説明

ハイブリッド車両のパワーステアリング装置

【課題】ハイブリッド車両の走行状態に関わらず、良好な燃費性能を確保しつつ、大きな操舵トルクを出力可能なハイブリッド車両のパワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】ハイブリッド車両1のパワーステアリング装置20は、変速機5にサブクラッチ40を介して連結され、エネルギーを蓄積可能なアキュムレータ41を備え、ステアリング30から入力される操舵力が所定値以上である場合、増幅手段24の駆動源としてアキュムレータを選択し、ステアリングから入力される操舵力が所定値未満である場合、増幅手段の駆動源として電動モータ25を選択することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン及び走行用モータの少なくとも一方から出力された動力で走行するハイブリッド車両において、ステアリングから入力された操舵トルクを増幅して操舵輪に伝達するハイブリッド車両のパワーステアリング装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンなどの動力を用いて走行する車両では、ドライバーがステアリングから入力した操舵トルクが操舵機構を介して操舵輪に伝達されることにより、旋回動作が行われる。車両を旋回させるために必要な操舵トルクは、ドライバーが直接ステアリングから入力するには負担が大きいため、ステアリングから入力された操舵トルクを増幅して操舵輪に伝達するパワーステアリング装置が広く用いられている。
【0003】
この種のパワーステアリング装置はその駆動方式としてモータ駆動方式とエンジン駆動方式とがある。モータ駆動方式は、バッテリに充電された電力で電動モータを回転駆動することによって、パワーステアリング装置を駆動するための油圧ポンプ等を動作させる。一方、エンジン駆動方式は、該油圧ポンプ等をエンジンの動力の一部(エンジン回転)を用いて動作させる。
【0004】
モータ駆動方式では、エンジン駆動方式のようにエンジンの駆動を伴わない分だけ燃費向上が望めるが、大きな操舵トルクの要求に対応するためにはモータの大型化が不可避になってしまい、コスト増加や搭載性の悪化が生じるという問題点がある。一方、エンジン駆動方式はエンジンの出力の一部を使用しているため、大きな操舵トルクの要求に対しても対応が可能であるが、エンジンの駆動を伴う分だけ燃費性能が低下してしまうという問題点がある。このような両者のメリット及びデメリットに鑑みて、乗用車などの要求操舵トルクが比較的小さい車両では、モータ駆動方式のパワーステアリング装置が採用される一方、例えばトラックやバスなどの大型車両では、大きな要求操舵トルクに対応するためエンジン駆動方式が採用されている。
【0005】
ところで近年、環境意識の高まりに伴い、ハイブリッド車両が着目されている。ハイブリッド車両では走行用動力源としてエンジン及び走行用モータを備えており、これらの少なくとも一方から出力された動力で走行する。ハイブリッド車両では走行用動力源としてモータを使用する分、エンジンの運転期間を短縮し、燃費性能を向上させることができる。特許文献1では、ハイブリッド車両にパワーステアリング装置が補機の一種として搭載された例が開示されている。特許文献1では、パワーステアリング装置は基本的にエンジンや走行用モータから出力される走行用動力の一部を利用して駆動されるが、ハイブリッド車両の走行状態によってはパワーステアリング装置に供給される動力が不足する場合がある。このような場合、特許文献1では走行用モータとは別に、補機の駆動用として電動モータを備えており、動力が不足した場合に、当該電動モータを駆動することにより不足分を補うとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−126448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、補助用の電動モータで不足分を補うことができるとされているが、ハイブリッド車両では、走行状態によってはエンジンが停止状態にある場合がある。このような場合、エンジン以外の駆動源(走行用モータや補助用の電動モータ)で要求操舵トルクを賄う必要があるが、大きな要求操舵トルクへの対応を考慮すると、補助用の電動モータの大型化が不可避となるという問題点がある。特に大型のハイブリッド車両では発進時の据え切り動作や右左折時に大きな操舵トルクが必要とされるため、この問題点は顕著となる。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、ハイブリッド車両の走行状態に関わらず、良好な燃費性能を確保しつつ、大きな操舵トルクを出力可能なハイブリッド車両のパワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るハイブリッド車両のパワーステアリング装置は上記課題を解決するために、エンジン及び走行用モータ間に第1のクラッチが設けられ、前記エンジン及び前記走行用モータの少なくとも一方から出力された動力を、変速機を介して駆動輪に伝達して走行するハイブリッド車両において、ステアリングから入力された操舵トルクを増幅手段にて増幅した後、操舵輪に伝達するハイブリッド車両のパワーステアリング装置であって、前記変速機に第2のクラッチを介して連結されることにより、前記変速機から入力されるエネルギーを蓄積するエネルギー蓄積手段と、前記エネルギー蓄積手段又は前記ハイブリッド車両に搭載された電動モータのいずれか一方から出力された動力で駆動されることにより、前記ステアリングから入力された操舵トルクを増幅する増幅手段と、前記増幅手段の駆動源として前記エネルギー蓄積手段又は前記電動モータのいずれか一方を選択する駆動源選択手段とを備え、前記駆動源選択手段は、前記ステアリングから入力される操舵力が所定値以上である場合、前記増幅手段の駆動源として前記エネルギー蓄積手段を選択し、前記ステアリングから入力される操舵力が前記所定値未満である場合、前記増幅手段の駆動源として前記電動モータを選択することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、パワーステアリング装置の増幅手段の駆動源としてエネルギー蓄積手段と電動モータとを備えており、これらをハイブリッド車両の走行状態に応じて切り替えることによって、良好な燃費性能を確保しつつ、様々な要求操舵トルクにも対応が可能となる。特にエネルギー蓄積手段に蓄積したエネルギーを用いて増幅手段を駆動することによって、比較的出力トルクが小さい電動モータでは対応が困難な大きな要求操舵トルクに対しても対応可能となる。このように本発明ではエネルギー蓄積手段を用いることによって、車両に搭載する電動モータの小型化も図ることができるので、車両重量やコスト増加も抑制できる。
【0011】
好ましくは、前記エネルギー蓄積手段は、前記ハイブリッド車両の停車時に前記第1のクラッチを切断状態にし、前記変速機をニュートラルに設定し、且つ、前記第2のクラッチを接続状態にした状態で前記モータを駆動することによりエネルギーを蓄積するとよい。このように停車状態でモータを駆動することで、走行前にエネルギー蓄積手段に予めエネルギーを蓄積しておくことにより、走行後にエネルギー蓄積手段を迅速に使用可能な状態にすることができる。
【0012】
更に好ましくは、前記電動モータの駆動用電力を充電しているバッテリの充電量が所定値未満である場合、前記駆動源選択手段は、前記増幅手段の駆動源として前記エネルギー蓄積手段を選択するとよい。これによれば、バッテリの充電残量が少ないために電動モータの駆動が困難な場合であっても、エネルギー蓄積手段に予め蓄積したエネルギーを使って増幅手段を駆動できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、パワーステアリング装置の増幅手段の駆動源としてエネルギー蓄積手段と電動モータとを備えており、これらをハイブリッド車両の走行状態に応じて切り替えることによって、良好な燃費性能を確保しつつ、様々な要求操舵トルクにも対応が可能となる。特にエネルギー蓄積手段に蓄積したエネルギーを用いて増幅手段を駆動することによって、比較的出力トルクが小さい電動モータでは対応が困難な大きな要求操舵トルクに対しても対応可能となる。このように本発明ではエネルギー蓄積手段を用いることによって、車両に搭載する電動モータの小型化も図ることができるので、車両重量やコスト増加も抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係るハイブリッド車両の全体構成を概念的に示すブロック図である。
【図2】ECUの内部構成を機能的に示す機能ブロック図である。
【図3】本実施形態に係るハイブリッド車両に搭載されたパワーステアリング装置のエネルギー蓄積制御を示すフローチャートである。
【図4】本実施形態に係るハイブリッド車両に搭載されたパワーステアリング装置において実施される、パワーステアリング駆動制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0016】
図1は、本実施形態に係るハイブリッド車両1の全体構成を概念的に示すブロック図である。ハイブリッド車両1は走行用動力源としてエンジン2及びモータ(走行用モータ)4を有するパラレル式ハイブリッド電気自動車である。エンジン2の出力軸とモータ4の回転軸とはクラッチ3を介して接続されており、該クラッチ3の接続状態に応じて動力の伝達が切り換えられる。クラッチ3が接続状態にある場合には、動力源としてエンジン2、またはエンジン2とモータ4を併用し、クラッチ3が切断状態にある場合には、動力源としてモータ4を用いて、変速機5にて所定のギア比でプロペラシャフト6に伝達される。プロペラシャフト6に伝達された動力は、差動装置7及び駆動軸8を介して駆動輪9(後輪)が駆動されることにより、ハイブリッド車両1の走行が行われる。
【0017】
エンジン2は、ハイブリッド車両1の動力源の一つとして機能する内燃機関であり、ガソリンエンジンであってもよいし、ディーゼルエンジンであってもよい。ガソリンエンジンの場合には燃焼室に直接燃料を噴射する、いわゆる直噴式ガソリンエンジンであってもよい。
【0018】
クラッチ3は、エンジン2の出力軸とモータ4の回転軸との間の接続状態を切り替える動力伝達機構である。クラッチ3が接続状態にある場合、エンジン2及びモータ4の出力トルクは共に駆動輪9側に伝達される。一方、クラッチ3が切断状態にある場合、エンジン2の出力トルクはモータ4側に伝達されないため、駆動輪9側にはモータ4からの出力トルクのみが伝達されることとなる。尚、クラッチ3は本発明に係る「第1のクラッチ」の一例である。
【0019】
モータ4(走行用モータ)は、所定の磁場を発生させるステータ(固定子)と、該ステータによって発生された磁場を横切るように回転するロータ(回転子)とを含んでなる電動機である。モータ4は、インバータ10を介してバッテリ11から供給される電力により力行駆動することにより、駆動トルクを発生させ、ハイブリッド車両1の動力源の一つとして機能する。またモータ4が回生駆動された場合には、回生エネルギーを発生させることによって発電を行うと共に、制動トルクを発生させて回生ブレーキとしても機能する。尚、モータ4で発電された電力は、インバータ10にて直流変換された後、バッテリ11に充電される。
【0020】
変速機5は複数の変速段を有するマニュアルトランスミッション又はオートマティックトランスミッションであり、その変速段は段階的に可変であってもよいし、連続的に可変であってもよい。
【0021】
バッテリ11は、モータ4を力行駆動するための電力を蓄積する二次電池セルからなる蓄電池である。バッテリ11には予め直流電力が充電されており、放電時に出力された直流電力がインバータ10によって交流変換され、モータ4の力行駆動のために消費される。一方、モータ4の回生駆動時には、モータ4で発電した交流電力をインバータ10によって直流変換し、バッテリ11に充電される。
【0022】
クラッチ3が接続状態にある場合、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸と機械的に接続される。このときモータ4を力行駆動すると、駆動輪9にはエンジン2及びモータ4の双方からの出力トルクが伝達されることとなる。つまり、駆動輪9を駆動させるためのトルクの一部はエンジン2から供給されると共に、残りはモータ4から供給される。また、走行中にバッテリ11の充電量が少なくなったときには、エンジン2の出力トルクの一部を用いて駆動輪9を駆動しつつ、エンジン2の出力トルクの残りを用いてモータ4を回生駆動させ、発電した電力をバッテリ11に充電することもできる。
【0023】
一方、クラッチ3が切断状態にある場合、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸と機械的に切断される。このときモータ4を力行駆動すると、駆動輪9にはエンジン2からの出力トルクは伝達されず、モータ4からの出力トルクのみが伝達される。即ち、ハイブリッド電気自動車1の走行は、専ら、バッテリ11に蓄えられた電力を用いてモータ4を駆動することによって行われる。
【0024】
ハイブリッド車両1の走行方向(旋回方向)は、ドライバーによってステアリング30から入力された操舵トルクがパワーステアリング装置20にて増幅後、操舵輪(前輪)21に伝達されることにより決定される。パワーステアリング装置20は、第1のパワーステアリングポンプ22,第2のパワーステアリングポンプ23によって制御される油圧によって駆動され、ハイブリッド車両1の旋回挙動を行うためにドライバーがステアリング30から入力した操舵トルクを増幅し、ドライバーの操舵負担を軽減する。
【0025】
尚、本実施形態に係るハイブリッド車両1は前輪が操舵輪21であり、後輪が駆動輪9である場合を例示しているが、例えば前輪が操舵輪21と駆動輪9を兼用していてもよいし、この例に限られないことは言うまでもない。
【0026】
尚、本実施形態に係るパワーステアリング装置20は、ステアリング30から操舵輪21までをロッドやシャフト等を介して機械的に接続した上で、油圧により操舵力をアシストするインテグラル式パワーステアリング装置を採用している。具体的に説明すると、例えばステアリングホイールから入力された操舵トルクが、ステアリングコラムを介してP/Sブースターに伝達され、ピットマンアーム、ドラグリンク及びナックルアームを順に介して操舵輪21に伝達され、該P/Sブースターにてパワーステアリングポンプから供給される油圧に基づいて操舵トルクが増幅され、ピットマンアームやドラグリンク及びナックルアームを経て、操舵輪21に伝達されるようになっている。このように本実施例ではインテグラル式パワーステアリング装置を用いているが、他の方式のパワーステアリング装置を用いてもよいことは、言うまでも無い。以下の説明では、パワーステアリング装置20の増幅機能を増幅手段24として機能的に図示し、その機械的構成などの詳細な説明は適宜省略することとする。
【0027】
第1のパワーステアリングポンプ22は、変速機5にサブクラッチ40を介して連結されたアキュムレータ41から供給されるエネルギーを用いて駆動されることにより、増幅手段24を油圧制御する油圧ポンプである(尚、第1のパワーステアリングポンプ22はエンジン2によっても駆動可能である)。アキュムレータ41は本発明に係る「エネルギー蓄積手段」の一例であり、変速機5が有する動力(モータ4から出力された動力)の一部を動力伝達機構(不図示)を介して入力されたものを蓄積する蓄積手段である。より具体的に説明すると、アキュムレータ41はサブクラッチ40が接続状態にある際に変速機5から伝達されるエネルギーを蓄積する。蓄積完了後は、サブクラッチ40を切断状態にして然るべきタイミングでパワーステアリングポンプ22にエネルギーを供給することで、増幅手段24を駆動することができる。またサブクラッチ40は本発明に係る「第2のクラッチ」の一例である。
【0028】
尚、アキュムレータ41に蓄積されるエネルギーは、気体、流体、電磁力などを媒体としたものなど、その形態は問わない。好ましいアキュムレータ41の一形態としては、例えば変速機5から入力された回転エネルギーによってコンプレッサを駆動して圧縮気体を蓄積し、その圧縮気体を開放する際に放出される運動エネルギーを用いてパワーステアリングポンプ22を駆動することが考えられるが、これに限られないのは言うまでもない。
【0029】
一方、第2のパワーステアリングポンプ23は、電動モータ25から出力された動力で駆動されることにより、増幅手段24を油圧制御する油圧ポンプである。電動モータ25は上述のモータ4(走行用モータ)と同様に、所定の磁場を発生させるステータ(固定子)と、該ステータによって発生された磁場を横切るように回転するロータ(回転子)とを含んでなる電動機である。電動モータ25は、インバータ10を介してバッテリ11から供給される電力で駆動され、電気エネルギーを回転エネルギーとして出力する。尚、電動モータ25はハイブリッド車両1に搭載された他の補機類の駆動用モータを兼用していてもよい。
【0030】
このように本実施形態では、増幅手段24の駆動源として、エンジン2、アキュムレータ41及び電動モータ25を備えているが、これらは後述するECU18によって選択されることによって、いずれか一方からの動力に基づいて増幅手段24が駆動されるようになっている。
【0031】
尚、本実施形態ではエンジン2によって駆動される第1のパワーステアリングポンプ22と、電動モータ25によって駆動される第2のパワーステアリングポンプ23とを別々に設けているが、共通するパワーステアリングポンプをエンジン2及び電動モータ25で駆動するように構成してもよい。
【0032】
ECU18は、ハイブリッド車両1の各部位から取得した信号に基づいて、ハイブリッド車両1の動作全体を制御する電子制御ユニットであり、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備えて構成される。ECU18は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する各種制御を実行することが可能に構成されているが、これら各種制御の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではない。
【0033】
尚、ハイブリッド車両1には、ECU18で実施される制御に必要な各種パラメータを取得するためのセンサ類が配置されている。具体的には、ステアリング30からドライバーによって入力される操舵トルクを検出するための操舵トルクセンサ26やバッテリ11の充電量(SOC)を検出するためのSOCセンサ27が設けられている。その他、車速センサやステアリング30の操舵速度を検出するための操舵速度センサをもうけてもよい。これらの検出値は電気的信号としてECU18に送信され、後述する各種処理に用いられるようになっている。
【0034】
ここで図2はECU18の内部構成を機能的に示す機能ブロック図である。操舵トルクセンサ26はステアリング30から入力される操舵トルクを検出し、その検出値はECU18の操舵トルク検出部31において取得される。また、SOCセンサ27はバッテリ11の充電量(SOC)を検出し、その検出値はECU18の充電量検出部32において取得される。
【0035】
これら操舵トルク検出部31や充電量検出部32の検出結果は、駆動源選択部33に送信される。駆動源選択部33では、取得した要求操舵トルクや充電量の値を各種閾値と比較することにより、増幅手段24の駆動源としてエンジン2、アキュムレータ41、或いは、電動モータ25のいずれを選択すべきか判断する。そして、エンジン2、アキュムレータ41、及び、電動モータ25のそれぞれに制御信号を送信することにより、選択した駆動源を始動することによりパワーステアリング装置20を駆動する。
【0036】
続いてフローチャートを参照しながら、上記説明したハイブリッド車両1におけるパワーステアリング装置20に関する制御内容について、詳細に説明する。まず図3は、本実施形態に係るハイブリッド車両1に搭載されたパワーステアリング装置20のエネルギー蓄積制御を示すフローチャートである。
【0037】
ECU18はハイブリッド車両1が停車状態にあるか否かを判定する(ステップS101)。具体的には車速センサ(不図示)から取得した走行速度の検出値がゼロか否か、サイドブレーキ(不図示)がONになっているか否かに基づいて判定するとよい。停車状態にない場合(ステップS101:NO)、ECU18は処理を終了する(エンド)。一方、停車状態にある場合(ステップS101:YES)、ECU18は変速機5の変速ギアをニュートラルに設定し(ステップS102)、クラッチ3を切断状態に切り替える(ステップS103)。
【0038】
続いてECU18の充電量検出部32は、SOCセンサ27の検出値を取得することにより、バッテリ11の充電量SOCが閾値SOC1より大きいか否かを判定する(ステップS104)。ここでは、以下に説明するエネルギー蓄積制御は、後述するようにモータ4の駆動を伴うため、当該モータ駆動で消費される電力がバッテリ11に残っているかが判定される。バッテリ11の充電量が閾値SOC1未満である場合(ステップS104:NO)、充電量が不足しているためにエネルギー蓄積制御を実施することができないので、ECU18は処理を終了する(エンド)。
【0039】
一方、バッテリ11の充電量が閾値SOC1より大きい場合(ステップS104:YES)、ECU18は初期状態において切断されているサブクラッチ40を接続し(ステップS105)、バッテリ11の電力を用いてモータ4を駆動させる(ステップS106)。このとき、クラッチ3は切断状態にあるため(ステップS103を参照)、モータ4の動力はアキュムレータ41に伝達される。このようにして、アキュムレータ41へのエネルギーの蓄積が行われる(ステップS107)。
【0040】
アキュムレータ41へのエネルギー蓄積が行われている間、ECU18はアキュムレータ41に蓄積されたエネルギー量をモニタリングし、蓄積量Eaccが所定値Eacc1より大きくなったか否かを判定する(ステップS108)。この所定値Eacc1は、パワーステアリングポンプ22を駆動するためにアキュムレータ41に蓄積すべきエネルギー量として予め規定されている基準値であり、蓄積量がこの値に達するまでの間、アキュムレータ41へのエネルギー蓄積が継続される。そして、アキュムレータ41へのエネルギー蓄積が完了すると、ECU18はモータ4を停止し(ステップS109)、サブクラッチ40を切断状態に戻す(ステップS110)。
【0041】
このようにエネルギー蓄積制御では、ハイブリッド車両1の発進前の停車状態においてモータ4を駆動させることにより、アキュムレータ41にエネルギーが蓄積される。尚、エネルギー蓄積制御は、ハイブリッド車両1の始動時に自動的に実行されるようにしてもよいし、停車時にドライバーが実行ボタン(不図示)をON操作するタイミングでマニュアル的に実行されるようにしてもよい。
【0042】
このようにしてアキュムレータ41に蓄積されたエネルギーは、次に説明するパワーステアリング駆動制御に用いられる。図4は本実施形態に係るハイブリッド車両1に搭載されたパワーステアリング装置20において実施される、パワーステアリング駆動制御を示すフローチャートである。
【0043】
まずECU18はドライバーから車両の発進要求があったか否かを判定する(ステップS201)。発進要求の有無は、例えばブレーキペダル(不図示)がOFFに切り替えられたか否か、或いは、アクセルペダル(不図示)がONに切り替えられたか否かなどを基準に判定するとよい。車両の発進要求が有った場合(ステップS201:YES)、ECU18は変速機5の変速ギアを発進ギア段に設定し(ステップS202)、モータ4を駆動して発進を行う(ステップS203)。
【0044】
ここでECU18はステアリング30の操舵角を監視することにより、ドライバーが操舵操作を行ったか否かを判定する(ステップS204)。操舵操作が有った場合(ステップS204:YES)、ECU18は操舵トルク検出部31から操舵トルクセンサ26で検出した操舵トルクTrを取得する(ステップS205)。そして、ECU18は不図示のメモリ等の記憶手段に予め記憶した閾値Tr1を取得し、算出した要求操舵トルクTrが当該閾値Tr1以上であるか否かを判定する(ステップS206)。この閾値Tr1は増幅手段24の駆動源としてアキュムレータ41に蓄積されたエネルギーを使用するか、或いは、エンジン2又は電動モータ25を使用するかを選択するための境界値として規定されたものである。
【0045】
要求操舵トルクTrが閾値Tr1未満である場合(ステップS206:NO)、ECU18の駆動源選択部33は増幅手段24の駆動源として電動モータ25を選択する(ステップS207)。この場合、エンジン2以外の駆動源である電動モータ25からの出力を用いて増幅手段24を駆動できるので、エンジン2の運転期間を効果的に短縮して燃費向上を図ることができる。また要求操舵トルクも比較的小さいので、比較的小型の電動モータ25によって賄うことができる。
【0046】
一方、要求操舵トルクTrが閾値Tr1以上である場合(ステップS206:YES)、ECU18は更にアキュムレータ41の蓄積量が閾値Eacc2以上であるか否かを判定する(ステップS208)。閾値Tr2はアキュムレータ41にステップS205で算出した要求操舵トルクを出力するだけのエネルギーが蓄積されているか否かを判定するための基準値として規定されたものである。尚、閾値Eacc2は前述の閾値Eacc1と同じに設定してもよい。
【0047】
蓄積量が閾値Eacc2以上であると判定された場合(ステップS208:YES)、ECU18の駆動源選択部33は増幅手段24の駆動源としてアキュムレータ41を選択する(ステップS209)。これにより、アキュムレータ41に蓄積されたエネルギーを用いて、比較的出力の小さい電動モータ25では賄いきれない要求操舵トルクを賄うことができる。
【0048】
一方、蓄積量が閾値Eacc2未満であると判定された場合(ステップS209:NO)、アキュムレータ41には要求操舵トルクを賄うだけのエネルギーが蓄積されていないので、ECU18の駆動源選択部33は増幅手段24の駆動源としてエンジン2を選択する(ステップS210)。この場合もまた、電動モータ25では対応が困難な要求操舵トルクを賄うことができるため、電動モータ25の大型化を回避することができる。
【0049】
以上説明したように、本発明に係るハイブリッド車両1では、パワーステアリング装置20の増幅手段24の駆動源としてアキュムレータ41と電動モータ25とを備えており、これらをハイブリッド車両1の走行状態に応じて切り替えることによって、良好な燃費性能を確保しつつ、様々な要求操舵トルクにも対応が可能となる。特にアキュムレータ41に蓄積したエネルギーを用いて増幅手段24を駆動することによって、比較的出力トルクが小さい電動モータ25では対応が困難な大きな要求操舵トルクに対しても対応可能となる。このように本発明ではアキュムレータ41を用いることによって、車両に搭載する電動モータ25の小型化も図ることができるので、車両重量やコスト増加も抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、エンジン及び走行用モータの少なくとも一方から出力された動力で走行するハイブリッド車両において、ステアリングから入力された操舵トルクを増幅して駆動輪に伝達するハイブリッド車両のパワーステアリング装置の技術分野に関する。
【符号の説明】
【0051】
1 ハイブリッド車両
2 エンジン
3 クラッチ(第1のクラッチ)
4 モータ(走行用モータ)
5 変速機
6 プロペラシャフト
7 差動装置
8 駆動軸
9 駆動輪
10 インバータ
11 バッテリ
18 ECU
20 パワーステアリング装置
21 操舵輪
22 第1のパワーステアリングポンプ
23 第2のパワーステアリングポンプ
24 増幅手段
25 電動モータ
26 車速センサ
27 操舵速度センサ
30 ステアリング
31 操舵トルク検出部
32 充電量検出部
33 駆動源選択部
40 サブクラッチ(第2のクラッチ)
41 アキュムレータ(エネルギー蓄積手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン及び走行用モータ間に第1のクラッチが設けられ、前記エンジン及び前記走行用モータの少なくとも一方から出力された動力を、変速機を介して駆動輪に伝達して走行するハイブリッド車両において、ステアリングから入力された操舵トルクを増幅手段にて増幅した後、操舵輪に伝達するハイブリッド車両のパワーステアリング装置であって、
前記変速機に第2のクラッチを介して連結されることにより、前記変速機から入力されるエネルギーを蓄積するエネルギー蓄積手段と、
前記エネルギー蓄積手段又は前記ハイブリッド車両に搭載された電動モータのいずれか一方から出力された動力で駆動されることにより、前記ステアリングから入力された操舵トルクを増幅する増幅手段と、
前記増幅手段の駆動源として前記エネルギー蓄積手段又は前記電動モータのいずれか一方を選択する駆動源選択手段と
を備え、
前記駆動源選択手段は、前記ステアリングから入力される操舵力が所定値以上である場合、前記増幅手段の駆動源として前記エネルギー蓄積手段を選択し、前記ステアリングから入力される操舵力が前記所定値未満である場合、前記増幅手段の駆動源として前記電動モータを選択することを特徴とするハイブリッド車両のパワーステアリング装置。
【請求項2】
前記エネルギー蓄積手段は、前記ハイブリッド車両の停車時に前記第1のクラッチを切断状態にし、前記変速機をニュートラルに設定し、且つ、前記第2のクラッチを接続状態にした状態で前記モータを駆動することによりエネルギーを蓄積することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両のパワーステアリング装置。
【請求項3】
前記電動モータの駆動用電力を充電しているバッテリの充電量が所定値未満である場合、前記駆動源選択手段は、前記増幅手段の駆動源として前記エネルギー蓄積手段を選択することを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両のパワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−107591(P2013−107591A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256335(P2011−256335)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】