説明

電流増幅型トランジスタ素子及び電流増幅型発光トランジスタ素子

電流増幅型トランジスタ素子には、エミッタ電極とコレクタ電極との間に、有機半導体層が2層とシート状のベース電極とが設けられている。一方の有機半導体層は、エミッタ電極とベース電極との間に設けられた、p型有機半導体層とn型有機半導体層とのダイオード構造を有する。前記電流増幅型トランジスタ素子と、その中に形成された有機EL発光素子部とを含む電流増幅型発光トランジスタ素子も開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流増幅性を有する電流増幅型トランジスタ素子および電流増幅型発光トランジスタ素子に関し、さらに詳しくは、低電圧で大電流変調を実施可能で、オン/オフ比に優れ、従って有機ELディスプレイなどの駆動に優れた電流増幅型トランジスタ素子、および電流増幅型発光トランジスタ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄型テレビやノートパソコンの普及が進んでおり、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパーなど、表示ディスプレイへの要求も高まりつつある。このようなディスプレイの素子の駆動には、電界効果トランジスタ(FET)が使用されている。現在、無機材料であるシリコンを用いたFETが主に使用されているが、低コスト化、大面積化、フレキシブル化のために有機トランジスタ素子を用いたディスプレイが報告されている。
【0003】
しかし、有機電界効果型トランジスタ(OFET)と液晶または電気泳動セルとを組み合わせたディスプレイがほとんどである。OFETは、その構造と移動度の低さにより、大電流を得ることは難しく、大電流を必要とする電流駆動デバイスである有機ELディスプレイの駆動素子にOFETを用いた例は、ほとんど報告されていない。そのため、低電圧において大電流で出力し、有機ELディスプレイの駆動が可能である有機トランジスタ素子の開発が望まれている。
【0004】
現在、OFETを用いて大電流を得るためには、OFETのチャネル長を短くすることが必要であるが、チャネル長を数μm以下にすることは、大量生産を視野に入れたパターニング技術では難しい。この問題を解決するため、膜厚方向に電流を流すことにより低電圧領域において大電流を得ることができる「縦型トランジスタ構造」が研究されている。一般に縦型トランジスタに用いられる膜厚は数十nmから数百nmであり、しかも数Åオーダーの高い精度で膜厚の制御が可能である。縦型トランジスタは、チャネルを膜厚方向(縦方向)にすることにより、1μm以下の短いチャネル長を容易に実現でき、大電流を得られる可能性がある。これまでに、このような縦型の有機トランジスタ素子としてポリアニリン膜の自己組織化ネットワーク構造をグリット電極として用いたポリマーグリッドトライオード構造縦型トランジスタ、また、微細なストライプ状の中間電極で空乏層幅を変調することによりソース・ドレイン間の電流をコントロールする静電誘導型トランジスタ(Static Induction Transistor, SIT)などが知られている。
【0005】
最近、有機半導体/金属/有機半導体の積層構造を有する、高性能なトランジスタ特性を発現する縦型有機トランジスタ素子が提案されている(特許文献1)。この縦型トランジスタ素子は、エミッタ電極とコレクタ電極との間に、有機半導体層とストライプ状の中間金属電極とが設けられている。この有機トランジスタ素子では、エミッタ電極から注入された電子が中間金属電極を透過することにより、バイポーラトランジスタに似た電流増幅が観測され、その中間金属電極がベース電極のように働くことから、メタルベース有機トランジスタ(Metal-Base Organic Transistor、以降MBOTと呼ぶことがある)と呼んでいる。
【0006】
MBOTは、エミッタ電極とコレクタ電極間に出力電圧を印加し、エミッタ電極とベース電極間に電圧を印加しない場合は電流がほとんど流れないが、エミッタ電極とベース電極間に電圧を印加するとエミッタ電極−コレクタ電極間に電流が流れる。エミッタ電極−コレクタ電極間に流れる電流がコレクタ電流、エミッタ電極−ベース電極間に流れる電流がベース電流である。MBOTは、ベース電圧の印加により増加するベース電流に比べて、コレクタ電流が急激に増加することから、ベース電圧によるコレクタ電流の変調が可能な素子となる。エミッタ電極とコレクタ電極に電圧を印加し、エミッタ電極とベース電極間に電圧が印加されていない場合に流れてしまう「漏れ電流」がOFF電流であり、エミッタ電極とベース電極間に電圧を印加したときに流れる電流がON電流である。MBOTは、OFF電流はゼロに近く、大きなON電流が得られるトランジスタ素子である。
【0007】
また、有機トランジスタ(MBOT)の構造として、透明ITO電極をコレクタ電極として、その上に有機半導体/金属/有機半導体を真空蒸着により積層することにより、簡単に作成できるMBOTが報告されている(特許文献2)。有機半導体としては、n型有機半導体材料であるジメチルペリレンテトラカルボン酸ジイミド(Me−PTCDI)とフラーレン(C60)、電極材料としては、ベース電極としてAl、エミッタ電極としてAgが用いられる。このMBOTは、暗電流抑制層の導入、ベース電極を加熱処理することによりオン/オフ比(ON電流とOFF電流の比率)を向上させた大電流増幅が可能なトランジスタ素子となる。このように、MBOTは、縦型トランジスタであるにもかかわらず、微細なグリッド電極状またはストライプ電極状の微細なパターニングを必要としない特徴がある。
【0008】
また、有機トランジスタ素子(MBOT)として、エミッタ電極とコレクタ電極との間に有機半導体層とシート状のベース電極を有し、ベース電極とコレクタ電極の間にエネルギー障壁層、電荷透過促進層を有するMBOT(特許文献3)、さらに、長鎖アルキル基を有するペリレンテトラカルボン酸ジイミドからなる有機半導体層をコレクタ層として利用したMBOT(特願2009−114619)が、加熱処理などすることなく、良好な電流増幅特性やオン/オフ比を得ることが報告されている。
【0009】
また、縦型トランジスタとして、エミッタ電極とコレクタ電極との間に有機半導体層とシート状のベース電極を有し、エミッタ電極とベース電極間、コレクタ電極とベース電極間の両有機半導体層に、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(1−ナフチル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(NPD)/フラーレン(C60)からなるヘテロ接合有機半導体層を利用した光透過性金属基板有機トランジスタが、両極性トランジスタとして報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−101104号公報
【特許文献2】特開2007−258308号公報
【特許文献3】特開2009−272442号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J.Huang et al,Organic Electronics,Volume 10, Page 210-213 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、ポリマーグリッドトライオード構造縦型トランジスタ、静電誘導型トランジスタ(Static Induction Transistor, SIT)は、中間電極を形成する難しさから高性能化・大量生産は困難である。特許文献1、2に記載されている有機トランジスタ素子(MBOT)は、膜厚や構造によって、オフ電流が高くなることがあり、上記トランジスタは有機半導体/金属/有機半導体の積層構造を作製すれば必ず電流増幅作用が観測されるというものではない。安定した性能を発現し、大きな電流値、高い増幅率、高いオン/オフ比を得るためには、加熱処理によりベース電極表面に酸化層を設け、オフ電流の抑制層とする必要がある。
また、上記特許文献3及び先行出願(特願2009−114619)に記載されている有機トランジスタ素子(MBOT)は、オフ電流の抑制層を形成するために電極の加熱処理をすることなく、電流を増幅できるが、電子機器を作動させるに十分な大きな電流値、大きな電流増幅率、大きなオン/オフ比を得ることは困難である。
【0013】
非特許文献1に開示の光透過性金属基板有機トランジスタでは、両極性トランジスタ素子としての電流変調作用を示すことより、相補型論理回路などへの利用の可能性はあるが、電子機器を作動させるに十分な大きな電流値を得る、換言すれば、電流の増強を図ることは難しく、有機ELディスプレイなどの駆動用素子として利用することは困難である。
【0014】
したがって、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的はエミッタ電極とコレクタ電極との間において、低電圧下において大きな電流増幅作用を示し、オン/オフ比に優れたメタルベース有機トランジスタ素子(Metal-Base Organic Transistor:MBOT)を、加熱などの処理工程が必要ない、単純な製造プロセスにより提供することにある。また、本発明の別の目的は、発光層を含む有機EL発光素子部を有し、オン/オフ比に優れ、電流密度が高く、自発光することが可能な発光トランジスタ素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的は以下に記載する本発明によって達成される。すなわち、本発明は、その一態様において、エミッタ電極と、コレクタ電極と、該エミッタ電極とコレクタ電極との間に形成された第1および第2の有機半導体層と、該第1の有機半導体層と第2の有機半導体層との間に形成されたシート状のベース電極とが設けられている電流増幅型トランジスタ素子において、前記第1の有機半導体層が前記エミッタ電極と前記ベース電極との間に設けられ、p型有機半導体層とn型有機半導体層とのダイオード構造を有することを特徴とする電流増幅型トランジスタ素子を提供する。前記ダイオード構造の採用により、該電流増幅型トランジスタ素子はオン/オフ比に優れ、大電流増幅が可能である。
【0016】
前記第2の有機半導体層が前記コレクタ電極と前記ベース電極との間に設けられたn型有機半導体層からなり、前記第1の有機半導体層が、前記ベース電極上に形成されたp型有機半導体料層と、前記エミッタ電極下に形成されたn型半導体層とからなるダイオード構造を有することが好ましい。
【0017】
前記第1の有機半導体層中の前記p型有機半導体および前記n型有機半導体は、例えば、それぞれ、正孔輸送材料層および電子輸送材料層であることが可能である。前記第1の有機半導体層中の前記p型有機半導体層は、例えば、金属フタロシアニンまたは無金属フタロシアニンよりなることが可能である。前記第1の有機半導体層中の前記p型有機半導体層は、例えば、ペンタセンよりなることが可能である。
【0018】
例えば、前記第2の有機半導体層は前記コレクタ電極と前記ベース電極との間に設けられ、N,N’−ジメチルペリレンテトラカルボン酸ジイミド(Me−PTCDI)からなる有機半導体層とフラーレン(C60)からなる有機半導体層とを積層した積層有機半導体層からなることが可能である。
【0019】
前記電流増幅型トランジスタ素子は、前記ベース電極と前記第2の有機半導体層との間に形成されたフッ化リチウム層をさらに有することが好ましい。
【0020】
前記電流増幅型トランジスタ素子は、例えば、5V以下の低電圧における電流増幅率が50以上であることが可能である。また、前記電流増幅型トランジスタ素子は、例えば、オン/オフ比が100以上であることが可能である。
【0021】
本発明の別の態様において、前記電流増幅型トランジスタ素子と、前記第1の有機半導体層における前記p型有機半導体層とn型有機半導体層との間に形成された有機EL発光素子部とからなり、該有機EL発光素子部が有機EL発光層、正孔注入層および正孔輸送層からなることを特徴とする電流増幅型発光トランジスタ素子、ならびに、前記電流増幅型トランジスタ素子と、前記第2の有機半導体層と前記コレクタ電極との間に形成された有機EL発光素子部とからなり、該有機EL発光素子部が有機EL発光層、正孔注入層および正孔輸送層からなることを特徴とする電流増幅型発光トランジスタ素子が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明の電流増幅型トランジスタ素子および電流増幅型発光トランジスタ素子によれば、上記一方の有機半導体層が、ダイオード構造を有することにより、低電圧で大電流への変調を可能とする電流増幅作用を安定して得ることができる。
【0023】
本発明の電流増幅型トランジスタ素子(MBOT)は、種々のディスプレイの駆動用素子として、特に大電流変調により駆動させる有機ELディスプレイ、電子ペーパー用の駆動素子として有用である。これらを駆動するトランジスタ素子は、オン時とオフ時のコントラストが高い必要となり、より大きなオン/オフ比、暗電流の抑制が要求される。オン/オフ比が低く暗電流が大きいと、オフ時においても有機ELディスプレイが発光するなどの問題を生じる。本発明の電流増幅型トランジスタ素子は、オン/オフ比が高く、低電圧領域での大電流変調特性、周波数特性が優れていることにより、駆動用トランジスタ素子として高い性能を有する。
【0024】
また、本発明の電流増幅型トランジスタ素子は、低電圧領域での大電流変調が可能であり、1つのピクセル内におけるトランジスタ素子の占有面積を小さくでき、ディスプレイにおける開口率の向上を可能とし、その結果、高性能、高効率のディスプレイとなる。また、本発明の電流増幅型トランジスタ素子は蒸着法での作成も可能であり、プラスチックなどのフレキシブル基板上に電流増幅型トランジスタ素子を形成することにより、小型軽量化されたディスプレイまたは機器の作成が可能となる。
【0025】
第1の有機半導体層におけるp型有機半導体層とn型有機半導体層との間または第2の有機半導体層とコレクタ層との間に形成された有機EL発光素子部を有する本発明の電流増幅型発光トランジスタ素子は、有機発光素子とその駆動用トランジスタ素子を1つの素子に統合した形態となる。
【0026】
該有機EL発光素子部が前記有機発光層を有するので、トランジスタ素子電極面からの面状発光が可能になる。しかも、従来のSIT構造のようなベース電極の微細パターニングが不必要であるとともに、低電圧領域での大電流変調が可能であり、さらにオン/オフ比が高いので、優れた発光トランジスタ素子となる。また、蒸着法のみで作成も可能で、プラスチックなどのフレキシブルな基板上にも素子を形成することが可能であり、小型軽量化された簡単な構造からなるフレキシブルな電流増幅型発光トランジスタ素子として提供できる。なお、以下、本発明の電流増幅型トランジスタ素子および電流増幅型発光トランジスタ素子を単に「トランジスタ素子および発光トランジスタ素子」、「MBOTおよび発光MBOT」などと称する場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態によるトランジスタ素子とその駆動回路を説明する概略断面図。
【図2】本発明の別の実施形態による発光トランジスタ素子Aとその駆動回路の構成を説明する概略断面図。
【図3】本発明のさらに別の実施形態による発光トランジスタ素子Bとその駆動回路の構成を説明する概略断面図
【図4】本発明の発光トランジスタ素子AまたはBの発光素子部の構成を説明する概略断面図。
【図5】実施例1で作製したトランジスタ素子とその駆動回路の構造を説明する概略断面図。
【図6】実施例3で作製したトランジスタ素子とその駆動回路の構造を説明する概略断面図。
【図7】実施例1及び比較例1のトランジスタ素子の出力特性(Ic−Vbカーブ)を説明する図。
【図8】実施例2及び比較例1のトランジスタ素子の出力特性(Ic−Vbカーブ)を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態につき、詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に制限されるものではない。
【0029】
先ず、本発明の一実施態様による、エミッタ電極とコレクタ電極との間に、第1および第2の有機半導体層とシート状のベース電極を設ける有機トランジスタ素子(MBOT)について説明する。このトランジスタ素子は、該第1の有機半導体層としてダイオード構造を有するエミッタ層を用いた電流増幅型トランジスタ素子(MBOT)である。
【0030】
本実施形態のトランジスタ素子は、図1に示すように、有機半導体/電極/有機半導体という積層構造を有し、単純な積層工程による作製が可能な縦型メタルベース有機トランジスタ素子(MBOT)である。その構造は、下から上に向かう順序で、基板(図1には示していない)に、コレクタ電極11、有機半導体層よりなるコレクタ層(第2の有機半導体層)21、ベース電極13、積層によるダイオード構造をなすエミッタ層(第1の有機半導体層)22(22A、22B)、エミッタ電極12を含んでいる。
本実施形態のトランジスタ素子を製造するためには、基板上にコレクタ電極11、コレクタ層21の順に形成し、さらにベース電極13、エミッタ層22(22A、22B)を積層する。さらに、エミッタ層22の上部にエミッタ電極12を形成し、本実施態様のトランジスタ素子となる。ここで、エミッタ層22は、有機半導体層22Aと有機半導体層22Bの積層によるダイオード構造を形成し、22Aと22Bは、具体的にはn型有機半導体層とp型有機半導体層の組合せを示し、22Aがn型有機半導体層の場合には22Bをp型有機半導体層とし、22Aがp型有機半導体層の場合は22Bをn型有機半導体層とするダイオード構造を形成する。エミッタ層22の構成は、コレクタ層21をn型有機半導体層とした場合は、22Aをn型有機半導体層、22Bをp型有機半導体層とし、コレクタ層21をp型有機半導体層とした場合は、22Aをp型有機半導体層、22Bをn型有機半導体層とする。
【0031】
本実施形態のトランジスタ素子のダイオード構造としては、エミッタ層22が、p型有機半導体層とn型有機半導体層からなるダイオード構造を有し、そのダイオード構造の効果により、本実施形態のトランジスタ素子はベース電流とコレクタ電流を増加させるとともに、暗電流を抑制し、オフ電流を小さく維持する効果がある。従って、低電圧領域において大きな出力変調と大電流増幅ができる有機トランジスタ素子(MBOT)として有用である。
【0032】
本実施形態のトランジスタ素子を流れる電流に関して次に説明する。エミッタ電極12とコレクタ電極11との間にコレクタ電圧Vcを印加し、さらにエミッタ電極12とベース電極13との間にベース電圧Vbを印加すると、そのベース電圧の作用により、エミッタ電極12から注入された電子が加速されてベース電極13を透過し、コレクタ電極11に到達する。すなわち、エミッタ電極12とベース電極13間にベース電圧Vbを印加したときに流れるベース電流Ibは、ベース電圧の印加によりエミッタ電極13−コレクタ電極11間に流れるコレクタ電流Icに増幅される。したがって、本実施形態のトランジスタ素子は、バイポーラトランジスタ素子と同じような電流増幅作用を安定して得ることができ、大きな出力変調と電流増幅が可能である。
【0033】
例えば、n型半導体層(フラーレン)とp型半導体層(銅フタロシアニン)からなるダイオード構造を形成したMBOTの電流Icは、単一のn型有機半導体(フラーレン)を使用した電流Icと比較して、約10倍以上の大電流を得ることができる。その原理は明らかではないが、[1]電流増幅率が大きく向上すること、[2]ダイオード構造層に発光層を導入することにより、正孔と電子の再結合による発光が可能なこと、[3]OFF電流は増えていないことから、ベース電極付近からコレクタ層側に電子が流れているとともに、エミッタ層側へのホール電流が発生し、ベース電極における電流透過率も向上しているメカニズムが考えられる。また、ダイオード構造の整流効果によりOFF時の電流が抑制されるとともに、ダイオード層を挟んだエミッタ電極−ベース電極間に、電子による電流とホール電流が流れる。その結果、前記ダイオード構造は、単一層に比べ、より大きな電流増幅が可能と考えられる。
【0034】
また、本実施形態の有機トランジスタ素子(MBOT)は、そのダイオード構造によりエミッタ電極−ベース電極間に電圧Vbを印加しない場合(Vb=0V)において、ベース電極−コレクタ電極間にトランジスタ動作に不必要な漏れ電流(スイッチオフ時に流れるオフ電流、暗電流ともいう)が流れるのを効果的に抑制することができ、その結果、本実施形態の有機トランジスタ素子は向上させたオン/オフ比を備えている。したがって、有機トランジスタ素子(MBOT)を有機ELディスプレイの駆動トランジスタ素子として用いた場合、暗電流が大きいとOFF時に有機EL素子の発光が起こり、ON時とOFF時のコントラストの低下を招くので、高いオン/オフ比、好ましくは10以上のオン/オフ比、より好ましくは100以上のオン/オフ比が駆動トランジスタ素子に要求される。
【0035】
本実施形態のトランジスタ素子(MBOT)は、エミッタ電極とベース電極間にダイオード構造を有しており、該ダイオード構造による整流効果により、OFF時にはベース電極からエミッタ電極へ電流(オフ電流)は、ほとんど流れない。したがって、OFF時に流れる暗電流が抑制されることにより、高いオン/オフ比が得られる。
【0036】
本実施形態のトランジスタ素子(MBOT)は、低電圧領域においても大きな電流増幅作用を示し、大きな電流を得ることができる。一般に、有機EL素子は低電圧領域において駆動させるので、その駆動トランジスタ素子には数ボルトで大きな電流を出力させることが要求される。有機EL素子は、印加電圧を高くすれば、大きな電流が得られ、高強度の発光を実現できるが、有機EL素子材料の劣化や分解を起こし、有機EL素子の寿命を短くし、長期間の安定した発光はできなくなる。したがって、駆動電圧は1から20Vであり、好ましくは5V以下である。この低電圧領域において、トランジスタ素子による増幅によって得られる電流値は10mA/cm2から500mA/cm2が好ましく、さらに好ましくは、20mA/cm2から200mA/cm2がよい。電流値は、10mA/cm2未満であると有機EL素子を十分に発光させることができず、十分な発光強度が得られない。また、電流値が500mA/cm2を超えると、十分なオン/オフ比を得ることができず、OFF時(電圧0V)においても、暗電流が生じて有機EL素子から発光するという問題が生じることがある。
【0037】
本実施態様のトランジスタ素子におけるエミッタ層は、p型有機半導体層とn型有機半導体層の積層よるダイオード構造を有する。エミッタ層を形成する材料は、積層された構造のエミッタ層がダイオードとして機能しうればよく、p型有機半導体材料とn型有機半導体材料の組み合わせであれば問題なく使用できる。p型有機半導体層に使用される有機半導体材料は、正孔輸送型の半導体として機能し、用いる材料としては、正孔を輸送する材料(正孔輸送性材料)であれば特に制限なく使用することができる。また、n型有機半導体層に使用される有機半導体材料は、電子輸送型の半導体として機能し、これに用いられる材料としては、電子を輸送する材料(電子輸送性材料)であれば特に制限なく使用することができる。
【0038】
本実施形態のトランジスタ素子のエミッタ層の構成は、ベース電極とコレクタ電極に挟まれたコレクタ層が、n型有機半導体層、または、p型有機半導体層のどちらであるかにより決められる。コレクタ層がn型有機半導体材料により形成した場合は、ベース電極上にp型半導体層を形成し、エミッタ電極下にn型半導体層が形成される。一方、コレクタ層をp型半導体材料により形成した場合は、ベース電極上にn型半導体層を形成し、エミッタ電極下にp型半導体層を形成する。特に好ましい形態としては、使用される電極のエネルギーレベルと有機半導体層のHOMO、LUMOのエネルギーレベルから、コレクタ層をn型有機半導体材料により形成し、ベース電極上にp型有機半導体層、さらに、n型有機半導体層を積層し、エミッタ電極を形成した有機トランジスタ素子(MBOT)が挙げられる。
【0039】
本発明の電流増幅型発光トランジスタ素子は、従来のSIT構造のようなベース電極の微細パターニングが不必要であるとともに、低電圧で大電流変調が可能であり、さらにオン/オフ比が高い。また、電流型発光トランジスタ素子は蒸着法のみで作成も可能で、プラスチックなどのフレキシブルな基板上にも形成することが可能であり、小型軽量化された簡単な構造を有するので、実用的である。
【0040】
(発光トランジスタ素子A)
本実施形態のトランジスタ素子(MBOT)のエミッタ層に発光層を形成することにより、ベース電極からのホール電流に関連している正孔と、エミッタ電極からの電子との再結合により生成された励起子が失活することによる発光が起き、発光トランジスタ素子Aとして使用することができる。発光層は、有機EL素子などに使用される発光材料で形成されていれば問題なく使用することができ、p型半導体層とn型半導体層間に形成することができる。また、n型有機半導体層、または、p型有機半導体層を発光性有機半導体材料で形成する場合は、該有機半導体層は発光層を兼ねることができ、新たに発光層を形成しなくてもよい。また、発光効率を高める場合には、電子注入層、正孔注入層、励起子ブロック層を形成してもよい。
【0041】
(発光トランジスタ素子B)
また、本実施形態のトランジスタ素子において、コレクタ層が発光層を含む発光素子部を有し、有機EL発光素子部として、該発光素子部が正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層から選ばれる1または2以上の層からなる場合、発光トランジスタ素子Bとなる。
【0042】
次に、本実施形態のトランジスタ素子の各構成要素の構造・材料について説明する。
【0043】
(基板)
本実施形態の有機トランジスタ素子を形成する基板の材料は、トランジスタ素子の形態を保持できる材料であれば良く、特に限定されない。例えば、ガラス、アルミナ、石英、炭化珪素などの無機材料、アルミ、銅、金などの金属材料、ポリイミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレートなどのプラスチックを用いることができる。プラスチック基板を用いた場合は、軽量で耐衝撃性に優れたフレキシブルなトランジスタ素子を作製することができる。また、このトランジスタ素子を有機発光層を形成した発光トランジスタ素子として利用する場合は、基板側から光を放出させるボトムエミッション型の場合はプラスチックフィルム、ガラス基板など、光透過率の高い基板を用いることが望ましい。これら基板は、単独で使用してもよく、あるいは併用してもよい。また、基板の大きさ、形態についてはトランジスタ素子の形成が可能であれば特に限定されず、例えばカード状、フィルム状、ディスク状、チップ状などどのような望む形態のものでも問題なく使用できる。
【0044】
(有機半導体層)
本実施形態の有機トランジスタ素子を形成する有機半導体層は、図1に示すようにコレクタ電極11とベース電極13間に設けたコレクタ層21と、ベース電極13とエミッタ電極12間に形成されたエミッタ層22からなり、エミッタ層22(22A、22B)はn型半導体層とp型半導体層よりなる積層構造をなすダイオード構造を有することを特徴とする。
【0045】
(エミッタ層)
本実施態様におけるエミッタ層として、エミッタ電極とベース電極間に設けた有機半導体層22(22A、22B)がp型有機半導体層とn型有機半導体層からなるダイオード構造を有する。ダイオード構造の構成は、エミッタ層およびコレクタ層にそれぞれ使用される有機半導体材料により選択的に定められる。コレクタ層をn型有機半導体材料により形成した場合には、ベース電極上にp型有機半導体層、さらにn型有機半導体層を積層してエミッタ層を形成することが望ましい。一方、コレクタ層をp型有機半導体材料により形成した場合には、ベース電極上にn型有機半導体層、さらにp型有機半導体層を積層してエミッタ層を形成することが望ましい。
【0046】
本実施形態におけるエミッタ層に使用するp型有機半導体層は、ベース電極またはエミッタ電極から正孔を受け取り、対をなしているn型有機半導体層、または、それとの界面付近まで正孔を輸送する機能を有する。p型有機半導体層を形成する材料としては、一般的なp型半導体材料であれば、特に限定なく使用でき、例えば、ペンタセン、無金属フタロシアニン、金属フタロシアニン類(Cu−Pc、VO−Pc、Ni−Pcなど)、ナフタロシアニン、インジコ、チオインジゴ、アントラセン、キナクリドン、オキサジアゾール、トリフェニルアミン、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、ピラゾリン、テトラヒドロイミダゾール、ポリチオフェン、ポルフィリン、ナフトチオフェンなど、またはこれらの誘導体などを用いることができる。また、上記p型有機半導体材料加えて、p型有機半導体材料として正孔輸送性材料を利用できる。
【0047】
正孔輸送性材料として、例えば、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリシラン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリ(p−フェニレンビニレン)、チオフェン−フルオレンのコポリマー、フェニレン−ビニレンのコポリマー、およびその誘導体などが挙げられる。具体例として、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネート(略称PEDOT/PSS、商品名;「CLEVIOS P」H.C. Starck Clevis GmbH製など)を使用することができる。
【0048】
本実施形態におけるエミッタ層を形成するp型半導体材料は、電気的に安定であり、適切なイオン化ポテンシャルと電子親和力を持つことが好ましい。特に好ましい材料としては、p型半導体材料としてペンタセン、銅フタロシアニン、無金属フタロシアニンなどのフタロシアニン類が挙げられ、正孔輸送材料としてPDOT/PSSが挙げられる。
【0049】
但し、p型半導体材料としては、電子よりも正孔の輸送性の高い物質であれば、これら以外のものを用いてもよい。なお、p型半導体層は、p型半導体材料を単独で使用する単層構造だけでなく、2種類以上のp型半導体材料からなる混合層構造、異なったp型半導体材料の2以上の有機半導体層よりなる積層構造であってもよい。p型有機半導体層は、蒸着法、もしくは、前記p型半導体材料を含有した溶液、分散液を用いて各種の印刷法、または塗工法のうちの1つの方法により形成することができる。
【0050】
本実施態様におけるエミッタ層に使用するn型有機半導体層は、ベース電極またはエミッタ電極から電子を受け取り、対をなしているp型有機半導体層、または、それとの界面付近まで輸送する機能を有する。前記n型有機半導体層を形成するn型半導体材料は電気的に安定であり、適切なイオン化ポテンシャルと電子親和力を持つことが望ましい。n型有機半導体層を形成する材料としては、一般的なn型半導体材料であれば、特に限定なく使用でき、例えば、エミッタ層に使用されるn型半導体材料としては、Alq3((トリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム)錯体)、ナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)、ジアルキルナフタレンテトラカルボン酸無水物ジイミド(NTCDI)、ペリレン、ペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)、ジアルキルペリレンテトラカルボン酸ジイミド(PTCDI)、ペリレンビスベンゾイミダゾール(PTCBI)、ジアルキルアントラキノン、フルオレニリデンメタン、テトラシアノエチレン、フルオレノン、ジフェノキノンオキサジアゾール、アントロン、チオピランジオキシド、ジフェノキノン、ベンゾキノン、マロノニトリル、ジニトロベンゼン、ニトロアントラキノン、ピリジン、ピリミジン、無水マレイン酸、ペンタセンのフッ素化物、フタロシアニンのフッ素化物、オリゴチオフェンのフッ化アルキル化物、フラーレン類およびカーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、およびこれらの誘導体が挙げられる。特に好ましい材料としては、C60で代表されるフラーレン類、ジメチルペリレンテトラカルボン酸ジイミド(Me−PTCDI)で代表されるペリレンテトラカルボン酸誘導体が挙げられる。
【0051】
本実施形態におけるエミッタ層を形成するn型有機半導体材料にとって、一般的にその材料のイオン化ポテンシャルを示すパラメーター値が重要である。ただし、n型半導体層としては、電子よりも正孔の輸送性の高い物質であれば、上記以外のものを用いてもよい。なお、n型半導体層は、n型半導体材料を単独で使用する単層構造だけでなく、2種類以上のn型半導体材料からなる混合層構造、異なったn型半導体材料の2以上の有機半導体層よりなる積層構造であってもよい。n型有機半導体層は、蒸着法、もしくは、前記n型半導体材料を含有した塗工液を用いて形成される。
【0052】
本実施形態におけるエミッタ層は、それぞれ単一の化学構造のn型有機半導体材料およびp型有機半導体材料を用いて形成することができるが、これらのn型有機半導体材料およびp型有機半導体材料に異なる化学構造の電子輸送性材料、もしくは正孔輸送性材料をそれぞれ混合してもよい。これらのn型有機半導体材料およびp型有機半導体材料を積層してn型有機半導体層、p型有機半導体層を形成し接合させることによってダイオード構造として、エミッタ層を形成することができる。特に好ましい材料の組み合わせとしては、n型有機半導体層としてフラーレン(C60)、p型有機半導体層として銅フタロシアニン、または、ペンタセンが挙げられる。有機半導体層であるエミッタ層22は、ベース電極13上にp型有機半導体層22A、n型有機半導体層22Bの積層により構成されることが望ましいが、ダイオード構造をなしていれば特に問題なく使用できる。
【0053】
本実施形態におけるエミッタ層を形成する有機半導体層の電荷移動度は、高いことが望ましく、少なくとも、0.0001cm2/V・s以上であることが好ましい。
【0054】
また、エミッタ層22A及び22Bの厚さは、コレクタ層に比べて基本的に薄いことが好ましく、22A及び22Bのそれぞれの厚さが、300nm以下、好ましくは5nm〜300nm程度である。エミッタ層の厚さが10nm未満の場合は、ダイオード構造が一部で形成されない可能性があり、一部のトランジスタ素子は性能低下、または、導通不良の問題が発生して歩留まりが低下することがあり、300nmを超えると製造コスト、材料コストが高くなるという問題を生じる。
【0055】
(コレクタ層)
本実施形態におけるコレクタ層は、ベース電極とコレクタ電極間に有機半導体材料から形成され、該コレクタ層を形成するために使用可能な材料としては、有機半導体として通常使用されるn型有機半導体材料、または、p型有機半導体材料が挙げられる。n型有機半導体材料としては、電子を輸送する材料であれば、特に制限なく一般的なn型の有機半導体材料が使用できる。同様にp型有機半導体材料としては正孔を輸送する材料であれば特に制限なく、一般的なp型の有機半導体材料が使用できる。例えば、上記エミッタ層に使用されるn型半導体材料(電子輸送性材料)、p型半導体材料(正孔輸送性材料)を用いることができる。また、コレクタ層においては、後述する本発明の発光トランジスタ素子の説明欄で列記した発光層形成材料のうちの1種またはそれ以上を用いてもよい。
【0056】
本実施形態におけるコレクタ層を形成する材料としては、n型有機半導体材料またはP型有機半導体材料であれば特に限定なく使用することができるが、n型有機半導体材料であるアルキル基を有するPTCDIまたはフラーレン(C60)により形成されことが望ましい。また、コレクタ層は、電荷輸送材料として通常使用される材料を用いることができ、n型半導体材料またはp型半導体材料を単独で使用することもできるが、コレクタ層は2種類以上のn型半導体材料またはp型半導体材料からなる混合層構造、2種類以上のn型半導体材料またはp型半導体材料の有機半導体層よりなる積層構造であってもよい。
【0057】
特に好ましい形態としては、コレクタ電極上に、Me−PTCDIからなる有機半導体層を形成し、さらにC60からなる別の有機半導体層を形成して得られる積層型のコレクタ層が挙げられる。ベース電極下にあるC60の有機半導体層がエネルギー障壁が生じ、OFF電流を抑制することが可能となる。
【0058】
また、コレクタ層としてMe−PTCDIまたはフラーレンにより形成した半導体層を用いた場合には、アルキル基を有するPTCDI、フラーレンが結晶性の高い有機化合物であるため、その上にベース電極13が形成される半導体層21の表面は凹凸形状となる。そのため、その結晶性の高い有機半導体材料からなる半導体層上に設けられたベース電極13も凹凸表面を備えている。凹凸表面を有するベース電極は、所定の平均厚さで形成した場合であっても、薄いところと厚いところを有する。ベース電極13がそのような凹凸表面を有する場合に、特に電流増幅作用を安定して得ることができる。
【0059】
また、本実施形態におけるコレクタ層の膜厚は、通常、50nm〜5,000nmを挙げることができるが、好ましくは100nm〜500nm程度である。なお、その厚さが50nm未満の場合、トランジスタ素子として動作しないことがあり、5,000nmを超える場合は、製造コスト、材料コストが高くなるという問題を生じる。ただし、コレクタ層の電荷移動度は、高いことが望ましく、少なくとも、0.0001cm2/V・s以上であることが望ましい。電荷移動度が低いと、トランジスタ素子としての性能が低下する、例えば、オン電流が小さくなるなどの問題を生じる。
【0060】
(電極)
本実施形態のトランジスタ素子に用いられる電極について説明する。本実施形態のトランジスタ素子を構成する電極としては、コレクタ電極11、エミッタ電極12、およびベース電極13があり、図1に示すように、通常、コレクタ電極11は基板(図示していない)上に設けられ、ベース電極13は半導体層21、22の間に埋め込まれるように設けられ、エミッタ電極12はコレクタ電極11に対して反対側で半導体層21、22とベース電極13とをエミッタ電極12とコレクタ電極11との間に挟むように設けられる。
【0061】
本実施形態のトランジスタ素子の電極に使用する材料について次に説明する。例えば本実施形態のトランジスタ素子を構成するコレクタ層21が、有機化合物からなるn型半導体層である場合、コレクタ電極11の形成材料としては、例えば、ITO(インジウム錫オキサイド)、酸化インジウム、IZO(インジウム亜鉛オキサイド)、SnO2、ZnOなどの透明導電性酸化物、金、クロムのような仕事関数の大きな金属、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリアルキルチオフェン誘導体、ポリシラン誘導体のような導電性高分子材料などを挙げることができる。一方、エミッタ電極12の形成材料としては、例えば、アルミ、銀などの単体金属、Mg/Agなどのマグネシウム合金、Al/Li、Al/Ca、Al/Mgなどのアルミニウム合金、Liをはじめとするアルカリ金属類、Caをはじめとするアルカリ土類金属、それらアルカリ金属類およびアルカリ土類金属類の合金のような仕事関数の小さな金属などを挙げることができる。一方、本実施形態のトランジスタ素子を構成するコレクタ層21が有機化合物からなる正孔輸送層である場合には、上記のコレクタ電極11の形成材料と上記のエミッタ電極12の形成材料とは逆になる。
【0062】
また、ベース電極13は、有機半導体層を構成する材料とショットキー接触を形成するので、ベース電極材料としては、コレクタ電極11およびエミッタ電極12に用いられる材料を挙げることができる。特に限定されるものではないが、好ましいベース電極材料としては、アルミニウム、銀などの単体金属、Mg/Agなどのマグネシウム合金、Al/Li、Al/Ca、Al/Mgなどのアルミニウム合金、Liをはじめとするアルカリ金属類、Caをはじめとするアルカリ土類金属、Li/Fなどのアルカリ金属類およびアルカリ土類金属類の化合物のような仕事関数の小さな含金属材料などを挙げることができる。電荷(正孔または電子)注入層とショットキー接触を形成することが可能であれば、ITO(インジウム錫オキサイド)、酸化インジウム、IZO(インジウム亜鉛オキサイド)、SnO2、ZnOなどの透明導電性酸化物、金、クロムのような仕事関数の大きな金属、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリアルキルチオフェン誘導体、ポリシラン誘導体のような導電性高分子なども使用することができる。
【0063】
また、先述したように、コレクタ層21を上記した結晶性の高い有機化合物を真空蒸着して形成した場合には、その上にベース電極13が形成されるコレクタ層21表面は凹凸形状となっている。そのため、その結晶性のコレクタ層21上に設けられたベース電極13も凹凸形状を備えている。凹凸表面を有するベース電極13は、所定の平均厚さで形成した場合であっても薄いところと厚いところを有するが、本発明によれば、ベース電極13がそのような凹凸表面を有する場合に、電流増幅作用を安定して得ることができる。
【0064】
また、OFF時の暗電流を抑制し、高いオン/オフ比を達成するベース電極として、アルミニウム、アルミニウム/カルシウム合金により電極を形成した後、空気中で熱酸化処理により、電極表面に酸化膜を形成したベース電極を使用することは好ましい。また、ベース電極としてアルミニウム層/フッ化リチウム層よりなる層構造の電極を使用することにより、ON電流が大きく、暗電流が抑制された、高いオン/オフ比をなすトランジスタ素子の形成が可能となる。
【0065】
なお、後述する本実施形態の発光トランジスタ素子を、光を基板側から出射させるボトムエミッション構造の有機発光トランジスタ素子として使用したい場合には、少なくともコレクタ電極11を透明または半透明の材料で形成することが好ましく、一方、光をエミッタ電極12側から出射させるトップエミッション構造の有機発光トランジスタ素子を作製したい場合には、ベース電極13とエミッタ電極12を透明または半透明の材料で形成することが好ましい。こうした構成により、光取り出し効率を向上することができる透明または半透明の電極材料としては、ITO(インジウム錫オキサイド)、酸化インジウム、IZO(インジウム亜鉛オキサイド)、SnO2、ZnOなどの透明導電性酸化物が用いられる。
【0066】
本実施形態のトランジスタ素子に用いられるベース電極13の厚さは、0.5nm〜100nmであることが好ましい。ベース電極13の厚さが100nm以下であれば、ベース電圧Vbで加速された電子を容易に透過することができる。なお、ベース電極13は半導体層中に切れ目なく(穴やクラックなどの欠陥部なく)設けられていれば問題なく使用できるが、0.5nm未満であると欠陥を生じ、有機トランジスタ素子として動作しないことがある。
【0067】
本実施形態のトランジスタ素子中の電極の形成方法について次に説明する。上記の各電極のうちコレクタ電極11とエミッタ電極12については、真空蒸着、スパッタリング、CVDなどの真空プロセスあるいは塗布プロセスにより形成され、その膜厚は使用する材料などによっても異なるが、例えば、10nm〜1,000nm程度であることが好ましい。なお、その厚さが10nm未満の場合、トランジスタ素子として動作しないことがあり、1,000nmを超える場合は、製造コスト、材料コストが高くなるという問題を生じる。一方、ベース電極13も、真空蒸着、スパッタリング、CVDなどの真空プロセスあるいは塗布プロセスにより形成され、その膜厚は使用する材料などによっても異なるが、例えば、上記の通り0.5nm〜100nmであることが好ましい。
【0068】
(暗電流抑制層)
本実施形態のトランジスタ素子においては、暗電流を抑制する目的で、暗電流抑制層を形成することができる。暗電流抑制層は、ベース電極13を形成した後に、当該ベース電極13を加熱処理して形成することが好ましい。さらに、本実施形態のトランジスタ素子において、前記ベース電極13を金属から形成し、該ベース電極13の片面または両面に該金属の酸化膜を形成することにより、エミッタ電極12−ベース電極13間に電圧Vbを印加しない場合に流れる暗電流を効果的に抑制することができる。
【0069】
上記したように、暗電流抑制層がコレクタ電極11とベース電極13との間に設けられていることにより、暗電流が流れるのを効果的に抑制することができ、その結果、オン/オフ比をより向上させることができる。このように本実施形態のトランジスタ素子は、見かけ上バイポーラトランジスタと同様の電流増幅型のトランジスタ素子として有効に機能し、高いオン/オフ比、大きなコレクタ電流、電流増幅率を示す優れた有機トランジスタ素子として機能する。
【0070】
(発光トランジスタ素子)
本発明の発光トランジスタ素子は、トランジスタ素子(MBOT)のエミッタ層22に発光層を有する発光トランジスタ素子A、コレクタ層21に発光層を有する発光トランジスタ素子Bがある。
【0071】
本発明の発光トランジスタ素子Aは、図2に示すように本発明のトランジスタ素子(MBOT)のベース電極13とエミッタ電極12との間に有機EL発光素子部31を有し、該有機EL発光素子部31が有機発光層と、必要に応じて正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層および電子注入層よりなる群から選ばれた1または2層以上とからなっている。
【0072】
また、本発明の発光トランジスタ素子Bは、図3に示すように本発明のトランジスタ素子(MBOT)のベース電極13とコレクタ電極11との間に有機EL発光素子部31を有し、該有機EL発光素子部31が有機発光層と、必要に応じて正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層および電子注入層よりなる群から選ばれた1または2層以上とからなっている。
【0073】
(発光トランジスタ素子A)
本発明のトランジスタ素子(MBOT)のエミッタ層22に有機EL発光素子部31を形成することにより、ベース電極13からのホール電流に関連している正孔と、エミッタ電極からの電子との再結合により生成された励起子が失活することで発光する。従って、本実施形態のトランジスタ素子は、発光トランジスタ素子Aとして使用することができる。発光層は、有機EL素子などに使用される発光材料であれば問題なく使用することができ、p型有機半導体層とn型有機半導体層の間に形成される。また、n型有機半導体層、または、p型有機半導体層を発光性有機半導体材料で形成する場合は、該有機半導体層は発光層を兼ねることができ、新たに発光層を形成しなくてもよい。また、発光効率を高める場合には、電子注入層、正孔注入層を形成してもよい。
【0074】
発光トランジスタ素子Aの構造は、図2に示すように、ベース電極13とエミッタ電極12との間に有機EL発光素子部31を有し、該有機EL発光素子部31が有機発光層を含み、必要に応じて正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層および電子注入層から選ばれた1または2層以上を含むことを特徴とし、その有機EL発光素子部31が少なくとも1層以上の発光層を含むので大電流による発光が可能になる。従来のSIT構造のようなベース電極の微細パターニングが不必要であるとともに、低電圧で大電流変調が可能であり、さらにオン/オフ比を向上させることができるので、発光トランジスタ素子Aは簡単な構造を有する実用的な発光トランジスタ素子として提供できる。
【0075】
(発光トランジスタ素子B)
本発明の発光有機トランジスタ素子Bは、図3に示すようにベース電極13とコレクタ電極11との間に有機EL発光素子部31を有し、該有機EL発光素子部が有機発光層を含み、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層および電子注入層から選ばれた1または2層以上を含む発光層を含む有機発光トランジスタ素子となる。発光有機トランジスタ素子Bは、有機EL発光素子部と駆動トランジスタを一組にすることとともに、さらに従来のSIT構造のようなベース電極の微細パターニングが不必要であり、大電流変調が可能であり、さらにオン/オフ比が高いことにより、発光輝度が高く、コントラストに優れ、周波数特性の優れた自発光が可能な発光トランジスタ素子として提供できる。また、発光有機トランジスタ素子Bは、蒸着法のみで作成も可能で、プラスチックなどのフレキシブルな基板上にも素子を形成することが可能であり、小型軽量化された簡単な構造からなる実用性の高い発光トランジスタ素子として提供できる。
【0076】
本発明の発光トランジスタBの構造は、図3に示すようにベース電極13とコレクタ電極11との間に有機EL発光素子部31を有し、当該有機EL発光素子部31が少なくとも発光層を1層以上含むので、大電流による面状発光が可能になる。従来のSIT構造のようなベース電極の微細パターニングが不必要であるとともに、低電圧で大電流変調が可能であり、さらにオン/オフ比を向上させることができるので、簡単な構造からなる実用的な発光トランジスタ素子として提供できる。本発光トランジスタ素子Bは、エミッタ層が電子輸送性材料からなるn型半導体層であるので、電子輸送層を特別に設けていないが、必要に応じて有機EL発光素子部31のベース電極13側に設けてもよい。
【0077】
(有機EL発光素子部)
発光トランジスタ素子Aに用いる図4に示した有機EL発光素子部31は、正極となる電極側(ベース電極側)から順に正孔注入層41、正孔輸送層42、発光層43が設けられている。発光層43のエミッタ電極12(図2参照)側には励起子ブロック層44が設けられ、エミッタ電極12の下にn型有機半導体層22A(図2参照)からなる電子輸送層が形成されている。この発光トランジスタ素子Aは、多くの電荷が加速されて有機EL発光素子部31の発光層43に到達するので、エミッタ電極12からの電荷の注入は容易である。したがって、有機EL発光素子部31は必ずしも電荷注入層を有していなくてもよいという利点がある。そのため、従来のように電子を注入し易いが酸化し易いアルカリ金属を陰極として用いなくてもよいという効果がある。
発光トランジスタ素子Bに用いる有機EL発光素子部31(図3参照)の構成は、図4に示されている構成とは上下が逆になり、さらに「正孔」を「電子」に置き換える必要がある。すなわち、コレクタ電極11からベース電極13側に向かって(図3参照)、「励起子ブロック層」、「発光層」、「電子輸送層」、「電子注入層」の順に積層されている。この発光トランジスタ素子Bは、多くの電荷が加速されて有機EL発光素子部31の発光層に到達するので、コレクタ電極11からの電荷注入は容易である。従って、有機EL素子部31は必ずしも電荷注入層を有しなくてもよい利点がある。
【0078】
本発明における有機EL発光素子部31に使用される発光層43の形成材料は、有機EL素子の発光層として一般的に用いられている材料であれば特に限定されず、例えば色素系発光材料、金属錯体系発光材料、高分子系発光材料などを挙げることができる。
【0079】
色素系発光材料としては、例えば、シクロペンタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどを挙げることができる。
【0080】
金属錯体系発光材料としては、例えば、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、フェナントロリン、ユーロピウム錯体など、中心金属に、Al、Zn、Beなど、またはTb、Eu、Dyなどの希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体などを挙げることができる。
【0081】
高分子系発光材料としては、例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリフルオレノン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、およびそれらの共重合体などを挙げることができる。
【0082】
発光層43中には、発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的でドーピング剤などの添加剤を添加してもよい。ドーピング剤としては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン誘導体、フェノキサゾン誘導体、キノキサリン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体などを挙げることができる。
【0083】
本発明における有機EL発光素子部31に使用される正孔注入層41の形成材料として、例えば、発光層43の発光材料に例示した化合物の他、フェニルアミン系誘導体、スターバースト型アミン系誘導体、フタロシアニン系誘導体、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウムなどの酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェンなどの誘導体などを挙げることができる。
【0084】
本発明における有機EL発光素子部31に使用される正孔輸送層42の形成材料として、例えば、前記有機半導体層に使用できるp型半導体材料が使用できる。例えば、フタロシアニン、ナフタロシアニン、ポリフィリン、オキサジアゾール、トリフェニルアミン、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、ピラゾリン、テトラヒドロイミダゾール、ヒドラゾン、スチルベン、ペンタセン、ポリチオフェンおよびブタジエン、ならびにこれらの誘導体など、正孔輸送材料として通常使用されるものを用いることができる。また、正孔輸送層42の形成材料として市販されている正孔輸送性材料、例えばポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネート(略称PEDOT/PSS、商品名;「CLEVIOS P」H.C. Starck Clevis GmbH製など)なども使用することができる。正孔輸送層42は、蒸着法、または、こうした化合物を含有した正孔輸送層形成用塗液を用いて形成される。なお、これらの正孔輸送材料は、上記の発光層43内に混ぜてもよいし、正孔注入層41内に混ぜてもよい。
【0085】
本発明における正孔輸送層材料として、前記した材料を用いることができる。なお、上述した発光層43や電荷輸送層などの有機層中には、必要に応じて発光材料または電荷輸送もしくは注入オリゴマーもしくはデンドリマー材料を含有させてもよい。正孔輸送層42の電荷移動度として、10-6cm2/Vs以上の正孔移動度を有することが好ましい。ただし、電子よりも正孔の輸送性の高い物質であれば、これら以外のものを用いてもよい。なお、正孔輸送層42は正孔輸送性の高い物質を一種類含む単層のものだけでなく、異なった種類の上記物質をそれぞれ含む層が二層以上積層したものとしてもよい。
【0086】
本発明における有機EL発光素子部31は必要であれば電子注入層を含むことが可能である。電子注入層の形成材料としては、例えば、発光層43の発光材料に例示した化合物の他、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ金属類およびアルカリ土類金属類、並びに、これらのハロゲン化物および酸化物などを挙げることができる。
【0087】
本発明における有機EL発光素子部31の励起子ブロック層44は、正孔ブロック層、電子ブロック層などとして機能し、キャリア(正孔、電子)のつきぬけを防止し、効率よくキャリアを再結合させる。バソキュプロイン(BCP)を励起子ブロック層44の形成材料として用いた場合、エネルギーダイアグラムにおいて、BCPのLUMOエネルギーレベルがMe−PTCとほぼ同じなので励起子ブロック層44はMe−PTCからの電子をブロックしないが、BCPのHOMOエネルギーレベルがAlq3よりも高いのでAlq3からの正孔はブロックする。BCPの励起状態はAlq3の励起状態よりもエネルギーが高いので、Alq3で発生した励起子はBCPに拡散しない。
【0088】
前述した、本発明の有機EL発光素子部31を構成する各層は、真空蒸着法によって成膜するか、あるいは、それぞれの形成材料をトルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの溶媒に溶解、または、分散させて塗布液を調製し、それらの塗布液を塗布または印刷装置などにより塗布または印刷などすることで形成される。
【実施例】
【0089】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、実施例および比較例で作製したトランジスタ素子は、次の方法により評価した。
(トランジスタ素子の評価)
作製したトランジスタ素子について、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧(Vc)を印加し、エミッタ電極−ベース電極間に印加するベース電圧(Vb)を0V〜3Vの範囲で変調させた。このトランジスタ素子の出力変調特性として、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧(Vc)を一定に維持しながら、エミッタ電極−ベース電極間にベース電圧Vb(0〜3V)を印加したときの、ベース電流Ib、および、コレクタ電流Icの変化量(オフ電流、オン電流)を測定した。また、ベース電流の変化に対するコレクタ電流の対応する変化の比率、すなわち、電流増幅率(hFE)、およびオン電流と対応するオフ電流の比率、すなわち、オン/オフ比を算出した。
【0090】
実施例1[ダイオード構造(C60/銅フタロシアニン)によるトランジスタ素子の作製]
図5に示すように、ITO透明基板をコレクタ電極11として用意した。該コレクタ電極11上に有機半導体材料であるジメチルペリレンテトラカルボン酸ジイミド(Me−PTCDI)からなる平均厚さ250nmの有機半導体層を形成した後、フラーレン(C60)からなる平均厚さ50nmの有機半導体層を形成してコレクタ層21を作成した。次に、電子注入層としてフッ化リチウムからなる平均厚さ3nmの電極層を形成した後、アルミニウムからなる平均厚さ15nmのベース電極層を積層して、ベース電極13を形成した。ベース電極13上に、銅フタロシアニンからなるp型有機半導体層(平均膜厚30nm)と、さらに、フラーレン(C60)からなるn型有機半導体層(平均膜厚:50nm)とを真空蒸着法でその順で積層し、ダイオード構造のエミッタ層22を作成した。次に、銀からなる平均厚さ30nmのエミッタ電極12を、真空蒸着法で積層し、実施例1のメタルベース有機トランジスタ素子(MBOT)を得た。
【0091】
実施例1で得られたトランジスタ素子の出力変調特性として、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧Vcを3Vで一定に維持しながら、エミッタ電極−ベース電極間にベース電圧Vb(0〜2V)を印加したときと印加しないときの、コレクタ電流Icおよびベース電流Ibの変化量を測定した。ベース電圧を印加したときのコレクタ電流の変化(Ic−Vb特性)を図7に示す。また、コレクタ電圧Vc=3V、ベース電圧Vb=1.1Vを印加したときの、コレクタ電流Icのオン電流および電流増幅率、Vb=0Vの時のオフ電流、さらに、オン/オフ比を表1に示す。
【0092】
実施例2[ダイオード構造(C60/ペンタセン)によるトランジスタ素子の作製]
実施例1と同様に、ITO透明基板をコレクタ電極11を用意した。該コレクタ電極11上に有機半導体材料であるジメチルペリレンテトラカルボン酸ジイミド(Me−PTCDI)からなる平均厚さ250nmの有機半導体層を形成した後、フラーレン(C60)からなる平均厚さ50nmの有機半導体層を形成してコレクタ層21を作成した。これに、電子注入層としてフッ化リチウムからなる平均厚さ3nmの電極層を形成した後、アルミニウムからなる平均厚さ15nmのベース電極層を積層して、ベース電極13を形成した。ベース電極13上に、ペンタセンからなるp型有機半導体層(平均膜厚30nm)と、フラーレン(C60)からなるn型有機半導体層(平均膜厚:50nm)とを真空蒸着法でその順に積層し、ダイオード構造のエミッタ層22を作成した。さらに、銀からなる平均厚さ30nmのエミッタ電極12を、真空蒸着法で積層し、実施例2のメタルベース有機トランジスタ素子(MBOT)を得た。
【0093】
実施例2で得られたトランジスタ素子の出力変調特性として、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧Vcを3Vで一定に維持しながら、エミッタ電極−ベース電極間にベース電圧Vb(0〜2V)を印加したときと印加しないときの、コレクタ電流Icおよびベース電流Ibの変化量を測定した。ベース電圧を印加したときのコレクタ電流の変化(Ic−Vb特性)を図8に示す。また、コレクタ電圧Vc=3V、ベース電圧Vb=1.7Vを印加したときの、コレクタ電流Icのオン電流および電流増幅率、Vb=0Vの時のオフ電流、さらに、オン/オフ比を表2に示す。
【0094】
実施例3[ダイオード構造(B4PYMPM/ペンタセン)による発光トランジスタ素子の作製]
図6に示すように、ITO透明基板をコレクタ電極11を用意した。該コレクタ電極11上に有機半導体材料であるジメチルペリレンテトラカルボン酸ジイミド(Me−PTCDI)からなる平均厚さ250nmの有機半導体層を形成した後、フラーレン(C60)からなる平均厚さ50nmの有機半導体層を形成し、積層構造であるコレクタ層21を作成した。これに、電子注入層としてフッ化リチウムからなる平均厚さ3nmの電極層を形成した後、アルミニウムからなる平均厚さ15nmの電極層を積層して、ベース電極13を形成した。ベース電極13上に、ペンタセンからなるp型有機半導体層(平均膜厚30nm)22Bを形成し、正孔輸送材料としてα−NPD(Bis[N−(1−naphthyl)−N−pheny]benzidine)からなる正孔輸送層(平均膜厚:10nm)、Alq3((トリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム)錯体)からなる有機発光層43(平均膜厚:20nm)、電子輸送材料であるピリミジン誘導体B4PYMPM(下記式(1))からなる電子輸送層22A(平均膜厚:10nm)、電子注入層としてフッ化リチウム(平均膜厚:0.5nm)とを順次真空蒸着法により積層し、有機発光層43を挟み込むダイオード構造であるエミッタ層22を形成した。さらに、エミッタ層22上に、アルミニウムからなる平均厚さ100nmのエミッタ電極12を、真空蒸着法で積層し、実施例3の発光メタルベース有機トランジスタ素子を得た。
【0095】

【0096】
得られた発光トランジスタ素子に、コレクタ電圧(Vc=12V)を印加し、発光を確認したところ、ベース電圧を印加しない場合(Vb=0V)、発光が確認されないが、ベース電圧を印加(Vb=10V)すると、エミッタ層からの発光が確認された。
【0097】
比較例1[C60によるトランジスタ素子の作製]
ITO透明基板をコレクタ電極とし、実施例1と同様にしてコレクタ層を形成した。これに、実施例1と同様に、電子注入層としてフッ化リチウムからなる3nmの電極層を形成した後、アルミニウムからなる平均厚さ15nmのベース電極層を積層して、ベース電極を形成した。ベース電極上に、フラーレン(C60)からなるn型有機半導体層(80nm)を真空蒸着法で積層し、n型有機半導体材料からなる非ダイオード構造をエミッタ層として作成した。さらに、銀からなる平均厚さ30nmのエミッタ電極を真空蒸着法で積層し、比較例1のトランジスタ素子を得た。
【0098】
(評価結果)
得られたトランジスタ素子の出力変調特性として、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧Vcを3Vで一定に維持しながら、エミッタ電極−ベース電極間にベース電圧Vb(0〜2V)を印加したときと印加しないときの、コレクタ電流Icおよびベース電流Ibの変化量を測定した。本トランジスタ素子は、MBOTとして動作が確認された。その評価結果を表1、表2、図7、図8に示す。
【0099】

【0100】

【0101】
実施例1の有機トランジスタ素子は、電流増幅型トランジスタ素子としての機能が確認された。低電圧下において98.4という大きな増幅率を示すとともに、そのオン電流は36.4mA/cm2(Vb=1.1V)、145mA/cm2(Vb=2.0V)と、トランジスタ素子として非常に大きな電流が変調された。また、オン/オフ比(Vb=1.1V)は、20.3であった。
実施例2の有機トランジスタ素子も、電流増幅型トランジスタ素子としての機能が確認された。低電圧下において160.4という大きな増幅率を示すとともに、そのオン電流は42.5mA/cm2(Vb=1.7V)、62mA/cm2(Vb=2.0V)と、トランジスタ素子として非常に大きな電流が変調された。また、オン/オフ比(Vb=1.7V)は、116.8であった。
一方、比較例1のトランジスタ素子は、MBOTとして動作し、電流増幅性を有し、暗電流が抑制されたトランジスタ素子として機能することが確認された。しかし、コレクタ電圧(Vc=3V)を印加したときの、オン電流値は2.2mA/cm2(Vb=1.1V)、7.1mA/cm2(Vb=1.7V)と小さい電流しか得ることができなかった。
実施例1および2のトランジスタ素子は、そのオン電流として比較例1のトランジスタ素子から得られる対応するオン電流の17倍および6倍の大きな電流を得、また、オフ電流も抑制された。従って、実施例1および2のトランジスタ素子は優れたトランジスタ特性を示した。また、実施例3の発光トランジスタ素子は高いオン/オフ比を示すことが確認された。
【0102】
このように本発明のトランジスタ素子は、低電圧下において、大電流変調ができ、オン/オフ比も高く、見かけ上バイポーラトランジスタと同様の電流増幅型のトランジスタ素子として有効に機能することが確認できた。また、エミッタ層に発光層を導入することにより、本発明のトランジスタ素子の効果を備えた、自発光する発光トランジスタ素子を得られることも確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明のトランジスタ素子は、オフ電流が小さく、オン/オフ比が高くなるため、有機ELディスプレイなどのディスプレイ用駆動素子、有機発光層を組み込んだ場合、有機発光トランジスタ素子として利用することができる。
【符号の説明】
【0104】
11:コレクタ電極
12:エミッタ電極
13:ベース電極
21:有機半導体層(コレクタ層)
22:有機半導体層(エミッタ層)
22A:n型有機半導体層、または、p型有機半導体層
22B:p型有機半導体層、または、n型有機半導体層
31:有機EL発光素子部
41:正孔注入層
42:正孔輸送層
43:発光層
44:励起子ブロック層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エミッタ電極と、コレクタ電極と、該エミッタ電極とコレクタ電極との間に形成された第1および第2の有機半導体層と、該第1の有機半導体層と第2の有機半導体層との間に形成されたシート状のベース電極とが設けられている電流増幅型トランジスタ素子において、前記第1の有機半導体層が前記エミッタ電極と前記ベース電極との間に設けられ、p型有機半導体層とn型有機半導体層とのダイオード構造を有することを特徴とする電流増幅型トランジスタ素子。
【請求項2】
前記第2の有機半導体層が前記コレクタ電極と前記ベース電極との間に設けられたn型有機半導体層からなり、前記第1の有機半導体層が、前記ベース電極上に形成されたp型有機半導体料層と、前記エミッタ電極下に形成されたn型半導体層とからなるダイオード構造を有する請求項1に記載の電流増幅型トランジスタ素子。
【請求項3】
前記第1の有機半導体層中の前記p型有機半導体および前記n型有機半導体が、それぞれ、正孔輸送材料層および電子輸送材料層である請求項2に記載の電流増幅型トランジスタ素子。
【請求項4】
前記第1の有機半導体層中の前記p型有機半導体層が金属フタロシアニンまたは無金属フタロシアニンよりなる請求項2に記載の電流増幅型トランジスタ素子。
【請求項5】
前記第1の有機半導体層中の前記p型有機半導体層がペンタセンよりなる請求項2に記載の電流増幅型トランジスタ素子。
【請求項6】
前記第2の有機半導体層が前記コレクタ電極と前記ベース電極との間に設けられ、ジメチルペリレンテトラカルボン酸ジイミド(Me−PTCDI)からなる有機半導体層とフラーレン(C60)からなる有機半導体層とを積層した積層有機半導体層からなる請求項1〜5のいずれか1項に記載の電流増幅型トランジスタ素子。
【請求項7】
前記ベース電極と前記第2の有機半導体層との間に形成されたフッ化リチウム層をさらに有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の電流増幅型トランジスタ素子。
【請求項8】
5V以下の低電圧における電流増幅率が50以上である請求項1〜7のいずれか1項に記載の電流増幅型トランジスタ素子。
【請求項9】
オン/オフ比が100以上である請求項1〜8のいずれか1項に記載の電流増幅型トランジスタ素子。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の電流増幅型トランジスタ素子と、前記第1の有機半導体層における前記p型有機半導体層とn型有機半導体層との間に形成された有機EL発光素子部とからなり、該有機EL発光素子部が有機EL発光層と、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層および電子注入層よりなる群から選択された少なくとも1層とからなることを特徴とする電流増幅型発光トランジスタ素子。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の電流増幅型トランジスタ素子と、前記第2の有機半導体層と前記コレクタ電極との間に形成された有機EL発光素子部とからなり、該有機EL発光素子部が有機EL発光層と、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層および電子注入層よりなる群から選択された少なくとも1層とからなることを特徴とする電流増幅型発光トランジスタ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−519369(P2012−519369A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534956(P2011−534956)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【国際出願番号】PCT/JP2010/065576
【国際公開番号】WO2011/027915
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【出願人】(509131786)
【Fターム(参考)】