説明

電子部品

【課題】基材内部に配設された電子回線の一部を切り取ることでその回線構成が変更される電子部品において、回路構成の変更後に残る配線の切断面が濡れることを防止し、外部環境によらず安定な動作が可能な電子部品を提供する。
【解決手段】配線4が、その一部が切り取られた後に残る当該配線4の切断面を基材8a,8bの切断面より内側に形成するための物理構造を有し、この物理構造の一例として、切り取り線6と交差する位置から切り取られる側とは反対方向へ予め定めた距離離れた位置にその断面積が他の部分より小さいくびれ部41を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁材料から成る基材と、この基材内部に埋設された電子回路とから成る電子部品に関し、特に、基材の一部と共に電子回路の一部が切り取られると電子回路の回路構成を変更する電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近距離無線通信技術は、その発展に伴い、様々な分野に利用されている。例えば、電車などの自動改札に利用されているICカードや、荷物などの管理に利用されているRFID(Radio Frequency IDentification)がある。近距離無線通信の導入によって、これまで手作業で行っていたデータ入力操作を自動化し、業務の迅速化及び低コスト化が実現されている。
【0003】
そして、この近距離無線通信技術を大規模災害時の救命救急作業で実施されるトリアージに利用しようという検討がなされている。トリアージとは、事故や災害などにより多くの傷病者が発生した現場において、救護員が多数の傷病者に対し治療・搬送の優先順位を決定していくことである。トリアージの実施に際しては、治療の優先順位(症状の度合い)及び個人情報が記載されたトリアージタグを傷病者の手首などに付けて、他の救護員への情報伝達手段としている。
【0004】
図7は、通常のトリアージタグの外観を示す図である。図7(a)は、通常のトリアージタグの表を示す図であり、図7(b)は、通常のトリアージタグの裏を示す図である。
【0005】
図7に示すように、通常のトリアージタグは、傷病者の個人情報や症状などを記入するための記入欄71と、傷病者の症状の度合いを色で示すための症状区分表示部72とが印刷されている。
【0006】
症状区分表示部72は、トリアージタグの端部から順に、緑、黄、赤、黒で色分けされており、各色の境界線にはミシン目が入っている。緑色は軽症(軽処置群:第3順位)、黄色は中等症(非緊急処置群:第2順位)、赤色は重症(最優先治療群:第1順位) 、黒色は死亡(不処置群:第4順位)を表し、トリアージを実施する救護員は、トリアージタグの症状区分表示部72から傷病者の症状に応じて不要な色の部分をもぎり取り、そのトリアージタグを当該傷病者に取り付ける。例えば、中等症の傷病者に対しては、取り付けるトリアージタグの緑色の部分のみを切り取って、トリアージタグの先端に黄色を残すようにする。これにより、第三者は、各傷病者に付されたトリアージタグの先端の色から当該各傷病者の症状区分を確認し、救急処置や搬送において優先順位を順守することになる。
【0007】
このようなトリアージタグにRFID技術を採用し、多数の傷病者に関する情報をネットワークシステムで管理することで、救護活動の効率を高めた技術が特許文献1,2及び3と非特許文献1に開示されている。
【0008】
特許文献1には、傷病者に装着する電子タグと、電子タグから傷病者識別コードを読み取るタグリーダを有する携帯端末と、この携帯端末とネットワークを介して接続したデータベースとから成り、データベースが各傷病者の識別コードとその症状とを対応付けて記憶し、医療従事者が携帯端末を用いて各傷病者の情報をデータベースに読み書きするシステムが開示されている。
【0009】
特許文献2には、電子ペンと、電子ペン専用ドットパターンが印刷されたトリアージタグを使用したシステムが開示されている。特許文献3には、トリアージタグにICタグを貼り付けて、負傷者の情報を管理する技術が開示されている。また、非特許文献1には、トリアージタグにRFIDタグを用いて負傷者の情報を管理するシステムと、その実証実験の結果について記載されている。
【0010】
しかし、特許文献1乃至3と非特許文献1のいずれに記載の技術においても、タグに負傷者情報を記録するための特別な情報入力端末が必要であり、その情報入力端末の読み取り精度や入力作業時間の短縮は、十分ではない。非特許文献1には、トリアージタグにRFIDタグを用いたシステムの実証実験結果として、救急作業員の情報入力時間の短縮は可能であるものの、入力端末を持つことによる作業性の悪化により、トリアージタグの取り出しやもぎり作業に時間を要することが指摘されている。
【0011】
一方で、ICカードにおいて、カード基材の切り取り部と一体に内部電子回路の一部を切り取ることで、その回路構成を変更するものが、特許文献4乃至7に開示されている。
【0012】
特許文献4には、パンチ器などにより所定の部分が切り取られると動作開始線が切断されて電源からの電源供給状態が遮断状態から通電状態に切り換わり、メモリ内容を初期値にリセットする電子荷札が開示されている。
【0013】
特許文献5には、リード線の接続/切断に応じて、カードの未使用状態(使用不可状態)/使用状態を通知するICカードが開示されている。特許文献6及び7には、分離可能部分を切り離すことで配線が切断されて機能が変化するICタグが開示されている。
【0014】
これら特許文献4乃至7に記載の技術を採用して、上述したトリアージタグを、その先端に残した症状区分に応じて異なる電気信号を発信するように構成することで、無線通信による情報管理の利便性と救護員の作業効率との両方を確保することが可能になった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2004−240797号公報
【特許文献2】特開2007−172010号公報
【特許文献3】特開2008−279032号公報
【特許文献4】特許第3052608号公報
【特許文献5】特許第3418322号公報
【特許文献6】特開2006−119899号公報
【特許文献7】特開2006−146886号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】岡田章人、外3名、“RFIDを利用したトリアージシステムの実証実験”、「情報処理学会論文誌」、Vol48、No.2、p.802−810
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献4乃至7に記載の関連技術では、いずれも、配線の一部を切り取った後に残る当該配線の切断面が外部に露出したままになるので、この配線の切断面が濡れてしまうと、短絡などの動作不良が発生してしまうという不都合があった。
【0018】
[本発明の目的]
そこで、本発明は、上記関連技術が有する不都合を改善し、基材の一部と共にその内部に埋設された電子回路の一部が切り取られることでその回路構成を変更するように構成された電子部品において、劣悪な外部環境下で使用しても変更後の回路構成を維持し、外部環境によらず安定的に動作可能な電子部品を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するため、本発明の電子部品は、絶縁材料から成る板状の基材と、この基材内部に埋設され導電性材料から成る配線を含む電子回路とを有し、前記基材には前記電子回路を分断するための切り取り線が設けられており、前記切り取り線に沿って前記基材の一部と一体にその内部に設けられた前記電子回路の一部が切り取られた場合に当該電子回路の回路構成を不可逆的に変更するように構成された電子部品であって、前記電子回路における前記配線が、前記基材の切り取り線で切り取られた後に残った方の当該配線の切断面が前記基材の切断面より内側に設定される物理構造を有したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の電子部品は、以上のように構成したため、これにより、基材内部に配設された電子回路の一部を切り取った後に残る配線の切断面が外部に露出することはないので、雨などに濡れるような環境下で使用しても回路設定を正常に維持することができ、外部環境によらず安定した動作が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)は、本発明にかかる一実施形態の電子部品を備えた電子トリアージタグの表を示す外観図である。(b)は、その電子トリアージタグの内部電子回路を示す透視図である。(c)は、その電子トリアージタグの裏面を示す外観図である。
【図2】(a)は、図1に開示した実施形態の電子トリアージタグにおける領域Aの構造の一例を示す平面図である。(b)は、その領域Aの平面図をX−X’線で切断した場合の断面図である。
【図3】図1に開示した実施形態の電子トリアージタグの製造方法の一例を示す説明図である。
【図4】(a)は、図1に開示した実施形態の電子トリアージタグにおける領域Aの構造の他の例を示す平面図である。(b)は、その領域Aの平面図をY−Y’線で切断した場合の断面図である。
【図5】(a)は、図1に開示した実施形態の電子トリアージタグにおける領域Aの構造の他の例を示す平面図である。(b)は、その領域Aの平面図をZ−Z’線で切断した場合の断面図である。
【図6】図1に開示した構造を有する電子トリアージタグの製造方法の一例を示す説明図である。
【図7】通常のトリアージタグの構成を示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明にかかる一実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0023】
図1は、本発明に係る一実施形態の電子部品として、電子トリアージタグ1の構成を示す図である。図1(a)は、本実施形態の電子トリアージタグ1の書き込み欄が印刷された面を示す外観図である。図1(b)は、電子トリアージタグ1の内部電子回路の構成を示す透視図である。図1(c)は、電子トリアージタグ1の裏面を示す外観図である。
【0024】
図1に示すように、電子トリアージタグ1は、表紙基材8a及び裏紙基材8bと、この表紙基材8a及び裏紙基材8bの間に埋設された電子回路20とから成り、表紙基材8a及び裏紙機材8bには電子回路20を分断するための複数の切り取り線6が設けられており、この切り取り線6に沿って基材8a及び8bの一部と一体にその内部にある電子回路20の一部が切り取られた場合に、電子回路20の回路構成を不可逆的に変更するように構成されている。そして、電子回路20における配線4が、切り取り線6で切り取られた後に残る配線4の切断面が基材8a及び8bの切断面より内側に設定される物理構造を有している。
【0025】
図1(a)に示すように、表紙基材8aの表には、傷病者情報の記入欄と、傷病者の症状区分(0、I、II、III)を黒,赤,黄,緑で提示するための症状区分表示部が印刷されている。各切り取り線6は、症状区分表示部の「黒(0)」と「赤(I)」の境界線,「赤(I)」と「黄(II)」の境界線,「黄(II)」と「緑(III)」の境界線それぞれに設けられており、表紙基材8a及び裏紙基材8bは、各切り取り線6で切り取り可能な切取可能部分9a,9b,9cを有している。
【0026】
電子トリアージタグ1の内部電子回路20は、表紙基材8a及び裏紙基材8bの本体部分と切取可能部分9a,9b,9cそれぞれとに個別に埋設された抵抗体5a,5b,5c,5dと、抵抗体5b,5c,5dを互いに電気的並列に接続しこれに対して抵抗体5aを直列に接続した配線4と、この配線4に接続して電力を供給する電池3と、抵抗体5aの電圧をモニタリングしてそのモニタリング結果を示す信号を発信するための駆動回路及びアンテナを含むICチップ2とから成る構成である。
【0027】
電子トリアージタグ1は、基材8a及び8bにおける切取可能部分9a,9b,9cのいずれかと一体に抵抗体5b,5c,5dのいずれかをユーザが切り取ることで電子回路10の回路構成を変更できるように構成されている。具体的には、切取可能部分9a,9b,9cのいずれかと一体にその内部の抵抗体5b,5c,5dのいずれかと配線4の一部が切り取られることにより並列回路の合成抵抗が変化し、ICチップ2が、この合成抵抗に応じた信号を発信するため、症状区分表示部の端に残った症状区分によって異なる信号をタグリーダ装置に送ることができる。これにより、各負傷者の症状区分を効率的に管理・集計することが可能になった。
【0028】
また、配線4は、切取可能部分9a,9b,9cのいずれかと一体に電子回路20の一部が切り取られた後に残る当該配線4の切断面が基材8a及び8bの切断面よりも内側に設定される物理構造を有している。これにより、切取可能部分9a,9b,9cを切り離した後に、配線4の切断面が外部に露出せず、雨水などの影響による短絡や動作不良を防止することができる。
【0029】
また、電子トリアージタグ1は、切り取り線6に、表紙基材8a及び裏紙基材8bを貫通する孔を断続的に配置したミシン目を有するので、切取可能部分9a,9b,9cの人手による切り取りを可能にしている。このミシン目の孔は、表紙基材8aの表面にV形状の切込み(V溝)を入れたものであってもよい。
【0030】
電池3は、薄型のラミネート電池や自己発電デバイスであれば適用可能である。配線4は、粒径が数ナノメートルのAg微粒子の焼結体で形成し、抵抗体5は、粒径が数マイクロメートルのAg微粒子の焼結体で形成されている。また、配線4は、切り取り線6に形成されたミシン目の各貫通孔の間を通り、露出しないように、ミシン目の孔の間隔より細い幅になっている。また、図1(b)に示すように、配線4の配線パターンは、各切取可能部分9a,9b,9c毎にクランク形状を有しており、これにより、切取可能部分9a,9b,9cのいずれかが切り取られる際に配線4が別の部分で切断されて引き抜かれてしまうことを防止できる。
【0031】
また、電子トリアージタグ1は、表紙基材8aの裏面に配線4及び抵抗体5a,5b,5c,5dを形成してICチップ2及び電池3を配置し、その表紙基材8aの裏面に電子回路20を覆うように裏紙基材8bが貼付けられた構成であり、表紙基材8a及び裏紙基材8bは、外部からの水の浸潤を防ぐために、耐水性の紙又は有機材料で形成されたものか、あるいは、露出面に撥水加工が施されている。
【0032】
またさらに、電子トリアージタグ1は、使用前に電力を消費しないように、電池3の外部端子にばね接点を採用し、導電配線4とばね接点の間には絶縁シートを挟み、使用開始時に絶縁シートが引き抜かれた場合に、電子回路20への電力供給を開始するように構成してもよい。
【0033】
次に、上述した配線4の物理構造について具体例を示して詳細に説明する。
【0034】
[配線構造例1]
図2は、図1(b)に示す電子トリアージタグ1における、配線4の構造の一例を示す図である。図2(a)は、図1(b)に示す電子トリアージタグ1における領域Aの平面図の一例であり、図2(b)は、図2(a)に示す領域AをX−X’破線で切断した場合の断面図である。
【0035】
図2(a)に示すように、配線4は、上述した物理構造として、切り取り線6の位置から切り取る側とは反対方向へ規定の距離離れた位置に断面積が他の部分より小さいくびれ部41を有している。これにより、切取可能部分9a,9b、9cのいずれかが切り取り線6のミシン目に沿って切り取られる場合に、配線4では断面積の小さいくびれ部41に応力が集中し、そのくびれ部41の位置で切断されるため、基材8a,8bの切断面と配線4の切断面とが異なる平面上に形成されることになる。
【0036】
また、図2(b)に示すように、電子トリアージタグ1は、表紙基材8aの裏面に多孔膜10を形成し、この多孔膜10上に配線4を形成した構成である。これにより、配線4が多孔膜10内に浸透し、配線4と表紙基材8aとを高い密着度で接着できる。ただ、切り取り線6を含む規定の幅(例えば、3〜5ミリの幅)に沿った領域の多孔膜10上には、撥水膜7が形成されており、これによって、切り取り線6の近傍では、配線4と多孔膜10との密着度は低くなっている。
【0037】
そして、裏紙基材8bは、配線4及び表紙基材8aと接着剤11を介して接着しているものの、撥水膜7上の部分には接着剤11は塗布されていない。したがって、図2(a)に示すように、配線4のくびれ部41を、撥水膜7の電池3側の端部上の位置に設けることで、切り取られる際に配線4がくびれ部41の位置で切断され易くなっている。
【0038】
ここで、この電子トリアージタグ1における領域Aの構成については、各切り取り線6と配線4が重なる位置の周辺領域のすべてに共通した構成である。
【0039】
このような電子トリアージタグ1は、切取可能部分9a,9b、9cのいずれかと一体に抵抗体5b,5c,5dのいずれかが切り取られた場合に、配線4の切断面が基材8a,8bの切断面よりも電池3側に形成されて外部に露出しないため、雨などに濡れるような環境で使用しても、配線4の切断面が濡れることがなくなり、安定して動作することができる。また、基材8aの切断面と配線4の切断面の間の基材8a内面に撥水膜7がコーティングされているので、切断端部からタグ内部への水の浸入を防ぐことができる。
【0040】
ここで、図2(a)に示す配線4のくびれ部41の形状は、曲線形状であるが、直線形状であってもよく、また、複数のくびれを並べた形状でもよい。配線4の切り取り線6の位置からくびれ部41までの長さは、短すぎるとその効果が現れず、離れすぎるとくびれ部41以外の位置で切断されてしまう恐れがあるため、実証に基づいた適切な長さに設定する(例えば、1mm〜10mm)。
【0041】
また、上述した撥水膜7は、撥油膜であってもよく、配線4を形成する際に使用する溶剤の溶媒に水が使用されている場合は撥水膜、有機溶剤が使用されている場合は撥油膜にするのが望ましい。また、撥水・撥油膜は、切り取り線6近傍の配線4と基材8aとの密着度を小さくするために設けるものでもあり、切り取り線6近傍の撥水・撥油性が他の領域のそれよりも十分高ければ、切り取り線6近傍以外の領域に対しても、撥水・撥油処理を行ってもよい。
【0042】
次に、本実施形態の電子トリアージタグ1の製造方法について説明する。図3(a)〜(d)は、本実施形態の電子トリアージタグ1の製造方法の一例における各工程での構成を示す側面図である。
【0043】
まず、図3(a)に示すように、表に撥水コーティング及び図柄印刷が施された紙(表紙)8aの裏面に数um〜十数umの連続孔からなる空隙を持った多孔膜10を形成する。この多孔膜10は、有機微粒子を含有させた有機溶剤を塗布し、熱処理により焼結させて形成するか、あるいは、発泡微粒子を含有した有機溶剤を塗布した後、熱処理して形成することができる。そして、多孔膜10上の特定の箇所に撥水性の溶媒を塗布し乾燥させて撥水膜7を形成する。
【0044】
続いて、図3(b)に示すように、金属微粒子を含有した第1の溶剤を任意のパターンになるように印刷し、熱処理することで配線4を形成する。このとき、第1の溶剤の一部は多孔膜10内部の空隙へ浸透するため、アンカー効果により、焼結した配線4の配線パターンと紙(表紙)8aとの密着性を向上させることができる。また、撥水処理をした箇所には溶剤は浸透しないため密着力は小さくなる。
【0045】
そして、図3(c)に示すように、金属微粒子を含有した第2の溶剤を任意のパターンになるように印刷、熱処理することで抵抗体5a,5b,5c,5d(図3には、1つの抵抗体5として記載)を形成すると共に、ICチップ2及び内蔵電池3を配線4に接続する。
【0046】
このようにして、表紙基材8aの面上に、電子回路20を形成する。ここで、配線4及び抵抗体5a,5b,5c,5dを形成する金属微粒子は、金,銀,銅,白金,パラジウム,イリジウム,チタン,ケイ素の中の少なくとも1種類の金属、または2種類以上の金属からなる合金あるいは有機金属化合物を用いることが望ましく、同一組成であることが望ましい。また、配線4の体積抵抗率は抵抗体5の体積抵抗率よりも低い方が望ましく、特に、配線4の形成に用いた第1の溶剤に含有される金属微粒子の粒径は、抵抗体5に用いられた第2の溶剤に含有される金属微粒子の粒径よりも小さく、金属微粒子の組成は同一組成である方が望ましい。配線4の形成及び抵抗体5の形成の印刷及び熱処理工程は共通化することもできる。
【0047】
続いて、図3(d)に示すように、電子回路20を覆うように、接着剤11を介して裏紙基材8bを貼り付けた後、任意の切り取り線6に沿って断続的に貫通孔6aを設けてミシン目を形成する。
【0048】
このように、本実施形態の電子トリアージタグ1は、配線4を印刷工法で製造することで低コスト化が可能になる。
【0049】
ここで、図2(a)では、配線4のくびれ部41が、配線幅を小さくした形状になっているが、これに限らず、他の部分よりも厚さを薄くした形状であってもよく、さらには、幅と厚さをともに小さくした形状であってもよい。図4(a)は、配線4にその厚さを薄くした形状のくびれ部42を設けた場合の領域Aの平面図であり、図4(b)は、図4(a)に示す領域AをY−Y’破線で切断した場合の断面図である。
【0050】
図4に示すような配線4のくびれ部42を形成する方法としては、表紙基材8aに、エンボス加工等により凸形状の段差を設けるか、あるいは、絶縁性樹脂を塗布することにより段差を設けた後、多孔膜10を形成し配線4の印刷を行えば、配線4の溶剤は自重により広がり凸形状の先端には薄く塗布されるので、厚さが薄いくびれ部42を形成することができる。この凸形状は、一つに限定するものではなく複数形成してもよく、直線形状であってもよい。
【0051】
[配線構造例2]
一方で、配線4は、上述した物理構造として、くびれ部41(又は42)に代えて、切り取り線6と交差する位置から切り取られる側とは反対方向へ予め定めた距離離れた位置までの部分を高弾性材料で構成し引張応力が生じた状態で配設された構造を有してもよい。
【0052】
図5(a)は、配線4が高弾性材料で構成された場合の領域Aの平面図であり、図5(b)は、図5(a)に示す領域AをZ−Z’破線で切断した場合の断面図である。ここで、図5(b)においては、配線4が基材8aと多孔膜10を介して接着されているが、多孔膜10ではなく、接着剤11で配線4と基材8aを接着した構成であってもよい。
【0053】
この配線4を形成した高弾性材料は、金属微粒子と高弾性の有機材料と揮発性の高い有機溶媒の混合物であり、金属微粒子が高弾性率の有機材料から成る母材に分散されるため、高弾性率を有した性質を持っている。
【0054】
この配線4の高弾性材料から成る部分は、張力Tを受けた状態で実装されているので、切り取り線6で切断された場合に、収縮して、配線4の切断面を基材8a,8bの切断面より内側に収めることができる。これにより、鋏やカッターなどの刃物を用いて切断した場合でも、切断後に配線4の切断面をタグ内部に形成することが可能になった。
【0055】
図6(a)〜(d)は、配線4に高弾性材料から成る部分を設ける場合の電子トリアージタグ1の製造方法の一例における各工程での構成を示す側面図である。
【0056】
本例の電子トリアージタグ1の製造方法は、まず、図6(a)に示すように、弾性率の高い転写フィルム13上に、金属微粒子と高弾性率の有機材料と揮発性の高い有機溶媒の混合物を任意の配線パターンになるように印刷し、乾燥させる。
【0057】
続いて、図6(b)に示すように、予め接着剤11及び撥水膜7を形成した紙(表紙)8aに、配線パターンの形成された転写フィルム13を反転させ、且つ、転写フィルム13が伸びるように引っ張った状態で貼付ける。
【0058】
そして、図6(c)に示すように、接着剤11が十分固化した後、転写フィルム13を剥がす事で、紙(表紙)8aに配線4の配線パターンを転写する。この後、図6(d)に示すように、抵抗体5の形成、ICチップ2及び内蔵電池3の接続、及び、紙(裏紙)8bの貼付け、貫通孔6aの形成を行う。
【0059】
このような製造方法により形成される電子トリアージタグ1の配線4は、張力Tがかかった状態で実装されるため、完成後も内部応力が残存する。したがって、基材8a,8bと配線4を同一平面で切断した場合でも、内部応力の作用で配線4は収縮して元々の長さに戻る。すなわち、切り取った時点では、基材8a,8bの切断面と配線4の切断面は同一平面にあるが、配線4が収縮することにより、配線4の切断面は基材8a,8bの切断面よりも内側に移動することになる。よって、切り取り線6を鋏やカッターなどの刃物で切断した場合でも、配線4の切断面をタグ本体内に収めることが可能となる。
【0060】
以上のように、本実施形態の電子トリアージタグ1は、板状の基材8aと、この基材8aの一方の面上に形成された電子回路20と、この電子回路20を覆うように基材8aに重なって接着された基材8bとから成り、基材8a及び8bに設けられた切り取り線6で切り取り可能な切取可能部分9a,9b,9cのいずれかと一体に電子回路20の一部が切り取られることで、電子回路20の回路構成を非可逆的に変更するように構成されており、この電子回路20における配線4が、切り取れた後に残る当該配線4の切断面を基材8a及び8bの切断面とは異なる平面内に形成するための物理構造を有している。
【0061】
配線4は、上述した物理構造として、基材8a,8bの切り取り線6と重なる位置から切り取られる側とは反対方向へ予め定めた距離離れた位置に他の部位より断面積が小さいくびれ部41(または42)を有する構造か、あるいは、少なくとも切り取り線6と重なる位置から切り取られる側と反対方向へ位置までの部分を高弾性率の材料で形成した構造を有している。
【0062】
配線4にくびれ部41(または42)を設けた場合、基材8a,8bは切り取り線6に沿って切断されるものの、配線4はくびれ部41(または42)の位置で切断されるため、配線4の切断面が基材8a,8bの切断面より内側に形成される。
【0063】
また、配線4に高弾性材料から成る部分を設けた場合は、基材8a,8bと配線4を同一平面で切断しても、配線4が内部応力により収縮するため、配線4の切断面が基材8a,8bの切断面より内側に移動することになる。
【0064】
またさらに、本実施形態の電子トリアージタグ1は、基材8aの配線4に対向する面の切り取り線6近傍の領域に形成された撥水膜7(又は撥油膜)を含む。これにより、切り取り線6近傍の配線4と基材8aとの密着性を小さくすると共に、切り取り後に外部からの水の浸入を防ぐことができる。配線4の基材8aとの密着性が低減されると、配線4にくびれ部41(または42)を設けた場合はそのくびれ部41(または42)に応力を集中させることができ、配線4に高弾性材料部分を設けた場合は切断後に配線4が縮みやすくなる。
【0065】
このように、本実施形態の電子トリアージタグ1によれば、切取可能部分9a,9b,9cのいずれかを切り離した場合に、配線4の切断面を基材8a,8bの切断面よりも内側の位置に形成し、配線4の切断面が外部に露出しないため、配線4の切断面が濡れることはなくなり、雨水などの影響による短絡など、動作不良の発生を防止することができ、また、配線4の腐食も防止することができる。
【0066】
ここで、本実施形態の電子トリアージタグ1は、基材8a及び8bの一部と一体に内部回路20の一部をユーザが切り取ることにより、その回路構成を変更可能にした構成であって、この切り取りの際に残る配線4の切断面を基材8a,8bの切断面より内側に形成するための物理構造を配線4に設けた構成であれば、上述した構成に限らず、基材8a,8bの形状や、切り取り線6の位置及び個数、配線4の配線パターンなどの内部電子回路20の回路構成などについては、図1と異なる構成であってもよい。よって、ICチップ2にアンテナを内蔵させることなく、配線4の形成と同一工程で基材8a上にアンテナをパターニングして形成する構成であってもよい。
【0067】
以下に、上述した本実施形態における技術的内容の要点を付記する。尚、本実施形態の一部又は全部は、以下に付記した内容にまとめられるが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではない。
【0068】
[付記1]絶縁材料から成る板状の基材と、この基材内部に埋設され導電性材料から成る配線を含む電子回路とを有し、前記基材には前記電子回路を分断するための切り取り線が設けられており、前記切り取り線に沿って前記基材の一部と一体にその内部に設けられた前記電子回路の一部が切り取られた場合に当該電子回路の回路構成を不可逆的に変更するように構成された電子部品であって、前記電子回路における前記配線が、前記基材の切り取り線で切り取られた後に、残った方の当該配線の切断面が前記基材の切断面より内側に設定される物理構造を有したことを特徴とする電子部品。
[付記2]付記1に記載の電子部品において、前記配線は、前記物理構造として、前記基材の切り取り線と交差する位置から切り取られる側とは反対方向へ予め定めた距離離れた位置にその断面積が他の部分より小さいくびれ部を有したことを特徴とする電子部品。
[付記3]付記2に記載の電子部品において、前記配線における前記くびれ部は、当該配線の平面幅を他の部分より細くした形状であることを特徴とする電子部品。
[付記4]付記2に記載の電子部品において、前記配線における前記くびれ部は、当該配線の厚さを他の部分より薄くした形状であることを特徴とする電子部品。
[付記5]付記1に記載の電子部品において、前記配線は、前記物理構造として、前記基材の切り取り線と交差する位置から切り取られる側とは反対方向へ予め定めた距離離れた位置までの部分を高弾性材料で構成し引張応力が生じた状態で配設したことを特徴とする電子部品。
[付記6]付記2乃至5のいずれか一つに記載の電子部品において、前記基材の前記配線に対向する面における前記切り取り線を含む領域に撥水膜が形成されたことを特徴とする電子部品。
[付記7]付記6に記載の電子部品において、前記基材が、前記切り取り線で切り取り可能な切取可能部分を複数有すると共に、前記電子回路は、前記基材の各切取可能部分内に少なくとも1つずつ設けられた抵抗体を含み、前記配線が前記各抵抗体を互いに電気的並列に接続した構成であることを特徴とする電子部品。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、基材及び内部回路の一部が切り取られることでその回路構成が変更され機能が変わる電子タグに適用できる。
【符号の説明】
【0070】
1 電子トリアージタグ
2 ICチップ
3 電池
4 配線
5a,5b,5c,5d 抵抗体
6 切り取り線
6a ミシン目の孔
7 撥水膜
8a 表紙基材
8b 裏紙基材
9a,9b,9c 切取可能部分
10 多孔質膜
11 接着剤
13 転写フィルム
20 電子回路
41,42 配線のくびれ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁材料から成る板状の基材と、この基材内部に埋設され導電性材料から成る配線を含む電子回路とを有し、前記基材には前記電子回路を分断するための切り取り線が設けられており、前記切り取り線に沿って前記基材の一部と一体にその内部に設けられた前記電子回路の一部が切り取られた場合に当該電子回路の回路構成を不可逆的に変更するように構成された電子部品であって、
前記電子回路における前記配線が、前記基材の切り取り線で切り取られた後に残った方の当該配線の切断面が前記基材の切断面より内側に設定される物理構造を有したことを特徴とする電子部品。
【請求項2】
請求項1に記載の電子部品において、
前記配線は、前記物理構造として、前記基材の切り取り線と交差する位置から切り取られる側とは反対方向へ予め定めた距離離れた位置にその断面積が他の部分より小さいくびれ部を有したことを特徴とする電子部品。
【請求項3】
請求項2に記載の電子部品において、
前記配線のくびれ部は、その線幅が他の部分より細いことを特徴とする電子部品。
【請求項4】
請求項2に記載の電子部品において、
前記配線のくびれ部は、その厚さが他の部分より薄いことを特徴とする電子部品。
【請求項5】
請求項1に記載の電子部品において、
前記配線は、前記物理構造として、前記基材の切り取り線と交差する位置から切り取られる側とは反対方向へ予め定めた距離離れた位置までの部分を高弾性材料で構成し引張応力が生じた状態で配設したことを特徴とする電子部品。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれか一項に記載の電子部品において、
前記基材の前記配線に対向する面における前記切り取り線を含む領域に撥水膜が形成されたことを特徴とする電子部品。
【請求項7】
請求項6に記載の電子部品において、
前記基材が、前記切り取り線で切り取り可能な切取可能部分を複数有すると共に、
前記電子回路は、前記基材の各切取可能部分内に少なくとも1つずつ設けられた抵抗体を含み、前記配線が前記各抵抗体を互いに電気的並列に接続した構成であることを特徴とする電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−23246(P2012−23246A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160853(P2010−160853)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】