説明

移植機

【課題】植付部における左右の重量バランスを崩すことなく、植付分配軸の端部から整地ロータの動力を取出可能にする。
【解決手段】走行機体1の後部に連結される植付部7に、左右方向に沿う植付分配軸20と、該植付分配軸20から取出した動力で植付作動する植付機構18と、植付分配軸20から取出した動力で苗載台16の横送り作動を行う横送り軸24とを備えると共に、植付部7の前側に、左右方向に沿って一連状に構成される整地ロータ28を設けた乗用型田植機において、横送り軸24を植付分配軸20の一端側に偏倚して設ける一方、整地ロータ用動力取出し部31を植付分配軸20の他端側に設け、該植付分配軸20から整地ロータ用クラッチ機構32を介して整地ロータ28の動力を取出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植付部の前側に整地ロータを備える乗用田植機などの移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
植付部の前側に整地ロータを備える移植機が知られている(例えば、特許文献1参照)。この種の移植機では、植付けと同時に整地ができるので、植付精度や作業効率の向上を図ることができ、特に、機体旋回によって田面が荒れやすい枕地では、整地ロータによる整地効果が顕著であり、植付精度を大幅に改善することができる。
【特許文献1】特開平8−331911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載される移植機は、左右方向に分割された複数の整地ロータを備えると共に、植付部の動力分配軸から複数の動力取出し部を介して各整地ロータに動力伝動を行っているので、部品点数が多く、構造が複雑であった。また、特許文献1では、動力取出し部にクラッチ機構を設け、このクラッチ機構を整地ロータの高さ調整に連動して自動的に入切させる実施例も示されているが、複数の動力取出し部にクラッチ機構が設けられるので、部品点数がさらに増加するという問題があった。
【0004】
尚、整地ロータを左右方向に沿って一連状に構成すると共に、整地ロータの動力を植付分配軸の左右何れか一方の端部から取出すことも可能であるが、この場合には、植付分配軸の端部に設けられる整地ロータ用の動力取出し部により、植付部における左右の重量バランスが崩れ、植付部のローリングに悪影響がでる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、走行機体の後部に連結される植付部に、左右方向に沿う植付分配軸と、該植付分配軸から取出した動力で植付作動する植付機構と、前記植付分配軸から取出した動力で苗載台の横送り作動を行う横送り軸とを備えると共に、前記植付部の前側に、左右方向に沿って一連状に構成される整地ロータを設けた移植機において、前記横送り軸を前記植付分配軸の一端側に偏倚して設ける一方、前記整地ロータ用の動力取出し部を前記植付分配軸の他端側に設け、該植付分配軸からクラッチ機構を介して前記整地ロータの動力を取出すことを特徴とする。このようにすると、植付部における左右の重量バランスを崩すことなく、植付分配軸の端部から整地ロータの動力を取出すことが可能になる。しかも、植付分配軸からクラッチ機構を介して整地ロータの動力を取出すので、整地が不要な場合、整地ロータを作動させずに植付作業を行うことができる。
また、前記動力取出し部の上方に前記整地ロータの高さ調整操作具を設けると共に、該高さ調整具を前記クラッチ機構に連繋し、前記整地ロータが作用高さまで下降調整されたとき、前記クラッチ機構を自動的に入り作動させ、前記整地ロータが非作用高さまで上昇調整されたとき、前記クラッチ機構を自動的に切り作動させることを特徴とする。このようにすると、高さ調整具の操作に応じてクラッチ機構を自動的に入切させることができる。しかも、高さ調整具は、動力取出し部の上方に配置されるので、クラッチ機構との連繋構成を可及的に短くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。図1において、1は乗用田植機の走行機体であって、該走行機体1は、機体前部に搭載されるエンジン2、エンジン動力を変速するトランスミッション3、トランスミッション3から出力される走行動力で駆動する前輪4及び後輪5などを備えて構成されると共に、機体後部には、昇降リンク機構6を介して植付部7が昇降自在に連結されている。
【0007】
図2に示すように、トランスミッション3は、主変速機構である静油圧式無段変速装置(HST)8を介してエンジン動力を入力し、これを主クラッチ機構9の下流で走行動力と植付動力とに分岐させる。分岐した植付動力は、株間変速機構10、トルクリミッタ11及び植付クラッチ機構12を経由して植付PTO軸13から出力され、さらに、伝動軸14を介して植付部7に伝動される。
【0008】
図3及び図4に示すように、植付部7は、昇降リンク機構6に対してローリング自在に連結される作業機フレーム15、その上方に横送り自在に設けられる苗載台16、作業機フレーム15から後方に延出する複数の植付伝動ケース17、各植付伝動ケース17の後端部に設けられる植付機構18、植付伝動ケース17の下方に上下揺動自在に設けられるフロート19などを備えて構成されている。
【0009】
作業機フレーム15の後方には、左右方向に沿う植付分配軸20が設けられている。この植付分配軸20は、各植付伝動ケース17及び入力ケース21を貫通しており、入力ケース21を介して伝動軸14から植付動力を入力すると共に、これを各植付伝動ケース17に内装される条止めクラッチ機構22及びチェン伝動機構23を介して各植付機構18に伝動する。
【0010】
また、植付分配軸20の並列位置には、苗載台16の横送り作動を行う横送り軸24が設けられている。横送り軸24は、外周にラセン溝24aを有するスクリュ軸であり、その外周には、ラセン溝24aに噛み合い、かつ、苗載台16の背面に連結されるスライドブロック25が嵌合されている。これにより、横送り軸24の回転に応じてスライドブロック25が左右方向に往復移動し、苗載台16の横送りが行われる。
【0011】
横送り軸24は、植付分配軸20よりも軸長が短く、かつ、植付分配軸20の右端側に偏倚して配置されると共に、横送りケース26を介して植付分配軸20の右端部から取り出した動力で回転駆動される。本実施形態の横送りケース26は、横送り変速機構27を内装しており、該横送り変速機構27の変速操作に応じて、苗載台16の横送り速度が変更される。
【0012】
上記のように構成される植付部7によれば、伝動軸14を介してトランスミッション3から植付動力を入力し、この動力によって、苗載台16を横送りしつつ、植付機構18による植付作業が可能になる。植付作業を行う圃場は、予め代掻き作業によって平坦化されており、ここをフロート19が滑走しつつ、植付機構18による苗の植付けが行われることになるが、植付部7は、走行機体1の後方で植付作業を行う関係上、車輪跡などによる田面の荒れによって植付精度が低下する可能性がある。特に、機体旋回が行われる枕地は、車輪跡による田面の荒れが顕著であり、植付精度が低下しやすい箇所である。
【0013】
上記のような問題に対処するために、植付部7の前側には、整地ロータ28が設けられている。この整地ロータ28は、側面視で後輪5とフロート19との間に配置され、フロート19の前側で整地作業を行う。これにより、車輪跡による田面の荒れなどを改善し、植付精度を高めることができ、特に、枕地において改善効果が顕著である。
【0014】
図1〜図5に示すように、整地ロータ28は、植付部7の左右幅に亘って一連状に形成されるロータ軸29と、該ロータ軸29に一体的に設けられる複数の整地板30とを備えて構成されると共に、整地ロータ用動力取出し部31を介して植付分配軸20から取り出し、該動力で整地板30を所定方向に回転させることにより、植付部7の前方で整地作業を行う。
【0015】
整地ロータ用動力取出し部31は、整地ロータ用クラッチ機構32を内装するクラッチケース33と、チェン伝動機構34を内装するチェンケース35とを備えて構成され、植付分配軸20の左端部から整地ロータ28の動力を取出す。つまり、横送り軸24を植付分配軸20の一端側に偏倚して設ける一方、整地ロータ用動力取出し部31を植付分配軸20の他端側に設け、該植付分配軸20から整地ロータ用クラッチ機構32を介して整地ロータ28の動力を取出すので、植付部7における左右の重量バランスを崩すことなく、植付分配軸20の端部から整地ロータ28の動力を取出すことが可能になる。しかも、植付分配軸20から整地ロータ用クラッチ機構32を介して整地ロータ28の動力を取出すので、整地が不要な場合、整地ロータ28を作動させずに植付作業を行うことができる。
【0016】
整地ロータ28は、植付部7に対して昇降自在に支持されている。本実施形態では、整地ロータ28の左端部を、前記チェンケース35を介して植付分配軸20の左端部で昇降自在に支持する一方、整地ロータ28の右端部を、アーム部材36を介して作業機フレーム15の右端部で昇降自在に支持している。また、チェンケース35及びアーム部材36は、左右一対の昇降リンク37を介して整地ロータ高さ調整機構38で吊持されており、該整地ロータ高さ調整機構38の調整操作に応じて整地ロータ28の高さが変更される。以下、整地ロータ高さ調整機構38について説明する。
【0017】
作業機フレーム15には、左右一対の苗載台ステー39が立設されており、これを利用して整地ロータ高さ調整機構38が構成される。本実施形態の整地ロータ高さ調整機構38は、左右の苗載台ステー39間に回動自在に支架される回動軸40と、該回動軸40の左右両端部から突出し、前記昇降リンク37を介して整地ロータ28を吊持する左右一対のアーム41と、回動軸40を回動操作し、かつ、左右方向の傾動操作が許容される高さ調整レバー(高さ調整操作具)42と、高さ調整レバー42の操作位置を保持するレバーガイド43とを備えて構成されている。つまり、高さ調整レバー42を上下方向に回動操作すると、回動軸40及びアーム41の一体的な回動に応じて昇降リンク37が上下動し、整地ロータ28の高さが作業位置(作用高さ)から格納位置(非作用高さ)に亘って調整される。
【0018】
レバーガイド43には、高さ調整レバー42が貫通するガイド孔43aが形成されている。ガイド孔43aの上端側には、高さ調整レバー42を格納位置に保持するための格納用保持溝43bが形成され、ガイド孔43aの下端側には、高さ調整レバー42を作業位置に保持するための作業用保持溝43cが形成されている。作業用保持溝43cは、上下方向に所定間隔を存して複数形成されており、高さ調整レバー42に形成される凸部(図示せず)を、高さ調整レバー42の傾動操作に応じて任意の作業用保持溝43cに係合させることにより、作業位置における整地ロータ28の高さを段階的に調整できるようにしている。
【0019】
本実施形態の高さ調整レバー42は、整地ロータ用動力取出し部31の上方に設けられると共に、クラッチ操作ワイヤ44を介して整地ロータ用クラッチ機構32の操作アーム32aに連繋されている。つまり、高さ調整レバー42を作業位置(作用高さ)まで操作すると、クラッチ操作ワイヤ44が押されることにより、整地ロータ用クラッチ機構32が自動的に入り作動する一方、高さ調整レバー42を格納位置(非作用高さ)まで操作すると、クラッチ操作ワイヤ44が引かれることにより、整地ロータ用クラッチ機構32が自動的に切り作動する。これにより、高さ調整レバー42の操作に応じて整地ロータ用クラッチ機構32を自動的に入切させることが可能になり、しかも、高さ調整レバー42は、整地ロータ用動力取出し部31の上方に配置されるので、整地ロータ用クラッチ機構32との連繋構成(クラッチ操作ワイヤ44)を可及的に短くすることができる。
【0020】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、走行機体1の後部に連結される植付部7に、左右方向に沿う植付分配軸20と、該植付分配軸20から取出した動力で植付作動する植付機構18と、植付分配軸20から取出した動力で苗載台16の横送り作動を行う横送り軸24とを備えると共に、植付部7の前側に、左右方向に沿って一連状に構成される整地ロータ28を設けた乗用型田植機において、横送り軸24を植付分配軸20の一端側に偏倚して設ける一方、整地ロータ用動力取出し部31を植付分配軸20の他端側に設け、該植付分配軸20から整地ロータ用クラッチ機構32を介して整地ロータ28の動力を取出すようにしたので、植付部7における左右の重量バランスを崩すことなく、植付分配軸20の端部から整地ロータ28の動力を取出すことが可能になる。しかも、植付分配軸20から整地ロータ用クラッチ機構32を介して整地ロータ28の動力を取出すので、整地が不要な場合、整地ロータ28を作動させずに植付作業を行うことができる。
【0021】
また、整地ロータ用動力取出し部31の上方に整地ロータ28の高さ調整レバー42を設けると共に、該高さ調整レバー42を整地ロータ用クラッチ機構32に連繋し、整地ロータ28が作用高さまで下降調整されたとき、整地ロータ用クラッチ機構32を自動的に入り作動させ、整地ロータ28が非作用高さまで上昇調整されたとき、整地ロータ用クラッチ機構32を自動的に切り作動させるようにしたので、高さ調整レバー42の操作に応じて整地ロータ用クラッチ機構32を自動的に入切させることができる。しかも、高さ調整レバー42は、整地ロータ用動力取出し部31の上方に配置されるので、整地ロータ用クラッチ機構32との連繋構成を可及的に短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】乗用田植機の全体側面図である。
【図2】乗用田植機の伝動構成を示す伝動回路図である。
【図3】植付部の側面図である。
【図4】植付部の伝動構成を示す平面断面図である。
【図5】整地ロータ高さ調整機構を示す植付部の要部正面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 走行機体
7 植付部
16 苗載台
17 植付伝動ケース
18 植付機構
20 植付分配軸
24 横送り軸
28 整地ロータ
31 整地ロータ用動力取出し部
32 整地ロータ用クラッチ機構
33 クラッチケース
35 チェンケース
38 整地ロータ高さ調整機構
42 高さ調整レバー
44 クラッチ操作ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体の後部に連結される植付部に、左右方向に沿う植付分配軸と、該植付分配軸から取出した動力で植付作動する植付機構と、前記植付分配軸から取出した動力で苗載台の横送り作動を行う横送り軸とを備えると共に、前記植付部の前側に、左右方向に沿って一連状に構成される整地ロータを設けた移植機において、前記横送り軸を前記植付分配軸の一端側に偏倚して設ける一方、前記整地ロータ用の動力取出し部を前記植付分配軸の他端側に設け、該植付分配軸からクラッチ機構を介して前記整地ロータの動力を取出すことを特徴とする移植機。
【請求項2】
前記動力取出し部の上方に前記整地ロータの高さ調整操作具を設けると共に、該高さ調整具を前記クラッチ機構に連繋し、前記整地ロータが作用高さまで下降調整されたとき、前記クラッチ機構を自動的に入り作動させ、前記整地ロータが非作用高さまで上昇調整されたとき、前記クラッチ機構を自動的に切り作動させることを特徴とする請求項1記載の移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−236262(P2007−236262A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62438(P2006−62438)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】