説明

工作機械の振動抑制装置及び方法

【課題】加工効率を低下させることなくびびり振動の好適な抑制を行う。
【解決手段】振動抑制装置10の制御装置11は、NC装置12と、振動センサ7から検出される時間領域の振動加速度をもとにしたフーリエ解析を行う演算装置13と、演算装置13で演算された演算値やびびり振動の抑制履歴等を記憶する記憶装置14と、演算装置13にて演算された結果、もしくはその結果を基にした計算結果を表示する表示装置15と、NC装置12にオペレータが入力操作する操作装置16とを備え、びびり振動の発生が検出されると、演算装置13はびびり振動周波数の60倍の数値を工具刃数と前記回転軸の回転速度との積で除してk’値を算出し、算出されたk’値が1未満か否かを判別する。k’値が1未満であれば、回転速度を上昇側へ変更してびびり振動を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具又はワークを回転させる回転軸を備えた工作機械において、回転軸の回転に伴って発生するびびり振動を抑制するための振動抑制装置及びその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、回転軸である主軸に工具又はワークを支持させ、工具又はワークを送りながら相対運動させてワークに加工を施すといった工作機械が知られている。このような工作機械においては、切削加工における切込量を大きくしすぎると、加工中に「びびり振動」が発生して、加工面の仕上げ精度の悪化、急速な工具磨耗、工具欠損などの問題が生じる。このびびり振動抑制の対策として、特許文献1,2に記載されているように、びびり振動周波数を特定して、例えば特許文献2では以下の(1)(2)式を用いて、その結果から最適回転速度を導いて振動抑制処置を行う技術が考案されている。
【0003】
n=60fc/{(k+1)N} ・・・(1)
k’=60fc/(nN) ・・・(2)
nは演算によって求めた最適回転速度、nは現在の回転速度、Nは工具の刃数、fcは検出されたびびり振動周波数、kはk’(被削面上に転写される振動の1刃ピッチ内の数)の整数部分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2001−517557号公報
【特許文献2】特開2007−44852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1,2による振動抑制処理は、上記(1)(2)に基づいて自動的に最適回転速度を算出するため、k’<1の場合には単純に回転速度を上げるだけで振動抑制効果が得られるにもかかわらず、最適回転速度nが現在の回転速度nよりも小さくなることがある。このように回転速度が小さくなることで加工効率の低下に繋がってしまう。
【0006】
そこで、本発明は、加工効率を低下させることなくびびり振動の好適な抑制が可能となる工作機械の振動抑制装置及び方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、工具又はワークを回転させる回転軸を備えた工作機械において、前記回転軸の回転に伴って発生するびびり振動を前記回転軸の回転速度の変更によって抑制する振動抑制装置であって、
前記びびり振動の発生を検出する振動検出手段と、前記びびり振動の発生が検出されると、びびり振動周波数の60倍の数値を工具刃数と前記回転軸の回転速度との積で除してk’値を算出するk’値算出手段と、算出された前記k’値が1未満か否かを判別する判別手段と、を備え、前記判別手段による判別で前記k’値が1未満であれば、前記回転速度を上昇側へ変更して前記びびり振動を抑制することを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、前記判別手段の判別結果を表示する表示手段を備えることを特徴とするものである。
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、工具又はワークを回転させる回転軸を備えた工作機械において、前記回転軸の回転に伴って発生するびびり振動を前記回転軸の回転速度の変更によって抑制する振動抑制方法であって、
前記びびり振動の発生を検出する振動検出ステップと、前記びびり振動の発生が検出されると、びびり振動周波数の60倍の数値を工具刃数と前記回転軸の回転速度との積で除してk’値を算出するk’値算出ステップと、算出された前記k’値が1未満か否かを判別する判別ステップと、前記判別ステップによる判別で前記k’値が1未満であれば、前記回転速度を上昇側へ変更する回転速度変更ステップと、を実行することを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、請求項3の構成において、前記判別ステップと回転速度変更ステップとの間に、前記判別ステップでの判別結果を表示する表示ステップを実行することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1及び3に記載の発明によれば、k’<1であれば回転速度を上昇側へ変更して振動抑制を行うので、加工効率を低下させることなくびびり振動の好適な抑制が可能となる。
請求項2及び4に記載の発明によれば、上記効果に加えて、k’<1であるか否かが確実に判別でき、オペレータによる回転速度の変更も簡単に可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】工作機械の振動抑制装置のブロック構成を示した説明図である。
【図2】びびり振動の抑制制御に係るフローチャートである。
【図3】安定限界線図の説明図である。
【図4】びびり振動の抑制制御の変更例に係るフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、工作機械の一例である立形マシニングセンタ及び立形マシニングセンタに設けられる振動抑制装置を概略で示した構成図である。
まず、立形マシニングセンタ1は、上方に設けた主軸頭2にC軸回りで回転自在な回転軸としての主軸3を設け、その主軸3に取り付けた工具4によって、下方の加工テーブル5上にセットされたワーク6を加工する周知の構成で、NC装置12が、NCプログラムに従って主軸3の回転を制御すると共に、図示しない自動工具交換装置によって工具4を自動交換可能となっている。
【0011】
振動抑制装置10は、主軸3に生じる「びびり振動」を制御するためのものであって、回転中の主軸3に生じる時間領域の振動加速度を検出するための振動センサ7と、該振動センサ7による検出値をもとにして主軸3の回転速度を制御する制御装置11とを備えている。
制御装置11は、NC装置12と、振動センサ7から検出される時間領域の振動加速度をもとにしたフーリエ解析を行う演算装置13と、演算装置13で演算された演算値やびびり振動の抑制履歴等を記憶する記憶装置14と、演算装置13にて演算された結果、もしくはその結果を基にした計算結果を表示する表示手段としての表示装置15と、NC装置12にオペレータが入力操作する操作装置16とを備えている。演算装置13が振動センサ7と共に振動検出手段を構成すると共に、k’値算出手段及び判別手段としても機能する。
【0012】
以下、制御装置11における「びびり振動」の抑制制御について、図2のフローチャートに基づいて説明する。
まず、S1で任意の初期回転速度を設定し、S2で加工を開始する。加工中には、振動センサ7から得られる加工中の振動加速度を検出して、演算装置13で周波数領域の加速度に変換し(S3)、S4でびびり振動の発生を判別する(振動検出ステップ)。この判別は、S3で得られた最大加速度の値を予め設定した閾値と比較することで行い、最大加速度が閾値を越えた場合には、びびり振動が発生したと判断して、S5でそのときの回転速度とびびり周波数とを記憶装置14に記憶する。
【0013】
次に、S6で演算装置13は、S5で記憶した回転速度と振動状態とを関連付けた結果を演算して、その演算結果として、図3に示すような回転速度と加工の安定限界との関係を表す安定限界線図を作成して表示装置15に表示する(S7)。同時に演算装置13は、先の背景技術で示した式(2)を用いてk’値を演算し(k’値算出ステップ)、算出されたk’値が1未満であるか否かを判別して(判別ステップ)表示装置15に表示する(表示ステップ)。
安定限界線図は、横軸が回転速度、縦軸が限界切込量で、曲線の下側が安定領域であり、上側が不安定領域であることを示している。また、点線Aは、k’=1となる回転速度で、点線Aの右側がk’<1、左側がk’>1の領域となる。さらに、点線Bは初期回転速度、点線Cは工具限界回転速度である。
【0014】
よって、オペレータは、S8においてk’<1であるか否かを確認し、k’<1(S8でYES)であれば、操作装置16の入力により、S9で右側領域内での工具の限界周速を考慮した安定回転速度(点線D)まで回転速度を上昇させる(回転速度変更ステップ)。この安定回転速度では回転速度が上昇側へ移行すると共に、限界切込量も大きくなるため、加工効率を向上させることができる。
一方、k’≧1(S8でNO)であれば、オペレータは安定限界線図を参照しながら左側領域内で回転速度を選択して操作装置16に入力し、回転速度を変更する(S10)。
【0015】
そして、S9,10で回転速度を変更した後、S11の判別で加工終了でなければ、再びS3に戻って振動加速度を検出する。そして、続くS4の判別でびびりが発生していなければ、S11で加工終了となるまで変更した回転速度で加工が行われる。S4でびびり発生が確認されれば、S5〜S10の処理を繰り返して回転速度の変更を行う。
【0016】
このように、上記形態の振動抑制装置10及び振動抑制方法によれば、びびり振動の発生が検出されると、k’値を算出してこれが1未満か否かを判別し、1未満であれば回転速度を上昇側へ変更してびびり振動を抑制するようにしているので、加工効率を低下させることなくびびり振動の好適な抑制が可能となる。
特にここでは、k’<1か否かの判別結果を表示装置15に表示させているので、k’値が1未満であるか否かが確実に判別でき、オペレータによる回転速度の変更も簡単に行える。
【0017】
なお、上記形態では、k’<1であるか否かを確認した後、その表示結果を受けてオペレータが任意に回転速度を変更するようにしているが、図4のフローチャートで示すように、S8でk’<1の場合は、演算装置13が工具の限界周速を考慮した上昇側の回転速度を演算して当該回転速度を表示させ(S9)、S8でk’≧1の場合は、先の背景技術で示した式(1)を用いて回転速度を演算して当該回転速度を表示させて(S10)、それぞれの表示に従ってオペレータがS11で回転速度を変更するようにしてもよい。
また、オペレータの入力指令による回転速度の変更に限らず、S8の判別結果に基づいて演算装置13が自動的に変更すべき回転速度を演算し、NC装置12に変更させるようにしても差し支えない。
【0018】
一方、工作機械からの振動の検出には、振動センサの他、マイク、位置・回転検出器、主軸・送り軸モータの電流を用いることができ、回転速度と振動状態とを関連付けた結果の表示も、安定限界線図に限らず、回転速度と振動加速度との関係のグラフにしたり、振動周波数や切削速度、送り速度、回転軸トルク等を使用して表示したりしても差し支えない。勿論このような図やグラフの表示を省略して、k’<1であるか否かのみを表示することもできるし、先述したように判別結果に基づいて演算装置が回転速度を自動変更させるのであれば、k’<1であるかの表示自体も省略することができる。
その他、工作機械としては立形マシニングセンタに限らず、回転軸に装着したワークを回転させて加工を行うNC旋盤等の他の工作機械であっても本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0019】
1・・立形マシニングセンタ、2・・主軸頭、3・・主軸、4・・工具、6・・ワーク、7・・振動センサ、10・・振動抑制装置、11・・制御装置、12・・NC装置、13・・演算装置、14・・記憶装置、15・・表示装置、16・・操作装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具又はワークを回転させる回転軸を備えた工作機械において、前記回転軸の回転に伴って発生するびびり振動を前記回転軸の回転速度の変更によって抑制する振動抑制装置であって、
前記びびり振動の発生を検出する振動検出手段と、
前記びびり振動の発生が検出されると、びびり振動周波数の60倍の数値を工具刃数と前記回転軸の回転速度との積で除してk’値を算出するk’値算出手段と、
算出された前記k’値が1未満か否かを判別する判別手段と、を備え、
前記判別手段による判別で前記k’値が1未満であれば、前記回転速度を上昇側へ変更して前記びびり振動を抑制することを特徴とする工作機械の振動抑制装置。
【請求項2】
前記判別手段の判別結果を表示する表示手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の工作機械の振動抑制装置。
【請求項3】
工具又はワークを回転させる回転軸を備えた工作機械において、前記回転軸の回転に伴って発生するびびり振動を前記回転軸の回転速度の変更によって抑制する振動抑制方法であって、
前記びびり振動の発生を検出する振動検出ステップと、
前記びびり振動の発生が検出されると、びびり振動周波数の60倍の数値を工具刃数と前記回転軸の回転速度との積で除してk’値を算出するk’値算出ステップと、
算出された前記k’値が1未満か否かを判別する判別ステップと、
前記判別ステップによる判別で前記k’値が1未満であれば、前記回転速度を上昇側へ変更する回転速度変更ステップと、
を実行することを特徴とする工作機械の振動抑制方法。
【請求項4】
前記判別ステップと回転速度変更ステップとの間に、前記判別ステップでの判別結果を表示する表示ステップを実行することを特徴とする請求項3に記載の工作機械の振動抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−111020(P2012−111020A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264035(P2010−264035)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)
【Fターム(参考)】