説明

半導体装置

【課題】ホールド電圧を変化させずに、トリガー電圧のみを調節することができるようにする。
【解決手段】本実施形態における保護素子10は、低濃度コレクタ層102、シンカー層110、高濃度コレクタ層112、エミッタ層130、高濃度ベース層122、ベース層120、第1導電型層140、及び第2導電型層150を有している。第2導電型層150は低濃度コレクタ層102に形成されており、ベース層120と第1導電型層140の間に位置している。第2導電型層150は低濃度コレクタ層102よりも不純物濃度が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電気などの異常電圧から内部回路を保護する保護素子を有する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置には、静電気などの異常電流から内部回路を保護するために、保護素子が設けられている。保護素子としては、例えば非特許文献1に記載の構造がある。この構造は、縦型のバイポーラトランジスタと横型のバイポーラトランジスタからなるサイリスタを利用するものである。
【0003】
保護素子の重要なパラメータとして、トリガー電圧がある。トリガー電圧は、電源電圧超でなければならないが、同時に被保護素子の耐圧を下回っている必要がある。このため、被保護素子の耐圧に応じて、保護素子のトリガー電圧を自由に下げることができることが望ましい。
【0004】
例えば特許文献1には、縦型のバイポーラトランジスタと横型のバイポーラトランジスタからなるサイリスタを利用した保護素子において、横型のバイポーラトランジスタのベース部を、相対的に不純物濃度が低い層と高い層の2段構造とすることが記載されている。この技術によれば、これら2つの層の間隔によりトリガー電圧を調整できる、とされている。
【0005】
なお特許文献2には、縦型のバイポーラトランジスタを有する保護素子において、ベース領域の周囲に低濃度ベース領域を設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−172201号公報
【特許文献2】米国特許第7667295号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Coupled Bipolar Transistors as Very Robust ESD Protection Devices for Automotive Applications (2003 EOS/ESD Symposium)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
保護素子の重要なパラメータには、トリガー電圧の他に、ホールド電圧がある。特許文献1に記載の方法では、トリガー電圧を下げていくと、横型のバイポーラトランジスタのベース幅が短くなるため、横型のバイポーラトランジスタの電流増幅率が増加して、ホールド電圧が低下してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、第1導電型の基板と、
前記基板の上に形成された第2導電型の低濃度コレクタ層と、
前記低濃度コレクタ層の中に設けられ、前記低濃度コレクタ層より不純物濃度が高い第2導電型のシンカー層と、
前記シンカー層の表層に形成され、前記シンカー層より不純物濃度が高い第2導電型の高濃度コレクタ層と、
前記低濃度コレクタ層に形成され、前記高濃度コレクタ層と離間して配置され、前記低濃度コレクタ層より不純物濃度が高い第2導電型のエミッタ層と、
前記低濃度コレクタ層に形成され、前記エミッタ層と電気的にショートしている第1導電型の高濃度ベース層と、
前記エミッタ層と前記高濃度ベース層を内側に含むように配置された第1導電型のベース層と、
前記低濃度コレクタ層に形成され、前記シンカー層と前記ベース層との間に前記ベース層と離間して配置され、前記高濃度コレクタ層と電気的にショートしている第1導電型層と、
前記低濃度コレクタ層に形成され、前記ベース層と前記第1導電型層との間に前記第1導電型層と離間して配置され、前記低濃度コレクタ層よりも不純物濃度が高い第2導電型層と、
を備える半導体装置が提供される。
【0010】
本発明によれば、第2導電型層とベース層の間隔を調節することにより、トリガー電圧を調節することができる。また第2導電型層とベース層の間隔を変更しても、ホールド電圧はほとんど変化しない。従って、ホールド電圧が変化することを抑制しつつ、トリガー電圧のみを調節することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ホールド電圧を変化させずに、トリガー電圧のみを調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は第1の実施形態に係る保護素子の構成を示す断面図であり、(b)は、被保護素子の構成を示す断面図である。
【図2】、図1(a)に示した保護素子の平面図である。
【図3】保護素子及び被保護素子の製造方法を説明するための断面図である。
【図4】アバランシェブレークダウン前の図1のX方向における電界強度の変化(水平方向電界強度(Em)の水平位置(X)依存性)を示すグラフである。
【図5】デバイスシミュレーションで用いた第2導電型層の不純物濃度の深さ方向の分布を示すグラフである。
【図6】シミュレーションに用いた不純物濃度の2次元プロファイルを示す図である。
【図7】図6の構造におけるインパクトイオン化の発生頻度を示す図である。
【図8】図6の構造における電流経路を示す図である。
【図9】第2導電型層における不純物が図5(1)に示した濃度プロファイルを有している場合の、Vceとコレクタ電流密度の関係を示すグラフである。
【図10】第2導電型層における不純物が図5(2)に示した濃度プロファイルを有している場合の、Vceとコレクタ電流密度の関係を示すグラフである。
【図11】図5(2)の条件における、Lxとトリガー電圧の関係を示すグラフである。
【図12】デバイスシミュレーションから求められた、横型のバイポーラトランジスタのhFE(電流増幅率)の最大値のLy依存性を示すグラフである。
【図13】第2の実施形態に係る半導体装置の保護素子の構成を示す平面図である。
【図14】第3の実施形態に係る半導体装置の保護素子の構成を示す断面図である。
【図15】第4の実施形態に係る半導体装置の保護素子の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図である。本実施形態に係る半導体装置は、図1(a)に示す保護素子10を有している。第1導電型の保護素子10は、低濃度コレクタ層102、シンカー層110、高濃度コレクタ層112、エミッタ層130、高濃度ベース層122、ベース層120、第1導電型層140、及び第2導電型層150を有している。低濃度コレクタ層102は、基板100の上に形成されており、第2導電型(例えばn型)を有している。シンカー層110は第2導電型を有しており、低濃度コレクタ層102の中に設けられ、低濃度コレクタ層102より不純物濃度が高い。高濃度コレクタ層112は第2導電型を有しており、シンカー層110の表層に形成されている。高濃度コレクタ層112は、シンカー層110より不純物濃度が高い。エミッタ層130は、低濃度コレクタ層102に形成されており、高濃度コレクタ層112と離間して配置されている。エミッタ層130は、低濃度コレクタ層102より不純物濃度が高い。高濃度ベース層122は低濃度コレクタ層102に形成され、エミッタ層130と電気的にショートしている。ベース層120は第1導電型を有しており、エミッタ層130と高濃度ベース層122を内側に含むように配置されている。ベース層120は高濃度ベース層122より不純物濃度が低い。第1導電型層140は低濃度コレクタ層102に形成されており、シンカー層110とベース層120の間に位置し、かつベース層120に含まれていない。詳細には、第1導電型層140はベース層ゲート電極120と離間して配置されている。第1導電型層140は高濃度コレクタ層112と電気的にショートしている。第2導電型層150は低濃度コレクタ層102に形成されており、ベース層120と第1導電型層140の間に位置している。詳細には、第2導電型層150は、第1導電型層140と離間して配置されている。第2導電型層150は低濃度コレクタ層102よりも不純物濃度が高い。以下、詳細に説明する。
【0015】
基板100は例えばp型のシリコン基板である。低濃度コレクタ層102は基板100上に形成されたn型のエピタキシャル層である。このため低濃度コレクタ層102内において不純物濃度はほぼ均一である。
【0016】
図1(a)に示すように、保護素子10が形成されている領域において、基板100と低濃度コレクタ層102の境界には、第2導電型の埋込層200が形成されている。埋込層200は、平面視でエミッタ層130、高濃度コレクタ層112、ベース層120、第1導電型層140、及び第2導電型層150と重なる位置に形成されており、シンカー層110の底部に接続している。なお、シンカー層110は後述するようにエミッタ層130、高濃度コレクタ層112、ベース層120、第1導電型層140、及び第2導電型層150を囲むように形成されているが、埋込層200は、平面視でシンカー層110に囲まれた領域の全面及びシンカー層110の下方に形成されている。埋込層200は低濃度コレクタ層102より不純物濃度が高い。
【0017】
低濃度コレクタ層102の表層には素子分離膜104が形成されている。素子分離膜104は例えばLOCOS酸化法により形成されており、シンカー層110と重なる領域、第1導電型層140と重なる領域、及びベース層120と重なる領域に開口を有している。低濃度コレクタ層102の表層のうち各開口内に位置する領域には、シリサイド層が形成されている。
【0018】
詳細には、高濃度ベース層122及びエミッタ層130は互いに隣接しており、素子分離膜104に形成された同一の開口内に位置している。高濃度ベース層122及びエミッタ層130は、シリサイド層134を介して電気的に接続している。高濃度コレクタ層112及びエミッタ層130は、素子分離膜104によって第1導電型層140及びシンカー層110から分離されている。
【0019】
また第1導電型層140は、素子分離膜104によってシンカー層110から分離されており、配線層に形成された配線を介してシンカー層110と電気的に接続している。第1導電型層140の表層には高濃度第1導電型層142が形成されているが、高濃度第1導電型層142の表面には、シリサイド層144が形成されている。また高濃度コレクタ層112の表層にはシリサイド層114が形成されている。
【0020】
第2導電型層150は、上記したように、ベース層120と第1導電型層140の間に位置しており、低濃度コレクタ層102よりも不純物濃度が高い。本実施形態において、第2導電型層150は、素子分離膜104の下に位置している。第2導電型層150の不純物濃度は、シンカー層110よりも低い。詳細には、第2導電型層150及びシンカー層110はいずれも不純物濃度に分布を持っているが、最も濃い部分で比較して、第2導電型層150の不純物濃度は、シンカー層110よりも低い。第2導電型層150の不純物濃度は、例えばシンカー層110の10%以下である。また、第2導電型層150は、ベース層120と低濃度コレクタ層102の境界がブレークダウンしたときに完全に空乏化するように、その不純物濃度及び幅Lyが定まっているのが好ましい。第2導電型層150の不純物濃度のピーク値は、例えば5E16−1cm−3以上1E17cm−3以下であり、第2導電型層150の幅Lyは、例えばベース層120と第1導電型層140の間隔の半分以下である。
【0021】
図1(b)は、被保護素子30の構成を示す断面図である。被保護素子30は保護素子10と同一の基板100上に形成されており、保護素子10によって静電気等の異常電流から保護されている。本図に示す被保護素子30は、高耐圧のMOSトランジスタであり、ゲート絶縁膜310、ゲート電極320、ドレイン領域330、及びソース領域340を有している。ドレイン領域330は、素子分離膜104によってチャネル領域及びソース領域340から分離されている。ドレイン領域330の表層にはシリサイド層334が形成されており、ソース領域340の表層にはシリサイド層344が形成されている。
【0022】
被保護素子30が形成されている領域には、埋込層200、シンカー層110、及び第1導電型の高濃度不純物層113が形成されている。高濃度不純物層113は高濃度コレクタ層112と同様の構成を有しており、また表面にシリサイド層114を有している。埋込層200は被保護素子30が形成されている領域の全面に設けられている。シンカー層110は、平面視で被保護素子30を囲むように形成されている。そして被保護素子30が有する第1導電型ウェル302は、埋込層200及びシンカー層110によって低濃度コレクタ層102の他の領域から分離されている。またシンカー層110、高濃度コレクタ層112、及び埋込層200には、ドレイン領域330と同一の電圧が印加される。
【0023】
ドレイン領域330の周囲にはエクステンション領域335が形成されている。エクステンション領域335は、ドレイン領域330とソース領域340の間に位置する素子分離膜104の下を経由してチャネル領域のそばまで延伸している。
【0024】
ソース領域340の近傍には高濃度第1導電型層350および第1導電型層355が形成されている。高濃度第1導電型層350はソース領域340に隣接しており、シリサイド層344を介してソース領域340と電気的に接続している。第1導電型層355は、ソース領域340及び高濃度第1導電型層350より深く形成されており、これらを内側に含んでいる。
【0025】
図2は、図1(a)に示した保護素子10の平面図である。図1(a)は図2のA−A断面図に相当している。ただし図2では、説明のためシリサイド層などを省略している。
【0026】
本実施形態において、シンカー層110および高濃度コレクタ層112は、ベース層120、高濃度ベース層122、エミッタ層130、第1導電型層140、高濃度第1導電型層142、及び第2導電型層150を囲んでいる。そして第2導電型層150は、シンカー層110につながっていない。ただし必要に応じて、第2導電型層150をシンカー層110につなげてもよい。
【0027】
詳細には、高濃度ベース層122、エミッタ層130、第2導電型層150、第1導電型層140、及び高濃度第1導電型層142は、平面形状が略長方形であり、第1の方向(図中上下方向)に長辺が延伸している。高濃度ベース層122、エミッタ層130、及び高濃度第1導電型層142の長辺の長さは略同一であり、第1の方向で見た場合に互いの端部が揃っている。
【0028】
また第2導電型層150も、平面形状が略長方形であり、第1の方向に長辺が延伸している。すなわちエミッタ層130の長辺と第1導電型層140の長辺は互いに対向しているが、第2導電型層150はこれら2つの長辺の間で、これら2つの長辺と同一方向に延伸している。本図に示す例では、第2導電型層150は高濃度ベース層122等と長辺の長さが同一であり、第1の方向で見た場合に互いの端部が揃っている。ただし第2導電型層150の平面形状はこれに限定されず、高濃度ベース層122等より長辺が短くてもよいし、長くてもよい。
【0029】
次に、図3及び図1を用いて、保護素子10及び被保護素子30の製造方法について説明する。まず図3(a)に示すように、基板100に第2導電型の不純物を導入することにより、埋込層200を形成する。次いで、基板100上に、第2導電型のエピタキシャル層を形成することにより、低濃度コレクタ層102を、例えば数μm〜10数μmの厚さで形成する。次いで、第1導電型の不純物を部分的に注入して1100℃〜1200℃の熱処理を行うことにより、被保護素子30の第1導電型ウェル302(本図では図示せず)を形成する。この熱処理において、埋込層200は低濃度コレクタ層102に広がる。
【0030】
なお、基板100上に第1導電型のエピタキシャル層を形成し、その後に第2導電型の不純物を選択的に注入して1100℃〜1200℃の熱処理を行うことにより、低濃度コレクタ層102を形成しても良い。この場合、第1導電型ウェル302には第1導電型のエピタキシャル層をそのまま用いる。
【0031】
次いで素子分離膜104を形成する。次いで、低濃度コレクタ層102に第2導電型の不純物を選択的に注入することにより、シンカー層110を形成する。このとき、必要に応じて1100℃〜1200℃の熱処理を行ってもよい。
【0032】
次いで図3(b)に示すように、低濃度コレクタ層102に第1導電型の不純物を選択的に注入することにより、ベース層120及び第1導電型層140を形成する。このとき、被保護素子30の第1導電型層355(本図では図示せず)も形成される。
【0033】
次いで、低濃度コレクタ層102に第2導電型の不純物を選択的に注入することにより、第2導電型層150を形成する。このとき、被保護素子30のエクステンション領域335も形成される。
【0034】
その後、図1に示すように、低濃度コレクタ層102に第1導電型の不純物を選択的に注入することにより、高濃度ベース層122、高濃度第1導電型層142、及び高濃度第1導電型層350を形成する。また低濃度コレクタ層102に第2導電型の不純物を選択的に注入することにより、高濃度コレクタ層112、エミッタ層130、ドレイン領域330、及びソース領域340を形成する。その後、各シリサイド層を形成する。
【0035】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。本実施形態によれば、第2導電型層150とベース層120の間隔Lx(図1及び図2参照)を調節することにより、トリガー電圧を調節することができる。また間隔Lxを変更しても、ホールド電圧はほとんど変化しない。従って、間隔Lxを調節することにより、ホールド電圧を変化させずに、トリガー電圧のみを調節することができる。以下、詳細に説明する。
【0036】
本実施形態において高濃度ベース層122及びエミッタ層130には、グランド電位が印加されている。ここで高濃度第1導電型層142及び高濃度コレクタ層112に異常電圧が印加されると、まず、ベース層120と低濃度コレクタ層102の界面でブレークダウンが生じる。これにより、ベース層120と低濃度コレクタ層102で構成されるPNダイオードがオンする。
【0037】
次いで、ベース層120内でアバランシェブレークダウンが生じ、これによってベース層120とエミッタ層130で構成されるPNダイオードがオンする。この状態で、エミッタ層130、ベース層120、及び低濃度コレクタ層102で構成される縦型のバイポーラトランジスタ(例えばNPNバイポーラトランジスタ)がオンする。なお、コレクタ電流は埋込層200を経由して流れる。
【0038】
その後、ベース層120、低濃度コレクタ層102、及び第1導電型層140で構成される横型のバイポーラトランジスタ(例えばPNPバイポーラトランジスタ)がオンする。これにより、縦型のバイポーラトランジスタと横型のバイポーラトランジスタによるサイリスタが動作する。
【0039】
一方、本実施形態では第2導電型層150を設けているため、第2導電型層150とベース層120の間に位置する低濃度コレクタ層102において等電位線が密集する。このため、ベース層120と低濃度コレクタ層102の間のPN接合界面の電界のうち最も高い部分(すなわちブレークダウンする部分の電界)も上昇する。ここで間隔Lxを調整すると、第2導電型層150とベース層120の間に位置する低濃度コレクタ層102において等電位線の密集度も変化し、これに伴ってベース層120と低濃度コレクタ層102の間のPN接合界面の電界も変化する。一方、ブレークダウンに必要な電界は変化しない。従って、間隔Lxを調整することにより、トリガー電圧が変化する。
【0040】
一方、第2導電型層150は低濃度コレクタ層102と同一導電型であるため、縦型のバイポーラトランジスタと横型のバイポーラトランジスタによるサイリスタの動作が定常状態になったとき、その特性には影響を与えにくい。従って、ホールド電圧が変化することは抑制される。特に本実施形態では、ベース層120と低濃度コレクタ層102の境界がブレークダウンしたときに完全に空乏化するように、その不純物濃度及び幅Lyが定まっている。このため、ホールド電圧は間隔Lxによってほとんど影響を受けない。
【0041】
なお、第2導電型層150を設けることにより第2導電型層150とベース層120の間に位置する低濃度コレクタ層102において等電位線が密集することは、図4に示すシミュレーション結果からも明らかである。図4(a)は、エミッタ層130とベース層120の間の電圧Vceが20Vのときの、アバランシェブレークダウン前の図1のX方向における電界強度の変化(水平方向電界強度(Em)の水平位置(X)依存性)を示している。図4(b)は電圧Vceが40Vのときの、図1のX方向における電界強度の変化を示している。各グラフにおいて、(i)は(ii)よりもLxが短い(具体的には半分)場合を示しており、(iii)は第2導電型層150が設けられていない場合を示している。
【0042】
そして、上述した第2導電型層150による効果は、デバイスシミュレーションによっても確認することができる。
【0043】
図5は、デバイスシミュレーションで用いた第2導電型層150の不純物濃度の深さ方向の分布を示している。図5(1)に示す例では、表面の不純物濃度を8E16cm−3とし、1.2μmの深さで1E15cm−3となるようなプロファイルとした。また図5(2)に示す例では、表面の不純物濃度を2.5E17cm−3とし、1.7μmの深さで不純物濃度1E15cm−3となるようなプロファイルとした。
【0044】
なお、各不純物層のレイアウトとしては、以下の2つを準備した。第1のレイアウトでは、ベース層120と第1導電型層140の幅Lt=8μm、第2導電型層150の幅Ly=1μmとして、ベース層120と第2導電型層150の間隔Lxを1.5μm、3、4μm、又は7μmにした。また第2のレイアウトでは、Lt=8μm、Lx=1.5μmとして、Lyを1μm、3μm、又は7μmにした。
【0045】
なお、図6〜図8は、第2のレイアウトにおいてLy=1μmとしたときのシミュレーション結果を示している。図6はシミュレーションに用いた不純物濃度の2次元プロファイルを示している。図7は、図6の構造におけるインパクトイオン化の発生頻度を示しており、図8は、図6の構造における電流経路を示している。
【0046】
図9は、第2導電型層150における不純物が図5(1)に示した濃度プロファイルを有している場合の、Vceとコレクタ電流密度の関係を示している。また図10は、第2導電型層150における不純物が図5(2)に示した濃度プロファイルを有している場合の、Vceとコレクタ電流密度の関係を示している。
【0047】
まず、Lxを変化させた場合について考える。図9及び図10から、どちらの濃度プロファイルについても、Lxを1.5μmから4μmまでの間で変化させることにより、トリガー電圧の調整が可能であることが分かる。
【0048】
しかしながら、図10に示すように、図5(2)に示したプロファイル、すなわち不純物濃度が濃い方のプロファイルでは、ホールド電圧が、第2導電型層150を導入する前の値である40V強から20V弱にまで大きく減少した。これは、スナップバック後に起こるカーク効果が十分現れた後でも、第2導電型層150の一部がベース領域とならずにコレクタ領域として残り、その近傍がインパクトイオンの最大発生源となるためであると考えられる(図7(c))。つまり、第2導電型層150と低濃度コレクタ層102の境界は、濃度プロファイルが急峻に変化するために電界が集中しやすいため、同一のコレクタ電流を提供するベース電流(即ちアバランシェ電流)を発生させるために、相対的に少ないコレクタ電圧(即ちホールド電圧)で済んでしまうということである。また、電流経路もこれを反映して基板表面に近づくため(図8(c))、自己発熱による破壊が起きやすくなり、保護素子の耐量の低下を招く可能性もある。
【0049】
一方、図9に示すように、図5(1)に示したプロファイル、すなわち相対的に薄い方のプロファイル(図5(1))では、Lxが1.5μm、3μm、及び4μmの何れの場合にも、ホールド電圧は第2導電型層150を導入する前の値である40V強を維持している。これは、スナップバック後に起こるカーク効果により、第2導電型層150が全てベース領域となり、インパクトイオンの最大発生源が、第2導電型層150を導入する前(図7(a))と同様、埋込層200と低濃度コレクタ層102の境界に維持されるためである(図7(b))。つまり、この境界部ではプロファイルが比較的なだらかであるために電界が集中しにくく、同一のコレクタ電流を維持するために、大きなコレクタ電圧(即ちホールド電圧)が必要ということである。また、電流経路もこれを反映して、第2導電型層150を導入する前(図8(a))と同様に低濃度コレクタ層102の深くを流れるため(図8(b))、保護素子の耐量も維持される。
【0050】
図11は、図5(2)の条件における、Lxとトリガー電圧の関係を示している。Lxが4μmを超えた場合は、第2導電型層150がベース層120から遠ざかるために、Lxをこの範囲で変動させてもトリガー電圧をほとんど調整することができない。また、横型のバイポーラトランジスタのエミッタ(第1導電型層140)と第2導電型層150の間隔(Lt−(Lx+Ly))が短すぎると、高濃度コレクタ層112及び第1導電型層140に瞬間的に負のサージ電圧が入った場合、第2導電型層150と第1導電型層140の間に発生した電位差により、ここで容易にブレークダウンする危険性がある。従って、少なくとも、第2導電型層150は第1導電型層140から離しておくことが必要になる。
【0051】
図12は、デバイスシミュレーションから求められた、横型のバイポーラトランジスタのhFE(電流増幅率)の最大値のLy依存性を示すグラフである。相対的に薄い方の濃度プロファイルの場合(図5(1))、Lyを1μmから6.5μmまで大きくすると、横型のバイポーラトランジスタのhFEが低下していく。従って、保護素子10の耐量の向上効果が弱まることが容易に類推される。もちろん、このhFEの低下は、Ltを小さくすることによって補償することが可能であるが、あまりLtを小さくすると、トリガー電圧の制御範囲が狭くなるため、望ましくない。従って、第2導電型層150の幅Lyは小さいほうが良く、横型のバイポーラトランジスタのエミッタ部となる第1導電型層140とベース層120の間隔Ltの少なくとも半分以下であることが望ましい。
【0052】
(第2の実施形態)
図13は、第2の実施形態に係る半導体装置の保護素子10の構成を示す平面図であり、第1の実施形態における図2に相当している。本実施形態に係る半導体装置は、複数の第2導電型層150が、第1の方向(図中上下方向)に沿って、島状に互いに離間して配置されている点を除いて、第1の実施形態に係る半導体装置と同様の構成である。
【0053】
本実施形態によっても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、第2導電型層150が島状に形成されているため、第2導電型層150の濃度が第1の実施形態と同様の場合であっても、第1の実施形態において第2導電型層150の濃度を薄くしたときと同様の効果を得ることができる。従って、エクステンション領域335に要求される濃度が第2導電型層150に要求される濃度よりも高い場合であっても、第2導電型層150の大きさ及び配置間隔を調節することにより、エクステンション領域335と第2導電型層150を同一工程で形成することができる。
【0054】
(第3の実施形態)
図14は、第3の実施形態に係る半導体装置の保護素子10の構成を示す断面図であり、第1の実施形態における図1(a)に相当している。本実施形態に係る半導体装置は、保護素子10に低濃度ベース層126が設けられている点を除いて、第1の実施形態又は第2の実施形態に係る半導体装置と同様の構成である。
【0055】
低濃度ベース層126は低濃度コレクタ層102に形成されており、平面視でベース層120を介して第2導電型層150とは逆側でベース層120に接続している。低濃度ベース層126の不純物濃度はベース層120よりも低い。本実施形態において、低濃度ベース層126はシンカー層110にも接続しているが、シンカー層110には接続していなくてもよい。
【0056】
本実施形態によっても、第1又は第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。また低濃度ベース層126を設けることにより、ベース層120と低濃度コレクタ層102の界面におけるブレークダウンが、第2導電型層150を設けていない側で生じることを抑制できる。
【0057】
(第4の実施形態)
図15は、第4の実施形態に係る半導体装置の保護素子10の構成を示す断面図であり、第1の実施形態における図1(a)に相当している。本実施形態に係る半導体装置は、以下の点を除いて第1〜第3の実施形態に係る半導体装置と同様の構成である。なお図15は、第1の実施形態と同様の場合を示している。
【0058】
まず、保護素子10はSOI基板を用いて形成されている。すなわち基板100上には埋込絶縁層103が形成され、さらに埋込絶縁層103上に低濃度コレクタ層102が形成されている。また、埋込層200は形成されておらず、シンカー層110の底面は埋込絶縁層103に接している。
【0059】
本実施形態によっても、第1〜第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0060】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0061】
10 保護素子
30 被保護素子
100 基板
102 低濃度コレクタ層
103 埋込絶縁層
104 素子分離膜
110 シンカー層
112 高濃度コレクタ層
113 高濃度不純物層
114 シリサイド層
120 ベース層
122 高濃度ベース層
126 低濃度ベース層
130 エミッタ層
134 シリサイド層
140 第1導電型層
142 高濃度第1導電型層
144 シリサイド層
150 第2導電型層
200 埋込層
302 第1導電型ウェル
310 ゲート絶縁膜
320 ゲート電極
330 ドレイン領域
334 シリサイド層
335 エクステンション領域
340 ソース領域
344 シリサイド層
350 高濃度第1導電型層
355 第1導電型層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の基板と、
前記基板の上に形成された第2導電型の低濃度コレクタ層と、
前記低濃度コレクタ層の中に設けられ、前記低濃度コレクタ層より不純物濃度が高い第2導電型のシンカー層と、
前記シンカー層の表層に形成され、前記シンカー層より不純物濃度が高い第2導電型の高濃度コレクタ層と、
前記低濃度コレクタ層に形成され、前記高濃度コレクタ層と離間して配置され、前記低濃度コレクタ層より不純物濃度が高い第2導電型のエミッタ層と、
前記低濃度コレクタ層に形成され、前記エミッタ層と電気的にショートしている第1導電型の高濃度ベース層と、
前記エミッタ層と前記高濃度ベース層を内側に含むように配置された第1導電型のベース層と、
前記低濃度コレクタ層に形成され、前記シンカー層と前記ベース層との間に前記ベース層と離間して配置され、前記高濃度コレクタ層と電気的にショートしている第1導電型層と、
前記低濃度コレクタ層に形成され、前記ベース層と前記第1導電型層との間に前記第1導電型層と離間して配置され、前記低濃度コレクタ層よりも不純物濃度が高い第2導電型層と、
を備える半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第2導電型層は、前記シンカー層より不純物濃度が低い半導体装置。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体装置において、
前記第2導電型層の不純物濃度は、前記シンカー層の不純物濃度の10%以下である半導体装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の半導体装置において、
前記エミッタ層及び前記第1導電型層は、平面視において、第1の方向に延伸する辺が互いに対向しており、
前記第2導電型層は、前記第1の方向に延伸している半導体装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の半導体装置において、
前記エミッタ層及び前記第1導電型層は、平面視において、第1の方向に延伸する辺が互いに対向しており、
複数の前記第2導電型層が、前記第1の方向に沿って島状に配置されている半導体装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体装置において、
前記第2導電型層は、前記第1の方向と直交する方向の幅が、前記ベース層と前記第1導電型層の間隔の半分以下である半導体装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の半導体装置において、
前記エミッタ層と前記第1導電型層を分離する素子分離膜をさらに備え、
前記第2導電型層は、前記素子分離膜の下に位置している半導体装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の半導体装置において、
前記シンカー層は、前記エミッタ層、前記高濃度ベース層、前記第1導電型層、及び前記第2導電型層を囲んでいる半導体装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の半導体装置において、
前記低濃度コレクタ層に形成され、平面視で前記ベース層を介して前記第2導電型層とは逆側で前記ベース層に接続しており、前記ベース層よりも不純物濃度が低い低濃度ベース層をさらに備える半導体装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の半導体装置において、
前記基板と前記低濃度コレクタ層の境界に位置し、平面視で前記エミッタ層、前記高濃度コレクタ層、前記ベース層、前記第1導電型層、及び前記第2導電型層と重なる位置に形成され、前記シンカー層に接続し、前記低濃度コレクタ層より不純物濃度が高い第2導電型の埋込層を備える半導体装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の半導体装置において、
前記基板上に形成された埋込絶縁層を備え、
前記低濃度コレクタ層は、前記埋込絶縁層上に形成されている半導体装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−99626(P2012−99626A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245828(P2010−245828)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】