説明

オイルシール及び油圧ポンプ駆動装置

【課題】ケーシングの側壁と回転軸との間に装着する際に、リップ部の先端に傷が付くのを防止することができるオイルシールを提供する。
【解決手段】円環状を成した弾性体で形成され、かつ前記弾性体の内部に気体が封入された密閉空間11を有するシール本体12と、シール本体12を補強する補強環13とを備え、シール本体12には、密閉空間11を形成する壁部として、ケーシング21の側壁21Aに接触可能な第1壁部12Dと、リップ部17が回転軸22に接触可能な第2壁部12Eとが設けられ、密閉空間11は、シール本体12が側壁21Aと回転軸22との間に装着されたとき、第1壁部12Dが側壁21Aに接触して密閉空間11の内側へ変形し、密閉空間11内の気体圧力を高めることにより、第2壁部12Eが回転軸22に接近しリップ部17が回転軸22の外周面に密接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リップタイプのオイルシールに改良を加えたオイルシール、及びそのオイルシールを搭載した油圧ポンプ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーシング内にオイルが収容され、かつケーシングの側壁を貫通して回転軸が設けられた機械装置においては、ケーシング内のオイル漏れを防止するために、ケーシングの側壁と回転軸との間にオイルシールが装着されている。
【0003】
このようなオイルシールは、一般に、円環状を成しゴム等の弾性体で形成されたシール本体と、このシール本体内に埋め込まれシール本体の形状を円環状に保持するための金属製の補強環と、シール本体がケーシングの側壁と回転軸との間に装着されたとき、シール本体内周面のリップ部を回転軸の外周面に密接させる円環状のばねとから構成された、いわゆるリップタイプのオイルシールが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、リップタイプのオイルシールを搭載した油圧ポンプ駆動装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。この油圧ポンプ駆動装置は、複数の歯車が内蔵され、原動機からの回転力を歯車を介して減速するミッションユニットと、ミッションユニットを介して伝達されてきた原動機の回転力を用いて油圧ポンプを駆動する油圧ポンプユニットとを備えており、ミッションユニット内の歯車を回転自在に支持する回転軸の両端にリップタイプのオイルシールが装着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−167266号公報
【特許文献2】特開平11−189767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の技術では、ケーシングの側壁と回転軸との間にオイルシールを装着する際、オイルシールのリップ部が傷付きやすいという問題がある。すなわち、従来のオイルシールにおいては、円環状を成したリップ部の先端は、内径が回転軸の外径に等しいか又は若干小さく形成されており、オイルシールを装着する際に、リップ部の先端が回転軸の外周面に擦れて、リップ部の先端に傷が付く虞がある。リップ部の先端に傷が付いてしまうと、リップ部の耐久性が低下してシール性が弱まり、ケーシング内のオイルが漏れたり、大気中の塵埃等がケーシング内に浸入する可能性が高くなる。
【0007】
本発明の課題は、ケーシングの側壁と回転軸との間に装着する際に、リップ部の先端に傷が付くのを防止することができるオイルシール、及び該オイルシールを搭載した油圧ポンプ駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明においては、リップ部を回転軸の外周面に押し付けるためのばねを廃止して、まったく新しい構成でリップ部を回転軸の外周面に押し付けることを可能とした点に特徴がある。
【0009】
すなわち、本発明は、ケーシングの側壁と、該側壁を貫通して設けられ回転軸との間に装着され、前記ケーシング内のオイル漏れをシールするオイルシールであって、前記回転軸を貫通させる環状体を成し、かつ前記環状体の内部に沿って密閉空間を有し、弾性体で形成されたシール本体と、前記環状体の内部で前記密閉空間の前記側壁側のみを開放し、前記回転軸側に貫通部を有して周囲を覆うように設けられ前記シール本体を補強する補強環とを備え、前記環状体には、前記密閉空間を形成する壁部として、前記側壁に接触可能で膨出部を有する第1壁部と、前記回転軸に接触可能なリップ部を有する第2壁部とが設けられ、前記密閉空間は、前記シール本体が前記側壁と前記回転軸との間に装着されたとき、前記膨出部が前記側壁に接触して前記第1壁部を前記密閉空間の内側へ膨出変形させ、前記密閉空間内の圧力を高めることにより、前記第2壁部が前記回転軸に接近変形して前記リップ部が前記回転軸の外周面に密接することを特徴とする。
【0010】
上記構成において、ケーシングの側壁と回転軸との間に装着する前、シール本体は、そのリップの内径が回転軸の外径よりも大きく、リップ部と回転軸の外周面との間には隙間が形成されるようになっている。そして、ケーシングの側壁と回転軸との間へのシール本体の装着時に、シール本体のリップ部が回転軸の外周面に接触しないようにしながら、シール本体をケーシングの側壁まで移動させて当該壁部に押し付ける。
【0011】
シール本体をケーシングの側壁に押し付けると、膨出部が壁部に接触して第1壁部が密閉空間の内側へ膨出変形し、これにより、密閉空間内の体積が小さくなるので、密閉空間内の圧力が高められる。このとき、高められた圧力は、シール本体が補強環で覆われているため貫通部を介して主に第2壁部に加わり、その結果、リップ部は回転軸の外周面に向かって接近変形し適度な押圧力をもって回転軸の外周面に密接する。
【0012】
また、本発明は、複数の歯車が内蔵され、原動機からの回転力を前記歯車を介して減速するミッションユニットと、前記ミッションユニットを介して伝達されてきた前記原動機の回転力を用いて油圧ポンプを駆動する油圧ポンプユニットとを備えた油圧ポンプ駆動装置であって、前記ミッションユニット内の前記歯車を回転自在に支持する回転軸の両端に、上記オイルシールを装着したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ケーシングの側壁と回転軸との間へオイルシールを装着する際、リップ部が回転軸の外周面に接触しないため、リップ部の先端に傷が付くのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1によるオイルシールの要部を断面で示した図である。
【図2】図1のオイルシールがケーシングの側壁と回転軸との間に装着された様子を示す図である。
【図3】ケーシングの側壁と回転軸との間にオイルシールを装着する直前の様子を示す図である。
【図4】ケーシングの側壁にオイルシールを押し込んで、オイルシールのリップ部を回転軸の外表面に接触させた様子を示す図である。
【図5】スナップリングを取り付けてオイルシールを固定した様子を示す図である。
【図6】実施例2によるオイルシールがケーシングの側壁と回転軸との間に装着された様子を示す図である。
【図7】実施例1や実施例2によるオイルシールが油圧ポンプ駆動装置に搭載された建設機械を示す図である。
【図8】油圧ポンプ駆動装置の内部構造を示す断面図である。
【図9】図8のSA−SA線に沿った断面図である。
【図10】図8のC部を拡大して示した斜視図である。
【図11】図8のD部を拡大して示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を図面に従って説明する。
【実施例】
【0016】
《実施例1》
図1は、本発明に係るオイルシール10の要部を断面で示した図である。このオイルシール10は、円環状を成した弾性体(ゴム、合成樹脂等)で形成され、かつ前記弾性体の内部に気体が封入された密閉空間11を有するシール本体12と、シール本体12の内部に設けられシール本体12を補強する金属製の補強環13とを備えている。
【0017】
シール本体12は、その半径方向の平面で切った横断面(以下、単に横断面という)で見ると、略コ字状を成した主要部12Aと、主要部12Aの両端部(図1において右側端部)12B,12C間に設けられた第1壁部12Dと、主要部12Aの内周面側(図1において下側)に設けられた第2壁部12Eとを有する。
【0018】
補強環13は横断面で略コ字状を成し、その略全体はシール本体12の主要部12Aに埋設されている。補強環13は、上記のように略全体が主要部12A内に埋設されているが、両端面13A,13Bは露出している。そして、端面13Aは主要部12Aの端部12Bの端面12BBと面一に配置され、また、端面13Bは主要部12Aの端部12Cの端面12CCと面一に配置されている。補強環13は、円環状のシール本体12に沿って円環状に形成されている。
【0019】
本実施例では、主要部12Aの内側に空間14が形成され、この空間14の一側(図1において右側)に前記第1壁部12Dが設けられている。第1壁部12Dは、上部が主要部12Aの端部12Bに、下部が主要部12Aの端部12Cにそれぞれ接続された膜部材15から成っている。そして、膜部材15の上下方向中央部には断面円形の膨出部15Aが設けられている。膨出部15Aは、矢印A1方向の力が作用すると、矢印A2方向に移動可能である。
【0020】
主要部12Aには、前記第2壁部12Eと補強環13(補強環13のうち主要部12Aの端部12C側の部分)との間には微小空間16が形成されている。また、第2壁部12Eには、その略中央に、円環状を成しシール本体12の中心軸に向けて突出した横断面三角形状のリップ部17が設けられている。
【0021】
そして、主要部12Aのうち端部12C側の部分には貫通孔18が、補強環13には貫通孔19がそれぞれ形成され、空間14と微小空間16は貫通孔18,19を介して互いに連通されている。つまり、ここでは、空間14、微小空間16、及び貫通孔18,19は密閉空間11となっており、この密閉空間11は、主要部12A、第1壁部12D、及び第2壁部12Eによって形成されている。なお、貫通孔18,19はシール本体12の周方向に沿って複数個設けられている。
【0022】
なお、第1壁部12Dや第2壁部12Eは主要部12Aに一体的に設けられており、これら主要部12A、第1壁部12D、及び第2壁部12Eでシール本体12が構成されている。
【0023】
また、密閉空間11の内部には空気(又は窒素ガス)が封入され、密閉空間11内部の圧力は所定の圧力に調整されている。この所定の圧力は、図1のように、第1壁部12Dが凸状に、つまり膨出部15Aが外方(図の右側)へ膨出した状態で静止し、かつ第2壁部12Eが水平を維持する大きさに設定されている。
【0024】
図2はオイルシール10がケーシング21の側壁21Aと回転軸22との間に装着された様子を示す図である。この場合は、オイルシール10の内側に回転軸22が挿通されるとともに、シール本体12の第1壁部12Dがケーシング21の側壁21Aに押し当てられる。第1壁部12Dは、ケーシング21の側壁21Aに押し当てられると、図に示すように変形する。つまり、膨出部15Aが空間14内側に押し込まれて(膨出変形して)、第1壁部12Dの全体は凹状に変形する。
【0025】
第1壁部12Dの全体が凹状に変形すると、空間14内の体積が小さくなるので、空間14内の圧力が高くなり、その圧力は貫通孔18,19を介して微小空間16へ伝達され、微小空間16内の圧力も高くなる。そして、第2壁部12Eは、図に示すように、中央部が回転軸22へ接近するように変形し、リップ部17の先端が回転軸22の外周面に適度な押圧力で接触する。これにより、回転軸22の回転中にケーシング21の内部をシールすることが可能となる。
【0026】
ここで、オイルシール10を、ケーシング21の側壁21Aと回転軸22との間に装着する際の手順を、図3〜図5を用いて詳細に説明する。
【0027】
先ず、ケーシング21の側壁21Aと回転軸22との間に装着されていない状態では、オイルシール10の第2壁部12Eに設けられたリップ部17の内径は、回転軸22の外径よりも僅かに大きく設定されており、図3に示すように、リップ部17の先端と回転軸22の外周面との間には隙間Gが形成されている。このため、リップ部17の先端を回転軸22の外周面に接触させることなく、オイルシール10を矢印Bのように回転軸22に沿って移動させることができる。
【0028】
次に、オイルシール10を回転軸22に沿って移動させて、図4に示すように、ケーシング21に形成された装着孔21B(図3も参照)内に当該オイルシール10を挿入する。そして、オイルシール10の第1壁部12Dがケーシング21の側壁21Aに当接したら、オイルシール10全体を装着孔21Bの最奥部にある側壁21Aに押し付ける。オイルシール10を側壁21Aに押し付けると、シール本体12の膜部材15中央の膨出部15Aが側壁21Aにぶつかって、膨出部15Aが空間14内側へ押し込まれる。すなわち、第1壁部12Dが、二点鎖線の位置から実線のように空間14の内側へ凹状に変形する。これにより、空間14内の体積が小さくなるので、空間14内の圧力が高められ、その高められた圧力は貫通孔18,19を介して微小空間16へ伝達される。微小空間16へ伝達された圧力は第2壁部12Eに作用して、第2壁部12Eは、二点鎖線の位置から実線で示した位置に変形する。その結果、第2壁部12E中央のリップ部17は回転軸22の外表面に接近し、リップ部17の先端が回転軸22の外周面に密接する。
【0029】
そして最後に、図5に示すように、ケーシング21に形成された溝部23(図3、図4も参照)にスナップリング24を嵌め込んで、オイルシール10を固定する。
【0030】
本実施例によれば、ケーシング21の側壁21Aと回転軸22間へオイルシール10を装着したとき、第2壁部12Eのリップ部17の先端が回転軸22の外周面に適度な押圧力で接触するので、ケーシング21内のオイルが外部へ流出する(漏れる)のを防ぐことができ、また、外部(大気中)の塵埃等がケーシング21の内部へ流入するのを防ぐこともできる。
【0031】
また、本実施例によれば、ケーシング21の側壁21Aと回転軸22との間に装着する前は、リップ部17の先端と回転軸22の外周面との間には隙間Gが形成されているので、側壁21Aと回転軸22との間へのオイルシール10の装着時に、リップ部21Aを回転軸22の外周面に接触させずに挿入することができる。その結果、リップ部17に傷が付くのを防止することが可能となる。
【0032】
さらに、本実施例によれば、補強環13の両端面13A,13Bがシール本体12から露出しているので、ケーシング21の側壁21Aと回転軸22間へのオイルシール10の装着時にオイルシール10を側壁21Aに押し付けると、図2に示したように、金属製の補強環13の両端面13A,13Bが金属製のケーシング21の側壁21Aに直接当接(つまり、弾性体を介することなく当接)し、オイルシールの位置決めを容易に行うことができる。
【0033】
なお、第1壁部12Eの面積は第2壁部12Dの面積よりも小さく設定されているので、第1壁部12Dの変位は小さくても、第2壁部12Eの変位は大きくなって、回転軸22の外周面に対するリップ部17の適度な接触力を容易に得ることができる。
【0034】
また、一般に、空間14、微小空間16、及び貫通孔18,19から成る密閉空間11には空気が封入されているが、空気中に水蒸気が含まれていると、温度によって空気の体積膨張率が相違しているため、密閉空間11内の圧力を一定に維持することが難しくなって、リップ部17の先端を回転軸22の外周面に適度な押圧力で接触させることができない。
【0035】
このような場合、密閉空間11内に窒素ガスを封入する。純粋な窒素ガスは水蒸気を含んでおらず、温度によって体積膨張率が変化することはない。その結果、リップ部17の先端を回転軸22の外周面に常に適度な押圧力で接触させることができる。また、密閉空間11内には油等の液体を封入してもよい。
【0036】
《実施例2》
図6は実施例2を示している。実施例1はシングルリップ型のオイルシールの一例であったが、本実施例ではダブルリップ型のオイルシールの例である。すなわち、本実施例のオイルシール10’においては、第2壁部12Eの内側中央部に仕切り壁12Fが設けられ、この仕切り壁12Fの先端は補強環13に繋がっており、また仕切り壁12Fの両側には微小空間27,28がそれぞれ形成されている。
【0037】
シール本体12の主要部12Aには貫通孔29が、補強環13には貫通孔30がそれぞれ形成され、主要部12A内の空間14は貫通孔29,30を介して微小空間27に連通している。また、シール本体12の主要部12Aには貫通孔31が、補強環13には貫通孔32がそれぞれ形成され、主要部12A内の空間14は貫通孔31,32を介して微小空間28に連通している。
【0038】
本実施例のオイルシール10’においても、回転軸22とケーシング21の側壁21Aとの間に装着していない状態では、リップ部25の先端と回転軸22の外周面との間、及びリップ部26の先端と回転軸22の外周面との間には隙間が形成されるように構成されている。他の構成は実施例1の場合と同様である。
【0039】
上記構成において、オイルシール10’を回転軸22に沿って移動させて、オイルシール10’の第1壁部12Dをケーシング21の側壁21Aに押し付けると、シール本体12の膜部材15中央の膨出部15Aが側壁21Aにぶつかって、膨出部15Aが空間14内側へ押し込まれる。すなわち、第1壁部12Dが空間14の内側へ凹状に変形する。これにより、空間14内の体積が小さくなるので、空間14内の圧力が高められ、その高められた圧力は、貫通孔29,30を介して微小空間27へ伝達されるとともに、貫通孔31,32を介して微小空間28へ伝達される。
【0040】
微小空間27へ伝達された圧力は、第2壁部12Eに作用してリップ部25を回転軸22の外表面に接近させて、リップ部25の先端を回転軸22の外周面に密接させるとともに、微小空間28へ伝達された圧力は、同様に第2壁部12Eに作用してリップ部26を回転軸22の外表面に接近させて、リップ部26の先端を回転軸22の外周面に密接させる。
【0041】
本実施例によれば、第2壁部12Eに2つのリップ部25,26が設けられているので、ケーシング21内のシール性をより一層向上させることが可能となる。
【0042】
《実施例3》
次に、実施例1のオイルシール10及び実施例2のオイルシール10’を、建設機械における油圧ポンプ駆動装置に搭載した一例について説明する。
【0043】
図7は建設機械40の側面を示している。図7において、41は下部走行体、42は下部走行体41上に旋回可能に設けられた上部旋回体を示し、上部旋回体42は、骨組構造を成す旋回フレーム43と、該旋回フレーム43上に搭載された運転室44、機械室45及びカウンタウエイト46等から大略構成されている。また、上部旋回体42の前側には土砂の掘削作業等を行う作業装置47が俯仰動可能に取付けられている。
【0044】
機械室45には、図8及び図9に示すような油圧ポンプ駆動装置50が搭載されている。図8は油圧ポンプ駆動装置50の縦断面図であり、図9は図8のSA−SA線に沿った断面図である。
【0045】
この油圧ポンプ駆動装置50には、一側(図の右側)に図示していないエンジンの回転力で回転駆動される入力軸51が設けられている。油圧ポンプ駆動装置50は、ミッションケーシング52内に駆動歯車53、従動歯車54等が内蔵されるとともにミッションオイルOLが封入されたミッションユニット55と、該ミッションユニット55に取付けられた油圧ポンプユニット56とからなり、該油圧ポンプユニット56はポンプケーシング57内に設けられたシリンダブロック58、各シリンダ59、各ピストン60及び弁板61等から構成された斜軸式油圧ポンプである。そして、油圧ポンプユニット56は、エンジンの動力がミッションユニット55等を介して伝達されることにより駆動し、作動油を吐出して、図7の下部走行体41の走行、上部旋回体42の旋回または作業装置47の作動等を行う。
【0046】
ミッションケーシング52は一側(エンジン側)の側壁52Aと、該側壁52Aに平行に設けられた他側(油圧ポンプユニット56側)の側壁52Bと、これら各側壁52A,52Bの間で外周を覆う周壁部52Cとから箱状に形成されている。
【0047】
そして、ミッションケーシング52の側壁52Aには、油圧ポンプユニット56と対向する位置に駆動側ボス部62が形成され、この駆動側ボス部62には入力軸51が挿通される挿通孔63が穿設されている。また、ミッションケーシング52の側壁52Bには、前記挿通孔63と対向する位置に油圧ポンプ取付孔64が形成され、油圧ポンプ取付孔64には油圧ポンプユニット56の隔壁65が取付けられている。
【0048】
また、側壁52Aには、パイロットポンプ66(図9参照)と対向する位置に第1従動側ボス部67が突設されるとともに、側壁52Bには従動側ボス部67と対向するように第2従動側ボス部68が突設されている。そして、第1、第2従動側ボス部67,68には従動軸69が軸受70,70を介して支持されている。さらに、第2従動側ボス部68にはパイロットポンプ66の取付部66Aが取付けられたパイロットポンプ取付孔71が形成されている。
【0049】
さらにまた、ミッションケーシング52内には、上述したようにミッションオイルOLが封入されており、駆動歯車53及び従動歯車54が回転することにより、ミッションオイルOLをミッションケーシング52内に飛散させ、駆動歯車53と入力軸51とのスプライン結合部、従動歯車54と従動軸69とのスプライン結合部等にミッションオイルOLを供給し、各所の潤滑性を保持するようにしている。
【0050】
ミッションケーシング52の側壁52Aと入力軸51の外周面との間には、ミッションケーシング52内をシールするオイルシール10’が装着されている。入力軸51は、上述したように一側(右側)が図示していないエンジンに接続され、他側(左側)は油圧ポンプユニット56の駆動軸72に接続されている。そして、油圧ポンプユニット56の隔壁65と駆動軸72の外周面との間にはオイルシール10が装着されている。
【0051】
また、入力軸51の外周側には、ミッションケーシング52内に位置してスプライン部51Aが形成され、このスプライン部51Aには駆動歯車53が取付けられている。そして、図示していないエンジンを駆動すると、入力軸51が回転し、これに伴って駆動歯車53が回転するとともに油圧ポンプユニット56の駆動軸72も一体的に回転し、油圧ポンプユニット56が駆動されるようになる。
【0052】
駆動歯車53、及び駆動歯車53に噛み合う従動歯車54は共に平歯車から成り、図示していないエンジンによって入力軸51が回転駆動されると、この回転に伴って駆動歯車53及び従動歯車54は回転する。従動歯車54には、パイロットポンプ66の入力軸66Bが結合され、従動歯車54が回転すると、パイロットポンプ66が回転駆動される。
【0053】
次に、ポンプケーシング57は略円筒状に形成され、一端側がミッションケーシング52の油圧ポンプ取付孔64に装着されたケーシング本体73と、このケーシング本体73の他端側を閉塞すべく、ケーシング本体73の他端側に固着されたヘッドケーシング74とから構成されている。
【0054】
ここで、ケーシング本体73の一端側はミッションケーシング52の油圧ポンプ取付孔64を閉塞するとともに、ミッションケーシング52内とポンプケーシング57内とを隔絶する隔壁65となっている。また、隔壁65には、ミッションケーシング52内に突出する軸支持用ボス部75が形成され、この軸支持用ボス部75には駆動軸72が挿通される挿通孔76が穿設されている。
【0055】
駆動軸72はポンプケーシング57内に軸受77,77を介して回転可能に支持されている。駆動軸72の一端側は、軸支持用ボス部75の挿通孔76内にオイルシール10を介して支持され、また駆動軸72の他端側には円板状のドライブディスク78が一体的に設けられている。
【0056】
シリンダブロック58は、駆動軸72と一体的に回転するようにポンプケーシング57内に回転可能に設けられ、該シリンダブロック58にはその軸方向に複数のシリンダ59が穿設されている。各シリンダ59内に摺動可能に設けられたピストン60は、その一端側にコネクティングロット79が設けられ、このコネクティングロット79の先端には球形部79Aが形成されている。球形部79Aはドライブディスク78に揺動自在に支持されている。
【0057】
シリンダブロック58の他側に設けられた弁板61は、その一側面がシリンダブロック58に摺接し、他側面がヘッドケーシング74に固着されている。また、弁板61の中心にはセンタシャフト81の基端部が挿入された貫通孔61Aが穿設されている。さらに、弁板61にはシリンダブロック58の回転により各シリンダ59と間欠的に連通する給排ポート61B,61Cが穿設され、これら給排ポート61B,61Cはヘッドケーシング74に形成された給排通路82,83と連通するようになっている。
【0058】
センタシャフト81は、ドライブディスク78と弁板61との間でシリンダブロック58を回転可能に支持している。このセンタシャフト81はその先端側に球形部81Aが形成され、球形部81Aはドライブディスク78の中心位置に揺動自在に支持されている。
【0059】
上記構成の油圧ポンプ駆動装置50において、図示していないエンジンを駆動すると、入力軸51が回転し、さらに入力軸51に一体的に駆動軸72が回転して、油圧ポンプユニット56が駆動する。
【0060】
すなわち、駆動軸72の回転により、シリンダブロック58が回転して、各シリンダ59内で各ピストン60が往復運動を繰返す。これにより、作動油が給排通路82(83)から給排ポート61B(61C)を介して各シリンダ59内に吸入され、各シリンダ59内で加圧された後、給排ポート61C(61B)を介して給排通路82(83)から吐出される。そして、この加圧された作動油により、図7に示した下部走行体41の走行、及び上部旋回体42の旋回または作業装置47の作動等を制御する。
【0061】
一方、入力軸51の回転は、駆動歯車53,従動歯車54及び従動軸69を介してパイロットポンプ66の入力軸66Bに伝達され、パイロットポンプ66も油圧ポンプユニット56と同時に駆動するようになる。
【0062】
また、上述したように油圧ポンプユニット56及びパイロットポンプ66の駆動しているときには、ミッションケーシング52内において、駆動歯車53及び従動歯車54の回転により、ミッションケーシング52内に封入されたミッションオイルOLが掻き揚げられ、ミッションケーシング52内に飛散する。このようにして、駆動歯車53と入力軸51とのスプライン結合部、従動歯車54と従動軸69とのスプライン結合部、及び油圧ポンプユニット56の駆動軸72とオイルシール10との摺動部等にミッションオイルOLを供給し、各所の潤滑性を保持して摩擦接触による焼付き等を防止することが可能となる。
【0063】
図10は、図8のC部の拡大して示した斜視図である。油圧ポンプユニット56における隔壁65の軸支持用ボス部75と駆動軸72の外周面との間に、オイルシール10が装着されている。
【0064】
オイルシール10は、軸支持用ボス部75と駆動軸72の外周面との間に装着されていない状態では、図3で説明したように、第2壁部12Eのリップ部17の先端と、回転軸である駆動軸72の外周面との間に隙間G(図3参照)が形成されている。
【0065】
次に、オイルシール10を挿通孔76に挿入するとともに駆動軸72に沿って移動させて、隔壁65の一部である側壁65Aに押し付ける。すると、図4でも説明したように、オイルシール10の第1壁部12Dは図10のように凹状に変形し、密閉空間11内の圧力が高まるので、その圧力は第2壁部12Eに作用し、第2壁部12Eのリップ部17が駆動軸72に向かって変位して、リップ部17の先端が駆動軸72の外周面に適度な押圧力をもって接触する。そして最後に、スナップリング24を挿通孔76内の溝部76Aに取り付けることによって、オイルシール10は固定される。
【0066】
これにより、ミッションユニット55内のミッションオイルOLが油圧ポンプユニット56内に流入するのを防ぐことができるとともに、油圧ポンプユニット56内の作動油がミッションユニット55内に流入するのを防ぐことができる。
【0067】
図11は図8のD部を拡大して示した斜視図である。ミッションユニット55の側壁52Aに設けられた駆動側ボス部62と入力軸51の外周面との間に、オイルシール10’が装着されている。
【0068】
オイルシール10’は、駆動側ボス部62と入力軸51の外周面との間に装着されていない状態では、上記と同様に、第2壁部12Eのリップ部25,26の先端と、回転軸である入力軸51の外周面との間に隙間が形成されている。
【0069】
次に、オイルシール10’を挿通孔63に挿入するとともに入力軸51に沿って移動させて、駆動側ボス部62の一部に形成された側壁62Aに押し付ける。すると、オイルシール10’の第1壁部12Dは図11のように凹状に変形し、密閉空間11内の圧力が高まるので、その圧力は第2壁部12Eに作用し、第2壁部12Eのリップ部25,26が入力軸51に向かって変位して、リップ部25,26の各先端が入力軸51の外周面に適度な押圧力をもって接触する。そして最後に、スナップリング24を挿通孔63内の溝部63Aに取り付けることによって、オイルシール10’は固定される。
【0070】
これにより、ミッションユニット55内のミッションオイルOLが外部(大気中)に流出するのを防ぐことができるとともに、外部(大気中)の塵埃等がミッションユニット55内に流入するのを防ぐことができる。
【0071】
以上、本発明の実施例を図面により詳述してきたが、上記各実施例は本発明の例示にしか過ぎないものであり、本発明は上記各実施例の構成にのみ限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【0072】
例えば、上記各実施例では、第1壁部12Dの上下方向中央部の膨出部15Aが断面円形であったが、これに限定されず、膨出部15Aは断面楕円形や断面菱形であっても良い。
【0073】
また、本発明に係るオイルシール10,10’は油圧ポンプ駆動装置に限らず、他の駆動装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0074】
10,10’ オイルシール
11 密閉空間
12 シール本体
12A 主要部
12B,12C 端部
12BB,12CC 端面
12D 第1壁部
12E 第2壁部
12F 仕切り壁
13 補強環
13A,13B 端面
14 空間
15 膜部材
15A 膨出部
16 微小空間
17 リップ部
18,19 貫通孔
21 ケーシング
21A 側壁
22 回転軸
23 溝部
24 スナップリング
25,26 リップ部
27,28 微小空間
29,30,31,32 貫通孔
51 入力軸(回転軸)
62A,65A 側壁
63,76 挿通孔
72 駆動軸(回転軸)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングの側壁と、該側壁を貫通して設けられ回転軸との間に装着され、前記ケーシング内のオイル漏れをシールするオイルシールであって、
前記回転軸を貫通させる環状体を成し、かつ前記環状体の内部に沿って密閉空間を有し、弾性体で形成されたシール本体と、
前記環状体の内部で前記密閉空間の前記側壁側のみを開放し、前記回転軸側に貫通部を有して周囲を覆うように設けられ前記シール本体を補強する補強環とを備え、
前記環状体には、前記密閉空間を形成する壁部として、前記側壁に接触可能で膨出部を有する第1壁部と、前記回転軸に接触可能なリップ部を有する第2壁部とが設けられ、
前記密閉空間は、前記シール本体が前記側壁と前記回転軸との間に装着されたとき、前記膨出部が前記側壁に接触して前記第1壁部を前記密閉空間の内側へ膨出変形させ、前記密閉空間内の圧力を高めることにより、前記第2壁部が前記回転軸に接近変形して前記リップ部が前記回転軸の外周面に密接することを特徴とするオイルシール。
【請求項2】
前密閉空間には、気体または液体が封入されていることを特徴とする請求項1に記載のオイルシール。
【請求項3】
前記シール本体が前記側壁と前記回転軸との間に装着されていない状態では、前記リップ部と前記回転軸の外周面との間には隙間が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のオイルシール。
【請求項4】
前記補強環は、その一側端面が前記シール本体の壁面と面一になるよう配置され、
前記シール本体が前記側壁と前記回転軸との間に装着されたとき、前記補強環の一側端面は前記側壁に当接することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のオイルシール。
【請求項5】
複数の歯車が内蔵され、原動機からの回転力を前記歯車を介して減速するミッションユニットと、
前記ミッションユニットを介して伝達されてきた前記原動機の回転力を用いて油圧ポンプを駆動する油圧ポンプユニットとを備えた油圧ポンプ駆動装置であって、
前記ミッションユニット内の前記歯車を回転自在に支持する回転軸の両端に、請求項1〜4のいずれか一項に記載のオイルシールを装着したことを特徴とする油圧ポンプ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−60969(P2013−60969A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198125(P2011−198125)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】