説明

超音波リニアモータおよび駆動・案内装置

【課題】 コンパクト化、低コスト化、エネルギー消費量の低減を図るとともに、振動エネルギーを大きくして質量の大きい搬送物でも搬送可能とした超音波リニアモータおよび駆動・案内装置を提供すること。
【解決手段】 振動梁3に進行波を励起し、その振動によりスライダ11を駆動する超音波リニアモータにおいて、前記振動梁3の一方の端部に2組以上、他方の端部に一方の端部と同数組以上の駆動素子911、912、921、922が付加されていて、略共振する駆動源1、2が構成されていることを特徴とする超音波リニアモータおよび前記超音波リニアモータを用いた駆動・案内装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、精密位置決めシステムに用いる超音波リニアモータとその超音波リニアモータを用いた駆動・案内装置に係り、特に、駆動・案内装置の出力向上を図ることができるように工夫したものに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波駆動を用いた位置決め装置としては、例えば、特許文献1、特許文献2に示すようなものがある。しかしながら、これら特許文献1、特許文献2に記載されている位置決め装置の場合には次のような問題があった。
【0003】
まず、特許文献1に記載された位置決め装置及び特許文献2に記載された位置決め装置の何れの場合も、その構成が複雑であるという問題があった。すなわち、ステージの駆動・案内のために超音波振動発生装置と、それとは別に2本の案内レールを使用する構成であり、その為部品点数が多くて構成が複雑化してしまうという問題があった。
【0004】
そこで、本発明の主要な発明者は、2本の振動梁を用いて駆動と案内の両方を行なうコンパクトな駆動・案内装置を提案している。その構成は特許文献3に開示されている。
【0005】
さらに、本発明の主要な発明者は、特許文献3に掲載された駆動・案内装置よりも更にコンパクト化、低コスト化、エネルギー消費量の低減を図ることができるように、1本の段付構造からなる振動梁を用いて駆動と案内の両方を行なう駆動・案内装置を提案している。その構成は、特許文献4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−298973号公報
【特許文献2】特開2003−339175号公報
【特許文献3】特開2007−68350号公報
【特許文献4】特開2011−160527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の構成によると次のような問題があった。
すなわち、特許文献4に記載されている駆動・案内装置の場合には、特許文献1、特許文献2及び特許文献3に記載されている装置に比べて装置のコンパクト化を図ることができる。また、1本の振動梁の両端に大きな質量をもつ振動体を設けることにより、大きな進行波振幅を得ることができた。
【0008】
しかしながら、特許文献4に記載されている駆動・案内装置の構成では、コンパクトにすることにより超音波振動周波数も上がり、また振動体の質量も小さくなったことから振動体から発生することができる進行波振幅の大きさには限度があり、より大きな質量の搬送物を搬送することが困難であるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するべく本願発明の請求項1による超音波リニアモータは、振動梁に進行波を励起し、その振動によりスライダを駆動する超音波リニアモータにおいて、前記振動梁の一方の端部に2組以上、他方の端部に一方の端部と同数組以上の駆動素子が付加されていて、略共振する駆動源が構成されていることを特徴とするものである。
また、請求項2による超音波リニアモータは、請求項1記載の超音波リニアモータにおいて、前記振動梁の両端にはより大きな振動体が設けられ、前記振動体に前記駆動素子が付加されていて略共振する駆動源が構成されていることを特徴とするものである。
また、請求項3による超音波リニアモータは、請求項2記載の超音波リニアモータにおいて、前記振動体と前記振動梁が段付構造になっていることを特徴とするものである。
また、請求項4による超音波リニアモータは、請求項1乃至請求項3記載の超音波リニアモータにおいて、前記振動梁の一方の端部および他方の端部にそれぞれ付加された2組以上の駆動素子の位相差を調整する位相差調整部を設けたことを特徴とするものである。
また、請求項5による駆動・案内装置は、請求項1乃至請求項4記載の超音波リニアモータを用いていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
以上述べたように、従来の駆動・案内装置の構成では、コンパクトにすることにより超音波振動周波数も上がり、また振動体の質量も小さくなったことから振動体から発生することができる進行波振幅の大きさには限度があり、より大きな質量の搬送物を搬送することが困難であったが、本願発明の請求項1による超音波リニアモータは、振動梁に進行波を励起し、その振動によりスライダを駆動する超音波リニアモータにおいて、前記振動梁の一方の端部に2組以上、他方の端部に一方の端部と同数組以上の駆動素子が付加されていて、略共振する駆動源が構成されているので、振動素子の数を増やすことによってより大きな振動エネルギーを得ることができ、それによって、振動梁においてもより大きな進行波振幅を得ることができるものである。
また、請求項2による超音波リニアモータは、請求項1記載の超音波リニアモータにおいて、前記振動梁の両端にはより大きな振動体が設けられ、前記振動体に前記駆動素子が付加されていて略共振する駆動源が構成されているので、質量の大きな振動体を共振させることにより大きな振動エネルギーを得ることができ、それによって、振動梁においてもより大きな進行波振幅を得ることができるものである。
また、請求項3による超音波リニアモータは、請求項2記載の超音波リニアモータにおいて、前記振動体と前記振動梁が段付構造になっているので、その構成も簡単であり部品点数が増加することもない。
また、請求項4による超音波リニアモータは、請求項1乃至請求項3記載の超音波リニアモータにおいて、前記振動梁の一方の端部および他方の端部にそれぞれ付加された2組以上の駆動素子の位相差を調整する位相差調整部を設けた構成となっているので、各ドライバに印加する交流電力を調整して、例えば各圧電素子に精度の高い逆位相の超音波振動を発生させるように位相差を調節することができるものである。すなわち、最適な共振を発生させることができるものである。
また、請求項5による駆動・案内装置は、請求項1乃至請求項4記載の超音波リニアモータを用いることで、コンパクトでありながら質量の大きい搬送物を搬送することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態を示す図で、図1(a)は本実施の形態による駆動・案内装置の構成を示す平面図、図1(b)は本実施の形態による駆動・案内装置の正面図、図1(c)は図1(b)のc−c断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態を示す図で、本実施の形態による駆動・案内装置の超音波リニアモータの制御構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の振動体5の振動パターンの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1乃至図3を参照して本発明の一実施の形態を説明する。
図1は本実施の形態による駆動・案内装置の構成を示す図であり、まず、一対の支柱1、1が離間・配置されていて、これら一対の支柱1,1の間には振動梁3が設置されている。前記振動梁3の両端には振動体5、5が設けられている。すなわち、前記振動梁3の両端部が段付部7、7を挟んでその高さ方向{図1(b)中、上下方向}の幅が大きくなっていて、その部分が前記振動体5、5となっているものである。この振動体5、5の部分は振動梁3のほかの部分に比べて質量が大きくなっている。
【0013】
振動梁3は、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属、アルミナ等のセラミックから製造されている。
因みに、本実施の形態における振動梁3はアルミニウム製である。
【0014】
図1(b)において、振動梁3の一方の端部に設けられた振動体5には圧電素子911、912{この実施形態の場合にはピエゾ型圧電素子(PZT)}が、振動体5の上下面に対向して圧電素子2枚1組として合計2組貼り付けられている。また、振動梁3の他方の端部に設けられた振動体5にも圧電素子921、922が振動体5の上下面に対向して圧電素子2枚1組として合計2組貼り付けられている。それによって、振動体5、5の部分が各々駆動源となっているものである。
なお、本実施の形態では振動体5の上下面に対向して2枚の圧電素子を1対1組として貼り付けられているが、上面のみとしてもよいし、下面のみとしてもよい。すなわち、上面のみで2組以上、または、下面のみで2組以上、あるいは、1組は上面のみ・1組は下面のみ組み合わせとして2組以上としてもよい。
【0015】
図1(a)において、振動梁3にはスライダ11が移動可能に取り付けられている。前記スライダ11は次のような構成になっている。図1(c)において、振動梁3を左右方向から挟むように、一対の振動部材17、19が4組の締結具21によって締付・固定されている。締結具21は両端に雄ねじ部に螺合されたナット25、27とから構成されている。上側摩擦板13、下側摩擦板15が、上下方向の案内装置、摺動部材17、19が左右方向の案内装置を振動梁3と構成している。
【0016】
摺動部材17、19の材質としては、摩擦係数が小さく摩耗が少ない材料であって、且つ、低コストの材料が好ましく、本実施の形態の場合には、潤滑剤入りポリセタール樹脂を使用している。
【0017】
そして、図1(b)において、振動体5からは、振動梁3に上下方向に振動する進行波を発生させる。この振動梁3における進行波と前記スライダ11の上側摩擦板13、下側摩擦板15とが摩擦接触することになり、それによって、スライダ11に推力が発生することになる。また、振動梁3と上側摩擦板13及び下側摩擦板15の摩擦接触を安定したものとして大きい推力を得るために、各締結具21の弾性部材23によって、上側摩擦板13及び下側摩擦板15を、振動梁3に押付与圧を付加するようにしている。
【0018】
次に、図2を用いて駆動装置の構成について説明する。圧電素子911にはドライバ1−a 311、圧電素子912にはドライバ1−b 312、圧電素子921にはドライバ2−a 331、圧電素子922にはドライバ2−b 332が各々接続されている。前記4つのドライバ、ドライバ1−a 311、ドライバ1−b 312、ドライバ2−a 331、ドライバ2−b 332は圧電素子911、912、921、922に交流電力を印加し超音波振動を発生させる。
また、ドライバ1−a 311、ドライバ1−b 312には位相差調整部1 32が、ドライバ2−a 331、ドライバ2−b 332には位相差調整部2 34が各々接続されている。
また、ドライバ1−a 311、ドライバ1−b 312、ドライバ2−a 331、ドライバ2−b 332は位相差制御器35、振幅増幅器36に各々接続され、更に位相差制御器35、振幅制御器36は位置決めコントローラ37に接続されている。
また、位置決めコントローラ37にはスライダ11の位置を検出するリニアエンコーダ41が接続されている。
【0019】
位相差制御器35は振動梁3に必要な推力を得るために適当な大きさの進行波を励起させたり、スライダ11の移動方向を切り替えるために進行波の向きを変えたりするために、ドライバ1−a 311、ドライバ1−b 312とドライバ2−a 331、ドライバ2−b 332の位相差を制御している。
【0020】
また、振幅制御器36は進行波の振幅を制御することによって推力の大きさや速度を制御している。また、位置決めコントローラ37は、駆動・案内装置のスライダ11の位置を検出するリニアエンコーダ41からの位置情報に基づき、位相差制御器35及び振幅制御器36を用いて各ドライバ1−a、ドライバ1−b、ドライバ2−a、ドライバ2−bを制御するものであり、それによって、スライダ11を任意に駆動させることができるように構成されている。
【0021】
また、位相差調整部1 32、位相差調整部2 34について図3(a)を用いて説明する。
位相差調整部1 32にはドライバ1−a 311、ドライバ1−b 312を介して圧電素子911、912が接続されている。振動体5に大きな振動エネルギーを与えるための優れた振動方法の一例に圧電素子912と圧電素子911とを逆位相で振動させる方法が考えられる。
しかし、振動体5の加工精度や圧電素子911、912の貼付位置や貼付方法等によって、圧電素子912と圧電素子911とから発生する振動の位相差に誤差が生じて振動体5の振動エネルギーが最大にならない場合がある。
位相差調整部1 32は、振動体5の振動エネルギーが最大となるようにドライバ1−a 311、ドライバ1−b 312に印加する交流電力の位相を調整して、圧電素子911と圧電素子912とに精度の高い逆位相の超音波振動を発生させるように位相差を調節する。
また、位相差調整部2 34も位相差調整部1 32と同様の構成となっている。
図3(b)は振動パターンの他の実施例として、一方の振動体5に圧電素子911、912、913の圧電素子が3組取り付けられた構成としたものである。圧電素子が3組以上取り付けられた場合も各々に図示しないドライバを接続することにより圧電素子911、912、913を振動させる。
圧電素子が3組取り付けられた場合は、圧電素子911および913は同位相、圧電素子912は圧電素子911、913とは逆位相で振動させる必要がある。
しかし、図3(a)の実施例と同様に、振動体5の加工精度や圧電素子911、912、913の貼付位置や貼付方法等によって振動の位相差に誤差が生じるので、図示しない各ドライバを図示しない位相差調整部に接続することによって、振動体5の振動エネルギーが最大となるように圧電素子911、912、913の位相差を調節する。
【0022】
以上の構成を基にその作用を説明する。まず、左右一対の振動体5(駆動源)が超音波振動することにより振動梁3に進行波が発生する。この進行波に対してはスライダ11の上側摩擦板13および下側摩擦板15が摩擦接触しており、それによって、スライダ11に推力が発生する。その結果、スライダ11が適宜移動することになる。
【0023】
すなわち、位置決めコントローラ37は、駆動・案内装置のスライダ11の位置を検出するリニアエンコーダ41からの位置情報に基づき、位相差制御器35及び振幅制御器36を介して各ドライバ311、312、331、332を制御する。
その際、位相差調整部1 32が振動体5の振動エネルギーが最大になるように圧電素子911と912との位相差を調整し,振動体5を略共振状態にする。同様に位相差調整部2 34が振動体5の振動エネルギーが最大になるように圧電素子921と922との位相差を調整し,振動体5を略共振状態にする。
それによって、左右の振動体5(駆動源)が各々より大きな超音波振動することにより振動梁3により大きな進行波が発生し、それによって、スライダ11が適宜の方向により大きな推力で移動して所望の場所に位置決め停止するものである。
【0024】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではない。
まず、前記実施の形態の場合には、振動梁3と振動体5を一体化させたものを例に挙げて説明したが、それに限定されるものではない。大きな質量を持つ振動体が構成できれば良く、例えば、厚みの薄い振動梁を延長し、その上下に厚板を貼り付けることにより、大質量の振動体を得るようにしてもよい。
また、振動梁の両端の材質を変えて質量を大きくすることもできる。
また、前記実施の形態では一方の振動体5に2組または3組の圧電素子を設けた場合を例示したが、4組以上でもよいし、また、必ずしも一方と他方の振動体5、5設ける圧電素子の組数が同数でなくてもよい。
【符号の説明】
【0025】
1 支柱
3 振動梁
5 振動体
7 段付部
911 912 921 922 圧電素子
11 スライダ
13 上側摩擦板
15 下側摩擦板
17 摺動部材
19 摺動部材
21 締結具
23 弾性部材
25 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動梁に進行波を励起し、その振動によりスライダを駆動する超音波リニアモータにおいて、
前記振動梁の一方の端部に2組以上、他方の端部に一方の端部と同数組以上の駆動素子が付加されていて、略共振する駆動源が構成されていることを特徴とする超音波リニアモータ。
【請求項2】
請求項1記載の超音波リニアモータにおいて、
前記振動梁の両端にはより大きな振動体が設けられ、
前記振動体に前記駆動素子が付加されていて略共振する駆動源が構成されていることを特徴とする超音波リニアモータ。
【請求項3】
請求項2記載の超音波リニアモータにおいて、
前記振動体と前記振動梁が段付構造になっていることを特徴とする超音波リニアモータ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3記載の超音波リニアモータにおいて、
前記振動梁の一方の端部および他方の端部にそれぞれ付加された2組以上の駆動素子の位相差を調整する位相差調整部を設けたことを特徴とする超音波リニアモータ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4記載の超音波リニアモータを用いていることを特徴とする駆動・案内装置。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−59231(P2013−59231A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197028(P2011−197028)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(391008515)株式会社アイエイアイ (107)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】