乗り物
【課題】 車椅子のように旋回自在で歩道、建物内などの場所で低速走行可能であると同時に、一般道路などもある程度高い速度で走行して長距離運転を可能とする。
【解決手段】 乗り物は、独立に転舵される左右転舵輪WHfl,WHfrと、独立に駆動される左右駆動輪WHrl,WHrrとを備えている。左右駆動輪WHrl,WHrrは、リンク機構により車体BDに連結され、左右転舵輪WHfl,WHfrおよび左右駆動輪WHrl,WHrr間の長い伸長状態と、左右転舵輪WHfl,WHfrおよび左右駆動輪WHrl,WHrr間の短い収縮状態とに切換えられる。伸長状態では、車体BDの路面に対する傾斜角が小さくなり、ジョイスティック13の前後左右の操作により通常車両のように運転が制御される。収縮状態では、車体BDの路面に対する傾斜角が大きくなり、ジョイスティック13の前後左右の操作により小回り低速運転が制御される。
【解決手段】 乗り物は、独立に転舵される左右転舵輪WHfl,WHfrと、独立に駆動される左右駆動輪WHrl,WHrrとを備えている。左右駆動輪WHrl,WHrrは、リンク機構により車体BDに連結され、左右転舵輪WHfl,WHfrおよび左右駆動輪WHrl,WHrr間の長い伸長状態と、左右転舵輪WHfl,WHfrおよび左右駆動輪WHrl,WHrr間の短い収縮状態とに切換えられる。伸長状態では、車体BDの路面に対する傾斜角が小さくなり、ジョイスティック13の前後左右の操作により通常車両のように運転が制御される。収縮状態では、車体BDの路面に対する傾斜角が大きくなり、ジョイスティック13の前後左右の操作により小回り低速運転が制御される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車椅子のように旋回自在で低速走行するとともに、ある程度の高い走行速度で長距離運転可能な乗り物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、独立に転舵可能な左右一対の転舵輪および独立に駆動可能な左右一対の駆動輪を備え、ジョイスティックなどの操作部材の操作により、その場旋回など旋回自在で低速走行する車椅子、フォークリフトなどの乗り物は知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。また、前輪と後輪との距離すなわちホイールベースを可変として、車体重心を移動させることが可能なフォークリフトも知られている(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平9−294779号公報
【特許文献2】特開平5−116643号公報
【特許文献3】特開2002−362889号公報
【特許文献4】特開2001−48497号公報
【0003】
しかし、上記前者の従来装置にあっては、転舵輪と駆動輪との距離(ホイールベース)は非常に短く、ある程度高い速度で安定して走行することができない。また、上記後者の従来装置にあっても、重心位置を変更するためにホイールベースを可変とするもので、ある程度高い速度で安定させて走行させることを意図したものではない。
【発明の開示】
【0004】
本発明の目的は、車椅子のように旋回自在で歩道、建物内などの場所で低速走行可能であると同時に、一般道路などもある程度高い速度で走行して長距離運転を可能とする乗り物を提供しようとするものである。
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、左右一対の転舵輪をそれぞれ独立に転舵する一対の転舵手段と、左右一対の駆動輪をそれぞれ独立に駆動する一対の駆動手段と、車両を運転するための運転操作部材と、運転操作部材の操作状態に応じて一対の転舵手段および一対の駆動手段を制御して一対の転舵輪を転舵するとともに一対の駆動輪を駆動する運転制御手段とを備えた乗り物において、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離を変更可能な伸縮機構を設け、運転制御手段が、伸縮機構による距離の変更に連動して、運転操作部材の操作状態に応じた一対の転舵輪の転舵態様および一対の駆動輪の駆動態様を変更するようにしたことにある。この場合、例えば、運転操作部材として2次元変位可能なジョイスティックを採用でき、運転制御手段は、ジョイスティックの第1方向への変位に応じて一対の駆動輪の駆動を制御するとともに、同ジョイスティックの第1方向とは異なる第2方向への変位に応じて一対の転舵輪の転舵を制御するとよい。
【0006】
また、運転制御手段が、例えば、伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているときには、同距離が長い状態に切換えられているときに比べて、操作部材の操作に応じた一対の転舵輪の転舵角を大きな値まで許容する転舵制御手段を有するようにするとよい。そして、この転舵制御手段は、伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき、操作部材の操作に応じた一対の転舵輪の転舵角が大きくなるに従って一対の転舵輪の転舵角差を大きくするとよい。
【0007】
また、運転制御手段が、伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき一対の駆動輪を共に同一方向に駆動し、伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき一対の駆動輪を共に同一方向および互いに反対方向に駆動することが可能な駆動制御手段を有するとよい。また、運転制御手段は、伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき、操作部材の操作に応じた一対の転舵輪の転舵角が大きくなるに従って一対の駆動輪の回転数差を大きくする駆動制御手段を有するとよい。そして、これらの駆動制御手段は、伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき、一対の転舵輪が小さく転舵されている状態では一対の駆動輪を同一方向に駆動し、かつ一対の転舵輪が大きく転舵されている状態では一対の駆動輪を互いに反対方向に駆動するようにするとよい。
【0008】
上記のように構成した本発明の特徴によれば、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態と長い状態とでは、運転制御手段により、運転操作部材の操作状態に応じた一対の転舵輪の転舵態様および一対の駆動輪の駆動態様が変更される。したがって、本発明による乗り物においては、走行安定性と小回り性能とを両立でき、車椅子のように旋回自在で歩道、建物内などの場所で低速走行可能であると同時に、一般道路などもある程度高い速度で走行して長距離運転も可能となり、通常の車両と車椅子などの特殊な乗り物とを1台で兼用できるようになる。具体的には、前述のように、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が長い状態で、一対の転舵輪の最大転舵角を小さくすることにより走行安定性が確保される。逆に、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態で、一対の転舵輪の最大転舵角を大きくすることにより、乗り物の小回り性能を向上させることができる。特に、一対の転舵輪の転舵角が大きくなるに従って、同一対の転舵輪の転舵角差を大きくしたり、一対の駆動輪の回転数差を大きくしたり、同一対の駆動輪を互いに反対方向に駆動すれば、旋回半径を極めて小さくでき、その場旋回も可能になる。
【0009】
また、本発明の他の特徴は、運転制御手段が、伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき一対の駆動輪をトルク制御し、伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき一対の駆動輪を速度制御する駆動方式制御手段を有するようにしたことにある。
【0010】
これによれば、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が長い状態に設定されている場合には、一対の駆動輪はトルク制御されるので、この状態で通常の車両のように一般道を走行すれば、通常車両と同様な運転が可能になる。また、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に設定されている場合には、一対の駆動輪は速度制御されるので、車椅子のように、乗員は低速でその速度を簡単にコントロールできる。したがって、伸縮機構による切換え状態に適した特性で、この乗り物が運転されるようになり、乗員が簡単にこの発明に係る乗り物を運転操作できるようになる。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、一対の転舵輪に対して機械式制動装置を設けるとともに、一対の駆動手段を電動モータで構成し、運転制御手段が、伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき、運転操作部材の操作に応じて機械式制動装置を作動させるとともに電動モータによる回生制動によって一対の駆動輪に対して制動力を作用させ、かつ伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき、機械式制動装置を作動させることなく、運転操作部材の操作に応じて電動モータによる回生制動によって一対の駆動輪に対して制動力を作用させる制動制御手段を有することにある。
【0012】
これによれば、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が長い状態に設定されている場合には、一対の転舵輪に対する機械式制動装置および一対の駆動輪に対する回生制動の両者により、この乗り物に対する充分な制動力が付与されるので、この状態で通常の車両のように一般道を走行しても安全性が高く保たれる。また、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に設定されている場合には、一対の駆動輪に対する回生制動のみにより、この乗り物に対する制動力が付与されるので、この乗り物の急激な減速を回避できて高い安全性が保たれる。特に、この状態の乗り物を車椅子のように使用した場合、乗り物の重心位置が高くなり、乗り物の制動時に乗員が前方に倒れ易くなるが、このような事態を未然に防止できる。
【0013】
また、本発明の他の特徴は、運転制御手段が、伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき、ジョイスティックの中立位置から前方への変位に応じて一対の駆動輪の回転を加速させるとともにジョイスティックの中立位置から後方への変位に応じて一対の駆動輪の回転を制動させ、かつ伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき、ジョイスティックの中立位置から前方への変位に応じて一対の駆動輪を前進回転させるとともにジョイスティックの中立位置から後方への変位に応じて一対の駆動輪を後退回転させる駆動方向制御手段を有するようにしたことにある。
【0014】
これによれば、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が長い状態に設定されている場合には、ジョイスティックの前後操作でこの乗り物の加速および減速が制御されるので、この状態で通常の車両のように一般道を走行すれば、通常車両と同様な運転が可能になる。また、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に設定されている場合には、ジョイスティックの前後操作で前方および後方移動が制御されるので、乗員はこの乗り物を簡単に運転操作できる。したがって、伸縮機構による切換え状態に適した特性で、この乗り物が運転されるようになり、乗員が簡単にこの発明に係る乗り物を運転操作できるようになる。
【0015】
また、本発明の他の特徴は、伸縮機構が、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき、同距離が短い状態に切換えられているときに比べて、乗員の着座するシートの路面に対する傾斜角を小さくするようにしたことにある。また、伸縮機構が、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき、同距離が短い状態に切換えられているときに比べて、車体の路面に対する傾斜角を小さくするようにしてもよい。
【0016】
これらによれば、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が長い状態に設定されている場合には、乗り物および乗員の重心が低くなるので、乗り物を安定して走行させることができるようになる。また、ジョイスティックの前方操作をこの乗り物の前方への加速制御とすれば、制動時に乗員が前傾することにより加速制御操作してしまうことを未然に防止できて、この乗り物の異常な挙動を未然に回避できる。また、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に設定されている場合には、この乗り物を車椅子のように使用すれば、乗員の上半身は起こされるので、運転操作性が良好になる。
【0017】
また、これらのシートまたは車体の傾斜が変更される乗り物において、シートまたは車体の路面に対する傾斜角を検出する傾斜角センサと、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態になるように指示されているとき、傾斜角センサによって検出された傾斜角が異常であることを条件に、伸縮機構を制御して一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が長い状態になるように強制的に制御する強制制御手段とを設けたことにある。
【0018】
これによれば、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態になるように指示されているときにおけるシート又は車体の異常傾斜を回避でき、乗員の不安定状態を回避できる。
【0019】
さらに、本発明の他の特徴は、乗り物が車道上にあるか否かを検出する車道検出手段と、車道検出手段により乗り物が車道上にあることが検出されたとき伸縮機構を制御して一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離を長い状態に設定し、かつ車道検出手段により乗り物が車道上にあることが検出されないとき伸縮機構を制御して一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離を短い状態に設定する自動伸縮制御手段とを設けたことにある。
【0020】
これによれば、乗り物が位置する環境に応じて、一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が長い状態または短い状態に自動的に設定され、乗員は、多くの操作を行なうことなく、環境に適合した運転操作を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る乗り物について図面を用いて説明する。図1は同実施形態に係る乗り物の伸長状態を示す概略側面図であり、図2は同乗り物の収縮状態を示す概略側面図であり、図3は同乗り物の伸長状態を示す概略斜視図である。
【0022】
この乗り物は、箱状の車体BDを有し、その前側部分には車両の前輪に相当する左右一対の転舵輪WHfl,WHfrが組みつけられているとともに、その後側部分には車両の後輪に相当する左右一対の駆動輪WHrl,WHrrが組み付けられている。車体BD内には、乗員が着座するシート11が組み付けられている。シート11は、車体BDに固定された着座部11aと、着座部11aの上側にて同着座部11aに対して若干の回動を許容された比較的長いヘッドレスト部11bとからなる。また、この車体BDには操作パネル12が設けられて、同操作パネルには乗員によって操作されるジョイスティック13、伸縮スイッチ14およびリバーススイッチ15が設けられている。
【0023】
ジョイスティック13は、2次元変位可能な操作子で、中立位置から前後方向の変位に応じて乗り物の駆動および制動を指示し、中立位置から左右方向の変位に応じて乗り物の転舵を指示する。伸縮スイッチ14は、この乗り物を図1の伸長状態および図2の収縮状態のいずれかに切換えるための選択スイッチである。リバーススイッチ15は、伸縮スイッチ14によって伸長状態が選択されている状態で、乗り物の進行方向を前進から後退に切換えるための切換えスイッチである。
【0024】
転舵輪WHfl,WHfrは、転舵装置20a,20bによりそれぞれ独立に転舵されるようになっている。転舵装置20a,20bは、図4に示すように、車体BDの両側に組み付けたケーシング21a,21b内に収容された電動モータ22a,22b、ウォーム23a,23bおよびホイール24a,24bをそれぞれ備えているとともに、ケーシング21a,21bの下方にて回転プレート25a,25bを備えている。電動モータ22a,22bは減速器を内蔵しており、その減速器を介した電動モータ22a,22bの出力軸26a,26bの先端部にウォーム23a,23bが同出力軸26a,26bと一体回転するように組み付けられている。ウォーム23a.23bはホイール24a,24bの外周ギヤに噛み合っている。ホイール24a,24bの回転軸27a,27bは、ケーシング21a,21bの下面から下方に突出して回転プレート25a,25bに一体回転するように接続されている。
【0025】
回転プレート25a,25bの下面には、断面コ字状の支持プレート28a,28bが固着されている。支持プレート28a,28bは、下方に伸びた両腕部の下部にて、転舵輪WHfl,WHfrの回転軸29a,29bを介して、転舵輪WHfl,WHfrをそれらの軸線回りに回転可能に支持するとともに、転舵輪WHfl,WHfrをそれらの垂直軸回りに一体回転するように支持している。これにより、電動モータ22a,22bの回転により、転舵輪WHfl,WHfrが乗り物の進行方向に対して左右にそれぞれ独立に転舵されるようになっている。なお、ケーシング21a,21bは、後述するように車体BDの路面に対する傾斜角が変化しても、回転プレート25a,25bが路面に対して常に水平すなわち回転軸27a,27bが路面に対して常に垂直になるように、図示しない連結機構により車体BDに連結されている。逆に言えば、車輪側部材であるケーシング21a,21b側に車体BDが回転可能に組み付けられている。また、転舵輪WHfl,WHfrには、詳しくは後述するように、機械式制動装置が組み付けられている。
【0026】
駆動輪WHrl,WHrrは、方形状のフレーム31の左右両側に固定された電動モータ32a,32bの回転軸に一体回転可能に組み付けられている。電動モータ32a,32bは減速器を内蔵しており、それらの回転により駆動輪WHrl,WHrrをそれぞれ独立に駆動する。
【0027】
フレーム31は、それぞれ左右一対の第1リンク33a,33b、第2リンク34a,34b、第3リンク35a,35bおよび第4リンク36a,36bからなるリンク機構を介して揺動可能に車体BDに支持されている。第1リンク33a,33bは、一端にて車体BDに回転可能にそれぞれ接続され、他端にてフレーム31の後端部に回転可能にそれぞれ接続されている。第2リンク34a,34bは、一端にて車体BDに回転可能にそれぞれ接続され、他端にてフレーム31の前端部に回転可能にそれぞれ接続されている。第3リンク35a,35bは、一端にて車体BDに回転可能にそれぞれ接続され、他端にて連結シャフト37の両端に回転可能にそれぞれ接続されている。第4リンク36a,36bは、一端にて連結シャフト37の両端に回転可能にそれぞれ接続され、他端にて第2リンク34a,34bの中間位置に回転可能にそれぞれ接続されている。
【0028】
連結シャフト37の中央位置には雌ねじ穴が形成されており、同雌ねじ孔にはスクリューロッド41が螺合して貫通している。スクリューロッド41の基端は、減速器を内蔵した電動モータ42により軸線回りに回転駆動されるようになっている。電動モータ42は、ブラケット43を介して車体BDに回転可能に支持されている。スクリューロッド41は、連結シャフト37の中央位置に設けた雌ねじ穴との協働によりねじ機構を構成するもので、電動モータ42の回転により、連結シャフト37が車体BDの前後方向に移動する。そして、リンク機構により、駆動輪WHrl,WHrrと転舵輪WHfl,WHfrとの距離が変更される。すなわち、連結シャフト37が車体BDの後方に移動すると、駆動輪WHrl,WHrrと転舵輪WHfl,WHfrとの距離が大きくなり、これに伴い車体BDはシート11と共に水平側に倒される(図1参照)。すなわち、車体BDの前後軸線の路面に対する傾斜角が小さくなる。逆に、連結シャフト37が車体BDの前方に移動すると、駆動輪WHrl,WHrrと転舵輪WHfl,WHfrとの距離が小さくなり、これに伴い車体BDはシート11と共に垂直側に立ち上がる(図2参照)。すなわち、車体BDの前後軸線の路面に対する傾斜角が大きくなる。
【0029】
次に、この乗り物の電気制御装置について説明する。電気制御装置は、図5に示すように、コントローラ50を備えている。コントローラ50は、CPU,ROM,RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするもので、図6〜8のプログラムを実行してこの乗り物の作動を制御する。このコントローラ50には、伸縮スイッチ14およびリバーススイッチ15に加えて、前後位置センサ51および左右位置センサ52が接続されているとともに、各種駆動回路53,54a,54b,55a,55b,56a,56bも接続されている。これらのコントローラ50および駆動回路53,54a,54b,55a,55b,56a,56bにはバッテリ57が接続されている。
【0030】
前後位置センサ51は、ジョイスティック13の前後方向の変位位置を検出するものである。この前後位置センサ51は、ジョイスティック13の中立位置から前方向の変位を0〜+100で表し、ジョイスティック13の中立位置から後方向の変位を0〜−100で表す信号を出力する。左右位置センサ52は、ジョイスティック13の左右方向の変位位置を検出するものである。この左右位置センサ52は、ジョイスティック13の中立位置から右方向の変位を0〜+100で表し、ジョイスティック13の中立位置から左方向の変位を0〜−100で表す信号を出力する。
【0031】
伸縮モータ用駆動回路53は、伸縮用の電動モータ42を駆動制御する。この伸縮モータ用駆動回路53には、車体BDに対するリンク33a,33bの角度を検出する角度センサ61が接続されている。そして、伸縮モータ用駆動回路53は、コントローラ50の指示により、角度センサ61との協働により電動モータ42を回転させて、車体BDを伸長状態(図1参照)または収縮状態(図2参照)に切換える。角度センサ61は、車体BDおよびシート11の路面に対する傾斜角を検出するもので、リンク33a,33bに代えて、他のリンク34a,34bまたは35a,35bの回転角を検出するものでもよい。
【0032】
ブレーキ用駆動回路54a,54bは、機械式制動装置である電磁ブレーキ装置70a,70bを駆動制御する。電磁ブレーキ装置70a,70bは、ディスク71a,71b、ブレーキパッド72a,72bおよび電磁ソレノイド73a,73bからなる。ディスク71a,71bは、左右転舵輪WHfl,WHfrと一体回転するように左右転舵輪WHfl,WHfrの回転軸に固定されている。ブレーキパッド72a,72bは、ディスク71a,71bに押し付けられてディスク71a,71bとの摩擦力により左右転舵輪WHfl,WHfrに機械的な制動力を付与する。電磁ソレノイド73a,73bは、ブレーキ用駆動回路54a,54bによる通電によってブレーキパッド72a,72bを駆動する。ブレーキ用駆動回路54a,54bには、電磁ソレノイド73a,73bに流れる電流をそれぞれ独立に検出する電流センサ62a,62bも接続されている。そして、ブレーキ用駆動回路54a,54bは、電流センサ62a,62bとの協働により、コントローラ50によって指示された大きさの電流を電磁ソレノイド73a,73bに流すことにより、同電流の大きさに応じた制動力を左右転舵輪WHfl,WHfrに付与する。なお、電磁ソレノイド73a,73bに代えて電動モータを用い、または電磁ブレーキ装置70a,70bをディスク式ではなく、ドラム式にしてもよい。また、電流センサ62a,62bに代えて、左右転舵輪WHfl,WHfrに対する制動トルクを検出するトルクセンサ、またはブレーキパッド72a,72bからディスク71a,71bに付与される制動圧力を検出する圧力センサを用いてもよい。
【0033】
転舵モータ用駆動回路55a,55bは、転舵用の電動モータ22a,22bを駆動制御する。この転舵モータ用駆動回路55a,55bには、左右転舵輪WHfl,WHfrの転舵角をそれぞれ独立に検出する転舵角センサ63a,63bがそれぞれ接続されている。そして、転舵モータ用駆動回路55a,55bは、コントローラ50の指示により、転舵角センサ63a,63bとの協働により電動モータ22a,22bを回転させて、左右転舵輪WHfl,WHfrを任意の角度に転舵する。
【0034】
駆動モータ用駆動回路56a,56bは、駆動用の電動モータ32a,32bを駆動制御する。この駆動モータ用駆動回路56a,56bには、電動モータ32a,32bに流れる電流をそれぞれ独立に検出する電流センサ64a,64bがそれぞれ接続されているとともに、左右駆動輪WHrl,WHrrの回転速度をそれぞれ独立に検出する回転速度センサ65a,65bがそれぞれ接続されている。そして、駆動モータ用駆動回路56a,56bは、コントローラ50の指示により、電流センサ64a,64bとの協働により電動モータ32a,32bをトルク駆動制御して左右駆動輪WHrl,WHrrを駆動し、または回転速度センサ65a,65bとの協働により電動モータ32a,32bを回転速度制御して左右駆動輪WHrl,WHrrを駆動する。また、駆動モータ用駆動回路56a,56bは、コントローラ50の指示により電動モータ32a,32bを回生制動制御して、左右駆動輪WHrl,WHrrに対して回生制動力を付与する。また、電流センサ64a,64bに代えて、左右駆動輪WHrl,WHrrに対する駆動トルクおよび制動トルクを検出するトルクセンサを用いてもよい。
【0035】
次に、上記のように構成した実施形態に係る乗り物の動作について説明する。この乗り物においては、図示しない電源スイッチの投入により、コントローラ50が図6のプログラムを所定の短時間ごとに繰り返し実行し始める。このプログラムの実行はステップS10にて開始され、コントローラ50はステップS12にて前後位置センサ51および左右位置センサ52からの検出信号を入力するとともに、伸縮スイッチ14およびリバーススイッチ15からの信号を入力する。
【0036】
次に、ステップS14にて、伸縮スイッチ14が伸長側にあるか否かを判定する。いま、伸縮スイッチ14が伸長側に切換えられれば、ステップS14に「Yes」と判定し、ステップS16にて伸縮モータ用駆動回路53に伸長側に切換えるための指示を出力する。これにより、伸縮モータ用駆動回路53は、角度センサ61からの車体BDおよびシート11の路面に対する傾斜角がこの乗り物の伸長状態(図1参照)に対応する角度になるまで、電動モータ42を回転制御する。この電動モータ42の回転はスクリューロッド41に伝達され、スクリューロッド41が軸線回りに回転する。この回転により連結シャフト37が後方へ押され、リンク33a,33b,34a,34b,35a,35b,36a,36bからなるリンク機構により、左右駆動輪WHrl,WHrrは左右転舵輪WHfl,WHfrと反対側すなわち後方へ移動する。その結果、乗り物が伸長状態に設定され、車体BDおよびシート11が倒されて路面に対する傾斜角が小さくなる。なお、以前から伸縮スイッチ14が伸長側にあれば、ステップS16にて実質的な処理を実行することなく、ステップS18の伸長状態制御ルーチンを実行して、ステップS24にてこのプログラムの実行を終了する。
【0037】
一方、伸縮スイッチ14が収縮側に切換えられれば、ステップS14に「No」と判定し、ステップS20にて伸縮モータ用駆動回路53に収縮側に切換えるための指示を出力する。これにより、伸縮モータ用駆動回路53は、角度センサ61からの車体BDおよびシート11の路面に対する傾斜角がこの乗り物の収縮状態(図2参照)に対応する角度になるまで、電動モータ42を回転制御する。この電動モータ42の回転方向は前記場合と逆である。この場合も、電動モータ42によりスクリューロッド41が軸線回りに回転し、連結シャフト37は前方へ引かれ、リンク33a,33b,34a,34b,35a,35b,36a,36bからなるリンク機構により、左右駆動輪WHrl,WHrrは左右転舵輪WHfl,WHfr側すなわち前方へ移動する。その結果、乗り物が収縮状態に設定され、車体BDおよびシート11が起こされて路面に対する傾斜角が大きくなる。なお、以前から伸縮スイッチ14が収縮側にあれば、ステップS22にて実質的な処理を実行することなく、ステップS22の伸長状態制御ルーチンを実行して、ステップS24にてこのプログラムの実行を終了する。
【0038】
次に、伸長状態制御ルーチンの実行による乗り物の走行動作について説明する。この伸長状態制御ルーチンは、図7に示されているように、ステップS30にて開始され、ステップS32にて目標転舵角演算処理を実行する。この目標転舵角演算処理においては、コントローラ50内に設けられた第1転舵角テーブルを参照して、前記入力したジョイスティック13の左右位置を表す信号に応じた目標転舵角を計算する。第1転舵角テーブルは、図9に示すように、ジョイスティック13の中立位置から右方向への変位(すなわち、「0」から正の所定値への変位)に応じて中立位置から右方向(すなわち、「0」から正の所定値)に徐々に変化する目標転舵角を記憶しているとともに、ジョイスティック13の中立位置から左方向への変位(すなわち、「0」から負の所定値への変位)に応じて中立位置から左方向(すなわち、「0」から負の所定値)に徐々に変化する目標転舵角を記憶している。
【0039】
次に、ステップS34にて、転舵モータ用駆動回路55a,55bに前記計算した目標転舵角を出力する。転舵モータ用駆動回路55a,55bは、転舵角センサ63a,63bによって検出された転舵角が目標転舵角になるまで、電動モータ22a,22bを回転制御する。この電動モータ22a,22bの回転により、左右転舵輪WHfl,WHfrは目標転舵角に転舵される。なお、本実施形態では、左右転舵輪WHfl,WHfrの転舵角を同じにしたが、旋回内輪に相当する転舵輪の転舵角を旋回外輪に相当する転舵輪の転舵角よりも若干量だけ大きくするようにしてもよい。
【0040】
前記ステップS34の処理後、ステップS36にてリバーススイッチ15がオン状態(後退指示状態)にあるかを判定する。リバーススイッチ15がオン状態になければ、ステップS36にて「No」と判定して、ステップS38〜S48の処理を実行する。ステップS38においては、前記入力した前後位置センサ51からの信号によりジョイスティック13が中立位置よりも前方に変位されているかを判定する。ジョイスティック13が中立位置よりも前方に変位されていれば、ステップS38にて「Yes」と判定し、ステップS40にて目標駆動トルク演算処理を実行する。この目標駆動トルク演算処理においては、コントローラ50内に設けられた駆動トルクテーブルを参照して、前記入力したジョイスティック13の前方変位位置を表す信号に応じた目標駆動トルクを計算する。駆動トルクテーブルは、図10の実線で示すように、ジョイスティック13の中立位置から前方への変位(すなわち、「0」から正の所定値への変位)に応じて徐々に増加する目標駆動トルクを記憶している。
【0041】
次に、ステップS42にて、駆動モータ用駆動回路56a,56bに前記計算した目標駆動トルクを出力するとともに、電動モータ32a,32bの正転を指示する。そして、ステップS62にて、このプログラムの実行を一旦終了する。駆動モータ用駆動回路56a,56bは、電流センサ64a,64bにより検出されたモータ電流をフィードバックすることにより、電動モータ32a,32bが目標駆動トルクを発生するようにトルク制御して、電動モータ32a,32bを正転制御する。したがって、駆動輪WHrl,WHrrは目標駆動トルクで正転駆動され、この乗り物は同トルクで前進する。このとき、ジョイスティック13の左右方向の操作により転舵輪WHfl,WHfrが左右に転舵されていれば、乗り物は左右に旋回する。
【0042】
一方、ジョイスティック13が中立位置よりも後方に変位されていれば、ステップS38にて「No」と判定し、ステップS44にて目標制動トルク演算処理を実行する。この目標制動トルク演算処理においては、コントローラ50内に設けられた制動トルクテーブルを参照して、前記入力したジョイスティック13の後方への変位位置を表す信号に応じた目標制動トルクを計算する。制動トルクテーブルは、図11の実線で示すように、ジョイスティック13の中立位置から後方への変位(すなわち、「0」から負の所定値への変位)に応じて徐々に増加する目標制動トルクを記憶している。
【0043】
次に、ステップS46にてブレーキ用駆動回路54a,54bに前記計算した目標制動トルクを出力するとともに、制動制御するように指示する。次に、ステップS48にて駆動モータ用駆動回路56a,56bに駆動輪WHrl,WHrrを回生制動制御するように指示する。そして、ステップS62にて、このプログラムを一旦終了する。ブレーキ用駆動回路54a,54bは、電流センサ62a,62bにより検出された通電電流をフィードバックすることにより、電磁ソレノイド73a,73bに目標制動トルクに比例した電流を流す。これにより、電磁ブレーキ装置70a,70bは、転舵輪WHfl,WHfrを前記目標制動トルクで制動する。また、駆動モータ用駆動回路56a,56bは、前記回生制動の指示により、電動モータ32a,32bを回生制動制御する。その結果、転舵輪WHfl,WHfrの制動トルク制御および駆動輪WHrl,WHrrの回生制動制御により、この乗り物は、ジョイスティック13の中立位置から後方への変位により制動される。
【0044】
また、この乗り物が伸長状態設定されている状態で、リバーススイッチ15がオン状態に切換えられると、ステップS36にて「Yes」と判定されて、ステップS50〜S60の処理が実行される。ジョイスティック13が中立位置よりも前方に変位されていれば、ステップS50にて「Yes」と判定し、ステップS52にて、前記ステップS40の場合と同様に、コントローラ50内に設けられた駆動トルクテーブルを参照して、前記入力したジョイスティック13の前方変位位置を表す信号に応じた目標駆動トルクを計算する。ただし、駆動トルクテーブルは、図10の破線で示すように、前記実線の場合よりも若干小さく、ジョイスティック13の中立位置から前方への変位(すなわち、「0」から正の所定値への変位)に応じて徐々に増加する後方への目標駆動トルクを記憶している。
【0045】
次に、ステップS54にて、ステップS42の場合と同様に、駆動モータ用駆動回路56a,56bに前記計算した目標駆動トルクを出力するとともに、電動モータ32a,32bの逆転を指示する。そして、ステップS62にて、このプログラムの実行を一旦終了する。この場合も、駆動モータ用駆動回路56a,56bは、電流センサ64a,64bにより検出されたモータ電流をフィードバックすることにより、電動モータ32a,32bが目標駆動トルクを発生するようにトルク制御する。ただし、電動モータ32a,32bは逆転制御される。したがって、駆動輪WHrl,WHrrは目標駆動トルクで逆転駆動され、この乗り物は同トルクで後退する。このときも、ジョイスティック13の左右方向の操作により転舵輪WHfl,WHfrが左右に転舵されていれば、乗り物は左右に旋回する。
【0046】
また、ジョイスティック13が中立位置よりも後方に変位されていれば、ステップS50にて「No」と判定し、ステップS56にて、前記ステップS44の場合と同様に、コントローラ50内に設けられた制動トルクテーブルを参照して、前記入力したジョイスティック13の後方への変位位置を表す信号に応じた目標制動トルクを計算する。ただし、制動トルクテーブルに記憶されている目標制動トルクは、図11の破線で示すように、前進の場合に比べて若干小さい。
【0047】
次に、ステップS58にて、前記ステップS46の場合と同様に、ブレーキ用駆動回路54a,54bに前記計算した目標制動トルクを出力するとともに、制動制御するように指示する。また、ステップS60にて、前記ステップS48の場合と同様に、駆動輪WHrl,WHrrを回生制動制御するように駆動モータ用駆動回路56a,56bに指示する。そして、ステップS62にて、このプログラムを一旦終了する。この場合も、ブレーキ用駆動回路54a,54bは、電流センサ62a,62bにより検出された通電電流をフィードバックすることにより、電磁ソレノイド73a,73bに目標制動トルクに比例した電流を流し、転舵輪WHfl,WHfrを前記目標制動トルクで制動する。また、この場合も、駆動モータ用駆動回路56a,56bは、前記回生制動の指示により、電動モータ32a,32bを回生制動制御する。その結果、転舵輪WHfl,WHfrの制動トルク制御および駆動輪WHrl,WHrrの回生制動制御により、この乗り物は、ジョイスティック13の中立位置から後方への変位により制動される。
【0048】
このように、乗り物が伸長状態に設定されている場合には、ジョイスティック13の中立位置から前方への変位量に応じて加速制御されるとともに、ジョイスティック13の中立位置から後方への変位量に応じて制動制御される(図15(A)参照)。また、リバーススイッチ15の切換えにより、乗り物を前進させることができるとともに後退させることもできる。そして、ジョイスティック13の左右への変位により、転舵輪WHfl,WHfrが転舵されて乗り物の旋回が制御される(図15(B)参照)。このように転舵輪WHfl,WHfrと駆動輪WHrl,WHrrとの間の距離(ホイールベース)が長く設定されている場合には、走行安定性も確保されるので、ある程度高い速度で乗り物を走行させることができる。そして、ジョイスティック13で車両の加速及び減速が制御されるので、乗員はこの乗り物を通常の車両と同様な感覚で運転できるとともに、同乗り物は一般道路も走行できるので、長距離運転することも可能となる。
【0049】
次に、乗り物が収縮状態に切換えられている場合について説明する。この場合、図6の収縮状態制御ルーチンは、その詳細が図8に示されているように、ステップS70にてその実行が開始される。このステップS70の開始後、ステップS72にて、目標転舵角演算処理を実行する。この目標転舵角演算処理においては、コントローラ50内に設けられた第2転舵角テーブルを参照して、前記入力したジョイスティック13の左右位置を表す信号に応じた転舵角を計算する。第2転舵角テーブルも、図12に示すように、ジョイスティック13の中立位置から右方向への変位(すなわち、「0」から正の所定値への変位)に応じて中立位置から右方向(すなわち、「0」から正の所定値)に徐々に変化する目標転舵角を記憶しているとともに、ジョイスティック13の中立位置から左方向への変位(すなわち、「0」から負の所定値への変位)に応じて中立位置から左方向(すなわち、「0」から負の所定値)に徐々に変化する目標転舵角を記憶している。ただし、この場合には、ジョイスティック13の変位側の転舵輪(ジョイスティック13が右方向に変位する場合には右転舵輪WHfr、ジョイスティック13が左方向に変位する場合には左転舵輪WHfl)の目標転舵角の変化は、ジョイスティック13の変位側と反対側の転舵輪の変化よりも大きく、その差はジョイスティック13の中立位置からの変位量の増加に従って増加する。さらに、この収縮状態における目標転舵角の絶対値の最大値は、前述した伸長状態における目標転舵角の絶対値の最大値に比べて、はるかに大きい。なお、図12の乗り物と記載した転舵角の特性カーブは、乗り物全体の転舵角を示している。
【0050】
次に、ステップS74にて、転舵モータ用駆動回路55a,55bに前記計算した目標転舵角をそれそれ出力する。転舵モータ用駆動回路55a,55bは、転舵角センサ63a,63bによって検出された転舵角が目標転舵角になるまで、電動モータ22a,22bを回転制御する。この電動モータ22a,22bの回転により、左右転舵輪WHfl,WHfrは目標転舵角にそれぞれ転舵される。
【0051】
前記ステップS74の処理後、ステップS76にて目標回転数演算処理を実行する。この目標回転数演算処理においては、コントローラ50内に設けられた回転数テーブルを参照して、前記入力したジョイスティック13の前後方向の変位位置を表す信号に応じた目標回転数を計算する。回転数テーブルは、図13に示すように、ジョイスティック13の中立位置を中心とした前後方向の変位量の増加に応じて比例的に増加する目標回転数を記憶している。
【0052】
次に、ステップS78にて、目標回転数の補正演算処理を実行する。この補正演算においては、まず、コントローラ50内に設けられた補正値テーブルを参照して、前記入力したジョイスティック13の左右位置を表す信号に応じた補正値を計算する。補正値テーブルは、図14に示すように、ジョイスティック13が左右方向の中立位置にあるとき、左右駆動輪WHrf,WHrrの補正値として共に「1.0」が与えられる。そして、ジョイスティック13が中立位置から右方向へ変位されるに従って、ジョイスティック13の変位量が所定値に達するまで、左駆動輪WHrf用の補正値は同変位量に比例して所定値(例えば、「2.0」)まで増加し、ジョイスティック13の変位量が所定値を超えると同変位量の増加に従って所定値(例えば、「1.0」)まで減少し、その後所定値に維持される。また、ジョイスティック13が中立位置から左方向へ変位されるに従って、ジョイスティック13の変位量が所定値に達するまで、左駆動輪WHrf用の補正値は同変位量に比例して所定値(例えば、「0.0」)まで減少し、ジョイスティック13の変位量が所定値を超えると同変位量の増加に従って前記よりも大きな傾きで所定値(例えば、「−1.0」)まで減少し、その後所定値に維持される。右駆動輪WHrrの補正値は、左駆動輪WHrf用の補正値と左右対称に変化する。
【0053】
そして、同ステップS78においては、前記計算した補正値を前記ステップS76の処理により計算した左右駆動輪WHrl,WHrrの目標回転数にそれぞれ乗算して、左右駆動輪WHrl,WHrrの目標回転数を補正する。そして、ステップS80にて、駆動モータ用駆動回路56a,56bに前記補正した目標回転数を出力して、電動モータ32a,32bの回転制御を指示する。そして、ステップS82にて、このプログラムの実行を一旦終了する。駆動モータ用駆動回路56a,56bは、回転速度センサ65a,65bにより検出された左右駆動輪WHrl,WHrrの回転速度をフィードバックすることにより、電動モータ32a,32bが前記計算した目標回転数に対応した回転速度で正転または逆転するように制御する。この場合、電動モータ32a,32bの正転および逆転において、回転速度が減少する場合には、駆動モータ用駆動回路56a,56bは電動モータ32a,32bを回生制動制御して、左右駆動輪WHrl,WHrrは回生制動される。このような電動モータ32a,32bの回転制御により、左右駆動輪WHrl,WHrrは目標回転数に対応した回転速度で正転または逆転する。これにより、この乗り物はジョイスティック13の前後方向の操作により前進および後退する。このとき、ジョイスティック13の左右方向の操作により転舵輪WHfl,WHfrが左右に転舵されていれば、乗り物は左右に旋回する。
【0054】
この収縮状態にある場合における乗り物の動作を、図16を用いて詳しく説明する。ジョイスティック13の左右位置が中立位置にある状態で、ジョイスティック13が前後方向に操作されると、図16(A)に示すように、左右駆動輪WHrl,WHrrは同一回転数で回転する。そして、左右転舵輪WHfl,WHfrも転舵されないので、乗り物は直進する。この場合、ジョイスティック13が中立位置から前方に操作されていれば、前記ステップS78にて設定される目標回転数は図13に示すように正に設定されるので、乗り物は前進する。そして、その前進速度は、ジョイスティック13の前方への変位量が増加するに従って速くなる。また、ジョイスティック13が中立位置から後方に操作されていれば、前記ステップS78にて設定される目標回転数は図13に示すように負に設定されるので、乗り物は後退する。そして、その後退速度は、ジョイスティック13の後方への変位量が増加するに従って速くなる。
【0055】
また、ジョイスティック13が中立位置から左方に操作されると、前記ステップS72にて設定される目標転舵角は図12に示すように左右転舵輪WHfl,WHfrとも左方向であって、しかも左転舵輪WHflの目標転舵角は右転舵角WHfrの目標転舵角よりも大きい。そして、前記ステップS76の処理によって設定される左右駆動輪WHrl,WHrrの目標回転数は前述した直進の場合と同じであるが、この目標回転数は前記ステップS78にて補正される。この補正の結果、図14に示すように左駆動輪WHrlの目標回転数の絶対値が右駆動輪WHrrの目標回転数の絶対値に比べて小さくなる。その結果、乗り物は、前進状態にあれば左旋回し、後退状態にあれば右旋回(後方へ右旋回)する。そして、この場合、ジョイスティック13が中立位置から左方に位置するに従って、左右転舵輪WHfl,WHfrの転舵角差および左右駆動輪WHrl,WHrrの回転数差が大きくなるので、乗り物の旋回中心Xは、図16(B)に示すように、左右駆動輪WHrl,WHrrを結ぶ中心軸線上を乗り物側に近づき、乗り物は小回りすることが可能になる。なお、図16(B)の破線で示した転舵輪Yは、左右転舵輪WHfl,WHfrの転舵が乗り物に与える影響を一つの転舵輪で示すものである。
【0056】
さらに、ジョイスティック13が左方に操作されると、左転舵輪WHflの目標転舵角は90度を超える。左駆動輪WHrlの目標回転数の正負の符号が右駆動輪WHrrの目標回転数の正負の符号と反対になる。すなわち、乗り物が前進状態(ジョイスティック13が中立位置よりも前方)にあれば、左駆動輪WHrlの目標回転数は負(後方に対応)になるとともに、右駆動輪WHrrの目標回転数が正(前進に対応)になる。乗り物が後退状態(ジョイスティック13が中立位置よりも後方)にあれば、左駆動輪WHrlの目標回転数は正になるとともに、右駆動輪WHrrの目標回転数が負になる。したがって、図16(C)に示すように、左右転舵輪WHfl,WHfrは最大で「ハ」字状に転舵されるとともに、左右駆動輪WHrl,WHrrが逆方向に回転するので、乗り物の旋回中心Xは、最大で、図16(C)に示すように、左右駆動輪WHrl,WHrr間の中立位置となる。その結果、乗り物は、前進状態あれば左方向にその場旋回することが可能になるとともに、後退状態にあれば右方向にその場旋回することが可能になる。
【0057】
一方、ジョイスティック13が中立位置から右方に操作された場合には、目標転舵角は図12に示すように左右転舵輪WHfl,WHfrとも右方向であって、しかも右転舵角WHfrの目標転舵角は左転舵輪WHflの目標転舵角よりも大きくなる。そして、右駆動輪WHrrの目標回転数が左駆動輪WHrlの目標回転数に比べて小さくなる。その結果、乗り物は、前進状態にあれば右旋回し、後退状態にあれば左旋回する。そして、この場合も、ジョイスティック13が中立位置から右方に位置するに従って、左右転舵輪WHfl,WHfrの転舵角差および左右駆動輪WHrl,WHrrの回転数差が大きくなるので、乗り物の旋回中心Xは、左右駆動輪WHrl,WHrrを結ぶ中心軸線上を乗り物側に近づき、乗り物は小回りすることが可能になる。
【0058】
さらに、ジョイスティック13が右に操作されると、右転舵輪WHfrの目標転舵角は90度を超える。そして、この場合には、右駆動輪WHrrの目標回転数の正負の符号が左駆動輪WHrlの目標回転数の正負の符号と反対になる。すなわち、乗り物が前進状態にあれば、右駆動輪WHrrの目標回転数は負になるとともに、左駆動輪WHrlの目標回転数が正になる。乗り物が後退状態にあれば、右駆動輪WHrrの目標回転数は正になるとともに、左駆動輪WHrlの目標回転数が負になる。したがって、この場合も、左右転舵輪WHfl,WHfrは最大で「ハ」字状に転舵されるとともに、左右駆動輪WHrl,WHrrが逆方向に回転するので、乗り物の旋回中心Xは、最大で、左右駆動輪WHrl,WHrr間の中立位置となる。その結果、乗り物は、前進状態あれば右方向にその場旋回することが可能になるとともに、後退状態にあれば左方向にその場旋回することが可能になる。
【0059】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態による乗り物によれば、左右転舵輪WHfl,WHfrと左右駆動輪WHrl,WHrrとの距離が長い伸長状態では、ジョイスティック13の前後および左右への操作により、走行安定性をも含めて通常の車両と同等の運転性能が得られる。具体的には、ジョイスティック13の中立位置から前方への操作により、左右駆動輪WHrl,WHrrはトルク駆動制御される。また、この伸長状態で、ジョイスティック13の中立位置から後方への操作により、左右転舵輪WHfl,WHfrにはその操作量に応じた機械式制動力が付与されるとともに、左右駆動輪WHrl,WHrrには電動モータ32a,32bによる回生制動による制動力が付与されるので、この乗り物に対する充分な制動力が付与される。したがって、この伸長状態にある乗り物においては、一般道路などもある程度高い速度で走行して長距離運転も可能となる。
【0060】
また、左右転舵輪WHfl,WHfrと左右駆動輪WHrl,WHrrとの距離が短い収縮状態では、ジョイスティック13の前後方向の操作により左右駆動輪WHrl,WHrrは前進及び後退制御され、ジョイスティック13の左右方向の操作により、その場旋回をも含めて小回り性能が可能となる。また、ジョイスティック13の前後の操作量に応じて左右駆動輪WHrl,WHrrの回転速度が制御されるとともに、減速時には電動モータ32a,32bの回生制動のみにより、この乗り物に対する制動力が付与されて、この乗り物の急激な減速を回避できて、乗り物の重心位置が高くなって乗員が前方に倒れ易くなるが、このような事態を未然に防止できる。したがって、この状態の乗り物を車椅子のように使用した場合、高い安全性が確保されて歩道、建物内でも安全に自在に走行できるようになる。
【0061】
このように、この乗り物は伸長状態と収縮状態とで態様を代えて運転操作可能であるので、通常の車両と車椅子などの特殊な乗り物とを1台で兼用できるようになり、便利である。
【0062】
また、上記実施形態による乗り物によれば、伸長状態に切換えられているときには、収縮状態に切換えられているときに比べて、車体BDおよびシート11の路面に対する傾斜角が小さくなる。したがって、伸長状態に設定されている場合には、乗り物および乗員の重心が低くなるので、乗り物を安定して走行させることができるようになる。しかも、伸長状態では車体BDおよびシート11の傾斜角を小さくしたことにより、制動時に乗員が前傾して、ジョイスティック13の前方操作によって乗り物を加速制御操作してしまうことを未然に防止できて、この乗り物の異常な挙動を未然に回避できる。また、収縮状態では、乗員の上半身は起こされるので、この乗り物を車椅子のように使用することにより運転操作性が良好になる。
【0063】
次に、上記実施形態の第1および第2変形例について説明する。第1変形例は、図5に破線で示すように、車体BDに組み付けられた車体BDの路面に対する傾斜角を検出する傾斜角センサ81を備えている。この傾斜角センサ81はコントローラ50に接続されている。コントローラ50は、上記実施形態における図6のプログラムに代えて、図17のプログラムを実行する。他の構成については、上記実施形態と同一であるので、その説明を省略する。
【0064】
この第1変形例に係る図17のプログラムにおいては、上記実施形態の図6のプログラムのステップS20とステップS22との間にステップS90の判定処理が付加されている。ステップS90の処理は、傾斜角センサ81からの傾斜角を入力して、乗り物が収縮制御状態にあるとき車体BDの傾斜角が正常であるか否かを判定する。ステップS20の収縮状態制御によって車体BDの路面に対する傾斜角が正常に制御されていれば、すなわち車体が起立状態に設定されていれば、ステップS90における「Yes」との判定のもとにステップS22の収縮状態制御ルーチンが実行される。しかし、車体BDの路面に対する傾斜角が正常でなければ、ステップS90にて「No」と判定されて、ステップS16に進められる。したがって、この場合には、この乗り物が収縮状態に設定されることなく、常に伸長状態に設定される。
【0065】
この第1変形例によれば、左右転舵輪WHfl,WHfrと左右駆動輪WHrl,WHrrとの距離が短いこの乗り物の収縮状態による車体BDの異常傾斜を回避でき、乗員の不安定状態を回避できるとともに、走行安定性を優先させることができる。
【0066】
また、この第1変形例においては、傾斜角センサ81が車体BDの路面に対する傾斜角を検出するのに代えて、傾斜角センサ81はシート11の路面に対する傾斜角を検出するようにしてもよい。これによっても、この乗り物の収縮状態による車体BDの異常傾斜を回避でき、乗員の不安定状態を回避できるとともに、走行安定性を優先させることができる。特に、この場合、シート11を車体BDに対して傾斜可能にした場合であっても対応できる。さらに、この傾斜角センサ81に代えて、角度センサ61の検出出力を用いるようにしてもよい。
【0067】
第2変形例は、図5に破線で示すように、操作パネル12に設けた自動切換えスイッチ82およびナビゲーション装置83を備えている。自動切換えスイッチ82は、この乗り物の伸長状態と収縮状態とを自動的に切換えるか、乗員の選択によるかを切換え指示するものである。ナビゲーション装置83は、自車位置を検出するとともに目的地に案内することが可能な周知のナビゲーション装置であり、少なくともこの乗り物が車道上にあるのか否かを検出できる機能を有している。これらの自動切換えスイッチ82およびナビゲーション装置83はコントローラ50に接続されている。コントローラ50は、上記実施形態のおける図6のプログラムに代えて、図18のプログラムを実行する。他の構成については、上記実施形態と同一であるので、その説明を省略する。
【0068】
この第2変形例に係る図18のプログラムにおいては、上記実施形態の図6のプログラムのステップS12の次にステップS92,S94の処理が追加されている。ステップS92の処理は、自動切換えスイッチ82が伸長状態と収縮状態との自動切換え状態にあるかを判定するものである。自動切換えスイッチ82によって自動切換え状態が選択されていないとき、ステップS92にて「No」と判定して、上記実施形態と同様なステップS14以降の処理を実行する。これにより、この場合には、この第2変形例に係る乗り物は上記実施形態と同じように動作する。
【0069】
一方、自動切換えスイッチ82によって自動切換え状態が選択されているとき、ステップS92にて「Yes」と判定して、ステップS94にてナビゲーション装置83からの信号を入力し、この乗り物が車道上にあるかを判定する。この乗り物が車道上にあれば、ステップS94における「Yes」との判定のもとに、ステップS16にてこの乗り物を伸長状態に設定して、ステップS18の伸長状態制御ルーチンを実行する。この乗り物が車道上になければ、ステップS94における「No」との判定のもとに、ステップS20にてこの乗り物を収縮状態に設定して、ステップS22の収縮状態制御ルーチンを実行する。したがって、第2変形例によれば、乗り物が位置する環境に応じて、この乗り物が伸長状態または収縮状態に自動的に設定され、乗員は、多くの操作を行なうことなく、環境に適合した運転操作を行なうことができる。
【0070】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態及びその変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0071】
例えば、上記実施形態では、運転操作部材としてジョイスティック13を利用するようにしたが、ジョイスティック13以外の運転操作部材を用いてもよい。例えば、一般車両のような、ホイールハンドル、操作ペダルを用いてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、目標転舵角、目標駆動トルク、目標制動トルク、目標回転数および補正値を計算するために、コントローラ50内に予め設けたテーブルを利用するようにした。しかし、これに代えて、前記目標転舵角、目標駆動トルク、目標制動トルク、目標回転数および補正値のうちのいずれか一つ若しくは複数を、コントローラ50に予め記憶しておいた関数を規定する関数データを利用して計算するようにしてもよい。なお、テーブルを利用する場合には、目標転舵角、目標駆動トルク、目標制動トルク、目標回転数および補正値を補間演算を用いて計算することが一般的であるが、各テーブル上のポイントをある程度細かくしておけば、補間演算を利用しなくても、違和感なく制御可能である。
【0073】
また、上記実施形態においては、電動モータ32a,32bを左右駆動輪WHrl,WHrrに直結するようにした。しかし、電動モータ32a,32bと左右駆動輪WHrl,WHrrとの間に電磁クラッチを設け、かつ左右駆動輪WHrl,WHrrに機械的制動力を付与するパーキングブレーキを設けておき、乗り物の駐車時には電磁クラッチにより左右駆動輪WHrl,WHrrを電動モータ32a,32bから切り離すとともに、パーキングブレーキ力を付与できるようにしておいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る乗り物の伸長状態を示す概略側面図である。
【図2】図2は同乗り物の収縮状態を示す概略側面図である。
【図3】図3は同乗り物の伸長状態を示す概略斜視図である。
【図4】(A)は転舵装置の拡大側面図であり、(B)は(A)のケーシング内の平面図である。
【図5】前記乗り物の電気制御装置のブロック図である。
【図6】図5のコントローラにより実行されるプログラムのフローチャートである。
【図7】図6の伸長状態制御ルーチンの詳細を示すフローチャートである。
【図8】図6の収縮状態制御ルーチンの詳細を示すフローチャートである。
【図9】伸長状態におけるジョイスティックの左右操作位置に対する目標転舵角の変化特性を示すグラフである。
【図10】伸長状態におけるジョイスティックの前方操作位置に対する目標駆動トルクの変化特性を示すグラフである。
【図11】伸長状態におけるジョイスティックの後方操作位置に対する目標制動トルクの変化特性を示すグラフである。
【図12】収縮状態におけるジョイスティックの左右操作位置に対する目標転舵角の変化特性を示すグラフである。
【図13】収縮状態におけるジョイスティックの前後操作位置に対する目標回転数の変化特性を示すグラフである。
【図14】収縮状態におけるジョイスティックの左右操作位置に対する目標回転数の補正値の変化特性を示すグラフである。
【図15】(A)(B)は伸長状態にある乗り物の作動を説明するための説明図である。
【図16】(A)〜(C)は収縮状態にある乗り物の作動を説明するための説明図である。
【図17】上記実施形態の第1変形例に係る乗り物のコントローラによって実行されるプログラムのフローチャートである。
【図18】上記実施形態の第2変形例に係る乗り物のコントローラによって実行されるプログラムのフローチャートである。
【符号の説明】
【0075】
11…シート、13…ジョイスティック、14…伸縮スイッチ、15…リバーススイッチ、20a,20b…転舵装置、22a,22b…電動モータ、32a,32b…電動モータ、41…スクリューロッド、42…電動モータ、50…コントローラ、51…前後位置センサ、52…左右位置センサ、53…伸縮モータ用駆動回路、54a,54b…ブレーキ用駆動回路、55a,55b…転舵モータ用駆動回路、56a,56b 駆動モータ用駆動回路、70a,70b…電磁ブレーキ装置、81…傾斜角センサ、83…ナビゲーション装置、WHfl,WHfr…左右転舵輪、WHfr,WHrr…左右駆動輪
【技術分野】
【0001】
本発明は、車椅子のように旋回自在で低速走行するとともに、ある程度の高い走行速度で長距離運転可能な乗り物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、独立に転舵可能な左右一対の転舵輪および独立に駆動可能な左右一対の駆動輪を備え、ジョイスティックなどの操作部材の操作により、その場旋回など旋回自在で低速走行する車椅子、フォークリフトなどの乗り物は知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。また、前輪と後輪との距離すなわちホイールベースを可変として、車体重心を移動させることが可能なフォークリフトも知られている(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平9−294779号公報
【特許文献2】特開平5−116643号公報
【特許文献3】特開2002−362889号公報
【特許文献4】特開2001−48497号公報
【0003】
しかし、上記前者の従来装置にあっては、転舵輪と駆動輪との距離(ホイールベース)は非常に短く、ある程度高い速度で安定して走行することができない。また、上記後者の従来装置にあっても、重心位置を変更するためにホイールベースを可変とするもので、ある程度高い速度で安定させて走行させることを意図したものではない。
【発明の開示】
【0004】
本発明の目的は、車椅子のように旋回自在で歩道、建物内などの場所で低速走行可能であると同時に、一般道路などもある程度高い速度で走行して長距離運転を可能とする乗り物を提供しようとするものである。
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、左右一対の転舵輪をそれぞれ独立に転舵する一対の転舵手段と、左右一対の駆動輪をそれぞれ独立に駆動する一対の駆動手段と、車両を運転するための運転操作部材と、運転操作部材の操作状態に応じて一対の転舵手段および一対の駆動手段を制御して一対の転舵輪を転舵するとともに一対の駆動輪を駆動する運転制御手段とを備えた乗り物において、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離を変更可能な伸縮機構を設け、運転制御手段が、伸縮機構による距離の変更に連動して、運転操作部材の操作状態に応じた一対の転舵輪の転舵態様および一対の駆動輪の駆動態様を変更するようにしたことにある。この場合、例えば、運転操作部材として2次元変位可能なジョイスティックを採用でき、運転制御手段は、ジョイスティックの第1方向への変位に応じて一対の駆動輪の駆動を制御するとともに、同ジョイスティックの第1方向とは異なる第2方向への変位に応じて一対の転舵輪の転舵を制御するとよい。
【0006】
また、運転制御手段が、例えば、伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているときには、同距離が長い状態に切換えられているときに比べて、操作部材の操作に応じた一対の転舵輪の転舵角を大きな値まで許容する転舵制御手段を有するようにするとよい。そして、この転舵制御手段は、伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき、操作部材の操作に応じた一対の転舵輪の転舵角が大きくなるに従って一対の転舵輪の転舵角差を大きくするとよい。
【0007】
また、運転制御手段が、伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき一対の駆動輪を共に同一方向に駆動し、伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき一対の駆動輪を共に同一方向および互いに反対方向に駆動することが可能な駆動制御手段を有するとよい。また、運転制御手段は、伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき、操作部材の操作に応じた一対の転舵輪の転舵角が大きくなるに従って一対の駆動輪の回転数差を大きくする駆動制御手段を有するとよい。そして、これらの駆動制御手段は、伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき、一対の転舵輪が小さく転舵されている状態では一対の駆動輪を同一方向に駆動し、かつ一対の転舵輪が大きく転舵されている状態では一対の駆動輪を互いに反対方向に駆動するようにするとよい。
【0008】
上記のように構成した本発明の特徴によれば、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態と長い状態とでは、運転制御手段により、運転操作部材の操作状態に応じた一対の転舵輪の転舵態様および一対の駆動輪の駆動態様が変更される。したがって、本発明による乗り物においては、走行安定性と小回り性能とを両立でき、車椅子のように旋回自在で歩道、建物内などの場所で低速走行可能であると同時に、一般道路などもある程度高い速度で走行して長距離運転も可能となり、通常の車両と車椅子などの特殊な乗り物とを1台で兼用できるようになる。具体的には、前述のように、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が長い状態で、一対の転舵輪の最大転舵角を小さくすることにより走行安定性が確保される。逆に、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態で、一対の転舵輪の最大転舵角を大きくすることにより、乗り物の小回り性能を向上させることができる。特に、一対の転舵輪の転舵角が大きくなるに従って、同一対の転舵輪の転舵角差を大きくしたり、一対の駆動輪の回転数差を大きくしたり、同一対の駆動輪を互いに反対方向に駆動すれば、旋回半径を極めて小さくでき、その場旋回も可能になる。
【0009】
また、本発明の他の特徴は、運転制御手段が、伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき一対の駆動輪をトルク制御し、伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき一対の駆動輪を速度制御する駆動方式制御手段を有するようにしたことにある。
【0010】
これによれば、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が長い状態に設定されている場合には、一対の駆動輪はトルク制御されるので、この状態で通常の車両のように一般道を走行すれば、通常車両と同様な運転が可能になる。また、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に設定されている場合には、一対の駆動輪は速度制御されるので、車椅子のように、乗員は低速でその速度を簡単にコントロールできる。したがって、伸縮機構による切換え状態に適した特性で、この乗り物が運転されるようになり、乗員が簡単にこの発明に係る乗り物を運転操作できるようになる。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、一対の転舵輪に対して機械式制動装置を設けるとともに、一対の駆動手段を電動モータで構成し、運転制御手段が、伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき、運転操作部材の操作に応じて機械式制動装置を作動させるとともに電動モータによる回生制動によって一対の駆動輪に対して制動力を作用させ、かつ伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき、機械式制動装置を作動させることなく、運転操作部材の操作に応じて電動モータによる回生制動によって一対の駆動輪に対して制動力を作用させる制動制御手段を有することにある。
【0012】
これによれば、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が長い状態に設定されている場合には、一対の転舵輪に対する機械式制動装置および一対の駆動輪に対する回生制動の両者により、この乗り物に対する充分な制動力が付与されるので、この状態で通常の車両のように一般道を走行しても安全性が高く保たれる。また、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に設定されている場合には、一対の駆動輪に対する回生制動のみにより、この乗り物に対する制動力が付与されるので、この乗り物の急激な減速を回避できて高い安全性が保たれる。特に、この状態の乗り物を車椅子のように使用した場合、乗り物の重心位置が高くなり、乗り物の制動時に乗員が前方に倒れ易くなるが、このような事態を未然に防止できる。
【0013】
また、本発明の他の特徴は、運転制御手段が、伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき、ジョイスティックの中立位置から前方への変位に応じて一対の駆動輪の回転を加速させるとともにジョイスティックの中立位置から後方への変位に応じて一対の駆動輪の回転を制動させ、かつ伸縮機構により一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき、ジョイスティックの中立位置から前方への変位に応じて一対の駆動輪を前進回転させるとともにジョイスティックの中立位置から後方への変位に応じて一対の駆動輪を後退回転させる駆動方向制御手段を有するようにしたことにある。
【0014】
これによれば、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が長い状態に設定されている場合には、ジョイスティックの前後操作でこの乗り物の加速および減速が制御されるので、この状態で通常の車両のように一般道を走行すれば、通常車両と同様な運転が可能になる。また、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に設定されている場合には、ジョイスティックの前後操作で前方および後方移動が制御されるので、乗員はこの乗り物を簡単に運転操作できる。したがって、伸縮機構による切換え状態に適した特性で、この乗り物が運転されるようになり、乗員が簡単にこの発明に係る乗り物を運転操作できるようになる。
【0015】
また、本発明の他の特徴は、伸縮機構が、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき、同距離が短い状態に切換えられているときに比べて、乗員の着座するシートの路面に対する傾斜角を小さくするようにしたことにある。また、伸縮機構が、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき、同距離が短い状態に切換えられているときに比べて、車体の路面に対する傾斜角を小さくするようにしてもよい。
【0016】
これらによれば、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が長い状態に設定されている場合には、乗り物および乗員の重心が低くなるので、乗り物を安定して走行させることができるようになる。また、ジョイスティックの前方操作をこの乗り物の前方への加速制御とすれば、制動時に乗員が前傾することにより加速制御操作してしまうことを未然に防止できて、この乗り物の異常な挙動を未然に回避できる。また、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態に設定されている場合には、この乗り物を車椅子のように使用すれば、乗員の上半身は起こされるので、運転操作性が良好になる。
【0017】
また、これらのシートまたは車体の傾斜が変更される乗り物において、シートまたは車体の路面に対する傾斜角を検出する傾斜角センサと、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態になるように指示されているとき、傾斜角センサによって検出された傾斜角が異常であることを条件に、伸縮機構を制御して一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が長い状態になるように強制的に制御する強制制御手段とを設けたことにある。
【0018】
これによれば、一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離が短い状態になるように指示されているときにおけるシート又は車体の異常傾斜を回避でき、乗員の不安定状態を回避できる。
【0019】
さらに、本発明の他の特徴は、乗り物が車道上にあるか否かを検出する車道検出手段と、車道検出手段により乗り物が車道上にあることが検出されたとき伸縮機構を制御して一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離を長い状態に設定し、かつ車道検出手段により乗り物が車道上にあることが検出されないとき伸縮機構を制御して一対の転舵輪と一対の駆動輪との距離を短い状態に設定する自動伸縮制御手段とを設けたことにある。
【0020】
これによれば、乗り物が位置する環境に応じて、一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が長い状態または短い状態に自動的に設定され、乗員は、多くの操作を行なうことなく、環境に適合した運転操作を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る乗り物について図面を用いて説明する。図1は同実施形態に係る乗り物の伸長状態を示す概略側面図であり、図2は同乗り物の収縮状態を示す概略側面図であり、図3は同乗り物の伸長状態を示す概略斜視図である。
【0022】
この乗り物は、箱状の車体BDを有し、その前側部分には車両の前輪に相当する左右一対の転舵輪WHfl,WHfrが組みつけられているとともに、その後側部分には車両の後輪に相当する左右一対の駆動輪WHrl,WHrrが組み付けられている。車体BD内には、乗員が着座するシート11が組み付けられている。シート11は、車体BDに固定された着座部11aと、着座部11aの上側にて同着座部11aに対して若干の回動を許容された比較的長いヘッドレスト部11bとからなる。また、この車体BDには操作パネル12が設けられて、同操作パネルには乗員によって操作されるジョイスティック13、伸縮スイッチ14およびリバーススイッチ15が設けられている。
【0023】
ジョイスティック13は、2次元変位可能な操作子で、中立位置から前後方向の変位に応じて乗り物の駆動および制動を指示し、中立位置から左右方向の変位に応じて乗り物の転舵を指示する。伸縮スイッチ14は、この乗り物を図1の伸長状態および図2の収縮状態のいずれかに切換えるための選択スイッチである。リバーススイッチ15は、伸縮スイッチ14によって伸長状態が選択されている状態で、乗り物の進行方向を前進から後退に切換えるための切換えスイッチである。
【0024】
転舵輪WHfl,WHfrは、転舵装置20a,20bによりそれぞれ独立に転舵されるようになっている。転舵装置20a,20bは、図4に示すように、車体BDの両側に組み付けたケーシング21a,21b内に収容された電動モータ22a,22b、ウォーム23a,23bおよびホイール24a,24bをそれぞれ備えているとともに、ケーシング21a,21bの下方にて回転プレート25a,25bを備えている。電動モータ22a,22bは減速器を内蔵しており、その減速器を介した電動モータ22a,22bの出力軸26a,26bの先端部にウォーム23a,23bが同出力軸26a,26bと一体回転するように組み付けられている。ウォーム23a.23bはホイール24a,24bの外周ギヤに噛み合っている。ホイール24a,24bの回転軸27a,27bは、ケーシング21a,21bの下面から下方に突出して回転プレート25a,25bに一体回転するように接続されている。
【0025】
回転プレート25a,25bの下面には、断面コ字状の支持プレート28a,28bが固着されている。支持プレート28a,28bは、下方に伸びた両腕部の下部にて、転舵輪WHfl,WHfrの回転軸29a,29bを介して、転舵輪WHfl,WHfrをそれらの軸線回りに回転可能に支持するとともに、転舵輪WHfl,WHfrをそれらの垂直軸回りに一体回転するように支持している。これにより、電動モータ22a,22bの回転により、転舵輪WHfl,WHfrが乗り物の進行方向に対して左右にそれぞれ独立に転舵されるようになっている。なお、ケーシング21a,21bは、後述するように車体BDの路面に対する傾斜角が変化しても、回転プレート25a,25bが路面に対して常に水平すなわち回転軸27a,27bが路面に対して常に垂直になるように、図示しない連結機構により車体BDに連結されている。逆に言えば、車輪側部材であるケーシング21a,21b側に車体BDが回転可能に組み付けられている。また、転舵輪WHfl,WHfrには、詳しくは後述するように、機械式制動装置が組み付けられている。
【0026】
駆動輪WHrl,WHrrは、方形状のフレーム31の左右両側に固定された電動モータ32a,32bの回転軸に一体回転可能に組み付けられている。電動モータ32a,32bは減速器を内蔵しており、それらの回転により駆動輪WHrl,WHrrをそれぞれ独立に駆動する。
【0027】
フレーム31は、それぞれ左右一対の第1リンク33a,33b、第2リンク34a,34b、第3リンク35a,35bおよび第4リンク36a,36bからなるリンク機構を介して揺動可能に車体BDに支持されている。第1リンク33a,33bは、一端にて車体BDに回転可能にそれぞれ接続され、他端にてフレーム31の後端部に回転可能にそれぞれ接続されている。第2リンク34a,34bは、一端にて車体BDに回転可能にそれぞれ接続され、他端にてフレーム31の前端部に回転可能にそれぞれ接続されている。第3リンク35a,35bは、一端にて車体BDに回転可能にそれぞれ接続され、他端にて連結シャフト37の両端に回転可能にそれぞれ接続されている。第4リンク36a,36bは、一端にて連結シャフト37の両端に回転可能にそれぞれ接続され、他端にて第2リンク34a,34bの中間位置に回転可能にそれぞれ接続されている。
【0028】
連結シャフト37の中央位置には雌ねじ穴が形成されており、同雌ねじ孔にはスクリューロッド41が螺合して貫通している。スクリューロッド41の基端は、減速器を内蔵した電動モータ42により軸線回りに回転駆動されるようになっている。電動モータ42は、ブラケット43を介して車体BDに回転可能に支持されている。スクリューロッド41は、連結シャフト37の中央位置に設けた雌ねじ穴との協働によりねじ機構を構成するもので、電動モータ42の回転により、連結シャフト37が車体BDの前後方向に移動する。そして、リンク機構により、駆動輪WHrl,WHrrと転舵輪WHfl,WHfrとの距離が変更される。すなわち、連結シャフト37が車体BDの後方に移動すると、駆動輪WHrl,WHrrと転舵輪WHfl,WHfrとの距離が大きくなり、これに伴い車体BDはシート11と共に水平側に倒される(図1参照)。すなわち、車体BDの前後軸線の路面に対する傾斜角が小さくなる。逆に、連結シャフト37が車体BDの前方に移動すると、駆動輪WHrl,WHrrと転舵輪WHfl,WHfrとの距離が小さくなり、これに伴い車体BDはシート11と共に垂直側に立ち上がる(図2参照)。すなわち、車体BDの前後軸線の路面に対する傾斜角が大きくなる。
【0029】
次に、この乗り物の電気制御装置について説明する。電気制御装置は、図5に示すように、コントローラ50を備えている。コントローラ50は、CPU,ROM,RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするもので、図6〜8のプログラムを実行してこの乗り物の作動を制御する。このコントローラ50には、伸縮スイッチ14およびリバーススイッチ15に加えて、前後位置センサ51および左右位置センサ52が接続されているとともに、各種駆動回路53,54a,54b,55a,55b,56a,56bも接続されている。これらのコントローラ50および駆動回路53,54a,54b,55a,55b,56a,56bにはバッテリ57が接続されている。
【0030】
前後位置センサ51は、ジョイスティック13の前後方向の変位位置を検出するものである。この前後位置センサ51は、ジョイスティック13の中立位置から前方向の変位を0〜+100で表し、ジョイスティック13の中立位置から後方向の変位を0〜−100で表す信号を出力する。左右位置センサ52は、ジョイスティック13の左右方向の変位位置を検出するものである。この左右位置センサ52は、ジョイスティック13の中立位置から右方向の変位を0〜+100で表し、ジョイスティック13の中立位置から左方向の変位を0〜−100で表す信号を出力する。
【0031】
伸縮モータ用駆動回路53は、伸縮用の電動モータ42を駆動制御する。この伸縮モータ用駆動回路53には、車体BDに対するリンク33a,33bの角度を検出する角度センサ61が接続されている。そして、伸縮モータ用駆動回路53は、コントローラ50の指示により、角度センサ61との協働により電動モータ42を回転させて、車体BDを伸長状態(図1参照)または収縮状態(図2参照)に切換える。角度センサ61は、車体BDおよびシート11の路面に対する傾斜角を検出するもので、リンク33a,33bに代えて、他のリンク34a,34bまたは35a,35bの回転角を検出するものでもよい。
【0032】
ブレーキ用駆動回路54a,54bは、機械式制動装置である電磁ブレーキ装置70a,70bを駆動制御する。電磁ブレーキ装置70a,70bは、ディスク71a,71b、ブレーキパッド72a,72bおよび電磁ソレノイド73a,73bからなる。ディスク71a,71bは、左右転舵輪WHfl,WHfrと一体回転するように左右転舵輪WHfl,WHfrの回転軸に固定されている。ブレーキパッド72a,72bは、ディスク71a,71bに押し付けられてディスク71a,71bとの摩擦力により左右転舵輪WHfl,WHfrに機械的な制動力を付与する。電磁ソレノイド73a,73bは、ブレーキ用駆動回路54a,54bによる通電によってブレーキパッド72a,72bを駆動する。ブレーキ用駆動回路54a,54bには、電磁ソレノイド73a,73bに流れる電流をそれぞれ独立に検出する電流センサ62a,62bも接続されている。そして、ブレーキ用駆動回路54a,54bは、電流センサ62a,62bとの協働により、コントローラ50によって指示された大きさの電流を電磁ソレノイド73a,73bに流すことにより、同電流の大きさに応じた制動力を左右転舵輪WHfl,WHfrに付与する。なお、電磁ソレノイド73a,73bに代えて電動モータを用い、または電磁ブレーキ装置70a,70bをディスク式ではなく、ドラム式にしてもよい。また、電流センサ62a,62bに代えて、左右転舵輪WHfl,WHfrに対する制動トルクを検出するトルクセンサ、またはブレーキパッド72a,72bからディスク71a,71bに付与される制動圧力を検出する圧力センサを用いてもよい。
【0033】
転舵モータ用駆動回路55a,55bは、転舵用の電動モータ22a,22bを駆動制御する。この転舵モータ用駆動回路55a,55bには、左右転舵輪WHfl,WHfrの転舵角をそれぞれ独立に検出する転舵角センサ63a,63bがそれぞれ接続されている。そして、転舵モータ用駆動回路55a,55bは、コントローラ50の指示により、転舵角センサ63a,63bとの協働により電動モータ22a,22bを回転させて、左右転舵輪WHfl,WHfrを任意の角度に転舵する。
【0034】
駆動モータ用駆動回路56a,56bは、駆動用の電動モータ32a,32bを駆動制御する。この駆動モータ用駆動回路56a,56bには、電動モータ32a,32bに流れる電流をそれぞれ独立に検出する電流センサ64a,64bがそれぞれ接続されているとともに、左右駆動輪WHrl,WHrrの回転速度をそれぞれ独立に検出する回転速度センサ65a,65bがそれぞれ接続されている。そして、駆動モータ用駆動回路56a,56bは、コントローラ50の指示により、電流センサ64a,64bとの協働により電動モータ32a,32bをトルク駆動制御して左右駆動輪WHrl,WHrrを駆動し、または回転速度センサ65a,65bとの協働により電動モータ32a,32bを回転速度制御して左右駆動輪WHrl,WHrrを駆動する。また、駆動モータ用駆動回路56a,56bは、コントローラ50の指示により電動モータ32a,32bを回生制動制御して、左右駆動輪WHrl,WHrrに対して回生制動力を付与する。また、電流センサ64a,64bに代えて、左右駆動輪WHrl,WHrrに対する駆動トルクおよび制動トルクを検出するトルクセンサを用いてもよい。
【0035】
次に、上記のように構成した実施形態に係る乗り物の動作について説明する。この乗り物においては、図示しない電源スイッチの投入により、コントローラ50が図6のプログラムを所定の短時間ごとに繰り返し実行し始める。このプログラムの実行はステップS10にて開始され、コントローラ50はステップS12にて前後位置センサ51および左右位置センサ52からの検出信号を入力するとともに、伸縮スイッチ14およびリバーススイッチ15からの信号を入力する。
【0036】
次に、ステップS14にて、伸縮スイッチ14が伸長側にあるか否かを判定する。いま、伸縮スイッチ14が伸長側に切換えられれば、ステップS14に「Yes」と判定し、ステップS16にて伸縮モータ用駆動回路53に伸長側に切換えるための指示を出力する。これにより、伸縮モータ用駆動回路53は、角度センサ61からの車体BDおよびシート11の路面に対する傾斜角がこの乗り物の伸長状態(図1参照)に対応する角度になるまで、電動モータ42を回転制御する。この電動モータ42の回転はスクリューロッド41に伝達され、スクリューロッド41が軸線回りに回転する。この回転により連結シャフト37が後方へ押され、リンク33a,33b,34a,34b,35a,35b,36a,36bからなるリンク機構により、左右駆動輪WHrl,WHrrは左右転舵輪WHfl,WHfrと反対側すなわち後方へ移動する。その結果、乗り物が伸長状態に設定され、車体BDおよびシート11が倒されて路面に対する傾斜角が小さくなる。なお、以前から伸縮スイッチ14が伸長側にあれば、ステップS16にて実質的な処理を実行することなく、ステップS18の伸長状態制御ルーチンを実行して、ステップS24にてこのプログラムの実行を終了する。
【0037】
一方、伸縮スイッチ14が収縮側に切換えられれば、ステップS14に「No」と判定し、ステップS20にて伸縮モータ用駆動回路53に収縮側に切換えるための指示を出力する。これにより、伸縮モータ用駆動回路53は、角度センサ61からの車体BDおよびシート11の路面に対する傾斜角がこの乗り物の収縮状態(図2参照)に対応する角度になるまで、電動モータ42を回転制御する。この電動モータ42の回転方向は前記場合と逆である。この場合も、電動モータ42によりスクリューロッド41が軸線回りに回転し、連結シャフト37は前方へ引かれ、リンク33a,33b,34a,34b,35a,35b,36a,36bからなるリンク機構により、左右駆動輪WHrl,WHrrは左右転舵輪WHfl,WHfr側すなわち前方へ移動する。その結果、乗り物が収縮状態に設定され、車体BDおよびシート11が起こされて路面に対する傾斜角が大きくなる。なお、以前から伸縮スイッチ14が収縮側にあれば、ステップS22にて実質的な処理を実行することなく、ステップS22の伸長状態制御ルーチンを実行して、ステップS24にてこのプログラムの実行を終了する。
【0038】
次に、伸長状態制御ルーチンの実行による乗り物の走行動作について説明する。この伸長状態制御ルーチンは、図7に示されているように、ステップS30にて開始され、ステップS32にて目標転舵角演算処理を実行する。この目標転舵角演算処理においては、コントローラ50内に設けられた第1転舵角テーブルを参照して、前記入力したジョイスティック13の左右位置を表す信号に応じた目標転舵角を計算する。第1転舵角テーブルは、図9に示すように、ジョイスティック13の中立位置から右方向への変位(すなわち、「0」から正の所定値への変位)に応じて中立位置から右方向(すなわち、「0」から正の所定値)に徐々に変化する目標転舵角を記憶しているとともに、ジョイスティック13の中立位置から左方向への変位(すなわち、「0」から負の所定値への変位)に応じて中立位置から左方向(すなわち、「0」から負の所定値)に徐々に変化する目標転舵角を記憶している。
【0039】
次に、ステップS34にて、転舵モータ用駆動回路55a,55bに前記計算した目標転舵角を出力する。転舵モータ用駆動回路55a,55bは、転舵角センサ63a,63bによって検出された転舵角が目標転舵角になるまで、電動モータ22a,22bを回転制御する。この電動モータ22a,22bの回転により、左右転舵輪WHfl,WHfrは目標転舵角に転舵される。なお、本実施形態では、左右転舵輪WHfl,WHfrの転舵角を同じにしたが、旋回内輪に相当する転舵輪の転舵角を旋回外輪に相当する転舵輪の転舵角よりも若干量だけ大きくするようにしてもよい。
【0040】
前記ステップS34の処理後、ステップS36にてリバーススイッチ15がオン状態(後退指示状態)にあるかを判定する。リバーススイッチ15がオン状態になければ、ステップS36にて「No」と判定して、ステップS38〜S48の処理を実行する。ステップS38においては、前記入力した前後位置センサ51からの信号によりジョイスティック13が中立位置よりも前方に変位されているかを判定する。ジョイスティック13が中立位置よりも前方に変位されていれば、ステップS38にて「Yes」と判定し、ステップS40にて目標駆動トルク演算処理を実行する。この目標駆動トルク演算処理においては、コントローラ50内に設けられた駆動トルクテーブルを参照して、前記入力したジョイスティック13の前方変位位置を表す信号に応じた目標駆動トルクを計算する。駆動トルクテーブルは、図10の実線で示すように、ジョイスティック13の中立位置から前方への変位(すなわち、「0」から正の所定値への変位)に応じて徐々に増加する目標駆動トルクを記憶している。
【0041】
次に、ステップS42にて、駆動モータ用駆動回路56a,56bに前記計算した目標駆動トルクを出力するとともに、電動モータ32a,32bの正転を指示する。そして、ステップS62にて、このプログラムの実行を一旦終了する。駆動モータ用駆動回路56a,56bは、電流センサ64a,64bにより検出されたモータ電流をフィードバックすることにより、電動モータ32a,32bが目標駆動トルクを発生するようにトルク制御して、電動モータ32a,32bを正転制御する。したがって、駆動輪WHrl,WHrrは目標駆動トルクで正転駆動され、この乗り物は同トルクで前進する。このとき、ジョイスティック13の左右方向の操作により転舵輪WHfl,WHfrが左右に転舵されていれば、乗り物は左右に旋回する。
【0042】
一方、ジョイスティック13が中立位置よりも後方に変位されていれば、ステップS38にて「No」と判定し、ステップS44にて目標制動トルク演算処理を実行する。この目標制動トルク演算処理においては、コントローラ50内に設けられた制動トルクテーブルを参照して、前記入力したジョイスティック13の後方への変位位置を表す信号に応じた目標制動トルクを計算する。制動トルクテーブルは、図11の実線で示すように、ジョイスティック13の中立位置から後方への変位(すなわち、「0」から負の所定値への変位)に応じて徐々に増加する目標制動トルクを記憶している。
【0043】
次に、ステップS46にてブレーキ用駆動回路54a,54bに前記計算した目標制動トルクを出力するとともに、制動制御するように指示する。次に、ステップS48にて駆動モータ用駆動回路56a,56bに駆動輪WHrl,WHrrを回生制動制御するように指示する。そして、ステップS62にて、このプログラムを一旦終了する。ブレーキ用駆動回路54a,54bは、電流センサ62a,62bにより検出された通電電流をフィードバックすることにより、電磁ソレノイド73a,73bに目標制動トルクに比例した電流を流す。これにより、電磁ブレーキ装置70a,70bは、転舵輪WHfl,WHfrを前記目標制動トルクで制動する。また、駆動モータ用駆動回路56a,56bは、前記回生制動の指示により、電動モータ32a,32bを回生制動制御する。その結果、転舵輪WHfl,WHfrの制動トルク制御および駆動輪WHrl,WHrrの回生制動制御により、この乗り物は、ジョイスティック13の中立位置から後方への変位により制動される。
【0044】
また、この乗り物が伸長状態設定されている状態で、リバーススイッチ15がオン状態に切換えられると、ステップS36にて「Yes」と判定されて、ステップS50〜S60の処理が実行される。ジョイスティック13が中立位置よりも前方に変位されていれば、ステップS50にて「Yes」と判定し、ステップS52にて、前記ステップS40の場合と同様に、コントローラ50内に設けられた駆動トルクテーブルを参照して、前記入力したジョイスティック13の前方変位位置を表す信号に応じた目標駆動トルクを計算する。ただし、駆動トルクテーブルは、図10の破線で示すように、前記実線の場合よりも若干小さく、ジョイスティック13の中立位置から前方への変位(すなわち、「0」から正の所定値への変位)に応じて徐々に増加する後方への目標駆動トルクを記憶している。
【0045】
次に、ステップS54にて、ステップS42の場合と同様に、駆動モータ用駆動回路56a,56bに前記計算した目標駆動トルクを出力するとともに、電動モータ32a,32bの逆転を指示する。そして、ステップS62にて、このプログラムの実行を一旦終了する。この場合も、駆動モータ用駆動回路56a,56bは、電流センサ64a,64bにより検出されたモータ電流をフィードバックすることにより、電動モータ32a,32bが目標駆動トルクを発生するようにトルク制御する。ただし、電動モータ32a,32bは逆転制御される。したがって、駆動輪WHrl,WHrrは目標駆動トルクで逆転駆動され、この乗り物は同トルクで後退する。このときも、ジョイスティック13の左右方向の操作により転舵輪WHfl,WHfrが左右に転舵されていれば、乗り物は左右に旋回する。
【0046】
また、ジョイスティック13が中立位置よりも後方に変位されていれば、ステップS50にて「No」と判定し、ステップS56にて、前記ステップS44の場合と同様に、コントローラ50内に設けられた制動トルクテーブルを参照して、前記入力したジョイスティック13の後方への変位位置を表す信号に応じた目標制動トルクを計算する。ただし、制動トルクテーブルに記憶されている目標制動トルクは、図11の破線で示すように、前進の場合に比べて若干小さい。
【0047】
次に、ステップS58にて、前記ステップS46の場合と同様に、ブレーキ用駆動回路54a,54bに前記計算した目標制動トルクを出力するとともに、制動制御するように指示する。また、ステップS60にて、前記ステップS48の場合と同様に、駆動輪WHrl,WHrrを回生制動制御するように駆動モータ用駆動回路56a,56bに指示する。そして、ステップS62にて、このプログラムを一旦終了する。この場合も、ブレーキ用駆動回路54a,54bは、電流センサ62a,62bにより検出された通電電流をフィードバックすることにより、電磁ソレノイド73a,73bに目標制動トルクに比例した電流を流し、転舵輪WHfl,WHfrを前記目標制動トルクで制動する。また、この場合も、駆動モータ用駆動回路56a,56bは、前記回生制動の指示により、電動モータ32a,32bを回生制動制御する。その結果、転舵輪WHfl,WHfrの制動トルク制御および駆動輪WHrl,WHrrの回生制動制御により、この乗り物は、ジョイスティック13の中立位置から後方への変位により制動される。
【0048】
このように、乗り物が伸長状態に設定されている場合には、ジョイスティック13の中立位置から前方への変位量に応じて加速制御されるとともに、ジョイスティック13の中立位置から後方への変位量に応じて制動制御される(図15(A)参照)。また、リバーススイッチ15の切換えにより、乗り物を前進させることができるとともに後退させることもできる。そして、ジョイスティック13の左右への変位により、転舵輪WHfl,WHfrが転舵されて乗り物の旋回が制御される(図15(B)参照)。このように転舵輪WHfl,WHfrと駆動輪WHrl,WHrrとの間の距離(ホイールベース)が長く設定されている場合には、走行安定性も確保されるので、ある程度高い速度で乗り物を走行させることができる。そして、ジョイスティック13で車両の加速及び減速が制御されるので、乗員はこの乗り物を通常の車両と同様な感覚で運転できるとともに、同乗り物は一般道路も走行できるので、長距離運転することも可能となる。
【0049】
次に、乗り物が収縮状態に切換えられている場合について説明する。この場合、図6の収縮状態制御ルーチンは、その詳細が図8に示されているように、ステップS70にてその実行が開始される。このステップS70の開始後、ステップS72にて、目標転舵角演算処理を実行する。この目標転舵角演算処理においては、コントローラ50内に設けられた第2転舵角テーブルを参照して、前記入力したジョイスティック13の左右位置を表す信号に応じた転舵角を計算する。第2転舵角テーブルも、図12に示すように、ジョイスティック13の中立位置から右方向への変位(すなわち、「0」から正の所定値への変位)に応じて中立位置から右方向(すなわち、「0」から正の所定値)に徐々に変化する目標転舵角を記憶しているとともに、ジョイスティック13の中立位置から左方向への変位(すなわち、「0」から負の所定値への変位)に応じて中立位置から左方向(すなわち、「0」から負の所定値)に徐々に変化する目標転舵角を記憶している。ただし、この場合には、ジョイスティック13の変位側の転舵輪(ジョイスティック13が右方向に変位する場合には右転舵輪WHfr、ジョイスティック13が左方向に変位する場合には左転舵輪WHfl)の目標転舵角の変化は、ジョイスティック13の変位側と反対側の転舵輪の変化よりも大きく、その差はジョイスティック13の中立位置からの変位量の増加に従って増加する。さらに、この収縮状態における目標転舵角の絶対値の最大値は、前述した伸長状態における目標転舵角の絶対値の最大値に比べて、はるかに大きい。なお、図12の乗り物と記載した転舵角の特性カーブは、乗り物全体の転舵角を示している。
【0050】
次に、ステップS74にて、転舵モータ用駆動回路55a,55bに前記計算した目標転舵角をそれそれ出力する。転舵モータ用駆動回路55a,55bは、転舵角センサ63a,63bによって検出された転舵角が目標転舵角になるまで、電動モータ22a,22bを回転制御する。この電動モータ22a,22bの回転により、左右転舵輪WHfl,WHfrは目標転舵角にそれぞれ転舵される。
【0051】
前記ステップS74の処理後、ステップS76にて目標回転数演算処理を実行する。この目標回転数演算処理においては、コントローラ50内に設けられた回転数テーブルを参照して、前記入力したジョイスティック13の前後方向の変位位置を表す信号に応じた目標回転数を計算する。回転数テーブルは、図13に示すように、ジョイスティック13の中立位置を中心とした前後方向の変位量の増加に応じて比例的に増加する目標回転数を記憶している。
【0052】
次に、ステップS78にて、目標回転数の補正演算処理を実行する。この補正演算においては、まず、コントローラ50内に設けられた補正値テーブルを参照して、前記入力したジョイスティック13の左右位置を表す信号に応じた補正値を計算する。補正値テーブルは、図14に示すように、ジョイスティック13が左右方向の中立位置にあるとき、左右駆動輪WHrf,WHrrの補正値として共に「1.0」が与えられる。そして、ジョイスティック13が中立位置から右方向へ変位されるに従って、ジョイスティック13の変位量が所定値に達するまで、左駆動輪WHrf用の補正値は同変位量に比例して所定値(例えば、「2.0」)まで増加し、ジョイスティック13の変位量が所定値を超えると同変位量の増加に従って所定値(例えば、「1.0」)まで減少し、その後所定値に維持される。また、ジョイスティック13が中立位置から左方向へ変位されるに従って、ジョイスティック13の変位量が所定値に達するまで、左駆動輪WHrf用の補正値は同変位量に比例して所定値(例えば、「0.0」)まで減少し、ジョイスティック13の変位量が所定値を超えると同変位量の増加に従って前記よりも大きな傾きで所定値(例えば、「−1.0」)まで減少し、その後所定値に維持される。右駆動輪WHrrの補正値は、左駆動輪WHrf用の補正値と左右対称に変化する。
【0053】
そして、同ステップS78においては、前記計算した補正値を前記ステップS76の処理により計算した左右駆動輪WHrl,WHrrの目標回転数にそれぞれ乗算して、左右駆動輪WHrl,WHrrの目標回転数を補正する。そして、ステップS80にて、駆動モータ用駆動回路56a,56bに前記補正した目標回転数を出力して、電動モータ32a,32bの回転制御を指示する。そして、ステップS82にて、このプログラムの実行を一旦終了する。駆動モータ用駆動回路56a,56bは、回転速度センサ65a,65bにより検出された左右駆動輪WHrl,WHrrの回転速度をフィードバックすることにより、電動モータ32a,32bが前記計算した目標回転数に対応した回転速度で正転または逆転するように制御する。この場合、電動モータ32a,32bの正転および逆転において、回転速度が減少する場合には、駆動モータ用駆動回路56a,56bは電動モータ32a,32bを回生制動制御して、左右駆動輪WHrl,WHrrは回生制動される。このような電動モータ32a,32bの回転制御により、左右駆動輪WHrl,WHrrは目標回転数に対応した回転速度で正転または逆転する。これにより、この乗り物はジョイスティック13の前後方向の操作により前進および後退する。このとき、ジョイスティック13の左右方向の操作により転舵輪WHfl,WHfrが左右に転舵されていれば、乗り物は左右に旋回する。
【0054】
この収縮状態にある場合における乗り物の動作を、図16を用いて詳しく説明する。ジョイスティック13の左右位置が中立位置にある状態で、ジョイスティック13が前後方向に操作されると、図16(A)に示すように、左右駆動輪WHrl,WHrrは同一回転数で回転する。そして、左右転舵輪WHfl,WHfrも転舵されないので、乗り物は直進する。この場合、ジョイスティック13が中立位置から前方に操作されていれば、前記ステップS78にて設定される目標回転数は図13に示すように正に設定されるので、乗り物は前進する。そして、その前進速度は、ジョイスティック13の前方への変位量が増加するに従って速くなる。また、ジョイスティック13が中立位置から後方に操作されていれば、前記ステップS78にて設定される目標回転数は図13に示すように負に設定されるので、乗り物は後退する。そして、その後退速度は、ジョイスティック13の後方への変位量が増加するに従って速くなる。
【0055】
また、ジョイスティック13が中立位置から左方に操作されると、前記ステップS72にて設定される目標転舵角は図12に示すように左右転舵輪WHfl,WHfrとも左方向であって、しかも左転舵輪WHflの目標転舵角は右転舵角WHfrの目標転舵角よりも大きい。そして、前記ステップS76の処理によって設定される左右駆動輪WHrl,WHrrの目標回転数は前述した直進の場合と同じであるが、この目標回転数は前記ステップS78にて補正される。この補正の結果、図14に示すように左駆動輪WHrlの目標回転数の絶対値が右駆動輪WHrrの目標回転数の絶対値に比べて小さくなる。その結果、乗り物は、前進状態にあれば左旋回し、後退状態にあれば右旋回(後方へ右旋回)する。そして、この場合、ジョイスティック13が中立位置から左方に位置するに従って、左右転舵輪WHfl,WHfrの転舵角差および左右駆動輪WHrl,WHrrの回転数差が大きくなるので、乗り物の旋回中心Xは、図16(B)に示すように、左右駆動輪WHrl,WHrrを結ぶ中心軸線上を乗り物側に近づき、乗り物は小回りすることが可能になる。なお、図16(B)の破線で示した転舵輪Yは、左右転舵輪WHfl,WHfrの転舵が乗り物に与える影響を一つの転舵輪で示すものである。
【0056】
さらに、ジョイスティック13が左方に操作されると、左転舵輪WHflの目標転舵角は90度を超える。左駆動輪WHrlの目標回転数の正負の符号が右駆動輪WHrrの目標回転数の正負の符号と反対になる。すなわち、乗り物が前進状態(ジョイスティック13が中立位置よりも前方)にあれば、左駆動輪WHrlの目標回転数は負(後方に対応)になるとともに、右駆動輪WHrrの目標回転数が正(前進に対応)になる。乗り物が後退状態(ジョイスティック13が中立位置よりも後方)にあれば、左駆動輪WHrlの目標回転数は正になるとともに、右駆動輪WHrrの目標回転数が負になる。したがって、図16(C)に示すように、左右転舵輪WHfl,WHfrは最大で「ハ」字状に転舵されるとともに、左右駆動輪WHrl,WHrrが逆方向に回転するので、乗り物の旋回中心Xは、最大で、図16(C)に示すように、左右駆動輪WHrl,WHrr間の中立位置となる。その結果、乗り物は、前進状態あれば左方向にその場旋回することが可能になるとともに、後退状態にあれば右方向にその場旋回することが可能になる。
【0057】
一方、ジョイスティック13が中立位置から右方に操作された場合には、目標転舵角は図12に示すように左右転舵輪WHfl,WHfrとも右方向であって、しかも右転舵角WHfrの目標転舵角は左転舵輪WHflの目標転舵角よりも大きくなる。そして、右駆動輪WHrrの目標回転数が左駆動輪WHrlの目標回転数に比べて小さくなる。その結果、乗り物は、前進状態にあれば右旋回し、後退状態にあれば左旋回する。そして、この場合も、ジョイスティック13が中立位置から右方に位置するに従って、左右転舵輪WHfl,WHfrの転舵角差および左右駆動輪WHrl,WHrrの回転数差が大きくなるので、乗り物の旋回中心Xは、左右駆動輪WHrl,WHrrを結ぶ中心軸線上を乗り物側に近づき、乗り物は小回りすることが可能になる。
【0058】
さらに、ジョイスティック13が右に操作されると、右転舵輪WHfrの目標転舵角は90度を超える。そして、この場合には、右駆動輪WHrrの目標回転数の正負の符号が左駆動輪WHrlの目標回転数の正負の符号と反対になる。すなわち、乗り物が前進状態にあれば、右駆動輪WHrrの目標回転数は負になるとともに、左駆動輪WHrlの目標回転数が正になる。乗り物が後退状態にあれば、右駆動輪WHrrの目標回転数は正になるとともに、左駆動輪WHrlの目標回転数が負になる。したがって、この場合も、左右転舵輪WHfl,WHfrは最大で「ハ」字状に転舵されるとともに、左右駆動輪WHrl,WHrrが逆方向に回転するので、乗り物の旋回中心Xは、最大で、左右駆動輪WHrl,WHrr間の中立位置となる。その結果、乗り物は、前進状態あれば右方向にその場旋回することが可能になるとともに、後退状態にあれば左方向にその場旋回することが可能になる。
【0059】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態による乗り物によれば、左右転舵輪WHfl,WHfrと左右駆動輪WHrl,WHrrとの距離が長い伸長状態では、ジョイスティック13の前後および左右への操作により、走行安定性をも含めて通常の車両と同等の運転性能が得られる。具体的には、ジョイスティック13の中立位置から前方への操作により、左右駆動輪WHrl,WHrrはトルク駆動制御される。また、この伸長状態で、ジョイスティック13の中立位置から後方への操作により、左右転舵輪WHfl,WHfrにはその操作量に応じた機械式制動力が付与されるとともに、左右駆動輪WHrl,WHrrには電動モータ32a,32bによる回生制動による制動力が付与されるので、この乗り物に対する充分な制動力が付与される。したがって、この伸長状態にある乗り物においては、一般道路などもある程度高い速度で走行して長距離運転も可能となる。
【0060】
また、左右転舵輪WHfl,WHfrと左右駆動輪WHrl,WHrrとの距離が短い収縮状態では、ジョイスティック13の前後方向の操作により左右駆動輪WHrl,WHrrは前進及び後退制御され、ジョイスティック13の左右方向の操作により、その場旋回をも含めて小回り性能が可能となる。また、ジョイスティック13の前後の操作量に応じて左右駆動輪WHrl,WHrrの回転速度が制御されるとともに、減速時には電動モータ32a,32bの回生制動のみにより、この乗り物に対する制動力が付与されて、この乗り物の急激な減速を回避できて、乗り物の重心位置が高くなって乗員が前方に倒れ易くなるが、このような事態を未然に防止できる。したがって、この状態の乗り物を車椅子のように使用した場合、高い安全性が確保されて歩道、建物内でも安全に自在に走行できるようになる。
【0061】
このように、この乗り物は伸長状態と収縮状態とで態様を代えて運転操作可能であるので、通常の車両と車椅子などの特殊な乗り物とを1台で兼用できるようになり、便利である。
【0062】
また、上記実施形態による乗り物によれば、伸長状態に切換えられているときには、収縮状態に切換えられているときに比べて、車体BDおよびシート11の路面に対する傾斜角が小さくなる。したがって、伸長状態に設定されている場合には、乗り物および乗員の重心が低くなるので、乗り物を安定して走行させることができるようになる。しかも、伸長状態では車体BDおよびシート11の傾斜角を小さくしたことにより、制動時に乗員が前傾して、ジョイスティック13の前方操作によって乗り物を加速制御操作してしまうことを未然に防止できて、この乗り物の異常な挙動を未然に回避できる。また、収縮状態では、乗員の上半身は起こされるので、この乗り物を車椅子のように使用することにより運転操作性が良好になる。
【0063】
次に、上記実施形態の第1および第2変形例について説明する。第1変形例は、図5に破線で示すように、車体BDに組み付けられた車体BDの路面に対する傾斜角を検出する傾斜角センサ81を備えている。この傾斜角センサ81はコントローラ50に接続されている。コントローラ50は、上記実施形態における図6のプログラムに代えて、図17のプログラムを実行する。他の構成については、上記実施形態と同一であるので、その説明を省略する。
【0064】
この第1変形例に係る図17のプログラムにおいては、上記実施形態の図6のプログラムのステップS20とステップS22との間にステップS90の判定処理が付加されている。ステップS90の処理は、傾斜角センサ81からの傾斜角を入力して、乗り物が収縮制御状態にあるとき車体BDの傾斜角が正常であるか否かを判定する。ステップS20の収縮状態制御によって車体BDの路面に対する傾斜角が正常に制御されていれば、すなわち車体が起立状態に設定されていれば、ステップS90における「Yes」との判定のもとにステップS22の収縮状態制御ルーチンが実行される。しかし、車体BDの路面に対する傾斜角が正常でなければ、ステップS90にて「No」と判定されて、ステップS16に進められる。したがって、この場合には、この乗り物が収縮状態に設定されることなく、常に伸長状態に設定される。
【0065】
この第1変形例によれば、左右転舵輪WHfl,WHfrと左右駆動輪WHrl,WHrrとの距離が短いこの乗り物の収縮状態による車体BDの異常傾斜を回避でき、乗員の不安定状態を回避できるとともに、走行安定性を優先させることができる。
【0066】
また、この第1変形例においては、傾斜角センサ81が車体BDの路面に対する傾斜角を検出するのに代えて、傾斜角センサ81はシート11の路面に対する傾斜角を検出するようにしてもよい。これによっても、この乗り物の収縮状態による車体BDの異常傾斜を回避でき、乗員の不安定状態を回避できるとともに、走行安定性を優先させることができる。特に、この場合、シート11を車体BDに対して傾斜可能にした場合であっても対応できる。さらに、この傾斜角センサ81に代えて、角度センサ61の検出出力を用いるようにしてもよい。
【0067】
第2変形例は、図5に破線で示すように、操作パネル12に設けた自動切換えスイッチ82およびナビゲーション装置83を備えている。自動切換えスイッチ82は、この乗り物の伸長状態と収縮状態とを自動的に切換えるか、乗員の選択によるかを切換え指示するものである。ナビゲーション装置83は、自車位置を検出するとともに目的地に案内することが可能な周知のナビゲーション装置であり、少なくともこの乗り物が車道上にあるのか否かを検出できる機能を有している。これらの自動切換えスイッチ82およびナビゲーション装置83はコントローラ50に接続されている。コントローラ50は、上記実施形態のおける図6のプログラムに代えて、図18のプログラムを実行する。他の構成については、上記実施形態と同一であるので、その説明を省略する。
【0068】
この第2変形例に係る図18のプログラムにおいては、上記実施形態の図6のプログラムのステップS12の次にステップS92,S94の処理が追加されている。ステップS92の処理は、自動切換えスイッチ82が伸長状態と収縮状態との自動切換え状態にあるかを判定するものである。自動切換えスイッチ82によって自動切換え状態が選択されていないとき、ステップS92にて「No」と判定して、上記実施形態と同様なステップS14以降の処理を実行する。これにより、この場合には、この第2変形例に係る乗り物は上記実施形態と同じように動作する。
【0069】
一方、自動切換えスイッチ82によって自動切換え状態が選択されているとき、ステップS92にて「Yes」と判定して、ステップS94にてナビゲーション装置83からの信号を入力し、この乗り物が車道上にあるかを判定する。この乗り物が車道上にあれば、ステップS94における「Yes」との判定のもとに、ステップS16にてこの乗り物を伸長状態に設定して、ステップS18の伸長状態制御ルーチンを実行する。この乗り物が車道上になければ、ステップS94における「No」との判定のもとに、ステップS20にてこの乗り物を収縮状態に設定して、ステップS22の収縮状態制御ルーチンを実行する。したがって、第2変形例によれば、乗り物が位置する環境に応じて、この乗り物が伸長状態または収縮状態に自動的に設定され、乗員は、多くの操作を行なうことなく、環境に適合した運転操作を行なうことができる。
【0070】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態及びその変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0071】
例えば、上記実施形態では、運転操作部材としてジョイスティック13を利用するようにしたが、ジョイスティック13以外の運転操作部材を用いてもよい。例えば、一般車両のような、ホイールハンドル、操作ペダルを用いてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、目標転舵角、目標駆動トルク、目標制動トルク、目標回転数および補正値を計算するために、コントローラ50内に予め設けたテーブルを利用するようにした。しかし、これに代えて、前記目標転舵角、目標駆動トルク、目標制動トルク、目標回転数および補正値のうちのいずれか一つ若しくは複数を、コントローラ50に予め記憶しておいた関数を規定する関数データを利用して計算するようにしてもよい。なお、テーブルを利用する場合には、目標転舵角、目標駆動トルク、目標制動トルク、目標回転数および補正値を補間演算を用いて計算することが一般的であるが、各テーブル上のポイントをある程度細かくしておけば、補間演算を利用しなくても、違和感なく制御可能である。
【0073】
また、上記実施形態においては、電動モータ32a,32bを左右駆動輪WHrl,WHrrに直結するようにした。しかし、電動モータ32a,32bと左右駆動輪WHrl,WHrrとの間に電磁クラッチを設け、かつ左右駆動輪WHrl,WHrrに機械的制動力を付与するパーキングブレーキを設けておき、乗り物の駐車時には電磁クラッチにより左右駆動輪WHrl,WHrrを電動モータ32a,32bから切り離すとともに、パーキングブレーキ力を付与できるようにしておいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る乗り物の伸長状態を示す概略側面図である。
【図2】図2は同乗り物の収縮状態を示す概略側面図である。
【図3】図3は同乗り物の伸長状態を示す概略斜視図である。
【図4】(A)は転舵装置の拡大側面図であり、(B)は(A)のケーシング内の平面図である。
【図5】前記乗り物の電気制御装置のブロック図である。
【図6】図5のコントローラにより実行されるプログラムのフローチャートである。
【図7】図6の伸長状態制御ルーチンの詳細を示すフローチャートである。
【図8】図6の収縮状態制御ルーチンの詳細を示すフローチャートである。
【図9】伸長状態におけるジョイスティックの左右操作位置に対する目標転舵角の変化特性を示すグラフである。
【図10】伸長状態におけるジョイスティックの前方操作位置に対する目標駆動トルクの変化特性を示すグラフである。
【図11】伸長状態におけるジョイスティックの後方操作位置に対する目標制動トルクの変化特性を示すグラフである。
【図12】収縮状態におけるジョイスティックの左右操作位置に対する目標転舵角の変化特性を示すグラフである。
【図13】収縮状態におけるジョイスティックの前後操作位置に対する目標回転数の変化特性を示すグラフである。
【図14】収縮状態におけるジョイスティックの左右操作位置に対する目標回転数の補正値の変化特性を示すグラフである。
【図15】(A)(B)は伸長状態にある乗り物の作動を説明するための説明図である。
【図16】(A)〜(C)は収縮状態にある乗り物の作動を説明するための説明図である。
【図17】上記実施形態の第1変形例に係る乗り物のコントローラによって実行されるプログラムのフローチャートである。
【図18】上記実施形態の第2変形例に係る乗り物のコントローラによって実行されるプログラムのフローチャートである。
【符号の説明】
【0075】
11…シート、13…ジョイスティック、14…伸縮スイッチ、15…リバーススイッチ、20a,20b…転舵装置、22a,22b…電動モータ、32a,32b…電動モータ、41…スクリューロッド、42…電動モータ、50…コントローラ、51…前後位置センサ、52…左右位置センサ、53…伸縮モータ用駆動回路、54a,54b…ブレーキ用駆動回路、55a,55b…転舵モータ用駆動回路、56a,56b 駆動モータ用駆動回路、70a,70b…電磁ブレーキ装置、81…傾斜角センサ、83…ナビゲーション装置、WHfl,WHfr…左右転舵輪、WHfr,WHrr…左右駆動輪
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の転舵輪をそれぞれ独立に転舵する一対の転舵手段と、
左右一対の駆動輪をそれぞれ独立に駆動する一対の駆動手段と、
車両を運転するための運転操作部材と、
前記運転操作部材の操作状態に応じて前記一対の転舵手段および前記一対の駆動手段を制御して前記一対の転舵輪を転舵するとともに前記一対の駆動輪を駆動する運転制御手段とを備えた乗り物において、
前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離を変更可能な伸縮機構を設け、
前記運転制御手段が、前記伸縮機構による距離の変更に連動して、前記運転操作部材の操作状態に応じた前記一対の転舵輪の転舵態様および前記一対の駆動輪の駆動態様を変更するようにしたことを特徴とする乗り物。
【請求項2】
前記運転制御手段は、前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているときには、同距離が長い状態に切換えられているときに比べて、前記操作部材の操作に応じた前記一対の転舵輪の転舵角を大きな値まで許容する転舵制御手段を有する請求項1に記載した乗り物。
【請求項3】
前記転舵制御手段は、前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき、前記操作部材の操作に応じた前記一対の転舵輪の転舵角が大きくなるに従って、前記一対の転舵輪の転舵角差を大きくする請求項2に記載した乗り物。
【請求項4】
前記運転制御手段は、前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき前記一対の駆動輪を共に同一方向に駆動し、前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき前記一対の駆動輪を共に同一方向および互いに反対方向に駆動することが可能な駆動制御手段を有する請求項1ないし3のうちのいずれ一つに記載した乗り物。
【請求項5】
前記運転制御手段は、前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき、前記操作部材の操作に応じた前記一対の転舵輪の転舵角が大きくなるに従って、前記一対の駆動輪の回転数差を大きくする駆動制御手段を有する請求項1ないし3のうちのいずれ一つに記載した乗り物。
【請求項6】
前記駆動制御手段は、前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき、前記一対の転舵輪が小さく転舵されている状態では前記一対の駆動輪を同一方向に駆動し、かつ前記一対の転舵輪が大きく転舵されている状態では前記一対の駆動輪を互いに反対方向に駆動する請求項4または5に記載した乗り物。
【請求項7】
前記運転制御手段は、前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき前記一対の駆動輪をトルク制御し、前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき前記一対の駆動輪を速度制御する駆動方式制御手段を有する請求項1ないし6のうちのいずれ一つに記載した乗り物。
【請求項8】
前記一対の転舵輪に対して機械式制動装置を設けるとともに、前記一対の駆動手段を電動モータで構成し、
前記運転制御手段は、前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき、前記運転操作部材の操作に応じて前記機械式制動装置を作動させるとともに前記電動モータによる回生制動によって前記一対の駆動輪に対して制動力を作用させ、かつ前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき、前記機械式制動装置を作動させることなく、前記運転操作部材の操作に応じて前記電動モータによる回生制動によって前記一対の駆動輪に対して制動力を作用させる制動制御手段を有する請求項1ないし7のうちのいずれ一つに記載した乗り物。
【請求項9】
前記運転操作部材を2次元変位可能なジョイスティックで構成し、
前記運転制御手段は、前記ジョイスティックの第1方向への変位に応じて前記一対の駆動輪の駆動を制御するとともに、同ジョイスティックの第1方向とは異なる第2方向への変位に応じて前記一対の転舵輪の転舵を制御する請求項1ないし8のうちのいずれか一つに記載した乗り物。
【請求項10】
前記第1方向は乗り物の前後方向であり、
前記運転制御手段は、前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき、前記ジョイスティックの中立位置から前方への変位に応じて前記一対の駆動輪の回転を加速させるとともに前記ジョイスティックの中立位置から後方への変位に応じて前記一対の駆動輪の回転を制動させ、かつ前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき、前記ジョイスティックの中立位置から前方への変位に応じて前記一対の駆動輪を前進回転させるとともに前記ジョイスティックの中立位置から後方への変位に応じて前記一対の駆動輪を後退回転させる駆動方向制御手段を有する請求項9に記載した乗り物。
【請求項11】
前記伸縮機構は、前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき、同距離が短い状態に切換えられているときに比べて、乗員の着座するシートの路面に対する傾斜角を小さくするものである請求項1ないし10のうちのいずれか一つに記載した乗り物。
【請求項12】
請求項11に記載した乗り物において、さらに、
前記シートの路面に対する傾斜角を検出する傾斜角センサと、
前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が短い状態になるように指示されているとき、前記傾斜角センサによって検出された傾斜角が異常であることを条件に、前記伸縮機構を制御して前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が長い状態になるように強制的に制御する強制制御手段とを設けた乗り物。
【請求項13】
前記伸縮機構は、前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき、同距離が短い状態に切換えられているときに比べて、車体の路面に対する傾斜角を小さくするものである請求項1ないし10のうちのいずれか一つに記載した乗り物。
【請求項14】
請求項13に記載した乗り物において、さらに、
前記車体の路面に対する傾斜角を検出する傾斜角センサと、
前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が短い状態になるように指示されているとき、前記傾斜角センサによって検出された傾斜角が異常であることを条件に、前記伸縮機構を制御して前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が長い状態になるように強制的に制御する強制制御手段とを設けた乗り物。
【請求項15】
請求項1ないし14のうちのいずれか一つに記載した乗り物において、さらに、
乗り物が車道上にあるか否かを検出する車道検出手段と、
前記車道検出手段により乗り物が車道上にあることが検出されたとき前記伸縮機構を制御して前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離を長い状態に設定し、かつ前記車道検出手段により乗り物が車道上にあることが検出されないとき前記伸縮機構を制御して前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離を短い状態に設定する自動伸縮制御手段とを設けた乗り物。
【請求項1】
左右一対の転舵輪をそれぞれ独立に転舵する一対の転舵手段と、
左右一対の駆動輪をそれぞれ独立に駆動する一対の駆動手段と、
車両を運転するための運転操作部材と、
前記運転操作部材の操作状態に応じて前記一対の転舵手段および前記一対の駆動手段を制御して前記一対の転舵輪を転舵するとともに前記一対の駆動輪を駆動する運転制御手段とを備えた乗り物において、
前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離を変更可能な伸縮機構を設け、
前記運転制御手段が、前記伸縮機構による距離の変更に連動して、前記運転操作部材の操作状態に応じた前記一対の転舵輪の転舵態様および前記一対の駆動輪の駆動態様を変更するようにしたことを特徴とする乗り物。
【請求項2】
前記運転制御手段は、前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているときには、同距離が長い状態に切換えられているときに比べて、前記操作部材の操作に応じた前記一対の転舵輪の転舵角を大きな値まで許容する転舵制御手段を有する請求項1に記載した乗り物。
【請求項3】
前記転舵制御手段は、前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき、前記操作部材の操作に応じた前記一対の転舵輪の転舵角が大きくなるに従って、前記一対の転舵輪の転舵角差を大きくする請求項2に記載した乗り物。
【請求項4】
前記運転制御手段は、前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき前記一対の駆動輪を共に同一方向に駆動し、前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき前記一対の駆動輪を共に同一方向および互いに反対方向に駆動することが可能な駆動制御手段を有する請求項1ないし3のうちのいずれ一つに記載した乗り物。
【請求項5】
前記運転制御手段は、前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき、前記操作部材の操作に応じた前記一対の転舵輪の転舵角が大きくなるに従って、前記一対の駆動輪の回転数差を大きくする駆動制御手段を有する請求項1ないし3のうちのいずれ一つに記載した乗り物。
【請求項6】
前記駆動制御手段は、前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき、前記一対の転舵輪が小さく転舵されている状態では前記一対の駆動輪を同一方向に駆動し、かつ前記一対の転舵輪が大きく転舵されている状態では前記一対の駆動輪を互いに反対方向に駆動する請求項4または5に記載した乗り物。
【請求項7】
前記運転制御手段は、前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき前記一対の駆動輪をトルク制御し、前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき前記一対の駆動輪を速度制御する駆動方式制御手段を有する請求項1ないし6のうちのいずれ一つに記載した乗り物。
【請求項8】
前記一対の転舵輪に対して機械式制動装置を設けるとともに、前記一対の駆動手段を電動モータで構成し、
前記運転制御手段は、前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき、前記運転操作部材の操作に応じて前記機械式制動装置を作動させるとともに前記電動モータによる回生制動によって前記一対の駆動輪に対して制動力を作用させ、かつ前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき、前記機械式制動装置を作動させることなく、前記運転操作部材の操作に応じて前記電動モータによる回生制動によって前記一対の駆動輪に対して制動力を作用させる制動制御手段を有する請求項1ないし7のうちのいずれ一つに記載した乗り物。
【請求項9】
前記運転操作部材を2次元変位可能なジョイスティックで構成し、
前記運転制御手段は、前記ジョイスティックの第1方向への変位に応じて前記一対の駆動輪の駆動を制御するとともに、同ジョイスティックの第1方向とは異なる第2方向への変位に応じて前記一対の転舵輪の転舵を制御する請求項1ないし8のうちのいずれか一つに記載した乗り物。
【請求項10】
前記第1方向は乗り物の前後方向であり、
前記運転制御手段は、前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき、前記ジョイスティックの中立位置から前方への変位に応じて前記一対の駆動輪の回転を加速させるとともに前記ジョイスティックの中立位置から後方への変位に応じて前記一対の駆動輪の回転を制動させ、かつ前記伸縮機構により前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が短い状態に切換えられているとき、前記ジョイスティックの中立位置から前方への変位に応じて前記一対の駆動輪を前進回転させるとともに前記ジョイスティックの中立位置から後方への変位に応じて前記一対の駆動輪を後退回転させる駆動方向制御手段を有する請求項9に記載した乗り物。
【請求項11】
前記伸縮機構は、前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき、同距離が短い状態に切換えられているときに比べて、乗員の着座するシートの路面に対する傾斜角を小さくするものである請求項1ないし10のうちのいずれか一つに記載した乗り物。
【請求項12】
請求項11に記載した乗り物において、さらに、
前記シートの路面に対する傾斜角を検出する傾斜角センサと、
前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が短い状態になるように指示されているとき、前記傾斜角センサによって検出された傾斜角が異常であることを条件に、前記伸縮機構を制御して前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が長い状態になるように強制的に制御する強制制御手段とを設けた乗り物。
【請求項13】
前記伸縮機構は、前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が長い状態に切換えられているとき、同距離が短い状態に切換えられているときに比べて、車体の路面に対する傾斜角を小さくするものである請求項1ないし10のうちのいずれか一つに記載した乗り物。
【請求項14】
請求項13に記載した乗り物において、さらに、
前記車体の路面に対する傾斜角を検出する傾斜角センサと、
前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が短い状態になるように指示されているとき、前記傾斜角センサによって検出された傾斜角が異常であることを条件に、前記伸縮機構を制御して前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離が長い状態になるように強制的に制御する強制制御手段とを設けた乗り物。
【請求項15】
請求項1ないし14のうちのいずれか一つに記載した乗り物において、さらに、
乗り物が車道上にあるか否かを検出する車道検出手段と、
前記車道検出手段により乗り物が車道上にあることが検出されたとき前記伸縮機構を制御して前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離を長い状態に設定し、かつ前記車道検出手段により乗り物が車道上にあることが検出されないとき前記伸縮機構を制御して前記一対の転舵輪と前記一対の駆動輪との距離を短い状態に設定する自動伸縮制御手段とを設けた乗り物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2009−102002(P2009−102002A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295133(P2008−295133)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【分割の表示】特願2003−352645(P2003−352645)の分割
【原出願日】平成15年10月10日(2003.10.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【分割の表示】特願2003−352645(P2003−352645)の分割
【原出願日】平成15年10月10日(2003.10.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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