説明

溶接ロボットの制御装置

【課題】 基本3軸などのイナーシャの大きい軸を使用することなくイナーシャの小さい軸のみを使用してウィービング動作させるようにすることで、高い軌跡精度、高い周波数でウィービングを行うことができるようにするとともに、ウィービング動作する平面の制限をなくし任意のトーチ姿勢でウィービング動作させるようにすることで、ワークとの干渉を防止し煩わしい教示作業を不要とする。
【解決手段】 溶接ロボットの手首3軸のうち、最先端の軸を除く直交する直交2軸によって溶接トーチ先端が動く平面に対して垂直な方向に溶接トーチ先端を移動させ得るウィービング軸が、溶接ロボットに追加される。コントローラは、ウィービング移動量を、直交2軸およびウィービング軸それぞれの駆動量に変換する。直交2軸およびウィービング軸をそれぞれ、変換された対応する駆動量だけ駆動させる駆動指令を溶接ロボットに与えることで、当該溶接ロボットをウィービング動作させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ロボットの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶接ロボットを用いて、多層盛り溶接や肉盛り溶接などの脚長が大きく広い幅のビードを要する溶接を行う場合には、溶接トーチ先端をウィービング動作させることが一般的である。
【0003】
ここで、ウィービング動作とは、溶接トーチ先端をワークの溶接線を中心にウィービング移動量だけ移動させる動作のことをいう。
【0004】
図1は、従来の溶接ロボットの制御装置の一例を示している。
【0005】
図1に示すように、溶接ロボットの制御装置は、溶接トーチ17の先端17aが溶接線Lを中心にウィービング波を描いてウィービングしながら溶接線Lに沿って移動するように各軸1〜6が駆動される溶接ロボット10と、入力データに応じて溶接ロボット10の各軸1〜6を駆動するための各軸角度毎の駆動指令を生成して、生成された駆動指令を溶接ロボット10に送り、溶接ロボット10を制御するコントローラ30とを含んで構成されている。溶接はアーク溶接によって行われる。
【0006】
図2は、従来の溶接ロボット10の各軸の動きを説明する斜視図である。
【0007】
この図2に示す溶接ロボット10は、6軸の垂直多関節ロボットであり、第1軸1、第2軸2、第3軸3からなる基本3軸と、第4軸4、第5軸5、第6軸6からなる手首3軸とを有し、先端に溶接トーチ17が取り付けられている。 各軸1〜6が駆動する方向を図中矢印に符号J1〜J6を付して示す。
【0008】
溶接ロボット10のアーム10aの中心軸が第4軸4である。アーム10aの先端には、手首先端部11が回動自在に設けられている。手首先端部11の回転軸が第5軸5である。手首先端部11には、プレート13を介して溶接トーチ17が回動自在に設けられている。溶接トーチ17の回転軸12が第6軸6である。手首3軸4、5、6は、隣り合う2つの軸が直交するように配置されている。
【0009】
溶接トーチ17は、その先端17aが第6軸6の回転軸12上に一致するように手首先端部11に取り付けられている。したがって、第6軸6を回転させても、溶接トーチ先端17aの位置は変化しない。
【0010】
図3は、ウィービング動作を説明する図である。
【0011】
溶接ロボット10は、溶接トーチ先端17aが、ある時刻において点Pに位置するように制御される。点Pは、直線移動開始位置Psから直線移動終了位置Peに至る溶接線L上の位置Ptとウィービング移動量Wtとに分解される。
【0012】
図4は、従来の溶接ロボット10の手首3軸4、5、6による溶接トーチ先端17aの動作方向を説明する図である。
【0013】
第4軸4を角度変化量ΔJ4だけ回転させると、溶接トーチ先端17aは、ベクトルa4で表される方向へ動く。また第5軸5を角度変化量ΔJ5だけ回転させると、溶接トーチ先端17aは、ベクトルa5で表される方向へ動く。
【0014】
第4軸4及び第5軸5だけを駆動させて溶接トーチ先端17aが動ける範囲は、ベクトルa4とベクトルa5によって形成される平面上にある。この平面は第6軸6の回転軸12に垂直な平面となる。第6軸6を回転させても、溶接トーチ17の姿勢は変化するこそすれ、溶接トーチ先端17aの位置は変化しない。このため、手首3軸4、5、6のみを使って溶接トーチ先端17aが動ける範囲は、ベクトルa4とベクトルa5によって形成される平面上ということになる。
【0015】
6軸の多関節ロボットである溶接ロボット10の基本3軸1、2、3は、手首3軸4、5、6に比較して、構造的にイナーシャが大きく反力が大きい軸である。したがって、基本3軸1、2、3のみあるいは基本3軸1、2、3を含む全軸を使ってウィービング動作させると、満足する軌跡精度が得られなかったり、高い周波数でウィービングを行うことができないなどの問題が発生する。
【0016】
このことは、本発明者らによる先願の特許文献1に記載されているところである(特許文献1の従来技術の欄)。
【0017】
(従来技術1)
本発明者らは、特許文献1において、上記問題点に鑑み、基本3軸1、2、3に較べてイナーシャが小さく反力の小さい手首3軸4、5、6のうち第4軸4、第5軸5だけを用いてウィービング動作させるという発明を開示している。
【0018】
すなわち、図4において、ベクトルa4とベクトルa5で表される平面内で溶接トーチ先端17aがウィービング移動量Wtだけ動くような、いいかえると第6軸6の回転軸12と垂直な平面内で溶接トーチ先端17aがウィービング移動量Wtだけ動くようなロボット各軸1〜6の姿勢を見つけ出し教示設定するようにして、第4軸4、第5軸5だけを用いて溶接トーチ先端17aをウィービング移動量Wtだけ動かすようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平11−58014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかし、上記従来技術1によると、図3に示すウィービング動作する平面がベクトルa4とベクトルa5で表される平面に制限されてしまう。これに伴いウィービング動作中のロボット各軸1〜6が動ける範囲が制限されることなり、ウィービング中の溶接ロボット10の姿勢が制限されてしまう。
【0021】
この結果、ウィービング動作中に溶接ロボット10の姿勢によってはワークと干渉するおそれがあった。また、従来技術1にあっては、ウィービング動作する範囲をベクトルa4とベクトルa5で表される平面に制限しているため、その動きを実現するための教示作業が必須であり、教示作業が煩わしく、溶接作業に多大な工数が付加されるという問題もあった。
【0022】
本発明はこうした実情に鑑みてなされたものであり、基本3軸などのイナーシャの大きい軸を使用することなくイナーシャの小さい軸のみを使用してウィービング動作させるようにすることで、高い軌跡精度、高い周波数でウィービングを行うことができるようにするとともに、ウィービング動作する平面の制限をなくし任意のトーチ姿勢でウィービング動作させるようにすることで、ワークとの干渉を防止し煩わしい教示作業を不要とすることを解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
第1発明は、
隣り合う2つの軸が直交する手首3軸を含む少なくとも6軸を有し、溶接トーチ先端がワークの溶接線を中心にウィービング移動量だけ移動してウィービング動作する溶接ロボットと、この溶接ロボットを制御するコントローラとを備えた溶接ロボットの制御装置において、
前記溶接ロボットの手首3軸のうち、最先端の軸を除く直交する直交2軸によって溶接トーチ先端が動く平面に対して垂直な方向に溶接トーチ先端を移動させ得るウィービング軸が、前記溶接ロボットに追加され、
前記コントローラは、ウィービング移動量を、前記直交2軸および前記ウィービング軸それぞれの駆動量に変換し、
前記直交2軸および前記ウィービング軸をそれぞれ、前記変換された対応する駆動量だけ駆動させる駆動指令を前記溶接ロボットに与えることで、当該溶接ロボットをウィービング動作させること
を特徴とする。
【0024】
第2発明は、第1発明において、
前記溶接ロボットは、
アームに対して手首先端部が回動自在に設けられ、手首先端部に対して溶接トーチが回動自在に設けられた6軸多関節ロボットに対して、
溶接トーチを手首先端部に近づける方向および溶接トーチを手首先端部から遠ざける方向に移動させる移動部材と、
前記移動部材を駆動するアクチュエータと
が付加されて構成されたものであること
を特徴とする。
【0025】
第3発明は、第1発明または第2発明において、
前記溶接ロボットは、6軸多関節ロボットであり、
前記ウィービング軸による溶接トーチ先端の動作方向は、手首3軸のうちの最先端の第6軸の方向であること
を特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、基本3軸などのイナーシャの大きい軸を使用することなく、最先端の軸を除く直交する直交2軸およびウィービング軸からなるイナーシャの小さい手首先端の3軸によって任意の平面内でウィービング動作させるようにしたので、高い軌跡精度、高い周波数でウィービングを行うことができる。また、ウィービング動作する平面の制限がなくなり任意の溶接トーチ姿勢でウィービングを行うことができるため、ワークとの干渉が防止されるとともに、煩わしい教示作業が不要となり溶接作業の工数を縮減することができる。
【0027】
請求項1の記載中、「最先端の軸を除く直交する直交2軸によって溶接トーチ先端が動く平面に対して垂直な方向に溶接トーチ先端を移動させ得るウィービング軸」とは、ウィービング軸による溶接トーチ先端の動作方向が、少なくとも前記平面に対して垂直な方向成分を有していればよいという意味であり、必ずしもウィービング軸による溶接トーチ先端の動作方向が前記平面に対して垂直な方向であるには及ばない。第3発明では、ウィービング軸による溶接トーチ先端の動作方向が、手首3軸のうちの最先端の第6軸の方向であるとされる。
【0028】
第1発明における「最先端の軸を除く直交する直交2軸によって溶接トーチ先端が動く平面に対して垂直な方向に溶接トーチ先端を移動させ得るウィービング軸」は、具体的には、6軸多関節ロボットに対して、溶接トーチを手首先端部に近づける方向および溶接トーチを手首先端部から遠ざける方向に移動させる移動部材と、移動部材を駆動するアクチュエータとを付加することで実現される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、従来の溶接ロボットの制御装置の一例を示した図である。
【図2】図2は、従来の溶接ロボットの各軸の動きを説明する斜視図である。
【図3】図3は、ウィービング動作を説明する図である。
【図4】図4は、従来の溶接ロボットの手首3軸による溶接トーチ先端の動作方向を説明する図である。
【図5】図5は、実施例の溶接ロボットの制御装置を示した図である。
【図6】図6は、溶接ロボットの各軸の動きを説明する斜視図である。
【図7】図7は、溶接ロボットの手首3軸およびウィービング軸による溶接トーチ先端の動作方向を説明する図である。
【図8】図8(a)、(b)はそれぞれ、ベクトルa4と、ベクトルa5を説明する図である。
【図9】図9は、コントローラの内部の構成を示す機能ブロック図である。
【図10】図10は、コントローラで行われる演算処理の手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0031】
なお、実施形態では、溶接ロボットとして、アーク溶接作業を行う溶接ロボットを想定する。
【0032】
図5は、実施例の溶接ロボットの制御装置を示している。
【0033】
図5に示すように、溶接ロボットの制御装置は、溶接トーチ17の先端17aが溶接線Lを中心にウィービング波を描いてウィービングしながら溶接線Lに沿って移動するように各軸1〜7が駆動される溶接ロボット10と、溶接ロボット10に電力を供給して溶接ワイヤ21を送給させるとともに溶接電極間に電圧を印加する溶接電源装置20と、入力データに応じて溶接ロボット10の各軸1〜7を駆動するための駆動指令を生成して、生成された駆動指令を溶接ロボット10に送り、溶接ロボット10の各軸を制御するとともに溶接電源装置20を介して溶接ワイヤ21の送給および溶接電極間の電圧を制御するコントローラ30とを備えて構成される。
【0034】
溶接ロボット10は、アーム10aを有しており、このアーム10aの先端には、溶接トーチ17が取り付けられている。溶接ロボット10には、溶接ワイヤ送給装置18が設けられている。溶接ロボット10の外部には、溶接ワイヤ送り出し部90が備えられている。溶接ワイヤ送り出し部90には、溶接ワイヤ21がリール状に収容されている。溶接ワイヤ送給装置18は、溶接電源装置20から与えられるワイヤ送り速度指令に応じてワイヤ送りモータが駆動されることで、溶接ワイヤ送り出し部90から溶接ワイヤ21を繰り出し、溶接トーチ17の図示しない電極チップに送給する。電極チップとワークは、溶接電極を構成する。溶接電極間には溶接電源装置20から与えられる電圧指令によって電圧が印加される。これにより溶接ワイヤ21の先端、つまり溶接トーチ先端17aとワークとの間にアーク放電が発生し、アーク放電により発生する熱によってワークの接合部が加熱、溶融されるとともに溶加材としての溶接ワイヤ21が加熱、溶融され、溶接ワイヤ21が溶接金属となってワークの接合部が接合される。
【0035】
溶接ロボット10は、各軸1、2、3、4、5、6、7を有した7軸の作業ロボットであり、駆動部19を備えている。第1軸1、第2軸2、第3軸3が基本3軸であり、第4軸4、第5軸5、第6軸6が手首3軸である。手首先端には、後述する第7軸7が設けられている。駆動部19は、サーボアンプ、ロボット用モータを含んで構成されている。駆動部19は、コントローラ30から与えられる各軸角度毎の駆動指令に応じて各軸1、2、3、4、5、6、7を駆動する。各軸1、2、3、4、5、6、7が駆動されることにより溶接トーチ17の先端17a(溶接ワイヤ21の先端)の座標位置Pおよびトーチ姿勢角が変化される。
【0036】
図3に示すように、溶接ロボット10は、溶接トーチ先端17aが、ある時刻において点Pに位置するように制御される。点Pは、下記(1)式に示されるように、直線移動開始位置Psから直線移動終了位置Peに至る溶接線L上の直線移動位置Ptとウィービング移動量Wt(=[Wx,Wy,Wz])とに分解される。
【0037】
P=Pt+Wt …(1)
同図3に示すように、溶接トーチ17の先端17aは、移動開始位置Psから移動終了位置Peまで移動する。溶接線Lは、移動開始位置Psと移動終了位置Peとを結んだ直線PsPeに対応している。
【0038】
コントローラ30は、補間周期T[s]を、ある位置から次の移動目標位置に到達するまでの時間として、補間周期T[s]毎に、移動目標位置Pを算出し、この移動目標位置Pを、各軸11〜17の角度J1〜J7に変換して、対応する駆動指令を溶接ロボット10の駆動部19のサーボアンプに出力する。
【0039】
図3に示すように、溶接トーチ先端17aは、水平面に対して角度θwだけ傾斜した平面(ウィービング平面)内でウィービング動作する。このときウィービング動作方向の単位ベクトルは、この角度θwだけ傾斜したウィービング平面内にあって移動開始位置Psと移動終了位置Peとを結んだ直線PsPe(溶接線L)に垂直なベクトルewであると定義される。図中、Mは、補間周期T毎の溶接線L方向の移動量である。
【0040】
図6は、溶接ロボット10の各軸の動きを説明する斜視図である。
【0041】
この図6に示す溶接ロボット10は、図2に示す6軸の垂直多関節ロボットに対して第7軸7を付加して構成されており、第1軸1、第2軸2、第3軸3からなる基本3軸と、第4軸4、第5軸5、第6軸6からなる手首3軸と、手首に追加された第7軸であるウィービング軸7を有し、手首先端に溶接トーチ17が取り付けられている。各軸1〜7が駆動する方向を図中矢印に符号J1〜J7を付して示す。手首3軸4、5、6は、隣り合う2つの軸が直交するように配置されている。ウィービング軸7は、第6軸6の軸方向(回転軸12の方向)に駆動する。
【0042】
図7は、溶接ロボット10の手首3軸4、5、6およびウィービング軸7による溶接トーチ先端17aの動作方向を説明する図である。
【0043】
溶接ロボット10のアーム10aの中心軸が第4軸4である。アーム10aの先端には、手首先端部11が回動自在に設けられている。手首先端部11の回転軸が第5軸5である。手首先端部11には、プレート13を介して溶接トーチ17が回動自在に設けられている。溶接トーチ17は、プレート13に固定されている。溶接トーチ17の回転軸12が第6軸6である。溶接トーチ17は、その先端17aが第6軸6の回転軸12上に一致するように手首先端部11に取り付けられている。したがって、第6軸6を回転させても、溶接トーチ先端17aの位置は変化しない。
【0044】
第4軸4を角度変化量ΔJ4だけ回転させると、溶接トーチ先端17aは、ベクトルa4で表される方向へ動く。また第5軸5を角度変化量ΔJ5だけ回転させると、溶接トーチ先端17aは、ベクトルa5で表される方向へ動く。
【0045】
第4軸4及び第5軸5だけを駆動させて溶接トーチ先端17aが動ける範囲は、ベクトルa4とベクトルa5によって形成される平面上にある。この平面は第6軸6の回転軸12に垂直な平面となる。第6軸6を回転させても、溶接トーチ17の姿勢は変化するこそすれ、溶接トーチ先端17aの位置は変化しない。このため、手首3軸4、5、6のみを使って溶接トーチ先端17aが動ける範囲は、ベクトルa4とベクトルa5によって形成される平面上ということになる。
【0046】
図8(a)、(b)はそれぞれ、ベクトルa4と、ベクトルa5を説明する図である。
【0047】
図8(a)に示すように、第4軸4の軸中心方向の単位ベクトルをi4、第4軸4の軸中心の規定位置から溶接トーチ先端17aに向かうベクトルをV4とすると、第4軸4による溶接トーチ先端17aの動作方向を示すベクトルa4は、下記(2)式に示すように、ベクトルi4とベクトルV4の外積によって表される。
【0048】
a4=i4×V4 …(2)
図8(b)に示すように、第5軸5の軸中心方向の単位ベクトルをi5、第5軸5の軸中心の規定位置から溶接トーチ先端17aに向かうベクトルをV5とすると、第5軸5による溶接トーチ先端17aの動作方向を示すベクトルa5は、下記(3)式に示すように、ベクトルi5とベクトルV5の外積によって表される。
【0049】
a5=i5×V5 …(3)
図7に示すように、ウィービング軸7は第6軸6の軸方向(回転軸12の方向)J7に駆動され、それに伴い溶接トーチ先端17aは、同じく第6軸6(回転軸12)の方向、つまりベクトルa4とベクトルa5によって形成される平面に垂直な方向a7に動く。すなわち、ウィービング軸7を所定の変化量ΔJ7だけ駆動すると、溶接トーチ先端17aは、ベクトルa7で示す方向に動き、そのベクトルa7は、下記(4)式のごとくベクトルa4とベクトルa5の外積によって表される。
【0050】
a7=a4×a5 …(4)
したがって、第4軸4、第5軸5およびウィービング軸7を駆動することで、任意の平面上でウィービング動作させることができる。それによりウィービング動作中に溶接トーチ17に任意の姿勢をとらせることができる。
【0051】
図7に示すように、ウィービング軸7は、図2に示す既存の6軸多関節ロボット10に対して、溶接トーチ17を手首先端部11に近づける方向および溶接トーチ17を手首先端部11から遠ざける方向に移動させる移動部材14と、移動部材14を駆動するアクチュエータ15とを付加することで実現される。たとえば移動部材14は、プレート13を手首先端部11に近づける方向および溶接トーチ17を手首先端部11から遠ざける方向に移動させるボールねじ14aによって構成される。ボールねじ14aは、その長手方向が、第6軸6の回転軸12の方向に一致するように配置され、ボールねじ14aには、プレート13に形成されたねじ孔13aが螺合される。
【0052】
アクチュエータ15は、たとえばボールねじ14aを回転駆動するモータ15aであり、手首先端部11に内蔵される。手首先端部11には、ボールねじ14aを支持するブラケット16が取り付けられる。
【0053】
以上のように、既存の6軸多関節ロボット10に対して、移動部材14(ボールねじ14a)、アクチュエータ15(モータ15a)、ブラケット16を付加するだけで、ウィービング軸7を構成することができ、それにより基本3軸1、2、3に較べて、イナーシャの小さい手首3軸4、5およびウィービング軸7を使って、溶接トーチ17に任意の姿勢をとらせて溶接トーチ先端17aを任意の平面内でウィービング動作させることができるようになる。
図9は、コントローラ30の内部の構成を示す機能ブロック図である。
【0054】
コントローラ30は、図9に示すように、入力部31と、記憶部32と、演算部33とを含んで構成されている。
【0055】
入力部31は、ティーチング操作盤31aを含んで構成されている。ティーチング操作盤31aがオペレータによって操作されることにより、教示データ、ウィービングデータが入力される。教示データは、溶接ロボット10の作業プログラムの教示データであり、位置および姿勢のデータからなる。教示データは、溶接ロボット10の溶接トーチ先端17aの直線移動開始位置Psと直線移動終了位置Pe(図3参照)などを含んでいる。
【0056】
ウィービングデータは、ウィービングの振幅A、ウィービングの周波数f、ウィービング平面の傾き角θwなどを含んでいる。
【0057】
記憶部32は、教示データ保存部32aと、ウィービングデータ保存部32bとを含んで構成されている。
【0058】
教示データ保存部32aには、溶接ロボット10の溶接トーチ先端17aの直線移動開始位置Psと直線移動終了位置Peが記憶される。
【0059】
ウィービングデータ保存部32bには、ウィービングの振幅A、ウィービング周波数f、ウィービング平面傾き角θwが記憶される。
【0060】
演算部33は、軌跡演算部33aと、各軸角度変換部33bとを含んで構成されている。
【0061】
軌跡演算部33aでは、溶接トーチ先端17aが移動すべき逐次の移動目標位置P[x、y、z]および目標トーチ姿勢角が演算される。
【0062】
各軸角度変換部33bでは、溶接ロボット10の溶接トーチ17の先端17aの逐次の移動目標位置P[x、y、z]、目標トーチ姿勢角が溶接ロボット各軸1、2、3、4、5、6、7の角度J1、J2、J3、J4、J5、J6、J7にそれぞれ変換される。
【0063】
本実施例では、直線移動位置Pt を第1軸1から第6軸6の角度J1〜J6に変換し、第1軸1から第6軸6をそれぞれ角度J1〜J6にする駆動指令を駆動部19に与えることで、溶接ロボット10の溶接トーチ先端17aを直線移動位置Ptだけ直線移動させるようにしている。
【0064】
そして、ウィービング移動量Wtを、第4軸4、第5軸5およびウィービング軸(第7軸)7の角度変化量ΔJ4、ΔJ5および変化量ΔJ7に変換し第4軸4、第5軸5およびウィービング軸(第7軸)7をそれぞれ角度変化量ΔJ4、ΔJ5および変化量ΔJ7だけ変化させる駆動指令を駆動部19に与えることで、溶接ロボット10の溶接トーチ先端17aをウィービング移動量Wtだけウィービング動作させるようにしている。
【0065】
演算部33では、図10に示す手順で演算処理が行われる。以下図3、図7を併せ参照しつつ説明する。
【0066】
まず、直線移動開始位置Psと直線移動終了位置Peと直線移動速度と補間周期Tとに基づいて、補間周期T毎の溶接線L方向の移動量Mと、直線移動開始位置Psから直線移動終了位置Peまでの補間回数Cが算出される。なお直線移動速度は、溶接トーチ先端17aが溶接線Lに沿って直線移動する速度である。(ステップ101)。
【0067】
つぎに、線移動開始位置Psと直線移動終了位置Peとウィービング平面の傾き角θwに基づいて、ウィービング平面内で直線PsPeに垂直となるウィービング動作方向(ウィービング振幅方向)の単位ベクトルewが算出される(ステップ102)。
【0068】
つぎに、補間周期T毎のウィービング位相変化量sが、補間周期Tとウィービング周波数fを用いて次式、
s=T・f …(5)
によって算出される(ステップ103)。
【0069】
移動開始時には補間カウンタcountが0に設定(count=0)される(ステップ104)。
【0070】
つぎに、補間周期Tが経過するごとに、補間カウンタcountが+1インクリメント(count=count+1)される(ステップ105)。
【0071】
溶接線L上の直線移動目標位置Ptは、直線移動開始位置Psと上記補間カウンタcountと補間周期毎の移動量Mを用いて、次式、
Pt=Ps+count・M …(6)
にて算出される(ステップ106)。
【0072】
つぎに、上記(6)式のごとく得られた溶接ロボット10の溶接トーチ17の先端17aの今回の直線移動目標位置Ptが溶接ロボット各軸1、2、3、4、5、6の角度J1、J2、J3、J4、J5、J6にそれぞれ変換される(ステップ107)。
【0073】
一方、ウィービング移動量Wtは、ウィービング振幅Aと、ステップ102で得られたウィービング動作方向の単位ベクトルewと、ステップ103で得られた補間周期T毎のウィービング位相変化量sと、ステップ105で得られた補間カウンタcountとを用いて、次式、
Wt=A・sin(count・s)・ew …(7)
にて算出される(ステップ108)。
【0074】
つぎに、第4軸4による溶接トーチ先端17aの動作方向を示すベクトルa4が、前述した(2)式(a4=i4×V4)のごとく求められる。また、第5軸5による溶接トーチ先端17aの動作方向を示すベクトルa5が、前述した(3)式(a5=i5×V5)のごとく求められる(ステップ109)。
【0075】
つぎに、ステップ108で求めたウィービング移動量Wtを3つのベクトルa4、a5、a7に分解することにより第4軸4、第5軸5およびウィービング軸(第7軸)7の角度変化量ΔJ4、ΔJ5および変化量ΔJ7を求める。
【0076】
ベクトルa4の単位ベクトルe4は、次式(8)のごとく求められる。
【0077】
e4=a4/|a4| …(8)
ベクトルa5の単位ベクトルe5は、次式(9)のごとく求められる。
【0078】
e5=a5/|a5| …(9)
ベクトルa7の単位ベクトルe7は、前述の(4)式(a7=a4×a5)を用いて次式(9)のごとく求められる。
【0079】

e7=(a4×a5)/|(a4×a5)| …(10)
ウィービング移動量Wt は、次式、
Wt=ΔJ4・e4+ΔJ5・e5+ΔJ7・e7 …(11)
で表される。
【0080】
単位ベクトルe4、e5、e7をそれぞれ、
【数1】

【0081】
とすれば、上記(11)式は、下式(13)のようになる。
【0082】
【数2】

【0083】
よって、上記(13)式を変形して下式(14)、
【数3】

【0084】
のように逆行列を掛けることにより、ウィービング移動量Wt に対応する第4軸4、第5軸5およびウィービング軸(第7軸)7の角度変化量ΔJ4、ΔJ5および変化量ΔJ7を求めることができる(ステップ110)。
【0085】
つぎに各軸1、2、3、4、5、6、7のうち第1軸1〜第3軸3および第6軸6については、ステップ107で得られた角度J1〜J3およびJ6をそれぞれ、そのまま目標角度とする。また第4軸4、第5軸5およびウィービング軸(第7軸)7については、ステップ107で得られた角度J4、J5および駆動位置J7にそれぞれ、上記(14)式で得られた角度変化量ΔJ4、ΔJ5および変化量ΔJ7を加算した角度J4+ΔJ4、J5+ΔJ5および駆動位置J7+ΔJ7をそれぞれ目標角度および目標駆動位置とする。
【0086】
そして溶接ロボット各軸1、2、3、4、5、6および7をそれぞれ目標角度J1、J2、J3、J4+ΔJ4、J5+ΔJ5、J6および目標駆動位置J7+ΔJ7に変化させるための駆動指令が生成されて、駆動指令が溶接ロボット10の駆動部19のサーボアンプに出力される(ステップ111)。
【0087】
つぎに、上記補間カウンタcountが補間回数Cを超えているか否かが判断され(ステップ112)、上記補間カウンタcountが補間回数Cを超えていないと判断されている限りは(ステップ112の判断NO)、上記ステップ105に戻り以下同様の処理が繰り返される。上記補間カウンタcountが補間回数Cを超えたと判断されると(ステップ112の判断YES)、溶接トーチ先端17aが直線移動終了位置Peに達したものと判断し処理を終える。
【0088】
以上のようにして、溶接トーチ先端17aが、ウィービング波を描きつつ溶接線Lに沿って直線移動開始位置Psから直線移動終了位置Peまで移動する。
【0089】
本実施例によれば、基本3軸1、2、3などのイナーシャの大きい軸を使用することなく、最先端の軸6を除く直交する直交2軸4、5およびウィービング軸7からなるイナーシャの小さい手首先端の3軸4、5、7によって任意の平面内でウィービング動作させることができる。このため高い軌跡精度、高い周波数でウィービングを行うことができる。
【0090】
また、ウィービング動作する平面の制限がなくなり溶接トーチ17を任意の姿勢にした上でウィービングを行うことができる。このため、ワークとの干渉が防止されるとともに、煩わしい教示作業が不要となり溶接作業の工数を縮減することができる。
【0091】
本実施例では、ウィービング軸7による溶接トーチ先端17aの動作方向a7が、手首3軸のうちの最先端の第6軸6(回転軸12)の方向、つまりベクトルa4とベクトルa5を含む平面に対して垂直な方向であるとしてウィービング軸7を構成しているが、必ずしも、ウィービング軸7による溶接トーチ先端17aの動作方向a7が、手首3軸のうちの最先端の第6軸6(回転軸12)の方向(ベクトルa4とベクトルa5を含む平面に対して垂直な方向)であるにおよばない。ウィービング軸7による溶接トーチ先端17aの動作方向a7が、少なくともベクトルa4とベクトルa5を含む平面に対して垂直な方向成分を有していればよい。
【0092】
たとえば図7において、ボールねじ14aの長手方向を第6軸6(回転軸12)に対して傾斜させるように移動部材14を構成し、溶接トーチ先端17aを第6軸6(回転軸12)に対して傾斜した方向に移動させてもよい。
【符号の説明】
【0093】
10 溶接ロボット、14 移動部材、15 アクチュエータ、17 溶接トーチ、17a 溶接トーチ先端、30 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣り合う2つの軸が直交する手首3軸を含む少なくとも6軸を有し、溶接トーチ先端がワークの溶接線を中心にウィービング移動量だけ移動してウィービング動作する溶接ロボットと、この溶接ロボットを制御するコントローラとを備えた溶接ロボットの制御装置において、
前記溶接ロボットの手首3軸のうち、最先端の軸を除く直交する直交2軸によってトーチ先端が動く平面に対して垂直な方向にトーチ先端を移動させ得るウィービング軸が、前記溶接ロボットに追加され、
前記コントローラは、ウィービング移動量を、前記直交2軸および前記ウィービング軸それぞれの駆動量に変換し、
前記直交2軸および前記ウィービング軸をそれぞれ、前記変換された対応する駆動量だけ駆動させる駆動指令を前記溶接ロボットに与えることで、当該溶接ロボットをウィービング動作させること
を特徴とする溶接ロボットの制御装置。
【請求項2】
前記溶接ロボットは、
アームに対して手首先端部が回動自在に設けられ、手首先端部に対してトーチが回動自在に設けられた6軸多関節ロボットに対して、
トーチを手首先端部に近づける方向およびトーチを手首先端部から遠ざける方向に移動させる移動部材と、
前記移動部材を駆動するアクチュエータと
が付加されて構成されたものであること
を特徴とする請求項1記載の接ロボットの制御装置。
【請求項3】
前記溶接ロボットは、6軸多関節ロボットであり、
前記ウィービング軸によるトーチ先端の動作方向は、手首3軸のうちの最先端の第6軸の方向であること
を特徴とする請求項1または2記載の接ロボットの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−206830(P2011−206830A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78229(P2010−78229)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】