説明

超仕上げ加工方法および超仕上げ加工装置

【課題】安定した加工状態を得ることが可能な超仕上げ加工方法および超仕上げ加工装置を提供する。
【解決手段】回転する工作物9に砥石台4に支持した砥石10を揺動させながら押し当てる超仕上げ加工装置の砥石台4に、回転する工作物9の接線方向の分力Qを検出する主分力センサ6a、押し当て方向の分力Pを検出する背分力センサ6b、砥石10の揺動方向の分力Rを検出する揺動荷重センサ6c、砥石10の押し当て方向の移動量を検出する移動量センサ7、工作物9の寸法減少量を検出するインプロセスゲージ8を設ける。そして、「粗」→「仕上げ」に応じて変化するセンサ6a、6bの出力に基づき加工状態を判定し、加工条件(回転数、揺動数、押し付け力)を変化させて加工効率を改善する。また、前記センサ6a、6b、移動量センサ7とインプロセスゲージ8の出力を用いて研削異常を検出し砥石の不具合への対処を行うことにより、安定した加工状態を得ることができるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超仕上げ加工方法および超仕上げ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、軌道面を有する軸受を代表とする産業用部品の鏡面仕上げには、回転中の工作物に砥石を揺動させながら押し当てて研削を行う超仕上げ加工が採用される。
超仕上げ加工は、特許文献1で代表されるように、まず、砥粒を脱落させて研削効率を高くした「粗」加工を行ない、次に、砥石を目詰まり状態にして鏡面を生成する「仕上げ」加工を行なうものである。この「粗」加工から「仕上げ」加工への切り替えは、工作物の回転数は変えずに砥石の揺動数を下げることで行なわれ、その切り替えタイミングはタイマ制御で決定するのが一般的である。
【0003】
また、タイマ制御以外の技術による超仕上げ加工の方法として、特許文献2に記載された力センサを用いたものがある。これは、環状の工作物の軸方向の端面を、超仕上げ盤の主軸と一体に回転するバッキングプレートで支持すると同時に、環状の工作物の内周面または外周面をシューで支持し、その工作物からシューにかかる力を検出する力センサを設け、その力センサの検出出力に基づいて砥石の加工状態を判定する。そして、その判定に基づいて、「粗」加工から「仕上げ」加工への切り替えタイミングや、「仕上げ」加工の終了タイミングを決定するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−79616号公報
【特許文献2】特開2004−114279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の加工方法では、「粗」加工を開始してから「仕上げ」加工に切り替えるまでの時間が予めタイマで設定されている。そのため、十分な加工精度を得ることができなかったり、加工効率が低下したりする問題があった。すなわち、加工前の工作物の面粗度にかかわらず「粗」加工の加工時間が一定なので、加工前の工作物の面粗度の大きさによっては、「粗」加工が終了した時点で工作物の面粗度が目標とする面粗度に達しておらず、その結果、「仕上げ」加工が終了したときに十分な加工精度を得ることができない恐れがある。そこで、十分な加工精度を確保するために、タイマで設定する「粗」加工の加工時間を長くすることが考えられるが、このようにすると「粗」加工の加工時間が必要以上となり、加工効率が低下する。
【0006】
また、何らかの不具合によって砥石が極度の目詰まり状態(凝着状態)になった場合、従来、その極度の目詰まり状態を検出する手段がなかったため、それ以後の加工は十分な取り代が得られず不良品が発生する恐れがあった。
【0007】
他方、特許文献2の方法では、力センサの検出出力に基づいて砥石の状態を判定し、その判定に基づいて「粗」加工から「仕上げ」加工への切り替えタイミングを決定する。しかしながら、この特許文献2の方法では、バッキンブプレートとシューで工作物を支持し、バッキンブプレートによる支持力とシューによる支持力のうちシューによる支持力のみを力センサで検出するので、力センサの検出出力が、バッキンブプレートによる支持力の影響を受けて不安定となりやすい。そのため、砥石の状態を安定して判定することが難しく、「粗」加工から「仕上げ」加工への切り替えタイミングが不安定となる恐れがある。特に、使用する砥石が超砥粒砥石である場合、アルミナ系、炭化ケイ素系に代表される一般の砥粒砥石に比べて加工効率が高く、加工抵抗が小さいことから、砥石の状態が変化したときの力の変化が小さい。そのため、砥石の状態を安定して判定することが難しい。
また、特許文献2の力センサを用いた方法は、玉軸受の軌道輪のみに限定される方法である。
【0008】
そこで、この発明の課題は、安定した加工状態を得ることが可能な超仕上げ加工方法および超仕上げ加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明では、工作物を回転させ、その工作物の回転の接線方向に対して直角な方向に砥石を揺動させながら前記工作物に砥石を押し当てて工作物の超仕上げ加工を行い、前記砥石を支持する砥石台に、前記工作物に押し当てられた状態の砥石にかかる力の工作物の回転の接線方向の分力Qを検出する主分力センサと、前記工作物に押し当てられた状態の砥石にかかる力の砥石の押し当て方向の分力Pを検出する背分力センサとを設け、その各センサで検出した前記分力P、Qに基づいて工作物の加工状態を判定するという方法を採用したのである。
【0010】
このようにすると、超仕上げ加工を行なっている間、主分力センサで検出される接線方向の分力Qは、砥石の加工状態によって砥石と工作物の間の加工抵抗が刻々と変化するため、砥石の加工状態に応じた反応を呈する。
例えば、「粗」加工を行なっているとき、砥石の加工状態は、砥粒の脱落により積極的に自生発刃する状態(切削状態)である。その後、「仕上げ」加工へ移行すると、砥石の加工状態は、半切削状態を経て目詰まり状態(磨き状態)へ移行する。この間、押し当て方向の分力Pは、砥石への押し付け力で決定されるため、押し付け力を一定に設定した場合、これに応じてほぼ一定の値を示す。ここで、通常、押し当て方向の分力(背分力)Pは砥石押し付け力に応じた値を示す筈である。しかし、加工に応じて一般的に、接線方向の分力(主分力)Qは背分力Pに対して一定の割合を保持する特性がある。そのため加工条件において、砥石の表面状態あるいは加工状態が変化しなければ、押し付け力を変更しても加工分力比P/Qは一定値を示す。したがって、分力Pは、押し付け力を一定に設定した場合、これに応じて、ほぼ一定の値を示すのである。一方、接線方向の分力Qは、砥石の加工状態に応じた変化を示す。具体的には、「粗」加工を行なっているときは、砥石が自生発刃するため加工抵抗が大きくなり、接線方向の分力Qは大きな値をとる。その後、「仕上げ」加工へ移行したときは、自生発刃が停止し、砥石の加工状態が磨き状態となるため、加工抵抗が小さくなり、主分力Qは小さな値となる。したがって、これを監視すれば「粗」加工および「仕上げ」加工を行なっているときの砥石の加工状態を判定することができる。
【0011】
このとき、前記砥石台を、ロッドを前進させて先端に支持した砥石を工作物に押し当てるエアシリンダを備えたものとし、その砥石を取り付けたエアシリンダのロッドの先端と砥石の間に前記主分力センサと前記背分力センサを配置することができる。
【0012】
このようにすると、工作物を支持する部材にかかる力を検出するのではなく、砥石にかかる力を検出するので、工作物の支持方法にかかわらず、砥石の加工状態を判定することができる。そのため、工作物の適用範囲が広い。
【0013】
また、砥石で加工することによる前記工作物の寸法減少量を検出するインプロセスゲージと、前記工作物の寸法減少と砥石の損耗とによる前記砥石の押し当て方向の移動量を検出する移動量センサとを設け、前記インプロセスゲージで検出した前記工作物の寸法減少量と、前記移動量センサで検出した前記砥石の移動量とに基づいて工作物の加工状態を判定するという方法を採用することができる。
【0014】
このようにすると、「粗」加工を行なっているとき、砥石の加工状態は、砥粒の脱落により積極的に自生発刃する状態(切削状態)となる。そのため、移動量センサが検出する移動量は一定速度で増加(前進)し、インプロセスゲージが検出する仕上げ寸法の減少量は、一定の割合で減少する。一方、「仕上げ」加工へ移行すると、砥石の加工状態は、半切削状態を経て目詰まり状態(磨き状態)へ移行する。そのため、移動量センサが検出する移動量は一定となり、インプロセスゲージが検出する仕上げ寸法の変化は停滞する。このようにインプロセスゲージの検出する寸法減少量と移動量センサで検出する移動量は異なった特性を呈するため、「粗」加工と「仕上げ」加工の判別ができる。したがって、移動量センサとインプロセスゲージの出力特性を前記主分力センサと背分力センサの検出出力と合わせれば、「粗」から「仕上げ」加工の切り替えの判別精度の向上が図れる。
【0015】
また、この発明では、工作物を回転させ、その工作物の回転の接線方向に対して直角な方向に砥石を揺動させながら前記工作物に砥石を押し当てて工作物の超仕上げ加工を行ない、前記砥石を支持する砥石台に、前記工作物に押し当てられた状態の砥石にかかる力の工作物の回転の接線方向の分力Qを検出する主分力センサと、前記工作物に押し当てられた状態の砥石にかかる力の砥石の押し当て方向の分力Pを検出する背分力センサとを設け、その各センサで検出した前記各分力P,Qに基づいて前記超仕上げ加工の制御を行なうという方法を採用したのである。
【0016】
このような方法を採用することにより、前記主分力センサおよび背分力センサで検出した各分力P,Qの変化に応じて加工条件を変化させ、安定した加工状態を得ることが可能となる。
すなわち、先に述べたように、超仕上げ加工を行なっている間、押し当て方向の分力Pは、ほぼ一定の値を示す。一方、接線方向の分力Qは、「粗」加工を行なっているときは、加工抵抗が大きくなり、分力Qは大きな値をとる。その後、「仕上げ」加工へ移行したときは、自生発刃が停止し、加工抵抗が小さくなるため、主分力Qは小さな値となる。したがって、これを監視して「粗」加工および「仕上げ」加工を行なっているときの砥石の加工状態を判定することができるため、その判定に基づいて、工作物の回転数、砥石の揺動数、砥石の押し付け力などの加工条件を制御することで、安定した加工状態を得ることが可能となる。また、前記判定方法を用いることで、シューを用いる以外の加工や超砥粒砥石を用いた加工においても超仕上げ加工の制御を行うことができる。さらに、前記判定から異常が検出されれば、砥石の不具合も検出できる。
【0017】
このとき、前記砥石台を、ロッドを前進させて先端に支持した砥石を工作物に押し当てるエアシリンダを備えたものとし、その砥石を取り付けたエアシリンダのロッドの先端と砥石の間に前記主分力センサと前記背分力センサを配置することができる。
【0018】
このようにすると、砥石にかかる力を検出して、工作物の支持方法にかかわらず、砥石の加工状態を判定することができる。そのため、その判定に基づいて、工作物の回転数、砥石の揺動数、砥石の押し付け力などの加工条件を変えることで、より安定した加工状態を得ることが可能となる。
【0019】
このとき、前記各分力P,Qに基づいて行なう前記超仕上げ加工の制御としては、前記主分力センサで検出した分力Qに対する前記背分力センサで検出した分力Pの比P/Qを逐次算出し、その比P/Qの大きさが予め設定された上限値よりも大きくなったときに、前記工作物の回転数に対する前記砥石の揺動数の比が大きくなるよう加工条件を変化させる制御を採用することができる。
【0020】
このようにすると、超仕上げ加工を行なっている間、砥石の自生発刃不足が原因で加工抵抗が小さくなったときに、主分力Qが小さくなり、その結果、比P/Qの大きさが予め設定された上限値よりも大きくなる。このとき、前記工作物の回転数に対する前記砥石の揺動数の比を大きくする、すなわち、工作物の被加工面に生じる砥粒軌跡と工作物の被加工面の進行方向とがなす最大交差角が大きくなるよう加工条件を変化させる制御が実行されるので、砥石の自生発刃が促進され、砥石の自生発刃不足による加工精度の低下を防止することができる。
【0021】
また、前記各分力P,Qに基づいて行なう前記超仕上げ加工の制御としては、前記主分力センサで検出した分力Qに対する前記背分力センサで検出した分力Pの比P/Qを逐次算出し、その比P/Qの大きさが予め設定された下限値よりも小さくなったときに、前記工作物の回転数に対する前記砥石の揺動数の比が小さくなるよう加工条件を変化させる制御を採用することができる。
【0022】
このようにすると、超仕上げ加工を行なっている間、砥石の自生発刃過剰が原因で加工抵抗が大きくなったときに、主分力Qが大きくなり、その結果、比P/Qの大きさが予め設定された下限値よりも小さくなる。このとき、前記工作物の回転数に対する前記砥石の揺動数の比を小さくする、すなわち、工作物の被加工面に生じる砥粒軌跡と工作物の被加工面の進行方向とがなす最大交差角が小さくなるよう加工条件を変化させる制御が実行されるので、砥石の自生発刃が抑制され、砥石の自生発刃過剰によって、前記工作物の寸法減少量に対する前記砥石の損耗量の比である、超仕上げ比の低下を防止することができる。
【0023】
また、前記各分力P,Qに基づいて行なう前記超仕上げ加工の制御としては、前記主分力センサで検出した分力Qに対する前記背分力センサで検出した分力Pの比P/Qを逐次算出し、その比P/Qの大きさが予め設定された上限値よりも大きくなったときに、前記工作物に対する砥石の押し付け力を大きくするよう加工条件を変化させる制御を採用することができる。
【0024】
このようにすると、超仕上げ加工を行なっている間、砥石の自生発刃不足が原因で加工抵抗が小さくなったときに、主分力Qが小さくなり、その結果、比P/Qの大きさが予め設定された上限値よりも大きくなる。このとき、工作物に対する砥石の押し付け力を大きくするよう加工条件を変化させる制御が実行されるので、砥石の自生発刃が促進され、砥石の自生発刃不足による加工精度の低下を防止することができる。
【0025】
また、前記各分力P,Qに基づいて行なう前記超仕上げ加工の制御としては、前記主分力センサで検出した分力Qに対する前記背分力センサで検出した分力Pの比P/Qを逐次算出し、その比P/Qの大きさが予め設定された下限値よりも小さくなったときに、前記工作物に対する砥石の押し付け力を小さくするよう加工条件を変化させる制御を採用することができる。
【0026】
このようにすると、超仕上げ加工を行なっている間、砥石の自生発刃過剰が原因で加工抵抗が大きくなったときに、主分力Qが大きくなり、その結果、比P/Qの大きさが予め設定された下限値よりも小さくなる。このとき、工作物に対する砥石の押し付け力を小さくするよう加工条件を変化させる制御が実行されるので、砥石の自生発刃が抑制され、砥石の自生発刃過剰による超仕上げ比の低下を防止することができる。
【0027】
また、前記各分力P,Qに基づいて行なう前記超仕上げ加工の制御としては、前記主分力センサで検出した分力Qに対する前記背分力センサで検出した分力Pの比P/Qを逐次算出し、その比P/Qの大きさが予め設定された異常検出しきい値よりも大きくなったときに、前記砥石に極度の目詰まりが発生したと判定する制御を採用することができる。
【0028】
このようにすると、超仕上げ加工を行なっている間、砥石に極度の目詰まりが発生したことが原因で加工抵抗が過小となったときに、主分力Qが過小となり、その結果、比P/Qの大きさが予め設定された異常検出しきい値よりも大きくなるので、砥石に極度の目詰まりが発生したと判定する制御が実行される。これにより、砥石の異常を早期に発見することが可能となり、砥石の目詰まりによる不良品の発生を防止することができる。
【0029】
さらに、砥石で加工することによる前記工作物の寸法減少量を検出するインプロセスゲージと、前記工作物の寸法減少と砥石の損耗とによる前記砥石の押し当て方向の移動量を検出する移動量センサとを設け、前記インプロセスゲージで検出した前記工作物の寸法減少量と、前記移動量センサで検出した前記砥石の移動量とに基づいて、超仕上げ比を算出することができる。
【0030】
このようにすると、超仕上げ加工を行なっているときに、その各時点での超仕上げ比をリアルタイムで知ることが可能となり、その結果、超仕上げ比を改善するためには、超仕上げ加工中のどの時点での加工条件を調整すればよいか把握することが容易となる。超仕上げ比は、工作物の寸法減少量に対する前記砥石の損耗量の比であり、加工コストに大きく関与する。
【0031】
また、前記砥石を支持する砥石台に、前記工作物に押し当てられた状態の砥石にかかる力の砥石の揺動方向の分力Rを検出する揺動荷重センサを更に設け、その揺動荷重センサで検出した分力Rの振幅の大きさに基づいて前記超仕上げ加工の制御を行なうことができる。
【0032】
このようにすると、揺動荷重センサで検出される揺動方向の分力Rの大きさは、揺動する砥石の慣性力と、砥石と工作物の間に作用する加工抵抗とに依存し、砥石の揺動数に応じた正弦波振動を呈する。ここで、砥石の加工状態が、砥粒の脱落により積極的に自生発刃する状態(切削状態)であるときは、砥石が自生発刃するため加工抵抗が大きくなり、揺動方向の分力Rの振幅が大きくなる。一方、砥石の加工状態が、自生発刃が停止した磨き状態であるときは、加工抵抗が小さくなり、揺動方向の分力Rの振幅が小さくなる。そのため、揺動方向の分力Rの振幅を監視すれば「粗」加工および「仕上げ」加工を行なっているときの加工状態を判定することができ、その判定に基づいて、工作物の回転数、砥石の揺動数、砥石の押し付け力などの加工条件を変えることで、安定した加工状態を得ることが可能となる。
【0033】
このとき、前記分力Rの振幅の大きさに基づいて行なう前記超仕上げ加工の制御としては、前記揺動荷重センサで検出した分力Rの振幅の大きさが、予め設定された下限幅よりも小さくなったときに、前記工作物の回転数に対する前記砥石の揺動数の比が大きくなるよう加工条件を変化させる制御を採用することができる。
【0034】
このようにすると、超仕上げ加工を行なっている間、砥石の自生発刃不足が原因で加工抵抗が小さくなったときに、分力Rの振幅の大きさが、予め設定された下限幅よりも小さくなる。このとき、工作物の回転数に対する前記砥石の揺動数の比を大きくする、すなわち、工作物の被加工面に生じる砥粒軌跡と工作物の被加工面の進行方向とがなす最大交差角が大きくなるよう加工条件を変化させる制御が実行されるので、砥石の自生発刃が促進され、砥石の自生発刃不足による加工精度の低下を防止することができる。
【0035】
また、前記分力Rの振幅の大きさに基づいて行なう前記超仕上げ加工の制御としては、前記揺動荷重センサで検出した分力Rの振幅の大きさが、予め設定された上限幅よりも大きくなったときに、前記工作物の回転数に対する前記砥石の揺動数の比が小さくなるよう加工条件を変化させる制御を採用することができる。
【0036】
このようにすると、超仕上げ加工を行なっている間、砥石の自生発刃過剰が原因で加工抵抗が大きくなったときに、分力Rの振幅の大きさが、予め設定された上限幅よりも大きくなる。このとき、工作物の回転数に対する前記砥石の揺動数の比を小さくする、すなわち、工作物の被加工面に生じる砥粒軌跡と工作物の被加工面の進行方向とがなす最大交差角が小さくなるよう加工条件を変化させる制御が実行されるので、砥石の自生発刃が抑制され、砥石の自生発刃過剰による超仕上げ比の低下を防止することができる。
【0037】
また、前記分力Rの振幅の大きさに基づいて行なう前記超仕上げ加工の制御としては、前記揺動荷重センサで検出した分力Rの振幅の大きさが、予め設定された下限幅よりも小さくなったときに、前記工作物に対する砥石の押し付け力を大きくするよう加工条件を変化させる制御を採用することができる。
【0038】
このようにすると、超仕上げ加工を行なっている間、砥石の自生発刃不足が原因で加工抵抗が小さくなったときに、分力Rの振幅の大きさが、予め設定された下限幅よりも小さくなる。このとき、工作物に対する砥石の押し付け力を大きくするよう加工条件を変化させる制御が実行されるので、砥石の自生発刃が促進され、砥石の自生発刃不足による加工精度の低下を防止することができる。
【0039】
また、前記分力Rの振幅の大きさに基づいて行なう前記超仕上げ加工の制御としては、前記揺動荷重センサで検出した分力Rの振幅の大きさが、予め設定された上限幅よりも大きくなったときに、前記工作物に対する砥石の押し付け力を小さくするよう加工条件を変化させる制御を採用することができる。
【0040】
このようにすると、超仕上げ加工を行なっている間、砥石の自生発刃過剰が原因で加工抵抗が大きくなったときに、分力Rの振幅の大きさが、予め設定された上限幅よりも大きくなる。このとき、工作物に対する砥石の押し付け力を小さくするよう加工条件を変化させる制御が実行されるので、砥石の自生発刃が抑制され、砥石の自生発刃過剰による超仕上げ比の低下を防止することができる。
【0041】
超仕上げ加工を行なうとき、工作物と砥石の間に供給するクーラントとしては、一般に、潤滑性、浸透性に優れた不水溶性(油性)クーラントが採用されるが、本願発明の超仕上げ加工方法を採用する場合、潤滑性、浸透性の劣る水溶性クーラントを採用したとしても各センサの検出信号に基づいて砥石の自生発刃をコントロールすることが可能なため、安定した加工状態を得ることが可能である。
【0042】
前記工作物としては、例えば、軸受の内輪、外輪、転動体が挙げられる。
【0043】
また、本願では、上記の超仕上げ加工方法を実施する超仕上げ加工装置として、工作物を回転させ、その工作物の回転の接線方向に対して直角な方向に砥石を揺動させながら前記工作物に砥石を押し当てて工作物の超仕上げ加工を行なう超仕上げ盤と、前記砥石を支持する砥石台に取り付けられ、前記工作物に押し当てられた状態の砥石にかかる力の工作物の回転の接線方向の分力Qを検出する主分力センサと、前記砥石を支持する砥石台に取り付けられ、前記工作物に押し当てられた状態の砥石にかかる力の砥石の押し当て方向の分力Pを検出する背分力センサと、その各センサで検出した前記各分力P、Qに基づいて前記超仕上げ加工の制御を行う制御装置を有する構成とすることができる。
【0044】
このとき、前記砥石台が、ロッドを前進させて先端に支持した砥石を工作物に押し当てるエアシリンダを備え、その砥石を取り付けたエアシリンダのロッドの先端と砥石の間に主分力センサと背分力センサを設けた構成とすることができる。
【0045】
前記制御装置は、前記主分力センサで検出した分力Qに対する前記背分力センサで検出した分力Pの比P/Qを逐次算出し、その比P/Qの大きさが予め設定された上限値よりも大きくなったときに、前記工作物の回転数に対する前記砥石の揺動数の比が大きくなるよう加工条件を変化させる制御を行なう構成とすることができる。
【0046】
また、前記制御装置は、前記主分力センサで検出した分力Qに対する前記背分力センサで検出した分力Pの比P/Qを逐次算出し、その比P/Qの大きさが予め設定された下限値よりも小さくなったときに、前記工作物の回転数に対する前記砥石の揺動数の比が小さくなるよう加工条件を変化させる制御を行なう構成とすることができる。
【0047】
また、前記制御装置は、前記主分力センサで検出した分力Qに対する前記背分力センサで検出した分力Pの比P/Qを逐次算出し、その比P/Qの大きさが予め設定された上限値よりも大きくなったときに、前記工作物に対する砥石の押し付け力を大きくするよう加工条件を変化させる制御を行なう構成とすることができる。
【0048】
また、前記制御装置は、前記主分力センサで検出した分力Qに対する前記背分力センサで検出した分力Pの比P/Qを逐次算出し、その比P/Qの大きさが予め設定された下限値よりも小さくなったときに、前記工作物に対する砥石の押し付け力を小さくするよう加工条件を変化させる制御を行なう構成とすることができる。
【0049】
また、砥石で加工することによる前記工作物の寸法減少量を検出するインプロセスゲージと、前記工作物の寸法減少と砥石の損耗とによる前記砥石の押し当て方向の移動量を検出する移動量センサとを更に有し、前記制御装置は、前記インプロセスゲージで検出した前記工作物の寸法減少量と、前記移動量センサで検出した前記砥石の移動量とに基づいて、前記工作物の寸法減少量に対する前記砥石の損耗量の比である超仕上げ比を算出するという構成を採用できる。さらに、前記砥石を支持する砥石台に、前記工作物に押し当てられた状態の砥石にかかる力の砥石の揺動方向の分力Rを検出する揺動荷重センサを更に有し、前記制御装置は、前記揺動荷重センサで検出した分力Rの振幅の大きさに基づいて前記超仕上げ加工の制御を行なう構成を採用することができる。
【0050】
また、前記工作物と砥石の間に水溶性クーラントを供給する吐出ノズルを有する構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0051】
この発明の超仕上げ加工方法および超仕上げ加工装置は、主分力センサおよび背分力センサで検出した各分力P,Qに基づいて、工作物の回転数、砥石の揺動数、砥石の押し付け力などの加工条件を変えることで、安定した加工状態を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施形態の模式図
【図2】実施形態のブロック図
【図3】(a)、(b)実施形態の作用説明図
【図4】実施形態の作用説明図
【図5】実施形態の作用説明図
【図6】実施形態の作用説明図
【図7】実施形態の作用説明図
【図8】実施形態の作用説明図
【図9】実施形態の作用説明図
【図10】(a)、(b)実施例2の模式図
【図11】(a)〜(d)実施例3の作用説明図
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、この発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
図1、図2に本願発明を説明するための超仕上げ加工装置の概要図を示す。図1は、超仕上げ盤の概要図で、図2は、制御装置19のブロック図である。
【0054】
超仕上げ加工装置は、超仕上げ盤と制御装置19とから成る。
超仕上げ盤は、図1に示すように、固定センター1、回し金2、揺動装置3、砥石台4、エアシリンダ5、主分力センサ6a、背分力センサ6b、揺動荷重センサ6c、移動量センサ7、インプロセスゲージ8、砥石10、吐出ノズル12で構成されている。
【0055】
超仕上げ盤の固定センター1で支持された工作物9は、回し金2で回転力を与えられる。砥石10を支持する砥石台4は揺動装置3に取り付けられている。揺動装置3は、砥石台4に往復運動させる駆動力を付与する。この揺動装置3により揺動する砥石台4には、エアシリンダ5を介して主分力センサ6a、背分力センサ6b、揺動荷重センサ6cが取り付けられ、この主分力センサ6a、背分力センサ6b、揺動荷重センサ6cで砥石10が支持されている。具体的には、砥石10を取り付けたエアシリンダ5のロッド13の先端と砥石10の間に主分力センサ6a、背分力センサ6b、揺動荷重センサ6cを設けた構成となっている。
ここで、前記主分力センサ6aは、工作物9に押し当てられた状態の砥石10にかかる力の内の工作物9の回転の接線方向の分力Qを検出する。
背分力センサ6bは、工作物9に押し当てられた状態の砥石10にかかる力の内の砥石10の押し当て方向の分力Pを検出する。
揺動荷重センサ6cは、工作物9に押し当てられた状態の砥石10にかかる力の内の砥石10の揺動方向の分力Rを検出する。
これら、主分力センサ6a、背分力センサ6b、揺動荷重センサ6cは、例えば、ロードセルや圧電素子(半導体(ピエゾ抵抗素子)ひずみゲージ、ユニモルフ、バイモルフ)などの力センサを用いることができる。これらのセンサ6a、6b、6cは、それぞれ、別のセンサとして設けることもできるが、一体となった3軸式のものでも良い。この形態では、一体のものを使用している。
【0056】
また、エアシリンダ5の後端に移動量センサ7を取り付け、砥石10の移動量Sを検出する構成になっている。この場合、移動量センサ7としては、例えば、ポテンショメータを用いることができる。
なお、このようなポテンショメータ以外にも、液体であるクーラントからの防滴効果を狙って光学式や差動トランスを用いた非接触型の直動変位計を使用しても構わない。
インプロセスゲージ8は、加工中の工作物9の寸法変化を検出するためのもので、触針が工作物9に接触するように配置されており、工作物9の寸法を加工と同時に実測するようになっている。こうすることで、仕上げ寸法減少量Tと後述の砥石10の移動量Sから超仕上げ比Uを求められるようにしてある。
クーラント11は、砥石10と工作物9の摩擦力の低減(潤滑作用),切粉の排出(洗浄作用)及び加工熱の排出(冷却作用)の性能を有するものである。そして、クーラント11は、図1のように、吐出ノズル12を工作物9の近傍に配置して加工点に供給する。この場合、使用するクーラントは不水溶性、あるいは水溶性のいずれのものでも構わない。
【0057】
図2は、制御装置19の超仕上げ盤から得られる信号(入力)系と、超仕上げ盤及び外部装置(ドレッシング25、砥石交換機26)へ出力する信号(出力)系に着目したブロック図である。
【0058】
すなわち、制御装置19は、A/D変換機能20a、D/A変換機能20b、演算処理機能(CPU)21、I/Oインターフェース24を備えている。
CPU21は、A/D変換機能20aを介して超仕上げ盤に設けられた主分力センサ6a、背分力センサ6b、揺動荷重センサ6c、移動量センサ7及びインプロセスゲージ8と接続され、主分力センサ6a、背分力センサ6b、揺動荷重センサ6cから出力される3方向の各分力P、Q、Rの出力と、移動量センサ7及びインプロセスゲージ8からの測定出力S、Tを収集する。
一方、CPU21は、D/A変換機能20bを介して超仕上げ盤の主軸モータ22と揺動モータ23の各インバータ回路27と接続されている。また同時に、CPU21は、D/A変換機能20bを介してエアシリンダ5の電空式のエアレギュレータ28と接続されている。このため、CPU21は、主分力センサ6a、背分力センサ6b、揺動荷重センサ6c、移動量センサ7及びインプロセスゲージ8の検出出力に基づいて、砥石10の加工状態を判定する。そして、主軸モータ22と揺動モータ23及びエアシリンダ5を制御して工作物9の回転数、砥石10の揺動数、砥石10への押し付け圧を操作し、超仕上げ加工の加工条件をリアルタイムで制御するようになっている。
また、CPU21は、I/Oインターフェース24を介してエアシリンダ5と接続されている。こうすることで、主分力センサ6a、背分力センサ6b、揺動荷重センサ6c、移動量センサ7及びインプロセスゲージ8の検出出力から砥石10の異常を検出すると、揺動を中止させるための後退動作をエアシリンダ5へ指令できるようになっている。
さらに、CPU21は、I/Oインターフェース24を介して外部機器25、26と接続して砥石10のメンテナンス動作を指令できるようになっている。
ここで、外部機器は、目立て用のドレッシング装置25と砥石交換装置26で、どちらも周知のもので構わない。そして、両装置25,26は、CPU21が、前記主分力センサ6a、背分力センサ6b、揺動荷重センサ6c、移動量センサ7及びインプロセスゲージ8の検出出力に基づいて必要と判断して指令を発すると、砥石10の目立てと交換を自動で行うようになっている。
【0059】
以上のように、本願の加工装置は構成されており、次に、前記加工装置で用いられる超仕上げ加工について述べる。
【0060】
まず、図3(a)に示すように、回転砥石30を使用する円筒研削加工を考える。この場合、図3(b)のように、工作物9は固定センター1と回し金2によって回転する。そして、回転砥石30で工作物9を研削加工する場合、固定センター1に取り付けられた歪みゲージ31a、31bで工作物9に作用する法線方向の背分力Pと、接線方向の研削主分力Qを計測することで、砥石10の負荷を数値化し、研削状態が推測可能である。
【0061】
この概念から、次に、図1のように支持された円筒形状の工作物9に対し、図4で設定するような条件を与えた場合を考える。
すなわち、主軸回転数を低く揺動数を高くし、最大交差角を大きくする「粗」条件と、逆に主軸回転数を高く揺動数を低くし、最大交差角を小さくする「仕上げ」条件を連続的に与えた場合、前記入力条件に対して砥石10が切削状態から磨き状態へ移行するのに応じて得られる各信号は其々変化する。その信号変化の例を図5に示す。
【0062】
図5は横軸を時間推移、縦軸を信号強度(研削抵抗)としたもので、加工開始後、「粗」加工から「仕上げ」加工への移行に応じて砥石10の状態が変化する。
このとき、主分力センサ6a、背分力センサ6b、揺動荷重センサ6cの検出出力は、それぞれ、主分力Q、背分力P、揺動荷重Rの3軸(X軸、Y軸、Z軸)方向の分力となり、図5のように、工作物9の回転数、砥石10の揺動数に起因する周波数を包括した信号を呈する。また、各信号は各々砥石10の加工状態に応じて変動する。
【0063】
図6に砥石10の移動量(砥石摩耗量)Sとインプロセスゲージ8の工作物9の仕上げ寸法減少量(stock amount:所謂「取り代」)Tの信号変化を示す。ここで、横軸は時間推移、縦軸は変位量である。
この場合、「粗」条件の工程では、砥石10は破砕・脱落する。そのため、砥石10の移動量Sは一定速度で増加(前進)する。同時に、仕上げ寸法減少量Tも一定の割合で減少する。
これに対して、「仕上げ」条件の工程では、砥石10の加工状態が磨き状態になるため、砥石10の移動量Sは一定になり(エアシリンダ5のロッド13の前進が停止する)、仕上げ寸法減少量Tの変化も停滞する。
【0064】
図7に、図4で設定した条件で加工した場合の砥石10にかかる力の分力の工作物9の回転の接線方向の分力Q(所謂「主分力」)と、砥石10の押し当て方向の分力P(所謂「背分力」)及び、その比P/Qの測定例を示す。ここで、図7の横軸は時間推移、縦軸は各分力の大きさと、その比を示す。
図7から、加工開始地点をAとした場合、「粗」加工(切削状態)においては、砥石10は積極的に自生発刃する。その後、「仕上げ」加工へ移行すると、砥石10は、半切削状態から目詰まり状態(磨き状態)へ移行する。
ここで、この間の前記押し当て方向の分力Qと前記接線方向の分力Pに着目する。すると、前記接線方向の分力Pは、砥石10の押し付け力で決定される。このことから、図4の条件においては、ほぼ一定の値を示すことがわかる。
このとき、前記押し当て方向の分力Qは、工作物9と砥石10の間の研削抵抗に応じた変化を示す。
具体的には、「粗」加工では砥石10が自生発刃し、研削抵抗が大きくなる。そのため、前記押し当て方向の分力Qは大きな値をとる。その後、「仕上げ」加工間では自生発刃が停止し、砥石10が磨き状態となる。そのため研削抵抗が小さくなって前記押し当て方向の分力Qは小さな値をとる。その結果、比P/Q(荷重バランスを表す)は、図7(イ)〜(ハ)のように、砥石10の加工状態に応じた変化を示す。
すなわち、比P/Qは、「粗」から「仕上げ」加工へ移行するのに伴って、図7(ロ)のように、緩やかな上昇変化を示す。
同じスペックの砥石10の場合、この比P/Qは、図4の加工条件において、いずれの数値が設定されていてもほぼ同じ傾向を示す。このことから、比P/Qは、超仕上げにおける加工効率、仕上がり精度を監視する指標として有効である。
【0065】
図8は、図7と同じ時間軸における砥石10の移動量(前進量)Sである砥石損耗量と工作物9の仕上げ寸法減少量T、並びに砥石10の移動量Sと仕上げ寸法減少量Tとの累積比を取ったものを超仕上げ比Uとして示したものである。
すなわち、超仕上げ比Uは、インプロセスゲージ8が検出する「寸法減少量(除去体積)」を加工開始時から累積したものと、移動量センサ7によって得られる移動量S(砥石損耗量+工作物9の寸法減少量)から砥石損耗量のみを算出して加工開始時から累積したものとの比を取ったものである。このとき、砥石損耗量は、移動量Sからインプロセスゲージ8が検出する「寸法減少量(除去体積)」を差し引けば算出できる。
なお、本装置においては、インプロセスゲージ8で研削能率を求めるため、超仕上げ比Uを加工開始からの砥石10の損耗量と仕上げ寸法減少量Tとの累積値の比で表すこととしたのである。
【0066】
図9に、砥石10に工作物9の材質が貼り付いた状態(凝着状態)が発生したときの前記押し当て方向の分力Pと前記接線方向の分力Q及び、その比P/Qの変化を示す。
すなわち、前記押し当て方向の分力Pと接線方向の分力Q及び、その比P/Qは、図7においては、比較的緩やかな変化をたどるのに対し、図9の凝着した砥石10では、前記接線方向の分力Qが瞬時に低下する傾向を示す。その結果、比P/Qは、図9(ニ)のように、急激な上昇を呈する。そのため、比P/Qに限度値(しきい値)を設定すれば、凝着発生を検知することが可能である。
【0067】
このように、砥石10を支持する砥石台4に、主分力センサ6a、背分力センサ6b、揺動荷重センサ6cを設けることで、「粗」加工から「仕上げ」加工への判別が可能となり、砥石台4を使用する超仕上げ加工に用いることができる。
また、移動量センサ7、インプロセスゲージ8を設けることで、仕上がりの判定もできる。そして、それらの検出値を用いて、砥石10の加工状態を総合的に判定することが可能となり、加工条件(工作物9の回転数、砥石10の揺動数、砥石10の押し付け力)を意図的に操作することで超仕上げ比Uを常時最適に保持することが可能になる。
さらに、それらの検出値を用いることで、凝着に代表される研削異常を検知することが可能となり、研削異常を検出した場合は、後述のように、I/O回路によって外部機器を作動させて最適な加工状態を維持することも可能である。
また、このように、超仕上げ比が任意に操作でき、かつ、目詰まり・凝着等の不具合を未然に防ぐことができるため、不水溶性クーラントに対して潤滑性、浸透性、洗浄性に劣るが、冷却性及びコストの点で勝る水溶性クーラントを使用しても良好な加工精度が得られる。
【0068】
次に、前記原理に基づく制御法について述べる。
例えば、超仕上げ加工装置において、図1のように支持された円筒形状の工作物9に対して、図4のように「粗」、「仕上げ」の2条件を設定する。この場合、加工装置は、主分力センサ6a、背分力センサ6b、揺動荷重センサ6c、移動量センサ7、インプロセスゲージ8の各センサの出力に基づいて主軸モータ22、揺動モータ23、エアシリンダ5をコントロールして加工条件を変化させる制御を行う。
すなわち、図5から、砥石10と工作物9が接触する加工開始点Aから「粗」加工→「仕上げ」加工への移行点で、主分力センサ6aと背分力センサ6bの検出出力は、大きく変動する。そのため、この変動から「粗」加工→「仕上げ」加工への切り替えを判定して「仕上げ」加工への切り替え制御を行う。
このとき、揺動荷重センサ6cは、砥石10の揺動慣性と加工抵抗を受けるため、揺動数に応じた正弦波振動を呈する。そのため、砥石10が破砕・脱落する「粗」加工では、砥石10は切削状態になり、正弦波の振幅が大きくなる。一方、「仕上げ」加工では、砥石10が磨き状態になったことにより、正弦波の振幅が小さくなる。
したがって、主分力センサ6aと背分力センサ6bの検出出力に、揺動荷重センサ6cの検出出力を加味して判定すれば判定確度が向上する。そのため、超砥粒砥石においても「粗」から「仕上げ」加工への移行の判定が確実になり、例えば、「粗」加工から「仕上げ」加工への自動切り替え制御も容易に制御できる。
【0069】
一方、移動量センサ7とインプロセスゲージ8の検出出力によっても「粗」加工と「仕上げ」加工の判別ができる。
すなわち、移動量センサ7の検出する砥石10の移動量Sは、図6に示したように、「粗」加工では破砕や脱落を起こすため、一定速度で前進する。そして、「仕上げ」加工では、磨き状態になって停止する。
また、インプロセスゲージ8の測定する工作物9の仕上げ寸法減少量Tの加工特性は、図6に示すように、砥石10の移動量(砥石摩耗)Sに応じた変化となる。
したがって、移動量センサ7とインプロセスゲージ8の出力特性を前記主分力センサ6aと背分力センサ6bの検出出力と合わせれば、「粗」から「仕上げ」加工の切り替え制御の精度を向上できる。
【0070】
ここで、一般に、超仕上げ加工では、切削、半切削、研磨の3工程を規則正しく繰り返す加工サイクルが良好とされる。
そのため、この加工サイクルの切り替え制御は、インプロセスゲージ8の検出出力に基づく工作物9の寸法減少量Tを監視すれば実現できる。
【0071】
また、図7に示すように、加工開始地点Aから始まる「粗」加工の期間は、砥石10が切削状態であるため、このときの砥石10は積極的に自生発刃する。そして、その後、「仕上げ」加工(磨き状態)へ移行する。すると、砥石10は、半切削状態から目詰まり状態へ徐々に移行する。この間、主分力センサ6aと背分力センサ6bの検出する2方向の分力QとPは、揺動荷重センサ6cの検出する揺動方向の分力(揺動荷重)Rほどではないものの、工作物9の回転数、あるいは、砥石10の振動数に起因した同位相の周波数を包括した正弦波信号を呈す。
因みに、砥石10の状態変化による前記接線方向の分力Qと、押し当て方向の分力Pの変動は、回転数または振動数成分に包括された振幅に対して微小である。
この接線方向の分力Qと押し当て方向の分力Pの波形に現れる一定の微小な振幅は、加工特性と同じ位相であるため、比P/Qでは、互いに打ち消し合って比較的低振幅の直流波形となる。このため、比P/Qは、図7(イ)、(ロ)、(ハ)のように、砥石10の加工状態に応じた変化をハッキリと明示することができる。
したがって、この出力変化のパターンから加工工程を判定することができる。また、このように、出力変化のパターンでもって判定すれば、工作物9の加工前の面粗度の違いに関わらず、砥石10の加工状態を判定して超仕上げ加工ができる。
【0072】
ところで、超仕上げ加工では、1つの加工サイクル中に加工効率が刻々と変動するため、超仕上げ比Uは一定の値にならない。また、超仕上げの工作物9の寸法減少量Tは、非常に微量であることから、超仕上げ比Uを求めることは容易ではない。
さらに、「仕上げ」加工から加工の完了にかけては、砥石10の変化量はゼロに収束するため、回転砥石30を用いた研削加工で用いられる「研削比=工作物除去量/砥石損耗量」を時間軸に対して演算させても数値が発散してしまう恐れがある。
そのため、先にも述べたように、超仕上げ比Uとして、インプロセスゲージ8の検出出力に基づく寸法減少量Tと、移動量センサ7の検出出力に基づく砥石10の移動量Sを加工開始から累積し、累積した寸法減少量Tと移動量Sとの比T/S(=寸法減少量T/移動量S)を算出して、その算出した比の時間軸に対する変化の傾向から、砥石10の加工状態を推定する。
【0073】
すなわち、図8は、図4で設定した条件で加工した際の砥石10の移動量Sと寸法減少量Tの推移と、その移動量Sと寸法減少量Tを累積した値から算出した超仕上げ比Uを描画したものである。
図8から、加工開始直後のA点から始まる「粗」加工では、自生発刃と工作物除去が同時に進行するため、一次関数的な上昇をたどる。この結果から、切削状態の研削時の加工効率が高ければ、加工初期の超仕上げ比Uの初期勾配は大きくなる。
このように、勾配が大きな加工条件が、超仕上げにおける加工効率を高くする条件となるため、Uの値が大きくなるよう主軸モータ22の回転数や砥石台4の揺動モータ23を制御する。
【0074】
したがって、比P/Q、超仕上げ比Uを制御装置19内で関連付ければ、工作物9の形状や砥石10のスペックに応じた最も高い加工効率が得られる加工条件が設定できる。
そして、このような方法を採用すれば、従来、相当な工数を要するとされる加工条件の調整時間や調整時の加工不良を削減することが可能である。
【0075】
また、このとき、比P/Qと超仕上げ比Uを、工作物9の仕上がり状態の判定に使用することができる。この場合は、砥石10が磨き状態になって再び比P/Qが上昇する時期を監視し、設定値を超えたところで加工を完了すれば、安定した加工品質が得られる。また、インプロセスゲージ8の検出出力が仕上がり寸法に達したときに加工を終えるようにすることで、工作物9を既定の寸法に仕上げることができる。
【0076】
一方、工作物9と砥石10が不適合の場合や工作物9と砥石10の加工条件が不適合の場合、またはクーラント11が不適合な場合は、砥石10に金属が貼り付いた(凝着した)状態が生じる。
この場合、砥石10と工作物9は部分的に金属接触を起こすため、比P/Qが上昇し、寸法減少量Tが低下する。
そのため、比P/Qの変化及び、インプロセスゲージ8が検出する寸法減少量Tの寸法変化を組み合わせて砥石10の加工状態を監視すれば、凝着の発生を検知することができる。
このとき、凝着を検知した場合は、加工を中止するため、I/Oインターフェース24を介してエアシリンダ5を後退させる。次に、I/Oインターフェース24を介して外部機器として接続されたドレッシング装置25を作動して砥石10のドレッシング(目立て)を行う。次に、エアシリンダ5を前進させて仕上げ加工へ戻り作業を継続する。
そして、その作業を継続した際に、凝着が改善しないことが検出された場合は、I/Oインターフェース24を介して外部機器として接続された砥石交換装置24を作動して新しい砥石10に交換する。交換後は、エアシリンダ5を前進させて研磨加工へ戻り、作業を継続する。このようにして、砥石10の異常に対応すれば、自動運転が安定して継続できる。
【0077】
加えて、本願では、加工効率を自由に操作して超仕上げ比Uを変更することができるので、図1のように、加工時に水溶性クーラントを使用することができる。
すなわち、主分力センサ6aの検出する接線方向の分力Qと背分力センサ6bの検出する押し当て方向の分力Qから比P/Qを逐次算出し、その算出した比P/Qが予め設定した下限値以下で推移すると、砥石台4の揺動数を多く、あるいは工作物9の回転数を小さくして加工効率を高くする。逆に、比P/Qが予め設定した上限値より大きくなると、砥石台4の揺動数を少なく、あるいは工作物9の回転数を多くして加工効率を低くする。
このように加工効率を変えて超仕上げ比Uを任意に設定し、比P/Qに限度値を設定して制御することにより、凝着や凝着による目詰まりを未然に防ぐことができる。このため、使用するクーラント11が、洗浄性、潤滑性が劣るために目詰まり、凝着が発生しやすい水溶性クーラントであっても、これら不具合を発生させ難い加工条件が設定できる。
したがって、 超仕上げ加工において、冷却性、コスト面で優れる水溶性クーラントを使用でき、結果的に超仕上げ加工の品質向上と生産コストの引き下げで生産性を向上させることができる。また、従来の不水溶性クーラントを採用する場合においても、前記の加工制御を採用することで加工能率を最適に維持できるため、生産コストの低減に寄与することが可能となる。
【0078】
なお、加工性能が劣る水溶性クーラントを使用して超仕上げ加工する際も、背分力センサ6bの出力P(背分力)および主分力センサ6aの出力Q(主分力)を逐次計算して加工条件にフィードバックすることで、最適な加工効率を維持することも可能である。
【0079】
このように、砥石10の加工状態を監視して「粗」加工、「仕上げ」加工、各々に対し加工状態を判定し、最適に維持できるので、粗加工から仕上げ加工への切り替えを自動的に行うようにできる。
また、砥石10の加工状態を監視して砥石10の凝着の検出もできるので、砥石10のドレッシングや交換も自動的に行うようにできる。
さらに、砥石10の加工状態を監視して加工効率を一定に保てるので、不水溶性(油性)クーラント対して潤滑性、洗浄性に劣る水溶性クーラントにおいても良好な加工状態を維持できる。
【0080】
以下、制御法の具体例を実施例1として示す。
【実施例1】
【0081】
この実施例1の加工装置は、前記主分力センサ6a、背分力センサ6b、揺動荷重センサ6c、移動量センサ7及びインプロセスゲージ8の各センサの出力に基づいて主軸モータ22、揺動モータ23、エアシリンダ5をコントロールして加工条件を変化させる制御を行う。
【0082】
例えば、制御装置19は、超仕上げ加工中の主分力センサ6aが検出する分力Qと背分力センサ6bが検出する分力Pを読み込んで、主分力センサ6aの検出出力Pに対する背分力センサで検出した分力Pの比P/Qを逐次算出する。
そして、その比P/Qの大きさを、例えば図7に示すように、予め設定した上限値Th1または下限値Th2と比較して、加工中の超仕上げ比の低下を防止する制御を行う。
具体的には、制御装置19は、算出する比P/Qが、予め設定した砥石10の自生発刃不足を判定する上限値Th1よりも大きくなったときに、前記工作物9の回転数に対する前記砥石10の揺動数の比が大きくなるように、すなわち、工作物の被加工面に生じる砥粒軌跡と工作物の被加工面の進行方向(工作物の回転の接線方向)とがなす最大交差角が大きくなるように主軸モータ22と揺動モータ23を制御して加工条件を変化させる。
このように、工作物9の回転数に対する砥石10の揺動数の比を大きくすることにより、砥石10の自生発刃を促進し、砥石10の自生発刃不足による加工精度の低下を防止する。
一方、制御装置19は、算出する比P/Qが、予め設定した砥石10の自生発刃過剰を判定する下限値Th2よりも小さくなったときは、工作物9の回転数に対する砥石10の揺動数の比が小さくなるように、すなわち、最大交差角が小さくなるように主軸モータ22と揺動モータ23を制御して加工条件を変化させる。
このように、工作物9の回転数に対する砥石10の揺動数の比を小さくすることにより、砥石10の自生発刃過剰による超仕上げ比の低下を防止する。
【0083】
さらに、制御装置19は、先の比P/Qが上限値Th1よりも大きくなったときに、加工条件を変化させる制御を行っても、比P/Qが小さくならない場合は、前記工作物9に対する押し付け力を大きくするようにエアシリンダ5を制御して加工条件を変化させる制御を行う。
これは、超仕上げ加工中に、砥石10の自生発刃不足で研削抵抗が小さくなり、主分力Qが小さくなったことが原因で比P/Qの大きさが予め設定された上限値Th1よりも大きくなったからである。そのため、工作物9に対する砥石10の押し付け力を大きくするように加工条件を変化させることにより、砥石10の自生発刃を促進し、砥石10の自生発刃不足による加工精度の低下を防止する。
【0084】
また、同様に制御装置19は、先の比P/Qが下限値Th2よりも小さくなったときに、加工条件を変化させる制御を行っても、比P/Qが大きくならない場合は、工作物9に対する砥石10の押し付け力を小さくするようにエアシリンダ5を制御して加工条件を変化させる。
これは、超仕上げ中に、砥石10の自生発刃過剰が原因で切削力が大きくなったことが原因で、主分力Qが大きくなり、比P/Qの大きさが予め設定された下限値Th2よりも小さくなったからである。そのため、工作物9に対する砥石10の押し付け力が小さくなるように加工条件を変更することにより、砥石10の自生発刃過剰による超仕上げ比の低下を防止する。
【0085】
また、制御装置19は、超仕上げ加工中に、逐次算出する比P/Qの大きさが、例えば図9に示すように、予め設定した異常検出しきい値Th3よりも大きくなったことを検出すると、砥石10に極度の目詰まりが発生したと判定する。
これは、超仕上げ加工中に、砥石10に極度の目詰まりが発生したことが原因で加工抵抗が過小となったときに、主分力Qが過小となったからである。そのため、砥石10に極度の目詰まりが発生したと判定したのである。これにより、砥石10の異常を早期に発見することが可能となり、砥石10の目詰まりによる不良品の発生を防止することができる。
また、このとき、制御装置19は、目詰まりを判定すると、I/Oインターフェース24を介して目立て用のドレッシング装置25を起動する。そして、起動したドレッシング装置25を用いて目詰まりした砥石10の目立てを行う。目立てが終わると、制御装置19は、超仕上げ加工を行う。ドレッシングによる生産性低下を嫌う場合は、I/Oインターフェース24を介して砥石交換装置26を起動し、砥石10を交換する。このように、メンテナンス動作を行うのである。
【0086】
同時に、制御装置19は、超仕上げ中に、移動量センサ7とインプロセスゲージ8の検出値から超仕上げ比Uを算出して、算出した超仕上げ比Uが最適な値になるように、主軸モータ22、揺動モータ23、エアシリンダ5をコントロールして加工条件を制御する。
すなわち、超仕上げ比Uは、インプロセスゲージ8が検出する「寸法減少量(除去体積)」を加工開始時から累積したものと、移動量検出センサ7によって得られる移動量S(砥石損耗量+工作物9の寸法減少量)から砥石損耗量のみを算出して加工開始時から累積したものとの比を取ったものである。そのため、制御装置19は、インプロセスケージ8の検出出力と移動量検出センサ7の出力を一定時間ごとにサンプリングして累積し、累積した値の比を取って超仕上げ比Uを算出する。このようにすることで、超仕上げ比Uをリアルタイムで検出する。
このとき、砥石損耗量は、例えば移動量Sからインプロセスゲージ8が検出する「寸法減少量(除去体積)」を差し引いて算出する。
そして、仕上げ寸法減少量と砥石10の損耗量とのコストが調和するように設定された超仕上げ比Uに近づけるように、主軸モータ22、揺動モータ23、エアシリンダ5の加工条件を制御する。こうすることで、加工コストを低くすることもできる。
【0087】
また、制御装置19は、揺動荷重センサ6cの出力を検出することにより、加工状態を判定しており、その判定に基づいて工作物9の回転数、砥石の揺動数、砥石10の押し付け力などの加工条件を変更することで安定した加工状態を得るようにしている。
【0088】
そのため、制御装置19は、図5のように、砥石10の自生発刃不足を判定するため、予め設定した振幅の下限値Th4と揺動荷重センサ6cで検出する分力Rの振幅の大きさと逐次比較する。そして、分力Rの振幅が予め設定した振幅の下限値Th4よりも小さくなった場合は、主軸モータ22と揺動モータ23を制御する。そして、工作物9の回転数に対する砥石10の揺動数の比が大きくなるように、すなわち、最大交差角が大きくなるように加工状態を変化させる。
このように制御することで、砥石10の自生発刃不足が原因で研削抵抗が小さくなったときに、砥石10の自生発刃を促進して、砥石10の自生発刃不足による加工精度の低下を防止する。
【0089】
また、このように、自生発刃の状態を検出できる揺動荷重センサ6cを用いることで、超仕上げ比Uの低下も防止する。
この場合、制御装置19は、図5のように、砥石10の自生発刃過剰を判定するために、予め設定した上限値Th5と揺動荷重センサ6cで検出する分力Rの振幅の大きさを逐次比較する。そして、分力Rの振幅が予め設定した振幅の上限値Th5よりも大きくなった場合は、主軸モータ22と揺動モータ23を制御して、前記工作物9の回転数に対する砥石10の揺動数の比が小さくなるように、すなわち、最大交差角が小さくなるように加工条件を変化させる。
このようにすると、砥石10の自生発刃過剰が原因で抵抗が大きくなったときに、砥石10の自生発刃を抑制して、砥石10の自生発刃過剰による超仕上げ比Uの低下を防止できる。
【0090】
また、このとき、制御装置19は、前記揺動荷重センサ6cで検出した分力Rの振幅の大きさを、自生発刃不足の判定のため、予め設定した振幅の下限値Th6と逐次比較して、振幅の下限値Th6よりも小さくなったとき、エアシリンダ5を制御して工作物9に対する砥石10の押し付け力を大きくするように加工条件を変化させる。
このようにすると、加工抵抗が小さくなったときに、砥石10の自生発刃が促進されるので、砥石10の自生発刃不足による加工精度の低下を防止できる。
【0091】
また、逆に、制御装置19は、前記揺動荷重センサ6cで検出した分力Rの振幅の大きさを、自生発刃過剰を判定するために予め設定した振幅の上限値Th7と逐次比較して、振幅の上限値Th7よりも大きくなったとき、エアシリンダ5を制御して工作物9に対する砥石10の押し付け力を小さくするように加工条件を変更する。
このようにすると、砥石10の自生発刃過剰が原因で加工抵抗が大きくなった時に、工作物9に対する砥石10の押し付け力が小さくなり、砥石10の自生発刃が抑制されて、砥石10の自生発刃過剰による超仕上げ比Uの低下を抑制することができる。
【実施例2】
【0092】
この実施例2では、本願の超仕上げ加工を円すいころ軸受に適用したものについて述べる。
図10(a)、(b)にその加工を模式的に示した図を示す。ここで、図10(a)は円すいころ軸受の内輪40、図10(b)は外輪41の超仕上げ加工を示したものである。このようにセットすることで円すいころ軸受の超仕上げの品質と生産性を向上させることができる。
ここで、図10(a)、(b)中の符号14はシュー、15はパッキングプレート、3は揺動装置、4は砥石台、5はエアシリンダ、6aは主分力センサ、6b背分力センサ、6c揺動荷重センサ、7はポテンショメータ、8はインプロセスゲージである。
本願では、工作物(ここでは内輪40)を支持する部材にかかる力を検出するのではなく、砥石10にかかる力を検出するので、工作物の支持方法にかかわらず、砥石10の加工状態を判定することができる。そのため、工作物の適用範囲が広い。
よって、チャック把持式、両センター支持式などで支持される工作物の超仕上げにも適用できる。また円すいころの超仕上げにも適用できる。
したがって、これらの内輪、外輪、円すいころを用いて超仕上げ加工の品質と生産性を向上させた円すいころ軸受を提供できる。
【実施例3】
【0093】
実施例3は、本発明を適用する機械部品について述べたものである。
図11(a)〜(d)に、本発明を適用する代表的な軸受と、軸受を構成する部品における適用箇所を示す。
図11(a)は、玉軸受50で、内輪51と外輪52の間に複数の玉53を組み込んだものである。図11(b)、(c)は、図11(a)の玉軸受における本願の超仕上げ加工を行う加工対象箇所54を示すもので、同(b)は、内輪51の外周に設けられた断面円弧状の軌道面で、加工は図10(a)のようにして行うことができる。また、同図(c)は、外輪の内周に設けられた転動面であって、加工は図10(b)のようにすればよい。
図11(d)は、自動調心ころ軸受の「ころ」55に対する加工対象箇所54を示すもので、加工対象箇所54として、外径が凸の曲率を持った凸面ころ55の外周を示したものである。
【符号の説明】
【0094】
1 固定センター
2 回し金
3 揺動装置
4 砥石台
5 エアシリンダ
6a 主分力センサ
6b 背分力センサ
6c 揺動荷重センサ
7 移動量センサ
8 インプロセスゲージ
9 工作物
10 砥石
11 水溶性クーラント
12 吐出ノズル
13 ロッド
14 シュー
15 パッキングプレート
40 内輪
41 外輪
50 玉軸受
51 内輪
52 外輪
53 玉
54 加工対象箇所
55 ころ
P 分力
Q 分力
R 分力
S 移動量
T 仕上げ寸法減少量
U 超仕上げ比

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物を回転させ、その工作物の回転の接線方向に対して直角な方向に砥石を揺動させながら前記工作物に砥石を押し当てて工作物の超仕上げ加工を行い、前記砥石を支持する砥石台に、前記工作物に押し当てられた状態の砥石にかかる力の工作物の回転の接線方向の分力Qを検出する主分力センサと、前記工作物に押し当てられた状態の砥石にかかる力の砥石の押し当て方向の分力Pを検出する背分力センサとを設け、その各センサで検出した前記分力P、Qに基づいて工作物の加工状態を判定する超仕上げ加工方法。
【請求項2】
前記砥石台が、ロッドを前進させて先端に支持した砥石を工作物に押し当てるエアシリンダを備えたものであり、その砥石を取り付けたエアシリンダのロッドの先端と砥石の間に前記主分力センサと前記背分力センサを配置した請求項1に記載の超仕上げ加工方法。
【請求項3】
砥石で加工することによる前記工作物の寸法減少量を検出するインプロセスゲージと、前記工作物の寸法減少と砥石の損耗とによる前記砥石の押し当て方向の移動量を検出する移動量センサとを設け、前記インプロセスゲージで検出した前記工作物の寸法減少量と、前記移動量センサで検出した前記砥石の移動量とに基づいて工作物の加工状態を判定する請求項1または2に記載の超仕上げ加工方法。
【請求項4】
工作物を回転させ、その工作物の回転の接線方向に対して直角な方向に砥石を揺動させながら前記工作物に砥石を押し当てて工作物の超仕上げ加工を行ない、前記砥石を支持する砥石台に、前記工作物に押し当てられた状態の砥石にかかる力の工作物の回転の接線方向の分力Qを検出する主分力センサと、前記工作物に押し当てられた状態の砥石にかかる力の砥石の押し当て方向の分力Pを検出する背分力センサとを設け、その各センサで検出した前記各分力P,Qに基づいて前記超仕上げ加工の制御を行なう超仕上げ加工方法。
【請求項5】
前記砥石台が、ロッドを前進させて先端に支持した砥石を工作物に押し当てるエアシリンダを備えたものであり、その砥石を取り付けたエアシリンダのロッドの先端と砥石の間に前記主分力センサと前記背分力センサを配置した請求項4に記載の超仕上げ加工方法。
【請求項6】
前記各分力P,Qに基づいて行なう前記超仕上げ加工の制御は、前記主分力センサで検出した分力Qに対する前記背分力センサで検出した分力Pの比P/Qを逐次算出し、その比P/Qの大きさが予め設定された上限値よりも大きくなったときに、前記工作物の回転数に対する前記砥石の揺動数の比が大きくなるよう加工条件を変化させる制御である請求項4または5に記載の超仕上げ加工方法。
【請求項7】
前記各分力P,Qに基づいて行なう前記超仕上げ加工の制御は、前記主分力センサで検出した分力Qに対する前記背分力センサで検出した分力Pの比P/Qを逐次算出し、その比P/Qの大きさが予め設定された下限値よりも小さくなったときに、前記工作物の回転数に対する前記砥石の揺動数の比が小さくなるよう加工条件を変化させる制御である請求項4から6のいずれかに記載の超仕上げ加工方法。
【請求項8】
前記各分力P,Qに基づいて行なう前記超仕上げ加工の制御は、前記主分力センサで検出した分力Qに対する前記背分力センサで検出した分力Pの比P/Qを逐次算出し、その比P/Qの大きさが予め設定された上限値よりも大きくなったときに、前記工作物に対する砥石の押し付け力を大きくするよう加工条件を変化させる制御である請求項4から7のいずれかに記載の超仕上げ加工方法。
【請求項9】
前記各分力P,Qに基づいて行なう前記超仕上げ加工の制御は、前記主分力センサで検出した分力Qに対する前記背分力センサで検出した分力Pの比P/Qを逐次算出し、その比P/Qの大きさが予め設定された下限値よりも小さくなったときに、前記工作物に対する砥石の押し付け力を小さくするよう加工条件を変化させる制御である請求項4から8のいずれかに記載の超仕上げ加工方法。
【請求項10】
前記各分力P,Qに基づいて行なう前記超仕上げ加工の制御は、前記主分力センサで検出した分力Qに対する前記背分力センサで検出した分力Pの比P/Qを逐次算出し、その比P/Qの大きさが予め設定された異常検出しきい値よりも大きくなったときに、前記砥石に極度の目詰まりが発生したと判定する制御である請求項4から9のいずれかに記載の超仕上げ加工方法。
【請求項11】
砥石で加工することによる前記工作物の寸法減少量を検出するインプロセスゲージと、前記工作物の寸法減少と砥石の損耗とによる前記砥石の押し当て方向の移動量を検出する移動量センサとを設け、前記インプロセスゲージで検出した前記工作物の寸法減少量と、前記移動量センサで検出した前記砥石の移動量とに基づいて、前記工作物の寸法減少量に対する前記砥石の損耗量の比である超仕上げ比を算出する請求項4から10のいずれかに記載の超仕上げ加工方法。
【請求項12】
前記砥石を支持する砥石台に、前記工作物に押し当てられた状態の砥石にかかる力の砥石の揺動方向の分力Rを検出する揺動荷重センサを更に設け、その揺動荷重センサで検出した分力Rの振幅の大きさに基づいて前記超仕上げ加工の制御を行なう請求項4から11のいずれかに記載の超仕上げ加工方法。
【請求項13】
前記分力Rの振幅の大きさに基づいて行なう前記超仕上げ加工の制御は、前記揺動荷重センサで検出した分力Rの振幅の大きさが、予め設定された下限幅よりも小さくなったときに、前記工作物の回転数に対する前記砥石の揺動数の比が大きくなるよう加工条件を変化させる制御である請求項12に記載の超仕上げ加工方法。
【請求項14】
前記分力Rの振幅の大きさに基づいて行なう前記超仕上げ加工の制御は、前記揺動荷重センサで検出した分力Rの振幅の大きさが、予め設定された上限幅よりも大きくなったときに、前記工作物の回転数に対する前記砥石の揺動数の比が小さくなるよう加工条件を変化させる制御である請求項12または13に記載の超仕上げ加工方法。
【請求項15】
前記分力Rの振幅の大きさに基づいて行なう前記超仕上げ加工の制御は、前記揺動荷重センサで検出した分力Rの振幅の大きさが、予め設定された下限幅よりも小さくなったときに、前記工作物に対する砥石の押し付け力を大きくするよう加工条件を変化させる制御である請求項12から14のいずれかに記載の超仕上げ加工方法。
【請求項16】
前記分力Rの振幅の大きさに基づいて行なう前記超仕上げ加工の制御は、前記揺動荷重センサで検出した分力Rの振幅の大きさが、予め設定された上限幅よりも大きくなったときに、前記工作物に対する砥石の押し付け力を小さくするよう加工条件を変化させる制御である請求項12から15のいずれかに記載の超仕上げ加工方法。
【請求項17】
前記工作物と砥石の間に供給するクーラントとして水溶性クーラントを用いた請求項1から16のいずれかに記載の超仕上げ加工方法。
【請求項18】
前記工作物が、軸受の内輪、外輪、転動体のいずれかである請求項1から17のいずれかに記載の超仕上げ加工方法。
【請求項19】
工作物を回転させ、その工作物の回転の接線方向に対して直角な方向に砥石を揺動させながら前記工作物に砥石を押し当てて工作物の超仕上げ加工を行なう超仕上げ盤と、
前記砥石を支持する砥石台に取り付けられ、前記工作物に押し当てられた状態の砥石にかかる力の工作物の回転の接線方向の分力Qを検出する主分力センサと、
前記砥石を支持する砥石台に取り付けられ、前記工作物に押し当てられた状態の砥石にかかる力の砥石の押し当て方向の分力Pを検出する背分力センサと、
その各センサで検出した前記各分力P,Qに基づいて前記超仕上げ加工の制御を行なう制御装置を有する超仕上げ加工装置。
【請求項20】
前記砥石台が、ロッドを前進させて先端に支持した砥石を工作物に押し当てるエアシリンダを備えたものとし、その砥石を取り付けたエアシリンダのロッドの先端と砥石の間に主分力センサと背分力センサを設け、その各センサで検出した各分力P、Qに基づいて前記超仕上げ加工の制御を行なう制御装置を有する請求項19に記載の超仕上げ加工装置。
【請求項21】
前記制御装置は、前記主分力センサで検出した分力Qに対する前記背分力センサで検出した分力Pの比P/Qを逐次算出し、その比P/Qの大きさが予め設定された上限値よりも大きくなったときに、前記工作物の回転数に対する前記砥石の揺動数の比が大きくなるよう加工条件を変化させる制御を行なう請求項19または20に記載の超仕上げ加工装置。
【請求項22】
前記制御装置は、前記主分力センサで検出した分力Qに対する前記背分力センサで検出した分力Pの比P/Qを逐次算出し、その比P/Qの大きさが予め設定された下限値よりも小さくなったときに、前記工作物の回転数に対する前記砥石の揺動数の比が小さくなるよう加工条件を変化させる制御を行なう請求項19から21のいずれかに記載の超仕上げ加工装置。
【請求項23】
前記制御装置は、前記主分力センサで検出した分力Qに対する前記背分力センサで検出した分力Pの比P/Qを逐次算出し、その比P/Qの大きさが予め設定された上限値よりも大きくなったときに、前記工作物に対する砥石の押し付け力を大きくするよう加工条件を変化させる制御を行なう請求項19から22のいずれかに記載の超仕上げ加工装置。
【請求項24】
前記制御装置は、前記主分力センサで検出した分力Qに対する前記背分力センサで検出した分力Pの比P/Qを逐次算出し、その比P/Qの大きさが予め設定された下限値よりも小さくなったときに、前記工作物に対する砥石の押し付け力を小さくするよう加工条件を変化させる制御を行なう請求項19から23のいずれかに記載の超仕上げ加工装置。
【請求項25】
砥石で加工することによる前記工作物の寸法減少量を検出するインプロセスゲージと、
前記工作物の寸法減少と砥石の損耗とによる前記砥石の押し当て方向の移動量を検出する移動量センサとを更に有し、
前記制御装置は、前記インプロセスゲージで検出した前記工作物の寸法減少量と、前記移動量センサで検出した前記砥石の移動量とに基づいて、前記工作物の寸法減少量に対する前記砥石の損耗量の比である超仕上げ比を算出する請求項19から24のいずれかに記載の超仕上げ加工装置。
【請求項26】
前記砥石を支持する砥石台に、前記工作物に押し当てられた状態の砥石にかかる力の砥石の揺動方向の分力Rを検出する揺動荷重センサを更に有し、
前記制御装置は、前記揺動荷重センサで検出した分力Rの振幅の大きさに基づいて前記超仕上げ加工の制御を行なう請求項19から25のいずれかに記載の超仕上げ加工装置。
【請求項27】
前記工作物と砥石の間に水溶性クーラントを供給する吐出ノズルを有する請求項19から26のいずれかに記載の超仕上げ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−31915(P2013−31915A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−145139(P2012−145139)
【出願日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】