説明

コンバイン

【課題】電動モータを駆動源とするコンバインにおいて、従来の旋回操作方法を変更することなく、急旋回や緩旋回等の旋回を行えるようにして、圃場作業における操縦性を高める。
【解決手段】左右のクローラ走行装置(3R,3L)を変速可能な左右の電動モータ(5R,5L)で夫々駆動すると共に該クローラ走行装置(3R,3L)を制動する左右のブレーキ(6R,6L)を設け、操縦席に立設する操向レバー(21)の左右傾倒角度に応じて該操向レバー(21)を傾倒した側の電動モータ(5R又は5L)の回転速度を減速させ、操向レバー(21)の傾倒角度が設定角度に達した場合にブレーキ(6R又は6L)を作動させて傾倒側のクローラ走行装置(3R又は3L)の回転を停止させる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバインに関するものである。
【背景技術】
【0002】
走行装置を電動モータで駆動する作業車両として、下記特許文献1に記載の除雪車がある。
この除雪車は、走行装置がクローラで、旋回する場合には押し釦形式の旋回スイッチを押すことで、左右の駆動電動モータの回転すなわちクローラの回転を変えて旋回するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−168278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジンを駆動源とするコンバインとしては、走行装置としてクローラを備え、旋回操作は、運転席の前に立設する一本の操向レバーを左右に倒すことでその倒した側へ旋回する構成としている。
【0005】
本発明は、電動モータを駆動源とするコンバインにおいて、従来の旋回操作方法を変更することなく、急旋回や緩旋回等の旋回を行えるようにして、圃場作業における操縦性を高めることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の課題は、次の技術手段により解決される。
請求項1に記載の発明は、左右のクローラ走行装置(3R,3L)を変速可能な左右の電動モータ(5R,5L)で夫々駆動すると共に該クローラ走行装置(3R,3L)を制動する左右のブレーキ(6R,6L)を設け、操縦席に立設する操向レバー(21)の左右傾倒角度に応じて該操向レバー(21)を傾倒した側の電動モータ(5R又は5L)の回転速度を減速させ、操向レバー(21)の傾倒角度が設定角度に達した場合にブレーキ(6R又は6L)を作動させて傾倒側のクローラ走行装置(3R又は3L)の回転を停止させる構成としたことを特徴とするコンバインとする。
【0007】
この構成で、操向レバー(21)を左右に傾倒操作すると、この傾倒側の電動モータ(5R又は5L)の回転速度が減速して回転半径が大きい緩旋回となり、操向レバー(21)を更に傾倒操作して該操向レバー(21)の傾倒角度が設定角度に達すると、この傾倒側のブレーキ(6R又は6L)が作動して急旋回する。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記操向レバー(21)の基部に該操向レバー(21)の傾倒角度を検出する旋回センサ(4)を設け、該旋回センサ(4)で検出される操向レバー(21)の傾倒角度に基づいて走行コントローラ(16)でインバータ(11)の出力周波数を変更して電動モータ(5R,5L)の回転速度を変速制御する構成としたことを特徴とする請求項1に記載のコンバインとする。
【0009】
この構成で、操向レバー(21)の傾倒角度が旋回センサ(4)から走行コントローラ(16)に送られ、該走行コントローラ(16)でインバータ(11)の出力周波数を変更して電動モータ(5R又は5L)の回転を変更して種々の旋回状態を実現できる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、走行速度を変速する変速レバー(22)を設け、該変速レバー(22)の変速操作位置を検出する変速センサ(23)を設け、該変速センサ(23)で検出される変速レバー(22)の変速操作位置に基づいて走行コントローラ(16)でインバータ(11)の出力周波数を設定値に変更して可変速電動モータ(5R,5L)の回転速度を変速制御する構成としたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコンバインとする。
【0011】
この構成で、変速レバー(22)の変速操作で走行速度が変速される。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によると、操向レバー(21)の傾倒角度に応じてこの傾倒操作側のクローラ走行装置(3R又は3L)の駆動速度を無段階に減速させることで、操縦者の意図した通りの旋回半径で旋回でき、圃場での収穫作業の能率を高めることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によると、上記請求項1に記載の発明の効果を奏するうえで、電動モータ(5R,5L)の回転速度を精度よく制御することができ、旋回操作の操作性を高めることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によると、上記請求項1又は請求項2に記載の発明の効果を奏するうえに、変速レバー(22)による走行変速操作の操作性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】コンバインの右側面図である。
【図2】コンバインの左側面図である。
【図3】運転台の斜視図である。
【図4】運転台の側面図である。
【図5】操向レバーの傾倒角度を示す簡略図である。
【図6】動力及び信号の流れを示すブロック図である。
【図7】分草杆の平面図である。
【図8】インバータの出力周波数を示す図である。
【図9】メインコントローラの制御ブロック図である。
【図10】別実施例の動力伝動線図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に示す実施例を参照しながら説明する。
図1はコンバイン1の左側面図であり、図2はコンバイン1の右側面図である。なお、本明細書では、左側及び右側とはコンバイン1が前進する方向に向いたときの方向を言う。
【0017】
図1および図2に示すように、コンバイン1の車体2の下部側に土壌面を走行する左右一対のクローラを有するクローラ走行装置3R,3Lを配設し、車体2の前端側に分草杆8を備えた刈取装置9が設けられている。刈取装置9は車体2の上方の支点を中心にして上下動する刈取装置支持フレーム7で支持されており、コンバイン1に搭乗したオペレータが運転台25の操縦席20の前に立設する操向レバー21を前後に傾倒操作することにより、刈取装置支持フレーム7と共に上下に昇降する構成である。
【0018】
車体2の上方には、刈取装置9から搬送されてくる穀稈を引き継いで搬送して脱穀、選別する脱穀装置10と該脱穀装置10で脱穀選別された穀粒を一時貯溜するグレンタンク13が載置され、グレンタンク13の後部にオーガ15を連接して、グレンタンク13内の穀粒をコンバイン1の外部に排出する構成としている。
【0019】
クローラ走行装置3R,3Lは、図6に示す如く、エンジン14の発電機で発電された電力をバッテリ12に蓄え、インバータ11で左右の可変速電動モータ(変速可能な電動モータ)5R,5Lの回転を変更して左右のクローラ走行装置3R,3Lを各々駆動する。可変速電動モータ5R,5Lへの電力はインバータ11よりパルス出力し、パルスの周波数を変更することで、回転速度を任意に変更可能としている。また、クローラ走行装置3R,3Lの回転は、左右の油圧ブレーキ6R,6Lで回転を停止する。
【0020】
操向レバー21の左右傾倒角度が旋回センサ4を介して走行コントローラ16に入力し、変速レバー22の変速位置が変速センサ23を介して走行コントローラ16に入力する。
【0021】
走行コントローラ16からインバータ11と油圧ブレーキ6R,6Lに制御信号が出力し、さらに、エンジンコントローラ18と刈取装置9のHST(油圧無段変速装置)17に制御信号が出力する。エンジン14は、発電機の他に脱穀装置10を駆動する。
【0022】
すなわち、コンバイン1はオペレータが操縦席20において変速レバー22を操作し、インバータ11を介して可変速電動モータ5R,5Lを変速し、左右のクローラ走行装置3R,3Lを任意の速度で駆動して走行する。
【0023】
また、コンバイン1は、オペレータが操縦席20において操向レバー21を左右に傾倒操作することにより緩旋回や急旋回或いはスピン旋回等の各種旋回走行をすることができる。すなわち、コンバイン1を旋回させようとする方向に操向レバー21を傾倒操作することにより、インバータ11で可変速電動モータ5R,5Lのうち旋回内側の電動モータの駆動速度を低下させて、左右の走行クローラ3、3に速度差が与えられて走行方向の変更が行われ、図5の如く、少し左右に傾倒すると緩やかな旋回すなわち緩旋回となり大きく傾倒すると旋回内側のブレーキ6R,6Lを作動して急激な急旋回となる構成としている。可変速電動モータ5R,5Lの駆動力低下の際に慣性力で逆駆動される回生回転力を電力に変換してバッテリ12に蓄える。車速センサ48で検出する旋回内側のクローラ走行装置3R,3Lの回転低下が回生ブレーキで不十分な際には油圧ブレーキ6R,6Lを作用させて回転を設定回転数まで低下させる。なお、急旋回とスピン旋回の切換は、旋回設定スイッチ等の操作具によって行い、緩旋回で最大とした場合には、内側可変速電動モータ5R,5Lに外側可変速電動モータ5R,5Lの1/3程度の駆動周波数を付与し、スピン旋回の場合には、内側可変速電動モータ5R,5Lに外側可変速電動モータ5R,5Lの1/3程度の逆駆動周波数を付与する。
【0024】
また、操向レバー21を前後方向に移動させることにより刈取装置9を昇降させる構成としている。
図9は、メインコントローラ53の信号入出力を示す制御ブロック図で、信号入力は、脱穀装置10の穀稈入口に設ける複数の扱ぎ深さセンサ43から穀稈の穂先位置、省エネスイッチ44からのオン・オフ信号、扱ぎ深さ制御スイッチ45からのオン・オフ信号、脱穀クラッチスイッチ46からのオン・オフ信号、穀稈センサ47からのオン・オフ信号、車速センサ48からの走行速度、左条刈センサ51Lと右条刈センサ51Rからのオン・オフ信号、で、入力インターフェース19を介してメインコントローラ53に入力する。
【0025】
制御信号の出力は、出力インターフェース27を介して扱ぎ深さ深リレー49と扱ぎ深さ浅リレー50に供給チェン移動ソレノイド52の駆動信号が出力され、さらに、通信インターフェース28を介して走行コントローラ16とエンジンコントローラ18に制御信号が出力される。
【0026】
左条刈センサ51Lと右条刈センサ51Rは植生穀稈を検出して走行方向を植生する条へ修正するが、例えば、右条刈センサ51Rのみがオンとなった場合には、図8の如く、右側電動モータ5Rに通電する時間を短くして右クローラ走行装置3Rの速度を遅らせて右方向へ走行方向を除々に修正し、左条刈センサ51Lもオンとなると走行方向修正を終了する。
【0027】
具体的説明を省略するが、グレンタンク13の籾収容量が少なくても車体2が沈む場合には、湿田作業であると判断して、前進時の後下げや後進時の車高上げ等の湿田用制御を行うようにする。
【0028】
省エネスイッチ44をオンすると、扱ぎ深さセンサ43が検出する扱ぎ深さを標準よりも浅く制御して脱穀負荷を軽減する。また、エンジン負荷率を検出して、その負荷率が所定値よりも高い場合には扱ぎ深さを標準よりも浅く制御して脱穀負荷を軽減する。
【0029】
なお、車速センサ48が検出する作業走行速度が一定以下であれば、エンジン負荷が軽いので、省エネスイッチ44をオンしても前記の浅扱ぎ制御を行わない。また、車速が速いほど浅扱ぎの程度を大きくするように制御しても良い。
【0030】
図3〜図4には運転台25の構成を示す。
図3は、操縦席20を含む運転台25の斜め後上方から見た斜視図であり、図4は運転台25の側面図である。運転台25はフロント壁面パネル32と左サイド壁面パネル33を備え、運転台25の右側面にはオペレータの乗降用の空間が設けられている。前記フロント壁面パネル32の右寄り部分には操向レバー21、その後方に近接する位置に、操向レバー21を操作する時に操作腕や操作手を置くための受台(ハンドレスト)30と該受台30を支持し、かつオペレータが乗降する時の支えバーとなるアーム35が機体に設けられている。
【0031】
また受台30の左側には走行速度、グレンタンク13内の穀粒の貯留量などを表示するフロントメータパネル36が設けられ、またメータパネル36の左側であってフロント壁面パネル32の左寄り部分には刈取装置9や走行用の機器を操縦するための操作パネル37が設けられている。これら受台30、アーム35、メータパネル36及び操作パネル37を供えた左サイド壁面パネル33は一体成形した合成樹脂製である。
【0032】
この左サイド壁面パネル33には、変速レバー22と刈取・脱穀レバー24及びアクセルレバー26とこれらのレバーを前後左右に操作するためのレバーガイドを備えたガイド板38が設けられている。
【0033】
また、運転台25の後部には操縦席20が設けられているが、オペレータの乗降用の空間より後部側に位置し、かつ操縦席20の右側部位には取手39が機体に設けられていて、取手39は前記受台支えアーム35と共にオペレータがコンバイン1に乗降する際の把持部となる。
【0034】
さらに、前記操縦席20と取手39の間にはオーガコントロール用のオーガ操作パネル(リモコンスイッチ)40の設置部42(図3参照)が設けられている。
図10に示す動力伝動図は、エンジン14で駆動するクローラ走行装置3R,3Lと刈取装置9の伝動経路に刈取制御用電動モータ64と発電機65を設けた構成で、エンジン14の出力回転をベルト伝動60で入力ギヤ61に伝動し、入力ギヤ61の回転を左デフサイドギヤ62Lに伝動し、デフギヤケースギヤ63の回転を刈取ギヤ68から刈取装置9に伝動し、走行ギヤ66から左右ホイルスプロケット67R,67Lに伝動しクローラ走行装置3R,3Lを駆動する。刈取ギヤ68の回転で刈取制御用電動モータ64を駆動し、右デフサイドギヤ62Rで発電機65を駆動している。
【0035】
この構成で、刈取装置9の負荷が大きい場合には刈取制御用電動モータ64が駆動を補助し、刈取装置9を停止していると発電機65がフルに駆動されてその発電電力をバッテリに蓄える。
【0036】
また、上記構成で、刈取装置9に代えて脱穀装置10を駆動するようにしても良い。
このような構成で、刈取装置9や脱穀装置10を駆動しない場合に発電機65がフルに駆動されてエンジン余力が電力としてバッテリに蓄えられる。
【符号の説明】
【0037】
3R クローラ走行装置
3L クローラ走行装置
4 旋回センサ
5R 可変速電動モータ(電動モータ)
5L 可変速電動モータ(電動モータ)
6R ブレーキ
6L ブレーキ
11 インバータ
16 走行コントローラ
21 操向レバー
22 変速レバー
23 変速センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右のクローラ走行装置(3R,3L)を変速可能な左右の電動モータ(5R,5L)で夫々駆動すると共に該クローラ走行装置(3R,3L)を制動する左右のブレーキ(6R,6L)を設け、操縦席に立設する操向レバー(21)の左右傾倒角度に応じて該操向レバー(21)を傾倒した側の電動モータ(5R又は5L)の回転速度を減速させ、操向レバー(21)の傾倒角度が設定角度に達した場合にブレーキ(6R又は6L)を作動させて傾倒側のクローラ走行装置(3R又は3L)の回転を停止させる構成としたことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記操向レバー(21)の基部に該操向レバー(21)の傾倒角度を検出する旋回センサ(4)を設け、該旋回センサ(4)で検出される操向レバー(21)の傾倒角度に基づいて走行コントローラ(16)でインバータ(11)の出力周波数を変更して電動モータ(5R,5L)の回転速度を変速制御する構成としたことを特徴とする請求項1に記載のコンバイン。
【請求項3】
走行速度を変速する変速レバー(22)を設け、該変速レバー(22)の変速操作位置を検出する変速センサ(23)を設け、該変速センサ(23)で検出される変速レバー(22)の変速操作位置に基づいて走行コントローラ(16)でインバータ(11)の出力周波数を設定値に変更して可変速電動モータ(5R,5L)の回転速度を変速制御する構成としたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−50356(P2012−50356A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193715(P2010−193715)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】