説明

ファイバレーザ光源およびそれを用いた波長変換レーザ光源

【課題】100μ秒以上にレーザパルスの間隔を変化させても、その間隔に影響されることなく安定したレーザパルスを出力できるファイバレーザ光源を提供する。
【解決手段】レーザ活性物質を含むファイバとその両端にファイバグレーティングを設けたレーザ共振器と、前記共振器の一端に励起光を入射する励起用レーザ光源と、連続パルス光を出力する際に、前記励起用レーザ光源に前記レーザ共振器がパルス発光できる第1の電流を与えた後に、前記第1の電流より小さく前記レーザ共振器の閾値電流より大きい第2の電流を与え、前記第2の電流を停止した後に休止期間を設けて次のパルス発光を行うための電流を前記励起用レーザ光源に与える駆動電流供給手段と、から成るファイバレーザレーザ光源。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定なパルス光発生が可能なファイバレーザ光源およびそれを用いた波長変換レーザ光源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1μm帯の波長の光を発生するレーザ光源には、Nd:YAGレーザ、Nd:YVO4レーザ等の固体レーザが主流であり、これらを用いたレーザ加工機やこれらの光を基本波とした可視光源などが実現されている。ところが、大出力のレーザ出力を得るためには、レーザ媒質の冷却が必要となり装置が大型になる。そこで、簡単な冷却でW級の高出力を持つファイバレーザ光源が求められている。
【0003】
このファイバレーザ光源の基本動作について説明する。レーザ活性物質を含むファイバの両端側にファイバグレーティングを設けて一対の反射ミラーを形成する共振器を作り、励起用レーザ光源からの励起光をファイバの一端から入射する。この励起光はファイバに含まれるレーザ活性物質で吸収されると、レーザ活性物質が自然発光を発生する。ファイバ内部で発生した自然発光は、共振器の中を何度も反射して往復する間に、位相のそろった光となり、レーザ活性物質により増幅されて光強度が増加する。同時に、ファイバグレーティングにより波長選択されるので、波長のそろったレーザ発振となる。なお、ファイバとファイバグレーティングとは、接続部で融着接続されており、励起用レーザ光源は電流駆動される。
【0004】
高いピークパワーを持つパルスレーザ光源であれば、穴あけなどのレーザ加工、高効率波長変換などさらに用途が広がる。そのため、Qスイッチを利用したファイバレーザによるパルス光発生装置がある。これは、内部に希土類をレーザ活性物質として添加したファイバの両端にファイバブラッググレーティング(以下、「FBG」とする)を設け、2つのFBG間でレーザ共振器を構成する。さらに共振器内に設けた過飽和吸収体よりレーザの過飽和吸収特性を利用してパルス発生が行われている。過飽和吸収特性によりQスイッチ動作が可能となり、モードロックを利用することでファイバレーザの出力端から超短パルスレーザ光を発生させている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0005】
また、同様のファイバとこれを挟む1組のFBGとで構成されるファイバレーザ装置において励起用のレーザ光源の入力パターンを最適化して矩形状の光パルスの先頭にサージパルスを伴わないようにして安定な矩形状の光パルスを生成する技術が知られている(例えば、特許文献2を参照。)。このような構成により、不安定なサージパルスがないディスプレイや各種の分析などの用途に最適な安定な矩形状の光パルスを得ることができるとしている。
【0006】
また、ファイバを用いた光源でパルス発光させる方法としては、変調された種光源をファイバアンプで増幅する方法がある。このような例として変調された種光源をファイバアンプで増幅する構成として、ファイバレーザ発振器(MO部)とファイバレーザ増幅器(PA部)とを直列に接続して一定出力の高出力パルス列を発生するファイバレーザ装置において、発振器と増幅器との励起開始のタイミングを工夫することにより、光パルスが発生する最初の段階から安定な一定出力の光パルス列が得られるとしている(例えば、特許文献3、及び4を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−174993号公報
【特許文献2】特開2007−142380号公報
【特許文献3】特開2007−35696号公報
【特許文献4】特開2008−181943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来の構成では、パルス間隔が短いと問題はないが、例えば100μ秒以上にパルス間隔を広げると、パルス間隔に依存したレーザパルスの出力低下が生じる。また、ファイバレーザへパルス励起信号を入力してからレーザパルスが発生するまでの時間の遅れが増加する。すなわち、レーザパルスの間隔を広くして連続的にレーザパルスを発生させると、レーザパルスの出力や出力タイミングが大きく変動するという課題を有していた。
【0009】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、100μ秒以上にレーザパルスの間隔を変化させても、その間隔に影響されることなく安定したレーザパルスを出力できるファイバレーザ光源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記従来の課題を解決するために、本発明のファイバレーザ光源およびそれを用いた波長変換レーザ光源は、レーザ活性物質を含むファイバとその両端にファイバグレーティングを設けたレーザ共振器と、前記共振器の一端に励起光を入射する励起用レーザ光源と、連続パルス光を出力する際に、前記励起用レーザ光源に前記レーザ共振器がパルス発光できる第1の電流を与えた後に、前記第1の電流より小さく前記レーザ共振器の閾値電流より大きい第2の電流を与え、前記第2の電流を停止した後に休止期間を設けて次のパルス発光を行うための電流を前記励起用レーザ光源に与える駆動電流供給手段と、
から成ることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明のファイバレーザ光源およびそれを用いた波長変換レーザ光源は、請求項1に記載のファイバレーザ光源と、前記ファイバレーザ光源からのレーザ光を波長変換して高調波を出力する波長変換素子と、前記波長変換素子から出力される高調波の一部を検出する高調波出力検出器と、前記ファイバレーザ光源の駆動電流供給手段から励起用レーザ光源へ出力する電流タイミングを弁別するタイミング弁別手段と、前記タイミング弁別手段によって弁別された前記レーザ共振器がパルス発光するタイミングで前記高調波出力検出器からの値をパルス出力値として取り込み、その値が目標値に近づくように前記駆動電流供給手段の出力電流を調整する指示を行うパルス出力制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のレーザ光源によれば、100μ秒以上にレーザパルスの間隔を変化させても、パルス光の出力タイミングや出力が変化しない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】利得スイッチを用いたファイバレーザの原理を示す図
【図2】ファイバレーザにおける出力変動を説明するモデルを示す図
【図3】本発明の実施例1におけるファイバレーザ光源の構成を示す図
【図4】(a)本発明の実施例1におけるファイバレーザ光源の出力を示す図(b)本発明の実施例1におけるファイバレーザ光源の駆動電流波形を示す図
【図5】本発明の実施例1における予備励起出力とパルス出力のばらつきとの関係を示す図
【図6】本発明の実施例1における休止時間のタイミングを示す図
【図7】パルス励起工程と予備励起工程との間の休止期間とサブピーク出力との関係を示す図
【図8】本発明の実施例1における発光停止工程の効果を示す図
【図9】発光停止時間とパルス出力の関係を示す図
【図10】本発明の実施の形態1におけるファイバレーザ光源の効果を示す図
【図11】本発明の実施の形態2における発光停止時間及びパルス励起電流と遅延時間との関係を示す図
【図12】本発明の実施例2におけるファイバレーザ光源の構成を示す図
【図13】本発明の実施例3におけるファイバレーザ光源の構成を示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
最初に、レーザにおけるパルス光発生の原理について説明する。図1aに示すのはレーザ共振器の概略図であり、レーザ媒質202を2つのミラー204、205で挟みレーザ共振器を構成している。このレーザ共振器に、外部から励起光21を入射して、レーザ発振した出力光202を得る。ファイバレーザでは、レーザ媒質202がドープファイバに相当し、ミラー204、205がファイバグレーティングに相当する。
【0015】
このレーザ共振器に、図1bに示すようなステップ状に強度変調された励起光201をレーザ媒質202に入力すると、レーザ媒質内では図1cに示すように時間とともに内部エネルギーが増加する。レーザ媒質がレーザ発振していなければ、内部エネルギーはレーザ共振器のレーザ発振閾値を超えて過飽和状態となる。この過飽和状態でレーザ発振が始まると蓄積されたエネルギーが一度に放出されるため、図1dに示すようにパルス出力が発生する。これが利得スイッチによるパルス発光の原理である。利得スイッチにおいては、励起の開始時間からパルス発生までにエネルギー蓄積の時間t1を必要とする。ここではt1を遅延時間と呼ぶ。このような利得スイッチを利用したファイバレーザを用いることで、簡単な構成でレーザパルスを発生できる。
【0016】
ところが、利得スイッチをファイバレーザに用いて連続パルス発光を行うと、従来知られていなかった2つの問題が明らかになった。第1の問題は、ファーストパルスの問題である。パルス間隔を広げていくに伴い、パルス発振開始時のファーストパルス出力が極端に低下するという現象である。このファーストパルスの出力変動は、固体レーザにおいても見られる。しかし、この場合は、ファーストパルスの出力が増大するので、ファイバレーザの現象とは明らかに発生メカニズムが異なる。第2の問題は、パルス間隔が変化すると、励起光とファーストパルス出力との遅延時間t1が変化する現象である。この遅延時間が変化すると、パルス光の出力タイミングが変化する。これは、固体レーザでは見られない現象である。
【0017】
ファイバレーザが固体レーザと異なる点は、共振器長が非常に長い点である。固体レーザの共振器長は最大でも1m程度であり、一般には数10cm程度のものが使用されている。これに対して、ファイバレーザの共振器長は10m以上なので、固体レーザに比べて共振器内部に蓄積されたエネルギーがレーザの発生に与える影響が異なる。
【0018】
このメカニズムを、図2を用いて説明する。図2は、ファイバレーザ共振器内部における蓄積されたエネルギーの分布を示したものである。横軸は距離で、共振器の入射部から出射部までの位置を示す。縦軸は共振器内に蓄積される反転分布のエネルギーである。励起光の矢印は入射部側から共振器内に励起光が入力している状態を示し、パルス光の矢印はパルスレーザが発生している状態を示している。
【0019】
さて、図2aに示すように、励起光が入射部に入力されるとファイバ共振器内部でエネルギーが蓄積される。ファイバ共振器の励起光吸収係数が高いので、ファイバ内部で励起光が減衰し、蓄積エネルギーも入射側から出射側に向かって減少する。さらに励起光を送り続けると、蓄積エネルギーがファイバ共振器の閾値を超えるため、パルス光が発生する(図2b)。このパルス発光は、ファイバ共振器がレーザ発振状態になるために生じる。このとき、励起光や出力するパルス光がファイバ共振器内部を伝搬するため、エネルギー分布がファイバ共振器全体に広がる(図2c)。すなわち、レーザ発振によってファイバ共振器内部に蓄積されたエネルギー分布が変化する。
【0020】
このようにして最初のパルスが出力されるが、この後にパルスを出力する場合は、ファイバレーザ特有の問題が生じる。その説明を、パルス発生直後に再びパルス励起を始めた場合とパルス発生後しばらく時間を置いてパルス励起を始めた場合とに分けて説明する。
【0021】
パルス発生直後に再びパルス励起を始めたときのメカニズムを図2d〜eに示す。パルス発振が停止後、再び励起光を入力すると先のパルス発振によって蓄積されたエネルギーに加えて励起エネルギーが再び蓄積される(図2d)。さらに励起光を入力するとファイバ共振器の閾値を超えた時点でパルス光が発生する(図2e)。このパルス光の出力は、先に発生したパルス光よりも大きい。この理由は、直前のパルス発振で蓄積されたエネルギーが残っている間に励起光が入力されるので、残留したエネルギーが励起光によるエネルギーに加算されるからである。
【0022】
次に、パルス発生後しばらく時間を置いてパルス励起を始めたときのメカニズムを図2d’、e’に示す。パルス発生後にしばらく立ってからパルス励起を始めた場合では、パルス発生直後に再びパルス励起を始めたときと比べ、ファイバ共振器内部に蓄積されたエネルギーが少なくなる(図2d’)。これは、先のパルス発振でファイバ共振器内部に蓄積されたエネルギーは、時間と共に熱や自然発光となって失われていくからである。励起光に加算されるエネルギーがパルス間隔の間に減少するためパルス出力が小さくなる(図2e’)。以上がパルス間隔によって出力するパルス光の出力が変動するメカニズムである。
【0023】
次に、第2の問題である、パルス間隔により出力タイミングが変化するメカニズムを説明する。パルス間隔による遅延時間の変化も、第1の問題と同様に残留エネルギーに起因する。ここでは、パルス励起の開始からパルスが発生するまでの時間を遅延時間と呼ぶ。遅延時間はパルス励起により蓄積されるエネルギーがパルス発生の閾値に達するまでに要する時間である。先に説明したように、パルス間隔が広くなるに従い、ファイバ共振器内部に蓄積された内部エネルギーは低下する。内部エネルギーが低下すると、パルス発生に必要な励起エネルギー量が増大するため、励起時間が長くなり遅延時間が増加する。
【0024】
以上が、利得スイッチをファイバレーザに用いて連続パルス発光を行う際に生じる問題の発生メカニズムである。
【0025】
次に、本発明のレーザ光源の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【0026】
(実施の形態1)
図3は、本発明の第1の実施の形態におけるレーザ光源の構成図を示す。ファイバレーザ光源101は、Yb添加ダブルクラッドファイバ103の両端にFBG104、105を融着接続することでファイバ共振器をとした。本実施の形態で用いたYb添加ダブルクラッドファイバ103のコア径は6μm、長さ10m〜20m程度とした。励起用レーザ光源には波長915nmの半導体レーザ102を用い、ファイバ共振器の片方のFBG103に励起光が入力できるように配置した。励起光を入力することにより、ファイバ共振器内で共振して波長1000nm〜1100nmのレーザ出力光が発生する。このレーザ出力を波長変換素子105に導けば、波長変換された短波長光が波長変換素子105より出力される。共振波長はFBGの反射波長で選択すれば良い。本実施の形態では、波長1064nmのレーザ出力光を発生できるFBGの反射波長を選んだ。このファイバ共振器からレーザ出力の発生は、励起用レーザ光源101に接続された駆動電源110により行われる。
【0027】
本発明の特徴は、励起用レーザ光源101を駆動する電流の与え方にある。図4aに、励起用レーザ光源に印加する電流波形を示す。まず、第1の電流(パルス励起電流)でレーザパルス発振を行い(パルス励起工程)、その後、第2の電流(予備励起電流)を流して連続発光を行った後(予備励起工程)、発光を休止する(発光停止工程)からなる。この発光停止工程の後、次のレーザパルス発振のための第3の電流を流す、というサイクルを繰り返して、連続パルス発振を行うことに特徴がある。
【0028】
本実施の形態では、レーザパルス発振のための電流を等しくして連続発射する場合、すなわち一定のパルス出力で連続的に発光させる場合を例に取り説明する。
【0029】
このときファイバレーザから出力する光の強度を図4bに示す。パルス励起工程による第1の電流が流れた後、時間遅延してパルス光が出力する。予備発光工程での第2の電流は、ファイバレーザを低出力で連続発光させるために、ファイバレーザの閾値電流以上の電流を印加する。発光停止工程は利得スイッチを行うために、ファイバレーザ共振器内部のレーザ発振を止める工程である。発光停止工程では、印加電流をゼロまたは励起用レーザ光源101の閾値電流以下にする。このようにして、パルス励起工程の間に予備発光工程と発光停止工程とを設けることで、励起光の間隔を変化させても、安定した連続パルス出力が得られる。
【0030】
図2で説明したように、ファイバレーザでは共振器長が長いので、パルス発光により内部にエネルギーが分布して蓄積されている。このエネルギー量が、パルス出力、パルス間隔で変化し、パルス特性に影響する。この問題を解決するのが、予備励起工程である。発明者は、パルス発光した後のファイバ共振器を低出力で連続発光をさせると、パルス発光により蓄積されたエネルギーの量をほぼ一定に保つことができることを見出した。そこで連続パルス発光を行うためのパルス励起電流の間に、ファイバ共振器内に低出力の連続発光をさせる予備励起工程を設けることにした。この予備励起工程により、パルス発光後のファイバ共振器内に蓄えられるエネルギー量は、時間が経過しても一定に保つことが出来る。
【0031】
次に、ファイバ共振器に利得スイッチを適用してパルス発光させるためには、パルス励起電流を投入する直前に、ファイバ共振器内部のエネルギー振動を安静な状態にする必要がある。そのためには、低出力でのレーザ発振を止め、共振器内部の緩和振動が完全に消滅する期間、励起用レーザ光源101の駆動電流を止めなければならない。すなわち、予備励起工程の後には、発光停止工程が必要となる。
【0032】
ここで、励起用レーザ光源101の駆動電流を止めると、ファイバ共振器内部の蓄積エネルギー量は、急速に低下すると思われる。そうすると、次のパルス励起工程によるパルス出力は低下することになる。ところが予想に反して、予備励起工程で蓄積されたエネルギーが有限の時間に渡り、一定の値を保つ現象を発明者は見出した。発明者が行った実験では、その時間は100μ秒程度だった。これは、ファイバ共振器長により変化するものと思われる。すなわち、発光停止工程の時間を制限することで、次のパルス励起工程によるパルス出力は、先のパルス出力と同等のものが得られる。この発光停止工程の時間は、共振器内部の緩和振動が消滅する時間よりも長く、また予備励起工程で蓄積されたエネルギーが低下しない時間の間に設定すれば良い。
【0033】
また、予備励起工程では、ファイバ共振器を低出力で連続発光させるが、その際に与える励起エネルギーの値も重要である。この連続発光を安定して継続できる励起エネルギーを与えないと、後述するように出力タイミングが変化するためである。
【0034】
以下に、本発明のパルス光源における駆動方法を各工程に分けて詳細に説明する。
【0035】
(パルス励起工程)
パルス励起工程は、図4に示すように、パルスを発光させる工程である。一定の発光停止工程の後に、パルス励起を行うことでパルス光が発生する。この工程では図1で説明したように、内部エネルギーを過飽和状態にし、蓄積されたエネルギーを一気に放出することでパルスを発生する。パルス励起工程の開始からパルス発生までの遅延時間は、図1(c)の遅延時間t1で示した時間であり、パルス励起のエネルギーがパルス発生の閾値に達するまでの時間である。また出力するパルス出力、パルス幅、遅延時間はパルス励起電流に依存する。
【0036】
(予備励起工程)
予備励起工程では、前述したように連続光を発生することでレーザ活性媒質へエネルギーを蓄積する工程である。予備励起に必要なのは、安定した連続光の発振であり、このための入力強度(予備励起入力)が有る値以上であれば、入力強度によらずパルス励起工程でのパルス発光出力は変化しない。しかし、この予備励起入力が低いと、パルス励起工程でのパルス発光に影響を与える。これを、図5を利用して説明する。図5は予備励起工程における励起用レーザ光源の出力とパルス励起工程でのパルス出力バラツキの関係を示したものである。縦軸はパルス励起工程での相対的なパルス出力バラツキであり、数字0は発光しない状態を示し、数字100は、目標のパルス出力を示す。矢印の長さは、その間のいずれかのパルス出力が発生することを表す。
【0037】
図5において、ファイバ共振器がレーザ発振する閾値以下で予備励起入力を与えると、パルス励起工程でのパルス出力が大きくばらつく。この閾値を超えると徐々にパルス出力のバラツキが減る。予備励起入力が約2Wを超えると、バラツキが見られず、その後は予備励起入力の値によらず、一定のパルス出力が得られた。これは閾値近傍ではレーザ発振が不安定な状態で、エネルギー蓄積が不十分になるためと考えられる。
【0038】
そのため、予備励起工程では、安定なレーザ発振が得られる予備励起入力が必要となる。一方、予備励起のパワーは2Wを超える値で可変しても、パルス出力と遅延時間とは変化しなかった。この結果よりレーザ発振により蓄えられるエネルギーは励起パワー2W程度で飽和すると考えられる。以上の結果、予備励起パワーは2W程度以上の励起光強度が望ましい。
【0039】
また、パルス励起工程と予備励起工程とは、時間を空けずに連続して行うほうが良い。図6に、パルス励起工程と予備励起工程との間に休止時間を設けた場合を示す。図6aはファイバレーザ出力、図6bは駆動電流波形を示す。休止時間を設けると、図6aに示すように、予備励起開始時にパルス光(サブパルス)が発生する。このサブパルスの出力は不安定であるので、精密加工に用いる場合には、パルス励起工程により生じるパルス光のみが望まれる。
【0040】
本実施例における、この発光停止時間とサブパルスの出力の関係を実験により求め、その結果を図7に示す。図から明らかなように、休止期間を1μ秒以下にすることでサブパルスの発生は抑えられる。従って、パルス励起工程と予備励起工程との間は、1μ秒以下にすることが好ましい。
【0041】
(発光停止工程)
次のパルス励起工程の直前には、共振器内部のレーザ発振や緩和振動の無い状態、すなわち内部エネルギー変動の無い状態が一定時間以上必要である。このため、発光停止工程が必要になる。これを、図8を用いて説明する。図8aは、発光停止時間が設けられていない場合のパルス出力を表す。図8bは、そのときの駆動電流である。発光停止時間を設けなければ、図8aに示すようにパルス出力は大幅に低下してしまう。これは、発光停止時間がないため共振器内部で内部エネルギー分布が変動する不安定な状態となり、次のパルス発生のための過飽和なエネルギー蓄積が生じないためである。発光停止時間を設けると、レーザ発振を行わない安定な状態になるため、レーザ発振閾値を超えた過飽和なエネルギー蓄積が可能となり、パルスが発生する。なお、発光停止時間は、緩和振動を抑えるのに十分な時間が必要であり、かつレーザ発振に伴う蓄積エネルギーを失わない時間以内の範囲で決める必要がある。
【0042】
具体的な値として、本実施例での発光停止時間とパルス励起工程でのパルス出力の関係を図9に示す。図9は発光停止時間とパルス出力の関係を示した物である。用いたファイバはコア径6μmのYbドープファイバ、共振器長は16m、励起光は915nmの半導体レーザである。発光停止時間が15μ秒に満たないと、パルス出力が低下する。これは、緩和振動が十分収まらず、過飽和状態が阻害されるためである。本実施例での利得スイッチによるパルス発生には、共振器内でのレーザ発振が完全に収まった状態が必要であり、このための時間として15μ秒程度の時間が必要と考えられる。
【0043】
一方、発光停止時間が60μ秒を超えるとパルス出力が再び低下する。さらに230μ秒を超えるとパルス出力は急激に低下する。これは、予備励起入力により蓄積されたエネルギーの保持時間の上限が230μ秒程度であることを示している。この上限を超えると蓄積エネルギーの損失が大きくなりパルス出力が低下する。さらにパルス出力が変動しない非常に安定な状態が15〜60μ秒の間に存在することも分かった。従って、本実施例でのファイバ共振器であれば、発光停止時間は図9のAの範囲である15μ秒以上、60μ秒以下に設定するのがさらに好ましい。この範囲であれば発光停止時間によってパルス出力はほとんど変化せず、安定な出力特性が得られる。
【0044】
発光停止状態は、蓄積されたエネルギーの損失がパルス光発生に影響しない程度であり、かつ次のパルス発光が可能な静止状態を創り出すための長さが要求される。230μ秒を超えると蓄積エネルギー損失が大きくなり、15μ秒より短くなると共振器の過飽和状態が阻害される。
【0045】
この発光停止時間は、Yb添加ダブルクラッドファイバの構造にも依存する。本実施例では、コア径6μm、長さ10〜20mのファイバである。また、励起光の波長は915nm近傍、出力光の波長が1064nm近傍のものを用いた。ファイバレーザのコア径を10μm程度まで大きくし、FBGの反射率など共振器の設計を調整すると、発光停止時間の最小値は5μ秒程度まで短くすることができる。共振器構造を最適化することでパルス出力が変化しない安定な発光停止時間を5μ秒〜80μ秒にすることも可能である。発光停止時間を短くすることでパルスの繰り返し周波数の最大値を高くすることが可能になる。
【0046】
本発明のパルス出力の改善効果を示すために、従来の方法と比較した測定結果を次に示す。本発明においては、図3にて説明したファイバレーザを用い、駆動電源110におけるパルス励起工程のパルス励起電流を10A、予備励起工程の予備励起電流を2A、発光停止工程の停止時間を20μ秒とした。ファイバ共振器のコア径6μm、共振長さは16mである。また、励起用レーザ光源の波長は915nmのものを用い、パルス間隔を10μ秒〜10000μ秒で可変した。このときのパルス発振時の出力光の波長は1064nmである。一方、従来の方法では、予備励起工程と発光停止工程とを除いた他は、本発明と同一の構成とした。なお、ここでは、パルス励起電流の値は同じ、すなわち第1の電流と第3の電流を同じ電流とし、同一パルスの繰り返し発生における、パルス間隔依存性を評価した。
【0047】
図10aは、本発明のパルス間隔に対する出力値の関係を示し、図10bは従来の方法における同様の値を示す。図から明らかなように、15μ秒以下では、いずれの方法でもパルス出力が低下した。これはパルス間隔が十分長くないと、緩和振動が抑えられず利得スイッチによるパルス発生効率が低下するからである。さらに、従来の方法では、パルス間隔が20μ秒を超えると徐々に出力が低下し、200μ秒をこえると急速にパルス出力の低下が生じた。一方、本発明では、15μ秒から10000μ秒まで、パルス出力の低下は見られない。同様に、図10cに本発明のパルス間隔に対する遅延時間の関係を示し、図10dに従来の方法における同様の値を示す。パルス出力と同様に15μ秒以下では、いずれの方法でも遅延時間がパルス間隔に依存して変化した。さらに、従来の方法では、パルス間隔が100μ秒を超えると遅延時間が急激に増加するが、本発明では、10000μ秒にいたるまで、遅延時間の変化は見られない。従って、本発明の予備励起工程と発光停止工程とをパルス励起工程の間に設けることで、パルス間隔によらず、安定してパルス特性を得ることができる。本発明のレーザ光源は、15μ秒以上の任意のパルス間隔において、パルス出力、遅延時間が変化しない安定なパルス発光が可能となる。
【0048】
なお、本実施例では、励起用レーザ光源として波長915nmの半導体レーザを用いたが、パルス励起用と予備励起用で異なる波長を用いる構成でも良い。例えば予備励起用の励起用レーザ光源としては波長915nmの半導体レーザを、パルス励起用には波長975nmの半導体レーザを用いても良い。Ybドープファイバは975nmの光に対する吸収係数が大きいので、975nmの励起用レーザを用いることで、より高出力のパルス光発生が可能となる。この場合は、波長975nmのファイバの吸収係数が大きいため、ファイバレーザ共振器における蓄積の分布が強くなり、パルス出力のバラツキが増大する。しかし、予備励起を915nmの半導体レーザで行うことで、予備励起におけるエネルギー蓄積分布が小さくなる。この結果、975nmの励起用レーザでパルス励起した場合でも、バラツキの少ない安定なパルス出力が得られる。すなわち、ファイバレーザのパルス励起には吸収係数の異なる波長でパルス励起と予備励起を行うことで高出力のパルス光を安定に得ることができる。
【0049】
なお、本実施例では、ドープファイバをYbドープファイバで説明したが、これ以外のレーザ活性物質を含むファイバであれば良い。すなわち、レーザ活性物質としてドープされた、Er、Pr、Nd、Tm、Hoなどの希土類や、これらを混合したファイバでも良い。ドープする希土類を変えることで発振波長を選択できる。また、ファイバを進行方向に複数の部分に分割し、それぞれに異なるドープ材料またはドープ濃度のファイバを接続する構成にすると、高速なパルス変調が可能となる。
【0050】
また、パルス発光用のレーザ光源を複数個用意し、励起レーザと予備発光用の励起レーザとに別々に振り分ける構成も可能である。例えば、励起用レーザを4つの半導体レーザ(LD)で構成し、低出力しか必要としない予備励起にはそのうち1つのLDを使って励起し、パルス発光には4つのLDで励起する構成も可能である。低出力動作が必要な予備励起ではLDの数が少ない方が低出力を安定に動作できるという利点がある。
【0051】
本実施例の構成では、出力したパルス光が励起用レーザに戻る可能性がある。この戻り光が励起用レーザの出力端面に戻ると、LDの端面破壊が発生する。これを防止するため、励起用レーザには戻り光防止用の波長選択フィルターを備えるのが好ましい。励起用レーザの出力近傍に波長選択フィルターを儲けることで、ファイバレーザからの戻り光を抑圧できる。
【0052】
(実施の形態2)
実施の形態2では、遅延時間のバラツキをさらに正確に抑制する方法について説明する。そのためには、パルス励起電流を利用する。
【0053】
遅延時間とは、実施の形態1で説明した通り、パルス励起の開始からパルスが発生するまでの時間をいう。遅延時間に影響を与えるパラメータは、パルス励起電流、予備励起電流、発光停止時間である。ここで予備励起電流は、図5で説明したように一定の値(図5であれば2W以上)を超えると遅延時間に影響しない。従って、遅延時間に影響するパラメータは、パルス励起電流と発光停止時間とになる。
【0054】
そこで、予備励起電流が2Wのとき、発光停止時間と遅延時間との関係を図11aに、パルス励起電流と遅延時間の関係を図11bに示す。パルス駆動電流は、励起用レーザとして用いた半導体レーザの定格の範囲内で駆動させた。図11aはパルス駆動電流を10Aに固定した場合の発光停止時間と遅延時間の関係である。図11bは、発光停止時間を20μ秒に固定した場合のパルス駆動電流と遅延時間の関係である。図11aに示すように、発光停止時間が15μ秒以上であれば、遅延時間と発光停止時間との関係は、直線関係を示す。また、図11bに示すように、パルス駆動電流が2Aから12Aまでは、この変化は直線関係にある。これらの図からわかるように、パルス励起電流や発光停止時間が変化すると遅延時間も数μ秒の範囲で変化する。これが遅延時間のバラツキである。従って、予めこれらの関係を調べておき、パルス駆動電流と発光停止時間とを定めれば、より正確に遅延時間のバラツキを抑制できる。特に、任意のパルス出力に対する高精度のパルス発光タイミングを必要とする応用に本発明の構成は有効である。図11a,bの関係に基づき、任意のパルス間隔をμ秒以下の精度で制御できる。半導体チップのマイクロマーキング等、高速に微細形状を形成する場合はμ秒程度の遅延時間のバラツキは許されないので、高精度で遅延時間を制御する必要がある。
【0055】
図4を用いて、具体的な遅延時間の設定方法について説明する。図4(a)はパルス出力の時間波形、図4(b)は励起用レーザを駆動する駆動電流の時間波形である。第3の電流I3を可変する場合、電流値によって遅延時間t3が変化する。このため、パルス出力に合わせてパルス間隔を設定する必要がある。
【0056】
パルス発光のタイミングを高精度で制御するファイバレーザ光源の構成を、図12を用いて説明する。レーザ光源は、実施の形態1で示したレーザ光源の構成(図3)にパルス制御回路121,タイミング弁別回路131を追加した構成である。パルス制御回路121は、励起用レーザ光源103に駆動電流を与える駆動電源110に出力すべき駆動電流を指示する機能を持つ。そのために、駆動電源110にタイミング弁別回路131が接続されており、タイミング弁別回路131は、駆動電源110の駆動電流を判断して、パルス励起工程か予備励起工程かを弁別する。またタイミング弁別回路はパルス励起工程、予備励起工程、発光停止工程の開始、終了のタイミングをパルス出力制御回路121に指示する。タイミング弁別回路131は、パルス励起工程であればパルス励起タイミング信号を、また予備励起工程であれば予備励起タイミング信号をパルス出力制御回路121に送る。
【0057】
タイミング弁別回路131のパルス発光タイミングの設定方法を以下に示す。
【0058】
第1の方法は発光停止時間(t1)を固定する方法である。発光停止時間(t1)を固定すると遅延時間は図11bに示す駆動電流のみの関数となる。予めパルス出力P3(次に出力を予定しているパルス)よりI3の値(次に出力を予定しているパルスの励起電流)を取得し、図11bの関係を使って遅延時間(t3)を算出する。予備発光を停止するタイミングに発光停止時間(t1)と遅延時間(t3)を加えたタイミングがパルス発光のタイミングになる。
【0059】
第2の方法は、パルス出力、発光停止時間をともに固定しない方法である。この場合、図11a,bに示すように、遅延時間(t3)は発光停止時間(t1)とパルス駆動電流(I3)の関数となる。予めパルス出力P3(次に出力を予定しているパルス)よりI3の値(次に出力を予定しているパルスの励起電流)を取得し、図11bの関係を使ってI3による遅延時間の影響を算出する。次に、発光停止時間(t1)を決定し、発光停止時間による遅延時間の影響を図11aの関係を用いて算出する。この2つの関係より遅延時間(t3)を求める。予備発光を停止するタイミングに発光停止時間(t1)と遅延時間(t3)を加えたタイミングがパルスを発光するタイミングになる。
【0060】
第1または第2のいずれかの方法で、発光停止時間(t1)と遅延時間(t3)を算出し、予め取得したパルス発光タイミングとt1,t3の関係より、予備励起を停止するタイミングを算出する。以上の方法を用いることで、任意のパルス出力に対して、パルス発光タイミングを1μ秒以下の精度で制御できる。
【0061】
なお、図11の関係は、励起用レーザ光源の波長、Ybドープファイバの種類、共振器長、FBGの反射率などで変わるので、使用する共振器に合わせて予めこれらの関係を調べておく必要がある。
【0062】
なお、発光停止時間は、図9に示したように、パルス出力にも影響する。パルス出力を一定に保つために、発光停止時間の可変範囲は15μ秒以上、60μ秒以下の範囲で選択するのが好ましい。
【0063】
(実施の形態3)
本発明の応用形態について説明する。本実施の形態では、ファイバレーザからの出力を波長変換素子により波長変換して短波長光を発生するレーザ光源を説明する。
【0064】
図13に示すレーザ光源は、実施の形態1で示したレーザ光源の構成(図3)に、サンプリングミラー108、PD106、APC回路120、タイミング弁別回路130を追加した構成である。本実施例では、励起用レーザ光源として波長915nmの半導体レーザを用い。FBGの反射波長を選択してファイバからは1064nmのレーザ光が発生させた。この1064nmの光をSHGモジュール105により波長532nmの緑色光に波長変換し、その一部をサンプリングミラー106により分岐してPD106により出力を検出している。
【0065】
ここで、SHGモジュール105は非線形特性を持つ素子なので、基本波の波長に依存して変換効率が変化し、高調波出力は基本波の2乗に比例して増大する。この特性を利用すると、SHG素子出力側での予備励起工程により生じる予備発光の出力強度を大幅に抑圧できる。例えば、ファイバレーザ出力側でパルス励起工程によるパルス出力が100W、予備励起工程による予備発光の出力を1Wとすると、SHG素子出力側では、それぞれ50W、0.005Wとなる。すなわち、ファイバ出力側では、予備発光の出力はパルス発光の出力に対して1/100の割合であるが、SHG素子出力側では、この割合が1/10000と大幅に低下する。すなわち、SHG素子を通すことで、予備発光出力を大幅に抑制することができる。これによって予備発光のない通常のパルス光源と同様なレーザ加工が可能となる。
【0066】
次に、パルス励起工程によるパルス出力を安定化するための制御を説明する。図12に示すファイバレーザ光源において、パルス出力制御回路120は、励起用レーザ光源103に駆動電流を与える駆動電源110に出力すべき駆動電流を指示する機能を持つ。そのために、駆動電源110にタイミング弁別回路130が接続されており、タイミング弁別回路130は、駆動電源110の駆動電流を判断して、パルス励起工程か予備励起工程かを弁別する。タイミング弁別回路130は、パルス励起工程であればパルス励起タイミング信号を、また予備励起工程であれば予備励起タイミング信号をパルス出力制御回路120に送る。一方、SHGモジュールからの高調波出力は、その一部がサンプリングミラー108を介してPD106で検出され、高調波出力信号としてパルス出力制御回路120に送られる。
【0067】
パルス出力を安定化する第1の方法は、パルス出力制御回路120が、入力された高調波出力信号をタイミング弁別回路130からの情報に基づいて、パルス励起工程か予備励起工程かの弁別を行う。まず、パルス出力制御回路120は、パルス励起工程での高調波出力信号を弁別し、この高調波出力信号と予め設定された目標値とを比較し差分値を計算する。パルス出力制御回路120は、この差分値が最小になるように、駆動電源110の電流出力を調整する。これを繰り返すことで、パルス出力を目標値に近づける。この方法は、一定の遅延時間を必要とするため、リアルタイムにパルス出力を安定化させることはできないが、大きな出力変動を防止できる。この制御を行わないと徐々に出力変動が増え、20から30%程度の出力変動が生じたが、この方法によって±10%程度の出力変動に抑えることが出来た。
【0068】
この出力変動は、予備励起工程での高調波出力信号を用いると、さらに低減出来る。それは、利得スイッチによるパルス発生では、共振器内部に蓄積されたエネルギーでパルス出力が決るので、パルス励起工程が始まるとパルス出力の制御が出来ない。そのため、パルス励起工程での高調波出力信号だけでは、出力変動を十分に小さくすることが出来ない。ところが、予備発光は連続光なので、PD出力をフィードバックしリアルタイムで目標出力に調整できる。従って、予備励起工程での高調波出力信号を用いると出力変動をより小さくすることが出来る。
【0069】
パルス出力制御回路120は、予備励起工程での高調波出力信号を弁別し、この高調波出力信号と予め設定された目標値とを比較し差分値を計算する。パルス出力制御回路120は、この差分値が最小になるように、駆動電源110の電流出力を調整する。その後、パルス励起工程での高調波出力信号と予備励起工程での高調波出力信号との比を基に変換効率を決定する。この変換効率を基に所望の高調波出力に必要なパルス励起電流を決定し、所望のパルス出力をえる。このように、予備励起工程での高調波出力信号を利用することで、より安定なAPC制御が可能となり、出力変動を±5%程度まで低減することが可能になる。
【0070】
前述したように予備発光工程での出力は一定の値を超えれば、次のパルス発光に与える影響はほとんどない。このため、パルス発光への影響を気にすることなく予備発光出力の調整が可能となる。
【0071】
なお、本実施の形態では予備発光時のSHGモジュールからの変換光を検出してAPC制御を行ったが、予備発光時のファイバレーザからの基本波出力を検出してAPC制御を行うことも可能である。
【0072】
このSHGモジュールには、例えばMgO:LiNbO3、およびこの材料に分極反転構造を形成したものを使用することができ、他のリン酸チタニルカリウム(KTiOPO4:KTP)やMg:LiTaO3など、およびこれらの材料に分極反転構造を形成したものを使用してもよい。 また、分極反転構造を有する非線形光学結晶、例えばMg:LiNbO3(コングルエント組成・ストイキオメトリー組成)、Mg:LiTaO3(コングルエント組成・ストイキオメトリー組成)、KTPで特に効果を発揮することができる。
【0073】
なお、本発明の実施形態では、波長変換の一例として、赤外光(1064nm)から可視光(532nm)への変換を例にしたが、第2高調波発生以外にも、和周波発生、差周波発生、パラメトリック発振にも分極反転構造の周期を利用して、光の位相を整合させる構造を利用しているものであれば使用ができる。
【0074】
また、本発明はファイバレーザから出力されたパルス光を波長変換素子により高調波に変換した波長変換レーザとしても応用できる。波長変換として第2高調波に変換すると短波長光の発生が可能となり、加工対象物の範囲が広がる。波長変換は非線形現象を利用するため、パルスの強度分布を変調できる。波長変換することでパルス幅を約1/2程度に圧縮できるという利点を有する。
【0075】
さらに波長変換素子として周期状の分極反転構造有する非線形光学結晶を用いると、パルス波形整形に有効である。周期状の分極反転構造を有する波長変換素子はウォークオフがないため長い作用長を利用できる。作用長が長くなると波長変換を行う波長許容度が狭くなる。パルス波形は立ち下がり時にテールを引くため立ち下がり時間が遅くなるが、このテール部分の波長とパルスピークの波長がわずかに異なる。このため周期状の分極反転構造を有する波長変換素子により波長変換を行うと、テール部分の変換効率が低下してパルス波形が整形される利点がある。このため、非線形光学効果によるパルス幅の圧縮に加えて、パルス波形整形が可能であるという点で有効である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明にかかるファイバレーザ光源とそれを用いた波長変換レーザ装置短波長光源によれば、パルス間隔を変化させた場合にも常に安定なパルス出力が得られる。このような高出力パルスファイバレーザによって、レーザ加工、レーザアニールなどの産業用度に適した短波長光源を実現することができる。
【符号の説明】
【0077】
101 励起用レーザ光源
102 Ybドープファイバ
103 FBG(ファーバブラッググレーティング)
104 FBG(ファーバブラッググレーティング)
105 SHGモジュール
106 PD
108 サンプリングミラー
110 駆動電源
120 パルス出力制御回路
121 パルス出力制御回路
130 タイミング弁別回路
131 タイミング弁別回路
201 励起光
202 レーザ媒質
203 出力光
204 ミラー
205 ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ活性物質を含むファイバとその両端にファイバグレーティングを設けたレーザ共振器と、
前記共振器の一端に励起光を入射する励起用レーザ光源と、
連続パルス光を出力する際に、前記励起用レーザ光源に前記レーザ共振器がパルス発光できる第1の電流を与えた後に、前記第1の電流より小さく前記レーザ共振器の閾値電流より大きい第2の電流を与え、前記第2の電流を停止した後に休止期間を設けて次のパルス発光を行うための電流を前記励起用レーザ光源に与える駆動電流供給手段と、
から成るファイバレーザレーザ光源。
【請求項2】
前記駆動電流供給手段が、前記第1の電流を与えてから前記休止期間までを一単位として、所望される連続パルス数に応じて前記単位を繰り返す請求項1記載のファイバレーザ光源。
【請求項3】
前記第1の電流を停止した後に前記第2の電流を与えるまでの時間は1μ秒以下である請求項1記載のファイバレーザ光源。
【請求項4】
前記休止期間は、前記レーザ共振器内部の緩和振動が消滅する時間より長く、前記レーザ共振器内部の反転分布エネルギーが前記閾値電流に対応する値に低下する時間より短い範囲である請求項1記載のファイバレーザ光源。
【請求項5】
前記休止期間が、15μ秒以上で60μ秒以下の範囲にある請求項1記載のファイバレーザ光源。
【請求項6】
前記第2の電流が、前記励起用レーザ光源のレーザ出力が2W以上になるように設定されている請求項1に記載のファーバレーザ光源。
【請求項7】
請求項1に記載のファイバレーザ光源と、
前記ファイバレーザ光源からのレーザ光を波長変換して高調波を出力する波長変換素子と、
前記波長変換素子から出力される高調波の一部を検出する高調波出力検出器と、
前記ファイバレーザ光源の駆動電流供給手段から励起用レーザ光源へ出力する電流タイミングを弁別するタイミング弁別手段と、
前記タイミング弁別手段によって弁別された前記レーザ共振器がパルス発光するタイミングで前記高調波出力検出器からの値をパルス出力値として取り込み、その値が目標値に近づくように前記駆動電流供給手段の出力電流を調整する指示を行うパルス出力制御手段と、
を備えた波長変換レーザ光源。
【請求項8】
前記パルス出力制御手段が、さらに前記タイミング弁別手段によって弁別された前記レーザ共振器に第2の電流を与える期間中に前記高調波出力検出器からの値を予備発光出力値として取り込み、その値が目標値に近づくように前記駆動電流供給手段の出力電流を調整する請求項7に記載の波長変換レーザ光源。
【請求項9】
前記パルス出力制御手段が、さらに前記パルス出力値と予備発光出力値との比を計算してその比に基づいて、
前記レーザ共振器がパルス発光できるための前記励起用レーザ光源に送る電流を前記駆動電流供給手段に指示する請求項8に記載の波長変換レーザ光源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−38895(P2012−38895A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177215(P2010−177215)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】