説明

ディスクブレーキ

【課題】摩擦係合部材をディスクロータに接近させることによりブレーキアシスト力を加えたり、摩擦係合部材をディスクロータから離間させることにより引きずりを低減させたりできるディスクブレーキを得る。
【解決手段】半径方向の磁界が生じる状態で、ディスクロータ10に磁石32が配設される。摩擦係合部材14a,bの裏板22a,bには、それぞれ、半径方向に直交する複数の導線部分を備えた導線36a,bが設けられる。導線36a,bに電流が供給されると車輪の回転方向と平行な電磁力が作用するが、導線36a,bを流れる電流の向きを切り換えると、作用する電磁力の向きが切り換わる。それにより、摩擦係合部材14a,bをディスクロータ10に接近させる向きの電磁力を加えたり、離間させる向きの電磁力を加えたりすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪の回転を抑制するディスクブレーキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜3には、(a)車輪と一体的に回転可能なディスクロータと、(b)非回転体に、前記ディスクロータの両側に接近・離間可能に保持された一対の摩擦係合部材と、(c)それら一対の摩擦係合部材を前記ディスクロータに押し付けるキャリパと、(d)そのキャリパを駆動する駆動装置とを含むディスクブレーキが記載されている。
特許文献1に記載のディスクブレーキにおいて、ディスクロータに磁石が配設され、摩擦係合部材にコイルが配設される。ブレーキ解除時に、コイルに電流が供給されることにより電磁石として機能し、ディスクロータに設けられた磁石との間に斥力が作用する。それにより、摩擦係合部材を、ディスクロータから離間させることができ、引きずりを抑制することができる。
特許文献2に記載のディスクブレーキにおいて、非回転体(キャリパブラケット)の、摩擦係合部材の裏板の周方向の両端部に対向する部分に、それぞれ磁石が設けられる。ブレーキ作動時に、摩擦係合部材がディスクロータに摺接させられることにより周方向に移動させられると、磁石により吸引され、保持される。それにより、ブレーキの作動、非作動が繰り返し行われても、摩擦係合部材の周方向の移動が抑制され、打撃音の発生を抑制することができる。
特許文献3に記載のディスクブレーキにおいて、摩擦係合部材の裏板の周方向の両端部にそれぞれパッド側磁石が設けられ、非回転体のその両端部に対応する部分にそれぞれサポート側磁石が設けられる。摩擦係合部材は、それぞれ、一対の磁石(パッド側磁石およびサポート側磁石)の間に作用する斥力によりフローティング状態で保持される。その結果、摩擦係合部材が軸線方向に移動させられる場合の抵抗を小さくすることができる。
一方、特許文献4には、電磁ブレーキ装置が記載されている。ディスクロータに磁石が設けられ、ディスクロータに対向する非回転体にコイルが設けられる。コイルに電流が供給されると電磁石として機能し、ロータ側の磁石と非回転体側の電磁石との間に吸引力が作用する。それにより、ディスクロータが非回転体に押し付けられて、車輪の回転が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−89012号公報
【特許文献2】特開2006−83882号公報
【特許文献3】特開2008−223933号公報
【特許文献4】特開平10−52028号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、引きずりの低減、ブレーキアシスト力の付与の両方を実現可能なディスクブレーキを得ることである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0005】
本発明に係るディスクブレーキには、摩擦係合部材に電磁力を付与する電磁力付与装置が設けられる。それにより、摩擦係合部材をディスクロータに接近させてブレーキアシスト力を加えたり、ディスクロータから離間させて引きずりを低減させたりすることができる。
磁石(電磁石も含む)が関係する力には、磁石と磁石との間に作用する力(同極同士が対向する場合には斥力が作用し、異極同士が対向する場合には吸引力が作用する)、磁石と鉄等との間に作用する力(磁石が鉄を吸引する力)、磁界と電流との間に作用する力(フレミング左手の法則に基づいて決まる向きに作用する力)があり、それらのうちの磁界と電流との間に作用する力が電磁力である。導体は、導線であることが多いが、それに限らない。
電磁力の向きは、導体を流れる電流の向きと磁石によって生じる磁界の向きとの両方に交差する向きである。例えば、磁界の向きをほぼ車輪の半径方向として、電流の向きを半径方向にほぼ直交する方向とすれば、電磁力の向きは車輪の回転軸線とほぼ平行な方向(以下、軸線方向と称することがある)となる。そして、導体を流れる電流の向きを切り換えることにより、摩擦係合部材をディスクロータに接近させてブレーキアシスト力を加えたり、摩擦係合部材をディスクロータから離間させて引きずりを低減させたりすることができる。
【特許請求可能な発明】
【0006】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明について説明する。
(1)車輪と一体的に回転可能なディスクロータと、
そのディスクロータの両側に配設された一対の摩擦係合部材と、
それら一対の摩擦係合部材のうちの少なくとも一方に、前記車輪の回転軸線と平行な電磁力を付与することにより、前記一対の摩擦係合部材の各々をディスクロータに接近させたり、離間させたりする電磁力付与装置と
を含むことを特徴とするディスクブレーキ。
電磁力付与装置は、一対の摩擦係合部材の各々に電磁力を付与するものであっても、いずれか一方に電磁力を付与するものであってもよい。
電磁力付与装置は、ディスクブレーキを作動させる押付装置とは別に設けられたものである。押付装置は、一対の摩擦係合部材を、ディスクロータに押し付けるものであり、キャリパと、キャリパを駆動する駆動装置とを含む。駆動装置は、液圧により駆動するブレーキシリンダとしたり、電動モータとしたりすること等ができる。
(2)前記電磁力付与装置が、(a)前記車輪のほぼ半径方向の磁界を生じさせる状態で設けられた少なくとも1つの磁石と、(b)前記車輪の半径方向に交差する方向に延びる部分を含む少なくとも1つの導体とを含む(1)項に記載のディスクブレーキ。
(3)前記電磁力付与装置が、(i)前記少なくとも一方の摩擦係合部材に設けられた少なくとも1つの導体と、(ii)生じる磁界が、前記少なくとも1つの導体に流れる電流に交差する状態で設けられた少なくとも1つの磁石とを含む(1)項または(2)項に記載のディスクブレーキ。
導体に流れる電流の向きと、磁界の向きとから、フレミング左手の法則により、電磁力の向きが決まる。少なくとも一方の摩擦係合部材に加えられた電磁力により、一対の摩擦係合部材の各々が、ディスクロータから離間させられたり、ディスクロータに接近させられたりする。摩擦係合部材の各々には、軸方向において、互いに逆向きの電磁力が加えられる。
1つの導体とは、1つの連続した部材をいう。1つの摩擦係合部材に1つの導体が設けられるのが普通であるが、1つの摩擦係合部材に2つ以上の導体を設けてもよい。
(4)前記電磁力付与装置が、(i)(a)前記少なくとも一方の摩擦係合部材と、(b)当該ディスクブレーキの構成部材から前記少なくとも一方の摩擦係合部材を除いたもののうちの少なくとも1つとのいずれか一方に設けられた少なくとも1つの導体と、(ii)他方に設けられた少なくとも1つの磁石とを含む(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載のディスクブレーキ。
(5)前記一対の摩擦係合部材が、それぞれ、非回転体に、前記ディスクロータに接近・離間可能に保持され、当該ディスクブレーキが、(a)前記ディスクロータを跨ぐ姿勢で設けられ、前記車輪の軸線方向に移動させられることにより、前記一対の摩擦係合部材を前記ディスクロータに押し付けるキャリパと、(b)そのキャリパを駆動する駆動装置とを備えた押付装置を含み、前記少なくとも1つの磁石が、前記非回転体と、前記キャリパと、前記駆動装置と、前記ディスクロータとのうちの少なくとも1つに設けられた(2)項ないし(4)項のいずれか1つに記載のディスクブレーキ。
ディスクブレーキの構成部材には、ディスクロータ、一対の摩擦係合部材(裏板を含む)、押付装置{キャリパ、駆動装置(ピストンを含むシリンダ、押圧部材および電動モータ)}、非回転体(マウンティングブラケット)等が該当する。
(6)前記少なくとも1つの導体が、前記少なくとも一方の摩擦係合部材に設けられ、互いに並列に配設され、半径方向にほぼ直交する方向に延びる複数の導線部分を含む(2)項ないし(5)項のいずれか1つに記載のディスクブレーキ。
電磁力Fは、磁束B、電流I、導線の長さL、電流と磁界との成す角度θとした場合に、
F=B・I・L・sinθ
で表すことができる。
この式から、磁束Bが大きく、電流Iが大きく、導線の長さLが大きい場合は小さい場合より、電磁力Fを大きくすることができる。また、電流と磁界との成す角度θが90°(π/2)の場合に最大となる。
以上のことから、磁界の向きをほぼ半径方向として、導線を半径方向とほぼ直交する向きに延びた部分を含むものとする(電流の向きを、半径方向とほぼ直交する向きとする)とともに、その半径方向とほぼ直交する向きに延びた部分を互いに並列に設ける(導線の長さLを長くする)ことが望ましい。
(7)前記少なくとも1つの磁石が、前記ディスクロータに、半径方向に隔たってN極とS極とが位置する状態で設けられた(2)項ないし(6)項のいずれか1つに記載のディスクブレーキ。
半径方向に延びた姿勢の磁石は、ディスクロータの周方向に、間隔を隔てて複数設けることが望ましい。例えば、互いに、等しい中心角ずつ隔たった位置に設けることができる。また、磁石は、ディスクロータが磨耗しても磁石に至らない深さ(位置)に設けることができる。
ディスクロータは、摩擦係合部材と対向する状態で設けられるため、ディスクロータに磁石を設ければ、摩擦係合部材に設けられた導体に良好に磁界を作用させることができる。また、磁石が、ディスクロータの摩擦係合部材と摩擦係合する被摩擦係合面が磨耗しても、磨耗しない位置に設けられれば、安定的に磁界を生じさせることができる。さらに、ディスクロータは大形の部材であるため、大きな磁石を設けることができる。
(8)前記ディスクロータの半径方向に隔たって、複数の磁石が配設された(7)項に記載のディスクブレーキ。
ディスクロータの半径方向に複数の磁石を並べて設ければ、1つの磁石を配設する場合より、磁石の全重量を減らすことができ、その分、コストダウンを図ることができる。
(9)当該ディスクブレーキが、前記ディスクロータを跨ぐ姿勢で設けられ、前記車輪の軸線方向に移動させられることにより、前記一対の摩擦係合部材を前記ディスクロータに押し付けるキャリパを含み、前記一対の摩擦係合部材が、それぞれ、非回転体に、前記ディスクロータに接近・離間可能に保持され、前記少なくとも1つの磁石が、前記キャリパの外周側の前記ディスクロータを跨ぐ部分と、前記キャリパの内周側の部分と前記非回転体との少なくとも一方とに、それぞれ、半径方向にN極,S極が互いに対向する状態で設けられた(2)項ないし(8)項のいずれか1つに記載のディスクブレーキ。
磁石がキャリパのディスクロータを跨ぐ部分に設けられるとともに、キャリパの内周側の部分と非回転体(キャリパの内周側の部分の近傍に存在する)との少なくとも一方に設けられれば、これら少なくとも2つの磁石により、ほぼ半径方向の磁界を生じさせることができる。
例えば、キャリパの外周側(ディスクロータを跨ぐ部分)のディスクロータに対向する部分と、非回転体とに、それぞれ、磁石を設ければ、これら一対の磁石により、ほぼ半径方向の磁界、すなわち、摩擦係合部材に設けられた導体に流れる電流と交差する向きの磁界を生じさせることができる。
また、キャリパのディスクロータを跨ぐ部分の、一対の摩擦係合部材の各々に対向する部分にそれぞれ磁石を設け、キャリパの内周側の部分と非回転体とを含む部材の一対の摩擦係合部材の各々に対向する部分にそれぞれ磁石を設ければ、一対の摩擦係合部材の各々において、磁石が外周側と内周側とに位置することになる。外周側の磁石と内周側の磁石とから成る磁石対が2対設けられる。磁石対の各々において、ほぼ半径方向の磁界が生じるため、摩擦係合部材に設けられた導体を流れる電流と良好に交差する状態を安定的に形成することができる。
(10)当該ディスクブレーキが、前記ディスクロータを跨ぐ姿勢で設けられ、前記車輪の軸線方向に移動させられることにより、前記一対の摩擦係合部材を前記ディスクロータに押し付けるキャリパを含み、前記キャリパが、前記一対の摩擦係合部材のうちの少なくとも一方の内周側に対向する部分を有する形状を成したものである(9)項に記載のディスクブレーキ。
キャリパの形状を、少なくとも一方の摩擦係合部材の内周側に対向する部分を有する形状とすれば、その対向部分に磁石を設けることが可能となる。
(11)前記電磁力付与装置が、少なくとも前記少なくとも1つの導体に流れる電流の向きを制御することにより、前記少なくとも一方の摩擦係合部材に作用する電磁力の向きを制御する電流制御装置を含む(2)項ないし(10)項に記載のディスクロータ。
磁界の向きが同じである場合に、導体に流れる電流の向きを切り換えれば、電磁力の向きを逆にすることができる。それにより、少なくとも一方の摩擦係合部材に、ディスクロータに接近させる向きの電磁力を付与したり、離間させる向きの電磁力を付与したりすることができる。
なお、導体に流れる電流の大きさを制御することにより電磁力の大きさを制御することも可能である。
(12)前記電流制御装置が、(i)前記少なくとも1つの導体と、複数のスイッチとを含む電気回路と、(ii)前記複数のスイッチの状態を制御することにより、前記少なくとも一方の導体に流れる電流の向きを切り換えるスイッチ制御部とを含む(11)項に記載のディスクブレーキ。
電気回路において、複数のスイッチは、少なくとも1つの導体の各々と1対1に対応して設けても、共通に設けてもよい。また、電源は、少なくとも1つの導体に共通に設けられることが多い。
(13)車輪と一体的に回転可能なディスクロータと、
そのディスクロータの両側に配設された一対の摩擦係合部材と、
それら一対の摩擦係合部材の各々に設けられた導体と、それら導体の各々に流れる電流の向きと交差する向きの磁界を生じさせる少なくとも1つの磁石とを備え、前記導体の各々に電流が供給されることにより、前記一対の摩擦係合部材の各々に、前記車輪の回転軸線と平行な電磁力を付与することにより、それぞれ、前記ディスクロータに接近させたり、離間させたりする電磁力付与装置と
を含むことを特徴とするディスクブレーキ。
本項に記載のディスクブレーキには、(1)項ないし(12)項のいずれか1つに記載の技術的特徴を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施例1に係るディスクブレーキの断面図である。
【図2】上記ディスクブレーキのディスクロータを概念的に表す正面図である。
【図3】上記ディスクブレーキの摩擦係合部材を概念的に表す正面図である。
【図4】(a)〜(d)上記ディスクブレーキの摩擦係合部材に作用する電磁力を説明するための模式図である。
【図5】(a)上記ディスクブレーキの摩擦係合部材に設けられた導体を含む電気回路を概念的に表す図である。(b)上記電気回路のスイッチを制御することにより生じる電磁力の向きを表す図である。
【図6】(a)上記電気回路のスイッチを制御するスイッチ制御装置の記憶部に記憶されたスイッチ制御プログラムを表すフローチャートである。(b)上記スイッチ制御のタイムチャートを示す図である。
【図7】本発明の実施例2に係るディスクブレーキのディスクロータを概念的に表す正面図および断面図である。
【図8】本発明の実施例3に係るディスクブレーキのディスクロータを概念的に表す正面図および断面図である。
【図9】本発明の実施例4に係るディスクブレーキの断面図である。
【図10】本発明の実施例5に係るディスクブレーキの断面図である。
【図11】本発明の実施例6に係るディスクブレーキに含まれる摩擦係合部材の裏板の正面図である。
【図12】本発明の実施例7に係るディスクブレーキに含まれる摩擦係合部材の裏板の正面図である。
【発明の実施形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態であるディスクブレーキについて図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0009】
ディスクブレーキは、図1に示すように、車輪と一体的に回転可能なディスクロータ10と、非回転体であるマウンティングブラケット12に保持された一対の摩擦係合部材14a,bと、ディスクロータ10を跨ぐ状態で設けられたキャリパ16と、キャリパ16に設けられたブレーキシリンダ18とを含む。
摩擦係合部材14a,bは、それぞれ、ブレーキパッド20a,bと、ブレーキパッド20a,bを支持する裏板22a,bとを含む。
キャリパ16にはシリンダボアが形成され、ピストン24が液密かつ摺動可能に配設される。キャリパ16のシリンダボアが形成された部分等がシリンダ本体に対応する。シリンダボアの内部(シリンダ本体の内部)においてピストン24によって画定される空間がブレーキシリンダ18の液圧室26とされる。また、シリンダ本体とピストン24との間にはピストンシール28が設けられる。本実施例においては、シリンダ本体、ピストン24,液圧室26,ピストンシール28等によりブレーキシリンダ18が構成される。液圧室26の液圧によりピストン24が前進させられ、キャリパ16が軸線方向に移動させられ、弾性変形させられることにより、ブレーキパッド20a,bがディスクロータ10に押し付けられて、車輪の回転が抑制される。
本実施例においては、ブレーキシリンダ18が駆動装置に対応し、キャリパ16等が押付装置に対応する。押付装置は、液圧押付装置であり、ディスクブレーキは、液圧ブレーキである。
【0010】
ディスクロータ10の外周側の環状部分(ブレーキパッド20a,bとの被摩擦係合面30a,bを含む部分)には、図2に示すように、磁石32が、放射線状に、周方向に等間隔で(中心角45°ずつ隔たった位置に)埋め込まれる。磁石32は、ディスクロータ10の被摩擦係合面30a,bから深さΔd(図1参照、磨耗予測分以上)の部分に、合計8個設けられる。換言すれば、ディスクロータ10の被摩擦係合面30a,bが磨耗しても、磁石32が磨耗しない位置に配設されるのである。
磁石32の各々は、それぞれ、内周側がN極、外周側がS極となる姿勢で設けられる。したがって、磁石32の各々の磁界の向きは、図1に示すように、半径方向において、内周側から外周側に向かう向きとなる。
【0011】
一方、摩擦係合部材14a,bの裏板22a,bには、それぞれ、図3に示すように、導線36a,bが埋め込まれる。導線36a,bは、裏板22a,bの、半径方向にほぼ直交する方向(ほぼ周方向)に沿って、互いに並列に配設された複数の導線部分36i,36ii,36iii・・・を含む。導線36a,bに電流が供給されれば、半径方向にほぼ直交する方向に電流が流れるのであり、導線部分36i,36ii,36iii・・・すべてに同じ方向の電流が流れる。
導線36a,bに電流が供給されると、磁界との作用により電磁力が作用する。
電磁力F(ローレンツ力と称することができる)の大きさは、図4(a)に示すように、導線36a,bに流れる電流I、磁束B、導線36a,bと磁束の向き(磁界の向き)との成す角度θ、導線36a,bの磁界を受ける部分の長さdLとした場合に、式
F=I・dL・B・sinθ
で表される大きさとなる。
この式から、大きな電磁力が得られるようにするためには、図4(b)に示すように、θを90°とすることが望ましい。また、長さdLを大きくするために、図3に示すように、複数の導線部分を並列に配設することが望ましい。
また、電磁力Fの向きは、図4(c)に記載のように、電流の向き、磁界(磁束)の向きからフレミング左手の法則に基づいて決まる。図4(d)に示すように、導線に電流を流すと円形の磁界が生じるため、磁石の磁界とにより、磁束が増加する部分と減少する部分とが形成され、磁束が減少する部分に向かう電磁力が作用する。
本実施例においては、磁界の向きがほぼ半径方向(内周側から外周側に向かう方向)であり、電流の流れる向きが、半径方向にほぼ直交する方向(前進回転方向あるいは後退回転方向)であるため、電磁力の向きは、車輪の回転軸線とほぼ平行な向き(軸線方向と称することがある)となる。また、電流の流れる向きを切り換えれば、電磁力の向きも逆になる。すなわち、電磁力の向きを、ブレーキパッド20a,bをディスクロータ10に接近させる向きとしたり、ディスクロータ10から離間させる向きとしたりすることができるのであり、換言すれば、ブレーキアシスト力を付与したり、引きずり低減のための離間力を付与したりすることができる。
【0012】
図5(a)に示すように、導線36a、36bを含む電気回路40、42が、それぞれ、形成される。電気回路40、42は、それぞれ、電源44を共通とする。また、電気回路40は、互いに直列に配設された、2つの電流方向切換スイッチ50,52と、導線36a(抵抗Ra)とを含み、電気回路42は、2つの電流方向切換スイッチ54,56と、導線36b(抵抗Rb)とを含む。
電流方向切換スイッチ50,52は、それぞれ、(1)OFF状態と、(2)接点Zと接点Xとを接続する状態(X接続状態と称する)と、(3)接点Zと接点Yとを接続する状態(Y接続状態と称する)との間で切り換え可能なものである。電流方向切換スイッチ50,52をX接続状態とした場合には、抵抗Raに矢印X方向(図5(b)の紙面表から裏へ向かう方向)に電流Iが流れ、導線36a(摩擦係合部材14a)に電磁力Fxが作用する。電流方向切換スイッチスイッチ50,52をY接続状態とした場合には、抵抗Raに矢印Y方向(図5(b)の紙面裏から表へ向かう方向)に電流Iが流れ、導線36aに電磁力Fyが作用する。このように、電流方向切換スイッチ50,52をX接続状態とY接続状態とに切り換えれば、抵抗Raに流れる電流の向きが換わり、導線36aに作用する電磁力の向きを換えることができる。
【0013】
電流方向切換スイッチ54,56についても同様であり、(1)OFF状態と、(2)X接続状態と、(3)Y接続状態とに切り換え可能なものである。電流方向切換スイッチ54,56をX接続状態とした場合には、抵抗Rbに矢印X方向の電流Iが流れ、導線36bに電磁力Fxが加えられる。また、電流方向切換スイッチ54,56をY接続状態とした場合には、抵抗Rbに矢印Y方向の電流Iが流れ、電磁力Fyが加えられる。
【0014】
電流方向切換スイッチ50,52,54,56は、コンピュータを主体とするスイッチ制御装置60の指令に基づいて制御される。スイッチ制御装置60には、図示しないブレーキ操作部材が操作状態にある場合と非操作状態にある場合とで、ON状態とOFF状態とで切り換わるブレーキスイッチ62が接続されるとともに、電流方向切換スイッチ50〜56が接続される。スイッチ制御装置60は、実行部、記憶部、入出力部等を含み、記憶部には、図6(a)のフローチャートで表されるスイッチ制御プログラムが記憶されている。
本実施例において、図6(b)に示すように、(i)ブレーキスイッチ62がOFFからONに切り換わった場合に、電流方向切換スイッチ50〜56の制御により、電磁力がブレーキアシスト力として作用する向きとなるように、導線36a,bに流れる電流の向きがそれぞれ制御される。(ii)ブレーキスイッチ62がONからOFFに切り換わっていから第2設定時間が経過した時点から、設定時間(第1設定時間から第2設定時間を引いた時間)の間、電流方向切換スイッチ50〜56の制御により、摩擦係合部材14a,bをディスクロータ10から離間させる向きの電磁力が作用するように、導線36a,bに流れる電流の向きが制御される。
ディスクブレーキの解除時に、ピストンシール28、ブレーキパッド20a,b,キャリパ16の弾性変形の復元力により、摩擦係合部材14a,bは戻されるため、その後に、ディスクロータ10から離間させる力を作用させることが望ましい。
また、図5(b)に示すように、導線36a,bには、互いに逆向きの電流が流れるように制御される。すなわち、導線36aにY方向(紙面の裏から表)の電流が流れる場合に導線36bにX方向(紙面の表から裏)の電流が流れ、導線36aにX方向の電流が流れる場合に導線36bにY方向の電流が流れるように制御される。
【0015】
ステップ1(以下、単にS1と略称する。他のステップについても同様とする)において、ブレーキスイッチ62がONであるかOFFであるかが検出される。ONである場合には、S2において、電流方向切換スイッチ50,52がX接続状態とされ、電流方向切換スイッチ54,56がY接続状態とされる。摩擦係合部材14a,bの各々にディスクロータ10に接近させる向きの電磁力Fx、Fy(ブレーキアシスト力)が作用する。
ブレーキスイッチ62がOFFである場合には、S3において、前回ONであったか否かが判定され、最初にOFFになった場合には、S4において、タイマがスタートさせられる。(タイマカウントが開始される)
S5,6において、ブレーキスイッチ62がONからOFFに切り替わってから、第1設定時間が経過したか否か、第2設定時間が経過したか否かが判定される。第1設定時間は第2設定時間より長い。第2設定時間が経過するまでの間、S7において、電流方向切換スイッチ50〜56はOFF状態とされる。
第2設定時間が経過すると、S8において、電流方向切換スイッチ50、52がY接続状態とされ、スイッチ54,56がX接続状態とされる。それにより、摩擦係合部材14a,bには、それぞれ、ディスクロータ10から離間する向きの電磁力Fy、Fxが作用する。そして、第1設定時間が経過すると、S9において、電流方向切換スイッチ50〜56がOFF状態とされる。
【0016】
このように、ブレーキスイッチ62がONである間、ブレーキアシスト力が加えられるため、良好にブレーキ力を大きくすることができる。
また、ブレーキスイッチ62がOFFになってから設定時間が経過した後に、ディスクロータ10から離間させる向きの力が加えられるため、摩擦係合部材14a,bを良好にディスクロータ10から離間させることが可能となり、引きずりを良好に防止することができる。
【実施例2】
【0017】
実施例1においては、ディスクロータ10の半径方向に1つずつの磁石が埋め込まれていたが、複数個ずつの磁石が埋め込まれるようにすることができる。図7(a)、(b)に示すディスクロータ70においては、半径方向に2個ずつの磁石72,73が、互いに間隔を隔てて配設される。本実施例においては、内周側に磁石72が配設され、外周側に磁石73が配設されるのであるが、磁石72、73は、それぞれ、内周側がN極、外周側がS極となる姿勢とされる。また、これら磁石対(磁石72,73から成る)は、周方向に等間隔で配設される。
このように、半径方向に複数の磁石が直列に並べて配設されるようにすれば、磁石の総重量を小さくすることができ、その分、コストダウンを図り、軽量化を図ることができる。
なお、実施例1,2においては、中心角45°(π/4)隔たった位置に、それぞれ、磁石(あるは、磁石対)が設けられたが、それに限らない。中心角90°隔たった位置に、それぞれ、磁石(あるいは磁石対)が設けられるようにしても、中心角30°隔たった位置に、それぞれ、設けてもよい等、周方向に設けられる磁石(あるいは磁石対)の数は問わない。
【実施例3】
【0018】
なお、図8(a)、(b)に示すように、ディスクロータ76の外周側の環状の部分全体を磁石78とすることもできる。このように、ディスクロータ76の環状の部分全体が磁石78とされれば、磁石がディスクロータに埋め込まれる場合に比較して、磁界を摩擦係合部材14a,bにより近い位置で発生させることができ、導線36a,bに大きな磁界を作用させることができる(磁束Bを大きくすることができる)。
【実施例4】
【0019】
磁石は、キャリパとマウンティングブラケットとに設けることもできる。図9に示すように、キャリパ16の外周側の部分(ディスクロータ10を跨ぐ部分)のディスクロータ10に対向する部分に磁石80が設けられ、マウンティングブラケット12に磁石84が設けられる。磁石80は、内周側にS極が位置する姿勢で設けられ、磁石84は、外周側にN極が位置する姿勢で設けられる。この場合には、図9に示すように、磁石84と磁石80との軸線方向における位置が異なるため、磁界は半径方向および軸線方向に交差する向きに作用する。
【実施例5】
【0020】
実施例5に係るディスクブレーキにおいては、図10に示すように、キャリパ92の外周側の部分(ディスクロータ10を跨ぐ部分)の摩擦係合部材14a,bに対向する部分に、それぞれ、磁石88,90が設けられる。また、キャリパ92の形状が、裏板22bに当接する押付部を含む部分が内周方向および軸線方向に延長された形状とされ、その延長された部分94に磁石96が設けられる(破線が、キャリパ16の形状を示す)。
磁石84,88が軸線方向のほぼ同じ位置に設けられ、磁石90,96が軸線方向のほぼ同じ位置に設けられる。半径方向に対向する磁石84,88の間に摩擦係合部材14aが位置し、磁石90,96の間に摩擦係合部材14bが位置する。また、半径方向内周側に位置する磁石84,96は、外周側にN極が位置する姿勢で設けられ、半径方向外周側に位置する磁石88,90は、内周側にS極が位置する姿勢で設けられる。
その結果、磁石対(磁石84,88から成る)、磁石対(磁石96,90から成る)により、安定的に、導線36a,bに磁界を作用させることができる。
なお、キャリパ92の裏板22bに対向する部分に、軸線方向に突出する突部(押付部)を設けることができる。それにより、摩擦係合部材14bを良好にディスクロータ10に向かって押し付けることができる。
また、磁石対(磁石84,88)と磁石対(磁石96,90)とで、磁界が生じる向きを逆向きとすることもできる。例えば、磁石対(磁石84,88)において、磁石84を外周側がS極となる状態で設け、磁石88を内周側がN極となる状態で設けることができる。
【実施例6】
【0021】
実施例6に係るディスクブレーキにおいては、図11に示すように、裏板100a,bの各々に、互いに並列に配設された複数の導線部分102i,102ii,102iii,102iv・・・を含む導線102a,bが埋め込まれるが、導線部分102i,102ii,102iii,102iv・・・の間隔が、裏板100a,bの外周部分において内周部分より短くされる{(102i,102iiの間隔)<(102iii,102ivの間隔)}。
その結果、摩擦係合部材14a,bの外周部分を効果的にディスクロータ10から離間させることができる。
【実施例7】
【0022】
図12に示すように、裏板110a,b全体を導体として、電流が供給されるようにすることができる。本実施例においては、導線を埋め込む必要がなくなるという利点がある。
【0023】
以上のように、複数の実施例について説明したが、それぞれ、互いに組み合わせて実施することができる。
また、電流方向切換スイッチ50〜56を設けることは不可欠ではなく、導線36a,bに共通に設けることができる。2つのスイッチ50,52(あるいは、スイッチ54,56)の切り換えにより、導線36a,bに互いに逆向きの電流が流れるように接続すればよいのである。さらに、スイッチは有接点スイッチであっても、無接点スイッチ(トランジスタ)であってもよい。
さらに、本発明は、上記各実施例の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0024】
10,70,76:ディスクロータ 12:非回転体 14:摩擦係合部材 16:キャリパ 32,72,73,78,80,84,90,96:磁石 36,102:導線 50〜56:スイッチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と一体的に回転可能なディスクロータと、
そのディスクロータの両側に配設された一対の摩擦係合部材と、
それら一対の摩擦係合部材の少なくとも一方に、前記車輪の回転軸線と平行な方向の電磁力を付与することにより、前記一対の摩擦係合部材の各々を、前記ディスクロータに接近させたり、離間させたりする電磁力付与装置と
を含むことを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
前記電磁力付与装置が、(a)前記車輪の半径方向の磁界を生じさせる状態で設けられた少なくとも1つの磁石と、(b)前記半径方向に交差する方向に延びる部分を備えた少なくとも1つの導体とを含む請求項1に記載のディスクブレーキ。
【請求項3】
前記少なくとも1つの導体が、(a)前記一対の摩擦係合部材の少なくとも一方と、(b)当該ディスクブレーキの複数の構成部材から前記一対の摩擦係合部材を除いたもののうちの少なくとも1つとのいずれか一方に設けられ、前記少なくとも1つの磁石が、他方に設けられた請求項2に記載のディスクブレーキ。
【請求項4】
前記少なくとも1つの導体が、前記少なくとも一方の摩擦係合部材に、互いに並列に設けられ、半径方向に直交する向きに延びた複数の導線部分を含む請求項2または3に記載のディスクブレーキ。
【請求項5】
前記少なくとも1つの磁石が、前記ディスクロータに、半径方向にN極とS極とが隔たって位置する状態で設けられた請求項2ないし4のいずれか1つに記載のディスクブレーキ。
【請求項6】
前記一対の摩擦係合部材が、それぞれ、非回転体に、前記ディスクロータに接近・離間可能に保持され、当該ディスクブレーキが、前記ディスクロータを跨ぐ姿勢で設けられ、前記車輪の軸線方向に移動させられることにより、前記一対の摩擦係合部材を前記ディスクロータに押し付けるキャリパを含み、前記少なくとも1つの磁石が、前記キャリパの外周側の前記ディスクロータを跨ぐ部分と、前記キャリパの内周側の部分と前記非回転体との少なくとも一方とに、それぞれ、半径方向にN極,S極が互いに対向する状態で設けられた請求項2ないし5のいずれか1つに記載のディスクブレーキ。
【請求項7】
前記電磁力付与装置が、少なくとも前記少なくとも1つの導体に流れる電流の向きを制御することにより、前記少なくとも一方の摩擦係合部材に作用する電磁力の向きを制御する電流制御装置を含む請求項2ないし6のいずれか1つに記載のディスクロータ。
【請求項8】
前記電流制御装置が、前記少なくとも1つの導体と、複数のスイッチとを含む電気回路と、前記複数のスイッチの状態を制御することにより、前記少なくとも1つの導体に流れる電流の向きを切換えるスイッチ制御部とを含む請求項2ないし7のいずれか1つに記載のディスクブレーキ。
【請求項9】
車輪と一体的に回転可能なディスクロータと、
そのディスクロータの両側に配設された一対の摩擦係合部材と、
それら一対の摩擦係合部材の各々に設けられた導体と、それら導体の各々に流れる電流の向きと交差する向きの磁界を生じさせる少なくとも1つの磁石とを備え、前記導体の各々に電流が供給されることにより、前記一対の摩擦係合部材の各々に、前記車輪の回転軸線と平行な電磁力を付与することにより、それぞれ、前記ディスクロータに接近させたり、離間させたりする電磁力付与装置と
を含むことを特徴とするディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−24394(P2013−24394A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162838(P2011−162838)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】