説明

振動アクチュエータ、レンズ鏡筒、カメラ及び振動アクチュエータの製造方法

【課題】振動体の表面に形成された膜のラッピング時における過度な研削が防止される振動アクチュエータ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の振動アクチュエータ(10)は、振動波を生じる振動体(11)と、前記振動体(11)と加圧接触することにより前記振動波によって駆動される相対移動部材(15)と、を備える振動アクチュエータ(10)であって、前記振動体(11)の前記相対移動部材(15)側の面(30)は、表面に膜(31)が形成され、前記膜(31)を介して前記相対移動部材(15)と接触する接触部(32)と、前記接触部(32)よりも前記相対移動部材(15)側へ突き出した突出部(34)が設けられ、前記相対移動部材(15)と接触しない非接触部(33)と、を備えること、を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動体に振動波を生じさせることにより相対移動部材を駆動する振動アクチュエータ、レンズ鏡筒、カメラおよび振動アクチュエータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
振動アクチュエータは、圧電体の伸縮を利用して振動子の駆動面に進行性振動波(以下、進行波という)を発生させ、この進行波によって駆動面に楕円運動を生じさせ、楕円運動の波頭に加圧接触した移動子を摩擦により駆動するものである。
【0003】
この振動アクチュエータにおける振動子の表面には、摩擦接触面の摩擦低減等の理由により、高分子材料の潤滑塗装膜が形成されている(特許文献1参照)。この潤滑塗装膜は、塗装しただけでは凹凸が残り、伝達効率の低下や振動の原因となるため、表面にラッピング処理が施され、表面が平らにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−117182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、潤滑塗装膜は柔らかいため、ラッピング処理時に過度な研削により下地の材料が表面に出てしまうことがある。
【0006】
本発明の課題は、振動体の表面に形成された膜のラッピング時における過度な研削が防止される振動アクチュエータ、レンズ鏡筒、カメラ及び振動アクチュエータの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のような解決手段により前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために、本発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、これに限定されるものではない。
請求項1に記載の発明は、振動波を生じる振動体(11)と、前記振動体(11)と加圧接触することにより前記振動波によって駆動される相対移動部材(15)と、を備える振動アクチュエータ(10)であって、前記振動体(11)の前記相対移動部材(15)側の面(30)は、表面に膜(31)が形成され、前記膜(31)を介して前記相対移動部材(15)と接触する接触部(32)と、前記接触部(32)よりも前記相対移動部材(15)側へ突き出した突出部(34)が設けられ、前記相対移動部材(15)と接触しない非接触部(33)と、を備えること、を特徴とする振動アクチュエータ(10)である。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の振動アクチュエータ(10)であって、前記振動体(11)の前記相対移動部材(15)側は櫛歯状になっており、前記面(30)は前記櫛歯の最も前記相対移動部材(15)側の部分であること、を特徴とする振動アクチュエータ(10)である。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の振動アクチュエータ(10)であって、前記振動体(11)は円環形状であり、前記非接触部(33)は前記円環と同軸の円周に沿って複数設けられていること、を特徴とする振動アクチュエータ(10)である。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の振動アクチュエータ(10)であって、前記非接触部(33)において、前記突出部(34)が設けられている部分の面積は前記非接触部(33)が設けられていない部分の面積より小さいこと、を特徴とする振動アクチュエータ(10)である。
請求項5に記載の発明は、振動体(11)の面(30)上に、第1の部分(32)と該第1の部分(32)よりも突き出した第2の部分(33)を形成するステップと、前記第1の部分(32)と前記第2の部分(33)とに膜(31)を形成するステップと、前記膜(31)が形成された前記第1の部分(32)と前記第2の部分(33)とを研磨して前記膜(31)を平坦にするステップと、前記振動体(11)の前記第1の部分(22)に相対移動部材(15)を接触させるステップとを有し、前記平坦にするステップにおいて前記膜(31)は、前記第2の部分(33)により前記第2の部分(33)の高さを超えて研磨されることが防止されていること、を特徴とする振動アクチュエータ(10)の製造方法である。
請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の振動アクチュエータ(10)を有するレンズ鏡筒(3)である。
請求項7に記載の発明は、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の振動アクチュエータ(10)を有するカメラ(1)である。
なお、符号を付して説明した構成は、適宜改良してもよく、また、少なくとも一部を他の構成物に代替してもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、振動体の表面に形成された膜のラッピング時における過度な研削が防止される振動アクチュエータ、レンズ鏡筒、カメラ及び振動アクチュエータの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態の超音波モータの断面図である。
【図2】弾性体の上面図である。
【図3】潤滑塗装膜の形成方法を示す図である。
【図4】変形形態の弾性体を示す図である。
【図5】本実施形態の超音波モータを備えるカメラを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明にかかる振動アクチュエータの実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、振動アクチュエータとして、超音波の振動域を利用した超音波モータを例にして説明する。
(実施形態)
【0011】
図1は、第1実施形態の超音波モータ10の断面図である。超音波モータ10は、振動子11、移動子15、出力軸18、加圧部材19等を備え、振動子11側を固定とし、移動子15を回転駆動する形態となっている。
【0012】
振動子11は、後述するように、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する圧電素子や電歪素子等の電気−機械変換素子(以下、圧電体と称する)13と、圧電体13が接合された弾性体12とを有する略円環形状の部材である。
【0013】
弾性体12は、後述するが、高弾性材料、例えば鉄系やステンレス鋼の金属材料によって形成され、その形状は、略円環形状である。この弾性体12は、櫛歯部12a、ベース部12b、フランジ部12cを有する。
【0014】
ベース部12bは、弾性体12の周方向に連続した部分であり、ベース部12bの櫛歯部12aとは反対側の面である接合面12eに、圧電体13が接合されている。フランジ部12cは、弾性体12の内径方向に突出した鍔状の部分である。このフランジ部12cにより、振動子11は、固定部材16に固定されている。
【0015】
圧電体13は、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する電気機械変換素子である。本実施形態では、圧電体13として圧電素子を用いたが、電歪素子等を用いてもよい。圧電体13は、略円環形状の部材であり、弾性体12の周方向に沿って2つの相(A相、B相)の電気信号が入力される範囲に分かれている。各相には、1/2波長毎に分極が交互となった要素が並べられている。A相とB相との間には、1/4波長分の間隔が空けられている。この圧電体13は、接着材等を用いて弾性体12と接合されている。
【0016】
フレキシブルプリント基板14は、その配線が圧電体13の各相の電極に接続されている。フレキシブルプリント基板14には、後述の増幅部104,105(図3参照)から駆動信号が供給され、この駆動信号によって、圧電体13が伸縮する。振動子11には、この圧電体13の伸縮により、弾性体12の駆動面に進行波が発生する。本実施形態では、4波の進行波が発生している。
【0017】
移動子15は、例えばアルミニウム、表面処理アルマイトで製造され、弾性体12の駆動面30に生じる進行波によって回転駆動される部材である。
出力軸18は、略円柱形状の部材である。出力軸18は、一方の端部がゴム部材23を介して移動子15に接しており、移動子15と一体に回転するように設けられている。
ゴム部材23は、ゴムにより形成された略円環形状の部材である。このゴム部材23は、ゴムによる粘弾性で移動子15と出力軸18とを一体に回転可能とする機能と、移動子15からの振動を出力軸18へ伝えないように振動を吸収する機能とを有しており、ブチルゴム、シリコンゴム、プロピレンゴム等が用いられている。
【0018】
加圧部材19は、振動子11と移動子15とを加圧接触させる加圧力を発生する部材であり、ギア部材4とベアリング受け部材21との間に設けられている。本実施形態では、加圧部材19は、圧縮コイルバネを用いているが、これに限定されるものではない。ギア部材4は、出力軸18のDカットに嵌まるように挿入され、Eリング等のストッパ22で固定され、回転方向及び軸方向に出力軸18と一体となるように設けられている。ギア部材4は、出力軸18の回転とともに回転する。
【0019】
また、ベアリング受け部材21は、ベアリング17の内径側に配置され、ベアリング17は、固定部材16の内径側に配置された構造となっている。加圧部材19は、振動子11を移動子15側へ、出力軸18の軸方向に加圧しており、この加圧力によって、移動子15は、振動子11の駆動面に加圧接触し、回転駆動される。なお、加圧部材19とベアリング受け部材21との間には、加圧力調整ワッシャーを設けて、超音波モータ10の駆動に適正な加圧力が得られるようにしてもよい。
【0020】
図2は弾性体12の上面図である。図2に示すように、櫛歯部12aは、圧電体13が接合される面とは反対側の面に、複数の溝12fが形成されている。この櫛歯部12aの先端面は、移動子15に加圧接触され、移動子15を駆動する駆動面30となる。櫛歯部12aを設ける理由は、圧電体13の伸縮により駆動面30に生じる進行波の中立面をできる限り圧電体13側へ近づけ、これにより駆動面30の進行波の振幅を増幅させるためである。
【0021】
また、櫛歯部12aの駆動面30における内周側には、円周に沿って均等に3箇所に(図2においては2箇所のみ図示)突出部34が形成されている。この突出部34が設けられている領域は、駆動面30における移動子15と接触しない非接触部33である。また、この突出部34の高さは、必要な潤滑塗装膜31の厚さと同程度とする。
【0022】
櫛歯部12aにおける駆動面30の非接触部33以外の領域は、非接触部33より面積の広い接触部32である。この接触部32の表面には、潤滑塗装膜31が形成されている。潤滑塗装膜31の材料は、エポキシウレタン、エポキシフェノール、ポリアミドイミド、ポリイミドなどの高分子材料である。このように潤滑塗装膜31を設けることにより、駆動面30の著しい損傷と磨耗分発生が防止され、振動アクチュエータ10の駆動時における異音の発生や駆動効率の低下が抑えられ、高付加での使用に耐えられるようになり、長寿命で安定した駆動性能が供給される。
【0023】
図3は潤滑塗装膜31の形成方法を示す図である。
まず、振動子11(櫛歯部12a)の表面30上に、平坦な接触部32と、接触部32よりも突き出した非接触部33(突出部34)を形成する。
次に、接触部32と非接触部33上に潤滑塗装膜31を塗布する。
【0024】
この際、図3(a)に示すように、潤滑塗装膜31は接触部32と非接触部33上に塗布されるが、表面には凹凸が発生している。この凹凸を除去して移動子と振動子との間の摩擦駆動を円滑にするため、次に、この凹凸を除去するラッピング処理を行う。なお、このラッピング処理は、機械または手動のいずれであってもよい。
【0025】
ここで、潤滑塗装膜31の材料は高分子材料であって柔らかい。このためラッピング処理を行う際に、ラップのしすぎで潤滑塗装膜31が過度に研削される可能性がある。そして過度の研削が行われると移動子15と櫛歯部12aとの間の表面30における接触部32おいて櫛歯部12aの下地の金属が露出し、潤滑効果が得られない可能性がある。
【0026】
しかし、本実施形態によると、櫛歯部12aの表面30の非接触部33に突出部34を設けた。この突出部34の高さは、必要とする潤滑塗装膜31の厚さと同程度である。これにより、ラッピングを行っていくと研磨部材は突出部34に接触し、潤滑塗装膜31が突出部34の高さを超えて研磨されることが防止される。
【0027】
図5は、本実施形態にかかる超音波モータ10を備えるカメラ1を説明する図である。カメラ1は、撮像素子を有するカメラボディ2と、レンズ7を有するレンズ鏡筒3とを備える。レンズ鏡筒3は、カメラボディ2に着脱可能な交換レンズである。なお、本実施形態では、レンズ鏡筒3は、交換レンズである例を示すが、これに限らず、例えば、カメラボディと一体型のレンズ鏡筒であってもよい。
レンズ鏡筒3は、レンズ7、カム筒6、ギア4,5、超音波モータ10等を備える。本実施形態では、超音波モータ10はφ15以下の小型振動波モータである。超音波モータ10は、カメラ1のフォーカス動作時にレンズ7を駆動する駆動源として用いられており、超音波モータ10から得られた駆動力は、ギア4,5を介してカム筒6に伝えられる。レンズ7は、カム筒6に保持されており、超音波モータ10の駆動力により、光軸方向Lに略平行に移動して、焦点調節を行うフォーカスレンズである。
図5において、レンズ鏡筒3内に設けられたレンズ群(レンズ7を含む)によって、撮像素子8の撮像面に被写体像が結像される。撮像素子8によって、結像された被写体像は電気信号に変換され、その信号をA/D変換することによって、画像データが得られる。
【0028】
以上、本実施形態によると以下の効果を有する。
(1)上述のように、本実施形態によると、ラッピングを行っていくと研磨部材は突出部34に接触し、潤滑塗装膜31が突出部34の高さを超えて研磨されることが防止される。従って、潤滑塗装膜31の厚さを適切な厚さにすることができる。
(2)櫛歯部12aの駆動面30において、円周に沿って均等に3箇所に突出部34が形成されているため、ラッピング時において、研磨部材の過度の研削を均等に防止することができ、潤滑塗装膜31の厚さを均等にすることができる。
(3)本実施形態では、突出部34を櫛歯部12aと一体的に形成する形態について説明したがこれに限定されず、例えば、別部材を櫛歯部12aの表面に取り付けても良い。
(4)突出部34は円柱形状としたがこの形状に限定されない。例えば、矩形のピン等であってもよい。
【0029】
(変形形態)
以上、説明した実施形態に限定されることなく、以下に示すような種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の範囲内である。
【0030】
(1)図4は、上述の実施形態の変形形態を示す図である。上述の実施形態では、櫛歯部12aの駆動面30における内周側に突出部34を形成したが、これに限定されない。例えば、外周側が、駆動面30における移動子15と接触しない非接触部34である場合は、図4に示すように、外周側に突出部34を設けてもよい。
(2)また、櫛歯部12aの駆動面30の3箇所に突出部34を設けたがこれに限定されず、3以上であってもよく、それ以下でもよい。
【符号の説明】
【0031】
1:カメラ、3:レンズ鏡筒、10:超音波モータ、11:振動子、15:移動子、30:駆動面、31:潤滑塗装膜、32:接触部、33:非接触部、34:突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動波を生じる振動体と、前記振動体と加圧接触することにより前記振動波によって駆動される相対移動部材と、を備える振動アクチュエータであって、
前記振動体の前記相対移動部材側の面は、
表面に膜が形成され、前記膜を介して前記相対移動部材と接触する接触部と、
前記接触部よりも前記相対移動部材側へ突き出した突出部が設けられ、前記相対移動部材と接触しない非接触部と、を備えること、
を特徴とする振動アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載の振動アクチュエータであって、
前記振動体の前記相対移動部材側は櫛歯状になっており、前記面は前記櫛歯の最も前記相対移動部材側の部分であること、
を特徴とする振動アクチュエータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の振動アクチュエータであって、
前記振動体は円環形状であり、前記突出部は前記円環と同軸の円周に沿って複数設けられていること、
を特徴とする振動アクチュエータ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の振動アクチュエータであって、
前記非接触部において、前記突出部が設けられている部分の面積は前記突出部が設けられていない部分の面積より小さいこと、
を特徴とする振動アクチュエータ。
【請求項5】
振動体の面上に、第1の部分と該第1の部分よりも突き出した第2の部分を形成するステップと、
前記第1の部分と前記第2の部分とに膜を形成するステップと、
前記膜が形成された前記第1の部分と前記第2の部分とを研磨して前記膜を平坦にするステップと、
前記振動体の前記第1の部分に相対移動部材を接触させるステップとを有し、
前記平坦にするステップにおいて前記膜は、前記第2の部分により前記第2の部分の高さを超えて研磨されることが防止されていること、
を特徴とする振動アクチュエータの製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の振動アクチュエータを有するレンズ鏡筒。
【請求項7】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の振動アクチュエータを有するカメラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−246272(P2010−246272A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92377(P2009−92377)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】