説明

光導波路素子及びその製造方法

【課題】
電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板を利用し、補強基板に接着した場合でも、薄板や補強版の破損を抑制し、さらには微小なクラックによる光損失などの性能劣化も抑制した、光導波路素子を提供すること。
【解決手段】
電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板1と、該薄板には光導波路2が形成されており、該薄板に接着層5を介して接着された補強基板6とを有する光導波路素子において、該補強基板6の該薄板側の表面には、凹凸構造が形成され、該補強基板は、該凹凸構造が形成された後であり、かつ該薄板に接着する前に、キュリー温度以下の高温で熱処理されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路素子及びその製造方法に関し、特に、電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板と補強基板とを接着した光導波路素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光計測技術分野や光通信技術分野において、電気光学効果を有する基板を用いた光変調器などの光導波路素子が多用されている。また、周波数応答特性を広帯域化や駆動電圧の低減するため、基板の厚みを10μm程度まで薄く構成し、変調信号であるマイクロ波の実効屈折率を下げ、マイクロ波と光波との速度整合を図り、さらには電界効率の向上を図ることが行われている。特許文献1に示すように、このような薄板は、機械的強度の確保を目的として、他の補強基板に接着して使用される。
【0003】
また、薄板と補強基板とを接着層を介して接着させる構造では、接着層を伝播する迷光が主基板である薄板に再入射し、光導波路素子の特性が劣化する原因となっている。特許文献2では、このような不具合を抑制することと、薄板と補強基板との接着強度を高めるため、補強基板の接着面に凹凸構造を形成することが提案されている。
【0004】
特許文献2によると、接着層を伝播する迷光が薄板に再入射するのを抑制するには、補強基板の接着面を迷光波長の10分の1以上となるような凹凸構造を形成する必要がある。しかしながら、このような凹凸構造を形成した補強基板は、加工歪によるウェハの反りが発生する。
【0005】
補強基板の反りが大きい場合には、10μm程度まで薄く加工した薄板への接着が困難となる。仮に接着できた場合でも薄板に大きな応力が加わるため、後工程で主基板である薄板が破損する可能性が高くなる。特に、ニオブ酸リチウム(LN)などの熱膨張率の大きな補強基板を用いた場合、プロセス中や動作中の温度変化によって大きな応力が薄板に加わるため、生産性が著しく低下する。
【0006】
補強基板に凹凸構造を形成する際に、サンドブラスト加工などを使用した場合には、微細なクラックが発生しており、後工程で補強基板が割れる可能性も高い。特に、LNなどの劈開を有する結晶を補強基板に用いた場合には、通常の取り扱いで簡単にウェハが破損する。
【0007】
このように主基板として薄板を用い、補強基板に凹凸構造を有する光導波路素子では、補強基板の反りや微細なクラックにより、製造工程中や動作中の破損や、光損失やその他の性能の劣化などにより、光導波路素子としての信頼性が低下すこととなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−85789号公報
【特許文献2】特開2007−264548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板を利用し、補強基板に接着した場合でも、薄板や補強版の破損を抑制し、さらには微小なクラックによる光損失などの性能劣化も抑制した、光導波路素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板と、該薄板には光導波路が形成されており、該薄板に接着層を介して接着された補強基板とを有する光導波路素子において、該補強基板の該薄板側の表面には、凹凸構造が形成され、該補強基板は、該凹凸構造が形成された後であり、かつ該薄板に接着する前に、キュリー温度以下の高温で熱処理されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の光導波路素子において、該薄板に接着される該補強基板の反りの大きさは、最大でも該接着層の厚みの半分以下であることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の光導波路素子において、該補強基板の該薄板側の表面には、電荷分散層が形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板と、該薄板には光導波路が形成されており、該薄板に接着された補強基板とを有する光導波路素子の製造方法において、該補強基板の該薄板側の表面に、凹凸構造を形成した後に、該補強基板をキュリー温度以下の高温で熱処理し、その後、該補強基板を該薄板に接着することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明により、電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板と、該薄板には光導波路が形成されており、該薄板に接着層を介して接着された補強基板とを有する光導波路素子において、該補強基板の該薄板側の表面には、凹凸構造が形成され、該補強基板は、該凹凸構造が形成された後であり、かつ該薄板に接着する前に、キュリー温度以下の高温で熱処理されているため、補強基板に凹凸構造を形成した際に残留する加工歪みを取り除くことができ、補強基板の反りを抑制することが可能となる。その結果、製造工程や使用中の薄板や補強基板の破損を低減することが可能となる。
【0015】
特に、LNなどの強誘電体を補強基板として用いる場合には、キュリー温度(約1200℃)以下の高温で熱処理することにより、サンドブラスト加工で生じた微細なクラックの焼きなましもでき、光導波路素子の光損失などの低減にも寄与する。
【0016】
請求項2に係る発明により、薄板に接着される補強基板の反りの大きさは、最大でも接着層の厚みの半分以下であるため、厚さ10μm以下の薄板を主基板として、該補強基板に接合しても、補強基板の反りにより薄板が破損することが抑制される。
【0017】
請求項3に係る発明により、補強基板の薄板側の表面には、電荷分散層が形成されているため、誘電体など帯電しやすい補強基板が接着剤で薄板に接着されていても、当該電荷分散層により帯電による電界集中の効果を抑制することが可能となる。
【0018】
請求項4に係る発明により、電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板と、該薄板には光導波路が形成されており、該薄板に接着された補強基板とを有する光導波路素子の製造方法において、該補強基板の該薄板側の表面に、凹凸構造を形成した後に、該補強基板をキュリー温度以下の高温で熱処理し、その後、該補強基板を該薄板に接着するため、補強基板に凹凸構造を形成した際に残留する加工歪みを取り除くことができ、薄板や補強版の破損を抑制し、さらには微細なクラックの焼きなましもでき、光損失などの光導波路素子の性能劣化も抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】主基板となる薄板と補強基板とを接合して光導波路素子を形成した状態を説明する図である。
【図2】本発明の光導波路素子において、補強基板の表面に電荷分散層を形成した状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の光導波路素子について、好適例を用いて詳細に説明する。
本発明の光導波路素子は、図1に示すように、電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板1と、該薄板1には光導波路2が形成されており、該薄板1に接着層5を介して接着された補強基板6とを有する光導波路素子において、該補強基板6の該薄板側の表面には、凹凸構造(不図示)が形成され、該補強基板は、該凹凸構造が形成された後であり、かつ該薄板に接着する前に、キュリー温度以下の高温で熱処理されていることを特徴とする。
【0021】
図1において、符号3は信号電極、符号4は接地電極を示している。符号hは接着層の厚みを示し、符号Sは補強基板6の反り量を示している。
【0022】
電気光学効果を有する基板(薄板)としては、特に、LiNbO,LiTaO又はPLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)のいずれかの単結晶が好適に利用可能である。特に、光変調器で多用されているLiNbO,LiTaOが、好ましい。また、基板に形成する光導波路は、例えば、LiNbO基板(LN基板)上にチタン(Ti)などの高屈折率物質を熱拡散することにより形成される。
【0023】
光導波路素子には、光導波路を伝搬する光波を変調するための変調電極を設けることができる。変調電極は、信号電極3や接地電極4から構成され、基板表面に、Ti・Auの電極パターンを形成し、金メッキ方法などにより形成することが可能である。さらに、必要に応じて光導波路形成後の基板表面に誘電体SiO等のバッファ層を設けることも可能である。
【0024】
薄板1と補強基板6とを接合する接着剤は、紫外線硬化性接着剤などが利用可能である。ただし、接着層5の厚みhは、20μm〜200μmが好ましい。20μmより薄いと、変調信号であるマイクロ波と光導波路を伝搬する光波との速度整合が達成し難くなる。また、接着層の厚みが200μmより大きくなると、接着層自体の膨張・収縮による内部応力が大きくなり、薄板を破損する原因となる。
【0025】
補強基板の材料としては、薄板と同様の材料が、熱膨張率を薄板と整合させる上でも好ましい。
【0026】
補強基板6の薄板側の表面(図1の上側の面)には、例えば、サンドブラスト加工などによって迷光波長の10分の1以上(0.1〜0.2μm程度)の凹凸構造が形成されている。サンドブラスト加工時の衝撃などにより、加工歪みが補強基板の表面から数μmの深さまで達しており、これにより補強基板6に図1に示すような大きな反りsを発生させる。
【0027】
補強基板の反りは、使用する材質に依存するが、LNを用いた補強基板でも低級品であれば、100μm以上の反りが発生する場合もある。このように補強基板の反りが大きい場合には、厚みが10μm以下の薄板に接着すると、薄板が容易に破損することとなる。
【0028】
補強基板の加工歪みを取り除く方法として、ウエットエッチングが知られているが、基板表面から数μmの加工歪みを十分に取り除くためには、迷光波長の10分の1以上(0.1〜0.2μm程度)の凹凸構造を保持することができない。
【0029】
本発明の光導波路素子では、補強基板の加工歪みを熱処理で除去している。これにより、補強基板の表面の凹凸構造を保持した状態で、補強基板の反りを低減させることが可能となる。特に、LNなどの強誘電体を補強基板に用いる場合には、400℃以上、キュリー温度(LNの場合、約1140度)以下までに熱処理することが可能であり、サンドブラスト加工などで生じた微細なクラックの焼きなましにも有効である。
【0030】
本発明では、補強基板の薄板側の表面に、凹凸構造を形成した後に、該補強基板をキュリー温度以下の高温で熱処理し、その後、該補強基板を該薄板に接着するよう構成している。これにより、補強基板に凹凸構造を形成した際に残留する加工歪みを確実に取り除くことができ、薄板や補強版の破損を抑制し、さらには微細なクラックの焼きなましもでき、光損失などの光導波路素子の性能劣化も抑制することが可能となる。
【0031】
補強基板の反りが薄板に与える応力の大きさは、補強基板と薄板との間に介在する接着層の厚みにも影響を受ける。図1に示すように、薄板に接着される該補強基板の反りの大きさsは、最大でも該接着層の厚みhの半分以下とすることで、補強基板の反りにより発生した応力が薄板に加わるのを低減させることが可能となる。例えば、接着層の厚みhが55μm程度である場合には、補強基板の反りsは、27.5μm以下に設定することが好ましい。
【0032】
補強基板6に誘電体、特に強誘電体材料を使用する場合には、補強基板内の加工歪みや温度変化に伴う内部応力変化、さらに、変調電極による電界の影響などで、焦電効果が発生し易い。これを抑制するため、補強基板6の薄板側の表面には、電荷分散層7が形成されている。この構成により、誘電体など帯電しやすい補強基板が接着剤で薄板に接着されていても、当該電荷分散層により帯電による電界集中の効果を抑制することが可能となる。
【0033】
電荷分散層7としては、少なくとも補強基板の導電率より高い導電性を有する材料を使用することで、焦電効果を緩和させることが可能である。例えば、SiやSiN膜などの半導体又は導電体が利用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上説明したように、本発明によれば、電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板を利用し、補強基板に接着した場合でも、薄板や補強版の破損を抑制し、さらには微小なクラックによる光損失などの性能劣化も抑制した、光導波路素子を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0035】
1 薄板
2 光導波路
3 信号電極
4 接地電極
5 接着層
6 補強基板
7 電荷分散層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板と、該薄板には光導波路が形成されており、該薄板に接着層を介して接着された補強基板とを有する光導波路素子において、
該補強基板の該薄板側の表面には、凹凸構造が形成され、
該補強基板は、該凹凸構造が形成された後であり、かつ該薄板に接着する前に、キュリー温度以下の高温で熱処理されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光導波路素子において、該薄板に接着される該補強基板の反りの大きさは、最大でも該接着層の厚みの半分以下であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光導波路素子において、該補強基板の該薄板側の表面には、電荷分散層が形成されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項4】
電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板と、該薄板には光導波路が形成されており、該薄板に接着された補強基板とを有する光導波路素子の製造方法において、
該補強基板の該薄板側の表面に、凹凸構造を形成した後に、該補強基板をキュリー温度以下の高温で熱処理し、
その後、該補強基板を該薄板に接着することを特徴とする光導波路素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−76753(P2013−76753A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215328(P2011−215328)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】