説明

ミラー駆動装置及び方法

【課題】複雑な可動フレーム構造を必要とせず簡便に作製でき、耐久性に優れたミラー駆動装置及びミラー駆動方法を提供する。
【解決手段】ミラー部12の両側に一対のアクチュエータ部30が連結され、さらにその外側の両側に一対のアクチュエータ部20が連結される。外側アクチュエータ部20の一端は固定部22として支持部材に固定され、他端は内側アクチュエータ部30に連結される。各アクチュエータ部20,30は、圧電体の変形によって屈曲変位を行うものであり、それぞれ対応する駆動電圧供給部28,38から駆動電圧が印加される。一方の駆動電圧供給部(例えば28)から、対応するアクチュエータ部(例えば20)に対して共振を励起する周波数の駆動電圧が供給され、これと同時に他方の駆動電圧供給部(例えば38)から、他のアクチュエータ部(例えば30)に非共振でミラー部12を傾ける駆動電圧を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はミラー駆動装置及び方法に係り、特に、光走査に用いる光偏向器に好適なミラーデバイスの構造及びその駆動制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光走査装置における光ビームを走査する偏向器としては、ポリゴンミラーやガルバノミラーが用いられている。しかし、かかる構成は電磁式モータでミラーを回転させる構造であり、小型化に制約がある。また、より高解像度な画像を得たり、高速プリントを実現したりするためには、ミラーの回転をさらに高速にしなければならず、軸受けの耐久性や風損による発熱、騒音が課題となっていた。
【0003】
これに対し、近年、シリコンマイクロマシニング(MEMS;Micro Electro Mechanical System)を利用し、微小ミラーとそれを支持する梁をシリコン基板で一体形成してなる振動ミラー(MEMSスキャナ)が提案されている(特許文献1,2)。このような振動ミラーは、共振を利用して往復振動させるので、高速動作にもかかわらず低騒音であり、さらにミラー部を回転させる駆動力も小さいので消費電力も低く抑えられる。また、MEMSスキャナは、半導体基板からMEMS加工技術を用いて可動部と駆動部を一体的に作製できるというメリットがある。
【0004】
このようなMEMSスキャナの駆動源として、圧電体の変形による駆動方式が知られており、この駆動方式には、トルクが大きく低電圧であるというメリットがある。特許文献1には、圧電ユニモルフカンチレバーに、ねじりヒンジを介してミラー部が接続されている構造が開示されている。この圧電ユニモルフカンチレバーをトーションバーをねじる方向に駆動させることによって、ミラー部を回転駆動させ、一次元のスキャンを実現している。ここで、駆動源の周波数を可動ミラーの共振周波数と一致させることにより、より低電圧で大きなミラー回転角を得ることができる。
【0005】
また、上述のような原理で比較的高い周波数での共振スキャンを行う部分を可動フレーム内に作りこみ、さらにその可動フレームをねじりヒンジを介して別のアクチュエータと接続し、共振スキャンの回転軸とは垂直な軸周りに可動フレームを回転駆動させることで、二次元駆動を行うことも可能である。この技術は、ディスプレイなどに応用されている(特許文献2)。
【0006】
本明細書では、説明の便宜上、共振を利用した往復振動によるスキャンを「Aスキャン」といい、共振スキャンと垂直な方向への移動(スキャン)を「Bスキャン」と呼ぶ場合がある(図12参照)。また、上述のBスキャンの回転軸をAスキャンの回転軸と一致させれば、Aスキャンのスキャン中心を目的の場所(任意の位置)へ移動させる用途に用いることができる。このようにAスキャンの中心を目的の場所へ移動させる動きを「Cスキャン」と呼ぶ場合がある(図13参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−257226号公報
【特許文献2】特許第4092283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2のように、スキャンの中心移動用のCスキャンや二次元スキャン用のBスキャンを行うアクチュエータと、高速スキャンを行うアクチュエータとをそれぞれ別途に設けようとすると、可動フレーム等を用いた複雑な構造が必要となる。このため、製造プロセスが複雑化して歩留まりが悪化していた。
【0009】
一方、特許文献1のような一次元スキャン用の構成であっても、同じアクチュエータに対して共振励起用の交流(AC)電圧に加えてオフセットバイアス(DC電圧)を重畳させることにより、上述の二次元スキャンおよびスキャン中心移動を行うことが可能である。しかしながら、オフセットバイアスに共振励起用の電圧を重畳させたDC−ACの重畳電圧によってスキャン中心の移動や二次元スキャンを行おうとすると、圧電膜に高い電圧が印加されるため、耐久性が著しく劣化し、かつ脱分極が起こる確率が上がるという問題があった。特に、大変位を得るために圧電体を1〜4μmまで薄膜化すると、発生する電界が大きくなり、さらに上記の問題が悪化していた。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、複雑な可動フレーム構造を必要とせず簡便に作製でき、耐久性に優れたミラー駆動装置及びミラー駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は前記目的を達成するために、ミラー部と、前記ミラー部を挟んで両側に配置されており、前記ミラー部に連結され、圧電体の変形によって屈曲変位を行う一対の内側アクチュエータ部と、前記ミラー部から前記一対の内側アクチュエータ部のさらに外側の両側に配置され、前記内側アクチュエータ部に連結され、圧電体の変形によって屈曲変位を行う一対の外側アクチュエータ部と、前記外側アクチュエータ部における前記内側アクチュエータ部との連結部とは別の端部に連結され、当該端部を固定部として前記外側アクチュエータを支持する固定支持部と、前記内側アクチュエータ部に駆動電圧を供給し、前記内側アクチュエータ部を作動させる内側アクチュエータ駆動電圧供給部と、前記外側アクチュエータ部に駆動電圧を供給し、前記外側アクチュエータ部を作動させる外側アクチュエータ駆動電圧供給部と、を備え、前記内側アクチュエータ部の一端が前記ミラー部に連結され、他の端部が前記外側アクチュエータ部に連結されており、前記内側アクチュエータ駆動電圧供給部及び前記外側アクチュエータ駆動電圧供給部のうち一方の駆動電圧供給部から、対応する前記内側アクチュエータ部又は前記外側アクチュエータ部に対して該アクチュエータ部の共振に伴う前記ミラー部の回転方向の振動を誘起する周波数の駆動電圧が供給され、当該共振駆動と同時に他方の駆動電圧供給部から、前記内側アクチュエータ部及び前記外側アクチュエータ部のうち前記共振駆動を行うアクチュエータ部とは異なる、対応するアクチュエータ部に対して、共振を励起させずに前記ミラー部を傾けるための駆動電圧が供給されることを特徴とするミラー駆動装置を提供する。
【0012】
他の発明態様については、明細書及び図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ミラー部の両側から挟むように、内側アクチュエータ部と外側アクチュエータ部とを連結した簡単な構造によって、共振駆動によるミラー部の動き(Aスキャン用のミラー駆動)と、非共振駆動によるミラー部の別の動き(Bスキャン又はCスキャン用のミラー駆動)とを組み合わせたミラー駆動が可能である。
【0014】
また、本発明によれば、共振駆動用のアクチュエータ部と、非共振駆動用のアクチュエータ部とを分け、それぞれのアクチュエータ部に対して、別々の駆動電圧供給部から個別に駆動電圧を供給する構成としたので、同一アクチュエータに共振駆動電圧とオフセットバイアスを重畳させる構成と比較して、各アクチュエータ部に印加される駆動電圧を低く抑えることができ、耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態に係るMEMSスキャナデバイスとその駆動制御装置の概観図
【図2】第1アクチュエータ(カンチレバー部)の断面図
【図3】図1に示したMEMSスキャナデバイスの支持部材を含んだ構成の斜視図
【図4】第1アクチュエータによる共振駆動(Aスキャン駆動)の様子を示す図
【図5】第2アクチュエータによる非共振駆動(Cスキャン駆動)の様子を示す図
【図6】ミラー部の動作を説明するための模式図
【図7】図7(a)はミラー部の反射光のスキャン範囲を示す図、図7(b)はスキャン中心が移動する様子を示す図
【図8】第2実施形態に係るMEMSスキャナデバイスとその駆動制御装置の概観図
【図9】図8に示したMEMSスキャナデバイスの支持部材を含んだ構成の斜視図
【図10】図8の第1アクチュエータによる共振駆動の様子を示す図
【図11】図8の第2アクチュエータにDC電圧を印加したときの変形(スタティック駆動時)の様子を示す図
【図12】AスキャンとBスキャンの説明図
【図13】Aスキャンのスキャン中心を移動させる例の説明図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施形態について詳説する。
【0017】
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態に係るMEMSスキャナデバイスとその駆動制御装置の概観図である。同図に示すように、MEMSスキャナデバイス10は、ミラー部12と、該ミラー部12を共振駆動するための第1アクチュエータ20(共振用アクチュエータ)と、共振駆動によるスキャン(共振スキャン)の中心を移動させる非共振駆動を行うための第2アクチュエータ(中心移動用アクチュエータ)30と、を備えている。第1アクチュエータ20は「外側アクチュエータ部」に相当し、第2アクチュエータ30は「内側アクチュエータ部」に相当する。
【0018】
本例では、略長方形の反射面を有するミラー部12を例示し、非駆動時における反射面の長辺方向をX方向、これと直交する短辺方向をY方向、XY面に垂直な方向をZ方向として説明する。ただし、本発明の実施に際して、ミラー部の形状は、特に限定されない。図1に例示した長方形に限らず、正方形、多角形、円形、楕円形など、様々な形状があり得る。光の反射面となるミラー部12の上面には、入射光の反射率を高めるために、Au(金)やAl(アルミ)等の金属薄膜が形成されている。ミラーコーディングに用いる材料や膜厚は特に限定されず、公知のミラー材料(高反射率材料)を用いて様々な設計が可能である。
【0019】
本例のMEMSスキャナデバイス10は、反射面がZ方向に向いたミラー部12をY方向の両側から挟むように一対の第2アクチュエータ30が配置され、この第2アクチュエータ30のさらに外側に一対の第1アクチュエータ20が配置される。第1アクチュエータ20と第2アクチュエータ30は、いずれも圧電ユニモルフカンチレバー(片持ち梁)構造のアクチュエータであり(図2参照)、圧電体の変形によって屈曲変位を行う。第1アクチュエータ20はX方向の一方の端部である固定部22において支持部材(図1中不図示、図3の符号50)に固定される。固定部22と反対側の端部は、フレーム等に固定されておらず、カンチレバー構造によって変位できる非拘束端となっている。また、第1アクチュエータ20は、固定部22とは反対側の端部(非拘束の端部)において、第2アクチュエータ30の端部と連結されている。第2アクチュエータ30にとっては、第1アクチュエータ20との連結部32で支持されている構造となっており、この連結部32を固定部としてカンチレバー構造で動作する。
【0020】
このように、第1アクチュエータ20と第2アクチュエータ30とはミラー部12の脇に並んで配置され、隣り合うカンチレバーに対して折り返すように連結された蛇行(ミアンダ)状の接続形態となっている。
【0021】
第1アクチュエータ20には外部から駆動用の信号(駆動電圧)を供給するための電気接続端子として機能する共振駆動用端子24が設けられている。共振駆動用端子24は、第1アクチュエータ20の上部電極(図2の符号48参照)に駆動電圧を印加するための端子である。第1アクチュエータ20を駆動するための電力供給源となる駆動制御装置(以下、第1駆動制御装置という。)28は、共振駆動用端子24を介して第1アクチュエータ20と電気的に接続される。なお、図示の便宜上、第1アクチュエータ20の下部電極(図2の符号43参照)との電気接続を行うための端子の記載は省略した。
【0022】
第1駆動制御装置28は、第1アクチュエータ20を駆動するための駆動電圧を供給する駆動回路とその出力制御回路を含む。第1駆動制御装置28から共振駆動用端子24に所定の駆動電圧が印加されると、第1アクチュエータ20が駆動される。第1駆動制御装置28は「外側アクチュエータ駆動電圧供給部」に相当する。
【0023】
第2アクチュエータ30は、第1アクチュエータ20との連結部32とは別の一端において、ミラー部12と連結されている。第2アクチュエータ30とミラー部12との連結部(符号33)は、ミラー部12におけるX方向の一方の端部に設けられる。つまり、ミラー部12は、このX方向の片側端部において、一対の第2アクチュエータ30の連結部33によりY方向の両端が支持されている。
【0024】
第2アクチュエータ30には、外部から駆動用の信号(駆動電圧)を供給するための電気接続端子として機能するスキャン中心移動用端子34が設けられている。スキャン中心移動用端子34は、第2アクチュエータ30の上部電極(図2の符号48参照)に駆動電圧を印加するための端子である。第2アクチュエータ30を駆動するための電力供給源となる駆動制御装置(以下、第2駆動制御装置という。)38は、スキャン中心移動用端子34を介して第2アクチュエータ30と電気的に接続される。なお、図示の便宜上、第2アクチュエータ30の下部電極(図2の符号43参照)との電気接続を行うための端子の記載は省略した。
【0025】
第2駆動制御装置38は、第2アクチュエータ30を駆動するための駆動電圧を供給する駆動回路とその出力制御回路を含む。第2駆動制御装置38からスキャン中心移動用端子34に所定の駆動電圧が印加されると、第2アクチュエータ30が駆動される。第2駆動制御装置38は「内側アクチュエータ駆動電圧供給部」に相当する。
【0026】
第2アクチュエータ30と連結されたミラー部12は、第1アクチュエータ20及び第2アクチュエータ30の駆動に応じて、Y軸に平行な軸を回転軸として揺動される。ミラー部12に入射した光(例えば、図示せぬレーザ光源から発せられたレーザ光)はミラー部12の傾き(角度)に応じて反射され、反射光の進行方向(反射光の照射位置)が変わる。第1アクチュエータ20によって、ミラー部12を共振駆動することにより、X方向の光走査(Aスキャン)が行われる。また、第2アクチュエータ30の駆動により、共振スキャンのスキャン中心をX方向に移動させることができる(Cスキャン)。第1アクチュエータ20と第2アクチュエータ30を同時に駆動することにより、AスキャンとCスキャンとが組み合わされた光走査が実現される。
【0027】
図2は、圧電ユニモルフカンチレバー構造からなる第1アクチュエータ20の断面構造を示す図である。図2では、固定部22を有する第1アクチュエータ20を例示するが、第2アクチュエータ30の構成も基本的に同様である。ただし、第2アクチュエータ30の場合、連結部32(図1参照)がレバー部の固定部(図2の符号22相当)に対応する。なお、当該発明における圧電アクチュエータとして、ユニモルフカンチレバー以外の構造を用いても良い。例えば、電極を挟んで圧電体を2層積層したバイモルフカンチレバーを用いても良い。以下においては簡単のため、圧電ユニモルフアクチュエータを使用したとして説明を行う。
【0028】
図2に示すように、第1アクチュエータ20及び第2アクチュエータ30は、振動板42上に下部電極43、圧電体46、上部電極48が積層形成された構造を有する。このような積層構造体は、例えば、シリコン(Si)基板上に、下部電極43、圧電体46、上部電極48の各層を順次に成膜することによって得られる。
【0029】
本実施形態に適用できる圧電体46としては、下記式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物(P)を含むものが挙げられる。
【0030】
一般式ABO3・・・(P)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Sb,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素。
O:酸素元素。
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
上記一般式で表されるペロブスカイト型酸化物としては、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ジルコニウム酸鉛、チタン酸鉛ランタン、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、ニッケルニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、亜鉛ニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛等の鉛含有化合物、及びこれらの混晶系;チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムバリウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ビスマスカリウム、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウム、ビスマスフェライト等の非鉛含有化合物、及びこれらの混晶系が挙げられる。
【0031】
また、本実施形態の圧電体膜は、下記式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物(PX)を含むことが好ましい。
Aa(Zrx,Tiy,Mb−x−y)bOc・・・(PX)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
Mが、V、Nb、Ta、及びSbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。
0<x<b、0<y<b、0≦b−x−y。
a:b:c=1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
上述の一般式(P)及び(PX)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる圧電体膜は、高い圧電歪定数(d31定数)を有するため、かかる圧電体膜を備えた圧電アクチュエータは、変位特性の優れたものとなる。
【0032】
また、一般式(P)及び(PX)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる圧電体膜を備えた圧電アクチュエータは、駆動電圧範囲において、リニアリティの優れた電圧―変位特性を有している。これらの圧電材料は、本発明を実施する上で良好な圧電特性を示すものである。
【0033】
バルクの圧電体を基板に接合してもよいが、気相成長法やゾルゲル法などにより基板上に圧電薄膜を直接成膜する構成が好ましい。特に、本実施形態の圧電体46としては、1〜10μmの厚さの薄膜であることが好ましい。後述する実施例では、圧電体46として、スパッタリング法によって成膜された4μm厚のPZT薄膜を使用しているが、これに限定されるものではない。
【0034】
図2に示す構成において、電極(43,48)間に電圧が印加されることで圧電体46が変形し、この変形に伴い、振動板42が撓んで、レバー部が上下に動く。図2の破線はレバー部が上方に変位した様子を表している。
【0035】
図3は、図1に示したMEMSスキャナデバイス10の固定部22と繋がる支持部材50を含んだ構成の斜視図である。なお、図3は図1と異なる方向から見た斜視図となっている。図3に示すように、MEMSスキャナデバイス10は、第1アクチュエータ20を片持ち構造で保持する支持部材50(「固定支持部材」に相当)を備えている。支持部材50、第1アクチュエータ20、第2アクチュエータ30、及びミラー部12は、シリコン基板から半導体製造技術を利用して加工することにより、これらが一体的に構成された構造物として作成することができる。
【0036】
図3から明らかなように、第1アクチュエータ20、第2アクチュエータ30、連結部32,33の厚さは、支持部材50及びミラー部12の厚さに比べて薄く形成されている。これにより、各アクチュエータ(20、30)及び連結部32,33が変形(曲げ変形や捻れ変形)し易い構造となっている。
【0037】
<実施例;具体的な製造方法の一例>
このMEMSスキャナデバイス10は、以下のように作成した。
【0038】
(工程1)まず、活性層20μm、ハンドル層350μmのSOI(Silicon On Insulator)基板上に、スパッタ法で30nmのTi密着層と、150nmのIr電極層を順次形成した。これらTi密着層及びIr電極層が図2の下部電極43に相当する。なお、これらの電極の成膜温度は350℃とした。
【0039】
(工程2)上記得られた基板上に、高周波(RF;radio frequency)マグネトロンスパッタ装置を用いて4μmのPZT層を成膜した。使用したRFマグネトロンスパッタ装置は、アルバック社製強誘電体成膜スパッタ装置MPS型である。成膜ガスは97.5%Arと2.5%Oの混合ガスを用い、ターゲット材料としてはPb1.3((Zr0.52 Ti0.48)0.88 Nb0.12)O3の組成のものを用いた。成膜圧力は2.2mTorr、成膜温度は450℃とした。
【0040】
(工程3)上記で得られた基板上に、リフトオフプロセスによって上部電極であるPt/Tiをパターニングした。上記得られた基板をシリコン加工プロセス(ドライエッチング等)に基づいて加工することで、図1から図3で説明したMEMSスキャナデバイス10を得た。
【0041】
本発明の実施に際しては、上記の実施例に限定されず、基板の材料、電極材料、圧電材料、膜厚、成膜条件などは、目的に応じて適宜選択することができる。
【0042】
<MEMSスキャナデバイス10の動作について>
次に、上記のように構成されたMEMSスキャナデバイス10の作用について説明する。
【0043】
Aスキャン用の第1アクチュエータ20には、第1駆動制御装置28から周波数fのサイン波Vsin(2πft)による駆動電圧が入力され、ミラー部12が傾くような共振モードが励起される。なお、電圧波形を表すサイン関数中の「t」は時間を表す。
【0044】
図4は、第1アクチュエータ20による共振駆動の様子を示す図である。本実施の形態では、このときの共振周波数fは、464.5Hzであった。このような共振を励起すると、第2アクチュエータ30とともにヒンジ部(連結部33)が大きく変形し、ミラー部12は、Y軸に平行な軸を回転軸として揺動(回転方向に振動)する。
【0045】
このように、第1アクチュエータ20に共振周波数f=464.5Hzのサイン波を印加して固有振動を誘起することで、ミラー部12を高速に振動させて、一次元スキャン光走査を行う。この共振による光走査(共振スキャン)がAスキャンに該当する。なお、第1アクチュエータ20に印加する交流電圧の周波数fは、構造体の共振周波数と厳密に一致させることは必ずしも要求されない。共振が励起される範囲で周波数の差異が許容される。
【0046】
このAスキャンの振動に加えて、Cスキャン用の第2アクチュエータ30には、第1アクチュエータ20とは別に、第2駆動制御装置38からDC(直流)電圧その他の任意の波形Vによる駆動電圧(ただし、共振を誘起しないもの)が印加される。
【0047】
図5は、第2アクチュエータ30にDC電圧を印加したときの変形の様子を示す図である。第1アクチュエータ20による共振駆動に加え、第2アクチュエータ30に任意波形の電圧Vを印加すると、その電圧Vに応じて、図5に示すように、第2アクチュエータ30が変形し、この変形によりミラー部12がY軸に平行な軸を回転軸として傾く。つまり、ミラー部12は、図4の共振による高速振動をしながら、図5のように、全体としても傾く動きをする。この第2アクチュエータ30の駆動により、Aスキャンのスキャン中心が移動する。
【0048】
第1アクチュエータ20と第2アクチュエータ30を同時に駆動することによって、Aスキャンをしながら、そのスキャン中心を移動させることができる。本例では、ミラー部12は、第1アクチュエータ20による回転軸と第2アクチュエータ30による回転軸の、平行な2つの回転軸により揺動するため、Aスキャンによるスキャン方向と、Cスキャンによるスキャン中心の移動方向は共通しており、これらの組合せによる一次元スキャンが実現される。
【0049】
図6は、ミラー部12の動作を説明するための模式図であり、ミラー部12をY軸方向(回転軸の方向)から見た図である。ミラー部12は、第1アクチュエータ20の駆動によって固有振動が励起されることでY軸に平行な軸を回転軸として、角度(Aスキャン角度)θの範囲で振動し、位置12aと位置12bとの間を揺動する。この回転方向の振動による最大の変位位置となる位置12aと位置12bとの間の回転角度をθとする。
【0050】
また、図6において、第2アクチュエータ30にDC電圧を印加していないときのミラー部12の反射面の位置をhとし、第2アクチュエータ30にDC電圧を印加したときのミラー部12の位置を符号12cとする。このときのミラー部12の傾き角度(Cスキャン角度)をθとする。第1アクチュエータ20と第2アクチュエータ30の同時駆動により、ミラー部12は、θの位置を振動中心として、Aスキャン角度θの範囲で振動する。
【0051】
ここで、第1アクチュエータ20にV=0.5V 、f=465Hzのサイン波を入力し、同時に第2アクチュエータ30にDC電圧「Vc」を入力したときのVcとAスキャンの角度θ、Cスキャンの角度θとの関係を下記の表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示すように、Aスキャンの角度θは、Vcに依存しない。また、Cスキャンの角度θは、Vcにより決定される。
【0054】
このように、第1アクチュエータ20に共振駆動用のサイン波を印加するとともに、第2アクチュエータ30にスキャン中心移動用の任意のバイアス電圧を印加することで、y方向に高速スキャンを行いながら、スキャン中心をY方向に自由に移動することができる。
【0055】
例えば、第2アクチュエータ30に電圧を印加しないときは、図7(a)に示すように、第1アクチュエータ20によるミラー部12の振動によって、反射光が原点0を中心に−5から+5の範囲でスキャンされる場合を考える。この共振スキャン(Aスキャン)と同時に、第2アクチュエータ30にDC電圧(例えば2V)を印加することによって、ミラー部12を全体的に傾けることにより、スキャン中心が原点0から+1に移動したとすると、図7(b)に示すように、第1アクチュエータ20による反射光のスキャン範囲は、−4から+6の範囲に変更される。
【0056】
<変形例1>
上述の実施形態では、外側アクチュエータ部を共振駆動に用い、内側アクチュエータ部を非共振駆動(スキャン中心の移動用)に用いた例を説明したが、内側アクチュエータ部を共振駆動に用い、外側アクチュエータ部を非共振駆動に用いる態様も可能である。
【0057】
すなわち、図1〜図6で説明した第1アクチュエータ20と第2アクチュエータ30の接続順序は逆でもよい。例えば、Cスキャン用の第2アクチュエータ(外側アクチュエータ部)の一端を支持部材50に固定し、この固定部とは反対側の一端においてAスキャン用の第1アクチュエータ(内側アクチュエータ部)と接続し、さらに第1アクチュエータは、第2アクチュエータとは反対側の一端においてミラー部12と接続されるように構成してもよい。
【0058】
<変形例2>
図1〜図7で説明した第1の実施形態では、内側アクチュエータ部に相当する第2アクチュエータ30として、蛇行状の折り返し構造を持つ圧電カンチレバーを採用したが、本発明の実施に際して、レバー部の折り返し構造の採否や、折り返し回数(折り畳み数)については、特に限定されない。また、外側アクチュエータ部について、折り返し構造を採用することも可能である。
【0059】
カンチレバーの折り畳み数やレバー部の幅等は全体の共振周波数に影響する。折り畳み数を増やすほど、共振周波数は低下する傾向にある。また、レバー部の幅を細くするほど、共振周波数は低下する傾向にある。折り畳み数やレバー部の幅などを設計することによって、所望の共振周波数を実現できる。
【0060】
<変形例3>
また、第1アクチュエータ20と第2アクチュエータ30との接続点、及び第2アクチュエータ30とミラー部12との接続点のうち少なくとも一方の接続点(連結部)では、変形を促す折り返し構造を持つ板状ヒンジ(図8の符号73参照)を介するようにしてもよい。
【0061】
〔第2実施形態〕
図8及び図9は、第2実施形態に係るMEMSスキャナデバイスとその駆動制御装置の概観図である。図8及び図9において、図1〜図7で説明した第1の実施形態の構成と同一又は類似する要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。なお、図9は、図8とは異なる方向から見た斜視図となっている。また、図9においては、図8中で符号24、34A、34Bで示した各端子の記載は省略している。
【0062】
図8及び図9に示した第2実施形態に係るMEMSスキャナデバイス60は、AスキャンとBスキャンによる二次元スキャンを可能とした構成例である。このMEMSスキャナデバイス60の製造方法は、第1の実施形態のMEMSスキャナデバイス10と同様である。
【0063】
第2実施形態に係るMEMSスキャナデバイス60は、外側アクチュエータ部に相当する第1アクチュエータ20を共振駆動させることで、Y軸に平行な軸を回転軸とするミラー部12の振動を誘起する。また、内側アクチュエータ部に相当する第2アクチュエータ70A、70Bを互いに逆方向に駆動することでX軸に平行な軸を回転軸とするミラー部12の回転運動を発生させる。第1アクチュエータ20の共振駆動によるミラー部12の回転軸(Y軸)と、第2アクチュエータ70A、70Bの駆動によるミラー部12の回転軸(X軸)は直交している。第1アクチュエータ20と第2アクチュエータ70A、70Bを同時に駆動することにより、第1アクチュエータ20の駆動によるAスキャンと、第2アクチュエータ70A、70Bの駆動によるBスキャンが組み合わされた二次元スキャンが実現される。
【0064】
本例では、ミラー部12を挟んで両側に配置される一対の第2アクチュエータ70A、70Bに対して異なる駆動電圧(逆極性の電圧)を印加するため、各アクチュエータ70A、70Bに対応して駆動制御装置38A、38Bが設けられている。一方の第2アクチュエータ70Aに駆動電圧を印加するためのスキャン中心移動用端子34Aには、当該第2アクチュエータ70Aを駆動するための電力供給源となる駆動制御装置(以下、第3駆動制御装置という。)38Aが接続される。
【0065】
同様に、他方の第2アクチュエータ70Bに駆動電圧を印加するためのスキャン中心移動用端子34Bには、当該第2アクチュエータ70Bを駆動するための電力供給源となる駆動制御装置(以下、第4駆動制御装置という。)38Bが接続される。なお、図示の便宜上、各第2アクチュエータ70A、70Bの下部電極(図2の符号43参照)との電気接続を行うための端子の記載は省略した。また、図9においては、共振駆動用端子24とスキャン中心移動用端子34A、34Bの記載も省略した。第3駆動制御装置38Aと第4駆動制御装置38Bの組合せが「内側アクチュエータ駆動電圧供給部」に相当する。
【0066】
第2アクチュエータ70A、70Bとミラー部12との連結部には、折り返し構造(折り畳み構造)を持つ板状の連結部(以下、「板状ヒンジ」という。)73が採用されている。このような、折り返し構造を持つ板状ヒンジ73は、変形しやすく、接続点の変位量を増大させる効果がある。この板状ヒンジ73もミラー部12等と同様にシリコンの加工により一体的に形成される。
【0067】
Aスキャン用の第1アクチュエータ20には、第1駆動制御装置28から周波数fのサイン波Vsin(2πft)が入力され、ミラー部12が傾くような共振モードが励起される。
【0068】
図10は、MEMSスキャナデバイス60の第1アクチュエータ20による共振駆動の様子を示す図である。第2実施形態では、このときの共振周波数fは、258Hzであった。このような共振を励起すると、ヒンジ部(連結部)が大きく変形し、ミラー部12は、Y軸に平行な軸を回転軸として揺動する。
【0069】
Bスキャン用の第2アクチュエータ70A、70Bには、互いに異なる電圧Vが印加される。例えば、互いに逆方向のバイアス±Vを印加すると、図11に示すように、ミラー部12はX軸に平行な軸を回転軸として傾く。これにより、Aスキャンのスキャン中心をAスキャンの方向と直交する方向に移動させることができる。
【0070】
また、第2アクチュエータ70A、70Bに対して、互いに逆方向のバイアス電圧を印加する構成に代えて、第2アクチュエータ70A、70Bにそれぞれ逆位相の交流波形±Vsin(2πft)を印加すると、ミラー部12はY軸を回転軸として高速に揺動する。ただし、この周波数fは、共振を誘起しない周波数とする。このような構成により、ミラー部12は、第1アクチュエータ20によりX軸方向に揺動し、第2アクチュエータ70A、70BによりY軸方向に揺動する。これにより、X軸方向及びY軸方向の二次元スキャンが可能となる。
【0071】
なお、第2実施形態の共振周波数が第1実施形態の共振周波数と比較して低い周波数となっているのは、第2実施形態における板状ヒンジ73の影響である。図8〜図11で示したように、板状ヒンジ73は、第2アクチュエータ70A、70Bに比べて小さく、細いミアンダ(蛇行)状の折り畳み構造となっている。この板状ヒンジ73(蛇行部)はバネのように柔らかくなるため、ミラー部12の傾き(変位)を大きくする効果をもたらすと同時に、共振周波数は低くなる。板状ヒンジ73の折り畳み数、細さ、板厚などによって所望の共振周波数を設計することができる。
【0072】
<変形例4>
図8では、第3駆動制御装置38A、第4駆動制御装置38Bを別々に設けたが、1台の駆動制御装置から複数種類の駆動電圧を出力する構成も可能である。また、第1実施形態及び第2実施形態においては、各アクチュエータ(20、30、70A、70B)の駆動制御装置(28、38、38A、38B)を説明したが、駆動電圧供給源とその制御手段とは必ずしも一体である必要はない。例えば、振駆動用(Aスキャン用)の駆動電圧を出力する駆動電圧供給源と、非共振駆動用(Bスキャン用又はCスキャン用)の駆動電圧を出力する駆動電圧供給源と、これら駆動電圧供給源を制御する1台の制御装置と、によって同様のシステムを構成することが可能である。
【0073】
<デバイスサイズの一例>
本発明の実施形態として作製されるMEMSスキャナデバイス10、60の大きさや、具体的な形状については、様々な形態があり得る。一例として、図3におけるミラー部12、一対の第2アクチュエータ30、一対の第1アクチュエータ20及び支持部材50を含んだデバイスの大きさは平面視で約3mm×2mm程度である。さらなる小型化も可能であり、1mm×1mm程度のデバイスの作製も可能である。
【0074】
<本発明の実施形態による効果>
(1)従来知られている可動フレームなどの複雑な構造を用いずに、スキャン中心の移動や二次元スキャンが可能な圧電マイクロミラーデバイスを提供できる。
(2)同じアクチュエータに、Aスキャン共振用駆動波形(サイン波)と、Bスキャン又はCスキャン用駆動波形とを重畳して印加する構成よりも、耐久性が高い。
(3)接続部(連結部)に板状ヒンジを採用し、ヒンジのベンディングを用いた駆動方法であるため、変位量が大きい。すなわち、大きな偏向角が得られる。
(4)Aスキャンの周波数は、ヒンジの折り畳み数で制御できる。ヒンジの折り畳み数を少なくすると共振周波数が上がり、一層の高速スキャンが可能となる。
(5)支持部材、各アクチュエータ部、ミラー部並びにこれらの接続部をシリコン加工により一体的に形成することができる。
(6)従来のポリゴンミラーやガルバノミラーと比べて小型化が可能であり、耐久性も高い。
【0075】
<応用例>
本発明は、レーザ光等の光を反射して光の進行方向を変える光学装置として様々な用途に利用できる。例えば、光偏向器、光走査装置、レーザプリンタ、バーコード読取機、表示装置、各種の光学センサ(測距センサ、形状測定センサ)、光通信装置などに広く適用することができる。
【0076】
なお、本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当該分野の通常の知識を有するものにより、多くの変形が可能である。
【0077】
<付記;開示する発明の態様について>
上記に詳述した発明の実施形態についての記載から把握されるとおり、本明細書は少なくとも以下に示す発明を含む多様な技術思想の開示を含んでいる。
【0078】
(発明1):ミラー部と、前記ミラー部を挟んで両側に配置されており、前記ミラー部に連結され、圧電体の変形によって屈曲変位を行う一対の内側アクチュエータ部と、前記ミラー部から前記一対の内側アクチュエータ部のさらに外側の両側に配置され、前記内側アクチュエータ部に連結され、圧電体の変形によって屈曲変位を行う一対の外側アクチュエータ部と、前記外側アクチュエータ部における前記内側アクチュエータ部との連結部とは別の端部に連結され、当該端部を固定部として前記外側アクチュエータを支持する固定支持部と、前記内側アクチュエータ部に駆動電圧を供給し、前記内側アクチュエータ部を作動させる内側アクチュエータ駆動電圧供給部と、前記外側アクチュエータ部に駆動電圧を供給し、前記外側アクチュエータ部を作動させる外側アクチュエータ駆動電圧供給部と、を備え、前記内側アクチュエータ部の一端が前記ミラー部に連結され、他の端部が前記外側アクチュエータ部に連結されており、前記内側アクチュエータ駆動電圧供給部及び前記外側アクチュエータ駆動電圧供給部のうち一方の駆動電圧供給部から、対応する前記内側アクチュエータ部又は前記外側アクチュエータ部に対して該アクチュエータ部の共振に伴う前記ミラー部の回転方向の振動を誘起する周波数の駆動電圧が供給され、当該共振駆動と同時に他方の駆動電圧供給部から、前記内側アクチュエータ部及び前記外側アクチュエータ部のうち前記共振駆動を行うアクチュエータ部とは異なる、対応するアクチュエータ部に対して、共振を励起させずに前記ミラー部を傾けるための駆動電圧が供給されることを特徴とするミラー駆動装置。
【0079】
この発明によれば、ミラー部を両側から挟むように配置される一対の内側アクチュエータ部のさらに外側に、その両側から挟むように一対の外側アクチュエータ部が配置される。ミラー部はその両側に連結された内側アクチュエータ部との連結部によって支持される。
【0080】
各アクチュエータ部は、圧電体の変形によって屈曲変位を行う圧電アクチュエータにより構成される。共振駆動を担うアクチュータ部と、非共振駆動を担うアクチュータ部とを分け、それぞれのアクチュエータ部に対して個別に駆動電圧の印加を行う構成が採用されている。外側アクチュエータ部を共振駆動用のアクチュエータとし、内側アクチュエータ部を非共振駆動用のアクチュエータとして用いる態様も可能であるし、その逆(内側アクチュエータ部を共振駆動用のアクチュエータとし、外側アクチュエータ部を非共振駆動用のアクチュエータとして用いる態様)でもよい。非共振駆動用の駆動電圧として、DC電圧を印加する態様や、共振を励起しない周波数の交流電圧を印加する態様などがある。
【0081】
この発明によれば、共振駆動によるミラー部の動きによって共振スキャンを行うことができ、非共振駆動によるミラー部の動きによって、共振スキャンのスキャン中心を移動させることができる。
【0082】
また、この発明は、従来の可動フレームを用いる構造(特許文献2)と比較して、構造が簡単である。また、同一アクチュエータ部に共振振動用の交流電圧とオフセットバイアスを重畳させる構成と比較して、本発明は各アクチュエータ部に印加される駆動電圧を低く抑えることができ、耐久性が高い。
【0083】
(発明2):発明1に記載のミラー駆動装置において、前記外側アクチュエータ部は、前記固定支持部との連結部を固定部とするカンチレバー構造であり、前記内側アクチュエータ部は、前記外側アクチュエータ部との連結部を固定部とするカンチレバー構造であることを特徴とする。
【0084】
この態様によれば、外側アクチュエータ部は、固定支持部との連結部(支持部)を支点として変位する圧電カンチレバーとして機能する。内側アクチュエータ部は、外側アクチュエータ部との連結部を支点として変位する圧電カンチレバーとして機能する。
【0085】
(発明3):発明1又は2に記載のミラー駆動装置において、前記内側アクチュエータ部及び前記外側アクチュエータ部は、いずれも振動板上に下部電極、圧電体、上部電極の順に積層された構造を持つ圧電ユニモルフ型のアクチュエータであることを特徴とする。
【0086】
圧電ユニモルフアクチュエータは構造が簡単であり、作製が容易である。
【0087】
(発明4):発明1から3のいずれか1項に記載のミラー駆動装置において、前記内側アクチュエータ部の駆動による前記ミラー部の回転運動の回転軸が、前記外側アクチュエータ部の駆動による前記ミラー部の回転運動の回転軸と平行となるように駆動を行うことを特徴とする。
【0088】
かかる態様によれば、Aスキャン(共振スキャン)の光走査方向と、Cスキャン(スキャン中心移動)の方向を一致させた一次元スキャン(光走査)が可能である。
【0089】
(発明5):発明1から3のいずれか1項に記載のミラー駆動装置において、前記内側アクチュエータ部の駆動による前記ミラー部の回転運動の回転軸が、前記外側アクチュエータ部の駆動による前記ミラー部の回転運動の回転軸と垂直となるように駆動を行うことを特徴とする。
【0090】
かかる態様によれば、Aスキャン(共振スキャン)の光走査方向に対して直交する方向にスキャン中心を移動させることができ、二次元スキャンが可能である。
【0091】
(発明6):発明1から5のいずれか1項に記載のミラー駆動装置において、前記ミラー部と前記内側アクチュエータ部との間の連結部、及び前記内側アクチュエータ部と前記外側アクチュエータ部との間の連結部のうち、少なくとも一方の連結部には、当該連結部の変形を促すための折り返し構造が採用されていることを特徴とする。
【0092】
かかる態様によれば、連結部の変位量を大きくすることができる。
【0093】
(発明7):発明1から6のいずれか1項に記載のミラー駆動装置において、前記圧電体は1〜10μm厚の薄膜であることを特徴とする。
【0094】
薄膜圧電体を用いて圧電アクチュエータを構成することが好ましい。
【0095】
(発明8):発明1から7のいずれか1項に記載のミラー駆動装置において、前記圧電体は、下記式(P)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物であることを特徴とする。
【0096】
一般式ABO・・・(P)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Sb,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素。
O:酸素元素。
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
かかる圧電体は良好な圧電特性を有し、本発明の圧電アクチュエータとして好ましい。
【0097】
(発明8):発明1から8のいずれか1項に記載のミラー駆動装置において、下記式(PX)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物であることを特徴とする。
(Zr,Ti,Mb−x−y・・・(PX)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
Mが、V,Nb,Ta,及びSbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。
0<x<b、0<y<b、0≦b−x−y。
a:b:c=1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
かかる圧電体は良好な圧電特性を有し、本発明の圧電アクチュエータとして好ましい。
【0098】
(発明10):発明7から9のいずれか1項に記載のミラー駆動装置において、前記圧電体は、前記振動板となる基板の上に直接成膜された薄膜であることを特徴とする。
【0099】
直接成膜の方法としては、スパッタリング法に代表される気相成長法、ゾルゲル法などを用いることができる。これにより、所望の性能を持つ圧電薄膜を得ることが可能である。
【0100】
(発明11):発明10に記載のミラー駆動装置において、前記圧電体は、スパッタリング法で成膜された薄膜であることを特徴とする。
【0101】
(発明12):ミラー部と、前記ミラー部を挟んで両側に配置されており、前記ミラー部に連結され、圧電体の変形によって屈曲変位を行う一対の内側アクチュエータ部と、前記ミラー部から前記一対の内側アクチュエータ部のさらに外側の両側に配置され、前記内側アクチュエータ部に連結され、圧電体の変形によって屈曲変位を行う一対の外側アクチュエータ部と、前記外側アクチュエータ部における前記内側アクチュエータ部との連結部とは別の端部に連結され、当該端部を固定して前記外側アクチュエータを支持する固定支持部と、を備え、前記内側アクチュエータ部の一端が前記ミラー部に連結され、他の端部が前記外側アクチュエータ部に連結されてなるミラー駆動装置を制御するための制御方法であって、前記内側アクチュエータ部に駆動電圧を供給し、前記内側アクチュエータ部を作動させる内側アクチュエータ駆動電圧供給部と、前記外側アクチュエータ部に駆動電圧を供給し、前記外側アクチュエータ部を作動させる外側アクチュエータ駆動電圧供給部と、を別々に用意し、前記内側アクチュエータ駆動電圧供給部及び前記外側アクチュエータ駆動電圧供給部のうち一方の駆動電圧供給部から、対応する前記内側アクチュエータ部又は前記外側アクチュエータ部に対して該アクチュエータ部の共振に伴う前記ミラー部の回転方向の振動を誘起する周波数の駆動電圧を供給し、当該共振駆動と同時に他方の駆動電圧供給部から、前記内側アクチュエータ部及び前記外側アクチュエータ部のうち前記共振駆動を行うアクチュエータ部とは異なる、対応するアクチュエータ部に対して、共振を励起させずに前記ミラー部を傾けるための駆動電圧を供給することにより、前記ミラー部の動きを制御することを特徴とするミラー駆動方法。
【符号の説明】
【0102】
10…MEMSスキャナデバイス、12…ミラー部、20…第1アクチュエータ、22…固定部、24…共振駆動用端子、28…第1駆動制御装置、30…第2アクチュエータ、32…連結部、33…連結部、34,34A,34B…スキャン中心移動用端子、38…第2駆動制御装置、38A…第3駆動制御装置、38B…第4駆動制御装置、42…振動板、43…下部電極、46…圧電体、48…上部電極、50…支持部材、60…MEMSスキャナデバイス、70A,70B…第2アクチュエータ、73…板状ヒンジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミラー部と、
前記ミラー部を挟んで両側に配置されており、前記ミラー部に連結され、圧電体の変形によって屈曲変位を行う一対の内側アクチュエータ部と、
前記ミラー部から前記一対の内側アクチュエータ部のさらに外側の両側に配置され、前記内側アクチュエータ部に連結され、圧電体の変形によって屈曲変位を行う一対の外側アクチュエータ部と、
前記外側アクチュエータ部における前記内側アクチュエータ部との連結部とは別の端部に連結され、当該端部を固定部として前記外側アクチュエータを支持する固定支持部と、
前記内側アクチュエータ部に駆動電圧を供給し、前記内側アクチュエータ部を作動させる内側アクチュエータ駆動電圧供給部と、
前記外側アクチュエータ部に駆動電圧を供給し、前記外側アクチュエータ部を作動させる外側アクチュエータ駆動電圧供給部と、を備え、
前記内側アクチュエータ部の一端が前記ミラー部に連結され、他の端部が前記外側アクチュエータ部に連結されており、
前記内側アクチュエータ駆動電圧供給部及び前記外側アクチュエータ駆動電圧供給部のうち一方の駆動電圧供給部から、対応する前記内側アクチュエータ部又は前記外側アクチュエータ部に対して該アクチュエータ部の共振に伴う前記ミラー部の回転方向の振動を誘起する周波数の駆動電圧が供給され、
当該共振駆動と同時に他方の駆動電圧供給部から、前記内側アクチュエータ部及び前記外側アクチュエータ部のうち前記共振駆動を行うアクチュエータ部とは異なる、対応するアクチュエータ部に対して、共振を励起させずに前記ミラー部を傾けるための駆動電圧が供給されることを特徴とするミラー駆動装置。
【請求項2】
前記外側アクチュエータ部は、前記固定支持部との連結部を固定部とするカンチレバー構造であり、
前記内側アクチュエータ部は、前記外側アクチュエータ部との連結部を固定部とするカンチレバー構造であることを特徴とする請求項1に記載のミラー駆動装置。
【請求項3】
前記内側アクチュエータ部及び前記外側アクチュエータ部は、いずれも振動板上に下部電極、圧電体、上部電極の順に積層された構造を持つ圧電ユニモルフ型のアクチュエータであることを特徴とする請求項1又は2に記載のミラー駆動装置。
【請求項4】
前記内側アクチュエータ部の駆動による前記ミラー部の回転運動の回転軸が、前記外側アクチュエータ部の駆動による前記ミラー部の回転運動の回転軸と平行となるように駆動を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のミラー駆動装置。
【請求項5】
前記内側アクチュエータ部の駆動による前記ミラー部の回転運動の回転軸が、前記外側アクチュエータ部の駆動による前記ミラー部の回転運動の回転軸と垂直となるように駆動を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のミラー駆動装置。
【請求項6】
前記ミラー部と前記内側アクチュエータ部との間の連結部、及び前記内側アクチュエータ部と前記外側アクチュエータ部との間の連結部のうち、少なくとも一方の連結部には、当該連結部の変形を促すための折り返し構造が採用されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のミラー駆動装置。
【請求項7】
前記圧電体は1〜10μm厚の薄膜であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のミラー駆動装置。
【請求項8】
前記圧電体は、下記式(P)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のミラー駆動装置。
一般式ABO・・・(P)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Sb,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素。
O:酸素元素。
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
【請求項9】
下記式(PX)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のミラー駆動装置。
(Zr,Ti,Mb−x−y・・・(PX)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
Mが、V,Nb,Ta,及びSbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。
0<x<b、0<y<b、0≦b−x−y。
a:b:c=1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
【請求項10】
前記圧電体は、前記振動板となる基板の上に直接成膜された薄膜であることを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載のミラー駆動装置。
【請求項11】
前記圧電体は、スパッタリング法で成膜された薄膜であることを特徴とする請求項10に記載のミラー駆動装置。
【請求項12】
ミラー部と、
前記ミラー部を挟んで両側に配置されており、前記ミラー部に連結され、圧電体の変形によって屈曲変位を行う一対の内側アクチュエータ部と、
前記ミラー部から前記一対の内側アクチュエータ部のさらに外側の両側に配置され、前記内側アクチュエータ部に連結され、圧電体の変形によって屈曲変位を行う一対の外側アクチュエータ部と、
前記外側アクチュエータ部における前記内側アクチュエータ部との連結部とは別の端部に連結され、当該端部を固定して前記外側アクチュエータを支持する固定支持部と、を備え、
前記内側アクチュエータ部の一端が前記ミラー部に連結され、他の端部が前記外側アクチュエータ部に連結されてなるミラー駆動装置を制御するための制御方法であって、
前記内側アクチュエータ部に駆動電圧を供給し、前記内側アクチュエータ部を作動させる内側アクチュエータ駆動電圧供給部と、
前記外側アクチュエータ部に駆動電圧を供給し、前記外側アクチュエータ部を作動させる外側アクチュエータ駆動電圧供給部と、を別々に用意し、
前記内側アクチュエータ駆動電圧供給部及び前記外側アクチュエータ駆動電圧供給部のうち一方の駆動電圧供給部から、対応する前記内側アクチュエータ部又は前記外側アクチュエータ部に対して該アクチュエータ部の共振に伴う前記ミラー部の回転方向の振動を誘起する周波数の駆動電圧を供給し、
当該共振駆動と同時に他方の駆動電圧供給部から、前記内側アクチュエータ部及び前記外側アクチュエータ部のうち前記共振駆動を行うアクチュエータ部とは異なる、対応するアクチュエータ部に対して、共振を励起させずに前記ミラー部を傾けるための駆動電圧を供給することにより、前記ミラー部の動きを制御することを特徴とするミラー駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−208352(P2012−208352A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74429(P2011−74429)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】