説明

芝刈機

【課題】境界検出手段を支持するための支持構造を簡単なものにすることが可能でありながら、境界検出手段により既刈り領域と未刈り領域との刈跡境界を精度よく検出することが可能となる芝刈機を提供する。
【解決手段】走行駆動装置11R,11Lにより直進並びに旋回走行自在に走行駆動される走行機体の走行に伴って芝を刈り取るモーア4と、既刈り領域と未刈り領域との刈跡境界を検出する境界検出手段Qと、境界検出手段Qの検出情報に基づいて走行用の所定の制御を実行する制御手段とを備え、境界検出手段Qが、モーア4の刈刃ハウジング7における前側縦壁部7B1の前面にて芝の存否を検出するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行駆動装置により直進並びに旋回走行自在に走行駆動される走行機体と、走行機体の走行に伴って芝を刈り取るモーアと、既刈り領域と未刈り領域との刈跡境界を検出する境界検出手段と、前記境界検出手段の検出情報に基づいて走行用の所定の制御を実行する制御手段とを備えた芝刈機に関する。
【背景技術】
【0002】
上記芝刈機において、従来では、次のように構成されたものがあった。
すなわち、境界検出手段が、モーアよりも機体進行方向の前方側に離間する箇所であって且つモーアにおける機体横幅方向の一端側箇所において、走行機体の下部から延設されるフレームによって支持される状態で備えられて、芝の上下高さの情報に基づいて未刈状態であるか既刈状態であるかを判別する刈跡検出装置を横方向に並べる状態で2組備えて構成される。そして、各刈跡検出装置が、上方側から自重で芝に作用しながら芝の高さによって高さが上下に変化するようにフレームに上下揺動自在に支持された橇状の板と、その橇状の板のフレームに対する上下揺動角度を検出する回転角センサとを備えて構成されるものである。そして、制御手段が、回転角センサの検出結果による芝の上下高さの情報に基づいて未刈状態であるか既刈状態であるかを判別して、走行機体を刈跡境界に沿って倣い走行させる構成となっている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−184413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来構成では、境界検出手段が、モーアよりも機体進行方向の前方側に離間する箇所において、橇状の板が上方側から自重で芝に作用しながら芝の高さによって高さが上下に変化するように構成されるものであるから、例えば、軟かい芝であれば、上方側から自重で芝に作用する橇状の板の重みにより芝が下方に向けて押し倒されるおそれがあり、又、経年変化により橇状の板の上下揺動がスムーズに行えなくなる等の不具合により、芝の上下高さの情報を精度よく検知できないものになって、既刈り領域と未刈り領域との刈跡境界を精度よく検出することができないものとなるおそれがある。
【0005】
又、上記従来構成では、橇状の板を上下方向に広い範囲にわたり上下動自在に走行機体のフレームに支持するものであり、支持構造が大型化するとともに構造が複雑になり、コスト高を招く不利もある。
【0006】
本発明の目的は、境界検出手段を支持するための支持構造を簡素なものにすることが可能でありながら、境界検出手段により既刈り領域と未刈り領域との刈跡境界を精度よく検出することが可能となる芝刈機を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る芝刈機は、走行駆動装置により直進並びに旋回走行自在に走行駆動される走行機体と、走行機体の走行に伴って芝を刈り取るモーアと、既刈り領域と未刈り領域との刈跡境界を検出する境界検出手段と、前記境界検出手段の検出情報に基づいて走行用の所定の制御を実行する制御手段とを備えたものであって、その第1特徴構成は、前記境界検出手段が、前記モーアの刈刃ハウジングにおける前側縦壁部の前面にて芝の存否を検出するように構成されている点にある。
【0008】
第1特徴構成によれば、境界検出手段が、モーアの刈刃ハウジングにおける前側縦壁部の前面にて芝の存否を検出するものであるから、境界検出手段をモーアに取り付けるための構成としては、前側縦壁部の前面に近接させた状態で支持される構成であればよく、芝の存否検出のために大型の検知用の部材が大きく位置変位する等の複雑な支持構造は不要であり、支持構造を簡素なものにすることが可能となる。
【0009】
又、境界検出手段は、機体の進行に伴って刈刃ハウジングにおける前側縦壁部の前面に位置することになる芝を検知するものであり、検知部を移動操作させる必要がなく、経年変化により検出精度が低下する等の不利がなく、長期にわたり既刈り領域と未刈り領域との刈跡境界を精度よく検出することが可能となる。
【0010】
従って、境界検出手段を支持するための支持構造を簡素なものにすることが可能でありながら、境界検出手段により既刈り領域と未刈り領域との刈跡境界を精度よく検出することが可能となる芝刈機を提供できるに至った。
【0011】
本発明の第2特徴構成は、第1特徴構成に加えて、前記境界検出手段が、前側縦壁部の前面に接触する芝の有無により芝の存否を検知する接触式センサにて構成されている点にある。
【0012】
第2特徴構成によれば、境界検出手段は、前側縦壁部の前面に芝が接触すると芝の存在を検知し、前側縦壁部の前面に芝が接触しなければ芝が存在していないことを検知するので、未刈り領域であるか既刈り領域であるかを的確に検出することができる。又、接触式センサは、前側縦壁部の前面に接触する芝の存否を検出するものであるから、前側縦壁部の前面にそのまま取り付けるだけでよく、しかも、接触式センサは構造が簡素なものでよく、境界検出手段を支持するための支持構造並びに境界検出手段の構造を夫々簡素なものにできる。
【0013】
本発明の第3特徴構成は、第1特徴構成又は第2特徴構成に加えて、前記境界検出手段が、前記刈刃ハウジングにおける機体横幅方向の左右両側の端部箇所に夫々備えられている点にある。
【0014】
第3特徴構成によれば、刈跡境界が刈刃ハウジングにおける機体横幅方向の右側端部に位置する状態で芝刈り作業を行う形態と、刈跡境界が刈刃ハウジングにおける機体横幅方向の左側端部に位置する状態で芝刈り作業を行う形態とのいずれの作業形態であっても、既刈り領域と未刈り領域との刈跡境界を精度よく検出することが可能となる。
【0015】
その結果、芝刈り作業を行うにあたり、直進走行経路に沿って所定方向に走行しながら芝刈り作業を行ったのち、その直進走行経路の終端部にて180度旋回走行して所定方向と逆向きの方向に直進走行経路に沿って走行しながら芝刈り作業を行うという往復走行を繰り返しながら作業を行うような場合において、所定方向に走行する場合、及び、逆向きの方向に走行する場合の夫々において、モーアの既刈り側の端部を刈跡境界に沿わせた状態で良好に芝刈り作業を行うことが可能となる。
【0016】
本発明の第4特徴構成は、第1特徴構成又は第2特徴構成に加えて、前記境界検出手段が、前記刈刃ハウジングの機体横幅方向全幅と同じ又はほぼ同じ幅に亘る状態で備えられている点にある。
【0017】
第4特徴構成によれば、モーアに対して刈跡境界が刈刃ハウジングの機体横幅方向のどの位置にあっても、既刈り領域と未刈り領域との刈跡境界を精度よく検出することが可能となる。
【0018】
従って、刈刃ハウジングの機体横幅方向の任意の位置に刈跡境界を位置させた状態で、走行機体を走行させながらモーアにより芝刈り作業を行うことが可能であり、作業状況に応じてモーアによる刈幅を任意の幅に設定した状態で走行機体を刈跡境界に沿って倣い走行させる等の作業を行うことが可能となる。
【0019】
本発明の第5特徴構成は、第1特徴構成〜第4特徴構成のいずれかに加えて、前記制御手段が、前記走行用の所定の制御として、前記境界検出手段の検出情報に基づいて前記走行機体が刈跡境界に沿って倣い走行するように前記走行駆動装置を制御する自動操向制御を実行するように構成されている点にある。
【0020】
第5特徴構成によれば、境界検出手段によって刈跡境界を検出しながら、自動で刈跡境界に沿って走行機体を倣い走行させることができるから、手動の操向操作による煩わしさのない状態で且つ刈り残しの少ない状態で芝刈り作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】芝刈機の全体側面図である。
【図2】芝刈機の全体平面図である。
【図3】制御ブロック図である。
【図4】走行駆動制御のフローチャートである。
【図5】操作位置と操作位置対応速度との変化特性を示す図である。
【図6】トルクの変化状態を示す図である。
【図7】目標速度の算出状態を示す図である。
【図8】目標速度の算出状態を示す図である。
【図9】自律走行制御のフローチャートである。
【図10】自律走行制御のフローチャートである。
【図11】走行ルートに沿う作業状態を示す平面図である。
【図12】倣い走行での検出状態を示す平面図である。
【図13】接触式存否センサの取り付け状態を示す正面図である。
【図14】接触式存否センサの取り付け状態を示す一部切欠側面図である。
【図15】別実施形態の接触式存否センサの取り付け状態を示す平面図である。
【図16】別実施形態の接触式存否センサの取り付け状態を示す正面図である。
【図17】別実施形態の操作位置と操作位置対応速度との変化特性を示す図である。
【図18】別実施形態の操作位置と操作位置対応速度との変化特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて、本発明に係る作業車の一例としての芝刈機について説明する。
図1,2に示すように、芝刈機は、キャスタ輪に構成された左右一対の前輪1,1と回転駆動される走行車輪としての左右一対の後輪2,2を備えた走行機体3と、走行機体3の走行に伴って芝を刈り取るモーア4とを備えて構成されている。モーア4は、走行機体3における前後輪間の下腹部に四連リンク構造のリンク機構5を介して吊り下げ支持された構造となっており、接地輪6にて接地追従して水平姿勢を維持しながら昇降することができるよう構成されている。
【0023】
前記モーア4は、上部面7Aとその上部面の周部から下方に延びる状態で形成された縦壁部7Bとを備えた下向き開放状の刈刃ハウジング7が備えられ、その刈刃ハウジング7の内部に、縦軸心周りに回転駆動される3枚の回転刈刃8a,8b,8cが、中央が少し前方に偏位するよう平面視で三角配置されて軸支された構造となっており、各回転刈刃8a,8b,8cの上部側には、夫々の回転刈刃8a,8b,8cを回転駆動する刈刃用電動モータ9a,9b,9cが夫々設けられている。各回転刈刃8a,8b,8cは夫々独立に各刈刃用電動モータ9a,9b,9cにより回転駆動される構成となっている。
【0024】
図1,2に示すように、走行機体3の前後中央部に運転座席10が設けられ、この運転座席10の下方には、左右一対の後輪2,2を夫々独立で駆動するための左右一対の走行用電動モータ11R,11Lが左右に並ぶ状態で設けられている。又、夫々独立で手動操作自在でかつ左右の後輪2,2に対する変速操作を行う左右一対の変速操作具としての走行変速レバー12R,12Lが、運転座席10の左右両脇に前後揺動可能に配備されている。左右一対の走行用電動モータ11R,11Lが走行変速レバー12R,12Lによって各別に変速操作されることで、左右の後輪2,2が独立的に前後進夫々に変速されるよう構成されている。つまり、左右一対の走行用電動モータ11R,11Lが、走行機体3を直進並びに旋回走行自在に走行駆動する走行駆動装置に相当する。
【0025】
左右一対の走行用電動モータ11R,11Lにより駆動される左右の後輪2,2の近傍には、左右後輪2を夫々制動するブレーキBが装備されており、このブレーキBは、運転部ステップに設けられたブレーキ操作具26を操作することにより左右後輪2を制動するように、ブレーキBとブレーキ操作具26とが機械的に連動連係される構成となっている。
【0026】
左右の後輪2,2を共に同じ又はほぼ同じ速度で前進方向に駆動して直進前進を行うことができ、左右の後輪2,2を共に同じ又はほぼ同じ速度で後進方向に駆動して直進後進を行うことができる。
【0027】
又、左右の後輪2,2の速度を互いに異ならせることで、走行機体3を任意の方向に旋回移動させることができ、例えば、左右の後輪2,2のいずれか一方を零速に近い低速にさせ、他方の後輪2を高速で前進側あるいは後進側に操作することで小回り旋回させることができる。さらに、左右の後輪2,2を互いに逆方向に駆動することで、走行機体3を左右の後輪2,2のほぼ中央部を旋回中心としてスピンターンさせることもできる。
【0028】
左右一対の前輪1,1は、キャスタ輪に構成されて縦軸芯周りで向きを自由に変更することができるから、左右の後輪2,2の駆動による走行方向に応じて向きが修正されることになる。
【0029】
図1に示すように、走行機体3の後部には、各刈刃用電動モータ9a,9b,9c及び走行用電動モータ11R,11Lに駆動用電力を供給するためのバッテリー13が備えられている。図3に示すように、このバッテリー13から左右の各走行用電動モータ11R,11Lに対する電力供給路14,15には、夫々、電圧、電流、あるいは、周波数を変更調整して走行用電動モータ11R,11Lの駆動状態を制御するモータコントローラ16,17が備えられ、各走行用電動モータ11R,11Lとそれに対応するモータコントローラ16,17との間には、夫々、電力供給路14,15を遮断するための電磁開閉器18,19が設けられている。
【0030】
ちなみに、左右の各走行用電動モータ11R,11Lとしては、三相交流式誘導電動モータやブラシレスDCモータ等の種々のものを用いることができ、モータコントローラ16,17は、図示はしないが、インバータ装置等を備えて構成されている。
【0031】
又、バッテリー13から各刈刃用電動モータ9a,9b,9cに対する電力供給路20には、各刈刃用電動モータ9a,9b,9cの駆動状態を制御するモータコントローラ21が備えられている。
【0032】
図3に示すように、各走行用電動モータ11R,11Lの夫々に対する目標速度を設定して、各モータコントローラ16,17に制御信号を指令して各走行用電動モータ11R,11Lの作動を制御する制御手段としての制御装置23が備えられている。この制御装置23に対する電力は、バッテリー13の電圧(約48V)をDC/DCコンバータ24を介して低電圧(約12V)に変換して供給される。
【0033】
戻り付勢されたブレーキ操作具26が踏み込み操作されるとオンし、踏み込み操作されなくなるとオフするブレーキスイッチ27がブレーキ操作具26の近傍に備えられ、又、モーア4の駆動開始が指令されるとオンし、停止が指令されるとオフするモーア入切スイッチ28が運転座席10の横側に位置する状態で備えられており、それらの検出情報も制御装置23に入力されている。
【0034】
制御装置23は、ブレーキスイッチ27がオンすると、左右の電磁開閉器18,19を遮断状態に切り換えて走行用電動モータ11R,11Lの駆動を停止させ、ブレーキスイッチ27がオフすると、左右の電磁開閉器18,19を導通状態に切り換えて走行用電動モータ11R,11Lの駆動を再開させる。又、モーア入切スイッチ28がオンすると、回転刈刃8a,8b,8cを回転させてモーア4による芝刈り作業を行い、モーア入切スイッチ28がオフすると、回転刈刃8a,8b,8cの回転を停止させてモーア4による芝刈り作業を停止するように、各刈刃用電動モータ9a,9b,9cを制御するように構成されている。
【0035】
制御装置23は、走行変速レバー12R,12Lの操作に基づいて走行用電動モータ11R,11Lの作動を制御する手動モードと、予め設定されている走行ルートに沿って走行機体が自律走行すべく走行用電動モータ11R,11Lの作動を制御する自動モードに切り換え自在に構成されている。
又、図2に示すように、運転座席10の横側に、制御装置23の制御モードを手動モードと自動モードとに切り換えるためのモード切換スイッチ33が備えられている。尚、このモード切換スイッチ33は自動モードに切り換わると図示しない内装のランプが点灯するようになっている。
【0036】
図3に示すように、各走行変速レバー12R,12Lの操作位置を検出する一対の変速操作位置検出手段としてのポテンショメータからなる操作位置検出器22R,22Lと、左右の各走行用電動モータ11R,11Lにて駆動される左右の後輪2,2の回転速度を検出する一対のロータリーエンコーダからなる回転センサ25R,25Lとが設けられ、その操作位置検出器22R,22Lと回転センサ25R,25Lの検出情報も制御装置23に入力される構成となっている。
【0037】
又、左右の前輪1,1についても、その回転速度を検出するための回転センサ32R,32Lが備えられている。この前輪用の回転センサ32R,32Lは、後述するような自動モードにおける走行機体3の走行状態を検出するために用いられるものである。
【0038】
そして、制御装置23は、モード切換スイッチ33にて手動モードが設定されると、走行変速レバー12R,12Lの操作に基づいて各走行用電動モータ11R,11Lの夫々に対する目標速度を設定して、左右の後輪2,2の速度が目標速度になるように、各モータコントローラ16,17に制御信号を指令して各走行用電動モータ11R,11Lの作動を制御するように構成されている。
【0039】
つまり、この手動モードにおいては、左右の走行変速レバー12R,12Lを共に前方に同量だけ揺動操作することで、左右の後輪2,2を共に同じ又はほぼ同じ速度で前進方向に駆動して直進前進を行うことができ、左右の走行変速レバー12R,12Lを共に後方に同量だけ揺動操作することで、左右の後輪2,2を共に同じ又はほぼ同じ速度で後進方向に駆動して直進後進を行うことができる。
【0040】
又、左右の走行変速レバー12R,12Lの操作位置を異ならせて左右の後輪2,2の速度を互いに異ならせることで、走行機体3を任意の方向に旋回移動させることができ、左右の後輪2,2のいずれか一方を零速に近い低速にさせ、他方の後輪2を高速で前進側あるいは後進側に操作することで小回り旋回させることができる。
【0041】
左右の走行変速レバー12R,12Lを操作させることで、左右の後輪2,2を互いに逆方向に駆動することで、走行機体3を左右の後輪2,2のほぼ中央部を旋回中心としてスピンターンさせることもできる。左右一対の前輪1,1は、キャスタ輪に構成されて縦軸芯周りで向きを自由に変更することができるから、左右の後輪2,2の駆動による走行方向の変更に追従しながら向きが変更することになる。
【0042】
図2,3に示すように、モーア4の刈刃ハウジング7における前側縦壁部7B1の左右両側端部には、未刈領域と既刈領域との境界を検出するための境界検出手段としての接触式存否センサ31R,31Lが設けられ、それらの検出情報が制御装置23に入力され、制御装置23は、それら接触式存否センサ31R,31Lの検出情報に基づいて適正走行位置からの位置ずれを検出することができるように構成されている。
【0043】
又、地面に左右方向の傾斜があると、直進走行を行うように制御していても、傾斜状態に起因して異なる方向に向きが変更されることがあるので、制御装置23は、走行機体3の水平姿勢からの左右傾斜角に基づいて位置ずれを修正するようにしている。すなわち、図3に示すように、走行機体3には、水平姿勢からの左右傾斜角度を検出する傾斜センサ30が備えられ、この傾斜センサ30の検出情報も制御装置23に入力されている。
【0044】
前記接触式存否センサ31R,31Lは、図13,14に示すように、刈刃ハウジング7における前側縦壁部7B1の前面にて芝の存否を検出することができるように、前側縦壁部7B1の前面に備えられている。夫々の接触式存否センサ31R,31Lは、芝が接触することによりオン状態になり且つ芝が接触しないとオフ状態になる接触検知部skを左右に設定距離離間させた状態で備えて構成されている。詳細な構成は図示しないが、各接触検知部skは、軟質の材料にて芝が接触すると変形して内部に備えられた電極が接当してオン状態となり、接触しないと弾性復元力により電極が離間してオフ状態となるように構成されている。
【0045】
説明を加えると、図12,13に示すように、左右の接触式存否センサ31R,31Lは、夫々、横向き平板状のブラケットbの前面側に接触検知部skが左右に並んで取り付けられ、ブラケットbの後面を刈刃ハウジング7における前側縦壁部7B1に固定されている。又、右側の接触式存否センサ31Rは、最右側の回転刈刃8cの回転軌跡の右半部の直前方箇所に取り付けられ、左側の接触式存否センサ31Lは、最左側の回転刈刃8aの回転軌跡の左半部の直前方箇所に取り付けられている。
【0046】
そして、制御装置23は、モード切換スイッチ33にて自動モードが設定されると、予め設定されている走行ルートに沿って走行機体を自律走行させるように、その走行ルートの情報に基づいて、各走行用電動モータ11R,11Lの夫々に対する目標速度を設定して、左右の後輪2,2の速度が目標速度になるように、各モータコントローラ16,17に制御信号を指令して各走行用電動モータ11R,11Lの作動を制御するように構成されている。この自動モードにおける制御装置の制御動作については後述する。
【0047】
〔手動モードにおける制御〕
制御装置23は、手動モードにおいて、走行変速レバー12R,12Lの操作位置が左右で異なるときは、走行用電動モータ11R,11Lの夫々に対する目標速度を、それらの目標速度の速度差が各走行変速レバー12R,12Lの操作位置の差に対応する速度差よりも設定量だけ小さくなる状態で設定して各走行用電動モータ11R,11Lの作動を制御するように構成されている。
【0048】
説明を加えると、制御装置23が、操作位置検出器22R,22Lにて検出された走行変速レバー12R,12Lの操作位置と、その操作位置が増速側に操作されるほど操作位置対応速度が大となる状態で予め定められた操作位置と操作位置対応速度との変化特性とに基づいて、各操作位置検出器22R,22Lにて検出された操作位置に対応する操作位置対応速度を夫々求めるとともに、それら操作位置対応速度が左右で異なるときは、それらの速度差が小さくなるように、高速側の操作位置対応速度に対して設定量だけ減速させた値を目標速度として設定し、かつ、低速側の操作位置対応速度に対して設定量だけ増速させた値を目標速度として設定するように構成されている。
【0049】
次に、制御装置23による手動モードにおける走行駆動制御について、図4に示すフローチャートに基づいて説明する。
この走行駆動制御では、図4に示すような制御動作を単位時間毎に繰り返し実行するように構成されている。
【0050】
制御装置23は、先ず、左右の操作位置検出器22R,22Lの検出値から走行変速レバー12R,12Lの操作位置を読み込み、各操作位置検出器22R,22Lの検出値に基づいて操作位置に対応する操作位置対応速度を夫々求める操作位置対応速度算出処理を実行する(ステップ1,2)。
【0051】
操作位置対応速度を求めるにあたり、制御装置23は、操作位置検出器22R,22Lにて検出された操作位置と、その操作位置が増速側に操作されるほど操作位置対応速度が大となる状態で予め定められた操作位置と操作位置対応速度との変化特性とに基づいて、各操作位置検出器22R,22Lにて検出された操作位置に対応する操作位置対応速度を夫々求めるのである。
【0052】
操作位置と操作位置対応速度との変化特性というのは、例えば、図5に示すような変化特性である。この変化特性について説明すると、図5の横軸は操作位置検出器22R,22Lにて検出された操作位置を示し、縦軸は操作位置対応速度を示す。操作位置は最小位置(0)から最大位置(100)まで変化するが、操作位置対応速度は、正転方向の領域(前進走行域F)と逆転方向の領域(後進走行域R)とに振り分けられ、最小位置(0)から最大位置(100)までの間のうちの中立位置(40)から最大位置(100)までの間の領域(例えば、全操作範囲の60%の割合の領域)が正転方向の領域(前進走行域F)であり、最小位置(0)から中立位置(40)までの間の領域(例えば、全操作範囲の40%の割合の領域)が逆転方向の領域(後進走行域R)として設定されている。
【0053】
中立位置N付近には、走行変速レバー12R,12Lの操作位置が少し変化しても操作位置対応速度が零速を維持する不感帯領域C(例えば、全操作範囲の約5%程度)が設定されている。又、正転方向の領域(前進走行域F)と逆転方向の領域(後進走行域R)の夫々において、走行変速レバー12R,12Lの操作位置が増速側に変更するときに適用される第1変化特性L1と、走行変速レバー12R,12Lの操作位置が減速側に変更するときに適用される第2変化特性L2とが夫々設定されている。
【0054】
図5に示すように、第1変化特性L1は、正転方向の領域(前進走行域F)と逆転方向の領域(後進走行域R)の夫々においては、直線状に変化するものであり、言い換えると、走行変速レバー12R,12Lの操作位置の変化に対する操作位置対応速度の変化率が一定となる変化特性である。又、第2変化特性L2についても第1変化特性L1と同様に、直線状に変化する。
【0055】
走行変速レバー12R,12Lが中立位置Nから増速側に操作されると、操作位置検出器22R,22Lの検出値から求めた操作位置と図5の第1変化特性L1とに基づいて操作位置に対応する操作位置対応速度を求める。一方、走行変速レバー12R,12Lが増速側から中立位置Nに向けて減速側に操作されると、操作位置検出器22R,22Lの検出値から求めた操作位置と図5の第2変化特性L2とに基づいて操作位置対応速度を求める。
【0056】
走行変速レバー12R,12Lが増速側に操作されている状態から減速側に操作される状態に切り換えられるときは、第1変化特性L1や第2変化特性L2に沿って変化するのではなく、図5における一部拡大図にも示すように、切り換え用の第3変化特性L3に沿って変化することになる。この切り換え用の第3変化特性L3は、操作位置の単位量変化に対する操作位置対応速度の出力値の変化量が第1変化特性L1や第2変化特性L2よりも小さく(例えば、1/5程度の割合)なるように設定している。
【0057】
走行変速レバー12R,12Lが減速側に操作されている状態から増速側に操作される状態に切り換えられるときにも、同様に、操作位置の単位量変化に対する操作位置対応速度の変化量が第1変化特性L1や第2変化特性L2よりも小さく(例えば、1/5程度の割合)なるように設定された切り換え用の第4変化特性L4に沿って変化するようになっている。
【0058】
尚、図5における一部拡大図は、操作位置が最大位置(100)に近い領域にあるときの第1変化特性L1や第2変化特性L2を拡大表示するものを例示しているが、切り換え用の第3変化特性L3や切り換え用の第4変化特性L4は、操作位置が最小位置(0)から最大位置(100)まで変化する全操作範囲にわたって適用されるものである。
【0059】
このように構成することで、作業走行中に車体が振動すること等に起因して走行変速レバー12R,12Lが運転者の意思に反して前後に揺動するようなことがあっても、目標速度がその揺動操作に追従して変化するという不必要な変速操作を抑制して走行安定性を確保し易いものとなる。
【0060】
制御装置23は、次に、各走行用電動モータ11R,11Lの夫々に対する目標速度を算出する(ステップ3)。
この目標速度を算出するにあたり、制御装置23は、左右の速度差が小さくなるように、高速側の操作位置対応速度に対して設定量だけ減速させた値を目標速度として設定し、かつ、低速側の操作位置対応速度に対して設定量だけ増速させた値を目標速度として設定するように構成されている。
【0061】
説明を加えると、左右いずれか一方の走行用電動モータ(11R又は11L)の目標速度として、それに対応する走行変速レバー(12R又は12L)の操作位置に対応する操作位置対応速度のみにより設定するのではなく、反対側の走行変速レバー(12R又は12L)の操作位置対応速度の出力の所定割合分を反映させるようにしている。
【0062】
すなわち、左側の走行変速レバー12Lの操作位置対応速度として、ステップ2にて求められた操作位置対応速度の所定割合(例えば、80%)に相当する値に変更し、且つ、ステップ2にて求められた操作位置対応速度の所定割合(例えば、20%)に相当する速度を右側の走行変速レバー12Rの操作位置対応速度に加算する。
【0063】
一方、右側の走行変速レバー12Rの操作位置対応速度についても同様に、ステップ2にて求められた操作位置対応速度の80%に相当する値に変更し、且つ、ステップ2にて求められた操作位置対応速度の20%に相当する速度を左側の走行変速レバー12Lの操作位置対応速度に加算する。
【0064】
従って、左側の走行用電動モータ11Lの目標速度としては、ステップ2にて求められた操作位置対応速度の80%に相当する速度と、右側の走行変速レバー12Rの操作位置対応速度の20%に相当する速度とを加算した値となる。又、右側の走行用電動モータ11Rの目標速度としては、ステップ2にて求められた操作位置対応速度の80%に相当する速度と、左側の走行変速レバー12Lの操作位置対応速度の20%に相当する速度とを加算した値となる。
【0065】
具体的な数値で例示すると、例えば、図7に示すように、直進走行を指令しており、右側の走行変速レバー12Rが「98%」に相当する速度を指令し、左側の走行変速レバー12Lが「95%」に相当する速度を指令している場合であれば、上記したような加算処理を実行すると、右側の走行用電動モータ11Rの目標速度が「97.4%」に相当する速度になり、左側の走行用電動モータ11Lの目標速度がが「95.6%」に相当する速度になる。つまり、高速側の操作位置対応速度に対して設定量として0.6%だけ減速させた値を目標速度として設定し、かつ、低速側の操作位置対応速度に対して設定量として0.6%だけ増速させた値を目標速度として設定することになる。
【0066】
図8に示すように、右側の走行変速レバー12Rが「80%」に相当する速度を指令し、左側の走行変速レバー12Lが「60%」に相当する速度を指令している場合であれば、右側の走行用電動モータ11Rの目標速度が「76%」に相当する速度になり、左側の走行用電動モータ11Lの目標速度が「64%」に相当する速度になる。この例では、高速側の操作位置対応速度に対して設定量として4%だけ減速させた値を目標速度として設定し、かつ、低速側の操作位置対応速度に対して設定量として4%だけ増速させた値を目標速度として設定することになる。
【0067】
制御装置23は、次に、前記目標速度に基づいて左右両側の走行用電動モータ11R,11Lが出力すべき必要駆動トルクを求める(ステップ4)。
この必要駆動トルクを求めるにあたって、先ず、目標速度に基づいて左右両側の走行用電動モータ11R,11Lについての制御指令速度を算出する。そして、制御指令速度、走行用電動モータ11R,11Lの実回転速度、及び、予め設定されているマップデータ等に基づいて、走行用電動モータ11R,11Lの速度が制御指令速度になるために必要となる駆動トルクを求める。
【0068】
詳細な演算処理については省略するが、このとき、走行変速レバー12R,12Lの変速操作が急激に行われて目標速度が急激に大きくなることがあっても、駆動トルクが急激に大きな値になることがないように、トルク上限値を定めて、走行用電動モータ11R,11Lが実際に出力するトルクがこのトルク上限値を超えないようにしている。
【0069】
説明を加えると、例えば、図6に示すように、目標速度から求められる必要とされる駆動トルクは、そのときの走行変速レバー12R、12Lの操作の状況に応じて上昇あるいは下降することになる(図6のラインL5参照)。
そして、駆動トルクは、極力その走行変速レバー12R、12Lの操作の状況に対応した値を求める必要があるが、走行変速レバー12R,12Lの変速操作が急激に行われて目標速度が急激に大きくなった場合に、それに追従させて駆動トルクをそのまま求めるようにすると、トルク変動が大きくなり過ぎて急発進や急停止等が発生する。
【0070】
そこで、トルク上限値を定めるようにしており、このトルク上限値としては、例えば、図6のラインL6に示すように、目標速度が上昇しているときは、設定時間あたりに所定量ずつ上昇させる形態で設定している。
そして、必要とされる駆動トルクがトルク上限値を超えるとき(図6におけるラインL6がラインL5を越える領域)は、実際に出力するトルクはトルク上限値(L6)に抑制するようにしている。つまり、実際に出力するトルクは、図6の斜線が重なっている部分にて表されることになる。
【0071】
尚、図6では、目標速度から求められる駆動トルク(L5)が緩やかな傾斜状態で変化する場合を示しており、急激な速度変化があればラインL5の傾斜が急勾配になるが、そのときにもトルク上限値は設定時間あたりに所定量ずつ上昇することになるので、走行が不安定になることを抑制することができるのである。又、必要とされる駆動トルクがトルク上限値を下回るときには、トルク制限値は設定時間あたりに所定量ずつ減少させることになる。
【0072】
制御装置23は、上記したようにして求めた駆動トルクを出力するように、モータコントローラ16,17に指令信号を出力して(ステップ5)、走行用電動モータ11R,11Lを駆動制御する。
【0073】
ところで、この手動モードにおける制御を実行中に、ブレーキ操作具26が踏み操作されたことがブレーキスイッチ27にて検知されると、制御装置23は、それに伴って電磁開閉器18,19を遮断させるように構成されている。それにより走行用電動モータ11R,11Lに無理な力が掛かることがないようにしている。
【0074】
又、詳述はしないが、制御装置23は、手動モードにおける制御を実行中に、例えば、モーア4にて芝が詰まり刈刃用電動モータ9a,9b,9cに供給する電流が異常値になる等、動作異常が検出されると、車体を自動的に走行停止させるようにしたり、図示しない警報ブザー等の警報手段によって警報を発してブレーキ操作を促すようになっている。
【0075】
〔自動モードにおける制御〕
次に、制御装置23の自動モードにおける自律走行制御について、図9に示すフローチャートに基づいて説明する。制御装置23は、モード切換スイッチ33が自動モードに切り換えられると、この自律走行制御を実行する。
【0076】
図11に示すような芝刈り作業を行うべき作業対象領域Wが設定されている場合に、制御装置23が自動モードに設定された状態で行われる芝刈り作業について説明すると、自動操縦による芝刈り作業に先立って、運転者は、その作業対象領域Wの矩形状の周囲を手動操縦により芝刈りを行う。
【0077】
そのとき、運転座席10の横側に備えられたティーチングモードスイッチ29を操作して、制御装置23をティーチング制御モードに設定しておき、その状態で手動操縦による芝刈り作業を行う。このティーチングモードスイッチ29はティーチング制御モードであれば図示しない内装のランプが点灯するようになっている。又、現在の制御装置23の制御状態を図示しない表示装置によって表示させるようにしてあり、運転者が確認できるようにしている。
【0078】
そして、詳細な制御処理については省略するが、ティーチングモードでは、作業対象領域Wの周部を手動で操縦しながら距離を計測して、自動走行用の走行ルートを演算にて求めるようになっている。
【0079】
簡単に説明すると、各回転センサ25R,25L,32R,32Lの検出情報に基づいて、作業開始地点Aから地点Bに至る直進経路での走行機体3の走行距離を計測する。その後も同様に、地点Bから地点Cに至る直進経路、地点Cから地点Dに至る直進経路、地点Dから地点Aに至る直進経路の夫々について、走行機体3の走行距離を計測する。
【0080】
尚、このとき、走行機体3の走行距離を検出するに際して、後輪2は走行用電動モータ11R,11Lにより駆動されると、スリップにより空回りして実際の走行距離とは異なる検出結果になるおそれがあるから、接地追従しながら連回りする前輪1に備えられた回転センサ32R,32Lの検出結果を用いることにより、精度のよい状態で走行距離を検出することができるようにしている。
【0081】
その後、上記したような走行距離の計測情報及び走行機体3の旋回半径と速度差との相関関係等から、複数の直線経路に沿う芝刈り作業、及び、終端部での旋回走行を繰り返し行うための最適な走行ルート(図11(b)参照)を演算にて求めて、制御装置23に記憶させておく。
【0082】
そして、作業対象領域Wにおいて作業を行うときは、芝刈機を作業開始点(図11(b)参照)に位置させて、自動モードに切り換える。その後は自律走行制御を実行する。
【0083】
自律走行制御において、制御装置23は、先ず、自律走行制御を行うために予め設定されて記憶されているデータに基づいて直進経路及び旋回経路の夫々に対応する基準目標速度を設定する(ステップ11)。
【0084】
走行変速レバー12R,12Lが操作されると、この自律走行制御を実行している途中であっても、その走行変速レバー12R,12Lの操作に基づく走行駆動制御を優先して実行するようになっている(ステップ12,13)。
例えば、前進走行中に走行変速レバー12R,12Lの操作位置が不感帯領域Cを外れて正転方向の領域(前進走行域F)に操作されたことが検出されると、手動モードに切り換わり、図4に示すような走行駆動制御を実行することになる。その後、走行変速レバー12R,12Lの操作位置が不感帯領域C内に戻ると自律走行制御に戻る。
【0085】
そして、直進経路に沿って作業走行するときは、走行ルートからの位置ずれを修正するために、既刈り領域と未刈り領域との刈跡境界Kを検出しながら、制御装置23が、その刈跡境界Kに沿って走行機体3が倣い走行するように、各走行用電動モータ11R,11Lの作動を制御するようになっている。
【0086】
具体的には、走行変速レバー12R,12Lが操作されていない状態であり、且つ、刈跡境界Kに対して走行機体3の位置が適正でないと判別されると、各走行用電動モータ11R,11Lの夫々に対する目標速度として、走行機体3の向きを修正するために基準目標速度に対して修正を加える(ステップ14,15)。
【0087】
刈跡境界Kに対して走行機体3の位置が適正であるか否かの判断は、左右の接触式存否センサ31R,31Lのうちで、走行機体3が進行する方向により刈跡境界Kに対応する側のものにおける左右両側の接触検知部skが共に芝の存在を検出しているか又はいずれも芝の存在を検出していない状態が検出されると、走行機体3が刈跡境界Kに対して左に位置ずれしていると判断し、左右両側の接触検知部skのうちの未刈り側に位置する接触検知部skが芝の存在を検出し、且つ、反対側に位置する接触検知部skが芝の存在を検出していない状態であれば、刈跡境界Kに対して走行機体3の位置が適正であると判断するのである。
【0088】
さらに説明すると、走行機体3の進行方向に対して未刈り側が左側に位置している状態(図12(a)参照)であれば、右側の接触式存否センサ31Rの検出情報により判断し、走行機体3の進行方向に対して未刈り側が右側に位置している状態(図12(b)参照)であれば、左側の接触式存否センサ31Lの検出情報により判断することになる。
【0089】
目標速度の修正について説明すると、例えば、走行機体3が刈跡境界Kに対して左に位置ずれしていれば、左側の後輪2の目標速度を設定量だけ増速し、右側の後輪2の目標速度を設定量だけ減速させて、走行機体3の向きを修正する。又、走行機体3が刈跡境界Kに対して右に位置ずれしていれば、右側の後輪2の目標速度を設定量だけ増速し、左側の後輪2の目標速度を設定量だけ減速させて、走行機体3の向きを修正する。
【0090】
刈跡境界Kに対して走行機体3の位置が適正であることが判別されると、基準目標速度を目標速度とする(ステップ16)。つまり、基準目標速度をそのまま維持するか、あるいは、後述するように目標速度が変更されていれば基準目標速度に戻すことになる。
【0091】
又、傾斜センサ30にて走行機体3の左右傾斜角が水平姿勢から設定角度以上傾斜していることが検出されると、その傾斜に起因して走行機体3の進行方向が変化するのを抑制するために、各走行用電動モータ11R,11Lの夫々に対する目標速度を修正する(ステップ17,18)。
【0092】
例えば、走行機体3が左下がり傾斜していると、左側の後輪2の目標速度を設定量だけ増速し、右側の後輪2の目標速度を設定量だけ減速させる。又、走行機体3が右下がり傾斜していると、右側の後輪2の目標速度を設定量だけ増速し、左側の後輪2の目標速度を設定量だけ減速させる。
【0093】
次に、上述したようにして修正した目標速度に基づいて左右両側の走行用電動モータ11R,11Lについての制御指令速度を算出し、その制御指令速度と走行用電動モータ11R,11Lの実回転速度等に基づいて、走行用電動モータ11R,11Lの速度が制御指令速度になるために必要となる駆動トルクを求め(ステップ19)、その求めた駆動トルクを出力するように、モータコントローラ16,17に指令信号を出力して、走行用電動モータ11R,11Lを駆動制御する(ステップ20)。
【0094】
尚、直進経路に沿って走行機体3を走行させるときは、走行開始直後は徐々に速度を増速させ、所定速度まで増速すると、その後は、設定距離走行する間は一定速度に維持し、設定距離走行して旋回箇所に近づくと、徐々に速度を減速させる形態で、基準目標速度が設定されるように構成されている。
【0095】
接触式存否センサ31R,31Lの夫々における各接触検知部skがいずれも芝の存在を検出していない状態に切り換わることにより、直進経路の終端に至ったことが検出されると(ステップ21)、作業対象領域Wでの作業が終了していなければ(ステップ22)、隣接する直進経路に向けて移動するために旋回走行させるように制御する。
つまり、予め設定されている旋回走行用の目標速度から旋回走行に必要な旋回走行用の必要駆動トルクを求め(ステップ23)、その求めた駆動トルクを出力させて旋回走行するように、モータコントローラ16,17に指令信号を出力して、走行用電動モータ11R,11Lを駆動制御する(ステップ24)。
【0096】
旋回走行が終了すると(ステップ25)、次回の直進経路に沿って走行するように上述したような処理(ステップ11〜20)を実行する。そして、このような制御を繰り返し実行して、作業対象領域Wでの最後の直進経路での走行が終了すると、制御を終了する(ステップ22)。
【0097】
ちなみに、この自動モードにおける制御においても、ブレーキ操作具26が踏み操作されたことがブレーキスイッチ27にて検知されると、制御装置23は、それに伴って電磁開閉器18,19を遮断させるように構成されている。又、自動モードにおいても、モーア4にて草が詰まり刈刃用電動モータ9a,9b,9cに供給する電流が異常値になる等、動作異常が検出されると、車体を自動的に走行停止させるようにしている。尚、電磁開閉器18,19を備えずに、ブレーキ操作具26が踏み操作されると、走行用電動モータ11R,11Lの駆動トルクを零にするように制御する構成としてもよい。
【0098】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、境界検出手段Qとしての接触式存否センサ31R,31Lが、刈刃ハウジング7における前側縦壁部7B1の左右両側端部にのみ夫々備えられる構成としたが、境界検出手段Qとして、刈刃ハウジング7の機体横幅方向全幅と同じ又はほぼ同じ幅に亘る状態で備えられる接触式存否センサ35を備える構成としてもよい。
【0099】
図15,16に示すように、刈刃ハウジング7の機体横幅方向全幅と同じ又はほぼ同じ幅に亘る長尺の接触式存否センサ35は、上記実施形態における接触検知部skと同じ構成の接触検知部skが機体横幅方向に沿って適宜間隔をあけて並ぶ状態で複数備えられている。このように構成することで、既刈り領域と未刈り領域との刈跡境界Kが刈刃ハウジングの機体横幅方向のどの位置にあるかを検知することができる構成となっており、例えば、モーア4による刈幅を任意の幅に変更した状態で自律走行制御を行うことが可能になる。
【0100】
境界検出手段Qとしては、接触式センサにて構成するものに限らず、例えば、上下方向に光を投射する発光器とその光を受光する受光器とを備えた光学式検知装置を、刈刃ハウジング7の前側縦壁部7B1に機体横幅方向に適宜間隔をあけて複数備える構成として、刈跡境界Kを検出するようにしてもよい。
又、光学式に限らず、超音波式の存否センサを用いる構成等、種々の形式のセンサを用いることができる。
【0101】
(2)上記実施形態では、接触式存否センサ31R,31Lが、横向き平板状のブラケットbの前面側に接触検知部skが左右に並んで取り付けられ、ブラケットbの後面を刈刃ハウジング7における前側縦壁部7B1に固定される構成としたが、ブラケットとしては平板状のものに代えて、側面視での縦断面形状がL字形又は逆L字形のものや側面視での縦断面形状が後向きに開放したコの字形のものなど種々の形状のものを用いることができる。又、ブラケットを用いるものに限らず、接触検知部skを直接に刈刃ハウジング7における前側縦壁部7B1に取り付ける構成としてもよい。
【0102】
(3)上記実施形態では、境界検出手段Qの検出情報に基づいて制御装置23が実行する走行用の所定の制御として、自動モードにおいて刈跡境界Kに沿って走行機体3が倣い走行するように走行用電動モータ11R,11Lを制御する自律走行制御を実行するようにしたが、この構成に代えて、次の(3−1)(3−2)(3−3)に記載の構成としてもよい。
【0103】
(3−1)手動モードによる走行駆動制御を実行しているときに、左右の接触式存否センサ31R,31Lの検出情報に基づいて、刈跡境界Kに対して走行機体3の位置が適正であるか否かを検出するようにして、位置が適正でなければ、各走行用電動モータ11R,11Lの夫々に対する目標速度として、走行機体3の向きを修正するために、走行変速レバー12R,12Lの操作位置に基づいて求められる目標速度に対して修正を加え、修正した目標速度にて各走行用電動モータ11R,11Lの作動を制御する構成としてもよい。
【0104】
(3−2)運転座席10の近傍に運転者が目視可能な表示装置(図示せず)を備えておき、自動モードあるいは手動モードによる走行制御を実行しているときに、境界検出手段Qの検出情報に基づいて、刈跡境界Kに対して走行機体3の位置が適正であるか否かを表示装置にて表示する構成としてもよい。
例えば、走行機体3の位置が適正である状態、走行機体3が右に位置ずれしている状態、走行機体3が左に位置ずれしている状態のいずれであるかを表示する。
【0105】
(3−3)運転座席10の近傍に運転者が目視可能な表示装置(図示せず)を備えておき、自動モードあるいは手動モードによる走行制御を実行しているときに、境界検出手段Qの検出情報に基づいて、直進走行経路の終端位置に至ったこと、つまり、旋回走行開始地点に至ったことを表示装置にて表示する構成としてもよい。
【0106】
(4)上記実施形態では、操作位置と操作位置対応速度との変化特性として、直線的に変化するものを示したが、例えば、図17に示すように、前進走行域では下膨らみ状態に湾曲する形状とし、後進走行域では上膨らみ状態に湾曲する形状としてもよい。
【0107】
又、図18に示すように、不感帯領域Cの近くの領域を除く他の領域では、正転方向の領域(前進走行域F)と逆転方向の領域(後進走行域R)の夫々においては、走行変速レバー12R,12Lの操作位置の変化に対する操作位置対応速度の変化率が一定となるが、図18の一部拡大図にも示すように、不感帯領域Cの近くでは、第1変化特性L1は直線状に変化するが、第2変化特性L2が第1変化特性L1に近づくように屈曲し、第1変化特性L1と第2変化特性L2との横軸方向での間隔を狭めるようにして、中立位置Nにおいて走行変速レバー12R,12Lの組み付け誤差に起因するぐらつきがあっても、減速操作から増速操作への切り換えを極力迅速に行えるようにするものでもよい。
【0108】
(5)上記実施形態では、走行機体3に水平姿勢からの左右傾斜角度を検出する傾斜センサ30が備えられる構成としたが、この傾斜センサ30に代えて、角度と加速度を検出するジャイロセンサを用いるようにしてもよい。
【0109】
(6)上記実施形態では、前輪1及び後輪2の間にモーア4を支持しているが、走行機体3の前部(前輪1の前方)にモーア4を支持するように構成してもよい。
又、モーア4としては、サイドディスチャージ形式のモーアに限らず、モーア4の左右中央部から機体後方に刈芝を排出するリアディスチャージ形式のモーアでもよく、3個の回転刈刃8a,8b,8cを備えるものに限らず1個、2個、あるいは、4個以上の回転刈刃を備えるモーアでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明は、既刈り領域と未刈り領域との刈跡境界を検出する境界検出手段を備えた芝刈機に適用できる。
【符号の説明】
【0111】
3 走行機体
4 モーア
7 刈刃ハウジング
7B1 前側縦壁部
11R,11L 走行駆動装置
23 制御手段
Q 境界検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行駆動装置により直進並びに旋回走行自在に走行駆動される走行機体と、走行機体の走行に伴って芝を刈り取るモーアと、既刈り領域と未刈り領域との刈跡境界を検出する境界検出手段と、前記境界検出手段の検出情報に基づいて走行用の所定の制御を実行する制御手段とを備えた芝刈機であって、
前記境界検出手段が、前記モーアの刈刃ハウジングにおける前側縦壁部の前面にて芝の存否を検出するように構成されている芝刈機。
【請求項2】
前記境界検出手段が、前側縦壁部の前面に接触する芝の有無により芝の存否を検知する接触式センサにて構成されている請求項1記載の芝刈機。
【請求項3】
前記境界検出手段が、前記刈刃ハウジングにおける機体横幅方向の左右両側の端部箇所に夫々備えられている請求項1又は2記載の芝刈機。
【請求項4】
前記境界検出手段が、前記刈刃ハウジングの機体横幅方向全幅と同じ又はほぼ同じ幅に亘る状態で備えられている請求項1又は2記載の芝刈機。
【請求項5】
前記制御手段が、前記走行用の所定の制御として、前記境界検出手段の検出情報に基づいて前記走行機体が刈跡境界に沿って倣い走行するように前記走行駆動装置を制御する自動操向制御を実行するように構成されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の芝刈機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−187084(P2012−187084A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55807(P2011−55807)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】