説明

酸化亜鉛焼結体の製造方法

【課題】局所的なそりあがりが軽減または解消された、酸化亜鉛を含有する焼結体を製造する方法を提供する。
【解決手段】セッター3に載置されている成形体2と、左右それぞれのヒーター1との間に、アルミナ、マグネシアまたはジルコニア質等からなる遮蔽物4が設置される。成形体2と遮蔽物4との間隔dは10[mm]以上に調節されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池等において採用されている透明電極膜をスパッタリング法で形成するためのターゲット等の焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低コストで高い透明性、導電性および化学的安定性を有する酸化亜鉛透明導電膜が注目されている。酸化亜鉛系の透明導電膜の形成方法としては、緻密で膜質の良い膜が得られやすい、スパッタリング法が最も適しており、ターゲットに用いられる酸化亜鉛焼結体が種々検討されている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−266074号公報
【特許文献2】特開2004−091249号公報
【特許文献3】特開平11−060339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、酸化亜鉛を含有する原料粉末の成形体がセッターに載置されている状態で炉の側面に配置されているヒーターによって加熱された場合、当該ヒーターに近接している箇所において、酸化亜鉛が局所的に激しく蒸発してしまう。このため、成形体の組織が均質であっても、その箇所の密度が焼結前の段階において局所的に低下するため、焼結過程で当該箇所の焼成収縮が局所的に大きくなる。その結果、成形体において当該箇所が反りあがってしまう。
【0005】
また、当該箇所は局所的に焼結が進行するため、局所的に粒子が粗大化して組織が異質なものになる。同時に、酸化亜鉛の蒸発による抜けが激しいため、添加物が加えられている場合、その箇所で局所的に組成が異なる焼結体が得られる。
【0006】
そこで、本発明は、局所的な反りあがりが軽減または解消された、酸化亜鉛を含有する焼結体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための本発明の方法は、酸化亜鉛を含有する原料粉末の成形体を焼成することにより焼結体を製造する方法であって、前記成形体と、焼結炉のヒーターとの間に遮蔽物が配置されている状態で前記成形体を焼成することを特徴とする。
【0008】
前記ヒーターの配置態様が面の配置態様として定義される場合、当該面の法線のうち前記成形体と交差するすべての法線が、当該面と前記成形体との中間において前記遮蔽物にも交差するように、前記遮蔽物を配置することが好ましい。
【0009】
前記成形体と前記遮蔽物との間隔が10[mm]以上に調節されていることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】炉内における成形体および遮蔽物の配置態様に関する説明図。
【図2】炉内における成形体および遮蔽物の配置態様に関する説明図。
【図3】成形体および遮蔽物の配置態様に関する説明図。
【図4】焼結体の評価方法に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の方法によれば、まず、酸化亜鉛のほかに添加物が含有されている原料粉末が調整される。また、この原料粉末が成形されることにより成形体が得られ、この成形体がセッターに載置される。さらに、成形体と炉のヒーターとの間に遮蔽物が配置された上で、この成形体が脱脂かつ焼成される。これにより、焼結体が製造される。この焼結体はたとえばスパッタリングターゲットとして利用される。
【0012】
(原料粉末の調整)
酸化亜鉛(ZnO)のほか、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ホウ素(B)、珪素(Si)、インジウム(In)から選ばれる一種以上の元素が含有されている原料粉末の成形体が焼成されることにより焼結体が製造される。
【0013】
酸化亜鉛(ZnO)粉末として、純度が99[%]以上、好ましくは99.8[%]以上の高純度の粉末が用いられることが好ましい。ZnO粉末として、球状粒子よりも板状粒子が用いられることが好ましい。これにより、スパッタリングによる成膜時にアーキングの発生頻度をより一層低減することができる。具体的には、板状の酸化亜鉛粉末の平均等価円直径(板状の平面部の面積と同じ面積を有する円の直径を意味する。)が0.1〜2.0[μm]、平均厚さは0.01〜0.2[μm]のものが用いられてもよい。原料粉末の大きさは、SEM観察写真が用いられることにより求められる。
【0014】
アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)またはホウ素(B)は酸化物、当該酸化物を生成する炭化物または窒化物等の種々の形でZnOに添加されることが好ましい。添加物粉末として、その純度が99[%]以上、好ましくは99.9[%]以上の高純度の粉末が用いられることが好ましい。粉末形状は特には規定されないが、板状よりも球状粒子の方が好ましく、その一次粒子の平均粒径はZnOの平均等価円直径よりも小さいことが好ましい。これらの粉末の平均粒径は2.0[μm]以下、好ましくは0.01〜2.0[μm]の範囲内であることが好ましい。
【0015】
ZnOに対する添加物の量が調整されることにより、スパッタリングターゲットとして適当な性能を有する焼結体が得られる。
【0016】
たとえば、ZnOのほかにAlが原料粉末に含有されている場合、当該成形体の焼成に際してZnOの粒界および粒子内に存在するAlが、ZnOとAlとの反応により生成される亜鉛スピネル(ZnAl)を構成する。ZnOの粒界および粒子内に存在するZnAlの生成結果によっては、スパッタリングによる成膜に際して、焼結体にその強度不足による割れおよびアーキングが発生し、形成された膜の導電性が低くなる。このような不都合を回避するため、原料粉末におけるAlの含有量が酸化アルミニウム(Al)換算で0.5〜3.5質量%の範囲に調節されることが好ましい。
【0017】
また、ZnOのほかにGaが成形体に含有されている場合、当該成形体の焼成に際して通常はZnとGaとの複合酸化物が生成することにより、焼結体に気孔が生じる。気孔の存在のため、この焼結体がターゲットとして用いられる、スパッタリングによる成膜に際して、アーキングが起き易くなる。このような不都合を回避するため、焼結体におけるGaの含有量が酸化ガリウム換算で0.03〜5質量%の範囲に調節されることが好ましい。
【0018】
さらに、焼結体におけるBの含有量が過少である場合、Znサイトに置換固溶するドーパントのBの量が過少になり、スパッタリングにより導電性の高い膜が形成され難くなる。その一方、焼結体におけるBの含有量が過多である場合、固溶限界を超えた過剰のBが焼結体の粒界に多量に残留することで焼結が阻害され、焼結体の緻密化が不十分となる。このような不都合を回避するため、原料粉末におけるBの含有量がB換算で0.5〜4質量%の範囲に調節されることが好ましい。
【0019】
なお、Znを含む複合酸化物の焼結体が製造されてもよい。たとえばZn−X−OまたはZn−X−Al−O(「X」はIn、GaおよびSnの中から選択される1種類以上の元素を意味する。)
【0020】
(原料粉末の成形)
原料粉末の成形方法としてはCIPまたは鋳込み等が採用されうる。成形体は、必要に応じて所望の形状に生加工される。
【0021】
成形方法としてCIPが採用される場合、上記添加物が含有されているZnO粉末に対して溶媒(水またはアルコールなど)、バインダー(ポリビニルアルコールまたはアクリルエマルジョンなど)および分散剤(ポリカルボン酸系等の材料)が添加されることによりスラリーが得られる。このスラリーが攪拌混合またはボール混合などによって混合された上で、スプレードライヤーで乾燥されることにより顆粒化される。当該顆粒がCIPにより成形されることにより成形体が得られる。
【0022】
鋳込み成形を用いる場合は、CIP成形と同様にスラリーが混合され、吸水性材料を有する型に流し込まれることにより、成形体が得られる。
【0023】
(成形体の設置)
成形体は、敷き粉が敷かれたセッター上に設置される。敷き粉としては、酸化亜鉛粉末や成形体と同一組成の粉末が用いられる。セッターの材質は特に限定されず、たとえば、アルミナ、マグネシアまたはジルコニア質のセッターが用いられてもよい。
【0024】
成形体は、セッター上に直接配置されてもよい。この場合、成形体と反応しにくい材質からなるセッターが用いられる必要がある。このため、たとえば酸化亜鉛と反応し難いマグネシアまたはジルコニア質のセッターが用いられることが望ましい。
【0025】
SiOが飛散し、成形体に付着することを回避する観点から、SiO成分が20[質量%]以下のセッターが用いられることが好ましい。
【0026】
(遮蔽物の配置)
成形体の焼成に用いられる炉は、図1に示されているように正面から見て左右それぞれにお互いに対向して配置されている一対のヒーター1を備えている。
【0027】
セッター3に載置されている成形体2と、左右それぞれのヒーター1との間に、アルミナ、マグネシアまたはジルコニア質等からなる遮蔽物4が設置される。図2(a)〜(c)のそれぞれには、成形体2および遮蔽物4を上方から見た際の異なる配置態様が例示されている。成形体2と遮蔽物4との間隔dは10[mm]以上に調節されることが好ましい。当該間隔dが10[mm]以下だと、成形体2において遮蔽物4に近接する部分が過焼成されてしまい、焼結体2’の反りが大きくなるばかりか、その部分の粒成長が進むからである。
【0028】
遮蔽物4として、アルミナ、マグネシアまたはジルコニア質でSiO成分が20[質量%]以下の材質からなり、気孔率が30[%]以下、特に5〜30[%]の範囲にある物体が用いられることが好ましい。気孔の存在によって遮蔽物4の表面積が大きくなり、輻射による加熱効率が高まるからである。さらに、このような遮蔽物4とセッター3で成形体2をほぼ覆う場合には、気孔があることで断熱効果が高まり、成形体2の周囲に均熱性がある空間(均熱空間)を形成しやすくなる。結果として、組織が均一で、反りが小さい焼結体2’を得ることができる。
【0029】
炉の内部空間に均熱空間を形成する観点から、上記気孔率に加え、5[mm]以上かつ40[mm]以下の厚さを有する遮蔽物4が用いられることが好ましい。これは、遮蔽物4の厚さが5[mm]未満である場合、当該遮蔽物4による断熱効果が過小になるとともに、当該遮蔽物4から放射される熱量が小さくなるからである。また、遮蔽物4の厚さが40[mm]を超えている場合、当該遮蔽物4による断熱効果が過大になり、均熱空間の形成が困難になるからである。
【0030】
SiOが飛散し、成形体2に付着してしまうことを回避する観点から、SiO成分が20[質量%]以下の遮蔽物4が用いられることが好ましい。
【0031】
図3(a)に示されているようにセッター3および遮蔽物4によって、成形体2が存在する空間が密閉される必要はない。炉内の左右両側に加えて上側にもヒーターが設置されている場合、図3(b)に示されているように成形体2の四方に配置された複数の遮蔽物4によって支持され、この成形体2の上方を覆うまたは塞ぐ天板または蓋としての遮蔽物4’が設けられてもよい。天板と成形体2との間隔も10[mm]以上に調節される。
【0032】
炉内で脱脂と焼成とが連続的に実行される場合、脱脂時にガスが抜けるように、図3(b)に示されているように成形体2の横に配置されている遮蔽物4のそれぞれにスリット40が設けられる。スリット40が遮蔽物4において成形体2の上面よりも高い位置に設けられることが好ましい。また、成形体2が存在する空間が密閉される場合には成形体2の上方にある遮蔽物4’に設けられることが好ましい。
【0033】
ヒーターの配置態様が、曲率が一定である平面または曲面等の面の配置態様として定義されうる場合、当該ヒーターによって成形体が局所的に過度に加熱されることを防止する観点から、遮蔽物が次のように配置されればよい。すなわち、遮蔽物が、当該面の法線のうち成形体と交差するすべての法線が、当該面と成形体との中間において当該遮蔽物にも交差するようにその配置およびサイズまたは形状が調節されればよい。
【0034】
たとえば、図1に示されているように、ヒーター1の配置態様が一対の平面が成形体2の左右に平行に配置されていると定義されうる場合について考える。この場合、各平面の法線のうち成形体2と交差するすべての法線が、当該各平面と成形体2との中間において遮蔽物4にも交差するように、一対の遮蔽物4が少なくとも成形体2の左右両側に配置され、かつ、その高さおよび幅が調節されている(図1、図2(a)〜(c)、図3(a)参照)。
【0035】
また、ヒーター1の配置態様が一対の平面が成形体2の左右に平行に配置されているほか、もう1つの平面が成形体2の上方に水平に配置されていると定義されうる場合について考える。この場合、各平面の法線のうち成形体2と交差するすべての法線が、当該各平面と成形体2との中間において遮蔽物4にも交差するように、一対の遮蔽物4が少なくとも成形体2の左右両側に配置され、かつ、その高さおよび幅が調節されていることに加えて、もう1つの遮蔽物4’が成形体2を上方から覆うように配置されている(図3(b)参照)。
【0036】
なお、各面に対して遮蔽物が1つずつ配置される必要はなく、複数の遮蔽物で1つの面の法線が遮断されてもよいし(図2(b)参照)、1つの遮蔽物で複数の面の法線が遮断されてもよい。
【0037】
(成形体の脱脂および焼成)
成形体は、脱脂かつ焼成される。脱脂、焼成は必ずしも同じ炉で行う必要はないが、同一の炉を用いて連続で実行された場合、異なる炉間の搬送作業等が省略できる。大気雰囲気、酸素雰囲気または不活性ガス雰囲気等が焼成雰囲気として採用されうる。特に焼結中に酸化亜鉛の蒸発による重量減少、組成ずれの低減のためには大気雰囲気または大気気流中(酸素が常に導入されている)が好ましい。大気焼成を行う場合、電気炉またはガス炉等のさまざまな炉のうち、温度制御の容易性の観点から電気炉が用いられることが好ましい。
【0038】
ZnO成形体の焼成温度は、添加する金属酸化物の種類によって適宜調整される。成形体の焼成温度は1250〜1600[℃]の範囲、特に1350〜1550[℃]の範囲に調節されることが好ましい。焼結温度が1600℃を超えると、酸化亜鉛の蒸発が激しくなり緻密化し難くなる。焼結温度が1250℃未満の場合、焼結それ自体があまり進まず緻密な焼結体が得られ難い。
【0039】
当該範囲の温度で焼成できる電気炉のヒーター(図1参照)として、二珪化モリブデン(MoSi)ヒーターが用いられる。焼成時間は数時間〜数十時間が好ましい。
【0040】
(実施例1)
ZnO粉末(純度99.8[%]、平均粒径0.2[μm])およびAl粉末(純度99.99[%]、平均粒径0.5[μm])が、質量比98:2で混合されることにより原料粉末が調整された。原料粉末に対してバインダーが添加された上で、当該混合粉末が、φ15[mm]、φ25[mm]の樹脂ボールとともに樹脂製ポット等の容器内で、20時間にわたり湿式混合された。当該混合により得られたスラリーが容器から取り出され、スプレードライにより顆粒が作製された。この顆粒が用いられてCIPにしたがって成形されることにより成形体が得られた。この成形体に対して生加工が施され、200×200×10[mm]の最終成形体が作製された。
【0041】
酸化亜鉛粉末が敷き粉として敷かれた、アルミナの含有量は80[%]以上であり、その気孔率は20[%]である300×300×20[mm]のセッターの上に高さ20[mm]の成形体2が設置された。図3(a)に示されているように成形体2を四方から取り囲む高さ40[mm]の遮蔽物4が配置された。遮蔽物4の材質として、セッター3の材質と同一の材質が用いられた。なお、セッター3の材質および遮蔽物4の材質は異なっていてもよい。
【0042】
また、成形体2と各遮蔽物4との間隔dが40[mm]に調節された。この状態で成形体2’に対して同一の炉内で連続的に脱脂および焼成が実行されることにより実施例1の焼結体が製造された。焼成条件は1500[℃]×15時間に設定された。図1に示されているように、ヒーター1は、成形体2の左右両側に配置されている。
【0043】
昇温速度は30[℃/h]に調節された。昇温速度が遅いほど亜鉛の揮発が優勢になり、反りやすくなる。このため、本発明では、たとえば前記特許文献1に記載されているように昇温速度が200[℃/h]と高めに設定されているような場合と比較して、大きい反りを問題視しているといえる。
【0044】
(実施例2)
図3(b)に示されているように成形体2を四方から取り囲む高さ40[mm]の4つの遮蔽物4が配置されたほか、当該4つの遮蔽物4により支持され、成形体2の上方を塞ぐ蓋のような遮蔽物4’が配置された。成形体2と蓋4’との間隔は約20[mm]である。当該4つの遮蔽物4の中央上部に5[mm]×50[mm]のスリット40が設けられている。これ以外は実施例1と同一条件下で当該成形体が脱脂かつ焼成されることにより実施例2の焼結体が製造された。
【0045】
(比較例1)
成形体と遮蔽物との間隔が5[mm]に変更された以外は、実施例1と同一条件下で当該成形体が脱脂かつ焼成されることにより比較例1の焼結体が製造された。
【0046】
(比較例2)
成形体の周囲に遮蔽物が配置されない以外は、実施例1と同一条件下で当該成形体が脱脂かつ焼成されることにより比較例2の焼結体が製造された。
【0047】
(各焼結体の評価)
焼結体の反り具合が評価された。具体的には、図4に示されているように焼結体2’においてヒーターに対向して配置されていた左右の縁と、当該縁から内側に10[mm]だけ離れた基準箇所との高低差aと、当該基準箇所と焼結体2’の中央箇所との高低差bとが測定された。高低差aおよびbは、左右方向にのびる同一直線上において測定された。
【0048】
また、焼結体2’の左右の縁と基準箇所との間にある端部領域における平均粒径cと、焼結体2’の中央箇所における平均粒径dとが測定され、平均粒径比c/dが算出された。平均粒径は、焼結体2’の測定対称箇所から切り出された試料が研磨された上で、SEM観察によってインターセプト法にしたがって求められた。
【0049】
そのほか、蛍光X分析により、焼結体2’の端部領域におけるSiの有無が確認された。
【0050】
表1にはこれらの測定結果がまとめて示されている。
【0051】
【表1】

【0052】
表1から明らかなように、実施例1および2の高低差bは、比較例1および2の高低差bよりも若干小さい程度であるものの、実施例1および2の高低差aは、比較例1および2の高低差aよりも著しく小さい。すなわち、実施例1および2は、ヒーターに対向している当該端部における反り上がり量が、比較例1および2と比較して著しく低減されていることがわかる。
【0053】
実施例2の高低差aおよびbが、実施例1の高低差aおよびbよりもさらに小さいのは、蓋4’(図3(b)参照)により、成形体2の周辺に安定した均熱空間が形成されたためと推察される。比較例1の高低差aが大きいのは、成形体2の端部と遮蔽物4との間隔dが過小であったためであると推察される。
【0054】
また、実施例1および2の平均粒径比c/dは、比較例1および2の平均粒径比c/dよりも1に近いことから、実施例1および2の焼結体は端部領域も中央領域も均等に焼成されていることがわかる。比較例1では、成形体2と遮蔽物4との間隔が過小であるために端部の粒径が相対的に大きくなり、平均粒径比c/dが1からずれている。比較例2では、成形体2の端部が直接的にヒーター1によって加熱されたため、端部領域の焼結が進みすぎて粒径がかなり大きくなり、平均粒径比c/dが1からさらに大きくずれている。
【0055】
実施例1および2においてはともに端部領域ではSiの存在は認められなかった。
【0056】
(本発明の作用効果)
成形体とヒーターとの間に遮蔽物が載置されることにより、成形体のうちヒーターに接近している箇所(縁部)が偏重的に加熱される事態が回避される。これにより、反りが少ない焼結体が製造され、さらには焼結体の反りを低減させるための加工時間が短縮され、製造コストが低減されうる。
【0057】
成形体の脱脂および焼成に際して、酸化珪素(SiO)の膜により覆われているヒーター(たとえば、二珪化モリブデン(MoSi)が用いられているヒーター)が使用される場合、当該酸化珪素(SiO)の膜が剥離して、そのうちの少なくとも一部が当該成形体に向かって飛ぶ。ZnOがSiと反応すると、ターゲットにとっては好ましくない不純物が生成される。また、原料粉末の成形体にSiが含有されている場合、焼結体における組成が所望の組成から乖離してしまう。その結果、焼結体の厚さにムラが生じ、スパッタリングによる成膜中にアーキングが多発したり、スパッタリングにより形成された膜に抵抗にムラが発生したりするという問題が生じる。
【0058】
しかるに、成形体とヒーターとの間に配置されている遮蔽物により、酸化珪素が成形体に接触する可能性が著しく低減される。これにより、焼結体の厚さが均等になり、当該焼結体がターゲットとして用いられた場合、スパッタリングによる成膜中にアーキングが発生しにくくなる。また、スパッタリングにより形成された膜に抵抗のムラが発生しにくくなる。
【符号の説明】
【0059】
1‥ヒーター、2‥成形体、2’‥焼結体、3‥セッター、4,4’‥遮蔽物。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛を含有する原料粉末の成形体を焼成することにより焼結体を製造する方法であって、前記成形体と、焼結炉のヒーターとの間に遮蔽物が配置されている状態で前記成形体を焼成することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記ヒーターの配置態様が面の配置態様として定義される場合、当該面の法線のうち前記成形体と交差するすべての法線が、当該面と前記成形体との中間において前記遮蔽物にも交差するように、前記遮蔽物を配置することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の方法において、前記成形体と前記遮蔽物との間隔が10[mm]以上に調節されていることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−153592(P2012−153592A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16621(P2011−16621)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】