説明

光変調デバイスおよび露光装置

【課題】高い耐パワー性能と短波長光での光損傷性能が高く、かつ高速な変調が可能な光変調デバイスおよび当該光変調デバイスを用いた露光装置を提供する。
【解決手段】両端面11a、11bを露出させたまま電気光学結晶層11の周囲が結晶部14(電気光学結晶層12、13)で取り囲まれて四角柱形状の外観を有する電気光学結晶基板15が形成されている。また、電気光学結晶基板15の上面および下面に電極16a、16bがそれぞれ形成される。電極16a、16bは電位付与部17と電気的に接続されており、電位付与部17から電極16a、16bに正電位および負電位を与えると、電気光学結晶層11および結晶部14の屈折率がそれぞれ増加および減少して入射光Linを電気光学結晶層11に封じ込めて伝搬する。逆電位を付与すると、入射光Linが結晶部14に吸い込まれるように広がる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気光学結晶を用いた光変調デバイスおよび当該光変調デバイスを装備する露光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気光学結晶を用いた光変調デバイスとして、例えばMach-Zehnder型の光変調デバイスが広く知られている。この光変調デバイスは、リチウムナイオベート(LiNbO)等の電界により屈折率が変化する電気光学結晶に対して分岐する2つの光導波路を形成したものであり、これらの光導波路に電圧を加えることにより光変調を行うものである。つまり、電圧印加により光導波路中の光の位相を変化させることで相対的に位相差を設け、各光導波路を伝搬してきた光を合成する際の干渉を利用しており、同位相の場合にON状態となり、逆位相の場合にOFF状態となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】社団法人応用物理学会編「応用物理ハンドブック」丸善株式会社、平成2年3月30日、p.109
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように構成された光変調デバイスでは、光導波路の分岐や合成の際に発生する光損失を抑制すべく、光導波路の急な屈曲を避けて比較的緩やかに光導波路を曲げている。このため、光導波路を光が進む光伝搬方向において光変調デバイスを長く設計する必要があり、光伝搬方向でのデバイスの長さが5センチを超えることも珍しくない。また、各光導波路を伝搬する光が互いに影響し合わないようにするには、光伝搬方向に直交する幅方向において光導波路同士を十分に離間する必要があり、このことが光導波路同士の配置密度を高める上で大きな障害となっている。そして、一般に光導波路の幅は数ミクロン程度であり、プロトン交換やチタン拡散などの方法で形成される。その結果、光導波路を構成する光学部材の屈折率が比較的高くなり、光導波路に光を封じ込める力が高くなる。そこで、多モード化を避けるため、つまり光導波路をシングルモード導波路にするために、幅方向における光導波路の幅は数ミクロン程度に狭く設計されている。このことが幸いして光分岐や光合成などを行う屈曲部においても、光損失を少なくし上手く光を導波することができる。しかしながら、その一方で、このような技術背景から光導波路の幅を狭くせざるを得なくなったことで光導波路内のパワー密度が上がり、耐パワー限界や短波長光などでは光損傷などの問題が生じている。
【0005】
この発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、高い耐パワー性能と短波長光での光損傷性能が高く、かつ高速な変調が可能な光変調デバイスおよび当該光変調デバイスを用いた露光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明にかかる光変調デバイスは、上記目的を達成するため、一方端面から内部に入射される光を第1方向に導光して他方端面から出射させる第1電気光学結晶層を、第1電気光学結晶層と異なる結晶軸方位を有する第2電気光学結晶層および第3電気光学結晶層で第1方向に対して直交する第2方向から挟み込むように構成される電気光学結晶基板と、第2電気光学結晶層の表面に設けられる第1電極と、第3電気光学結晶層の表面に設けられる第2電極と、第1電極と第2電極とに付与する電位を制御して入射光に対する第1電気光学結晶層、第2電気光学結晶層および第3電気光学結晶層の屈折率を変化させて他方端面から出射される光の強度を変化させる電位付与部とを備えることを特徴としている。
【0007】
この発明にかかる露光装置は、上記目的を達成するため、上記のように構成される光変調デバイスと、第1電気光学結晶層の一方端面に光を入射させる光源部と、光変調デバイスにより変調されて第1電気光学結晶層の他方端面から出射される変調光を被露光面に導く光学系とを備えたことを特徴としている。
【0008】
このように構成された発明(光変調デバイスおよび露光装置)では、第1電気光学結晶層を、第1電気光学結晶層と異なる結晶軸方位を有する第2電気光学結晶層および第3電気光学結晶層で挟み込んで電気光学結晶基板が構成されている。また、第2電気光学結晶層の表面に対して第1電極が設けられるとともに、第3電気光学結晶層の表面に対して第2電極が設けられ、これらの電極に電位付与部から電位が与えられる。そして、第1電極および第2電極の間での電位差を制御することで第1電極および第2電極の間で発生する電界の向きや大きさを変化させることができる。一方、電気光学結晶基板内では、第1電気光学結晶層に入射される光に対する第1電気光学結晶層、第2電気光学結晶層および第3電気光学結晶層の屈折率がそれぞれ電界に応じた値となる。このように第1電極および第2電極への電位付与を制御することで電気光学結晶基板内での屈折率の分布状態を制御することが可能となっており、その屈折率の分布状態により第1電気光学結晶層で導光されて他方端面から出射される光の強度が変化する。すなわち、第1電極および第2電極の電位を制御することによって光変調を行うことが可能となっている。
【0009】
ここで、第2電気光学結晶層および第3電気光学結晶層は一体的に形成されて結晶部を構成し、第1方向に対する断面において結晶部が第1電気光学結晶層を取り囲むに構成してもよい。この場合、電位制御によって第1電気光学結晶層がコアであり、結晶部がクラッドに相当する光導波路のように、電気光学結晶基板を作用させて第1電気光学結晶層に入射された光を第1電気光学結晶層の内部に閉じ込めながら第1方向に伝搬することが可能となる。
【0010】
また、第2電気光学結晶層および第3電気光学結晶層を第2方向において互いに離間して形成する、つまり電気光学結晶基板が第2方向において(第2電気光学結晶層−第1電気光学結晶層−第3電気光学結晶層)の3層構造を有するように構成してもよい。
【0011】
また、第1電気光学結晶層の結晶軸方位と、第2電気光学結晶層および第3電気光学結晶層の結晶軸方位とは、互いに異なっておればよいが、特に互いに180゜ずれるように構成するのが望ましい。また、第1電気光学結晶層の結晶軸方位と、第2電気光学結晶層および第3電気光学結晶層の結晶軸方位とが、第2方向に平行な方位となるように構成するのが望ましい。また、第1電気光学結晶層、第2電気光学結晶層および第3電気光学結晶層を同一種類の結晶で構成してもよく、この場合、第1電極および第2電極に同電位を付与すると、電気光学結晶基板が全体として同一の結晶で形成されるのと等価となる。
【0012】
また、第1方向における第1電気光学結晶層の長さについては1mm以上50mm以下にするのが好ましく、第2方向における第1電気光学結晶層の厚みについては5μm以上100μm以下にするのが好ましい。
【0013】
さらに、第1電極および第2電極の個数は「1」に限定されるものではなく、複数個設けてもよく、これによって多チャンネルの光変調デバイスが得られる。すなわち、第1電極を第1方向および第2方向に直交する第3方向において互いに離間して第2電気光学結晶層の第1表面上にn(n≧2)個設けるとともに、第2電極を第3方向において互いに離間して第3電気光学結晶層の第2表面上にn個設けて、第1電気光学結晶層を挟んで互いに対向する第1電極と第2電極とにより構成される電極対をn組設けてもよい。そして、n組の電極対に対して付与する電位を独立して制御することで各電極対で光変調を独立して行うことができる。なお、この場合、第1電極および第2電極を第1方向と平行に延設することで各電極対での光変調を安定して行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、第1電極および第2電極に付与する電位を制御することによって電気光学結晶基板内での屈折率の分布状態を制御して第1電気光学結晶層に入射される光を変調しているので、高速な光変調が可能となっている。また、電位差を与えて電気光学結晶基板内の屈折率を変化させる場合、その屈折率の変化は僅かであるため、入射光の伝搬方向(第1方向)に対する第1電気光学結晶層の断面積を比較的広く設定することができ、高いパワーの光や短波長光を第1電気光学結晶層に入射したとしても、光損傷などの不具合を発生させることなく、光変調することができる。つまり、高い耐パワー性能と短波長光での光損傷性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明にかかる光変調デバイスの第1実施形態を示す図である。
【図2】図1の光変調デバイスの構成および動作を模式的に示す図である。
【図3】ON状態でのBPM法によるシミュレーションの結果を示すグラフである。
【図4】中間状態でのBPM法によるシミュレーションの結果を示すグラフである。
【図5】OFF状態でのBPM法によるシミュレーションの結果を示すグラフである。
【図6】本発明にかかる光変調デバイスの第2実施形態を示す図である。
【図7】本発明にかかる光変調デバイスの第3実施形態を示す図である。
【図8】本発明にかかる光変調デバイスの第4実施形態を示す図である。
【図9】本発明にかかる光変調デバイスの第5実施形態を示す図である。
【図10】本発明にかかる光変調デバイスを装備した露光装置の一実施形態を示す図である。
【図11】本発明にかかる光変調デバイスを装備した露光装置の他の実施形態を示す図である。
【図12】図11に示す露光装置の本体部を示す斜視図である。
【図13】図11の露光装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図14】光学ヘッドの内部構成を簡略化して示す図である。
【図15】スリット板の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<光変調デバイスの第1実施形態>
図1は本発明にかかる光変調デバイスの第1実施形態を示す図であり、同図(a)は光変調デバイスの斜視図であり、同図(b)〜(d)は光変調デバイスの光変調動作を模式的に示す図である。また、図2は図1の光変調デバイスの構成および動作を模式的に示す図である。この光変調デバイス1Aは、Z方向に延設された四角柱形状の一軸性電気光学結晶層11を有している。この電気光学結晶層11の両端面11a、11bは矩形形状を有しており、一方端面11aを介して光Linが電気光学結晶層11の内部に入射されると、方向Zに導光されて他方端面11bから出射させられる。この電気光学結晶層11としては、例えばLN(LiNbO)やLT(LiTaO)などの一軸性電気光学結晶を用いることができる。
【0017】
また、光伝搬方向Zに対して直交する上下方向Yから電気光学結晶層11を挟み込むように、電気光学結晶層11と同一材料で構成される電気光学結晶層12、13が配置されるとともに、これら電気光学結晶層12、13が一体化されて結晶部14が構成されている。すなわち、両端面11a、11bを露出させたまま電気光学結晶層11の周囲が結晶部14(電気光学結晶層12、13)で取り囲まれて四角柱形状の外観を有する電気光学結晶基板15が形成されている。
【0018】
また、本実施形態では、後述するように電気光学係数の最も大きなr33を用いる向きで使用するため、電気光学結晶層11の結晶軸方位(結晶のC軸方位とも言う)は図1の端面11a中の矢印で示すように上向きになっている。一方、結晶部14は電気光学結晶層11の結晶軸方位と異なる方位を有しており、特に本実施形態では結晶部14の結晶軸方位を電気光学結晶層11の結晶軸方位から180゜ずれた向き、つまり電気光学結晶層11と反対の下向きとなっている。このように結晶部14中の矢印は分極の向きを示している(この点については、後で説明する図面においても同様である)。
【0019】
このように構成された電気光学結晶基板15の上面(電気光学結晶層12の上面)はXZ平面に平行な水平面に仕上げられており、この上面全体に第1電極16aが形成される。また、電気光学結晶基板15の下面(電気光学結晶層12の下面)もXZ平面に平行な水平面に仕上げられている。そして、電気光学結晶基板15の下面全体に第2電極16bが形成されており、これら2つの電極16a、16bで電気光学結晶基板15が上下方向Yから挟み込まれている。また、電極16a、16bは電位付与部17と電気的に接続されており、電位付与部17は電極16a、16bに与える電位を任意に制御可能となっている。そして、電極16a、16bの間で電位差を与えることで電気光学結晶層11および結晶部14の結晶軸方位と平行な方向、つまり上下方向Yに電界が発生する。したがって、第1電極16aおよび第2電極16bの間での電位差を制御することで、電界の向きや大きさを変化させることができ、次に説明するように、電気光学結晶基板15内での屈折率の分布状態を制御することが可能となっており、その屈折率の分布状態に応じて第1電気光学結晶層11の他方端面11bから出射される光Loutの強度が変化する。
【0020】
図1(c)および図2(b)に示すように電極16a、16bに対して同電位を与えて電位差をゼロに設定した場合、電気光学結晶基板15全体は、入射光Linに対する屈折率が「n」の一様な結晶と等価である。したがって、結晶軸の方向に偏光した異常光線のシングルモード光(ガウス分布を有する光)Linを電気光学結晶層11の一方端面11aを介して電気光学結晶層11に入射すると、この光Linは一様な結晶中を伝搬するのと同様に末広がり状に広がりながら電気光学結晶基板15の内部を光伝搬方向Zにシングルモードで伝搬する。よって、光伝搬方向Zにおける電気光学結晶基板15の長さが長くなるにしたがって電気光学結晶層11の他方端面11bから出射される光Loutの強度は徐々に低下する。なお、このように電位差をゼロに設定して比較的低い光強度の光Loutを出射させる状態を「中間状態」という。また、以下の説明において、特に言及しない限り「屈折率」とは、入射光Linに対する屈折率を意味する。
【0021】
また、図1(b)および図2(a)に示すように、電気光学結晶層11の結晶軸方位側、つまり上側の電極16aの電位が下側の電極16bの電位よりも高くなるように電圧を印加すると、上から下を向いた電界が電気光学結晶基板15内に発生して電気光学結晶層11の屈折率はΔneだけ増加し、(n+Δne)となる一方、結晶部14(電気光学結晶層12、13)の屈折率はΔneだけ減少し、(n−Δne)となる。このため、電気光学結晶層11がコアであり、光伝搬方向Zと直交する断面において電気光学結晶層11を取り囲む結晶部14がクラッドに相当する光導波路のように、電気光学結晶基板15は作用して光Linを電気光学結晶層11に閉じ込めながら光伝搬方向Zにシングルモードで伝搬する。したがって、電気光学結晶層11の他方端面11bから出射される光Loutの強度は中間状態(図1(b)や図2(b)の状態)に比べて高くなっている。なお、このように電圧を印加して電気光学結晶層11の他方端面11bから比較的高い光強度の光Loutを出射させる状態を「ON状態」という。
【0022】
また、ON状態とは真逆の電圧を印加する、つまり図1(d)および図2(c)に示すように、電気光学結晶層11の結晶軸方位側、つまり上側の電極16aの電位が下側の電極16bの電位よりも低くなるように電圧を印加すると、下から上を向いた電界が電気光学結晶基板15内に発生して電気光学結晶層11の屈折率はΔneだけ減少し、(n−Δne)となる一方、結晶部14(電気光学結晶層12、13)の屈折率はΔneだけ高くなり、(n+Δne)となる。このように結晶部14の屈折率が中央部の電気光学結晶層11よりも上がっているため、電気光学結晶層11に入射した光Linは積極的に結晶部14に吸い込まれるように広がっていく。よって、光伝搬方向Zにおける電気光学結晶基板15の長さが長くなるにしたがって電気光学結晶層11の他方端面11bから出射される光Loutの強度は極端に低下し、中間状態よりも光強度は更に低く、ゼロに近くなる。なお、このように電圧を印加して電気光学結晶層11の他方端面11bから出射される光Loutの強度がほぼゼロに近い状態を「OFF状態」という。
【0023】
以上のように、第1実施形態にかかる光変調デバイス1Aによれば、電位付与部17から電極16a、16bに与える電位を制御することで電気光学結晶層11の他方端面11bから出射される光Loutの強度を良好に変調することができ、高速な光変調が可能となっている。ここで、上記のように構成された光変調デバイス1Aの変調性能を検証するため、以下の条件
・電気光学結晶層11〜13:LN(LiNbO
・電気光学結晶層11の端面11a、11b:30μm角
・結晶部14の厚み:15μm
・Z方向の長さ:20mm
・電気光学結晶層11の結晶軸(C軸)方位:上向き(第1電極16a側)
・結晶部14の結晶軸(C軸)方位:下向き(第2電極16b側)
・入射光Linの波長λ:633ナノメートル(nm)
・ON状態での電位付与:上から下向きに10V
・中間状態での電位付与:電位差0V
・OFF状態での電位付与:下から上向きに10V
で光のピークの1/e径で30μmの結晶軸の方向に偏光した異常光線のガウスビームを電気光学結晶層11に入射させたときの様子を2次元のBPM(Beam Propagation Method)法によりシミュレーションした。
【0024】
図3はON状態でのBPM法によるシミュレーションの結果を示すグラフである。このON状態では、図1(b)および図2(a)に示すように、電気光学結晶層11の屈折率はΔneだけ増加し、(n+Δne)となる一方、結晶部14(電気光学結晶層12、13)の屈折率はΔneだけ減少し、(n−Δne)となり、電気光学結晶層11がコアであるとともに結晶部14がクラッドに相当する光導波路のように、電気光学結晶基板15は作用する。そして、シミュレーション結果からわかるように、光損失を抑制しながら電気光学結晶層11から光Loutが出射することができる。
【0025】
図4は中間状態でのBPM法によるシミュレーションの結果を示すグラフである。この中間状態では、図1(c)および図2(b)に示すように、電気光学結晶基板15全体が一様な屈折率をもつ結晶と同じになる。そして、シミュレーション結果からわかるように、入射光は一様な結晶中を伝搬するのと同様に末広がり状に広がりながら電気光学結晶基板15の内部を光伝搬方向Zにシングルモードで伝搬し、電気光学結晶層11の他方端面11bから出射される光Loutの強度はゼロにまで減少していないが、ON状態に比べて大幅に低減されている。
【0026】
図5はOFF状態でのBPM法によるシミュレーションの結果を示すグラフである。このOFF状態では、図1(d)および図2(c)に示すように、結晶部14の屈折率が中央部の電気光学結晶層11よりも上がっている。そして、シミュレーション結果からわかるように、入射光は結晶部14に積極的に導光されて電気光学結晶層11の他方端面11bから出射される光Loutの強度は中間状態よりもさらに減少し、ゼロに近い値となっている。
【0027】
このように本実施形態にかかる光変調デバイス1Aによれば、優れた変調性能で3段階の光変調を行うことができる。もちろん、変調の段数は「3」に限定されるものではなく、第1電極16aおよび第2電極16bに付与する電位を2段階に切り替えてON/OFF制御したり、逆に電位の切替段数を増やすことで階調変調を行うことも可能である。すなわち、屈折率の変化量の絶対値Δneは次式で示すように電極16a、16bの間で発生する電界に応じて変化する。また、符号は結晶軸方位と電界方位により決まり、同じ場合は(−)マイナスで減少、逆の場合は(+)プラスで増加となる。なお、同式中の符号Γは電界低減係数である。
【数1】

【0028】
このように電界発生を制御することで屈折率の変化量Δneを異ならせて光Lを変調することができるが、電界は次式に示すように方向Yにおける電極16a、16bのギャップg(図1(c)参照)と電極16a、16bの電位差vで決まる。
【数2】

【0029】
したがって、上記数2を数1に代入することで次式が得られる。そして、次式から明らかなように電位差vを制御することで屈折率の変化量Δneを制御可能であることがわかる。
【数3】

【0030】
例えば電気光学結晶層11〜13をいずれもLN(LiNbO)で構成する。また、電気光学結晶層11の一方端面11aおよび他方端面11bを30μm角に設定し、結晶部14の厚みを15μmに設定すると、方向Yにおける電極16a、16bのギャップgは60μmとなる。そして、波長λが633nmで結晶軸の方向に偏光した異常光線の光Linを電気光学結晶層11の一方端面11aに入射するとともに、電圧v=10Vで第1電極16aおよび第2電極16bに電位を付与した場合、数3に基づき計算すると、屈折率の変化量Δneは約2.73×10−5となる。なお、ここでは、電界低減係数Γが1であると仮定して計算している。
【0031】
また、図1に示す構成の光変調デバイス1Aでは、屈折率差は中央部と周辺部で互いに逆向きに変化するので、デバイス全体の屈折率差は、2×Δne≒5.46×10−5となり、光ファイバーなどの通常の光導波路に比べて非常に小さい。したがって、図1(b)および図2(a)に示すようにON状態で使用する場合、電気光学結晶層11がコアであり、結晶部14がクラッドに相当する光導波路のように、電気光学結晶基板15は作用するが、電気光学結晶層(コア部分)11に光Linを封じ込める力は非常に弱い。したがって、電気光学結晶層11で基本モード光、つまりガウス分布を有する光を通そうとすると、例えば薮哲郎著「光導波路解析入門」森北出版、2007年10月5日発行、p.43〜46などに記載されているモード伝搬の理論に基づけば数十μmの導波路が必要となり、光ファイバーや集積光回路の光導波路と比較して十分に太い入射断面および出射断面が必要となる。このように電気光学結晶層11の端面11a、11bを広げることは、電気光学結晶層11内での光エネルギー密度を低減させることに直結し、高エネルギー光を伝搬する場合や光損傷を低減させるのに好適である。つまり、本実施形態によれば、入射光Linの伝搬方向(第1方向)Zに対する電気光学結晶層11の断面積を比較的広く設定することができ、高いパワーの光や短波長光を電気光学結晶層11に入射したとしても、光損傷などの不具合を発生させることなく、光変調することができる。
【0032】
また、上記実施形態では、電気光学結晶基板15の上面(電気光学結晶層12の上面)全体および下面(電気光学結晶層12の下面)全体に対して電極16a、16bがそれぞれ形成されている。このため、電極16a、16bの間で発生する電界と、入射光Linとの相互作用範囲が広がり、低電圧で光変調を行うことができる。
【0033】
また、電気光学結晶層11と結晶部14(電気光学結晶層12、13)とを同一材料で構成しているため、電極16a、16bの電位差をゼロにしたときに光Linを電気光学結晶層11に封じ込める力がなくなり、光変調を良好に行うことができる。
【0034】
また、第1実施形態では、本発明の「第1方向」に相当する光伝搬方向Zにおける第1電気光学結晶層11の長さを20mmに設定した光変調デバイス1Aが優れた光変調性能を発揮することを説明したが、光伝搬方向Zにおける第1電気光学結晶層11の長さについては1mm以上50mm以下に設定するのが望ましい。それは次の理由からである。この長さは光と電界(E)との相互作用距離に相当するため、長くすることで駆動電圧を下げることができ、高速変調を図ることができる。また、OFF状態では上記したように第1電気光学結晶層11から結晶部14に光が逃げることで第1電気光学結晶層11から出射する光Loutの強度低下を図っているため、長くすることで消光比を高めることができる。このような理由から低電圧で光変調を行うためには、光伝搬方向Zにおける第1電気光学結晶層11の長さを20mmに最低限1mm以上に設定する必要がある。また、第1電気光学結晶層11をZ方向に長くするにしたがって電圧低下や消光比は向上するが、電気光学結晶を切り出すインゴット(ウエハ)の製造限界、従来の光変調デバイスよりも小型化したいという要望、光減衰による光強度の低下などの観点からは、50mm以下にするのが望ましい。
【0035】
さら、第1実施形態では、本発明の「第2方向」に相当する上下方向Yにおける第1電気光学結晶層11の厚みを30μmに設定した光変調デバイス1Aが優れた光変調性能を発揮することを説明したが、上下方向Yにおける第1電気光学結晶層11の厚みについては5μm以上100μm以下に設定するのが望ましい。それは次の理由からである。上記のように電気光学結晶基板15中に電界を発生させるように構成しているので、本発明の「第2方向」に相当する上下方向Yにおける第1電気光学結晶層11の厚みが大きくなると、電極16a、16b間での電位差を大きくする必要が生じ、100μmを超えると、従来装置程度あるいはそれ以下の変調速度しか得られない。したがって、高速変調を確保するためには、第1電気光学結晶層11の厚みを100μm以下に抑えるのが望ましい。また、光変調デバイス1Aでは電極16a、16bの間での電位差を制御した場合でも、第1電気光学結晶層11と結晶部14(第2電気光学結晶層12、第3電気光学結晶層113)との屈折率差は光ファイバーなどの導波路に比べて大幅に小さい。したがって、大きなパワーを有する光を第1電気光学結晶層11内に閉じこめながら伝搬させるためには、5μm以上の厚みが必要となる。
【0036】
<光変調デバイスの第2実施形態>
図6は本発明にかかる光変調デバイスの第2実施形態を示す図であり、同図(a)は光変調デバイスの斜視図であり、同図(b)〜(d)は光変調デバイスの光変調動作を模式的に示す図である。この第2実施形態が第1実施形態と大きく相違する点は、電気光学結晶層11の断面構成である。すなわち、第1実施形態では電気光学結晶層11の断面が矩形形状であるのに対し、第2実施形態では電気光学結晶層11の断面が円形形状となっている。つまり、第2実施形態では円柱状の電気光学結晶層11が設けられており、上下方向Yから電気光学結晶層11を挟み込むように、電気光学結晶層11と同一材料で構成される電気光学結晶層12、13が配置されるとともに、これら電気光学結晶層12、13が一体化されて結晶部14が構成されている。なお、電気光学結晶基板15の外観形状は第1実施形態と同様に四角柱形状である。また、その他の構成は第1実施形態と同一である。したがって、同一構成については、同一符号を付して説明を省略する(この点については以下の実施形態においても同様である)。
【0037】
このように構成された光変調デバイス1Bにおいては、電気光学結晶層11の円形端面11aに対して光Linが入射されるとともに、第1電極16aおよび第2電極16bに付与される電位を制御することでON状態(同図(b))、中間状態(同図(c)およびOFF状態(同図(d))に切り替えられて3段階の光変調が実行される。したがって、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0038】
<光変調デバイスの第3実施形態>
図7は本発明にかかる光変調デバイスの第3実施形態を示す図であり、同図(a)は光変調デバイスの斜視図であり、同図(b)〜(d)は光変調デバイスの光変調動作を模式的に示す図である。この第3実施形態が第1実施形態と大きく相違する点は、電気光学結晶基板15の構造である。この第3実施形態にかかる光変調デバイス1Cでは、Z方向に延設された四角柱形状の一軸性電気光学結晶層11の上面に電気光学結晶層12が形成される一方、電気光学結晶層11の下面に電気光学結晶層13が形成されている。すなわち、第3実施形態では、電気光学結晶層12、13が方向Yにおいて互いに離間した状態で電気光学結晶層11を上下方向Yから挟み込んだ3層構造を有している。また、これらの電気光学結晶層11〜13は、第1実施形態と同様に、同一材料、例えばLN(LiNbO)やLT(LiTaO)などの一軸性電気光学結晶で構成されているが、電気光学結晶層11の結晶軸方位は図7の端面11a中の矢印で示すように上向きになっている一方、電気光学結晶層12、13の結晶軸方位は図7の端面12a、13a中の矢印で示すように下向きになっている。このように電気光学結晶層11の結晶軸方位と、電気光学結晶層12、13の結晶軸方位とは互いに180゜ずれており、正反対の向きとなっている。なお、その他の構成は第1実施形態と同一である。
【0039】
このように構成された光変調デバイス1Cにおいては、図7(a)に示すように、スラブ状に整形された光Linが電気光学結晶層11の一方端面11aに入射される。そして、第1電極16aおよび第2電極16bに付与される電位を制御することでON状態(同図(b))、中間状態(同図(c)およびOFF状態(同図(d))に切り替えられて3段階の光変調が実行される。したがって、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0040】
<光変調デバイスの第4実施形態>
図8は本発明にかかる光変調デバイスの第4実施形態を示す図であり、同図(a)は光変調デバイスの斜視図であり、同図(b)〜(d)は光変調デバイスの光変調動作を模式的に示す図である。この第4実施形態の特徴は、電気光学結晶基板15の構造と、電極構造である。これらのうち電気光学結晶基板15の構造は、第3実施形態と同様に、電気光学結晶層12、13が方向Yにおいて互いに離間して状態で電気光学結晶層11を上下方向Yから挟み込んだ3層構造となっている。
【0041】
一方、電極構造については、第3実施形態と異なっている。すなわち、この第4実施形態では、光伝搬方向Zおよび上下方向Yの両方に直交する左右方向Xでの電気光学結晶層12の両側面に第1電極16aが形成されるとともに、左右方向Xでの電気光学結晶層13の両側面に第2電極16bが形成されている。なお、その他の構成は第3実施形態と同一である。
【0042】
このように構成された光変調デバイス1Dにおいては、図8(a)に示すように、結晶軸の方向に偏光した異常光線のスラブ状に整形された光Linが電気光学結晶層11の一方端面11aに入射される。そして、第1電極16a、16aおよび第2電極16b、16bに付与される電位を制御することでON状態(同図(b))、中間状態(同図(c)およびOFF状態(同図(d))に切り替えられて3段階の光変調が実行される。したがって、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。また、第4実施形態では、電気光学結晶基板15の側面に電極16a、16bを形成しているため、上下方向Yにおいて光変調デバイス1Dを小型化することができる。
【0043】
<光変調デバイスの第5実施形態>
図9は本発明にかかる光変調デバイスの第5実施形態を示す図である。この光変調デバイス1Eは複数のチャンネルについて独立して光変調を行うことができるものであり、次のように構成されている。この光変調デバイス1Eの電気光学結晶基板15は、厚み5〜100μmの平板状電気光学結晶層11を電気光学結晶層12、13で上下方向Yから挟み込んだ3層構造を有している。また、この第5実施形態においても、第3実施形態および第4実施形態と同様に、電気光学結晶層11〜13は同一の一軸性電気光学結晶で構成されているが、電気光学結晶層11の結晶軸方位は図9の側面中の矢印で示すように上向きになっている一方、電気光学結晶層12、13の結晶軸方位は図9の側面中の矢印で示すように下向きになっている。このように電気光学結晶層11の結晶軸方位と、電気光学結晶層12、13の結晶軸方位とは互いに180゜ずれており、正反対の向きとなっている。
【0044】
このように構成された電気光学結晶基板15の上面(電気光学結晶層12の上面)はXZ平面に平行な水平面に仕上げられている。そして、この上面に複数本(この実施形態では5本)の第1電極16aが一定間隔だけX方向に離間しながら互いに平行に配置されている。この第5実施形態では、各第1電極16aは光伝搬方向Zと平行に、しかも電気光学結晶基板15の(−Z)側端部から(+Z)側端部まで延設されている。また、電気光学結晶基板15の下面(電気光学結晶層13の下面)もXZ平面に平行な水平面に仕上げられるとともに、下面に対して第1電極16aと同数の第2電極16bが第1電極16aと1対1の関係で電気光学結晶基板15を挟んで配置されている。こうして、図9(b)に示すように5組の電極対が形成されており、電気光学結晶基板15には電極16a、16bで挟まれた領域(以下「チャンネル領域」という)がX方向に並んで存在している。したがって、1つのチャンネル領域に着目すると、上面に第1電極16aが配置されるとともに下面に第2電極16bが配置されており、このような構成は第3実施形態の光変調デバイス1Cと同一である。つまり、第5実施形態にかかる光変調デバイス1Eでは、第3実施形態の光変調デバイス1Cと等価な構成がX方向に5つ並設されている。そして、同図(a)に示すように、結晶軸の方向に偏光した異常光線のX方向に延びる断面を有するスラブ状の光Linが電気光学結晶層11の一方端面11aに入射され、チャンネル領域を伝搬する。
【0045】
また、各電極16a、16bは電位付与部17と電気的に接続されており、電位付与部17から電極16a、16bに与える電位を任意に制御可能となっている。例えば図9(b)中の左端に位置するチャンネル領域CR1の上面に配置される第1電極16aに付与される電位がチャンネル領域CR1の下面に配置される第2電極16bに付与される電位よりも高くなるように、これらの電極16a、16bに電位が付与されると、同チャンネル領域CR1では次のように屈折率が分布する。つまり、チャンネル領域CR1において、上下方向Yの中央に位置する電気光学結晶層11の屈折率は同図(d)に示すようにΔneだけ増加し、(n+Δne)となる。一方、チャンネル領域CR1において電気光学結晶層11の上下方向に位置する電気光学結晶層12、13の屈折率は同図(e)に示すようにΔneだけ減少し、(n−Δne)となる。このため、チャンネル領域CR1を伝搬される光Linは電気光学結晶層11に閉じ込められながら光伝搬方向Zにシングルモードで伝搬する。したがって、電気光学結晶層11の他方端面11bから出射される光Loutの強度は同図(c)に示すように比較的高くなる、つまり「ON状態」となる。また、図9(b)中の左端から2番目および3番目に位置するチャンネル領域についてもチャンネル領域CR1と同様に、「ON状態」となる。
【0046】
また、図9(b)中の左端から4番目に位置するチャンネル領域CR4の上面に配置される第1電極16aおよび下面に配置される第2電極16bに対して同電位が付与されると、同チャンネル領域CR4では同図(d)および(e)に示すように電気光学結晶基板15全体が屈折率nとなる。このため、電気光学結晶層11の他方端面11bから出射される光Loutの強度は同図(c)に示すようにON状態よりも低い値となる、つまり「中間状態」となる。
【0047】
さらに、図9(b)中の右端に位置するチャンネル領域CR5の上面に配置される第1電極16aに付与される電位がチャンネル領域CR5の下面に配置される第2電極16bに付与される電位よりも低くなるように、これらの電極16a、16bに電位が付与されると、同チャンネル領域CR5では次のように屈折率が分布する。つまり、チャンネル領域CR5において、上下方向Yの中央に位置する電気光学結晶層11の屈折率は同図(d)に示すようにΔneだけ減少し、(n−Δne)となる。一方、チャンネル領域CR5において電気光学結晶層11の上下方向に位置する電気光学結晶層12、13の屈折率は同図(e)に示すようにΔneだけ増加し、(n+Δne)となる。このため、チャンネル領域CR5を伝搬される光Linは電気光学結晶層12、13に吸い込まれるように広がっていき、電気光学結晶層11の他方端面11bから出射される光Loutの強度は極端に低下し、中間状態よりも光強度は更に低く、ゼロに近くなる、つまり「OFF状態」となる。
【0048】
このように第5実施形態によれば、第1電極16aをX方向において互いに離間して電気光学結晶層12の表面上に5個設けるとともに、第2電極16bをX方向において互いに離間して電気光学結晶層13の表面上に5個設けて、5組の電極対を設けるとともに、各電極対に対して付与する電位を独立して制御している。したがって、各電極対で光変調を独立して行うことができる。つまり、図9に示すように構成された光変調デバイス1Eでは、5チャンネルの空間光変調を行うことが可能となっている。もちろん、各チャンネルとも第3実施形態の光変調デバイス1Cと基本的に構成および動作が共通しているため、第3実施形態と同様の作用効果、つまり高い耐パワー性能と短波長光での光損傷性能が高く、かつ高速な変調が可能であるという作用効果を有している。
【0049】
また、第5実施形態にかかるマルチチャンネルの光変調デバイス1Eでは、隣り合うチャンネル領域に対して特段の制限を設ける必要がないため、チャンネル間の距離を縮めることができ、小型で高密度な多チャンネル駆動が可能となっている。
【0050】
<露光装置>
図10は本発明にかかる光変調デバイスを装備した露光装置の一実施形態を示す図であり、同図(a)はYZ平面における構成を示す図であり、同図(b)は光変調デバイスとアパーチャとの配置関係を示す斜視図である。この露光装置100Aは単一光源部173から出射される光Linを第1実施形態にかかる光変調デバイス1Aによって変調して基板表面などの被露光面ESに照射する装置である。この露光装置100Aは、所定の波長(例えば633nm)の光を出射する半導体レーザなどにより構成された光源部173を有している。この光源部173はコリメータレンズ(図示省略)を有しており、半導体レーザなどから出射される光はコリメータレンズを介して平行光とされて正のパワーを有する単レンズで構成される照明光学系174に入射する。なお、この露光装置100Aでは、光変調デバイス1Aを用いて光変調を行うため、入射させる光Linは直線偏光レーザで偏光面を光変調デバイス1Aの電気光学結晶層11〜13の結晶軸と平行に向かせている。そして、光源部173から出射してきた光Linは照明光学系174を介して光変調デバイス1Aの電気光学結晶層11の一方端面11aに入射する。
【0051】
この露光装置100Aでは、光源部173および光変調デバイス1Aとして具体的に以下の構成を採用している。光源部173の光源として波長λが633nmの直線偏光を発生させるヘリウム−ネオン(He−Ne)レーザを用いている。また、光変調デバイス1Aの電気光学結晶基板15を構成する電気光学結晶層11および結晶部14をLN(LiNbO)で形成している。また、電気光学結晶層11の両端面11a、11bは30μm角であるのに対し、結晶部14の厚みは15μmである。したがって、第1電極16aと第2電極16bとのギャップg(図1(c)参照)は60μmとなっている。また、Z方向における電気光学結晶基板15の長さは20mmである。この電気光学結晶基板15では、第1実施形態と同様に、電気光学結晶層11の結晶軸方位は図10(a)の端面11a中の矢印で示すように上向きで、結晶部14は下向きとなっている。このように、本実施形態では入射光Linに波長633nmのヘリウム−ネオンレーザ光を用いているため、LN結晶のポッケルス定数r33=30.8×10−6(μm/V)で、異常光線の屈折率ne=2.200である。
【0052】
そして、第1電極16aに+5ボルト、第2電極16bに−5ボルトを印加すると、電界は上から下向きにかかる。したがって、数3により屈折率の変化量Δne=2.73×10−5であるため、電気光学結晶層11ではΔneだけ屈折率が増加するのに対し、電気光学結晶層11の周辺部、つまり結晶部14ではΔneだけ屈折率が減少して「ON状態」となり、電気光学結晶層11で入射光Linを導波する。そして、光Linは電気光学結晶層11の端面11bから伝播光Loutとして出射される。また、逆の電圧すなわち第1電極16aに−5ボルト、第2電極16bに+5ボルトを印加すると、屈折率変化の符号は電気光学結晶層11と結晶部14とで逆転し、電気光学結晶層11に入射された光Linは結晶部14へ逃げて非伝播光L′となって電気光学結晶基板15から出射される。
【0053】
光変調デバイス1Aの出射側(図10(a)の右手側)では、光変調デバイス1Aで変調された光Loutを被露光面ESに結像して露光スポットを形成する光学系として結像レンズ176が配置されている。また、光変調デバイス1Aは上記したように電極16a、16bに付与する電位に応じて伝播光Loutと非伝播光L′を出射する。そこで、本実施形態にかかる露光装置100Aでは、光変調デバイス1Aと結像レンズ176との間に、アパーチャ板177が配置されている。このアパーチャ板177の中央部にはアパーチャ177aが形成されており、光変調デバイス1Aから出射される伝播光Loutのみを通過させて非伝播光L′をアパーチャ板177で遮断する。したがって、第1電極16aに+5ボルト、第2電極16bに−5ボルトを印加して光変調デバイス1Aを「ON状態」にしたときに、高い光強度を有する伝播光Loutが被露光面ESに照射される。また、両電極16a、16bを同一電位にして光変調デバイス1Aを「中間状態」にしたときに、「ON状態」よりも低い光強度の伝播光Loutが被露光面ESに照射される。さらに、第1電極16aに−5ボルト、第2電極16bに+5ボルトを印加して光変調デバイス1Aを「OFF状態」にしたときには電気光学結晶層11に入射された光Linの大部分は結晶部14の端面から非伝播光L′として出射されるとともに、アパーチャ板177で遮蔽されて被露光面ESへの伝播光Loutの照射量はゼロとなる。
【0054】
以上のように、高い耐パワー性能を有する光変調デバイス1Aを用いることで、光源部173に比較的高いパワーの光源を用いることができ、露光効率を高めることができる。また、光変調デバイス1Aは短波長光での光損傷性能が高いため、露光装置100Aで使用することができる波長範囲が広がり、汎用性に優れている。さらに、10V程度の電位差によって光変調を行うことができるため、変調速度を高めて露光効率をさらに高めることができる。
【0055】
また、上記露光装置100Aで採用している光変調デバイス1Aは、従来の光変調デバイス、例えば非特許文献1に記載の装置における変調原理と大きく異なり、波長依存性が少ない。そのため、互いに波長が異なる複数の光をまとめて光変調デバイス1Aに入射することで、これらの光を一度に変調することができる。また、光変調デバイス1Aでは波長範囲(半値幅)の広いブロードな光についても良好に光変調することができるため、このような光を用いて露光処理を行う露光装置に対しても、良好に適用することができる。
【0056】
また、露光装置100Aでは、光変調デバイス1Aを用いて光変調しているが、図6〜図8に示す光変調デバイス1B〜1Dを用いても同様の作用効果が得られる。また、露光装置100Aは単一光によって露光処理を行っているが、光源部173と光変調デバイス1A(または1B〜1D)との組み合わせを複数個設けることで露光処理の効率をさらに高めることができる。また、多チャンネルの光変調デバイス1Eを用いることで単一光源でありながら、マルチ露光を行うことも可能である。以下、図11ないし図14を参照しながら露光装置の他の実施形態について説明する。
【0057】
図11は本発明にかかる光変調デバイスを装備した露光装置の他の実施形態を示す図であり、図12は図11に示す露光装置の本体部を示す斜視図であり、図13は図11の露光装置の電気的構成を示すブロック図である。この露光装置100Bは、感光材料が表面に付与された半導体基板やガラス基板等の基板Wの表面に光を照射してパターンを描画する装置であり、光を上記第5実施形態にかかるマルチチャンネルの光変調デバイス1Eを用いて光変調し、その変調された光を用いてパターンを描画する。以下、露光装置100Bの全体構成を説明した後で、光変調デバイス1Eを用いて光を変調するための構成および動作について詳述する。
【0058】
この露光装置100Bでは、本体フレーム101に対してカバー102が取り付けられて形成される本体内部に装置各部が配置されて本体部が構成されるとともに、本体部の外側(本実施形態では、図11に示すように本体部の右手側)に基板収納カセット110が配置されている。この基板収納カセット110には、露光処理を受けるべき未処理基板Wが収納されており、本体内部に配置される搬送ロボット120によって本体部にローディングされる。また、未処理基板Wに対して露光処理(パターン描画処理)が施された後、当該基板Wが搬送ロボット120によって本体部からアンローディングされて基板収納カセット110に戻される。
【0059】
この本体部では、図11および図12に示すように、カバー102に囲まれた本体内部の右手端部に搬送ロボット120が配置されている。また、この搬送ロボット120の左手側には基台130が配置されている。この基台130の一方端側領域(図11および図12の右手側領域)が、搬送ロボット120との間で基板Wの受け渡しを行う基板受渡領域となっているのに対し、他方端側領域(図11および図12の左手側領域)が基板Wへのパターン描画を行うパターン描画領域となっている。この基台130上では、基板受渡領域とパターン描画領域の境界位置にヘッド支持部140が設けられている。このヘッド支持部140では、基台130から上方に2本の脚部材141、142が立設されるとともに、それらの脚部材141、142の頂部を橋渡しするように梁部材143が横設されている。そして、図11に示すように、梁部材143のパターン描画領域側側面にカメラ(撮像部)150が固定されてステージ160に保持された基板Wの表面(被描画面、被露光面)を撮像可能となっている。
【0060】
このステージ160は基台130上でステージ移動機構161によりX方向、Y方向ならびにθ方向に移動される。すなわち、ステージ移動機構161は基台130の上面にY軸駆動部161Y(図13)、X軸駆動部161X(図13)およびθ軸駆動部161T(図13)をこの順序で積層配置したものであり、ステージ160を水平面内で2次元的に移動させて位置決めする。また、ステージ160をθ軸(鉛直軸)回りの回転させて後述する光学ヘッド170に対する相対角度を調整して位置決めする。なお、このようなステージ移動機構161としては、従来より多用されているX−Y−θ軸移動機構を用いることができる。
【0061】
また、このように構成されたヘッド支持部140のパターン描画領域側で光学ヘッド170が上下方向に移動自在に取り付けられており、露光制御部181からの動作指令に応じてヘッド移動機構171が作動することで後述するステージ160に保持される基板Wとの距離を高精度に調整可能となっている。なお、光学ヘッド170は上記第5実施形態にかかる光変調デバイス1Eを装備して基板Wに対して光を照射して露光するものであり、その構成および動作については後で詳述する。
【0062】
また、基台130の反基板受渡側端部(図11および図12の左手側端部)においても、2本の脚部材144が立設されている。そして、この梁部材143と2本の脚部材144の頂部を橋渡しするように光学ヘッド170の照明光学系を収納したボックス172が設けられており、基台130のパターン描画領域を上方から覆っている。したがって、露光装置100Bが設置されるクリーンルーム内に供給されているダウンフローを本体内部に引き入れたとしても、パターン描画領域にダウンフローが供給されない空間SPが形成される。
【0063】
そこで、本実施形態にかかる露光装置100Bでは、上記空間SPの反搬送ロボット側にステージ160と光学ヘッド170のボックス172とに挟まれた空間SPに向けて温調された気体を吹き出す気体吹出部190が配置されている。この実施形態では、本体部の左手側壁を構成するカバー102を貫通するように2つの気体吹出部190が上下に取り付けられている。これらの気体吹出部190は空調器191に接続されており、露光制御部181から指令に応じて作動して空調器191で温調された空気を空間SPに向けて吹き出す。これによって、気体吹出部190から吹き出された温調気体が横向きに流れて空間SPを通過する。これによって上記空間SPの雰囲気が入替えられてパターン描画領域での温度変化が抑制される。また、このように上記空間SPを通過した空気は搬送ロボット120に流れ込むが、この実施形態では、搬送ロボット120の下方部に排気口192が設けられるとともに、排気口192が配管193を介して空調器191に接続されている。したがって、排気口192を設けたことで搬送ロボット120を取り囲む雰囲気は排気されて同雰囲気内で下向きの気流、つまりダウンフローが形成される。したがって、搬送ロボット120でパーティクルが舞い上がり散乱するのが効果的に防止される。
【0064】
次に光学ヘッド170の構成および動作について説明する。この実施形態では、光学ヘッド170は上記したようにヘッド支持部140に対して上下方向Zに移動自在に取り付けられており、光学ヘッド170の直下位置で移動している基板Wに対して光を落射することでステージ160に保持された基板Wを露光してパターンを描画する。なお、本実施形態では、光学ヘッド170はX方向に複数チャンネルで光を同時に照射可能となっており、X方向が「副走査方向」に相当している。また、ステージ160をY方向に移動させることで基板Wに対してパターンを2次元的に描画することが可能となっており、Y方向が「主走査方向」に相当している。
【0065】
図14は光学ヘッドの内部構成を簡略化して示す図であり、同図(a)は光学ヘッド170の光軸OAおよび副走査方向Xに沿って光学ヘッド170を上方から見た場合の光学ヘッド170の内部構成を示し、同図(b)は主走査方向Yに沿って側方から光学ヘッド170側を見た場合の光学ヘッド170の内部構成を示している。
【0066】
図14に示す光学ヘッド170は、所定の波長の光を出射する半導体レーザなどにより構成された光源部173を有している。この光源部173はコリメータレンズ(図示省略)を有しており、半導体レーザなどから出射される光はコリメータレンズを介して平行光とされて照明光学系174に入射する。
【0067】
この照明光学系174は3枚のシリンドリカルレンズ174a〜174cにより構成されており、光源部173から出射してきた光Linはシリンドリカルレンズ174a〜174cの順で通過して光変調デバイス1Eの電気光学結晶層11の一方端面11aに入射する。これらのうちシリンドリカルレンズ174aはX方向にのみ負のパワーを有しており、シリンドリカルレンズ174aを通過した光は光軸OAに垂直な光束断面が円形から次第にX方向に長い楕円形へと変化する。一方、光軸OAおよびX方向に垂直なY方向に関して、シリンドリカルレンズ174aを通過した光Linの光束断面の幅は(ほぼ)一定とされる。
【0068】
また、シリンドリカルレンズ174bはX方向にのみ正のパワーを有しており、シリンドリカルレンズ174aを通過した光Linはシリンドリカルレンズ174bによりビーム整形される。つまり、シリンドリカルレンズ174bを通過した光Linは、光束断面がX方向に長い一定の大きさの楕円形とされてシリンドリカルレンズ174cへと入射する。
【0069】
このシリンドリカルレンズ174cは、Y方向にのみ正のパワーを有し、Y方向のみに着目した場合には、図14(b)に示すように、シリンドリカルレンズ174cを通過した光Linは集光しつつ電気光学結晶層11の一方端面11aへと入射する。また、X方向に関しては、図14(a)に示すように、シリンドリカルレンズ174cからの光Linは平行光として電気光学結晶層11の一方端面11aに入射する。なお、光変調デバイス1Eの構成および動作については既に説明しているため、ここでは説明を省略する。
【0070】
光変調デバイス1Eの出射側(図14の右手側)では、スリット板178、Y方向にのみ正のパワーを有するシリンドリカルレンズ175およびシュリーレン光学系176がこの順序で配置されている。
【0071】
図15はスリット板の斜視図である。このスリット板178の中央部には、電気光学結晶層11の端面11bから出射される伝播光Loutのみを通過させるスリット178aが設けられている。一方、電気光学結晶層11中を導波できない光(非導波光)、つまり非伝播光L′については、図14(b)の破線で示すように、結晶部14の端面から出射され、スリット板178で遮蔽される。したがって、伝播光Loutのみがシリンドリカルレンズ175に入射される。
【0072】
このシリンドリカルレンズ175はY方向にのみ正のパワーを有しており、光変調デバイス1Eの電気光学結晶層11の他方端面11bから出射される伝播光Loutを図14(b)に示すように、
シリンドリカルレンズ175にてY方向に関してほぼ平行な光とされ、シュリーレン光学系176に入射する。このシュリーレン光学系176はレンズ176a、アパーチャ176b1を有するアパーチャ板176b、レンズ176cで構成されており、伝播光Loutはアパーチャ176b1をすり抜けて基板Wの表面に達する。なお、この実施形態では、アパーチャ板176bを設けているが、これは必須構成ではなく、アパーチャ板176bを省略してもよい。
【0073】
このように本実施形態では、非伝播光L′についてはスリット板178で遮蔽する一方、電極対毎に電位を制御することにより変調された伝播光Loutについては基板Wの表面(被露光面)に照射される。このようにして5チャンネルの各々について光変調が行われる。例えば図9(b)で示したように各電極16a、16bに付与する電位を制御することで第1ないし第3チャンネルを「ON状態」にした場合、電気光学結晶層11のうち、これらのチャンネルに対応する領域で光Linが導波されて電気光学結晶層11の他方端面11bから出射されて基板Wの表面に照射される。その結果、第1ないし第3チャンネルに対応してスポット状に露光される。また、図9(b)では第4チャンネルについては「中間状態」となっているため、第4チャンネルに対応する電気光学結晶層11の他方端面11bから光Loutが出射されて基板Wの表面に照射される。ただし、その光量は僅かであるため、図14(a)では第1ないし第3チャンネルの露光位置を黒丸のスポットで図示する一方、第4チャンネルの露光位置を梨地模様のスポットで図示して第4チャンネルでの露光光量が第1ないし第3チャンネルでの露光光量より低いことを図示している。さらに、図9(b)では第5チャンネルについては「OFF状態」となっているため、チャンネルに対応する電気光学結晶層11の他方端面11bから光Loutがほとんど出射されないため、第5チャンネルに対応するスポットは形成されない。
【0074】
このように、本実施形態では、レンズ176a、アパーチャ板176bおよびレンズ176cにより、いわゆるシュリーレン光学系176を構成している。このシュリーレン光学系176は両側テレセントリック光学系と同等の配置であり、図14に示すように、複数のチャンネルを有する光学ヘッド170で基板Wに露光する場合にも、その露光面(基板Wの表面)に対して各チャンネルの伝播光Loutは垂直であり、露光面(基板Wの表面)のピント方向Zの変動に対して倍率の変化を受けない。その結果、高精度な露光が可能となる。
【0075】
なお、上記のように構成された露光装置100Bは装置全体を制御するためにコンピュータ200を有している。このコンピュータ200はCPUやメモリ201等を有しており、露光制御部181とともに電装ラック(図示省略)内に配置されている。また、コンピュータ200内のCPUが所定のプログラムに従って演算処理することにより、ラスタライズ部202、伸縮率算出部203、データ修正部204およびデータ生成部205が実現される。例えば1つのLSIに相当するパターンのデータは外部のCAD等により生成されたデータであり、予めLSIデータ211としてメモリ201に準備されており、当該LSIデータ211に基づき次のようにしてLSIのパターンが基板W上に描画される。
【0076】
ラスタライズ部202は、LSIデータ211が示す単位領域を分割してラスタライズし、ラスタデータ212を生成してメモリ201に保存する。こうしてラスタデータ212の準備後、または、ラスタデータ212の準備と並行して、上記のようにしてカセットCSに収納されている未処理の基板Wが搬送ロボット120により搬出されてステージ160に載置される。
【0077】
その後、ステージ移動機構161によりステージ160がカメラ150の直下位置に移動して基板W上の各アライメントマーク(基準マーク)を順番にカメラ150の撮像可能位置に位置決めし、カメラ150によるマーク撮像が実行される。カメラ150から出力される画像信号は電装ラック内の画像処理回路により処理され、アライメントマークのステージ160上の位置が正確に求められる。そして、これらの位置情報に基づきθ軸駆動部161Tが作動してステージ160を鉛直軸回りに微小回転させて基板Wへのパターン描画に適した向きにアライメント(位置合わせ)される。ここで、ステージ160を光学ヘッド170の直下位置に移動させた後で当該アライメントを行ってもよい。
【0078】
図13に示す伸縮率算出部203は、画像処理回路にて求められた基板W上のアライメントマークの位置、および基板Wの向きの修正量を取得し、アライメント後のアライメントマークの位置、並びに、主走査方向Yおよび副走査方向Xに対する基板Wの伸縮率(すなわち、主面の伸縮率)を求める。
【0079】
一方、データ修正部204はラスタデータ212を取得し、伸縮の検出結果である伸縮率に基づいてデータの修正を行う。なお、このデータ修正については、例えば特許第4020248号に記載の方法を採用することができ、1つの分割領域のデータ修正が終了すると、修正後のラスタデータ212がデータ生成部205へと送られる。データ生成部205では、変更後の分割領域に対応する描画データ、すなわち、1つのストライプに相当するデータが生成される。
【0080】
こうして生成された描画データは、データ生成部205から露光制御部181へと送られ、露光制御部181が電位付与部17、ヘッド移動機構171およびステージ移動機構161の各部を制御することにより1ストライプ分の描画が行われる。なお、露光動作については上記したとおり電位付与部17により電極16a、16bに付与する電位制御により行われる。1つのストライプに対する露光記録が終了すると、次の分割領域に対して同様の処理が行われ、ストライプごとの描画が繰り返される。こうして、基板W上の全ストライプの描画が終了して基板Wの表面への所望パターンの描画が完了すると、ステージ160は描画済み基板Wを載置したまま基板受渡位置に移動した後、搬送ロボット120により基板WがカセットCSへと戻され、次の基板Wが取り出されて上記したと同様の一連の処理が繰り返される。さらに、カセットCSに収納されている全ての基板Wに対するパターン描画が終了すると、カセットCSが露光装置100Bから搬出される。
【0081】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば上記第1ないし第4実施形態では、電気光学結晶層12、13の表面全体や側面全体に電極を形成している。また、第5実施形態では、第1電極16aおよび第2電極16bを電気光学結晶基板15の(−Z)側端部から(+Z)側端部まで延設している。しかしながら、電極16a、16bの形成範囲はこれに限定されるものではない。
【0082】
また、図11に示す実施形態では、本発明にかかる光変調デバイスを装備した光学ヘッド170にヘッド移動機構171を設けて基板Wと光学ヘッド170との距離を調整しているが、ステージ移動機構161に昇降駆動部を設けて上記距離を調整可能としてもよい。また、上記光学ヘッド170に対して基板Wを相対移動させる構成は上記実施形態に限定されるものではない。つまり、光変調デバイス1Eから出射される複数の光Loutをステージ160に保持された基板Wに照射する位置を基板Wに対して相対的に移動しつつ描画(LSI)データに応じて光変調デバイス1Eを制御してパターンを描画するパターン描画装置全般に本発明を適用することができる。
【0083】
また、パターンを描画する記録材料は、プリント配線基板や半導体基板等の感光性材料が塗布された、あるいは、感光性を有する他の材料であってもよく、光の照射による熱に反応する材料であってもよい。
【0084】
さらに、上記のように構成された光変調デバイス1A〜1Eはパターン描画以外の用途に用いられてもよく、この場合、光の照射の対象物も記録材料以外であってもよい。
【符号の説明】
【0085】
1A〜1E…光変調デバイス
11…第1電気光学結晶層
12…第2電気光学結晶層
13…第4電気光学結晶層
11a…(第1電気光学結晶層の)一方端面
11b…(第1電気光学結晶層の)他方端面
15…電気光学結晶基板
16a…第1電極
16b…第2電極
17…電位付与部
100A、100B…露光装置
173…光源部
175…シリンドリカルレンズ(光学系)
176…シュリーレン光学系、結像レンズ(光学系)
Lin…入射光
Lout…伝播光
L′…非伝播光
W…基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方端面から内部に入射される光を第1方向に導光して他方端面から出射させる第1電気光学結晶層を、前記第1電気光学結晶層と異なる結晶軸方位を有する第2電気光学結晶層および第3電気光学結晶層で前記第1方向に対して直交する第2方向から挟み込むように構成される電気光学結晶基板と、
前記第2電気光学結晶層の表面に設けられる第1電極と、
前記第3電気光学結晶層の表面に設けられる第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極とに付与する電位を制御して前記入射光に対する前記第1電気光学結晶層、前記第2電気光学結晶層および前記第3電気光学結晶層の屈折率を変化させて前記他方端面から出射される光の強度を変化させる電位付与部と
を備えることを特徴とする光変調デバイス。
【請求項2】
前記第2電気光学結晶層および前記第3電気光学結晶層は一体的に形成されて結晶部を構成し、前記第1方向に対する断面において前記結晶部で前記第1電気光学結晶層を取り囲む請求項1に記載の光変調デバイス。
【請求項3】
前記第2電気光学結晶層および前記第3電気光学結晶層は前記第2方向において互いに離間して形成される請求項1に記載の光変調デバイス。
【請求項4】
前記第1電気光学結晶層の結晶軸方位と、前記第2電気光学結晶層および前記第3電気光学結晶層の結晶軸方位とは、互いに180゜ずれている請求項1ないし3のいずれか一項に記載の光変調デバイス。
【請求項5】
前記第1電気光学結晶層の結晶軸方位と、前記第2電気光学結晶層および前記第3電気光学結晶層の結晶軸方位とは、前記第2方向に平行な方位である請求項4に記載の光変調デバイス。
【請求項6】
前記第1電気光学結晶層、前記第2電気光学結晶層および前記第3電気光学結晶層は同一種類の結晶である請求項1ないし5のいずれか一項に記載の光変調デバイス。
【請求項7】
前記第1方向における前記第1電気光学結晶層の長さは1mm以上50mm以下であり、前記第2方向における前記第1電気光学結晶層の厚みは5μm以上100μm以下である請求項1ないし6のいずれか一項に記載の光変調デバイス。
【請求項8】
前記第2電気光学結晶層は前記第2方向と直交する第1表面を有するとともに、前記第3電気光学結晶層は前記第2方向と直交する第2表面を有し、
前記第1電極が前記第1方向および前記第2方向に直交する第3方向において互いに離間して前記第1表面上にn(n≧2)個設けられるとともに、前記第2電極が前記第3方向において互いに離間して前記第2表面上にn個設けられて、前記第1電気光学結晶層を挟んで互いに対向する前記第1電極と前記第2電極とにより構成される電極対がn組設けられ、
前記電位付与部は前記n組の電極対に対して付与する電位を独立して制御する請求項1ないし7のいずれか一項に記載の光変調デバイス。
【請求項9】
前記n個の第1電極および前記n個の第2電極は前記第1方向と平行に延設されている請求項8に記載の光変調デバイス。
【請求項10】
被露光面に光を照射して露光する露光装置であって、
請求項1ないし9のいずれか一項に記載の光変調デバイスと、
前記第1電気光学結晶層の一方端面に光を入射させる光源部と、
前記光変調デバイスにより変調されて前記第1電気光学結晶層の他方端面から出射される変調光を前記被露光面に導く光学系と
を備えたことを特徴とする露光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−197554(P2011−197554A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66602(P2010−66602)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】