オーステナイト系ステンレス鋼の窒化処理方法、窒化部材、および振動波駆動装置
【課題】加工性および耐食性が優れ、さらに厚い窒化層が形成された窒化部材と、該窒化部材が摩擦部材として用いられる振動波駆動装置を提供する。
【解決手段】Tiの含有量が0.8〜3.0重量%であるオーステナイト系ステンレス鋼に対する窒化処理が、773Kを超える温度でイオン窒化処理によって実施される。また、電気−機械エネルギ変換素子により振動が励振される振動子と該振動子によって励振される振動によって駆動される移動子との間に設けられる摩擦部材として上記窒化部材を用いる振動波駆動装置。
【解決手段】Tiの含有量が0.8〜3.0重量%であるオーステナイト系ステンレス鋼に対する窒化処理が、773Kを超える温度でイオン窒化処理によって実施される。また、電気−機械エネルギ変換素子により振動が励振される振動子と該振動子によって励振される振動によって駆動される移動子との間に設けられる摩擦部材として上記窒化部材を用いる振動波駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼の窒化処理方法、当該方法により得られる窒化部材、および当該窒化部材を摩擦部材として用いる振動波駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステンレス鋼をイオン窒化(またはプラズマ窒化ともいう)した後に、その表面を研磨することで鏡面状態にしてガラス用成形型として使用するものがある(例えば特許文献1参照)。この成形型は、硬さ、耐熱性、離型性、鏡面加工性などに優れている。
【0003】
また、オーステナイト系ステンレス鋼を673Kという通常の窒化処理温度よりも低温でイオン窒化すれば、その窒化表面層は耐食性の高い相が生成されるという報告がある(例えば非特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3011574号公報
【非特許文献1】市井・藤村・高瀬 「イオン窒化処理した18―8ステンレス鋼の表面組織と耐食性および硬さ」 熱処理 1985、25巻4号 P.191
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来のガラス用成形型は、真空中や不活性ガス中のように限られた雰囲気中で使用されるものであって、このような用途の場合は、特に問題は生じない。しかし、窒化処理が施されたステンレス鋼からなる窒化部材を、通常の大気中のように湿気が存在する環境で使用するような用途においては、腐食(錆びすなわち湿食)が生じる場合がある。また、大気中のように湿気が存在する環境で、かつ、温度を常温よりも少し上げると、窒化部材の表面の酸化(乾食)が進み表面が荒れてしまうことがある。さらにそれが進行すると、窒化部材の表面にある程度の厚みをもつ酸化膜が形成され、この酸化膜が外力により表面からはく離することもある。
【0005】
これらの現象は、母材中に拡散していった窒素原子が元々鉄中に固溶しているクロムと結合することにより、クロム窒化物(安定相)が析出することに起因していると考えられている。換言すれば、クロム窒化物の周辺においては、窒化物生成に必要なクロムが窒化物側に拡散して、固溶状態のクロム含有量が低下し、クロム不動態皮膜が形成され難い。これにより、クロム窒化物が腐食環境に対していわゆる鋭敏化するということである。すなわち、窒化によって、ステンレス本来の耐食性を著しく低下させることになる。
【0006】
そこで、上述したように、オーステナイト系ステンレス鋼を673K以下の低温で窒化することが試みられている。このような比較的低温での窒化処理により生成された窒化層を構成する相は、高温時に生成される相とは異なり、耐食性が高いものになると報告されている。
【0007】
しかし、低温での窒化処理では、窒素原子の拡散速度が著しく低下するので、厚い窒化層を形成することができない。窒化層が薄いと、その表面を押圧する外力により窒化層が破壊、または剥離し易くなる。また、金型材のように表面を研磨加工などにより平滑に仕上げる場合にも、取り代の必要性から厚い窒化層が求められる。
【0008】
厚い窒化層を得るために、低温において長時間かけて窒化処理を行うことが考えられるが、これは、実用的ではない。なぜなら、窒化層は窒素原子の拡散によって形成されるものであって、窒化温度をわずかに低下させただけでも、同じ厚さの窒化層を形成するには、極めて長時間を要することになるからである。
【0009】
また、ある窒化条件下で窒化層のごく表層付近に、白層という脆いが腐食しにくい層が生成されることがある。しかし、白層は極めて薄く、表面を研磨加工などすると、除去されてしまい、このような表面の研磨加工をする必要がある用途には不向きである。
【0010】
このように従来の方法では、厚くて耐食性が高い窒化層を得ることは非常に難しい。
【0011】
本発明の目的は、優れた耐食性をもつ厚い窒化層が形成された窒化部材を提供し、また該窒化部材が摩擦部材として用いられる振動波駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、Tiの含有量が0.8〜3.0重量%であるオーステナイト系ステンレス鋼を、773Kを超える温度で窒化処理することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼の窒化処理方法を提供する。
【0013】
上記目的を達成するため、本発明は、Tiの含有量が0.8〜3.0重量%であるオーステナイト系ステンレス鋼を、773Kを超える温度で窒化処理してなることを特徴とする窒化部材を提供する。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明は、電気−機械エネルギ変換素子により振動が励振される振動子と、振動子に励振される振動によって駆動される移動子と、前記振動子および前記移動子の少なくとも一方に、他方と接触するように設けられている摩擦部材とを備え、前記摩擦部材は、Tiの含有量が0.8〜3.0重量%であるオーステナイト系ステンレス鋼を、773Kを超える温度で窒化処理してなる窒化部材からなることを特徴とする振動波駆動装置を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、加工性が良好であって耐食性が優れ、さらに厚い窒化層が形成された窒化部材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
まず、本発明の実施の形態に係る窒化部材が摩擦部材として適用される振動波駆動装置である棒型超音波モータの構成について、図18および図19を参照しながら説明する。図18は棒型超音波モータの構成を示す縦断面図である。図19(a)は図18の棒型超音波モータの振動モードを模式的に示す図、図19(b)は振動モードを模式的に示す図である。
【0018】
棒型超音波モータは、図18に示すように、弾性体1と、弾性体2と、電気−機械エネルギ変換素子である積層圧電素子3と、ロータ7と、ギア8とを備える。各弾性体1,2、積層圧電素子3、ロータ7およびギア8は、シャフト4に挿通されている。シャフト4の両端部には、それぞれナット5,11に螺合するねじ部が形成され、中間部には、フランジ部4aが形成されている。積層圧電素子3は、各弾性体1,2間に配置され、各弾性体1,2および積層圧電素子3はシャフト4の一方の端部に螺合されているナット5とシャフト4のフランジ部4aとの間で所定の挟持力が付与されるように狭持固定されている。弾性体1の端部には、耐摩耗性を有するリング状の摩擦部材6が設けられている。摩擦部材6の詳細については、後述する。
【0019】
ロータ7は、その一方の端面が弾性体1に設けられた摩擦部材6に接触するように配置されている。ロータ7の一方の端面は、摩擦部材6との接触幅が小さく、かつ適度なバネ性を有するように形成されている。ロータ7の他方の端面には、モータ出力を外部に伝達するためのギア8の凸部と係合可能な凹部が形成されている。ギア8は、超音波モータを取り付けるためのフランジ10の下部に回転可能に嵌合されるとともに、フランジ10によりシャフト4のスラスト方向へ移動しないように固定されている。ギア8とロータ7との間には、ロータ7を摩擦部材6に対して押し付けるための加圧バネ15が設けられている。
【0020】
ここで、図19(a)に示すように、弾性体1、弾性体2、積層圧電素子3、シャフト4、摩擦部材6およびナット5によって、棒状の振動子が構成される。積層圧電素子3においては、電極(図示せず)が2つの電極郡にグループ化されており、それぞれの電極郡には、電源(図示せず)から位相の異なる交流電界が印加される。積層圧電素子3の電極群に上記交流電界が印加されると、振動子には、互いに直交する2つの曲げ振動が励振される。
【0021】
励振される一方の曲げ振動は、図19(b)に示す、紙面に平行な方向の振動である。他方の曲げ振動は、紙面に垂直な方向の振動である。上記印加される交流電界の位相を調整することにより、2つの曲げ振動間にπ/2(rad)の時間的な位相差を与えることができ、その結果、上記振動子の曲げ振動は、振動子の軸周り(シャフト4の軸周り)に回転する。これによって、ロータ7に接触する弾性体1の端面には楕円運動が生じ、摩擦部材6に押圧されたロータ7が摩擦駆動されるため、ロータ7、ギア8、加圧バネ15が一体に回転する。そして、ギア8の回転駆動力が、モータ出力として外部ギア(図示せず)へ伝達される。
【0022】
本発明の実施の形態に係る窒化部材が摩擦部材として適用される振動波駆動装置として、上記棒型超音波モータの他に、例えば円環型超音波モータがある。この円環型超音波モータについて図20を参照しながら説明する。図20(a)は円環型超音波モータの構成を示す縦断面図、図20(b)は振動子の斜視図である。
【0023】
円環型超音波モータは、図20(a)に示すように、ハウジング30を備える。ハウジング30には、出力軸28が複数の軸受31を介して回転可能に支持されている。出力軸28には、ギア(図示せず)などを介して、本超音波モータを駆動源とする各種装置、機器などの作動装置の駆動機構が接続される。
【0024】
また、ハウジング30には、環状の弾性体21がビス32で固定されている。環状の弾性体21は、出力軸28と同軸上に配置されている。弾性体21の一方の面には、環状の移動体27と接触する摩擦部材26が設けられている。また、弾性体21の他方の面には、電気−機械エネルギ変換素子としての円環状の圧電素子23が貼り付けられている。
【0025】
具体的には、弾性体21は、金属材料の切削加工あるいは粉末焼結などの型成形によって円環状に製作される。弾性体21の一方の面(表面)には、図20(b)に示すように、軸方向へ突出する複数のくし歯状の突起が形成されおり、該複数の突起の上面には、摩擦部材26が接着されている。また、弾性体21の他方の面(裏面)に貼り付けられている圧電素子23には、複数の電極22が設けられている。弾性体21と圧電素子23と摩擦部材26により、振動子が構成される。
【0026】
これまでは、摩擦部材は弾性体と別部材として構成するものとして説明してきたが、弾性部材としてステンレス鋼を選定し、それに直接窒化処理を施すことにより、摩擦部分を弾性体と一体化することもできる。摩擦部材と弾性体を一体化した場合は、摩擦部分が弾性部材から脱落する心配もなく、製造工程を短縮することができる。特に、くし歯状の突起の上面部に摩擦部材を接合する構成の振動子においては、摩擦部材がくし歯の数だけ必要になるので、摩擦部材と弾性体を一体化する場合には、大きな効果が得られる。
【0027】
移動体27は、その一方の面が摩擦部材26と対向しかつ出力軸28と同軸上になるように配置されている。移動体27は、出力軸28に固着されている加圧ばね部材35に支持されている。加圧ばね部材35は、移動体27を摩擦部材26に加圧接触させるばね力を発生する。
【0028】
ここで、圧電素子23の電極に交流電界が印加されると、上記振動子が励振され、摩擦部材26に加圧接触する移動体27が出力軸28と一体に回転駆動される。これにより、モータ出力は、外部の駆動機構へ伝達される。
【0029】
本実施の形態においては、窒化部材が摩擦部材として適用される超音波モータとして、棒型および円環型超音波モータが例示されている。しかし、これらに限定されることはなく、振動体の形状、励起する振動の次数、振動の形態などに応じて構成される各種のタイプの超音波モータに対して、本発明に係る窒化部材が摩擦部材として適用可能であると考えられる。
【0030】
次に、上述した超音波モータの摩擦部材を形成する窒化部材について図1〜図17を参照しながら説明する。図1〜図3は、それぞれ、本発明の第1の実施の形態、第2の実施の形態、および第3の実施の形態に係る窒化部材からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。図4はTiの含有量を本発明の範囲外とした第1の製造材料の窒化部材からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。図5はTiの含有量を本発明の範囲外とした第2の製造材料の窒化部材からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。図6〜図11は、それぞれ、市販の各JIS規格ステンレス鋼からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。図12は第2の製造材料の窒化層部分の電子顕微鏡写真を示す図である。図13は図12の窒化層部分におけるNのマッピング像を示す図である。図14は図12の窒化層部分におけるTiのマッピング像を示す図である。図15は各温度で窒化処理したときの窒化層の厚さを示すグラフを示す図である。図16は各温度で窒化処理したときの窒化層の硬さを示すグラフを示す図である。図17は本発明の一実施の形態に係る窒化部材からなる摩擦部材の外形を示す斜視図である。ここで、図17に示す摩擦部材6は、図18に示す棒型超音波モータに用いられている環状の摩擦部材6として利用可能なものであり、この摩擦部材6を例として、本発明の実施の形態に係る窒化部材を説明する。
【0031】
ここでは、下記の表1に表される11種類の材料から上記摩擦部材を形成する場合を説明する。これら11種類の材料は、本発明の第1、第2および第3の実施の形態をそれぞれ構成する3種類のオーステナイト系のステンレンス鋼材と、第1および第2の製造材料の2種類の鋼材と、6種類のJIS規格のステンレス鋼材である。これらの材料の組成は、重量%で表されている。
【0032】
上記第1〜第3の実施の形態を構成する3種類のオーステナイト系のステンレンス鋼材と、第1および第2の製造材料の2種類のステンレス鋼材は、真空誘導炉にて製造された50kgの鋼塊として準備されたものである。各鋼塊は、1473Kの温度で2時間保持された後に、熱間加工により直径60mmの丸棒に仕上げられる。そして、各材料の丸棒は、1373Kの温度で熱間圧延されて、摩擦部材を形成するための直径15mmの丸棒に仕上げられる。また、上記6種類のJIS規格のステンレス鋼材は、比較用摩擦部材を形成するために準備された丸棒である。ここで、上記第1および第2の製造材料は、それぞれ、Ti(チタン)の含有量が本発明の範囲外とされたものである。
【0033】
上記11種類の材料からそれぞれなる丸棒は、図17に示すような摩擦部材6を得るために、所定の寸法を有するリング状の部材に切削加工される。ここでは、各丸棒は、それぞれ、外径10mm、内径7.2mm、厚さ0.5mmの各寸法を有するリング状部材に仕上げられた。
【0034】
すなわち、本発明の実施の形態に係る3種類の組成のリング状部材、Tiの含有量が本発明の範囲外とされた2種類の組成のリング状部材、6種類の比較用ステンレス鋼の組成のリング状部材の合計11種類のリング状部材が摩擦部材6として製作された。
【0035】
【表1】
【0036】
製作された各摩擦部材のうち、本発明の実施の形態に係る3種類の摩擦部材と、第1および第2の製造材料からなる2種類の摩擦部材に対しては、823Kの温度で2時間のイオン窒化処理が施された。また、SUS303、SUS304、SUS303(Se)、SUS316Lのオーステナイト系ステンレス鋼からなる摩擦部材に対しても、同様に、823Kの温度で2時間のイオン窒化処理が施された。これに対し、SUS440AおよびSUS420j2のマルテンサイト系ステンレス鋼からなる摩擦部材に対しては、743Kの温度で7.5時間のイオン窒化処理が施された。
【0037】
これらのイオン窒化処理が施された摩擦部材を、上述した超音波モータの摩擦部材として用いるには、その窒化層表面を平滑に仕上げる必要がある。しかし、ここでは、各摩擦部材部材に対しては、表面仕上げを施さずに、以下の試験を実施し、その結果を述べることにする。
【0038】
イオン窒化処理が施された各摩擦部材はそれぞれ樹脂に埋め込められ、その断面についてビッカース硬さ試験が実施された。この試験により、表面から20μmの深さの位置において、各材料とも1200Hv前後の十分な硬さを維持し、硬さに関しては、それぞれの組成による差はほとんど認められないという結果が得られた。
【0039】
また、硝酸とエチルアルコールからなるナイタル液を用いて各摩擦部材の断面がエッチング処理された後に、処理後の断面がそれぞれ顕微鏡によりそれぞれ観察された。この顕微鏡観察により、それぞれの摩擦部材の断面を撮影した顕微鏡写真として、図1〜図11に示すものが得られた。図1〜図3の各顕微鏡写真は、第1の実施の形態、第2の実施の形態、第3の実施の形態に係る摩擦部材のものである。図4および図5の各顕微鏡写真は、第1の製造材料および第2の製造材料からなる摩擦部材のものである。図6〜図11の各顕微鏡写真は、SUS440A、SUS303、SUS420j2、SUS304、SUS303(Se)、SUS316Lのそれぞれからなる摩擦部材のものである。ここで、SUS303とSUS303(Se)は、快削用成分としてそれぞれ、硫化マンガン、セレンを含有する。
【0040】
図1〜図11のそれぞれの顕微鏡写真において、その中央付近に窒化層101aが写し出され、その上部にステンレスの母材101が写し出されている。窒化層101aは、各材料とも約30μm程度の厚さを有し、材料の違いによる窒化層の厚さの差は、ほとんどないことが確認された。また、窒化層101aの下部には、ダレ防止材料102があるが、これは、窒化層101aの表面部分を明確にするため窒化層と接して埋め込まれた材料であって、本発明とは直接は関係ない。
【0041】
これらの顕微鏡写真から分かるように、11種のすべての摩擦部材において窒化されていない母材101は、ほとんど腐食されていない光沢を呈した状態を維持している。しかし、各摩擦部材のうち、窒化層101a全体が黒く腐食されている摩擦部材がある。このような腐食が進んでいる窒化層101aは、大気中においても、窒化されていない母材101に比較して腐食され易いことを意味する。
【0042】
また、窒化層101aと母材101との境界が明瞭でない摩擦部材がある。このような摩擦部材は、その窒化層101aが腐食し難いことを示す。
【0043】
上記第1〜第3の実施の形態のリング状部材(摩擦部材)に関しては、図1〜図3に示す断面の顕微鏡写真からわかるように、いずれも窒化層101aと母材101の境界が明瞭でない。これに対し、図6〜図11に示す比較用ステンレス鋼からなる摩擦部材部材においては、窒化層101aが腐食して、窒化層101aと母材101の境界が明瞭である。このことは、上記第1〜第3の実施の形態に係る摩擦部材の窒化層101aが明らかに比較用摩擦部材の窒化層101aより腐食され難いことを示す。
【0044】
また、上記第1および第2の製造材料からなる摩擦部材は、Tiが上記第1〜第3の実施の形態に係る摩擦部材より多く含有されているものであって、その窒化層101aの耐食性が極めて優れていることがわかる。但し、後述するように、これらの摩擦部材は、クラックが発生し、信頼性があるものとはいい難い。
【0045】
上記第1の実施の形態の摩擦部材の窒化層101aおよび母材101中に晶出した硫化チタンの周辺部分においては、若干腐食が進行している。すなわち、硫化チタンが生成された周辺部分においては、母材101中のTiが硫化チタンの生成に使用されたため、その部分のチタン含有量が欠乏したと考えられる。
【0046】
但し、第1の実施の形態、第2の実施の形態、第3の実施の形態、第1の製造材料、第2の製造材料のそれぞれからなる摩擦部材については、全て、その窒化層の耐食性が他の材料に比して優れていることが分かる。その原因は明確ではないが、Tiの存在が耐食性向上に作用したと推測される。Tiは窒素と化合物を生成し易い窒化物生成元素であるため、クロムと窒素の化合物の析出を遅らせたとも考えられる。Tiが先に窒素と結合して窒化チタンが生成されれば、クロムと窒素の化合物の析出が抑えられることになり、前述した鋭敏化の現象も抑えられる。
【0047】
ここで、仮に、Tiがクロムと窒素の化合物の析出を遅らせたことが、優れた耐食性を発揮することに起因するものであるならば、クロム以上に窒化物を作り易いニオブ、バナジウム、ボロン、ジルコンなどの窒化物生成元素の場合でも、同様の効果が得られることが推測される。
【0048】
次に、本発明の実施の形態に係る窒化部材の好適な成分範囲について説明する。
【0049】
Ni(ニッケル)は、オーステナイト生成元素である。オーステナイトのみの相にするには、Niを5.0重量%以上添加することが必要であり、Niの量が15.0重量%を超えると、窒化層の形成が阻害される。よって、Niの量は、5.0〜15.0重量%の範囲内にすることが好ましい。
【0050】
Cr(クロム)は、ステンレスとして必須元素であって、その量が15.0重量%未満であると、耐食性が低下される。逆に、Crの量が25.0重量%を超えると、フェライトとオーステナイトの二相組織となり、オーステナイト本来の良好な塑性加工性が劣化する。よって、Crの量は、15.0〜25.0重量%の範囲内にすることが好ましい。
【0051】
Ti(チタン)は、窒化層の耐食性を向上させるために添加した元素であって、少なくとも0.8重量%以上添加すれば、効果が認められる。逆に、Tiを過剰に添加すると、コストがアップする。また、第1および第2の製造材料は、Tiを4.0重量%以上添加したものであるが、図12〜図14に示すように、Ti元素の偏在が見られる上、窒化層に沿って発生した多数のクラックが確認された。すなわち、Tiの含有量が4.0重量%またはそれ以上であると、窒化層としての目的を達成することができないことが分かった。
【0052】
ここで、Tiの含有量が4.92重量%である第2の製造材料からなる摩擦部材(図5に示す)の窒化層全体を走査型電子顕微鏡により走査すると、図12に示すような二次電子像が得られる。この二次電子像においては、大部分が窒化層101aで占められており、クラックが横に走っていることが分かる。また、二次電子像においては、組成(成分)が異なると、コントラストが生じるため、図12に示す二次電子像においては、灰色部分と白色部分のそれぞれに成分のムラが生じていることが分かる。
【0053】
図12に示す二次電子像において、N(窒素)、Tiのそれぞれをマッピングした像としては、図13および図14に示すものが得られる。これらのマッピング像から、Nが多い所はTiも多いことが分かる。また、化合物TiNはまだ生成されていないとみられるが、少なくともこのような成分の偏在は好ましくない。よって、Tiの含有量は、3.0重量%以下とすることが望ましい。
【0054】
これに対し、第1の実施の形態の摩擦部材には、1.02重量%のTiが含有されているが、その内の0.15重量%分のチタンは、含有量が0.209重量%のイオウとの結合に消費されたとみられる。よって、イオウの含有量が少なく抑えられた組成の場合において、Tiが0.8重量%以上含有されていれば、耐食性を向上させる効果が得られるであろうと推測される。
【0055】
このことは、上記第1の実施の形態と略同一の組成であって、Tiを含有していないSUS303(図7)およびSUS304(図10)と、第1の実施の形態(図1)とを比較すれば、明確である。すなわち、少なくともTiが0.8重量%以上含有されていれば、耐食性の向上に効果がみられる。
【0056】
ここでは、イオン窒化処理の場合に摩擦部材の耐食性に対する向上の効果が確認されている。この耐食性の向上が上記した要因によるものとすると、ガス窒化処理、塩浴窒化処理などの他の窒化処理を実施しても、同様の効果を期待することができると推測される。
【0057】
なお、本発明の実施の形態においては、図18に示す棒型超音波モータの摩擦部材6を形成する場合の窒化部材について説明したが、図20に示す円環型超音波モータの摩擦部材26も、同様の窒化部材により形成することができ、また、同様の効果を得ることができる。
【0058】
また、本発明の実施の形態においては、823Kの温度でイオン窒化処理が行われた例を示したが、イオン窒化処理の温度としては、773Kを超える温度であればよい。
【0059】
ここで、イオン窒化処理の温度について説明する。
【0060】
上記第1〜第3の実施の形態のそれぞれについて、3つのサンプルが製作された。具体的には、図15に示すように、上記第1の実施の形態に対応する3つのサンプルとして、試料No.500−1,530−1,550−1が製作された。また、上記第2の実施の形態に対応する3つのサンプルとして、試料No.500−2,530−2,550−2が、上記第3の実施の形態に対応する3つのサンプルとして、試料No.500−3,530−3,550−3がそれぞれ製作された。そして、これらの試料のうち、試料No.500−1,500−2,500−3のそれぞれに対しては、773Kの温度で6時間の窒化処理が行われた。また、試料No.530−1,530−2,530−3のそれぞれに対しては、803Kの温度で5時間の窒化処理が行われた。試料No.550−1,550−2,550−3のそれぞれに対しては、823Kの温度で4時間の窒化処理が行われた。
【0061】
ここで、773Kの温度で6時間の窒化処理により各試料500−1,500−2,500−3にそれぞれ形成された窒化層の厚さは、図15に示すように、30μm以下であり、これは実用的ではない。
【0062】
また、各窒化処理により各試料にそれぞれ形成された窒化層の硬さ(Hv)は、図16に示すように、その表面から20μmの位置で1080Hv以上の硬さを示している。また、823Kという高温での窒化処理の場合においても、その硬さの低下はみられない。
【0063】
このように、第1〜第3の実施の形態を構成する3種類のオーステナイト系のステンレンス鋼材を用いれば、一般には耐食性が低下すると考えられてきた高温での窒化処理でも、実用的な厚さおよび耐食性を有する窒化層を得ることができた。
【0064】
以上により、本発明によれば、加工性が良好であって耐食性が優れ、その上厚い窒化層が形成された窒化部材を得ることができる。具体的には、加工性については、本来オーステナイト系ステンレス鋼は、優れた塑性加工性を有するので、プレス加工などのような大量生産に適した方法での成形が可能なる。また、このステンレス鋼材に窒化処理を施すことによっても、母材と同等程度の耐食性を有する窒化層を形成することができる。そして、該材料の窒化層の耐食性が高いので、773Kを超える高温度で窒化処理しても実用的な耐食性を維持した上で、厚い窒化層が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る窒化部材からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る窒化部材からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係る窒化部材からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図4】Tiの含有量を本発明の範囲外とした第1の製造材料の窒化部材からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図5】Tiの含有量を本発明の範囲外とした第2の製造材料の窒化部材からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図6】SUS440Aからなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図7】SU303からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図8】SUS402j2からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図9】SUS304からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図10】SUS303(Se)からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図11】SUS316Lからなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図12】図5の第2の製造材料の窒化層部分の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図13】図12の窒化層部分におけるNのマッピング像を示す図である。
【図14】図12の窒化層部分におけるTiのマッピング像を示す図である。
【図15】各温度で窒化処理したときの窒化層の厚さを示すグラフを示す図である。
【図16】各温度で窒化処理したときの窒化層の硬さを示すグラフを示す図である。
【図17】本発明の一実施の形態に係る窒化部材からなる摩擦部材の外形を示す斜視図である。
【図18】棒型超音波モータの構成を示す縦断面図である。
【図19】(a)は図18の棒型超音波モータの振動モードを模式的に示す図、(b)は振動モードを模式的に示す図である。
【図20】(a)は円環型超音波モータの構成を示す縦断面図、(b)は振動子の斜視図である。
【符号の説明】
【0066】
1,21 弾性体
6,26 摩擦部材
7 ロータ
27 移動体
101 窒化されていない母材
101a 窒化層
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼の窒化処理方法、当該方法により得られる窒化部材、および当該窒化部材を摩擦部材として用いる振動波駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステンレス鋼をイオン窒化(またはプラズマ窒化ともいう)した後に、その表面を研磨することで鏡面状態にしてガラス用成形型として使用するものがある(例えば特許文献1参照)。この成形型は、硬さ、耐熱性、離型性、鏡面加工性などに優れている。
【0003】
また、オーステナイト系ステンレス鋼を673Kという通常の窒化処理温度よりも低温でイオン窒化すれば、その窒化表面層は耐食性の高い相が生成されるという報告がある(例えば非特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3011574号公報
【非特許文献1】市井・藤村・高瀬 「イオン窒化処理した18―8ステンレス鋼の表面組織と耐食性および硬さ」 熱処理 1985、25巻4号 P.191
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来のガラス用成形型は、真空中や不活性ガス中のように限られた雰囲気中で使用されるものであって、このような用途の場合は、特に問題は生じない。しかし、窒化処理が施されたステンレス鋼からなる窒化部材を、通常の大気中のように湿気が存在する環境で使用するような用途においては、腐食(錆びすなわち湿食)が生じる場合がある。また、大気中のように湿気が存在する環境で、かつ、温度を常温よりも少し上げると、窒化部材の表面の酸化(乾食)が進み表面が荒れてしまうことがある。さらにそれが進行すると、窒化部材の表面にある程度の厚みをもつ酸化膜が形成され、この酸化膜が外力により表面からはく離することもある。
【0005】
これらの現象は、母材中に拡散していった窒素原子が元々鉄中に固溶しているクロムと結合することにより、クロム窒化物(安定相)が析出することに起因していると考えられている。換言すれば、クロム窒化物の周辺においては、窒化物生成に必要なクロムが窒化物側に拡散して、固溶状態のクロム含有量が低下し、クロム不動態皮膜が形成され難い。これにより、クロム窒化物が腐食環境に対していわゆる鋭敏化するということである。すなわち、窒化によって、ステンレス本来の耐食性を著しく低下させることになる。
【0006】
そこで、上述したように、オーステナイト系ステンレス鋼を673K以下の低温で窒化することが試みられている。このような比較的低温での窒化処理により生成された窒化層を構成する相は、高温時に生成される相とは異なり、耐食性が高いものになると報告されている。
【0007】
しかし、低温での窒化処理では、窒素原子の拡散速度が著しく低下するので、厚い窒化層を形成することができない。窒化層が薄いと、その表面を押圧する外力により窒化層が破壊、または剥離し易くなる。また、金型材のように表面を研磨加工などにより平滑に仕上げる場合にも、取り代の必要性から厚い窒化層が求められる。
【0008】
厚い窒化層を得るために、低温において長時間かけて窒化処理を行うことが考えられるが、これは、実用的ではない。なぜなら、窒化層は窒素原子の拡散によって形成されるものであって、窒化温度をわずかに低下させただけでも、同じ厚さの窒化層を形成するには、極めて長時間を要することになるからである。
【0009】
また、ある窒化条件下で窒化層のごく表層付近に、白層という脆いが腐食しにくい層が生成されることがある。しかし、白層は極めて薄く、表面を研磨加工などすると、除去されてしまい、このような表面の研磨加工をする必要がある用途には不向きである。
【0010】
このように従来の方法では、厚くて耐食性が高い窒化層を得ることは非常に難しい。
【0011】
本発明の目的は、優れた耐食性をもつ厚い窒化層が形成された窒化部材を提供し、また該窒化部材が摩擦部材として用いられる振動波駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、Tiの含有量が0.8〜3.0重量%であるオーステナイト系ステンレス鋼を、773Kを超える温度で窒化処理することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼の窒化処理方法を提供する。
【0013】
上記目的を達成するため、本発明は、Tiの含有量が0.8〜3.0重量%であるオーステナイト系ステンレス鋼を、773Kを超える温度で窒化処理してなることを特徴とする窒化部材を提供する。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明は、電気−機械エネルギ変換素子により振動が励振される振動子と、振動子に励振される振動によって駆動される移動子と、前記振動子および前記移動子の少なくとも一方に、他方と接触するように設けられている摩擦部材とを備え、前記摩擦部材は、Tiの含有量が0.8〜3.0重量%であるオーステナイト系ステンレス鋼を、773Kを超える温度で窒化処理してなる窒化部材からなることを特徴とする振動波駆動装置を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、加工性が良好であって耐食性が優れ、さらに厚い窒化層が形成された窒化部材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
まず、本発明の実施の形態に係る窒化部材が摩擦部材として適用される振動波駆動装置である棒型超音波モータの構成について、図18および図19を参照しながら説明する。図18は棒型超音波モータの構成を示す縦断面図である。図19(a)は図18の棒型超音波モータの振動モードを模式的に示す図、図19(b)は振動モードを模式的に示す図である。
【0018】
棒型超音波モータは、図18に示すように、弾性体1と、弾性体2と、電気−機械エネルギ変換素子である積層圧電素子3と、ロータ7と、ギア8とを備える。各弾性体1,2、積層圧電素子3、ロータ7およびギア8は、シャフト4に挿通されている。シャフト4の両端部には、それぞれナット5,11に螺合するねじ部が形成され、中間部には、フランジ部4aが形成されている。積層圧電素子3は、各弾性体1,2間に配置され、各弾性体1,2および積層圧電素子3はシャフト4の一方の端部に螺合されているナット5とシャフト4のフランジ部4aとの間で所定の挟持力が付与されるように狭持固定されている。弾性体1の端部には、耐摩耗性を有するリング状の摩擦部材6が設けられている。摩擦部材6の詳細については、後述する。
【0019】
ロータ7は、その一方の端面が弾性体1に設けられた摩擦部材6に接触するように配置されている。ロータ7の一方の端面は、摩擦部材6との接触幅が小さく、かつ適度なバネ性を有するように形成されている。ロータ7の他方の端面には、モータ出力を外部に伝達するためのギア8の凸部と係合可能な凹部が形成されている。ギア8は、超音波モータを取り付けるためのフランジ10の下部に回転可能に嵌合されるとともに、フランジ10によりシャフト4のスラスト方向へ移動しないように固定されている。ギア8とロータ7との間には、ロータ7を摩擦部材6に対して押し付けるための加圧バネ15が設けられている。
【0020】
ここで、図19(a)に示すように、弾性体1、弾性体2、積層圧電素子3、シャフト4、摩擦部材6およびナット5によって、棒状の振動子が構成される。積層圧電素子3においては、電極(図示せず)が2つの電極郡にグループ化されており、それぞれの電極郡には、電源(図示せず)から位相の異なる交流電界が印加される。積層圧電素子3の電極群に上記交流電界が印加されると、振動子には、互いに直交する2つの曲げ振動が励振される。
【0021】
励振される一方の曲げ振動は、図19(b)に示す、紙面に平行な方向の振動である。他方の曲げ振動は、紙面に垂直な方向の振動である。上記印加される交流電界の位相を調整することにより、2つの曲げ振動間にπ/2(rad)の時間的な位相差を与えることができ、その結果、上記振動子の曲げ振動は、振動子の軸周り(シャフト4の軸周り)に回転する。これによって、ロータ7に接触する弾性体1の端面には楕円運動が生じ、摩擦部材6に押圧されたロータ7が摩擦駆動されるため、ロータ7、ギア8、加圧バネ15が一体に回転する。そして、ギア8の回転駆動力が、モータ出力として外部ギア(図示せず)へ伝達される。
【0022】
本発明の実施の形態に係る窒化部材が摩擦部材として適用される振動波駆動装置として、上記棒型超音波モータの他に、例えば円環型超音波モータがある。この円環型超音波モータについて図20を参照しながら説明する。図20(a)は円環型超音波モータの構成を示す縦断面図、図20(b)は振動子の斜視図である。
【0023】
円環型超音波モータは、図20(a)に示すように、ハウジング30を備える。ハウジング30には、出力軸28が複数の軸受31を介して回転可能に支持されている。出力軸28には、ギア(図示せず)などを介して、本超音波モータを駆動源とする各種装置、機器などの作動装置の駆動機構が接続される。
【0024】
また、ハウジング30には、環状の弾性体21がビス32で固定されている。環状の弾性体21は、出力軸28と同軸上に配置されている。弾性体21の一方の面には、環状の移動体27と接触する摩擦部材26が設けられている。また、弾性体21の他方の面には、電気−機械エネルギ変換素子としての円環状の圧電素子23が貼り付けられている。
【0025】
具体的には、弾性体21は、金属材料の切削加工あるいは粉末焼結などの型成形によって円環状に製作される。弾性体21の一方の面(表面)には、図20(b)に示すように、軸方向へ突出する複数のくし歯状の突起が形成されおり、該複数の突起の上面には、摩擦部材26が接着されている。また、弾性体21の他方の面(裏面)に貼り付けられている圧電素子23には、複数の電極22が設けられている。弾性体21と圧電素子23と摩擦部材26により、振動子が構成される。
【0026】
これまでは、摩擦部材は弾性体と別部材として構成するものとして説明してきたが、弾性部材としてステンレス鋼を選定し、それに直接窒化処理を施すことにより、摩擦部分を弾性体と一体化することもできる。摩擦部材と弾性体を一体化した場合は、摩擦部分が弾性部材から脱落する心配もなく、製造工程を短縮することができる。特に、くし歯状の突起の上面部に摩擦部材を接合する構成の振動子においては、摩擦部材がくし歯の数だけ必要になるので、摩擦部材と弾性体を一体化する場合には、大きな効果が得られる。
【0027】
移動体27は、その一方の面が摩擦部材26と対向しかつ出力軸28と同軸上になるように配置されている。移動体27は、出力軸28に固着されている加圧ばね部材35に支持されている。加圧ばね部材35は、移動体27を摩擦部材26に加圧接触させるばね力を発生する。
【0028】
ここで、圧電素子23の電極に交流電界が印加されると、上記振動子が励振され、摩擦部材26に加圧接触する移動体27が出力軸28と一体に回転駆動される。これにより、モータ出力は、外部の駆動機構へ伝達される。
【0029】
本実施の形態においては、窒化部材が摩擦部材として適用される超音波モータとして、棒型および円環型超音波モータが例示されている。しかし、これらに限定されることはなく、振動体の形状、励起する振動の次数、振動の形態などに応じて構成される各種のタイプの超音波モータに対して、本発明に係る窒化部材が摩擦部材として適用可能であると考えられる。
【0030】
次に、上述した超音波モータの摩擦部材を形成する窒化部材について図1〜図17を参照しながら説明する。図1〜図3は、それぞれ、本発明の第1の実施の形態、第2の実施の形態、および第3の実施の形態に係る窒化部材からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。図4はTiの含有量を本発明の範囲外とした第1の製造材料の窒化部材からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。図5はTiの含有量を本発明の範囲外とした第2の製造材料の窒化部材からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。図6〜図11は、それぞれ、市販の各JIS規格ステンレス鋼からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。図12は第2の製造材料の窒化層部分の電子顕微鏡写真を示す図である。図13は図12の窒化層部分におけるNのマッピング像を示す図である。図14は図12の窒化層部分におけるTiのマッピング像を示す図である。図15は各温度で窒化処理したときの窒化層の厚さを示すグラフを示す図である。図16は各温度で窒化処理したときの窒化層の硬さを示すグラフを示す図である。図17は本発明の一実施の形態に係る窒化部材からなる摩擦部材の外形を示す斜視図である。ここで、図17に示す摩擦部材6は、図18に示す棒型超音波モータに用いられている環状の摩擦部材6として利用可能なものであり、この摩擦部材6を例として、本発明の実施の形態に係る窒化部材を説明する。
【0031】
ここでは、下記の表1に表される11種類の材料から上記摩擦部材を形成する場合を説明する。これら11種類の材料は、本発明の第1、第2および第3の実施の形態をそれぞれ構成する3種類のオーステナイト系のステンレンス鋼材と、第1および第2の製造材料の2種類の鋼材と、6種類のJIS規格のステンレス鋼材である。これらの材料の組成は、重量%で表されている。
【0032】
上記第1〜第3の実施の形態を構成する3種類のオーステナイト系のステンレンス鋼材と、第1および第2の製造材料の2種類のステンレス鋼材は、真空誘導炉にて製造された50kgの鋼塊として準備されたものである。各鋼塊は、1473Kの温度で2時間保持された後に、熱間加工により直径60mmの丸棒に仕上げられる。そして、各材料の丸棒は、1373Kの温度で熱間圧延されて、摩擦部材を形成するための直径15mmの丸棒に仕上げられる。また、上記6種類のJIS規格のステンレス鋼材は、比較用摩擦部材を形成するために準備された丸棒である。ここで、上記第1および第2の製造材料は、それぞれ、Ti(チタン)の含有量が本発明の範囲外とされたものである。
【0033】
上記11種類の材料からそれぞれなる丸棒は、図17に示すような摩擦部材6を得るために、所定の寸法を有するリング状の部材に切削加工される。ここでは、各丸棒は、それぞれ、外径10mm、内径7.2mm、厚さ0.5mmの各寸法を有するリング状部材に仕上げられた。
【0034】
すなわち、本発明の実施の形態に係る3種類の組成のリング状部材、Tiの含有量が本発明の範囲外とされた2種類の組成のリング状部材、6種類の比較用ステンレス鋼の組成のリング状部材の合計11種類のリング状部材が摩擦部材6として製作された。
【0035】
【表1】
【0036】
製作された各摩擦部材のうち、本発明の実施の形態に係る3種類の摩擦部材と、第1および第2の製造材料からなる2種類の摩擦部材に対しては、823Kの温度で2時間のイオン窒化処理が施された。また、SUS303、SUS304、SUS303(Se)、SUS316Lのオーステナイト系ステンレス鋼からなる摩擦部材に対しても、同様に、823Kの温度で2時間のイオン窒化処理が施された。これに対し、SUS440AおよびSUS420j2のマルテンサイト系ステンレス鋼からなる摩擦部材に対しては、743Kの温度で7.5時間のイオン窒化処理が施された。
【0037】
これらのイオン窒化処理が施された摩擦部材を、上述した超音波モータの摩擦部材として用いるには、その窒化層表面を平滑に仕上げる必要がある。しかし、ここでは、各摩擦部材部材に対しては、表面仕上げを施さずに、以下の試験を実施し、その結果を述べることにする。
【0038】
イオン窒化処理が施された各摩擦部材はそれぞれ樹脂に埋め込められ、その断面についてビッカース硬さ試験が実施された。この試験により、表面から20μmの深さの位置において、各材料とも1200Hv前後の十分な硬さを維持し、硬さに関しては、それぞれの組成による差はほとんど認められないという結果が得られた。
【0039】
また、硝酸とエチルアルコールからなるナイタル液を用いて各摩擦部材の断面がエッチング処理された後に、処理後の断面がそれぞれ顕微鏡によりそれぞれ観察された。この顕微鏡観察により、それぞれの摩擦部材の断面を撮影した顕微鏡写真として、図1〜図11に示すものが得られた。図1〜図3の各顕微鏡写真は、第1の実施の形態、第2の実施の形態、第3の実施の形態に係る摩擦部材のものである。図4および図5の各顕微鏡写真は、第1の製造材料および第2の製造材料からなる摩擦部材のものである。図6〜図11の各顕微鏡写真は、SUS440A、SUS303、SUS420j2、SUS304、SUS303(Se)、SUS316Lのそれぞれからなる摩擦部材のものである。ここで、SUS303とSUS303(Se)は、快削用成分としてそれぞれ、硫化マンガン、セレンを含有する。
【0040】
図1〜図11のそれぞれの顕微鏡写真において、その中央付近に窒化層101aが写し出され、その上部にステンレスの母材101が写し出されている。窒化層101aは、各材料とも約30μm程度の厚さを有し、材料の違いによる窒化層の厚さの差は、ほとんどないことが確認された。また、窒化層101aの下部には、ダレ防止材料102があるが、これは、窒化層101aの表面部分を明確にするため窒化層と接して埋め込まれた材料であって、本発明とは直接は関係ない。
【0041】
これらの顕微鏡写真から分かるように、11種のすべての摩擦部材において窒化されていない母材101は、ほとんど腐食されていない光沢を呈した状態を維持している。しかし、各摩擦部材のうち、窒化層101a全体が黒く腐食されている摩擦部材がある。このような腐食が進んでいる窒化層101aは、大気中においても、窒化されていない母材101に比較して腐食され易いことを意味する。
【0042】
また、窒化層101aと母材101との境界が明瞭でない摩擦部材がある。このような摩擦部材は、その窒化層101aが腐食し難いことを示す。
【0043】
上記第1〜第3の実施の形態のリング状部材(摩擦部材)に関しては、図1〜図3に示す断面の顕微鏡写真からわかるように、いずれも窒化層101aと母材101の境界が明瞭でない。これに対し、図6〜図11に示す比較用ステンレス鋼からなる摩擦部材部材においては、窒化層101aが腐食して、窒化層101aと母材101の境界が明瞭である。このことは、上記第1〜第3の実施の形態に係る摩擦部材の窒化層101aが明らかに比較用摩擦部材の窒化層101aより腐食され難いことを示す。
【0044】
また、上記第1および第2の製造材料からなる摩擦部材は、Tiが上記第1〜第3の実施の形態に係る摩擦部材より多く含有されているものであって、その窒化層101aの耐食性が極めて優れていることがわかる。但し、後述するように、これらの摩擦部材は、クラックが発生し、信頼性があるものとはいい難い。
【0045】
上記第1の実施の形態の摩擦部材の窒化層101aおよび母材101中に晶出した硫化チタンの周辺部分においては、若干腐食が進行している。すなわち、硫化チタンが生成された周辺部分においては、母材101中のTiが硫化チタンの生成に使用されたため、その部分のチタン含有量が欠乏したと考えられる。
【0046】
但し、第1の実施の形態、第2の実施の形態、第3の実施の形態、第1の製造材料、第2の製造材料のそれぞれからなる摩擦部材については、全て、その窒化層の耐食性が他の材料に比して優れていることが分かる。その原因は明確ではないが、Tiの存在が耐食性向上に作用したと推測される。Tiは窒素と化合物を生成し易い窒化物生成元素であるため、クロムと窒素の化合物の析出を遅らせたとも考えられる。Tiが先に窒素と結合して窒化チタンが生成されれば、クロムと窒素の化合物の析出が抑えられることになり、前述した鋭敏化の現象も抑えられる。
【0047】
ここで、仮に、Tiがクロムと窒素の化合物の析出を遅らせたことが、優れた耐食性を発揮することに起因するものであるならば、クロム以上に窒化物を作り易いニオブ、バナジウム、ボロン、ジルコンなどの窒化物生成元素の場合でも、同様の効果が得られることが推測される。
【0048】
次に、本発明の実施の形態に係る窒化部材の好適な成分範囲について説明する。
【0049】
Ni(ニッケル)は、オーステナイト生成元素である。オーステナイトのみの相にするには、Niを5.0重量%以上添加することが必要であり、Niの量が15.0重量%を超えると、窒化層の形成が阻害される。よって、Niの量は、5.0〜15.0重量%の範囲内にすることが好ましい。
【0050】
Cr(クロム)は、ステンレスとして必須元素であって、その量が15.0重量%未満であると、耐食性が低下される。逆に、Crの量が25.0重量%を超えると、フェライトとオーステナイトの二相組織となり、オーステナイト本来の良好な塑性加工性が劣化する。よって、Crの量は、15.0〜25.0重量%の範囲内にすることが好ましい。
【0051】
Ti(チタン)は、窒化層の耐食性を向上させるために添加した元素であって、少なくとも0.8重量%以上添加すれば、効果が認められる。逆に、Tiを過剰に添加すると、コストがアップする。また、第1および第2の製造材料は、Tiを4.0重量%以上添加したものであるが、図12〜図14に示すように、Ti元素の偏在が見られる上、窒化層に沿って発生した多数のクラックが確認された。すなわち、Tiの含有量が4.0重量%またはそれ以上であると、窒化層としての目的を達成することができないことが分かった。
【0052】
ここで、Tiの含有量が4.92重量%である第2の製造材料からなる摩擦部材(図5に示す)の窒化層全体を走査型電子顕微鏡により走査すると、図12に示すような二次電子像が得られる。この二次電子像においては、大部分が窒化層101aで占められており、クラックが横に走っていることが分かる。また、二次電子像においては、組成(成分)が異なると、コントラストが生じるため、図12に示す二次電子像においては、灰色部分と白色部分のそれぞれに成分のムラが生じていることが分かる。
【0053】
図12に示す二次電子像において、N(窒素)、Tiのそれぞれをマッピングした像としては、図13および図14に示すものが得られる。これらのマッピング像から、Nが多い所はTiも多いことが分かる。また、化合物TiNはまだ生成されていないとみられるが、少なくともこのような成分の偏在は好ましくない。よって、Tiの含有量は、3.0重量%以下とすることが望ましい。
【0054】
これに対し、第1の実施の形態の摩擦部材には、1.02重量%のTiが含有されているが、その内の0.15重量%分のチタンは、含有量が0.209重量%のイオウとの結合に消費されたとみられる。よって、イオウの含有量が少なく抑えられた組成の場合において、Tiが0.8重量%以上含有されていれば、耐食性を向上させる効果が得られるであろうと推測される。
【0055】
このことは、上記第1の実施の形態と略同一の組成であって、Tiを含有していないSUS303(図7)およびSUS304(図10)と、第1の実施の形態(図1)とを比較すれば、明確である。すなわち、少なくともTiが0.8重量%以上含有されていれば、耐食性の向上に効果がみられる。
【0056】
ここでは、イオン窒化処理の場合に摩擦部材の耐食性に対する向上の効果が確認されている。この耐食性の向上が上記した要因によるものとすると、ガス窒化処理、塩浴窒化処理などの他の窒化処理を実施しても、同様の効果を期待することができると推測される。
【0057】
なお、本発明の実施の形態においては、図18に示す棒型超音波モータの摩擦部材6を形成する場合の窒化部材について説明したが、図20に示す円環型超音波モータの摩擦部材26も、同様の窒化部材により形成することができ、また、同様の効果を得ることができる。
【0058】
また、本発明の実施の形態においては、823Kの温度でイオン窒化処理が行われた例を示したが、イオン窒化処理の温度としては、773Kを超える温度であればよい。
【0059】
ここで、イオン窒化処理の温度について説明する。
【0060】
上記第1〜第3の実施の形態のそれぞれについて、3つのサンプルが製作された。具体的には、図15に示すように、上記第1の実施の形態に対応する3つのサンプルとして、試料No.500−1,530−1,550−1が製作された。また、上記第2の実施の形態に対応する3つのサンプルとして、試料No.500−2,530−2,550−2が、上記第3の実施の形態に対応する3つのサンプルとして、試料No.500−3,530−3,550−3がそれぞれ製作された。そして、これらの試料のうち、試料No.500−1,500−2,500−3のそれぞれに対しては、773Kの温度で6時間の窒化処理が行われた。また、試料No.530−1,530−2,530−3のそれぞれに対しては、803Kの温度で5時間の窒化処理が行われた。試料No.550−1,550−2,550−3のそれぞれに対しては、823Kの温度で4時間の窒化処理が行われた。
【0061】
ここで、773Kの温度で6時間の窒化処理により各試料500−1,500−2,500−3にそれぞれ形成された窒化層の厚さは、図15に示すように、30μm以下であり、これは実用的ではない。
【0062】
また、各窒化処理により各試料にそれぞれ形成された窒化層の硬さ(Hv)は、図16に示すように、その表面から20μmの位置で1080Hv以上の硬さを示している。また、823Kという高温での窒化処理の場合においても、その硬さの低下はみられない。
【0063】
このように、第1〜第3の実施の形態を構成する3種類のオーステナイト系のステンレンス鋼材を用いれば、一般には耐食性が低下すると考えられてきた高温での窒化処理でも、実用的な厚さおよび耐食性を有する窒化層を得ることができた。
【0064】
以上により、本発明によれば、加工性が良好であって耐食性が優れ、その上厚い窒化層が形成された窒化部材を得ることができる。具体的には、加工性については、本来オーステナイト系ステンレス鋼は、優れた塑性加工性を有するので、プレス加工などのような大量生産に適した方法での成形が可能なる。また、このステンレス鋼材に窒化処理を施すことによっても、母材と同等程度の耐食性を有する窒化層を形成することができる。そして、該材料の窒化層の耐食性が高いので、773Kを超える高温度で窒化処理しても実用的な耐食性を維持した上で、厚い窒化層が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る窒化部材からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る窒化部材からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係る窒化部材からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図4】Tiの含有量を本発明の範囲外とした第1の製造材料の窒化部材からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図5】Tiの含有量を本発明の範囲外とした第2の製造材料の窒化部材からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図6】SUS440Aからなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図7】SU303からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図8】SUS402j2からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図9】SUS304からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図10】SUS303(Se)からなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図11】SUS316Lからなる摩擦部材の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図12】図5の第2の製造材料の窒化層部分の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図13】図12の窒化層部分におけるNのマッピング像を示す図である。
【図14】図12の窒化層部分におけるTiのマッピング像を示す図である。
【図15】各温度で窒化処理したときの窒化層の厚さを示すグラフを示す図である。
【図16】各温度で窒化処理したときの窒化層の硬さを示すグラフを示す図である。
【図17】本発明の一実施の形態に係る窒化部材からなる摩擦部材の外形を示す斜視図である。
【図18】棒型超音波モータの構成を示す縦断面図である。
【図19】(a)は図18の棒型超音波モータの振動モードを模式的に示す図、(b)は振動モードを模式的に示す図である。
【図20】(a)は円環型超音波モータの構成を示す縦断面図、(b)は振動子の斜視図である。
【符号の説明】
【0066】
1,21 弾性体
6,26 摩擦部材
7 ロータ
27 移動体
101 窒化されていない母材
101a 窒化層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tiの含有量が0.8〜3.0重量%であるオーステナイト系ステンレス鋼を、773Kを超える温度で窒化処理することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼の窒化処理方法。
【請求項2】
Tiの含有量が0.8〜3.0重量%であるオーステナイト系ステンレス鋼を、773Kを超える温度で窒化処理してなることを特徴とする窒化部材。
【請求項3】
電気−機械エネルギ変換素子により振動が励振される振動子と、
前記振動子に励振される振動によって駆動される移動子と、
前記振動子および前記移動子の少なくとも一方に、他方と接触するように設けられている摩擦部材とを備え、
前記摩擦部材は、Tiの含有量が0.8〜3.0重量%であるオーステナイト系ステンレス鋼を、773Kを超える温度で窒化処理してなる窒化部材からなることを特徴とする振動波駆動装置。
【請求項1】
Tiの含有量が0.8〜3.0重量%であるオーステナイト系ステンレス鋼を、773Kを超える温度で窒化処理することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼の窒化処理方法。
【請求項2】
Tiの含有量が0.8〜3.0重量%であるオーステナイト系ステンレス鋼を、773Kを超える温度で窒化処理してなることを特徴とする窒化部材。
【請求項3】
電気−機械エネルギ変換素子により振動が励振される振動子と、
前記振動子に励振される振動によって駆動される移動子と、
前記振動子および前記移動子の少なくとも一方に、他方と接触するように設けられている摩擦部材とを備え、
前記摩擦部材は、Tiの含有量が0.8〜3.0重量%であるオーステナイト系ステンレス鋼を、773Kを超える温度で窒化処理してなる窒化部材からなることを特徴とする振動波駆動装置。
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−146288(P2007−146288A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−281526(P2006−281526)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(599077650)株式会社 大同分析リサーチ (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(599077650)株式会社 大同分析リサーチ (3)
【Fターム(参考)】
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