説明

工作機械における主軸回転速度のモニタ方法及びモニタ装置、工作機械

【課題】主軸の回転速度を変動させるための設定値が容易に選択でき、びびり振動の抑制に最適な加工条件を見出すことができるようにする。
【解決手段】モニタ装置において、変動値設定部のモニタに、回転速度の変動振幅と変動周期との関係を示すグラフを表示し、そのグラフに現在の変動位置(第1点)を黒丸のマーカーで表示すると共に、所定の式に基づいてモータの変動周期の電力限界線Lを作成してグラフ上に表示して、電力限界線L以下の範囲内で、現在の変動位置よりも変動振幅が大きく、且つ変動周期が短くなる新たな変動位置を算出して、新たな変動位置(第2点)を、現在の変動位置からの変更を案内する矢印Aと共にグラフに表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具又はワークを装着してモータ駆動する主軸と、その主軸の回転速度を任意のパターンで連続的に変動させる回転速度変動手段とを備えた工作機械において、表示部によって回転速度変動手段による回転速度の変動状態を監視するモニタ方法及びモニタ装置と、当該モニタ装置を備えた工作機械とに関する。
【背景技術】
【0002】
工具又はワークを装着してモータ駆動する主軸を備えた工作機械により切削加工を行った場合に、工具またはワークの剛性が低いといわゆる「びびり振動」が発生することがある。びびり振動が発生すると、工具が欠損したり、ワークの表面精度を悪化させるなどの問題が生じる。このびびり振動は加工面に生じた1回転前の起伏と、現在の切削による振動との間に位相遅れが生じることにより、ワークの切取り厚さが変動し振動が拡大していくものである。
このびびり振動を抑制する技術として、特許文献1及び特許文献2の対策が提案されている。特許文献1及び特許文献2に記載の技術は、主軸の回転速度を所定の変動振幅と変動周期とで変動させて、切り取り厚さの変動による力の入力を不規則にしてびびり振動を抑制しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭49−105277号公報
【特許文献2】実公昭61−3522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載の方法は、回転速度を変動させるために変動振幅と変動周期との2つの値を設定する必要があるため、どちらの値を変えたらよいかが不明であり、オペレータには判断が難しいという問題を有していた。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、主軸回転速度を任意のパターンで連続的に変動させる回転速度変動手段を備えた工作機械において、回転速度を変動させるための設定値が容易に選択でき、びびり振動の抑制に最適な加工条件を見出すことができる工作機械における主軸回転速度のモニタ方法及びモニタ装置、そして工作機械を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、工具又はワークを装着してモータ駆動する主軸と、その主軸の回転速度を任意のパターンで連続的に変動させる回転速度変動手段とを備えた工作機械において、表示部によって前記回転速度変動手段による前記回転速度の変動状態を監視するモニタ方法であって、
前記回転速度の変動振幅と変動周期との関係を示す変動図を前記表示部に表示する作図ステップと、前記変動図に現在の変動位置を表示する第1の表示ステップと、以下の式(1)に基づいて前記モータの変動周期の電力限界線を作成して前記変動図上に表示する電力限界線表示ステップと、を実行することを特徴とする。
【0007】
【数1】

【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、前記電力限界線以下の範囲内で、現在の変動位置よりも前記変動振幅が大きく、及び/又は前記変動周期が短くなる新たな変動位置を算出する変動位置算出ステップと、前記新たな変動位置を、前記現在の変動位置からの変更を案内する案内表示と共に前記変動図に表示する第2の表示ステップと、をさらに実行することを特徴とする。
【0009】
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、工具又はワークを装着してモータ駆動する主軸と、その主軸の回転速度を任意のパターンで連続的に変動させる回転速度変動手段とを備えた工作機械において、表示部によって前記回転速度変動手段による前記回転速度の変動状態を監視するモニタ方法であって、
前記回転速度の変動振幅と角加速度との関係を示す変動図を前記表示部に表示する作図ステップと、前記変動図に現在の変動位置を表示する第1の表示ステップと、以下の式(1)に基づいて前記モータの変動周期の電力限界線を作成して前記変動図上に表示する電力限界線表示ステップと、を実行することを特徴とする。
【0010】
【数2】

【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3の構成において、前記電力限界線以下の範囲内で、現在の変動位置よりも前記変動振幅が大きく、及び/又は前記角加速度が大きくなる新たな変動位置を算出する変動位置算出ステップと、前記新たな変動位置を、前記現在の変動位置からの変更を案内する案内表示と共に前記変動図に表示する第2の表示ステップと、をさらに実行することを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項2又は4の構成において、前記新たな変動位置を、前記現在の変動位置と変動振幅が同一となる前記電力限界線上の位置としたことを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項2又は4の構成において、前記新たな変動位置を、前記電力限界線上で前記変動振幅が最大となる位置としたことを特徴とする。
【0012】
上記目的を達成するために、請求項7に記載の発明は、工具又はワークを装着してモータ駆動する主軸と、その主軸の回転速度を任意のパターンで連続的に変動させる回転速度変動手段とを備えた工作機械において、表示部を備えて前記回転速度変動手段による前記回転速度の変動状態を監視するモニタ装置であって、
前記回転速度の変動振幅と変動周期との関係を示す変動図を前記表示部に表示する作図手段と、前記変動図に現在の変動位置を表示する第1の表示手段と、以下の式(1)に基づいて前記モータの変動周期の電力限界線を作成して前記変動図上に表示する電力限界線表示手段と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
【数1】

【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項7の構成において、前記電力限界線以下の範囲内で、現在の変動位置よりも前記変動振幅が大きく、及び/又は前記変動周期が短くなる新たな変動位置を算出する変動位置算出手段と、前記新たな変動位置を、前記現在の変動位置からの変更を案内する案内表示と共に前記変動図に表示する第2の表示手段と、をさらに備えたことを特徴とする。
【0015】
上記目的を達成するために、請求項9に記載の発明は、工具又はワークを装着してモータ駆動する主軸と、その主軸の回転速度を任意のパターンで連続的に変動させる回転速度変動手段とを備えた工作機械において、表示部を備えて前記回転速度変動手段による前記回転速度の変動状態を監視するモニタ装置であって、
前記回転速度の変動振幅と角加速度との関係を示す変動図を前記表示部に表示する作図手段と、前記変動図に現在の変動位置を表示する第1の表示手段と、以下の式(1)に基づいて前記モータの変動周期の電力限界線を作成して前記変動図上に表示する電力限界線表示手段と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
【数2】

【0017】
請求項10に記載の発明は、請求項9の構成において、前記電力限界線以下の範囲内で、現在の変動位置よりも前記変動振幅が大きく、及び/又は前記角加速度が大きくなる新たな変動位置を算出する変動位置算出手段と、前記新たな変動位置を、前記現在の変動位置からの変更を案内する案内表示と共に前記変動図に表示する第2の表示手段と、をさらに備えたことを特徴とする。
請求項11に記載の発明は、請求項8又は10の構成において、前記新たな変動位置を、前記現在の変動位置と変動振幅が同一となる前記電力限界線上の位置としたことを特徴とする。
請求項12に記載の発明は、請求項8又は10の構成において、前記新たな変動位置を、前記電力限界線上で前記変動振幅が最大となる位置としたことを特徴とする。
【0018】
上記目的を達成するために、請求項13に記載の発明は、工具又はワークを装着してモータ駆動する主軸と、その主軸の回転速度を任意のパターンで連続的に変動させる回転速度変動手段とを備えた工作機械であって、請求項7乃至12の何れかに記載の主軸回転速度のモニタ装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1,3及び7,9,13に記載の発明によれば、変動振幅と変動周期との2つの設定値があっても、オペレータは変動図上の現在の変動位置と電力限界線とに基づいて、主軸の回転速度を変動させるための設定値を容易に選択できる。
請求項2,4及び8,10に記載の発明によれば、上記効果に加えて、新たな変動位置の算出と案内表示とにより、びびり振動の抑制に最適な加工条件を迅速且つ簡単に見出すことができる。
請求項5及び11に記載の発明によれば、上記効果に加えて、変動周期が短いため、びびり抑制効果が大きく、また、変動振幅が同一であるため、切削速度の最大値と最小値の差は変わらず、切削速度の違いから生じる表面精度の悪化を最小限にすることができる。
請求項6及び12に記載の発明によれば、びびり振動の大きな抑制効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】NC旋盤の概略構成図である。
【図2】主軸回転速度の変動例を示す説明図である。
【図3】モニタ方法のフローチャートである。
【図4】形態1のモニタ表示を示す説明図である。
【図5】主軸回転速度の変動による実験結果の説明図である。
【図6】形態1のモニタ表示の変更例を示す説明図である。
【図7】形態2のモニタ表示を示す説明図である。
【図8】形態2のモニタ表示の変更例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[形態1]
図1は、工作機械の一例であるNC旋盤1の概略構成図である。NC旋盤1において、主軸台2には、チャック4と爪5とを介してワークWを把握する主軸3が回転自在に軸支され、主軸台2の内部には、主軸3を回転駆動するモータ6と、主軸台2に固定されて主軸3の回転速度を検出するエンコーダ7とが内蔵されている。
8は、モータ6とエンコーダ7とに接続される主軸制御部、9は主軸制御部8に回転速度を指令するNC装置で、主軸制御部8は、エンコーダ7から検出される主軸3の回転速度を常時監視しながら、NC装置9から指令された回転速度で主軸3を回転させるよう、モータ6に供給する入力電力を調整している。
【0022】
また、NC装置9には、加工プログラム等を記憶する記憶部10と、表示部としてのモニタ12を備えた変動値設定部11が接続されている。NC装置9は、記憶部10に記憶された加工プログラムに従い、主軸3を回転させながら図示しない工具をワークWの回転軸方向及び半径方向に送り移動させることで、切削加工を行なうものである。
さらに、ここでは入力手段を備えるモニタ12から変動値設定部11に主軸3の回転速度とその変動振幅及び変動周期とを入力することにより、NC装置9及び主軸制御部8を介して、図2に示すように主軸3の回転速度を指定した変動振幅及び変動周期で変動させることができるようになっている。よって、NC装置9、変動値設定部11が回転速度変動手段となり、これに記憶部10及びモニタ12を加えてモニタ装置13を形成している。
【0023】
このモニタ装置13による主軸回転速度のモニタ方法を図3のフローチャートで説明する。
まずS1で変動値設定部11に変動振幅及び変動周期を入力すると、S2では、図4に示す変動図を作成してモニタ12に表示する(第1の表示ステップ)。ここでは回転速度を変動させるための変動振幅を縦軸にとり、変動周期を横軸にとった変動振幅−変動周期のグラフとして表示されている。併せてこのグラフには、現在の変動振幅−変動周期の設定値(現在の変動位置)が第1点として黒丸のマーカーで表示されている。オペレータは、当該グラフ上の任意の位置を直接ポイント、或いは図示しないテンキー等によって変動振幅と変動周期との数値をそれぞれ入力することで、変動振幅と変動周期との各設定値を変更可能となっている。
【0024】
次に、S3ではグラフに電力限界線Lが表示される(電力限界線表示ステップ)。モータ6は過大な電流を流すと発熱し破損してしまうため、入力電力の上限が規定されている。そのため、回転速度の変動振幅を大きく、変動周期を小さく設定しても、設定した値で変動できない場合がある。そこで、変動値設定部11では、下記の式(1)によってモータ6の最大入力電力から決まる変動可能な変動振幅と変動周期の限界線、すなわち変動周期の電力限界線Lを算出してグラフ上に表示するようにしている。この電力限界線Lよりも右側の範囲では設定値どおりに回転速度を変動できることを表している。式(1)はモータ6の最大入力電力から、切削及び、または主軸回転の摩擦等による損失を減算した電力を主軸回転速度の変動に利用できることを表している。
【0025】
【数1】

【0026】
一方、背景技術で説明したように、主軸3の回転速度を変動させるとびびり振動の抑制効果が得られることはよく知られている。図5は主軸3の回転速度を変動させて切削加工を行った時の実験結果で、この図から、変動周期は短く、変動振幅は大きい方が、びびり振動の抑制効果が大きいことがわかる。
そこで、S4で、変動値設定部11は、現在の変動位置である第1点に加えて、変動周期の電力限界線の右側の範囲内で、第1点よりも変動周期が短く、且つ変動振幅が大きい新たな変動位置を算出し(変動位置算出ステップ)、得られた変動位置を第2点としてグラフ上に白丸のマーカーで表示すると共に、案内表示として、第1点から第2点へ向かう矢印Aも表示するようにしている(第2の表示ステップ)。また、ここではグラフの右側に第2点の数値を推奨値として表示している。
【0027】
従って、オペレータは、グラフに表示される矢印A及び第2点を参考にびびり振動を抑制できる可能性が高い新たな変動位置を容易に設定することができる。
なお、この第2点の算出は、例えば第1点の位置から予め設定された勾配で短い周期側と大きい振幅側へ延びる直線を算出し、その直線と電力限界線Lとの交点から、予め設定された余裕度を加味して電力限界線Lの内側で決定したり、第1点から予め設定された割合で変動振幅及び変動周期が変更される複数の変動位置を算出し、得られた変動位置から電力限界線L以下で最も電力限界線Lに近い変動位置を選択したりすればよい。
【0028】
このように、上記形態1の主軸回転速度のモニタ装置13によれば、変動値設定部11が、回転速度の変動振幅と変動周期との関係を示すグラフをモニタ12に表示する作図手段と、グラフに現在の変動位置(第1点)を表示する第1の表示手段と、式(1)に基づいてモータ6の変動周期の電力限界線Lを作成してグラフ上に表示する電力限界線表示手段と、電力限界線L以下の範囲内で、現在の変動位置よりも変動振幅が大きく、及び変動周期が短くなる新たな変動位置(第2点)を算出する変動位置算出手段と、新たな変動位置を、現在の変動位置からの変更を案内する矢印Aと共にグラフに表示する第2の表示手段として上記モニタ方法を実行することで、変動振幅と変動周期との2つの設定値があっても、オペレータは回転速度を変動させるための設定値を容易に選択できる。よって、びびり振動の抑制に最適な加工条件を迅速且つ簡単に見出すことができる。
【0029】
なお、上記形態1では、変動振幅と変動周期とを共に変更した第2点を算出して案内しているが、変動振幅を一定として変動周期のみを短く変更する案内を行なうこともできる。例えば図6に示すように、第1点と同一の変動振幅で変動周期の電力限界線L上の点を第3点とし、第1点から第3点へ導く案内の矢印Aを表示すると共に、第3点の数値を推奨値として表示するものである。ここで、第3点の変動周期は、式(1)を変形して、第1点の変動振幅を代入して求めることができる。
このように、新たな変動位置を、現在の変動位置と変動振幅が同一となる電力限界線上の位置とすれば、変動周期が短いため、びびり抑制効果が大きく、また、変動振幅が同一であるため、切削速度の最大値と最小値の差は変わらず、切削速度の違いから生じる表面精度の悪化を最小限にすることができる。
【0030】
但し、図6では、第3点でびびり振動が抑制できなかった場合のために、次の案内の矢印も表示している。すなわち、変動周期の電力限界線Lと最大変動振幅との交点を第4点とし、第3点から第4点へ向かう案内の矢印Bを表示するもので、第4点の変動周期は、式(1)を変形して、最大変動振幅の値を代入して求められる。第4点を第3点と比較すると、切削速度の差は大きくなり加工面の悪化の可能性があるが、変動振幅が大きいため、びびり振動を抑制する効果が大きい。なお、直ちにびびり振動の抑制効果を得るため、第3点を省略して、第1点を始点とし第4点を終点とする矢印を表示してもよい。
このように、新たな変動位置を、電力限界線L上で変動振幅が最大となる位置とすれば、びびり振動の大きな抑制効果が期待できる。
【0031】
[形態2]
次に、本発明の他の形態を説明する。但し、モニタ装置13を含むNC旋盤1の概略構成やモニタ方法の手順は形態1と同じであって、変動値設定部11におけるモニタ表示の形態のみが異なるため、重複する説明は省略してモニタ表示を主に説明する。
上記形態1では変動値に変動周期を用いていたが、主軸3の回転の角加速度でも同様に主軸3の回転速度を変動させてモニタすることができる。角加速度は時間当たりの回転速度の変化量であり、主軸3の回転速度S及び変動周期R、変動振幅Qとは以下の式(2)に示す関係がある。図5で変動周期が短い方がびびり振動抑制の効果が大きいことを説明したが、変動周期を短くすることと同様に角加速度を大きくしてもびびり振動抑制の効果を大きくすることができる。
【0032】
【数3】

【0033】
従って、このモニタ装置13においては、変動値設定部11に変動振幅及び角加速度を入力すると、変動値設定部11は、図7に示す変動図を作成してモニタ12に表示する(第1の表示ステップ)。ここでは変動振幅を縦軸にとり角加速度を横軸にとった変動振幅−角加速度のグラフが表示される。
また、このグラフでも、式(1)及び式(2)から角加速度の電力限界線Lが以下の式(3)から算出され、グラフ上に表示されている(電力限界線表示ステップ)。この角加速度の電力限界線Lよりも左側の範囲内で設定値どおりに回転速度を変動できることになる。
【0034】
【数4】

【0035】
また、変動値設定部11は、現在の変動位置となる第5点を、黒丸のマーカーで表示している。これに加えて、角加速度の電力限界線Lの左側の範囲内で、第5点よりも角加速度が大きく、且つ変動振幅が大きい新たな変動位置を算出し(変動位置算出ステップ)、得られた変動位置を第6点としてグラフ上に白丸のマーカーで表示すると共に、案内表示として、第5点から第6点へ向かう矢印Aも表示するようにしている(第2の表示ステップ)。また、ここではグラフの右側に第6点の数値を推奨値として表示している。
従って、オペレータは、グラフに表示される矢印A及び第6点を参考にびびり振動を抑制できる可能性が高い新たな変動位置を容易に設定することができる。
【0036】
このように、上記形態2の主軸回転速度のモニタ装置13においても、変動値設定部11が、回転速度の変動振幅と角加速度との関係を示すグラフをモニタ12に表示する作図手段と、グラフに現在の変動位置(第5点)を表示する第1の表示手段と、式(3)に基づいてモータ6の変動周期の電力限界線Lを作成してグラフ上に表示する電力限界線表示手段と、電力限界線L以下の範囲内で、現在の変動位置よりも変動振幅が大きく、及び角加速度が大きくなる新たな変動位置(第6点)を算出する変動位置算出手段と、新たな変動位置を、現在の変動位置からの変更を案内する矢印Aと共にグラフに表示する第2の表示手段として上記モニタ方法を実行することで、変動振幅と変動周期との2つの設定値があっても、オペレータは回転速度を変動させるための設定値を容易に選択できる。よって、びびり振動の抑制に最適な加工条件を迅速且つ簡単に見出すことができる。
【0037】
なお、この形態2においても、変動振幅を一定として角加速度のみを大きく変更する案内を行なうこともできる。例えば図8に示すように、第5点と同一の変動振幅で変動周期の電力限界線L上の点を第7点とし、第5点から第7点へ導く案内の矢印Aを表示すると共に、第7点の数値を推奨値として表示するものである。
このように、新たな変動位置を、現在の変動位置と変動振幅が同一となる電力限界線L上の位置とすれば、変動周期が短いため、びびり抑制効果が大きく、また、変動振幅が同一であるため、切削速度の最大値と最小値の差は変わらず、切削速度の違いから生じる表面精度の悪化を最小限にすることができる。
【0038】
但し、図8でも、第7点でびびり振動が抑制できなかった場合のために、次の案内の矢印も表示している。すなわち、角加速度の電力限界線Lと最大変動振幅との交点を第8点とし、第7点から第8点へ向かう案内の矢印Bを表示するもので、第8点を第7点と比較すると、切削速度の差は大きくなり加工面の悪化の可能性があるが、変動振幅が大きいため、びびり振動を抑制する効果が大きい。なお、ここでも直ちにびびり振動を抑制の効果を得るため、第7点を省略して、第5点を始点とし第8点を終点とする矢印を表示してもよい。
このように、新たな変動位置を、電力限界線L上で変動振幅が最大となる位置とすれば、びびり振動の大きな抑制効果が期待できる。
【0039】
そして、形態1,2に共通して、モニタにグラフが表示されると電力限界線と新たな変動位置、案内矢印も自動的に算出されて表示されるようにしているが、変動値設定部に設けた入力手段により、これらをそれぞれ任意のタイミングで表示させるようにしてもよい。勿論グラフの形態も上記内容に限らず、軸を逆にしたり三次元的に表示したり等の変更は可能である。
また、変動位置の表示は丸に限らず、他の形状のマーカーを選択したり、現在の変動位置と新たな変動位置とでマーカーの形状を変えたりしても差し支えない。さらに、案内表示も矢印に限らず、例えば現在の変動位置のマーカーを点滅させながら新たな変動位置へ移動させる表示を繰り返したりする等、新たな変動位置への示唆が可能であれば適宜変更可能である。
【0040】
但し、新たな変動位置と案内表示とは必ずしも設ける必要はなく、現在の変動位置と電力限界線のみをモニタに表示して、オペレータが現在の変動位置から変動振幅が大、及び/又は変動周期が短(或いは変動振幅が大、及び/又は角加速度が大)となる方向で新たな変動位置を電力限界線以下で任意に選択できるようにしてもよい。このようにしてもオペレータはグラフ上の現在の変動位置と電力限界線とに基づいて、回転速度を変動させるための設定値を容易に選択することができる。
【0041】
さらに、上記形態1,2では、変動振幅と変動周期或いは角加速度とを共に変動させる例と、変動周期或いは角加速度のみを変動させる例とを説明しているが、変動振幅のみを変動させてもよい。
一方、上記形態1,2では、最初から回転速度を変動させて加工を行っているが、振動センサによって主軸の振動を検出して得られた振動を所定の閾値と比較してびびり振動の発生を検出する周知の検出手段を搭載した工作機械では、最初は設定した等速度で主軸を回転させて、検出手段によってびびり振動の発生が検出されると、変動値設定部において回転速度の変動振幅と変動周期或いは角加速度とを入力することで回転速度を変動させると共に、モニタにグラフ等の変動図を表示させるようにしてもよい。
その他、本発明はNC旋盤に限らず、回転速度を変動させて切削加工する工作機械であれば、たとえばマシニングセンタ等も含まれる。
【符号の説明】
【0042】
1・・NC旋盤、2・・主軸台、3・・主軸、4・・チャック、5・・爪、6・・モータ、7・・エンコーダ、8・・主軸制御部、9・・NC装置、10・・記憶装置、11・・変動値設定部、12・・モニタ、13・・モニタ装置、W・・ワーク、L・・電力限界線、A,B・・矢印。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具又はワークを装着してモータ駆動する主軸と、その主軸の回転速度を任意のパターンで連続的に変動させる回転速度変動手段とを備えた工作機械において、表示部によって前記回転速度変動手段による前記回転速度の変動状態を監視するモニタ方法であって、
前記回転速度の変動振幅と変動周期との関係を示す変動図を前記表示部に表示する作図ステップと、
前記変動図に現在の変動位置を表示する第1の表示ステップと、
以下の式(1)に基づいて前記モータの変動周期の電力限界線を作成して前記変動図上に表示する電力限界線表示ステップと、
を実行することを特徴とする工作機械における主軸回転速度のモニタ方法。
【数1】

【請求項2】
前記電力限界線以下の範囲内で、現在の変動位置よりも前記変動振幅が大きく、及び/又は前記変動周期が短くなる新たな変動位置を算出する変動位置算出ステップと、
前記新たな変動位置を、前記現在の変動位置からの変更を案内する案内表示と共に前記変動図に表示する第2の表示ステップと、
をさらに実行することを特徴とする請求項1に記載の工作機械における主軸回転速度のモニタ方法。
【請求項3】
工具又はワークを装着してモータ駆動する主軸と、その主軸の回転速度を任意のパターンで連続的に変動させる回転速度変動手段とを備えた工作機械において、表示部によって前記回転速度変動手段による前記回転速度の変動状態を監視するモニタ方法であって、
前記回転速度の変動振幅と角加速度との関係を示す変動図を前記表示部に表示する作図ステップと、
前記変動図に現在の変動位置を表示する第1の表示ステップと、
以下の式(1)に基づいて前記モータの変動周期の電力限界線を作成して前記変動図上に表示する電力限界線表示ステップと、
を実行することを特徴とする工作機械における主軸回転速度のモニタ方法。
【数2】

【請求項4】
前記電力限界線以下の範囲内で、現在の変動位置よりも前記変動振幅が大きく、及び/又は前記角加速度が大きくなる新たな変動位置を算出する変動位置算出ステップと、
前記新たな変動位置を、前記現在の変動位置からの変更を案内する案内表示と共に前記変動図に表示する第2の表示ステップと、
をさらに実行することを特徴とする請求項3に記載の工作機械における主軸回転速度のモニタ方法。
【請求項5】
前記新たな変動位置を、前記現在の変動位置と変動振幅が同一となる前記電力限界線上の位置としたことを特徴とする請求項2又は4に記載の工作機械における主軸回転速度のモニタ方法。
【請求項6】
前記新たな変動位置を、前記電力限界線上で前記変動振幅が最大となる位置としたことを特徴とする請求項2又は4に記載の工作機械における主軸回転速度のモニタ方法。
【請求項7】
工具又はワークを装着してモータ駆動する主軸と、その主軸の回転速度を任意のパターンで連続的に変動させる回転速度変動手段とを備えた工作機械において、表示部を備えて前記回転速度変動手段による前記回転速度の変動状態を監視するモニタ装置であって、
前記回転速度の変動振幅と変動周期との関係を示す変動図を前記表示部に表示する作図手段と、
前記変動図に現在の変動位置を表示する第1の表示手段と、
以下の式(1)に基づいて前記モータの変動周期の電力限界線を作成して前記変動図上に表示する電力限界線表示手段と、
を備えたことを特徴とする工作機械における主軸回転速度のモニタ装置。
【数1】

【請求項8】
前記電力限界線以下の範囲内で、現在の変動位置よりも前記変動振幅が大きく、及び/又は前記変動周期が短くなる新たな変動位置を算出する変動位置算出手段と、
前記新たな変動位置を、前記現在の変動位置からの変更を案内する案内表示と共に前記変動図に表示する第2の表示手段と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項7に記載の工作機械における主軸回転速度のモニタ装置。
【請求項9】
工具又はワークを装着してモータ駆動する主軸と、その主軸の回転速度を任意のパターンで連続的に変動させる回転速度変動手段とを備えた工作機械において、表示部を備えて前記回転速度変動手段による前記回転速度の変動状態を監視するモニタ装置であって、
前記回転速度の変動振幅と角加速度との関係を示す変動図を前記表示部に表示する作図手段と、
前記変動図に現在の変動位置を表示する第1の表示手段と、
以下の式(1)に基づいて前記モータの変動周期の電力限界線を作成して前記変動図上に表示する電力限界線表示手段と、
を備えたことを特徴とする工作機械における主軸回転速度のモニタ装置。
【数2】

【請求項10】
前記電力限界線以下の範囲内で、現在の変動位置よりも前記変動振幅が大きく、及び/又は前記角加速度が大きくなる新たな変動位置を算出する変動位置算出手段と、
前記新たな変動位置を、前記現在の変動位置からの変更を案内する案内表示と共に前記変動図に表示する第2の表示手段と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項9に記載の主軸回転速度のモニタ装置。
【請求項11】
前記新たな変動位置を、前記現在の変動位置と変動振幅が同一となる前記電力限界線上の位置としたことを特徴とする請求項8又は10に記載の工作機械における主軸回転速度のモニタ装置。
【請求項12】
前記新たな変動位置を、前記電力限界線上で前記変動振幅が最大となる位置としたことを特徴とする請求項8又は10に記載の工作機械における主軸回転速度のモニタ装置。
【請求項13】
工具又はワークを装着してモータ駆動する主軸と、その主軸の回転速度を任意のパターンで連続的に変動させる回転速度変動手段とを備えた工作機械であって、
請求項7乃至12の何れかに記載の主軸回転速度のモニタ装置を備えることを特徴とする工作機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−88968(P2012−88968A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235720(P2010−235720)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)
【Fターム(参考)】