晶相の占める割合と、前記切断面における前記窒化珪素結晶相の占める割合との和が、80面積%以上であるものである。
【0053】
さらに、本実施形態における窒化珪素・メリライト複合焼結体は、Siを、Si3N4換算で41〜83モル%、より好ましくは46〜78モル%、さらにより好ましくは48〜75モル%、Meを、酸化物換算で13〜50モル%、より好ましくは13〜43モル%、さらにより好ましくは13〜38モル%、含有するものである。なお、SiとMeの測定および換算の方法は、ここでは、焼結体を溶解し、ICP(Inductively Coupled Plasma)を用いて各元素の比率を分析測定し(O,Nは除く)、得られた各元素の比率を、SiはSi3N4に換算し、Si以外は酸化物(例えばY2O3、SrO、Al2O3など)に換算し、トータルを100モル%とし、各元素の含有比率を計算することにより行う。ここで、得られた各元素の比率を、SiはSi3N4に換算し、Meを酸化物に換算し、Si3N4を100モル%とした場合のMeの酸化物換算のモル比は15〜100モル%、より好ましくは21〜100モル%、さらにより好ましくは30〜100モル%、さらにより好ましくは35〜100モル%である。一般的に、常圧での焼成において焼結助剤を添加することで焼結体の緻密化が可能となる。しかしながら、焼結助剤が多くなりすぎるとガラス相の割合が多くなるため、ヤング率の低下や耐エッチング性の低下が起こる。しかしながら、本実施形態における窒化珪素・メリライト複合焼結体は、Si3N4に対してMe酸化物量を増加していくと、焼結助剤が少ない状態でも緻密化が促進されていく。そのため焼結助剤量を減らしても、ヤング率低下や耐エッチング性低下を少なくすることができる。
【0054】
メリライトを形成する金属元素Meとしては、周期表IIIa族元素、すなわち、Y、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ac、Th、Pa、U、Np、Pu、Am、Cm、Bk、Cf、Es、Fm、Md、No、Lrが挙げられる。これらのなかでも、原料コストやメリライトの生成しやすさ等の点から、Y、Nd、Sm、Gd、Dy、Er、Ybが好ましく、特に、Yが好ましい。
【0055】
本実施形態において、Siの含有量がSi3N4換算で前記範囲に満たないと、平均熱膨張係数(23〜150℃)がアルミナとさほど変わらず、逆に前記範囲を超えると、メリライトが生成されないか又は生成されにくくなり、平均熱膨張係数(23〜150℃)は窒化珪素と変わらなくなる。また、窒化珪素とメリライトを形成する金属元素Meの含有量が酸化物換算で前記範囲に満たないと、メリライトが生成されないか又は生成されにくくなり、平均熱膨張係数(23〜150℃)は窒化珪素とさほど変わらず、逆に前記範囲を超えると、平均熱膨張係数(23〜150℃)がアルミナとさほど変わらなくなる。さらに、添加物を添加する場合に、その含有量が酸化物換算で前記範囲を超えると、機械的強度、またはヤング率が低下する。
【0056】
なお、Me2O3とSi3N4の化合物には、Me2O3とSi3N4が1:1であるMe2Si3O3N4(メリライト)の他、Me2O3とSi3N4が1:2であるMe2O3・2Si3N4、Me2O3とSi3N4が1:3であるMe2O3・3Si3N4、Me2O3とSi3N4が2:3である2Me2O3・3Si3N4等の化合物が存在する。本実施形態における窒化珪素・メリライト複合焼結体には、これらの化合物が含まれていてもよい。
【0057】
本実施形態においては、添加物として、周期表IIa族元素、La、Ce及びPrからなる群より選択される少なくとも1種の元素が使用されるが、(イ)周期表IIa族元素、すなわち、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びRaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を使用する場合には、Siを、Si3N4換算で41〜79モル%、より好ましくは46〜78モル%、Meを、酸化物換算で13〜46モル%、より好ましくは13〜43モル%、周期表IIa族元素を、酸化物換算で5〜20モル%、より好ましくは7〜16モル%含有するようにすることが好ましい。周期表IIa族元素を5モル%以上添加することで、ガス圧、HIP、ホットプレス等の加圧条件下で焼結させる以外に常圧での焼成が可能となる。一方20モル%より多く添加すると、機械的強度及びヤング率の低下が認められる。また、(ロ)La、Ce及びPrからなる群より選択される少なくとも1種の元素を使用する場合には、Siを、Si3N4換算で45〜83モル%、より好ましくは46〜78モル%、Meを、酸化物換算で15〜49モル%、より好ましくは13〜43モル%、La、Ce及びPrからなる群より選択される少なくとも1種の元素を、酸化物換算で0.3〜12モル%、より好ましくは1〜9モル%含有するようにすることが好ましい。0.3モル%以上添加することでガス圧、HIP、ホットプレス等の加圧条件下で焼結させる以外に常圧での焼成が可能となる。一方12モル%より多く添加すると、機械的強度またはヤング率の低下や、平均熱膨張(23〜150℃)が6ppm/K以上になる事が認められる。
【0058】
緻密化促進の為に焼結助剤を加えているが、単純な窒化珪素焼結体と異なり、本複合材では緻密化に関してほとんど知見の得られていないメリライトが多くの量を占め、特に熱膨張の大きい特性領域ではメリライト量の方が窒化珪素量を上回る。また、異材の複合した系であり、窒化珪素、メリライトの緻密化挙動は当然異なると予測され、本複合材の緻密化に必要な焼結助剤の種類、必要量については全く予測ができない。従って、一般に知られている窒化珪素の焼結助剤が本窒化珪素/メリライト複合材において有効であるかどうかは予測できず、新たに開発を要するものである。
【0059】
上記(イ)の場合、焼結性をさらに高め、かつ安定化させるためには、添加物は、Mg、Ca及びSrからなる群より選択される少なくとも1種の元素であることが好ましく、Srであることがより好ましい。
【0060】
本実施形態においては、添加物として、さらに、上記元素以外の元素を添加することができる。このような元素としては、Al、Si、周期表IVa族元素、周期表Va族元素及び周期表VIa族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素が挙げられる。これらの元素を添加することにより、より安定した焼結性が得られる。また、W、Mo等の遷移金属を用いることで黒色化が図られ、色むらの低減等が可能となる。なお、このような効果を得るためには、例えば、Alでは、酸化物換算で0.5〜10モル%、より好ましくは2〜9モル%、さらにより好ましくは5モル%未満が含有させることが好ましい。しかし、Alを酸化物換算で、10モル%より多く添加した場合には、窒化珪素結晶相、メリライト結晶相以外のその他の相が増加しヤング率の低下が認められる。
【0061】
図1Aは、本実施形態における窒化珪素・メリライト複合焼結体(後述する実施例31の焼結体)の切断面(鏡面及びエッチング処理後)のSEMによる5000倍の撮像写真であり、また、図1Bは、その模写図である。
【0062】
これらの図に示すように、本発明に関わる典型的な窒化珪素・メリライト複合焼結体は、窒化珪素結晶相11と、メリライト結晶相13と、粒界相15とからなり、粒界相15はガラス相及び/又は結晶相(窒化珪素及びメリライト以外の結晶相)として存在する。
【0063】
本実施形態においては、焼結体の切断面における面積比が、窒化珪素結晶相2〜70面積%、メリライト結晶相20〜97面積%、ガラス相及び窒化珪素とメリライト以外の結晶相1〜20面積%であることが好ましい。ガラス相及び窒化珪素とメリライト以外の結晶相1〜20面積%であることが好ましいと言うことは、窒化珪素結晶相11とメリライト結晶相13との合計についての焼結体の切断面における面積比が80%以上となることがより好ましいと言える。また、窒化珪素結晶相が9〜60面積%、かつメリライト結晶相が25〜90面積%とすることで、平均熱膨張(23〜150℃)を2〜6ppm/Kの範囲、更に好ましくは3〜5ppm/Kに制御でき、半導体ウエハとの熱膨張のマッチングの点で更に好ましい。
【0064】
窒化珪素結晶相、メリライト結晶相、並びに、ガラス相及び窒化珪素とメリライト以外の結晶相の面積比が上記範囲である場合に、焼結体は、2〜6ppm/Kの範囲、更に好ましくは3〜5ppm/Kの任意の平均熱膨張係数(23〜150℃)を有することができる。また、ヤング率が200GPa以上とすることができる。
【0065】
焼結体の切断面におけるメリライト結晶相の割合(面積比)は、前述したように、EPMA、TEM、SEM、XRD、EDS等を用いて求める。詳細には、それらを用いて、焼結体の結晶相の構成と、粒子1個1個の組成比と、更に必要に応じて粒子1個1個のTEMを用いた回折パターンから、主成分がMe,Si,O,Nからなる結晶性粒子をメリライトと判定して、メリライト結晶相の割合を求める。上記メリライトとの判定の際には、任意の大きさの視野で、粒径の大きい結晶性粒子から順番に同定を行うようにしている。また、窒化珪素粒子は、同様に主成分がSi,Nからなる結晶性粒子を窒化珪素とした。例えば50μm四方の測定範囲にて複数箇所測定し、各測定範囲にて算出した値を平均化する。この測定範囲に限らず、極端な偏りのある組織部分のみを選択しないように測定範囲を選択し、粒子の同定を行う。
【0066】
前記窒化珪素・メリライト複合焼結体における窒化珪素およびメリライトの存在は、焼結体の粉末のX線回折によっても知ることができる。本実施形態においては、X線回折図において、窒化珪素の主ピークの回折強度(β型窒化珪素のピークのうち最も高いピークの回折強度)aおよびメリライトの主ピークの回折強度(メリライトのピークのうち最も高いピークの回折強度)bが、次式
50≦[b/(a+b)]×100≦98
を満足していることが好ましい。この場合、焼結体は、2〜6ppm/Kの範囲の任意の平均熱膨張係数(23〜150℃)を有することができる。
【0067】
本実施形態における窒化珪素・メリライト複合焼結体は、例えば次のような方法で製造することができる。
【0068】
まず、窒化珪素粉末と、窒化珪素とメリライトを形成する金属元素Meを含む酸化物、有機酸塩等(例えばイットリア(Y2O3)、ギ酸イットリウム、炭酸イットリウム等)と、周期表IIa族元素、La、Ce及びPrからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む添加物(配合する場合)とを、好ましくは分散剤とエタノール等の分散媒を、ボールミル容器中に投入し混合した後、乾燥し、造粒する。次いで、プレス成形法等により所要の形状に成形し、分散剤などの有機成分は熱処理などで脱脂を行い除去する。その後、成形体を焼成炉に、1700〜1800℃、0.1〜1.0MPaの窒素雰囲気下で2〜8時間保持して焼成する。なお、焼成方法は特に限定されるものではなく、また、複数の焼成方法を適宜組み合わせることも可能である。
【0069】
ホットプレスでは、圧力などによっては組織に異方性が生じる可能性があり、顕著な組織の異方性が生じた場合は、セラミック材料の方向によって平均熱膨張係数が異なる可能性が出てくる。従って、より望ましくは、焼結体の組織を当方的にするため、ホットプレス以外の焼成方法(例えば常圧焼成、ガス圧焼成、HIPなど)を用いても容易に焼成可能なセラミック材料であることが望ましい。ただし、ホットプレスで焼成する場合であっても、前述の異方性を考慮した製品設計を行ったり、異方性が問題にならないレベルであったりする場合、ホットプレスにより焼成してもよい。
【0070】
前述してきた各種形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体(以下、「前記窒化珪素・メリライト複合焼結体」と呼ぶ)は、半導体ウエハの検査に用いられるプローブカード等の装置の基板材料あるいは構造材料として有用である。また、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体は、半導体の製造を行うための装置としても有用である。
【0071】
図2〜図4は、それぞれ前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いたプローブカードを模式的に示す断面図である。図2に示すプローブカード20は、セラミック基板21の下面に多数のカンチレバー23が取り付けられ、これらのカンチレバー23の自由端先端に形成されたプローブ25が半導体ウエハの端子パッド(図示なし)に接触するようになっている。また、図3に示すプローブカード30は、セラミック基板31の下面に、その座屈応力によって半導体ウエハ(図示なし)の端子パッド(図示なし)に接触するように構成された多数のプローブ33が設けられている。図3において、35は、プローブ33の座屈を制限する部材を示している。さらに、図4に示すプローブカード40は、セラミック基板41の下面にクッション部材43及びメンブレン45が取り付けられ、セラミック基板41を半導体ウエハ(図示なし)に向けて押圧することにより、メンブレン45の下面に設けられた多数の端子47が半導体ウエハ(図示なし)の端子パッド(図示なし)に接触するようになっている。
【0072】
そして、これらのプローブカード20、30、40においては、例えばセラミック基板21、31、41が前記窒化珪素・メリライト複合焼結体により構成されている。なお、セラミック基板21、31、41以外の部材にも、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体が使用されてもよい。例えば、図3に示すプローブカード30において、座屈制限部材35を前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いて形成することができる。
【0073】
上記各プローブカード20、30、40においては、適切な熱膨張を有する材料を用いることで、常温から高温での動作状態を検査する場合も、常温から低温での動作状態を検査する場合も、半導体ウエハの端子パッドとプローブカード20、30、40のプローブ又は端子25、33、47の間で接触不良が生じるおそれがなく、信頼性の高い検査を行うことができる。
【0074】
前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた基板についての製造上の有利な効果としては、直径が30cm以上、より大きくは45cm以上の大型製品を焼成する際に発生し易い基板の反りを抑制したり、成形体の反りを矯正できる利点がある。例えば、直径40cm、厚み7ミリで反りが5mmの大型の未焼成の成形体を焼成すると、従来のアルミナ焼結体を用いた場合は焼成体に2〜3mm程度の反りが残る。このような厚みが薄くて大型の製品に荷重を掛けて反り修正しようとすると、セラミックが割れる可能性が高い。また、反り修正工程が増える分、コストが高くなってしまう。反り修正以外に、ホットプレスを用いて焼成する方法も考えられるが、カーボン型を用いて荷重を掛けて焼成する都合、薄い大型の製品を割れることなく焼成することが難しい問題がある。しかし、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた場合は、得られた焼成体の反りは1mm以下であり、ほとんど反りがなくなる利点がある。一般のセラミックス焼成と異なり、液相焼結機構だけでなく、様々な結晶相の変化を経て最終的にメリライト結晶になるなど焼成温度まで多くの元素の変化、移動があり、比較的塑性のある状態で焼結が進むと推測される。また、焼成時に自重で自然に反りが矯正されてゆくものと推察される。
【0075】
また、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体は、熱膨張係数が大きく異なる窒化珪素結晶相とメリライト結晶相を含んでいるが、焼結後の熱膨張差によるマイクロクラックがほとんど発生しない。窒化珪素もメリライトも結晶相として安定して存在しているのに加えて、お互いの結晶領域が比較的明確に分かれており、熱膨張差による応力を粒界滑りなどで吸収しやすかったのではないかと推測される。
【0076】
前記窒化珪素・メリライト複合焼結体は、表面と内部との焼成ムラが発生しにくい利点がある。例えば、直径40cm、厚み6ミリの大型の未焼成の基板を焼成しても、基板内外での色ムラや特性バラツキといった特性差が小さい利点がある。メリライトを形成するMe酸化物が多く含まれ、またある程度のその他焼結助剤を含むことで窒化珪素の揮発などを抑えつつ、緻密化が進む為ではないかと推測される。焼成治具内の焼成雰囲気が安定しない状況で焼成しても、安定した大型の製品が得られる利点がある。
【0077】
さらに、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体は、主に窒化珪素結晶相とメリライト結晶相での熱膨張調整を行うため、酸化物ガラス相での熱膨張制御を行う焼結体と比べ耐エッチング性にも優れる。エッチング工程を必要とする半導体製造装置用部品への適用が有効である。エッチング性をさらに向上させるためには、ガラス相として残る焼結助剤量を低減するのが有効である。すなわち、前述してきた製造上の有利な効果に鑑みても、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体をプローブカードに用いることは有効である。
【0078】
前記窒化珪素・メリライト複合焼結体は、各種の基板材料としても有用である。図5〜図9を用いて、窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた部材を備える基板、すなわち、本発明の基板についての各種の態様を以下に説明する。
【0079】
図5は、半導体素子を実装した回路基板の一例を模式的に示す断面図である。図示するように、回路基板100は、基板110と、基板110の一主面111に配置された半導体素子130とを備える。また、回路基板100には、枠状のスティフナー120が取り付けられ、この枠状のスティフナー120の枠の内側に、半導体素子130が位置するように構成されている。スティフナー120は、補強材であり、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を材料として作成されている。半導体素子130は、Si(動作温度範囲は−50〜室温〜150℃)やSiC(動作温度範囲は−50℃〜室温〜350℃)等である。
【0080】
前記構成の回路基板100によれば、例えば350℃という高温においても、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を材料としたスティフナー120は、半導体素子130との熱膨張差が小さく、平坦性に優れる。また、スティフナー120を回路基板の温度分布に応じた熱膨張特性に調整することができる。このために、厚さを薄くしても信頼性の高い回路基板100を得ることができる。
【0081】
図6は、半導体素子を実装した回路基板の他の例を模式的に示す断面図である。図示するように、回路基板200は、枠状の基板210の一主面211に板状のスティフナー220が取り付けられ、この板状のスティフナー220の内部にはタングステン等の回路222が形成され、スティフナー220の一面221における基板210の枠の内側には、SiやSiC等の半導体素子230が配置されている。スティフナー220が、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を材料として作成されている。
【0082】
前記構成の回路基板200によれば、タングステン等の酸化してしまう材料を用いて回路222を形成する場合、スティフナー220を還元雰囲気下で焼成して作製する必要がある。この場合、例えばビアからなる回路222中に炭素が燃やしきれずに残ってしまうことがある。すなわち、いわゆる「残炭」が起きやすい。一般的には、この「残炭」の影響によってタングステンからなるビア周辺のセラミックが緻密化できなかったり、機械的強度が落ちる問題がある。これに対して、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体は上記の緻密化や機械的強度に関して「残炭」の影響を受けにくいという利点がある。メリライト構成物であるMe酸化物を多く含むため、窒化珪素部分の焼結を促進して、残炭カーボンによる窒化珪素の分解、揮発を防ぎ、結果的に残炭カーボンは一部の窒化珪素をSiC化することにより焼結体内部に存在させ安定化させると推測される。
【0083】
よって、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を回路内蔵型のスティフナーに用いることで、「残炭」によるセラミックの特性劣化が無く、高温においても半導体素子との熱膨張差が小さく、信頼性の高い回路基板200が得られる利点がある。
【0084】
図7は、ヒートパターンを組み込んだヒーター基板を示す斜視図である。図示するように、ヒーター基板300は、板状の基板310と、この板状の基板310の一主面311に形成された発熱体としてのヒートパターン320と、ヒートパターン320の両端に接続された電極330とを備える。基板310が、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を材料として作成されている。ヒートパターンは、タングステン等の高温の発熱に耐えうる材質が用いられる。
【0085】
前記構成のヒーター基板300によれば、タングステン等の酸化してしまう材料を用いてヒートパターン320を形成する場合、基板310を還元雰囲気下で焼成して作製する必要がある。この場合、ヒートパターン320中に炭素が燃やしきれずに残ってしまう場合がある。すなわち、いわゆる「残炭」が起きやすい。これに対して、前述したように、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体は上記の緻密化や機械的強度に関して「残炭」の影響を受けにくいという利点がある。
【0086】
よって、ヒーター基板300によれば、「残炭」に強く、適切な熱膨張を有する前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いることで、常温から高温までの昇温降温を繰り返す動作に使用する場合も、熱衝撃に耐えうる機械的強度の高いセラミックヒーターを得ることができる。なお、図7の例では、ヒートパターン320は、基板310の表面に配置していたが、これに換えて、基板310の内部に埋設する構成としてもよい。
【0087】
本発明の他の実施態様としては、さらに、図8および図9に示した回路基板400、500がある。図8に示すように、回路基板400は、基板410と、基板410上に配置される半導体素子430と、基板410上に配置され、半導体素子430を内部に収納するためのキャップを構成するリッド420および枠状のウォール422とを備える。リッド420とウォール422が、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を材料として作成されている。図9に示すように、回路基板500は、基板510と、基板510上に配置される半導体素子530と、基板510上に配置され、半導体素子530を内部に収納するためのキャップ520とを備える。キャップ520が、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を材料として作成されている。また、図示していないが、前述した各回路基板100、200、400、500のセラミックの全てを本発明に関わる窒化珪素・メリライト複合焼結体で構成することもできる。
【0088】
本発明の他の実施形態としては、窒化珪素結晶相とメリライト結晶相との比(すなわち、SiのSi3N4換算モル%量およびMeの酸化物換算モル%量の比)を変更した複数のシートを積層し、積層焼結体を作製することで傾斜機能を持たせた窒化珪素・メリライト複合焼結体で基板を構成することもできる。例えばセラミックによるバイメタルのような特性を出したり、熱膨張差のある層を設けることで圧縮応力を発生させ、より高靭化を果たすことができる。
【0089】
次に、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体、すなわち本発明の基板および部材に利用される窒化珪素・メリライト複合焼結体を、実施例によりさらに詳細に説明するが、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0090】
実施例1〜80、比較例1、2
平均粒径0.7μmの窒化珪素(Si3N4)粉末、平均粒径1.2μmのイットリア(Y2O3)粉末、SrCO3粉末、La2O3粉末、CeO2粉末およびAl2O3粉末を用い、得られた混合粉末とエタノールを、ボールミル容器中に投入し混合した後、加熱乾燥し、造粒した。なお、Srは酸化物(SrO)の形で投入すると製作工程中に水分で水酸化物(Sr(OH)2等)になりやすいので、炭酸塩(SrCO3等)等の形で投入する。なお、表の酸化物表記は、炭酸塩で加えたものを酸化物に換算したものである。
【0091】
次いで、実施例7〜20、24〜38、41〜80については、プレス成形により70mmラ70mmラ20mmの直方体状成形体に成形し、98MPaの圧力でコールドアイソスタティックプレス(CIP)を行った後、成形体を焼成炉にて、1700〜1800℃、0.1MPaの窒素雰囲気下で4時間焼成した。
【0092】
実施例1〜6、21、比較例1〜2については、プレス成形により70mmラ70mmラ20mmの直方体状成形体に成形した後、成形体をカーボンモールドに入れ、1750℃、30MPaで2時間のホットプレス焼成を行なって緻密化した。
【0093】
実施例22、39については、プレス成形により70mmラ70mmラ20mmの直方体状成形体に成形し、98MPaの圧力でコールドアイソスタティックプレス(CIP)を行った後、成形体を焼成炉にて、1750℃、0.1MPaの窒素雰囲気下で4時間焼成し、さらに、1700℃、8.0MPaで2時間のガス圧焼成を行って緻密化した。
【0094】
実施例23、40については、プレス成形により70mmラ70mmラ20mmの直方体状成形体に成形し、98MPaの圧力でコールドアイソスタティックプレス(CIP)を行った後、成形体を焼成炉にて、1750℃、0.1MPaの窒素雰囲気下で4時間焼成し、さらに、1700℃、100MPaで2時間のHIP焼成を行って緻密化した。
【0095】
上記各実施例および各比較例で得られた焼結体について、下記に示す方法で各種特性を測定評価した。
[理論密度比]
JIS R1634に準拠して、かさ密度を測定し、理論密度(例えばイットリア(Y2O3)粉末がすべてメリライト(Y2Si3O3N4(Me=Y))に変換され、残りの窒化珪素はそのままで、その他添加物は各酸化物の状態で存在したと仮定して計算)に対する比率を算出した(例えばY2Si3O3N4の密度は4.25(g/cm3))。なお、理論密度比が95%以上であれば、JIS R1634における見掛密度とかさ密度の差はほとんどなかった。
【0096】
[吸水率]
焼結体に吸水処理(水中にて脱泡)を行った後、乾燥させ、次式により算出した。
吸水率(%)=[(W1−W2)/W2)]×100
(W1:吸水処理後の焼結体重量、W2:乾燥後の焼結体重量)
この吸水率測定は、JIS-R2205に準拠して測定しても良い。
[メリライト主ピーク強度比率]
焼結体を粉砕し、X線回折装置((株)リガク製 RU−200T または(株)リガク製 X線回折装置 RINT−TTRIII)により、粉末X線回折を行い、メリライト(Me2Si3O3N4)の主ピークの回折強度bおよびSi3N4の主ピークの回折強度aを求め、次式より算出した。X線回折は試料を粉末にするなどの方法を用いて、測定試料の結晶配向性を十分小さい状態にして(または結晶の配向性を小さくする測定方法にて)測定する。
メリライト主ピーク強度比率(%)=[b/(a+b)]×100
[X線回折条件]
RINT−TTRIIIでの測定条件は
モノクロメータ使用にて、ターゲットを銅として、
管電流300mA、管電圧50kV、
スキャンスピード4°/分、サンプリング幅0.02°
とした。
【0097】
ここで、窒化珪素の主ピークの回折強度aとは、β型窒化珪素のピークのうち最も高いピークの回折強度をいい、また、メリライトの主ピークの回折強度bとは、メリライトのピークのうち最も高いピークの回折強度をいう。図10は、メリライト(Y2Si3O3N4(Me=Y))とβ型窒化珪素(β−Si3N4)とのX線回折チャートの一例を示すグラフである。横軸は、2θであり、20〜40°の値を取り得る。図示するように、メリライトの主ピークは、2θが32°付近となる位置であり(図中A)、窒化珪素の主ピークは、2θが27°付近(図中B)、34°付近(図中C)および36°付近(図中D)のうちの高い方となる。また、この実施内容では、X線回折の回折強度(またはピーク強度)の比率と面積強度(または積分強度)の比率はほぼ同じ値を取るため、より簡便性、汎用性をとり、ピークの回折強度による結晶相量の比とした。
【0098】
[平均熱膨張係数]
JIS R1618に準拠して、熱機械分析装置((株)リガク製 熱機械分析装置 8310シリーズ)を用いて、熱機械分析による測定にて23〜150℃の平均熱膨張係数を求めた。なお、本明細書では平均線膨張率と平均熱膨張係数とを同義として扱う。同様に線膨張率は熱膨張係数と表現しても良いとする。
[曲げ強度]
JIS R 1601に準拠して室温(23℃)で3点曲げ強さを測定した。
[ヤング率]
JIS R 1602に規定する超音波パルス法により室温(23℃)で測定した。
【0099】
[面積比]
3mmラ4mmラ10mmの形状に切断した焼結体の4mm×10mmの表面に鏡面加工を施した後、その表面をSEM(日本電子(株)製 JSM−6460LA)にて観察し、さらにEPMA(日本電子(株)製 JXA−8500F)を用いて二次電子像、反射電子像の観察、及びWDS(波長分散型X線分光器)ビームスキャンマッピングを行い、その表面における窒化珪素結晶相、メリライト結晶相、並びに、粒界相(ガラス相及び窒化珪素とメリライト以外の結晶相(表中、「その他」と記載))の面積比を求めた。また、これらの面積比は気孔を除いた部分を総面積(100(面積%))とみなして算出している。なお、必要に応じて(ガラス相や窒化珪素とメリライト以外の結晶相が多く、前記機器による観察だけでは面積比を求めることが困難である場合等)、STEM(走査型透過電子顕微鏡)((株)日立ハイテクノロジーズ製HD−2000)及びEDS(エネルギー分散型X線分析装置)(EDAX製Genesis)を用いた。また、場合により、鏡面加工面にエッチング処理を行い、このエッチング面をSEM等で観察して面積比を求めた。
【0100】
これらの結果を表1〜表6に併せ示す。なお、実施例69〜80についてはさらに余剰酸素量を示した。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
【表4】
【0105】
【表5】
【0106】
【表6】
【0107】
表1〜表6から明らかなように、窒化珪素結晶相と、メリライト結晶相(Me2Si3O3N4、Meはメリライトを形成する金属元素)と、粒界相とを有する複合焼結体の切断面におけるメリライト結晶相の占める割合が、20面積%以上である実施例1〜80は、任意の平均熱膨張係数(23〜150℃)の焼結体が得られ、曲げ強度、ヤング率も良好であった。なお、実施例20、38、64〜68は、理論密度比が低く、結果として曲げ強度、ヤング率が低いものの、平均熱膨張係数(23〜150℃)の値は満足しており、多孔体や金属含浸素材といった用途に用いることができる。比較例1では、メリライト結晶相の割合が低く、平均熱膨張係数(23〜150℃)の値は低い値であった。比較例2では窒化珪素結晶相が残存しておらず、理論密度比が高く緻密化しているにも関わらずヤング率は低い値を示し、平均熱膨張係数(23〜150℃)の値は高かった。
【0108】
同様に、複合焼結体の吸水率が1.5%以下であり、かつ、切断面におけるメリライト結晶相の占める割合と窒化珪素結晶相の占める割合との和が80面積%以上である実施例1〜19、21〜24、26〜37、39〜42、44〜62、69〜80は、ヤング率200GPa以上かつ曲げ強度200MPa以上と良好であった。なお、吸水率が1.5%より大きい複合焼結体である実施例64〜68は、曲げ強度は低いものの平均熱膨張係数(23〜150℃)の値は満足しており、多孔体や金属含浸素材といった用途に用いることができる。
【0109】
同様に、SiをSi3N4換算で41〜83モル%、Yを酸化物換算で13〜50モル%含有し、添加物を未配合とした実施例1〜6でも、ホットプレス焼成を行うことで、平均熱膨張係数(23〜150℃)が2〜6ppm/Kの焼結体が得られ、曲げ強度、ヤング率も良好であった。窒化珪素が90モル%以上の比較例1では、メリライト結晶相の割合が低く、平均熱膨張係数(23〜150℃)の値も低い値であった。また窒化珪素が40モル%以下の比較例2では、焼結後に窒化珪素相が残存しておらず、平均熱膨張係数(23〜150℃)も高い値を示した。
【0110】
同様に、SiをSi3N4換算で41〜79モル%、Yを酸化物換算で13〜46モル%、周期表IIa族元素のSrを酸化物換算で5〜20モル%含有するようにした実施例7〜19では、Srを酸化物換算で5モル%より少ない実施例20〜23と比較すると焼結性に優れるとともに、平均熱膨張係数(23〜150℃)が2〜6ppm/Kで、曲げ強度の大きく、かつヤング率が高い焼結体が得られた。また、Srを酸化物換算で20モル%よりも多い実施例24、25では、ヤング率、機械的強度が低下傾向にある。
【0111】
同様に、SiをSi3N4換算で45〜83モル%、Yを酸化物換算で15〜49モル%、Laを酸化物換算で0.3〜12モル%含有するようにした実施例26〜37でも、Laを酸化物換算で0.3モル%より少ない実施例38〜40と比較して焼結性に優れるとともに、平均熱膨張係数(23〜150℃)が2〜6ppm/Kで、曲げ強度の大きく、かつヤング率が高い焼結体が得られた。また、Laが酸化物換算で12モル%より多い実施例41およびCeが酸化物換算で12モル%より多い実施例42〜43では、平均熱膨張係数(23〜150℃)が高くなり、機械的強度が低下する傾向であった。
【0112】
また、SiをSi3N4換算で41〜83モル%、Yを酸化物換算で13〜49モル%、Srを酸化物換算で0〜20モル%、La又はCeを酸化物換算で0〜12モル%含有するようにした実施例44〜63、69〜80も同様であり、これらのなかでもAlを酸化物換算で0.5〜10モル%さらに含有するようにした実施例44〜46、48〜62、69〜80では焼結性がより安定した。また、Alを酸化物換算で15モル%含有した実施例63では、窒化珪素とメリライト以外にガラス相が増加し、ヤング率が低下する傾向であった。
【0113】
実施例57〜58、77〜78については、混合粉末とエタノールを、ボールミル容器中に投入し混合する際により長時間調合(例えば60hr粉砕混合等)を行った結果、組織が微細になり高強度化した。
【0114】
また、表6から明らかなように、一定量の余剰酸素量により焼結性が確保されるが、余剰酸素量が多くなると、曲げ強度が低下することが確認された。
【0115】
なお、表1〜表6に記載した複数の実施例のうちで添加物としてLaおよびCeを用いた実施例については、添加物をLaおよびCeに換えて、Prを用いる構成としてもよい。同様に、Srを用いた実施例については、添加物をSrに換えて、MgまたはCaを用いる構成としてもよい。それら実施例と同様の効果を得ることができる。また、添加物としてAlを用いた実施例については、添加物をAlに換えて、Al、Si、周期表IVa族元素、周期表Va族元素および周期表VIa族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を用いる構成としてもよく、それら実施例と同様により焼結性を安定させる効果を得ることができる。
【0116】
本発明に関わる窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いて、室温(23℃)から150℃における平均熱膨張係数が2〜6ppm/Kの範囲で任意に調整可能で、かつ機械的強度の大きい半導体ウエハの検査に用いられるプローブカード等の半導体検査または製造用装置を得ることができる。また、本発明に関わる窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いて、平均熱膨張係数を所定の範囲で調整可能で、かつ、反りの小さい(または平坦性に優れる)基板やスティフナーを得ることができる。特に、厚みが薄く大型化したとしても反りが小さい。さらに、機械的特性および耐腐食性が求められる基板においても適用可能である。
【0117】
窒化珪素結晶相とメリライト結晶相は低温から高温まで結晶構造自体の大きな変化がないが、700℃から主にメリライト結晶の酸化が開始する為、700℃以上の高温での酸化雰囲気での使用は困難である。ここで、本発明に関わる窒化珪素・メリライト複合焼結体は、ガラス成分でなく主に窒化珪素結晶相とメリライト結晶相での平均熱膨張係数を調整するものである。低温(−50℃)や高温(例えばSiC半導体の作動温度である350℃)においても、同じ測定を繰り返しても安定した熱膨張推移を示し、安定した検査が可能である。例えばウエハテストなどでは、低温から高温まで熱膨張がマッチングして検査工程の幅が広がるなど有利な点が多い。
【0118】
本発明に関わる窒化珪素・メリライト複合焼結体は、焼成温度1700〜1800℃の間では焼成温度によってメリライト結晶相の生成量が増減しにくい。つまり、焼成温度1700〜1800℃の間では、メリライト結晶相が安定して生成される。図11は、前述の実施例65〜67を1700〜1800℃で焼成した際のメリライト主ピーク強度比率と焼成温度との相関を示すグラフである。図12は、前述の実施例58〜60を1700〜1800℃で焼成した際のメリライト主ピーク強度比率と焼成温度との相関を示すグラフである。両図からも、焼成温度によらずにメリライト結晶相が安定して生成されることがわかる。そのため、量産した際に安定して生産できるという利点がある。さらに、大きさによらずメリライト結晶相が安定して生成されるという利点があるため、様々な大きさ、形状の基板等への適用が有用である。
【符号の説明】
【0119】
11…窒化珪素結晶相
13…メリライト結晶相
15…粒界相
20,30,40…プローブカード
100、200、400、500…回路基板
300…ヒーター基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた基板、および窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた部材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップを製造する過程で、シリコンウエハ等の半導体ウエハに形成された集積回路が正常に動作するか否かを検査するためにプローブカードと称する半導体検査用装置が使用されている。一般に、プローブカードはアルミナ等からなるセラミック基板の下面に、例えば針状のプローブ端子を備えた構造を有しており、このプローブ端子を半導体ウエハの端子パッドに接触させて電流を流し、集積回路の導通や各回路間の絶縁等の検査が行われる。
【0003】
今日、半導体ウエハに形成された集積回路の検査は、常温での動作状態のみならず、100℃以上(例えば、150℃)の高温での動作状態も検査する場合がある。この場合、プローブカードは、半導体ウエハとともに速やかに昇温し、半導体ウエハと同程度に熱膨張するものでなければならない。熱膨張に差があると半導体ウエハ上の端子パッドとプローブカードのプローブの間で接触不良が生じるおそれがあるからである。このため、半導体ウエハと同程度の熱膨張性を示すプローブカード、また、そのようなプローブカードを可能とするセラミック材料が求められている。具体的には室温(23℃)から150℃における平均熱膨張係数が2〜6ppm/K、好ましくは3〜5ppm/Kの範囲で必要とされる装置の要求特性にあわせて任意に調節可能で、かつ機械的強度の大きいセラミック材料が求められている。
【0004】
なお、上記のような集積回路の高温での検査に対応するため、窒化アルミニウム、窒化珪素等の非酸化物セラミックからなるセラミック基板を用いたプローブカードが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、このプローブカードは、熱伝導性に優れるものの、平均熱膨張係数(23〜150℃)は、例えば窒化アルミニウムは4ppm/K程度であり、半導体ウエハの熱膨張に近いものの任意の値に制御するのは困難であることから、近年のプローブカード等の高い要求にこたえることはできなかった。また、窒化珪素は2ppm/K程度以下と小さい。一方、セラミック基板材料として広く用いられている酸化物セラミックのアルミナは、平均熱膨張係数(23〜150℃)が6ppm/K程度以上と大きく、使用できなかった。
【0005】
このように半導体ウエハの検査に用いられるプローブカード等の用途に、室温(23℃)から150℃における平均熱膨張係数が2〜6ppm/Kの範囲で任意に調整可能で、かつ機械的強度の大きいセラミック材料が求められている。
【0006】
同様に、電子部品やスティフナーが配置される回路基板や、ヒーター等の基板の用途にも、平均熱膨張係数を所定の範囲で調整可能で、かつ、機械的強度の大きいセラミック材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−257853号公報
【特許文献2】特開平10−139550号公報
【特許文献3】特開2002−128567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さらに、窒化珪素を用いたセラミック材料として特許文献2および3が知られている。特許文献2に記載されたセラミック材料は、熱膨張係数が3.5〜4.1ppm/Kであり、上記熱膨張係数の条件に近いものであるが、近年の大型化されたセラミック基板(直径が30cm以上、更に大きくは45cm以上)に求められている高いヤング率を達成することはできなかった。また、特許文献3に記載されたセラミック材料は、上記熱膨張係数の条件、上記高ヤング率をともに達成することができなかった。さらに、特許文献2および3に記載されたセラミック材料では、直径が30cm以上、更に大きくは45cm以上で、厚みが1cm以下の厚みの薄いセラミック基板の焼成時に発生する反りの発生を抑制することは難しかった。
【0009】
本発明者らは、上記各種の条件を満たすセラミック材料を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の組成で窒化珪素とメリライトを複合化させることにより、室温から150℃における平均熱膨張係数を前記範囲に調節できるうえに、機械的強度、ヤング率が共に高く、さらに焼結性(製作安定性)にも優れる焼結体が得られることを見出した。
【0010】
さらに、特定の組成で窒化珪素とメリライトを複合化させることにより、熱膨張の制御に優れ、かつ、反りの小さい(または平坦性に優れる)厚みの薄い大型(例えば、直径が30cm以上、更に大きくは45cm以上で、厚みが1cm以下)のセラミック材料を得られることを見出した。
【0011】
本発明はかかる知見に基づいてなされたものであり、電子部品やヒーター等が配置される基板等の用途に有用な、23℃から150℃における平均熱膨張係数を2〜6ppm/K程度、好ましくは3〜5ppm/Kの範囲で任意に調節可能で、しかも機械的強度、ヤング率が共に高く、焼結性に優れる窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた基板や部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0013】
[適用例1] 窒化珪素結晶相と、メリライト結晶相(Me2Si3O3N4、Meはメリライトを形成する金属元素)と、粒界相とを有する窒化珪素・メリライト複合焼結体を材料とした基板であって、
前記窒化珪素・メリライト複合焼結体の切断面における前記メリライト結晶相の占める割合が、20面積%以上であることを特徴とする基板。
【0014】
ここで、基板とは、電子部品やスティフナーやヒーター等の部品等を実装するための基板、すなわち、実装前の基板のことを言う。
【0015】
適用例1に係る基板に用いられる窒化珪素・メリライト複合焼結体によれば、23℃から150℃における平均熱膨張係数が小さい(2ppm/K程度以下)窒化珪素結晶相と、23℃から150℃における平均熱膨張係数が大きい(5.5ppmppm/K程度以上)メリライト結晶相が複合化されるので、任意の平均熱膨張係数に調節することができる。さらに、ガラス相と比較してヤング率が高いメリライト結晶相について、複合焼結体の切断面における前記メリライト結晶相の占める割合が20面積%以上となる構成としていることから、窒化珪素・メリライト複合焼結体のヤング率を充分に高いものとすることができる。なお、前記ガラス相は、粒界相が結晶化せずにガラス化した部分である。このように、主に窒化珪素結晶相とメリライト結晶相での熱膨張調整を行うため、窒化珪素結晶相とメリライト結晶相に対してヤング率の低い酸化物ガラス相によって熱膨張制御を行う焼結体と比べ、ヤング率が高い複合焼結体を得ることができる。この結果、適用例1に係る基板によれば、部材を熱膨張係数の制御に優れ、かつ、反りが小さい(または平坦性に優れる)ものとすることができる。
【0016】
[適用例2] 前記窒化珪素・メリライト複合焼結体の吸水率が1.5%以下であり、かつ、メリライト結晶相の占める割合と、前記切断面における前記窒化珪素結晶相の占める割合との和が、80面積%以上である適用例1に記載の基板。
【0017】
適用例2に係る基板に用いられる窒化珪素・メリライト複合焼結体によれば、複合焼結体の吸水率が1.5%以下の緻密な焼結体であり、複合焼結体の切断面における前記メリライト結晶相の占める割合が20面積%以上であり、かつ、複合焼結体の切断面におけるメリライト結晶相と窒化珪素結晶相との合計の占める割合が、80面積%以上となることから、結晶化している部分の割合を十分に大きくすることができる。したがって、気孔によるヤング率の低下が小さく、かつ結晶化している部分はヤング率の向上に貢献することができることから、窒化珪素・メリライト複合焼結体のヤング率をより一層高いものとすることができる。
【0018】
なお、適用例1および2における窒化珪素結晶相やメリライト結晶相の割合は、電子線マイクロアナライザ(EPMA:Electron−probe Microanalyzer)分析や、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)、X線回折(XRD:X−ray diffraction)、エネルギー分散型X線分析装置(EDS:Energy Dispersive X‐ray Spectrometer)等を駆使することにより求めることができる。また、同時にプラズマエッチング(例えば、CF4エッチング等)やケミカルエッチング(例えば、フッ酸エッチング等)等により結晶以外の部分をエッチングすることで、より明確な分析が可能となる。
【0019】
[適用例3] Siを、Si3N4換算で41〜83モル%、Meを、酸化物換算で13〜50モル%、含有する適用例1または2に記載の基板。
【0020】
適用例3に係る基板は、窒化珪素・メリライト複合焼結体においてSiおよびMeが適切な量に調節されるので、熱膨張係数の調節がより的確になされる。
【0021】
[適用例4] Siを、Si3N4換算で41〜79モル%、Meを、酸化物換算で13〜46モル%、添加物として、周期表IIa族元素を、酸化物換算で5〜20モル%、含有する適用例1ないし3のいずれかに記載の基板。
【0022】
適用例4に係る基板は、窒化珪素・メリライト複合焼結体において焼結性を高めるうえで好ましい組成を例示したものである。さらに、この構成によれば、添加物としての周期表IIa族元素を適切な量だけ含むことにより、ガス圧、HIP、ホットプレス等の加圧条件下で焼結させる以外に常圧での焼成が可能となる。すなわち、焼結体サイズや焼結体形状の制約低減、大量生産による製造コストの低減等の工業的メリットを得ることができる。
【0023】
[適用例5] 添加物として、Mg、Ca、およびSrの少なくとも1種が添加される適用例4に記載の基板。
【0024】
適用例5に係る基板は、窒化珪素・メリライト複合焼結体への好ましい添加物を例示したものであり、焼結性をより高めることができる。したがって、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体によれば、200GPa以上のヤング率と、2〜6ppm/Kの範囲で任意に調節可能な平均熱膨張係数(23〜150℃)を有する焼結体をより安定して得ることができる。
【0025】
[適用例6] Siを、Si3N4換算で45〜83モル%、Meを、酸化物換算で15〜49モル%、添加物として、La、Ce、およびPrの少なくとも1種を、酸化物換算で0.3〜12モル%、含有する適用例1ないし3のいずれかに記載の基板。
【0026】
適用例6に係る基板は、窒化珪素・メリライト複合焼結体において焼結性を高めるうえで好ましい組成を例示したものである。さらに、この構成によれば、添加物としてLa、Ce、およびPrの少なくとも1種を適切な量だけ含むことにより、ガス圧、HIP、ホットプレス等の加圧条件下で焼結させる以外に常圧での焼成が可能となる。すなわち、焼結体サイズや焼結体形状の制約低減、大量生産による製造コストの低減等の工業的メリットを得ることができる。また、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体によれば、200GPa以上のヤング率と、2〜6ppm/Kの範囲で任意に調節可能な平均熱膨張係数(23〜150℃)を有する焼結体を安定して得ることができる。
【0027】
[適用例7] 添加物として、Al、Si、周期表IVa族元素、周期表Va族元素、および周期表VIa族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素がさらに添加される適用例4ないし6のいずれかに記載の基板。
【0028】
適用例7に係る基板は、窒化珪素・メリライト複合焼結体への添加物としてさらにAl、Si、周期表IVa族元素、周期表Va族元素および周期表VIa族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素が添加されるので、より安定した焼結性が得られる。また、W、Mo等の遷移金属を用いた場合には、黒色化が図られ、色むらの低減等が可能となる。添加物として、周期表VIIa族元素および周期表VIII族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を添加してもよい。
【0029】
[適用例8] Alを、酸化物換算で0.5〜10モル%含有する適用例8に記載の基板。
【0030】
適用例8に係る基板は、窒化珪素・メリライト複合焼結体へ付加的に添加する添加物の好ましい種類および添加量を例示したものであり、焼結性をよりいっそう安定化することができる。例えばAl2O3では、添加量が0.5モル%以下においてその効果は顕著ではないが、0.5〜10モル%の添加で、その他の特性を低下させることなく、焼結温度を低下させることができ、焼結性をよりいっそう安定化することができる。
【0031】
[適用例9] Meが、周期表IIIa族元素である適用例1ないし8のいずれかに記載の基板。
【0032】
適用例9に係る基板は、窒化珪素・メリライト複合焼結体において窒化珪素とメリライトを形成する金属元素Meの好ましい例を示したものである。
【0033】
[適用例10] 内部または表面に発熱体を備える適用例1ないし9のいずれかに記載の基板。
【0034】
適用例10によれば、熱膨張係数の制御に優れ、かつ、反りが小さい(または平坦性に優れる)ヒーター基板を得ることができる。
【0035】
[適用例11] 電子部品が配置される適用例1ないし9のいずれかに記載の基板。
【0036】
適用例11によれば、熱膨張係数の制御に優れ、かつ、反りが小さい(または平坦性に優れる)回路基板を得ることができる。
【0037】
[適用例12] 電子部品が実装される回路基板に取り付けられるとともに、窒化珪素結晶相とメリライト結晶相(Me2Si3O3N4、Meはメリライトを形成する金属元素)と粒界相とを有する窒化珪素・メリライト複合焼結体を材料とした部材であって、
前記窒化珪素・メリライト複合焼結体の切断面における前記メリライト結晶相の占める割合が、20面積%以上であることを特徴とする部材。
【0038】
適用例12によれば、熱膨張係数の制御に優れ、かつ、反りが小さい(または平坦性に優れる)回路基板用の部材を得ることができる。
【0039】
[適用例13] 回路基板に取り付けられるスティフナーである適用例12に記載の部材。
【0040】
適用例13に係る部材によるスティフナーは、熱膨張係数の制御に優れ、かつ、反りが小さい。
【0041】
[適用例14] 回路基板に取り付けられ、電子部品を内部に収納するためのキャップである適用例12に記載の部材。
【0042】
適用例14に係る部材によるキャップは、熱膨張係数の制御に優れ、かつ、反りが小さい。
【0043】
[適用例15] 適用例1ないし10のいずれかに記載の基板に用いられる窒化珪素・メリライト複合焼結体において、同じ組成を用いる場合であっても、微構造を調整することにより材料強度、ヤング率が向上することを特徴とする。
【0044】
微構造に影響を与える要因は、原料粒径、添加物量、原料酸素量及び焼成温度等である。図13は、同一組成の材料で形成された前記窒化珪素・メリライト複合焼結体の微構造の例を示すSEMによる3000倍の撮像写真であり、それらの各焼結体について測定した曲げ強度(JIS R 1601、23℃)を付してある。図13から明らかなように、組織は(a)、(b)、(c)、(d)の順に微細になっており、そして、その順で、すなわち焼結体の組織が微細になるほど曲げ強度が増大していることがわかる。
【0045】
[適用例16] 適用例1ないし10のいずれかに記載の基板に用いられる窒化珪素・メリライト複合焼結体において、余剰酸素量がSiO2換算で2〜16モル%であることを特徴とする。
【0046】
ここで、余剰酸素量とは、焼結体中の全酸素量からSi以外の成分に帰属する酸素量を差し引いた残りの酸素量である。そのほとんどは窒化珪素に含まれる酸素、添加物の成分に含まれる酸素、場合によっては製造過程で吸着酸素等として混入するものや酸素源としてSiO2を添加したものである。本発明では余剰酸素量をSiO2の形で換算して把握する。余剰酸素量がSiO2換算で2モル%未満であると焼結性が低下し、16モル%より多いとメリライトや窒化珪素が凝集し、その凝集物が破壊起点となって強度が低下する。より好ましい余剰酸素量は2〜14モル%である。
【0047】
添加物の含有量や余剰酸素量によっては窒化珪素及びメリライト以外の結晶相が生じる。具体的には、例えばSrO量が過多であるとSrSiO3、Sr2SiO4等が生成し、余剰酸素量が過多であると、Y20Si12O48N4等が生成する。その他にも焼成条件や製作工程の影響により、Y2SiO5、Y2Si2O7、Y4Si2O7N2(J相)、YSiO2N(K相)、Y10Si7O23N4(H相)等が生成する。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、半導体ウエハの検査に用いられるプローブカード等の用途に有用な、23℃から150℃における平均熱膨張係数が2〜6ppm/Kの範囲で任意に調節可能で、しかも機械的強度、ヤング率が共に高く、焼結性に優れ、さらに反りの小さい(または平坦性に優れる)窒化珪素・メリライト複合焼結体により部材が形成される基板および部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1A】本発明の一実施形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体のSEMによる撮像写真である。
【図1B】図1Aに示す撮像写真の模写図である。
【図2】前記実施形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いたプローブカードの一例を模式的に示す断面図である。
【図3】前記実施形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いたプローブカードの他の例を模式的に示す断面図である。
【図4】前記実施形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いたプローブカードのさらに他の例を模式的に示す断面図である。
【図5】前記実施形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた回路基板の一例を模式的に示す断面図である。
【図6】前記実施形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた回路基板の他の例を模式的に示す断面図である。
【図7】前記実施形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いたヒーター基板を示す斜視図である。
【図8】前記実施形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた回路基板のさらに他の例を模式的に示す断面図である。
【図9】前記実施形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた回路基板のさらに他の例を模式的に示す断面図である。
【図10】メリライトとβ型窒化珪素のX線回折チャートの一例を示すグラフである。
【図11】実施例65〜67を1700〜1800℃で焼成した際のメリライト結晶相のメリライト主ピーク強度比率と焼成温度との相関を示すグラフである。
【図12】実施例58〜60を1700〜1800℃で焼成した際のメリライト結晶相のメリライト主ピーク強度比率と焼成温度との相関を示すグラフである。
【図13】本発明の他の実施形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体の他の例のSEMによる撮像写真である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明に係る実施の形態について説明する。
【0051】
本発明に係る実施の形態(以下、「本実施形態」と呼ぶ)としての基板に用いられる窒化珪素・メリライト複合焼結体について、まず説明する。窒化珪素・メリライト複合焼結体は、窒化珪素結晶相と、メリライト結晶相(Me2Si3O3N4、Meはメリライトを形成する金属元素)と、粒界相とを有する。ここで「メリライト結晶相」とは、Y2Si3O3N4などで示される結晶構造と同様な結晶構造を有する結晶相のことである。このため厳密な意味では、Y:Si:O:Nの比率は2:3:3:4から若干ずれる可能性もあるし、その他添加物が結晶構造中に取り込まれている可能性もある。
【0052】
本実施形態における窒化珪素・メリライト複合焼結体は、前記複合焼結体の切断面における前記メリライト結晶相の占める割合が、20面積%以上であるものである。ここで、窒化珪素・メリライト複合焼結体の切断面における窒化珪素結晶相とメリライト結晶相の両結晶相の合計に対するメリライト結晶相は25〜98面積%であり、より好ましくは35〜98面積%、さらにより好ましくは45〜98面積%、さらにより好ましくは50〜98面積%である。また、本実施形態における窒化珪素・メリライト複合焼結体は、吸水率が1.5%以下であり、かつ、前記メリライト結晶相の占める割合と、前記切断面における前記窒化珪素結晶相の占める割合との和が、80面積%以上であるものである。
【0053】
さらに、本実施形態における窒化珪素・メリライト複合焼結体は、Siを、Si3N4換算で41〜83モル%、より好ましくは46〜78モル%、さらにより好ましくは48〜75モル%、Meを、酸化物換算で13〜50モル%、より好ましくは13〜43モル%、さらにより好ましくは13〜38モル%、含有するものである。なお、SiとMeの測定および換算の方法は、ここでは、焼結体を溶解し、ICP(Inductively Coupled Plasma)を用いて各元素の比率を分析測定し(O,Nは除く)、得られた各元素の比率を、SiはSi3N4に換算し、Si以外は酸化物(例えばY2O3、SrO、Al2O3など)に換算し、トータルを100モル%とし、各元素の含有比率を計算することにより行う。ここで、得られた各元素の比率を、SiはSi3N4に換算し、Meを酸化物に換算し、Si3N4を100モル%とした場合のMeの酸化物換算のモル比は15〜100モル%、より好ましくは21〜100モル%、さらにより好ましくは30〜100モル%、さらにより好ましくは35〜100モル%である。一般的に、常圧での焼成において焼結助剤を添加することで焼結体の緻密化が可能となる。しかしながら、焼結助剤が多くなりすぎるとガラス相の割合が多くなるため、ヤング率の低下や耐エッチング性の低下が起こる。しかしながら、本実施形態における窒化珪素・メリライト複合焼結体は、Si3N4に対してMe酸化物量を増加していくと、焼結助剤が少ない状態でも緻密化が促進されていく。そのため焼結助剤量を減らしても、ヤング率低下や耐エッチング性低下を少なくすることができる。
【0054】
メリライトを形成する金属元素Meとしては、周期表IIIa族元素、すなわち、Y、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ac、Th、Pa、U、Np、Pu、Am、Cm、Bk、Cf、Es、Fm、Md、No、Lrが挙げられる。これらのなかでも、原料コストやメリライトの生成しやすさ等の点から、Y、Nd、Sm、Gd、Dy、Er、Ybが好ましく、特に、Yが好ましい。
【0055】
本実施形態において、Siの含有量がSi3N4換算で前記範囲に満たないと、平均熱膨張係数(23〜150℃)がアルミナとさほど変わらず、逆に前記範囲を超えると、メリライトが生成されないか又は生成されにくくなり、平均熱膨張係数(23〜150℃)は窒化珪素と変わらなくなる。また、窒化珪素とメリライトを形成する金属元素Meの含有量が酸化物換算で前記範囲に満たないと、メリライトが生成されないか又は生成されにくくなり、平均熱膨張係数(23〜150℃)は窒化珪素とさほど変わらず、逆に前記範囲を超えると、平均熱膨張係数(23〜150℃)がアルミナとさほど変わらなくなる。さらに、添加物を添加する場合に、その含有量が酸化物換算で前記範囲を超えると、機械的強度、またはヤング率が低下する。
【0056】
なお、Me2O3とSi3N4の化合物には、Me2O3とSi3N4が1:1であるMe2Si3O3N4(メリライト)の他、Me2O3とSi3N4が1:2であるMe2O3・2Si3N4、Me2O3とSi3N4が1:3であるMe2O3・3Si3N4、Me2O3とSi3N4が2:3である2Me2O3・3Si3N4等の化合物が存在する。本実施形態における窒化珪素・メリライト複合焼結体には、これらの化合物が含まれていてもよい。
【0057】
本実施形態においては、添加物として、周期表IIa族元素、La、Ce及びPrからなる群より選択される少なくとも1種の元素が使用されるが、(イ)周期表IIa族元素、すなわち、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びRaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を使用する場合には、Siを、Si3N4換算で41〜79モル%、より好ましくは46〜78モル%、Meを、酸化物換算で13〜46モル%、より好ましくは13〜43モル%、周期表IIa族元素を、酸化物換算で5〜20モル%、より好ましくは7〜16モル%含有するようにすることが好ましい。周期表IIa族元素を5モル%以上添加することで、ガス圧、HIP、ホットプレス等の加圧条件下で焼結させる以外に常圧での焼成が可能となる。一方20モル%より多く添加すると、機械的強度及びヤング率の低下が認められる。また、(ロ)La、Ce及びPrからなる群より選択される少なくとも1種の元素を使用する場合には、Siを、Si3N4換算で45〜83モル%、より好ましくは46〜78モル%、Meを、酸化物換算で15〜49モル%、より好ましくは13〜43モル%、La、Ce及びPrからなる群より選択される少なくとも1種の元素を、酸化物換算で0.3〜12モル%、より好ましくは1〜9モル%含有するようにすることが好ましい。0.3モル%以上添加することでガス圧、HIP、ホットプレス等の加圧条件下で焼結させる以外に常圧での焼成が可能となる。一方12モル%より多く添加すると、機械的強度またはヤング率の低下や、平均熱膨張(23〜150℃)が6ppm/K以上になる事が認められる。
【0058】
緻密化促進の為に焼結助剤を加えているが、単純な窒化珪素焼結体と異なり、本複合材では緻密化に関してほとんど知見の得られていないメリライトが多くの量を占め、特に熱膨張の大きい特性領域ではメリライト量の方が窒化珪素量を上回る。また、異材の複合した系であり、窒化珪素、メリライトの緻密化挙動は当然異なると予測され、本複合材の緻密化に必要な焼結助剤の種類、必要量については全く予測ができない。従って、一般に知られている窒化珪素の焼結助剤が本窒化珪素/メリライト複合材において有効であるかどうかは予測できず、新たに開発を要するものである。
【0059】
上記(イ)の場合、焼結性をさらに高め、かつ安定化させるためには、添加物は、Mg、Ca及びSrからなる群より選択される少なくとも1種の元素であることが好ましく、Srであることがより好ましい。
【0060】
本実施形態においては、添加物として、さらに、上記元素以外の元素を添加することができる。このような元素としては、Al、Si、周期表IVa族元素、周期表Va族元素及び周期表VIa族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素が挙げられる。これらの元素を添加することにより、より安定した焼結性が得られる。また、W、Mo等の遷移金属を用いることで黒色化が図られ、色むらの低減等が可能となる。なお、このような効果を得るためには、例えば、Alでは、酸化物換算で0.5〜10モル%、より好ましくは2〜9モル%、さらにより好ましくは5モル%未満が含有させることが好ましい。しかし、Alを酸化物換算で、10モル%より多く添加した場合には、窒化珪素結晶相、メリライト結晶相以外のその他の相が増加しヤング率の低下が認められる。
【0061】
図1Aは、本実施形態における窒化珪素・メリライト複合焼結体(後述する実施例31の焼結体)の切断面(鏡面及びエッチング処理後)のSEMによる5000倍の撮像写真であり、また、図1Bは、その模写図である。
【0062】
これらの図に示すように、本発明に関わる典型的な窒化珪素・メリライト複合焼結体は、窒化珪素結晶相11と、メリライト結晶相13と、粒界相15とからなり、粒界相15はガラス相及び/又は結晶相(窒化珪素及びメリライト以外の結晶相)として存在する。
【0063】
本実施形態においては、焼結体の切断面における面積比が、窒化珪素結晶相2〜70面積%、メリライト結晶相20〜97面積%、ガラス相及び窒化珪素とメリライト以外の結晶相1〜20面積%であることが好ましい。ガラス相及び窒化珪素とメリライト以外の結晶相1〜20面積%であることが好ましいと言うことは、窒化珪素結晶相11とメリライト結晶相13との合計についての焼結体の切断面における面積比が80%以上となることがより好ましいと言える。また、窒化珪素結晶相が9〜60面積%、かつメリライト結晶相が25〜90面積%とすることで、平均熱膨張(23〜150℃)を2〜6ppm/Kの範囲、更に好ましくは3〜5ppm/Kに制御でき、半導体ウエハとの熱膨張のマッチングの点で更に好ましい。
【0064】
窒化珪素結晶相、メリライト結晶相、並びに、ガラス相及び窒化珪素とメリライト以外の結晶相の面積比が上記範囲である場合に、焼結体は、2〜6ppm/Kの範囲、更に好ましくは3〜5ppm/Kの任意の平均熱膨張係数(23〜150℃)を有することができる。また、ヤング率が200GPa以上とすることができる。
【0065】
焼結体の切断面におけるメリライト結晶相の割合(面積比)は、前述したように、EPMA、TEM、SEM、XRD、EDS等を用いて求める。詳細には、それらを用いて、焼結体の結晶相の構成と、粒子1個1個の組成比と、更に必要に応じて粒子1個1個のTEMを用いた回折パターンから、主成分がMe,Si,O,Nからなる結晶性粒子をメリライトと判定して、メリライト結晶相の割合を求める。上記メリライトとの判定の際には、任意の大きさの視野で、粒径の大きい結晶性粒子から順番に同定を行うようにしている。また、窒化珪素粒子は、同様に主成分がSi,Nからなる結晶性粒子を窒化珪素とした。例えば50μm四方の測定範囲にて複数箇所測定し、各測定範囲にて算出した値を平均化する。この測定範囲に限らず、極端な偏りのある組織部分のみを選択しないように測定範囲を選択し、粒子の同定を行う。
【0066】
前記窒化珪素・メリライト複合焼結体における窒化珪素およびメリライトの存在は、焼結体の粉末のX線回折によっても知ることができる。本実施形態においては、X線回折図において、窒化珪素の主ピークの回折強度(β型窒化珪素のピークのうち最も高いピークの回折強度)aおよびメリライトの主ピークの回折強度(メリライトのピークのうち最も高いピークの回折強度)bが、次式
50≦[b/(a+b)]×100≦98
を満足していることが好ましい。この場合、焼結体は、2〜6ppm/Kの範囲の任意の平均熱膨張係数(23〜150℃)を有することができる。
【0067】
本実施形態における窒化珪素・メリライト複合焼結体は、例えば次のような方法で製造することができる。
【0068】
まず、窒化珪素粉末と、窒化珪素とメリライトを形成する金属元素Meを含む酸化物、有機酸塩等(例えばイットリア(Y2O3)、ギ酸イットリウム、炭酸イットリウム等)と、周期表IIa族元素、La、Ce及びPrからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む添加物(配合する場合)とを、好ましくは分散剤とエタノール等の分散媒を、ボールミル容器中に投入し混合した後、乾燥し、造粒する。次いで、プレス成形法等により所要の形状に成形し、分散剤などの有機成分は熱処理などで脱脂を行い除去する。その後、成形体を焼成炉に、1700〜1800℃、0.1〜1.0MPaの窒素雰囲気下で2〜8時間保持して焼成する。なお、焼成方法は特に限定されるものではなく、また、複数の焼成方法を適宜組み合わせることも可能である。
【0069】
ホットプレスでは、圧力などによっては組織に異方性が生じる可能性があり、顕著な組織の異方性が生じた場合は、セラミック材料の方向によって平均熱膨張係数が異なる可能性が出てくる。従って、より望ましくは、焼結体の組織を当方的にするため、ホットプレス以外の焼成方法(例えば常圧焼成、ガス圧焼成、HIPなど)を用いても容易に焼成可能なセラミック材料であることが望ましい。ただし、ホットプレスで焼成する場合であっても、前述の異方性を考慮した製品設計を行ったり、異方性が問題にならないレベルであったりする場合、ホットプレスにより焼成してもよい。
【0070】
前述してきた各種形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体(以下、「前記窒化珪素・メリライト複合焼結体」と呼ぶ)は、半導体ウエハの検査に用いられるプローブカード等の装置の基板材料あるいは構造材料として有用である。また、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体は、半導体の製造を行うための装置としても有用である。
【0071】
図2〜図4は、それぞれ前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いたプローブカードを模式的に示す断面図である。図2に示すプローブカード20は、セラミック基板21の下面に多数のカンチレバー23が取り付けられ、これらのカンチレバー23の自由端先端に形成されたプローブ25が半導体ウエハの端子パッド(図示なし)に接触するようになっている。また、図3に示すプローブカード30は、セラミック基板31の下面に、その座屈応力によって半導体ウエハ(図示なし)の端子パッド(図示なし)に接触するように構成された多数のプローブ33が設けられている。図3において、35は、プローブ33の座屈を制限する部材を示している。さらに、図4に示すプローブカード40は、セラミック基板41の下面にクッション部材43及びメンブレン45が取り付けられ、セラミック基板41を半導体ウエハ(図示なし)に向けて押圧することにより、メンブレン45の下面に設けられた多数の端子47が半導体ウエハ(図示なし)の端子パッド(図示なし)に接触するようになっている。
【0072】
そして、これらのプローブカード20、30、40においては、例えばセラミック基板21、31、41が前記窒化珪素・メリライト複合焼結体により構成されている。なお、セラミック基板21、31、41以外の部材にも、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体が使用されてもよい。例えば、図3に示すプローブカード30において、座屈制限部材35を前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いて形成することができる。
【0073】
上記各プローブカード20、30、40においては、適切な熱膨張を有する材料を用いることで、常温から高温での動作状態を検査する場合も、常温から低温での動作状態を検査する場合も、半導体ウエハの端子パッドとプローブカード20、30、40のプローブ又は端子25、33、47の間で接触不良が生じるおそれがなく、信頼性の高い検査を行うことができる。
【0074】
前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた基板についての製造上の有利な効果としては、直径が30cm以上、より大きくは45cm以上の大型製品を焼成する際に発生し易い基板の反りを抑制したり、成形体の反りを矯正できる利点がある。例えば、直径40cm、厚み7ミリで反りが5mmの大型の未焼成の成形体を焼成すると、従来のアルミナ焼結体を用いた場合は焼成体に2〜3mm程度の反りが残る。このような厚みが薄くて大型の製品に荷重を掛けて反り修正しようとすると、セラミックが割れる可能性が高い。また、反り修正工程が増える分、コストが高くなってしまう。反り修正以外に、ホットプレスを用いて焼成する方法も考えられるが、カーボン型を用いて荷重を掛けて焼成する都合、薄い大型の製品を割れることなく焼成することが難しい問題がある。しかし、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた場合は、得られた焼成体の反りは1mm以下であり、ほとんど反りがなくなる利点がある。一般のセラミックス焼成と異なり、液相焼結機構だけでなく、様々な結晶相の変化を経て最終的にメリライト結晶になるなど焼成温度まで多くの元素の変化、移動があり、比較的塑性のある状態で焼結が進むと推測される。また、焼成時に自重で自然に反りが矯正されてゆくものと推察される。
【0075】
また、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体は、熱膨張係数が大きく異なる窒化珪素結晶相とメリライト結晶相を含んでいるが、焼結後の熱膨張差によるマイクロクラックがほとんど発生しない。窒化珪素もメリライトも結晶相として安定して存在しているのに加えて、お互いの結晶領域が比較的明確に分かれており、熱膨張差による応力を粒界滑りなどで吸収しやすかったのではないかと推測される。
【0076】
前記窒化珪素・メリライト複合焼結体は、表面と内部との焼成ムラが発生しにくい利点がある。例えば、直径40cm、厚み6ミリの大型の未焼成の基板を焼成しても、基板内外での色ムラや特性バラツキといった特性差が小さい利点がある。メリライトを形成するMe酸化物が多く含まれ、またある程度のその他焼結助剤を含むことで窒化珪素の揮発などを抑えつつ、緻密化が進む為ではないかと推測される。焼成治具内の焼成雰囲気が安定しない状況で焼成しても、安定した大型の製品が得られる利点がある。
【0077】
さらに、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体は、主に窒化珪素結晶相とメリライト結晶相での熱膨張調整を行うため、酸化物ガラス相での熱膨張制御を行う焼結体と比べ耐エッチング性にも優れる。エッチング工程を必要とする半導体製造装置用部品への適用が有効である。エッチング性をさらに向上させるためには、ガラス相として残る焼結助剤量を低減するのが有効である。すなわち、前述してきた製造上の有利な効果に鑑みても、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体をプローブカードに用いることは有効である。
【0078】
前記窒化珪素・メリライト複合焼結体は、各種の基板材料としても有用である。図5〜図9を用いて、窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた部材を備える基板、すなわち、本発明の基板についての各種の態様を以下に説明する。
【0079】
図5は、半導体素子を実装した回路基板の一例を模式的に示す断面図である。図示するように、回路基板100は、基板110と、基板110の一主面111に配置された半導体素子130とを備える。また、回路基板100には、枠状のスティフナー120が取り付けられ、この枠状のスティフナー120の枠の内側に、半導体素子130が位置するように構成されている。スティフナー120は、補強材であり、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を材料として作成されている。半導体素子130は、Si(動作温度範囲は−50〜室温〜150℃)やSiC(動作温度範囲は−50℃〜室温〜350℃)等である。
【0080】
前記構成の回路基板100によれば、例えば350℃という高温においても、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を材料としたスティフナー120は、半導体素子130との熱膨張差が小さく、平坦性に優れる。また、スティフナー120を回路基板の温度分布に応じた熱膨張特性に調整することができる。このために、厚さを薄くしても信頼性の高い回路基板100を得ることができる。
【0081】
図6は、半導体素子を実装した回路基板の他の例を模式的に示す断面図である。図示するように、回路基板200は、枠状の基板210の一主面211に板状のスティフナー220が取り付けられ、この板状のスティフナー220の内部にはタングステン等の回路222が形成され、スティフナー220の一面221における基板210の枠の内側には、SiやSiC等の半導体素子230が配置されている。スティフナー220が、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を材料として作成されている。
【0082】
前記構成の回路基板200によれば、タングステン等の酸化してしまう材料を用いて回路222を形成する場合、スティフナー220を還元雰囲気下で焼成して作製する必要がある。この場合、例えばビアからなる回路222中に炭素が燃やしきれずに残ってしまうことがある。すなわち、いわゆる「残炭」が起きやすい。一般的には、この「残炭」の影響によってタングステンからなるビア周辺のセラミックが緻密化できなかったり、機械的強度が落ちる問題がある。これに対して、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体は上記の緻密化や機械的強度に関して「残炭」の影響を受けにくいという利点がある。メリライト構成物であるMe酸化物を多く含むため、窒化珪素部分の焼結を促進して、残炭カーボンによる窒化珪素の分解、揮発を防ぎ、結果的に残炭カーボンは一部の窒化珪素をSiC化することにより焼結体内部に存在させ安定化させると推測される。
【0083】
よって、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を回路内蔵型のスティフナーに用いることで、「残炭」によるセラミックの特性劣化が無く、高温においても半導体素子との熱膨張差が小さく、信頼性の高い回路基板200が得られる利点がある。
【0084】
図7は、ヒートパターンを組み込んだヒーター基板を示す斜視図である。図示するように、ヒーター基板300は、板状の基板310と、この板状の基板310の一主面311に形成された発熱体としてのヒートパターン320と、ヒートパターン320の両端に接続された電極330とを備える。基板310が、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を材料として作成されている。ヒートパターンは、タングステン等の高温の発熱に耐えうる材質が用いられる。
【0085】
前記構成のヒーター基板300によれば、タングステン等の酸化してしまう材料を用いてヒートパターン320を形成する場合、基板310を還元雰囲気下で焼成して作製する必要がある。この場合、ヒートパターン320中に炭素が燃やしきれずに残ってしまう場合がある。すなわち、いわゆる「残炭」が起きやすい。これに対して、前述したように、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体は上記の緻密化や機械的強度に関して「残炭」の影響を受けにくいという利点がある。
【0086】
よって、ヒーター基板300によれば、「残炭」に強く、適切な熱膨張を有する前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いることで、常温から高温までの昇温降温を繰り返す動作に使用する場合も、熱衝撃に耐えうる機械的強度の高いセラミックヒーターを得ることができる。なお、図7の例では、ヒートパターン320は、基板310の表面に配置していたが、これに換えて、基板310の内部に埋設する構成としてもよい。
【0087】
本発明の他の実施態様としては、さらに、図8および図9に示した回路基板400、500がある。図8に示すように、回路基板400は、基板410と、基板410上に配置される半導体素子430と、基板410上に配置され、半導体素子430を内部に収納するためのキャップを構成するリッド420および枠状のウォール422とを備える。リッド420とウォール422が、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を材料として作成されている。図9に示すように、回路基板500は、基板510と、基板510上に配置される半導体素子530と、基板510上に配置され、半導体素子530を内部に収納するためのキャップ520とを備える。キャップ520が、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体を材料として作成されている。また、図示していないが、前述した各回路基板100、200、400、500のセラミックの全てを本発明に関わる窒化珪素・メリライト複合焼結体で構成することもできる。
【0088】
本発明の他の実施形態としては、窒化珪素結晶相とメリライト結晶相との比(すなわち、SiのSi3N4換算モル%量およびMeの酸化物換算モル%量の比)を変更した複数のシートを積層し、積層焼結体を作製することで傾斜機能を持たせた窒化珪素・メリライト複合焼結体で基板を構成することもできる。例えばセラミックによるバイメタルのような特性を出したり、熱膨張差のある層を設けることで圧縮応力を発生させ、より高靭化を果たすことができる。
【0089】
次に、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体、すなわち本発明の基板および部材に利用される窒化珪素・メリライト複合焼結体を、実施例によりさらに詳細に説明するが、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0090】
実施例1〜80、比較例1、2
平均粒径0.7μmの窒化珪素(Si3N4)粉末、平均粒径1.2μmのイットリア(Y2O3)粉末、SrCO3粉末、La2O3粉末、CeO2粉末およびAl2O3粉末を用い、得られた混合粉末とエタノールを、ボールミル容器中に投入し混合した後、加熱乾燥し、造粒した。なお、Srは酸化物(SrO)の形で投入すると製作工程中に水分で水酸化物(Sr(OH)2等)になりやすいので、炭酸塩(SrCO3等)等の形で投入する。なお、表の酸化物表記は、炭酸塩で加えたものを酸化物に換算したものである。
【0091】
次いで、実施例7〜20、24〜38、41〜80については、プレス成形により70mmラ70mmラ20mmの直方体状成形体に成形し、98MPaの圧力でコールドアイソスタティックプレス(CIP)を行った後、成形体を焼成炉にて、1700〜1800℃、0.1MPaの窒素雰囲気下で4時間焼成した。
【0092】
実施例1〜6、21、比較例1〜2については、プレス成形により70mmラ70mmラ20mmの直方体状成形体に成形した後、成形体をカーボンモールドに入れ、1750℃、30MPaで2時間のホットプレス焼成を行なって緻密化した。
【0093】
実施例22、39については、プレス成形により70mmラ70mmラ20mmの直方体状成形体に成形し、98MPaの圧力でコールドアイソスタティックプレス(CIP)を行った後、成形体を焼成炉にて、1750℃、0.1MPaの窒素雰囲気下で4時間焼成し、さらに、1700℃、8.0MPaで2時間のガス圧焼成を行って緻密化した。
【0094】
実施例23、40については、プレス成形により70mmラ70mmラ20mmの直方体状成形体に成形し、98MPaの圧力でコールドアイソスタティックプレス(CIP)を行った後、成形体を焼成炉にて、1750℃、0.1MPaの窒素雰囲気下で4時間焼成し、さらに、1700℃、100MPaで2時間のHIP焼成を行って緻密化した。
【0095】
上記各実施例および各比較例で得られた焼結体について、下記に示す方法で各種特性を測定評価した。
[理論密度比]
JIS R1634に準拠して、かさ密度を測定し、理論密度(例えばイットリア(Y2O3)粉末がすべてメリライト(Y2Si3O3N4(Me=Y))に変換され、残りの窒化珪素はそのままで、その他添加物は各酸化物の状態で存在したと仮定して計算)に対する比率を算出した(例えばY2Si3O3N4の密度は4.25(g/cm3))。なお、理論密度比が95%以上であれば、JIS R1634における見掛密度とかさ密度の差はほとんどなかった。
【0096】
[吸水率]
焼結体に吸水処理(水中にて脱泡)を行った後、乾燥させ、次式により算出した。
吸水率(%)=[(W1−W2)/W2)]×100
(W1:吸水処理後の焼結体重量、W2:乾燥後の焼結体重量)
この吸水率測定は、JIS-R2205に準拠して測定しても良い。
[メリライト主ピーク強度比率]
焼結体を粉砕し、X線回折装置((株)リガク製 RU−200T または(株)リガク製 X線回折装置 RINT−TTRIII)により、粉末X線回折を行い、メリライト(Me2Si3O3N4)の主ピークの回折強度bおよびSi3N4の主ピークの回折強度aを求め、次式より算出した。X線回折は試料を粉末にするなどの方法を用いて、測定試料の結晶配向性を十分小さい状態にして(または結晶の配向性を小さくする測定方法にて)測定する。
メリライト主ピーク強度比率(%)=[b/(a+b)]×100
[X線回折条件]
RINT−TTRIIIでの測定条件は
モノクロメータ使用にて、ターゲットを銅として、
管電流300mA、管電圧50kV、
スキャンスピード4°/分、サンプリング幅0.02°
とした。
【0097】
ここで、窒化珪素の主ピークの回折強度aとは、β型窒化珪素のピークのうち最も高いピークの回折強度をいい、また、メリライトの主ピークの回折強度bとは、メリライトのピークのうち最も高いピークの回折強度をいう。図10は、メリライト(Y2Si3O3N4(Me=Y))とβ型窒化珪素(β−Si3N4)とのX線回折チャートの一例を示すグラフである。横軸は、2θであり、20〜40°の値を取り得る。図示するように、メリライトの主ピークは、2θが32°付近となる位置であり(図中A)、窒化珪素の主ピークは、2θが27°付近(図中B)、34°付近(図中C)および36°付近(図中D)のうちの高い方となる。また、この実施内容では、X線回折の回折強度(またはピーク強度)の比率と面積強度(または積分強度)の比率はほぼ同じ値を取るため、より簡便性、汎用性をとり、ピークの回折強度による結晶相量の比とした。
【0098】
[平均熱膨張係数]
JIS R1618に準拠して、熱機械分析装置((株)リガク製 熱機械分析装置 8310シリーズ)を用いて、熱機械分析による測定にて23〜150℃の平均熱膨張係数を求めた。なお、本明細書では平均線膨張率と平均熱膨張係数とを同義として扱う。同様に線膨張率は熱膨張係数と表現しても良いとする。
[曲げ強度]
JIS R 1601に準拠して室温(23℃)で3点曲げ強さを測定した。
[ヤング率]
JIS R 1602に規定する超音波パルス法により室温(23℃)で測定した。
【0099】
[面積比]
3mmラ4mmラ10mmの形状に切断した焼結体の4mm×10mmの表面に鏡面加工を施した後、その表面をSEM(日本電子(株)製 JSM−6460LA)にて観察し、さらにEPMA(日本電子(株)製 JXA−8500F)を用いて二次電子像、反射電子像の観察、及びWDS(波長分散型X線分光器)ビームスキャンマッピングを行い、その表面における窒化珪素結晶相、メリライト結晶相、並びに、粒界相(ガラス相及び窒化珪素とメリライト以外の結晶相(表中、「その他」と記載))の面積比を求めた。また、これらの面積比は気孔を除いた部分を総面積(100(面積%))とみなして算出している。なお、必要に応じて(ガラス相や窒化珪素とメリライト以外の結晶相が多く、前記機器による観察だけでは面積比を求めることが困難である場合等)、STEM(走査型透過電子顕微鏡)((株)日立ハイテクノロジーズ製HD−2000)及びEDS(エネルギー分散型X線分析装置)(EDAX製Genesis)を用いた。また、場合により、鏡面加工面にエッチング処理を行い、このエッチング面をSEM等で観察して面積比を求めた。
【0100】
これらの結果を表1〜表6に併せ示す。なお、実施例69〜80についてはさらに余剰酸素量を示した。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
【表4】
【0105】
【表5】
【0106】
【表6】
【0107】
表1〜表6から明らかなように、窒化珪素結晶相と、メリライト結晶相(Me2Si3O3N4、Meはメリライトを形成する金属元素)と、粒界相とを有する複合焼結体の切断面におけるメリライト結晶相の占める割合が、20面積%以上である実施例1〜80は、任意の平均熱膨張係数(23〜150℃)の焼結体が得られ、曲げ強度、ヤング率も良好であった。なお、実施例20、38、64〜68は、理論密度比が低く、結果として曲げ強度、ヤング率が低いものの、平均熱膨張係数(23〜150℃)の値は満足しており、多孔体や金属含浸素材といった用途に用いることができる。比較例1では、メリライト結晶相の割合が低く、平均熱膨張係数(23〜150℃)の値は低い値であった。比較例2では窒化珪素結晶相が残存しておらず、理論密度比が高く緻密化しているにも関わらずヤング率は低い値を示し、平均熱膨張係数(23〜150℃)の値は高かった。
【0108】
同様に、複合焼結体の吸水率が1.5%以下であり、かつ、切断面におけるメリライト結晶相の占める割合と窒化珪素結晶相の占める割合との和が80面積%以上である実施例1〜19、21〜24、26〜37、39〜42、44〜62、69〜80は、ヤング率200GPa以上かつ曲げ強度200MPa以上と良好であった。なお、吸水率が1.5%より大きい複合焼結体である実施例64〜68は、曲げ強度は低いものの平均熱膨張係数(23〜150℃)の値は満足しており、多孔体や金属含浸素材といった用途に用いることができる。
【0109】
同様に、SiをSi3N4換算で41〜83モル%、Yを酸化物換算で13〜50モル%含有し、添加物を未配合とした実施例1〜6でも、ホットプレス焼成を行うことで、平均熱膨張係数(23〜150℃)が2〜6ppm/Kの焼結体が得られ、曲げ強度、ヤング率も良好であった。窒化珪素が90モル%以上の比較例1では、メリライト結晶相の割合が低く、平均熱膨張係数(23〜150℃)の値も低い値であった。また窒化珪素が40モル%以下の比較例2では、焼結後に窒化珪素相が残存しておらず、平均熱膨張係数(23〜150℃)も高い値を示した。
【0110】
同様に、SiをSi3N4換算で41〜79モル%、Yを酸化物換算で13〜46モル%、周期表IIa族元素のSrを酸化物換算で5〜20モル%含有するようにした実施例7〜19では、Srを酸化物換算で5モル%より少ない実施例20〜23と比較すると焼結性に優れるとともに、平均熱膨張係数(23〜150℃)が2〜6ppm/Kで、曲げ強度の大きく、かつヤング率が高い焼結体が得られた。また、Srを酸化物換算で20モル%よりも多い実施例24、25では、ヤング率、機械的強度が低下傾向にある。
【0111】
同様に、SiをSi3N4換算で45〜83モル%、Yを酸化物換算で15〜49モル%、Laを酸化物換算で0.3〜12モル%含有するようにした実施例26〜37でも、Laを酸化物換算で0.3モル%より少ない実施例38〜40と比較して焼結性に優れるとともに、平均熱膨張係数(23〜150℃)が2〜6ppm/Kで、曲げ強度の大きく、かつヤング率が高い焼結体が得られた。また、Laが酸化物換算で12モル%より多い実施例41およびCeが酸化物換算で12モル%より多い実施例42〜43では、平均熱膨張係数(23〜150℃)が高くなり、機械的強度が低下する傾向であった。
【0112】
また、SiをSi3N4換算で41〜83モル%、Yを酸化物換算で13〜49モル%、Srを酸化物換算で0〜20モル%、La又はCeを酸化物換算で0〜12モル%含有するようにした実施例44〜63、69〜80も同様であり、これらのなかでもAlを酸化物換算で0.5〜10モル%さらに含有するようにした実施例44〜46、48〜62、69〜80では焼結性がより安定した。また、Alを酸化物換算で15モル%含有した実施例63では、窒化珪素とメリライト以外にガラス相が増加し、ヤング率が低下する傾向であった。
【0113】
実施例57〜58、77〜78については、混合粉末とエタノールを、ボールミル容器中に投入し混合する際により長時間調合(例えば60hr粉砕混合等)を行った結果、組織が微細になり高強度化した。
【0114】
また、表6から明らかなように、一定量の余剰酸素量により焼結性が確保されるが、余剰酸素量が多くなると、曲げ強度が低下することが確認された。
【0115】
なお、表1〜表6に記載した複数の実施例のうちで添加物としてLaおよびCeを用いた実施例については、添加物をLaおよびCeに換えて、Prを用いる構成としてもよい。同様に、Srを用いた実施例については、添加物をSrに換えて、MgまたはCaを用いる構成としてもよい。それら実施例と同様の効果を得ることができる。また、添加物としてAlを用いた実施例については、添加物をAlに換えて、Al、Si、周期表IVa族元素、周期表Va族元素および周期表VIa族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を用いる構成としてもよく、それら実施例と同様により焼結性を安定させる効果を得ることができる。
【0116】
本発明に関わる窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いて、室温(23℃)から150℃における平均熱膨張係数が2〜6ppm/Kの範囲で任意に調整可能で、かつ機械的強度の大きい半導体ウエハの検査に用いられるプローブカード等の半導体検査または製造用装置を得ることができる。また、本発明に関わる窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いて、平均熱膨張係数を所定の範囲で調整可能で、かつ、反りの小さい(または平坦性に優れる)基板やスティフナーを得ることができる。特に、厚みが薄く大型化したとしても反りが小さい。さらに、機械的特性および耐腐食性が求められる基板においても適用可能である。
【0117】
窒化珪素結晶相とメリライト結晶相は低温から高温まで結晶構造自体の大きな変化がないが、700℃から主にメリライト結晶の酸化が開始する為、700℃以上の高温での酸化雰囲気での使用は困難である。ここで、本発明に関わる窒化珪素・メリライト複合焼結体は、ガラス成分でなく主に窒化珪素結晶相とメリライト結晶相での平均熱膨張係数を調整するものである。低温(−50℃)や高温(例えばSiC半導体の作動温度である350℃)においても、同じ測定を繰り返しても安定した熱膨張推移を示し、安定した検査が可能である。例えばウエハテストなどでは、低温から高温まで熱膨張がマッチングして検査工程の幅が広がるなど有利な点が多い。
【0118】
本発明に関わる窒化珪素・メリライト複合焼結体は、焼成温度1700〜1800℃の間では焼成温度によってメリライト結晶相の生成量が増減しにくい。つまり、焼成温度1700〜1800℃の間では、メリライト結晶相が安定して生成される。図11は、前述の実施例65〜67を1700〜1800℃で焼成した際のメリライト主ピーク強度比率と焼成温度との相関を示すグラフである。図12は、前述の実施例58〜60を1700〜1800℃で焼成した際のメリライト主ピーク強度比率と焼成温度との相関を示すグラフである。両図からも、焼成温度によらずにメリライト結晶相が安定して生成されることがわかる。そのため、量産した際に安定して生産できるという利点がある。さらに、大きさによらずメリライト結晶相が安定して生成されるという利点があるため、様々な大きさ、形状の基板等への適用が有用である。
【符号の説明】
【0119】
11…窒化珪素結晶相
13…メリライト結晶相
15…粒界相
20,30,40…プローブカード
100、200、400、500…回路基板
300…ヒーター基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素結晶相と、メリライト結晶相(Me2Si3O3N4、Meはメリライトを形成する金属元素)と、粒界相とを有する窒化珪素・メリライト複合焼結体を材料とした基板であって、
前記窒化珪素・メリライト複合焼結体の切断面における前記メリライト結晶相の占める割合が、20面積%以上であることを特徴とする基板。
【請求項2】
前記窒化珪素・メリライト複合焼結体の吸水率が1.5%以下であり、かつ、メリライト結晶相の占める割合と、前記切断面における前記窒化珪素結晶相の占める割合との和が、80面積%以上である請求項1に記載の基板。
【請求項3】
Siを、Si3N4換算で41〜83モル%、
Meを、酸化物換算で13〜50モル%、
含有する請求項1または2に記載の基板。
【請求項4】
Siを、Si3N4換算で41〜79モル%、
Meを、酸化物換算で13〜46モル%、
添加物として、周期表IIa族元素を、酸化物換算で5〜20モル%、
含有する請求項1ないし3のいずれかに記載の基板。
【請求項5】
添加物として、Mg、Ca、およびSrの少なくとも1種が添加される請求項4に記載の基板。
【請求項6】
Siを、Si3N4換算で45〜83モル%、
Meを、酸化物換算で15〜49モル%、
添加物として、La、Ce、およびPrの少なくとも1種を、酸化物換算で0.3〜12モル%、
含有する請求項1ないし3のいずれかに記載の基板。
【請求項7】
添加物として、Al、Si、周期表IVa族元素、周期表Va族元素、および周期表VIa族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素がさらに添加される請求項4ないし6のいずれかに記載の基板。
【請求項8】
Alを、酸化物換算で0.5〜10モル%含有する請求項7に記載の基板。
【請求項9】
Meが、周期表IIIa族元素である請求項1ないし8のいずれかに記載の基板。
【請求項10】
内部または表面に発熱体を備える請求項1ないし9のいずれかに記載の基板。
【請求項11】
電子部品が配置される請求項1ないし9のいずれかに記載の基板。
【請求項12】
電子部品が実装される回路基板に取り付けられるとともに、窒化珪素結晶相とメリライト結晶相(Me2Si3O3N4、Meはメリライトを形成する金属元素)と粒界相とを有する窒化珪素・メリライト複合焼結体を材料とした部材であって、
前記窒化珪素・メリライト複合焼結体の切断面における前記メリライト結晶相の占める割合が、20面積%以上であることを特徴とする部材。
【請求項13】
回路基板に取り付けられるスティフナーである請求項12に記載の部材。
【請求項14】
回路基板に取り付けられ、電子部品を内部に収納するためのキャップである請求項12に記載の部材。
【請求項1】
窒化珪素結晶相と、メリライト結晶相(Me2Si3O3N4、Meはメリライトを形成する金属元素)と、粒界相とを有する窒化珪素・メリライト複合焼結体を材料とした基板であって、
前記窒化珪素・メリライト複合焼結体の切断面における前記メリライト結晶相の占める割合が、20面積%以上であることを特徴とする基板。
【請求項2】
前記窒化珪素・メリライト複合焼結体の吸水率が1.5%以下であり、かつ、メリライト結晶相の占める割合と、前記切断面における前記窒化珪素結晶相の占める割合との和が、80面積%以上である請求項1に記載の基板。
【請求項3】
Siを、Si3N4換算で41〜83モル%、
Meを、酸化物換算で13〜50モル%、
含有する請求項1または2に記載の基板。
【請求項4】
Siを、Si3N4換算で41〜79モル%、
Meを、酸化物換算で13〜46モル%、
添加物として、周期表IIa族元素を、酸化物換算で5〜20モル%、
含有する請求項1ないし3のいずれかに記載の基板。
【請求項5】
添加物として、Mg、Ca、およびSrの少なくとも1種が添加される請求項4に記載の基板。
【請求項6】
Siを、Si3N4換算で45〜83モル%、
Meを、酸化物換算で15〜49モル%、
添加物として、La、Ce、およびPrの少なくとも1種を、酸化物換算で0.3〜12モル%、
含有する請求項1ないし3のいずれかに記載の基板。
【請求項7】
添加物として、Al、Si、周期表IVa族元素、周期表Va族元素、および周期表VIa族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素がさらに添加される請求項4ないし6のいずれかに記載の基板。
【請求項8】
Alを、酸化物換算で0.5〜10モル%含有する請求項7に記載の基板。
【請求項9】
Meが、周期表IIIa族元素である請求項1ないし8のいずれかに記載の基板。
【請求項10】
内部または表面に発熱体を備える請求項1ないし9のいずれかに記載の基板。
【請求項11】
電子部品が配置される請求項1ないし9のいずれかに記載の基板。
【請求項12】
電子部品が実装される回路基板に取り付けられるとともに、窒化珪素結晶相とメリライト結晶相(Me2Si3O3N4、Meはメリライトを形成する金属元素)と粒界相とを有する窒化珪素・メリライト複合焼結体を材料とした部材であって、
前記窒化珪素・メリライト複合焼結体の切断面における前記メリライト結晶相の占める割合が、20面積%以上であることを特徴とする部材。
【請求項13】
回路基板に取り付けられるスティフナーである請求項12に記載の部材。
【請求項14】
回路基板に取り付けられ、電子部品を内部に収納するためのキャップである請求項12に記載の部材。
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1A】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1A】
【図13】
【公開番号】特開2011−241098(P2011−241098A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112131(P2010−112131)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
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