説明

ヘテロ接合バイポーラトランジスタ

【課題】エミッタ電子輸送特性やエミッタ注入効率を劣化させることなく、レッジ部を薄層化することが容易で、微細化に適したヘテロ接合バイポーラトランジスタを提供すること。
【解決手段】エミッタ層は、第1の半導体層11と、第2の半導体層12と、第3の半導体層13との積層構造からなり、第3の半導体層13は、第2の半導体層12に対してウェット・エッチングにより選択的に除去でき、第2の半導体層12は、第1の半導体層11に対してウェット・エッチングにより選択的に除去でき、第1の半導体層11と第3の半導体層13のバンドギャップはベース層4のバンドギャップよりも大きく、第2の半導体層12は不純物添加によって縮退しており、第3の半導体層13は不純物添加によって中性領域を形成しているヘテロ接合バイポーラトランジスタを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘテロ接合バイポーラトランジスタに関し、特に、基板上に、サブコレクタ層、コレクタ層、ベース層、エミッタ層およびキャップ層が順次積層されたヘテロ接合バイポーラトランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT:Heterojunction Bipolar Transistor)の長時間動作に対する信頼性を確保するには、外部ベース領域における再結合電流を抑制して、電流利得の劣化を最小限にとどめることが必須とされている。これを達成するためには、エミッタメサとベース電極との間に、いわゆるレッジ部を形成することが重要である。一方、HBTの高速動作を図るためには、素子の微細化と薄層化を進めることが必要である。このように、高性能なHBTを実現するには、複雑で微細なエミッタメサ構造を精度良く加工することが要求される。
【0003】
図3は、従来のHBT構造(以下、単に「従来のHBT」という)の一例を示す図であり、図4は、従来のHBTのエミッタメサ領域付近を示す図である。同図に示すように、半絶縁性InPからなる基板1上に高濃度に不純物が添加されたn型のInPからなるサブコレクタ層2が形成され、サブコレクタ層2上にn型のInGaAsからなるコレクタ層3が形成され、コレクタ層3上に高濃度に不純物が添加されたp型のInGaAsからなるベース層4が形成され、ベース層4上にn型のInPからなるエミッタ層5が形成され、エミッタ層5上に高濃度に不純物が添加されたn型のInPからなるキャップ層6が形成され、キャップ層6上に高濃度に不純物が添加されたn型のInGaAsからなるキャップ層7が形成され、キャップ層7上にエミッタ電極23が形成されている。また、サブコレクタ層2上にコレクタ電極21が形成され、ベース層4上にベース電極22が形成されている。また、エミッタ層5の一部を用いてレッジ部42(図4に示す)が形成され、レッジ部42上に、エミッタ層5などからなるエミッタメサの側面を覆う、シリコン窒化膜(SiN)からなるレッジ保護膜31が形成されている。
【0004】
図5は、図4記載の破線A−A’における、キャップ層7からコレクタ層3までのエネルギ・バンド図である。図5に示すように、InGaAsキャップ層7とInPエミッタ層5の間には、高濃度に不純物添加されたInPキャップ層6が設けられており、InGaAs/InP伝導帯端エネルギ不連続に基づく寄生抵抗の発生を回避している。
【0005】
図4に記載した従来のHBTについて注意すべきことは、このような層構造を用いてエミッタメサを形成する場合、エミッタ層5の途中までエッチングを実施し、残されたエミッタ層5を用いてレッジ部42を形成しなければならない、ということである。高濃度に不純物が添加されたキャップ層6が残ってしまうと、レッジ部42は通常のエミッタとして機能してしまうので、レッジ部42を設ける意味を失ってしまう。従って、確実にキャップ層6を除去する必要があり、自ずと、エミッタ層5の途中までエッチングを進める必要がある。加えて、レッジ部42は適当に薄くしておく必要がある。レッジ部42が厚すぎると、レッジ部42を介した漏れ電流が無視できなくなり、レッジ部42の端において再結合電流の増加を招くことになる。エミッタ幅を小さくすればするほど、エミッタ内部における(真性)再結合電流も小さくなるので、外部ベース領域での(寄生)再結合電流が相対的に重要となる。そのため、HBTの微細化を進めるほど、レッジ部42を薄層化して、レッジ部42を介した漏れ電流を低減させる必要がある。高性能な微細化HBTを実現するためには、レッジ部42の厚さとして10nm程度が要求されることもある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Y. Okubo, T. Matsumoto, T. Koji, Y. Amano, A. Takagi and Y. Matsuoka, “High Performance Self-Aligned InP/InGaAs DHBTs with a Passivation Ledge Utilizing a Thin Etching Stop Layer,” Proceedings of 2008 Indium Phosphide and Related Materials (IPRM2008), WeB 1.4, 25-29 May 2008.
【非特許文献2】柏尾 典秀、栗島賢二、深井 佳乃、井田 実、山幡 章司、「エミッタサイズ効果抑制に向けた薄層レッジ構造InP HBTの開発」、電子情報通信学会2009年総合大会、C−10−10、2009年3月17〜20日。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図4に記載した従来のHBTでは、このように薄いレッジ部42を、ウエハ面内全域に渡って均一に再現性良く形成することは極めて困難である。本発明者らの経験では、誘導結合型プラズマ反応性イオンエッチング(ICP−RIE:Inductive Coupled Plasma Reactive Ion Etching)などの高精度なドライ・エッチング技術を用いても、均一性や再現性の観点から、レッジ部42の厚さは、30nm程度までしか薄くすることができない。
【0008】
レッジ部を高精度に加工する手法として、エミッタ層の一部にエッチ・ストッパー層を設けて、選択性ウェット・エッチングによりレッジ部を形成する手法が提案されている(上記非特許文献1参照)。図6は、前記提案のHBT構造(以下、単に、「従来の他のHBT」という)のエミッタメサ領域付近を示す図であり、図7は、図6記載の破線A−A’における、キャップ層7からコレクタ層3までのエネルギ・バンド図である。図6に示すように、従来の他のHBTでは、エミッタ層が、ベース層4上に形成されたn型のInPからなる第1のエミッタ層14と、第1のエミッタ層14上に形成されたn型のInGaAsからなる第2のエミッタ層(エッチ・ストッパー層)15と、第2のエミッタ層15上に形成されたn型のInPからなる第3のエミッタ層16から構成されている。このようにすれば、第3のエミッタ層16を、塩酸系エッチング溶液により選択的にエッチングすることが可能となる。そして、暴露された第2のエミッタ層15は、クエン酸系エッチング溶液により選択的にエッチングすることが可能となる。その結果、暴露された第1のエミッタ層14の一部を、そのままレッジ部43として活用することができる。すなわち、エピタキシャル結晶成長で決定された層厚を有するレッジ部を実現することが可能となる。
【0009】
前記提案は、レッジ部43を薄くする上で有利ではあるが、別の問題が懸念される。すなわち、図7に示すように、第2のエミッタ層(エッチ・ストッパー層)15を導入することによって、エミッタ空乏層内にポテンシャル井戸が形成される点である。このため、エミッタ空乏層を通過する電子が前記ポテンシャル井戸に捕獲されてしまい、エミッタ電子輸送特性が劣化してしまう危険性がある。第2のエミッタ層15を、例えば1nm程度まで薄くすれば、ポテンシャル井戸内に形成される量子化準位が十分に上昇するために、ポテンシャル井戸に捕獲される電子数を低減することができ、エミッタ電子輸送特性の劣化を抑制することができる。しかしながら、このような極薄層をエピタキシャル結晶成長で実現することは簡単ではない。場合によっては十分な結晶品質が得られないために、第2のエミッタ層15が、エッチ・ストッパー層としての機能を失うこともありうる。以上の理由から、第2のエミッタ層15の厚さは2〜3nm程度とするのが一般的であり、エミッタ電子輸送特性の劣化を完全に抑制することは難しい。
【0010】
図8は、実際に、本発明者らが試作した図4に記載の従来のHBTと、図6に記載の従来の他のHBTの電流輸送特性(ガンメル・プロット)を比較したものである。従来のHBTのエミッタ層5の厚さは70nmであり、レッジ部42の厚さは30nmである。一方、従来の他のHBTは、エミッタ層が、厚さ30nmの第1のエミッタ層14と、厚さ3nmの第2のエミッタ層15と、厚さ40nmの第3のエミッタ層16から構成されている。図8から明らかなように、ベース・エミッタ間電圧が0.8V程度以上になると、従来の他のHBTは、従来のHBTに比べてコレクタ電流が顕著に小さくなる。これは、上述したように、第2のエミッタ層15を導入したことによって、エミッタ電子輸送特性が劣化したためといえる。
【0011】
レッジ部を薄層化させるのに有効な別の手法として、高濃度に不純物添加された縮退InGaAsと薄層InPから形成されたエミッタ層構造が提案されている(上記非特許文献2参照)。図9は、前記提案のHBT構造(以下、単に、「従来の別のHBT」という)のエミッタメサ領域付近を示す図であり、図10は、図9記載の破線A−A’における、キャップ層7からコレクタ層3までのバンド図である。図9に示すように、従来の別のHBTでは、エミッタ層が、ベース層4上に形成されたn型のInPからなる第1のエミッタ層17と、第1のエミッタ層17上に形成された高濃度に不純物が添加されたn型の縮退InGaAsからなる第2のエミッタ層18から構成されている。このようにすれば、第2のエミッタ層18をクエン酸系エッチング溶液により選択的にエッチングすることができる。その結果、暴露された第1のエミッタ層17の一部を、そのままレッジ部44として活用することができる。すなわち、エピタキシャル結晶成長で決定された層厚を有するレッジ部を実現することが可能となる。また、従来の別のHBTでは、第2のエミッタ層18における(電子に対する)擬フェルミ準位が十分に高いために、InGaAs/InP伝導帯端不連続によるエネルギ障壁の影響が回避できる。このため、エミッタ電子輸送特性は、第1のエミッタ層17の層構造パラメータ(層厚や不純物濃度)で特徴づけられることになる。第1のエミッタ層17の厚さを適当に薄くすれば、エミッタ電子輸送特性を損なうことなく、高電流密度注入を容易に実現することが可能である。
【0012】
しかしながら、従来の別のHBTでも、以下に記す問題が発生する。すなわち、図10に示すように、ベース層4の正孔に対するポテンシャル障壁が、薄い第1のエミッタ層17だけで実現されている点である。このため、ベース層4から第2のエミッタ層18への正孔注入が無視できなくなる可能性がある。特に、高電流密度注入下では、セルフ・ヒーティング効果によってHBT素子の接合温度が上昇するために、ベース層4における(正孔に対する)擬フェルミ準位が高くなってしまう。そのため、ベース層4から第2のエミッタ層18への正孔注入も大きくなり、エミッタ注入効率の低下および電流利得の劣化を引き起こす危険性がある。第1のエミッタ層17(すなわち、レッジ部44)を薄層化することによって、外部ベース領域における(寄生)再結合電流を抑制することができるが、肝心の内部領域における(真性)再結合電流が増加してしまう可能性がある。
【0013】
図11は、実際に、本発明者らが試作した図4に記載した従来のHBTと、図9に記載した従来の別のHBTのコレクタI−V特性を示したものである。従来のHBTのエミッタ層5の厚さは40nmであり、レッジ部42の厚さは25nmである。一方、従来の別のHBTは、25nmの第1のエミッタ層17を有している。図11から明らかなように、コレクタ電流が8mA以上(電流密度で8mA/μm 以上)になると、従来の別のHBTの電流利得が急激に減少する。これは、上述したように、第1のエミッタ層17が薄いために、高電流密度注入におけるセルフ・ヒーティング効果によって、エミッタ注入効率が低下したことが原因と考えられる。
【0014】
以上をまとめると、従来のHBTではレッジ部を薄くすることが困難であり、HBTの微細化を進めると、外部ベース領域における再結合電流を抑制することができなくなる。一方、従来の他のHBTや従来の別のHBTでは、レッジ部を簡単に薄くすることはできるが、エミッタ電子輸送特性やエミッタ注入効率の劣化といった別の問題が生じてしまう。
【0015】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、エミッタ電子輸送特性やエミッタ注入効率を劣化させることなく、レッジ部を薄層化させることが容易で微細化に適したヘテロ接合バイポーラトランジスタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的を達成するために、本発明においては、基板上に、サブコレクタ層、コレクタ層、ベース層、エミッタ層およびキャップ層が順次積層されたヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、前記エミッタ層が、前記ベース層上に形成された第1の半導体層と、前記第1の半導体層上に形成された第2の半導体層と、前記第2の半導体層上に形成された第3の半導体層から構成されており、前記第3の半導体層が、前記第2の半導体層に対して、ウェット・エッチングにより選択的に除去できる材料で形成されており、前記第2の半導体層が、前記第1の半導体層に対して、ウェット・エッチングにより選択的に除去できる材料で形成されており、前記第1の半導体層と前記第3の半導体層のバンドギャップが、前記ベース層のバンドギャップよりも大きく、前記第2の半導体層が不純物添加によって縮退しており、前記第3の半導体層が不純物添加によって中性領域を形成していることを特徴とする。
【0017】
この場合、前記第1の半導体層と前記第3の半導体層が、InP、InAlP、InGaPのいずれかによって形成されており、前記第2の半導体層が、InGaAs、InAlGaAs、GaAsSb、InGaAsSb、AlGaAsSbのいずれかによって形成されており、前記第2の半導体層と前記第3の半導体層が、n型の半導体材料で形成されていることを特徴としてもよい。
【0018】
あるいは、前記第1の半導体層と前記第3の半導体層の材料としてInPが用いられており、前記第2の半導体層の材料としてInGaAsが用いられており、前記第2の半導体層の不純物濃度が1×1019cm−3以上であることを特徴としてもよい。
【0019】
あるいは、前記第1の半導体層と前記第3の半導体層の材料としてInPが用いられており、前記第2の半導体層の材料としてInGaAsが用いられており、前記第2の半導体層の厚さが5nm以下であり、かつ、前記第2の半導体層の不純物濃度が1×1018cm−3以上であることを特徴としてもよい。
【0020】
これらの場合、前記第3の半導体層の不純物濃度が1×1018cm−3以上であることを特徴としてもよい。
【0021】
また、以上すべての場合において、前記第1の半導体層が、外部ベース領域におけるレッジ部を形成するために用いられていることを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るHBTにおいては、第2の半導体層と第1の半導体層を選択的なウェット・エッチングを用いて暴露することができるので、薄いレッジ部を、ウエハ面内全域に渡って均一に再現性良く実現することができる。また、第2の半導体層が縮退しており、かつ、第3の半導体層が中性領域を形成しているために、伝導帯端不連続によるポテンシャル井戸構造の影響が回避される。そのため、エミッタ電子輸送特性が劣化することがなく、十分な電流注入量を確保することが可能となる。さらに、第1の半導体層が薄くても第3の半導体層が存在するために、ベース層からエミッタ層への正孔注入が抑制される結果、高電流注入時におけるエミッタ注入効率の低下や、それにともなう電流利得の劣化を回避することができる。
【0023】
また、第1の半導体層がレッジ部を形成するために用いられているために、外部ベース領域における再結合電流を抑制することができる。そのため、高信頼で高性能な微細化素子を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るHBTのエミッタメサ領域付近を示す図である。
【図2】本発明に係るHBTのエネルギ・バンド図である。
【図3】従来のHBTを示す図である。
【図4】従来のHBTのエミッタメサ領域付近を示す図である。
【図5】従来のHBTのエネルギ・バンド図である。
【図6】従来の他のHBTのエミッタメサ領域付近を示す図である。
【図7】従来の他のHBTのエネルギ・バンド図である。
【図8】従来のHBTと従来の他のHBTの電流輸送特性を比較した図である。
【図9】従来の別のHBTのエミッタメサ領域付近を示す図である。
【図10】従来の別のHBTのエネルギ・バンド図である。
【図11】従来のHBTと従来の別のHBTのコレクタI−V特性を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1に、本発明に係るHBT構造の一例を示す。同図に示すように、エミッタ層は、ベース層上に形成されたInPからなる第1の半導体層である第1のエミッタ層11と、第1のエミッタ層11上に形成されたn型InGaAsからなる第2の半導体層である第2のエミッタ層(エッチ・ストッパー層)12と、第2のエミッタ層12上に形成されたn型のInPからなる第3の半導体層である第3のエミッタ層13から構成されている。また、前記第1のエミッタ層11の一部は、外部ベース領域においてレッジ部41を形成しており、レッジ部41上には、エミッタメサの側面を覆うシリコン窒化膜(SiN)からなるレッジ保護膜31が形成されている。なお、その他の構成については、図3と図4に示すものと同様なため、ここでは説明を省略する。
【0026】
図1に示すHBTの作製方法の一例を簡単に説明する。まずキャップ層7上に、Ti/Pt/Auなどからなるエミッタ電極23をリフトオフ法により形成する。次に、エミッタ電極23をマスクにして、ICP−RIE法により、キャップ層7とキャップ層6をエッチングし、さらに、第3のエミッタ層13の途中までエッチングを行う。そして、塩酸系エッチング溶液を用いて、残された第3のエミッタ層13を除去し、第2のエミッタ層(エッチ・ストッパー層)12を暴露する。さらに、クエン酸系エッチング溶液を用いて、第2のエミッタ層12を除去し、第1のエミッタ層11を暴露する。ここでは、InGaAsは塩酸系エッチング溶液ではエッチングされないこと、また、InPはクエン酸系エッチング溶液ではエッチングされないことを利用している。すなわち、第3の半導体層である第3のエミッタ層13が、第2の半導体層である第2のエミッタ層12に対して、ウェット・エッチングにより選択的に除去できる材料で形成されており、第2の半導体層である第2のエミッタ層12が、第1の半導体層である第1のエミッタ層11に対して、ウェット・エッチングにより選択的に除去できる材料で形成されている。しかる後に、第1のエミッタ層11の表面を保護するために、シリコン窒化膜をCVD法(Chemical Vapor Deposition:化学気相堆積法)により形成する。そして、エミッタメサを包含するようにフォトレジストをパターニングし、シリコン窒化膜をRIE法により除去してレッジ保護膜31を形成する。そして、塩酸系エッチング溶液により、レッジ保護膜31をマスクに用いて第1のエミッタ層11をエッチングし、レッジ部41を完成させる。以上のようにすれば、エピタキシャル結晶成長で決定された層厚を有するレッジ部41を実現することが可能である。
【0027】
エミッタメサを形成した後は、ベース電極22をリフトオフ法により形成する。その後、コレクタメサ、コレクタ電極を順次形成し、素子間分離エッチングにより、不要なサブコレクタ層を除去する。そして、スピン塗布法によりBCB(Benzocyclobutene)などの有機保護膜を形成し、RIE法を用いてエッチバックすることによって、微細なエミッタ電極23を暴露する。ベース電極22やコレクタ電極に対しては、RIE法によりビアホールを形成し配線とのコンタクトを図る。
【0028】
図1に示すHBTは、一見、図6に示す従来の他のHBTと同じように見えるが、エミッタ層を構成している各半導体層への不純物添加の仕方が大きく異なることが特徴となっている。まず、第2のエミッタ層(エッチ・ストッパー層)12は、高濃度の不純物添加を実施しており、半導体が縮退していることを特徴としている。さらに詳しく述べると、第2のエミッタ層12におけるフェルミ準位を、第1のエミッタ層11と第2のエミッタ層12によって形成されるInGaAs/InP伝導帯端エネルギ不連続(約0.24eV)と同程度かそれ以上まで上昇させておくことが望ましい。これを実現するには、第2のエミッタ層12に、1×1019cm−3以上の不準物を添加すれば良い。あるいは、第2のエミッタ層12の厚さを十分薄くすれば、ポテンシャル井戸内に量子化準位が形成されるために、実効的な伝導帯端エネルギ不連続を減少させることができる。その場合は、必要とする不準物濃度も低減することが可能である。例えば、第2のエミッタ層12の厚さを5nm以下にすれば、1×1018cm−3以上の不純物を添加すれば良い。また、第3のエミッタ層13については、中性領域が形成される程度の量の不純物を添加していることを特徴としている。具体的な不純物濃度は、所望するHBT動作電流密度に応じて異なるが、例えば、動作電流密度として実用的な1mA/μm以上の値が必要ならば、1×1018cm−3以上の不純物濃度があれば十分である。なお、第1のエミッタ層11については、不純物添加に関する制限は特に無い。
【0029】
図2は、図1記載の破線A−A’における、キャップ層7からコレクタ層3までのエネルギ・バンド図である。適当な不純物添加によって、第3のエミッタ層13と第2のエミッタ層12は中性領域が形成されており、第1のエミッタ層11のみが空乏化されている。さらに、第2のエミッタ層12は縮退するほどの不純物が添加されているために、第2のエミッタ層12と第1のエミッタ層11の間に生じる伝導帯端エネルギ不連続の影響が緩和された形となっている。このため、十分な量の伝導電子を第3のエミッタ層13から第1のエミッタ層11へと注入することが可能である。すなわち、本発明によるHBTでは、電流輸送特性が、第1のエミッタ層11からベース層4への熱電子放出やトンネル注入によって律則されることになる。第2のエミッタ層12に形成されるポテンシャル井戸の影響は発生せず、エミッタ電子輸送特性の劣化を心配する必要はない。
【0030】
また、第1のエミッタ層11が薄くても、ベース層4よりもバンドギャップが大きい第3のエミッタ層13が存在するために、ベース層4からエミッタ層への正孔注入を抑制することができる。その結果、高電流注入時におけるエミッタ注入効率の低下や、それにともなう電流利得の劣化を回避することが可能である。
【0031】
上述した実施の形態から、外部ベース領域に薄いレッジ部41を簡単に形成することが可能である。また、エミッタ電子輸送特性が、ポテンシャル井戸を形成する第2のエミッタ層(エッチ・ストッパー層)12の影響を受けないために、優れた高電流注入特性を有するという本発明によるHBT層構造の効果が分かる。さらに、第3のエミッタ層を設けることによって、高電流注入領域においても優れた電流利得特性を維持することが可能である。本発明を用いることによって、理想的なレッジ部41が得られ、レッジ機能を損なうことなく素子の微細化を進めることが可能となる。すなわち、薄層化、微細化、高信頼化を両立させる上で有利となる。本発明によるHBT層構造は、高電流密度注入による高速動作を図る上で有利となる。
【0032】
なお、本発明では、超高速集積回路を実現する上で有望なnpn形InP/InGaAs系HBTについて詳細に述べたが、同様な効果は、ベース層に狭バンドギャップ材料であるGaAsSb系材料を用いたInP/GaAsSb系HBTに対しても有効である。この場合も、本発明で示したエミッタ層構造をそのまま適用することができる。
【0033】
さらに、本発明では、第1のエミッタ層11と第3のエミッタ層13にInPを、また、第2のエミッタ層(エッチ・ストッパー層)12にInGaAsを用いた場合について詳細に述べたが、同様な効果は、第1と第3のエミッタ層にInAlPやInGaPを用いた場合に対しても有効であることを注意しておく。また、第2のエミッタ層にInAlGaAs、GaAsSb、InGaAsSbあるいはAlGaAsSbを用いた場合に対しても有効である。
【0034】
また、本発明は上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0035】
1:基板、2:サブコレクタ層、3:コレクタ層、4:ベース層、5:エミッタ層、6:キャップ層、7:キャップ層、11:第1のエミッタ層(請求項記載の第1の半導体層)、12:第2のエミッタ層(請求項記載の第2の半導体層)、13:第3のエミッタ層(請求項記載の第3の半導体層)、14:第1のエミッタ層、15:第2のエミッタ層、16:第3のエミッタ層、17:第1のエミッタ層、18:第2のエミッタ層、21:コレクタ電極、22:ベース電極、23:エミッタ電極、31:レッジ保護膜、41:レッジ部、42:レッジ部、43:レッジ部、44:レッジ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、サブコレクタ層、コレクタ層、ベース層、エミッタ層およびキャップ層が順次積層されたヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、
前記エミッタ層が、前記ベース層上に形成された第1の半導体層と、前記第1の半導体層上に形成された第2の半導体層と、前記第2の半導体層上に形成された第3の半導体層とから構成されており、
前記第3の半導体層が、前記第2の半導体層に対して、ウェット・エッチングにより選択的に除去できる材料で形成されており、
前記第2の半導体層が、前記第1の半導体層に対して、ウェット・エッチングにより選択的に除去できる材料で形成されており、
前記第1の半導体層と前記第3の半導体層のバンドギャップが、前記ベース層のバンドギャップよりも大きく、
前記第2の半導体層が不純物添加によって縮退しており、
前記第3の半導体層が不純物添加によって中性領域を形成していることを特徴とするヘテロ接合バイポーラトランジスタ。
【請求項2】
請求項1記載のヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、
前記第1の半導体層と前記第3の半導体層が、InP、InAlP、InGaPのいずれかによって形成されており、
前記第2の半導体層が、InGaAs、InAlGaAs、GaAsSb、InGaAsSb、AlGaAsSbのいずれかによって形成されており、
前記第2の半導体層と前記第3の半導体層が、n型の半導体材料で形成されていることを特徴とするヘテロ接合バイポーラトランジスタ。
【請求項3】
請求項2記載のヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、
前記第1の半導体層と前記第3の半導体層の材料としてInPが用いられており、
前記第2の半導体層の材料としてInGaAsが用いられており、
前記第2の半導体層の不純物濃度が1×1019cm−3以上であることを特徴とするヘテロ接合バイポーラトランジスタ。
【請求項4】
請求項2記載のヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、
前記第1の半導体層と前記第3の半導体層の材料としてInPが用いられており、
前記第2の半導体層の材料としてInGaAsが用いられており、
前記第2の半導体層の厚さが5nm以下であり、かつ、前記第2の半導体層の不純物濃度が1×1018cm−3以上であることを特徴とするヘテロ接合バイポーラトランジスタ。
【請求項5】
請求項3乃至4のいずれかに記載のヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、
前記第3の半導体層の不純物濃度が1×1018cm−3以上であることを特徴とするヘテロ接合バイポーラトランジスタ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、
前記第1の半導体層が、外部ベース領域におけるレッジ部を形成するために用いられていることを特徴とするヘテロ接合バイポーラトランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−3840(P2011−3840A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147760(P2009−147760)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】