説明

苗移植機

【課題】 本発明は、電動モータを搭載する苗移植機において、機体の軽量化等を図ることにより、走行性能や植付性能を向上させることを課題とする。
【解決手段】 走行装置9を備える車体6と、該車体6の後側に昇降リンク機構16を介して設けた苗植付部17と、車体6の後側で且つ苗植付部17の前側に上下動機構21を介して設けた整地装置20を備える苗移植機において、走行装置9を駆動するための走行モータ8を車体6に設け、苗植付部17を駆動するための植付モータ22を苗植付部17に設け、整地装置20を駆動するための整地モータ50を整地装置20に設け、植付モータ22及び整地モータ50の駆動速度を走行モータ8の駆動速度に比例させると共に、走行モータ8の駆動速度に対する植付モータ22及び整地モータ50の駆動速度を各々独立して変更できる制御装置を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータを動力源とした苗移植機の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来から例えば、乗用田植機等のように、水田を走行する作業車両に動力源としてエンジンと電動モータとを装備し、エンジンを駆動しながら行う走行作業中に、一定以上の走行負荷、及び作業負荷が加わると、その負荷に応じて、電動モータを駆動してエンジンをアシストすることによって、水田中の走行作業を適確に行う技術が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−268722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来から、この種作業車両は、動力源として電動モータを搭載すれば、静かな環境で振動の少ない状態で作業ができる特徴が知られているが、付随的に電源としてバッテリーが不可欠となる。このバッテリーは、それ自体が重量物であるが、電動モータを長時間連続運転するためには大きな容量のバッテリーが必要で、機体の重量が大きくなるおそれがある。
【0005】
本発明は、電動モータを搭載する苗移植機において、機体の軽量化等を図ることにより、走行性能や植付性能を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、次のような技術的手段を講じた。
すなわち、走行装置(9)を備える車体(6)と、該車体(6)の後側に昇降リンク機構(16)を介して設けた苗植付部(17)と、車体(6)の後側で且つ苗植付部(17)の前側に上下動機構(21)を介して設けた整地装置(20)を備える苗移植機において、走行装置(9)を駆動するための走行モータ(8)を車体(6)に設け、苗植付部(17)を駆動するための植付モータ(22)を苗植付部(17)に設け、整地装置(20)を駆動するための整地モータ(50)を整地装置(20)に設け、植付モータ(22)及び整地モータ(50)の駆動速度を走行モータ(8)の駆動速度に比例させると共に、走行モータ(8)の駆動速度に対する植付モータ(22)及び整地モータ(50)の駆動速度を各々独立して変更できる制御装置(11)を設けた苗移植機とした。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明によると、走行装置9を駆動するための走行モータ8を車体に設け、苗植付部17を駆動するための植付モータ22を苗植付部17に設け、整地装置20を駆動するための整地モータ50を整地装置20に設けたので、各々のモータからの伝動構造を簡潔なものにでき、機体の軽量化が図れ、走行性能及び植付性能を向上させることができる。また、植付モータ22及び整地モータ50の駆動速度を走行モータ8の駆動速度に比例させるので、走行速度の変更に拘らず所定の植付株間を維持でき、走行速度の変更に拘らず整地装置20の対地速度を所定に維持できるため、整地装置20により泥や水を側方へ押し出すことを抑えながら適正な整地作用を得ることができる。しかも、走行モータ8の駆動速度に対する植付モータ22の駆動速度を変更することにより、植付株間を変更することができ、走行モータ8の駆動速度に対する整地モータ50の駆動速度を変更することにより、圃場の状況に応じて適正に整地作用を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】乗用田植機の側面図
【図2】乗用田植機の平面図
【図3】車体カバーを外した状態の要部平面図
【図4】油圧回路と付随する装置を示す図。
【図5】逆止弁を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
この発明の実施の一形態を、以下に説明する。
苗移植機である乗用田植機15は、図1、及び図2に示すように、左右一対の前輪9a,9aと後輪9b,9bとから構成した走行装置9を備え、車体6の後側には、昇降する昇降リンク機構16を介して苗植付部17を装備した構成としている。そして、車体カバー1は、図面に示すように、車体6の上側から覆わせて取付けているが、フラットなフロア2を形成する中間カバー1aと、ステアリングハンドル3を上部に軸装したハンドルポスト4の中間部分から下側を覆う前部カバー1bと、上部にオペレータが座る運転席5を支持した後部カバー1cとの3つのカバーから構成している。そして、中間カバー1aによって形成されているフラットなフロア2は、オペレータが乗車して移動できる程度の広さを有し、そのフロア2の上には、前部と後部とに、それぞれ前記前部カバー1bと前記後部カバー1cとを配置してフラットな面から隆起させて高く構成している。
【0010】
この場合、後部カバー1cの上部にある運転席5に座ったオペレータが、前部カバー1bによって覆われているハンドルポスト4上に軸装したステアリングハンドル3を、運転操作が可能で、且つ運転時に居住性を保つ程度の間隔を隔てて後方位置に配置した構成としている。そして、車体6には、図面に示すように、前記前部カバー1bの両側に、両方とも外側に向けて突出させた位置に補助苗載せ枠18を設けて構成している。そして、前記ステアリングハンドル3は、ハンドル操作によって前輪9a,9aの操向操作ができるように接続し、乗用田植機15の操舵を可能に構成している。
【0011】
左右の前輪9a及び左右の後輪9bからなる計4輪の走行車輪は、各々専用の電動式の走行モータ8により駆動する。該走行モータ8の出力軸が車軸となり、各々の走行車輪を駆動する構成となっている。
【0012】
そして、苗植付部17は、図面に示すように、下部位置に設けられている電動式の植付モータ22の動力で駆動する構成となっている。そして、苗植付部17は、上側に4つの苗タンク24を横並びに配置して一体に左右往復横移動可能に設け、後部側には植付軌跡を描いて苗を圃場面に植付ける4条(2本一組で4器)の植付杆25を設け、下側にはフロート26を支持して水田面を滑走できる構成としている。
【0013】
このように構成した苗植付部17は、昇降リンク機構16によって車体6の後部に支持され、前記フロート26によって田面を滑走しながら苗の植付作業ができる構成としている。
【0014】
そして、車体6の後部には施肥装置27を設けており、該施肥装置27により苗を植付ける圃場面に施肥する構成となっている。施肥装置27は、肥料を貯留するタンク52と、タンク52から肥料を繰り出す繰出部53と、繰出部53で繰り出された肥料を苗植付部17のフロート26付近まで移送する移送管54と、移送管で移送された肥料を圃場へ吐出する吐出口を構成する吐出体55を備えている。吐出体55は、フロート26に固着されている。吐出体55の前方位置には、フロート26に固着した作溝体56を設け、該作溝体56で作溝した位置に施肥する構成となっている。また、移送管54に移送用の圧力風を供給するエアチャンバ57と、エアチャンバ57に圧力風を供給するブロア58を備えている。そして、ブロア58及び繰出部53を駆動する電動式の施肥モータ45を設けている。
【0015】
また、車体6の後側で且つ苗植付部17の前側には、整地装置となる整地ロータ20を設けている。この整地ロータ20は、左右中央部20aが左右両側部20bに対して前側に偏位して配置されている。苗植付部17の前部に設けたリンク機構からなる上下動機構21により、整地ロータ20が苗植付部17に対して上下動する構成となっている。左右一側(左側)の整地ロータ20の駆動軸上には整地モータ50を設け、該整地モータ50により、先ず前記左右一側(左側)の整地ロータ20を駆動し、左右一側(左側)の整地ロータ20から伝動軸を収容する左右一側(左側)の伝動ケース51を介して左右中央部の整地ロータ20を駆動し、左右中央部の整地ロータ20から伝動軸を収容する左右他側(右側)の伝動ケース51を介して左右他側(右側)の整地ロータ20を駆動する。
【0016】
つぎに、前記電動モータである走行モータ8、植付モータ22及び整地モータ50の電源となるバッテリー10と、該バッテリー10からの電源を制御する制御装置となるコントローラ11との搭載手段について、説明する。まず、バッテリー10等を収納するケース12は、図面に示すように、コントローラ11と複数個のバッテリー10を収納できるスペースを持った容積に形成して、前記後部カバー1cの内部空間13、すなわち、運転席5のすぐ下側から前記中間カバー1aの下側、すなわち、隆起した運転席5より低い位置でその両側に広がっているフラットなフロア2の下側に至る広い範囲に配置して支持した構成としている。そして、ケース12は、その下端に相当する底12aの部分を、前記車体カバー1の下端部位より低い位置まで下げ、下側に突出させた形状に形成して密閉状に覆った構成としている。そして、実施例の場合、前記ケース12は、水の浸入が完全に近いまで発生しないように形成し、更に、底12aをフロート状に仕上げて水田面に接触すると浮力が働く形状に構成し、重心位置を大幅に低くしている。
【0017】
このように、バッテリー10とコントローラ11は、上記の如く構成したケース12に収納して車体6の低い位置に搭載するから、バッテリー10の漏電や故障がほとんど発生せず、従来に比較して、車体6の重心が下がり低重心となって、走行時に前後、左右のバランスがよくなり走行安定性が増すことになった。
【0018】
そして、バッテリー10とコントローラ11とを収納したケース12は、中間カバー1aの下側、すなわち、フラットなフロア2に下側に取り付けることによって、フロア2の強度もアップできるものとなった。
【0019】
そして、前記ケース12は、図3に示すように、容積を拡大するために、左右両外側に広がってフロアの下側にまで達しているが、前輪9a,9aの操舵範囲(車輪9aの操舵時の回動半径イ)の内側に達しないように制限しており、前輪9a,9aの操舵に支障がないように構成している。
【0020】
つぎに、バッテリー10のメンテナンスについて述べる。ケース12は、図1に示すように、運転席5を構成するシート5aの回動支点Pを、後部カバー1cの前部位置に設け、該シート5aを、回動支点Pを起点にして上方から前方に回動して下側を解放できる構成にしている。
【0021】
そして、下側のケース12も、蓋を前側支点にして上側へ簡単に開放できる構成にしている。したがって、ケース12内のバッテリー10のメンテナンスが比較的楽にできるが、実施例の場合、コントローラ11は、上記シート5aの前記回動支点Pに近い位置に搭載し、バッテリー10をシート5aの回動支点P位置から離して遠い側(後側、図3参照)に搭載している。
【0022】
そのために、ケース12内の配置において、高電圧のコントローラ11が回動支点P側に位置しており、バッテリー10の交換時に手などの人体が触れないように配慮した構成としているから、低電圧(単体のとき)であるバッテリー10を安心して扱い、交換等のメンテナンスが安全にできる特徴がある。
【0023】
つぎに、昇降油圧シリンダー30は、図1に示すように、ピストン側を車体6の後部に装備した昇降リンク機構16に接続し、苗植付部17を昇降する構成としているが、その油圧回路31について説明する。
【0024】
まず、上記昇降油圧シリンダー30は、図4に示すように、油圧ポンプ32から送側油路33、切換バルブ34、送側油路35によって作動油が送り込まれるように接続し、ステアリングハンドル3の側方(左側)に設けた植付昇降レバー36の切換操作によって前記切換バルブ34を切換えて伸縮作動する構成としている。そして、前記昇降油圧シリンダー30は、図4に示すように、還流油路37が接続され、更に、前記切換バルブ34、還流油路38を経てベーンポンプ39に接続して構成し、前記コントロールレバー36の操作によって切換バルブ34を連通側に切り換えられると、苗植付部17が自重によってシリンダ30内の作動油を圧縮しながら縮小側に下がり、高圧で還流する作動油がベーンポンプ39に供給されて回転される構成となっている。このようにして、ベーンポンプ39は、タンク43に還流する作動油によって駆動されて発電作用を行う構成となっている。
【0025】
そして、4個のうちの後輪駆動用の1個の走行モータ8は、動力取出用の出力軸40を設けて前記油圧ポンプ32を伝動する構成としているが、この出力軸40を利用して油圧ポンプ32の隣に前記ベーンポンプ39も軸装して設け、構成の簡略化を図っている。そして、油圧ポンプ32は、前記出力軸40が正転の時にのみ駆動されて作動油を送り出す構成であって、逆転時には回転できないようにワンウエイクラッチを装備しており、一方、ベーンポンプ39は、前記出力軸40が正転時には回転しないようにワンウエイクラッチが装備された構成としている。
【0026】
更に、前記コントロールレバー36は、図面に示すように、切換バルブ34の切換操作に伴って、油圧ポンプ32とベーンポンプ39との間に装備しているブレーキ41の切換操作ができるように連結して設け、正転時にはベーンポンプ39側に、又、逆転時には油圧ポンプ32側にそれぞれブレーキをかけて過大な電流の発生をカットできる構成としている。
【0027】
よって、苗植付部17を昇降操作する昇降油圧シリンダー30の油圧回路を活用して、還流作動油を利用しながらベーンポンプ39を駆動して発電を可能としている。このように、実施例は、電動モータである走行モータ8から油圧ポンプ32を伝動する出力軸40に、上述のベーンポンプ39を装備したきわめてシンプルな構成でありながら、油圧ポンプ32が休止して還流作動油がタンク43側に還流する途中を利用して発電を行い、バッテリー10に蓄電することができる特徴がある。
【0028】
ところで、この乗用田植機15は、苗植付部17を左右ローリングさせる左右ローリング油圧シリンダを備えているが、左右ローリング油圧シリンダへの油路には逆止弁62を設けている。この逆止弁62は、油路を塞ぐスチールボール63と、該スチールボール63を油路を塞ぐ側へ付勢するスプリング64と、スチールボール63及びスプリング64を収容するカラー65と、カラー65を固定するボルト66を備え、スプール軸67がスチールボール63をスプリング64に抗して押すことにより、油路の閉塞が解除される構成となっている。カラー65の内径部の雌ネジ部65aとボルト66の雄ネジ部が螺合し、バルブケース68の雌ネジ部にカラー65の外径部の雄ネジ部65bが螺合している。これにより、カラー65をボルト66と共にバルブケース68から取り外すことができ、バルブケース68の内部の点検やスチールボール63及びスプリング64の交換等のメンテナンスを容易に行える。尚、カラー65の内径部の雌ネジ部65a並びにボルト66の雄ネジ部と、バルブケース68の雌ネジ部並びにカラー65の外径部の雄ネジ部65bとは、逆ネジになっている(一方が左ネジ、他方が右ネジ)。従来は、カラーとボルトは螺合せず、カラーがバルブケースから抜けないように、バルブケースの雌ネジ部に螺合するボルトで止めていただけであったので、ボルトを取り外してもカラーをバルブケースの内部から取り出すのが困難なことがあった。
【0029】
そして、ステアリングハンドルの側方(左側)には変速レバー59を設けている。制御装置となるコントローラ11は、変速レバー59の操作位置を検出する変速レバーセンサからの入力信号に基づいて、4個の走行モータ8の駆動速度を制御し、走行速度を制御する。また、植付モータ22、施肥モータ45及び整地モータ50の駆動速度を、走行モータ8の駆動速度に比例させて制御する。運転席5の側方(右側)には株間変速レバー60を設けており、株間変速レバー60の操作位置を検出する株間変速レバーセンサからの入力信号に基づいて、走行モータ8の駆動速度と植付モータ22の駆動速度の速度比を設定し、この速度比に基づいて走行モータ8の駆動速度に対して植付モータ22の駆動速度を制御し、植付株間を制御する。尚、植付昇降レバー36の操作位置を検出する植付昇降レバーセンサからの入力信号により、非植付位置に操作しているときは、植付モータ22及び施肥モータ45の駆動を停止する。また、運転席5の側方(左側)には整地装置変速レバー61を設けており、整地装置変速レバー61の操作位置を検出する整地装置変速レバーセンサからの入力信号に基づいて、走行モータ8の駆動速度と整地モータ50の駆動速度の速度比を設定し、この速度比に基づいて走行モータ8の駆動速度に対して整地モータ50の駆動速度を制御し、整地ロータ20の対地駆動速度を制御する。尚、整地装置変速レバー61を非駆動位置に操作しているときは、整地モータ50の駆動を停止する。
【0030】
よって、走行装置9を駆動するための走行モータ8を車体6に設け、苗植付部17を駆動するための植付モータ22を苗植付部17に設け、整地装置20を駆動するための整地モータ50を整地装置20に設けたので、各々のモータからの伝動構造を簡潔なものにでき、機体の軽量化が図れ、走行性能及び植付性能を向上させることができる。また、植付モータ22、施肥モータ45及び整地モータ50の駆動速度を走行モータ8の駆動速度に比例させるので、走行速度の変更に拘らず所定の植付株間を維持でき、走行速度の変更に拘らず整地装置20の対地速度を所定に維持できるため、整地装置20により泥や水を側方へ押し出すことを抑えながら適正な整地作用を得ることができる。また、走行速度の変更に拘らず、圃場の単位面積当たりの施肥量を適正に維持できる。しかも、走行モータ8の駆動速度に対する植付モータ22の駆動速度を変更することにより、植付株間を変更することができ、走行モータ8の駆動速度に対する整地モータ50の駆動速度を変更することにより、例えば深水で水が多い圃場では泥や水を側方へ押さずに後方へ排出できるように整地装置20を高速で駆動し、浅水で水が少ない圃場では泥や水が跳ね上がるのを抑えるために整地装置20を低速で駆動する等して、圃場の状況に応じて適正に整地作用を得ることができる。尚、深水、浅水に限らず、泥や水の跳ね上がりを抑えたいときは整地装置20を低速で駆動したり、圃場に残る藁等の夾雑物を土中に埋没させたいときは整地装置20を高速で駆動したりすることができる。
【0031】
以下、コントローラ11による他の制御内容について説明する。ステアリングハンドル3の切れ角を検出するハンドル切れ角センサを設け、ハンドル切れ角センサからの入力信号に基づいて、機体の旋回時には、畦際近くで圃場が荒れているため土壌面を均平にするべく整地装置20を高速で駆動し、機体の直進時には、通常の植付走行と判断し整地装置20を低速で駆動することができる。また、機体の直進時でも、植付昇降レバーセンサからの入力信号により植付昇降レバー36を非植付位置に操作しているときは、圃場が激しくあれている場合の事前整地作業と判断し、確実に整地できるよう整地装置20を高速で駆動する。
【0032】
また、各走行モータ8には、土面又は水面に接触したことを検出して機体が土面に対して沈下したことを検出する沈下センサを設けている。この沈下センサにより、機体の沈下を検出すると、前輪9aと後輪9bの回転周速度を異ならせたり、前進と後進を繰り返したりして、機体が沈没するのを防止する構成としている。この沈没防止の制御は、格別に設けた脱出モードスイッチを操作したときのみ作動する構成としてもよい。例えば、前輪9a及び後輪9bの一方の走行車輪の走行モータ8の沈下センサのみ沈下を検出する場合、その走行車輪が配置される前後反対側に機体が走行する構成とすればよい。すなわち、前輪9aが沈下するときは後進し、後輪9bが沈下するときは前進する。
【0033】
また、圃場面の凹凸が激しく、苗植付部17の昇降が多いとき、すなわち植付時にフロート26の角度を検出するフロートセンサにより苗植付部17の対地高さを検出して苗植付部17の昇降制御をするが、フロートセンサの検出値の変化が多いときは、整地モータ50を高速で駆動し、確実に整地できるようにする。
【0034】
尚、ハンドル切れ角センサの検出に基づき、機体の直進時には、前輪9aの回転周速度が後輪9bの回転周速度よりも若干速くなるように、各々の走行モータ8の駆動速度が制御される。これにより、機体の直進性を向上させることができる。
【0035】
また、植付昇降レバー36が植付位置に操作されているにも拘らず、ステアリングハンドル3を大きく操舵しているときは、直進植付行程において機体の向きを大きく修正しようとしているため、素早く機体の向きを修正して所望の走行経路に復帰できるよう、左右の前輪9a及び後輪9bの回転速度を異ならせる。すなわち、ステアリングハンドル3を操舵している側の左右一側(操向内側)の前輪9a及び後輪9bの走行モータ8の駆動速度を低速にする。
【0036】
また、ハンドル切れ角センサの検出に基づき、機体の旋回時には、旋回内側の後輪9bの走行モータ8の駆動を停止し、旋回内側の後輪9bを遊転させることにより、機体を円滑に旋回させる構成となっている。左右の後輪9bの走行モータ8部には、左右各々の後輪9bの回転数を検出する後輪回転数センサを設け、機体の旋回時に、旋回内側の後輪9bの回転数が旋回外側の後輪9bの回転数に基づく所定の回転数よりも低いとき(旋回内側の後輪9bの回転数が旋回外側の後輪9bの回転数の所定比(例えば5分の1)以下のとき)は、旋回が円滑に行われていないと判断し、旋回内側の後輪9bを所定回転量だけ駆動する。これにより、旋回外側の後輪9bのスリップを抑えることができる。左右移動する苗タンク24が旋回内側に位置するほど、機体の重心位置の変化により旋回外側の後輪9bのスリップ率が高くなると想定し、苗植付部17の苗タンク24の左右位置を検出する苗タンク左右位置センサに基づき、苗タンク24が旋回内側に位置するほど前記所定比を小さくし(苗タンク24の左右移動に応じて所定の変化量で一次関数的に小さくし)、無闇に旋回内側の後輪9bが駆動することにより機体の旋回経路が大回りになるのを防止できる。尚、苗タンク24の苗量を検出する苗量センサに基づき、苗タンク24の苗の重量に応じて、前記所定値を変更する(苗の重量が多いほど前記所定の変化量を大きくする)ようにしてもよい。
【0037】
また、上述の制御により旋回時に旋回内側の後輪9bを駆動するにも拘らず、ステアリングハンドル3の切れ角が所定値以上のときは、ブザーや音声等によりオペレータに報知する。これにより、オペレータは、旋回外側の後輪9bのスリップが大きく、走行できない状況に陥ろうとしているのに、ステアリングハンドル3の操舵角が大きいことに気付くため、ステアリングハンドル3の直進側への戻し操作を促すことができ、走行不能状態に陥るのを回避できる。
【0038】
前述では、株間変速レバー60の操作位置に基づき、走行モータ8の駆動速度に対する植付モータ22の駆動速度を制御する構成としたが、GPS受信機を設け、GPSシステムから得られる機体の走行速度に植付モータ22の駆動速度を制御する構成とすれば、実走行速度に基づいて植付株間を制御することになり、走行装置9のスリップの影響を受けずに正確な植付株間を得ることができる。
【0039】
尚、前述では各々の走行車輪を駆動する走行モータ8について説明したが、走行モータにより複数の走行車輪を駆動する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0040】
6:車体、8:走行モータ、9:走行装置、11:コントローラ、15:乗用田植機、16:昇降リンク機構、17:苗植付部、21:上下動機構、22:植付モータ、50:整地モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行装置(9)を備える車体(6)と、該車体(6)の後側に昇降リンク機構(16)を介して設けた苗植付部(17)と、車体(6)の後側で且つ苗植付部(17)の前側に上下動機構(21)を介して設けた整地装置(20)を備える苗移植機において、走行装置(9)を駆動するための走行モータ(8)を車体(6)に設け、苗植付部(17)を駆動するための植付モータ(22)を苗植付部(17)に設け、整地装置(20)を駆動するための整地モータ(50)を整地装置(20)に設け、植付モータ(22)及び整地モータ(50)の駆動速度を走行モータ(8)の駆動速度に比例させると共に、走行モータ(8)の駆動速度に対する植付モータ(22)及び整地モータ(50)の駆動速度を各々独立して変更できる制御装置(11)を設けた苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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