説明

緩衝器

【課題】 特に組立が容易で加工工数を低減可能な緩衝器を提供することであり、また他の目的は、緩衝器の強度の低下を防止することである。
【解決手段】 減衰力調整機構が、流路10中に形成した中空部33内に摺動自在に挿入され、ピストンロッド3の他端に設けたソレノイドSにより推力が与えられるとともに上流路11の圧力によりソレノイドSの推力に対向する方向の推力が与えられるスプール50を備え、該スプール50は、その両端側にランド部51,52が形成され、一方のランド部51を上流路11の出口開口部に対向させるとともに他方のランド部52を下流路12の入口開口部に対向させ、ソレノイドSの推力を変化させることで、上流路11の出口開口部面積および下流路12の入口開口部面積を変化させて減衰力を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ソレノイドを利用し減衰力を変化可能な緩衝器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種緩衝器としては、たとえば、いわゆる作動油が封入されたシリンダと、当該シリンダ内に摺動可能に挿入されシリンダ内を上室と下室とに区画するピストンと、一端が前記ピストンに連結され、他端が前記シリンダの外部へ延出されたピストンロッドと、ピストン内に設けられたソレノイドの推力でクラッキング圧が制御されるバルブとを備えて構成され、さらにこの緩衝器にあっては、伸縮により上室もしくは下室のうち高圧となる室から低圧となる室へ作動油が移動する際に必ず一方向から上記バルブを通過するように流路配置がなされている。
【0003】
そして、このバルブは、流路の途中に設けられた弁座とポペット型弁体と、該ポペット型弁体を弁座方向に附勢するバネと、バネの附勢力を増大もしくは減少せしめるソレノイドを備え、このソレノイドによってクラッキング圧を制御するとして、減衰力を変化させることが可能である(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平04−262134号公報(第3頁右欄第35行目から第5頁右欄第24行目、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述緩衝器では、機能面で問題があるわけではないが、以下の不具合を招来する可能性があると指摘される恐れがある。
【0005】
すなわち、従来緩衝器では、ピストン部にソレノイドを内蔵しているので、緩衝器の組立に工数がかかり、また、ピストンロッドとピストンの同軸度の精度が不十分となる可能性があり、さらに、ポペット弁を採用しているので、この部位における同軸度の精度が不十分となる恐れもあり、また、充分な精度を確保しようとすると必然的に組付け作業が煩雑となる。
【0006】
また、ピストン部にソレノイドを内蔵していることから、ピストンロッドとピストンとを接続する筒部材の強度が低下する可能性もある。
【0007】
そこで、本発明は、上記不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、特に組立が容易で加工工数を低減可能な緩衝器を提供することであり、また他の目的は、緩衝器の強度の低下を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、シリンダと、一端にシリンダ内に摺動自在に挿入されるピストン部を備えたピストンロッドと、シリンダ内に上記ピストン部で隔成した一方室と他方室と、該ピストン部に設けた一方室と他方室とを連通する流路と、該流路の途中に設けた減衰力調整機構とを備えた緩衝器において、上記流路は、ピストン部に形成される中空部と、一方室と他方室のうち高圧側から中空部への液体の流れのみを許容する上流路と、中空部から一方室と他方室のうち低圧側への液体の流れのみを許容する下流路とを有し、減衰力調整機構は、中空部内に摺動自在に挿入され、ピストンロッドの他端に設けたソレノイドにより推力が与えられるとともに上流路の圧力によりソレノイドの推力に対向する方向の推力が与えられるスプールを備えてなり、該スプールは、その両端側にランド部が形成され、一方のランド部を上流路の出口開口部に対向させるとともに他方のランド部を下流路の入口開口部に対向させ、ソレノイドの推力を変化させることで、上流路の出口開口部面積および下流路の入口開口部面積を変化させて減衰力を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ソレノイドは、ピストン部に設けられるのではなくて、ピストンロッドの他端に設けられているから、ピストン部の強度をいたずらに低下させることはなく、さらに、ピストンロッドおよびピストンの組立は、通常の油圧緩衝器と同様の組立となるので、同軸度の精度が不十分となることがなく、煩雑な組付け作業を行わなくとも充分な精度を確保可能であり、緩衝器の組立に工数が低減される。
【0010】
また、スプールを採用しているので、同軸度の精度を確保しつつ組付ける必要があるポペット弁に比較して、組付け作業が非常に簡単となり、同軸度の確保という問題もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施の形態における緩衝器の縦断面図である。図2は、本発明の一実施の形態における緩衝器の一部拡大縦断面図である。図3は、本発明の他の実施の形態における緩衝器の一部拡大縦断面図である。
【0012】
この緩衝器は、図1に示すように、シリンダ1と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されるピストン2と、一端がピストン2に連結されるピストンロッド3と、シリンダ1内に上記ピストン2で隔成した一方室R1と他方室R2と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されシリンダ1内を他方室R2と気室Gとに区画するフリーピストンFと、ピストン2およびピストンロッド3の一端部と構成されるピストン部Pに設けた一方室R1と他方室R2とを連通する流路10と、該流路10の途中に設けた減衰力調整機構とで構成されている。
【0013】
そして、この緩衝器にあっては、ピストンロッド3がシリンダ1に対し上下移動する際、すなわち、緩衝器が伸縮する際に、一方室R1から他方室R2へもしくは他方室R2から一方室R1へ作動油等の液体が移動するときに減衰力調整機構により減衰力を発生するとともに、また、シリンダ1に対しピストンロッド3が出没する際の体積分の過不足となる作動油はフリーピストンFで隔成された気室G内の気体の膨張あるいは収縮によって補償される。
【0014】
すなわち、この緩衝器は、図示したところによれば、いわゆる単筒型液圧緩衝器として構成されている。なお、緩衝器の形式としては、他にシリンダ1の外方に外筒を設けてシリンダ1と外筒との間の隙間に気室を備えたリザーバを設けるいわゆる複筒型とされてもよく、また、リザーバを緩衝器から分離して他所に形成し、シリンダ1内の一方室R1あるいは他方室R2とリザーバを管路で接続するようにしてもよい。
【0015】
以下、上記緩衝器の各部について図1および図2を用いて詳しく説明すると、ピストン部Pは、上記したようにピストン2とピストンロッド3の一端部とで形成され、ピストン2は、環状のピストン本体21と、ピストン本体21の図2中より下方に配置される環状のバルブディスク22を備え、上記ピストン本体21およびバルブディスク22は、ピストンロッド3の一端に形成される縮径部31に嵌挿されるとともに、ピストンロッド3の最下端に螺着されるピストンナット32により固定されている。
【0016】
なお、バルブディスク22とピストン本体21との間には、スペーサ65および積層間座66が介装され、バルブディスク22とピストン本体21との間に部屋Aが隔成されている。
【0017】
そして、ピストン部Pとなるピストン本体21およびピストンロッド3の一端部には、流路10が形成されているが、該流路10は、ピストンロッド3の一端部に形成される中空部33と、一方室R1と他方室R2のうち高圧側から中空部33への作動油の流れのみを許容する上流路11と、中空部33から一方室R1と他方室R2のうち低圧側への作動油の流れのみを許容する下流路12とで構成され、さらに、上流路11は、一方室R1と他方室R2とを連通する連通路111と、連通路111と中空部33とを連通する接続路112とを備えて構成され、他方の、下流路12も、一方室R1と他方室R2とを連通する連通路121と、連通路121と中空部33とを連通する接続路122とを備えて構成されている。
【0018】
また、ピストン本体21の内周側には、環状溝211と環状溝212が上下に配置されて形成されており、この環状溝211は環状溝212より上下に幅広に形成されるとともに上流路11の接続路112に連通され、また、環状溝212は下流路の接続路122に連通されている。
【0019】
さらに、ピストンロッド3は、軸方向全体に渡り中空に、すなわち筒状に形成されており、その一端部に形成された縮径部31の内方が中空部33とされ、この中空部33は丁度ピストン本体21と対向する位置に配置されている。
【0020】
そして、この縮径部31の側部には、中空部33とピストンロッド3の縮径部31の外方とを連通する複数のポート35,36,37が上下に配置されて開穿されており、ピストン本体21とピストンロッド3に組付けた際に、ポート35およびポート36は、それぞれ、環状溝211に対向し、ポート37は、環状溝212に対向するように設定されている。
【0021】
すなわち、中空部33は、上記ポート35,36および環状溝211を介して上流路11に連通され、他方、ポート37および環状溝212を介して下流路12に連通されている。
【0022】
なお、環状溝211および環状溝212を設けずに、接続路112および接続路122を上記のような流路が形成されるように直接に各ポート35,36,37に接続するとしてもよいが、環状溝211,212を設けておくことにより、ピストンロッド3にピストン本体21を組付ける際に位置合わせという煩わしい作業を省略することができ、便利である。
【0023】
さらに、上流路11の連通路111中であって接続路112との接続部分を除いて上下にパイプ42,43が嵌着され、上記接続部分にはパイプ42,43の内径より直径が大きいボール44が挿入され、一方室R1と他方室R2のうちいずれかが高圧となる場合、たとえば、一方室R1側の圧力が他方室R2側の圧力より高くなる場合、ボール44は図2中下方に押し下げられてパイプ43の上端開口部を閉塞し、一方室R1と中空部33との連通を許容することになり、逆に、他方室R2側の圧力が一方室R1側の圧力より高くなる場合、ボール44は図2中上方に押し上げられてパイプ42の下端開口部を閉塞し、他方室R2と中空部33との連通を許容することになる。
【0024】
すなわち、上記連通路111内に設けられたボール44は高圧優先シャトル弁として機能する。
【0025】
なお、上流路11および下流路12をピストン本体21に形成する際には、図示したように、連通路111および連通路121をピストン本体21に対し軸方向に穴あけ加工し、接続路112および接続路122をピストン本体21に対して半径方向から穴あけ加工することにより、簡単にピストン本体21に上流路11および下流路12を設けることができる。
【0026】
また、高圧優先シャトル弁に関しては、上記のような構成を採用せずとも良いが、上記構成とすることで、上流路11の形成に加えて、パイプ42,43の組付けと、ボール44の連通路111内への挿入という簡易な作業で高圧優先シャトル弁をピストン本体21内に設けることができる点で有利となる。
【0027】
他方、下流路12における連通路121の一方室R1側の開口端は、ピストン本体21の図2中上端に積層される環状の板バルブ45によって閉塞され、連通路121の図2中下端に積層される環状の板バルブ46によって閉塞されており、板バルブ45および板バルブ46は、ピストン本体21と同様に、ピストンロッド3の縮径部31に挿入されピストンナット32によって固定されている。
【0028】
そして、板バルブ45は、一方室R1から下流路12への作動油の流れを阻止する逆止弁として作用し、下流路12側の圧力が一方室R1側の圧力より大きい場合には、下流路12内の作動油は板バルブ45を図2中上方に撓ませることにより連通路121の一方室R1側が開放され一方室R1内へ移動することが許容される。
【0029】
また、板バルブ46は、他方室R2から下流路12への作動油の流れを阻止する逆止弁として作用し、下流路12側の圧力が他方室R2側の圧力より大きい場合には、下流路12内の作動油は板バルブ46を図2中下方に撓ませることにより連通路121の他方室R2側が開放され他方室R2内へ移動することが許容される。
【0030】
なお、各板バルブ45,46の上流路11における連通路111に対向する部位には、それぞれ孔47,48が開穿されているので、各板バルブ45,46が一方室R1あるいは他方室R2から上流路11への作動油の流れを妨げることはない。
【0031】
以上のように上流路11に高圧優先シャトル弁を用いることで、従来緩衝器のように、逆止弁のみを用いるより、ピストン部Pを複雑な形状にする必要がなくなり、通常の緩衝器に使用されるピストン形状と略同じ形状のピストン本体を採用することができ、ピストン本体を安価に製造することが可能となる。
【0032】
転じて、ピストンロッド3の一端部内に形成された中空部33内にはスプール50が摺動自在に挿入されており、このスプール50は、両端側となる図1中上下端の両方にランド部51,52が形成され、このランド部51をピストンロッド3に開穿のポート36に、ランド部52をピストンロッド3に開穿のポート37に夫々対向させてある。
【0033】
また、ピストンロッド3の縮径部31の図1中下端部内には栓38が設けられており、これにより中空部33は、他方室R2とは隔絶されており、中空部33はスプール50により圧力室Bが隔成され、この圧力室Bはポート35に接続され、この圧力室B内に導かれる上流路11内の圧力をスプール50の下端面を受圧面として作用させることができ、これによりスプール50に図1中上方に推力を与えることができるようになっている。
【0034】
また、この圧力室B内にバネ53が収納され、このバネ53は、スプール50の下端と栓38の上端との間に介装されているので、スプール50を図2中上方に向けて附勢する。
【0035】
さらに、スプール50の上端には、ピストンロッド3内に挿通されたコントロールロッド54の下端を当接させてあり、このコントロールロッド54の上端は、図1に示すように、ピストンロッド3の他端となる図1中上端に固定したソレノイドSの可動鉄心60に連結されている。
【0036】
この可動鉄心60の上端と、ソレノイドSのケース61との間にはバネ62が介装されており、さらに、可動鉄心60の外周側には巻線とコアからなるステータ63が設けられ、ステータ63の巻線を励磁すると、可動鉄心60に図1中下方に向けて推力を与えられるようになっている。
【0037】
したがって、上記ソレノイドSにおける巻線を励磁すると、コントロールロッド54を介してスプール50に図1中押し下げる方向に推力を与えることができる。
【0038】
そして、スプール50は、ソレノイドSの巻線を励磁せず、バネ53とバネ62のバネ力のみが釣り合う位置において、ランド部51およびランド部52がそれぞれ、ポート36およびポート37を完全に閉塞せず、ポート36とランド部51のラップ面積およびポート37とランド部52のラップ面積は略同じ程度になるように設定され、巻線を励磁する電流の大きさによりスプール50の位置制御を行うことにより、ランド部51とポート36のラップ面積と、ランド部52とポート37のラップ面積を制御できるようになっている。
【0039】
そして、スプール50の位置制御によって上記ラップ面積を増減させて、ポート36の開口面積つまり上流路11の出口開口部面積、および、ポート37の開口面積つまり下流路12の入口開口部面積を調整することができ、これにより減衰力を調整することが可能である。すなわち、本実施の形態においては、減衰力調整機構は、スプール50と、ソレノイドSとで構成されている。
【0040】
他方、ピストン本体21の下方に固定されるバルブディスク22は、環状本体221と、環状本体221の外周側に嵌合され、かつ、シリンダ1の内周に摺接する筒部222と、筒部222の図1中下方内周側に螺着される環状の固定部材223とで構成され、環状本体221は、筒部222の内周側に形成の段部(付示せず)と固定部材223とで挟持されている。
【0041】
さらに、環状本体221には、軸方向に空間Aと他方室R2とを連通するポート23が複数開穿されており、また、環状リーフバルブ24が環状本体221の図1中上端外周側に形成した環状の弁座224に着座させてあり、さらに、この環状リーフバルブ24の内周側は、積層間座66の下面側に当接するようになっており、この環状リーフバルブ24によって上記ポート23の空間A側の出口端を閉塞している。
【0042】
また、このバルブディスク22の環状本体221の上端外周側には、キャップ状のバルブストッパ25が設けられており、このバルブストッパ25は、空間Aと他方室R2とを連通可能なように切欠26が形成されるとともに、その軸心部にピストンロッド3の縮径部31が挿通可能なように、孔(付示せず)が設けられており、スペーサ65と積層間座66とで挟持されることでピストンロッド3に固定されている。
【0043】
そして、上記環状リーフバルブ24は、空間A側の圧力が他方室R2側の圧力より大きい場合には、その内側が図1中下方に撓んで積層間座66との間に隙間が生じて作動油は、空間Aから他方室R2に移動することが可能であり、作動油が積層間座66と環状リーフバルブ24との間を通過する時に生じる圧力損失によって減衰力を発生する。
【0044】
他方、他方室R2側の圧力が空間A側の圧力より大きい場合には、環状リーフバルブ24の外周側が図1中上方に撓んで弁座224から離座し、環状リーフバルブ24と弁座224との間に隙間が生じて作動油は、他方室R2から空間Aに移動することが可能であり、作動油が環状リーフバルブ24と弁座224との間を通過する時に生じる圧力損失によって減衰力を発生する。
【0045】
すなわち、本実施の形態においては、上記した減衰力調整機構とは別に環状リーフバルブ24によっても減衰力を発生することが可能である。
【0046】
さて、上述のように構成された緩衝器にあっては、伸長時、すなわち、シリンダ1に対しピストンロッド3が上方に移動するとき、一方室R1の容積が減少し、他方室R2の容積が増大するので、一方室R1内の作動油の圧力は他方室R2のそれに比較して高くなる。
【0047】
すると、上流路11における連通路111内のボール44は、パイプ43側に押し付けられるので、中空部33と一方室R1とが連通される状態となり、一方室R1内の作動油は、上流路11、環状溝211およびポート36を通過して中空部33へ流入するとともに、上流路11、環状溝211およびポート35を通過して圧力室Bへ流入する。
【0048】
そして、スプール50は、圧力室B内の圧力上昇によって図2中上方へ推力が与えられるので、ポート36とランド部51のラップ面積が増大し、ポート36の開口面積は小さくなる傾向となり、他方、ポート37とランド部52のラップ面積は小さくなり、ポート37の開口面積は大きくなる傾向となる。
【0049】
上記開口面積は、バネ53、バネ62のバネ力および圧力室B内の圧力による推力の釣り合いで決せられ、シリンダ1に対するピストンロッド3の移動速度が大きければ大きいほど圧力室B内の圧力は高くなるので、ポート36の開口面積は小さくなる傾向を示すので大きな減衰力を発生し、他方、シリンダ1に対するピストンロッド3の移動速度が小さいときには、圧力室B内の圧力はさほど高まらないので、スプール50は中立位置、すなわち、バネ53とバネ62のバネ力で釣り合っている位置よりあまり動かないことになるから、ポート36およびポート37の開口面積は小さくならず低減衰力を発生することになる。
【0050】
ここで、ソレノイドSの巻線を励磁すると、上記圧力室B内の圧力により与えられる推力に対向する推力をスプール50に与えることができ、また励磁する電流の大きさによって上記対向する推力を制御できるので、結果、ポート36およびポート37の開口面積を制御でき、これにより発生減衰力を調節することができる。
【0051】
なお、通常は、ソレノイドSの巻線を励磁して減衰力制御が行われるのであるが、ソレノイドSが機能し得ない状態となってしまった場合にあっても、上記したようにピストンロッド速度によって減衰力が可変となり、車両走行に支障をきたすことはない。
【0052】
そして、減衰力調整機構を通過した作動油は、一方室R1内の圧力は高いので、下流路12の連通路121を閉塞する板バルブ45を撓ませることができず、反対側にある板バルブ46を撓ませて空間A内に流入し、さらに、環状リーフバルブ24の内側を撓ませて他方室R2内へ至るが、上記環状リーフバルブ24通過時に圧力損失が生じて、ここでも減衰力が発生することとなり、本緩衝器にあっては、減衰力調整機構に直列配置される環状リーフバルブ24によっても減衰力が発生される。
【0053】
なお、環状リーフバルブ24を設けなくとも減衰力調整機構のみで減衰力を発生させるとしてもよいが、この環状リーフバルブ24を設けることで、ソレノイドSが機能し得ない状況では、ピストンロッド3の移動初期における減衰力不足を解消することができるとともに、減衰力調整機構で充分な減衰力を得られない状況となっても最低限の減衰力を発生することができるので、確実にフェールセーフを行うことができる。
【0054】
ちなみに、他方室R2側の圧力が一方室R1側の圧力より高い場合、すなわち、緩衝器が収縮する場合、作動油は上記したところとは逆に、最初に環状リーフバルブ24を通過し減衰力調整機構に到って、一方室R1へ流入することとなるが、中空部33へは必ず上流路11を通り、一方室R1へは下流路12を通過することとなるので、緩衝器が伸長した場合と同様に、減衰力調整機構によって発生減衰力を制御することが可能である。
【0055】
当該緩衝器の動作は以上のとおりであるが、本実施の形態においては、ソレノイドSは、ピストン部Pに設けられるのではなくて、ピストンロッド3の他端に設けられているから、ピストン部Pの強度をいたずらに低下させることはなく、さらに、ピストンロッドおよびピストンの組立は、通常の油圧緩衝器と同様の組立となるので、同軸度の精度が不十分となることがなく、煩雑な組付け作業を行わなくとも充分な精度を確保可能であり、緩衝器の組立に工数が低減される。
【0056】
また、スプールを採用しているので、同軸度の精度を確保しつつ組付ける必要があるポペット弁に比較して、組付け作業が非常に簡単となり、同軸度の確保という問題もない。
【0057】
つづいて、他の実施の形態の緩衝器について説明する。他の実施の形態における緩衝器は、基本的には、上記した一実施の形態における緩衝器と同様の構成であるが、流路71における中空部72の周辺および減衰力調整機構の構成が異なる。
【0058】
以下、異なる部分について説明し、一実施の形態における緩衝器と同様の部分については、一実施の形態と同じ符号を付するのみとして、その詳しい説明を省略することとする。
【0059】
まず、流路71であるが、該流路71は、ピストンロッド3の図3中下端となる一端に設けた縮径部80の外周側に設けられる中空部72と、一方室R1と他方室R2のうち高圧側から中空部72への作動油の流れのみを許容する上流路11と、中空部72から一方室R1と他方室R2のうち低圧側への作動油の流れのみを許容する下流路12とで構成され、上記した上流路11および下流路12は、一実施の形態と同様の構成を備え、環状のピストン本体70に内設されている。
【0060】
また、ピストン本体70の内周側には、図3中上端から下端近傍にかけて拡径されて拡径部73が形成されており、この拡径部73には、環状溝711と環状溝712が上下に配置されて形成されており、この環状溝711は環状溝712より上下に幅広に形成されるとともに上流路11の接続路112に連通され、また、環状溝712は下流路の接続路122に連通されている。
【0061】
さらに、ピストンロッド3は、軸方向全体に渡り中空に、すなわち筒状に形成されており、その一端部に形成された縮径部80がピストン本体70内に挿入され、この縮径部80の外周とピストン本体70の拡径部73とで作られる円筒状隙間で中空部72が形成される。
【0062】
また、ピストンロッド3の一端側は、栓81で封止されており、その軸芯部にはコントロールロッド82が相通され、このコントロールロッド82の上端は,一実施の形態と同様のソレノイドSにおける可動鉄心60に連結され、他方、コントロールロッド82の図3中下端にはピン83が結合されており、このピン83は、ピストンロッド3の縮径部80の図3中上方に穿設された一対の孔84から縮径部80の外方、すなわち、中空部72内に突出させてある。
【0063】
つづいて、減衰力調整機構は、一実施の形態における減衰力調整機構と同じくスプール90とソレノイドSとで構成されている。
【0064】
以下、詳しく説明すると、スプール90は、略円筒状に形成され中空部72内に摺動自在に挿入されている。また、このスプール90は、両端側となる図3中上下端の両方にランド部91,92が形成され、このランド部91を環状溝711に、ランド部92を環状溝712に夫々対向させてある。
【0065】
また、この中空部72内にスプール90の図3中下端により圧力室Cが隔成され、この圧力室Cは環状溝711を介して上流路11に接続されているので、この圧力室C内に導かれる上流路11内の圧力を、スプール90の下端面を受圧面として作用させることができ、これによりスプール90に図3中上方に推力を与えることができるようになっている。
【0066】
さらに、スプール90の上端を、先ほどのコントロールロッド82に結合されたピン83に当接させており、ソレノイドSにおける巻線を励磁すると、コントロールロッド82およびピン83を介してスプール90に図3中押し下げる方向に推力を与えることができる。
【0067】
そして、ピン83が孔84の規制下に上下に移動してスプール90が図3中上下に移動する際に、ランド部91およびランド部92がそれぞれ、環状溝711,712を完全に閉塞しないように設定され、また、ランド部91の上下方向幅は、圧力室Cとの連通を断たないように環状溝711の上下方向幅より小さくなっている。
【0068】
このように構成された減衰力調整機構におけるスプール90の上下方向に移動によって、ランド部91と環状溝711で作られる上流路11の出口開口部面積dおよびランド部92と環状溝712で作られる下流路12の入口開口部面積eを変化制御させることができる。
【0069】
なお、この他の実施の形態においては、圧力室C内にスプール90を図3中上方に附勢するバネを設けていないので、上流路11側の圧力によるスプール90を図3中上方に押し上げる推力と、ソレノイドSによる推力と、ソレノイドS内のバネ62との釣り合いで、上流路11の出口開口部面積dおよびランド部92と環状溝712で作られる下流路12の入口開口部面積eが決せられるが、圧力室C内にバネを設けるとしても差し支えない。
【0070】
したがって、上述のように構成された緩衝器にあっても、上述した一実施の形態における緩衝器と同様に、ソレノイドSの巻線を励磁する電流の大きさによってスプール90の位置を制御可能であり、上記上流路11の出口開口部面積dおよび下流路12の入口開口部面積eを変化させることにより減衰力を調整することが可能である。
【0071】
そして、本実施の形態においてもソレノイドSは、ピストン部Pに設けられるのではなくて、ピストンロッド3の他端に設けられているから、ピストン部Pの強度をいたずらに低下させることはなく、さらに、ピストンロッドおよびピストンの組立は、通常の油圧緩衝器と同様の組立となるので、同軸度の精度が不十分となることがなく、煩雑な組付け作業を行わなくとも充分な精度を確保可能であり、緩衝器の組立に工数が低減される。
【0072】
また、スプールを採用しているので、同軸度の精度を確保しつつ組付ける必要があるポペット弁に比較して、組付け作業が非常に簡単となり、同軸度の確保という問題もない。
【0073】
さらに、中空部72は、ピストンロッド3の縮径部80の外周側に形成されるので、ピストンロッド3の内方に中空部を設けるとするより、流路面積を大きくとることができるので、減衰力可変幅が大きくなる利点があるとともに、ピストンロッド3にポートを設ける必要がなくなるので加工工数が削減され、コストも低減される。
【0074】
なお、各実施の形態において、コントロールロッドとスプールを結合することで一体化しても構わないが、組付けが容易となる点で分離しておくことが望ましい。
【0075】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一実施の形態における緩衝器の縦断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態における緩衝器の一部拡大縦断面図である。
【図3】本発明の他の実施の形態における緩衝器の一部拡大縦断面図である。
【符号の説明】
【0077】
1 シリンダ
2 ピストン
3 ピストンロッド
10,71 流路
11 上流路
111,121 連通路
112,122 接続路
12 下流路
21,70 ピストン本体
211,212,711,712 環状溝
22 バルブディスク
221 環状本体
222 筒部
223 固定部材
224 弁座
23,35,36,37 ポート
24 環状リーフバルブ
25 バルブストッパ
26 切欠
31,80 縮径部
32 ピストンナット
33,72 中空部
38,81 栓
42,43 パイプ
44 ボール
45,46 板バルブ
47,48,84 孔
50,90 スプール
51,52,91,92 ランド部
53,62 バネ
54,82 コントロールロッド
60 可動鉄心
61 ケース
63 ステータ
65 スペーサ
66 積層間座
73 拡径部
83 ピン
A 部屋
B,C 圧力室
F フリーピストン
G 気室
P ピストン部
R1 一方室
R2 他方室
S ソレノイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、一端にシリンダ内に摺動自在に挿入されるピストン部を備えたピストンロッドと、シリンダ内に上記ピストン部で隔成した一方室と他方室と、該ピストン部に設けた一方室と他方室とを連通する流路と、該流路の途中に設けた減衰力調整機構とを備えた緩衝器において、上記流路は、ピストン部に形成される中空部と、一方室と他方室のうち高圧側から中空部への液体の流れのみを許容する上流路と、中空部から一方室と他方室のうち低圧側への液体の流れのみを許容する下流路とを有し、減衰力調整機構は、中空部内に摺動自在に挿入され、ピストンロッドの他端に設けたソレノイドにより推力が与えられるとともに上流路の圧力によりソレノイドの推力に対向する方向の推力が与えられるスプールを備えてなり、該スプールは、その両端側にランド部が形成され、一方のランド部を上流路の出口開口部に対向させるとともに他方のランド部を下流路の入口開口部に対向させ、ソレノイドの推力を変化させることで、上流路の出口開口部面積および下流路の入口開口部面積を変化させて減衰力を調整することを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
中空部内にスプールで上流路の圧力が導かれる圧力室を隔成するとともに、当該圧力室内にスプールをソレノイドの推力に対向する方向に附勢するバネを設けたことを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
ピストンの軸芯部に孔を設け、ピストンロッドは、先端を上記孔に挿入してピストンに連結され、中空部が孔の中間部に形成される拡径部とピストンロッド外周とで形成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の緩衝器。
【請求項4】
上流路は、一方室と他方室とを連通する連通路と、連通路と中空部とを連通する接続路とを備え、連通路内に高圧優先シャトル弁を設けたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−132554(P2006−132554A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318715(P2004−318715)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】