説明

蓄電デバイス

【課題】 初期特性やサイクル特性を含む蓄電性能が良好であるのみならず、プレドープを低温かつ短時間で行うことが可能な、リチウムイオン蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】 貫通孔14aを有するフィルム状の負極集電体14bとこの負極集電体14b上に施された負極活物質14cとを含む負極14と、貫通孔12aを有するフィルム状の正極集電体12bと、正極集電体上12bに施された正極活物質12cとを含む正極12とを、それぞれ複数有し、負極14と正極12とをフィルム状のセパレータ16を介して交互に積層した形態で含む電極ユニット30、リチウム極集電体18aとリチウム金属18bとを含み、負極14、正極12、又は負極14及び正極12の双方と電気化学的に接触するリチウム極18、及び25℃における導電率が8mS/cm〜20mS/cmの範囲にある電解液、を含むことを特徴とするリチウムイオン蓄電デバイス30が得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極、負極及びリチウム極を含むリチウムイオン蓄電デバイスに関し、特にリチウム極から負極に対し、リチウムイオンを短時間にてプレドープすることが可能なリチウムイオン蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車や電気機器等に使用可能な蓄電デバイスとして、従来より多種の二次電池やキャパシタ等の開発が進められている。
【0003】
このうち、高エネルギー密度及び高出力密度の実現可能なリチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタ等のリチウムイオン蓄電デバイスの開発が注目を集めている。リチウムイオン蓄電デバイスの例には、マンガン系正極を採用したリチウムポリマー電池、負極材料にチタン酸リチウムを用いた高密度バッテリー、正極材料にリン酸鉄リチウムを用いた長寿命のリチウムイオン電池、電気二重層型の非水系リチウム型蓄電素子、及び正極、負極、及びリチウムイオンプレドープ極(以下、リチウム極という)を持つ、リチウムイオンプレドープ型蓄電デバイス等がある。
【0004】
このような多種の蓄電デバイスのうち、リチウムイオンプレドープ型蓄電デバイスでは、高出力、高エネルギー密度等の蓄電性能が向上し、更に飛躍的な小型化が可能とされたために、実用範囲が各段に広がり、更なる高性能化や、安全性の確保のためにも研究が続けられている。
【0005】
研究の実情としては、蓄電デバイスのあらゆる特性を満足に得ることは容易ではない。例えば、リチウムイオンプレドープ型蓄電デバイスにおいて、リチウムイオンのプレドープ状態を均一化させてエネルギー密度を高く得ようとすれば製造に時間がかかり、価格が安定しない場合もある。その反対に、蓄電デバイスの製造工程を高速化しようとすれば、蓄電デバイスの長期信頼性が得にくいこともある。すなわち、蓄電デバイスの品質保証のみならず、併せて生産性を向上させることも研究の対象とされている。
【0006】
具体例としては、特許文献1に見られるように、貫通孔を有する金属薄膜を集電体として含む正極及び負極、及びセパレータを交互に積層して得られた積層体と、更にリチウム極とを含む蓄電デバイス(いわゆる垂直プレドープ型のリチウムイオン蓄電デバイス)を用いて、40℃以上の高温でリチウムイオンを負極にプレドープする技術が報告されている。
【0007】
この技術では、貫通孔を有する金属薄膜を集電体として用いることにより、電極間でのリチウムイオンの移動が円滑化される上、40℃以上の高温を採用することによりリチウムイオンのプレドープが短時間で均一に行われる。
【0008】
また、特許文献2には、特定の非水電解液を使用した、高出力・高容量の非水系リチウム型蓄電素子が開示されている。この非水系リチウム型蓄電素子も負極に予めリチウムをドープするリチウムイオンプレドープ型蓄電デバイスである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−200302
【特許文献2】特開2004−79321
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の蓄電デバイスでは、貫通孔を有する集電体を用いた正負の電極が交互に複数層ずつ積層されていることから、リチウムイオンが各電極層の厚さ方向に貫通孔を通過して移動することはできるものの、これを高速で各電極に均一に分布させるためには40℃以上の高温でのプレドープを行うことが必須とされている。
【0011】
このような40℃以上の高温のプレドープでは、使用する電解液溶液中に皮膜の成長が促進されて、固体電解質界面(SEI)が生ずることがある。そして、固体電解質界面が生ずるとリチウムイオンの移動が阻害されて電極のプレドープの状態が不均一となる他、電極の不可逆容量が増大し、エネルギー密度が不安定となる。更に、高温でのプレドープでは直流電流下での内部抵抗(DCIR)等の初期特性やサイクル特性も常に一定とはされない。
【0012】
また、温度を低下させてプレドープを行う場合には、プレドープ時間が長びくことになる。プレドープ時間が長引くと、所定の電位を通過する時に電解液からガスが発生することがあり、ガスが発生すると気泡によりリチウムイオンの移動が阻害されるため好ましくない。また、プレドープ時間が長時間化すると、電極のプレドープの状態が不均一となり易く、これにより電位のバラツキが生ずることがある。更には、長時間のプレドープにより、リチウムイオンが負極に析出すれば、マイクロショートの可能性も増大する。
【0013】
また、一般的な蓄電デバイスでは、電極を構成する正負の合材層には細孔が存在するため、合材層に電解液が接すると、この細孔を通して電極が電解液で含浸される。含浸状態が不均一な場合、長時間のプレドープ時間を要するため、電位にバラツキが生ずる傾向がある。
【0014】
特許文献2の非水系リチウム型蓄電素子においては、高出力・高容量を得るための電解液の組成は検討されているが、特許文献1のように正負の電極が交互に複数層ずつ積層されたセル構成を考慮していないため、プレドープ時間やプレドープの均一化については何ら検討されていない。
【0015】
しかるに、本発明の目的は、上記不具合を克服し、高速で均一なリチウムイオンのプレドープを行うことが可能であり、高出力、高エネルギー密度、及び優れた蓄電デバイス信頼性(サイクル特性及び高温保存特性)を有する蓄電デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1によると、貫通孔を有するフィルム状の負極集電体と該負極集電体上に設けられた負極活物質とを含む負極と、貫通孔を有するフィルム状の正極集電体と該正極集電体上に設けられた正極活物質とを含む正極とを、それぞれ複数有し、負極と正極とがフィルム状のセパレータを介して交互に積層された電極ユニット、リチウム極集電体とリチウム金属とを含み、負極、正極、又は負極及び正極の双方と電気化学的に接触するリチウム極、及び25℃における導電率が8mS/cm〜20mS/cmの範囲にある電解液、を含むことを特徴とするリチウムイオン蓄電デバイスが提供される。
【0017】
このリチウムイオン蓄電デバイスでは、リチウムイオンの負極、正極、又は負極及び正極の双方に対するプレドープが、極めて短時間で完了するという生産性の面で優れた効果が得られる。
【0018】
更に、上記蓄電デバイスでは、低温での処理が可能とされたことに起因して、プレドープ時の電解液からのガス発生や、SEIの形成が回避され、リチウムイオンの正負極へのプレドープが均一に行われるという品質面での効果も得られる。また、短時間での処理により、電極の電解液による含浸も均一に行われ、負極へのリチウム金属析出の可能性も低下することになる。
【0019】
プレドープの均一化とリチウム析出の可能性低下により、蓄電デバイスの歩留まりが飛躍的に改善され、工業的に重要な利益が得られる。
【0020】
請求項2によると、電解液を構成する溶媒が環状カーボネートと鎖状カーボネートとを含み、前記環状カーボネートがエチレンカーボネートであり、前記鎖状カーボネートがメチル基を1又は2、及びエチル基を含まない又は1つ含む1種類以上の鎖状カーボネートであるリチウムイオン蓄電デバイスが得られる。
【0021】
上記電解液の溶媒を用いることにより、種々の負極活物質材料を使用可能としつつ、プレドープ時間を短縮することができる。
【0022】
更に、請求項3によると前記電解液が電解質としてのLiPFを1.2Mで含み、かつ溶媒が環状カーボネート5%以上30%以下、及び鎖状カーボネート70%以上95%以下からなるリチウムイオン蓄電デバイスが得られる。上記組成の電解液ではリチウムイオンのプレドープが高速かつ均一とされるとともに、出力、エネルギー密度、及び蓄電デバイスのサイクル特性及び高温保存特性の面でバランスを保ち、優れた蓄電デバイスが得られる。
【0023】
請求項4のリチウムイオン蓄電デバイスでは、上述の各構成の他、負極活物質がハードカーボン又はグラファイトとされる。
【0024】
請求項5のリチウムイオン蓄電デバイスによると、負極及び正極に対して、40℃未満でリチウムイオンがプレドープされる。
【0025】
リチウムイオンのプレドープに際し電解液の温度を低く保てることから、電解液中の過度の固体電解質界面(SEI)の発生が抑制されて、リチウムイオンの良好な移動が確保され、各電極に対してリチウムイオンが均一にプレドープされる。すなわち、均一なプレドープ状態により、不可逆容量が小さくなり、エネルギー密度を増大させることにつながる。更に、低温プレドープにより蓄電デバイスの初期特性やサイクル特性も安定したものとされる。
【0026】
請求項6のリチウムイオン蓄電デバイスでは、上述の各構成の他、正極集電体及び負極集電体が、各フィルム面における開口率が5〜79%となるように複数の貫通孔を有している。集電体の開口率(集電体のフィルム面積に対する貫通孔による開口面積の割合)を上記範囲とすることにより、リチウムイオンの移動状態がより円滑となり、均一なプレドープが行われる。
【0027】
請求項7のリチウムイオン蓄電デバイスでは、更にリチウム極集電体が複数の貫通孔を有している。
【0028】
リチウムイオンがリチウム極集電体の貫通孔を通過自在とされることにより、貫通孔を通してイオンが拡散できるので、リチウムイオン濃度の偏りが小さくなり、均一かつ迅速なプレドープを可能にする。また、集電体が軽くなることでエネルギー密度が向上する。
【0029】
請求項8のリチウムイオン蓄電デバイスによると、正極と負極とを短絡させた時の正極電位が2.0V(対Li/Li+)以下とされる。
【0030】
上記の条件を満たすようにセル設計をすると、充放電における負極の平均電位を下げることができる。これにより高エネルギー密度のリチウムイオン蓄電デバイスが得られる。この構成は、本発明のリチウムイオン蓄電デバイスがリチウムイオンキャパシタである場合に特に重要である。
【0031】
請求項9のリチウムイオン蓄電デバイスでは、負極活物質が正極活物質に対して、単位質量当たり3倍以上の静電容量を有し、かつ正極活物質が負極活物質よりも大きな質量を有する。
【0032】
すなわち、蓄電デバイスの負極の静電容量を大きく設定することにより高エネルギー密度のデバイス設計が可能となる。この構成も、本発明のリチウムイオン蓄電デバイスがリチウムイオンキャパシタである場合に特に重要とされる。
【0033】
請求項10のリチウムイオン蓄電デバイスでは、正極と負極の透気度が50秒/100mL以上、2000秒/100mL以下とされる。
【0034】
上記透気度を有する電極用いることにより、蓄電デバイス製造時におけるプレドープに要する時間を短縮することが可能となり、蓄電デバイスの製造効率を上昇させることができる。
【0035】
更に、請求項11によると、電極ユニットが、正極、負極及びセパレータの各フィルム面が順次対向し、かつそれぞれ水平方向に延在して積層された平板多積層型であるリチウムイオン蓄電デバイスが得られる。
【0036】
請求項12によると、前記電極ユニットが、正極、負極及びセパレータの各フィルム面が順次対向するように積層され、これにより得られた積層体を捲回することにより略円筒状の捲回型電極ユニットとして形成された捲回型のリチウムイオン蓄電デバイスが得られる。
【0037】
本発明では、平板多積層型か捲回型のリチウムイオン蓄電デバイスが得られ、使用目的に合わせて平板多積層型又は捲回型のいずれかの蓄電デバイスを使い分けることができる。例えば平板多積層型は、自動車などの大型用途において、捲回型はモバイル機器に代表される民生用などの中小型用途において利用される。
【0038】
請求項13に記載のリチウムイオン蓄電デバイスでは、上記捲回型電極ユニットの外周に位置する電極層(外周電極層)の外側にリチウム極、又はリチウム極とセパレータが更に配設される。外周電極層の外側にリチウム極が存在することにより、リチウム極から溶出したリチウムイオンが蓄電デバイスの直径方向に移動し、リチウムイオンが全ての電極に均一にプレドープされることとなる。
【0039】
請求項14に記載のリチウムイオン蓄電デバイスでは、捲回型の蓄電デバイスにおいて、捲回型電極ユニットの外周に位置する電極が負極であり、当該外周に位置する負極の集電体がその内周面のみに負極活物質が塗工され、当該負極の集電体の未塗工の外周面にリチウム極が接触して配設される。
【0040】
これにより、リチウムイオンの移動距離も短縮され、プレドープ時間を短縮及び均一化が可能となる。さらに、正極に対向していない、つまり、充放電に使用されない負極活物質(重量)を低減できることになるため、容量バランスが崩壊するのを抑制することにより、安全性及びエネルギー密度が向上する。
【0041】
請求項15に記載のリチウムイオン蓄電デバイスによると、捲回型の蓄電デバイスにおいて、捲回型電極ユニットの中心軸部にリチウム極が配設されている。
【0042】
この蓄電デバイスでは、円筒型デバイスの略中心に、リチウム極が配設されることにより、蓄電デバイスの略中心から、リチウムイオンが各極の集電体の貫通孔を通過して蓄電デバイスの直径方向に移動可能とされる。これにより、リチウムイオンが蓄電デバイス中の全ての電極に均一にもたらされることになる。上述の負極外周電極層の外周面側のリチウム極に加えて、内周電極層の内側にもリチウム極が配設される場合には、リチウムイオンの各電極へのプレドープはより一層均一化される。
【0043】
更に、請求項16に記載のリチウムイオン蓄電デバイスによると、正極、負極及びセパレータの各フィルム面が順次対向し、かつそれぞれ水平方向に延在して積層された平板多積層型の電極ユニット、及び/又は正極、負極及びセパレータの各フィルム面が順次対向して積層され、これにより得られた積層体を捲回することにより得られる捲回型の電極ユニット、を2個以上組み合わせることにより得られたセルを含み、セルに含まれる平板多積層型の電極ユニットの最外電極層、及び捲回型の電極ユニットの外周に位置する電極層の全てが負極とされる。
【0044】
このように、複数の電極ユニットを含む蓄電デバイス、すなわち捲回型の電極ユニット、平板多積層型の電極ユニット、又はその双方の組み合わせを、全電極ユニット数を2個以上として含んだリチウムイオン蓄電デバイスにより、静電容量及び電圧の設計が柔軟となり、大容量及び大電圧のリチウムイオン蓄電デバイスを得ることも可能となる。
【0045】
また、最外電極層及び外周電極層の全てを負極とすることにより、正負極間でのリチウムイオンの拡散が阻害されないため、高出力設計が可能であり、万が一、リチウム集電体と短絡した場合にも電流は流れず、安全性が向上する。
【0046】
請求項17に記載のリチウムイオン蓄電デバイスでは、上記複数の電極ユニットを含む蓄電デバイスにおいて、セルに含まれる電極ユニットのうち、セルの端部に位置する平板多積層型の電極ユニットの一方又は双方の最外電極層、セルの端部に位置する捲回型の電極ユニットの外周に位置する電極層、又はこれらの全てにリチウム極が設けられる。
【0047】
すなわち、複数の電極ユニットのうちこれらから構成されるセル全体の端部に隣接する1つ又は複数の電極ユニットの少なくとも1つの最外電極層/最外周電極層にリチウム極を設けることにより、大容量及び大電圧の蓄電デバイスにおいて、均一かつ迅速なリチウムイオンドープが行われる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は本発明の一実施の形態であるリチウムイオン蓄電デバイスを模式的に表わす断面図である。
【図2】図2は本発明の一実施の形態である捲回型のリチウムイオン蓄電デバイスを模式的に表わす水平断面図である。
【図3】図3は、図2に示した捲回型リチウムイオン蓄電デバイスに含まれる電極ユニットの内部構造を模式的に表わす断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明のリチウムイオン蓄電デバイスは、垂直プレドープ方式によりリチウムイオンがプレドープされるデバイスであり、本発明ではこれを垂直プレドープ型のリチウムイオン蓄電デバイスという。
【0050】
図1に示すように、垂直プレドープ型リチウムイオン蓄電デバイス10(以下、単に蓄電デバイス10ともいう)では複数の正極12及び複数の負極14が、セパレータ16を介して交互に積層され、電極ユニット30を構成している。電極ユニット30の上端にはリチウム極18が設けられる。図1の構成の他、電極ユニット30の下端のみ、又は上端と下端との双方にリチウム極18を配置しても良い。
【0051】
蓄電デバイス10において、電極ユニット30とリチウム極18は容器19に装填されており、容器19中には電解液が封入されている。
【0052】
更に詳細には、正極12は、多数の貫通孔12aを備える正極集電体12bと、この正極集電体12bに塗工される正極合材層12cとを備えている。一方、負極14は、多数の貫通孔14aを備える負極集電体14bと、この負極集電体14bに塗工される負極合材層14cとを備えている。
【0053】
正極集電体12bや負極集電体14bとして、例えばエキスパンドメタル、パンチングメタル、箔、網、発泡体等を用いることができる。正極集電体12bとしては、特に、アルミニウム、ステンレス、ニッケル等が用いられ、一般には箔状で、好ましくは10〜40μmの厚さで用いられる。
【0054】
負極集電体14bとしては、特に、銅、ステンレス、ニッケル等が用いられ、一般には箔状で、好ましくは5〜20μmの厚さで用いられる。
【0055】
また、リチウム極18はリチウム極集電体18aと、これに接合された金属リチウム18bとによって構成されている。リチウム極集電体18aも、複数の貫通孔を有していると好ましく、例えばステンレスメッシュ等の導電性多孔体から構成される。
【0056】
本発明では、25℃において8mS/cm〜20mS/cm、好ましくは10mS/cm〜15mS/cmの範囲の導電率を有する電解液が使用される。
【0057】
上記導電率の電解液を用いることにより、電解液中、垂直プレドープ型のリチウムイオン蓄電デバイスにおいてもリチウムイオンの溶出及び電極に対するプレドープが迅速に行われる。
【0058】
本発明に用いられる電解液は、25℃において8mS/cm〜20mS/cmの導電率を有する非水電解液であると好ましい。高電圧でも電気分解を起こさないという点、リチウムイオンが安定に存在できるという点から、非水電解液は、一般的なリチウム塩を電解質とし、これを溶媒に溶解した電解液を使用してもよく、リチウム塩や溶媒にも特に制限されるものではない。例えば、電解質としては、LiClO、LiAsF、LiBF、LiPF、LiB(C、CHSOLi、CFSOLi、(CSONLi、(CFSONLi等やこれらの混合物を用いることができるが、本発明では。これらの電解質は単独使用しても、複数種類を併用してもよい。本発明では、LiPF6、LiBF4、が特に好ましく使用される。
【0059】
さらに、非水電解液の溶媒としては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(MEC)等の鎖状カーボネート、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート、アセトニトリル(AN)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、1,3-シオキソラン(DOXL)、ジメチルスホキシド(DMSO)、スルホラン(SL)、プロピオニトリル(PN)等の比較的分子量の小さい溶媒、又はこれらの混合物を使用することができる。本発明の電解液における溶媒は鎖状カーボネートと環状カーボネートの混合物であると好ましい。2種類以上の鎖状カーボネートや2種類以上の環状カーボネートを用い多混合物であってもよい。
【0060】
本発明では、鎖状カーボネートが、メチル基を1又は2、及びエチル基を含まない又は1つ含む1種類以上の鎖状カーボネート、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(MEC)等であることが好ましい。また、環状カーボネートがエチレンカーボネートであることが好ましい。電解質としてLiPFを含む場合、LiPF1.2Mとし、更に溶媒中に環状カーボネートが5%以上30%以下、鎖状カーボネートが70%以上95%以下の範囲で含まれると好ましく、さらに、環状カーボネートが15%以上25%以下、鎖状カーボネートが75%以上85%以下の範囲にあることが好ましい。
【0061】
すなわち、25℃において8mS/cm〜20mS/cmの導電率を有する電解液として、本発明で用いられるものの好ましい具体例は、LiBFまたはLiPFを、EC、DMC、EMC、DEC、PC,BCから選択された2種類以上の溶媒に添加することにより得られた材料、特にLiPF と、EC及びDMC、EC、DMC及びEMC、EC及びEMCとの混合物である。
【0062】
非水電解液中の電解質濃度は0.1〜5.0mol/lが好ましく、更に0.5〜3.0mol/l、特に1mol/lを超過し、2mol/l以下の範囲が好ましい。
【0063】
本発明の蓄電デバイス10では、リチウムイオンがリチウム極18から電解液に溶出し、正極12及び負極14に供給される。正極12及び負極14の貫通孔12a,14aは、リチウムイオンが各電極間を自在に移動可能な状態を確保できるように設けられたものである。
【0064】
従って、貫通孔12a及び貫通孔14aの形状や個数等については、特に限定されることはなく、リチウムイオンの移動を阻害しない限りは適宜設定することが可能である。
【0065】
ただし、リチウムイオンの移動の自由度、及び正極12及び負極14にドープされるリチウムイオンの量を考慮すると、正極集電体12b及び負極集電体14bのいずれも、各フィルム面に対して、その貫通孔がフィルム面に開口を形成する面積の割合、すなわち開口率が5〜79%、特に40〜60%とされるとリチウムイオンドープ量の均一性の観点から有効である。特に上記の40〜60%の範囲では、リチウムイオンドープ量とリチウムイオンの移動の自由度に優れた蓄電デバイスが得られ、その蓄電性能も向上する。
【0066】
一方、開口率が79%を上回ると集電体の電極基板としての強度が不十分となり、開口率が5%未満であるとリチウムイオンの移動に支障が生じることがある。
【0067】
また、正極集電体12bには正極端子17が、負極集電体14bには負極端子15が接続されて、両端子15及び17とも容器19から外部に延長し、蓄電デバイス10の外部に接続可能とされている。また、リチウム極集電体18aには、リチウム極端子25が接続されている。
【0068】
上記正極端子17、負極端子15及びリチウム極端子25の接続は公知方法により適宜行うことができるが、これらを正極集電体12b、負極集電体14b及びリチウム極集電体18aにそれぞれ、ステッチング又はコールドウェルディングの方法により結合することができる。これらの方法は簡便である上、結合強度においても信頼に値する。
【0069】
このように得られたリチウムイオン蓄電デバイスにおいて、公知のプレドープ方法を行う。すなわち、リチウム極と、負極14、正極12又はこれら両極とを、予め短絡させることにより、負極14、正極12又はこれら両極にリチウムイオンがプレドープされる。プレドープの際、リチウムイオンが正極12及び負極14の貫通孔12a,14aを通過して移動可能とされているため、正負極12及び14にリチウムイオンがプレドープ可能となるのは上述した通りである。
【0070】
本発明では、プレドープを40℃未満の温度で行う。すなわち40℃未満、好ましくは15〜30℃のプレドープによれば、電解液の温度が低く保てることから、電解液中の過度の固体電解質界面(SEI)の発生しにくくなる。
【0071】
更に、上述の電解液組成を考慮すれば、本発明ではSEIの発生が良好に制御される。この構成によりリチウムイオンの良好な移動が確保され、各電極に対してリチウムイオンが均一にプレドープされる。更には、均一なプレドープ状態により、不可逆容量が小さく、エネルギー密度が増大した電極とされる。また、0〜40℃の温度範囲においては、蓄電デバイスの初期特性、やサイクル特性も安定したものとされる。
【0072】
ここで、ドーピング(ドープ)とは、吸蔵、担持、吸着、挿入等を意味しており、正極活物質や負極活物質に対してリチウムイオンやアニオン等が入る状態を意味している。また、脱ドーピング(脱ドープ)とは、放出、脱離等を意味しており、正極活物質や負極活物質からリチウムイオンやアニオン等が出る状態を意味している。
【0073】
すなわち、リチウムイオンの「プレドープ」とは、製品として出荷する前の蓄電デバイスにおいて、正極活物質や負極活物質に対し予めリチウムイオンのドーピングを行っておくこと意味する。
【0074】
また、本発明の蓄電デバイス10では、リチウム金属と各電極とが対向しており、更に各電極が貫通孔を有しているため、リチウムイオンは負極に対して垂直方向からプレドープされる。このようなプレドープ方式を「垂直ドープ方式」と称する。
【0075】
上述の説明からも明らかなように、図1にはフィルム状(帯状又は薄板状)の負極14、セパレータ16、正極12が各上下のフィルム面を対向させて順次積層された電極ユニット30が記載されている。このように各フィルム面が相互に平行にかつ水平に延在する状態の電極ユニット30を本発明では平板多積層型の電極ユニット30と呼び、この電極ユニット30の上面、下面又はその双方にリチウムリチウム極18を含む平板多積層型の蓄電デバイス10と呼ぶ。
【0076】
更に、図2には、本発明の捲回型のリチウムイオン蓄電デバイス100を模式的に示す水平断面図を示す。この捲回型の蓄電デバイス100は、図3に示すように、少なくとも1層のフィルム状の正極120と少なくとも1層のフィルム状の負極140をセパレータ160を介して捲回した電極ユニット300(図2)と、この電極ユニット300の最外層に設けられたリチウム極とを含む(リチウム極の図示は省略する)。正極120及び負極140は、図1の正極12及び負極14と同様に、貫通孔を有する集電体の両面に正極及び負極活物質層が設けられた構造を有する。
【0077】
すなわち、捲回型の蓄電デバイス100は、負極14、セパレータ16及び正極12を、円筒状の容器190の中心軸を基準として略同心円状の壁部ないしこれに沿って捲回する層となるように、例えば、一方の最外電極層(例えば図3の負極140)を外周電極層として、他方の最外電極層(例えば図3の正極120)を内周層とする捲回型電極ユニット300を含むものである。
【0078】
捲回型の電極ユニット300は、その外周側に、フィルム状のリチウム極、又はリチウム極とセパレータを有してもよい。リチウム極は、捲回電解ユニット300の外周に捲きつけてテープ等の固定手段で固定できる。
【0079】
円筒状の容器190には電解液が封入され、これにより捲回型リチウムイオン蓄電デバイス100としての機能を発揮することになる。
【0080】
更に、電極ユニット300は外周電極層が負極であり、この負極は基本的には集電体の両面に負極活物質が塗工されているが、捲回した際に外周部分に位置する負極の集電体には、その内周面のみに負極活物質が塗工され、外周面には塗工を行わなくてもよい。このように未塗工状態とした負極集電体の外周面にリチウム極を配設することによりリチウムイオンの移動距離が短縮され、プレドープ時間を短縮及びプレドープの均一化が可能となる。さらに、正極に対向していない、つまり、充放電に使用されていない負極活物質(重量)を低減できることになるため、容量バランスが崩壊するのを抑制することにより、安全性及びエネルギー密度が向上する。
【0081】
なお、捲回型の蓄電デバイス100においても、正負極集電体の貫通孔を通してリチウムイオンの移動が行われるため、円筒容器190中、その略半径方向にリチウムイオンが移動することになる。換言すれば、捲回型の蓄電デバイス100におけるイオンの移動についても、リチウム極から、これと直接積層する負極ないし正極の各部分に対しては垂直方向に移動すると言えるため、本発明の捲回型蓄電デバイス100におけるリチウムイオンのプレドープも垂直プレドープ方式に該当する。
【0082】
本発明の蓄電デバイス100では、更に内周電極層の内側にリチウム極を設けてもよい。このリチウム極は内周電極層に沿って捲回されたフィルム状であってもよいが、棒状ないし円筒状の金属から構成されるリチウム極集電体の外周面にリチウム金属を施して得られた棒状体又は円筒体を用いてもよい。棒状体又は円筒体のリチウム極は、電極ユニット300の製造後に、簡単に装着可能というメリットがある。
【0083】
なお、電極ユニット300は、図3に示すように、正極と負極が1層ずつの構成に限定されるものではなく、複数層ずつ積層されていてもよい。捲回した電極ユニット300をその中心軸に垂直な面で切って断面を見た場合に、正極と負極が対向しており且つその間にセパレータが配置されていれば、どのような電極ユニットを構成してもよい。捲回中心軸から半径方向に正極および負極がそれぞれ2層以上含まれる場合に、本発明は特に効果がある。
【0084】
また、本発明の蓄電デバイスは、平板多層積層型おいて、正極を5〜60層、好ましくは10〜40、負極を5〜60層、好ましくは10〜40とする。捲回型の蓄電デバイスでは、捲回中心軸から半径方向に見た場合に、正極5〜40層、好ましくは10〜30層、負極を5〜40層、好ましくは10〜30とするとよい。
【0085】
本発明の蓄電デバイスは、上記構成によりリチウムイオン二次電池及びリチウムイオンキャパシタの双方として適用可能である。後述の正極活物質の選択により、リチウムイオン二次電池もリチウムイオンキャパシタも構築可能であることは当業者には自明である。
【0086】
更に、本発明では、2個以上の平板多積層型の電極ユニット、又は2個以上の捲回型の電極ユニットをリチウムイオン蓄電セルとして用いることもできる。更に、平板多積層型の電極ユニットと捲回型の電極ユニットとの所望の個数同士を組み合わせてリチウムイオン蓄電セルとしてもよい。様々なセルが構築されることにより、蓄電デバイスの使用目的に応じて、静電容量及び電圧を適宜変更することが可能となり、大容量の及び大電圧の蓄電デバイスの設計が可能となる。
【0087】
更に、平板多積層型の電極ユニットの最外電極層、及び捲回型の電極ユニットの外周電極層の全てが負極とされると好ましい。
【0088】
また、上記の蓄電セルにおいては、セルとして構成される装置の端部ないし隅部に隣接する最外電極層/外周電極層のいずれか1層以上に隣接してリチウム極が設けられる。
【0089】
大容量の及び大電圧のセルにおいても、均一かつ迅速なリチウムイオンドープが行われる。
【0090】
本発明のリチウムイオン蓄電デバイスにおける電極12、14、セパレータ16、リチウム極18及び容器19、190は以下のように構成される。
【0091】
[正極の製造]
正極活物質、結合剤および導電材等を含む混合物(正極合材)を、正極集電体12bの表面に塗布することにより正極合材層12cと正極集電体12bとから成る正極12が形成される。
【0092】
本発明の正極12は、正極活物質の蓄電特性を充分に引き出し、リチウムイオンドープが可能であり、化学的、電気化学的に安定な正極であれば特に制限なく使用可能である。
【0093】
具体例には、正極活物質を溶剤中に分散させペースト状にし、ペースト状とされた正極活物質を集電体に塗布、乾燥して正極合材層12cを形成することが可能である。更に、正極合材層12cを形成した後、さらにプレス加圧等の圧着を行ってもよい。これにより正極合材層が均一且つ強固に集電体に接着される。
【0094】
正極合材層の膜厚は10〜200μm、好ましくは20〜100μmであり、これを乾燥させることにより正極合材層12cが得られる。
【0095】
正極活物質としては、充分量のリチウムをドーピング・脱ドーピング可能ないかなる材料も、原則として使用可能である。
【0096】
更に、本発明の正極活物質は、電極ユニット30組み立て後、リチウム極から負極を経て正極に対してリチウムイオンが最初にドープされる前に、リチウム極と正極との電位差を3V〜5V、好ましくは3V〜4Vの範囲とされるリチウムイオン挿入源(リチウムイオン受容体)であることが必要である。
【0097】
採用可能な正極活物質の例としては、周期律表第III族元素から第XI族までの元素から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素の酸化物、例えばリチウム含有遷移金属酸化物、遷移金属カルコゲン化物、バナジウム酸化物およびそのリチウム化合物などのリチウム含有化合物、ニオブ酸化物、シェブレル相化合物などが挙げられる。
【0098】
上記の正極活物質のうち、リチウム含有遷移金属酸化物は、リチウムと遷移金属との複合酸化物であり、リチウムと1種又は2種以上の遷移金属を固溶したものであってもよい。
【0099】
リチウム含有遷移金属酸化物は、例えば、リチウム、遷移金属の酸化物、水酸化物、塩類等を出発原料とし、これら出発原料を所望の金属酸化物の組成に応じて混合し、酸素雰囲気下600〜1000℃の温度で焼成することにより得ることができる。
【0100】
また、バナジウム酸化物ではV、V13、V、Vで示されるものが好ましい。このうち、五酸化バナジウム(V)は、VOを一単位とする5面体ユニットが2次元方向に共有結合で広がることで一つの層を形成しているため、特に好ましい。これを積層体として用いることで、各層に5面体ユニットを有する多積層となるため、層間に、効率的にリチウムイオンをドープすることができるためである。
【0101】
正極活物質は、単一種類で用いても、2種類以上を併用してもよい。正極活物質の分散に用いられる溶剤には、水、イソプロピルアルコール、N−メチルμピロリドン、ジメチルホルムアミドが使用可能である。
【0102】
また、正極合材層12cの作製には公知の導電材(例えば黒鉛化物)等の各種添加剤を適宜に使用することができる。
【0103】
更に、正極合材層12cの結合剤としては、アクリル系バインダ、SBR等のゴム系バインダやポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂が使用可能である。結合剤は、本発明の蓄電デバイスに使用される電解液(特に非水電解液)に対して、化学的および電気化学的に安定なものが好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂粉末、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリビニルアルコールなどの熱可塑性樹脂、カルボキシメチルセルロースなどが用いられる。
【0104】
これらの中でもフッ素系バインダを用いることが好ましい。このフッ素系バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−3フッ化エチレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体、プロピレン−4フッ化エチレン共重合体等が挙げられる。
【0105】
また、負極合材層14cに対して、アセチレンブラック、グラファイト、金属粉末等の導電性材料を適宜加えるようにしても良い。
【0106】
[負極の製造]
負極14は、通常の負極の作製方法に準じて作製されるが、例えば負極活物質と、結合剤とを含む混合物を、負極集電体14bに塗布することにより、負極合材層14cと負極集電体14bとから成る負極14が形成される。
【0107】
本発明の負極は、負極活物質の蓄電特性を充分に引き出し、リチウムイオンドープが可能であり、かつ賦型性が高く、化学的、電気化学的に安定な正極であれば特に制限なく使用可能である。
【0108】
具体的には、まず、本発明の負極活物質を分級などにより所望の粒度に調整し、結合剤と混合して得た混合物を溶剤に分散させ、攪拌機、混合機、混練機、ニーダーなどを用いて攪拌混合してペーストないしスラリとし、これを負極集電材14bの片面または両面に塗布、乾燥させる。これにより、負極合剤層が均一かつ強固に接着した負極が得られる。
【0109】
負極合剤層の膜厚は10〜200μm、好ましくは20〜100mであり、これを乾燥させることにより負極合材層14cが得られる。
【0110】
負極活物質が、平均粒径0.5〜30μm、好ましくは2〜20μm、及び比表面積0.1〜1000m/g、好ましくは1〜20m/gの粒子状とされると負極の表が均一化されて、負極表面近傍でのリチウムイオンの移動が円滑化される。この結果、電池の充放電性も安定化する。
【0111】
負極活物質は、十分量のリチウムイオンをドーピング・脱ドーピング可能な限り、原則としていかなる材料も使用可能である。
【0112】
負極活物質の具体例としては、一般に各種の炭素質物質等が用いられ、好ましくはコークス、タール、塩化ビニル樹脂、及びこれらの混合物から選択される易黒鉛化性炭素前駆体の炭化物、ハードカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ピッチ系炭素繊維、ポリアセンなどの炭素質材料が使用される。更に、複合金属酸化物やその他の金属酸化物なども本発明の負極活物質として用いることが可能である。
【0113】
これらの負極活物質のうち、本発明ではコークス、タール、塩化ビニル樹脂、及びこれらの混合物から選択される易黒鉛化炭素前駆体の炭化物、ハードカーボン、及びグラファイトが特に好ましく用いられる。負極活物質は粉末状、粒状、短繊維状等により使用可能である。従って、腑形性に優れた易黒鉛化性炭素前駆体を用いると、比表面積の調整が容易となる。また、本発明では、負極材料にハードカーボンを使用すると、プレドープ時間が飛躍的に短縮される。
【0114】
負極活物質は、単一種類で用いても、2種以上を併用してもよい。負極活物質と混合される溶剤の例は、水、イソプロピルアルコール、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドである。
【0115】
負極活物質に添加可能な結合剤としては、例えばポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂を用いることができ、これらの中でもフッ素系バインダを用いることが好ましい。このフッ素系バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−3フッ化エチレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体、プロピレン−4フッ化エチレン共重合体等が挙げられる。
【0116】
このほか、負極合材層14cは、本発明の負極活物質と、ポリエチレン、ポリビニルアルコールなどの樹脂粉末を乾式混合し、金型内でホットプレス成形して作製することもできる。負極合材層14は、成形後にプレス加圧などの処理を行うことにより、負極集電材14bとの接着強度をさらに高めることができる。
【0117】
更に、本発明の負極は、本発明の目的を損なわない範囲で、異種の黒鉛質材料、非晶質ハードカーボンなどの炭素質材料、有機物、金属、金属化合物などを混合しても、内包しても、被覆しても、積層してもよい。
【0118】
本発明のリチウムイオンキャパシタにおける適用において、特に正極と負極とを短絡させた時の正極電位が2.0V以下(対Li/Li+)以下とされるとよい。
【0119】
また、負極活物質は正極活物質に対して、単位質量当たり3倍以上、更に好ましくは5以上の静電容量を有し、かつ正極活物質が負極活物質よりも2〜5倍大きな質量を有すると有効である。このようにセル設計することで、高容量かつ高電圧のリチウムイオンキャパシタが得られる。
【0120】
正極と負極の透気度が50秒/100mL〜2000秒/100mLの範囲、特に50秒/100mL〜500秒/100mLとされると好ましい。
【0121】
本発明において、透気度とは、642mmのシートを空気100mLが通過する時間と定義する。かかる透気度の測定は、JIS P8117、8111、ISO5636/5に準じ、例えば、東洋精機製作所製のガレー式デンソメータ、G−B2C、あるいはG−B2を用い、温度23℃±1℃、相対湿度50±2%で行われる。
【0122】
電極材料の透気度を50秒/100mL〜2000秒/100mLとすると、電解液中にリチウムイオンが良好に拡散するようになる。従って、蓄電デバイス製造時におけるプレドープに要する時間を短縮することが可能となり、蓄電デバイスの製造効率を上昇させることができる。
【0123】
[セパレータ]
本発明のリチウムイオン蓄電デバイスにおいて使用されるセパレータ16は特に限定されるものではないが、電解液、正極活物質、負極活物質等に対して耐久性があり、連通気孔を有する電子伝導性のない多孔質体等を用いることができる。例えば織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜、ガラス繊維などが使用可能である。
【0124】
合成樹脂の微多孔膜が好ましく用いられるが、特にポリオレフィン微多孔膜が、厚さ、膜強度、膜抵抗の面で好適である。
【0125】
ポリエチレンおよびポリプロピレンの微多孔膜、またはこれらを複合した微多孔膜等が特に好ましく使用される。
【0126】
セパレータ16の厚みは、電池の内部抵抗を小さくするために薄い方が好ましいが、電解液の保持量、流通性、強度等を勘案して適宜設定することができる。このセパレータ16には先に述べた電解液が含浸される。
【0127】
[リチウム極]
リチウム極18は、ステンレス箔からなるリチウム極集電体18aと、これに貼り付けられた金属リチウム18bとによって構成されている。また、リチウムイオン供給源を構成する金属リチウム18bに代えて、リチウム−アルミニウム合金のように、リチウムイオンを供給することが可能な合金等を用いるようにしても良い。さらに、リチウム極集電体18aを負極集電体14bや正極集電体12bと同様の材料を用いて形成することも可能である。リチウム極集電体18aにも貫通孔を設けることができる。リチウムイオンがリチウム極集電体の貫通孔を通過自在とされることにより、リチウムイオン移動の自由度が増大する。
【0128】
さらに、金属リチウム18bはリチウムイオンを放出しながら減少し、最終的には全量が正極合材層12cや負極合材層14cに対してドープされることになるが、金属リチウム18bを多めに配置して一部を蓄電デバイス10内に残存させるようにしても良い。
【0129】
[外装容器]
電極ユニット30、300、リチウム極18及び電解液を装填するための外装容器19、190としては、一般に電池に用いられている種々の材質を用いることができ、鉄やアルミニウム等の金属材料を使用しても良く、フィルム材料等を使用しても良い。また、外装容器の形状についても特に限定されることはなく、円筒型や角型など用途に応じて適宜選択することが可能であるが、蓄電デバイス10の小型化や軽量化の観点からは、アルミニウムのラミネートフィルム等を用いたフィルム型の外装容器を用いることが好ましい。
【0130】
ラミネートフィルムとしては、外側にナイロンフィルム、中心にアルミニウム箔、内側に変性ポリプロピレン等の接着層を有した3層ラミネートフィルムが用いられる。また、ラミネートフィルムは、中に入る電極等のサイズに合わせて深絞りされているのが一般的である。本願発明では、正極12、負極14及びセパレータ16を含む電極ユニット30を深絞りされるラミネートフィルム内に設置して電解液を注入した後、ラミネートフィルムの外周部は熱溶着等によって封止される構成となっている。
【0131】
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0132】
[実施例1]
以下のようにリチウムイオンキャパシタの製造を行った。
1.正極の製造
1−1.正極合材の調製
以下の材料を混合して正極合材を調製した。
ピッチ系活性炭 ............... 95質量部
PVdF ................. 3質量部
アセチレンブラック........... 2質量部
NMP................ 100質量部
上記材料の混合物を、混練器により混練し、正極合材用のスラリを製造した。
1−2.正極集電体への塗工
上記正極合材用のスラリを、正極集電体(貫通孔が形成されたアルミニウム箔(膜厚30μm))の両面に塗布し、150℃にて減圧乾燥後、プレス加工を行い、正極集電体上に膜厚130μmの正極合材層を形成した。これにより得られた正極合材層と集電体との積層体を126mm×97mmに裁断し、集電体の未塗工部分に、アルミニウム製の正極端子をコールドウェルディングにより溶接して正極を作成した。
2.負極合材の調製
2−1.負極合材の調製
以下の材料を混合して負極合材を調製した。
ハードカーボン ........... 95質量部
PVdF ............... 5質量部
NMP............... 100質量部
上記材料の混合物を、混練器により混練し、負極合剤用のスラリを製造した。
2−2.負極集電体への塗工
上記負極合材用のスラリを、負極集電体(貫通孔が形成された銅箔(膜厚10μm))の両面に塗布し、120℃にて減圧乾燥後、プレス加工を行い、負極集電体上に膜厚160μmの負極合材層を形成した。これにより得られた負極合材層と集電体との積層体を129mm×100mmに裁断し、集電体の未塗工部分に、ニッケル製の負極端子をコールドウェルディングにより溶接し、負極を作成した。
また、上記と同様の材料及び手順により、負極集電体の片面のみに負極合材が塗布され最外層用の負極を作成した。
3.リチウム極の製造
膜厚30μmの銅多孔箔に金属リチウムを圧延プレスにより貼り付けてリチウム極を製造した。
4.電極ユニットの製造
上記により製造した正極8枚と負極9枚(片面塗工2枚を含む)を、ポリオレフィンの微多孔膜を介して相互に積層し電極ユニットを製造した。この電極ユニットでは片面塗工の負極2枚を、両側の最外電極層としている。得られた電極ユニットの一方の最外層負極上に上記リチウム極を配置して、正極、負極、リチウム極の三極の積層ユニットを製造した。この三極の積層ユニットをアルミニウムのラミネートフィルムでパッケージングし、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1.2モル/lで溶解したエチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)=1/3(質量比)の電解液を注入した。
【0133】
このように組み立てられたリチウムイオンキャパシタにおいて、電解液を25℃とすることによりプレドープを開始した。
【0134】
これにより、本発明のリチウムイオンキャパシタが製造された。
【0135】
[実施例2〜3]
実施例1で使用した電解液を表1のように変更した以外は、実施例1と同様の方法によりリチウムイオンキャパシタの製造を行った。
【0136】
[実施例4〜6]
負極合剤のハードカーボンをグラファイトに変更し、更に電解液を表1のように変更した以外は、実施例1と同様の方法によりリチウムイオンキャパシタの製造を行った。
【0137】
[比較例1〜6]
実施例1〜6における、電解液を表1のように変更した以外は、実施例1と同様の方法によりリチウムイオンキャパシタの製造を行った。
【0138】
上記実施例1〜6により本発明のリチウムイオンキャパシタが、比較例1〜6により比較用のリチウムイオンキャパシタが製造された。各実施例/比較例で用いた電解液の組成、電極材料、電解液の粘度、及びプレドープ時間(プレドープ開始から、負極におけるリチウムイオンのプレドープ量が300mAh/gとされた時点の時間)を記載する。
なお、導電率は電気伝導率計(CM-25R、東亜ディーケーケー社製)と電気伝導度セル(CT-57101B、東亜ディーケーケー社製)により測定した。
【0139】
【表1】

【0140】
いずれの実施例においても目立ったガス発生は観察されなかった。
【0141】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0142】
10、100 蓄電デバイス
12 正極
14 負極
16 セパレータ
18 リチウム極
19、190 容器
30、300 電極ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有するフィルム状の負極集電体と該負極集電体上に設けられた負極活物質とを含む負極と、
貫通孔を有するフィルム状の正極集電体と該正極集電体上に設けられた正極活物質とを含む正極と、
をそれぞれ複数有し、前記負極と前記正極とがフィルム状のセパレータを介して交互に積層された電極ユニット、
リチウム極集電体とリチウム金属とを含み、前記負極、前記正極、又は前記負極及び正極の双方と電気化学的に接触するリチウム極、及び25℃における導電率が8mS/cm〜20mS/cmの範囲にある電解液、
を含むことを特徴とするリチウムイオン蓄電デバイス。
【請求項2】
前記電解液を構成する溶媒が環状カーボネートと鎖状カーボネートとを含み、前記環状カーボネートがエチレンカーボネートであり、前記鎖状カーボネートがメチル基を1又は2、及びエチル基を含まない又は1つ含む1種類以上の鎖状カーボネートをであることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン蓄電デバイス。
【請求項3】
前記電解液が電解質としてのLiPFを1.2Mで含み、かつ前記溶媒が環状カーボネート5%以上30%以下、及び前記鎖状カーボネート70%以上95%以下から構成されることを特徴とする請求項2に記載のリチウムイオン蓄電デバイス。
【請求項4】
前記負極活物質がハードカーボン又はグラファイトであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン蓄電デバイス。
【請求項5】
前記負極及び前記正極に対して、40℃未満でリチウムイオンがプレドープされることを特徴とする請求項1〜4項のいずれか1項に記載のリチウムイオン蓄電デバイス。
【請求項6】
前記正極集電体及び前記負極集電体が、各フィルム面における開口率が5〜79%となるように前記複数の貫通孔を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオン蓄電デバイス。
【請求項7】
前記リチウム極集電体が複数の貫通孔を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウムイオン蓄電デバイス。
【請求項8】
前記正極と前記負極とを短絡させた時の正極電位が2.0V(対Li/Li)以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウムイオン蓄電デバイス。
【請求項9】
前記負極活物質が前記正極活物質に対して、単位質量当たり3倍以上の静電容量を有し、かつ前記正極活物質が前記負極活物質よりも大きな質量を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のリチウムイオン蓄電デバイス。
【請求項10】
前記正極と前記負極の透気度が50秒/100mL以上、2000秒/100mL以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のリチウムイオン蓄電デバイス。
【請求項11】
前記電極ユニットが、前記正極、前記負極及び前記セパレータの各フィルム面が順次対向し、かつそれぞれ水平方向に延在して積層された平板多積層型であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のリチウムイオン蓄電デバイス。
【請求項12】
前記電極ユニットが、前記正極、前記負極及び前記セパレータの各フィルム面が順次対向するように積層され、これにより得られた積層体を捲回することにより略円筒状の捲回型電極ユニットとして形成されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のリチウムイオン蓄電デバイス。
【請求項13】
前記捲回型電極ユニットの外周に位置する電極層の外側に前記リチウム極、又は前記リチウム極と前記セパレータが更に配設されることを特徴とする請求項12に記載のリチウムイオン蓄電デバイス。
【請求項14】
前記捲回型電極ユニットの前記外周に位置する電極が負極であり、当該外周に配置された負極の集電体はその内周面のみに前記負極活物質が塗工され、当該負極の集電体の未塗工の外周面に前記リチウム極が接触して配設されることを特徴とする請求項12又は13に記載のリチウムイオン蓄電デバイス。
【請求項15】
前記捲回型電極ユニットの中心軸部にリチウム極が配設されていることを特徴とする請求項12〜14のいずれか1項に記載のリチウムイオン蓄電デバイス。
【請求項16】
前記正極、前記負極及び前記セパレータの各フィルム面が順次対向し、かつそれぞれ水平方向に延在して積層された平板多積層型の電極ユニット、及び/又は
前記正極、前記負極及び前記セパレータの各フィルム面が順次対向して積層され、これにより得られた積層体を捲回することにより得られる捲回型の前記電極ユニット、
を2個以上組み合わせることにより得られたセルを含み、前記セルに含まれる前記平板多積層型の電極ユニットの最外電極層、及び前記捲回型の電極ユニットの外周に位置する電極層の全てが負極であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のリチウムイオン蓄電デバイス。
【請求項17】
前記セルに含まれる電極ユニットのうち、
セルの端部に位置する平板多積層型の電極ユニットの一方又は双方の前記最外電極層、
セルの端部に位置する捲回型の前記電極ユニットの前記外周に位置する電極層、又は
これらの全てにリチウム極が設けられることを特徴とする請求項16に記載のリチウムイオン蓄電デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−151395(P2012−151395A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10649(P2011−10649)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】