説明

真空状態に減圧された処理室内部のアームを駆動する搬送装置

【課題】 コンパクトで低振動・低騒音であり、特に半導体ウエハやLCD(液品表示)ガラス基盤などを処理するのに適する搬送装置を得る。
【解決手段】 アーム61A、61Bを取着し同軸状に配置した出力軸21A、21Bに連結された外接軸20A、20Bと、外接軸の外周に接触配置された複数の中間軸30A、30Bと、中間軸の外周に内接する内接円筒40A、40Bとからなり、中間軸を回転自在に支持するキャリア10を固定し、各組の中間軸30A、30Bに前段減速機50A、50Bを介して駆動モータ70A、70Bを接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置に、外接軸と、外接軸の外周に接触配置された複数の中間軸と、中間軸の外周に内接する内接円筒とからなるトラクションドライブ減速機を用いた搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハやLCD(液品表示)ガラス基盤などのパーティクルを嫌う精巧な処理を必要とする分野では、搬送物をチャッキング(搬送物をつかむなど)して搬送できない(把持できない)。このため、このような搬送分野でのハンドリング方式としては、ハンド(エンドエフェクタ)部の上に搬送物が載っているだけ(支持のみ)の方式の搬送装置で搬送することが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、このような搬送装置では、支持にも、有機物(ラバーなど)支持と、無機物(セラミックなど)支持があり、有機物支持の方が、比較的摩擦力が大きいが、高温部には使えないという問題がある。更に、真空吸着という方式があるが、大気中では使えるが、半導体ウエハやLCD(液品表示)ガラス基盤などの処理時に多用されている真空中では使えない。また、真空吸着は構造も複雑になり、高価である。
【0004】
このため、多くの場合に、搬送物(ウエハなど)は、ハンド支持部との摩擦力のみで保持している。しかし、かかる搬送物が、突然移動させられたり、振動しながら移動させられたりすると、搬送物が滑ってズレを引き起こされ、パーティクルの発生・位置決め不良、搬送物の損傷などの不具合が出てくる。このため、このように精巧な搬送分野に用いられる搬送装置には、極力小さい振動(加速度)で搬送(なめらかな搬送)できることが可能な駆動装置が要求される。
【0005】
このような半導体ウエハやLCD(液品表示)ガラス基盤などの、パーティクルを嫌い、精巧な処理を必要とする搬送装置においては、従来は、ダイレクトドライブ(DD)方式の駆動装置が用いられていた(特開平3−281183号公報)。しかし、DD方式の駆動装置は、出力密度(トルク/体積、トルク/モータ容量)が小さいため、駆動装置が大きく、電源容量も大きくなるという問題があった。
【0006】
一方、駆動装置のコンパクト化を図るために、歯車機構を有する減速機を用いた搬送装置もある。歯車機構を有する減速機を用いることによって、駆動装置のコンパクト化を可能にすることができる。しかし、歯車を有するため、バックラッシが存在したり、振動や騒音を招くという問題があった。また、振動や騒音を低くするため、歯車機構を有する減速機を用いた搬送装置は、制御が複雑になり、高価になっていた。
【0007】
本発明は、上述した従来技術に付随する問題点を解消できる、駆動装置にトラクションドライブ減速機を用いた、コンパクトで低振動・低騒音の半導体ウエハやLCD(液品表示)ガラス基盤などを処理する搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては請求項1に記載のように、駆動モータと、該駆動モータにより駆動される駆動アームと、該駆動アームの先端に接続された搬送台とを備えた搬送装置において、
前記駆動モータからの出力が、外接軸と、外接軸の外周に配置された複数の中間軸と、中間軸の外周で内接する内接円筒とからなるトラクションドライブ減速機を介して、前記駆動アームに伝達されることを特徴とする搬送装置が提供される。
【0009】
本発明においては、請求項2に記載のように、前記搬送装置が同軸状に配置した2つの出力軸を有しており、各出力軸が、外接軸と、外接軸の外周に配置された複数の中間軸と、中間軸の外周で内接する内接円筒とからなるトラクションドライブ減速機を介して対応する駆動モータに連結されており、前記2つの出力軸から2つの同軸状の出力の取出しを可能としたことを特徴とする装置とすることができる。
【0010】
この場合に、搬送装置の同軸状に配置した2つの出力軸とトラクションドライブ減速機の出力部材とを一体的に連結してもよく、または無端ベルト等の伝導部材を介して連結してもよい。
【0011】
また、前記トラクションドライブ減速機は、複数の中間軸を回転自在に支持するキャリアを固定して、組をなした中間軸のうちの少なくとも1つから回転を入力し、対応する外接軸から出力を取出すようにしてもよく、外接軸から回転を入力し、複数の中間軸が内接している内接円筒を固定し、複数の中間軸を回転自在に支持するキャリアから回転出力を取出すようにしてもよい。
【0012】
更に、本発明の搬送装置は、請求項3に記載のように、前記トラクションドライブ減速機の前段に、前段減速機を連結しており、該前段減速機が外接軸と、外接軸の外周に接触配置された複数の中間軸と、中間軸の外周に内接する内接円筒とからなるトラクションドライブ減速機からなることを特徴とする搬送装置とすることにより、一層減速比が高まり、バックラッシ(ガタ)がなく、駆動始めのガタによる衝撃もなくなり、搬送物のずれを生じさせない上で一層好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る駆動装置にトラクションドライブ減速機を用いた搬送装置は、コンパクトで低振動・低騒音であり、特に半導体ウエハやLCD(液品表示)ガラス基盤などを処理する搬送装置として適する。
すなわち、この本発明に係る搬送装置によれば、駆動装置をコンパクトにでき、減速機に歯のないトラクションドライブ方式を用いたことによって、駆動が滑らかになって、振動や騒音を低減でき、搬送物のずれを生ずることなく搬送できる。トラクションドライブ減速機を用いたため、バックラッシ(ガタ)がなく、駆動始めのガタによる衝撃もなくなり、搬送物のずれを生じさせない。
【0014】
更に本発明では、前記トラクションドライブ減速機の出力側に位置検出器を設けたことを特徴とする搬送装置としてもよい。トラクションドライブ方式では、その構造上、トラクションドライブ内部に微小な滑りが生ずることが考えられる。このため、上述の出力側に位置検出器を設けた構成とすることにより、仮にトラクションドライブ減速機に滑りが生じたとしても、位置検出器により出力側の回転位置を検出することができ、適宜復旧、補正等を行うことができる。
【0015】
また、本発明では外接軸の外径と中間軸の外径の2倍の和を、内接円筒の内径より大きくして締め代を設定し、その締め代によってトルク調整機能を具備させたことを特徴とする搬送装置とすることが好ましい。本発明ではトラクションドライブ減速機を用いており、搬送装置のアーム等が万が一衝突した場合でも、滑りを生じさせることによって回避ができるため、歯車を用いた減速機のように搬送装置が破損することがない。更に、上述のように位置検出器を設けることにより、容易に復旧可能である。加えて、上述のように、外接軸の外径と中間軸の外径の2倍の和を、内接円筒の内径より大きくして締め代を設定する構成とすることにより、締め代によってトルクの調整ができるため、耐衝突荷重を容易に設定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明を詳細に説明する。図1は本発明に係るトラクションドライブ減速機を用いた搬送装置60の第1実施例を示し、(a)は実施例の構造を模式的に示す概略断面図、(b)は(a)のA−A線に沿う断面図である。なお、外接軸、中間軸および内接円筒は実際はそれぞれ接触しているが、図1(a)においては図示を明瞭にするために、それらの間に微小な隙間を形成して示した。また、図1(b)ではキャリアの図示は省略している。
【0017】
本実施例においては、図1(a)に示すように、上下一対のプレート11、12とその間を連結する柱部13によって本発明のキャリア10が匣状に形成されている。出力外接軸20はその中心部に出力軸21が突設され、キャリア10の上プレート11の中心部に位置する軸受23により出力外接軸20の出力軸21が回転可能に支承されている。出力軸21の上端には、搬送装置60のアーム61が取着されている。
【0018】
この外接軸20の周囲に、複数の(図示した実施例では3個の)中間軸30が、図1(b)に示すように等配的に配置され、外接軸20の外周に接触している。外接軸20は、中間軸30の外径より大きな径を有しており、後述のように中間軸30へ導入された入力を減速して外接軸20から出力する。
【0019】
この複数の中間軸30の外側に内接円筒40の内周が内接している。各中間軸30はキャリア10を構成している上下のプレート11、12に設けた軸受31によって両端が回転可能に支持されている。以上により、トラクションドライブ減速機が構成されている。
【0020】
複数の中間軸30の少なくとも1つに駆動モータ70を連結し、この中間軸30に駆動力を導入する。一方、この実施例ではキャリア10を固定した状態とし、外接軸20から出力を取出す。なお、この実施例の変態様として、内接円筒40を固定して外接軸20から入力を導入し、キャリア10から出力を取り出すようにすることもできる。
【0021】
また、この搬送装置60の減速比を更に高めるためには、トラクションドライブ減速機の入力軸の前段に、すなわち、図1に示した実施例では中間軸30と駆動モータとの間に、また上述した変態様では外接軸20と駆動モータとの間に、更に別の前段減速機50を設けてもよい。この前段減速機50もトラクションドライブ減速機としてもよい。
【0022】
次に、図2を参照して複数の出力を同軸状に取出すようにした、本発明に係るトラクションドライブ減速機を用いた搬送装置60の第2実施例について説明する。図2は本発明に係る第2実施例を示し、(a)は概略断面図であり、(b)は図2(a)においてA位置の断面を示し、(c)は図2(a)においてB位置の断面を示す。
【0023】
上下一対のプレート11、12からなるキャリア10が柱部13によって連結されて強固な匣状の状態とされている。このキャリア10の中心部に中空出力軸21Aを有する出力外接軸20Aと出力外接軸20Aの中空出力部を貫通する出力軸21Bを有する出力外接軸20Bとが同軸状に配置されている。中空出力軸21Aおよび出力軸21Bの上端には、それぞれ搬送装置60のアーム部(第1アーム61Aおよび第2アーム61B)が取着されている。
【0024】
各出力外接軸20A、20Bの回りには、図2(b)および図2(c)に示すように、それぞれ複数の中間軸30A、30Bが配置され、出力外接軸20A、20Bの外周に接触している。なお、中間軸30A、30Bは、図2(a)に示すように、その両端が軸受31A、31Bによりキャリア10に回転可能に支持されている。
【0025】
また、それぞれの中間軸30の外側に内接円筒40A、40Bが設けられ、内接円筒40A、40Bの内周面が中間軸30A、30Bの外側に接触している。それぞれの組をなしている外接軸20A、20B、複数の中間軸30A、30Bおよび内接円筒40A、40Bによって組をなし、本実施例では2つの組からなる減速機の出力軸21A、21Bが同軸状に配置されている。以上により、トラクションドライブ減速機が構成されている。
【0026】
それぞれ組をなしている各組の中間軸30A、30Bの少なくとも1つの軸に、例えば駆動モータ70A、70Bを連結して、回転入力を導入する。またキャリア10は固定支持する。
【0027】
これにより、中間軸30A、30Bから入力された動力が減速されて、それぞれ出力軸21A、21Bから取出すことができる。なお、この減速機の減速比を更に高めるためには、それぞれの減速機の入力軸の前段に、すなわち、中間軸30A、30Bと駆動モータ70A、70Bとの間に、更に別の前段減速機50A、50Bを設けてもよい。このような大減速比の場合においても、本発明によれば平面的な配置とすることができる。
【0028】
本発明に係るトラクションドライブ減速機を用いた搬送装置60の第3の実施例を図3に示す。図2に示す実施例においては、上下一対のプレート11、12からなるキャリア10によって中間軸30A、30Bおよび外接軸20A、20Bをそれぞれ支承していたが、上下キャリア10の間の間隔が長くなる心配がある場合には図3に示す実施例のようにすることが好ましい。この実施例においては、それぞれ組をなしている外接軸20A、20B、中間軸30A、30Bおよび内接円筒40A、40Bの組の間に更に1つのプレート14を挟んでキャリア10を3枚のプレートで構成している。
【0029】
このようにすることによって中間軸30A、30Bを支承している軸の軸受31A、31A間および31B、31B間の距離を短くすることができ、それぞれの中間軸30A、30Bの変形を小さくすることができる。また外接軸20A、20Bについても、特に内側の内接軸20Bをプレート11、14に設けた軸受23Bにより両持ち支持とすることができ、これにより変形をより少なくすることができる。
【0030】
次に本発明に係るトラクションドライブ駆動装置を用いた搬送装置60の一層具体的な実施例を図4を参照して説明する。図4は、図1を参照して説明した実施例の変態様、すなわち、内接円筒を固定し、外接軸から入力しキャリアから出力を取出すタイプのトラクションドライブ減速機を用いた搬送装置60を一層具体的にした実施例を示し、(a)は縦断面図であり、(b)は図4(a)のA−A断面図である。
【0031】
搬送装置60のアーム(図示せず)がクリーンルームなどの、半導体ウエハやLCD(液品表示)ガラス基盤などを処理する処理室内部に設けられており、処理室内部は減圧されており(いわゆる真空状態)、アームを駆動する駆動装置が処理室の外に設けられている構造となっており、その境界が搬送装置取着用マウント62の頭部の板状部62aとなっている。搬送装置取着用マウント62は、頭部の板状部62aと、板状部62aと一体的に取着され下方に突出した円筒部62bとから構成されている。
【0032】
搬送装置取着用マウント62の円筒部62b内に軸受23が設けられ、出力軸21が軸受23によって回転可能に支承されている。出力軸21の上端に半導体ウエハやLCD(液品表示)ガラス基盤などを取り扱う搬送装置60のアーム(図示せず)が取着される。
【0033】
上下一対のプレート11、12とその間を連結する柱部13によって本発明に係るトラクションドライブ減速機のキャリア10が匣状に形成されており、キャリア10(上プレート11、下プレート12および柱部13)が出力軸21の下端部にボルト65により一体的に取着されている。
【0034】
図4(a)に示すように、キャリア10を構成している上下のプレート11、12に軸受31を設け、中間軸30の両端が軸受31によって回転可能に支持されている。更に、回転可能な外接軸20が下プレート12の中心に位置する孔を貫通しており、複数の(図示した実施例では3個の)中間軸30が、図4(b)に示すように、外接軸20の周囲に等配的に配置され、外接軸20の外周に接触している。中間軸30は、外接軸20の外径より大きな径を有している。内接円筒40が搬送装置取着用マウント62の円筒部62b内部に固定設置され、内接円筒40の内周が前述した複数の中間軸30の外側に内接している。
【0035】
上述により、内接円筒40が固定され、外接軸20から入力しキャリア10から出力を取出すトラクションドライブ減速機が構成されており、駆動モータ70の回転が減速されて、キャリア10に一体的に取着された出力軸21が駆動されて出力軸21の上端に取着された搬送装置60のアーム(図示せず)が作動される。
【0036】
なお、軸受23の上方の出力軸21の内側と搬送装置取着用マウント62の円筒部62b内部との間隙および搬送装置取着用マウント62の板状部62aの中心に形成された開口部と出力軸21の内側との間隙には、磁性流体シール等の非接触型シールまたは接触形シールからなる軸シール63を設けて、処理室内部の真空を保っている。また、64はトラクションドライブ減速機側からオイルが漏れないようにするオイルシールである。
【0037】
出力軸21には、上側の軸シール63の下方(すなわち、真空処理室の外部)で且つ軸受23の上方に肩部21aが形成されており、この肩部21aにドーナツ板状の外軸用位置検出器の符号板67がボルト68により止着されている。また、搬送装置取着用マウント62の円筒部62b内部に検出部69が設けられており、上述の符号板67の符号を検出して出力軸21の回転位置を検出するようになっている。
【0038】
また、この搬送装置60の減速比を更に高めるために、上述したトラクションドライブ減速機の入力軸の前段に、すなわち、外接軸20と駆動モータ70との間に、更に別の前段減速機50を設けている。この実施例の前段減速機50は、上述したトラクションドライブ減速機と同様の構造であり、内接円筒53を固定し、駆動モータ70の回転を外接軸51から入力し、キャリア54から出力を取出すタイプのトラクションドライブ減速機であり、キャリア54は外接軸51に外接する多数の中間軸55を支承しており、外接軸51は駆動モータ70の出力軸に連結しており、キャリア54に前述したトラクションドライブ減速機外接軸20を一体的に連結している。
【0039】
上記構成からなる本実施例の搬送装置60においては、駆動用モータ70から入力された動力は、前段減速機50により減速され、その出力は搬送装置60の出力軸21駆動用の外接軸20に入力される。そしてこの入力された回転は第1段のトラクションドライブ減速機により減速されて出力軸21を回転させ、その出力軸21に取付けられたアーム61を駆動する。
【0040】
本実施例の搬送装置によれば次のような効果が奏せられる。本実施例では、駆動装置の減速機構に、歯が存在しないトラクション方式(転がり伝達)または、フリクション方式(非金属による摩擦伝達)を用いており、ウエハなどの搬送物に滑り(ずれ)を生じることなく搬送でき、また、トラクション方式は、歯車機構に見られるようなバックラッシュ(ガタ)もないため、駆動始めのガタによる衝撃もなくなり、搬送物に滑り(ずれ)を生じさせない。このため、上記コンパクト化、極低振動化、低騒音化が可能となった。
【0041】
また、トラクション方式では、減速機に歯がないため、従来高精度位置決めに不向きとされているが、上記実施例では出力軸21にエンコーダ(符号板67および検出器の検出部69)を持たせることによって、この高精度位置決めに不向きという問題を解決している。
【0042】
更に、本実施例の搬送装置では、軸受23の上方に、磁性流体シール等の非接触型シールまたは接触形シールからなる軸シール63を設けて、処理室内部の真空を保っており、真空中、大気中でも使用可能である。
【0043】
更に、減速機を有する搬送装置60の場合、入力から出力まで機械的に繋がっているため、搬送時、何かの原因によって衝突を引き起こしても、モータの上限トルク以内なら、動き続けようとし、搬送物や搬送装置60を損傷したりすることがあり、最悪の場合、人間が挟まれ損傷する恐れもある。これに対し、本実施例の搬送装置では、トラクション方式を有する減速機は、歯が存在しないため、ある一定以上のトルクが作用するとトラクションドライブ内部で、滑り現象を生じるため、衝突による衝撃を吸収することができる。また、滑りにより、位置ズレが生じても、上述のように、出力側にエンコーダを有するため、容易に復帰 (原点復帰など)も可能である。
【0044】
更に別の実施例を図5〜図7を参照して説明する。図5は、図3に示したトラクションドライブ減速機を用いた搬送装置60をより具体的にした実施例を示す断面図であり、図6(a)は図5のA−A断面図、図6(b)は図5のB−B断面図であり、図7(a)は図5のC−C矢視図、図7(b)は図5のD−D断面図である。
【0045】
搬送装置60のアーム部(第1アーム61Aおよび第2アーム61B)がクリーンルームなどの、半導体ウエハやLCD(液品表示)ガラス基盤などを処理する処理室内部に設けられており、処理室内部は減圧されており(いわゆる真空状態)、これら第1アーム61Aおよび第2アーム61Bを駆動する駆動装置が処理室の外に設けられている構造となっており、その境界が搬送装置取着用マウント62の頭部の板状部62aとなっている。搬送装置取着用マウント62は、頭部の板状部62aと、板状部62aと一体的に取着され下方に突出した円筒部62bとから構成されている。
【0046】
互いに同軸状となった中空出力軸(外軸)21Aおよび中実出力軸(内軸)21Bが、搬送装置取着用マウント62に対し、図3に示した実施例と同様にして、軸受23A、23Bによって回転可能に支承されている。すなわち、中空出力軸(外軸)21Aは円筒部62bの内部に設けられた軸受23Aにより回転可能に支承され、中実出力軸(内軸)21Bは中空出力軸(外軸)21Aの内部に設けられた軸受23Bにより回転可能に支承されている。
【0047】
軸受23Bの上方の中空出力軸(外軸)21Aの内側と中実出力軸(内軸)21Bの外側との間隙および搬送装置取着用マウント62の板状部62aの中心に形成された開口部と中空出力軸(外軸)21Aの外側との間隙には、磁性流体シール等の非接触型シールまたは接触形シールからなる軸シール63を設けて、処理室内部の真空を保っている。
【0048】
中空出力軸(外軸)21Aおよび中実出力軸(内軸)21Bにはそれぞれ半導体ウエハやLCD(液品表示)ガラス基盤などを取り扱う第1アーム61Aおよび第2アーム61Bがボルト64A、64Bにより取着されている。
【0049】
中空円筒軸からなる出力軸(外軸)21Aには、その下端先端部にボルト65Aにより外接軸20Aが締結されている。外接軸20Aは、図6(a)に示すように、円板状をしており、その中心部は中空となっていて、中実出力軸(内軸)21Bが貫通可能となっている。外接軸20Aの外周面には、実施例においては3本の、中間軸30Aが等配的に接触している。
【0050】
更に、中間軸30Aはドーナツ形状をした内接円筒40Aの内面に内接している。ここに、外接軸20Aの外径と中間軸30Aの外径の2倍の和を、内接円筒40Aの内径より大きくして締め代を設定し、その締め代によってトラクションドライブ減速機にトルク調整機能を具備させている。なお、本実施例ではキャリア10を固定しており、中間軸30Aの1本には、中空出力軸(外軸)21Aの駆動用前段減速機50Aが連結され、更に、この外軸用前段減速機50Aを介して外軸駆動モータ70Aからの動力が伝達され、これによって、外接軸20Aから出力が取出せるようになっている。
【0051】
また、中実状軸出力軸(内軸)21Bの下部の、前述した外接軸20Aの下方位置には、外接軸取着用のマウント66がスプライン21Baによって結合されており、この外接軸取付用マウント66にボルト65Bによって外接軸20Bが締結されている。外接軸20Bは、図6(b)に示すように、円板状をしており、その中心部は中空となっていて中実出力軸(内軸)21Bの下端部が貫通可能となっている。この外接軸20Bには上述した外接軸20Aを定着するためのボルト65Aを通すためのボルト通し穴20Baが設けられている。
【0052】
外接軸20Bの周囲に、図6(b)に示すように、この実施例においては3本の、中間軸30Bが等配的に外接しており、この外接軸20Bはドーナツ形状をした内接円筒40Bに内接している。ここに、外接軸20Bの外径と中間軸30Bの外径の2倍の和を、内接円筒40Bの内径より大きくして締め代を設定し、その締め代によってトラクションドライブ減速機にトルク調整機能を具備させている。なお、本実施例ではキャリア10を固定しており、中間軸30Bの1本には中実出力軸(内軸)21B駆動用前段減速機50Bが連結され、更に、この内軸用前段減速機50Bを介して内軸駆動モータ70Bからの動力が伝達され、これによって、外接軸20Bから出力が取出せるようになっている。
【0053】
なお、図6(a)および(b)において、符号13は上下のプレート11、12、14を一体的に強固に連結するためのキャリアの柱である。図6(b)においては、外接軸20Bと内接円筒40Bとの間隙を、中空円筒出力軸(外軸)21Aを駆動する中間軸30Aの下端部が非接触状態で貫通している。
【0054】
中空出力軸(外軸)21Aには、軸シール63の下方(すなわち、真空処理室の外部)で且つ軸受23Aの上方に肩部21Aaが形成されており、この肩部21Aaにドーナツ板状の外軸用位置検出器の符号板67Aがボルト68Aによ
り止着されている。また、搬送装置60のキャリア10側には外軸用位置検出器の検出部69Aが設けられており、上述の符号板67Aの符号を検出して出力軸21Aの回転位置を検出するようになっている。
【0055】
一方、中実出力軸(内軸)21Bの下端先端部21Bb(すなわち、真空処理室の外部)には、円板状をした内軸用位置検出器の符号板67Bがボルト68Bにより止着されており、この符号板67Bに対向して搬送装置60のキャリア10側には、図5(b)に示すように、内軸用位置検出器の検出部69Bが設けられており、出力軸21Bの回転位置を検出するようになっている。
【0056】
この実施例においては、上述した外軸用前段減速機50Aおよび内軸用前段減速機50Bは、それぞれトラクションドライブタイプの減速機であり、この減速機においてはそれぞれの外接軸51に、中空出力軸(外軸)21Aおよび中実出力軸(内軸)21Bを駆動する外軸駆動モータ70Aおよび内軸駆動モータ70Bがそれぞれ連結されている。この外接軸51の外周に複数の中間軸52が等配的に外接しており、この中間軸52の外側は内接円筒53に内接している。この減速機の内接円筒53を固定しキャリア54から出力を取出す。これらキャリア54からの出力を、それぞれ上述した第1段の中間軸30A、30Bに入力するようになっている。なお、この減速機においても、外接軸51の外径と中間軸52の外径の2倍の和を、内接円筒53の内径より大きくして締め代を設定し、その締め代によってトルク調整機能を具備させている。
【0057】
上記構成からなる本実施例の搬送装置60においては、外軸駆動用モータ70Aから入力された動力は、前段減速機50Aにより減速され、その出力は搬送装置60の外軸駆動用の中間軸30Aに入力される。そしてこの入力された回転は第1段のトラクションドライブ減速機により減速されて中空出力軸(外軸)21Aを回転させ、その中空出力軸(外軸に)21Aに取付けられた第1アーム61Aを駆動する。また同様に内軸駆動用モータ70Bの回転力は内軸用前段減速機50Bに入力され、ここで所定の減速が行われた後、後段の内軸駆動用減速機の中間軸30Bに入力され、中実状出力軸(内軸)21Bを介し第2アーム61Bを駆動するようになっている。
【0058】
本実施例の搬送装置によれば次のような効果が奏せられる。本実施例では、2本の出力軸が同軸状に配置されており、搬送装置がコンパクトである。また、駆動装置の減速機構に、歯が存在しないトラクション方式(転がり伝達)または、フリクション方式(非金属による摩擦伝達)を用いており、ウエハなどの搬送物に滑り(ずれ)を生じることなく搬送でき、また、トラクション方式は、歯車機構に見られるようなバックラッシュ(ガタ)もないため、駆動始めのガタによる衝撃もなくなり、搬送物に滑り(ずれ)を生じさせない。このため、上記コンパクト化、極低振動化、低騒音化が可能となった。
【0059】
また、トラクション方式では、減速機に歯がないため、従来高精度位置決めに不向きとされているが、上記実施例では出力側(すなわち、中空出力軸(外軸)21Aおよび中実出力軸(内軸)21B)にエンコーダ(符号板67A、67Bおよび位置検出器の検出部69A、69B)を持たせることによって、この高精度位置決めに不向きという問題を解決している。
【0060】
更に、本実施例の搬送装置では、軸受23Bの上方の中空出力軸(外軸)21Aの内側と中実出力軸(内軸)21Bの外側との間隙および搬送装置取着用マウント62の板状部62aの中心に形成された開口部と中空出力軸(外軸)21Aの外側との間隙には、磁性流体シールまたは接触式シールからなる軸シール63を設けて、処理室内部の真空を保っており、軸シール63によって真空中、大気中でも使用可能である。
【0061】
更に、減速機を有する搬送装置60の場合、入力から出力まで機械的に繋がっているため、搬送時、何かの原因によって衝突を引き起こしても、モータの上限トルク以内なら、動き続けようとし、搬送物や搬送装置60を損傷したりすることがあり、最悪の場合、人間が挟まれ損傷する恐れもある。これに対し、本実施例の搬送装置では、トラクション方式を有する減速機は、歯が存在しないため、ある一定以上のトルクが作用するとトラクションドライブ内部で、滑り現象を生じるため、衝突による衝撃を吸収することができる。その上、本実施例の搬送装置では、外側加圧リング(内接円筒)の締めた代を調整することによって、自由にトラクションドライブの負荷トルク(滑りが発生するトルク)を設定することが可能である。また、滑りにより、位置ズレが生じても、上述のように、出力側にエンコーダを有するため、容易に復帰(原点復帰など)も可能である。
【0062】
図8は具体的にした更に別の搬送装置の実施例を示し、(a)は縦断面図であり、(b)は(a)のA−A断面図である。
【0063】
前述した図5〜図7に示した実施例においては搬送装置60の中空出力軸(外軸)21Aおよび中実出力軸(内軸)21Bを同軸状の二重構造とするとともに、これら中空出力軸(外軸)21Aおよび中実出力軸(内軸)21Bを駆動装置であるトラクションドライブ減速機の外接軸20A、20Bにボルト65A、65Bによって締結していた。
【0064】
これに対して、図8に示す実施例においては、搬送装置60の中空出力軸(外軸)21Aおよび中実出力軸(内軸)21Bを同軸状の二重構造としているが、これら中空出力軸(外軸)21Aおよび中実出力軸(内軸)21Bとトラクションドライブ減速機の出力軸(実施例においては、キャリア10A、10B)と無端ベルトにより連結しており、中空出力軸(外軸)21Aおよび中実出力軸(内軸)21Bの双方について搬送装置60駆動用のトラクションドライブ減速機およびその前段減速機を同じような構造とできる。
【0065】
中空出力軸(外軸)21Aおよび中実出力軸(内軸)21Bの下端部に、無端ベルト用プーリ90A、90Bをボルト締結またはスプライン結合して一体的に取着している。
【0066】
一方、搬送装置60駆動用のトラクションドライブ減速機93A、93B(以下、後段減速機という)、その前段減速機50A、50Bおよび駆動モータ70A、70Bの組を、中空出力軸(外軸)21Aおよび中実出力軸(内軸)21B用に2組用意し、図8において、それらを中空出力軸(外軸)21Aおよび中実出力軸(内軸)21Bの左右に設置する。
【0067】
なお、後段減速機93A、93Bは、図4に示したものと同様な構造からなり、内接円筒40A、40Bが固定され、外接軸20A、20Bから入力しキャリア10A、10Bから出力を取出すトラクションドライブ減速機が構成されており、駆動モータ70A、70Bの回転が減速されて、キャリア10に一体的に取着された出力軸21が駆動される。各後段減速機93A、93Bのキャリア10A、10Bに連結された出力軸95A、95Bに無端ベルト用プーリ91A、91Bを一体的に取着している。
【0068】
中空出力軸(外軸)21Aの下端部に形成された無端ベルト用プーリ90Aとキャリア10Bに連結された出力軸95Bに形成された無端ベルト用プーリ91Bとの間に無端ベルト92Bを掛け渡し、また、中実出力軸(内軸)21Bの下端部に形成された無端ベルト用プーリ90Bとキャリア10Aに連結された出力軸に形成された無端ベルト用プーリ92Aとの間に無端ベルト92Aを掛け渡している。
【0069】
また、この実施例の前段減速機50A、50Bは、上述したトラクションドライブ減速機と同様の構造であり、内接円筒53を固定し、駆動モータ70A、70Bの回転を外接軸51から入力し、キャリア54から出力を取出すタイプのトラクションドライブ減速機であり、キャリア54は外接軸51に外接する多数の中間軸55を支承しており、外接軸51は駆動モータ70A、70Bの出力軸に連結している。
【0070】
その他の構造および作用効果は、図4または図5〜図7に示した実施例と同様であるので、説明を省略する。
【0071】
なお、図8では、位置検出器(符号板67A、67Bおよび検出部69A、69B)(なお、図8では検出部69Bは図示せず)を中空出力軸(外軸)21Aおよび中実出力軸(内軸)21Bに設けたが、本実施例ではベルトプーリ90A、90B、91A、91Bに押圧力を加えることにより、無端ベルト92A、92Bとベルトプーリ90A、90B、91A、91B間のバックラッシを除去できるため、トラクションドライブ減速機93A、93Bの各出力軸に回転位置検出器を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の第1実施例を示し、(a)は実施例の構造を模式的に示す断面図、(b)は(a)のA−A線に沿う断面図である。
【図2】本発明に係る第2実施例を示し、(a)は概略断面図であり、(b)は図2(a)においてA位置の断面を示し、(c)は図2(a)においてB位置の断面を示す。
【図3】本発明に係る第3実施例を示し、図2(a)に類似する概略断面図である。
【図4】搬送装置を一層具体的にした実施例を示し、(a)は縦断面図であり、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図5】(a)は本発明に係る搬送装置を一層具体的にした別の実施例の断面図であり、(b)は(a)に示す実施例の中実出力軸(内軸)の下端部に取着した内軸用位置検出器の検出部を示す部分図である。
【図6】図5に示す実施例の断面図であり、(a)は図5のA−A断面図、(b)は図5のB−B断面図である。
【図7】図5に示す実施例の断面図であり、(a)は図5のC−C矢視図、図7(b)は図5のD−D断面図である。
【図8】搬送装置を具体的にした更に別の実施例を示し、(a)は縦断面図であり、(b)は(a)のA−A断面図である。
【符号の説明】
【0073】
10 キャリア
11、12、14 プレート
13 柱部
20、20A、20B 出力外接軸
21、21A、21B 出力軸
23 軸受
30、30A、30B 中間軸
40、40A、40B 内接円筒
31、31A、31B 軸受
50、50A、50B 減速機
70、70A、70B 駆動モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動モータと、該駆動モータにより駆動される駆動アームと、該駆動アームの先端に接続された搬送台とを備えた搬送装置において、
前記駆動モータからの出力が、外接軸と、外接軸の外周に配置された複数の中間軸と、中間軸の外周で内接する内接円筒とからなるトラクションドライブ減速機を介して、前記駆動アームに伝達されることを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
前記搬送装置が同軸状に配置した2つの出力軸を有しており、各出力軸が、外接軸と、外接軸の外周に配置された複数の中間軸と、中間軸の外周で内接する内接円筒とからなるトラクションドライブ減速機を介して対応する駆動モータに連結されており、前記2つの出力軸から2つの同軸状の出力の取出しを可能としたことを特徴とする請求項1に記載の搬送装置。
【請求項3】
前記トラクションドライブ減速機の前段に、前段減速機を連結しており、該前段減速機が外接軸と、外接軸の外周に接触配置された複数の中間軸と、中間軸の外周に内接する内接円筒とからなるトラクションドライブ減速機からなることを特徴とする請求項1または2に記載の搬送装置。
【請求項4】
前記トラクションドライブ減速機の出力側に位置検出器を設けたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の搬送装置。
【請求項5】
外接軸の外径と中間軸の外径の2倍の和を、内接円筒の内径より大きくして締め代を設定し、その締め代によってトルク調整機能を具備させたことを特徴とする請求項4に記載の搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−307682(P2008−307682A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186718(P2008−186718)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【分割の表示】特願2000−251607(P2000−251607)の分割
【原出願日】平成12年8月22日(2000.8.22)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】