説明

クランプ装置

【課題】クランプ支持ツールのクランプ位置が種々に異なる各種ワークに対応できるようにして汎用性を高めることができるクランプ装置の提供。
【解決手段】長手方向へ移動自在に設けた各スライダ4A、4B、4Cにクランプ5A、5B、5Cを設ける。各クランプ5A、5B、5Cはワーク10の各基準穴11A、11B、11Cと対応するよう位置決めする。このとき、ワーク10の3つの基準穴11A、11B、11Cを通る120°間隔の直線a,b,cの交点であるクランプ中心点O2を計算により求め、このクランプ中心点O2と、クランプ支持ツール1のツール中心点O1を一致させ、さらにスライダ4A、4B、4Cを移動させて、各クランプ5A、5B、5Cの各ツール中心点O1からの位置を、線分a,b,cの長さと一致させることにより、各クランプ5A、5B、5Cを基準穴11A、11B、11Cと一致させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、各種重量物等を搬送する際におけるクランプ方法及びその装置に係り、特に異なるワーク間に対してクランプ位置を自由に変更できるようにして汎用性を高めたものに関する。
【背景技術】
【0002】
クランプ位置を調節可能にしたクランプ装置は公知であり、例えば、直線状の支持部材両端に設けたクランプの間隔を自在に調節可能にしたもの(特許文献1参照)や、径の異なる複数の円板状ワークに対処するため、円板状治具を複数に分割して径方向のクランプ位置を可変にしたものがある(同2)。
【特許文献1】特開2000−176757号公報
【特許文献2】特開2000−015588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記各従来技術では、クランプ点が2点に限定されたワークや、円形状のワークに対するクランプに限定される。しかし、複雑形状等の不定形であり、かつクランプ点が3以上の複数であるワークに対しては、このようなクランプは適用できず、各ワーク毎にクランプ位置を固定した専用のクランプ装置を設ける必要があり、汎用性に乏しく、かつ多品種少量生産の量産形態においては、設備投資が増大した。
そこで、このような不定形をなしてクランプ点が3以上のワークに対しても、自由にクランプ位置を変更できるようにして汎用性を高めることが求められていた。本願発明は、このような要請の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため本願のクランプ方法に係る請求項1の発明は、クランプ支持ツールに支持された複数のクランプを位置調整してクランプ点が異なる複数のワークに対してクランプ可能に適応できるようにしたクランプ方法において、
前記クランプ支持ツールは、その中心であるツール中心点から放射状に延びるスライダアームをクランプ点の数だけ設け、これらのスライダアーム上にスライダを長手方向へ調節移動自在に設け、各スライダにクランプを設けるとともに、
前記ワークの各クランプ点を通り、隣り合うスライダアームの開き角に一致する開き角をなす複数の直線の交点であるクランプ中心点を、前記各クランプ点の位置情報及び前記開き角に基づいてクランプ中心点決定手段により計算によって求め、
前記各クランプの前記ツール中心点間距離が、前記クランプ中心点から対応するクランプ点までの距離と一致するように、前記各スライダを位置調節手段により前記スライダアーム上で長手方向へ調節移動させてクランプ位置を調整することを特徴とする。
【0005】
請求項2の発明は上記請求項1において、前記各クランプ点の少なくとも一つが、前記クランプ中心点を中心とする一つの同心円上に位置しないことを特徴とする。
【0006】
請求項3の発明は上記請求項1において、前記各クランプ中心点決定手段によるクランプ中心点の計算及び前記位置調節手段による前記各スライダの位置調整を自動化したことを特徴とする。
【0007】
本願のクランプ装置に係る発明請求項4の発明は、クランプ支持ツールに支持されたクランプを位置調整してクランプ点が異なる複数のワークに対してクランプ可能に適応できるようにしたクランプ装置において、
前記クランプ支持ツールは、その中心であるツール中心点から放射状に延びるスライダアームをクランプ点の数だけ設け、これらのスライダアーム上にスライダを長手方向へ調節移動自在に設け、各スライダにクランプを設けるとともに、
前記ワークの各クランプ点を通り、隣り合うスライダアームの開き角に一致する開き角をなす複数の直線の交点であるクランプ中心点上に前記ツール中心点を一致させ、かつ前記各スライダアームを対応する前記直線と一致もしくは所定の関係付けを行い、前記各スライダを対応する前記スライダアームの長手方向へ調節移動させることにより、前記クランプを対応する前記クランプ点上へ位置させるようにしたことを特徴とする。
【0008】
ここで、各スライダアームを対応する前記直線と一致するとは、平面視で各スライダアームが対応する前記直線と重なる状態を意味し、所定の関係付けを行うとは、各スライダアームと対応する前記直線とが平面視で重ならず平行になったり、所定の開き角をなす状態を意味する。
【0009】
請求項5の発明は上記請求項4において、前記スライダを調節移動させるための位置調節手段がクランプ支持ツール1と別体に設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項6の発明は上記請求項4において、前記調節移動された各クランプの少なくとも一つが、前記ツール中心点を中心とする一つの同心円上に位置しないことを特徴とする。
【0011】
請求項7の発明は上記請求項4において、前記クランプ点が予めワークに設けられた穴であることを特徴とする。
【0012】
請求項8の発明は上記請求項4において、前記スライダアーム3が120°間隔で3本設けられていることを特徴とする。

【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、クランプ中心点決定手段により、実測等により既知のクランプ点に関する位置情報と、隣り合うスライダアームの開き角に基づいて計算により求めることができる。そこで、位置調節手段により各クランプのツール中心点間距離が、クランプ中心点から対応するクランプ点までの距離と一致するようにスライダを調整移動させると、クランプ支持ツール1のツール中心点をクランプ中心点と一致させたとき、各クランプが対応する各クランプ点と一致するよう容易に位置調整できる。
【0014】
したがって、3点以上の複数のクランプ点を備え、不定形等のクランプ点が種々に異なる各種ワークに対しても容易に適用できるようになり、クランプ支持ツールの汎用性を向上させることができ、ワーク毎に専用化しないで済むので、設備投資を少なくすることができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、3点以上の複数のクランプ点のうち少なくとも一つがクランプ中心点を中心とする一つの同心円上に位置しないような、クランプをツール中心点から等距離に配置できないようなワークに対しても容易にクランプ可能になる。
【0016】
請求項3の発明によれば、クランプ中心点の決定と、クランプの位置決めをクランプ中心点決定手段及び位置調整手段により、それぞれ自動化できるので、クランプ支持ツールのクランプ位置調整が容易・迅速になる。
【0017】
請求項4の発明によれば、クランプ支持ツール1のツール中心点をクランプ中心点と一致させることにより、各スライダアームが各クランプ点の上又はこれと所定関係を有する位置へ通し、各スライダアーム上のスライダを調節移動させて各クランプを対応する各クランプ点へ一致させることができる。
【0018】
したがって、3点以上の複数のクランプ点を備え、不定形等のクランプ点が種々に異なる各種ワークに対しても容易に適用できるようになり、クランプ支持ツールの汎用性を向上させることができ、ワーク毎に専用化しないで済むので、設備投資を少なくすることができる。
【0019】
請求項5の発明によれば、位置調節手段をクランプ支持ツールと別体にしたので、クランプ支持ツールを軽量化でき、その取扱いを容易にすることができる。
【0020】
請求項6の発明によれば、3以上の複数のクランプのうち少なくとも一つがツール中心点を中心とする一つの同心円上に位置しないような、クランプをツール中心点から等距離に配置できないようなワークに対しても容易にクランプ可能になる。
【0021】
請求項7の発明によれば、クランプ点としてワークに設けた穴を利用することにより、装置全体をコンパクト化できる。また、予め別用途の穴を利用すれば特別な基準穴を設ける必要がない。
【0022】
請求項8の発明によれば、各スライダアームが120°間隔で3本設けられるので、クランプ点が3点となり、少ない数でバランスよくワークを支持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面に基づいて一実施例を説明する。図1は実施例に係るクランプ支持ツール1の斜視図であり、このクランプ支持ツール1は、中央基部2から放射状に配設された3本のスライダアーム3A、3B、3Cと、それぞれの上を軸方向へ移動自在である3個のスライダ4A、4B、4Cと、このスライダ4A、4B、4Cにそれぞれ設けられたクランプ5A、5B、5Cを備える。
【0024】
隣り合うスライダアーム3A、3B、3C間における開き角度をα、β、γとするとき、本実施例では等角度(120°)である。また、各スライダアーム3A、3B、3Cの長手方向における中心軸線をC1、C2、C3とする。各中心軸線をC1、C2、C3はツール中心点O1にて交わる。
【0025】
中央基部2にはツール中心点O1と同心の支持軸6が相対回動自在設けられ、角度位置ロック7により、支持軸6に対して中央基部2の回動をロック又はアンロック自在になっている。支持軸6の上端はロボットアーム8に取付けられ、図示省略のロボットによりクランプ支持ツール1全体を自由に3次元方向へ移動するようになっている。
【0026】
棒状をなす3つの各クランプ5A、5B、5Cは、その先端のクランプ部(後述)がワーク10に設けられた3つの基準穴11A、11B、11Cへ嵌合することにより、各基準穴11A、11B、11Cの内側からクランプしてワーク10を移動することができるようになっている。
【0027】
各基準穴11A、11B、11Cは、ワーク10に予め設けられたボスの通し穴等、組立時の締結等予めクランプ以外の他の用途が決まっている穴のうち、任意に3つを選択して利用できる。クランプ支持ツール1側の各クランプ5A、5B、5Cの位置は、この基準穴11A、11B、11Cの位置に応じて随時自由に決定される。
【0028】
すなわち、各スライダアーム3A、3B、3Cの中心軸線C1、C2、C3が、それぞれ対応する各基準穴11A、11B、11Cの上を通過するように、クランプ支持ツール1をワーク10上に配置し、各クランプ5A、5B、5Cが対応する各基準穴11A、11B、11Cの上に来るように各スライダ4A、4B、4Cをスライドさせて位置調整すればよい。
【0029】
このとき、ワーク10上において、各スライダアーム3A、3B、3Cの中心軸線C1、C2、C3に平行して対応する各基準穴11A、11B、11Cの上を通過する3つの直線をa、b、cとすれば、これらの直線は1点で交わり、この点をクランプ中心点O2とする。また、各直線をa、b、cのなす角は開き角度α、β、γであり、互いに等角度(120°)となる。
【0030】
本実施例におけるクランプ中心点O2は、3つの直線をa、b、cの交点であり、それぞれの直線は対応する基準穴11A、11B、11Cの上を通るが、クランプ中心点O2を中心とする一つの同心円を想定したとき、この同心円上に各基準穴11A、11B、11Cが位置していないという特徴がある。
【0031】
すなわち、一つの同心円上に各基準穴11A、11B、11Cが位置する場合は、極めて限定された特別なケースであって、このような場合には各スライダアーム3A、3B、3C上に中心から等距離で各クランプ5A、5B、5Cを配置することにより容易にクランプできることは明らかである。しかし本願発明は、このような特別なケースに限らず、各クランプ5A、5B、5Cの中心からの距離が個々に異なる一般化されたケースをも対象としていることを明瞭に示す。
【0032】
また、このクランプ中心点O2は、ツール中心点O1に対応するから、ツール中心点O1がクランプ中心点O2上にあり、かつ中心軸線C1、C2、C3を対応する直線a,b,c上に重なるように、クランプ支持ツール1を位置させることが必要である。したがって、各基準穴11A、11B、11C及びクランプ中心点O2の位置を求めなければならないが、これらは実測や計算等で求められる。
【0033】
すなわち、ワーク10は、セット基準点12、13を備え、この点で作業テーブル14(図2参照)上へ位置決めされてセットされる。そこで、これらのセット基準点12、13もしくは任意の他の点を座標原点とすれば、各基準穴11A、11B、11Cの座標点を予め設計図又は実測により求めることができる。また、3直線a,b,cの開き角度α、β、γ(各120°)も既知であるから、計算により簡単に定まる。
【0034】
この計算は、例えば適当なコンピュータへ、各基準穴11A、11B、11Cの位置情報及び開き角度α、β、γに関する数値を入力することにより、予め設定された計算プログラムにより、簡単に自動計算できる。図中の15はこのような計算を行うクランプ中心点決定手段である。
【0035】
クランプ中心点決定手段15により決定されたクランプ中心点等のデータ(座標データ)は、クランプ装置全体のコントローラ16及びロボットのコントローラ17へ入力される。コントローラ15は、後述する角度調整機構18,位置調節ユニット20,位置決めロック機構30(いずれも図4等参照),クランプ部33の作動(図6)等を制御する。 ロボットのコントローラ17はロボットアーム8を制御する。なおクランプ中心点決定手段15はコントローラ16と一体化させてよい。
【0036】
図2はクランプ装置全体の平面図であり、クランプ支持ツール1は、位置調節ユニット20の配置された位置調整エリヤ9と、作業テーブル14が置かれた作業エリヤ間を移動する。すなわち、クランプ支持ツール1は位置調節ユニット20上にて各クランプ5A、5B、5Cの位置を設定され、かつ角度を調節されてから、ロボットアーム8により作業テーブル14へ移動し、ワーク10を実線位置から仮想位置への移動等を行う。
【0037】
位置調節ユニット20は120°間隔で放射状に配置された3つの位置調整手段21を有する。位置調整手段21の配置はクランプ支持ツール1に対応するものであり、それぞれ長手方向軸線を対応する各スライダアーム3A、3B、3Cの軸線C1、C2、C3と平行するように配置してある。クランプ支持ツール1を位置調節原点O3(図3参照)へ一致させると、位置調節原点O3がクランプ中心点O1と重なり、かつ支持軸6の軸線回りに所定の初期角度に調整されると、各スライダアーム3A、3B、3Cがそれぞれ対応する位置調整手段21と一部で重なるようになっている。
【0038】
図3はクランプ支持ツール1と位置調節ユニット20の関係を示す斜視図、図4はその平面図である。図3に示すように、位置調整手段21は略直線状の基部ケース22と、その長手方向に配置されたボールネジ23を備える。隣り合う位置調整手段21における各ボールネジ23の軸線間に形成される開き角度は、スライダアーム3A、3B、3C間における開き角度と一致する。
【0039】
ボールネジ23には、その上を軸方向へ移動するナット24と、このナット24に下端を固定されて上下方向へ延びる位置決めポール25を備える。ボールネジ23の一端は、基部ケース22の一端に設けられたステップモータ26により正逆回転され、ナット24並びにこれと一体の位置決めポール25を所定の任意位置へ移動させることができる。
【0040】
図示の位置調整状態では、クランプ支持ツール1が位置調節原点O3よりも下降しており、例えば、スライダ4C(他のスライダも同様)の一部に設けられた押し当て部32aへ位置決めポール25の上端が押し当てられ、位置決めポール25が中心方向へ移動することにより、スライダ4Cをツール中心点O1側へ移動させるようになっている。
【0041】
調整後にクランプ支持ツール1が上昇してツール中心点O1が位置調節原点O3に一致すると、各スライダ4A、4B、4Cから外れ、位置調整手段21により軸方向位置の調整が不可となり、代わりにクランプ支持ツール1の角度調整が可能な状態になる。
【0042】
図4に示すように、各スライダ4A、4B、4Cはスライダアーム3A、3B、3Cの上に跨がってその軸方向へスライド自在であり、かつ位置決めロック機構30を内蔵し、所定位置にてロック及びアンロックが自在となっている。位置決めロック機構30は電磁式等公知の種々な形式を採用できる。
【0043】
クランプ支持ツール1の中央基部2は、ツール中心点O1と同心でかつ一体のギヤ2aが設けられ、これに角度調整機構18の駆動ギヤ18aが噛み合うことにより、クランプ支持ツール1を支持軸6の軸線回りに回動させて角度調整が可能である。この角度調整は角度位置ロック7をアンロック状態にして行う。アンロック状態ではクランプ支持ツール1が初期角度へ戻って角度調かのうであり、ロックすると調整した角度に固定される。整角度調整機構18は駆動ギヤ18aを所定角度回転させるためのステップモータ18bとこれらをツール中心点O1方向へ進退するシリンダ18cを備える。
【0044】
図5はスライダ4A部分を拡大した図である(他のスライダも同様)。スライダアーム3Aの端部には戻し機構31を備え、位置決めロック機構30によりロック解除したとき、スライダ4Aをスライダアーム3Aの端部である所定ホーム位置まで戻すようになっている。戻し機構31は、例えばぜんまい機構であり、スライダ4Aがぜんまい31aを引き出して中心方向へ移動するため、この状態のスライダ4Aを戻し方向へばね付勢する。そこでスライダ4Aをアンロックすると、ぜんまい31aの巻き取りにより戻る。この戻りは瞬時であって、かつ戻り機構を軽量・安価に構成できる。但し、このような戻し機構31は種々のものが可能である。
【0045】
スライダ4Aはスライダアーム3Aより下方へ延出するステー32を有し、その下端にクランプ5Aの上端部が取付けられている。クランプ5Aの先端は径方向に拡縮変化するクランプ部33をなし、このクランプ部33の拡縮変化はワイヤ34を介してステー32と一体のシリンダ35により行われる。ワイヤ34の一端はシリンダ35に設けられた伸縮部材36にプーリー37を介して接続されている。
【0046】
この部分を拡大して示す図6に明らかなように、ワイヤ34の他端はパイプ状をなすクランプ5Aの内部を通ってクランプ部33の底部38へ連結されている。クランプ部33は、ゴムやウレタンなどの弾性部材からなる筒状をなし、ワイヤ34で底部38を上方へ引っ張ると、長さ方向が圧縮され、中間部が径方向外方へ膨らみ、ワイヤ34を弛めるとクランプ部33は自己の弾性で復元し、膨らんだ部分が収縮して当初状態に戻る。
【0047】
そこで、シリンダ35が伸縮部材36をプーリー37側へ突出すると、ワイヤ34を弛めてクランプ部33を当初状態とし、基準穴11Aの穴径よりも小さく収縮させ、クランプ部33の外周が基準穴11Aの内壁と非接触のアンクランプ状態とする。逆に伸縮部材36を後退させるとワイヤ34を引っ張り上げて底部38を上方へ引っ張り上げ、クランプ部33の長さ方向中間部を外方へ膨らませて基準穴11Aの内壁へ密着させたクランプ状態となる。
【0048】
なお、このクランプ部構造は一例であって、同効のものは種々公知であり、これらを適宜選択できる。例えば、一般的な機械式のものとして、先端が開閉するフック状とし、と所他状態で基準穴内に挿入し、その後、先端を基準穴から出たところで開くことにより係合するようなものがある。
また、クランプ部を長さ方向にスリットを設けて開閉自在のコレットチャック状のものとし、この開閉部を開閉させるための作動部材をロッドで連結されたモータやソレノイド等の駆動部材で操作するようにしてもよい。
さらに、クランプ部部分を弾性体からなる袋状とし、この内部へ流体を注入又は排出させることにより拡縮させてもよい。
また、ワークが比較的軽量の場合は、クランプ部をゴムやウレタン等の単純な弾性ブロック状に形成し、これを上記ロッドで連結されたモータやソレノイド等の駆動部材で基準穴内へ出入させることにより強制的に弾性変形させ、圧入持に基準穴内でクランプ部を圧接させるようにしたものでもよい。
【0049】
次に、クランプ動作について説明する。図7は、クランプの位置制御時におけるフローチャートであり、図8〜10は、クランプ支持ツール1の面図における動きを線図で示したものである。
【0050】
まず、クランプ支持ツール1をロボットアーム8により位置調節ユニット20上へ移動させて、ツール中心点O1を位置調節原点O3に位置させ(S・1)、この状態からクランプ支持ツール1を下降させ(S・2)、位置調節ユニット20における各位置決めポール25の上端と各スライダの一部が重なる高さ位置とし(S・3)、角度位置ロック7を解除し(S・4)、位置決めロック機構30を外す(S・5)。
【0051】
この状態が図8に示す状態であり、スライダ4A、4B、4Cはスライダアーム3A、3B、3Cの一端であるホームポジションに復帰し、各位置決めポール25の上端が当接する。
【0052】
そこで、各位置決めポール25をそれぞれツール中心点O1方向へ移動させて、スライダ4A、4B、4Cをツール中心点O1方向へ押して所定位置へ移動させ(S・6)、位置決めロック機構30を再びロックして位置決めする(S・7)。各位置決めポール25の移動は、予めクランプ中心点決定手段15により計算された出力データに基づいてコントローラ16がステップモータ26を所定量回転させることにより適正に制御される。
【0053】
この状態が図9に示す状態であり、各スライダ4A、4B、4C並びにクランプ5A、5B、5Cはツール中心点O1からの距離が、対応する基準穴11A、11B、11Cの各クランプ中心点O2からの距離(線分a、b、cの各長さ)と同じくなるように位置決めされる。
【0054】
次に、位置決めポール25を後退させ(S・8)、角度調整ユニット18を前進させて、角度調整し(S・9及びS・10)、この状態で再び角度位置ロック9により調整角度位置をロックする(S・11)。この調整角度θは、、予めクランプ中心点決定手段15により計算された出力データに基づいて、コントローラ16が調節位置原点O3におけるクランプ支持ツール1の初期角度から必要な回転角度を計算し、ステップモータ18bを所定角度分回転させることにより適正に制御される。
【0055】
この状態が図10であり、ツール中心点O1をクランプ中心点O2上に一致させれば、各スライダアーム3A、3B、3Cの中心軸線をC1、C2、C3が対応する各直線a、b、cと重なり、各クランプ5A、5B、5Cが、それぞれ対応する基準穴11A、11B、11Cと重なる位置関係になる。
【0056】
その後、角度位置ロック7を後退させ(S・12)、クランプ支持ツール1を所定高さの位置まで上昇させて原点へ復帰させる(S・13及びS・14)。
これにてクランプ支持ツール1における各クランプ5A、5B、5Cの位置合わせが終了するので、その後、ロボットアーム8によりクランプ支持ツール1を中央基部2上へ前進させてツール中心点O1をクランプ中心点O2上へ一致させれば、各クランプ5A、5B、5Cの先端が対応する基準穴11A、11B、11CのA,B,Cと一致するので、クランプ作業を行うことができる。
【0057】
このように、本実施形態によれば、同一円周上にない3つの基準穴11A、11B、11Cに対して、そのクランプ中心点O2を割り出すことにより、各スライダ4A、4B、4Cを調整してクランプ作業をすることができる。したがって、ワーク10毎に専用のクランプ支持ツール1を設けなくても、ワーク10に3つの基準穴11A、11B、11Cがありさえすれば容易に適用可能になるので、汎用性が向上し、設備費用を削減できる。
【0058】
しかも、スライダ4A、4B、4Cの位置を計算して、各クランプ5A、5B、5Cの軸方向位置並びにクランプ支持ツール1のか回動角度W自動設定できるので、ワーク10の変更に対するクランプ支持ツール1の設定変更も極めて容易になる。
【0059】
しかも、位置調節ユニット20を設けることにより、スライダアーム3A、3B、3C側にステップモータやシリンダ等のアクチュエータを設けなくても済むので、クランプ支持ツール1を軽量化でき、ロボットによる操作を容易にする。また、クランプ5A、5B、5Cは基準穴11A、11B、11C内にてクランプするので、ワーク10の外側をクランプするものと異なり、全体をコンパクト化できる。
【0060】
また、スライダアーム3A、3B、3Cの数は3以上の複数であれば任意であり、各スライダアーム3A、3B、3C間の開き角度は等角度のみならず、任意角度でもよい。但し、スライダアーム3A、3B、3Cを120°間隔で3本とすることにより、少ないスライダアーム3A、3B、3Cの数でバランスよくワーク10を搬送できる。
【0061】
図11は別実施例に係る図1に対応する図である。この例では、角度調節機構18を中央基部2の上へ一体に設け、かつ各スライダアーム3A、3B、3C上にそれぞれ位置調節ユニット20をなすボールネジ23及びステップモータ26を直接設け、各ボールネジ23の上を調節移動されるシリンダ40A、40B、40Cの下部にそれぞれ対応するクランプ5A、5B、5Cを一体化して、それぞれを上下方向へ伸縮自在にしている。このようにすると、4軸構成により自在に調節でき、かつ角度調節機構18及び位置調節部材21を一体化できる。
【0062】
なお、本願発明は上記実施例に限定されず種々に変形や応用が可能である。例えば、上記実施例では、スライダアームを、3A、3B、3Cの3本とし、それぞれを120°間隔で放射状に配置してあるが、この本数は自由であり、3本以上の複数を用いることができる。また、開き角を等角度にすれば構造を簡単にできるが、必ずしも等間隔にする必要はなく、開き角を自由に設定できる。また、実施例におけるワーク10は例示であり、形状及びクランプ点の位置が種々のワークに対してもクランプ位置を容易かつ尋敷くに調整して適用できる。さらにクランプ点を穴とせず、ワークの外形部とし、ワークの外側からクランプしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例に係るクランプ支持ツールの斜視図
【図2】クランプ支持ツールの使用状態を示す平面図
【図3】位置調節ユニットとクランプ支持ツールの斜視図
【図4】その平面図
【図5】スライダの一部を拡大して示す図
【図6】クランプ部構造を示す断面図
【図7】位置制御のフローチャート
【図8】クランプ支持ツールの動作説明図
【図9】同上
【図10】同上
【図11】別実施例に係るクランプ支持ツールの斜視図
【符号の説明】
【0064】
1:クランプ支持ツール1、2:中央基部、3A・3B・3C:スライダアーム、4A・4B・4C:スライダ、5A・5B・5C:クランプ、10:ワーク、11A・11B・11C:基準穴、14:作業テーブル、15:クランプ中心点決定手段、16:コントローラ、18:角度調整機構、20:位置調節ユニット、25:位置決めポール、33:クランプ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランプ支持ツールに支持された複数のクランプを位置調整してクランプ点が異なる複数のワークに対してクランプ可能に適応できるようにしたクランプ方法において、
前記クランプ支持ツールは、その中心であるツール中心点から放射状に延びるスライダアームをクランプ点の数だけ設け、これらのスライダアーム上にスライダを長手方向へ調節移動自在に設け、各スライダにクランプを設けるとともに、
前記ワークの各クランプ点を通り、隣り合うスライダアームの開き角に一致する開き角をなす複数の直線の交点であるクランプ中心点を、前記各クランプ点の位置情報及び前記開き角に基づいてクランプ中心点決定手段により計算によって求め、
前記各クランプの前記ツール中心点間距離が、前記クランプ中心点から対応するクランプ点までの距離と一致するように、前記各スライダを位置調節手段により前記スライダアーム上で長手方向へ調節移動させてクランプ位置を調整することを特徴とするクランプ方法。
【請求項2】
前記各クランプ点の少なくとも一つが、前記クランプ中心点を中心とする一つの同心円上に位置しないことを特徴とする請求項1のクランプ方法。
【請求項3】
前記各クランプ中心点決定手段によるクランプ中心点の計算及び前記位置調節手段による前記各スライダの位置調整を自動化したことを特徴とする請求項1のクランプ方法。
【請求項4】
クランプ支持ツールに支持されたクランプを位置調整してクランプ点が異なる複数のワークに対してクランプ可能に適応できるようにしたクランプ装置において、
前記クランプ支持ツールは、その中心であるツール中心点から放射状に延びるスライダアームをクランプ点の数だけ設け、これらのスライダアーム上にスライダを長手方向へ調節移動自在に設け、各スライダにクランプを設けるとともに、
前記ワークの各クランプ点を通り、隣り合うスライダアームの開き角に一致する開き角をなす複数の直線の交点であるクランプ中心点上に前記ツール中心点を一致させ、かつ前記各スライダアームを対応する前記直線と一致もしくは所定の関係付けを行い、前記各スライダを対応する前記スライダアームの長手方向へ調節移動させることにより、前記クランプを対応する前記クランプ点上へ位置させるようにしたことを特徴とするクランプ装置。
【請求項5】
前記スライダを調節移動させるための位置調節手段がクランプ支持ツール1と別体に設けられていることを特徴とする請求項4のクランプ装置。
【請求項6】
前記調節移動された各クランプの少なくとも一つが、前記ツール中心点を中心とする一つの同心円上に位置しないことを特徴とする請求項4のクランプ装置。
【請求項7】
前記クランプ点が予めワークに設けられた穴であることを特徴とする請求項4のクランプ装置。
【請求項8】
前記スライダアーム3が120°間隔で3本設けられていることを特徴とする請求項4のクランプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−326799(P2006−326799A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−157054(P2005−157054)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】