説明

アクティブステアリング装置の作動をアクティブサスペンション装置により援助する車輌

【課題】より低出力のアクチュエータにより電力消費をよりよく抑制してより高性能のアクティブ操舵を行うことができるアクティブステアリング装置を備えた車輌を提供する。
【解決手段】アクティブステアリング装置とアクティブサスペンション装置とを備えた車輌に於いて、アクティブステアリング装置の作動時にアクティブ操舵される車輪の接地荷重をアクティブサスペンション装置により低減するようアクティブステアリング装置の作動をアクティブサスペンション装置により援助する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクティブステアリング装置とアクティブサスペンション装置とを備えた車輌に係り、特にアクティブステアリング装置の作動に関連してアクティブサスペンション装置の作動を制御することに係わる。
【背景技術】
【0002】
車体に車輪を懸架するサスペンション装置に組み込まれたショックアブソーバの油圧をコンピュータ制御すること等により各車輪の車体に対する支持車高または支持荷重を可変に制御するアクティブサスペンション装置が知られている。また車輌の操作特性をコンピュータにより制御すべく、運転者により操舵される操舵輪に於いて運転者による操舵角にコンピュータ制御による修正を加え、或いは運転者によっては操舵されない非操舵輪がコンピュータ制御により或る限られた角度範囲内にて操舵されるようにするアクティブステアリング装置も知られている。
【0003】
アクティブサスペンション装置の一つの用例として、車輌の旋回時にコンピュータ制御により旋回の内側に位置する車輪のサスペンション油圧を下げると共に旋回の外側に位置する車輪のサスペンション油圧を上げ、車輌の旋回半径を小さくすることが下記の特許文献1に記載されている。またアクティブステアリング装置の一つの用例として、電動パワーステアリング装置に於いて、車速と操舵速度とに基づいて、車輌の走行状態が、高速走行であって操舵速度が低く、運転者が操舵フィーリングを鋭敏に感ずる高感応領域にあるか否かを判定し、その判定結果に応じて操舵トルクセンサにより検出された操舵トルクに応じた電動機のサーボ制御に於ける制御ゲインを変更することが下記の特許文献2に記載されている。
【特許文献1】特開平10-264634
【特許文献2】特開2001-18822
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アクティブステアリング装置は、より低レベルの指令信号に対してより速やかにそれに追従した制御操舵を達成することができるほど、より高性能のものとなるが、それにはより強力なアクチュエータを必要とし、それは製造コストの上昇と消費電力の増大を招く。
【0005】
本発明は、より低出力のアクチュエータにより電力消費をよりよく抑制してより高性能のアクティブ操舵を行うことができるアクティブステアリング装置を備えた車輌を提供すること課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を達成するものとして、本発明は、アクティブステアリング装置とアクティブサスペンション装置とを備えた車輌にして、アクティブステアリング装置の作動をアクティブサスペンション装置により援助するようになっていることを特徴とする車輌を提案するものである。
【0007】
アクティブサスペンション装置によるアクティブステアリング装置の作動援助は、アクティブステアリング装置の作動時にアクティブステアリング装置によりアクティブ操舵される車輪の接地荷重をアクティブサスペンション装置により低減することであってよい。
【0008】
その場合、アクティブステアリング装置によりアクティブ操舵される車輪の接地荷重の低減は該車輪に対して設けられたアクティブサスペンション装置による支持車高または支持荷重を急減することにより行われるようになっていてよく、更にその場合、支持車高または支持荷重の急減は所定の時間だけまたは所定の車高低減または荷重低減が生ずるまで行われるようになっていてよい。またいずれの場合にも、急減された支持車高または支持荷重は、その後元の支持車高また支持荷重に緩増復帰されるようになっていてよい。
【0009】
或いはまた、車輌が前輪と後輪とを有する場合、アクティブサスペンション装置によるアクティブステアリング装置の作動援助は、アクティブステアリング装置の作動時にアクティブステアリング装置によりアクティブ操舵される車輪とは前後反対の車輪の接地荷重をアクティブサスペンション装置により増大させることにより行われるようになっていてもよい。
【0010】
その場合、アクティブステアリング装置によりアクティブ操舵される車輪とは前後反対の車輪の接地荷重の増大は該車輪に対して設けられたアクティブサスペンション装置による支持車高または支持荷重を急増することにより行われるようになっていてよく、更にその場合、支持車高または支持荷重の急増は所定の時間だけまたは所定の車高増大または荷重増大が生ずるまで行われるようになっていてよい。またいずれの場合にも、急増された支持車高または支持荷重は、その後元の支持車高また支持荷重に緩減復帰されるようになっていてよい。
【0011】
アクティブサスペンション装置によるアクティブステアリング装置の作動援助は、アクティブステアリング装置による制御操舵角速度が所定の上限値を越えたことまたはアクティブステアリング装置の制御操舵パワーが所定の上限値を越えたことを一つの条件として発動されるようになっていてよい。
【0012】
車輌が前輪と後輪とを有し、アクティブステアリング装置によりアクティブ操舵される車輪は前輪である場合、アクティブステアリング装置の作動時にアクティブサスペンション装置は前輪の接地荷重を低減するようになっていても、或いはアクティブサスペンション装置は後輪の接地荷重を増大するようになっていてもよい。
【0013】
車輌が前輪と後輪とを有し、アクティブステアリング装置によりアクティブ操舵される車輪は後輪である場合、アクティブステアリング装置の作動時にアクティブサスペンション装置は後輪の接地荷重を低減するようになっていても、或いはアクティブサスペンション装置は前輪の接地荷重を増大するようになっていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
アクティブステアリング装置とアクティブサスペンション装置とを備えた車輌に於いて、アクティブステアリング装置の作動をアクティブサスペンション装置により援助するようになっていれば、アクティブステアリング装置のアクチュエータを低出力のものとし、アクティブステアリング装置のコストとその消費電力を抑制して高性能のアクティブ操舵を行うことができる。
【0015】
アクティブステアリング装置のアクチュエータに要求される出力はアクティブ操舵を行うべき車輪の接地荷重にほぼ比例するので、該車輪の接地荷重をアクティブサスペンション装置の援助により下げることができれば、アクティブステアリング装置のアクチュエータをより低出力のものとしても、アクティブステアリング装置を、より低レベルの指令信号に対してより速やかに追従して制御操舵を達成する、より高性能のものとすることができる。
【0016】
操舵輪の操舵力は操舵輪にその進行方向に対し垂直に作用するコーナリングフォースにより表され、コーナリングフォースは操舵輪の操舵角があまり大きくない間は操舵輪の回転平面に対して操舵輪の進行方向がなすスリップ角の大きさにほぼ比例する。従って、コーナリングフォースを変えるには操舵輪の操舵角を変えればよい。操舵輪のアクティブ制御はこれをコンピュータにより行うものである。しかし、操舵輪の操舵角を変えるには操舵輪の接地荷重にほぼ比例した力を要する。一方、スリップ角の増大率に対するコーナリングフォースの増大率の比はコーナリングパワーと称され、操舵輪の操舵性能を表すが、この値も操舵輪の接地荷重にほぼ比例する。従って、単に操舵輪の接地荷重を下げるだけでは、操舵を有利にすることにはならない。
【0017】
ところで、車輪の接地荷重は、静的には車体の重心と各車輪の相対的配置に基づいて幾何学的に定まる各輪の荷重分担比に対応するが、車体が複数個の車輪により支持されている場合に、その一部の車輪に於ける支持力が急に低減されると、支持力が急減された車輪の接地荷重は一瞬低下する。逆に車体が複数個の車輪により支持されている場合に、その一部の車輪に於ける支持力が急に増大されると、支持力が急増された車輪を除く他の車輪の接地荷重は一瞬低下する。これは、車体にその質量に基づく慣性と重心周りの慣性モーメントがあることによるものであり、かかる接地荷重の低減はやがては消滅するものであるが、アクティブステアリング装置による操舵輪のアクティブ操舵は通常一瞬の間に行われる操作であるので、車体を支持する複数個の車輪の一部に於ける支持力を急減したり或いは急増したとき、その一瞬に生ずる車輪接地荷重の低下を利用してアクティブステアリング装置にアクティブ操舵を行わせれば、操舵に有効なコーナリングパワーを下げることなくアクティブ操舵に要する操舵力のみを低減させることができる。
【0018】
車輛のサスペンションは通常スプリングとショックアブソーバとを備えているので、スプリングのばね力或いはショックアブソーバのストロークをアクティブに調節することができるアクティブサスペンション装置によれば、支持車高または支持荷重の調節により車体に対する車輪の支持力を調節することができる。そこで、アクティブステアリング装置によりアクティブ操舵される車輪に対して設けられたアクティブサスペンション装置により該車輪部に於ける支持車高または支持荷重を急減すれば、当該車輪の支持力を一瞬低下させてアクティブ操舵に要する操舵力のみを低減する接地荷重低減を図ることができる。この場合、その一瞬の期間を適切に確保することは、支持車高または支持荷重の急減を所定の時間だけ行うこと、または所定の車高低減または荷重低減が生ずるまで行うことによって達成される。またいずれの場合にも、急減された支持車高または支持荷重を、その後元の支持車高また支持荷重に緩増復帰させることにより、アクティブサスペンション装置の負荷を最低限に保ってアクティブ操舵後の車高およびコーナリングパワーを元の値に維持することができる。
【0019】
ほぼ同様のアクティブサスペンション装置によるアクティブステアリング装置の作動援助を、車輌が前輪と後輪とを有する場合に、アクティブステアリング装置の作動時にアクティブステアリング装置によりアクティブ操舵される車輪とは前後反対の車輪の接地荷重をアクティブサスペンション装置により増大させることにより行うことができ、この場合、アクティブステアリング装置によりアクティブ操舵される車輪とは前後反対の車輪に対して設けられたアクティブサスペンション装置による支持車高または支持荷重を急増することにより、その一瞬の間にアクティブステアリング装置によりアクティブ操舵される車輪の接地荷重を下げることができる。この場合にも、支持車高または支持荷重の急増を所定の時間だけまたは所定の車高増大または荷重増大が生ずるまで行うことにより、アクティブ操舵される車輪の接地荷重が下がる瞬間を適切に確保することができる。またこの場合にも、急増された支持車高または支持荷重を、その後元の支持車高また支持荷重に緩減復帰させることにより、アクティブサスペンション装置の負荷を最低限に保ってアクティブ操舵後の車高およびコーナリングパワーを元の値に維持することができる。尚、本発明のためのアクティブサスペンション装置の作動に要する力の大きさの観点からは、アクティブ操舵を行おうとする車輪の車体に対する支持車高または支持荷重を急減させる方が、アクティブ操舵を行おうとする車輪以外の車輪の支持車高または支持荷重を急増させるより有利である。
【0020】
アクティブサスペンション装置によるアクティブステアリング装置の作動援助が、アクティブステアリング装置による制御操舵角速度が所定の上限値を越えたことまたはアクティブステアリング装置の制御操舵パワーが所定の上限値を越えたことを一つの条件として発動されるようになっていれば、アクティブステアリング装置のアクチュエータがその出力の限界に近づいたときのみ、それを援助するようにアクティブサスペンション装置を作動させることができる。
【0021】
車輛が前輪と後輪とを有する場合、アクティブステアリング装置によりアクティブ操舵される車輪は前輪または後輪のいずれの場合もあるが、アクティブステアリング装置は通常支持車高または支持加重を低減する方向にも増大する方向にも作動するので、アクティブステアリング装置の作動を援助するアクティブサスペンション装置もまた前輪または後輪のいずれに対するものであってもその作動方向を設定することにより本発明に適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、本発明による車輌の本発明に係る構成を、図示の便宜上、そのいくつかの実施の形態を同時に組み込んだ態様にて示す概略図である。図に於いて、10は四輪自動車の車体であり、12FL,12FR,12RL,12RRはそれぞれ左前輪、右前輪、左後輪、右後輪である。車体10はこれら前後左右の4輪により図にて円形により解図的に示されている左前輪用サスペンション装置14FL、右前輪用サスペンション装置14FR、左後輪用サスペンション装置14RL、右後輪用サスペンション装置14RRを介して支持されている。
【0023】
上記の通り図1は、図示の便宜上、本発明に関与する構成をそのいくつかの実施の形態を同時に組み込んだ態様にて示すものであることから、前後左右の4輪に対するサスペンション装置は全てアクティブサスペンション装置とされている。これらのアクティブサスペンション装置には、通常の車輪懸架用のリンク機構、サスペンションスプリングおよびショックアブソーバが含まれていてよく、車体対するそれらの支持車高または支持荷重を変えるためのアクティブ手段は、種々の公知の要領にてショックアブソーバまたはサスペンションスプリングに組み込まれていてよい。
【0024】
一対の前輪12FLおよび12FRは、ステアリングホイール(ハンドル)16よりステアリングカラム18、ステアリングギア20、タイロッド22、ナックルアーム24FL,24FRを経て操舵されるようになっており、また図1は、図示の便宜上、本発明に関与する構成をそのいくつかの実施の形態を同時に組み込んだ態様にて示すものとして、一対の後輪12RLおよび12RRも、ステアリングギア26、タイロッド28、ナックルアーム30RL,30RRを経て操舵されるようになっている。
【0025】
一対の前輪12FLおよび12FRは通常通り運転者によるステアリングホイール16の回動操作により運転者の意に応じて操舵されると同時に、ステアリングギア20内に組み込まれた変速機構がマイクロコンピュータを組み込んだ電子制御装置(ECU)32の指令により操作されることによるアクティブ操舵によっても操舵されるようになっている。一対の後輪12RLおよび12RRはステアリングギア26内に組み込まれた変速機構が電子制御装置32の指令により操作されることによるアクティブ操舵のみによって操舵されるようになっている。
【0026】
電子制御装置32は、図には示されていない車速センサ、加速度センサ、その他種々のセンサ等より送られてくる情報に基づいて車輌の自動運転制御に関する種々の演算および制御を行うものであるが、それに加えて、本発明に於いては、ステアリングギア20および26よりそれぞれの変速状態を示すフィードバック信号を受けつつこれらのステアリングギアの変速状態を制御すると共に、アクティブサスペンション装置14FL〜14RRよりそれぞれの車高センサまたは荷重センサ34FL〜34RRより送られてくる支持車高または支持荷重の状態を示すフィードバック信号を受けつつこれらのアクティブサスペンション装置のアクティブ作動を制御する。本発明は,電子制御装置32の制御判断に基づいてステアリングギア20または26を介して行われるアクティブ操舵制御に関連して,電子制御装置32がアクティブサスペンション装置14FL〜14RRをアクティブ作動させるところにある。以下にそのような本発明の作動をいくつかの実施の形態について詳細に説明する。
【0027】
図2は、本発明の作動を第一の実施の形態について示すフローチャートである。かかるフローチャートに沿った制御判断は電子制御装置32に於いてなされる。
【0028】
車輌の運行開始に伴って本発明による制御が開始されると、ステップ10に於いてアクティブ操舵による制御操舵角速度αcが上限値αcm以下であるか否かが判断される。操舵角速度の大きさは操舵に要する力の大きさを表わし、その値があまり大きくないときには、比較的軽量のアクチュエータによってもアクティブ操舵は支障なく行なえるので、そのような時にはアクティブ操舵に際して本発明によるアクティブサスペンション装置の協調制御を敢えて行うには及ばない。上限値αcmは、そのような制御操舵角速度の上限値を示す値とされてよい。アクティブ操舵が行われていないときも含めて、答がイエスであれば、この回の制御はこれにて終了する。答がノーであれば制御はステップ20へ進む。
【0029】
この実施の形態に於いては、更にステップ20に於いて、アクティブ操舵による制御操舵パワーPcが所定の上限値Pcm以下であるか否かが判断される。制御操舵角速度が比較的低い値であっても、アクティブ操舵による操舵角が大きいときには操舵に要するパワーは大きくなり、アクチュエータにかかる負荷は大きくなる。従って、制御操舵パワーについても上限値を定め、制御操舵パワーがこの上限値を越えるときのみ本発明によるアクティブサスペンション装置の協調制御を行うのが好ましい。ステップ20の答がイエスであれば、この回の制御はこれにて終了するが、答がノーであれば、制御はステップ30へ進む。
【0030】
ステップ30に於いては、フラグFが1であるか否かが判断される。この種のフラグは制御の開始時に0にリセットされるものであり、フラグFは後述のステップ60にて1にセットされるので、当初は答はノーであり、制御はステップ40へ進む。
【0031】
ステップ40に於いては、この場合アクティブ操舵制御が行われるのは前輪であるとして、その時の前輪部の車高Hwfの値がHwfsとして記憶されるか、またはその時の前輪部の荷重Lwfの値がLwfsとして記憶される。次いで制御はステップ50へ進み、タイマがセットされる。タイマは電子制御装置32を構成するマイクロコンピュータの一部に組み込まれたものであってよい。そして更に制御はステップ60
へ進み、フラグFが1にセットされる。
【0032】
次いで制御はステップ70へ進み、アクティブサスペンション装置による前輪部支持車高の急減または前輪部支持荷重の急減が行われる。次いで制御はステップ80へ進み、ステップ50にてセットされたタイマがタイムアウトしたか否かが判断される。当初は答はノーであり、これより制御はステップ30へ戻るが、このときフラグFは今や1にセットされているので、これ以後制御はステップ40〜60をバイパスしてステップ70へ進み、当分の間ステップ70による前輪部支持車高の急減または前輪部支持荷重の急減が続けられる。かかる前輪部支持車高または前輪部支持荷重の急減により前輪の接地荷重は低下するので、前輪のアクティブ操舵に要する操舵力の低減が図られる。
【0033】
前輪部支持車高の急減または前輪部支持荷重の急減による前輪接地荷重の低下は車体の慣性の作用の下に得られる動的な効果であり、ある時間が経過すると消滅する。ステップ50にてセットされるタイマによる計測時間はそのような動的接地荷重低減効果が持続する時間を計るように設定される。そのような時間が経過し、ステップ80の答がノーよりイエスに転ずると、制御はステップ90へ進み、アクティブサスペンション装置による前輪部支持車高の急減または前輪部支持荷重の急減は停止される。アクティブ操舵制御は通常極短時間に行われるので、この時アクティブ操舵の操舵操作は既に終了していると考えられる。
【0034】
次いで制御はステップ100へ進み、前輪部支持車高Hwfがステップ40にて記憶されたHwfsより小さいか否か、または前輪部支持荷重Lwfがステップ40にて記憶されたLwfsより小さいか否かが判断される。当初は答はイエスであり、制御はステップ110へ進み、アクティブサスペンション装置により前輪部支持車高を緩やかに増大させることまたは前輪部支持荷重を緩やかに増大させることが行われる。制御はこれよりステップ100へ戻り、HwfがHwfsに復するまで、またはLwfがLwfsに復するまで、ステップ110に於ける前輪部支持車高の緩増または前輪部支持荷重の緩増が続けられる。そして前輪部支持車高または前輪部支持荷重が急減前の元の値に復し、ステップ100の答がイエスからノーに転ずると、制御はステップ120へ進み、アクティブサスペンション装置による前輪部支持車高の緩増または前輪部支持荷重の緩増が停止される。このとき、アクティブ操舵のための操舵操作が達成された状態で、前輪の接地荷重は元に戻り、コーナリングパワーも元の状態に戻る。その後はステップ130にてタイマがリセットされ、更にステップ140にてフラグFが0にリセットされてこの回の制御は終了する。かかる制御は数10〜数100ミリセカンドの周期にて繰り返されてよい。
【0035】
図3は、本発明の作動を第二の実施の形態について示すフローチャートである。この実施の形態は、前輪のアクティブ操舵制御に際して、前輪の接地荷重を低減させるべく、後輪アクティブサスペンション装置により後輪部に於ける支持車高または支持荷重を急増させる点に於いて図2に示す実施の形態と異なっている。図3に於いては、図2に於けるステップに対応するステップは図2に於けると同じステップ番号により示されている。
【0036】
この第二の実施の形態の於いては、ステップ30に続くステップ45に於いて、その時の後輪部の車高Hwrまたは荷重LwrがHwrsまたはLwrsとして記憶される。そしてステップ60に続くステップ75に於いては、後輪のアクティブサスペンション装置により後輪部支持車高を急増することまたは後輪部支持荷重を急増させることが行われる。以上の変更に対応して、ステップ80に続くステップ95に於いては、アクティブサスペンション装置による後輪部支持車高の急増または後輪部支持荷重の急増が停止される。続くステップ105に於いては、HwrがHwrsより大きいか否かまたはLwrがLwrsより大きいか否かが判断され、その答がイエスである間、ステップ115に於いてアクティブサスペンション装置により後輪部支持車高を緩やかに減じることまたは後輪部支持荷重を緩やかに減じることが行われる。そしてかかる後輪部支持車高の緩減または後輪部支持荷重の緩減により後輪部支持車高または後輪部支持荷重がその急増前の元の値に復したところで制御は終了する。この第二の実施の形態におけるその他の点は、図2について説明した第一の実施の形態とステップ番号を対比することにより明らかであると思われるので、これ以上の説明は明細書の冗長化を避けるため省略する。
【0037】
図4は、本発明の作動を第三の実施の形態について示すフローチャートである。この実施の形態は、図2に示した第一の実施の形態に比して、前輪部支持車高の急減または前輪部支持荷重の急減により車体の慣性の作用の下に得られる動的効果による前輪接地荷重の低下の終了時点を、タイマによる時間計測に代えて、前輪部支持車高の低減量または前輪部支持荷重の低減量により判断している点に於いて異なっている。図4に於いても、図2に於けるステップに対応するステップは図2に於けると同じステップ番号により示されている。
【0038】
そこで、この実施の形態の於いては、ステップ70に続くステップ82に於いて、前輪部支持車高Hwfがステップ40にて記憶されたHwfsより或る所定の偏差量ΔHa以上低下したか否かまたは前輪部支持荷重Lwfがステップ40にて記憶されたLwfsより或る所定の偏差量ΔLa以上低下したか否かが判断されるようになっている。この第三の実施の形態におけるその他の点は、図2について説明した第一の実施の形態とステップ番号を対比することにより明らかであると思われるので、これ以上の説明は明細書の冗長化を避けるため省略する。
【0039】
図5は、本発明の作動を第四の実施の形態について示すフローチャートである。この実施の形態は、図3に示した第二の実施の形態に比して、後輪部支持車高の急増または後輪部支持荷重の急増により車体の慣性の作用の下に得られる動的効果による前輪接地荷重の低下の終了時点を、タイマによる時間計測に代えて、後輪部支持車高の増大量または後輪部支持荷重の増大量により判断している点に於いて異なっている。図5に於いても、図3に於けるステップに対応するステップは図3に於けると同じステップ番号により示されている。
【0040】
そこで、この実施の形態の於いては、ステップ75に続くステップ83に於いて、後輪部支持車高Hwfがステップ40にて記憶されたHwfsより或る所定の偏差量ΔHb以上増大したか否かまたは後輪部支持荷重Lwfがステップ40にて記憶されたLwfsより或る所定の偏差量ΔLb以上増大したか否かが判断されるようになっている。この第四の実施の形態におけるその他の点は、図2について説明した第一の実施の形態および図4について説明した第三の実施の形態とステップ番号を対比することにより明らかであると思われるので、これ以上の説明は明細書の冗長化を避けるため省略する。
【0041】
尚、以上の図2〜5に示した4つの実施の形態に於いては、そのいずれに於いてもアクティブ操舵が前輪に対して行われるようになっているが、アクティブ操舵が後輪について行われる場合にも、同様の要領にてその際後輪の接地荷重を低減する制御が行えることは当業者にとって明らかであろう。
【0042】
以上に於いては、本発明を特定の実施の形態について詳細に説明したが、これらの実施の形態について本発明の範囲内にて種々の変更が可能であることも当業者にとって明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明による車輌の本発明に係る構成を、図示の便宜上、そのいくつかの実施の形態を同時に組み込んだ態様にて示す概略図。
【図2】本発明の作動を第一の実施の形態について示すフローチャート。
【図3】本発明の作動を第二の実施の形態について示すフローチャート。
【図4】本発明の作動を第三の実施の形態について示すフローチャート。
【図5】本発明の作動を第四の実施の形態について示すフローチャート。
【符号の説明】
【0044】
10…車体、12FL〜12RR…車輪、14FL〜14RR…アクティブサスペンション装置、16…ステアリングホイール(ハンドル)、18…ステアリングカラム、20…ステアリングギア、22…タイロッド、24FL,24FR…ナックルアーム、26…ステアリングギア、28…タイロッド、30RL,30RR…ナックルアーム、32…電子制御装置(ECU)、34FL〜34RR…車高センサまたは荷重センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクティブステアリング装置とアクティブサスペンション装置とを備えた車輌にして、アクティブステアリング装置の作動をアクティブサスペンション装置により援助するようになっていることを特徴とする車輌。
【請求項2】
前記アクティブサスペンション装置による前記アクティブステアリング装置の作動援助は、前記アクティブステアリング装置の作動時に該アクティブステアリング装置によりアクティブ操舵される車輪の接地荷重を前記アクティブサスペンション装置により低減することであることを特徴とする請求項1に記載の車輌。
【請求項3】
車輌は前輪と後輪とを有し、前記アクティブサスペンション装置による前記アクティブステアリング装置の作動援助は、前記アクティブステアリング装置の作動時に該アクティブステアリング装置によりアクティブ操舵される車輪とは前後反対の車輪の接地荷重を前記アクティブサスペンション装置により増大させることであることを特徴とする請求項1に記載の車輌。
【請求項4】
前記アクティブステアリング装置によりアクティブ操舵される車輪の接地荷重の低減は該車輪に対して設けられたアクティブサスペンション装置による支持車高を急減することにより行われるようになっていることを特徴とする請求項2に記載の車輌。
【請求項5】
前記支持車高の急減は所定の時間だけ行われることを特徴とする請求項4に記載の車輌。
【請求項6】
前記支持車高の急減は所定の車高低減が生ずるまで行われることを特徴とする請求項4に記載の車輌。
【請求項7】
前記支持車高の急減の後、支持車高が元の支持車高に緩増復帰されるようになっていることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の車輌。
【請求項8】
前記アクティブステアリング装置によりアクティブ操舵される車輪の接地荷重の低減は該車輪に対して設けられたアクティブサスペンション装置による支持荷重を急減することにより行われるようになっていることを特徴とする請求項2に記載の車輌。
【請求項9】
前記支持荷重の急減は所定の時間だけ行われることを特徴とする請求項8に記載の車輌。
【請求項10】
前記支持荷重の急減は所定の荷重低減が生ずるまで行われることを特徴とする請求項8に記載の車輌。
【請求項11】
前記支持荷重の急減の後、支持荷重が元の支持荷重に緩増復帰されるようになっていることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の車輌。
【請求項12】
前記アクティブステアリング装置によりアクティブ操舵される車輪とは前後反対の車輪の接地荷重の増大は該車輪に対して設けられたアクティブサスペンション装置による支持車高を急増することにより行われるようになっていることを特徴とする請求項3に記載の車輌。
【請求項13】
前記支持車高の急増は所定の時間だけ行われることを特徴とする請求項12に記載の車輌。
【請求項14】
前記支持車高の急増は所定の車高増大が生ずるまで行われることを特徴とする請求項12に記載の車輌。
【請求項15】
前記支持車高の急増の後、支持車高が元の支持車高に緩減復帰されるようになっていることを特徴とする請求項12〜14のいずれかに記載の車輌。
【請求項16】
前記アクティブステアリング装置によりアクティブ操舵される車輪とは前後反対の車輪の接地荷重の増大は該車輪に対して設けられたアクティブサスペンション装置による支持荷重を急増することにより行われるようになっていることを特徴とする請求項3に記載の車輌。
【請求項17】
前記支持荷重の急増は所定の時間だけ行われることを特徴とする請求項16に記載の車輌。
【請求項18】
前記支持荷重の急増は所定の荷重増大が生ずるまで行われることを特徴とする請求項16に記載の車輌。
【請求項19】
前記支持荷重の急増の後、支持荷重が元の支持荷重に緩減復帰されるようになっていることを特徴とする請求項16〜18のいずれかに記載の車輌。
【請求項20】
前記アクティブサスペンション装置による前記アクティブステアリング装置の作動援助は該アクティブステアリング装置による制御操舵角速度が所定の上限値を越えたことを一つの条件として発動されるようになっていることを特徴とする請求項1〜19のいずれかに記載の車輌。
【請求項21】
前記アクティブサスペンション装置による前記アクティブステアリング装置の作動援助は該アクティブステアリング装置の制御操舵パワーが所定の上限値を越えたことを一つの条件として発動されるようになっていることを特徴とする請求項1〜20のいずれかに記載の車輌。
【請求項22】
車輌は前輪と後輪とを有し、前記アクティブステアリング装置によりアクティブ操舵される車輪は前輪であり、前記アクティブステアリング装置の作動時に前記アクティブサスペンション装置は前記前輪の接地荷重を低減するようになっていることを特徴とする請求項2に記載の車輌。
【請求項23】
車輌は前輪と後輪とを有し、前記アクティブステアリング装置によりアクティブ操舵される車輪は前輪であり、前記アクティブステアリング装置の作動時に前記アクティブサスペンション装置は後輪の接地荷重を増大するようになっていることを特徴とする請求項3に記載の車輌。
【請求項24】
車輌は前輪と後輪とを有し、前記アクティブステアリング装置によりアクティブ操舵される車輪は後輪であり、前記アクティブステアリング装置の作動時に前記アクティブサスペンション装置は後輪の接地荷重を低減するようになっていることを特徴とする請求項2に記載の車輌。
【請求項25】
車輌は前輪と後輪とを有し、前記アクティブステアリング装置によりアクティブ操舵される車輪は後輪であり、前記アクティブステアリング装置の作動時に前記アクティブサスペンション装置は前輪の接地荷重を増大するようになっていることを特徴とする請求項3に記載の車輌。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−7033(P2008−7033A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−181575(P2006−181575)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】