説明

苗移植機

【課題】後輪のローリングアームによる左右支持レベル調整機能を確保しつつ、前端操作部材による機体操作を要する急傾斜の登行行程における機体姿勢の安定化を図ることができる苗移植機を提供する。
【解決手段】苗移植機は、前輪10と後輪11とを備えた走行車体2と、その後部で昇降可能な移植部4と、機体前端の前端操作部材6と、左右の後輪11を機体支持点18aより後方で上下動作可能に支持するローリングアーム18とを備えて構成され、上記ローリングアーム18の上下動作を許容する縦案内溝72とその支持レベルを上限位置に保持する横案内溝73とをそれぞれ形成したローリングガイド71を設け、前端操作部材6を傾動動作可能に軸支してその傾動位置で両ローリングガイド71を弾発付勢し、上限支持レベル位置に達したローリングアーム18を横案内溝73に保持する連結部材63を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機体後部に昇降可能に移植部を備える苗移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
引用文献1に示すように、機体後部に昇降可能に移植部を備えるとともに、機体前端部に起立する操作レバー状の前端操作部材を設けた苗移植機が知られている。この苗移植機は、植付作業時は移植部を圃場面まで下降して植付走行を行い、この時、前端操作部材の上端に設けた中央指標によって走行方向を見定めることができる。
【0003】
一方、機体移動時は移植部を非作業位置に上昇して移動走行することができ、特に、ホイールベースの短い小型機における移植部上昇時の後重心による不安定走行に対処するために、前端操作部材に作業者が手を掛けて前端部の浮き上がりを抑えつつ機体を案内することにより、安定して機体を前進させることができる。
【0004】
また、特許文献2に示すように、左右の後輪をローリングアームとして機能する後輪ギヤケースにより、機体支持点となる個別ローリング軸の後方に連結して上下動作可能に独立支持し、輪重対応の前進駆動力によるモーメントが後輪ギヤケースに作用するように構成することにより、輪重増加に伴う後輪ギヤケースの傾動によって輪重増加側の機体支持レベルが高く調整されることから、圃場の凹凸によって機体が片側に傾斜しても側方への過大な重心移動を抑えるように左右の支持レベル調整が行われ、左右方向について水平に維持されて植付け全幅について植付け深さを揃えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−232714号公報
【特許文献2】特開2007−1380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、圃場内の苗移植機が畦上まで出入通路を登る急傾斜の登行行程においては、後輪のローリングアームとして機能する後輪ギヤケースが左右方向傾斜に大きく反応して個別に高さ調整動作することから機体姿勢の不安定化を招き、特に、ホイールベースの短い小型車両にあっては、移植部上昇に伴う後重心による機体前部の浮き上がりを抑えつつ安定して畦上まで機体の前進を案内するために前端操作部材を介して機体操作する必要があるので、機体姿勢の不安定な変化に対処しつつ、機体の前部浮き上がりを抑えつつ畦上まで機体を案内する煩雑な操作を強いられて作業者の労力増大を招くという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、後輪のローリングアームによる左右支持レベル調整機能を確保しつつ、前端操作部材による機体操作を要する急傾斜の登行行程における機体姿勢の安定化を図ることができる苗移植機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、圃場を走行する左右の前輪(10)と後輪(11)を備えた走行車体(2)と、該走行車体(2)の後部に昇降可能に設けられて複数条の苗を圃場に植え付ける移植部(4)と、走行車体(2)の前端に機体操作用に起設したレバー状の前端操作部材(6)と、前記左右の後輪(11)を機体支持点(18a)よりも後方に上下動可能に連結して左右の支持レベルをそれぞれ調整するローリングアーム(18)を備える苗移植機において、前記ローリングアーム(18)の上下回動を許容する縦案内溝(72)と、該ローリングアーム(18)を支持レベルの上限位置に固定する横案内溝(73)を形成したローリングガイド(71)を左右にそれぞれ設け、前記前端操作部材(6)を傾斜動作可能に構成し、前端操作部材(6)の傾斜動作に連動してローリングガイド(71)が付勢される構成とし、上限支持位置に達したローリングアーム(18)を前記横案内溝(73)に移動させる連結部材(63)を設けたことを特徴とする苗移植機とした。
【0009】
上記ローリングガイド(18)は、前端操作部材(6)を傾動操作すると連結部材(63)を介して付勢されるローリングガイド(71)に形成した縦案内溝(72)に沿ってローリングアーム(18)の上下動を許容すると共に、横案内溝(73)で支持レベルの上限位置まで移動したローリングアーム(18)を固定する構成としたことにより、前端操作部材(6)を操作してローリングアーム(18)の固定状態と非固定状態が切り替えられる。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記前端操作部材(6)の基部側に連結ロッド(61)を介して引寄アーム(62)を回動自在に配置し、該引寄アーム(62)の機体前側に張圧力を有する張圧スプリング(63a)を設け、該張圧スプリング(63a)とローリングガイド(71)を連結部材(63)を介して連結し、前端操作部材(6)を回動操作するとローリングガイド(71)が引張り側に保持される構成としたことを特徴とする請求項1記載の苗移植機とした。
上記連結ロッド(61)を介して前端操作部材(6)と連動動作する引寄アーム(62)に張圧スプリング(63a)を備える連結部材(63)を連結したことにより、前端操作部材(6)を操作することによりローリングガイド(71)が機体前側に向かって張圧保持される。
【0011】
請求項3に係る発明は、機体の前後傾斜を検出する傾斜センサ(81)と、左右の前輪(10)の回転数を検出する左右の回転検出部材(82)と、該左右の回転検出部材(82)の回転数を記録し、警報装置(83)を作動制御する制御装置(80)を備え、該制御装置(80)による傾斜センサ(81)の検出値が所定角度以上であり、前記左右の回転検出部材(82)の検出値の差が所定値以上になると警報装置(83)を作動させる構成としたことを特徴とする請求項1または2記載の苗移植機とした。
上記により、機体が傾斜した状態で圃場の出入口に斜めから進入しようとすると、旋回時の前後傾斜の検出により警報装置(83)が作動する。
【0012】
請求項4に係る発明は、前記移植部(4)の苗供給側を構成する苗タンク(51)の上部側に苗が所定量以上載っているか否かを判断する上側苗検知部材(91)を設け、前記傾斜センサ(81)の検出値が所定角度以上であり、移植部(4)の左右中央部よりも右側の上側苗検知部材の検知数(91)と移植部の左右中央部よりも左側の上側苗検知部材(91)の検知数に差が生じたとき、または移植部の左右中央部よりも右側または左側のどちらか一側の上側苗検知部材(91)の検知数が0になったとき、前記警報装置(83)を作動させる構成としたことを特徴とする請求項3に記載の苗移植機とした。
上記苗タンク(4)に積載されている苗の量に差異が生じ、苗タンク(4)の左右バランスが崩れて所定角度以上傾斜すると、警報装置(83)が作動する。
【0013】
請求項5に係る発明は、前記走行車体(2)に設けた作業座席(31)の作業者を検知する搭乗検知部材(93)と、前記移植部(4)が非作業高さ位置まで上昇したことを検知する上昇検知部材(94)と、前端操作部材(6)を所定角度以上回動させたことを検知する回動検知部材(95)を設け、該搭乗検知部材(93)が作業者の搭乗を検知し、上昇検知部材(94)が移植部(4)の非作業高さ位置までの移動を検知し、且つ回動検知部材(95)が前端操作部材(6)の所定角度以上の回動を検知していないと警報装置(83)を作動させる構成としたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の苗移植機とした。
上記操縦席(31)の搭乗検知部材(93)と移植部(4)の上昇検知部材(94)が検知状態で、且つ前端操作部材(6)の回動検知部材(95)が前端操作部材(6)の所定角度以上の回動を検知していないと、警報装置(83)が作動する。
【0014】
請求項6に係る発明は、機体前側に照明(103)を有するボンネット(104)を設け、機体前側の左右中央部に回動自在に配置した上下方向に長い棒状の支持フレーム(6f)と該支持フレーム(6f)の上部で且つ照明(103)の上側に設けた左右方向のグリップバー(6g)により前記前端操作部材(6)を構成し、この前端操作部材(6)の基部を走行車体(2)の下部に設けるとともに、基部側後部に走行車体(2)を停止させる第2停止スイッチ(102a)を設けたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の苗移植機とした。
上記前端操作部材(6)を構成する棒状の支持フレーム(6f)を機体前側の左右中央部に設けたことにより、ボンネット(104)に設ける照明(103)を前端操作部材(6)が遮ることが防止でき、また、前端操作部材(6)の基部側後部の第2停止スイッチ(102a)で走行車体が停止する。
【0015】
請求項7に係る発明は、機体前側に照明(103)を有するボンネット(104)を設け、機体前側の左右中央部に回動自在に配置した上下方向に長い棒状の支持フレーム(6f)と該支持フレーム(6f)の上部で且つ照明の上側に左右方向のグリップバー(6g)を設けて前端操作部材(6)を構成し、この前端操作部材(6)の上部に機体直進の目印となるガイド部材(101)を前後傾動自在に配置し、該ガイド部材(101)の基部側後部に走行車体(2)を停止させる第1停止スイッチ(102)を設けたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の苗移植機とした。
上記前端操作部材(6)の上部にガイド部材(101)を設けたことにより、このガイド部材(101)が照明(103)を遮ることが防止され、また、ガイド部材(101)の基部の後側の第1停止スイッチ(102)で走行車体が停止する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の構成により、ローリングガイド(71)に形成した縦案内溝(72)によってローリングアーム(18)の上下動作を許容し、横案内溝(73)によってローリングアーム(18)の支持レベルが上限位置に固定され、前端操作部材(6)を傾斜操作すると連結部材(63)を介してローリングガイド(71)が付勢され、ローリングアーム(18)が上限位置に達すると横案内溝(73)に移動して自動的に固定されることから、機体操作を要する圃場の出入口等の急傾斜地形を移動する際、前端操作部材(6)を操作して機体後部を高レベルに固定した状態で前進走行させることにより、機体を安定した姿勢で操作することができると共に、前端操作部材(6)の操作を要しない圃場で植付走行を行なう際は、圃場面に追従してローリングアーム(18)を上下動させることができるので、左右方向のレベル調整が可能となる。
【0017】
請求項2の構成により、請求項1の効果に加え、連結ロッド(61)を介して前端操作部材(6)と連動動作する引寄アーム(62)に張圧スプリング(63a)を備える連結部材(63)を連結し、前端操作部材(6)の回動でローリングガイド(71)が機体前側に向かって張圧保持されるので、前端操作部材(6)を回動操作したときに圃場に凹凸があり、ローリングアーム(18)が上限レベルまで移動すると張圧スプリング(63a)の張圧力でローリングアーム(18)が横案内溝(73)に固定される。
【0018】
請求項3の構成により、請求項1または請求項2の効果に加え、機体が傾斜した状態で圃場の出入口に斜めから進入を開始した際、旋回時の前後傾斜を傾斜センサ(81)が検出し、所定角度以上の傾斜が検出されると警報装置(83)が作動する構成としたことにより、作業者に警告することにより、機体が傾斜した状態で移動して機体のバランスが崩れ、機体前側が浮き上がることを防止できるので、圃場の出入りが能率的に行なわれる。
また、警報装置(83)で圃場の出入口に斜め方向から侵入すると大きく傾斜することを作業者に知らせることにより、機体のバランスの崩れにくい、圃場の出入口の正面からの出入りを作業者に促すことができるので、作業能率が向上する。
【0019】
請求項4の構成により、請求項3の効果に加え、各苗タンク(51)に設ける上部苗検知部材(91)のうち、2条以上の上部苗検知部材(91)の検知が無い場合は、苗が偏って移植部(4)に積載されており、機体の左右バランスが崩れている可能性があると判断できるので、この状態で傾斜センサ(81)が所定角度以上の傾斜を検出すると警報装置(83)を作動させる構成としたことにより、作業者に苗タンク(51)の確認を促すことができるので、機体の進行方向が左右にぶれることが防止され、作業能率が向上する。
【0020】
請求項5の構成により、請求項1から請求項4のいずれか1項の効果に加え、操縦席(31)の搭乗検知部材(93)と移植部(4)の上昇検知部材(94)が検知状態で、且つ前端操作部材(6)の回動検知部材(95)が前端操作部材(6)の所定角度以上の回動を検知していなければ警報装置(83)を作動させる構成としたことにより、圃場から機体を出す際に、作業者が機体から降りて前端操作部材(6)を操作しておらず、作業者が機体に乗ったまま移植部(4)を上端位置まで上昇させて急傾斜を移動すると、機体バランスが後部寄りになって機体の前側が浮き上がったり、機体の進行方向がぶれたりする事態を防止できるとともに、作業者に機体から降りて前端操作部材を持って機体を圃場外に移動させるように促して作業能率の向上を図ることができる。
【0021】
請求項6の構成により、請求項1から請求項5のいずれか1項の効果に加え、前端操作部材(6)を構成する棒状の支持フレーム(6f)を機体前側の左右中央部に設けたことにより、ボンネット(104)に設ける照明(103)を前端操作部材(6)が遮ることを防止できるので、照明(103)が当たらない死角が生じることが防止され、視認性が向上し、作業能率が向上する。
また、前端操作部材(6)の基部側後部に走行車体(2)を停止させる第2停止スイッチ(102a)を設けたことにより、機体の前に立ち前端操作部材(6)を握る作業者は、機体に何らかの問題が生じた際にすぐに第2停止スイッチ(102a)を操作することができるので、機体の故障や破損が防止される。
【0022】
請求項7の構成により、請求項1から請求項5のいずれか1項の効果に加え、前端操作部材(6)の上部にガイド部材(101)を設けたことにより、ガイド部材(101)が照明(103)を遮らない位置に配置されるので、照明(103)が当たらない死角が生じることが防止され、視認性が向上し、作業能率が向上する。
また、ガイド部材(101)を前後傾動自在に構成し、このガイド部材(101)の基部の後側に第1停止スイッチ(102)を設けたことにより、機体の前側に立ってグリップバー(6g)を握っている作業者は、機体に何らかの問題が生じた際にすぐに第1停止スイッチ(102)を操作することができるので、機体の故障や破損が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を適用した乗用型田植機の側面図
【図2】図1の乗用型田植機の平面図
【図3】フロントグリップの取付部の拡大側面図
【図4】後輪支持部の拡大側面図
【図5】警報システム構成のブロック図
【図6】移植部の背面図
【図7】苗移植機のセンサー配置図
【図8】別の警報システム構成ブロック
【図9】苗移植機の正面図(a)と側面図(b)
【図10】下部カバーの分解斜視図
【図11】警報処理のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0024】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ説明する。
以下、図面に基づき、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
図1及び図2は本発明を適用した乗用型田植機の側面図と平面図である。この乗用型田植機1は、走行車体2の後側に昇降リンク装置3を介して移植部4が昇降可能に装着され、走行車体2の後部上側に施肥装置5の本体部分が設けられ、走行車体の前端には操作部材であるフロントグリップ6を設けて後輪支持部と連係するローリング制御機構を構成するほか、機体下部に大型の下部カバー7が設けられている。なお、搭乗オペレータが苗移植機の前進方向に向かって左右方向をそれぞれ左、右といい、前進方向と後進方向をそれぞれ前、後という。
【0025】
走行車体2は、駆動輪である左右一対の前輪10,10及び左右一対の後輪11,11を備えた四輪駆動車両であって、機体の前部にミッションケース12が配置され、そのミッションケース12の左右側方に前輪ファイナルケース13,13が設けられ、該左右前輪ファイナルケース13,13の操向方向を変更可能な各々の前輪支持部から外向きに突出する左右前輪車軸に左右前輪10,10が各々取り付けられている。また、ミッションケース12の背面部にメインフレーム25の前端部が固着されており、そのメインフレーム25の後端左右中央部に前後水平に設けた後輪ローリング軸を支点にして後輪ギヤケース18,18がローリング自在に支持され、その後輪ギヤケース18,18から外向きに突出する後輪車軸に後輪11,11が取り付けられている。後輪ギヤケース18,18は、個別ローリング軸18a,18aを機体支持点としてその後方に延び、上下動作可能に連結して左右の支持レベルをそれぞれ調整するローリングアームとして機能する。
【0026】
エンジン20はメインフレーム25の上に搭載されており、該エンジン20の回転動力が、ベルト伝動装置21及びHSTを介してミッションケース12に伝達される。ミッションケース12に伝達された回転動力は、該ケース12内のトランスミッションにより変速された後、走行動力と外部取出動力に分離して取り出される。そして、走行動力は、一部が前輪ファイナルケース13,13に伝達されて前輪10,10を駆動すると共に、残りが後輪ギヤケース18,18に伝達されて後輪11,11を駆動する。また、外部取出動力は、走行車体2の後部に設けた植付クラッチケースに伝達され、それから植付伝動軸によって移植部4へ伝動されるとともに、施肥伝動機構によって施肥装置5へ伝動される。
【0027】
エンジン20の上部はエンジンカバーで覆われており、その上に座席31が設置されている。座席31の前方には各種操作機構を内蔵するフロントカバーがあり、その上方に前輪10,10を操向操作するハンドル34が設けられている。昇降リンク装置3は平行リンク構成であって、1本の上リンク40と左右一対の下リンク41,41を備えている。これらリンク40,41,41は、シリンダを油圧で伸縮させることにより、上リンク40が上下に回動し、移植部4がほぼ一定姿勢のまま昇降する。移植部4は8条植の構成で、マット苗を載せて左右往復動し苗を一株分づつ供給するとともに横一列分の苗を供給する苗タンク51と供給された苗を圃場に植付ける苗植付装置52とから構成される。
【0028】
(ローリング制御機構)
ローリング制御機構は、フロントグリップ6と後輪支持部と連係して構成する。
詳細には、フロントグリップ6は、その取付部の拡大側面図を図3に示す通り、機体前端のフロントグリップフレームFの中央部に設けた支軸6aによって前後方向に傾動可能に軸支され、その基部側に連結ロッド61を介して支軸62a回りに動作変換する中継リンクである引寄アーム62の一端62bに連結し、この引寄アーム62の他端62cから連結部材であるガイドワイヤ63を介して次に述べる左右の後輪支持部と連結する。ガイドワイヤ63の一端には、フロントグリップ6の傾動操作に基づく一定の弾発力を発生させるスプリング63aを介設する。
【0029】
左右の後輪ギヤケース18は、後輪支持部の拡大側面図を図4に示すように、後輪11の車軸11aより前側の個別ローリング軸18aを回動支点として上下回動可能に機体後部を支持する。メインフレーム25は、通常の走行時に緩衝用の圧縮スプリングを介して後輪ギヤケース18から支持反力を受け、この時、後輪11の上動によってメインフレーム25側が低レベル状態となり、また、機体の前進で後輪11に所定以上の駆動負荷が生じたときには、その駆動反力によるモーメントが後輪ギヤケース18に作用して後輪ギヤケース18が下側へ回動し、後輪11の下動によってメインフレーム25側が高レベル状態となる。
【0030】
後輪ギヤケース18に近接してメインフレーム25の左右端に設けた支軸71aに前後方向に回動可能にローリングガイド71を軸支する。ローリングガイド71は、後輪ギヤケース18に形成した作用部18bを案内してその上下動作を許容する縦案内溝72と、後輪ギヤケース18による支持レベルを上限位置に保持すべく作用部18bを下動位置で保持する横案内溝73をそれぞれ形成し、フロントグリップ6から延びるガイドワイヤ63をローリングガイド71の支点71bに連結する。
【0031】
横案内溝73は、フロントグリップ6を傾動位置に操作した時のガイドワイヤ63の作用力によって作用部18bを案内する方向に形成するとともに、この保持状態を解除する方向に作用するトルクスプリング74をローリングガイド71に設ける。
【0032】
上記構成のローリングガイド71は、その縦案内溝72によって後輪ギヤケース18の上下動作を許容し、横案内溝73によってその支持レベルを上限位置に保持し、フロントグリップ6を傾動位置に操作することにより、連結部材63を介してローリングガイド71が弾発付勢され、後輪ギヤケース18が上限位置に達すると横案内溝73に保持されることから、急傾斜の登行行程においてフロントグリップ6をオペレータが操作することにより、機体後部を高レベルに固定した状態で機体を安定して取扱うことができ、一方、フロントグリップ6の操作を要しない圃場の植付走行の際は、後輪ギヤケース18の上下動作によって左右方向のレベル調整によって植付け深さを揃えることが可能となる。
【0033】
また、フロントグリップ6は、その基部側に連結ロッド61を介してフロントグリップ6と連動動作する引寄アーム62に張圧用のスプリング63aを備える連結部材63を連結し、フロントグリップ6の回動でローリングガイド71が機体前側に向かって張圧保持されるので、フロントグリップ6を回動させると圃場に凹凸があり、後輪ギヤケース18が上限レベルになると張圧スプリング63aの張圧力で後輪ギヤケース18が横案内溝73にロックされる。
【0034】
(警報システム)
次に、警報システムについて説明する。
警報システムは、構成のブロック図を図5に示すとおり、機体の前後傾斜を検出する傾斜センサ81と、左右の前輪10,10の回転数を検出する左右の回転検出部材82と、左右の回転検出部材82の回転数を記録し、ブザー等の警報装置83を作動制御する制御装置80とから構成され、この制御装置80により、傾斜センサ81の検出値が所定角度(例えば、10度)以上であって、左右の回転検出部材82の検出値の差が所定値以上(例えば、L−R≒±3〜)の場合に、回転差が無くなるまで警報装置83を作動する構成とする。
【0035】
上記警報システムにより、機体が傾斜した状態で圃場の出入口に斜め方向から進入しようとする際、所定角度以上の機体の前後傾斜を傾斜センサ81が検出すると警報装置83が作動することから、作業者に警告することにより、そのまま移動して機体のバランスが崩れ、機体前側が浮き上がることを防止できる。
また、警報装置83で圃場の出入口に斜め方向から侵入すると大きく傾斜することを作業者に知らせることにより、機体のバランスの崩れにくい、圃場の出入口の正面からの出入りを作業者に促すことができるので、作業能率が向上する。
【0036】
また、移植部4の背面図を図6に示すとおり、苗タンク51の上部側に苗が所定量以上載っているか否かを判断する上側苗検知部材である上側苗検知スイッチ91と、傾斜センサ81の検出値が所定角度(10度)以上である場合に、移植部4の左右中央部よりも右側の上側苗検知部材91の検知数と移植部4の左右中央部よりも左側の上側苗検知部材91の検知数に差が生じたとき、または移植部4の左右中央部よりも右側または左側のどちらか一側の上側苗検知部材91の検知数が0になったときに、警報装置83を作動させる構成とする。
【0037】
各苗タンク51に設ける上部苗検知スイッチ91のうち、2条以上の上部苗検知スイッチ91が検知状態で無い場合は、苗が移植部4の左右のどちらかに偏って積載されており、機体の左右バランスが崩れている可能性があるため、所定角度以上機体が傾斜したことを傾斜センサ81が検出すると警報装置83が作動する構成としたことにより、作業者に作業の中断を促すことができるので、機体の進行方向が左右にぶれることが防止され、作業能率が向上する。この場合において、苗量の検出は、必要により、苗減少センサ92を設けてもよい。
【0038】
また、図7の苗移植機のセンサー配置図に示すとおり、走行車体の作業座席31の作業者を検知する重量センサ、感圧センサ等による着座センサである搭乗検知部材93と、移植部4が非作業高さ位置まで上昇したことを検知するリンクセンサによる上昇検知部材である上昇スイッチ94と、フロントグリップ6を所定角度以上回動させたことを検知する回動検知部材であるグリップスイッチ95とを設けて、図8の警報システム構成ブロック図に示すとおり、搭乗検知部材93が作業者の搭乗を検知し、上昇スイッチ94が移植部4の非作業高さ位置までの移動を検知し、且つグリップスイッチ95がフロントグリップ6の所定角度以上の回動を検知していないと警報装置83を作動させる制御構成とする。
【0039】
上記構成により、操縦席の搭乗検知部材93と移植部4の上昇検知部材94が検知状態で、且つフロントグリップ6の回動検知部材95がフロントグリップ6の所定角度以上の回動を検知していなければ警報装置を作動させる(図11参照)ことにより、圃場から機体を出す際に、作業者が機体から降りてフロントグリップ6を操作せず、機体に乗ったまま移植部4を上端位置まで上昇させて急傾斜を移動すると、作業者の体重を受けて機体バランスが後部寄りになるため、機体の前側が浮き上がったり、機体の進行方向がぶれたりする事態を防止できる。
また、作業者に機体から降りてフロントグリップ6を持ち、機外から機体を圃場外に移動させることを促すことにより、機体を速やかに圃場外に移動させられるため、作業能率の向上が図られる。
この場合において、必要により、N条植えの場合の条別の苗感知センサ91の半数の条の苗検知を警報条件に加重してもよい。
【0040】
(緊急停止機構)
次に、緊急停止機構の構成例について説明する。
苗移植機の正面図(a)と側面図(b)を図9に示すとおり、機体前側に照明103を有するボンネット104を設け、機体前側の左右中央部に回動自在に配置した上下方向に長い棒状の支持フレーム6fとこの支持フレーム6fの上部で且つ照明の上側に左右方向のグリップバー6gを設けてフロントグリップ6を構成し、このフロントグリップ6の上部に機体直進の目印となるガイド部材であるセンターマスコット101を前後傾動自在に配置し、このセンターマスコット101の基部側後部に走行車体を停止させる第1停止スイッチ102を設ける。
【0041】
このように、フロントグリップ6の上部にガイド部材であるセンターマスコット101を設けたことにより、ガイド部材101が照明103を遮らない位置に配置されるので、照明103が当たらない死角が生じることが防止され、視認性が向上し、作業能率が向上する。
また、ガイド部材101を前後傾動自在に構成し、このガイド部材101の基部の後側に第1停止スイッチ102を設けたことにより、機体の前側に立ってグリップバー6gを握っている作業者は、機体に何らかの問題が生じた際にすぐに第1停止スイッチ102を操作することができるので、機体の故障や破損が防止される。
【0042】
また、別の構成例として、機体前側に照明103を有するボンネット104を設け、機体前側の左右中央部に回動自在に配置した上下方向に長い棒状の支持フレーム6fとこの支持フレーム6fの上部で且つ照明103の上側に設けた左右方向のグリップバー6gとによって前記フロントグリップ6を構成し、このフロントグリップ6の基部を走行車体の下部に設けるとともに基部側後部に走行車体を停止させる第2停止スイッチ102aを設けて構成する。
【0043】
上記構成により、フロントグリップ6を構成する棒状の支持フレーム6fを機体前側の左右中央部に設けたことにより、ボンネット104に設ける照明103をフロントグリップ6が遮ることを防止できるので、照明103が当たらない死角が生じることが防止され、視認性が向上し、作業能率が向上するほか、フロントグリップ6の基部側後部に走行車体を停止させる第2停止スイッチ102aを設けたことにより、機体の前に立ちフロントグリップ6を握る作業者は、機体に何らかの問題が生じた際にすぐに第2停止スイッチ102aを操作することができるので、機体の故障や破損が防止される。
【0044】
(下部カバー)
次に、泥除け用の下部カバー7について説明する。
下部カバー7は、その分解斜視図を図10に示すとおり、圃場の泥水を掻き分けて直進方向の抵抗を減らすように先端7aを絞るとともに、深い湿田では機体を浮かせつつ進めるように船底型のプレート7bによって形成し、苗移植機の下部を覆わせて装着する。
上記下部カバー7により、深い湿田や機体が重量で沈み込みやすい軟質圃場において、ミッションケース12や突起部が泥の抵抗を受けて進めなくなるという事態を防止し、また、機体を沈みにくくすることができる。
【符号の説明】
【0045】
1 乗用型田植機
2 走行車体
3 昇降リンク装置
4 移植部
6 フロントグリップ(前端操作部材)
6a 支軸
6f 支持フレーム
6g グリップバー
10 前輪
11 後輪
11a 車軸
18 後輪ギヤケース(ローリングアーム)
18a 個別ローリング軸
18b 作用部
25 メインフレーム
31 作業座席
34 ハンドル
40 上リンク
41 下リンク
51 苗タンク
52 苗植付装置
61 連結ロッド
62 引寄アーム
62a 支軸
62b 一端
62c 他端
63 ガイドワイヤ(連結部材)
63a 張圧スプリング
71 ローリングガイド
71b 支点
71a 支軸
72 縦案内溝
73 横案内溝
74 トルクスプリング
80 制御装置
81 傾斜センサ
82 回転検出部材
83 警報装置
91 上側苗検知スイッチ(上側苗検知部材)
92 苗減少センサ
93 搭乗検知部材
94 上昇スイッチ(上昇検知部材)
95 グリップスイッチ(回動検知部材)
101 センターマスコット(ガイド部材)
102 第1停止スイッチ
102a 第2停止スイッチ
103 照明
104 ボンネット
F フロントグリップフレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場を走行する左右の前輪(10)と後輪(11)を備えた走行車体(2)と、該走行車体(2)の後部に昇降可能に設けられて複数条の苗を圃場に植え付ける移植部(4)と、走行車体(2)の前端に機体操作用に起設したレバー状の前端操作部材(6)と、前記左右の後輪(11)を機体支持点(18a)よりも後方に上下動可能に連結して左右の支持レベルをそれぞれ調整するローリングアーム(18)を備える苗移植機において、
前記ローリングアーム(18)の上下回動を許容する縦案内溝(72)と、該ローリングアーム(18)を支持レベルの上限位置に固定する横案内溝(73)を形成したローリングガイド(71)を左右にそれぞれ設け、前記前端操作部材(6)を傾斜動作可能に構成し、前端操作部材(6)の傾斜動作に連動してローリングガイド(71)が付勢される構成とし、上限支持位置に達したローリングアーム(18)を前記横案内溝(73)に移動させる連結部材(63)を設けたことを特徴とする苗移植機。
【請求項2】
前記前端操作部材(6)の基部側に連結ロッド(61)を介して引寄アーム(62)を回動自在に配置し、該引寄アーム(62)の機体前側に張圧力を有する張圧スプリング(63a)を設け、該張圧スプリング(63a)とローリングガイド(71)を連結部材(63)を介して連結し、前端操作部材(6)を回動操作するとローリングガイド(71)が引張り側に保持される構成としたことを特徴とする請求項1記載の苗移植機。
【請求項3】
機体の前後傾斜を検出する傾斜センサ(81)と、左右の前輪(10)の回転数を検出する左右の回転検出部材(82)と、該左右の回転検出部材(82)の回転数を記録し、警報装置(83)を作動制御する制御装置(80)を備え、該制御装置(80)による傾斜センサ(81)の検出値が所定角度以上であり、前記左右の回転検出部材(82)の検出値の差が所定値以上になると警報装置(83)を作動させる構成としたことを特徴とする請求項1または2記載の苗移植機。
【請求項4】
前記移植部(4)の苗供給側を構成する苗タンク(51)の上部側に苗が所定量以上載っているか否かを判断する上側苗検知部材(91)を設け、前記傾斜センサ(81)の検出値が所定角度以上であり、移植部(4)の左右中央部よりも右側の上側苗検知部材の検知数(91)と移植部の左右中央部よりも左側の上側苗検知部材(91)の検知数に差が生じたとき、または移植部の左右中央部よりも右側または左側のどちらか一側の上側苗検知部材(91)の検知数が0になったとき、前記警報装置(83)を作動させる構成としたことを特徴とする請求項3に記載の苗移植機。
【請求項5】
前記走行車体(2)に設けた作業座席(31)の作業者を検知する搭乗検知部材(93)と、前記移植部(4)が非作業高さ位置まで上昇したことを検知する上昇検知部材(94)と、前端操作部材(6)を所定角度以上回動させたことを検知する回動検知部材(95)を設け、該搭乗検知部材(93)が作業者の搭乗を検知し、上昇検知部材(94)が移植部(4)の非作業高さ位置までの移動を検知し、且つ回動検知部材(95)が前端操作部材(6)の所定角度以上の回動を検知していないと警報装置(83)を作動させる構成としたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の苗移植機。
【請求項6】
機体前側に照明(103)を有するボンネット(104)を設け、機体前側の左右中央部に回動自在に配置した上下方向に長い棒状の支持フレーム(6f)と該支持フレーム(6f)の上部で且つ照明(103)の上側に設けた左右方向のグリップバー(6g)により前記前端操作部材(6)を構成し、この前端操作部材(6)の基部を走行車体(2)の下部に設けるとともに、基部側後部に走行車体(2)を停止させる第2停止スイッチ(102a)を設けたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の苗移植機。
【請求項7】
機体前側に照明(103)を有するボンネット(104)を設け、機体前側の左右中央部に回動自在に配置した上下方向に長い棒状の支持フレーム(6f)と該支持フレーム(6f)の上部で且つ照明の上側に左右方向のグリップバー(6g)を設けて前端操作部材(6)を構成し、この前端操作部材(6)の上部に機体直進の目印となるガイド部材(101)を前後傾動自在に配置し、該ガイド部材(101)の基部側後部に走行車体(2)を停止させる第1停止スイッチ(102)を設けたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−148618(P2012−148618A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7296(P2011−7296)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】