説明

振動波モータを有する駆動装置、回転部材支持機構

【課題】スラスト方向及びラジアル方向のいずれの方向においてもロータ部の回転を阻害することなく、かつ、確実に位置規制をすることができ、組み立ても容易な振動波モータを有する駆動装置、及び、回転部材支持機構を提供する。
【解決手段】ロータ部16をスラスト方向において回転可能に支持するスラスト方向支持ローラ44と、ロータ部16をラジアル方向において回転可能に支持するラジアル方向支持ローラ42と、これらを回転可能な状態で保持しながら自らも回転可能なローラ保持部材41を設ける。スラスト方向支持ローラ44は、たる形のローラとする。また、ラジアル方向支持ローラ42は、段付きローラとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波モータ等の振動波モータを有する駆動装置、及び、そのロータ部などを支持する回転部材支持機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
振動波モータが使用される例として、例えば、カメラ等に装着されるレンズ鏡筒において、略円環状の超音波モータを内蔵させたものが知られている。この種のレンズ鏡筒においては、電気機械変換素子を含んだ振動子(ステータ)とロータとを加圧接触させ、超音波モータに電気エネルギーを印加させ、機械エネルギーに変換して駆動力とし、レンズ群を駆動させて焦点調節等を行わせている。
【0003】
このような超音波モータにおけるロータは、上述の加圧力を受けながらも振動子の振動に応じて滑らかに回転する必要がある。また、回転方向以外の方向に対しては、正規の位置に規制されている必要があるが、ロータの内外周が位置規制のために摩擦負荷などを受けると、超音波モータの駆動効率が著しく低下してしまう。
したがって、ロータは、加圧方向(スラスト方向)、及び、径方向(ラジアル方向)のいずれの方向においても、回転を阻害する負荷を生じることなく位置が規制されている必要がある。
このような回転体を滑らかに回転可能に支持する場合には、転がり軸受け(ベアリング)が広く使われている。しかし、ベアリングを用いると、組み立てが困難となったり、コストアップに繋がってしまったりするという問題があった。
【0004】
この種の超音波モータを内蔵したレンズ鏡筒においてロータを支持する従来技術として、特許文献1、特許文献2がある。
特許文献1では、ベアリング、又は、コロによりスラスト方向の支持を行っている。
しかし、特許文献1では、ラジアル方向の位置を規制する部分に固体潤滑皮膜を設けて摩擦を小さくしているが、スラスト方向に比べてこのラジアル方向で発生する摩擦損失により駆動効率が低下するという問題があった。
また、スラスト方向に比べてこのラジアル方向の寿命が短いという問題があった。
【0005】
また、特許文献2では、スラスト方向用、及び、ラジアル方向用の2方向について、コロを用いる手法が開示されている。
しかし、特許文献2に記載の手法では、特許文献2の図8から見て明らかなように、多数のコロを連続的に並べて配置する必要があり、組み立てが困難であるという問題があった。
また、特許文献2に記載の手法では、ベアリングを使っていることと何ら変わりがなく、組み立てが困難な上に、コストアップを招いてしまうという問題があった。
【特許文献1】特開2004−208351号公報
【特許文献2】特開平1−231670号公報(図7,図8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、スラスト方向及びラジアル方向のいずれの方向においてもロータ部の回転を阻害することなく、かつ、確実に位置規制をすることができ、組み立ても容易な振動波モータを有する駆動装置、及び、回転部材支持機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のような解決手段により、前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために、本発明の実施例に対応する符号を付して説明するが、これに限定されるものではない。
請求項1の発明は、電気機械変換素子を含む振動子(11)と、前記振動子と相対的に回転するロータ部(16,19)と、前記振動子と前記ロータ部との間でスラスト方向に加圧力を働かせる加圧部(15)と、を含む振動波モータを有し、前記ロータ部をスラスト方向において回転可能に支持するスラスト方向支持ローラ(24,44)と、前記ロータ部をラジアル方向において回転可能に支持するラジアル方向支持ローラ(22,42)と、前記スラスト方向支持ローラとラジアル方向支持ローラとを回転可能な状態で保持しながら自らも回転可能なローラ保持部材(21,41)と、を備える振動波モータを有する駆動装置である。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の振動波モータを有する駆動装置において、前記スラスト方向支持ローラ(44)は、たる形のローラであること、を特徴とする振動波モータを有する駆動装置である。
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の振動波モータを有する駆動装置において、前記ラジアル方向支持ローラ(42)は、外径の大きな円筒面からなる大ローラ部(42a)、及び、前記大ローラ部よりも外径の小さな小ローラ部(42b)を有した段付きローラであり、前記大ローラ部は、前記ロータ部(16,19)の円筒状内壁面(19a)に接触可能に設けられ、前記小ローラ部は、前記ロータ部のラジアル方向の位置を決める基準となる基準部材(51)の外周円筒面(51a)に接触可能に設けられていること、を特徴とする振動波モータを有する駆動装置である。
請求項4の発明は、請求項3に記載の振動波モータを有する駆動装置において、前記基準部材(31)の外周円筒面(51a)には、前記ラジアル方向支持ローラ(42)の大ローラ部(42a)が接触しない様に逃げる逃げ部(51c)が形成されていること、を特徴とする振動波モータを有する駆動装置である。
請求項5の発明は、請求項3又は請求項4に記載の振動波モータを有する駆動装置において、前記ラジアル方向支持ローラ(42)の大ローラ部(42a)の半径をr4、前記ラジアル方向支持ローラの小ローラ部(42b)の半径をr3、前記ラジアル方向支持ローラの大ローラ部が接触する前記ロータ部(16,19)の円筒状内壁面(19a)の半径をr2、前記ラジアル方向支持ローラの小ローラ部が接触する前記基準部材(51)の外周円筒面(51a)の半径をr1としたときに、r3=(r2−r1)/(1+(r2/r1))、r4=r2−r1−r3の関係を満たすこと、を特徴とする振動波モータを有する駆動装置である。
請求項6の発明は、請求項1又は請求項2に記載の振動波モータを有する駆動装置において、前記ラジアル方向支持ローラ(42)は、前記ロータ部(19)の内径側において位置規制を行う内径側ローラ(62a)と、前記ロータ部のラジアル方向の位置を決める基準となる基準部材(51)の外周円筒面側において位置規制を行う外径側ローラ(62b)と、を備えること、を特徴とする振動波モータを有する駆動装置である。
【0009】
請求項7の発明は、略円環形状の回転部材(16,19)と、前記回転部材をスラスト方向において支持するスラスト方向支持ローラ(24,44)と、前記回転部材をラジアル方向において支持するラジアル方向支持ローラ(22,42)と、前記スラスト方向支持ローラと前記ラジアル方向支持ローラとを回転可能な状態で保持しながら自らも回転可能なローラ保持部材(21,41)と、を備える回転部材支持機構である。
請求項8の発明は、請求項7に記載の回転部材支持機構において、前記スラスト方向支持ローラ(44)は、たる形のローラであること、を特徴とする回転部材支持機構である。
請求項9の発明は、請求項7又は請求項8に記載の回転部材支持機構において、前記ラジアル方向支持ローラ(42)は、外径の大きな円筒面からなる大ローラ部(42a)、及び、前記大ローラ部よりも外径の小さな円筒面からなる小ローラ部(42b)を有した段付きローラであること、を特徴とする回転部材支持機構である。
請求項10の発明は、請求項7又は請求項8に記載の回転部材支持機構において、前記ラジアル方向支持ローラは、前記ロータ部(19)の内径側において位置規制を行う内径側ローラ(62a)と、前記ロータ部のラジアル方向の位置を決める基準となる基準部材(51)の外周円筒面側において位置規制を行う外径側ローラ(62b)と、を備えること、を特徴とする回転部材支持機構である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)ロータ部をスラスト方向において回転可能に支持するスラスト方向支持ローラと、ロータ部をラジアル方向において回転可能に支持するラジアル方向支持ローラと、スラスト方向支持ローラとラジアル方向支持ローラとを回転可能な状態で保持しながら自らも回転可能なローラ保持部材とを備えるので、スラスト方向及びラジアル方向の両方向においてロータ部の回転を阻害せずに確実に位置規制をすることができる。したがって、振動波モータに使用する場合には、効率の高い駆動をすることができる。また、ローラ保持部材に2種のローラが保持されているので、組み立ても容易に行うことができる。
【0011】
(2)スラスト方向支持ローラは、たる形のローラであるので、点接触によりスラスト方向の支持を行うことができ、不要な滑りが生じることがなく、ロータ部の回転時の抵抗をより少なくすることができる。
【0012】
(3)大ローラ部は、ロータ部の円筒状内壁面に接触可能に設けられ、小ローラ部は、ロータ部のラジアル方向の位置を決める基準となる基準部材の外周円筒面に接触可能に設けられているので、ラジアル方向支持ローラの回転速度とその接触面上におけるラジアル方向支持ローラの転がり速度との整合をとることができ、ロータ部の回転時の抵抗をより少なくすることができる。
【0013】
(4)基準部材の外周円筒面には、ラジアル方向支持ローラの大ローラ部が接触しない様に逃げる逃げ部が形成されているので、基準部材の形状を簡単で製造が容易な形状としながらも、大ローラ部と小ローラ部とを有したラジアル方向支持ローラを使用することができる。
【0014】
(5)r3=(r2−r1)/(1+(r2/r1))、r4=r2−r1−r3の関係を満たすので、ラジアル方向支持ローラの回転速度とその接触面上におけるラジアル方向支持ローラの転がり速度とを完全に一致させることができ、ロータ部の回転時の抵抗をより少なくすることができる。
【0015】
(6)ラジアル方向支持ローラは、ロータ部の内径側において位置規制を行う内径側ローラと、ロータ部のラジアル方向の位置を決める基準となる基準部材の外周円筒面側において位置規制を行う外径側ローラとを備えるので、簡単な形状の部品でありながら、ラジアル方向支持ローラの回転速度とその接触面上におけるラジアル方向支持ローラの転がり速度とを完全に一致させることができ、ロータ部の回転時の抵抗をより少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
スラスト方向及びラジアル方向のいずれの方向においてもロータ部の回転を阻害することなく、かつ、確実に位置規制をするという目的を、簡単な構成により安価に実現した。
【実施例1】
【0017】
図1は、実施例1における振動波モータを有する駆動装置の断面図である。
実施例1における振動波モータを有する駆動装置は、カメラのレンズ鏡筒に使用され、振動子11,弾性体12,圧電体13,振動吸収部材14,加圧部材15,ロータ部16,ロータ17,振動吸収部材18,ロータホルダ19,位置規制ユニット20,ローラ保持リング21,ラジアル方向支持ローラ22,スラスト方向支持ローラ24,支持部材31,押さえ環32等を有し、支持部材31の内部に配置される不図示のレンズ群を駆動する駆動力を発生する装置である。
【0018】
振動子11は、弾性体12と、弾性体12に接合され、後述する電気エネルギーを機械エネルギーに変換する圧電素子や電歪素子等を例とした電気機械変換素子(以下、圧電体と称する)13とから構成されている。この振動体11には、進行波が発生するが、本実施形態では、一例として、9波の進行波として説明する。
【0019】
弾性体12は、共振先鋭度が大きな金属材料からなり、その形状は、円環形状となっている。この弾性体12は、圧電体13が接合される面の反対面に、溝が切ってあり、突起部(溝がない箇所)の先端面が、駆動面となり、ロータ17に加圧接触される。
溝を切る理由は、進行波の中立面をできる限り圧電体13側に近づけ、これにより、駆動面の進行波の振幅を増幅させるためである。
【0020】
圧電体13は、円周方向に沿って2つの相(A相、B相)に対応する部分に分かれており、各相に対応する部分においては、1/2波長毎に分極が交互となった要素が並べられていて、A相に対応する部分とB相に対応する部分との間には、1/4波長分間隔が空くようにしてある。
【0021】
圧電体13の弾性体12が接合される面の反対側には、振動吸収部材14,加圧部材15が配置されている。振動吸収部材14は、圧電体13よりも押さえ環32側に配置されており、振動子11の振動を加圧部材15に伝えないようするための部材であり、例えば、不織布、フェルトなどが使用されている。加圧部材15は、振動吸収部材14と押さえ環32との間に配置されていて、加圧力を発生させる部材である。本実施例では、加圧部材15を皿バネとしたが、皿バネでなくとも、コイルバネやウェーブバネであってもよい。
【0022】
ロータ部16は、ロータ17,振動吸収部材18,ロータホルダ19を有しており、これらは、一体で回転するように不図示の係合部により円周方向において係合している。
ロータ17は、アルミニウム等の軽金属からなり、摺動面の表面には、耐摩耗性向上のための表面処理がなされている。
振動吸収部材18は、加圧方向の振動を吸収するゴムなどの振動を吸収する材料により形成されている。
ロータホルダ19は、ロータ17を位置規制しながらロータ17と一体で回転し、ロータホルダ19に形成された不図示の出力伝達部により回転駆動力を不図示のレンズ駆動部に伝える部材である。なお、ロータホルダ19自体の位置規制は、後述する位置規制ユニット20により行われている。
本実施例におけるロータホルダ19は、真鍮により形成されているが、樹脂成型により形成することもできる。
【0023】
図2は、位置規制ユニット20を示す図である。図2(a)は、図2(b)中の矢印B方向から見た図であり、図2(b)は、スラスト方向から位置規制ユニット20を見た図である。
位置規制ユニット20は、ローラ保持リング21,ラジアル方向支持ローラ22,スラスト方向支持ローラ24を有している。
ラジアル方向支持ローラ22は、ローラ面が1つの円筒面により形成されており、ロータ部16の回転軸と平行な方向に配置されるローラ軸23を介してローラ保持リング21に回転可能に保持されるローラである。
ラジアル方向支持ローラ22は、支持部材31の外周円筒面31aとロータホルダ19の内周円筒面19aに挟まれ、ロータホルダ19のラジアル方向(径方向)の位置を規制しながらも、ロータホルダ19の回転が滑らかに行われるように支持している。
【0024】
スラスト方向支持ローラ24は、ローラ面が1つの円筒面により形成されており、ロータ部16の回転軸と直交する方向に配置されるローラ軸25を介してローラ保持リング21に回転可能に保持されるローラである。
スラスト方向支持ローラ24は、支持部材31のフランジ部31aとロータホルダ19の平面19bに挟まれ、ロータホルダ19のスラスト方向(加圧方向)の位置を規制しながらも、コロとして作用することにより、ロータホルダ19の回転が滑らかに行われるように支持している。
【0025】
ローラ保持リング21には、ラジアル方向支持ローラ22及びスラスト方向支持ローラ24がそれぞれ3箇所円周方向で均等に配置(60°毎にラジアル方向支持ローラ22及びスラスト方向支持ローラ24が交互に配置)されている。
【0026】
支持部材31は、超音波モータのベースとなる略円筒状の部材であり、ロータ部16のラジアル方向の位置を決める基準となる基準部材でもある。
押さえ環32は、支持部材31の外側下端部にネジにより取り付けられており、位置規制ユニット20〜加圧部材15まで、つまり、ロータホルダ19及び位置規制ユニット20を含む超音波モータを組み込んだ一つのユニットとして構成できるようになる。
【0027】
本実施例によれば、スラスト方向及びラジアル方向のいずれの方向においてもロータ部16をローラにより支持するので、単なる摺動による摩擦抵抗よりも大幅に抵抗力を低減することができ、ロータ部16の回転を阻害することなく、かつ、確実に位置規制をすることができる。
【実施例2】
【0028】
図3は、実施例2における振動波モータを有する駆動装置の断面図である。
実施例2は、実施例1における位置規制ユニット20を改良して位置規制ユニット40とし、これに対応して実施例1における支持部材31の形状を一部変更して支持部材51とした例である。したがって、実施例1と同様の機能を果たす部分には、同一の符号を付して、重複する説明を適宜省略する。
【0029】
図4は、位置規制ユニット40を示す図である。図4(a)は、図4(b)中の矢印B方向から見た図であり、図4(b)は、スラスト方向から位置規制ユニット40を見た図である。
位置規制ユニット40は、ローラ保持リング41,ラジアル方向支持ローラ42,スラスト方向支持ローラ44を有している。
図5は、図3中のE部を拡大した図である。
ラジアル方向支持ローラ42は、ロータ部16の回転軸と平行な方向に配置されるローラ軸43を介してローラ保持リング41に回転可能に保持されるローラである。
実施例1におけるラジアル方向支持ローラ22は、ローラ面が1つの円筒面により形成されていた。これに対して、実施例2におけるラジアル方向支持ローラ42のローラ面は、外径の大きな円筒面からなる大ローラ部42a、及び、大ローラ部42aよりも外径の小さな円筒面からなる小ローラ部42bを有した段付きローラである。なお、大ローラ部42a、及び、小ローラ部42bは、いずれも円筒面の中心がローラ軸42の中心と一致している。
【0030】
大ローラ部42aは、ロータホルダ19の内周円筒面19aに接触するように設けられている。一方、支持部材51の外周円筒面51aには、この大ローラ部42aが接触しない様に逃げる逃げ部である溝51cが形成されている。したがって、支持部材51の外周円筒面51aには、小ローラ部42bが接触している。
大ローラ部42a、及び、小ローラ部42bを設けた理由、及び、これらの寸法の最適値については、後述する。
このように、ラジアル方向支持ローラ42は、支持部材51の外周円筒面51aとロータホルダ19の内周円筒面19aに挟まれ、ロータホルダ19のラジアル方向(径方向)の位置を規制しながらも、ロータホルダ19の回転が滑らかに行われるように支持している。
【0031】
図6は、図3中のF部を拡大した図である。
スラスト方向支持ローラ44は、ロータ部16の回転軸と直交する方向に配置されるローラ軸45を介してローラ保持リング41に回転可能に保持されるローラである。
実施例1におけるスラスト方向支持ローラ24は、ローラ面が1つの円筒面により形成されていた。これに対して、実施例2におけるスラスト方向支持ローラ44は、そのローラ面がローラ軸45を回転中心とした凸状の回転体面である、たる形のローラである。
スラスト方向支持ローラ44は、支持部材51のフランジ部51aとロータホルダ19の平面19bに挟まれ、ロータホルダ19のスラスト方向(加圧方向)の位置を規制しながらも、ロータホルダ19の回転が滑らかに行われるように支持している。
【0032】
ローラ保持リング41には、ラジアル方向支持ローラ42及びスラスト方向支持ローラ44がそれぞれ3箇所円周方向で均等に配置(60°毎にラジアル方向支持ローラ42及びスラスト方向支持ローラ44が交互に配置)されている。
【0033】
(実施例2において改良する実施例1に残っていた第1の問題点)
先に示した実施例1におけるスラスト方向支持ローラ24のように、ローラ面が1つの円筒面により形成されていても、摺動摩擦よりは明らかにロータ部16の回転抵抗を下げる作用を有している。
しかし、スラスト方向支持ローラ24では、ローラ面が1つの円筒面により形成されていることから、フランジ部51a、及び、平面19bとの接触は、ロータ部16のラジアル方向に沿った方向における線接触となる。一方、ロータホルダ19は回転し、また、位置規制ユニット20(40)も全体が回転する。そうすると、スラスト方向支持ローラ24のローラ面と平面19bとの間の接触位置において、接触線上の位置規制ユニット20(40)と平面19bとの相対速度は、内径側の相対速度よりも外径側の相対速度のほうが大きい。したがって、スラスト方向支持ローラ24のローラ面と平面19bとの間には、僅かながらすべりを生じることとなる。この滑りは、スラスト方向支持ローラ24のローラ面とフランジ部51aとの間においても、同様に生じている。そして、これらの滑りは、ロータ部16の回転を阻害する要因となって残っていた。
【0034】
そこで、実施例2では、スラスト方向支持ローラ44をたる形のローラに改良し、平面19b及びフランジ部51aとの接触を点接触とすることにより、上述のような滑りが生じることなく、ロータ部16の回転を阻害しないようにした。
【0035】
(実施例2において改良する実施例1に残っていた第2の問題点)
実施例1及び実施例2では、スラスト方向支持ローラ24,44にのみ加圧力が加わっているので、ローラ保持リング21,41の回転速度は、スラスト方向支持ローラ24,44の影響が支配的になりラジアル方向支持ローラ22,42は、追従して回転する。
【0036】
ここで、先に示した実施例1において、スラスト方向支持ローラ24について滑りが生じないで回転するとしたとき、ロータホルダ19の角速度をω0 とおくと、スラスト方向支持ローラ24の自転から求まるローラ保持リング21の角速度ω24は、ロータホルダ19の角速度ω0 の0.5倍であるから、以下の式(1)の関係になる。
ω24=0.5・ω0 ・・・式(1)
【0037】
一方、ラジアル方向支持ローラ22について滑りが生じないで回転するとしたとき、ラジアル方向支持ローラ22の自転から求まるローラ保持リング21の角速度ω22は、支持部材31の外周円筒面の半径をr1とし、ロータホルダ19の内周円筒面の半径をr2すると、以下の式(2)となる。
ω22=(r2/(r1+r2))・ω0 ・・・式(2)
【0038】
ここで、仮に、ω0 =1[rps],r1=35[mm],r2=40[mm]であったとすると、ローラ保持リング21の角速度ω24及びω22は、先の式(1),(2)から、それぞれ以下のようになる。
式(1)より、ω24=0.5[rps]
式(2)より、ω22=0.53[rps]
このように、同一部材であるローラ保持リング21の角速度が、角速度ω24と角速度ω22との間で異なってしまう場合には、ラジアル方向支持ローラ22,スラスト方向支持ローラ24の少なくとも一方において滑りが生じることとなる。ここで、実施例1では、上述したように、スラスト方向支持ローラ24に対してのみ加圧力が加わっているので、ローラ保持リング21の回転速度は、スラスト方向支持ローラ24の影響が支配的になりラジアル方向支持ローラ22は、接触部に滑りを生じながら追従して回転する。そうすると、この滑りを生じる部分において摩擦損失が発生してしまう。
【0039】
(大ローラ部42a、及び、小ローラ部42bの半径の最適化)
そこで、実施例2では、ラジアル方向支持ローラ42に大ローラ部42a、及び、小ローラ部42bを設けて、これらの半径を最適化することにより、ラジアル方向支持ローラ42の接触部に滑りを生じないようにした。
ここで、支持部材51の外周円筒面の半径r1、ロータホルダ19の内周円筒面の半径r2から、大ローラ部42aの半径r4、及び、小ローラ部42bの半径r3の最適値を求める。
図7は、ラジアル方向支持ローラ42とロータホルダ19,支持部材51との関係を示す図である。
図7に示すように、実線で示したラジアル方向支持ローラ42が、破線で示した位置まで角度θ回転(自転)しながら角度θ1移動(公転:ローラ保持リング41がθ1回転)した場合を考えると、以下に示すようにして、大ローラ部42aの半径r4、及び、小ローラ部42bの半径r3の最適値が支持部材51の外周円筒面の半径r1、ロータホルダ19の内周円筒面の半径r2により示すことができる。
【0040】
d:ロータホルダ19(半径r2)の移動量(周長)
x:ロータホルダ19と大ローラ部42aとの接触点の移動量(周長)
θ:ラジアル方向支持ローラ42の自転角度
θ1:ラジアル方向支持ローラ42の中心の公転角度(ローラ保持リング41の回転角度)
θ2:周長dに対応する角度(ロータホルダ19の回転角度)
とすると、
d=r4・θ+x
r3・θ=r1・θ1
x=r2・θ1
d=r2・θ2
よって、
r2・θ=(r1・r4/r3)θ1+r2・θ1
θ1=(r2/((r1・r4/r3)+r2))・θ2
=R・θ2
ここで、Rは、ラジアル方向支持ローラ42とロータホルダ19の回転角度比を示すものとする。
【0041】
実施例1の場合と同じように、実施例2においても、スラスト方向支持ローラ44に対してのみ加圧力が加わっているので、ローラ保持リング41の回転速度は、スラスト方向支持ローラ44の影響が支配的になって決まる。そうすると、式(1)から、R=0.5の条件を満たすr3、r4を求めればよいといえる。
R=r2/((r1・r4/r3)+r2))
r4/r3=(r2/r1)・(1/R−1)
r1〜r4には、以下の関係がある。
r2−r1=r3+r4
r4=(r2・r3/r1)・(1/R−1)
r2−r1−r3=(r2・r3/r1)・(1/R−1)
r2−r1=r3・(1+(r2/r1)・(1/R−1))
r3=(r2−r1)/(1+(r2/r1)・(1/R−1))・・・式(3)
上記式(3)にR、r1、r2の値を与えるとr3が求められる。また、r4は、以下の式(4)により求めることができる。
r4=r2−r1−r3・・・式(4)
【0042】
先に示したr1=35[mm],r2=40[mm]であったとすると、
小ローラ部42bの半径r3=2.33[mm]
大ローラ部42aの半径r4=2.67[mm]
以上が、ラジアル方向支持ローラ42,スラスト方向支持ローラ44のいずれにおいても滑りが生じることなく、超音波モータの駆動力を最も効率よく外部へ出力することができる最適な値である。
そこで、実施例2においても、r1=35[mm],r2=40[mm],r3=2.33[mm],r4=2.67[mm]として、スラスト方向及びラジアル方向のいずれの方向においても滑りを生じることなく、ロータ部16をローラにより支持するようにした。したがって、実施例1と比較して、さらに抵抗力を低減することができ、ロータ部16の回転を阻害することなく、かつ、確実に位置規制をすることができる。
【0043】
(変形例)
以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の均等の範囲内である。
(1)各実施例において、カメラのレンズ鏡筒の例を挙げて説明したが、これに限らず、振動波モータの駆動力を利用した装置に適宜用いてもよい。
【0044】
(2)各実施例において、振動波モータを有する駆動装置の例として、カメラのレンズ鏡筒の例を挙げて説明したが、これに限らず、例えば、その他の駆動源からの回転力を伝える回転部材を支持する機構に適宜用いてもよい。
【0045】
(3)実施例2において、ラジアル方向支持ローラ42に大ローラ部42a,小ローラ部42bを設けることにより、ラジアル方向支持ローラ42に滑りが生じないようにした例を示したが、これに限らず、例えば、ラジアル方向支持ローラとして2種類のローラを設けてもよい。
図8は、ラジアル方向支持ローラとして2種類のローラを設けた例を示す図である。
図8に示ように、ロータホルダ19の内径側において位置規制を行う内径側ローラ62aと、支持部材51の外周円筒面側において位置規制を行う外径側ローラ62bとの2種類のローラを設けて、ラジアル方向支持ローラに滑りが生じないようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例1における振動波モータを有する駆動装置の断面図である。
【図2】位置規制ユニット20を示す図である。
【図3】実施例2における振動波モータを有する駆動装置の断面図である。
【図4】位置規制ユニット40を示す図である。
【図5】図3中のE部を拡大した図である。
【図6】図3中のF部を拡大した図である。
【図7】ラジアル方向支持ローラ42とロータホルダ19,支持部材51との関係を示す図である。
【図8】ラジアル方向支持ローラとして2種類のローラを設けた例を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
11 振動子
12 弾性体
13 圧電体
14 振動吸収部材
15 加圧部材
16 ロータ部
17 ロータ
18 振動吸収部材
19 ロータホルダ
20,40 位置規制ユニット
21,41 ローラ保持リング
22,42 ラジアル方向支持ローラ
23,43 ローラ軸
24,44 スラスト方向支持ローラ
25,45 ローラ軸
31,51 支持部材
32 押さえ環

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械変換素子を含む振動子と、
前記振動子と相対的に回転するロータ部と、
前記振動子と前記ロータ部との間でスラスト方向に加圧力を働かせる加圧部と、
を含む振動波モータを有し、
前記ロータ部をスラスト方向において回転可能に支持するスラスト方向支持ローラと、
前記ロータ部をラジアル方向において回転可能に支持するラジアル方向支持ローラと、
前記スラスト方向支持ローラとラジアル方向支持ローラとを回転可能な状態で保持しながら自らも回転可能なローラ保持部材と、
を備える振動波モータを有する駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の振動波モータを有する駆動装置において、
前記スラスト方向支持ローラは、たる形のローラであること、
を特徴とする振動波モータを有する駆動装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の振動波モータを有する駆動装置において、
前記ラジアル方向支持ローラは、外径の大きな円筒面からなる大ローラ部、及び、前記大ローラ部よりも外径の小さな小ローラ部を有した段付きローラであり、
前記大ローラ部は、前記ロータ部の円筒状内壁面に接触可能に設けられ、
前記小ローラ部は、前記ロータ部のラジアル方向の位置を決める基準となる基準部材の外周円筒面に接触可能に設けられていること、
を特徴とする振動波モータを有する駆動装置。
【請求項4】
請求項3に記載の振動波モータを有する駆動装置において、
前記基準部材の外周円筒面には、前記ラジアル方向支持ローラの大ローラ部が接触しない様に逃げる逃げ部が形成されていること、
を特徴とする振動波モータを有する駆動装置。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の振動波モータを有する駆動装置において、
前記ラジアル方向支持ローラの大ローラ部の半径をr4、
前記ラジアル方向支持ローラの小ローラ部の半径をr3、
前記ラジアル方向支持ローラの大ローラ部が接触する前記ロータ部の円筒状内壁面の半径をr2、
前記ラジアル方向支持ローラの小ローラ部が接触する前記基準部材の外周円筒面の半径をr1としたときに、
r3=(r2−r1)/(1+(r2/r1))
r4=r2−r1−r3
の関係を満たすこと、
を特徴とする振動波モータを有する駆動装置。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の振動波モータを有する駆動装置において、
前記ラジアル方向支持ローラは、前記ロータ部の内径側において位置規制を行う内径側ローラと、
前記ロータ部のラジアル方向の位置を決める基準となる基準部材の外周円筒面側において位置規制を行う外径側ローラと、
を備えること、
を特徴とする振動波モータを有する駆動装置。
【請求項7】
略円環形状の回転部材と、
前記回転部材をスラスト方向において支持するスラスト方向支持ローラと、
前記回転部材をラジアル方向において支持するラジアル方向支持ローラと、
前記スラスト方向支持ローラと前記ラジアル方向支持ローラとを回転可能な状態で保持しながら自らも回転可能なローラ保持部材と、
を備える回転部材支持機構。
【請求項8】
請求項7に記載の回転部材支持機構において、
前記スラスト方向支持ローラは、たる形のローラであること、
を特徴とする回転部材支持機構。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の回転部材支持機構において、
前記ラジアル方向支持ローラは、外径の大きな円筒面からなる大ローラ部、及び、前記大ローラ部よりも外径の小さな円筒面からなる小ローラ部を有した段付きローラであること、
を特徴とする回転部材支持機構。
【請求項10】
請求項7又は請求項8に記載の回転部材支持機構において、
前記ラジアル方向支持ローラは、前記ロータ部の内径側において位置規制を行う内径側ローラと、
前記ロータ部のラジアル方向の位置を決める基準となる基準部材の外周円筒面側において位置規制を行う外径側ローラと、
を備えること、
を特徴とする回転部材支持機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−280139(P2006−280139A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97920(P2005−97920)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】