説明

二重像合致式距離計及びデジタルカメラ

【課題】撮影光学系の焦点距離が長くなってもAF精度が落ちないようにすると共に、AFスピードを上げることが可能にする。
【解決手段】撮像素子上に像を結像するズーム機能を有する撮影光学系21の光軸上に配置されるビームスプリッタ1と、該ビームスプリッタから所定の基線長だけ離れた位置に回転可能に配置される参照ミラー10と、前記ビームスプリッタからの光束による像と前記参照ミラーからの光束による像を重ねるように前記参照ミラーを回転させる距離入力操作部材11とを有する二重像合致式距離計において、前記ビームスプリッタを前記撮影光学系の被写体側に位置させ、前記距離入力操作部材の距離入力量が示す距離を距離信号に変換してデジタルカメラに対して出力する距離信号出力手段を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルカメラに使用するのに好適な二重像合致式距離計及びデジタルカメラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
銀塩カメラからデジタルカメラに移行するに当たり、大きく変化したのは画像サイズの小型化、換言すると使用レンズの短焦点距離化である。
【0003】
このことによって、被写界深度は深くなり、オートフォーカス(以下AFという)はラフで良いという変化が起こった。
【0004】
反面、画像からのピント位置探しは難しくなったといえる。
【0005】
しかし、デジタルカメラの進歩によって、高画素化、高倍率のズームレンズ組み込み等が行われ、楽になったはずのAFは、従来の銀塩カメラ以上の精度が要求されるようになって来た。求められる精度とAFスピードアップという相反する要求が発生し、写したい被写体のゾーン入力選択といった方法も採用されている。
【0006】
銀塩カメラの時代よりピント合わせを行う代表的方法は、(マット面での)結像した像のコントラストのピークを求める方法と、基線長だけ離れた画像を光学的に合成する2重像合致方式である。
【0007】
二重像合致式の距離計は、適当な基線長、あるいは接眼倍率を選択することで、比較的簡単に被写体までの距離を求めることができ、特に焦点距離の短い撮影レンズと組み合わせて使用すると有効であった。
【0008】
現在まで作り続けられている二重像合致式距離計内蔵のレンジファインダカメラは、ライカに習い、上下像合致式としても使用できる、参照像がマスク面に実像を結ぶ非常に複雑な方式がとられている。二重像合致式距離計は、精度はともかくとすれば、構造は非常に簡単で、平行なミラーとビームスプリッタがあれば、極端な話、後ろの光学系は撮影者の目であってもよく、さまざまのファインダのバリエーションが考えられている。
【0009】
レンジファインダカメラの華やかなりし頃のカメラの中には、たとえばキヤノンIVSbやキヤノンVILのように、ほぼ平行な二つのミラーで構成する測距光学系の後方に、変倍光学系を配置して分解能を高め、長焦点距離の撮影レンズに対応できるようにした変倍式レンジファインダを組み込んだものも存在した。
【0010】
マニュアルで良好なピント調節ができるようにデジタルカメラに二重像合致式のレンジファインダを組み合わせたものとして、特開2003−295260号公報(特許文献1)に開示されたものがある。これは、撮影光学系のピント調節と距離計との連動誤差を補正するものである。
【特許文献1】特開2003−295260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
デジタルカメラにおいては、結像する画像が小さく、被写界深度も深いことから、ピントの合う範囲が広く、正確なピント合わせの確認をカメラ付設の液晶モニター等で確認することが難しい。したがって、マニュアルでピント合わせする機能は、大型の撮像素子を搭載する高級カメラを除くと、一般的とはなっていない。そこで、ピント合わせは、AF方式で行うのが一般的となっている。そして、デジタルカメラ発展の初期段階では、組み込まれるレンズは焦点距離の短いものが多く、被写界深度が深いこともあり、比較的短い時間でAFを行うことができた。
【0012】
しかし、時代とともに高倍率のズームレンズが組み込まれるようになり、また、大きな紙にプリントアウトできるように高精度であることも求められ、AFに必要な時間が、幾何学級数的に増加しはじめている。
【0013】
AFの進歩ゆえに、TTLでありながらピント合わせの確認が難しいので、撮影者が撮影者の意思で被写体までの距離を決定せず、ひたすらAFでピントが合うまでシャッターレリーズを待ち、時にはシャッターチャンスを逃してしまう結果となっていた。
【0014】
前述したように特許文献1に二重像合致式距離計をデジタルカメラに取り付けたものが開示されているであるが、これは、デジタルカメラの持つ撮影倍率の高さを生かし、二重像合致式距離計のメリットを生かしたものとはいいがたい。
【0015】
(本発明の目的)
本発明の目的は、撮影光学系の焦点距離が長くなってもAF精度が落ちないようにすると共に、AFスピードを上げることを可能にする二重像合致式距離計及びデジタルカメラを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は、撮像素子上に像を結像するズーム機能を有する撮影光学系の光軸上に配置されるビームスプリッタと、該ビームスプリッタから所定の基線長だけ離れた位置に回転可能に配置される参照ミラーと、前記ビームスプリッタからの光束による像と前記参照ミラーからの光束による像を重ねるように前記参照ミラーを回転させる距離入力操作部材とを有する二重像合致式距離計において、前記ビームスプリッタを前記撮影光学系の被写体側に位置させ、前記距離入力操作部材の距離入力量が示す距離を距離信号に変換してデジタルカメラに対して出力する距離信号出力手段を設けたことを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明は、前記撮像素子上の像の情報により像のコントラストが高くなるようにしてピント位置を求めるオートフォーカス方式のデジタルカメラであって、請求項1または2に記載の二重像合致式距離計が取り付け可能となっており、前記距離信号出力手段からの距離信号に基づいてコントラストのピークを求める領域を定めるようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、撮影光学系の焦点距離が長くなってもAF精度が落ちないようにすると共に、AFスピードを上げることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施するための最良の形態は、後述する実施例に記載の通りである。
【実施例】
【0020】
図1は本発明の一実施例である距離計ユニットを有するデジタルカメラを示す斜視図、図2は距離計ユニットの正面図、図3は距離計ユニットの上面図である。
【0021】
まず、距離計ユニットから説明する。図1において、1はビームスプリッタで、使用位置では撮影レンズより被写体側の撮影レンズ光軸上に配置されるものである。撮影者が目で液晶モニターを確認しながら使用する場合は、なるべく無色に近いものがよい。補助的に、カメラの中で位相差測距を行おうとする場合は、ダイクロイックミラーとし、たとえば青と赤の撮像素子に基線長だけずれた画像が映るようにしてもよい。この場合、液晶モニターを目で確認しようとすると、ピントの合うときだけ、液晶モニター上の画像が、自然の色に近くなるということになる。
【0022】
2は光学地板で、ビームスプリッタ1を撮影レンズ光軸上に配置し、回転軸2aで鏡筒地板3のユニット回転軸3aを中心に回転可能となっている。図2、図3に示すように、光学地板2には、駆動ギア2bが設けてあり、連結ギア4、連結ギア5、連結ギア6を介しモータ7につながっている。撮影の瞬間、あるいは測距に距離計ユニットを使用しないとき、モータ7の回転で、光学地板2とビームスプリッタ1を撮影レンズ光軸上から退避させる。
【0023】
図1に戻り、光学地板2には参照ミラー回転軸2cがあり、参照ミラー台8を回転可能に保持している。参照ミラー台8には回転方向と軸方向に付勢する参照ミラー台バネ9がかけられており、参照ミラー台8を上方向と時計回り方向に付勢している。参照ミラー台8には参照ミラー10が設けられ、ビームスプリッタ1と平行な位置を中心に回転可能となっている。参照ミラー台8は距離伝達レバー部8aを有し、距離入力操作部材11に設けられた距離カム11a(図3)の変位が距離ピン12を介して伝達される。これによって、参照ミラー10の回転量が決められる。参照ミラー10はビームスプリッタ1から所定の基線長だけ離れた位置に配置される。
【0024】
図3において、13は遮光マスクで、参照窓13a以外から参照ミラー10、ビームスプリッタ1を通って余分な光が入らないように遮光している。
【0025】
図3に示されるように距離入力操作部材11にはエンコーダ14が接続され、距離入力操作部材11の変位量が電気信号に変換され、ケーブル15を介してデジタルカメラに伝達される。
【0026】
距離入力操作部材11には作動用ボタン16が設けられており、この作動用ボタン16が押されると、作動スイッチ17(図3)が切り換えられ、モータ7に通電が行われ、光学地板2とビームスプリッタ1を使用位置に移動させる。
【0027】
作動用ボタン16を離すか、図示しないデジタルカメラのレリーズスイッチが押されると、撮影が始まる前に、モータ7に逆方向の通電が行われ、光学地板2とビームスプリッタ1を退避位置に移動させる。18は押さえ地板で、モータ7や、連結ギア4,5,6等の保持を行っている。
【0028】
図1〜3において、19はデジタルカメラ、20は撮像素子に結像する画像を表示する液晶モニター、21は光学的ズーム機能を有する撮影レンズである。なお、デジタルカメラ19は、図示していないが、光学ファインダを有する。
【0029】
ビームスプリッタ1で分離された光束によるファインダ像と、参照ミラー10による参照像とが、光学ファインダに二重になって表示される。そして、距離入力操作部材11を操作することによって参照ミラー10の変位量(微小回転角)を変えると、光学ファインダでの参照像の位置が移動する。参照像がファインダ像に重なったときの距離入力操作部材11の位置が被写体の距離を示す。この位置がエンコーダ14により電気信号に変換され、デジタルカメラ19に伝達される。
【0030】
デジタルカメラ19は、伝達された距離付近(あるいはゾーン)の短い領域でコントラストのピークを求め、ピント位置とする。
【0031】
通常のデジタルカメラは、撮影レリーズに先立ち、それぞれのズーム位置に応じた撮影範囲を定め、撮影レンズの中のフォーカス位置をスキャンしながら、撮影範囲の撮像素子から画像情報を取り込み、画像の中のコントラストの最も高くなるフォーカス位置をピント位置と認識してAF撮影を行っている。
【0032】
したがって、高倍率のズーム機能を有する場合のテレ側の撮影では、ピント合わせのために長い時間を必要とした。
【0033】
本実施例では、距離計ユニットを撮影者が使用するとき、作動用ボタン16を押し、作動スイッチ17が入れられると、距離入力操作部材11に接続したエンコーダ14の情報を基に、その情報が示す距離付近の短い領域をスキャンし、かつ小さなコントラストの山でも被写体と判定して、AFに必要な時間を短縮している。
【0034】
また、AFではピントの合いにくい、暗い、コントラストの低い被写体でも、距離入力操作部材11で入力することで、強制的にその距離近傍にピントを合わすことができ、置きピンやフォーカスロックといった手法が、手軽に使用できるようになる。
【0035】
本実施例の距離計ユニットが、写したい距離の入力手段で、ピント位置の決定手段でないのは、撮像素子のピッチの微細化等で、デジタルカメラとして必要とされるピント精度が異常に高く、鏡筒内の部分的な温度の変化等の要素で刻々と変化するなど、一般的に機械的に管理できる限界を超えているからである。それに対応するためには、撮像素子上の画像情報から直前にピント情報を得ることが必要となる。
【0036】
また、写したい被写体距離の大まかな情報を必要とするのは、高精度にピント位置を探すには、探索範囲を限定し、短時間に、コントラストの小さなピークでも、ピークとして正確に見つけ出すためである。
【0037】
本実施例は、撮像素子上の像の情報により像のコントラストが高くなるようにしてピント位置を求めるオートフォーカスデジタルカメラに使用するものである。そして、ピントの確認の難しい短焦点領域を含む被写体距離入力手段として、適切な基線長と接眼倍率に設定した2重像合致式距離計を使用している。また、そのビームスプリッタをデジタルカメラの撮影レンズの前に配置することで被写体までの距離を簡略な手法でデジタルカメラに入力できるようにしている。
【0038】
また、ズーム機能を有する撮影レンズの光軸上にビームスプリッタを、このビームスプリッタから所定の基線長だけ離れた位置に、ビームスプリッタとほぼ平行で、距離入力操作部材の操作により微小角度回転する参照ミラーを、それぞれ設けている。このようなズーム対応距離計をレイアウトすることで、撮影レンズのズームに合わせ、モニターする画像も変倍し、像の拡大倍率が上がるようになる。こうすることで、ズームにより長焦点を選ぶと、距離計の精度もそれに合わせて向上するようになり、ズームの倍率に影響されにくいシステムとなっている。こうして、撮影者が距離入力操作部材の操作を行い、写したい距離を選択すると、微小角度回転する参照ミラーの微小回転を検知するエンコーダに出力が発生し、デジタルカメラの中の制御回路にエンコーダの出力に応じた撮影レンズの測距範囲の情報が伝達される。
【0039】
本実施例のビームスプリッタは撮影レンズの光軸上に配置されている。したがって、撮影の瞬間には光路上から退避させる必要がある。本実施例では距離計ユニットにモータを組み込み、電動で退避させている。
【0040】
本実施例のデジタルカメラでは、従来と同じAFでの手軽な撮影も、特に焦点距離の短いスナップ撮影を行うときは必要である。したがって、この場合も、同様の手段で、距離計ユニットを退避させることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施例である距離計ユニットを有するデジタルカメラを示す斜視図である。
【図2】同じく距離計ユニットの正面図である。
【図3】同じく距離計ユニットの上面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 ビームスプリッタ
2 光学地板
2a 回転軸
2b 駆動ギア
2c 参照ミラー回転軸
3 鏡筒地板
3a ユニット回転軸
4 連結ギア
5 連結ギア
6 連結ギア
7 モータ
8 参照ミラー台
8a 距離伝達レバー部
9 参照ミラー台バネ
10 参照ミラー
11 距離入力操作部材
11a 距離カム
12 距離ピン
13 遮光マスク
13a 参照窓
14 エンコーダ
15 ケーブル
16 作動用ボタン
17 作動スイッチ
18 押さえ地板
19 デジタルカメラ
20 液晶モニター
21 撮影レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像素子上に像を結像するズーム機能を有する撮影光学系の光軸上に配置されるビームスプリッタと、該ビームスプリッタから所定の基線長だけ離れた位置に回転可能に配置される参照ミラーと、前記ビームスプリッタからの光束による像と前記参照ミラーからの光束による像を重ねるように前記参照ミラーを回転させる距離入力操作部材とを有する二重像合致式距離計において、前記ビームスプリッタを前記撮影光学系の被写体側に位置させ、前記距離入力操作部材の距離入力量が示す距離を距離信号に変換してデジタルカメラに対して出力する距離信号出力手段を設けたことを特徴とする二重像合致式距離計。
【請求項2】
前記ビームスプリッタを前記撮影光学系の光軸上から退避させる退避機構を設けたことを特徴とする請求項1に記載の二重像合致式距離計。
【請求項3】
前記撮像素子上の像の情報により像のコントラストが高くなるようにしてピント位置を求めるオートフォーカス方式のデジタルカメラであって、請求項1または2に記載の二重像合致式距離計が取り付け可能となっており、前記距離信号出力手段からの距離信号に基づいてコントラストのピークを求める領域を定めるようにしたことを特徴とするデジタルカメラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−114643(P2007−114643A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−308086(P2005−308086)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】