説明

外骨格型ロボット

【課題】従来の外骨格型ロボットにおいては、体幹・下肢部の運動支援を適切に行えない。また、電動モータや油圧アクチュエータを用いる事例があるが、大きな負荷を発生するものは装置の自重が大きい。また、負荷を支えるだけの場面においてもアクチュエータがエネルギーを消費するために、エネルギー効率が悪い。
【解決手段】ベースと下半身とを有する外骨格型ロボットであって、左右の足首、左右の膝、および腰の左右の各位置に配置されている能動の関節である能動関節と、能動関節を動作させる制御部とを具備し、能動関節は、エアマッスルと電動モータとを具備する外骨格型ロボットにより、上記の課題が解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外骨格型ロボットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、運動再建などを目的とし、脳情報によって外部のロボットデバイスの制御を行うブレインマシンインタフェース(BMI)に関する研究が注目を集めている(非特許文献1)。 一方、バランスや歩行が可能なロボットが開発されてきている。例えば、運動に必要な作用力を空間上の任意の複数接触点に最適に配分し,ヒトと同じように各関節のトルクを発生できるロボットが存在する(特許文献1参照)。
【0003】
従来のBMI研究では、モニタ上のカーソル制御やロボットアームの制御など、コミュニケーション手段を与えたり、上肢の運動再建を目指したりするものがほとんどであった。その一方で、潜在的な需要があるにもかかわらず、体幹・下肢部の運動支援を目指したBMIの研究は行われていなかった。体幹・下肢部運動支援のためのBMIを構築する難しさは、体幹・下肢部の運動に対する脳の制御メカニズムが十分に理解されていない上に、ヒトの歩行や姿勢調節時の運動能力に近い性能を持つ運動支援ロボットデバイスの構築が技術的に容易でなかったことがあげられる。
【0004】
それにもかかわらず、下肢・体幹運動の支援をめざした外骨格型ロボットがいくつか開発されている。外骨格型ロボットの代表的なものとしては、非特許文献2、3、4のものがあげられる。このうち、体重を支えるタイプでは、大型の電動モータまたは油圧シリンダが用いられており、ロボット本体の自重も相当大きい。一方、体重を支えないリハビリ用途としては、空圧式の人工筋肉(以下、エアマッスル、という。)を用いる事例が増えている(非特許文献5)。
【0005】
エアマッスルはその他のアクチュエータと比べて軽量で安価に製造可能で、空圧独特の柔らかさを持つ。その反面、遅れ、非線形性、個体のばらつきなどから、正確な制御には向いていないとされてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2007/139135号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Lebedev, M.A. and Nicolelis, M.A.:``Brain-machine interfaces past,present and future'',Trends in Neuroscience,vol.29,no.9,pp. 536-546,2006.
【非特許文献2】Jacobsen,S.:``On the Development of XOS,a Powerful Exoskeletal Robot'',IEEE/RSJ IROS,Plenary Talk,2007.
【非特許文献3】Kazerooni,H., Chu,A.,Steger, R.:``That Which Does Not Stabilize, Will Only Make Us Stronger'',The International Journal of Robotics Research,vol.26,no.1,pp.75-89,2007.
【非特許文献4】Suzuki,K.,Mito,G.,Kawamoto,H.,Hasegawa, Y.,Sankai,Y.:``Intension-based walking support for paraplegia patients with Robot Suit HAL'',Advanced Robotics,vol.21,no.12,pp.1441-1469,2007.
【非特許文献5】中川昭夫,他:``空気圧ゴム人工筋によるリハビリ支援ロボット'',フルードパワーシステム,vol.38,no.4,pp.194-198,2007.
【非特許文献6】Sardellitti1,I.,Park,J.,Shin,D.,Khatib,O.,``Air muscle controller design in the distributed Macro-Mini (DM2) actuation approach'',IEEE/RSJ IROS,pp.1822-1827,2007.
【非特許文献7】中田毅, 桜井康雄, 田中和博: ``電気・空気圧複合駆動システムとその制御法に関する研究'', 日本フルードパワーシステム学会論文集, vol.39, no.1, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明において、空圧と電動のハイブリッド駆動方式の外骨格ロボットを提案することにより、体幹・下肢部の運動支援を適切に行うことを目的とする。
【0009】
上述のように、エアマッスルは軽量、低摩擦で、かつ大きな力が発生可能であるため、人に装着する外骨格ロボットのアクチュエータとしては魅力的な点を持つ反面、時間遅れやばらつきを持つ大きな非線形性を持つがゆえに、正確かつ俊敏なトルク制御には向いていない。そこで、エアマッスルと電動モータを組み合わせることでエアマッスルの短所を改善しようとする試みが非特許文献6で述べられている。
【0010】
しかしながら、これをそのまま体幹・下肢部の運動支援を行う外骨格ロボットに適用するには問題がある。なぜなら、非特許文献6の技術においては、2つのエアマッスルを用いて拮抗駆動しているが、この場合、ストロークと力の関係から、可動域が非常に狭くなってしまうか、または大きいトルクが発生できないからである。なお、エアシリンダに電動モータを組み合わせる駆動方式そのものは、既に非特許文献7において研究されている。
【0011】
そこで、本発明においてはロボットの力学とエアマッスルの出力特性を考慮したエアマッスルの最適配置を行うことで、軽量かつ実用に耐えうる外骨格ロボットを実現する。
【0012】
つまり、本発明は、従来の技術には無い、ハイブリッド駆動式の外骨格ロボットである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本第一の発明の外骨格型ロボットは、ベースと下半身とを有する外骨格型ロボットであって、左右の足首、左右の膝、および腰の左右の各位置に配置されている能動の関節である能動関節と、能動関節を動作させる制御部とを具備し、能動関節は、エアマッスルと電動モータとを具備する外骨格型ロボットである。本ロボットにおいては、ロボットの力学とエアマッスルの出力特性を考慮し、関節に大きなトルクが必要なときにエアマッスルが大きな力を発生できるよう、各所のエアマッスルが最適に配置されている。
【0014】
かかる構成により、体幹・下肢部のトルク制御を適切に行える。なお、適切とは、俊敏、高負荷、高精密のことである。
【0015】
また、本第二の発明の外骨格型ロボットは、第一の発明に対して、制御部は、第一の閾値よりも高周波であるトルクに対してエアマッスルと電動モータを動作させ、第一の閾値よりも低周波であるトルクに対してエアマッスルのみを動作させる外骨格型ロボットである。
【0016】
かかる構成により、体幹・下肢部のトルク制御を適切に行える。
【0017】
また、本第三の発明の外骨格型ロボットは、第一の発明に対して、制御部は、第二の閾値より低負荷であるトルクに対してエアマッスルのみを動作させ、第二の閾値よりも高負荷であるトルクに対してエアマッスルと電動モータとを動作させる外骨格型ロボットである。
【0018】
かかる構成により、体幹・下肢部のトルク制御を適切に行える。
【0019】
また、本第四の発明の外骨格型ロボットは、第二または第三の発明に対して、制御部は、第二の閾値より低負荷であり、かつ第一の閾値よりも低周波であるトルクに対してエアマッスルのみを動作させ、第二の閾値より高負荷であり、かつ第一の閾値よりも高周波であるトルクに対してエアマッスルと電動モータとを動作させる外骨格型ロボットである。
【0020】
かかる構成により、体幹・下肢部のトルク制御を適切に行える。
【発明の効果】
【0021】
本発明による外骨格型ロボットによれば、体幹・下肢部の運動支援を適切に行える。また、本ロボットは、軽量なエアマッスルの恩恵により、同出力の他の駆動方式によるロボットと比べて遥かに軽量であり、エアバルブを閉じればエアマッスルのバネ特性により、エネルギー消費なしで高負荷を維持できるため、他の駆動方式と比べてエネルギー効率が極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施の形態1における外骨格型ロボットの試作機のモデルを示す図
【図2】同外骨格型ロボットのブロック図
【図3】同外骨格型ロボットの自由度構成を示す図
【図4】同ハイブリッド駆動の特徴を示すグラフ
【図5】同ハイブリッド駆動の能動関節の模式図
【図6】同ハイブリッド駆動の能動関節の模式図
【図7】同実験において用いたリンク機構を示す図
【図8】同実験結果を示す図
【図9】同実験中のスナップショットを示す図
【図10】同実験データを示す図
【図11】同空電ハイブリッド駆動と他の方式との比較を示す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、外骨格型ロボット等の実施形態について図面を参照して説明する。なお、実施の形態において同じ符号を付した構成要素は同様の動作を行うので、再度の説明を省略する場合がある。
(実施の形態1)
【0024】
本実施の形態において、歩行・姿勢リハビリテーションのための空電ハイブリッド式の外骨格型ロボットについて説明する。
【0025】
この外骨格型ロボットは、外骨格を有する。外骨格とは、骨格構造のことである。外骨格型ロボットは、ベースと下半身とを有し、足首、膝、腰の左右の位置に、能動6自由度の関節を有するロボットである。また、当該6つの関節は、空電ハイブリッド駆動の関節である。
【0026】
図1は、本実施の形態における外骨格型ロボット1の構成事例を示す図である。本外骨格型ロボット1は、10自由度である。図1において、(a)(b)は、異なる角度から見た外骨格型ロボット1の斜視図である。図1において、外骨格型ロボット1は、バックパック101、柔軟シート102、HAA拮抗筋103、HFE伸筋104、HFEモータ111、KFE伸筋105、KFEモータ106、AFE伸筋・AAA拮抗筋107、AFE屈筋108、ユニバーサルジョイント109、プーリー付回転関節110を具備する。
【0027】
また、ユニバーサルジョイント109には、ワイヤー式エンコーダを取り付け、関節角度を計測する。プーリー付回転関節110も同様にワイヤー式エンコーダを取り付ける。なお、ハイブリッド関節であるHFEおよびKFE関節においては、モータ付属のエンコーダを用いて関節角度を計測してもよい。
【0028】
また、図2は、外骨格型ロボット1の自由度構成図を示している。図1において、HFEとKFE関節のみハイブリッド駆動としているが、全てをハイブリッド駆動とする等、その他の構成もあり得ることは言うまでもない。また、図1において、全10自由度のうち、左右のHAA関節とAFE、AAA関節は伸筋と屈筋による拮抗駆動を採用している。可動角と必要トルクが大きくないときに、電動モータを併用するより軽量化が可能である。図1において、特に、AFE、AAA関節は上部の関節よりサイズの小さい3本のエアマッスルを協調させて可動としている。いずれも、電動モータを併用しない分、応答性が犠牲になる。
【0029】
このことについて以下に補足する。姿勢制御のように、全体のパフォーマンスが重要となる運動例においては、以下のような構成があり得る。例えば、AFE関節を適度に共縮させておけば、HFEとKFEの精密かつ動的なトルク制御で十分バランスをとることが可能である。なお、AFE関節を適度に共縮させることは、2つの拮抗筋を共に収縮させることである。そして、このとき関節はバネのような特性を持つ。また、実際、AFE関節トルクが零であっても、動的バランスが可能であることは実証されている。
【0030】
図1において、胴体部には姿勢センサを搭載してベース部の姿勢を検出している。また、全ての関節にワイヤー式エンコーダを取り付け、関節角度を計測できるようにしている。本構成例においては、全身運動制御アルゴリズムとして、特許文献1と同様の方法を実装することを想定している。この場合、ベースの姿勢と関節角度を検出することではじめて、重心から接触部への正確なヤコビ行列が算出でき、各関節に発生させる目標トルクが算出できる。
【0031】
また、足底部には、床反力センサを搭載している。これは接触を想定する足底部が実際に接触しているかどうかの判定するため、およびヤコビ行列に含まれるモデル誤差を修正するために補助的に使用する。本方法は、姿勢制御を床反力センサからのフィードバック情報に全面的に依存する従来型の制御方法とは本質的に異なる。なお、従来型の制御方法は、位置制御型の力フィードバック制御である。
【0032】
また、バックパック101内には制御器の他、エアマッスルのバルブおよび電動モータのドライバを内蔵している。また、バッテリーと圧搾したCO2ガスボンベ、レギュレータを搭載し、電源ラインとエア供給が断絶した場合に備え、短時間の自律駆動を可能にしている。なお、本ロボットはペイロードが十分であるため、騒音が問題にならない場合は、小型の空圧ポンプをここに搭載しても良い。その場合は、CO2ガスボンベは不要である。
【0033】
また、図3は、外骨格型ロボット1のブロック図の例である。
【0034】
外骨格型ロボット1は、受付部11、外骨格12、制御部13を具備する。また、外骨格12は、ベース121、下半身122、能動関節123、検出機構124を具備する。さらに、能動関節123は、エアマッスル1231、電動モータ1232を具備する。また、制御部13は、記録手段131、記憶手段132、計測手段133、制御手段134、出力手段135を具備する。
【0035】
受付部11は、他の計算機から指令された、あるいは、脳情報から復号化されたトルクまたは位置指令等を受け付けることができる。ここで、受け付けとは、通常、有線もしくは無線の通信回線を介して送信された情報の受信、光ディスクや磁気ディスク、半導体メモリなどの記録媒体から読み出された情報の受け付けなどを含む概念である。また、脳情報とは、例えば、右足を上げることを示す情報や、歩くことおよび歩く速度を示す情報、さらには、特定の関節のトルク値を含む、体幹・下肢部の運動を規程する情報である。なお、受付部11は、制御部13の一部であると考えても良い。
【0036】
外骨格12を構成する材料は、問わない。
【0037】
ベース121は、腰の位置の骨格、腰の位置の能動関節123を含むと考えても良いし、腰の位置の骨格のみであると考えても良い。
【0038】
下半身122は、腿や足の位置の骨格、腿や足の位置の能動関節123を含むと考えても良いし、腿や足の位置の骨格のみであると考えても良い。
【0039】
能動関節123は、左右の足首、左右の膝、および腰の左右の各位置に配置されている能動の関節である。ここで、能動関節123とは、アクチュエータで能動的に動作することのできる関節である。つまり、能動関節123は、アクチュエータを具備する。また、ここでの1以上の能動関節123は、ハイブリッド型である。つまり、能動関節123は、エアマッスル1231、電動モータ1232を具備するハイブリッド型である。また、ここでの能動関節123は、例えば、10自由度を構成する。なお、アクチュエータは、制御目標値となるトルク値を駆動信号として受け付け、受け付けたトルク値に基づいて制御する機能を有している。アクチュエータは、サーボモータ、油圧モータ等、その種類を問わない。アクチュエータは、例えば、電流制御が可能な駆動回路を有し、電流に比例したトルクを発生させるサーボモータでは、制御目標値として入力されたトルク値に、ギヤ比により決定されるトルク定数を乗じて駆動回路に指令することで入力されたトルクを発生させるトルク制御を実現する。特に、能動関節123にトルクセンサを配設し、当該トルクセンサにより検出した値を駆動回路にフィードバックすることにより、高精度のトルク制御が可能となる。また回動型に限らず、油圧シリンダ等の直動型のアクチュエータを用いることも可能である。
【0040】
検出機構124は、ロボットの状態を検出する。検出機構124は、例えば、各関節に配置されたエンコーダ、足平に配置された床反力センサ、骨盤部に配置されたジャイロセンサなどである。検出機構124は、関節の角度を検出する角度センサや、ロボットの姿勢を取得する姿勢センサ、外力センサなどでも良い。
【0041】
制御部13は、能動関節123を動作させる。制御部13は、受付部11が受け付けたトルクまたは位置指令等に対応して、能動関節123を動作させる。制御部13は、例えば、目標とする床作用力を、ヤコビ行列にて規定される順運動学モデル等に基づいて、各能動関節123を駆動する夫々のアクチュエータの夫々のトルク値に変換し、変換した夫々のトルク値を各アクチュエータに制御目標値として出力する。制御部13がアクチュエータに出力する制御目標値を決定するアルゴリズムは問わない。例えば、特許文献1に記載されている。
【0042】
制御部13は、第一の閾値よりも(「より」は「以上」も含む、とする)高周波であるトルクに対して電動モータ1232を追加動作させることは好適である。なお、追加動作とは、エアマッスル1231に加えて電動モータ1232を動作させることである。また、制御部13は、第二の閾値より高負荷であるトルクに対して電動モータ1232を追加動作させることは好適である。また、制御部13は、第一の閾値より高周波であり、かつ第二の閾値よりも高負荷であるトルクに対して電動モータ1232を追加動作させることは好適である。ここで、高周波のトルクとは、例えば、運動成分のトルクである。また、高負荷のトルクとは、例えば、重力成分(重力補償)以上のトルクである。つまり、制御部13は、重力成分(重力補償)のトルクに対して、エアマッスル1231のみを用いて、運動成分のトルクに対して、エアマッスル1231と電動モータ1232とを用いることは好適である。ここで、第一の閾値は、例えば、3Hzである。また、第二の閾値は、例えば、100Nmである。
【0043】
制御部13は、通常、MPUやメモリ等から実現され得る。制御部13の処理手順は、通常、ソフトウェアで実現され、当該ソフトウェアはROM等の記録媒体に記録されている。但し、ハードウェア(専用回路)で実現しても良い。
記録手段131は、制御に要するプログラム及びデータ等の情報を記録している。記録手段131は、例えば、上記の第一の閾値、および第二の閾値を保持している。記録手段131は、ROM、EPROM、ハードディスク等の記録媒体により実現され得る。
【0044】
記憶手段132は、プログラムの実行により発生するデータを一時的に記憶する。記憶手段132は、RAM等の記録媒体により実現され得る。
【0045】
計測手段133は、センサ等の検出機構124から検出結果を示す様々な信号(データ)を受け付ける。
【0046】
制御手段134は、制御目標値の算出等の様々な演算を行う。制御手段134が行う演算は問わない。制御手段134の演算方法については後述する。
【0047】
出力手段135は、能動関節123に信号を出力する。出力手段135は、例えば、目標とするトルク値を能動関節123に出力する。
【0048】
以下、本実施の形態における外骨格型ロボット1の試作機について説明する。外骨格型ロボット1の試作機は、歩行・姿勢リハビリテーションのためのロボットである。外骨格型ロボット1の試作機のモデル図は、図1である。
【0049】
外骨格型ロボット1は、ハードウェアとして、以下の(a)から(c)の要件を備える。
(a)十分な力と速度が発揮できること
(b)リハビリ施設等に導入できて、広い空間で稼動すること
(c)誰でも扱い易いように本体が軽量であること
【0050】
また、外骨格型ロボット1は、ソフトウェアとして、以下の(d)から(h)の要件を備える。
(d)正確なトルク制御ができること
(e)安全機能を持つこと
(f)基本的な自律運動が可能であること
(g)様々なリハビリプログラムを実装できること
(h)装着者の運動意図を素早く正確に抽出できること
【0051】
外骨格型ロボット1は、上述したように、駆動方式として空圧と電動のハイブリッド駆動方式を積極的に採用している。ここで、積極的とは、以下の3つのことを言う。(1)軽量であること、(2)正確なトルク制御ができること、(3)リンク機構の静力学を考慮したエアマッスルの最適配置。
【0052】
ここで、上記の(1)に関して、エアマッスルは同出力のモータ、エアシリンダ、油圧アクチュエータ等に比べて遥かに軽量である、また、電動モータとしては近年高性能化が目覚しい小型のブラシレスサーボモータが利用できる。外骨格型ロボット1の試作機では電源とエアコンプレッサは外部に据え置くが、上記の要件(b)には特に支障がない。
【0053】
上記の(2)に関して、人体に装着してヒト運動制御と親和性のあるリハビリプログラムを実施するのに必要不可欠である。とくに、全身の重力補償など、等身大ヒューマノイドロボット(M.Kawato,``From `Understanding the Brain by Creating the Brain' towards manipulative neuroscience,'' Philosophical Transactions of the Royal Society,vol.363,no.1500,pp.2201-2214,2008. 参照)で実績のある全身力制御アルゴリズム(玄相昊:``複数の接地部分と冗長関節を有するヒューマノイドロボットの受動性に基づく最適接触力制御'',日本ロボット学会誌,vol.27,no.2,pp.178-187,2009.、およびHyon,S.,Morimoto,J.and Kawato,M.,``From compliant balancing to dynamic walking on humanoid robot: Integration of CNS and CPG'',IEEE ICRA,2010 (in press).参照)を援用することが有効と考えられる。本アルゴリズムは関節トルクが正確に制御できることを前提としている。外骨格型ロボット1は、高負荷、低周波トルクをエアマッスルに担当させ、低負荷、高周波トルクを電動モータに担当させることで、複合的にトルク制御の精度を高めることができる。例えば、前者を重力成分(静力学)、後者を運動成分(動力学)に割り当てる。また、エアマッスルはエアシリンダのようなスティックスリップが存在しないため、本来的には動きは非常に滑らかである。
【0054】
上記(3)に関して、外骨格型ロボット1は、装着者とロボット両方の自重を100%支持するために高負荷にさらされるが、基本的に直立姿勢では重力トルクはほとんど不要である。そこで、エアマッスルの変位と推力との関数関係をリンク機構の静力学と適切にマッチングさせれば、出力を犠牲にすることなく、メカ全体の軽量化が可能となる。
【0055】
図2は、外骨格型ロボット1の自由度構成を示す情報である。
【0056】
ここでは、外骨格型ロボット1の試作機の仕様は、次の通りである。
(1)ベースと下半身を含み、足首、膝、腰のPitch軸の合計6能動自由度と腰と足首の4能動自由度を加えた合計10能動自由度を有する(図2参照)。
(2)能動関節は全て空電ハイブリッド駆動関節とする。空電ハイブリッド駆動関節とは、エアマッスル1231、電動モータ1232を有する関節である。
(3)身長170cmの平均的な日本人に装着可能とし、それを基準にリンク長の伸縮調整が可能とする。
(4)負荷アシスト率0%で、健常者の通常速度での歩行および往復1秒間のフルスクワットに抵抗なく追従する。
(5)負荷アシスト率0%で、動的バランスを取りながら往復2秒間のフルスクワットを可能とする。
【0057】
外骨格型ロボット1は、センサとして、各関節にエンコーダ、足平に床反力センサ、骨盤部にジャイロセンサを搭載する。また、装着者に取り付ける筋電センサと体内配線を有する。制御部13(コントローラとも言う)は、関節角、床反力、ジャイロから値を読み取り、関節トルク目標値を各軸(各能動関節123)のエアバルブ(エアマッスル1231を動作させるためのバルブ)とサーボドライバ(電動モータ1232を動作させるドライバ)に指令する。そして、制御部13は、エアマッスル1231と電動モータ1232を動作させることとなる。
【0058】
なお、能動関節123は、上述したように、空電ハイブリッド型である。つまり、能動関節123のエアマッスル1231と電動モータ1232とが、周波数と負荷の大きさに応じて協調することで、望ましいトルク制御性を確保できる。また、エアマッスル1231は、図2、図3等に示すように、左右の足首、左右の膝、および腰の左右の各位置に配置されている。つまり、エアマッスル1231は、最適に配置されている。そのため、高いエネルギー効率、および制御の単純化を実現できる。
【0059】
以下、さらに空電ハイブリッド型の能動関節123の効果について説明する。図4は、能動関節123が実現するハイブリッド駆動の特徴を示すグラフである。図4において、縦軸がトルク、横軸が時間である。図4の破線(41)が電動モータ1232による発生トルクの曲線、図4の一点鎖線(42)がエアマッスル1231による発生トルクの曲線、図4の実線(43)が総トルクの曲線である。図4の実線(43)は、ある運動に必要なトルク(目標トルク)を示す。図4の実線(43)は、素早い運動では、目標トルクが動的に変化することを示している。図4の411は、電動モータ1232が得意とする瞬発的な立ち上がりトルクを示す。412は、電動モータ1232による精密トルク制御によるエアマッスルの定常誤差補償を示す。また、図4の421は、エアマッスル1231特有の遅れを示す。また、図4の42の曲線は、エアマッスル1231による、雑であるが大きいトルクの継続的な発生を可能とすることを示す。
【0060】
また、図5および図6は、ハイブリッド駆動の能動関節123の模式図である。図5は、関節のエアマッスル1231が自然長のときの状態の模式図であり、図6は関節のエアマッスル1231が最大収縮時の状態の模式図である。51、52は、ロボットのリンクである。53は、プーリーである。54は、ワイヤーである。図5の状態から、エアマッスル1231にエアを入れると最大収縮力が発生し、大きなトルクでリンクを伸ばすことができる。また、図6の状態から、エアマッスル1231にエアを入れても収縮力は小さい。なお、図6の状態において、トルクは必要ない。
(実験結果)
【0061】
ハイブリッド駆動方法の有効性を確認するために、片足を模したテスト装置を試作し、性能評価ならびに簡単な同定実験を行った。
【0062】
実験において、図7に示すような簡単なリンク機構を製作した。図7において、外骨格型ロボット1は、大腿、下腿、底板、可動天板からなっており、天板は四方のガイドによって上下方向に滑らかに拘束されている。質量は天板が12kg、大腿部が7kg、下腿部が2kgである。また、リンク長は0.47mである。ここでは、電動モータ1232は膝関節にのみ配置されている。ギヤヘッド付のDCサーボモータであり、ベルトプーリーを介して膝を駆動する。電流5Aで約20Nmのトルクが発生可能である。一方、エアマッスル1231は、膝と足首に装着されている。つまり、膝だけが空電ハイブリッド駆動となっている。膝のエアマッスル1231として、フェスト社のDSMP40−200(基本長200mm)を採用した。これは基本長において、最大圧力0。6MPaで6000Nもの収縮力を発揮できる。エアマッスル1231の先端はワイヤーとプーリーを介して下腿リンクに接続されている。プーリー半径が404mmであるため、このエアマッスル1231一つで計算上は最大で240Nmものトルクが発揮できることになる。アクチュエータ質量は高々0.75kgであるため、他のアクチュエータと比べてトルク・重量比において圧倒的に優位である。しかし、最大収縮においては、圧力に関わらず推力がほぼ零になり、トルクが発揮できない。そこで、この変位−推力特性とリンク機構の静力学とを考慮して最適にエアマッスルを配置することで望ましい性能を持たせることが肝要である。この外骨格型ロボット1では装着者の体重を支えることが最も基本的なアプリケーションの一つであるが、重力トルクはロボットが低姿勢にいるときは大きく、直立状態では小さい。そこで、低姿勢においてエアマッスルが基本長となるようにワイヤーの端点を調整することで(必要に応じてプーリーの形状も変更)、全範囲でフラットな出力特性を持たせることができる。
【0063】
制御部13は、数式1によって得られる重力補償トルクとエアマッスルの変位から必要圧力を計算し、電空比例弁によって圧力制御を行う。なお、実際の配管を考慮し、バルブとエアマッスル間は1m程度離している。実験の結果、天板が手で滑らかに上下することを確認した。すなわち、良好なトルク性能を持つことを確認した。さらに足首のエアマッスルを用いれば20kg以上の錘を載せても同様に重力補償できることを確認した。
【0064】
数式2におけるタスク目標として、目標高さz(−はzの真上に存在する)を1HzのCOS関数で与えてスクワット制御を行った。図8に実験結果を示す。ここでは、まず、制御部13は、作業空間内での制御(重力補償とフィードバック制御)をエアマッスル1231のみで行い、後半で電動モータ1232をONにした。ここでは、電動モータ1232はzを関節目標軌道q(−はqの真上に存在する)に変換したものを追従制御している。図8によれば、電動モータ1232をONにした後、明らかに軌道追従性が向上している(図8の各グラフの横軸の6以降を参照)。これはエアマッスル1231の遅れを電動モータ1232が補償したことを示している。図9に実験中のスナップショットを示す。エアマッスルは最下点でほぼ自然長であり、最上点では約30%収縮している。
【0065】
次に、スクワット運動の同定実験を行った。エアマッスル1231は重力補償のみとし、電動モータ1232だけでスクワット制御を行った。これはモータトルクを装着者による発生トルクとみなして、装着者の運動を同定する場面を想定している。ただ、シミュレーションとは異なり、X方向の運動が拘束されているため、自由度はたった1つであり、問題はトリビアルである。実験データを図10に示す。同定信号として入力に標準偏差100のガウシアンノイズを重畳している。部分空間法と呼ばれるシステム同定アルゴリズムを適用した結果、極を0.9995+0.0315i、0.9995−0.0315iとする単振動系として同定された。ロボットのダイナミクスのうち、既知の静力学は補償されているので、それ以外のダイナミクスを近似していると言える。
【0066】
以上、本実施の形態によれば、空圧の人工筋(エアマッスル1231)と電動モータ1232とを組み合わせることで、歩行や姿勢の機能回復やアシストに必要な高負荷トルクを正確に制御できる外骨格ロボットを提供できる。
【0067】
また、本実施の形態によれば、必要十分な大きさと正確さのトルクを発揮できるため、仮にマネキンをロボットに搭載したとしても、自律制御によって自在に姿勢制御および歩行が可能である。
【0068】
なお、本実施の形態において採用した能動関節123の空電ハイブリッド駆動は、図10に示すように、他の方式である電動式、空圧式、油圧式と比べて、非常に優れている。つまり、空電ハイブリッド駆動は、電動式と空圧式の良いところを統合した方式である。
【0069】
また、本実施の形態によれば、エアマッスル1231が最適に配置されているため、高いエネルギー効率、および制御の単純化を実現できる。
【0070】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上のように、本発明にかかる外骨格型ロボットは、体幹・下肢部の運動支援を適切に行えるという効果を有し、歩行や姿勢のリハビリテーションのための外骨格型ロボット等として有用である。中に人が入らないような構造とすれば、自律型ヒューマノイドロボットとしても運用可能であることは言うまでもない。アクチュエータのサイズアップも容易であるため、工場内の運搬、建築工事、環境保全、災害救助などの分野で活躍する、重負荷用ロボットに応用が可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 外骨格型ロボット
11 受付部
12 外骨格
13 制御部
121 ベース
122 下半身
123 能動関節
124 検出機構
131 記録手段
132 記憶手段
133 計測手段
134 制御手段
135 出力手段
1231 エアマッスル
1232 電動モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと下半身とを有する外骨格型ロボットであって、
左右の足首、左右の膝、および腰の左右の各位置に配置されている能動の関節である能動関節と、
前記能動関節を動作させる制御部とを具備し、
前記能動関節は、
エアマッスルと電動モータとを具備する外骨格型ロボット。
【請求項2】
前記制御部は、
第一の閾値よりも高周波であるトルクに対して前記エアマッスルと前記電動モータとを動作させ、
前記第一の閾値よりも低周波であるトルクに対して前記エアマッスルのみを動作させる請求項1記載の外骨格型ロボット。
【請求項3】
前記制御部は、
第二の閾値より高負荷であるトルクに対して前記エアマッスルのみを動作させ、
前記第二の閾値よりも低負荷であるトルクに対して前記エアマッスルと前記電動モータとを動作させる請求項1記載の外骨格型ロボット。
【請求項4】
前記制御部は、
第二の閾値より高負荷であり、かつ第一の閾値よりも低周波であるトルクに対して前記エアマッスルのみを動作させ、
前記第二の閾値より低負荷であり、かる前記第一の閾値よりも高周波であるトルクに対して前記エアマッスルと前記電動モータとを動作させる請求項2または請求項3記載の外骨格型ロボット。

【図1】
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【図3】
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【図11】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−45194(P2012−45194A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190485(P2010−190485)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月2日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告 Vol.109 No.461」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)文部科学省、平成22年度科学技術試験研究委託事業「日本の特長を活かしたBMIの統合的研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】