説明

炭素繊維複合材、及びこの炭素繊維複合材を用いたブレーキ用部材、半導体用構造部材、耐熱性パネル、ヒートシンク

【課題】従来よりも高強度な炭素繊維複合材、及びこの炭素繊維複合材を用いたブレーキ用部材、半導体用構造部材、耐熱性パネル、ヒートシンクを提供する。
【解決手段】炭素繊維と、樹脂とを混合後、焼成成形してなる焼成体にシリコンを溶融含浸して得られる炭素繊維複合材であって、X線回折法による、前記炭素繊維の炭素002面の面間隔d002が、3.36〜3.43であることを特徴とする炭素繊維複合材、及びこの炭素繊維複合材を用いたブレーキ用部材、半導体用構造部材、耐熱性パネル、ヒートシンクである。炭素繊維はピッチ由来の前駆体から焼成して得られた炭素繊維であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維複合材に関する。さらに詳しくは、半導体用構造部材、ブレーキ用部材、航空宇宙用の高温用構造部材、反射鏡、ヒートシンク、耐熱性パネル、ガスタービン用部材、核融合炉材、炉内部材、ヒーター部材等の多くの用途に適する炭素繊維複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維複合材を得る方法としては、例えば、炭化ケイ素の前駆体であるポリカルボシランやポリシラスチレンの有機ケイ素ポリマーと炭素繊維を複合後、1000℃以上の高温下で熱分解反応により炭素繊維強化炭化ケイ素を得る有機プリカーサ法が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、有機プリカーサ法はセラミックス収率が低いため、有機ケイ素ポリマーの含浸、熱分解焼成を繰り返し行う必要があり、高密度なものが得られにくいという問題がある。
【0003】
また、緻密で高密度な炭素繊維複合材を得る方法としては、例えば、炭素繊維を樹脂でコーティングして、炭素化後、樹脂と混合し、成形、炭素化処理を行い、その後シリコンの溶融含浸により、シリコンと炭素を反応させて炭素繊維複合材を得るシリコン溶融含浸法が知られている(特許文献2参照)。
【0004】
通常、複合材の強度特性は、強化素材とマトリックス素材との強度の複合則で考えられる。従って、高強度な複合材を得る一つの手法としては、強化素材には高強度タイプの炭素繊維を選択すればよい。しかし、炭素繊維とセラミックス等との炭素繊維複合材は、前記の高強度タイプの炭素繊維を使用しても複合化後の炭素繊維複合材は強度特性が必ずしも充分とは言えず、更なる強度特性の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平03−055430号公報
【特許文献2】特開平10−251065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、より高強度な炭素繊維複合材、及びこの炭素繊維複合材を用いたブレーキ用部材、半導体用構造部材、耐熱性パネル、ヒートシンクを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、高温下で炭素繊維を複合化するセラミックスの強度低下の原因の一つに、高温処理による焼成熱や反応熱で炭素繊維の強度特性が損なわれやすいことを見出し、特定の物性値を有する炭素繊維を選択することにより、上記課題を解決し、本発明に至った。
本発明は、次の事項に関する。
【0008】
(1)炭素繊維と、樹脂とを混合後、成形し、炭素化処理してなる焼成体にシリコンを溶融含浸して得られる炭素繊維複合材であって、
X線回折法による、前記炭素繊維の炭素002面の面間隔d002が、3.36〜3.43であることを特徴とする炭素繊維複合材。
【0009】
(2)前記炭素繊維がピッチ由来の前駆体から焼成して得られた炭素繊維である前記(1)に記載の炭素繊維複合材。
【0010】
(3)前記炭素繊維がフェノール系レゾール樹脂でコーティングされてなる前記(1)又は(2)に記載の炭素繊維複合材。
【0011】
(4)前記炭素繊維をコーティングする樹脂中に炭素粉末が分散されてなる前記(3)に記載の炭素繊維複合材。
【0012】
(5)前記炭素繊維の繊維長が1〜20mmである前記(1)〜(4)のいずれかに記載の炭素繊維複合材。
【0013】
(6)前記炭素繊維の繊維束(トウ)が1000〜24000本/束である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の炭素繊維複合材。
【0014】
(7)前記樹脂がフェノール系ノボラック樹脂である前記(1)〜(6)のいずれかに記載の炭素繊維複合材。
【0015】
(8)前記炭素繊維と樹脂との混合の際に、更に黒鉛及び有機繊維を含有する前記(1)〜(7)のいずれかに記載の炭素繊維複合材。
【0016】
(9)前記有機繊維がフィブリル化アクリル繊維である前記(8)に記載の炭素繊維複合材。
【0017】
(10)前記炭素繊維と樹脂との混合に際し、さらに炭化ケイ素粉末を混合する前記(1)〜(9)のいずれかに記載の炭素繊維複合材。
【0018】
(11)炭素繊維複合材のマトリックス部が炭化ケイ素を主成分とする前記(1)〜(10)のいずれかに記載の炭素繊維複合材。
【0019】
(12)前記(1)〜(11)のいずれかに記載の炭素繊維複合材を用いたブレーキ用部材。
【0020】
(13)前記(1)〜(11)のいずれかに記載の炭素繊維複合材を用いた半導体用構造部材。
【0021】
(14)前記(1)〜(11)のいずれかに記載の炭素繊維複合材を用いた耐熱性パネル。
【0022】
(15)前記(1)〜(11)のいずれかに記載の炭素繊維複合材を用いたヒートシンク。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、より高強度な炭素繊維複合材、及びこの炭素繊維複合材を用いたブレーキ用部材、半導体用構造部材、耐熱性パネル、ヒートシンクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】炭素繊維の(002)面のd値と引張弾性率および引張強度の関係を示した図である。
【図2】炭素繊維の(002)面のd値と炭素繊維複合材の強度の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の炭素繊維複合材について詳述する。
本発明の炭素繊維複合材は、炭素繊維と、樹脂とを混合後、成形し、炭素化処理してなる焼成体にシリコンを溶融含浸して得られる炭素繊維複合材であって、X線回折法による、前記炭素繊維の炭素002面の面間隔d002が、3.36〜3.43であることを特徴とする。
ここで、本発明の炭素002面の面間隔d002の測定は、広角X線回折装置を用い、学振法に基づき実施した。
以下、本発明の炭素繊維強化剤の各構成要素について説明する。
【0026】
[炭素繊維]
本発明に係る炭素繊維は、炭化ケイ素セラミックスの高強度化を目的として使用される。炭素繊維はその前駆体の違いにより、PAN(ポリアクリロニトリル)系およびピッチ系がある。PAN系とピッチ系は前駆体の違いに起因して、引張強度と弾性率のバランスが異なるという特徴がある。PAN系は、高強度糸が得られやすく、強度に特化した製品が多い。通常、標準弾性率タイプ(HT)、中弾性率タイプ(IM)、高弾性率タイプ(HM)に大別され、これらの弾性率の違いは、炭素繊維を製造する際の焼成温度の違いが主要因として挙げられる。ピッチ系は、強度はPAN系に劣るものの弾性率を制御し易いという特徴があり、PAN系では製造が困難な低弾性率タイプ(LM)および超高弾性率タイプ(UHM)の炭素繊維がある。
本発明においては、PAN系よりもグラファイト結晶性が高く、熱安定性の高いものが得られやすいという観点から、ピッチ由来の前駆体から焼成して得られた炭素繊維が好ましい。当該炭素繊維は、具体的には、日本グラファイトファイバー(株)製のXN−60、XN−80、XN−90、XN−100、YSH−60A、YSH−70A、YS−80A、YS−90A、YS−95Aグレード、三菱樹脂(株)製のK63712、K63A12等が挙げられる。
【0027】
本発明における炭素繊維は、X線回折法による、炭素繊維の炭素002面の面間隔d002が、3.36〜3.43であることを特徴とする。本発明において、炭素繊維の強度が、炭素繊維の結晶性に起因するものと見いだし、炭素繊維の結晶性を示す炭素002面の面間隔d002が上記範囲内となることで、得られる炭素繊維複合体が、強度に優れたものとなる。下限未満では、一般に市場にて入手可能な高弾性炭素繊維のほぼ限界値であり、非常に高弾性であるため繊維が折れやすく取扱性も悪くなり、上限を超えると、熱安定性が低くなるため炭素繊維複合材の強度特性が低下しやすくなる。当該面間隔d002は3.38〜3.42が好ましい。
ここで、前記d002の数値はX線回折法で得られる数値である。
【0028】
また、本発明において使用する炭素繊維は、予め樹脂でコーティングすることが好ましい。コーティングする樹脂(以下、「コーティング用樹脂」と呼ぶ。)としては、フェノール系レゾール樹脂、フェノール系ノボラック樹脂、フラン樹脂、イミド樹脂、エポキシ樹脂、ピッチ等が挙げられる。中でも、熱分解後の炭素収率の高さから、フェノール系レゾール樹脂でコーティングすることがより好ましい。また、コーティング用樹脂の熱分解における体積収縮による炭素繊維損傷が低い観点からは、イミド樹脂を用いる事が好ましい。
【0029】
また、上記炭素繊維をコーティングする際は、前記コーティング用樹脂中にカーボンブラック等の炭素粉末を均一に分散させてもよい。
上記コーティング用樹脂のコーティング方法としては特に制限はないが、例えば、炭素繊維中へ樹脂を含浸させ、その後、コーティング用樹脂を熱分解し炭素化することが挙げられる。
工業的に、製造時間短縮、設備の簡易性、材旅費のコストの観点からはコーティング用樹脂を用いることが好ましいが、上記コーティング用樹脂以外に、例えば、炭素、窒化ホウ素をCVD(化学気相成長法)、PVD(物理気相成長法)等の方法によりコーティングしてもよい。
【0030】
炭素繊維の繊維長は、炭素繊維複合材の高強度化、材料強度のバラツキ低減の観点から、1〜20mmであることが好ましく、3〜12mmであることがより好ましい。
【0031】
また、炭素繊維の繊維束(トウ)は、炭素繊維複合材の高強度化、炭素繊維の取扱性、コーティング用樹脂の含浸性の観点から、1000〜40000本/束が好ましく、3000〜12000本/束がより好ましい。
【0032】
炭素繊維は、樹脂との混合物中、20〜70重量%使用することが好ましく、35〜65重量%使用することがより好ましい。
【0033】
[樹脂]
本発明に係る樹脂としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、イミド樹脂、エポキシ樹脂、ピッチ又は有機金属ポリマーなどが好ましいものとして挙げられる。これらのうち、フェノール樹脂として、フェノール系ノボラック樹脂が熱分解後の炭素収率が高い点、価格が安価である点において好ましい。
またこれらの樹脂類は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせたものを用いてもよい。中でも、熱分解後の炭素収率が高いこと、さらに材料費が安価である点でフェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0034】
[有機繊維]
本発明に用いられる有機繊維は、本発明の炭素繊維複合材の製造過程において、マトリックス中により均一に気孔を生成させるとともに、マトリックス中をより均一に炭化ケイ素化するために使用される。当該有機繊維としては、アクリル繊維、アラミド繊維、セルロース繊維、天然繊維等が好ましいものとして挙げられる。中でも、分解温度が低く、単位温度当りの分解ガス発生量が少ないアクリル繊維がより好ましい。
【0035】
また、フィブリル化した有機繊維は、樹脂及びその他充填材の粒子分散性を向上させ、マトリックス中の材料偏析低減及び成形性向上等の効果が得られる点でより好ましい。
以上より、有機繊維としては、フィブリル化したアクリル繊維が好ましい。
【0036】
有機繊維の繊維径は、後述する製造工程において、シリコンが含浸しやすいという点で10〜60μmが好ましく、15〜40μmがより好ましい。
また、有機繊維の残炭率は、シリコンが気孔内に含浸しやすく本発明の効果を好適に発揮させる点で60重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましい。
【0037】
後述する(ii)の工程を経て生成したマトリックス中の有機繊維の含有率は、本発明の効果を好適に発揮させる点で1〜15重量%が好ましく、2〜10重量%がより好ましい。
【0038】
[充填材]
本発明の炭素繊維複合材は、さらに充填材を含有することが好ましい。本発明に用いられる充填材は、炭素源や骨材又は酸化防止剤、熱伝導率向上、高密度化等の目的で使用される。具体的には、炭素源として用いられる充填剤としては、炭素粉末や黒鉛粉末、カーボンブラック等が挙げられる。
また、骨材又は酸化防止剤、熱伝導率向上、高密度化を目的とした充填材としてはSiC粉末、Si粉末、ポリカルボシラン等の有機ケイ素ポリマーなどが好ましいものとして挙げられる。これらの充填剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせたものを用いてもよい。
【0039】
本発明において、黒鉛及び有機繊維を含有することで、マトリックスが緻密で均一な炭化ケイ素を生成しやすく、高強度化、高熱伝導化、高酸化耐性化となり好ましい。
【0040】
以下、本発明の炭素繊維複合材の製造方法の一例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。
【0041】
本発明の炭素複合材の製造方法の一例としては、下記工程を含むことが好ましい。
(i)所望により樹脂コーティングした炭素繊維と、樹脂と、必要に応じて、充填材、有機繊維とを混合する工程
(ii)上記(i)の工程で得られた混合物を所定の形状に成形する工程
(iii)上記(ii)の工程で得られた成形体を炭素化(焼成)する工程
(iv)上記(iii)の工程で得られた焼成体にシリコンを溶融含浸する工程
このような製造方法によれば、シリコン溶融含浸でマトリックス部をより均一に反応させることができ、強度特性に優れる炭素繊維複合材を得ることができる傾向がある。以下、(i)〜(iv)の工程のそれぞれについて詳述する。
【0042】
(i):所望により樹脂コーティングした炭素繊維と、樹脂と、必要に応じて、充填材、有機繊維とを混合する工程
本発明に用いられる樹脂は、(ii)の工程の所定の形状へ成形する際のバインダーとしての役割と(iv)の工程で溶融シリコンと反応し炭化ケイ素マトリックスを生成するための炭素源としての役割を担っている。
炭素繊維、樹脂、充填材、及び有機繊維についての詳細は既述の通りであるため、ここでは省略する。
【0043】
炭素繊維、樹脂、充填材、及び有機繊維などを混合する方法としては、これらが均一に混合できる方法であれば特に制限はないが、製造時間短縮及び設備費が安価な点で乾式混合法がより好ましく、例えば、レディーゲミキサー、アイリッヒミキサー等を用いて混合することが好ましい。
【0044】
(i)の工程で混合して得られる混合物の各成分の混合比率(体積%)は、樹脂を20〜40体積%、充填剤を3〜40体積%、有機繊維を1.5〜6体積%、炭素繊維を25〜60体積%、コーティング樹脂5〜25体積%とすることが好ましい。
【0045】
また、炭素繊維複合材において、炭化ケイ素系マトリックスと炭素繊維強化材との含有割合については、特に制限はなく、該複合材の用途に応じて適宜選ばれるが、通常、炭素繊維が15〜65体積%の範囲内で選ばれる。
【0046】
本発明においては、炭素繊維として、炭素繊維織布を用いることも可能である。炭素繊維織布を用いる場合は、炭素繊維織布に、樹脂および充填材を配合したスラリーを塗布した後、炭素繊維織布を積層して、乾燥させ、積層体とし、以後(ii)〜(iii)と同等の工程で炭素繊維複合材を作製をする。
【0047】
(ii):上記(i)の工程で得られた混合物を所定の形状に成形する工程
成形方法としては、(i)で得られた混合物が偏在なく成形できる方法であれば特に制限はないが、例えば、あらかじめ予熱した金型中に混合物を投入し、加熱加圧成形を行う方法が挙げられる。また、前記「所定の形状」としては、特に制限はなく、本発明を適用する用途に応じ、それぞれの用途に適した形状に任意に加工することができる。
成形温度は、使用する樹脂によって適宜選ばれるが、例えばフェノール樹脂の場合、100〜250℃で行うことが好ましく、120〜230℃で行うことがより好ましく、130〜200℃で行うことがさらに好ましい。
また、成形圧力は、1〜70MPaで行うことが好ましく、10〜60MPaで行うことがより好ましく、25〜40MPaで行うことがさらに好ましい。
【0048】
(iii):上記(ii)の工程で得られた成形体を炭素化する工程
炭素化方法は、不活性雰囲気下で高温熱処理により行う。焼成温度としては、500〜2000℃で行うことが好ましく、600〜1800℃で行うことがより好ましく、900〜1500℃で行うことがさらに好ましい。不活性雰囲気の種類としては、アルゴン雰囲気、窒素雰囲気等が挙げられる。中でも、高温安定性の点でアルゴン雰囲気がより好ましい。
【0049】
(iv):(iii)の工程で得られた焼成体にシリコンを溶融含浸する工程
含浸温度としては、シリコンの融点以上であればよく特に制限はない。雰囲気の種類としては、均一にシリコンが含浸すれば特に制限はなく、例えば、真空又はアルゴン雰囲気などの不活性雰囲気が挙げられる。含浸に使用するシリコンの純度としては、99%以上が好ましく、99.5%以上がより好ましく、99.9%以上がさらに好ましい。
【0050】
以上のようにして得られた炭素繊維複合材のマトリックス部が炭化ケイ素を主成分とすることが好ましい。ここで、「主成分」とはマトリックス中において50%を超えることをいう。
【0051】
本発明の炭素繊維複合材は、その高強度の特性から、自動車、自転車のディスクロータ等のブレーキ用部材、半導体用構造部材、航空宇宙用の高温用構造部材、耐熱性パネル、ヒートシンク、ガスタービン用部材、核融合炉材、炉内部材、ヒーター部材等の多くの用途に利用可能である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例および比較例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は何らこれに制限されるものではない。
【0053】
各実施例・比較例において、炭素繊維に短繊維を用いた場合は、表1及び表2の配合比率(体積%)に従って炭素繊維以外の原材料を配合し、レディーゲミキサー((株)マツボー製、商品名:レディーゲミキサーM20)で混合し、その後、その混合粉とフェノール樹脂でコーティングした繊維長6mmの炭素繊維(メーカー名、商品名は表1に記載、ピッチ由来の前駆体から焼成して得られた炭素繊維)をVブレンダーで混合し、配合組成物を得た。この配合組成物を成形温度155℃、成形圧力30MPaの条件で15分間、成形プレス(三起精工(株)製)を用いて100mm角、厚み6.5mmの形状に加熱加圧成形し、その後、この成形体を高温雰囲気炉((株)モトヤマ製)を用いて窒素雰囲気下で900℃、1時間焼成した。この得られた焼成体を真空加熱炉((有)リサーチアシスト)を用いて真空中1450℃で30分間のシリコンの溶融含浸を行い、炭素繊維複合材を得た。
なお、表1、表2において、d=3.449などの「d」は、炭素002面の面間隔d002を意味する。
【0054】
一方、各実施例・比較例において、炭素繊維に織布を用いた場合は、表1及び表2の配合比率(体積%)に従って炭素繊維以外の原材料を配合し、ミキサー(象印製BM−HS08)で混合し、スラリーを調整した後、そのスラリーをフェノール樹脂でコーティングした炭素繊維織布に塗布して積層し、乾燥させ、配合組成物を得た。この配合組成物を成形温度170℃、成形圧力30MPaの条件で30分間、成形プレス(三起精工(株)製)を用いて100mm角、厚み6.5mmの形状に加熱加圧成形し、その後、この成形体を高温雰囲気炉((株)モトヤマ製)を用いて窒素雰囲気下で900℃、1時間焼成した。この得られた焼成体を真空加熱炉((有)リサーチアシスト)を用いて真空中1450℃で30分間のシリコンの溶融含浸を行い、炭素繊維複合材を得た。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
得られた複合材の曲げ強度は、セラミックスJIS R1601の曲げ強さ試験方法によって測定した。具体的には、オリエンテック社製テンシロンUTA−300kN型を用い、試験速度0.5mm/min、支点間距離30mm、試験温度23℃、試験片形状:厚み3±0.1mm、幅:4±0.1mm、長さ:37±0.1mmで行った。
得られた複合材の開気孔率および密度はセラミックスJIS R 1634 焼結体密度・開気孔率の測定方法 によって測定した。
【0058】
表1の実施例に記載した特定のd値を有する炭素繊維を使用した炭素繊維複合材は、表2の比較例に記載した炭素繊維複合材と比較して、短繊維の炭素繊維複合材で約1.5倍向上した。さらに短繊維材よりも、より繊維の補強効果が反映され易い織布を用いた炭素繊維複合材では約3.5倍も強度が向上している。従って、強化構成によって、強度の向上度合いに差はあるものの、特定のd値を有する炭素繊維を使用することで複合材を著しく高強度化できることが示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維と、樹脂とを混合後、成形し、炭素化処理してなる焼成体にシリコンを溶融含浸して得られる炭素繊維複合材であって、
X線回折法による、前記炭素繊維の炭素002面の面間隔d002が、3.36〜3.43であることを特徴とする炭素繊維複合材。
【請求項2】
前記炭素繊維がピッチ由来の前駆体から焼成して得られた炭素繊維である請求項1に記載の炭素繊維複合材。
【請求項3】
前記炭素繊維がフェノール系レゾール樹脂でコーティングされてなる請求項1又は2に記載の炭素繊維複合材。
【請求項4】
前記炭素繊維をコーティングする樹脂中に炭素粉末が分散されてなる請求項3に記載の炭素繊維複合材。
【請求項5】
前記炭素繊維の繊維長が1〜20mmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材。
【請求項6】
前記炭素繊維の繊維束(トウ)が1000〜40000本/束である請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材。
【請求項7】
前記樹脂がフェノール系ノボラック樹脂である請求項1〜6のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材。
【請求項8】
前記炭素繊維と樹脂との混合の際に、更に黒鉛及び有機繊維を含有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材。
【請求項9】
前記有機繊維がフィブリル化アクリル繊維である請求項8に記載の炭素繊維複合材。
【請求項10】
前記炭素繊維と樹脂との混合に際し、さらに炭化ケイ素粉末を混合する請求項1〜9のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材。
【請求項11】
炭素繊維複合材のマトリックス部が炭化ケイ素を主成分とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材を用いたブレーキ用部材。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材を用いた半導体用構造部材。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材を用いた耐熱性パネル。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材を用いたヒートシンク。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−190168(P2011−190168A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33312(P2011−33312)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】