説明

電動パワーステアリング装置

【課題】テアリングホイールの中立位置近傍における路面からの外乱に対して、ヨー応答性を抑制するとともに、運転者のステアリング操作時のヨー応答性は良好なものとする電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】テアリングホイールから転舵輪に至る操舵力伝達経路に磁歪式トルクセンサを配置し、磁歪式トルクセンサで検出した操舵トルクに応じてステアリングアクチュエータを駆動して運転者のステアリング操作をアシストする電動パワーステアリング装置において、ステアリングホイール及び転舵輪間に配置されるステアリングギヤボックスを、磁歪式トルクセンサよりもバネ定数が小さいゴムブッシュ42を介して車体に支持する。ゴムブッシュ42は、その外周部のラック軸方向の周方向領域に一対のすぐり部42a,42aを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングホイールから転舵輪に至る操舵力伝達経路に磁歪式トルクセンサを配置し、前記磁歪式トルクセンサで検出した操舵トルクに応じてステアリングアクチュエータを駆動して運転者のステアリング操作をアシストする電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ステアリングホイールに入力される操舵力を磁歪式トルクセンサで検出し、検出した操舵トルクに基づいて電動パワーステアリング装置のモータに発生させる目標トルクを算出する技術が開示されている。磁歪式トルクセンサは、ピニオン軸の外周に磁気異方性を有するように形成された磁歪膜と、磁歪膜の外周を囲む検出コイルとを備え、ピニオン軸の捩じれ歪に応じて変化する磁歪膜の透磁率の変化を前記検出コイルのインダクタンスの変化として検出することで、ピニオン軸の操舵トルクを検出するようになっている。
【0003】
また、特許文献2には、入力軸及び出力軸をトーションバーで連結し、操舵力によりトーションバーが捩じれることで発生する入力軸及び出力軸の相対回転を、可動部材を軸方向の変位に変換し、可動部材に設けたコアの位置を検出コイルで検出することで操舵トルクを検出するトーションバー式の操舵トルクセンサの技術が記載されている。
【0004】
ところで、ステアリングホイールと転舵輪とを接続する操舵力伝達経路の捩じれ剛性が高いと、運転者やステアリングアクチュエータから入力される操舵力がダイレクトに転舵輪である車輪に伝達されるために車両のヨー応答性が高くなる傾向がある。逆に操舵力伝達経路の捩じれ剛性が低いと、ヨー応答性が低くなる傾向がある。しかしながら、トーションバー式の操舵トルクセンサを採用すると、操舵力伝達経路のうちでトーションバーの捩じれ剛性が最も低くなるため、トーションバーの捩じれによって車両のヨー応答性の上限値が制限されてしまい、ヨー応答性を高く設定できなくなり、運転者に良好な車両運動の運転フィーリング与えないという問題がある。
【0005】
それに対して、トーションバーのようなばね定数の小さい部材を持たない磁歪式トルクセンサを採用すると、操舵力伝達経路の捩じれ剛性が高くなり、車両のヨー応答性が高い値に固定されてしまい、運転者に良好な車両運動の運転フィーリング与えないという問題がある。
そこで、その改良技術として、特許文献3には、ステアリングホイールから転舵輪に至る操舵力伝達経路に磁歪式トルクセンサを配置し、その磁歪式トルクセンサで検出した操舵トルクに応じてステアリングアクチュエータを駆動して運転者のステアリング操作をアシストする電動パワーステアリング装置において、ステアリングホイール及び転舵輪間に配置されるステアリングギヤボックスを、弾性体を介して車体に支持する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−7931号公報
【特許文献2】特開2006−232214号公報
【特許文献3】特開2008−168798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3に記載された技術では、ステアリングギヤボックスを、弾性体を介して車体に支持する構造において、弾性体のラック軸方向の車体との相対移動量に対して、相対移動量が増加すると、弾性体の反発力もそれに応じて弾性体の有する撓み量―荷重特性曲線に応じたものとなる。その結果、例えば、ステアリングホイールが中立位置にある場合でも、転舵輪が路面から、例えば、キックバック等の外乱を受け、ラック軸方向の衝撃を受けたとき、弾性体では十分にラック軸方向のその衝撃を吸収できず、磁歪式トルクセンサから操舵トルクの変動を示す信号を発生させ、それに応じてステアリングアクチュエータが駆動され、車両のヨー運動を生じさせる可能性がある。
【0008】
本発明は、前記した従来の課題を解決するものであり、ステアリングホイールの中立位置近傍における路面からの外乱に対して、ヨー応答性を抑制するとともに、運転者のステアリング操作時のヨー応答性は良好なものとする電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、ステアリングホイールから転舵輪に至る操舵力伝達経路に磁歪式トルクセンサを配置し、磁歪式トルクセンサで検出した操舵トルクに応じてステアリングアクチュエータを駆動して運転者のステアリング操作をアシストする電動パワーステアリング装置において、ステアリングホイール及び転舵輪間に配置されるステアリングギヤボックスを、磁歪式トルクセンサよりもバネ定数が小さい弾性体を介して車体に支持する車体支持部を備え、弾性体は、ステアリングギヤボックスが車体に対して相対移動した相対移動量に応じて相対移動の方向に対して反対方向の荷重を発生し、相対移動量に対する荷重の増加量の傾きは、相対移動量が予め設定された所定値以下のときよりも、相対移動量が予め設定された所定値以上のときの方が大きいことを特徴とする。
【0010】
請求項1に係る発明によれば、運転者のステアリング操作により、ステアリングギヤボックスの車体に対する相対移動量が予め設定された所定値以下のときは、前記相対移動量に対する荷重の増加量の傾きが小さい。つまり、ステアリングホイールを中立位置から左右に所定角以下では、外力に対する前記相対移動量の増加は大きく、磁歪式トルクセンサの検出する操舵トルクが小さく抑制されるので、操舵補助力が発生しにくい。言い換えると、ステアリングホイールの中立位置近傍では、電動パワーステアリング装置のヨー応答性が抑制され、路面からのキックバック等の外乱に対して、電動パワーステアリング装置が過剰に応答することが抑制され、乗員の乗り心地を良くする。
これに対し、ステアリングギヤボックスの車体に対する相対移動量が予め設定された所定値以上のときは、前記相対移動量に対する荷重の増加量の傾きが大きい。つまり、ステアリング操作量が所定角以上では、更なる相対移動量の増加は小さく、磁歪式トルクセンサの検出する操舵トルクが大きくなるので、操舵補助力が発生しやすくなる。つまり、電動パワーステアリング装置のヨー応答性が高まり、意図した車両の旋回運動がすばやくできる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明の構成に加え、更に、車体支持部は、外筒と、外筒の径方向内方側に配置された内筒と、外筒と内筒との間に弾性体とを含むゴムブッシュジョイントを有し、外筒は、ステアリングギヤボックスに設けられた穴に嵌合され、内筒はボルトにて車体に支持される構造であって、弾性体は、その外周部分の少なくとも一部において外筒との間の所定の間隙を有することを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、ゴムブッシュジョイントの外筒は、ステアリングギヤボックスに設けられた穴に嵌合され、内筒はボルトにて車体に支持される構造であって、弾性体は、その外周部分の少なくとも一部において外筒との間に所定の間隙を有しているので、外筒との間の前記所定の間隙方向の間隙分の弾性体の撓みに対しては、弾性体に生じるバネ定数が比較的小さく設定でき、間隙が無くなって外筒と弾性体の外周部が当接後は比較的大きなバネ定数に設定することができる。
【0013】
従って、前記所定の間隙は、ステアリングギヤボックスが車体に対して相対移動する方向の周方向領域に設けられていることが好ましく、具体的には、ラック軸方向の左右両側に前記所定の間隙を設けることが好ましい。
【0014】
請求項4に係る発明は、車体支持部は、外筒と、外筒の径方向内方側に配置された内筒と、外筒と内筒との間に弾性体とを含むゴムブッシュジョイントを有し、外筒は、ステアリングギヤボックスに設けられた穴に嵌合され、内筒はボルトにて車体に支持される構造であって、弾性体は、略環状形状をしており、その周方向部分のうちのステアリングギヤボックスが車体に対して相対移動する方向領域において所定の間隙を有する空間部が設けられていることを特徴とする。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、ゴムブッシュジョイントの外筒は、ステアリングギヤボックスに設けられた穴に嵌合され、内筒はボルトにて車体に支持される構造であって、弾性体は、略環状形状をしており、その周方向部分のうちのステアリングギヤボックスが車体に対して相対移動する方向領域において所定の間隙を有する空間部を設けられている外筒との間の所定の間隙方向の間隙分の弾性体の撓みに対しては、弾性体に生じるバネ定数が比較的小さく設定でき、弾性体が撓み間隙が無くなった後は比較的大きなバネ定数に設定することができる。
従って、前記所定の間隙は、ステアリングギヤボックスが車体に対して相対移動する方向に設けられていることが好ましく、具体的には、ラック軸方向の左右両側に前記所定の間隙を設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ステアリングホイールの中立位置近傍における路面からの外乱に対して、ヨー応答性を抑制するとともに、運転者のステアリング操作時のヨー応答性は良好なものとする電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係る電動パワーステアリング装置の全体構造図である。
【図2】図1におけるA−A矢視拡大断面図である。
【図3】図1におけるゴムブッシュのB−B矢視断面図であり、(a)は、ゴムブッシュのB−B矢視断面形状の第1実施例、(b)は、ゴムブッシュのB−B矢視断面形状の第2実施例である。
【図4】ゴムブッシュのラック軸方向の撓み(もしくは、ステアリングギヤボックスと車体との相対移動量)に対するバネ特性の説明図である。
【図5】図1における磁歪式トルクセンサ部分のC部拡大図である。
【図6】操舵トルクに対するトルク検出信号の変化特性を示す説明図である。
【図7】図1におけるゴムブッシュのB−B矢視断面形状の第3実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置について図を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
図1から図7を参照して本実施形態における電動パワーステアリング装置について説明する。図1は、実施形態に係る電動パワーステアリング装置の全体構造図である。
【0020】
《電動パワーステアリング装置の全体構造》
図1に示すように、電動パワーステアリング装置は、ステアリングホイール11と一体に回転する上部ステアリング軸12と、上部ステアリング軸12に上部自在継ぎ手13を介して接続された下部ステアリング軸14と、下部ステアリング軸14に下部自在継ぎ手15を介して接続されたラックアンドピニオン式のステアリングギヤボックス16と、上部ステアリング軸12に設けられたステアリングアクチュエータ17と、を備える。
【0021】
ステアリングギヤボックス16は、ラック歯18が形成されたラック軸19と、このラック歯18に噛合するピニオンギヤ20を有して前記下部自在継ぎ手15に接続されるピニオン軸21と、ラック軸19を左右方向に摺動自在に支持するとともに、ピニオンギヤ20を上下方向に挟む位置でピニオン軸21を一対の軸受け22,23を介して支持するハウジング24と、を備える。
ラック軸19の左右両端は、左右のボールジョイント25,25及び左右のタイロッド26,26を介して左右の前輪である転舵輪W,Wに接続される。
ちなみに、図1において紙面左側の転舵輪Wが、右前輪を示し、図1において紙面右側の転舵輪Wが、左前輪を示す。
そして、ステアリングホイール11、上部ステアリング軸12、上部自在継ぎ手13、下部ステアリング軸14、下部自在継ぎ手15、ピニオン軸21、ピニオンギヤ20、ラック歯18、ラック軸19、左右のボールジョイント25,25、左右のタイロッド26,26、転舵輪W,Wが、特許請求の範囲に記載の「ステアリングホイールから転舵輪に至る操舵力伝達経路」に対応し、以下では、「転舵系」とも称する。
【0022】
《ステアリングギヤボックスの支持構造》
次に、図1、図2、図3を参照しながらステアリングギヤボックス16の支持構造について説明する。
図2は、図1におけるA−A矢視拡大断面図である。図3は、図1におけるゴムブッシュのB−B矢視断面図であり、(a)は、ゴムブッシュのB−B矢視断面形状の第1実施例、(b)は、ゴムブッシュのB−B矢視断面形状の第2実施例である。
図1に示すようにステアリングギヤボックス16は、少なくとも2つ、ラック軸方向に所定の距離を持ってハウジング24から外方側に延出されたゴムブッシュジョイント・アーム71を有している。そして、ゴムブッシュジョイント・アーム71に固定された弾性体であるゴムブッシュ42を介して車体39(図2参照)の取り付け部材39aに(図2参照)支持されている。即ち、図1に示すようにステアリングギヤボックス16のハウジング24が、2個のゴムブッシュジョイント38を介して車体39に弾性支持されている。
【0023】
図2に示すように各ゴムブッシュジョイント38は、外筒40、内筒41及びゴムブッシュ42で構成されている。外筒40が、ハウジング24のゴムブッシュジョイント・アーム71に設けられた取付け孔(ステアリングギヤボックスに設けられた穴)71aに圧入され、外筒40と取付け孔71aとは相対的に周方向に回転不能に嵌合されている。内筒41は、車体39の例えば、上下2枚の取り付け部材39aにボルト43で固定される。そして、ゴムブッシュジョイント38,38のばね定数は、磁歪式トルクセンサ34(図1参照)のばね定数よりも小さく設定されている。
ちなみに、取付け孔71aの内周面には周方向に離散的な凹凸を設け、外筒40が圧入されるときに、外筒40の外周面がその凹凸により歪み、ゴムブッシュジョイント38を取付け孔71aに取る付け後は、取付け孔71aと外筒40とが周方向に相対的に回らないように固着性を高めても良い。
【0024】
図4は、ゴムブッシュのラック軸方向の撓み(もしくは、ステアリングギヤボックスと車体との相対移動量)に対するバネ特性の説明図である。横軸はゴムブッシュ42のラック軸方向の撓み量δを示し、縦軸は撓み量δを発生させるのに要するラック軸方向の荷重Fを示す。ラック軸方向の撓みに対するバネ特性曲線Xは、撓み量δが0〜E1までは、その傾きはXAであり、撓み量δがE1以上ではその傾きはXBであり、図4に示すようにその傾きはXA<XBである。撓み量δがE1となるラック軸方向の荷重はF1である。
撓み量δが0〜E1までをここでは便宜的に「せん断領域R1」と称し、撓み量δがE1以上を「圧縮領域R2」と称する。
【0025】
ゴムブッシュ42は、図3の(a)、(b)に示すゴムブッシュ42の第1実施例、第2実施例に示すように略環状体をしているが、その外周部のラック軸方向に対向している周方向領域部分に一対のすぐり部(間隙、空間部)42a,42aを有している。すぐり部42aは、所定の幅E1の間隙を有し、その部分のラック軸方向のゴムブッシュ42の内筒41の外周面までの厚みはE2である。
ちなみに、ゴムブッシュ42は、外筒40の内周面に加硫接着されているとともに、内筒41の外周面にも加硫接着され、外筒40及び内筒41の双方に対して相対的に周方向に回転しないようになっている。
【0026】
特に、図3の(b)に示すゴムブッシュ42の第2実施例では、すぐり部42aの周方向両側に周面の窪み部42a,42aを設け、ゴムブッシュ42がラック軸方向の押圧力又は引張り力を受けてラック軸方向に撓んだときに、外筒40とゴムブッシュ42の接着端部42a,42aに、集中応力が掛からない形状としている。このような窪み部42a,42aを設けることにより、ゴムブッシュ42の外筒40との固定に対する耐久性が向上する。
【0027】
このようにゴムブッシュ42のラック軸方向の外周領域の2箇所にすぐり部42a,42aを設けることにより、ゴムブッシュ42の第1実施例、第2実施例のいずれにおいても、ステアリングホイール11(図1参照)が略中立状態の位置にありほぼ直進状態の操舵状態にあるときに、例えば、右の転舵輪W(図1の紙面上で左の転舵輪)が路面から左方向に押される外乱(図1の紙面上で右方向の力)を受けるとする。そうすると右前輪側のタイロッド26、ボールジョイント25を介してラック軸19が図1の紙面上で右に押され、その際ピニオンギヤ20は運転者により略直進操舵状態に固定されているので、ラック軸19への左方向(図1の紙面上右方向)の押圧はピニオンギヤ20の回転力に変換されるとともに、軸受け22,23を介してステアリングギヤボックス16のハウジング24の左方向(図1の紙面上右方向)への押圧も発生する。
【0028】
ハウジング24の左方向(図1の紙面上右方向)への押圧は、ゴムブッシュジョイント・アーム71に伝えられ、外筒40が内筒41に対し矢印(図3参照)で示したラック軸方向の右側方向の相対移動を生じさせる。ゴムブッシュ42の左側の領域42c(図3参照)の左側のすぐり部42aに面した外周面が、図1の紙面上で外筒40の左側の内周面に当接するまでは、つまり、所定の幅E1の間隙分だけ撓むまでは、ゴムブッシュ42の領域42b,42bのせん断応力に対するばね定数で決まる特性でゴムブッシュ42が撓み、図4に示す撓み量δのせん断領域R1に示すように撓み量δに対する荷重Fの傾きXAは比較的小さくなる。つまり、ハウジング24が図1の紙面上右方向に移動しやすいので、その分ラック歯18がピニオン軸21を回転させる量や力が減殺され、磁歪式トルクセンサ34の検出する操舵トルクが抑制される。
【0029】
その結果、磁歪式トルクセンサ34を用いた電動パワーステアリング装置における車両の直進走行状態での転舵輪Wの路面からのキックバックによる操舵トルクの発生による乗員にとって乗り心地の悪いヨー応答性の過度応答を抑制できる。
また、図4に示されるようにステアリングホイール11の中立付近では、ゴムブッシュ42のラック軸方向の撓み量δと加重Fの特性は、せん断領域R1にある。従って、ゴムブッシュ42への荷重Fの変化に対する撓み量δが大きくなるため、ステアリングホイール11の中立付近の運転状態において運転者によるステアリングホイール11への多少の入力があっても、それによりラック軸方向に発生する荷重がゴムブッシュ42に吸収されるので、過敏に転舵輪W,Wが転舵されない。つまり、直進時の安定性も確保できる。
【0030】
以上、ラック軸19への左方向(図1の紙面上右方向)への外乱を例に説明したが、ラック軸19への右方向(図1の紙面上左方向)への外乱にも同様の効果がある。
【0031】
次に、運転者が、ステアリングホイール11を例えば、右方向へ操舵操作して、ラック軸19に左方向(図1の紙面上右方向)の操舵力が加わった状態について説明する。このような場合は、ラック軸19への図1の紙面上右方向の操舵力は、軸受け22,23を介してステアリングギヤボックス16のハウジング24の右方向(図1の紙面上左方向)への反力も発生する。しかし、それ以上に、車両の右方向の旋回により車体前部の荷重が車体左側方向(図1の紙面上で右側方向)に大きな力が加わり、前記した反力よりも勝ることになる。従って、ハウジング24のラック軸左方右方向(図1の紙面上で右方向)の相対移動が増大し、ゴムブッシュ42の左側の領域42cの左側(図3の紙面上で右側)のすぐり部42aに面した外周面が外筒40の内周面に当接した以降は、ゴムブッシュ42の領域42b,42bのせん断応力に対するばね定数の寄与は小さくなり、図3の紙面上で右側のゴムブッシュ42の領域42cの圧縮応力に対するばね定数が支配的となり、図4に示す撓み量δの圧縮領域R2に示すように比較的撓み量δに対する荷重Fの傾きXBは大きくなる。
【0032】
つまり、ハウジング24が図1の紙面上右方向に移動しにくくなり、ほとんどラック歯18がピニオン軸21に伝える回転力となり、磁歪式トルクセンサ34の検出する操舵トルクが路面反力に対して応答性の良いものとなる。
その結果、磁歪式トルクセンサ34を用いた電動パワーステアリング装置における車両の旋回走行状態では、ステアリングホイール11の操作と転舵輪Wの路面からの反力による上部ステアリング軸12の磁歪式トルクセンサ34において応答性の良い操舵トルクが発生し、それを磁歪式トルクセンサ34で検出できる。
【0033】
運転者が左方向へ操舵操作して、ラック軸19に右方向(図1の紙面上左方向)の操舵力が加わった状態については、前記した右方向へ操舵操作の場合とゴムブッシュ42に加わる力の方向が異なるだけであり、同様に作用する。
【0034】
ここで、ゴムブッシュ42が所定の幅E1の間隙分だけラック軸方向に撓むまでが、特許請求の範囲に記載の「相対移動量が予め設定された所定値以下」に対応し、ゴムブッシュ42の左右の一方側の領域42cのすぐり部42aに面した外周面が外筒40の内周面に当接した以降が特許請求の範囲に記載の「相対移動量が予め設定された前記所定値以上のとき」に対応する。
【0035】
《ステアリングアクチュエータ》
再び、図1に戻りステアリングアクチュエータ17の構成について説明する。図1に示すように上部ステアリング軸12はハウジング27の内部に3個のボールベアリング軸受け28,29,30を介して回転自在に支持されている。ステアリングアクチュエータ17は、上部ステアリング軸12に固定したウォームホイール31と、このウォームホイール31に噛合するウォーム32と、このウォーム32を回転駆動するモータ33と、で構成される。
【0036】
《磁歪式トルクセンサ》
次に、図1、図5、図6を参照しながら磁歪式トルクセンサ34の構成について説明する。図5は、図1における磁歪式トルクセンサ部分のC部拡大図、図6は、操舵トルクに対するトルク検出信号の変化特性を示す説明図である。
ステアリングアクチュエータ17の上方の上部ステアリング軸12に、ステアリングホイール11に入力される操舵力に応じて上部ステアリング軸12に生じる操舵トルクを検出する磁歪式トルクセンサ34が設けられている。
【0037】
図5に示すように、磁歪式トルクセンサ34は、上部ステアリング軸12の外周表面を軸方向に所定幅で、かつ周方向全周にわたって覆うように形成された、例えば、Ni−Feメッキよりなる第1、第2磁歪膜51A,51Bと、第1磁歪膜51Aに対向して上部ステアリング軸12の径方向外方側に所定の間隙をとって囲む第1検出コイル52Aと、第2磁歪膜51Bに対向して上部ステアリング軸12の径方向外方側に所定の間隙をとって囲む第2検出コイル52Bと、第1検出コイル52Aを囲む第1ヨーク53Aと、第2検出コイル52Bを囲む第2ヨーク53Bと、を備える。第1検出コイル52A及び第2検出コイル52Bには、第1、第2出力回路54A,54B(図1参照)及び差動増幅回路55(図1参照)が接続される。
【0038】
次に、本実施形態の作用を説明する。運転者がステアリングホイール11を操作すると、ステアリングホイール11の回転が上部ステアリング軸12、上部自在継ぎ手13、下部ステアリング軸14、下部自在継ぎ手15、ピニオン軸21、ピニオンギヤ20、ラック歯18、ラック軸19及びボールジョイント25,25を介してタイロッド26,26に伝達され、左右の転舵輪W,Wが転舵される。
【0039】
その際に、運転者がステアリングホイール11に入力した操舵トルクが上部ステアリング軸12の周囲に設けた磁歪式トルクセンサ34により検出されると、図示しない電子制御ユニットが磁歪式トルクセンサ34により検出された操舵トルクに応じてステアリングアクチュエータ17のモータ33を駆動する。モータ33の発生させるトルクが、ウォーム32及びウォームホイール31を介して上部ステアリング軸12に伝達されるとともにピニオン軸21にも伝達され、運転者のステアリング操作がステアリングアクチュエータ17によりアシストされる。
【0040】
磁歪式トルクセンサ34による操舵トルクの検出は、次のようにして行われる。第1、第2検出コイル52A,52Bに交流電流を供給すると、上部ステアリング軸12に運転手の操舵力が入力されたときに、上部ステアリング軸12に生じる操舵トルクに応じて第1磁歪膜51AのインダクタンスがLからL+ΔLに変化し、第2磁歪膜51BのインダクタンスがLからL−ΔLに変化し、しかも、前記変化量ΔLが上部ステアリング軸12に生じる操舵トルクに比例するので、この変化量ΔLを第1、第2検出コイル52A,52Bで検出する。
【0041】
即ち、図6において、第1検出コイル52A(図5参照)が出力する第1電圧信号VT1及び第2検出コイル52B(図5参照)が出力する第2電圧信号VT2は、整流回路の役目をする第1、第2出力回路54A,54B(図1参照)にそれぞれ入力される。第1、第2出力回路54A,54Bは、前記第1、第2電圧信号VT1,VT2に対応する第1、第2電圧信号VT1* ,VT2* を出力する。その第1、第2電圧信号VT1* ,VT2* は、差動増幅回路55に入力され、そこで操舵トルクの大きさに対応する第3電圧信号(トルク検出信号)VT3が算出されて出力される。
【0042】
具体的には、差動増幅回路55は第1電圧信号VT1* から第2電圧信号VT2* を減算したVT1* −VT2* にゲインkを乗算して第3電圧信号(トルク検出信号)VT3を算出する。第1電圧信号VT1* は操舵トルクの増加に応じて増加し、第2電圧信号VT2* は操舵トルクの増加に応じて減少するため、第3電圧信号VT3は操舵トルクの増加に応じて増加する。操舵トルクが0のとき、第3電圧信号VT3が所定のバイアス電圧Vb(例えば、2.5V)となるようにバイアスされる。
【0043】
つまり、第3電圧信号VT3は、次式(1)のように算出される。
VT3=k(VT1* −VT2* )+Vb ・・・・・(1)
このようにして、ステアリングホイール11に入力される操舵力により上部ステアリング軸12が第1、第2磁歪膜51A,51Bと共に捩じれ変形すると、第1、第2磁歪膜51A,51B及び第1、第2ヨーク53A,53Bで構成される二つの磁路に沿う磁束密度が変化することで、その磁束密度の変化に基づいて操舵トルクを検出することができる。
【0044】
ところで、ステアリングホイール11から左右の転舵輪W,Wに至る操舵力伝達経路の捩じれ剛性が高いと、運転者がステアリングホイール11に入力する操舵力、もしくはステアリングアクチュエータ17が上部ステアリング軸12に入力する操舵補助力が、ダイレクトに転舵輪W,Wに伝達されるため、車両のヨー応答性(操舵に対する車両のヨーイングの応答性)が敏感になり、逆に操舵力伝達経路の捩じれ剛性が低いとヨー応答性が鈍感になる傾向がある。
【0045】
トーションバー式の操舵トルクセンサを採用すると、操舵力伝達経路のうちでトーションバーの捩じり剛性が最も低くなるため、トーションバーの小さいばね定数によって車両のヨー応答性の上限値が制限されてしまい、ヨー応答性の高いセッティングができなくなる問題がある。
【0046】
それに対して、本実施形態の如く磁歪式トルクセンサ34を採用した場合には、トーションバーのようなばね定数の小さい部材を持たないため、車両のヨー応答性の上限値を充分に高くセッティングすることができる。そして、車両のヨー応答性を低くセッティングしたい場合には、ゴムブッシュジョイント38,38のばね定数を小さく設定することで、操舵力が作用したときにゴムブッシュジョイント38,38が弾性変形してステアリングギヤボックス16を車体39に対してラック軸方向に相対移動させ、操舵力伝達経路の剛性を低下させてヨー応答性を鈍感にすることができる。
よって、磁歪式トルクセンサ34を採用した結果高くなったヨー応答性を、ゴムブッシュジョイント38,38ばね定数を調整して低くすることで、車両のヨー応答性を極めて広い領域で任意に設定することが可能になる。
【0047】
また、車輪W,Wから操舵力伝達経路を介してステアリングホイール11に伝達される振動を、ステアリングギヤボックス16を支持するゴムブッシュジョイント38,38で吸収することができるので、ステアリングホイール11の振動を低減して操舵フィーリングを高めることができる。
【0048】
特に、ゴムブッシュジョイント38,38のゴムブッシュ42のラック軸方向の周方向領域にすぐり部42a,42aを設けたので、図4に示すようにゴムブッシュ42のラック軸方向の撓み量δに対して、せん断領域R1と圧縮領域R2の2つの領域に分け、撓み量δの小さいせん断領域R1ではばね定数(撓み量δに対する荷重Fの傾き)を小さく設定でき、撓み量δの大きい圧縮領域R2ではばね定数(撓み量δに対する荷重Fの傾き)を大きく設定できる。
【0049】
この結果、ステアリングホイール11の中立付近では、転舵輪W,Wから一時的な外乱が入力されても、せん断領域R1に対応するので、ゴムブッシュジョイント38,38でその外乱が吸収され、運転者がステアリングホイール11を取られたり、磁歪式トルクセンサ34が一時的に外乱による操舵トルクを検出して、検出された操舵トルクに応じて操舵補助力をモータ33が出力したりして、乗り心地を悪くすることが低減できる。
また、図4に示されるようにステアリングホイール11の中立付近では、ゴムブッシュ42のラック軸方向の撓み量δと加重Fの特性は、せん断領域R1にある。従って、ゴムブッシュ42への荷重Fの変化に対する撓み量δが大きくなるため、ステアリングホイール11の中立付近の運転状態において運転者によるステアリングホイール11への多少の入力があっても、それによりラック軸方向に発生する荷重がゴムブッシュ42に吸収されるので、過敏に転舵輪W,Wが転舵されない。つまり、直進時の安定性も確保できる。
【0050】
そして、運転手がステアリングホイール11を回動操作したときは、圧縮領域R2に対応するので、ヨー応答性が高い状態で電動パワーステアリング装置が操舵補助力を出力する。
【0051】
また、車両の転舵系には、従来、ステアリングホイール11の操作による荷重を受けてある程度撓む(ここで「撓む」には、「捩じれる」ことをも含む)ことができる剛性要素、例えば、従来のトーションバー式トルクセンサにおけるトーションバー、を含んでいるため、ステアリングホイール11を旋回方向に回動操作(以下では、「切り込み操作」と称する)していくと、その撓むことができる剛性要素が撓み可能な範囲で撓みきってしまい、ステアリングホイール11の操作に対する車両のヨー応答が良くなるという特性がある。従来から車の運転に慣れ親しんだ運転者には、そのような車両の転舵系の特性が好まれる。
【0052】
それに対し、磁歪式トルクセンサ34を用いた転舵系は高剛性になり、ステアリングホイール11を切り込み操作していっても、上部ステアリング軸12の捩じれ量が少ないので、ステアリングホイール11の切り込み量の変化に応じたヨー応答性の変化が減り、その分ヨー応答のリニア感じを受けるようになる。その結果、従来の転舵系の車両になれた運転者には物足りなさを感じさせてしまう可能性があった。
本実施形態によれば、切り込み量の変化に応じたヨー応答性の変化を生じる転舵系の特性が得られるので、磁歪式トルクセンサ34を搭載した車両においても前記従来車のような操舵フィーリングを与えることができ、従来車との違和感を無くすことができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。図7は、図1におけるゴムブッシュのB−B矢視断面形状の第3実施例である。
例えば、図7に示すようにゴムブッシュ42は、略環状形状をしており、その周方向部分のうちのステアリングギヤボックス16が車体39に対して相対移動する方向、つまり、ラック軸方向の周方向領域において所定の間隙幅E1を有する一対のすぐり部(空間部)42a,42aを設け、すぐり部42aの周方向両端に周面の窪み部42a,42aを設ける。
【0054】
そして、すぐり部42aの外周側のゴムブッシュ42の厚みE2A、すぐり部42aの内周側のゴムブッシュ42の厚みE2Bの合計の厚みは、第1実施例及び第2実施例のゴムブッシュ42における厚みE2と同じにする(E2=E2A+E2B)。
このようなゴムブッシュ42の形状でも前記した第1実施例及び第2実施例のゴムブッシュ42と同じ撓み量δ−荷重Fの特性を実現できる。
また、窪み部42a,42aを設けることによって、すぐり部42aの周方向端部に集中応力が加わることが無く、そこに亀裂が早期に発生することが防げ、ゴムブッシュ42の耐久性が向上する。また、第1実施例のゴムブッシュ42における外筒40との剥離もより確実に防止できる。
【0055】
また、本実施形態ではステアリングアクチュエータ17を上部ステアリング軸12に設けているが、それを操舵力伝達経路の任意の部位に設けることができる。
【符号の説明】
【0056】
11 ステアリングホイール
12 上部ステアリング軸
14 下部ステアリング軸
16 ステアリングギヤボックス
17 ステアリングアクチュエータ
18 ラック歯
19 ラック軸
20 ピニオンギヤ
21 ピニオン軸
24 ハウジング
27 ハウジング
34 磁歪式トルクセンサ
38 ゴムブッシュジョイント
39 車体
39a 取り付け部材
40 外筒
41 内筒
42 ゴムブッシュ(弾性体)
42a すぐり部(間隙、空間部)
42a 窪み部
42a 接着端部
42b,42c 領域
71 ゴムブッシュジョイント・アーム
71a 取付け孔
W 転舵輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールから転舵輪に至る操舵力伝達経路に磁歪式トルクセンサを配置し、前記磁歪式トルクセンサで検出した操舵トルクに応じてステアリングアクチュエータを駆動して運転者のステアリング操作をアシストする電動パワーステアリング装置において、
前記ステアリングホイール及び前記転舵輪間に配置されるステアリングギヤボックスを、磁歪式トルクセンサよりもバネ定数が小さい弾性体を介して車体に支持する車体支持部を備え、
前記弾性体は、前記ステアリングギヤボックスが前記車体に対して相対移動した相対移動量に応じて前記相対移動の方向に対して反対方向の荷重を発生し、前記相対移動量に対する前記荷重の増加量の傾きは、前記相対移動量が予め設定された所定値以下のときよりも、前記相対移動量が予め設定された前記所定値以上のときの方が大きいことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記車体支持部は、外筒と、該外筒の径方向内方側に配置された内筒と、前記外筒と前記内筒との間に前記弾性体とを含むゴムブッシュジョイントを有し、
前記外筒は、前記ステアリングギヤボックスに設けられた穴に嵌合され、前記内筒はボルトにて前記車体に支持される構造であって、
前記弾性体は、その外周部分の少なくとも一部において前記外筒との間に所定の間隙を有していることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記所定の間隙は、前記ステアリングギヤボックスが前記車体に対して相対移動する方向の周方向領域に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記車体支持部は、外筒と、該外筒の径方向内方側に配置された内筒と、前記外筒と前記内筒との間に前記弾性体とを含むゴムブッシュジョイントを有し、
前記外筒は、前記ステアリングギヤボックスに設けられた穴に嵌合され、前記内筒はボルトにて前記車体に支持される構造であって、
前記弾性体は、略環状形状をしており、その周方向部分のうちの前記ステアリングギヤボックスが前記車体に対して相対移動する方向の周方向領域において所定の間隙を有する空間部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−166592(P2012−166592A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26908(P2011−26908)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】