研磨方法および研磨装置
【課題】可視光線を用いてシリコン層などの半導体層の研磨終点を正確に検知することができる研磨方法および研磨装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る研磨方法は、半導体層の研磨中に該半導体層に可視光を照射し、半導体層からの反射光を受光し、反射光の所定の波長範囲での強度を測定し、強度の測定値を所定の基準強度で割って相対反射率を算出し、相対反射率と反射光の波長との関係を示すスペクトルを生成し、スペクトルから、半導体層の厚さに従って変化する研磨指標を求め、研磨指標が所定のしきい値に達した時点に基づいて半導体層の研磨を終了する。
【解決手段】本発明に係る研磨方法は、半導体層の研磨中に該半導体層に可視光を照射し、半導体層からの反射光を受光し、反射光の所定の波長範囲での強度を測定し、強度の測定値を所定の基準強度で割って相対反射率を算出し、相対反射率と反射光の波長との関係を示すスペクトルを生成し、スペクトルから、半導体層の厚さに従って変化する研磨指標を求め、研磨指標が所定のしきい値に達した時点に基づいて半導体層の研磨を終了する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンなどの半導体材料からなる半導体層を研磨する方法および装置に関し、特に半導体層からの反射光のスペクトルに基づいて該半導体層の研磨終点を検知する研磨方法および研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスには、SiO2などの絶縁膜を研磨する工程や、銅、タングステンなどの金属膜を研磨する工程などの様々な工程が含まれる。裏面照射型CMOSセンサの製造工程では、絶縁膜や金属膜の研磨工程以外に、受光面を形成するシリコン層(シリコン基板)を研磨する工程が含まれる。裏面照射型CMOSセンサはイメージセンサの一種であり、シリコン層の内部にフォトダイオードが埋設されている。そして、シリコン層を研磨することで受光面とフォトダイオードとの距離が調節される。
【0003】
図1は、裏面照射型CMOSセンサを模式的に示す断面図である。図1に示すように、金属配線(例えば、Cu配線)4や絶縁膜(例えば、SiO2膜)5などから構成される配線構造6の上にフォトダイオード2およびシリコン層1が形成されている。シリコン層1は、典型的には、ホウ素やリンなどの不純物を微量に含んだシリコンから構成されている。フォトダイオード2はシリコン層1の内部に埋設されており、このシリコン層1の露出面が受光面1aとなる。図1から分かるように、裏面照射型CMOSセンサは、受光面1aとフォトダイオード2との間に配線構造6が存在しないため、フォトダイオード2が効率よく光を受けることができるという特徴がある。
【0004】
裏面照射型CMOSセンサにおいては、シリコン層1の受光面1aからフォトダイオード2までの距離が重要とされる。典型的には、シリコン層1を機械的に研削した後、CMP(化学的機械的研磨)を用いてシリコン層1をさらに研磨して、受光面1aとフォトダイオード2との距離を調節する。したがって、CMPにおいては、シリコン層1が所定の厚さに到達した時点で研磨を終了することが重要である。
【0005】
シリコン層のCMPにおいては、予め定められた研磨時間が経過した時点でシリコン層の研磨を終了させるのが一般的である。この研磨時間は、予め同種のサンプルウェハを研磨してシリコン層が所定の厚さに到達するのに必要な時間を計測することにより決定される。しかしながら、この方法は、研磨パッドの摩耗などに起因する研磨速度の経時的な変化の影響を受けてしまうため、研磨後のシリコン層の厚さが安定しないという問題がある。
【0006】
他の研磨終点検知方法として、特許文献1に示すように、基板からの反射光に基づいて光学的に研磨終点を検知する方法が知られている。この方法によれば、シリコン層の研磨中に該シリコン層に光を当て、シリコン層からの反射光からスペクトルを生成し、このスペクトルの変化に基づいて研磨終点が検知される。
【0007】
しかしながら、シリコン層は、SiO2などの絶縁膜に比べて屈折率が大きく(光の波長帯域にもよるが、SiO2の2.5〜4倍程度)、かつ、光が透過しにくいという性質を持っている。透過性のよい波長の長い光、例えば赤外線を用いることも可能ではあるが、赤外線用に新たに設計された研磨終点検知装置が必要となる。例えば、分光器の回折格子およびフィルタとして赤外線用に設計されたものを使用する必要があり、さらには赤外線用の光ファイバや光検出器が必要になって、装置コストが高くなる。また、このようなシリコン層専用の研磨終点検知装置は、屈折率や膜厚の小さい絶縁層の研磨終点の検知には逆に適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−154928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたもので、可視光線を用いてシリコン層などの半導体層の研磨終点を正確に検知することができる研磨方法および研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するために、本発明の一態様は、半導体層を有する基板を研磨する方法であって、前記半導体層の研磨中に該半導体層に可視光を照射し、前記半導体層からの反射光を受光し、前記反射光の所定の波長範囲での強度を測定し、前記強度の測定値を所定の基準強度で割って相対反射率を算出し、前記相対反射率と前記反射光の波長との関係を示すスペクトルを生成し、前記スペクトルから、前記半導体層の厚さに従って変化する研磨指標を求め、前記研磨指標が所定のしきい値に達した時点に基づいて前記半導体層の研磨を終了することを特徴とする。
【0011】
本発明の好ましい態様は、前記所定の波長範囲の上限値は、800nm以下であることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記研磨指標は、650nm〜800nmの範囲にある所定の波長での相対反射率であることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記研磨指標は、前記所定の波長での相対反射率の移動平均であることを特徴とする。
【0012】
本発明の好ましい態様は、前記研磨指標は、650nm〜800nmの範囲にある第1の波長での第1の相対反射率と、300nm〜550nmの範囲にある第2の波長での第2の相対反射率とを少なくとも含む複数の相対反射率から算出される特性値であり、前記特性値は、前記複数の相対反射率から選択された1つの相対反射率を、前記複数の相対反射率の総和で割り算することで求められることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記研磨指標は、前記特性値の移動平均であることを特徴とする。
【0013】
本発明の好ましい態様は、前記スペクトルに平滑化処理を施す工程をさらに含み、前記研磨指標は、前記平滑化されたスペクトルから求められることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記半導体層は、裏面照射型CMOSセンサの受光面を構成するシリコン層であることを特徴とする。
【0014】
本発明の他の態様は、半導体層を有する基板を研磨する装置であって、前記半導体層の研磨中に該半導体層に可視光を照射する投光部と、前記半導体層からの反射光を受光する受光部と、前記反射光の所定の波長範囲での強度を測定する分光器と、前記強度の測定値を所定の基準強度で割って相対反射率を算出し、前記相対反射率と前記反射光の波長との関係を示すスペクトルを生成する処理装置とを備え、前記処理装置は、前記スペクトルから、前記半導体層の厚さに従って変化する研磨指標を求め、前記研磨指標が所定のしきい値に達した時点に基づいて前記半導体層の研磨終点を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、可視光線を用いて研磨終点を検知することができるので、金属膜や絶縁膜の研磨に使用される研磨終点検知装置をそのまま利用することが可能である。また、本発明によれば、研磨時間ではなく、半導体層からの反射光のスペクトルに基づいて研磨終点が検知されるので、研磨パッドの摩耗などの影響を受けることなく、正確な研磨終点検知が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】裏面照射型CMOSセンサを模式的に示す断面図である。
【図2】図2(a)は、本発明の一実施形態に係る研磨終点検知の原理を説明するための模式図であり、図2(b)は基板と研磨テーブルとの位置関係を示す平面図である。
【図3】図3(a)乃至図3(c)は、図1に示す構造の基板を研磨して得られた反射光のスペクトルを示すグラフである。
【図4】図3(a)乃至図3(c)に示す、波長600nmでの相対反射率の研磨中における時間変化を示すグラフである。
【図5】図3(a)乃至図3(c)に示す、波長750nmでの相対反射率の研磨中における時間変化を示すグラフである。
【図6】図3(a)乃至図3(c)に示すスペクトル中の複数の相対反射率を用いて算出された特性値の時間軸に沿った変化を示すグラフである。
【図7】図3(c)に示すスペクトルに数値フィルタを適用して得られたスペクトルを示すグラフである。
【図8】図7に示す数値フィルタ適用後のスペクトル上の波長750nmにおける相対反射率の研磨中の時間変化を示すグラフである。
【図9】シリコン層の厚さのばらつきが±700nmの範囲にある基板を研磨したときの、波長750nmでの相対反射率の時間変化を示すグラフである。
【図10】波長分解能が約10nmである分光器を使用したときの相対反射率の研磨中の時間変化を示すグラフである。
【図11】研磨終点検知装置を備えた研磨装置を模式的に示す断面図である。
【図12】図11に示す研磨装置の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図2(a)は、本発明の一実施形態に係る研磨終点検知の原理を説明するための模式図であり、図2(b)は基板と研磨テーブルとの位置関係を示す平面図である。研磨対象となる基板Wは、図1に示す裏面照射型CMOSセンサが表面に形成された基板であり、シリコン層1が研磨すべき対象物である。研磨前のシリコン層1の厚さは、数μmであり、通常は5μm以上である。基板Wの表面(すなわち、シリコン層1の受光面1a)は、回転する研磨テーブル20上の研磨パッド22に押圧され、基板Wのシリコン層1は研磨パッド22との摺接により研磨される。基板Wの研磨中は、研磨パッド22上に研磨液(スラリー)が供給される。
【0018】
投光部11および受光部12は、基板Wの表面に対向して配置されている。投光部11は、基板Wの表面に対してほぼ垂直に光を照射し、受光部12は基板Wからの反射光を受ける。投光部11が発する光は、可視光である。研磨液が光の通路に侵入しないようにするために、投光部11,受光部12と基板Wとの間の空間には純水の流れが形成されている。
【0019】
図2(b)に示すように、研磨テーブル20が1回転するたびに基板Wの中心を含む複数の計測点に光が照射される。受光部12には分光器13が接続されている。この分光器13は、反射光を波長に従って分解し、反射光の強度を波長ごとに測定する。分光器13が測定可能な波長範囲は、400nm〜800nmであるが、本発明はこれに限らず、例えば300nm〜800nmであってもよい。
【0020】
分光器13には、処理装置15が接続されている。この処理装置15は、分光器13によって取得された測定データを読み込み、強度の測定値から反射光の強度分布を生成する。より具体的には、処理装置15は、波長ごとの光の強度を表すスペクトルを生成する。このスペクトルは、反射光の波長と強度との関係を示す線グラフとして表すことができる。処理装置15は、さらに、スペクトルの変化から研磨の進捗を監視し、研磨終点を決定するように構成されている。処理装置15としては、汎用または専用のコンピュータを使用することができる。処理装置15は、プログラム(またはコンピュータソフトウエア)によって所定の処理ステップを実行する。
【0021】
図3(a)乃至図3(c)は、図1に示す構造の基板を研磨して得られた反射光のスペクトルを示すグラフである。図3(a)乃至図3(c)において、横軸は光の波長(nm)を表わし、縦軸は光の強度から算出される相対反射率(%)を表す。この相対反射率とは、光の強度を表す指標であり、具体的には、所定の基準強度に対する反射光の強度の割合(または反射光の強度と所定の基準強度との比)である。反射光の強度(実測強度)を所定の基準強度で割ることにより、ノイズ成分が除去された光の強度を得ることができる。所定の基準強度は、例えば、研磨パッド上に純水を供給しながら、膜が形成されていないシリコンウェハ(すなわちベアシリコンウェハ)を研磨しているときに得られた反射光の強度とすることができる。このベアシリコンウェハは、光を通さない程度の十分な厚さを有しており、例えば、数百μmの厚みを有することが好ましい。
【0022】
処理装置15は、分光器13から得られる測定値から相対反射率を算出する。ここで、相対反射率の求め方の一例について説明する。相対反射率R(λ)は、次の式を用いて求めることができる。
R(λ)={E(λ)−D(λ)}/{B(λ)−D(λ)}×100 …(1)
ここで、λは光の波長であり、E(λ)は反射光の強度(測定値)であり、B(λ)は基準強度であり、D(λ)は光がない状態で取得された背景強度(ダークレベル)である。このように、相対反射率は、波長をパラメータとして用いた、反射光の強度を示す指標である。この相対反射率は、以下に説明するように、シリコン層の厚さに従って変化する。したがって、相対反射率は、研磨の進捗を示す指標、すなわち研磨指標ということもできる。なお、一実施例としては、相対反射率を使用せずに、反射光の強度そのものを研磨指標として使用してもよい。
【0023】
図3(a)は研磨開始直後のスペクトルを示し、図3(b)は研磨中盤でのスペクトルを示し、図3(c)は研磨終了直前のスペクトルを示している。これら図3(a)乃至図3(c)から分かるように、波長600nm以下(より正確には550nm以下)の領域では、相対反射率はほとんど変化せず、研磨中はほぼ100%を示している。これは、波長600nm以下の領域では、光はシリコン層をほとんど透過しないことを意味している。一方、波長650nm以上の領域では、研磨の進行(すなわち、シリコン層の厚さの減少)とともに、相対反射率が増加する。これは、シリコン層の厚さが減少するにつれて光がシリコン層を透過し、シリコン層の下にある配線構造からの反射光が増加していることを意味している。この相対反射率の増加傾向は、波長が長くなるほど顕著に現われる。
【0024】
スペクトルには、反射光同士の干渉に起因する2つの波状の干渉成分が現われる。2つの干渉成分のうちの1つは、小さな波形を持つ干渉成分であり、隣り合う極大点(または極小点)間の間隔は30nm以下である。他の干渉成分は、図3(c)に比較的明確に現われているように、大きな波形を持つ干渉成分であり、隣り合う極大点(または極小点)間の間隔は約100nmである。小さな干渉成分は、主にシリコン層の上面からの反射光とシリコン層の下面(配線構造の上面)からの反射光との干渉に起因して生じたものであり、一方、大きな干渉成分は、シリコン層の下にある配線構造(絶縁材+配線)の上下両界面における反射光同士の干渉に起因して生じたものと考えられる。
【0025】
図4は、図3(a)乃至図3(c)に示す、波長600nmでの相対反射率の研磨中における時間変化を示すグラフである。図4において、縦軸は相対反射率(%)を表し、横軸は研磨時間(秒)を表している。上述したように、研磨テーブル20が1回転するごとに、基板W上の複数の領域に対応した複数の測定値が取得される。本実施形態では、処理装置15は、研磨テーブル20が1回転するごとに取得される複数の計測点(図2(b)参照)での反射光の強度から複数の相対反射率を求め、その平均を算出する。なお、複数の計測点での測定値(反射光の強度)の平均を算出し、その平均から相対反射率を求めてもよい。図3(a)乃至図3(c)のグラフから分かるように、波長600nm以下の領域ではシリコン層は光をほとんど透過しないので、相対反射率は研磨中ほぼ一定である。
【0026】
図5は、図3(a)乃至図3(c)に示す、波長750nmでの相対反射率の研磨中における時間変化を示すグラフである。図5において、縦軸は相対反射率(%)を表し、横軸は研磨時間(秒)を表している。また図5の点線は相対反射率そのものを示し、実線は相対反射率の単純移動平均を示している。この単純移動平均は、直近の10秒間に取得された相対反射率の平均である。本実施形態では、移動平均の期間を10秒としているが、適宜変更することができる。
【0027】
相対反射率は、図5の点線で示されるように、上述した干渉成分に起因して研磨時間の経過と共に周期的に変動する。移動平均処理は、この変動する相対反射率を平滑化するために行なわれるものである。図5の実線に示されるように、相対反射率の移動平均は、研磨時間とともに単調に増加する。
【0028】
移動平均の期間は、相対反射率の時間軸に沿った変動の周期、すなわち隣り合う極大点または極小点間の間隔に従って決定することが好ましい。具体的には、移動平均の期間は次のようにして決定することができる。シリコン層の概略の研磨速度(すなわち除去レート)をv、波長λにおけるシリコン層の屈折率をn、相対反射率の時間軸に沿った変動の周期をT、周期Tに相当するシリコン層の厚さの差をΔθとすると、次の式(2)および式(3)が得られる。
Δθ=λ/2n …(2)
T=Δθ/v=λ/2nv …(3)
【0029】
移動平均の期間は、上記式(3)から得られる周期Tに基づいて設定される。例えば、周期Tの略整数倍が移動平均の期間に決定される。このように周期Tよりも大きく、好ましくは周期Tの略整数倍になるように移動平均の期間を設定すると、図5の実線で示されるように、相対反射率が平滑化され、研磨時間とともに単調に増加する相対反射率の移動平均が得られる。相対反射率の移動平均は、研磨時間とともに単調増加するので、この相対反射率の移動平均をシリコン層の研磨の進捗を示す指標、すなわち研磨指標として使用することができる。
【0030】
処理装置15は、シリコン層の研磨中に相対反射率の移動平均を算出し、この相対反射率の移動平均が所定のしきい値に達した時点に基づいてシリコン層の研磨終点を決定する。研磨終点は、相対反射率の移動平均が所定のしきい値に達した時点としてもよいし、または相対反射率の移動平均が所定のしきい値に達した時点から所定のオーバーポリッシュ時間が経過した時点としてもよい。このオーバーポリッシュ時間は、基板Wと同種のサンプル基板を研磨して得られた、該サンプル基板の研磨時間と、研磨終了時の相対反射率のデータと、研磨前および研磨後のシリコン層の厚さの実測値とから決定することができる。具体的には、研磨前および研磨後のシリコン層の厚さの実測値と研磨時間とから研磨速度(除去レート)を求め、研磨終了時の相対反射率の移動平均をしきい値に設定し、目標厚さと研磨後のシリコン層の厚さの実測値との差および研磨速度からオーバーポリッシュ時間を決定することができる。
【0031】
図6は、図3(a)乃至図3(c)に示すスペクトル中の複数の相対反射率を用いて算出された特性値の時間軸に沿った変化を示すグラフである。この特性値も、シリコン層の研磨の進捗を示す研磨指標である。この特性値Sは、異なる波長における2つの相対反射率から、次の式を用いて求められる。
S(λ1,λ2)=R(λ1)/{R(λ1)+R(λ2)} …(4)
図6に示す例では、第1の波長λ1は750nmであり、第2の波長λ2は500nmである。図6の点線は上記式(4)から求められた特性値そのものを示し、実線は特性値の単純移動平均を示している。
【0032】
波長750nmでの相対反射率は、図5に示すように、研磨時間とともに増加する。一方、波長500nmでの相対反射率は、上述したように、研磨中ほぼ一定である。したがって、波長750nmでの相対反射率と波長500nmでの相対反射率との組み合わせから求められる特性値は、研磨中、波長750nmでの相対反射率と同様の周期で変動し、同様な増加傾向を示す。このように、研磨中ほぼ一定である相対反射率と、研磨中に増加する相対反射率との組み合わせからは、研磨時間(すなわち、シリコン層の厚さの変化)に従って変化する特性値が得られる。したがって、処理装置15は、この特性値に基づいて研磨終点を検知するように構成してもよい。この場合においても、特性値が所定のしきい値に達した時点を研磨終点としてもよく、または特性値が所定のしきい値に達した時点から所定のオーバーポリッシュ時間が経過した時点を研磨終点としてもよい。
【0033】
上記式(4)から分かるように、特性値は、相対反射率を相対反射率で割ることにより求められる。したがって、式(4)の分子に含まれるノイズ成分と分母に含まれるノイズ成分がキャンセルされ、安定した研磨指標が得られる。ノイズ成分としては、研磨パッド22と基板Wとの間に存在する気泡による受光量の突発的な減少や、研磨パッド22の摩耗による受光量の増加などが挙げられる。このようなノイズ成分は、シリコン層の研磨を監視する上では不要な成分である。上記式(4)によれば、相対反射率を相対反射率で割ることによりノイズ成分が除去された特性値を得ることができる。
【0034】
式(4)で表される特性値は、光の波長をパラメータとして用いた、反射光の強度を示す指標である。この特性値は、図6に示すように、研磨時間とともに増加傾向を示す。特性値の計算に使用されるパラメータとしての波長の数は、2つに限られず、3つ以上であってもよい。すなわち、特性値は、複数の波長における複数の相対反射率から算出される。波長λ1,λ2,…,λNでの複数の相対反射率を用いる場合は、上記式(4)は次のように表される。
S(λ1,λ2,…,λN)
=R(λ1)/{R(λ1)+R(λ2)+…+R(λN)} …(5)
【0035】
特性値の算出に使用される複数の相対反射率に対応する複数の波長は次のように選択される。複数の波長は、600nmよりも長い、好ましくは650nm以上の波長を少なくとも1つ含み、さらに、600nm以下の、好ましくは550nm以下の波長を少なくとも1つ含む。例えば、複数の波長は、650nm〜800nmの範囲から選択された少なくとも1つの波長と、300nm〜550nmの範囲から選択された少なくとも1つの波長とを含む。このように、選択すべき複数の波長は、研磨中に変化する相対反射率に対応する波長と、研磨中にほとんど変化しない相対反射率に対応する波長との組み合わせから構成される。
【0036】
式(5)の分母は、使用される複数の相対反射率の総和である。一方、式の分子に使用される相対反射率は、複数の相対反射率のうちのいずれか1つである。例えば、選択された複数の波長のうち最も長い、または最も短い波長に対応する相対反射率が式(5)の分子に置かれる。このような式(5)を使用することにより、ノイズの少ない、かつ研磨時間に従って変化する特性値を得ることができる。したがって、精度の高い研磨終点検知が実現できる。
【0037】
図7は、図3(c)に示すスペクトルに数値フィルタを適用して得られたスペクトルを示すグラフである。使用した数値フィルタ(デジタルフィルタ)は、3次のバターワースローパスフィルタであり、波長軸に沿った長さ20nm(干渉成分の極大点または極小点間の間隔)に相当する周波数をカットオフ周波数とする。この数値フィルタを波長軸に沿って両方向に2回適用し、ゼロ位相フィルタとして使用した。図7から分かるように、数値フィルタの適用後のスペクトルでは、20nm以下の細かな起伏(干渉成分)が除去されており、平滑化されたスペクトルが得られている。
【0038】
図8は、図7に示す数値フィルタ適用後のスペクトル上の波長750nmにおける相対反射率の研磨中の時間変化を示すグラフである。図8において、縦軸は相対反射率(%)を表し、横軸は研磨時間(秒)を表している。また図8の点線は相対反射率そのものを示し、実線は数値フィルタ適用後のスペクトルから得られた相対反射率を示している。図8から分かるように、平滑化されたスペクトルから得られた相対反射率は、研磨時間とともに単調に増加する。
【0039】
このように、移動平均処理に代えて、フィルタを用いた平滑化処理を研磨中の各時点で得られたスペクトルに対して行なってもよい。いずれの場合でも、相対反射率は研磨中に単調に増加するので、この相対反射率の変化に基づいて研磨の進捗の監視および研磨終点の検知が可能となる。なお、スペクトルに平滑化処理をする場合において、シリコン層における光の干渉に基づく変動以外のノイズ成分を除去するために、得られた相対反射率に対してさらに移動平均処理または平滑化処理を行なってもよい。
【0040】
上述した例で使用された基板は、シリコン層の厚さが基板の表面内でほぼ均一な基板であり、例えば、シリコン層の厚さのばらつきが±150nmの範囲内にある。これに対し、シリコン層の厚さが基板の表面内で大きくばらついている場合、上述したような移動平均処理やフィルタリングを行なわなくとも、相対反射率が単調増加することがある。これは、図2(b)に示すように、研磨テーブル20が1回転するごとに基板上の複数の計測点からの反射光の強度が測定され、その測定値から得られる複数の相対反射率の平均が求められるからである。すなわち、各計測点で得られたスペクトルは、シリコン層の厚さのばらつきの影響により、異なる波長で現われる極大点および極小点を有している。したがって、複数の計測点での複数の相対反射率の平均を求めると、これらの極大点および極小点がキャンセルされ、相対反射率の時間変化の波形が平滑化される。
【0041】
図9は、シリコン層の厚さのばらつきが±700nmの範囲にある基板を研磨したときの、波長750nmでの相対反射率の時間変化を示すグラフである。このグラフに示すように、シリコン層の厚さのばらつきがある程度大きい場合、研磨中の相対反射率は、研磨時間とともに単調に増加する。したがって、この場合は移動平均処理やスペクトルの平滑化処理を行なうことは不要である。
【0042】
シリコン層の厚さのばらつきが小さい場合でも、分光器13の分解能によっては、移動平均処理やスペクトルの平滑化処理を行なうことが不要となることがある。図10は、波長分解能が約10nmと大きい分光器を使用したときの相対反射率の研磨中の時間変化を示すグラフである。この例では、図5に示す例と同じ構造の基板を使用した。図10から分かるように、研磨時間とともに相対反射率が増加する点では図5の例と同様であるが、図5の実線で示される相対反射率に比べて、図10の相対反射率の変動が小さい。これは、分光器13が、比較的広い波長範囲ごとに反射光の強度を測定するため、結果として反射光の強度が平均化されるためと考えられる。
【0043】
図11は、上述した研磨終点検出方法を実行することができる研磨終点検知装置を備えた研磨装置を模式的に示す断面図である。図11に示すように、研磨装置は、研磨パッド22を支持する研磨テーブル20と、基板Wを保持して研磨パッド22に押圧するトップリング24と、研磨パッド22に研磨液(スラリ)を供給する研磨液供給機構25とを備えている。研磨テーブル20は、その下方に配置されるモータ(図示せず)に連結されており、軸心周りに回転可能になっている。研磨パッド22は、研磨テーブル20の上面に固定されている。
【0044】
研磨パッド22の上面22aは、基板Wを研磨する研磨面を構成している。トップリング24は、トップリングシャフト28を介してモータ及び昇降シリンダ(図示せず)に連結されている。これにより、トップリング24は昇降可能かつトップリングシャフト28周りに回転可能となっている。このトップリング24の下面には、基板Wが真空吸着等によって保持される。
【0045】
トップリング24の下面に保持された基板Wはトップリング24によって回転させられつつ、回転している研磨テーブル20上の研磨パッド22にトップリング24によって押圧される。このとき、研磨液供給機構25から研磨パッド22の研磨面22aに研磨液が供給され、基板Wの表面と研磨パッド22との間に研磨液が存在した状態で基板Wの表面が研磨される。基板Wと研磨パッド22とを摺接させる相対移動機構は、研磨テーブル20およびトップリング24によって構成される。
【0046】
研磨テーブル20には、その上面で開口する孔30が形成されている。また、研磨パッド22には、この孔30に対応する位置に通孔31が形成されている。孔30と通孔31とは連通し、通孔31は研磨面22aで開口している。孔30は液体供給路33およびロータリージョイント32を介して液体供給源35に連結されている。研磨中は、液体供給源35からは、透明な液体として水(好ましくは純水)が孔30に供給され、基板Wの下面と通孔31とによって形成される空間を満たし、液体排出路34を通じて排出される。研磨液は水と共に排出され、これにより光路が確保される。液体供給路33には、研磨テーブル20の回転に同期して作動するバルブ(図示せず)が設けられている。このバルブは、通孔31の上に基板Wが位置しないときは水の流れを止める、または水の流量を少なくするように動作する。
【0047】
研磨装置は、上述した方法に従って研磨の進捗を監視し、かつ、研磨終点を検出する研磨終点検知装置を有している。この研磨終点検知装置は、光を基板Wの被研磨面に照射する投光部11と、基板Wから戻ってくる反射光を受光する受光部としての光ファイバー12と、基板Wからの反射光を波長に従って分解し、所定の波長範囲に亘って反射光の強度を測定する分光器13と、分光器13によって取得された測定データからスペクトルを生成し、このスペクトルの変化に基づいて研磨の進捗を監視する処理装置15とを備えている。スペクトルは、所定の波長範囲に亘って分布する光の強度を示すものであり、光の強度と波長との関係を示す線グラフとして表される。
【0048】
投光部11は、光源40と、光源40に接続された光ファイバー41とを備えている。光ファイバー41は、光源40の光を基板Wの表面まで導く光伝送部である。光ファイバー41は、光源40から孔30を通って基板Wの被研磨面の近傍位置まで延びている。光ファイバー41および光ファイバー12の各先端は、トップリング24に保持された基板Wの中心に対向して配置され、図2(b)に示すように、研磨テーブル20が回転するたびに基板Wの中心を含む領域に光が照射されるようになっている。
【0049】
光源40としては、発光ダイオード(LED)、ハロゲンランプ、キセノンフラッシュランプなど、複数の波長を持つ光を発する光源を用いることができる。光ファイバー41と光ファイバー12は互いに並列に配置されている。光ファイバー41および光ファイバー12の各先端は、基板Wの表面に対してほぼ垂直に配置されており、光ファイバー41は基板Wの表面にほぼ垂直に光を照射するようになっている。
【0050】
基板Wの研磨中は、投光部11から光が基板Wに照射され、光ファイバー12によって基板Wからの反射光が受光される。光が照射される間、孔30には水が供給され、これにより、光ファイバー41および光ファイバー12の各先端と、基板Wの表面との間の空間は水で満たされる。分光器13は、波長ごとの反射光の強度を測定し、処理装置15は、反射光の相対反射率と波長との関係を示す反射光のスペクトルを生成する。さらに処理装置15は、上述したように、反射光のスペクトルから、研磨の進捗を示す研磨指標を求め、該研磨指標が所定のしきい値に達した時点に基づいて研磨終点を決定する。研磨の進捗を示す研磨指標は、上述したように、所定の波長での相対反射率、または所定の複数の波長での相対反射率から算出される特性値である。
【0051】
図12は、図11に示す研磨装置の変形例を示す断面図である。図12に示す例では、液体供給路、液体排出路、液体供給源は設けられていない。これに代えて、研磨パッド22には透明窓45が形成されている。投光部11の光ファイバー41は、この透明窓45を通じて研磨パッド22上の基板Wの表面に光を照射し、受光部としての光ファイバー12は、透明窓45を通じて基板Wからの反射光を受光する。その他の構成は、図11に示す研磨装置と同様である。
【0052】
本発明は、裏面照射型CMOSセンサの研磨に限らず、シリコンなどの半導体材料を主成分とする、厚さ数μm以上の半導体層を有するデバイスの研磨にも適用することが可能である。
【0053】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲とすべきである。
【符号の説明】
【0054】
11 投光部
12 受光部
13 分光器
15 処理装置
20 研磨テーブル
22 研磨パッド
24 トップリング
25 研磨液供給機構
28 トップリングシャフト
30 孔
31 通孔
32 ロータリージョイント
33 液体供給路
34 液体排出路
35 液体供給源
40 光源
41 光ファイバー
45 透明窓
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンなどの半導体材料からなる半導体層を研磨する方法および装置に関し、特に半導体層からの反射光のスペクトルに基づいて該半導体層の研磨終点を検知する研磨方法および研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスには、SiO2などの絶縁膜を研磨する工程や、銅、タングステンなどの金属膜を研磨する工程などの様々な工程が含まれる。裏面照射型CMOSセンサの製造工程では、絶縁膜や金属膜の研磨工程以外に、受光面を形成するシリコン層(シリコン基板)を研磨する工程が含まれる。裏面照射型CMOSセンサはイメージセンサの一種であり、シリコン層の内部にフォトダイオードが埋設されている。そして、シリコン層を研磨することで受光面とフォトダイオードとの距離が調節される。
【0003】
図1は、裏面照射型CMOSセンサを模式的に示す断面図である。図1に示すように、金属配線(例えば、Cu配線)4や絶縁膜(例えば、SiO2膜)5などから構成される配線構造6の上にフォトダイオード2およびシリコン層1が形成されている。シリコン層1は、典型的には、ホウ素やリンなどの不純物を微量に含んだシリコンから構成されている。フォトダイオード2はシリコン層1の内部に埋設されており、このシリコン層1の露出面が受光面1aとなる。図1から分かるように、裏面照射型CMOSセンサは、受光面1aとフォトダイオード2との間に配線構造6が存在しないため、フォトダイオード2が効率よく光を受けることができるという特徴がある。
【0004】
裏面照射型CMOSセンサにおいては、シリコン層1の受光面1aからフォトダイオード2までの距離が重要とされる。典型的には、シリコン層1を機械的に研削した後、CMP(化学的機械的研磨)を用いてシリコン層1をさらに研磨して、受光面1aとフォトダイオード2との距離を調節する。したがって、CMPにおいては、シリコン層1が所定の厚さに到達した時点で研磨を終了することが重要である。
【0005】
シリコン層のCMPにおいては、予め定められた研磨時間が経過した時点でシリコン層の研磨を終了させるのが一般的である。この研磨時間は、予め同種のサンプルウェハを研磨してシリコン層が所定の厚さに到達するのに必要な時間を計測することにより決定される。しかしながら、この方法は、研磨パッドの摩耗などに起因する研磨速度の経時的な変化の影響を受けてしまうため、研磨後のシリコン層の厚さが安定しないという問題がある。
【0006】
他の研磨終点検知方法として、特許文献1に示すように、基板からの反射光に基づいて光学的に研磨終点を検知する方法が知られている。この方法によれば、シリコン層の研磨中に該シリコン層に光を当て、シリコン層からの反射光からスペクトルを生成し、このスペクトルの変化に基づいて研磨終点が検知される。
【0007】
しかしながら、シリコン層は、SiO2などの絶縁膜に比べて屈折率が大きく(光の波長帯域にもよるが、SiO2の2.5〜4倍程度)、かつ、光が透過しにくいという性質を持っている。透過性のよい波長の長い光、例えば赤外線を用いることも可能ではあるが、赤外線用に新たに設計された研磨終点検知装置が必要となる。例えば、分光器の回折格子およびフィルタとして赤外線用に設計されたものを使用する必要があり、さらには赤外線用の光ファイバや光検出器が必要になって、装置コストが高くなる。また、このようなシリコン層専用の研磨終点検知装置は、屈折率や膜厚の小さい絶縁層の研磨終点の検知には逆に適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−154928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたもので、可視光線を用いてシリコン層などの半導体層の研磨終点を正確に検知することができる研磨方法および研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するために、本発明の一態様は、半導体層を有する基板を研磨する方法であって、前記半導体層の研磨中に該半導体層に可視光を照射し、前記半導体層からの反射光を受光し、前記反射光の所定の波長範囲での強度を測定し、前記強度の測定値を所定の基準強度で割って相対反射率を算出し、前記相対反射率と前記反射光の波長との関係を示すスペクトルを生成し、前記スペクトルから、前記半導体層の厚さに従って変化する研磨指標を求め、前記研磨指標が所定のしきい値に達した時点に基づいて前記半導体層の研磨を終了することを特徴とする。
【0011】
本発明の好ましい態様は、前記所定の波長範囲の上限値は、800nm以下であることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記研磨指標は、650nm〜800nmの範囲にある所定の波長での相対反射率であることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記研磨指標は、前記所定の波長での相対反射率の移動平均であることを特徴とする。
【0012】
本発明の好ましい態様は、前記研磨指標は、650nm〜800nmの範囲にある第1の波長での第1の相対反射率と、300nm〜550nmの範囲にある第2の波長での第2の相対反射率とを少なくとも含む複数の相対反射率から算出される特性値であり、前記特性値は、前記複数の相対反射率から選択された1つの相対反射率を、前記複数の相対反射率の総和で割り算することで求められることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記研磨指標は、前記特性値の移動平均であることを特徴とする。
【0013】
本発明の好ましい態様は、前記スペクトルに平滑化処理を施す工程をさらに含み、前記研磨指標は、前記平滑化されたスペクトルから求められることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記半導体層は、裏面照射型CMOSセンサの受光面を構成するシリコン層であることを特徴とする。
【0014】
本発明の他の態様は、半導体層を有する基板を研磨する装置であって、前記半導体層の研磨中に該半導体層に可視光を照射する投光部と、前記半導体層からの反射光を受光する受光部と、前記反射光の所定の波長範囲での強度を測定する分光器と、前記強度の測定値を所定の基準強度で割って相対反射率を算出し、前記相対反射率と前記反射光の波長との関係を示すスペクトルを生成する処理装置とを備え、前記処理装置は、前記スペクトルから、前記半導体層の厚さに従って変化する研磨指標を求め、前記研磨指標が所定のしきい値に達した時点に基づいて前記半導体層の研磨終点を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、可視光線を用いて研磨終点を検知することができるので、金属膜や絶縁膜の研磨に使用される研磨終点検知装置をそのまま利用することが可能である。また、本発明によれば、研磨時間ではなく、半導体層からの反射光のスペクトルに基づいて研磨終点が検知されるので、研磨パッドの摩耗などの影響を受けることなく、正確な研磨終点検知が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】裏面照射型CMOSセンサを模式的に示す断面図である。
【図2】図2(a)は、本発明の一実施形態に係る研磨終点検知の原理を説明するための模式図であり、図2(b)は基板と研磨テーブルとの位置関係を示す平面図である。
【図3】図3(a)乃至図3(c)は、図1に示す構造の基板を研磨して得られた反射光のスペクトルを示すグラフである。
【図4】図3(a)乃至図3(c)に示す、波長600nmでの相対反射率の研磨中における時間変化を示すグラフである。
【図5】図3(a)乃至図3(c)に示す、波長750nmでの相対反射率の研磨中における時間変化を示すグラフである。
【図6】図3(a)乃至図3(c)に示すスペクトル中の複数の相対反射率を用いて算出された特性値の時間軸に沿った変化を示すグラフである。
【図7】図3(c)に示すスペクトルに数値フィルタを適用して得られたスペクトルを示すグラフである。
【図8】図7に示す数値フィルタ適用後のスペクトル上の波長750nmにおける相対反射率の研磨中の時間変化を示すグラフである。
【図9】シリコン層の厚さのばらつきが±700nmの範囲にある基板を研磨したときの、波長750nmでの相対反射率の時間変化を示すグラフである。
【図10】波長分解能が約10nmである分光器を使用したときの相対反射率の研磨中の時間変化を示すグラフである。
【図11】研磨終点検知装置を備えた研磨装置を模式的に示す断面図である。
【図12】図11に示す研磨装置の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図2(a)は、本発明の一実施形態に係る研磨終点検知の原理を説明するための模式図であり、図2(b)は基板と研磨テーブルとの位置関係を示す平面図である。研磨対象となる基板Wは、図1に示す裏面照射型CMOSセンサが表面に形成された基板であり、シリコン層1が研磨すべき対象物である。研磨前のシリコン層1の厚さは、数μmであり、通常は5μm以上である。基板Wの表面(すなわち、シリコン層1の受光面1a)は、回転する研磨テーブル20上の研磨パッド22に押圧され、基板Wのシリコン層1は研磨パッド22との摺接により研磨される。基板Wの研磨中は、研磨パッド22上に研磨液(スラリー)が供給される。
【0018】
投光部11および受光部12は、基板Wの表面に対向して配置されている。投光部11は、基板Wの表面に対してほぼ垂直に光を照射し、受光部12は基板Wからの反射光を受ける。投光部11が発する光は、可視光である。研磨液が光の通路に侵入しないようにするために、投光部11,受光部12と基板Wとの間の空間には純水の流れが形成されている。
【0019】
図2(b)に示すように、研磨テーブル20が1回転するたびに基板Wの中心を含む複数の計測点に光が照射される。受光部12には分光器13が接続されている。この分光器13は、反射光を波長に従って分解し、反射光の強度を波長ごとに測定する。分光器13が測定可能な波長範囲は、400nm〜800nmであるが、本発明はこれに限らず、例えば300nm〜800nmであってもよい。
【0020】
分光器13には、処理装置15が接続されている。この処理装置15は、分光器13によって取得された測定データを読み込み、強度の測定値から反射光の強度分布を生成する。より具体的には、処理装置15は、波長ごとの光の強度を表すスペクトルを生成する。このスペクトルは、反射光の波長と強度との関係を示す線グラフとして表すことができる。処理装置15は、さらに、スペクトルの変化から研磨の進捗を監視し、研磨終点を決定するように構成されている。処理装置15としては、汎用または専用のコンピュータを使用することができる。処理装置15は、プログラム(またはコンピュータソフトウエア)によって所定の処理ステップを実行する。
【0021】
図3(a)乃至図3(c)は、図1に示す構造の基板を研磨して得られた反射光のスペクトルを示すグラフである。図3(a)乃至図3(c)において、横軸は光の波長(nm)を表わし、縦軸は光の強度から算出される相対反射率(%)を表す。この相対反射率とは、光の強度を表す指標であり、具体的には、所定の基準強度に対する反射光の強度の割合(または反射光の強度と所定の基準強度との比)である。反射光の強度(実測強度)を所定の基準強度で割ることにより、ノイズ成分が除去された光の強度を得ることができる。所定の基準強度は、例えば、研磨パッド上に純水を供給しながら、膜が形成されていないシリコンウェハ(すなわちベアシリコンウェハ)を研磨しているときに得られた反射光の強度とすることができる。このベアシリコンウェハは、光を通さない程度の十分な厚さを有しており、例えば、数百μmの厚みを有することが好ましい。
【0022】
処理装置15は、分光器13から得られる測定値から相対反射率を算出する。ここで、相対反射率の求め方の一例について説明する。相対反射率R(λ)は、次の式を用いて求めることができる。
R(λ)={E(λ)−D(λ)}/{B(λ)−D(λ)}×100 …(1)
ここで、λは光の波長であり、E(λ)は反射光の強度(測定値)であり、B(λ)は基準強度であり、D(λ)は光がない状態で取得された背景強度(ダークレベル)である。このように、相対反射率は、波長をパラメータとして用いた、反射光の強度を示す指標である。この相対反射率は、以下に説明するように、シリコン層の厚さに従って変化する。したがって、相対反射率は、研磨の進捗を示す指標、すなわち研磨指標ということもできる。なお、一実施例としては、相対反射率を使用せずに、反射光の強度そのものを研磨指標として使用してもよい。
【0023】
図3(a)は研磨開始直後のスペクトルを示し、図3(b)は研磨中盤でのスペクトルを示し、図3(c)は研磨終了直前のスペクトルを示している。これら図3(a)乃至図3(c)から分かるように、波長600nm以下(より正確には550nm以下)の領域では、相対反射率はほとんど変化せず、研磨中はほぼ100%を示している。これは、波長600nm以下の領域では、光はシリコン層をほとんど透過しないことを意味している。一方、波長650nm以上の領域では、研磨の進行(すなわち、シリコン層の厚さの減少)とともに、相対反射率が増加する。これは、シリコン層の厚さが減少するにつれて光がシリコン層を透過し、シリコン層の下にある配線構造からの反射光が増加していることを意味している。この相対反射率の増加傾向は、波長が長くなるほど顕著に現われる。
【0024】
スペクトルには、反射光同士の干渉に起因する2つの波状の干渉成分が現われる。2つの干渉成分のうちの1つは、小さな波形を持つ干渉成分であり、隣り合う極大点(または極小点)間の間隔は30nm以下である。他の干渉成分は、図3(c)に比較的明確に現われているように、大きな波形を持つ干渉成分であり、隣り合う極大点(または極小点)間の間隔は約100nmである。小さな干渉成分は、主にシリコン層の上面からの反射光とシリコン層の下面(配線構造の上面)からの反射光との干渉に起因して生じたものであり、一方、大きな干渉成分は、シリコン層の下にある配線構造(絶縁材+配線)の上下両界面における反射光同士の干渉に起因して生じたものと考えられる。
【0025】
図4は、図3(a)乃至図3(c)に示す、波長600nmでの相対反射率の研磨中における時間変化を示すグラフである。図4において、縦軸は相対反射率(%)を表し、横軸は研磨時間(秒)を表している。上述したように、研磨テーブル20が1回転するごとに、基板W上の複数の領域に対応した複数の測定値が取得される。本実施形態では、処理装置15は、研磨テーブル20が1回転するごとに取得される複数の計測点(図2(b)参照)での反射光の強度から複数の相対反射率を求め、その平均を算出する。なお、複数の計測点での測定値(反射光の強度)の平均を算出し、その平均から相対反射率を求めてもよい。図3(a)乃至図3(c)のグラフから分かるように、波長600nm以下の領域ではシリコン層は光をほとんど透過しないので、相対反射率は研磨中ほぼ一定である。
【0026】
図5は、図3(a)乃至図3(c)に示す、波長750nmでの相対反射率の研磨中における時間変化を示すグラフである。図5において、縦軸は相対反射率(%)を表し、横軸は研磨時間(秒)を表している。また図5の点線は相対反射率そのものを示し、実線は相対反射率の単純移動平均を示している。この単純移動平均は、直近の10秒間に取得された相対反射率の平均である。本実施形態では、移動平均の期間を10秒としているが、適宜変更することができる。
【0027】
相対反射率は、図5の点線で示されるように、上述した干渉成分に起因して研磨時間の経過と共に周期的に変動する。移動平均処理は、この変動する相対反射率を平滑化するために行なわれるものである。図5の実線に示されるように、相対反射率の移動平均は、研磨時間とともに単調に増加する。
【0028】
移動平均の期間は、相対反射率の時間軸に沿った変動の周期、すなわち隣り合う極大点または極小点間の間隔に従って決定することが好ましい。具体的には、移動平均の期間は次のようにして決定することができる。シリコン層の概略の研磨速度(すなわち除去レート)をv、波長λにおけるシリコン層の屈折率をn、相対反射率の時間軸に沿った変動の周期をT、周期Tに相当するシリコン層の厚さの差をΔθとすると、次の式(2)および式(3)が得られる。
Δθ=λ/2n …(2)
T=Δθ/v=λ/2nv …(3)
【0029】
移動平均の期間は、上記式(3)から得られる周期Tに基づいて設定される。例えば、周期Tの略整数倍が移動平均の期間に決定される。このように周期Tよりも大きく、好ましくは周期Tの略整数倍になるように移動平均の期間を設定すると、図5の実線で示されるように、相対反射率が平滑化され、研磨時間とともに単調に増加する相対反射率の移動平均が得られる。相対反射率の移動平均は、研磨時間とともに単調増加するので、この相対反射率の移動平均をシリコン層の研磨の進捗を示す指標、すなわち研磨指標として使用することができる。
【0030】
処理装置15は、シリコン層の研磨中に相対反射率の移動平均を算出し、この相対反射率の移動平均が所定のしきい値に達した時点に基づいてシリコン層の研磨終点を決定する。研磨終点は、相対反射率の移動平均が所定のしきい値に達した時点としてもよいし、または相対反射率の移動平均が所定のしきい値に達した時点から所定のオーバーポリッシュ時間が経過した時点としてもよい。このオーバーポリッシュ時間は、基板Wと同種のサンプル基板を研磨して得られた、該サンプル基板の研磨時間と、研磨終了時の相対反射率のデータと、研磨前および研磨後のシリコン層の厚さの実測値とから決定することができる。具体的には、研磨前および研磨後のシリコン層の厚さの実測値と研磨時間とから研磨速度(除去レート)を求め、研磨終了時の相対反射率の移動平均をしきい値に設定し、目標厚さと研磨後のシリコン層の厚さの実測値との差および研磨速度からオーバーポリッシュ時間を決定することができる。
【0031】
図6は、図3(a)乃至図3(c)に示すスペクトル中の複数の相対反射率を用いて算出された特性値の時間軸に沿った変化を示すグラフである。この特性値も、シリコン層の研磨の進捗を示す研磨指標である。この特性値Sは、異なる波長における2つの相対反射率から、次の式を用いて求められる。
S(λ1,λ2)=R(λ1)/{R(λ1)+R(λ2)} …(4)
図6に示す例では、第1の波長λ1は750nmであり、第2の波長λ2は500nmである。図6の点線は上記式(4)から求められた特性値そのものを示し、実線は特性値の単純移動平均を示している。
【0032】
波長750nmでの相対反射率は、図5に示すように、研磨時間とともに増加する。一方、波長500nmでの相対反射率は、上述したように、研磨中ほぼ一定である。したがって、波長750nmでの相対反射率と波長500nmでの相対反射率との組み合わせから求められる特性値は、研磨中、波長750nmでの相対反射率と同様の周期で変動し、同様な増加傾向を示す。このように、研磨中ほぼ一定である相対反射率と、研磨中に増加する相対反射率との組み合わせからは、研磨時間(すなわち、シリコン層の厚さの変化)に従って変化する特性値が得られる。したがって、処理装置15は、この特性値に基づいて研磨終点を検知するように構成してもよい。この場合においても、特性値が所定のしきい値に達した時点を研磨終点としてもよく、または特性値が所定のしきい値に達した時点から所定のオーバーポリッシュ時間が経過した時点を研磨終点としてもよい。
【0033】
上記式(4)から分かるように、特性値は、相対反射率を相対反射率で割ることにより求められる。したがって、式(4)の分子に含まれるノイズ成分と分母に含まれるノイズ成分がキャンセルされ、安定した研磨指標が得られる。ノイズ成分としては、研磨パッド22と基板Wとの間に存在する気泡による受光量の突発的な減少や、研磨パッド22の摩耗による受光量の増加などが挙げられる。このようなノイズ成分は、シリコン層の研磨を監視する上では不要な成分である。上記式(4)によれば、相対反射率を相対反射率で割ることによりノイズ成分が除去された特性値を得ることができる。
【0034】
式(4)で表される特性値は、光の波長をパラメータとして用いた、反射光の強度を示す指標である。この特性値は、図6に示すように、研磨時間とともに増加傾向を示す。特性値の計算に使用されるパラメータとしての波長の数は、2つに限られず、3つ以上であってもよい。すなわち、特性値は、複数の波長における複数の相対反射率から算出される。波長λ1,λ2,…,λNでの複数の相対反射率を用いる場合は、上記式(4)は次のように表される。
S(λ1,λ2,…,λN)
=R(λ1)/{R(λ1)+R(λ2)+…+R(λN)} …(5)
【0035】
特性値の算出に使用される複数の相対反射率に対応する複数の波長は次のように選択される。複数の波長は、600nmよりも長い、好ましくは650nm以上の波長を少なくとも1つ含み、さらに、600nm以下の、好ましくは550nm以下の波長を少なくとも1つ含む。例えば、複数の波長は、650nm〜800nmの範囲から選択された少なくとも1つの波長と、300nm〜550nmの範囲から選択された少なくとも1つの波長とを含む。このように、選択すべき複数の波長は、研磨中に変化する相対反射率に対応する波長と、研磨中にほとんど変化しない相対反射率に対応する波長との組み合わせから構成される。
【0036】
式(5)の分母は、使用される複数の相対反射率の総和である。一方、式の分子に使用される相対反射率は、複数の相対反射率のうちのいずれか1つである。例えば、選択された複数の波長のうち最も長い、または最も短い波長に対応する相対反射率が式(5)の分子に置かれる。このような式(5)を使用することにより、ノイズの少ない、かつ研磨時間に従って変化する特性値を得ることができる。したがって、精度の高い研磨終点検知が実現できる。
【0037】
図7は、図3(c)に示すスペクトルに数値フィルタを適用して得られたスペクトルを示すグラフである。使用した数値フィルタ(デジタルフィルタ)は、3次のバターワースローパスフィルタであり、波長軸に沿った長さ20nm(干渉成分の極大点または極小点間の間隔)に相当する周波数をカットオフ周波数とする。この数値フィルタを波長軸に沿って両方向に2回適用し、ゼロ位相フィルタとして使用した。図7から分かるように、数値フィルタの適用後のスペクトルでは、20nm以下の細かな起伏(干渉成分)が除去されており、平滑化されたスペクトルが得られている。
【0038】
図8は、図7に示す数値フィルタ適用後のスペクトル上の波長750nmにおける相対反射率の研磨中の時間変化を示すグラフである。図8において、縦軸は相対反射率(%)を表し、横軸は研磨時間(秒)を表している。また図8の点線は相対反射率そのものを示し、実線は数値フィルタ適用後のスペクトルから得られた相対反射率を示している。図8から分かるように、平滑化されたスペクトルから得られた相対反射率は、研磨時間とともに単調に増加する。
【0039】
このように、移動平均処理に代えて、フィルタを用いた平滑化処理を研磨中の各時点で得られたスペクトルに対して行なってもよい。いずれの場合でも、相対反射率は研磨中に単調に増加するので、この相対反射率の変化に基づいて研磨の進捗の監視および研磨終点の検知が可能となる。なお、スペクトルに平滑化処理をする場合において、シリコン層における光の干渉に基づく変動以外のノイズ成分を除去するために、得られた相対反射率に対してさらに移動平均処理または平滑化処理を行なってもよい。
【0040】
上述した例で使用された基板は、シリコン層の厚さが基板の表面内でほぼ均一な基板であり、例えば、シリコン層の厚さのばらつきが±150nmの範囲内にある。これに対し、シリコン層の厚さが基板の表面内で大きくばらついている場合、上述したような移動平均処理やフィルタリングを行なわなくとも、相対反射率が単調増加することがある。これは、図2(b)に示すように、研磨テーブル20が1回転するごとに基板上の複数の計測点からの反射光の強度が測定され、その測定値から得られる複数の相対反射率の平均が求められるからである。すなわち、各計測点で得られたスペクトルは、シリコン層の厚さのばらつきの影響により、異なる波長で現われる極大点および極小点を有している。したがって、複数の計測点での複数の相対反射率の平均を求めると、これらの極大点および極小点がキャンセルされ、相対反射率の時間変化の波形が平滑化される。
【0041】
図9は、シリコン層の厚さのばらつきが±700nmの範囲にある基板を研磨したときの、波長750nmでの相対反射率の時間変化を示すグラフである。このグラフに示すように、シリコン層の厚さのばらつきがある程度大きい場合、研磨中の相対反射率は、研磨時間とともに単調に増加する。したがって、この場合は移動平均処理やスペクトルの平滑化処理を行なうことは不要である。
【0042】
シリコン層の厚さのばらつきが小さい場合でも、分光器13の分解能によっては、移動平均処理やスペクトルの平滑化処理を行なうことが不要となることがある。図10は、波長分解能が約10nmと大きい分光器を使用したときの相対反射率の研磨中の時間変化を示すグラフである。この例では、図5に示す例と同じ構造の基板を使用した。図10から分かるように、研磨時間とともに相対反射率が増加する点では図5の例と同様であるが、図5の実線で示される相対反射率に比べて、図10の相対反射率の変動が小さい。これは、分光器13が、比較的広い波長範囲ごとに反射光の強度を測定するため、結果として反射光の強度が平均化されるためと考えられる。
【0043】
図11は、上述した研磨終点検出方法を実行することができる研磨終点検知装置を備えた研磨装置を模式的に示す断面図である。図11に示すように、研磨装置は、研磨パッド22を支持する研磨テーブル20と、基板Wを保持して研磨パッド22に押圧するトップリング24と、研磨パッド22に研磨液(スラリ)を供給する研磨液供給機構25とを備えている。研磨テーブル20は、その下方に配置されるモータ(図示せず)に連結されており、軸心周りに回転可能になっている。研磨パッド22は、研磨テーブル20の上面に固定されている。
【0044】
研磨パッド22の上面22aは、基板Wを研磨する研磨面を構成している。トップリング24は、トップリングシャフト28を介してモータ及び昇降シリンダ(図示せず)に連結されている。これにより、トップリング24は昇降可能かつトップリングシャフト28周りに回転可能となっている。このトップリング24の下面には、基板Wが真空吸着等によって保持される。
【0045】
トップリング24の下面に保持された基板Wはトップリング24によって回転させられつつ、回転している研磨テーブル20上の研磨パッド22にトップリング24によって押圧される。このとき、研磨液供給機構25から研磨パッド22の研磨面22aに研磨液が供給され、基板Wの表面と研磨パッド22との間に研磨液が存在した状態で基板Wの表面が研磨される。基板Wと研磨パッド22とを摺接させる相対移動機構は、研磨テーブル20およびトップリング24によって構成される。
【0046】
研磨テーブル20には、その上面で開口する孔30が形成されている。また、研磨パッド22には、この孔30に対応する位置に通孔31が形成されている。孔30と通孔31とは連通し、通孔31は研磨面22aで開口している。孔30は液体供給路33およびロータリージョイント32を介して液体供給源35に連結されている。研磨中は、液体供給源35からは、透明な液体として水(好ましくは純水)が孔30に供給され、基板Wの下面と通孔31とによって形成される空間を満たし、液体排出路34を通じて排出される。研磨液は水と共に排出され、これにより光路が確保される。液体供給路33には、研磨テーブル20の回転に同期して作動するバルブ(図示せず)が設けられている。このバルブは、通孔31の上に基板Wが位置しないときは水の流れを止める、または水の流量を少なくするように動作する。
【0047】
研磨装置は、上述した方法に従って研磨の進捗を監視し、かつ、研磨終点を検出する研磨終点検知装置を有している。この研磨終点検知装置は、光を基板Wの被研磨面に照射する投光部11と、基板Wから戻ってくる反射光を受光する受光部としての光ファイバー12と、基板Wからの反射光を波長に従って分解し、所定の波長範囲に亘って反射光の強度を測定する分光器13と、分光器13によって取得された測定データからスペクトルを生成し、このスペクトルの変化に基づいて研磨の進捗を監視する処理装置15とを備えている。スペクトルは、所定の波長範囲に亘って分布する光の強度を示すものであり、光の強度と波長との関係を示す線グラフとして表される。
【0048】
投光部11は、光源40と、光源40に接続された光ファイバー41とを備えている。光ファイバー41は、光源40の光を基板Wの表面まで導く光伝送部である。光ファイバー41は、光源40から孔30を通って基板Wの被研磨面の近傍位置まで延びている。光ファイバー41および光ファイバー12の各先端は、トップリング24に保持された基板Wの中心に対向して配置され、図2(b)に示すように、研磨テーブル20が回転するたびに基板Wの中心を含む領域に光が照射されるようになっている。
【0049】
光源40としては、発光ダイオード(LED)、ハロゲンランプ、キセノンフラッシュランプなど、複数の波長を持つ光を発する光源を用いることができる。光ファイバー41と光ファイバー12は互いに並列に配置されている。光ファイバー41および光ファイバー12の各先端は、基板Wの表面に対してほぼ垂直に配置されており、光ファイバー41は基板Wの表面にほぼ垂直に光を照射するようになっている。
【0050】
基板Wの研磨中は、投光部11から光が基板Wに照射され、光ファイバー12によって基板Wからの反射光が受光される。光が照射される間、孔30には水が供給され、これにより、光ファイバー41および光ファイバー12の各先端と、基板Wの表面との間の空間は水で満たされる。分光器13は、波長ごとの反射光の強度を測定し、処理装置15は、反射光の相対反射率と波長との関係を示す反射光のスペクトルを生成する。さらに処理装置15は、上述したように、反射光のスペクトルから、研磨の進捗を示す研磨指標を求め、該研磨指標が所定のしきい値に達した時点に基づいて研磨終点を決定する。研磨の進捗を示す研磨指標は、上述したように、所定の波長での相対反射率、または所定の複数の波長での相対反射率から算出される特性値である。
【0051】
図12は、図11に示す研磨装置の変形例を示す断面図である。図12に示す例では、液体供給路、液体排出路、液体供給源は設けられていない。これに代えて、研磨パッド22には透明窓45が形成されている。投光部11の光ファイバー41は、この透明窓45を通じて研磨パッド22上の基板Wの表面に光を照射し、受光部としての光ファイバー12は、透明窓45を通じて基板Wからの反射光を受光する。その他の構成は、図11に示す研磨装置と同様である。
【0052】
本発明は、裏面照射型CMOSセンサの研磨に限らず、シリコンなどの半導体材料を主成分とする、厚さ数μm以上の半導体層を有するデバイスの研磨にも適用することが可能である。
【0053】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲とすべきである。
【符号の説明】
【0054】
11 投光部
12 受光部
13 分光器
15 処理装置
20 研磨テーブル
22 研磨パッド
24 トップリング
25 研磨液供給機構
28 トップリングシャフト
30 孔
31 通孔
32 ロータリージョイント
33 液体供給路
34 液体排出路
35 液体供給源
40 光源
41 光ファイバー
45 透明窓
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体層を有する基板を研磨する方法であって、
前記半導体層の研磨中に該半導体層に可視光を照射し、
前記半導体層からの反射光を受光し、
前記反射光の所定の波長範囲での強度を測定し、
前記強度の測定値を所定の基準強度で割って相対反射率を算出し、
前記相対反射率と前記反射光の波長との関係を示すスペクトルを生成し、
前記スペクトルから、前記半導体層の厚さに従って変化する研磨指標を求め、
前記研磨指標が所定のしきい値に達した時点に基づいて前記半導体層の研磨を終了することを特徴とする研磨方法。
【請求項2】
前記所定の波長範囲の上限値は、800nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の研磨方法。
【請求項3】
前記研磨指標は、650nm〜800nmの範囲にある所定の波長での相対反射率であることを特徴とする請求項1に記載の研磨方法。
【請求項4】
前記研磨指標は、前記所定の波長での相対反射率の移動平均であることを特徴とする請求項3に記載の研磨方法。
【請求項5】
前記研磨指標は、650nm〜800nmの範囲にある第1の波長での第1の相対反射率と、300nm〜550nmの範囲にある第2の波長での第2の相対反射率とを少なくとも含む複数の相対反射率から算出される特性値であり、
前記特性値は、前記複数の相対反射率から選択された1つの相対反射率を、前記複数の相対反射率の総和で割り算することで求められることを特徴とする請求項1に記載の研磨方法。
【請求項6】
前記研磨指標は、前記特性値の移動平均であることを特徴とする請求項5に記載の研磨方法。
【請求項7】
前記スペクトルに平滑化処理を施す工程をさらに含み、
前記研磨指標は、前記平滑化されたスペクトルから求められることを特徴とする請求項1に記載の研磨方法。
【請求項8】
前記半導体層は、裏面照射型CMOSセンサの受光面を構成するシリコン層であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項9】
半導体層を有する基板を研磨する装置であって、
前記半導体層の研磨中に該半導体層に可視光を照射する投光部と、
前記半導体層からの反射光を受光する受光部と、
前記反射光の所定の波長範囲での強度を測定する分光器と、
前記強度の測定値を所定の基準強度で割って相対反射率を算出し、前記相対反射率と前記反射光の波長との関係を示すスペクトルを生成する処理装置とを備え、
前記処理装置は、
前記スペクトルから、前記半導体層の厚さに従って変化する研磨指標を求め、
前記研磨指標が所定のしきい値に達した時点に基づいて前記半導体層の研磨終点を決定することを特徴とする研磨装置。
【請求項1】
半導体層を有する基板を研磨する方法であって、
前記半導体層の研磨中に該半導体層に可視光を照射し、
前記半導体層からの反射光を受光し、
前記反射光の所定の波長範囲での強度を測定し、
前記強度の測定値を所定の基準強度で割って相対反射率を算出し、
前記相対反射率と前記反射光の波長との関係を示すスペクトルを生成し、
前記スペクトルから、前記半導体層の厚さに従って変化する研磨指標を求め、
前記研磨指標が所定のしきい値に達した時点に基づいて前記半導体層の研磨を終了することを特徴とする研磨方法。
【請求項2】
前記所定の波長範囲の上限値は、800nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の研磨方法。
【請求項3】
前記研磨指標は、650nm〜800nmの範囲にある所定の波長での相対反射率であることを特徴とする請求項1に記載の研磨方法。
【請求項4】
前記研磨指標は、前記所定の波長での相対反射率の移動平均であることを特徴とする請求項3に記載の研磨方法。
【請求項5】
前記研磨指標は、650nm〜800nmの範囲にある第1の波長での第1の相対反射率と、300nm〜550nmの範囲にある第2の波長での第2の相対反射率とを少なくとも含む複数の相対反射率から算出される特性値であり、
前記特性値は、前記複数の相対反射率から選択された1つの相対反射率を、前記複数の相対反射率の総和で割り算することで求められることを特徴とする請求項1に記載の研磨方法。
【請求項6】
前記研磨指標は、前記特性値の移動平均であることを特徴とする請求項5に記載の研磨方法。
【請求項7】
前記スペクトルに平滑化処理を施す工程をさらに含み、
前記研磨指標は、前記平滑化されたスペクトルから求められることを特徴とする請求項1に記載の研磨方法。
【請求項8】
前記半導体層は、裏面照射型CMOSセンサの受光面を構成するシリコン層であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項9】
半導体層を有する基板を研磨する装置であって、
前記半導体層の研磨中に該半導体層に可視光を照射する投光部と、
前記半導体層からの反射光を受光する受光部と、
前記反射光の所定の波長範囲での強度を測定する分光器と、
前記強度の測定値を所定の基準強度で割って相対反射率を算出し、前記相対反射率と前記反射光の波長との関係を示すスペクトルを生成する処理装置とを備え、
前記処理装置は、
前記スペクトルから、前記半導体層の厚さに従って変化する研磨指標を求め、
前記研磨指標が所定のしきい値に達した時点に基づいて前記半導体層の研磨終点を決定することを特徴とする研磨装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−4276(P2012−4276A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136875(P2010−136875)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】
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