説明

エアサスペンション装置

【課題】 バルブを駆動するソレノイド、加速度センサおよび電子コントローラ等を不要にし、安価な装置を提供すること
【解決手段】 車体と各車輪との間に設けられ車体を支持するエアスプリング3を備えたエアサスペンション装置において、エアスプリング3は、エアスプリング室34、35を内部に形成するハウジング21、23及び24と、エアスプリング室を第1及び第2のエアスプリング室34、35に分割し、第1及び第2のエアスプリング室に連通する連通孔27を有する区画部材26と、連通孔27を開閉して第1及び第2のエアスプリング室間を連通又は遮断し、バネ定数を切り換えるバルブ31と、車体に作用する加速度によって作動する振り子29とを備え、バルブ31は、振り子の作動に連動して機械的に開閉作動するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアスプリングを有するエアサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速走行の頻度が高い観光バスや大型の乗用車等では、その車体の懸架装置にエアサスペンションを用いて乗り心地を向上させたエアサスペンション車が主流となっている。エアサスペンション車は、エアスプリングに圧縮性流体である空気を用いているため、リーフスプリングを用いた通常の装置に比べて、優れた乗り心地を提供することが出来る。
【0003】
このようなエアサスペンションを使用すれば、エアスプリング内の空気室の容積を調整することにより、エアスプリングのばね定数を調整できる。例えば非特許文献1では、エアスプリングを用いた電子制御エアサスペンションが提案されている。エアスプリングは、ショックアブゾーバと一体で構成されたメインチャンバーと、別体のサブタンクと、メインチャンバーおよびサブタンク間を連通又は遮断し、エアボリュームを2段階に切り換えてバネ定数を切り換える電磁弁とを備える。走行状況を検出する各種センサ(例えば加減速センサ、操舵角センサ)の信号に応じて、適切な懸架状態を得るように電磁弁が開閉制御される。電磁弁を開状態とすることで、メインチャンバーとサブタンクとが連通し、エアボリュームが大となることによってばね定数が小となり(ばね定数ソフト)、一方電磁弁を閉状態とすることで、メインチャンバーとサブタンクとの連通が断たれ、エアボリュームが小となってばね定数が大となる(ばね定数ハード)。
【非特許文献1】「車両運動性能とシャシーメカニズム」(1994年9月10日発行、株式会社グランプリ出版)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来の電子制御エアサスペンション装置では、より高度の制御が可能であるが、車両の加速度を検出するための加速度センサ、エアスプリングの容積を変えてばね定数を切り換える複数の電磁弁および、電磁弁を駆動制御するコントローラ(信号処理回路や演算プログラム)が必要であった。その結果、この装置のコスト高を招く事となり、複雑な機能に対する制御回路や制御ソフトがより複雑化し、その信頼性を確保するためには多くの配慮とコストが掛かることとなっている。
【0005】
このため、コスト低減のためには、機能を限定することが必要となる。高級な観光バスには、高機能で高価格なエアサスペンション装置でも効果的であるが、身近なマイクロバスやレジャービークルに対しては、乗り心地の良さと共に、対ローリング性や対ピッチング性の改善だけでも効果をあげることが出来る。さらに、各要素の簡素化も必要であるが、自動車部品にはその安全性と信頼性が要求されるため、その品質を低下させることなく簡素化するには自ずから限度がある。
【0006】
そこで、本発明は、電気部品を削減することによって、コスト低減と信頼性の向上を図ることをその技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために請求項1の発明において講じた技術的手段は、エアスプリングを、エアスプリング室を内部に形成するハウジングと、前記エアスプリング室を第1及び第2のエアスプリング室に分割し、前記第1及び第2のエアスプリング室に連通する連通孔を有する区画部材と、前記連通孔を開閉して前記第1及び第2のエアスプリング室間を連通又は遮断し、バネ定数を切り換えるバルブと、前記車体に作用する加速度によって作動する振り子とから構成し、前記バルブを、前記振り子の作動に連動して機械的に開閉作動するように構成したことである。
【0008】
この技術的手段によれば、バルブを車体加速度により作動する振り子の作動に連動して機械的に開閉するように構成したので、従来使用していたバルブを駆動するソレノイド、加速度センサおよび電子コントローラ等が不要になり、装置が安価になる。
【0009】
請求項1において、請求項2に示すように、前記振り子は、前記車体に加速度が作用しない状態において前記車体の略上下方向に延び、前記振り子の上端には前記バルブが一体的に設けられ、前記振り子の下端には重心位置を設定するバランサが一体的に設けられていると、好ましい。この構成によれば、より簡単な構成でエアスプリング室のばね定数を制御できる。
【0010】
請求項1において、請求項3に示すように、前記振り子が、前記区画部材に固定された枢支部材に揺動自在に枢支され、前記車体に加速度が作用しない状態において重力により前記バルブを開放状態に保持するように構成されると、好ましい。この構成によれば、より簡単な構成でエアスプリング室のばね定数を制御できる。
【0011】
請求項1において、請求項4に示すように、前記振り子は、前記車体に作用する横方向の加速度によって作動するように構成され、前記バルブは、所定の横方向加速度が前記振り子に作用したときに前記連通孔を閉じるように構成されると、好ましい。この構成によれば、簡単な構成で車両のローリングを抑制できる。
【0012】
請求項1において、請求項5に示すように、前記振り子は、前記車体に作用する前方向の加速度に作動するように構成され、前記バルブは、所定の前方向加速度が前記振り子に作用したときに前記連通孔を閉じるように構成されると、好ましい。この構成によれば、簡単な構成で車両のピッチングを抑制できる。
【0013】
請求項1において、請求項6に示すように、前記振り子は、前記車体に作用する横方向および前方向の加速度に作動するように構成され、前記バルブは、所定の横方向加速度および前方向加速度が前記振り子に作用したときに前記連通孔を閉じるように構成されると、好ましい。この構成によれば、簡単な構成で車両のローリングおよびピッチングを抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、バルブを車体加速度により作動する振り子の作動に連動して機械的に開閉するように構成したので、従来使用していたバルブを駆動するソレノイド、加速度センサおよび電子コントローラ等が不要になり、装置が安価になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を基に説明する。図1は、本発明のエアスプリングの構成を示す断面図。図2は、本発明のエアスプリングの作動を示す断面図で、右方向に遠心力が作用している場合を示す。図3は、本発明のエアスプリングの作動を示す部分断面図で、左方向に遠心力が作用している場合を示す。図4は、本発明のエアサスペンション構成を示すシステム構成図である。
【0016】
図4のシステム構成図に示した本実施例は、前後左右の全ての車輪ともエアサスペンション方式の懸架装置の例で示している。その構成について右後輪を例に説明する。車輪1は、ダブルウイッシュボーン方式のリンク機構によって車体に支持されている。このリンク機構のロアアーム2と車体の間にはエアスプリング3が接続され、地面に接する車輪1を介して車体を支えるばね機構を構成する。このエアスプリング3は、配管4を介してレベリングバルブ5に接続されている。このレベリングバルブ5は、揺動レバー6とセンシングロッド7を介してロアアーム2の動きを検知し、配管8を介してエア供給源9からエアスプリング3への空気の供給や、エアスプリング3から大気への空気の排出を行うことが出来る。上記は、右後輪を例に説明したが、左後輪は右後輪と対象的な配置とし、前輪は後輪と同じ構成としている。
【0017】
エアスプリング3は、図1に示すように、ゴムなどの弾性体で成型されているブーツ21(ハウジング)を有する。ブーツ21の上端は、バンド22によって車体に連結された上部支持体23(ハウジング)に密封固着され、ブーツ21の下端は、ロアアーム2と係合しているピストン24の外周とオーバーラップするようにピストン24にリング25で密封固着されている。ブーツ21および上部支持体内にはメインエアチャンバ34が形成され、ピストン24内にはサブエアチャンバ35が形成されている。なお、上部支持体23にはニップル36が設置され、配管4を介してメインエアチャンバ34内の空気を補充又は排出することが出来る。
【0018】
ピストン24の上端にはプレート26(区画部材)が固定され、メインエアチャンバ34とサブエアチャンバ35とを区画している。
【0019】
プレート26には、メインエアチャンバ34とサブエアチャンバ35に連通するバルブ穴(連通孔)27が設けられていると共に、軸受け28(枢支部材)が固着されている。振り子29は、その下端にバランサ30を有し、上端にはバルブ穴27を開閉するバルブ31が一体的に形成されており、ピン32によって軸受け28に揺動可能な状態で枢支されている。振り子29の重心33は、ピン32の下方よりややピストンの外径側に位置する様に設定され、重力によってバルブ31は、常に開いた状態を保つようにしている。
【0020】
次に、エアスプリング3に遠心力などの加速度が付加された場合の作動について説明する。図2は、右向きに遠心力が掛かった場合のエアスプリング3の作動状態を示している。右向きの遠心力37は振り子29に掛かり、その重心位置に右向きの力を付加する。これにより、ピン32により回転支持されている振り子29は反時計方向に揺動し、さらにはバルブ31がバルブ穴27を閉じる状態に達する。この状態では、メインエアチャンバ34とサブエアチャンバ35は分離された状態となり、エアスプリング3を圧縮させる場合のばね作用は、メインエアチャンバ34内の空気のみを圧縮することになり、エアスプリングとしてのばね定数は大きくなる。
【0021】
また、遠心力が左に働いた場合は、図3に示すように、左向きの遠心力38によって、振り子29は、時計方向に揺動する。この揺動によってバルブ31はより開放する方向に作動し、閉じられることは無い。振り子29の揺動は、プレート26のバルブ穴27の一端、即ちストッパ39に当接することによって規制される。この状態では、メインエアチャンバ34とサブエアチャンバ35は連通された状態となり、エアスプリング3を圧縮させる場合のばね作用は、メインエアチャンバ34内の空気とサブエアチャンバ35の両方の空気を圧縮することになり、エアスプリングとしてのばね定数は小さくなる。
【0022】
上記は右後輪を例に説明したが、左後輪は右後輪と対象であるため、左向きに遠心力が付加された場合に作動する。一方、左右の前輪はそれぞれの後輪と同じ構造とすることによって、その作動は、後輪と同じ作動を行う。
【0023】
次に、エアサスペンションの作動を説明する。車への乗車や積載などによって車体の荷重が増加したとき、その荷重は各輪に配分され、エアスプリング3にその荷重が印加される。これによりメインエアチャンバ34とサブエアチャンバ35内の空気は圧縮され、その体積を減じることで空気圧を高め、印加された荷重に対抗する。遠心力などの加速度が発生していない場合は、メインエアチャンバ34とサブエアチャンバ35が連通しているため、その空気量の容積が大きく、緩やかなばね作用として働く。一方、遠心力などの加速度が発生している場合は、メインエアチャンバ34とサブエアチャンバ35の連通が遮断されているため、その空気量の容積が小さく、剛性の高いばね作用として働く。
【0024】
一方、車体の沈みを、ロアアーム2の変化として検知したレベリングバルブ5は、配管8を介してエア供給源9からエアスプリング3へ空気を供給し、メインエアチャンバ34には空気が追加充填される。これによってエアスプリング3はその空気圧を高め、印加された負荷に打ち勝って伸長し、その設定位置に回復する。この作用は各輪が独立して作動し、全体としては当初の位置まで車体を持ち上げて車高調整機能を完了する。また、車からの降車や荷降ろしによって車体の荷重が減少した場合には、エアスプリング3のばね作用によって伸長するも、レベリングバルブ5がエアスプリング3内の空気を排出し、充填していた空気の圧力を減じて、その設定位置まで収縮する。これにより、エアスプリング3は一定の長さを保つことができ、そのリンク機構によって車体の高さを保っている。これらの車高調整機能は、エア供給源9からの空気の充填や、エアスプリング3の空気排出を伴うため、比較的緩慢な動作となる。
【0025】
走行時など路面の凸凹によって車輪1に急激な外力が加わった場合、その力による車輪1の変位はエアスプリング3のばね作用によって吸収し、車体への影響を減じる事ができる。この場合、エアスプリング3の空気容量が大きいほどばね定数は小さくなり、また、レベリングバルブ5の応答性が遅いほど、車輪1は大きく変位する事を許容し、これによって路面の凸凹による車体への影響を減じることが出来る。このように乗り心地を向上させるための適切なばね定数と応答性の設定は、エアサスペンション車の特徴を形成する。
【0026】
次に、車両がカーブ走行など旋回中の動作を説明する。車両の旋回により、その遠心力が車体の各部に作用する。車体重心に作用した遠心力は、車体をローリングさせる力となり、ローリングモーメントとして旋回する車体の外側の車輪に大きな荷重が印加する。例えば左旋回中は、右側の前輪と後輪のエアスプリング3は図2にて説明したように、振り子29が作動し、エアスプリングとしてのばね定数は大きくなる。これによって車体に発生した大きなローリングモーメントに対しても、その変位は小さくすることが出来、車体のローリング量も抑えることができ、ローリング防止効果を発生させる。旋回走行から直線走行に移行すると、遠心力はそれに従い消滅し、振り子29も通常位置に復帰し、メインエアチャンバ34とサブエアチャンバ35の連通が回復し、緩やかなばね作用として働くことによって乗り心地を回復する。右旋回中は、左側の前輪と後輪のエアスプリング3が作動し、同様のローリング防止効果を発生させる。
【0027】
次に、急ブレーキ時では車両の前方に慣性力が働き、車体に大きな荷重が急激に作用する。この力は、車体の前方を沈ませるピッチングモーメイントとなり、前輪のサスペンション機構に荷重を印加する。前輪のエアスプリング3の振り子29を横方向でなく前方向に揺動するように設置すると、前記のローリング防止効果と同様な作用により、ピッチング防止効果を得ることが出来る。振り子29を後輪では横方向に、前輪では前方向に設定すると、後輪でローリング防止効果、前輪でピッチング防止効果を発揮させることが出来る。また、前輪の振り子29を横方向と前方向に揺動させる、即ち、およそ45°の方向に揺動させれば前輪でのローリング防止効果とピッチング防止効果を合わせ持たせる事が出来る。
【0028】
以上説明したように、本発明のエアサスペンション装置によれば、乗り心地を向上させた快適な懸架装置と共に、ローリング防止効果とピッチング防止効果を合わせ持たせた安価で確実なエアサスペンション装置を提供することが出来る。
【0029】
また、以上の説明ではダブルウイッシュボーン方式の懸架装置で説明したが、他の懸架装置でも適応することは容易である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係るエアスプリングの断面図
【図2】右方向に力が作用している場合のエアスプリングの作動を示す断面図、
【図3】左方向に遠心力が作用している場合のエアスプリングの作動を示す部分断面図、
【図4】本発明の実施形態に係るエアサスペンション装置のシステム構成図
【符号の説明】
【0031】
1 車輪
2 ロアアーム
3 エアスプリング
4 配管
5 レベリングバルブ
6 揺動レバー
7 センシングロッド
8 配管
9 エア供給源
21 ブーツ(ハウジング)
22 バンド
23 上部支持体(ハウジング)
24 ピストン(ハウジング)
25 リング
26 プレート(区画部材)
27 バルブ穴(連通孔)
28 軸受け(枢支部材)
29 振り子
30 バランサ
31 バルブ
32 ピン
33 重心
34 メインメインエアチャンバ
35 サブエアチャンバ
36 ニップル
37 右向きの遠心力
38 左向きの遠心力
39 バルブ穴の一端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と各車輪との間に設けられ前記車体を支持するエアスプリングを備えたエアサスペンション装置において、
前記エアスプリングは、エアスプリング室を内部に形成するハウジングと、前記エアスプリング室を第1及び第2のエアスプリング室に分割し、前記第1及び第2のエアスプリング室に連通する連通孔を有する区画部材と、前記連通孔を開閉して前記第1及び第2のエアスプリング室間を連通又は遮断し、バネ定数を切り換えるバルブと、前記車体に作用する加速度によって作動する振り子とを備え、前記バルブは、前記振り子の作動に連動して機械的に開閉作動するように構成されていることを特徴とするエアサスペンション装置。
【請求項2】
前記振り子は、前記車体に加速度が作用しない状態において前記車体の略上下方向に延び、前記振り子の上端には前記バルブが一体的に設けられ、前記振り子の下端には重心位置を設定するバランサが一体的に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のエアサスペンション装置。
【請求項3】
前記振り子は、前記区画部材に固定された枢支部材に揺動自在に枢支され、前記車体に加速度が作用しない状態において重力により前記バルブを開放状態に保持することを特徴とする請求項1に記載のエアサスペンション装置。
【請求項4】
前記振り子は、前記車体に作用する横方向の加速度によって作動するように構成され、前記バルブは、所定の横方向加速度が前記振り子に作用したときに前記連通孔を閉じることを特徴とする請求項1に記載のエアサスペンション装置。
【請求項5】
前記振り子は、前記車体に作用する前方向の加速度に作動するように構成され、前記バルブは、所定の前方向加速度が前記振り子に作用したときに前記連通孔を閉じることを特徴とする請求項1に記載のエアサスペンション装置。
【請求項6】
前記振り子は、前記車体に作用する横方向および前方向の加速度に作動するように構成され、前記バルブは、所定の横方向加速度および前方向加速度が前記振り子に作用したときに前記連通孔を閉じることを特徴とする請求項1に記載のエアサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−30597(P2007−30597A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−214110(P2005−214110)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】