説明

アンテナ装置

【課題】車両ドアに設けられるダイポールアンテナの利得を維持しつつ同ダイポールアンテナのヌルを補完することができる車両用アンテナ装置を提供する。
【解決手段】車両ドアに設けられたダイポールアンテナを備え、車両は、該ダイポールアンテナを通じて車両周辺に設定された通信エリアS1に向けて無線電波を放射する車両用アンテナ装置において、車両に設けられ、通信エリアS1のヌルN1を含む態様で設定される通信エリアS2に向けて無線電波を放射する微小ループアンテナを備えることを特徴とする車両用アンテナ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両や住宅等のドアの周辺に設定された通信エリアに無線電波を放射するためのアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば携帯機(電子キー)を所持したユーザが車両や住宅等のドアに接近したときにドアのアンロックなどを自動的に実行する、いわゆる電子キーシステムが周知である。そして従来、このような電子キーシステムとしては、例えば特許文献1に記載のシステムが知られている。図12に、この特許文献1に記載のシステムも含めて、従来一般に採用されている電子キーシステムの概要を示す。
【0003】
同図12に示すように、この電子キーシステムでは、例えば車両80のドアに設けられた送信装置81から車両ドアの周辺に設定された半円形状の通信エリアS11にリクエスト信号を放射する。また、この電子キーシステムでは、上記送信装置81から放射されたリクエスト信号を受信するとともに、受信したリクエスト信号に対して識別コード(IDコード)などを含む応答信号を送信する携帯機90をユーザが所持する。すなわち、携帯機90を所持したユーザが通信エリアS11に進入することによって、同携帯機90から応答信号が送信される。そしてこのシステムにおいて、携帯機90から送信された応答信号は車室内に設けられた受信装置82によって受信されるとともに、車両80にかかる各種制御を統括的に実行する車両制御装置83に伝達される。同車両制御装置83では、伝達された応答信号に含まれるIDコードと同車両制御装置83内のメモリに予め記憶されているIDコードとの照合を行い、この照合を通じて互いのIDコードが一致している旨を判断すると、例えば車両ドアに設けられているドアロック装置84を通じて車両ドアをアンロックする。このような電子キーシステムによれば、ユーザの直接的な手動操作によることなく車両80の各種操作が自動的に行われるようになるため、車両80の操作にかかる利便性が大きく向上するようになる。
【0004】
このような電子キーシステムに用いられる携帯機90は、一般に、内蔵される電池を電源としているため、電池切れが生じると、車両80との無線通信を行うことができなくなってしまう。このためユーザは、電池切れが生じる度に携帯機90の電池を交換する必要があり、こうした作業をユーザが煩わしく感じるおそれがある。
【0005】
そこで発明者らは、無線電力伝送技術を利用することにより、携帯機90に内蔵された電池を排除するといった方法を提案している。具体的には、携帯機90の電源電圧となるUHF帯の無線電波を車両80から携帯機90に放射する。そして携帯機90は、車両80から放射された無線電波を受信すると、同無線電波を整流して電源電圧を得る。こうした方法を採用すれば、ユーザによる携帯機90の電池交換が不要となるため、上述したユーザの煩わしさを好適に解消することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−311333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このような電子キーシステムでは、携帯機90が上記通信エリアS11内に進入したときに同携帯機90が好適に電力電波を得ることができるように、高利得なアンテナ装置が望まれている。そこで、ダイポールアンテナDAを用いることが考えられる。ダイポールアンテナDAは線状アンテナであって、単独状態では、図13に示すような環状の指向性SDを形成する。そして、このダイポールアンテナDAは、その形状からドアハンドルに内蔵されることが考えられる。この場合、ダイポールアンテナDAから放射される無線電波の一部は鋼板で形成されたドアで反射することになり、図8に示すような高利得な通信エリアS1を形成する。すなわち、携帯機90を携帯したユーザがドアハンドル(ダイポールアンテナDA)に近づけば、携帯機90は、高利得な無線電波を容易に受信する。これにより、携帯機90は、動作して、上記通信を通じて、車両ドアのアンロックがスムーズに行われる。
【0008】
しかしながら、図13に示すように、ダイポールアンテナDAは、その軸線方向において無線電波を放射する量が少なく、通信しにくいエリアが存在する。一般にこのエリアをヌルNと呼ぶ。図8に示すように、ダイポールアンテナDAをドアハンドルに内蔵した場合、同ダイポールアンテナDAの軸線方向である車両80沿いにヌルN1が形成される。すなわち、携帯機90を携帯したユーザが車両80に沿ってドアハンドルに近づいた場合、携帯機90は動作電源である無線電波を好適に受信できないことにより円滑に動作しないおそれがある。ひいては、ダイポールアンテナDAと携帯機90間での通信がスムーズに行われずに、車両ドアのアンロックが行なわれない可能性がある。
【0009】
本発明は、こうした実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、ドア又はその近傍に設けられるダイポールアンテナの利得を維持しつつ同ダイポールアンテナのヌルを補完することができるアンテナ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、ドア又はその近傍に設けられたダイポールアンテナを備え、当該ダイポールアンテナを通じてドア周辺に設定された第1通信エリアに向けて無線電波を放射するアンテナ装置において、ドア又はその近傍に設けられ、前記第1通信エリアのヌルを含む態様で設定される第2通信エリアに向けて無線電波を放射する小形アンテナを備えることを要旨とする。
【0011】
同構成によれば、ダイポールアンテナの高い利得を維持しつつ、同ダイポールアンテナの指向性により通信しにくかったヌルにおいては、小形アンテナが補完する通信エリアを形成することができる。電子キーは、従来よりも広範囲において、アンテナ装置と通信することができる。さらに、小形アンテナであることにより、搭載スペースが狭くてすむことからダイポールアンテナの近傍に設置することが可能である。従って、小形アンテナは、ダイポールアンテナのヌルを補完するのに好適である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のアンテナ装置において、前記小形アンテナは、微小ループアンテナであって、前記微小ループアンテナは、前記ダイポールアンテナとともにドアハンドルに設けられることを要旨とする。
【0013】
同構成によれば、微小ループアンテナを用いることによって、ダイポールアンテナの指向性を補完するための最適な位置であるドアハンドルに設けることができる。すなわち、ダイポールアンテナと微小ループアンテナとによって電子キーとの通信を行うために最適な通信エリアを形成することができる。
【0014】
なお、ここで微小とは、ループアンテナの周囲長が当該ループアンテナの放射する電波の1波長以下であることをさす。すなわち、ループアンテナが微小ループアンテナであることにより、より確実にドアハンドルに設けることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のアンテナ装置において、前記ダイポールアンテナは、その軸方向が水平方向に設けられ、前記微小ループアンテナは、その鉛直方向に延びる辺が、水平方向へ延びる辺よりも長く設定されることを要旨とする。
【0016】
同構成によれば、微小ループアンテナの鉛直方向に延びる辺から放射される無線電波の量が、水平方向に延びる辺から放射される無線電波の量よりも多くなる。一般的に、軸方向が一致するアンテナが近傍にある場合、一方のアンテナが放射する電波は他方のアンテナの影響を受けることが確認されている。換言すれば、軸方向が異なれば、互いの影響を受けにくいということである。すなわち、微小ループアンテナの鉛直方向に延びる辺からの放射される無線電波は、ダイポールアンテナの影響を受けにくい。よって、微小ループアンテナは、より確実にダイポールアンテナのヌルを補完することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載のアンテナ装置において、前記微小ループアンテナは、鉛直方向に延びる辺に給電点を有することを要旨とする。
一般的に、微小ループアンテナは、給電点に近いところほど強い無線電波を放射することが知られている。よって、同構成によれば、微小ループアンテナは、その鉛直方向に延びる辺から放射される無線電波の量が水平方向に延びる辺から放射される無線電波の量よりも多くなる。従って、微小ループアンテナは、より確実にダイポールアンテナのヌルを補完することができる。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項2〜4のいずれか一項に記載のアンテナ装置において、前記ダイポールアンテナと前記微小ループアンテナとへ給電するタイミングを切り替えるスイッチを備えることを要旨とする。
【0019】
仮に、利得の高いアンテナと低いアンテナとに一度に給電する場合、利得の低いアンテナは、利得の高いアンテナの影響を受けることがわかっている。すなわち、本発明においては、微小ループアンテナはダイポールアンテナの影響を受けることになる。このため、一度にダイポールアンテナと微小ループアンテナとに給電しようとすると、微小ループアンテナは、その特徴である無指向に近い無線電波の放射ができにくくなる。これを回避するために、同構成によれば、スイッチで給電するタイミングが時間的に異なることにより、微小ループアンテナはダイポールアンテナからの影響が小さくて済むので、より確実にダイポールアンテナのヌルを補完することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、ドア又はその近傍に設けられるダイポールアンテナの利得を維持しつつ同ダイポールアンテナのヌルを補完することができるアンテナ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明にかかるアンテナ装置の第1の実施形態について同装置を利用した車両の電子キーシステムのシステム構成を示すブロック図。
【図2】同実施形態のダイポールアンテナと微小ループアンテナの車両への搭載位置を示す平面図。
【図3】同実施形態のダイポールアンテナと微小ループアンテナの搭載態様を示すドアハンドルの断面図。
【図4】同実施形態のダイポールアンテナと微小ループアンテナの搭載態様を示すX軸方向から見た拡大図。
【図5】同実施形態のダイポールアンテナと微小ループアンテナの搭載態様を示すZ軸方向から見た拡大図。
【図6】(a)〜(c)は、本実施形態のX−Y平面、Z−X平面、及びZ−Y平面におけるダイポールアンテナの指向性を示す指向性図。
【図7】(a)〜(c)は、本実施形態のX−Y平面、Z−X平面、及びZ−Y平面における微小ループアンテナの指向性を示す指向性図。
【図8】ダイポールアンテナの通信エリアを模式的に示す平面図。
【図9】微小ループアンテナの通信エリアを模式的に示す平面図。
【図10】第2の実施形態におけるダイポールアンテナと微小ループアンテナの搭載態様を示すドアハンドルの断面図。
【図11】(a)(b)は、本実施形態のX−Y平面、及びZ−X平面における微小ループアンテナの指向性を示す指向性図。
【図12】想定される車両の電子キーシステムの概要を模式的に示す平面図。
【図13】ダイポールアンテナの指向性を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明にかかる車両用アンテナ装置を、電子キーシステムの車両のアンテナ装置に適用した一実施形態を図面に従って説明する。なお、この電子キーシステムの基本構成は、先の図12に例示した電子キーシステムと同様である。図1は、こうした電子キーシステムのシステム構成をブロック図として示したものであり、はじめに、同図1を参照して、この電子キーシステムの構成、動作をより具体的に説明する。
【0023】
図1に示すように、この電子キーシステムでも、車両1に搭載された車載装置10とユーザが携帯所持する携帯機20(電子キー)との間で、無線通信による各種通信制御が実行される。
【0024】
車載装置10には、携帯機20の電源電圧となるUHF帯の無線電波である電力電波を所定の通信エリアS1,S2にアンテナ装置A1又はアンテナ装置A2を通じて放射する無線電力送信装置11とともに、LF帯のリクエスト信号を所定の通信エリアにアンテナ装置A3を通じて放射する送信装置12が設けられている。また、車載装置10には、携帯機20から送信されるUHF帯の応答信号をアンテナ装置A4を通じて受信する受信装置13が設けられている。アンテナ装置A1,A2は、無線電力送信装置11に設けられたスイッチ16を通じて切り替えられる。スイッチ16の切り替えは、無線電力送信装置11に内蔵されるマイクロコンピュータ(図示省略)により定期的に実行される。これら、無線電力送信装置11による電力電波の放射制御、送信装置12によるリクエスト信号の放射制御、及び受信装置13を通じて受信される応答信号の処理は、同じく車載装置10に設けられる車両制御装置14を通じて統括的に実行される。なお、この車両制御装置14は、例えば従来形態と同様にドアロック装置などの制御対象15の制御も行う。
【0025】
一方、携帯機20には、車載装置10から放射される上記電力電波をアンテナ装置A5を通じて受信してこれを整流する整流装置21とともに、同整流装置21で整流された電気エネルギを蓄積して電源電圧を生成する電源装置22が設けられている。また、携帯機20には、車載装置10から放射されるリクエスト信号をアンテナ装置A6を通じて受信する受信装置23とともに、UHF帯の応答信号をアンテナ装置A7を通じて送信する送信装置24が設けられている。受信装置23を通じて受信されるリクエスト信号に基づく応答信号の生成、及びこの生成した応答信号の送信装置24を通じての送信制御が、同じく携帯機20に設けられている携帯機制御装置25を通じて統括的に行われる。これら、受信装置23、送信装置24、及び携帯機制御装置25の駆動に必要な電力は、電源装置22から供給される。
【0026】
このように構成された電子キーシステムにあって、アンテナ装置A1又はアンテナ装置A2を通じて通信エリアS1又は通信エリアS2に対して電力電波が放射されているとき、ユーザが所持する携帯機20がこの通信エリアS1又は通信エリアS2に進入したとすると、次のような態様にて車載装置10及び携帯機20の間で信号の授受が実行される。すなわちこのシステムでは、無線電力送信装置11からアンテナ装置A1又はA2を介して放射された電力電波が整流装置21によりアンテナ装置A5を介して受信されるとともに、同整流装置21は、同電力電波を整流してその電気エネルギを電源装置22に伝達する。電源装置22は、こうして電気エネルギが伝達されると、同電気エネルギを蓄積して電源電圧を生成するとともに、生成した電源電圧を受信装置23、送信装置24、及び携帯機制御装置25に印加してこれを駆動させる。このとき、送信装置12からアンテナ装置A3を通じて所定の通信エリアに放射されるリクエスト信号には、車両制御装置14に内蔵されるメモリに予め記憶されている識別コード(IDコード)が含まれている。電源電圧を得て駆動する受信装置23は、アンテナ装置A6を通じてこのリクエスト信号を受信するとともに、当該リクエスト信号を携帯機制御装置25に伝達する。携帯機制御装置25は、伝達されたリクエスト信号に含まれるIDコードと自身の内蔵するメモリに予め記憶されているIDコードとの照合を行う。IDコードの照合が成立すると、携帯機制御装置25は、改めて自身のメモリに記憶されているIDコードを含む応答信号を生成してこれを送信装置24へ伝達する。そして、送信装置24は、この応答信号をアンテナ装置A7を介して車載装置10に送信する。このようにして応答信号が送信されると、受信装置13はアンテナ装置A4を介してこれを受信するとともに、受信した応答信号を車両制御装置14に伝達する。これにより車両制御装置14では、伝達された応答信号に含まれるIDコードと同車両制御装置14が内蔵するメモリに予め記憶されているIDコードとの照合を行う。そして、この照合を通じて互いのIDコードが一致している旨が判断されることに基づいて、制御対象であるドアロック機構を通じて車両ドアのアンロックなどを実行する。
【0027】
ところで、こうした電子キーシステムは、ユーザ(ドライバー)が車両1に乗り込むのをスムーズに行えるように設けられるものであるから、ユーザが車両1に近づいたときに携帯機20が電源電力を得やすいように電力電波の通信エリアS1,S2を設定する必要がある。そこで、本実施形態では、図2に示すように、アンテナ装置A1及びアンテナ装置A2を車両ドアに設けられたドアハンドル31にそれぞれ設ける。
【0028】
図3に示すように、車両ドアのアウタパネル40の外周部には、ユーザの手が挿入される部分となる溝部41が凹設されており、ドアハンドル装置30では、この溝部41の内壁面との間に間隙GPを隔てて、アウタパネル40に沿うようにドアハンドル31が配設されている。略水平に設けられるドアハンドル31は、高剛性を有する樹脂材料により形成され、アウタパネル40は、高張力鋼などの金属材料により形成されている。ドアハンドル31の溝部41に対向する部分には、ユーザが把持する部分となる把持部31aが形成されている。このドアハンドル31の一方の端部には、アウタパネル40を貫通してその内部に設けられた支持部材42に回動可能に支持される回動部33が導出されている。さらに、ドアハンドル31の回動部33が導出された反対側の端部には、同じくアウタパネル40を貫通してその内部に設けられた図示しないドア開閉機構のレバーを操作するための操作部32が導出されている。すなわち、このドアハンドル装置30では、ユーザが間隙GPに手を挿入して把持部31aを把持した後、ドアハンドル31を図中の矢印aで示す方向に引張り操作したとすると、上記支持部材42を回転軸として上記操作部32が引き出される方向にドアハンドル31が回動する。そしてこのとき、車両ドアがロック状態になければ、上記操作部32によってレバーが操作されて車両ドアが開放される。
【0029】
一方、アウタパネル40の内部には、無線電力送信装置11や送信装置12(図1参照)などが設けられる。無線電力送信装置11と電線11a,11bを介して接続されたアンテナ装置A1,A2は、ドアハンドル31の内部に設けられている。なお、同図では、便宜上、送信装置12及びアンテナ装置A3の図示を割愛している。そして、例えば無線電力送信装置11が給電線11a,11bを介してアンテナ装置A1,A2への給電を行うと、同アンテナ装置A1,A2から電力電波が放射されることとなる。なお、受信装置13及びこれに接続されるアンテナ装置A4は、ピラーの内部(裏側)に設けられる(図示省略)。
【0030】
このように、本実施形態では、ドアハンドル31の内部にアンテナ装置A1を配設することにより、アウタパネル40の外周面とアンテナ装置A1との間に、換言すれば車両ボディの外周面とアンテナ装置A1との間に間隙GPを形成するようにしている。ちなみに、このようにドアハンドル31の内部にアンテナ装置A1を配設すれば、上記溝部41を利用してアンテナ装置A1と車両ボディの外周面との間に間隙GPを容易に形成することができる。
【0031】
本実施形態では、ユーザの使い勝手上、通信エリアS1をある程度の広さに保つため、電力の無線伝送の観点からアンテナ装置A1は高利得のものが好ましい。そのため、このアンテナ装置A1に半波長ダイポールアンテナDAを採用している。ドアハンドル31は略水平に且つ車両1の前後方向に沿って設けられるため、これに内蔵されるダイポールアンテナDAも略水平に且つ車両1の前後方向に沿って設けられる。従って、図8に示すような車両1の外側に広がる楕円状の通信エリアS1を形成する。図4に示すように、ダイポールアンテナDAは、水平方向に沿った車両1の前後方向、すなわち図示Y方向に延びる2本のエレメント51,52と、給電線11aに接続されてエレメント51,52への給電を行う給電点53とを有する。すなわち、ダイポールアンテナDAは、無線電力送信装置11から給電線11aを介して給電点53に給電されると、エレメント51,52から電力電波を放射する。ダイポールアンテナDAが放射する電力電波の一部は、反射面としてのアウタパネル40(正確には溝部41の内面)に反射して、この反射された電力電波は、ダイポールアンテナDA本体から通信エリアS1へ向けて放射される電力電波と合わさる。このため、この通信エリアS1に放射される電力電波の強度が高まる、すなわち高利得となる。また、アウタパネル40へ向けて放射される電力電波を同アウタパネル40(溝部41)とダイポールアンテナDAとの対向関係からなる電波反射構造を通じて通信エリアS1へ向けて放射させることにより通信エリアS1が好適に形成される。
【0032】
図2に示すように、本実施形態では、アンテナ装置A2に微小ループアンテナLAを用いる。図4に示すように、この微小ループアンテナLAは、ダイポールアンテナDAと車両ドア(アウタパネル40)との間に配設される。図5に示すように、微小ループアンテナLAは、図示Y軸方向に延びる辺と、略鉛直方向、すなわち図示X軸方向に延びる辺とからなるエレメント61と、給電線11bに接続されてエレメント61への給電を行う給電点63とから構成される。この微小ループアンテナLAのX軸方向に延びる辺の長さをH、Y軸方向に延びる辺の長さをWとすると、本実施形態の微小ループアンテナLAでは、Y軸方向に延びる辺からの電力電波の放射量を抑えるべく、H>Wとなるように設定されている。また、本実施形態の微小ループアンテナLAでは、そのエレメント61の全長が、放射する電力電波の1波長よりも電気的に短くなるように設定されている。すなわち、電力電波の1波長の長さをλとすると、λ>2(H+W)となるように微小ループアンテナLAの各辺の長さが設定されている。この微小ループアンテナLAのY軸方向に延びる辺は、ダイポールアンテナDAの軸方向と平行になる。すなわち、微小ループアンテナLAのX軸方向に延びる辺は、ダイポールアンテナDAの軸方向に対して垂直(ねじれの位置)となる。給電点63は、微小ループアンテナLAの鉛直辺に設けられている。すなわち、Z軸方向(アウタパネル40の正面)から見たとき、給電点63は、ダイポールアンテナDA上に位置するように、鉛直辺の中央に設けられている。微小ループアンテナLAは、無線電力送信装置11から給電線11bを介して給電点63に給電されると、エレメント61から電力電波を放射する。微小ループアンテナLAは、その形状から無指向に近い(指向性の弱い)電力電波を放射することは公知である。本実施形態では、上記ダイポールアンテナDAと同様に、微小ループアンテナLAの一部の電力電波は、アウタパネル40によって反射する。従って、微小ループアンテナLAが放射する電力電波は、図9に示す半球状の通信エリアS2を形成する。
【0033】
次に、ダイポールアンテナDAと微小ループアンテナLAの2つのアンテナが近接した状態における各アンテナに別々に給電した場合における電力電波の指向性について詳述する。
【0034】
図6(a)及び図6(c)に示すように、ダイポールアンテナDAに給電した場合は、当該ダイポールアンテナDAの軸方向であるY軸方向への電力電波の放射量が少ないことがわかる。これに対し、図6(b)に示すように、ダイポールアンテナDAの電力電波の放射量は、Y軸方向のそれに比べてX軸方向及びZ軸方向へ多いことが確認できる。本実施形態では、ドア側(−Z軸方向)へ放射された電力電波がアウタパネル40によってドアの外側(+Z軸方向)へ反射される。このため、ダイポールアンテナDAの通信エリアS1は、反射した電力電波の影響によって+Z軸方向へ広い通信範囲(図8参照)となる。
【0035】
図7(a)〜(c)に示すように、微小ループアンテナLAに給電した場合の電力電波の放射量は、全方向とも略均一に分布している。一般に、アンテナ同士が接近していると一方のアンテナの電波によって他方のアンテナに誘起電流が生じる。この場合、一方のアンテナの特性が低下する。本実施形態の場合、微小ループアンテナLAとダイポールアンテナDAとは、同じドアハンドル31に収容されている近接状態であるため、微小ループアンテナLAの電力電波によって、ダイポールアンテナDAに誘起電流が生じやすいと考えられる。この場合、微小ループアンテナLAが放射する電力電波の指向性が強まることが懸念されるものの、微小ループアンテナLAの電力電波の放射量は、全方向とも略均一に分布している。すなわち、本実施形態の場合において、微小ループアンテナLAの電力電波はダイポールアンテナDAの影響を受けにくいことがわかる。これは、図5に示すように、微小ループアンテナLAの鉛直辺と水平辺との大小関係が、H>Wとなっているからである。従って、Y軸に沿う水平辺から放射される電力電波はX軸に沿う鉛直辺から放射される電力電波よりも放射量が少ないため、当該電力電波によるダイポールアンテナDAへ誘起が一層起こりにくい。さらに、同じく図5に示すように、微小ループアンテナLAの給電点63がX軸方向に延びる辺に設定されている。ダイポールアンテナDAは、その軸方向がY軸方向に設定されているため、X軸方向に延びる辺に給電される微小ループアンテナLAが放射する電力電波では誘起しにくくなっている。
【0036】
このように、微小ループアンテナLAの電力電波による、ダイポールアンテナDAの誘起電流の発生は極力抑えられる。すなわち、微小ループアンテナLAの電力電波は、ダイポールアンテナDAからの影響をあまり受けない。よって、微小ループアンテナLAの電力電波は、球状の通信エリアを形成することになるが、ダイポールアンテナDAの電力電波同様、アウタパネル40によって反射する。しかし、微小ループアンテナLAが放射する電力電波は無指向に近い電波であって、ダイポールアンテナDAの放射する指向性の強い電力電波ではない。このため、微小ループアンテナLAは、図9に示す半球状の通信エリアS2を形成する。
【0037】
次に、微小ループアンテナLAによって、ダイポールアンテナDAの指向性が補完されることについて説明する。
図8に示すように、ダイポールアンテナDAの放射する電力電波は、車両1沿いにヌルN1が形成される態様で通信エリアS1を形成する。一方、図9に示すように、微小ループアンテナLAの放射する電力電波は、ヌルN1(図8参照)を覆うようにその通信エリアS2を形成する。本実施形態では、無線電力送信装置11に内蔵されるマイクロコンピュータによってスイッチ16が定期的に切り替わる。つまり、図8と図9とに示す通信エリアS1,S2が定期的に切り替わる。従って、微小ループアンテナLAは、ダイポールアンテナDAのヌルN1を定期的に補完する、すなわち、ダイポールアンテナDAの指向性を補完する。
【0038】
このように通信エリアS1,S2が切り替わるので、携帯機20を携帯したユーザが車両ドア(ドアハンドル31)に近づくと、携帯機20は、ダイポールアンテナDA又は微小ループアンテナLAから放射される電力電波を受け取る。そして、携帯機20は、その電力電波を電源電圧に変換した後起動して、車両1(車載装置10)と通信することによって、車両1のドアロックの解除等を実行させる。なお、当然ではあるが、ヌルN1は、補完されるため、ユーザが車両沿いに車両ドアに近づいても、問題なく車両1と携帯機20との通信が実行される。
【0039】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)ダイポールアンテナDAの高い利得を維持しつつ、同ダイポールアンテナDAの指向性により通信しにくかったヌルN1においては、微小ループアンテナLAがこれを補完する通信エリアS2を形成する。これにより、携帯機20は、従来、車両1と通信しにくかったエリアにおいても通信できる、すなわち、携帯機20は、より広範囲において車両1と通信することができる。
【0040】
(2)体格の小さな微小ループアンテナLAを採用することによって、ダイポールアンテナDAの指向性を補完するための最適な位置であるドアハンドル31に設けることができる。すなわち、ダイポールアンテナDAと微小ループアンテナLAとによって携帯機との通信を行うための好適な通信エリアS1,S2を形成することができる。
【0041】
(3)微小ループアンテナLAは、鉛直方向(X軸方向)に延びる辺が水平方向(Y軸方向)に延びる辺よりも長く設定されている。このため、鉛直方向に延びる辺から放射される無線電波の量が、水平方向に延びる辺から放射される無線電波の量よりも多くなる。このように構成することによって、ダイポールアンテナDAと近接した微小ループアンテナLAは、依然としてダイポールアンテナDAの影響を受けるもののその影響が小さく抑えられるようになっている。このため、微小ループアンテナLAは、ダイポールアンテナDAと近接した状態であっても無指向に近い電力電波を放射することができる。結果として、微小ループアンテナLAは、ダイポールアンテナDAのヌルN1を補完する。
【0042】
(4)給電点63を微小ループアンテナLAの鉛直方向に延びる辺に設けることによって、同辺から放射される無線電波の量が、水平方向に延びる辺から放射される無線電波の量よりも多くなる。このように構成することによって、ダイポールアンテナDAと近接した微小ループアンテナLAは、依然としてダイポールアンテナDAの影響を受けるもののその影響が小さく抑えられるようになっている。このため、微小ループアンテナLAは、ダイポールアンテナDAと近接した状態であっても無指向に近い電力電波を放射することができる。結果として、微小ループアンテナLAは、ダイポールアンテナDAのヌルN1を補完する。
【0043】
(5)スイッチ16により微小ループアンテナLAとダイポールアンテナDAとが定期的に切り替えられる。すなわち、微小ループアンテナLAに給電されるタイミングは、ダイポールアンテナDAに給電されるタイミングと異なる。これにより、微小ループアンテナLAから放射される電力電波が、ダイポールアンテナDAから受ける影響を小さく抑えられる。よって、より確実にダイポールアンテナのヌルを補完することができる。
【0044】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態において、微小ループアンテナLAに設ける給電点63は、必ずしもX軸方向に延びる辺に設けなくてもよい。例えば、図10に示すように、Y軸方向に延びる辺に給電点63を設けるようにしてもよい。このように構成すると、Y軸方向に延びる辺から放射される電力電波の量が増加するため、ダイポールアンテナDAに誘起電流が生じやすくなる。このことは、図11(a)(b)に示すように、微小ループアンテナLAのY軸方向への電力電波の放射量が減少していることからも明らかである。しかしながら、図11(a)と図6(a)とを比較すると、本実施形態の微小ループアンテナLAは、ダイポールアンテナDAよりもY軸方向への電力電波の放射量が多い。つまり、ダイポールアンテナDAのヌルN1を補完する。すなわち、微小ループアンテナLAは、その給電点の位置にかかわらずダイポールアンテナDAの指向性を補完する。
【0045】
・上記実施形態において、微小ループアンテナLAは、これに限らず微小ダイポールアンテナ等他の小形アンテナであってもよい。
・上記実施形態において、微小ループアンテナLAの鉛直辺及び水平辺の長さは、H<Wを満たすように形成してもよい。また、微小ループアンテナの形状は、四角形に限らず、三角形状や円状等、ループ形状をなしていればよい。このようにしても、ダイポールアンテナDAの指向性を補完するという効果は得られる。
【0046】
・上記実施形態において、ダイポールアンテナDA及び微小ループアンテナLAは、ドアハンドル31に設けられるものに限らない。例えば、ピラーや、サイドミラー等の車両の樹脂形成部分に設けてもよい。
【0047】
・上記実施形態において、ダイポールアンテナDAは、軸方向が一直線である線状のダイポールアンテナに限らず、V型ダイポールアンテナや折り返しダイポールアンテナなど他の種類のダイポールアンテナであってもよい。
【0048】
・上記実施形態において、ダイポールアンテナDA及び微小ループアンテナLAは、無線電波としてUHF帯の電力電波を携帯機20に通信したが、これに限らず、VHF帯やマイクロ波などの他の領域の無線電波でもよい。すなわち、ダイポールアンテナDA及び微小ループアンテナLAが放射する無線電波によって車両1と携帯機20とが通信しさえすればよい。
【0049】
・上記実施形態において、スイッチ16は省略してもよい。この場合には、ダイポールアンテナDAと微小ループアンテナLAとの距離をある程度離すのが好ましい。
・上記実施形態において、ダイポールアンテナDA及び微小ループアンテナLAは、車両に適用したが、住宅などに適用してもよい。要するに、電子キーシステムを利用してドアのアンロック等を行うことができるものに適用することができる。
【0050】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(イ)前記ダイポールアンテナと前記小形アンテナ又は前記微小ループアンテナとは、車両に設けることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載のアンテナ装置。
【0051】
駐車場などにおいては、隣接する車両との間隔が狭い場合が存在する。この場合、携帯機を把持したユーザは車両沿いでしかドアに近づくことができない。このような場合、従来のアンテナ装置では、車両沿いにヌルが形成されているため、車両と携帯機との間で好適な通信が行われないおそれがあった。
【0052】
そこで、同構成によれば、小形アンテナ又は微小ループアンテナが放射する無線電波は、ダイポールアンテナが放射する無線電波の指向性を補完する。これにより、ダイポールアンテナが放射する無線電波によって形成される車両沿いのヌルが補完される。従って、携帯機を把持したユーザが車両沿いに近づく場合であっても当該携帯機と車両との通信が好適に行われる。
【符号の説明】
【0053】
A1,A2,A3,A4,A5,A6,A7…アンテナ装置、DA…ダイポールアンテナ、GP…間隙、N,N1…ヌル、S1,S2,S11…通信エリア、LA…微小ループアンテナ、1,80…車両、10…車載装置、11…無線電力送信装置、11a,11b…給電線、12…受信装置、14…車両制御装置、15…制御対象、16…スイッチ、20…携帯機、21…整流装置、22…送信装置、23…携帯機制御装置、24…電源装置、30…ドアハンドル装置、31…ドアハンドル、31a…把持部、32…操作部、33…回動部、40…アウタパネル、41…溝部、42…支持部材、51,52,61…エレメント、53,63…給電点、81…送信装置、82…受信装置、83…車両制御装置、84…ドアロック装置、90…携帯機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドアに設けられたダイポールアンテナを備え、当該ダイポールアンテナを通じてドア周辺に設定された第1通信エリアに向けて無線電波を放射するアンテナ装置において、
前記ドア又はその近傍に設けられ、前記第1通信エリアのヌルを含む態様で設定される第2通信エリアに向けて無線電波を放射する小形アンテナを備えることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアンテナ装置において、
前記小形アンテナは、微小ループアンテナであって、
前記微小ループアンテナは、前記ダイポールアンテナとともにドアハンドルに設けられることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のアンテナ装置において、
前記ダイポールアンテナは、その軸方向が水平方向に設けられ、
前記微小ループアンテナは、その鉛直方向に延びる辺が、水平方向へ延びる辺よりも長く設定されることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のアンテナ装置において、
前記微小ループアンテナは、鉛直方向に延びる辺に給電点を有することを特徴とするアンテナ装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか一項に記載のアンテナ装置において、
前記ダイポールアンテナと前記微小ループアンテナとへ給電するタイミングを切り替えるスイッチを備えることを特徴とするアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−10064(P2012−10064A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143639(P2010−143639)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】