説明

蓄電装置

【課題】低温において安定した駆動が行なえる蓄電装置を提供する。
【解決手段】蓄電装置は、電池セル33と、電池セル33を挟むように拘束するための電池ホルダ1およびエンドプレート40と、エンドプレート40と電池セル33との間に配置されている介在部材11とを備える。電池ホルダ1およびエンドプレート40は、樹脂で形成されている。電池ホルダ1およびエンドプレート40は、所定の温度より低い温度において正の熱膨張係数を有する。介在部材11は、所定の温度より低い温度において、実質的に負の熱膨張係数を有するように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機を駆動源として用いる電気自動車や、駆動源としての電動機とその他の駆動源(たとえば、内燃機関、燃料電池等)とを組み合わせたハイブリッド自動車が実用化されている。これらの自動車においては、電動機にエネルギである電気を供給するための蓄電装置が搭載される。蓄電装置としては、たとえば、繰り返し充放電が可能な二次電池やキャパシタなどの蓄電機器が含まれる。二次電池としては、ニッケル−カドミウム電池、ニッケル−水素電池またはリチウムイオン電池などの電池セルが用いられる。
【0003】
蓄電装置には、単一の蓄電セルを備えるもののほかに、複数の蓄電セルが一体的に固定された蓄電モジュールを備えるものがある。蓄電装置においては、たとえば蓄電モジュールがケースに収容されている。蓄電モジュールは、複数の蓄電セルを含むために、大きな電流を取り出したり高い電圧を取り出したりすることができる(特開2006−156392号公報、特開2005−116429号公報、または特開2004−139924号公報参照)。
【特許文献1】特開2006−156392号公報
【特許文献2】特開2005−116429号公報
【特許文献3】特開2004−139924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蓄電モジュールは、蓄電セル相互の間および両端に配置されている拘束部材を備える。蓄電モジュールは、たとえば、蓄電セルと拘束部材とが交互に積層された積層体を備える。積層体は、両端の拘束部材が相互に丸棒等の固定部材で固定されることにより一体化されている。
【0005】
固定部材で積層体を固定するときには、両端の拘束部材が相互に近づく向きに荷重が印加される。固定部材で積層体を固定するときには、たとえば、積層体の積層方向の長さが一定になるように固定される。
【0006】
拘束部材は、材質や形状等に起因して温度が低下すると収縮する場合がある。たとえば、拘束部材が、正の熱膨張係数を有する樹脂等で形成されている場合には、温度が低下すると収縮する。このような拘束部材は、低い温度になると体積が小さくなる。このため、蓄電セルに印加されている拘束荷重が小さくなってしまう場合がある。
【0007】
拘束荷重が小さくなると、蓄電機器の性能に影響を与えてしまう場合がある。たとえば、リチウムイオン電池などの電池セルは、優れた性能を発揮できる拘束荷重範囲を有する。この拘束荷重範囲を下回って、弱い荷重で拘束した場合においては、電池セル内部の電極層同士の距離が大きくなって出力が低下する場合がある。
【0008】
蓄電装置は、常温で製造が行なわれる。製造段階においては、積層体を十分に強く拘束していた場合においても、低温の環境下で使用する場合に拘束荷重が小さくなってしまって、蓄電機器の性能に影響を与えてしまう場合があった。たとえば、蓄電装置を低温の環境下において使用するときに、電池セルの出力が小さくなってしまう場合があった。
【0009】
本発明は、低温においても安定した性能が得られる蓄電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある局面における蓄電装置は、電気を蓄えるための蓄電セルを備える。上記蓄電セルを挟むように拘束するための拘束部材を備える。上記拘束部材と上記蓄電セルとの間の領域に配置されている介在部材を備える。上記拘束部材は、所定の温度より低い温度において正の熱膨張係数を有する。上記介在部材は、上記所定の温度より低い温度において上記蓄電セルの拘束荷重を高めるように形成されている。
【0011】
上記発明において好ましくは、上記介在部材は、上記所定の温度より低い温度において負の熱膨張係数を有する。
【0012】
上記発明において好ましくは、上記介在部材は、上記所定の温度より低い温度で第1の熱膨張係数を有する第1の構成部材を含む。上記介在部材は、上記所定の温度より低い温度で他の熱膨張係数を有する第2の構成部材を含む。
【0013】
上記発明において好ましくは、上記介在部材は、基体および液体を含む。上記基体は、親水性ポリマーまたは多孔質部材で形成されている。
【0014】
上記発明において好ましくは、上記介在部材は、基体および液体を含む。上記液体は、水を含む。
【0015】
上記発明において好ましくは、上記拘束部材および上記蓄電セルが積層されている積層体を備える。上記介在部材は、上記拘束部材と上記蓄電セルとに接触するように配置されている。
【0016】
上記発明において好ましくは、上記拘束部材および上記蓄電セルが積層されている積層体を備える。上記介在部材は、2個の上記蓄電セル、または2個の上記拘束部材に接触するように配置されている。
【0017】
本発明の他の局面における蓄電装置は、電気を蓄えるための蓄電セルを備える。上記蓄電セルを挟むように拘束するための拘束部材を備える。上記拘束部材は、一の温度より低い温度において負の熱膨張係数を有する。
【0018】
上記発明において好ましくは、上記拘束部材および上記蓄電セルが積層されている積層体を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、低温においても安定した性能が得られる蓄電装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(実施の形態1)
図1から図5を参照して、実施の形態1における蓄電装置について説明する。本実施の形態における蓄電装置は、蓄電モジュールである。本実施の形態における蓄電モジュールは、複数の電池セルを含む電池モジュールである。
【0021】
図1は、本実施の形態における電池モジュールの概略斜視図である。本実施の形態における電池モジュール9は、ガソリンエンジン等の内燃機関と、充放電可能な2次電池により駆動するモータとを動力源とするハイブリッド自動車に搭載されている。
【0022】
電池モジュール9は、蓄電セルとしての電池セル33を備える。電池モジュール9は、複数の電池セル33が積層された積層体を備える。複数の電池セル33は、電池セル33の厚み方向に積層されている。矢印89は、電池セル33の積層方向を示す。
【0023】
本実施の形態における電池セル33は、角型の電池セルである。本実施の形態における電池セル33は、リチウムイオン電池を含む。複数の電池セル33は、図示しないバスバーにより、互いに電気的に接続されている。
【0024】
電池モジュール9は、電池セル33を拘束するための拘束部材を備える。本実施の形態における拘束部材は、エンドプレート40および電池ホルダ1を含む。電池ホルダ1は、電池セル33の積層方向において、互いに隣り合う電池セル33相互の間に配置されている。一の電池セル33は、一の電池セル33の両側に配置された2つの電池ホルダ1によって挟持されている。電池ホルダ1は、電気的に絶縁性を有する材料から形成されている。本実施の形態における電池ホルダ1は、樹脂で形成されている。
【0025】
エンドプレート40は、積層体の積層方向の両端に配置されている。本実施の形態におけるエンドプレート40は、板状に形成されている。本実施の形態におけるエンドプレート40は、樹脂によって形成されている。エンドプレート40は、電池セル33および電池ホルダ1を、積層方向の両側から挟むように配置されている。
【0026】
本実施の形態における積層体は、電池セル33、電池ホルダ1およびエンドプレート40を含む。積層体は、電池セル33の積層方向において、電池セル33と電池ホルダ1とが交互に配置されている。積層体は、絶縁トレイ46に載置されている。
【0027】
図2に、本実施の形態における電池モジュールの概略断面図を示す。図2は、電池モジュールを長手方向に延びる面で切断したときの断面図である。図1および図2に示すように、本実施の形態における電池セル33は、電極33aを有する。電極33aは、電池セル33の端面から突出するように形成されている。
【0028】
電池モジュール9は、固定部材としての固定バンド42を備える。本実施の形態における固定バンド42は、板状に形成されている。固定バンド42は、長手方向が電池セル33の積層方向に延びるように配置されている。固定バンド42は、エンドプレート40,40を互いに締結するように配置されている。本実施の形態においては、電池モジュールの上部と下部とが固定バンド42により固定されている。
【0029】
固定バンド42は、締結部材としてのリベット45によってエンドプレート40に固定されている。固定バンド42は、電池セル33を積層方向に拘束するように配置されている。電池セル33、電池ホルダ1およびエンドプレート40は、固定バンド42によって一体的に保持されている。
【0030】
電池セル33は、互いに対向する一対の表面33bを有する。表面33bは、電池セル33の複数の表面のうち最も大きな面積を有する面積最大面である。複数の電池セル33は、それぞれの表面33b,33bが互いにほぼ平行になるように配置されている。
【0031】
電池ホルダ1は、板状部としてのベース部1aを含む。電池ホルダ1は、リブ1bを有する。リブ1bは、ベース部1aの電池セル33に対向する表面に形成されている。リブ1bは、電池セル33の表面33bに当接する。電池セル33は、一の電池ホルダ1のリブ1bと、対向する電池ホルダ1のベース部1aの表面とに接触しながら挟持されている。
【0032】
本実施の形態における電池セル33は、流体としての空気により冷却される。リブ1b相互の間には、電池セル33を冷却するための冷却空気が流れる流路100が形成されている。電池セル33は、電池セル33の表面33bに沿って空気が流れることにより冷却される。電池セル33は、流路100を通る空気により冷却される。
【0033】
本実施の形態における電池モジュール9は、第1の介在部材としての介在部材11を備える。本実施の形態における介在部材11は、エンドプレート40と電池セル33とに接触している。本実施の形態における介在部材11は、エンドプレート40、電池セル33および電池ホルダ1の積層体の内部に配置されている。介在部材11は、積層体の積層方向の端部に配置されている。
【0034】
図3に、本実施の形態における第1の介在部材の概略斜視図を示す。本実施の形態における介在部材11は、直方体状に形成されている。本実施の形態における介在部材11は、親水性ポリマーで形成されている基体に、液体としての水を含ませたものをラミネートフィルムで密閉した構造を有する。
【0035】
親水性ポリマーには、親水性官能基を含む高分子、または、これらを架橋したものが含まれる。親水性ポリマーとしては、たとえば、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、または、ポリアクリルアミドなどが含まれる。
【0036】
図1および図2を参照して、本実施の形態における電池モジュールの製造工程においては、電池ホルダ1、エンドプレート40および電池セル33を積層した後に、矢印89に示す積層方向に圧縮することにより荷重を印加する。積層方向に荷重を印加した状態で、固定バンド42によって積層体を固定する。荷重の印加においては、たとえば、積層体の長手方向の長さが一定になるように定寸拘束を行なう。
【0037】
積層体の組立工程は、工場内等で行なわれるために、常温の環境下で行なわれる。たとえば、約25℃の環境下で行なわれる。電池モジュール9は、優れた性能を発揮できる拘束荷重範囲内の荷重で拘束される。
【0038】
本実施の形態における蓄電装置は、使用環境が低温になる場合がある。たとえば、電池モジュール9が搭載されたハイブリッド自動車が、非常に気温の低い地域で使用される場合がある。電池モジュール9は、たとえば−30℃の環境下に配置される。
【0039】
本実施の形態における拘束部材は、樹脂で形成され、温度が高くなると体積が膨張する正の熱膨張係数を有する。拘束部材は、温度が低下することにより収縮して、矢印89に示す積層方向の厚さが薄くなる。このため、電池セル33の拘束荷重が小さくなってしまう。
【0040】
本実施の形態における介在部材11は、ラミネートフィルムの内部に水を含む。水は、所定の温度としての+4℃で最小の体積を有する。水は、0℃以上4℃以下の範囲内では、温度が下降するに伴って、体積が膨張する負の熱膨張係数を有する。さらに、0℃以下の状態においては、水が凝固することにより体積が膨張する。すなわち、水が氷になることにより体積が大きくなって実質的に負の熱膨張係数を示す。
【0041】
介在部材11は、+4℃よりも温度が低くなることにより体積が膨張して、積層体の積層方向の厚さが厚くなる。介在部材11は、+4℃よりも低い温度において、電池セル33の拘束荷重を高めるように形成されている。このため、温度が低い状態においても電池セル33を適切な拘束荷重で拘束することができ、電池セル33の性能低下を抑制することができる。
【0042】
このように、本実施の形態における介在部材は、所定の温度より低い温度において蓄電セルの拘束荷重を高めるように形成されている。本実施の形態における介在部材は、所定の温度よりも低い温度で負の熱膨張係数を有する。すなわち所定の温度よりも温度が低下すると体積が大きくなるように形成されている。このため、温度が低下したときに拘束部材の収縮に伴う拘束荷重の低下を補うことができて、低い温度においても蓄電セルの拘束荷重を高く維持することができる。蓄電セルの優れた性能を発揮できる拘束荷重範囲を下回ることを防止して安定した駆動を行なうことができる。
【0043】
本実施の形態における介在部材は、液体および基体を含む。この構成により、容易に負の熱膨張係数を有する介在部材を形成することができる。本実施の形態においては、液体として水が用いられているが、この形態に限られず、他の液体が用いられていても構わない。
【0044】
たとえば、液体としては、塩化ナトリウム等の支持塩を含む水を用いても構わない。水に、支持塩のような不純物を溶かすことにより凝固点を下げることができ、凝固による体積膨張の温度を調整することができる。たとえば、水に不純物が混入されていない場合においては、0℃の近傍において大きく膨張するが、支持塩の濃度を大きくすることにより、凝固により体積が膨張する温度を低くすることができる。
【0045】
上記の介在部材においては、液体を含ませた親水性ポリマーの基体を備える構成について説明したが、この形態に限られず、介在部材としては、所定の温度より低い温度において蓄電セルの拘束荷重を高めるように形成されている任意の部材を用いることができる。
【0046】
図4に、本実施の形態における第2の介在部材の概略斜視図を示す。第2の介在部材は、複数の構成部材を備え、複数の構成部材が積層されている。第2の介在部材としての介在部材12は、構成部材12a、構成部材12bおよび構成部材12cが積層された構成を有する。それぞれの構成部材12a〜12cは、板状に形成されている。それぞれの構成部材12a〜12cは、面積が最大となる面積最大面が相互に接するように配置されている。
【0047】
本実施の形態における構成部材12a〜12cは、支持塩を有する水が含まれる親水性ポリマーの基体がラミネートフィルムで密閉されている。それぞれの構成部材12a〜12cは、内部の支持塩の濃度が互いに異なるように形成されている。構成部材12aの支持塩の濃度は、構成部材12bの支持塩の濃度よりも高くなるように形成されている。また、構成部材12bの支持塩の濃度は、構成部材12cの支持塩の濃度よりも高くなるように形成されている。すなわち、構成部材12aの支持塩の濃度が最も高く、構成部材12cの支持塩の濃度が最も低くなるように形成されている。それぞれの構成部材12a〜12cは、熱膨張係数が異なる。
【0048】
介在部材12の周りの温度が低下すると、支持塩の濃度が最も低い構成部材12cが0℃近傍で凝固する。構成部材12bは、構成部材12cよりも低い温度で凝固する。さらに、構成部材12aは、構成部材12bよりも低い温度で凝固する。このように、それぞれの構成部材12a〜12cの凝固点が異なるため、凝固による体積膨張の温度をそれぞれの構成部材でずらすことができる。支持塩の濃度が互いに異なる構成部材を複数積層することにより、温度が低下したときに、介在部材の体積を徐々に大きくすることができる。
【0049】
たとえば、樹脂で形成されている拘束部材は、温度を下げることにより徐々に体積が小さくなる。介在部材として、支持塩の濃度が異なる複数の構成部材を積層することにより、拘束部材の収縮に対応して介在部材の長さを徐々に長くすることができる。この結果、温度変化に応じてより適切な荷重を蓄電セルに印加することができる。第2の介在部材は、所定の温度で急激に体積が膨張して、電池セルに大きな荷重が印加されることを抑制することができる。
【0050】
本実施の形態の第2の介在部材においては、直方体状の3個の構成部材が積層されているが、この形態に限られず、介在部材は、任意の形状の構成部材および任意の数の構成部材を積層することができる。
【0051】
図5に、本実施の形態における第3の介在部材の概略斜視図を示す。第3の介在部材としての介在部材13は、構成部材13bと、構成部材13bの内部に配置されている構成部材13aとを含む。構成部材13aは、支持塩が含まれた水を含む親水性ポリマーの基体がラミネートフィルムで密閉されている。構成部材13bは、構成部材13aを取囲むように、支持塩が含まれた水を含む親水性ポリマーの基体と、この基体を密閉するラミネートフィルムとを含む。構成部材13aの内部の支持塩の濃度は、構成部材13aの外側に配置されている支持塩の濃度よりも低くなるように形成されている。
【0052】
介在部材13においては、温度が低下することにより、0℃の近傍で構成部材13aの内部の水が凝固して膨張する。さらに、低温で構成部材13bの内部のうち構成部材13aの外側に配置されている支持塩を含む水が凝固して膨張する。介在部材として、一の構成部材の内部に、支持塩の濃度が異なる他の構成部材が配置されていることにより、温度が低下したときに、介在部材の体積を徐々に大きくすることができる。この結果、温度変化に応じてより適切な荷重を蓄電セルに印加することができる。第3の介在部材は、所定の温度で急激に体積が膨張して、電池セルに大きな荷重が印加されることを抑制することができる。
【0053】
本実施の形態における第3の介在部材は、直方体状の構成部材が二重に形成されているが、この形態に限られず、任意の形状の構成部材および任意の数を重ねることができる。
【0054】
次に、本実施の形態における蓄電装置の性能を検証する第1の試験の結果を示す。試験においては、電池セルとして角型のリチウムイオン電池を用いた。電池セルを拘束部材としての2枚の金属板を用いて挟み込むことにより拘束して、金属板に荷重を印加した。金属板としては、ステンレスで形成されているものを用いた。
【0055】
試験においては、リチウムイオン電池を充電して出力電圧を所定の電圧に設定した後に定電流放電を10秒間行なった。定電流放電の後の電圧を読取って、初期の所定の電圧からの電圧低下量を求めた。この電圧低下量が小さいほど内部抵抗が小さく優れていることを示す。電池セルの拘束条件は、常温の環境下としての25℃で電圧低下量が同じ値を示すように拘束を行なった。次に、恒温槽を用いて−30℃の環境下に電池セルを4時間配置した後に、同じ測定を行なった。
【0056】
試験においては、−30℃で得られた抵抗値を25℃で得られた抵抗値で割った係数を抵抗増加率と定義した。抵抗増加率が小さいほど、外気温度による出力変動が少ないことを示し、外気温度が低下しても安定した駆動を行なうことを示す。
【0057】
第1の試験においては、介在部材として基体に液体を含ませたものを用いている。第1の試験においては、親水性ポリマーで形成されている基体に水または支持塩(NaCl)を有する水を含ませた介在部材について試験を行なった。比較例についても試験を行なった。第1の試験の結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
比較例1においては、介在部材を配置せずに電池セルを金属板で挟み込んで拘束した。
比較例2においては、介在部材の基体としての架橋ポリアクリル酸ポリマーに、液体としてシクロヘキサンを10重量%含ませたものを使用した。この介在部材を金属板と電池セルとの間に挟み込んで拘束した。
【0060】
実施例1〜4のそれぞれの介在部材の基体と液体との構成は、表1の通りである。たとえば実施例1においては、介在部材の基体としての架橋ポリアクリル酸ポリマーに、液体としての水を10重量%含ませたものを用いている。実施例1〜4においては、それぞれの介在部材を金属板と電池セルとの間に挟み込んで拘束した。
【0061】
第1の試験の結果、実施例1〜4の抵抗増加率は、比較例1,2の抵抗増加率よりも小さく優れていることがわかる。電池セルと金属板との間に負の熱膨張係数を有する介在部材を配置することにより、外気温度が低下しても安定した駆動を行なうことができることが分かる。また、比較例2と実施例1とを比較したときに、液体として水を用いることにより、抵抗増加率を低減できることが分かる。
【0062】
次に、本実施の形態における介在部材のうち第3の介在部材(図5参照)についての第2の試験の結果を示す。第2の試験においては、構成部材が二重に形成されている介在部材について試験を行なった。第2の試験の結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
実施例5においては、架橋ポリアクリル酸ポリマーの基体に水を10重量%含ませたものをラミネートで包み込んで内側の構成部材とする。さらに、内側の構成部材を、架橋ポリアクリル酸ポリマーに5%NaCl水を10重量%で含ませたもので包んでラミネートフィルムで密閉して外側の構成部材とする。
【0065】
実施例5においては、内側の構成部材の支持塩の濃度よりも外側の構成部材の支持塩の濃度の方が高くなるように形成した。実施例5の構成においては、温度が低下することにより、内側の構成部材の水が先に凝固して、この後に内側の構成部品の外側の水が凝固する。
【0066】
第2の試験を行なった結果、実施例5においても、比較例1,2と比べて抵抗増加率が小さなっており、優れた性能を有することが分かる。
【0067】
本実施の形態においては、蓄電セルを拘束するための拘束部材が正の熱膨張係数を有し、介在部材が負の熱膨張係数を有するが、この形態に限られず、拘束部材が所定の温度よりも低い温度において負の熱膨張係数を有していても構わない。たとえば、複数の電池ホルダのうち、一の電池ホルダが負の熱膨張係数を有するように形成されていても構わない。この構成によっても、低温において安定した駆動を行なえる蓄電装置を提供することができる。
【0068】
本実施の形態における介在部材は、直方体状に形成されているが、この形態に限られず、任意の形状を採用することができる。たとえば、介在部材が円柱状に形成され、複数の介在部材が拘束部材と蓄電セルとの間の領域に配置されていても構わない。
【0069】
本実施の形態においては、エンドプレートと電池セルとの間に介在部材が配置されているが、この形態に限られず、介在部材は、いずれかの拘束部材といずれかの蓄電セルとの間の領域に配置されていればよい。たとえば、電池ホルダと電池セルとの積層体において、電池セル同士の間に介在部材が配置されていても構わない。または、電池ホルダ同士の間に介在部材が配置されていても構わない。または、電池ホルダと電池セルとの間に介在部材が配置されていても構わない。
【0070】
本実施の形態においては、電池セル、電池ホルダおよびエンドプレートの積層体の両側の端部に2個の介在部材が配置されているが、この形態に限られず、任意の個数の介在部材を配置することができる。
【0071】
本実施の形態における電池ホルダおよびエンドプレートのそれぞれは、樹脂で形成されているが、この形態に限られず、たとえば、金属で形成されていても構わない。
【0072】
本実施の形態における電池セルは、リチウムイオン電池であるが、この形態に限られず、電気を蓄える機能を有する任意の蓄電セルを備える蓄電装置に本発明を適用することができる。たとえば、蓄電セルは、キャパシタを含んでいてもよい。
【0073】
本実施の形態においては、自動車に搭載される蓄電装置を例に採り上げて説明したが、この形態に限られず、任意の蓄電装置に適用することができる。たとえば、任意の移動体に配置される蓄電装置に本発明を適用することができる。または、移動しない被固定物に固定される蓄電装置に本発明を適用することができる。
【0074】
(実施の形態2)
図3を参照して、実施の形態2における蓄電装置について説明する。本実施の形態における蓄電装置は、電池モジュールを備える。電池モジュールが、拘束部材および電池セルが積層された積層体を含み、積層体の内部に介在部材が配置されていることは、実施の形態1と同様である。本実施の形態における電池モジュールは、介在部材の構成が実施の形態1と異なる。
【0075】
本実施の形態における介在部材の外形は、図3に示す介在部材11と同様である。本実施の形態における介在部材は、基体として多孔質部材を含む。多孔質部材としては、ゼオライト、または活性炭などで形成されている部材を含む。ゼオライトとしては、たとえば合成ゼオライト、天然ゼオライトおよび人工ゼオライトが挙げられる。本実施の形態における介在部材は、ゼオライトで形成されている基体と、液体とを含む。
【0076】
多孔質部材は、流路の断面積が小さな細孔を有する。細孔内に侵入した液体は、通常の凝固点よりも低温で凝固する。多孔質部材を基体として用いることにより、温度を下げていくと液体が徐々に凝固する。このため、介在部材は、徐々に膨張する。すなわち、温度を下げていくと細孔の外部に配置されている液体が凝固した後に、細孔の内部に配置されている液体が凝固するために、全体として徐々に膨張する。
【0077】
本実施の形態における介在部材は、温度が下がることにより徐々に膨張するために、拘束部材の温度低下に伴う収縮に対応するように徐々に電池セルに荷重を印加することができる。本実施の形態における介在部材は、所定の温度で急激に体積が膨張して、電池セルに、大きな荷重が印加されることを抑制することができる。
【0078】
次に、本実施の形態における蓄電装置の性能を検証する第3の試験の結果を示す。第3の試験においては、実施の形態1における試験と同様の方法により試験を行なった。表3に、第3の試験の結果を示す。
【0079】
【表3】

【0080】
実施例6,7の介在部材においては、人工ゼオライトで形成されている基体を用いて、液体として水またはNaCl水を用いている。比較例1,2は、実施の形態1における比較例1,2と同じである。
【0081】
第3の試験の結果、実施例6および実施例7の両方において、抵抗増加率が比較例1および2の抵抗増加率よりも小さくなっていることがわかる。すなわち、温度が下がった場合においても、比較例より安定した駆動を行なえることがわかる。
【0082】
その他の構成、作用および効果については、実施の形態1と同様であるのでここでは説明を繰返さない。
【0083】
(実施の形態3)
図6および図7を参照して、実施の形態3における蓄電装置について説明する。本実施の形態における蓄電装置は、電池モジュールを備える。本実施の形態における電池モジュールは、介在部材が配置されている位置が実施の形態1と異なる。
【0084】
図6に、本実施の形態における第1の電池モジュールの概略断面図を示す。本実施の形態における第1の電池モジュールは、介在部材11を備え、介在部材11は、2個の電池ホルダ1相互の間に配置されている。介在部材11は、エンドプレート40、電池セル33および電池ホルダ1の積層体のうち、電池ホルダ1相互に挟まれる空間に配置されている。介在部材11は、表裏の両面が電池ホルダ1に接触している。
【0085】
このように、本実施の形態における第1の電池モジュールにおいては、介在部材が、拘束部材および電池セルの積層体のうち、2個の拘束部材に接触するように配置されている。
【0086】
図7に、本実施の形態における第2の電池モジュールの概略断面図を示す。第2の電池モジュールは、拘束部材としての電池ホルダ1および電池ホルダ2を備える。電池ホルダ2は、ベース部2aおよびリブ2bを有する。リブ2bが電池セル33の表面33bに接することにより、冷却空気の流路が構成されている。
【0087】
第2の電池モジュールは、介在部材11を備え、介在部材11は、電池セル33相互の間に配置されている。介在部材11は、2個の電池セル33に挟まれている。介在部材11は、表裏の両面が電池セル33に接触している。
【0088】
本実施の形態における第2の電池モジュールにおいては、介在部材が、拘束部材および電池セルの積層体のうち、2個の電池セルに接触するように配置されている。
【0089】
本実施の形態における蓄電装置においても、実施の形態1と同様に、低温において安定した駆動を行なうことができる。
【0090】
その他の構成、作用および効果については、実施の形態1と同様であるのでここでは説明を繰返さない。
【0091】
(実施の形態4)
図8および図9を参照して、実施の形態4における蓄電装置について説明する。
【0092】
図8は、本実施の形態における蓄電装置の概略斜視図である。図9は、本実施の形態における蓄電装置の概略分解斜視図である。本実施の形態における蓄電装置は、蓄電セルとしての単一の電池セル33を備える。電池セル33は、直方体状に形成されている。
【0093】
本実施の形態における蓄電装置は、電池セル33を拘束するための拘束部材としての電池ケース3を備える。電池セル33は、電池ケース3の内部に配置されている。電池ケース3は、蓋部材3aと受け部材3bとを有する。電池セル33は、受け部材3bと蓋部材3aとに囲まれる空間に配置されている。
【0094】
本実施の形態における蓄電装置は、一対の介在部材14a,14bを備える。本実施の形態における介在部材14a,14bは、所定の温度よりも低い温度で負の熱膨張係数を有するように形成されている。本実施の形態における介在部材14a,14bは、水を含んだ親水性ポリマーがラミネートフィルムで包まれている。
【0095】
介在部材14a,14bは、電池セル33の表面のうち、面積が最大となる表面33bに接するように配置されている。介在部材14a,14bは、電池セル33の表側および裏側の表面にそれぞれ配置されている。介在部材14bは、電池セル33と受け部材3bとに挟まれている。また、介在部材14aは、電池セル33と蓋部材3aとに挟まれている。
【0096】
本実施の形態における蓄電装置は、固定部材としての固定バンド47を備える。固定バンド47は、電池セル33の厚さ方向に、蓋部材3aおよび受け部材3bを拘束するように形成されている。固定バンド47は、電池ケース3の厚さ方向に延びるように配置されている。矢印93は、拘束する向きを示す。
【0097】
本実施の形態における蓄電装置の組立においては、矢印91に示すように、受け部材3bの凹んだ部分に介在部材14bを挟んで電池セル33を配置する。この後に、矢印92に示すように、電池セル33の表側の表面33bに介在部材14aを配置して、蓋部材3aにより押圧する。電池セル33は、表側および裏側の表面33bにそれぞれ配置されている一対の介在部材14a,14bに挟まれることにより荷重が印加される。
【0098】
蓋部材3aを押圧した状態で、固定部材としての固定バンド47により、電池セル33の厚さ方向に電池ケース3を拘束する。固定バンド47により、荷重を印加しながら蓋部材3aを受け部材3bに固定する。
【0099】
本実施の形態の蓄電装置においても、温度が低下することにより、介在部材14a,14bが膨張して、電池セル33に適切な荷重を印加することができる。したがって、本実施の形態における蓄電装置は、低温にて安定した駆動を行なうことができる。
【0100】
その他の構成、作用および効果については、実施の形態1と同様であるのでここでは説明を繰返さない。
【0101】
(実施の形態5)
図10を参照して、実施の形態5における蓄電装置について説明する。
【0102】
図10は、本実施の形態における蓄電装置の概略斜視図である。本実施の形態における蓄電装置は、電池セル34を備える。電池セル34は、円柱状に形成されている。電池セル34は、電極34aを有する。電極34aは、電池セル34の円柱状の上面から突出するように形成されている。
【0103】
本実施の形態における蓄電装置は、電池セル34を拘束するための拘束部材として、板部材4を備える。板部材4は、平板状に形成されている。板部材4は、介在部材15を介して電池セル34を挟むように配置されている。
【0104】
本実施の形態における蓄電装置は、介在部材15を備える。介在部材15は、電池セル34の周りを覆うように形成されている。介在部材15は、電池セル34と、板部材4との間に配置されている。本実施の形態における介在部材15は、挿入穴15aを有する。挿入穴15aは、電池セル34の形状に沿うように形成されている。電池セル34は、挿入穴15aの内部に配置されている。
【0105】
本実施の形態における介在部材15は、親水性ポリマーで形成されている基体に水を含ませて、ラミネートフィルムで密封することにより形成されている。介在部材15は、所定の温度よりも低い温度で負の熱膨張係数を有するように形成されている。
【0106】
本実施の形態における蓄電装置の組立工程においては、介在部材15の挿入穴15aに、電池セル34を配置する。次に、介在部材15を板部材4で挟み込む。このときに、矢印93に示す方向に荷重を印加する。板部材4が相互に近づく向きに荷重を印加しながら、固定バンド48により板部材4を相互に拘束する。
【0107】
本実施の形態における蓄電装置においても、低温において安定した駆動を行なうことができる。
【0108】
本実施の形態においては、一の方向にのみ荷重を印加しているが、この形態に限られず、任意の方向に荷重を印加することができる。たとえば、上記の一の方向と垂直な方向の両端部に追加の板部材を配置して、上記の一の方向と垂直な方向にさらに荷重を印加しても構わない。
【0109】
その他の構成、作用および効果については、実施の形態1と同様であるのでここでは説明を繰返さない。
【0110】
上述のそれぞれの図において、同一または相当する部分には、同一の符号を付している。また、上記のそれぞれの実施の形態を適宜組み合わせることができる。
【0111】
なお、今回開示した上記の実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】実施の形態1における電池モジュールの概略分解斜視図である。
【図2】実施の形態1における電池モジュールの概略断面図である。
【図3】実施の形態1における第1の介在部材の概略斜視図である。
【図4】実施の形態1における第2の介在部材の概略斜視図である。
【図5】実施の形態1における第3の介在部材の概略斜視図である。
【図6】実施の形態3における第1の電池モジュールの概略断面図である。
【図7】実施の形態3における第2の電池モジュールの概略断面図である。
【図8】実施の形態4における蓄電装置の概略斜視図である。
【図9】実施の形態4における蓄電装置の概略分解斜視図である。
【図10】実施の形態5における蓄電装置の概略斜視図である。
【符号の説明】
【0113】
1,2 電池ホルダ、1a,2a ベース部、1b,2b リブ、3 電池ケース、3a 蓋部材、3b 受け部材、4 板部材、9 電池モジュール、11〜15 介在部材、12a〜12c,13a,13b 構成部材、15a 挿入穴、33,34 電池セル、33a,34a 電極、33b 表面、40 エンドプレート、42,47,48 固定バンド、45 リベット、46 絶縁トレイ、89,91〜93 矢印、100 流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気を蓄えるための蓄電セルと、
前記蓄電セルを挟むように拘束するための拘束部材と、
前記拘束部材と前記蓄電セルとの間の領域に配置されている介在部材と、を備え、
前記拘束部材は、所定の温度より低い温度において正の熱膨張係数を有し、
前記介在部材は、前記所定の温度より低い温度において前記蓄電セルの拘束荷重を高めるように形成されている、蓄電装置。
【請求項2】
前記介在部材は、前記所定の温度より低い温度において負の熱膨張係数を有する、請求項1に記載の蓄電装置。
【請求項3】
前記介在部材は、前記所定の温度より低い温度で第1の熱膨張係数を有する第1の構成部材と、
前記所定の温度より低い温度で第2の熱膨張係数を有する第2の構成部材と、を含む、請求項2に記載の蓄電装置。
【請求項4】
前記介在部材は、基体および液体を含み、
前記基体は、親水性ポリマーまたは多孔質部材で形成されている、請求項1から3のいずれかに記載の蓄電装置。
【請求項5】
前記介在部材は、基体および液体を含み、
前記液体は、水を含む、請求項1から4のいずれかに記載の蓄電装置。
【請求項6】
前記拘束部材および前記蓄電セルが積層されている積層体を備え、
前記介在部材は、前記拘束部材と前記蓄電セルとに接触するように配置されている、請求項1から5のいずれかに記載の蓄電装置。
【請求項7】
前記拘束部材および前記蓄電セルが積層されている積層体を備え、
前記介在部材は、2個の前記蓄電セル、または2個の前記拘束部材に接触するように配置されている、請求項1から6のいずれかに記載の蓄電装置。
【請求項8】
電気を蓄えるための蓄電セルと、
前記蓄電セルを挟むように拘束するための拘束部材と、を備え、
前記拘束部材は、所定の温度より低い温度において負の熱膨張係数を有する、蓄電装置。
【請求項9】
前記拘束部材および前記蓄電セルが積層されている積層体を備える、請求項8に記載の蓄電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−277042(P2008−277042A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−117203(P2007−117203)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】